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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056346
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20220401BHJP
   A62B 18/02 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
A41D13/11 D
A41D13/11 H
A62B18/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116930
(22)【出願日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2020163849
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】宮原 和久
(72)【発明者】
【氏名】山下 昌浩
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA04
2E185CC32
(57)【要約】
【課題】マスクに立体感を与える溶着部が目立たず、しかも密着性と着用感に優れたマスクを提供する。
【解決手段】一層のポリウレタン弾性不織布からなり、中央部2と耳係合部3とを備え、上記中央部において、その中心線Pを折り目として、マスク全体を2つ折りすることにより、マスクの左右の面が互いに重なるようになっており、その折り目部分のうち、上部が外に向かって膨出する円弧状になっているとともに下部が直線状になっており、上記折り目の、少なくとも円弧状の折り目部分に沿って、幅寸法dが0.1~1.5mmの溶着部1が設けられ、上記溶着部1によって立体形状が付与されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一層のポリウレタン弾性不織布からなり、鼻と口を覆うために用いられるマスクであって、
着用時に鼻と口を覆う中央部と、上記中央部から左右の側方に延設され着用時に耳と係合する左右一対の耳係合部とを備え、
上記中央部において、その中央を上下に延びる仮想上の中心線Pを折り目として、マスク全体を2つ折りすることにより、マスクの左右の面が互いに重なるようになっており、 その重なった状態における折り目部分のうち、上部が外に向かって膨出する円弧状になっているとともに、下部が直線状になっており、
上記折り目の、少なくとも円弧状の折り目部分に沿って、幅寸法dが0.1~1.5mmの溶着部が設けられ、上記溶着部によって立体形状が付与されていることを特徴とするマスク。
【請求項2】
上記折り目部分における、円弧状になっている上部の長さ寸法Aと直線状になっている下部の長さ寸法Bの比率(A/B)が、4/6~6/4である請求項1記載のマスク。
【請求項3】
上記折り目部分における円弧状の曲率半径R3が、100~150mmである請求項1または2記載のマスク。
【請求項4】
上記左右一対の耳係合部のそれぞれに、耳係合用の開口が設けられており、
上記開口は、最もマスク中央側に位置する第1開口部分が、頂角部をマスク中央側に向けた略二等辺三角形状であり、上記第1開口部分から側方に延びる第2開口部分が、上下の開口縁部が互いに平行に延びる矩形状であり、上記第2開口部から側方に延びる第3開口部分が、略部分円形状になっている請求項1~3のいずれか一項に記載のマスク。
【請求項5】
上記耳係合部の開口において、第1開口部分の頂角部における角度θが30~80°である請求項4記載のマスク。
【請求項6】
上記ポリウレタン弾性不織布が、下記の特性(1)~(4)を備えたものである請求項1~5のいずれか一項に記載のマスク。
(1)目付:60~120g/m2
(2)縦方向(MD方向)、横方向(CD方向)の引張強さ:ともに1000cN/20mm以上
(3)縦方向、横方向の引張伸度:ともに300%以上
(4)縦方向、横方向の100%伸長回復率:ともに90%以上
【請求項7】
上記ポリウレタン弾性不織布が、さらに、下記の特性(5)、(6)を備えたものである請求項6記載のマスク。
(5)通気度:50cc/cm2/sec以上
