(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056394
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】直接メタノール形燃料電池用電解質膜の製造方法及び直接メタノール形燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1016 20160101AFI20220401BHJP
H01M 8/1011 20160101ALI20220401BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20220401BHJP
【FI】
H01M8/1016
H01M8/1011
H01M8/04 J
H01M8/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156819
(22)【出願日】2021-09-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2020163472
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真理子
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 真司
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 愛弓奈
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126AA03
5H126BB06
5H126GG12
5H126GG18
5H126HH03
5H127AA09
5H127AC05
5H127BA03
5H127BA67
5H127BB02
(57)【要約】
【課題】出力の低下を抑制可能な直接メタノール形燃料電池用電解質膜の製造方法及び直接メタノール形燃料電池システムを提供する。
【解決手段】電解質膜33の製造方法は、成膜工程と吸着工程とを備える。成膜工程では、イオン伝導性を有するセラミック材料と、絶縁性を有する有機高分子材料とを含む電解質膜を成膜する。吸着工程では、電解質膜に含まれる親水基にメタノール及びエタノールの少なくとも一方を吸着させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性を有するセラミック材料と、絶縁性を有する有機高分子材料とを含む電解質膜を成膜する成膜工程と、
前記電解質膜に含まれる親水基にメタノール及びエタノールの少なくとも一方を吸着させる吸着工程と、
を備える直接メタノール形燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記吸着工程では、メタノール及びエタノールの少なくとも一方と水とを含む液相に前記電解質膜を浸漬することによって、前記親水基にメタノール及びエタノールの少なくとも一方を吸着させる、
請求項1に記載の直接メタノール形燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記吸着工程では、メタノール及びエタノールの少なくとも一方と水とを含む気相に前記電解質膜を暴露することによって、前記親水基にメタノール及びエタノールの少なくとも一方を吸着させる、
請求項1に記載の直接メタノール形燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記吸着工程の後、前記電解質膜を乾燥させる工程をさらに備える、
請求項1乃至3のいずれかに記載の直接メタノール形燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項5】
アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードの間に配置される電解質とを有する直接メタノール形燃料電池と、
前記直接メタノール形燃料電池を収容し、前記カソードに酸化剤を供給する酸化剤供給部と、前記アノードにメタノールを含む燃料を供給する燃料供給部とを有するハウジングと、
を備え、
前記電解質は、イオン伝導性を有するセラミック材料と、絶縁性を有する有機高分子材料とを含み、
前記燃料供給部は、前記直接メタノール形燃料電池の作動前に、メタノール及びエタノールの少なくとも一方と水とを含む混合液を前記アノードに液相供給し、
前記燃料供給部は、前記直接メタノール形燃料電池の作動中、前記燃料を前記アノードに気相供給する、
直接メタノール形燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接メタノール形燃料電池用電解質膜の製造方法及び直接メタノール形燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池の一種として、メタノールを燃料とする直接メタノール形燃料電池(DMFC:Direct Methanol fuel cell)が知られている。
【0003】
従来、DMFC用の電解質として、パーフルオロスルホン酸系ポリマーであるナフィオン(デュポン社製、登録商標)からなる固体高分子電解質が広く用いられてきたが、燃料クロスオーバーが大きいだけでなく、乾湿サイクルにおける寸法変化が大きいという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1では、炭化水素系高分子電解質とポリテトラフルオロエチレンからなる支持体とを複合化させた電解質膜が提案されている。しかしながら、特許文献1では、高分子電解質が用いられているため耐久性が低いという問題がある。
【0005】
