(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056107
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】クラッチ用アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16D 25/08 20060101AFI20220401BHJP
F16D 25/0635 20060101ALI20220401BHJP
F16D 28/00 20060101ALI20220401BHJP
F16H 1/16 20060101ALI20220401BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20220401BHJP
H02K 7/11 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
F16D25/08 C
F16D25/0635
F16D28/00 Z
F16H1/16 Z
H02K7/116
H02K7/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163920
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】須山 大志
(72)【発明者】
【氏名】森田 雄士
【テーマコード(参考)】
3J009
3J057
5H607
【Fターム(参考)】
3J009DA20
3J009EA06
3J009EA32
3J009EA44
3J009EB30
3J009FA03
3J057AA02
3J057AA03
3J057BB03
3J057CB02
3J057GA49
3J057GA64
3J057GE07
3J057HH01
5H607BB01
5H607CC03
5H607DD03
5H607EE04
5H607EE32
(57)【要約】
【課題】クラッチの継合又は切断を確実且つ正確に実行することができ、且つ出力ロッドのストローク変動を低減することが可能なクラッチ用アクチュエータを提供すること。
【解決手段】クラッチ用アクチュエータ(1)は、ハウジング(100)と、動力源(101)と、動力源の出力軸(101x)に接続される第1ギヤ(102)と、第1ギヤに噛合して回動する第2ギヤ(103)と、第2ギヤに接続され直線方向に進退することでクラッチ(5)を継合又は切断させる出力ロッド(106)と、一端がハウジングに支持され且つ他端が第2ギヤに接続され、第2ギヤの回動を助勢するアシストスプリング(107)と、を具備し、アシストスプリングの撓み量は、クラッチを継合させる場合に対応する第1撓み量と、クラッチを切断させる場合に対応し第1撓み量よりも少ない撓み量となる第2撓み量との間の範囲内でのみ変動する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
動力源と、
前記動力源の出力軸に接続される第1ギヤと、
前記第1ギヤに噛合して回動する第2ギヤと、
一端が前記第2ギヤに接続され、前記第2ギヤの回動に連動して直線方向に進退することでクラッチを継合又は切断させる出力ロッドと、
一端が前記ハウジングに支持され且つ他端が前記第2ギヤに接続され、前記第2ギヤの回動を助勢するアシストスプリングと、
を具備し、
前記第2ギヤの回動に連動して伸縮する前記アシストスプリングの撓み量は、前記クラッチを継合させる場合に対応する第1撓み量と、前記クラッチを切断させる場合に対応し前記第1撓み量よりも少ない撓み量となる第2撓み量との間の範囲内でのみ変動する、
クラッチ用アクチュエータ。
【請求項2】
ハウジングと、
動力源と、
前記動力源の出力軸に接続される第1ギヤと、
前記第1ギヤに噛合して回動する第2ギヤと、
一端が前記第2ギヤに接続され、前記第2ギヤの回動に連動して直線方向に進退することでクラッチを継合又は切断させる出力ロッドと、
一端が前記ハウジングに支持され且つ他端が前記第2ギヤに接続され、前記第2ギヤの回動を助勢するアシストスプリングと、
を具備し、
前記第1ギヤを介して前記第2ギヤに伝達され前記第2ギヤが出力する主動力と、前記アシストスプリングにより助勢される助勢動力との合計動力の大きさは、前記第2ギヤの回転位置に係わらず略一定である、
クラッチ用アクチュエータ。
【請求項3】
前記第1撓み量は、前記アシストスプリングの最大撓み量より少ない撓み量である、請求項1に記載のクラッチ用アクチュエータ。
【請求項4】
前記出力ロッドの一端には、球面形状を呈する接続部が設けられ、
前記接続部が前記第2ギヤに設けられる球状の凹部に受け入れられることにより、前記第2ギヤと前記出力ロッドとが接続される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のクラッチ用アクチュエータ。
【請求項5】