(6)最大熱吸収速度(Q-max):0.08以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用感および密着性に優れ、しかも見栄えのよいマスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、感染症や花粉症等の防止のために、鼻と口を覆うマスクが広く用いられている。このようなマスクとしては、ニーズに応じて多種多様のものが提案されているが、例えば、不織布シートからなる使い捨てタイプのマスクとして、以下のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-95370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のマスクは、伸縮性に優れた特殊な不織布シートを用いることにより、密着性と良好な着用感の両立を目指したものである。このものは、図7に示すように、生地の顔面への密着性が高いため、口元への圧迫感をなくすために、マスク中央部の、鼻から口にかけての部分に、幅2~7mmの溶着部20を設け、この部分の剛性を利用して、生地を持ち上げるリブとして機能させるようにしている。
【0005】
しかしながら、顔の正面に、幅の広い溶着部20が上下に伸びているため、見栄えがあまりよくないという問題がある。そして、バッグやポケットに入れて携帯する場合、上記溶着部20を折り曲げると、折りぐせが付いてリブとしての機能が低下するため、この部分は延ばした状態で畳む必要があり、溶着部20の長さ分より小さく折り畳んで収納することができないという問題もある。
【0006】
また、最近は、洗濯して繰り返し使用することのできるマスクとして、例えば図8に示すように、全体が柔軟なスポンジ素材で形成され、マスク中央部に、上下に伸びる溶着部21が設けられたものが多用されている(図8は、全体を平たく折り畳んだ状態を示す)。
【0007】
しかしながら、このものも、上記図7に示すマスクと同様、溶着部21をある程度幅広(具体的には2mm以上)にしないと、生地が口元に貼りついて息苦しかったりしゃべりにくかったりする、という問題がある。このため、溶着部21が目立って見栄えがよくない、という課題が依然として残されている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、マスクに立体感を与える溶着部が目立たず、しかも密着性と着用感に優れたマスクの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、一層のポリウレタン弾性不織布からなり、鼻と口を覆うために用いられるマスクであって、着用時に鼻と口を覆う中央部と、上記中央部から左右の側方に延設され着用時に耳と係合する左右一対の耳係合部とを備え、上記中央部において、その中央を上下に延びる仮想上の中心線Pを折り目として、マスク全体を2つ折りすることにより、マスクの左右の面が互いに重なるようになっており、その重なった状態における折り目部分のうち、上部が外に向かって膨出する円弧状になっているとともに、下部が直線状になっており、上記折り目の、少なくとも円弧状の折り目部分に沿って、幅寸法dが0.1~1.5mmの溶着部が設けられ、上記溶着部によって立体形状が付与されているマスクを第1の要旨とする。
【0010】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記折り目部分における、円弧状になっている上部の長さ寸法Aと直線状になっている下部の長さ寸法Bの比率(A/B)が、4/6~6/4であるマスクを第2の要旨とし、それらのなかでも、特に、上記折り目部分における円弧状の曲率半径R3が、100~150mmであるマスクを第3の要旨とする。
【0011】
そして、本発明は、それらのなかでも、特に、上記左右一対の耳係合部のそれぞれに、耳係合用の開口が設けられており、上記開口は、最もマスク中央側に位置する第1開口部分が、頂角部をマスク中央側に向けた略二等辺三角形状であり、上記第1開口部分から側方に延びる第2開口部分が、上下の開口縁部が互いに平行に延びる矩形状であり、上記第2開口部から側方に延びる第3開口部分が、略部分円形状になっているマスクを第4の要旨とし、そのなかでも、特に、上記耳係合部の開口において、第1開口部分の頂角部における角度θが30~80°であるマスクを第5の要旨とする。
【0012】
また、本発明は、それらのなかでも、特に、上記ポリウレタン弾性不織布が、下記の特性(1)~(4)を備えたものであるマスクを第6の要旨とする。
(1)目付:60~120g/m2
(2)縦方向(MD方向)、横方向(CD方向)の引張強さ:ともに1000cN/20mm以上