そこで、特許文献2では、イオン伝導性を有するセラミック材料と絶縁性材料によって構成される支持体とを複合化させた電解質膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-232158号公報
【特許文献2】国際公開第2019/124317号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の電解質膜では、DMFCが出力低下しやすいという問題がある。本発明者等が鋭意検討した結果、出力低下の一要因は、電解質膜に含まれる親水基(例えば、セラミック材料などの表面に存在する水酸基(-OH)やカルボキシ基(-COOH)など)に吸着した水(H2O)を介して、燃料として供給されるメタノールが電解質膜を透過してしまうことにあるという知見を得た。
【0008】
本発明は、上述した新規な知見に基づいてなされたものであり、出力の低下を抑制可能な直接メタノール形燃料電池用電解質膜の製造方法及び直接メタノール形燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る直接メタノール形燃料電池用電解質膜の製造方法は、イオン伝導性を有するセラミック材料と、絶縁性を有する有機高分子材料とを含む電解質膜を成膜する成膜工程と、電解質膜に含まれる親水基にメタノール及びエタノールの少なくとも一方を吸着させる吸着工程とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、出力の低下を抑制可能な直接メタノール形燃料電池用電解質膜の製造方法及び直接メタノール形燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るDMFCシステムの構成の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(直接メタノール形燃料電池システム1の構成)
図1は、直接メタノール形燃料電池システム(以下、「DMFCシステム」と略称する。)1の構成を示す模式図である。
【0013】
DMFCシステム1は、ハウジング2及び直接メタノール形燃料電池(以下、「DMFC」と略称する。)3を備える。
【0014】
(ハウジング2)
ハウジング2は、DMFC3を内部に収容する。
【0015】
ハウジング2は、酸化剤供給部21及び燃料供給部22を内部に有する。酸化剤供給部21及び燃料供給部22の間には、DMFC3が配置される。
【0016】
酸化剤供給部21は、後述するカソード31に酸素(O2)を含む酸化剤を供給する。酸化剤としては、空気を用いるのが好ましく、空気は加湿されていることがより好ましい。酸化剤供給部21は、供給管21a、供給空間21b及び排出管21cを有する。供給管21aから導入される酸化剤は、供給空間21bにおいてカソード31に供給される。カソード31において消費されなかった酸化剤は、排出管21cから外部に排出される。
【0017】
燃料供給部22は、DMFC3の作動中、メタノール(CH3OH)を含む燃料を後述するアノード32に気相供給する。燃料としてのメタノールは、その一部のみが気相状態であってもよいが、その全部が気相状態であることが好ましい。燃料供給部22は、供給管22a、供給空間22b及び排出管22cを有する。供給管22aから導入される燃料は、供給空間22bにおいてアノード32に供給される。アノード32において消費されなかった燃料とアノード32において発生する二酸化炭素及び水(H2O)は、排出管22cから外部に排出される。
【0018】
(DMFC3)
DMFC3は、直接メタノール形燃料電池の一例である。DMFC3は、水酸化物イオンをキャリアとするアルカリ形燃料電池(AFC:Alkaline Fuel Cel)の一種である。DMFC3は、カソード31、アノード32、及び電解質膜33(直接メタノール形燃料電池用電解質膜の一例)を備える。
【0019】
DMFC3は、下記の電気化学反応式に基づいて、比較的低温(例えば、50℃~250℃)で発電することが好ましい。
【0020】
・カソード31: 3/2O2+3H2O+6e-→6OH-
・アノード32: CH3OH+6OH-→6e-+CO2+5H2O
・ 全体 : CH3OH+3/2O2→CO2+2H2O
1.カソード31
カソード31は、一般に空気極と呼ばれる陽極である。DMFC3の発電中、カソード31には、酸素(O2)を含む酸化剤が酸化剤供給部21から供給される。カソード31は、内部に酸化剤を拡散可能な多孔質体である。カソード31の気孔率は特に制限されない。カソード31の厚みは特に制限されないが、例えば10~200μmとすることができる。
【0021】
カソード31は、アルカリ形燃料電池に使用される公知の空気極触媒を含むものであればよく、特に限定されない。カソード31の触媒の例としては、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の第8~10族元素(IUPAC形式での周期表において第8~10族に属する元素)、Cu、Ag、Au等の第11族元素(IUPAC形式での周期表において第11族に属する元素)、ロジウムフタロシアニン、テトラフェニルポルフィリン、Coサレン、Niサレン(サレン=N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、銀硝酸塩、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。カソード31における触媒の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.05~10mg/cm2、より好ましくは、0.05~5mg/cm2である。触媒はカーボンに担持させるのが好ましい。カソード31の好ましい例としては、白金担持カーボン(Pt/C)、白金コバルト担持カーボン(PtCo/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0022】