前記第2ギヤは、前記第1ギヤに噛合する第3ギヤと、前記第3ギヤに噛合し且つ前記出力ロッドが接続される第4ギヤと、を含む減速機構を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のクラッチ用アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願において開示された技術は、クラッチ用アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
マニュアルトランスミッション(MT)方式を採用した車両に搭載され、アクチュエータによりクラッチを作動させる、いわゆるオートメーテッドマニュアルトランスミッション(AMT)システムが従来から知られている。AMTシステムは、運転者の意思、車両状態等に基づいてアクチュエータを作動させてクラッチを継合又は切断させて変速操作を自動的に行うものである。
【0003】
このようなAMTシステムにおいて用いられるアクチュエータは、クラッチの一構成要素としてのダイヤフラムスプリング等の姿勢を変化させてクラッチを継合又は切断させるために、モータ等の動力源と、該動力源の出力軸に接続されるウォームギヤと、該ウォームギヤに噛合するウォームホイールと、該ウォームホイールに接続される出力ロッドと、から主に構成されている。さらに、特許文献1及び特許文献2には、動力源の小型化等を目的として、ウォームホイールの回動(出力ロッドの直線運動)を助勢するアシストスプリングをさらに配設するアクチュエータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-287087号公報
【特許文献2】特開2008-121714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に開示されるようなアクチュエータは、
図1及び
図2に示すような出力特性を有することが知られている。
図1は、出力ロッドの直線運動のストロークを横軸、出力ロッドに伝達される動力を縦軸として、クラッチを継合状態から切断状態に遷移させる場合における従来のアクチュエータの出力特性を示す図である。
図2は、出力ロッドの直線運動のストロークを横軸、出力ロッドに伝達される動力を縦軸として、クラッチを切断状態から継合状態に遷移させる場合における従来のアクチュエータの出力特性を示す図である。ここで、
図1及び
図2中、実線はクラッチ荷重、一点破線は出力ロッドに伝達される動力源からの主出力、二点破線はアシストスプリングから伝達される助勢動力、点線は主出力と助勢動力との合計動力を各々示す。なお、
図1及び
図2における横軸の出力ロッドのストロークは、ウォームホイールの回転角度(回転位置)に置換することもできる。
【0006】
図1及び
図2に示される従来のアクチュエータの出力特性においては、点線で示される合計動力が、出力ロッドのストロークに応じて漸増する特性を有する。従って、例えば、出力ロッドを収容し出力ロッドの直線運動に基づいて油圧を発生させるシリンダ内に充填される作動油の量の増減や、クラッチを構成する様々な要素の摩耗、劣化、変形等に理由基づいて、クラッチ荷重が変化する場合、
図1に示される点線(合計動力)と実線(クラッチ荷重)とが近接してしまい、クラッチの継合状態から切断状態への状態遷移がスムーズに実行されない恐れがあるという課題がある。
【0007】
また、クラッチを切断状態から継合状態へと遷移させる場合においては、
図2に示すように、出力ロッドのストロークSt0を基点に、二点破線で示されるアシストスプリングから伝達される助勢動力と実線で示されるクラッチ荷重との関係が反転してしまう(つまり、出力ロッドのストロークがSt0未満ではクラッチ荷重が助勢動力よりも大きく、出力ロッドのストロークがSt0以上では助勢動力がクラッチ荷重以上となる)。これにより、アクチュエータ内部にガタが発生しやすくなり、出力ロッドのストローク変動(出力ロッドの制御値と実測値との間の相違)を誘引してしまうという課題もある。
【0008】
そこで、様々な実施形態により、クラッチの継合又は切断を確実且つ正確に実行することができ、且つ出力ロッドのストローク変動を低減することが可能なクラッチ用アクチュエータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様に係るクラッチ用アクチュエータは、ハウジングと、動力源と、前記動力源の出力軸に接続される第1ギヤと、前記第1ギヤに噛合して回動する第2ギヤと、一端が前記第2ギヤに接続され、前記第2ギヤの回動に連動して直線方向に進退することでクラッチを継合又は切断させる出力ロッドと、一端が前記ハウジングに支持され且つ他端が前記第2ギヤに接続され、前記第2ギヤの回動を助勢するアシストスプリングと、を具備し、前記第2ギヤの回動に連動して伸縮する前記アシストスプリングの撓み量は、前記クラッチを継合させる場合に対応する第1撓み量と、前記クラッチを切断させる場合に対応し前記第1撓み量よりも少ない撓み量となる第2撓み量との間の範囲内でのみ変動する。
【0010】
