(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056248
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20220401BHJP
A23D 9/013 20060101ALI20220401BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20220401BHJP
【FI】
A23D7/00 504
A23D7/00 508
A23D9/013
A23L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020164162
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】390028897
【氏名又は名称】阪本薬品工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 輝
(72)【発明者】
【氏名】村井 卓也
【テーマコード(参考)】
4B025
4B026
【Fターム(参考)】
4B025LB21
4B025LG14
4B025LG16
4B025LG24
4B025LK01
4B025LP10
4B025LP11
4B026DC06
4B026DG03
4B026DG04
4B026DH03
4B026DH05
4B026DK10
4B026DX04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低油分であってもホイップ後の保形性や離水耐性が良好であり、乳安定性にも優れた起泡性水中油型乳化組成物の提供。
【解決手段】構成脂肪酸が炭素数16及び18の飽和脂肪酸からなる群より選ばれる一種または二種以上であり、HLBが4~6であるポリグリセリン脂肪酸エステルからなる乳化剤を0.2~0.4重量%含有する起泡性水中油型乳化組成物。前記起泡性水中油型乳化組成物中に油脂を20~40重量%含有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸が炭素数16及び18の飽和脂肪酸からなる群より選ばれる一種または二種以上であり、HLBが4~6であることを特徴とするポリグリセリン脂肪酸エステルからなる乳化剤を0.2~0.4重量%含有する起泡性水中油型乳化組成物。
【請求項2】
起泡性水中油型乳化組成物中に油脂を20~40重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の起泡性水中油型乳化組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の起泡性水中油型乳化組成物を気泡させたホイップクリーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起泡性水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップクリームは製菓等のフィリングやトッピングに用いられる起泡性水中油型乳化食品であり、ホイップクリーム原液を流通する際の振動や温度変化に対して増粘や固化等の物性変化を生じない乳化安定性が求められる。そのため、乳化剤や油脂の物性、脂肪酸組成に着目した各種試みが行われていた。ホイップクリームに乳化剤としてエステル化率が45%以上55%以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、ホイップクリームにせん断を負荷した際の粘度上昇が抑制されることが示されている(特許文献1)。その一方で、ホイップ操作時には速やかに気泡を取り込むホイップ性や、ホイップ後の性能として、保存時の保形性や離水耐性が求められる。
【0003】
近年では健康志向の高まりから、油分を40%以下に低減し、低カロリーかつあっさりとした風味、食感という特長を付与した低油分ホイップクリームの需要が高まっている。一般的にホイップクリームは、油分が減少するほどオーバーランが上昇しやすくなり、ホイップ後にダレやもどり、離水が発生するなど、保形性や離水耐性といったホイップ後の安定性が著しく低下する傾向にあるため、低油分ホイップクリームでは満足な物性が得られにくい。
【0004】
このような問題を解決するものとして、SUS型トリグリセリドを特定の量含有し、5℃、15℃、25℃におけるSFCが特定の範囲内である原料油脂を使用し、HLB 8.5以下の乳化剤及び、ポリグリセリン脂肪酸エステルを特定量含有する低油分ホイップクリームが開示されている(特許文献2)。さらに、パーム核ステアリン硬化油、パーム油とラウリン系油脂とのエステル交換油を含有し、乳化剤として、ヘキサグリセリンヘキサステアレートを含有するホイップクリームが開示されている(特許文献3)。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、乳化安定性の優れたホイップクリームを得ることができるが、低油分化による保形性や離水耐性の低下を改善することはできない。また、特許文献2及び3に記載の方法では、使用できる原料油脂が細かく制限されるなどの問題を包含している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-025454号公報
【特許文献2】特開平07-184577号公報
【特許文献3】特開2013-116050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低油分にもかかわらず、ホイップ後の保形性や離水耐性の低下を改善し、乳化安定性に優れた起泡性水中油型乳化組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、起泡性水中油型乳化組成物に構成脂肪酸が炭素数16及び18の飽和脂肪酸からなる群より選ばれる一種または二種以上であり、HLBが4~6であるポリグリセリン脂肪酸エステルを0.2~0.4重量%添加することで、上記課題が解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低油分であってもホイップ後の保形性や離水耐性が良好であり、乳化安定性にも優れた起泡性水中油型乳化組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0010】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する炭素数が16及び18の飽和脂肪酸はこの炭素数及び飽和の条件に当てはまるものであれば、特に限定されるものではないが、主として直鎖脂肪酸が選択される。炭素数が16及び18の飽和脂肪酸には、パルミチン酸、ステアリン酸が例示される。