(3)縦方向、横方向の引張伸度:ともに300%以上
(4)縦方向、横方向の100%伸長回復率:ともに90%以上
【0013】
さらに、本発明は、上記第6の要旨であるマスクのなかでも、特に、上記ポリウレタン弾性不織布が、さらに、下記の特性(5)、(6)を備えたものであるマスクを第7の要旨とする。
(5)通気度:50cc/cm2/sec以上
(6)最大熱吸収速度(Q-max):0.08以上
【発明の効果】
【0014】
すなわち、本発明のマスクは、全体が、一層のポリウレタン弾性不織布で形成されているため、伸縮性に優れており、顔面に対する着用感および密着性に優れている。
そして、鼻と口を覆う中央部の、仮想上の中心線Pを折り目として全体を2つ折りした状態において、その折り目部分の上部が外に向かって膨出する円弧状、下部が直線状、という特殊な形状になっており、その少なくとも円弧状の折り目部分に溶着部が設けられているため、マスク着用時に左右の生地が耳の方に引っ張られても、鼻から口にかけての折り目周辺部に生地の余裕があり、空間的な余裕が維持されるようになっている。
【0015】
そのため、上記折り目部分に形成される溶着部が、従来のマスクのように、リブとしての補強作用を果たさなくても、口元を生地が圧迫するようなことがない。したがって、溶着部の幅寸法dを、0.1~1.5mmという、溶着機能を果たす最小限の幅に設定することができるのであり、マスク中央に延びる溶着部が目立たず、見栄えのよい外観となる。しかも、上記溶着部の幅が狭く、この部分にリブとしての補強作用が要求されていないことから、溶着部も含めて全体を小さく折り畳むことができ、携帯や収納に便利である。
【0016】
そして、本発明のなかでも、特に、上記折り目部分における、円弧状になっている上部の長さ寸法Aと直線状になっている下部の長さ寸法Bの比率(A/B)が4/6~6/4であるものは、鼻と口の間にでっぱりができて適度な空間が生じやすく、口元への圧迫感がとりわけ低減されたものとなり、好適である。
【0017】
また、本発明のなかでも、特に、上記折り目部分における円弧状の曲率半径R3が、100~150mmであるものは、口元への圧迫感がとりわけ低減されたものとなり、また頬に対する着用感もより良好なものとなることから、好適である。
【0018】
さらに、本発明のなかでも、特に、上記左右一対の耳係合部のそれぞれに、耳係合用の開口が設けられており、上記開口が、その第1開口部分と、第2開口部分と、第3開口部分において、それぞれ特定の形状が付与されているものは、とりわけ、口の回りが窮屈になることなく密着性が維持される。また、頬と重なる部分において開口が大きいため、マスク生地による圧迫感がなく、外気温が高くても涼感が得られる点においても好適である。さらに、耳係合部を耳にかけても耳の後ろが痛くなりにくいという利点も有する。
【0019】
そして、そのなかでも、特に、上記耳係合部の開口において、第1開口部分の頂角部における角度θが30~80°になっているものは、とりわけ、耳係合部にかかる引っ張り力が、鼻と口を覆う中央部に連なる部分を斜め方向に無理に引っ張ることがなく、より優れた着用感となり好適である。しかも、マスク形状が顔面に添いやすいため、だぶつき感がなく、生地に弛みが生じにくいため、より衛生的で、美観にも優れたものとなる。
【0020】
そして、本発明のなかでも、特に、上記ポリウレタン弾性不織布の、(1)目付、(2)縦方向(MD方向)、横方向(CD方向)の引張強さ、(3)縦方向、横方向の引張伸度、(4)縦方向、横方向の100%伸長回復率、の各特性が所定の範囲内に設定されているものは、より優れた着用感と顔面への密着性を備えたものとなり、好適である。
【0021】
そして、そのなかでも、特に、上記ポリウレタン弾性不織布の、(5)通気度、(6)最大熱吸収速度(Q-max)、の各特性が所定の範囲内に設定されているものは、より呼吸がしやすく、蒸れにくいものとなり、涼感がさらに向上したものとなって好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施の形態のマスクを示す斜視図である。
図2】(a)は上記マスクを平たく延ばした状態を示す図、(b)は上記マスクを中央で2つ折りした状態を示す図である。
図3】上記マスクに用いられるポリウレタン弾性不織布を、マスク用に裁断した状態を示す平面図である。
図4】(a)、(b)は、ともに上記マスクにおける溶着部の変形例を示す説明図である。
図5】(a)は上記マスクの左右の開口形状を示す模式的な説明図、(b)、(c)は、ともに上記マスクにおける開口形状の変形例を示す模式的な説明図である。
