(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056409
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】布および繊維製品
(51)【国際特許分類】
D04B 1/16 20060101AFI20220401BHJP
D04B 1/00 20060101ALI20220401BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20220401BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20220401BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20220401BHJP
A41D 31/30 20190101ALI20220401BHJP
【FI】
D04B1/16
D04B1/00 B
D01F6/62 305A
A41D13/11 Z
A41D31/00 502C
A41D31/30
A41D13/11 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158328
(22)【出願日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2020164052
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】海老名 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】中西 修一
(72)【発明者】
【氏名】宅見 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 芽衣
(72)【発明者】
【氏名】辻 雅之
【テーマコード(参考)】
4L002
4L035
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB02
4L002AC00
4L002BA00
4L002BA01
4L002BA04
4L002BB01
4L002BB02
4L002EA00
4L002EA06
4L002FA00
4L002FA03
4L002FA05
4L035EE11
4L035EE20
4L035FF05
(57)【要約】
【課題】より向上した抗菌性とともに、より向上した着用快適性を呈する布などの繊維製品を提供すること。
【解決手段】電位発生フィラメントを含んで成る糸を含む布が提供される。かかる布は、前記糸のループを含んでいてよく、以下の式:
X=(A+B)×C×D×E
[式中、
Aは、前記布を10%伸長させたときの前記糸に含まれるループのループ角度を示し、
Bは、前記布を10%伸長させたときの前記糸に含まれるループの連結角度を示し、
Cは、前記布1cm2当たりの前記糸のループ数を示し、
Dは、前記布の目付(g/m2)当たりに付与される力(N)を示し、
Eは、前記糸の表面電位(V)を示す]
で示されるパラメータXの値が1000以上である。また、このような布を含む繊維製品が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電位発生フィラメントを含んで成る糸を含む布であって、前記糸のループを含んでいてよく、以下の式:
X=(A+B)×C×D×E
[式中、
Aは、前記布を10%伸長させたときの前記糸に含まれるループのループ角度を示し、
Bは、前記布を10%伸長させたときの前記糸に含まれるループの連結角度を示し、
Cは、前記布1cm2当たりの前記糸のループ数を示し、
Dは、前記布の目付(g/m2)当たりに付与される力(N)を示し、
Eは、前記糸の表面電位(V)を示す]
で示されるパラメータXの値が1000以上である、布。
【請求項2】
前記パラメータXの値が100000以下である、請求項1に記載の布。
【請求項3】
前記電位発生フィラメントが圧電材料を含んで成る、請求項1または2に記載の布。
【請求項4】
前記圧電材料がポリ乳酸を含んで成る、請求項3に記載の布。
【請求項5】
前記布が編物である、請求項1~4のいずれかに記載の布。
【請求項6】
前記布が抗菌性を呈する、請求項1~5のいずれかに記載の布。
【請求項7】
前記布が着用快適性を呈する、請求項1~6のいずれかに記載の布。
【請求項8】
第1の布と、必要に応じて第2の布とを含む繊維製品であって、
前記第1の布が、電位発生フィラメントを含んで成る糸を含む布であって、前記糸のループを含んでいてよく、以下の式:
X=(A+B)×C×D×E
[式中、
Aは、前記布を10%伸長させたときの前記糸に含まれるループのループ角度を示し、
