(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056161
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ロボットプログラム調整装置
(51)【国際特許分類】
B25J 13/00 20060101AFI20220401BHJP
【FI】
B25J13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020164015
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】木本 裕樹
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS10
3C707HS27
3C707LV15
3C707MS05
(57)【要約】
【課題】複数台のロボット同士のインターロックが設定されている動作プログラムを調整して、サイクルタイムの短縮及びロボットの負荷低減の双方を実現できるロボットプログラム調整装置の提供。
【解決手段】プログラム調整装置は、インターロックが原因で第2ロボット14が減速又は待機すると判断された場合に、インターロックに関連する第1ロボット12の動作を特定し、特定した第1ロボット12の動作を高速化するようにロボットプログラムを調整する機能と、高速化によってサイクルタイムが目標値より有意に短くなった場合は、各ロボットの状態量に基づいて各ロボットの時系列毎の負荷を計算し、該負荷のうち、予め定めた閾値を超える負荷に関連するロボットの動作であって、該動作を低速化すれば負荷が閾値以下となる動作を特定し、該動作を低速化するようにロボットプログラムを調整する機能とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ロボット及び第2ロボットの動作を規定するとともに、前記第1ロボットと前記第2ロボットとの間のインターロックに関する設定を含むロボットプログラムを調整するロボットプログラム調整装置であって、
前記ロボットプログラムの前記インターロックを分析するインターロック分析部と、
前記インターロックが原因で前記第2ロボットが減速又は待機するか否かを判断する減速・待機判断部と、
前記減速・待機判断部が、前記インターロックが原因で前記第2ロボットが減速又は待機すると判断した場合に、前記インターロックに関連する前記第1ロボットの動作を特定する動作特定部と、
前記動作特定部によって特定された前記第1ロボットの動作を高速化するように前記ロボットプログラムを調整する高速化部と、
前記第1ロボット及び前記第2ロボットが行う一連の動作のサイクルタイムの目標値を設定するサイクルタイム設定部と、
前記高速化部による高速化により、前記目標値から前記サイクルタイムを差し引いた値が所定の許容値より大きくなった場合は、各ロボットの状態量に基づいて各ロボットの時系列毎の負荷を計算する負荷計算部と、
前記負荷計算部が計算した各ロボットの時系列毎の負荷のうち、予め定めた閾値を超える負荷に関連するロボットの動作であって、該動作を低速化すれば負荷が前記閾値以下となる動作を特定し、該動作を低速化するように前記ロボットプログラムを調整する低速化部と、
を備えるロボットプログラム調整装置。
【請求項2】
前記低速化部は、低速化すべきと特定された前記動作を、前記サイクルタイムが前記目標値を超えない範囲で低速化するように前記ロボットプログラムを調整する、請求項1に記載のロボットプログラム調整装置。
【請求項3】
前記負荷計算部が計算した各ロボットの時系列毎の負荷のうち、予め定めた閾値未満の負荷に関連するロボットの動作であって、該動作を高速化しても負荷が前記閾値以下となる動作を特定し、該動作を高速化するように前記ロボットプログラムを調整する第2高速化部をさらに有する、請求項1に記載のロボットプログラム調整装置。
【請求項4】
前記第2ロボットが、前記第1ロボットとの共有作業領域の境界で停止することなく前記共有作業領域内に進入するように前記第2ロボットの動作を低速化すべく前記ロボットプログラムを調整する第2低速化部をさらに有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のロボットプログラム調整装置。
【請求項5】