図6】上記マスクにおける開口形状のさらに他の変形例を示す説明図である。
図7】従来品の一例を着用した状態を示す説明図である。
図8】従来品の他の例を2つ折りした状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、本発明を実施するための形態について、図面にもとづいて詳細に説明する。
【0024】
本発明のマスクの一実施形態を、図1に示す。このマスクは、鼻と口を覆うために用いられるもので、一層のポリウレタン弾性不織布からなる一枚生地を、左右対称の所定形状に裁断し、その対称軸となる仮想上の中心線Pに沿って溶着部1を設けることにより、立体的な形状を付与したものである。
【0025】
より詳しく説明すると、上記マスクには、着用時に鼻と口を覆う中央部2と、上記中央部2から左右の側方に延設され着用時に耳と係合する左右一対の耳係合部3とが設けられている。そして、上記左右一対の耳係合部3のそれぞれに、マスクを耳と係合させるための開口4が設けられている。
【0026】
上記開口4は、最もマスク中央側に位置する第1開口部分5が、頂角部をマスク中央側に向けた略二等辺三角形状であり、上記第1開口部分5から側方に延びる第2開口部分6が、上下の開口縁部が互いに平行に延びる矩形状であり、上記第2開口部分6から側方に延びる第3開口部分7が、半円形状になっている。
【0027】
また、上記溶着部1は、マスクの中央部2の中心を上下に延びる中心線Pの、上下方向の略中心となる位置(図1においてOで示す)から上の、折り目となる部分の上部15に沿って延びており、溶着部1より下の下部16は、単なる折り目(いわゆる「わ」)になっている。
【0028】
そして、上記マスクを、左右に平たく延ばして置くと、その平面形状は、図2(a)に示すようになる。このとき、仮想上の中心線Pが通る部分は、溶着部1によって、鼻の部分を覆うように手前に膨出した形状になっているため、この膨出部分を、向かって左側に折り重ねた状態で示している(膨出部分を斜線Sで示す)。また、全体を、中心線Pで2つ折りし、向かって右側の面を上にして置くと、図2(b)に示すようになる。
【0029】
これらの図からわかるように、上記中央部2から左右の耳係合部3に向かって延びる左右の上縁部8は、中央で最も高く、左右の開口4の、第1開口部分5と第2開口部分6との境界部近傍に向かって下り傾斜になっている。また、同じく左右の下縁部9は、中央で最も低く、左右の開口4の、第1開口部分5と第2開口部分6との境界部近傍に向かって上り傾斜になっている
【0030】
そして、上記折り目部分の上部15に沿って延びる溶着部1は、緩やかな円弧状に湾曲しており、上記溶着部1より下の、下部16に沿って延びる部分は、当然ながら直線になっている。
【0031】
上記マスクは、例えばつぎのようにして得ることができる。まず、伸縮性、通気性を有し、所定のフィルター機能(例えは花粉防止、飛沫防止等の機能)を備えたポリウレタン弾性不織布を準備し、図3に示すような形状に裁断する。この形状は、中心線Pで左右対称形になっており、溶着後に、中央部分が手前に膨出する立体形状となるように、中央の上部に、大きな切欠き部10が設けられている。この切欠き部10の、左右の湾曲した縁部を溶着することにより、図1図2に示す形状のマスクを得ることができる。
【0032】
このようにして得られるマスクは、全体が、一層のポリウレタン弾性不織布で形成されているため、伸縮性に優れており、顔面に対する着用感および密着性に優れている。
【0033】
しかも、鼻と口を覆う中央部2の、仮想上の中心線Pを折り目として全体を2つ折りした状態において、その折り目部分の上部15が外に向かって膨出する円弧状、下部16が直線状、という特殊な形状になっており、その少なくとも円弧状の部分に溶着部1が設けられているため、マスク着用時に左右の生地が耳の方に引っ張られても、鼻から口にかけての折り目周辺部に生地の余裕があり、空間的な余裕が維持されるようになっている。したがって、呼吸がしやすく、口も動かしやすいものとなっている。
【0034】
そして、上記折り目部分に形成される溶着部1が、従来のマスクのように、リブとしての補強作用を果たさなくても、口元を生地が圧迫するようなことがないことから、溶着部1の幅寸法dを、溶着機能を果たす最小限の幅に設定することができる。したがって、マスク中央に延びる溶着部1が目立たず、見栄えのよい外観となる。しかも、上記溶着部1の幅が狭く、この部分にリブとしての補強作用が要求されていないことから、溶着部1も含めて全体を小さく折り畳むことができ、携帯や収納に便利である。