Bは、前記布を10%伸長させたときの前記糸に含まれるループの連結角度を示し、
Cは、前記布1cm2当たりの前記糸のループ数を示し、
Dは、前記布の目付(g/m2)当たりに付与される力(N)を示し、
Eは、前記糸の表面電位(V)を示す]
で示されるパラメータXの値が1000以上であり、
前記第2の布が、必要に応じて伸縮性を有する、
繊維製品。
【請求項9】
前記第2の布が前記第1の布よりも高い伸縮性を有する、請求項8に記載の繊維製品。
【請求項10】
前記第2の布が第1の方向に40%以上の伸縮率を有し、該第1の方向に対して垂直な第2の方向に40%以上の伸縮率を有する、請求項8または9に記載の繊維製品。
【請求項11】
前記第1の布が抗菌性および着用快適性を呈する、請求項8~10のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項12】
前記第2の布がさらなる着用快適性を呈する、請求項8~11のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項13】
前記第1の布が前記第2の布よりも高い伸縮性を有する、請求項8に記載の繊維製品。
【請求項14】
前記第1の布が抗菌性を呈する、請求項13に記載の繊維製品。
【請求項15】
前記第2の布が電位発生フィラメントを含んで成る糸を含む、請求項8~14のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項16】
前記第2の布がさらなる抗菌性を呈する、請求項15に記載の繊維製品。
【請求項17】
前記繊維製品が、肌着、靴下、下着、シャツ、スポーツウェアおよびサポーターからなる群から選択される衣類である、請求項8~16のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項18】
前記繊維製品が、包帯、ガーゼ、マスクならびに医者および患者の服からなる群から選択される医療用品である、請求項8~16のいずれかに記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は布などの繊維製品に関する。より具体的には、電位発生フィラメントを含んで成る糸から構成され得る布およびそのような布を含む繊維製品などに関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、外部からのエネルギーによって電荷を発生することができる糸を使用したファブリックなどの繊維製品について、多数の提案がなされている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6521208号公報
【特許文献2】国際公開(WO)第2018/235965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、従前の繊維製品には克服すべき課題があることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者らは見出した。
【0005】
例えば、特許文献1には、外部からのエネルギーにより電荷を発生する機能性高分子を有する芯糸と、この芯糸の少なくとも一部を覆う芯糸よりも吸湿性の高い鞘糸とを備える抗菌糸が開示されている(特許文献1の請求項1参照)。さらに、特許文献1には、このような抗菌糸を含む抗菌ファブリックが開示されている(特許文献1の
図1参照)。
【0006】
特許文献2には、外部からのエネルギーによって電荷を発生する電荷発生糸により編成された電荷発生領域を有する編地が開示されている(特許文献2の請求項1参照)。さらに、特許文献2には、このような編地を含むレッグウェアなどの繊維製品が開示されている(特許文献2の
図1参照)。
【0007】
特許文献1および特許文献2などに開示の従前の繊維製品では、外部からのエネルギーによって電荷を発生する糸を用いることで一応の抗菌性を発揮させることが可能となっている。
【0008】
しかし、従前の繊維製品では、菌が繁殖しやすい箇所や臭いの発生源に製品を適用したとき、特に肌着の脇下部分や靴下の足裏部分などに製品を適用したときに十分な抗菌性が得られない場合があることがわかった。また、肌着や靴下などの衣類では着用の際に快適性が求められる場合もあることから、抗菌性とともに着用快適性のさらなる向上が求められていた。
【0009】
本発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、より向上した抗菌性とともに、より向上した着用快適性を呈する布などの繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された布などの繊維製品の発明に至った。