各ロボットの前記状態量は、各ロボットに搭載されたモータの速度、加速度、加加速度、トルク、電流、温度、及びモータ速度指令からの追従誤差のうちいずれか1つ、又は複数の組み合わせからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載のロボットプログラム調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの動作プログラムを調整するロボットプログラム調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数台のロボットが作業領域を共有して稼働するシステムでは、ロボット同士が干渉・衝突しないように、ロボットの動作を制御するロボットプログラム等を用いてインターロックを設定する場合がある(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
また複数台のロボットを含む生産システムにおいて、システム全体のタクトタイムに悪影響を与えている原因を分析し、その分析結果に基づいてロボットの動作プログラムを自動的に修正して、生産システムの高速化を図る技術が知られている(例えば特許文献2を参照)。
【0004】
さらに、複数の軸を有するロボットの動作プログラムを調整して、特定の軸の負荷の軽減を図る技術が知られている(例えば特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-347984号公報
【特許文献2】特開2017-199077号公報
【特許文献3】特開2009-043165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、複数台のロボットが作業領域を共有して稼働するシステムにおいて、ロボット同士のインターロックが設定されている場合、サイクルタイムの短縮と、ロボットの負荷低減との双方を実現するようにロボットの動作プログラムを調整することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、第1ロボット及び第2ロボットの動作を規定するとともに、前記第1ロボットと前記第2ロボットとの間のインターロックに関する設定を含むロボットプログラムを調整するロボットプログラム調整装置であって、前記ロボットプログラムの前記インターロックを分析するインターロック分析部と、前記インターロックが原因で前記第2ロボットが減速又は待機するか否かを判断する減速・待機判断部と、前記減速・待機判断部が、前記インターロックが原因で前記第2ロボットが減速又は待機すると判断した場合に、前記インターロックに関連する前記第1ロボットの動作を特定する動作特定部と、前記動作特定部によって特定された前記第1ロボットの動作を高速化するように前記ロボットプログラムを調整する高速化部と、前記第1ロボット及び前記第2ロボットが行う一連の動作のサイクルタイムの目標値を設定するサイクルタイム設定部と、前記高速化部による高速化により、前記目標値から前記サイクルタイムを差し引いた値が所定の許容値より大きくなった場合は、各ロボットの状態量に基づいて各ロボットの時系列毎の負荷を計算する負荷計算部と、前記負荷計算部が計算した各ロボットの時系列毎の負荷のうち、予め定めた閾値を超える負荷に関連するロボットの動作であって、該動作を低速化すれば負荷が前記閾値以下となる動作を特定し、該動作を低速化するように前記ロボットプログラムを調整する低速化部と、を備えるロボットプログラム調整装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、複数台のロボット同士のインターロックが設定されているロボットプログラムを適切に調整して、サイクルタイムを目標値に合わせることと、ロボットの負荷を低減することの双方を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係るロボットプログラム調整装置及び複数台のロボットを含むロボットシステムの一構成例を示す図である。
【
図2】
図1のロボットシステムにおける処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、好適な実施形態に係るロボットプログラム調整装置、及び複数台のロボットを含むロボットシステム10の一構成例を示す。ここでは、ロボットシステム10は、2台の産業用ロボットとしての第1ロボット12及び第2ロボット14を有し、第1ロボット12の動作は、第1ロボット12に接続された第1ロボット制御装置16によって制御される。同様に第2ロボット14の動作は、第2ロボット14に接続された第2ロボット制御装置18によって制御される。