【0035】
上記マスクに用いられるポリウレタン弾性不織布は、ポリウレタン弾性繊維を用いた不織布である。ポリウレタン弾性繊維は、ポリプロピレン等の他の繊維に比べて柔軟であり、また、熱伝導率が高いため、マスク内で熱がこもりにくい、という利点を有する。
【0036】
なお、上記ポリウレタン弾性不織布は、全体がポリウレタン弾性繊維のみからなるものである必要はなく、その一部が他の繊維に置き換えられたものであっても差し支えない。ただし、マスクとしての伸縮性、柔軟性等を確保する必要から、他の繊維を用いる場合は、その割合を、繊維全体に対し10質量%以下に設定することが望ましい。
【0037】
そして、上記ポリウレタン弾性不織布に用いられるポリウレタン弾性繊維の太さは、特に限定するものではないが、花粉や飛沫に対する除去性能を考慮すると、緻密な通気孔を形成できるように、繊維径もできるだけ小さいことが望ましく、全体の強度や伸縮性、通気性等を考慮すると、その平均繊維径は25μm以下、なかでも5~15μmであることが好ましく、8~12μmであることがさらに好ましい。
【0038】
さらに、上記ポリウレタン弾性不織布は、特に、下記の特性(1)~(4)を備えたものであることが、良好な着用感と充分な密着性を得る上で好適である。
(1)目付:60~120g/m2、とりわけ80~120g/m2、さらには90~110g/m2
(2)縦方向(MD方向)、横方向(CD方向)の引張強さ:ともに1000cN/20mm以上
とりわけ縦方向の引張強さが1200cN/20mm以上、さらには1600cN/20mm以上
とりわけ横方向(CD方向)の引張強さが1600cN/20mm以上、さらには1800cN/20mm以上
(3)縦方向、横方向の引張伸度:ともに300%以上、とりわけ350~520%
(4)縦方向、横方向の100%伸長回復率:ともに90%以上、とりわけ94~100%
【0039】
なお、上記「引張強さ」、「引張伸度」は、JIS L1913:2010 6.3.1に準じて測定される値であり、上記「100%伸長回復率」は、JIS L1096:2010 8.16.2に準じて測定される値である。
【0040】
また、上記ポリウレタン弾性不織布は、さらに、下記の特性(5)、(6)を備えたものであることが、より優れた着用感を得る上で好適である。なお、通気度の上限については、要求されるフィルター性能等によって適宜に設定される。また、最大熱吸収速度(Q-max)とは、触ったときに冷たく感じる程度の指標であり、値が大きければ大きいほど冷感が強く得られ、好適である。
(5)通気度:50cc/cm2/sec以上
(6)最大熱吸収速度(Q-max):0.08以上、とりわけ0.10以上
【0041】
なお、上記「通気度」は、JIS L1913:2010 6.8.1 フラジール法に準じて測定される値であり、上記「最大熱吸収速度(Q-max)」は、JIS L1927:2020に準じて測定される値である。
【0042】
このような特性を備えたポリウレタン弾性不織布としては、特に、メルトブロー法によって得られるものが最適である。この方法をより詳しく説明すると、例えば特公昭41-7883号公報に記載された紡糸装置を用い、その紡糸口金から、熱可塑性ポリウレタン弾性体を溶融吐出し、そのノズル両側から加速気体流を噴射させてフィラメントを細化させる。そして、細化されたフィラメントを、例えば移動するコンベアネット等の補集装置上で、気体流と分離して積層し、互いの接触点同士で接合しながら冷却固化することにより得る方法である。もちろん、上記補集装置上での冷却固化後に、ローラー等を用いて加熱加圧して接合させたものであってもよい。このようにして得られるポリウレタン弾性不織布は、ポリウレタン弾性繊維の細い連続フィラメントがランダムに積層した構造をしているため、優れた通気性と緻密なフィルター機能、高い伸縮性、柔軟性を備えている。
【0043】
また、上記ポリウレタン弾性不織布として、抗菌性あるいは殺菌性を付与したものを用いることができる。抗菌性を付与したものは、雑菌の繁殖が抑制され、衛生的である。そして、殺菌性を付与したものは、外部からの菌の侵入を阻止することができるため、特殊な用途に用いることができる。
【0044】
さらに、上記ポリウレタン弾性不織布として、導電性を付与したものを用いることができる。導電性を付与すると、マスクに静電気が溜まらなくなるため、埃や塵を寄せ付けず、より衛生的なものとなる。
【0045】