【0011】
外部からのエネルギーにより電荷を発生する糸を使用した繊維製品では、例えば張力などの外力が付与されることで電荷を発生することができる。このような電荷により電場が形成され得ることで繊維製品において抗菌性などの効果が得られる。そこで、本願発明者らは、繊維製品のなかでも、このような外力が集中する部分に特に注目した。
【0012】
例えば肌着や靴下などの衣類に使用され得る編物などに含まれるループの交絡部分には張力などの外力が集中し易い傾向にあることがわかった。また、このような糸のループ部分は、繊維製品に伸縮性を与えることもできる。そこで、本願発明者らは、このようなループ部分が繊維製品の抗菌性および着用快適性に大きく寄与し得ると考えた。
【0013】
本願発明者らは、このような繊維製品に含まれる糸のループ部分に特に着目し、さらなる研究を行った。
【0014】
鋭意研究の結果、本願発明者らは、繊維製品に含まれ得る糸のループ部分のループの数やループの角度、繊維製品に付与され得る力、糸に発生し得る表面電位などに一定の相関関係があることを見出した。さらに、本願発明者らは、このような相関関係から、繊維製品が奏する抗菌性や着用快適性などをさらに向上させることができることを見出した。
【0015】
本発明では、電位発生フィラメントを含んで成る糸を含む布であって、前記糸のループを含んでいてよく、以下の式:
X=(A+B)×C×D×E
[式中、
Aは、前記布を10%伸長させたときの前記糸に含まれるループのループ角度を示し、
Bは、前記布を10%伸長させたときの前記糸に含まれるループの連結角度を示し、
Cは、前記布1cm2当たりの前記糸のループ数を示し、
Dは、前記布の目付(g/m2)当たりに付与される力(N)を示し、
Eは、前記糸の表面電位(V)を示す]
で示されるパラメータXの値が1000以上である布が提供される。
以下、上記式を“式(I)”と称する場合もある。
【0016】
さらに、本発明では、上記の布を含む繊維製品などが提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、より向上した抗菌性とともに、より向上した着用快適性を呈する布などの繊維製品が得られる。尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでなく、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、ループを含む布の一部を模式的に示す概略図である。
【
図2】
図2は、ループを模式的に示す概略図である。
【
図3】
図3は、ループを含む布の一部(おもて面)を模式的に示す概略図である。
【
図4】
図4は、ループ角度を説明するための概略図である。
【
図5】
図5は、ループを含む布の一部(うら面)を模式的に示す概略図である。
【
図6】
図6は、ループの連結角度を説明するための概略図である。
【
図7】
図7は、ループを含む布の他の一部(うら面)を模式的に示す概略図である。
【
図8】
図8は、
図7に示すループを説明するための概略図である。
【
図9】
図9は、第1の布と第2の布とを含む繊維製品を模式的に示す概略図である。
【
図10】
図10は、第1の布と第2の布とを含む他の繊維製品を模式的に示す概略図である。
【
図11】
図11は、第1の布と第2の布とを含む別の繊維製品を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、布および繊維製品に関する。具体的には、電位発生フィラメントを含んで成る糸を含む布(以下、「本開示の布」と称する)ならびに本開示の布を含む繊維製品(以下、「本開示の繊維製品」と称する)に関する。本開示の布は、以下にて詳説する「パラメータX」の値が「1000以上」であることを特徴とする。
【0020】
[本開示の布の基本構成]
本開示の布は、以下にて詳述する「電位発生フィラメントを含んで成る糸」(以下、「本開示の糸」または省略して単に「糸」と記載する場合もある)を含んで成るシート状の構造物又は本開示の糸から構成され得るシート状の構造物である。
本開示において「シート状」または「シート」とは、2つの主面が互いに平行に位置付けられるように構成されて成る形状を意味する。
【0021】
本開示の布は、糸のループを含んでいてよい。本開示において「ループ」とは、概して、糸が湾曲した部分を意味する。ループの一部は輪などを形成していてもよい。
【0022】
本開示の布は編物であることが好ましい。ただし、本開示の布は、編物に限定して解釈されるべきではない。
【0023】