この構成とすることによって、第2ギヤの回転位置、つまり出力ロッドの直線方向の進退位置(ストローク位置)に係わらず、アシストスプリングは常に正の助勢動力を第2ギヤに伝達することができる。これによって、一態様に係るクラッチ用アクチュエータは、クラッチの継合又は切断を確実且つ正確に実行し、且つ出力ロッドのストローク変動を低減することが可能となる。
【0011】
別の態様に係るクラッチ用アクチュエータは、ハウジングと、動力源と、前記動力源の出力軸に接続される第1ギヤと、前記第1ギヤに噛合して回動する第2ギヤと、一端が前記第2ギヤに接続され、前記第2ギヤの回動に連動して直線方向に進退することでクラッチを継合又は切断させる出力ロッドと、一端が前記ハウジングに支持され且つ他端が前記第2ギヤに接続され、前記第2ギヤの回動を助勢するアシストスプリングと、を具備し、前記第1ギヤを介して前記第2ギヤに伝達され前記第2ギヤが出力する主動力と、前記アシストスプリングにより助勢される助勢動力との合計動力の大きさは、前記第2ギヤの回転位置に係わらず略一定である。
【0012】
この構成とすることによって、第2ギヤの回転位置、つまり出力ロッドの直線方向の進退位置(ストローク位置)に係わらず、合計動力の大きさが略一定であるため、クラッチの継合又は切断を確実且つ正確に実行し、且つ出力ロッドのストローク変動を低減することが可能となる。
【0013】
また、一態様に係る前記クラッチ用アクチュエータにおいて、前記第1撓み量は、前記アシストスプリングの最大撓み量より少ない撓み量である。
【0014】
この構成とすることによって、第2ギヤの回転位置、つまり出力ロッドの直線方向の進退位置(ストローク位置)に係わらず、アシストスプリングが常に正の助勢動力を第2ギヤに伝達することを確実なものとすることができる。
【0015】
また、一態様及び別の態様に係る前記クラッチ用アクチュエータにおいて、前記出力ロッドの一端には、球面形状を呈する接続部が設けられ、前記接続部が前記第2ギヤに設けられる球状の凹部に受け入れられることにより、前記第2ギヤと前記出力ロッドとが接続される。
【0016】
この構成とすることによって、第2ギヤと出力ロッドとの接続に関する部品点数を削減することができる。さらに、第2ギヤと出力ロッドとを球面接触させることで、両者の接触面積を増大させることができる。
【0017】
また、一態様及び別の態様に係る前記クラッチ用アクチュエータにおいて、前記第2ギヤは、前記第1ギヤに噛合する第3ギヤと、前記第3ギヤに噛合し且つ前記出力ロッドが接続される第4ギヤと、を含む減速機構を有する。
【0018】
この構成とすることによって、動力源の小型化を図りつつ、目的とする大きさの動力を出力することが可能なクラッチ用アクチュエータを提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
様々な実施形態によれば、クラッチの継合又は切断を確実且つ正確に実行することができ、且つ出力ロッドのストローク変動を低減することが可能なクラッチ用アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】出力ロッドの直線運動のストロークを横軸、出力ロッドに伝達される動力を縦軸として、クラッチを継合状態から切断状態に遷移させる場合における従来のアクチュエータの出力特性を示す図である。
【
図2】出力ロッドの直線運動のストロークを横軸、出力ロッドに伝達される動力を縦軸として、クラッチを切断状態から継合状態に遷移させる場合における従来のアクチュエータの出力特性を示す図である
【
図3】一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ、及び当該クラッチ用アクチュエータが適用されるクラッチの構成を模式的に示す概略図である。
【
図4】クラッチが継合状態の場合における従来のクラッチ用アクチュエータの構成を模式的に示す概略図である。
【
図5】クラッチが切断状態の場合における従来のクラッチ用アクチュエータの構成を模式的に示す概略図である。
【
図6】クラッチが継合状態の場合における一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータの構成を模式的に示す概略図である。
【
図7】クラッチが切断状態の場合における一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータの構成を模式的に示す概略図である。
【
図8】出力ロッドの直線運動のストロークを横軸、出力ロッドに伝達される動力を縦軸として、クラッチを継合状態から切断状態に遷移させる場合における一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータの出力特性を示す図である。
【
図9】出力ロッドの直線運動のストロークを横軸、出力ロッドに伝達される動力を縦軸として、クラッチを切断状態から継合状態に遷移させる場合における一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータの出力特性を示す図である。
【
図10】別の実施形態に係るクラッチ用アクチュエータの構成を模式的に示す概略図である。