カソード31の作製方法は特に限定されないが、例えば、空気極触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質膜33の一方の面に塗布することにより形成することができる。
【0023】
2.アノード32
アノード32は、一般に燃料極と呼ばれる陰極である。DMFC3の発電中、アノード32には、メタノールを含む燃料が燃料供給部22から供給される。アノード32は、内部にメタノールを拡散可能な多孔質体である。アノード32の気孔率は特に制限されない。アノード32の厚みは特に制限されないが、例えば10~500μmとすることができる。
【0024】
アノード32は、アルカリ形燃料電池に使用される公知のアノード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。アノード32の触媒の例としては、Pt、Ni、Co、Fe、Ru、Sn、及びPd等の金属触媒が挙げられる。金属触媒は、カーボン等の担体に担持されるのが好ましいが、金属触媒の金属原子を中心金属とする有機金属錯体の形態としてもよく、この有機金属錯体を担体として担持されていてもよい。また、触媒の表面には多孔質材料等で構成された拡散層を配置してもよい。アノード32の好ましい例としては、ニッケル、コバルト、銀、白金担持カーボン(Pt/C)、白金ルテニウム担持カーボン(PtRu/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0025】
アノード32の作製方法は特に限定されないが、例えば、アノード触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質膜33の他方の面に塗布することにより形成することができる。
【0026】
3.電解質膜33
電解質膜33は、カソード31及びアノード32の間に配置される。電解質膜33は、膜状、層状、或いは、シート状に形成される。電解質膜33の厚みは特に制限されないが、例えば5~100μmとすることができる。
【0027】
電解質膜33は、水酸化物イオン伝導性を有するセラミック材料と、絶縁性を有する有機高分子材料とを含む。電解質膜33におけるセラミック材料の含有量は、30~70vol%とすることができ、イオン伝導性を考慮すると50~70vol%が好ましい。電解質膜33は、所望により添加剤(分散剤など)を含んでいてもよい。
【0028】
電解質膜33は、親水基を含んでいる。親水基とは、セラミック材料、有機高分子材料、或いは、添加剤などの表面に存在する水酸基(-OH)やカルボキシ基(-COOH)のような親水性の官能基である。
【0029】
本実施形態において、電解質膜33に含まれる親水基の少なくとも一部には、メタノール及びエタノールの少なくとも一方(以下、「メタノール等」と総称する。)が吸着している。
【0030】
このように、電解質膜33に含まれる親水基にメタノール等が予め吸着されていることによって、DMFC3の作動開始後、アノード32において生成される水(H2O)が親水基に吸着することを抑制できる。そのため、燃料に含まれるメタノールが、親水基に吸着した水を介して電解質膜33を透過してしまうことを抑制できる。その結果、DMFC3の出力低下を抑制できる。メタノール等を親水基に予め吸着させる方法については後述する。
【0031】
セラミック材料は、有機高分子材料中に分散されている。セラミック材料は、有機高分子材料によって支持される。
【0032】
セラミック材料としては、水酸化物イオン伝導性を有する周知のセラミック材料を用いることができる。このようなセラミック材料としては、例えば、以下に説明する層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)が挙げられる。
【0033】
LDHは、M2+
1-xM3+
x(OH)2An-x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4、mは水のモル数を意味する任意の整数である)の一般式で示される基本組成を有する。M2+の例としてはMg2+、Ca2+、Sr2+、Ni2+、Co2+、Fe2+、Mn2+、及びZn2+が挙げられ、M3+の例としては、Al3+、Fe3+、Ti3+、Y3+、Ce3+、Mo3+、及びCr3+が挙げられ、An-の例としてはCO3
2-及びOH-が挙げられる。M2+及びM3+としては、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0034】
LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。中間層は、陰イオン及びH2Oで構成される。水酸化物基本層は、例えば金属MがNi、Al、Tiの場合には、Ni、Al、Ti及びOH基を含む。以下、LDHの水酸化物基本層がNi、Al、Ti及びOH基を含む場合について説明する。
【0035】
LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi2+であると考えられるが、Ni3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi4+であると考えられるが、Ti3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましいが、他の元素ないしイオンを含んでいてもよいし、不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物は、製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。
【0036】
LDHの中間層は、陰イオン及びH2Oで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH-及び/又はCO3
