(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056233
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ワークの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/38 20060101AFI20220401BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
B29C33/38
B29C33/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020164141
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛志
(72)【発明者】
【氏名】関 弘子
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AF01
4F202AG01
4F202AH63
4F202AJ02
4F202AR13
4F202CA30
4F202CB01
4F202CD05
4F202CD24
4F202CK12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】錐体の突起部を備えた基板等のワークを製造するにあたって、ワークの製造過程で利用するエッチングマスクがワークへと付着しない製造方法を提供する。
【解決手段】表面に錐体を備えたワークの製造方法であって、基板111表面に所定形状のエッチッグマスク112を形成する工程と、エッチングマスク112を用いて基板111をエッチングし、エッチングマスク112の裏面に錐台状突起部111aを形成する工程と、エッチングマスク112を除去する工程と、エッチングマスクを除去した錐台状突起部111aをエッチングし、錐体状突起部を形成する工程と、を備えたワークの製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に錐体を備えたワークの製造方法であって、
基板表面に所定形状のエッチッグマスクを形成する工程と、
前記エッチングマスクを用いて前記基板をエッチングし、前記エッチングマスクの裏面に錐台状突起部を形成する工程と、
前記エッチングマスクを除去する工程と、
前記エッチングマスクを除去した前記錐台状突起部をエッチングし、錐体状突起部を形成する工程と、を備えたことを特徴とするワークの製造方法。
【請求項2】
前記エッチングマスクを除去する工程は、前記エッチングマスクをドライエッチングにより除去する工程であることを特徴とする請求項1に記載のワークの製造方法。
【請求項3】
前記エッチングマスクを除去する工程は、前記エッチングマスクをウェットエッチングにより除去する工程であることを特徴とする請求項1に記載のワークの製造方法。
【請求項4】
前記基板を等方性エッチングすることで前記錐台状突起部及び錐体状突起部を形成することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のワークの製造方法。
【請求項5】
前記基板を異方性エッチングすることで前記錐台状突起部及び錐体状突起部を形成することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のワークの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に錐体を備えたワークの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療や化粧品等の分野において、フィルム等の表面に形成された錐体状の突起部であるマイクロニードルを用いて皮膚を穿孔し、皮膚内に直接薬剤や化粧品成分を投与する方法が知られている。このマイクロニードルを備えたフィルムは、マイクロニードルの反転形状、つまりマイクロニードルの突起部に対応する凹部を備えた金型を作製し、射出やインプリント等により成形し製造する方法があり、さらにこの金型を製造するためにマイクロニードルの突起部に対応する形状を備えたマスター金型を利用する方法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
マスター金型の作製は、例えば次のような製造方法にて製造されている。まず、マスター金型の母材となる基板上に感光性のレジスト膜を積層する。次に、該レジスト膜の表面に所定のパターン、ここではマイクロニードルの底面部の形状に対応したパターンを持つ露光マスクを配置し、この露光マスクを介してレジスト膜に紫外線等の光を照射する。次に、光が照射されたレジスト膜の未感光部分または感光部分を現像にて除去し、所定のレジストパターンを得る。次に、レジストパターンをマスクとし基板を等方性ドライエッチングすることで、基板表面にマイクロニードルに対応する錐体状の突起部を得ることができる。この後、金型から基板及び感光性レジストを除去することでマスター金型を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のマスター金型を製造する方法では、基板上に積層したレジスト膜をエッチングマスクとして用い、錐体状の突起部ができるまで基板を等方性エッチングする。ここで、基板のエッチングは等方性エッチングにより行われるが、等方性エッチングはレジスト膜の裏面(レジスト膜の基板との接触面)における部分の基板もエッチング(アンダーカット)されるため、エッチングが進行するにしたがいレジスト膜と基板との接触面が小さくなり、それにより基板とレジスト膜との密着力が低下してレジスト膜がエッチング途中で剥離、飛散してしまうことがある。その結果、飛散したレジスト膜が基板上に付着し、マスター金型表面に異物(レジスト膜)が存在してしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、錐体の突起部を備えた基板等のワークを製造するにあたって、ワークの製造過程で利用したエッチングマスクがワークへと付着しない製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