【
図11】別の実施形態に係るクラッチ用アクチュエータにおけるウォームホイールと出力ロッドとの接続部分を拡大して示す概略図である。
【
図12】別の実施形態に係るクラッチ用アクチュエータにおけるウォームホイールと出力ロッドとが球面接触する構成を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の様々な実施形態を説明する。なお、図面において共通した構成要件には同一の参照符号が付されている。また、或る図面に表現された構成要素が、説明の便宜上、別の図面においては省略されていることがある点に留意されたい。さらにまた、添付した図面が必ずしも正確な縮尺で記載されている訳ではないということに注意されたい。
【0022】
1.クラッチ用アクチュエータの構成
一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータの全体構成の概要について、
図3乃至
図9を参照しつつ説明する。
図3は、一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1、及び当該クラッチ用アクチュエータ1が適用されるクラッチ5の構成を模式的に示す概略図である。
図4は、クラッチ5が継合状態の場合における従来のクラッチ用アクチュエータ2の構成を模式的に示す概略図である。
図5は、クラッチ5が切断状態の場合における従来のクラッチ用アクチュエータ2の構成を模式的に示す概略図である。
図6は、クラッチ5が継合状態の場合における一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1の構成を模式的に示す概略図である。
図7は、クラッチ5が切断状態の場合における一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1の構成を模式的に示す概略図である。
図8は、出力ロッド106の直線運動のストロークを横軸、出力ロッド106に伝達される動力を縦軸として、クラッチ5を継合状態から切断状態に遷移させる場合における一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1の出力特性を示す図である。
図9は、出力ロッド106の直線運動のストロークを横軸、出力ロッド106に伝達される動力を縦軸として、クラッチ5を切断状態から継合状態に遷移させる場合における一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1の出力特性を示す図である。
【0023】
一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1は、クラッチ5を継合又は切断させるための装置であって、作動油が充填されたシリンダ部材10及び油路20を介して、クラッチ5と接続されている。
【0024】
クラッチ5、シリンダ部材10、及び油路20は、従来から公知のものを用いることができる。具体的には、クラッチ5は、
図3に示すように、フライホイール51、クラッチカバー52、クラッチディスク53、プレッシャープレート54、ダイヤフラムスプリング55、レリーズベアリング56、等を主に含むものである。なお、クラッチ5の構成は既に公知であるため(例えば、特許文献2参照)、その詳細な説明は省略する。
【0025】
また、シリンダ部材10は、
図3に示すように、油圧ハウジング11、シリンダ12、及びピストン13等を主に含むものである。シリンダ部材10の構成も既に公知であるため(例えば、特許文献2参照)、その詳細な説明は省略する。
【0026】
油路20は、クラッチ用アクチュエータ1による出力ロッド106のストロークに連動して、シリンダ部材10におけるピストン13がシリンダ12内を摺動することによって発生した油圧を、クラッチ5側のレリーズベアリング56側の油室56xに供給する機能を有する。油室56xに伝達された油圧に基づいて、レリーズベアリング56がダイヤフラムスプリング55に押し付けられることにより、クラッチ5を切断させることが可能となっている。
【0027】
クラッチ用アクチュエータ1は、
図3に示すように、アクチュエータハウジング100と、動力源としてのモータ101と、モータ101の出力軸101xに接続される第1ギヤとしてのウォームギヤ102と、ウォームギヤ102に噛合して回動する第2ギヤとしてのウォームホイール103と、一端がウォームホイール103に接続され他端がシリンダ部材10のピストン13に接続される出力ロッド106と、一端がアクチュエータハウジング100に支持され且つ他端がウォームホイール103に接続されるアシストスプリング107と、を主に含む。
【0028】
アクチュエータハウジング100は、
図3に示すように、主に、ウォームギヤ102、ウォームホイール103、出力ロッド106、及びアシストスプリング107等を収容する片開きの筐体である。アクチュエータハウジング100は、クラッチ5が車両用として用いられる場合においては、車両の適宜の場所に固定され、モータ101を支持している。