そして、本発明のマスクは、その材質と形状から、形崩れしにくいものである。したがって、使い捨てにせず、洗濯して繰り返し使用することに適している。そのため、例えば、10回の家庭洗濯(JIS L1930:2014 C4M法に準じる)後のポリウレタン弾性不織布の形状が、洗濯前の形状に比べてできるだけ変化しないものであることが望ましい。
【0046】
また、上記の例では、マスクの中央部2の中央を上下に延びる仮想上の中心線Pを折り目として2つ折りした状態において、その折り目部分の上部Aが外に向かって膨出する円弧状で、同じくその下部Bが直線状になっており、上記円弧状の上部Aに溶着部1が設けられている[図2(b)を参照]。
【0047】
上記円弧状の上部15と直線状の下部16の配置によって、口元の空間の生地の自由度が左右されるのであり、円弧状の上部15は鼻から口を上下に通過することが好ましい。そして、直線状の下部16は口の下から顎に到達することが好ましい。そのためには、上部15の長さ寸法Aと下部16の長さ寸法Bの比率(A/B)が、4/6~6/4であることが好ましく、なかでも、4.3/5.7~5.7/4.3とすることがより好ましい。すなわち、上記上部15と下部16の切り替え点となる位置Oが、折り目部分の上下方向の中央付近に位置することが望ましい。
【0048】
そして、上記溶着部1の幅寸法dは、すでに述べたとおり、リブとしての補強作用が求められるわけではないことから、従来のような太さ(例えば2mm以上)は必要ない。本発明では、マスクに対して繰り返し使用してもこの部分が外れることなく立体形状を維持できる程度の幅寸法として、上記dを0.1~1.5mmに設定する。なかでも、上記dを0.5~1.2mmに設定することがより好適である。このように、溶着部1の幅寸法をごく狭くすることにより、マスク中央において溶着部1が目立たず、見栄えのよい外観となる。また、溶着部1がごわつくことがないため、耳係合用の開口4の大きさと相俟って、優れた着用感、涼感を得ることができる。
【0049】
なお、上記円弧状の上部15における、その円弧状の曲率半径R3は、溶着部1の長手方向の寸法にもよるが、通常、100~150mm、なかでも120~135mmに設定することが好ましい。すなわち、この部分を適度な曲率半径の円弧状とすることによって、鼻から口にかけて、生地に余裕をもたせて、口元に圧迫感のない着用感と密着性の向上を図っている。
【0050】
また、上記直線状の下部16は、切り替え点となる位置Oにおける上部15の接線Xに対する角度θ”が15~40°、なかでも20~30°に設定することが、口元の圧迫感がより軽減されて好適である。
【0051】
そして、上記の例では、折り目となる部分において、上部15のみに溶着部1を設けたが、上記溶着部1は、少なくとも、上記円弧状の上部15に設けられていればよい。もちろん、例えば図4(a)に示すように、直線状の下部16にも溶着部1を設けて、折り目部分の上端から下端まで一続きの溶着部1としてもよい。あるいは、図4(b)に示すように、円弧状の上部15に溶着部1aを設け、直線状の下部16のうち、その下端から上に向かって所定領域だけ溶着部1bを設けて、その間の部分は折り目(わ)のままで未溶着としてもよい。
【0052】
なお、図4(a)に示すように、上下一続きの溶着部1を形成する場合は、必ずしも1枚の不織布を2つ折りしてその折り目を溶着する必要はなく、2枚の、左右一対の不織布を重ねて片縁部を溶着してもよい。
【0053】
また、本発明において、耳係合部3の開口形状は、上記の例のように限るものではないが、上記の例のような、特定の第1開口部分5、第2開口部分6、第3開口部分7を備えたものは、とりわけ、生地を上下に分けて左右方向に引っ張る構造になっているため、マスクの中央部2における生地の自由度が高く、本発明の折り目部分の構成と組み合わせることが最適である。
【0054】
上記の例の開口形状を適用する場合、第1開口部分5の頂角部における角度θ[図2(b)を参照]は、なかでも、30~80°であることが好ましく、40~70°であることがより好ましく、50~65°であることが特に好ましい。すなわち、上記角度θが大きすぎると、頬にかかる部分の開口が浅くなり、マスクの耳係合部3から中央部2に向かって生じる引っ張り力を上下に分けて中央部2への影響を抑制する効果が小さくなり、好ましくない。また、上記角度θが小さすぎると、耳係合部3の上下の幅を小さくするか、耳係合部3における生地の幅(耳係合部3の輪郭縁と開口縁との間の幅)を大きくせざるを得ず、耳への着用感が悪くなるおそれがあり、好ましくない。