【0011】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンは、その平均重合度が限定されるものではないが、2から20が好ましく、4から10がより好ましい。ここで、平均重合度は、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)である。詳しくは、次式(式1)及び(式2)から平均重合度が算出される。
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
上記(式2)中の水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法、2003年度版」に準じて算出される。
【0012】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、公知のエステル化反応により製造することができる。例えば、脂肪酸とポリグリセリンとを水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒の存在下におけるエステル化反応により製造することができる。
【0013】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは4~6である。すなわち、HLBが6よりも高いポリグリセリン脂肪酸エステルでは、乳化界面の水相側におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの吸着力が高く、ホイップクリームの乳化安定性に寄与する乳タンパクを乳化界面から脱離させやすくするため、振動等に対する乳化安定性が低下する。また、HLBが4未満のポリグリセリン脂肪酸エステルでは油相への溶解性が高まるため乳化界面に作用しにくく、油脂結晶への結晶調整効果を示すため、ホイップ性が低下する。これに対して、HLBが4~6のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる本発明では、ポリグリセリン脂肪酸エステルが乳化界面で適度に作用するため、上述した不具合が生じにくくなる。
【0014】
ここでポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは、下記Griffin式(Atlas社法)で計算した値である。
(式3)
HLB=20×(1-S/A)
上記式中、Sはエステルのケン化価、Aは脂肪酸の酸価である。
【0015】
本発明の乳化剤は起泡性水中油型乳化組成物全量に対して0.2から0.4重量%使用するのが好ましい。使用量が0.2重量%未満であるとホイップ後の保形性や離水耐性が悪くなる。
【0016】
本発明の起泡性水中油型乳化組成物には、本発明の乳化剤の他に、不飽和脂肪酸あるいは飽和脂肪酸からなる他のポリグリセリン脂肪酸エステルを一種以上使用することができる。ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルが好ましく、炭素数18の不飽和脂肪酸が特に好ましい。他のポリグリセリン脂肪酸エステルは、起泡性水中油型乳化組成物全量に対して0.01から0.05重量%使用するのが好ましい。0.01から0.05重量%で使用すると、起泡性水中油型乳化組成物の乳化安定性が良好で、かつ、ホイップ後の保形性、離水耐性も良好である。
【0017】
さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤も使用することができる。ポリグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤としては、水中油型乳化物や起泡性水中油型乳化物を調製する際に通常使用する乳化剤を適宜選択使用することができる。例えば、レシチン、モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤が挙げられ、何れの乳化剤も一種または二種以上を選択使用することができる。
【0018】
本発明で使用できる油脂としては、大豆油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、パーム油、パーム核油、ナタネ油、カボック油、乳脂、ラード、魚油、鯨油などの各種の動植物油脂、及びこれらの硬化油、分別油、エステル交換油脂などが挙げられる。これらの中で好ましいものは、例えば、綿実硬化油、カボック硬化油、ナタネ硬化油、大豆硬化油、パーム核硬化油、とうもろこし硬化油、ひまわり硬化油等の液状植物油の硬化油又はパーム油あるいはその分別油の硬化油又はヤシ油、パーム核油等のラウリン系油脂又はエステル交換油が挙げられ、何れの油脂も単独または2種以上を選択使用することができる。
【0019】
本発明の油脂は起泡性水中油型乳化組成物全量に対して20から40重量%使用するのが好ましく、30重量%以下の低油分の起泡性水中油型乳化組成物でも効果を発揮する。
【0020】
本発明は、さらに、無脂乳固形分、糖類、安定剤及び水なども使用することができる。
【0021】
上記無脂乳固形分としては、牛乳の全固形分から乳脂肪分を差引いた成分をいい、これを含む原料としては、生乳、牛乳、脱脂乳、生クリーム、濃縮乳、無糖練乳、加糖練乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルクパウダー、ホエー蛋白、カゼイン、カゼインナトリウム等の乳由来の原料が挙げられ、何れの無脂乳固形分も一種または二種以上を選択使用することができる。