2-を含む。
【0037】
上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi2+、Al3+、Ti4+及びOH基で構成されるものと想定した場合、LDHは、一般式:Ni2+
1-x-yAl3+
xTi4+
y(OH)2An-
(x+2y)/n・mH2O(式中、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni2+、Al3+、Ti4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0038】
有機高分子材料は、絶縁性を有する。有機高分子材料としては、絶縁性を有する周知の有機高分子材料を用いることができる。このような有機高分子材料としては、例えば、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン及びこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0039】
(電解質膜33の製造方法)
次に、電解質膜33の製造方法について説明する。
【0040】
1.成膜工程
イオン伝導性を有するセラミック材料と、絶縁性を有する有機高分子材料とを含む電解質膜を成膜する。成膜方法は特に限られないが、例えば、以下に説明する単純分散法を用いることができる。
【0041】
まず、有機高分子を溶媒に溶解させることによってワニスを調製する。溶媒は、有機高分子を溶解可能で、膜化後に蒸発させられるものであればよい。溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルー2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、あるいはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジクロロメタン、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒、i-プロピルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコールを用いることができる。
【0042】
次に、調製したワニスにセラミック材料を混合することによって混合物を調製する。ワニス及びセラミック材料の混合方法としては、例えば、スターラ法、ボールミル法、ジェットミル法、ナノミル法、超音波などを用いることができる。
【0043】
次に、ワニスとセラミック材料の混合物を基板上に膜化した後、溶媒を蒸発させることによって電解質膜33を作製することができる。基板は、膜化後に電解質膜33を剥がすことができるものであればよく、例えば、ガラス板、ポリテトラフルオロエチレンシート、ポリイミドシートなどを用いることができる。混合物の膜化方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
【0044】
2.吸着工程
成膜した電解質膜に含まれる親水基に、メタノール等を吸着させる。
【0045】
親水基にメタノール等を吸着させる手法としては、メタノール等と水とを含む液相に電解質膜を浸漬することによって、親水基にメタノール等を化学吸着させる液相吸着法が好適である。液相におけるメタノール等の含有量は、10~70vol%とすることができ、安全性を考慮すると10~60vol%が好ましい。浸漬時間は特に限られないが、1~10時間とすることができる。液温は、20~70℃が好ましい。
【0046】
液相吸着法を用いる場合、メタノール等の吸着量は、液相におけるメタノール等の含有量、浸漬時間及び液温の少なくとも1つを調整することによって制御できる。よって、メタノール等の吸着量を変えずに浸漬時間を短縮したい場合には、メタノール等の含有量を大きくするか、或いは、液温を高くすればよい。また、メタノール等の吸着量を変えずに低温で処理したい場合には、メタノール等の含有量を大きくするか、或いは、浸漬時間を長くすればよい。さらに、メタノール等の吸着量を変えずにメタノール等の含有量を小さくしたい場合には、液温を高くするか、或いは、浸漬時間を長くすればよい。
【0047】
また、親水基にメタノール等を吸着させる手法としては、メタノール等と水とを含む混合液を加熱して気相を生成し、その気相中に電解質膜を配置することによっても親水基にメタノール等を吸着させる気相吸着法を用いてもよい。ただし、気相吸着法では、親水基に水が優先的に吸着しやすいため、上述した液相吸着法の方が好適である。
【0048】
気相吸着法を用いる場合、メタノール等の吸着量は、気相におけるメタノール等の含有量、暴露時間及び気温の少なくとも1つを調整することによって制御できる。
【0049】
なお、電解質膜に吸着したメタノール等の吸着量は、昇温脱離質量分析法によって測定することができるが、吸着量が少ない場合には測定できない場合がありえる。
【0050】
3.乾燥工程
吸着工程を経た電解質膜を乾燥させることによって、電解質膜に含まれる水を蒸発させる。乾燥手法は特に限られず、電解質膜を自然乾燥させてもよいし、電解質膜を加熱(40~90℃、1~20時間)してもよい。
【0051】
なお、上述した吸着工程及び乾燥工程を2サイクル以上繰り返すことによって、メタノール等が吸着した親水基の数を多くすることができるため、DMFC3の出力低下をより抑制できる。
【0052】
(実施形態の変形例)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0053】
(変形例1)上記実施形態では、親水基にメタノール等を吸着させた電解質膜33を作製した後、電解質膜33の両面にカソード及びアノードそれぞれを形成することとしたが、メタノール等を吸着させていない電解質膜の両面にカソード31及びアノード32それぞれを形成した後に親水基にメタノール等を吸着させてもよい。