【0055】
さらに、同じく上記耳係合部3の開口4において、第1開口部分5の頂角部にアールを設けない場合、繰り返し使用し洗濯を繰り返すと、この部分の生地が伸びて緩んだり破れたりするおそれがあるため、アールを設けることが望ましい。そして、そのアールの曲率半径R1図3を参照)は、1~10mmであることが好ましく、なかでも、2~5mmであることがより好ましい。アールが大きすぎると、この第1開口部分5の略二等辺三角形状によって、生地に対する上下に引っ張り力を分ける作用が弱くなり、好ましくない。
【0056】
なお、上記の例において、上記第1開口部分5の頂角部は、互いに、マスクの中心線Pを向いた配置になっているが、本発明において、「頂角部をマスク中央側に向けた」状態とは、必ずしも、図5(a)に示すように、上記頂角部が、マスクの中心線Pに対して垂直に向く配置になっている必要はなく、例えば、図5(b)に示すように、頂角部が、中心線Pに対し、やや下向きになっている配置や、図5(c)に示すように、頂角部が、中心線Pに対し、やや上向きになっている配置をも含む趣旨である。
【0057】
ただし、図5(b)、図(c)に示す頂角部の形状は、説明のために大きく角度を傾けているが、実際は、図5(a)における頂角の二等分線Dが延びる方向を0°とすると、図5(b)、(c)では、それぞれの二等分線D1、D2は、±10°以内の傾斜になっていることが、マスクに弛みを生じさせにくくする上で、好ましい。
【0058】
そして、図5(b)に示す状態や、図5(c)に示す状態では、第1開口部分5は「二等辺三角形状」ではなく、頂角を挟む片方の辺が他方の辺よりもやや長くなるが、本発明においては、これらの形状も「略二等辺三角形状」に含む趣旨である。
【0059】
また、同じく上記耳係合部3の開口4において、第2開口部分6の左右に延びる長さ寸法L1図2(a)を参照]は、マスク全体の大きさにもよるが、通常、20~40mmに設定される。そして、このマスクを平面上に平たく延ばした状態[図2(a)に示す状態]における左右方向のマスク全長L0に対するL1の比率(L1/L0)が、0.05~0.14であることが好ましく、0.085~0.12であることがより好ましい。そして、0.09~0.11であることがさらに好ましい。すなわち、上記比率(L1/L0)が小さすぎると、第2開口部分6の開口が狭くなって圧迫感が生じるおそれがあり、逆に大きすぎると、左右方向において、耳係合部3が長くなりすぎるか中央部2が短くなりすぎて、全体のバランスが悪くなるおそれがあるからである。
【0060】
また、同じく上記耳係合部3の開口4において、第3開口部分7は、上記の例では、半円形状(中心角が180°の部分円)としたが、必ずしも半円形状である必要はなく、例えば、図6に示すように、中心角θ’が180°より小さい部分円であってもよい。ただし、第3開口部分7の開口を大きくして着用感、特に涼感に優れ、かつ耳との係合の違和感も生じないものとするには、上記中心角θ’を例えば120~180°に設定することが好適である。そして、上記中心角θ’との兼ね合いもあるが、耳との係合時の着用感を考慮すると、その部分円形状における円弧部の曲率半径R2図3に戻る)は、通常、20~30mmであることが好ましく、なかでも、23~28mmであることがより好ましい。
【0061】
さらに、上記第3開口部分7は、上記のような、真円の部分円である必要はなく、上下方向にややつぶれた楕円形状や、左右方向にややつぶれた楕円形状、あるいは楕円ではないが真円とは異なる近似円の部分円であっても差し支えない。本発明では、これらを総称して、「略部分円」という。すなわち、本発明のマスクでは、この第3開口部分7の開口形状が、角部のない、略部分円形状であることが、耳との係合時の着用感、涼感を得る上で重要である。
【0062】
なお、上記のように、第3開口部分7が、真円の部分円ではない場合、「円弧部の曲率半径R2」とは、第3開口部分7の円弧部において、第1開口部分5の頂角と対向する位置における曲率半径を「R2」とする。
【0063】
そして、上記耳係合部3の、開口4によって幅が狭くなった耳にかける部分(図3において斜線Tで示す部分)の幅Wは、マスクの輪郭形状と開口4の形状によって左右されるが、耳にかけたときに違和感のない着用感を得るには、上記Wがどの部分も略同じ幅になっていることが好ましく、特に、第3開口部分7の曲線と略平行な輪郭になっていることが、耳にかけたときに局所的に応力が集中して破れやすくなったり耳が痛くなったりしにくいため、好ましい。そして、その幅Wは、通常、3~15mmであることが好ましく、なかでも5~15mm、さらには8~12mmに設定することが好適である。上記幅Wが大きすぎると、この部分がよじれて耳への着用感が低下するおそれがあり、逆に、上記幅Wが小さすぎると、耳や頬への当たりが強くなって着用感が低下したり、この部分が切れやすくなったりするため、好ましくない。