【0011】
第1ロボット12及び第2ロボット14をそれぞれ制御するためのロボットプログラム(動作プログラムとも称する)は、第1ロボット12及び第2ロボット14の間のインターロックに関する設定を含み、ロボットプログラム作成装置20によってオフラインで作成される。ロボットプログラム作成装置20及びロボットプログラム調整装置22は例えば、プロセッサ、メモリ、キーボード等の入力部、及びモニタ等の表示部を備えるパーソナルコンピュータ(PC)である。
【0012】
プログラム作成装置20が作成したロボットプログラムは、プログラム調整装置22がオフラインで調整することができる。プログラム調整装置22は例えば、プロセッサ、メモリ、キーボード等の入力部、及びモニタ等の表示部を備えるパーソナルコンピュータ(PC)であり、ロボットプログラムのインターロックを分析するインターロック分析部と、インターロックが原因で第2ロボット14が減速又は待機するか否かを判断する減速・待機判断部と、減速・待機判断部が、インターロックが原因で第2ロボット14が減速又は待機すると判断した場合に、インターロックに関連する第1ロボット12の動作を特定する動作特定部と、動作特定部によって特定された第1ロボット12の動作を高速化するようにロボットプログラムを調整する高速化部と、第1ロボット12及び第2ロボット14が行う一連の動作のサイクルタイムの目標値を設定するサイクルタイム設定部と、高速化部による高速化により、目標値からサイクルタイムを差し引いた値が所定の許容値より大きくなった場合は、各ロボットの状態量に基づいて各ロボットの時系列毎の負荷を計算する負荷計算部と、負荷計算部が計算した各ロボットの時系列毎の負荷のうち、予め定めた閾値を超える負荷に関連するロボットの動作であって、該動作を低速化すれば負荷が前記閾値以下となる動作を特定し、該動作を低速化するようにロボットプログラムを調整する低速化部と、を備える。またプログラム調整装置22は、負荷計算部が計算した各ロボットの時系列毎の負荷のうち、予め定めた閾値未満の負荷に関連するロボットの動作であって、該動作を高速化しても負荷が閾値以下となる動作を特定し、該動作を高速化するようにロボットプログラムを調整する第2高速化部と、第2ロボット14が、第1ロボット12との共有作業領域の境界で停止することなく共有作業領域内に進入するように第2ロボット14の動作を低速化すべくロボットプログラムを調整する第2低速化部とをさらに有することができる。上述したプログラム調整装置22の各部の機能は、プログラム調整装置22のプロセッサやメモリが担うことができる。
【0013】
本実施形態では、同一のPCがプログラム作成装置20及びプログラム調整装置22の双方の機能を具備するものとする。但し、プログラム作成装置20及びプログラム調整装置22を、別個のPC等の装置とすることもできる。プログラム調整装置22が調整したロボットプログラムは、第1ロボット制御装置16及び第2ロボット制御装置18にそれぞれ送信可能であり、第1ロボット12及び第2ロボット14はそれぞれ、調整されたロボットプログラムによって制御され、後述するような所定の動作を行う。
【0014】
或いは、PC等のプログラム作成装置20が作成した第1ロボット12及び第2ロボット14のための動作プログラムを、それぞれ第1ロボット制御装置16及び第2ロボット制御装置18に送った後に、第1ロボット制御装置16及び第2ロボット制御装置18がそれぞれの動作プログラムを調整し、調整した動作プログラムを用いて第1ロボット12及び第2ロボット14をそれぞれ制御することもできる。この場合は、第1ロボット制御装置16及び第2ロボット制御装置18(のプロセッサ等)がプログラム調整装置として機能する。
【0015】
本実施形態では、第1ロボット12(のロボットアーム24)は、第1作業領域26及び第2作業領域28のいずれにも進入することができ、第1作業領域26内の第1テーブル(作業台)30上に載置されたワーク32をアーム24の先端に取り付けたロボットハンド34等で把持して、第2作業領域28内の第2テーブル(作業台)36上に移動する動作、又は第2テーブル36上に載置されたワークを把持して、第1テーブル30上に移動する動作等を行うことができる。
【0016】
一方、第2ロボット14(のロボットアーム38)は、第2作業領域28及び第3作業領域40のいずれにも進入することができ、第2作業領域28内の第2テーブル36上に載置されたワーク32をアーム38の先端に取り付けたロボットハンド42等で把持して、第3作業領域40内の第3テーブル(作業台)44上に移動する動作、又は第3テーブル44に載置されたワークを把持して、第2テーブル36上に移動する動作等を行うことができる。