【0029】
モータ101は、ステータとロータとから構成される一般的な電動モータを用いることができる。モータ101は、有線又は無線の通信網を介して不図示の制御装置から制御命令(信号)を受信すると、当該制御命令に基づいて所定の回転方向に駆動し、出力軸101xを通して動力を出力することが可能となっている。
【0030】
ウォームギヤ102は、
図3に示すように、その一端がモータ101の出力軸101xに接続されて、該出力軸101xと一体的に回転駆動することが可能となっている。なお、ウォームギヤ102の他端は、アクチュエータハウジング100に支持されている。
【0031】
ウォームホイール103は、
図3に示すように、ウォームギヤ102に噛合している。これにより、ウォームギヤ102に伝達されるモータ101の動力が伝達される。なお、
図3に示すように、一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1におけるウォームホイール103は、ウォームギヤ102に噛合する第3ギヤとしての第1ウォームホイール104と、第1ウォームホイール104に噛合し且つ出力ロッド106が接続される第4ギヤとしての第2ウォームホイール105と、から構成される2段の減速機構としてもよい。これにより、ウォームホイール103は、ウォームギヤ102から伝達される動力を増力させたうえで出力ロッド106へと出力することが可能となる。
【0032】
なお、ウォームホイール103を減速機構化する場合においては、ウォームホイール103が出力ロッド106に出力すべき動力の大きさに応じて、適宜に、2段に限らず3段以上に多段化してもよい。また、ウォームホイール103を多段化させることなく1段の歯車機構とする場合には、
図3における第1ウォームホイール104を削除して、第2ウォームホイール105のみの構成とすればよい。この場合、第2ウォームホイール105がウォームギヤ102に噛合することとなる。
【0033】
図3に示される第1ウォームホイール104は、回転中心O1と、回転中心O1周りに回転しウォームギヤ102と噛合する外歯状の第1歯車部104xと、回転中心O1周りに第1歯車部104xと一体回転し該第1歯車部104xと回転中心O1の軸方向(
図3においては、紙面表裏方向)にずれた位置に設けられる外歯状の第2歯車部104yと、を主に含むことができる。第1ウォームホイール104は、第2歯車部104yにて第2ウォームホイール105に噛合して、第1ウォームホイール104とともに減速機構を形成する。
【0034】
図3に示される第2ウォームホイール105は、回転中心O2と、回転中心O2周りに回転し第1ウォームホイール104の第2歯車部104yと噛合する外歯状の本体部105xと、本体部105x上に設けられ出力ロッド106との接続を可能とする受入部105yと、を主に含むことができる。なお、受入部105yは、本体部105xから軸方向(
図3においては、紙面表裏方向)に突出する略円筒状のものを採用することができ、例えば、受入部105yとしての略円筒状のピン部材を本体部105x上に圧入又は嵌入する構成を用いることができる。
【0035】
出力ロッド106は、その一端がウォームホイール103(第2ウォームホイール105)の受入部105yに接続され、他端がシリンダ部材10のピストン13に接続される。出力ロッド106は、ウォームホイール103の受入部105yを介して、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)に伝達されるモータ101に基づく動力(主動力)と、アシストスプリング107からの助勢動力との合計動力が伝達されることにより(厳密には、該合計動力におけるシリンダ12の延在方向である直線方向の分力が伝達されることにより)、直線方向に進退する(ストロークする)。つまり、出力ロッド106は、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)の回動に連動して直線方向に進退することができる。
【0036】
出力ロッド106がシリンダ12の延在方向である直線方向に進退することにより、出力ロッド106に接続されるピストン13がシリンダ12内を摺動することができる。これにより、シリンダ12内に充填される作動油に対して油圧を発生させることができる。発生した油圧は、油路20を介してクラッチ5側のレリーズベアリング56側の油室56xに供給される。これにより、レリーズベアリング56がダイヤフラムスプリング55に押し付けられることにより、クラッチ5を継合又は切断させることが可能となる。
【0037】
なお、出力ロッド106の一端には、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)の受入部105yに接続可能な接続部106xが設けられる。接続部106xとしては、受入部105の外径よりも大きな内径を有する略円環状の形状を呈して、内部に受入部105yを挿通させる構成のものを一例として用いることができる。この構成を用いることで、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)が回動することにより受入部105yが接続部106xに当接することができる。これにより、ウォームホイール103から出力ロッド106に対して動力が伝達される。