【0022】
上記糖類としては、ブドウ糖、果糖等の単糖類、ショ糖、乳糖、麦芽糖(マルトース)等の二糖類、ソルビトール等の糖アルコール、オリゴ糖、澱粉加水分解物、異性化糖(ブドウ糖・果糖液糖、ハイフラクトースコーンシロップ)等が挙げられ、何れの糖類も一種または二種以上を併用することができる。
【0023】
安定剤としては、ガム類、例えばキサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、アラビアガム、ファーセラン、CMC、微結晶セルロース類のガム類、ペクチン、寒天、カラギーナン、ゼラチン、水溶性ヘミセルロース等が挙げられ、何れの安定剤も一種または二種以上を選択使用することができる。起泡性水中油型乳化組成物全量に対して0.01から0.5重量%使用するのが好ましい。その他所望により各種塩類、香料、着色料、保存料等を使用することができる。
【0024】
本発明の起泡性水中油型乳化組成物の製造法としては、油脂、無脂乳固形分、糖類、乳化剤及び水を主要原料とするこれらの原料を混合後、予備乳化し均質化処理することにより得ることができる。
【0025】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこの範囲に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、変更などが加えられた形態も本発明に属する。
【0026】
[起泡性水中油型乳化組成物の調製]
表1に示す水相と油相を調製し、それぞれ70℃に保持した後、水相に油相を添加してラボリューション(PRIMIX製)で予備乳化し、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング製)を用いて圧力8MPaで均質化した後、90℃に到達するまで約5分間殺菌を行い、次いで5MPaで再均質化し、5℃に冷却し、2日間保存して水中油型乳化物を得た。上記のようにして得られた起泡性水中油型乳化組成物500gに40gのグラニュー糖を加え、ボウル内で7℃に調温後、縦型ミキサーを使用し、ホイップを行い、ホイップクリームを得た。
【0027】
【表1】
MS-5S:ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル(HLB:11.6)
TS-5S:ヘキサグリセリントリステアリン酸エステル(HLB:7.4)
TS-3S:テトラグリセリントリステアリン酸エステル(HLB:4.6)
PS-5S:ヘキサグリセリンペンタステアリン酸エステル(HLB:4.5)
DAS-7S:デカグリセリンデカステアリン酸エステル(HLB:3.8)
PS-3S:テトラグリセリンペンタステアリン酸エステル(HLB:2.6)
MO-3S:テトラグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB:8.8)
MO-7S:デカグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB:12.9)
【0028】
上記起泡性水中油型乳化組成物と、これらを起泡して得たホイップクリームについて、乳化安定性、ホイップ性、保形性、離水耐性を下記評価方法にて評価した。また、起泡性水中油型乳化組成物が起泡しなかった場合、その後のホイップクリームの評価は行わなかった。
【0029】
[乳化安定性]
起泡性水中油型乳化組成物を10℃、150rpmで振とうした後のクリームの状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
評価基準
◎:振とう48時間以上でボテが発生しなかった。
○:振とう48時間でわずかに増粘した。
△:振とう24時間から48時間以内にボテが発生した。
×:振とう24時間未満にボテが発生した。
【0030】
[ホイップ時間]
ホイップクリームを縦型ミキサーで撹拌し、ホイップ操作の開始から終点までの時間を測定した。ホイップ時間が120~300秒間である場合に満足する性能を有すると評価した。
【0031】
[保形性]
ホイップ直後のホイップクリームを5℃で1日間保存した後、ペネトロメーターを用いて硬さを測定し、その変化により以下の基準で判定した。
評価基準
◎:ΔPeが25未満。
○:ΔPeが25以上50未満。
△:ΔPeが50以上75未満。
×:ΔPeが75以上。
【0032】
[離水耐性]
ホイップ直後のホイップクリームを絞り袋に入れ、花型に絞り出したものを20℃で1日間保存した後、離水の有無を目視で観察し、以下の基準で判定した。
評価基準
◎:全く離水していない。
○:やや離水している。
△:かなり離水している。
×:激しく離水している。
【0033】
評価結果を表2に示す。
【0034】
【0035】
HLBが4~6で構成脂肪酸がパルミチン酸及びステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルを0.2~0.4重量%含有した起泡性水中油型乳化組成物である実施例1から8では、乳化安定性、ホイップ性、保形性、離水耐性に優れたホイップクリームが得られた。一方、比較例1及び2に示したHLBが6より高いポリグリセリン脂肪酸エステルを使用したものでは乳化安定性が低く、比較例3及び4に示したHLBが4未満のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用したものではホイップ性が低いものとなった。また、比較例5及び6に示したようにHLBが4~6のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した場合でも、その添加量が0.2~0.4重量%から外れる場合では満足な物性のホイップクリームが得られなかった。
【0036】
以上より、構成脂肪酸が炭素数16及び18の飽和脂肪酸からなる群より選ばれる一種または二種以上であり、HLBが4~6であることを特徴とするポリグリセリン脂肪酸エステルからなる起泡性水中油型乳化組成物用の乳化剤を0.2~0.4重量%含有することで低油分でありながらも乳化安定性、ホイップ性、保形性、離水耐性に優れた起泡性水中油型乳化組成物を得ることができた。