【0017】
図1に例示するように、作業領域26、28及び40は、それぞれ破線で示すような、仮想的に画定された空間とすることができ、ここでは各テーブルの上面の上方投影空間(上方掃引空間)として予め設定可能である。また各作業領域内にロボットが存在しているか否かは、各領域の境界をロボットが通過したことを光電センサ46、48及び50等のセンサを用いて検知することで判断することができる。
【0018】
上述のように、第2作業領域28は、第1ロボット12及び第2ロボット14の双方が進入し得る共有作業領域である。そこで第1ロボット12及び第2ロボット14のそれぞれの動作プログラムでは、両ロボットが衝突又は干渉しないようにインターロックが設定されており、第2作業領域28内は同時に2台のロボットが進入又は存在することはできない。なお第1作業領域26も、第1ロボット12と図示しない他のロボットとの共有作業領域とすることができるが、第2作業領域28と同様の考え方が適用できるので詳細な説明は省略する。第3作業領域40についても同様である。
【0019】
具体的には、第2作業領域28内には、同時に複数台のロボットが存在することはできず、例えば第1ロボット12が第2作業領域28内に進入すべきときは、先ずI/O信号等を用いて第2ロボット14が第2作業領域28内に存在しているか否かを確認し、第2ロボット14が第2作業領域28内に存在していなければ第1ロボット12は第2作業領域28内に進入できる。また第1ロボット12が第2作業領域28内に存在している間、第2ロボット14は、第2作業領域28外で行う動作がなければ、第2作業領域28の境界上(後述する位置P5)に待機する。
【0020】
なお本実施形態における各ロボットの「動作」又は「移動」とは、各ロボットの基部は固定されているが、ロボットアーム等の可動部の作業領域間での移動や、作業領域内での移動又はワークの把持等を意味する。但し複数の作業領域の位置関係等によっては、自走式の台車等を用いて第1ロボット12の基部52を可動とすることもできる。同様に、自走式の台車等を用いて第2ロボット14の基部54を可動とすることもできる。
【0021】
次に
図2を参照して、プログラム調整装置22における処理の一例を説明する。先ず、プログラム作成装置20が各ロボット用に作成した動作プログラムを、プログラム調整装置22が解析して、第1ロボット12と第2ロボット14との間のインターロックの内容を分析する(ステップS1)。次にプログラム調整装置22は、動作プログラムを解析して、第1ロボット12及び第2ロボット14の少なくとも一方がインターロックが原因で減速又は待機するか否かを判断する(ステップS2)。
【0022】
ここでは、第1ロボット12において、第1テーブル30上の位置P1にあるワーク32を把持して、第1作業領域26の境界上の位置P2及び第2作業領域28の境界上の位置P3を経由して、第2テーブル36上の位置P4にワーク32を載置し、その後、位置P3を経由して第2作業領域28から退避する、という動作プログラムが作成されているものとする。つまり第1ロボット12は、位置P1からP4までの軌跡に沿って反復的に動作する。同様に、第2ロボット14は、位置P4からP7までの軌跡に沿って反復的に動作する。
【0023】
この場合、第1ロボット12が第2作業領域28内に存在している間、より具体的には第1ロボット12(のツール先端点等の代表点)が位置P3→P4→P3の順に移動している間は、第2ロボット14の動作プログラムでは、第2作業領域28内に進入できないとするインターロックが設定されるので、第2ロボット14は第2作業領域28の境界上の位置P5で待機するか、第3作業領域40の境界上の位置P6又は第3テーブル44上の位置P7から位置P5に移動する過程において減速することになる。従って処理はステップS3に進む。
【0024】
ステップS3では、第2ロボット14の減速又は待機の原因となっている、インターロックに関連する第1ロボット12の動作を特定し、特定した動作をプログラム調整によって高速化する。ここでは、第1ロボット12の移動(P3→P4→P3)に要する時間が、第2ロボット14の待機又は減速の原因となっていると特定されるので、この移動に関する第1ロボット12(のロボットアーム24)の動作を高速化するようなプログラム調整が行われる。ここでの高速化は例えば、第1ロボット12の各軸のモータの速度や加速度の変更によって実現できる。