【0038】
アシストスプリング107は、一端がシート部材107xを介してアクチュエータハウジング100に支持され且つ他端がシート部材107yを介してウォームホイール103(第2ウォームホイール105)に接続されて、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)の回動を助勢している。アシストスプリング107は、一般的なコイルスプリングを用いることができる。
【0039】
ここで、ウォームホイール103の回動とアシストスプリング107の姿勢の関係について、
図4乃至
図7を参照しつつ説明する。前述したとおり、
図4及び
図5は、従来のクラッチ用アクチュエータ2の構成に着目した概略図であり、
図6及び
図7は、一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1の構成に着目した概略図である。なお、本明細書において継合状態とは、理解を容易にするために、クラッチが部分的に継合している状態は含まれず、完全に継合している状態を意味するものとする。同様に、本明細書において切断状態とは、クラッチが完全に切断された状態を意味するものとする。また、
図4乃至
図7におけるウォームホイール103は、前述した第1ウォームホイール104を省略し、第2ウォームホイール105がウォームギヤ102に直接噛合する構成が便宜上示されている点に留意されたい。
【0040】
従来のクラッチ用アクチュエータ2におけるアシストスプリング107は、クラッチ5が継合状態の場合には、
図4に示すように、所定程度撓んだ状態で配置される。この際、アシストスプリング107の他端は、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)の回転中心O2を通る線R1上に位置する。
【0041】
他方、従来のクラッチ用アクチュエータ2におけるアシストスプリング107は、クラッチ5が切断状態の場合には、
図5に示すように、
図4の場合よりも少ない量の撓み量となって(
図4の場合よりも伸びた状態で)配置される。この際、アシストスプリング107の他端は、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)の回転中心O2を通る線R2上に位置する。
【0042】
つまり、従来のクラッチ用アクチュエータ2におけるアシストスプリング107の他端は、クラッチ5の継合又は切断の切替え操作に際して、
図4及び
図5に示される円弧状の太矢印で描かれる軌跡を辿ることとなり、他端の位置が変動することに伴って、アシストスプリング107の姿勢(傾き)も変化することとなる(クラッチ5が継合状態から切断状態に遷移する場合には、
図4に示される姿勢から
図5に示される姿勢に変化することとなる。他方、クラッチ5が切断状態から継合状態に遷移する場合には、
図5に示される姿勢から
図4に示される姿勢に変化することとなる)。なお、
図4及び
図5の場合において、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)は、クラッチ5が継合状態から切断状態に遷移する場合には反時計回りに線R1と線R2とで形成される角度θ1°回転することとなる。一方、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)は、クラッチ5が切断状態から継合状態に遷移する場合には時計回りに角度θ1°回転することとなる。
【0043】
ここで、従来のクラッチ用アクチュエータ2におけるアシストスプリング107の他端は、
図4及び
図5の円弧状の太矢印で描かれる軌跡を辿る際、アシストスプリング107が最も撓んだ状態となる線RX上を経由する。線RXは、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)の回転中心O2とアクチュエータハウジング100に固定されるアシストスプリング107の一端とを結ぶ線である。したがって、アシストスプリング107の他端が線RX上に位置する場合、回転中心O2、アシストスプリング107の一端、及びアシストスプリング107の他端が線RX上に直線状に位置することとなる結果、アシストスプリング107の一端と他端との距離が最も短くなり、アシストスプリング107は最も撓んだ状態となる(最大撓み量となる)。
【0044】
したがって、
図4及び
図5に示される従来のクラッチ用アクチュエータ2においては、クラッチ5が継合状態から切断状態に遷移する際、アシストスプリング107の他端がR1上の位置からRX上の位置まで移動するまで、アシストスプリング107は次第に撓ませられることとなり、結果としてアシストスプリング107のばね力はウォームホイール103(第2ウォームホイール105)に対して負荷となってしまう。なお、この点については、
図1及び