表面に錐体を備えたワークの製造方法であって、基板表面に所定形状のエッチッグマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクを用いて前記基板をエッチングし、前記エッチングマスクの裏面に錐台状突起部を形成する工程と、前記エッチングマスクを除去する工程と、前記エッチングマスクを除去した前記錐台状突起部をエッチングし、錐体状突起部を形成する工程とを備えたワークの製造方法とする。
前記エッチングマスクを除去する工程は、前記エッチングマスクをドライエッチングにより除去する工程としてもよい。
また、前記エッチングマスクを除去する工程は、前記エッチングマスクをウェットエッチングにより除去する工程としてもよい。
さらにまた、前記基板を等方性エッチングすることで前記錐台状突起部及び錐体状突起部を形成するワークの製造方法としてもよく、前記基板を異方性エッチングすることで前記錐台状突起部及び錐体状突起部を形成するワークの製造方法としてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、錐体の突起部を備えた基板等のワークを製造するにあたって、ワークの製造過程で利用したエッチングマスクがワークへと付着することなく製造することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例を説明するための図であり、表面に円錐体を備えたマスター金型の図である。
【
図2】本発明の一実施例を説明するための図であり、マスター金型の製造方法を示す部分断面図である。
【
図3】本発明の一実施例を説明するための図であり、マスター金型の製造方法を示す部分断面図である。
【
図4】本発明の別の実施例を説明するための図であり、表面に四角錐体を備えたマスター金型の図である。
【
図5】本発明の別の実施例を説明するための図であり、マスター金型の製造方法を示す部分断面図である。
【
図6】本発明の別の実施例を説明するための図であり、マスター金型の製造方法を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のワークの製造方法について図面を参照して説明する。本実施例では、ワークとして基板上に微細突起部を複数備えたマスター金型を例とし、その製造方法を説明する。
図1は、本発明の実施例を説明するための図であり、表面に円錐体を備えたマスター金型の図である。マスター金型10は、Si基板11の表面に複数の微細な突起12が配列されている。突起12は略円錐状であり、円錐底面の直径が200μm、高さが170μmである。
【0011】
図2および
図3は、本発明の一実施例を説明するための図であり、マスター金型10の製造方法を示す部分断面図である。マスター金型10の製造は、先ずマスター金型10の母材となる基板111を準備する。本実施例において、基板111は12mm角、厚さ600μmであり、表面の方位が(100)面であるSi基板である。次に、基板111の表面にネガ型の感光性レジスト膜112を塗布する(
図2(a))。レジスト膜112は、後工程の基板111のエッチング工程におけるエッチングマスクとして機能するものであり、その膜厚は、後工程における基板111のエッチング時間等を考慮して決定され、本実施例では膜厚が6~7μmとなるよう形成する。
【0012】
次に、レジスト膜112の表面に、突起12に対応した開口を有する露光マスク113を配置し、この露光マスク113を介してレジスト膜112を露光、感光する(
図2(b))。次いで、露光、感光されていないレジスト膜112を現像にて除去し、基板111上にレジスト膜112による所定のレジストパターンを得る(
図2(c))。このレジストパターンは、基板111上における突起12に対応した位置、より具体的には突起12の底面に対応する位置にφ200μmのレジスト膜112が残存したものである。
【0013】
次に、レジスト膜112をエッチングマスクとして、基板111をSF
6(フッ化硫黄)蒸気によるドライエッチング法によりエッチングする(
図2(d))。このエッチングは等方性エッチングであり、基板111のエッチングはレジスト膜112に被覆されていない表面およびレジスト膜112の裏面にまで及ぶ。この工程では、レジスト膜112の裏面に円錐台状突起111aが形成されるまで基板111のエッチングを行う。本実施例では、円錐台状突起111aの上面(レジスト膜112の裏面と接する面)の直径が32μm、高さ145μmとなるまで基板111のエッチングを行う。
【0014】
次に、円錐台状突起111aの上面に残存したレジスト膜112をプラズマアッシング等の手段により剥離する(
図3(e))。
【0015】
最後に、基板111をSF
6(フッ化硫黄)蒸気により再度エッチングする(
図3(f))。この工程におけるエッチングでは、円錐台状突起111aを含む基板111の表面全体をエッチングする。本実施例においては、エッチング後の円錐状突起111bの高さが170μmとなるまでエッチングを行う。基板111の円錐台状突起111aは、エッチングが進行するにしたがいその外周が除去され全体が小さくなるが、高さ170μmとなるまでエッチングを行うと、円錐台状突起111aの上面が針状、つまり円錐台状突起111aが円錐状突起111bとなる。また、ここで形成される円錐状突起111bは、その側面が若干括れた略円錐状の突起12となる。
【0016】
以上のように、本実施例では、円錐状突起111bを形成する工程において、突起が円錐台状である状態でエッチングを一度停止し、レジスト膜112を剥離した後に円錐台状突起111aが円錐状となるまで再度エッチングした。レジスト膜112(エッチングマスク)の剥離工程は、レジスト膜112と基板111との密着力が十分に確保できている状態、換言すればレジスト膜112と基板111との接触面積が、レジスト膜112がエッチング工程中に剥離しない程度に残った状態にて行う。このような工程とすることで、エッチング途中でレジスト膜112が剥離し、それが基板111に付着することなく円錐状突起12を形成することが可能となる。
【0017】