【0054】
例えば、親水基にメタノール等を吸着させていない電解質膜の両面にカソード31及びアノード32それぞれを形成した積層体をハウジング2内に設置した後、燃料供給部22からアノード32にメタノール等と水とを含む混合液を液相供給してもよい。この場合、アノード32を介してメタノール等が電解質膜に導入されることによって、親水基にメタノール等が吸着した電解質膜33が完成する。燃料供給部22は、混合液を排出した後、DMFC3を作動させるときに、メタノールを含む燃料をアノード32に気相供給する。
【0055】
或いは、親水基にメタノール等を吸着させていない電解質膜の両面にカソード31及びアノード32それぞれを形成した積層体をメタノール等と水とを含む混合液に浸漬してもよい。この場合、カソード31及びアノード32それぞれを介してメタノール等が電解質膜に導入されることによって、親水基にメタノール等が吸着した電解質膜33が完成する。
【0056】
(変形例2)上記実施形態では、DMFCの一例として、水酸化物イオンをキャリアとするアルカリ形燃料電池であるDMFC3について説明したが、DMFCはこれに限られない。
【0057】
DMFCは、プロトンをキャリアとする燃料電池であってもよい。この場合、プロトン伝導性を有するセラミック材料と、絶縁性を有する有機高分子材料とを含む電解質膜を用いればよい。
【0058】
プロトン伝導性を有するセラミック材料としては、プロトン導電性を有する金属酸化物水和物などを用いることができる。このような金属酸化物水和物としては、酸化ジルコニウム水和物、酸化タングステン水和物、酸化スズ水和物、ニオブをドープした酸化タングステン、酸化ケイ素水和物、酸化リン酸水和物、ジルコニウムをドープした酸化ケイ素水和物、タングストリン酸、モリブドリン酸などを用いることができる。
【0059】
(変形例3)上記実施形態では、DMFC3を単電池として利用する場合について説明したが、DMFC3を複数積層したスタックを構成してもよい。
【実施例0060】
本発明の実施例について説明する。以下の実施例では、電解質膜に含まれる親水基にメタノール等を吸着させることによって、DMFCの出力低下を抑制できることを確認する。ただし、本発明は以下に説明する実施例には限定されない。
【0061】
(実施例1~9及び比較例1,2)
まず、イオン伝導性セラミック材料としてのLDH粉末(平均粒径1.2μm、50vol%)と、絶縁性有機高分子材料としてのPVDF(株式会社クレハ社製、50vol%)とを準備して、単純分散法で電解質膜(厚み20μm)を成膜した。
【0062】
次に、実施例1~6では、液相吸着法を用いて、電解質膜に含まれる親水基にメタノールを吸着させた。液相におけるメタノール等の含有量、浸漬時間及び液温は、表1に示す通りとした。実施例7~9では、気相吸着法を用いて、電解質膜に含まれる親水基にメタノールを吸着させた。気相におけるメタノール等の含有量、暴露時間及び気温は、表1に示す通りとした。一方、比較例1,2では、電解質膜に含まれる親水基にメタノールを吸着させなかった。
【0063】
次に、実施例1~9及び比較例1,2の電解質膜を乾燥(50℃、16時間)させた。
【0064】
次に、カソード触媒としてのPt/C(Pt担持量50wt%(田中貴金属工業(株)社製TEC10E50E)と、バインダーとしてのPVDF粉末とを準備した。そして、カソード触媒:PVDF粉末:水の重量比が、9wt%:0.9wt%:90wt%の比率となるように混合することによって、カソードペーストを調製した。そして、電解質膜の一方の面にカソードペーストを印刷してカソードを形成した。
【0065】
次に、アノード触媒としてのPt-Ru/C(Pt-Ru担持量54wt%(田中貴金属工業(株)社製TEC61E54)と、バインダーとしてのPVDF粉末とを準備した。そして、カソード触媒:PVDF粉末:水の重量比が、9wt%:0.9wt%:90wt%の比率となるように混合することによって、アノードペーストを調製した。そして、電解質の他方の面にアノードペーストを印刷してアノードを形成した。
【0066】
以上により、実施例1~9及び比較例1,2に係るDMFCが完成した。
【0067】
(OCV低下率の測定)
実施例1~9及び比較例1,2に係るDMFCのOCV(Open Circuit Voltage)試験を行った。
【0068】
具体的には、アルカリ形燃料電池を80℃に加熱した後、定格時における空気利用率が50%となるように量を調整した加湿空気をカソードに供給し、定格時における燃料利用率が50%となるように量を調整した気化メタノールをアノードに供給した。
【0069】
そして、OCV(初期OCV)を測定し、そのまま1時間通電を継続させた後、再びOCV(1時間後OCV)を測定した。
【0070】
初期OCVに対する1時間後OCVの低下率をOCV低下率として算出した。算出結果は表1に示す通りであった。
【0071】
【0072】
表1に示すように、電解質膜に含まれる親水基にメタノールを吸着させた実施例1~9では、OCV低下率を抑制することができた。このことから、電解質膜に含まれる親水基にメタノールを吸着させることによって、燃料電池の出力の低下を抑制できることが分かった。このような結果が得られたのは、電解質膜に含まれる親水基にメタノールを予め吸着させておくことによって、親水基に吸着する水を介して燃料であるメタノールが電解質膜を透過してしまうことを抑制できたからである。
【0073】
また、液相吸着法を用いた実施例1~6では、気相吸着法を用いた実施例7~9に比べて、OCV低下率を更に抑制することができた。このことから、液相吸着法を用いることによって、燃料電池の出力の低下を更に抑制できることが分かった。このような結果が得られたのは、液相吸着法では、気相吸着法に比べて、親水基に水が優先的に吸着しにくいからである。