図2において説明した従来のクラッチ用アクチュエータ2の出力特性においても、出力ロッド106のストロークが0近傍において、アシストスプリング107から伝達される助勢動力が「負」となっている点からも理解される。このような従来のクラッチ用アクチュエータ2においては、前述した課題が生じてしまう。
【0045】
これに対して、一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1におけるアシストスプリング107は、クラッチ5が継合状態(出力ロッド106がシリンダ部材10に対して最も退いた位置にあり、シリンダ12内の作動油に対して油圧が供給されていない状態)の場合には、
図6に示すように、所定程度撓んだ状態(第1撓み量)で配置される。この際、アシストスプリング107の他端は、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)の回転中心O2を通る線R3上に位置する。なお、第1撓み量とは、アシストスプリング107の最大撓み量(アシストスプリング107の他端が線RX上に位置する場合)よりも少ない撓み量であって、所定量(所定程度)撓んでいることを意味する。
【0046】
他方、一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1におけるアシストスプリング107は、クラッチ5が切断状態(出力ロッド106がシリンダ部材10に対して最も進んだ位置にあり、シリンダ12内の作動油に対して最大の油圧が供給される状態)の場合には、
図7に示すように、
図6の場合よりも少ない量の撓み量(第2撓み量)となって(
図4の場合よりも伸びた状態で)配置される。この際、アシストスプリング107の他端は、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)の回転中心O2を通る線R4上に位置する。
【0047】
つまり、一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1におけるアシストスプリング107の他端は、クラッチ5の継合又は切断の切替え操作に際して、
図6及び
図7に示される円弧状の太矢印で描かれる軌跡を辿ることとなり、他端の位置が変動することに伴って、アシストスプリング107の姿勢(傾き)も変化することとなる(クラッチ5が継合状態から切断状態に遷移する場合には、
図6に示される姿勢から
図7に示される姿勢に変化することとなる。他方、クラッチ5が切断状態から継合状態に遷移する場合には、
図7に示される姿勢から
図6に示される姿勢に変化することとなる)。なお、
図6及び
図7の場合において、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)は、クラッチ5が継合状態から切断状態に遷移する場合には反時計回りに線R3と線R4とで形成される角度θ2°回転することとなる。一方、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)は、クラッチ5が切断状態から継合状態に遷移する場合には時計回りに角度θ2°回転することとなる。
【0048】
ここで、一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1におけるアシストスプリング107の他端は、前述した従来の場合と異なり、
図6及び
図7の円弧状の太矢印で描かれる軌跡を辿る際、アシストスプリング107が最も撓んだ状態となる線RX上を経由することはない。換言すれば、一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1におけるアシストスプリング107の撓み量は、クラッチ5を継合させる場合に対応する第1撓み量と、クラッチ5を切断させる場合に対応し第1撓み量よりも少ない撓み量の第2撓み量との間の範囲内でのみ変動するものである。
【0049】
したがって、
図6及び
図7に示される一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1においては、クラッチ5が継合状態から切断状態に遷移する際、アシストスプリング107の他端がR3上の位置からR4上の位置まで移動するまで、アシストスプリング107は次第に撓み量を減少させながら、常にそのばね力を助勢動力としてウォームホイール103(第2ウォームホイール105)に出力(伝達)することができる。
【0050】
図6及び
図7に示される一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1は、
図8及び
図9に示すような出力特性を有することができる。ここで、
図8及び
図9中、実線はクラッチ荷重(レリーズベアリング56をダイヤフラムスプリング55に押し付けて、該ダイヤフラムスプリング55の姿勢を変化させる際に必要となる荷重)、一点破線は出力ロッド106に伝達されるモータ101からの主動力、二点破線はアシストスプリング107から伝達される助勢動力、点線は主動力と助勢動力との合計動力を各々示す。なお、