次に、本発明におけるワークの製造方法の別の実施例について図面を参照して説明する。本実施例においてもワークとして基板上に微細突起部を複数備えたマスター金型の製造方法を例に説明する。
図4は、本発明の別の実施例を説明するための図であり、表面に四角錐体を備えたマスター金型の図である。マスター金型20は、Si基板21の表面に複数の微細な突起22が配列されている。突起22は底面がおよそ140μm角、高さが100μmの四角錐状である。
【0018】
図5および
図6は、本発明の別の実施例を説明するための図であり、マスター金型20の製造方法を示す部分断面図である。マスター金型20の製造は、先ずマスター金型20の母材となる基板211を準備する。本実施例において基板211は、表面の方位が(100)面であり、12mm角、厚さ600μmのSi基板である。次に、酸素を含んだ雰囲気中で基板211を1000~1200度に加熱し、その表面に厚さ2μmの酸化膜211cを形成する(
図5(a))。酸化膜211cは、後工程の基板211のエッチング工程におけるエッチングマスクとして機能するものであり、その膜厚は、後工程における基板111のエッチング時間等を考慮して決定される。
【0019】
次に、酸化膜211cの表面にネガ型の感光性レジスト膜212を塗布し、レジスト膜212上に突起22に対応して開口した露光マスク213を配置してレジスト膜212を露光、感光する(
図5(b))。
【0020】
次いで、露光、感光されていないレジスト膜212を現像して除去し、基板211上にレジスト膜212による所定のレジストパターンを得る(
図5(c))。レジストパターンは、基板211上における突起22に対応した位置、より具体的には突起22の底面に対応する位置に140μm角のレジスト膜212が残存したものである。
【0021】
次に、レジスト膜212をエッチングマスクとして、酸化膜211cをHF(フッ化水素酸)溶液によりエッチングする(
図5(d))。この工程により、基板211の表面に、酸化膜211cからなり、突起22の位置、形状に対応したマスクパターンを形成し、基板211をエッチングするためのエッチングマスクを得る。
【0022】
次に、酸化膜212上に残存するレジスト膜212をアセトン等により除去した後(
図6(e))、酸化膜211cをエッチングマスクとして、基板211をKOH(水酸化カリウム)やNaOH(水酸化ナトリウム)等のアルカリ性の溶液によってウェットエッチングする(
図6(f))。このエッチングは、基板211の結晶異方性を利用した異方性エッチングであり、エッチングにより基板211には酸化膜211cの裏面に残る基板211の部位を上面とした四角錐台状突起211aが形成される。また、酸化膜211cの裏面においては、基板211のエッチング時間に応じてエッチングが酸化膜211cの裏面にまで及び、酸化膜211cの裏面下の基板211がアンダーカットされる。本実施例では、四角錐台状突起211aの上面(酸化膜211cの裏面と接する面)がおよそ40μm、高さ70μmとなるまで基板111のエッチングを行う。
【0023】
次に、円錐台状突起111aの上面に残存した酸化膜211cをHF(フッ化水素酸)溶液により除去する(
図6(g))。
【0024】
最後に、基板211をKOH(水酸化カリウム)やNaOH(水酸化ナトリウム)等のアルカリ性の溶液により再度エッチングし、四角錐状突起211bを形成する(
図6(h))。この工程におけるエッチングでは、四角錐台状突起211aを含む基板211の表面全体をエッチングされ、本実施例では、エッチング後の四角錐状突起211bの高さが100μmとなるまでエッチングを行う。基板211の四角錐台状突起211aは、エッチングが進行するにしたがいその外周が除去され全体が小さくなり、高さ100μmとなるまでエッチングをすると、四角錐台状突起211aの上面が針状、つまり四角錐台状突起211aが四角錐状突起211b(四角錐状の突起22)となる。
【0025】
以上のように、本実施例では、四角錐状突起211bを形成する工程において、突起が四角錐台状である状態で一度エッチングを停止してエッチングマスク(ここでは酸化膜211c)を除去し、その後、突起が四角錐状となるまで四角錐台状突起211a全体を再度エッチングして四角錐状の突起22を形成した。ここで、四角錐台状突起211aを形成する工程において、四角錐台状突起211aが形成された後もエッチングを継続してアンダーカットを進行させ、四角錐台状突起211aを四角錐状とすることも可能であるが、四角錐台状突起211aが四角錐状に近づくほど酸化膜211cは剥離しやすくなり、突起が四角錐状となったときには酸化膜211cは完全に剥離することとなる。そのため、本実施例では、エッチングマスク(酸化膜211c)の除去を基板211のエッチング途中で行い、基板211のエッチングを2回に分割したことで、エッチングマスクの基板211への付着を防止した。
【0026】
以上、実施例に基づき本発明のワークの製造方法を説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。例えば、ワークは金型マスターに限定されず、錐体状の突起を持つ各種部品、製品、ジグ等の製造方法に適用できる。ワークの他の例としては、液体の流路に円錐状ピラーを備えたマイクロ流路等が挙げられる。また、実施例では、エッチング方法として等方性ドライエッチング、異方性ウェットエッチングにより本発明を説明したが、それらの方法の他に、異方性ドライエッチングや等方性ウェットエッチングでエッチングを行ってもよく、それらを組み合わせた方法としてもよい。さらにワークの基材、エッチャント、エッチングマスクの材料や、エッチングマスクの除去手段等についても周知の方法を適宜選択、利用することが可能である。また、錐体状突起の形状についても円錐、四角錐に限定されるものではなく、三角錐等の他の錐体においても本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
10、20 金型マスター
11、21 Si基板
12、22 突起
111 基板
111a 円錐台状突起
111b 円錐状突起
112 レジスト膜
113 露光マスク
211 基板
211a 四角錐台状突起
211b 四角錐状突起
211c 酸化膜
212レジスト膜
213 露光マスク