【実施例0064】
つぎに、本発明を実施例と比較例にもとづいて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
まず、マスク生地として、物性の異なる4種類のポリウレタン弾性不織布A~Dを準備した。各不織布の物性は以下の表1に示すとおりである。
なお、不織布A~Cのポリウレタン弾性不織布は、ジフェニルメタンジイソシアネートと、ポリオールと、1,4-ブタンジオールからなるポリウレタン弾性体をメルトブロー法で不織布としたものである。また、不織布Dは、特開2005-95370号公報に記載されたポリウレタン弾性不織布である。
【0066】
【表1】
【0067】
なお、上記表1において、「花粉防止性能(除去率)」は、一般社団法人日本衛生材料工業連合会 全国マスク工業会において、「花粉粒子捕集(ろ過)効率試験方法」として規定されている方法に準拠して求めた値である。
【0068】
[実施例1~9、比較例1、2]
上記不織布A~Dを用いて、後記の表2~表5に示す特徴を備えた11種類のマスク(実施例1~9品、比較例1、2品)を作製した。なお、マスクの長手方向が、不織布の横方向(CD方向)となる配置とし、高周波ウェルダーを用いて、まずマスクとなる生地形状(図3を参照)を溶断し、つぎに、生地を2つ折りして重ねた状態で、溶着予定部(図3における切欠き部10)の溶断・溶着を行った。
実施例4品は、図4(a)に示すように、上部と下部を一続きの溶着部としたもの、実施例5品は、図4(b)に示すように、上部を第1の溶着部とし、下部のうち下から20mmの長さ部分までを第2の溶着部としたものである。また、比較例1品は、特開2005-95370号公報の図1に記載された形状の使い捨てマスクであり、生地の物性は、上記公報の実施例1に記載された数値にもとづくものである。そして、比較例2品は、比較例1と同様のマスクにおいて、溶着部の幅寸法dを0.6mmにしたものである。
【0069】
これらの実施例品、比較例品に対して、下記の各項目に関し、下記の手順に従って評価を行い、その結果を、後記の表2~表5に併せて示す。
【0070】
[着用感等]
モニター11名に、各マスクを、朝10時から夕方6時までの一日、飲食時を除いて、それぞれ着用させ、顔面へのフィット感、耳にかける部分の着用感、口開閉時の口元の自由度、顔面の涼感、マスク着用時の見栄え、の5項目について、◎…非常に良好、○…良好、△…ふつう、×…不良、の4段階で評価させ、最も多い評価をその評価とした。同人数の評価が並んだ場合には、その並んだ評価について、全員で再評価を行った。
【0071】
[耐洗濯性(形崩れの有無)]
JIS L1930:2014 C4M法に準じて、10回の家庭洗濯後、形崩れの有無について目視により観察し、◎…全く形崩れなし、○…概ね形崩れなし、△…よくみると形崩れしている部分がある、×…一目で形崩れしていることがわかる、の4段階で評価させた。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
上記の結果から、実施例品は、いずれも、良好な着用感、涼感等を備えているとともに見栄えがよく、しかも10回家庭洗濯によって形崩れがなく、繰り返し良好に使用することができることがわかる。
一方、比較例1品は、耳にかける部分の開口が狭くて耳が痛く、また涼感も乏しい。そして、溶着部が目立って見栄えが悪い。しかも、使い捨てを前提としており、溶着部周辺での形崩れが大きい。また、比較例2品は、溶着部の幅が狭いため、見栄えはよいが、生地が口元に貼りついて、着用感等が実施例品に比べて劣っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、溶着部が目立たず見栄えがよく、しかも優れた密着性と着用感を兼ね備えた、繰り返し使用可能なマスクとして、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 溶着部
2 中央部
3 耳係合部
d 幅寸法
P 中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8