図8及び
図9における横軸の出力ロッド106のストロークは、ウォームホイール103の回転角度(回転位置)に置換することもできる。
【0051】
図8及び
図9に示されるように、アシストスプリング107を前述のとおり配置した一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1の合計動力の大きさは、出力ロッド106のストローク(ウォームホイールの回転位置)に係わらず略一定となる。これにより、一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1は、クラッチ5の継合又は切断に係る操作を確実且つ正確に実行することが可能となる。
【0052】
また、
図9に示されるように、クラッチ5を切断状態から継合状態に遷移させる場合において、アシストスプリング107から伝達される助勢動力とクラッチ荷重との関係が反転することはないため、一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1は、出力ロッド106のストローク変動を低減することも可能となる。
【0053】
2.変形例
次に、別の実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1の構成について、
図10乃至
図12を参照しつつ説明する。
図10は、別の実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1の構成を模式的に示す概略図である。
図11は、別の実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1におけるウォームホイール103と出力ロッド106との接続部分を拡大して示す概略図である。
図12は、別の実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1におけるウォームホイール103と出力ロッド106とが球面接触する構成を模式的に示す概略図である。
【0054】
2-1.変形例1
変形例1(別の実施形態)に係るクラッチ用アクチュエータ1は、
図10に示すように、前述した一実施形態に係るクラッチ用アクチュエータ1と概ね同様の構成であるが、一実施形態とは異なる位置にアシストスプリング107が配置される。具体的には、一実施形態においては、
図3に示されるように、アシストスプリング107がウォームホイール103(第2ウォームホイール105)の回転中心O2から見て、出力ロッド106と反対側の位置(ウォームホイール103上の略3時の位置)に設けられる一方、変形例1においては、回転中心O2から見て、出力ロッド106と同じ側の位置(ウォームホイール103上の略10時の位置)に設けられる。
【0055】
アシストスプリング107は、前述のとおり説明した配置条件(アシストスプリング107の他端が、ウォームホイール103の回動に連動して移動するのに際して、線RX上を経由しない)を満たす限りにおいて、回転中心O2から見て、いずれの位置に配置させてもよい。
【0056】
2-2.変形例2
変形例2(別の実施形態)に係るクラッチ用アクチュエータ1は、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)と出力ロッド106との接続方法において、一実施形態とは異なる。
【0057】
変形例2においては、
図11及び
図12に示すように、出力ロッド106の接続部106xの形状が、一実施形態とは異なり、球面形状を呈するものを用いることができる。加えて、変形例2においては、球面形状の接続部106xを受け入れるために、ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)には、球状の凹部としての受入部105yが形成されている。
【0058】
ウォームホイール103(第2ウォームホイール105)と出力ロッド106の接続を変形例2のようにすることで、ウォームホイール103と出力ロッド106との接続に関する部品点数を削減することができる。さらに、ウォームホイール103と出力ロッド106とを球面接触させることで、両者の接触面積を増大させることができ、これにより両者の接触面にかかる面圧を低減させることができる。
【0059】
以上、前述の通り、様々な実施形態を例示したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数等は適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 クラッチ用アクチュエータ
5 クラッチ
100 ハウジング(アクチュエータハウジング)
101 動力源(モータ)
101x 出力軸
102 ウォームギヤ(第1ギヤ)
103 ウォームホイール(第2ギヤ)
104 第1ウォームホイール(第3ギヤ)
105 第2ウォームホイール(第4ギヤ)
105x 本体部
105y 受入部
106 出力ロッド
106x 接触部
107 アシストスプリング