【0025】
このように、共有作業領域内には同時に1台のロボットのみ存在できるというインターロックが設定されている場合、共有領域内での1台のロボットの動作を高速化(つまり動作時間を短縮)することにより、他のロボットの待機又は減速を回避することができ、システム10のサイクルタイムを短縮することができる。ここでサイクルタイムとは、ロボットシステム10において、各ロボットの動作プログラムにより規定された、第1ロボット12及び第2ロボット14の一連の処理(例えば1つのワーク32を、位置P1からP4を経由してP7に移動する処理)に要する時間を意味する。
【0026】
ここで、第1ロボット12が位置P4にあるときに第2ロボット14が位置P5に到達する動作プログラムが作成されている場合、第2作業領域28内での第1ロボット12の高速化は、位置P4からP3までの移動についてのみ行うことが考えられるが、その場合は急激な加速により、第1ロボット12のモータ等に大きな負荷がかかる恐れもある。そのような場合、第2作業領域28内での動作全体、すなわち位置P3→P4→P3の移動を高速化するようなプログラム調整を行うことにより、第1ロボット12にかかる負荷を抑制することができる。
【0027】
また、第2作業領域28内での第1ロボット12の動作を高速化しても、第2ロボット14の位置P5での待機が避けられない動作プログラムが作成されている場合は、第2ロボット14の作業領域外での動作、すなわち位置P6からP5への移動における速度や加速度を敢えて低くするプログラム調整を行うことができる。このようにすれば、第1ロボット12が第2作業領域28から出るとき(位置P4からP3に到達したとき)の直後に、第2ロボット14が位置P5で停止することなく(ゼロでない速度で位置P5を通過して)第2作業領域28内に進入することができ、第2ロボット14の位置P5での停止及び再加速が回避できるとともに、第2ロボット14の第2作業領域28内での動作時間を短縮することもできる。
【0028】
次にステップS4において、特定された動作の高速化後のサイクルタイムが、予め定めた目標値よりも有意に短いか否か、具体的には目標値から高速化後のサイクルタイムを差し引いた値が所定の許容値より大きいか否かを判定する。このステップS4の判定に使用する許容値は、サイクルタイムの長さにもよるが、例えば1秒から10秒までの値、或いはサイクルタイムの5%から20%までの値に設定可能である。
【0029】
ステップS4でサイクルタイムが目標値より有意に短いと判定された場合は、ステップS5において、各ロボットの状態量に基づいて各ロボットの時系列毎の負荷を計算する。具体的には、各ロボットの各軸に搭載されたモータの速度、加速度、加加速度、トルク、電流、温度、及びモータ速度指令からの追従誤差のうちの少なくとも1つのパラメータから、各ロボットの時系列毎の負荷、特にモータにかかる負荷を計算する。なお負荷の単位は、モータの速度やトルク等、どのパラメータを用いるかによって異なる。よって同時刻において、(単位が異なる)複数の負荷を計算しておくこともできる。
【0030】
次にステップS6において、比較的大きな負荷の原因となっているロボットの動作(例えば高速での移動や急激な加減速)を特定し、特定した動作をプログラム調整によって低速化する。具体的には、ステップS5で計算した時系列毎の負荷のうち、予め定めた閾値を超える負荷に関連するロボットの動作であって、該動作を低速化すれば負荷が該閾値以下となる動作を特定し、該動作を低速化するプログラム調整を行う。この閾値は例えば、モータの寿命や交換頻度等を考慮して経験的に定めることができる。このようにすれば、ロボットのモータ等に大きな負荷がかかることを防止し、モータ等の寿命や交換サイクルを延長することができる。
【0031】
ステップS6で低速化可能なロボットの動作としては、例えば第1ロボット12の位置P2からP3への移動、第2ロボット14の位置P5からP6への移動等、共有作業領域である第2作業領域28の外部でのロボット動作が挙げられる。但し共有作業領域内の動作であっても、その動作を行うロボットに高負荷がかかる場合等は、その共有作業領域内の動作を低速化の対象としてもよい。
【0032】
なお
図2のステップS6における、特定された動作の低速化は、サイクルタイムが目標値を超えない範囲で行われる。従ってステップS4~S6を1回以上実行すれば、サイクルタイムは目標値に実質等しくなるので、プログラム調整処理を終了することができる。
【0033】
つまり
図2に示す処理例では、サイクルタイムを目標値より大幅に減らす必要はないので、ステップS4でサイクルタイムが目標値より有意に短いと判定された場合は、ロボットの負荷低減を目的として、特定された動作を低速化するとともに、サイクルタイムを目標値に近付けるようなプログラム調整を行う。このようにして、サイクルタイムを実質的に目標値に等しくするとともに、ロボットの負荷低減も図られたプログラム調整を行うことができる。
【0034】
図3は、プログラム調整装置22における処理の他の例を示す。なおステップS1~S5は
図2と同様でよいので、詳細な説明は省略する。
【0035】
ロボットの負荷を所定の閾値以下に低減することが必要とされている場合、ステップS6においてロボット動作を低速化した結果、サイクルタイムが目標値より有意に長くなってしまうこともあり得る。そこで
図3に示す例では、ステップS4においてサイクルタイムが目標値以上と判定された場合、ステップS7において、サイクルタイムと目標値が実質等しいか否か(両者の差が許容値未満であるか否か)を先ず判定する。ここでサイクルタイムと目標値が実質等しければプログラム調整は終了するが、サイクルタイムが目標値より有意に長い場合(サイクルタイムから目標値を差し引いた値が許容値以上である場合)は、ステップS8に進む。
【0036】
ステップS8では、ステップS5で計算された各ロボットの時系列毎の負荷を用いて、比較的低負荷であり、かつ高速化可能な動作を特定し、特定した動作をプログラム調整によって高速化する。具体的には、ステップS5が計算した時系列毎の負荷のうち、予め定めた閾値未満の負荷に関連するロボットの動作であって、該動作を高速化しても該閾値以下となる動作を特定し、これを高速化するプログラム調整を行う。この閾値も例えば、モータの寿命や交換までの期間を考慮して経験的に定めることができる。このようにすれば、ロボットのモータ等に大きな負荷をかけることなく、サイクルタイムを目標値に近付けることができる。
【0037】
ステップS8で高速化可能なロボットの動作としては、例えば第1ロボット12の位置P2からP3への移動、第2ロボット14の位置P5からP6への移動等、共有作業領域である第2作業領域28の外部でのロボット動作が挙げられる。但し共有作業領域内の動作であって、インターロックに関連しない(ステップS1~S3の処理の対象にならない)動作を、高速化の対象とすることもできる。
【0038】
上述のようにロボットの動作を高速化又は低速化した場合、ロボットの(代表点の)軌跡が変化する場合がある。よって高速化又は低速化の条件として、高速化又は低速化の前後での軌跡の変化量の範囲や、ロボット以外の周辺機器とのクリアランスの下限値を予め設定してもよい。このようにすれば、ロボットと周辺機器との干渉を効率的に回避することができる。例えば、高速化後又は低速化後のクリアランスが下限値を下回っていれば、干渉の恐れがあると判断し、その高速化又は低速化の内容を見直す(再計算する)等の処理を行うことができる。
【0039】
本開示に係るプログラム調整装置22は、インターロックが原因で第2ロボット14が減速又は待機すると判断された場合に、インターロックに関連する第1ロボット12の動作を特定し、特定した第1ロボット12の動作を高速化するようにロボットプログラムを調整する機能と、高速化によってサイクルタイムが目標値より有意に短くなった場合は、各ロボットの状態量に基づいて各ロボットの時系列毎の負荷を計算し、該負荷のうち、予め定めた閾値を超える負荷に関連するロボットの動作であって、該動作を低速化すれば負荷が閾値以下となる動作を特定し、該動作を低速化するようにロボットプログラムを調整する機能とを有する。よって本開示によれば、サイクルタイムを目標値に実質的に等しくすることと、ロボットの負荷を低減することの双方を実現するプログラム調整を行うことができる。
【0040】
なお上述の実施形態では、ロボットプログラム調整装置は、オフラインでプログラムの調整を行うものとして説明されたが、本開示に係るロボットプログラム調整装置は、製造現場等、オンラインでロボットプログラムを調整する用途に使用することもできる。
【符号の説明】
【0041】
10 ロボットシステム
12 第1ロボット
14 第2ロボット
16 第1ロボット制御装置
18 第2ロボット制御装置
20 プログラム作成装置
22 プログラム調整装置
26 第1作業領域
28 第2作業領域
32 ワーク
40 第3作業領域
46、48、50 センサ