本開示において「編物」とは、複数のループが互いに連結して成る組織を有する構造、すなわちニット構造を有するシート状の構造物を意味する。例えば、糸のループ(例えば輪状の部分)を作りそのループに次のループをひっかけることを連続させることによって面または組織を形成することで編物を編成することができる。編物は、より具体的には、よこ編み、たて編み、丸編み、筒編み又は靴下編みなどの編み方によって形成され得る組織を有していてよい。このような編物にはトリコットなども含まれる。また、カットソーやニットソーなどの縫製品も本開示の編物に含まれる。さらにホールガーメントなどの無縫製品も本開示の編物に含まれる(WHOLEGARMENT(登録商標))。
【0024】
本開示の編物に含まれ得る組織として、例えば、天竺(平編み、メリヤス編みとも呼ばれる)、ベア天竺、プレーティング天竺、スムース(インターロックとも呼ばれる)、鹿の子(表鹿の子、裏鹿の子)、ニットミス(フロートとも呼ばれる)、ハニカム、サーマル(ワッフルとも呼ばれる)、フライスなどの組織が挙げられるが、これらに限定されるものではない。編物の表裏で組織が異なっていてよい。また、組織に「タック」が含まれていてもよい。つまり、タック編みが併用されてもよい。組織には「ミス」が含まれていてよい。編物は、裏パイルであっても、裏起毛であってもよい。組織に依存して、布の肌触り、通気性、伸縮性などをさらに変更することもできる。
【0025】
本開示において、「ニット」、必要に応じて「タック」および/または「ミス」の繰り返し最小単位を含む組織を「完全組織」と称する。
【0026】
このような組織は編機を用いて形成しても、手編みにより形成してもよい。編機を使用する場合、その種類に特に制限はなく、従来公知の編機を特に制限なく使用することができる。
【0027】
(本開示の糸)
本開示の糸は、「電位発生フィラメント」(又は表面電荷により電場又は電位を形成することができる繊維、つまり電位を発生させることができる繊維)を含んで成るものであり、例えば糸の軸方向に外力を適用することで電場を形成し、正または負の表面電位を発生させることができる。このような表面電位によって、例えば抗菌性などの効果を奏することができる。
【0028】
従来から、電場によって細菌及び真菌等の増殖を抑制できることが知られている(例えば、土戸哲明,高麗寛紀,松岡英明,小泉淳一著、講談社:微生物制御-科学と工学を参照。また、例えば、高木浩一,高電圧・プラズマ技術の農業・食品分野への応用,J.HTSJ,Vol.51,No.216を参照)。また、この電場を生じさせている電位により、湿気等で形成された電流経路、又は局部的なミクロな放電現象等で形成された回路を電流が流れることがある。この電流により菌が弱体化し、菌の増殖を抑制すると考えられる。本開示の糸は、外部からのエネルギーにより電荷を発生することができる電位発生フィラメントを備えているため、繊維と繊維との間、あるいは人体等の所定の電位(グランド電位を含む。)を有する物に近接した場合に、電場を生じさせる。あるいは、本開示の糸は、汗等の水分を介して、繊維と繊維との間、あるいは人体等の所定の電位(グランド電位を含む。)を有する物に近接した場合に、電流を流すことができる。
従って、本開示の糸は、例えば、以下のような理由により抗菌効果を発揮することができる。人体等の所定の電位を有する物に近接して用いられる物(例えば、衣類、履物、又はマスク等の医療用品など)に適用した場合に発生する電場又は電流の直接的な作用によって、菌の細胞膜や菌の生命維持のための電子伝達系に支障が生じ、菌が死滅する、或いは菌自体が弱体化する。さらに、電場もしくは電流によって水分中に含まれる酸素が活性酸素種に変化する場合がある、又は電場もしくは電流の存在によるストレス環境により菌の細胞内に酸素ラジカルが生成される場合がある、これらのラジカル類を含む活性酸素種の作用により菌が死滅する、又は弱体化する。また、上述の理由が複合して抗菌効果が生じている場合もある。さらに上記と同様の理由からウイルスに対しても同様の作用を有すると考えられる。従って、本開示では抗ウイルス作用も含めて「抗菌性」と称する。ただし、本開示で使用する「抗菌性」との用語は、上記の理論だけに拘束されるものではない。
【0029】
本開示の糸には複数の電位発生フィラメントが含まれていてよい。本開示の糸に含まれ得る電位発生フィラメントの数に特に制限はない。例えば、2本以上、2~500本、好ましくは10~350本、より好ましくは20~200本程度の電位発生フィラメントが本開示の糸に含まれていてよい。
【0030】
本開示おいて「電位発生フィラメント」とは、「外部からのエネルギーにより電荷を発生して電場又は電位を形成すること、つまり電位を発生させることができる繊維(フィラメント)」を意味する(以下、「電荷発生繊維」と称する場合もある)。
本開示おいて「外部からのエネルギー」とは、例えば、外部からの力(以下、「外力」と称する場合もある)、具体的には繊維に変形もしくは歪みを生じさせるような力、特に圧縮力および/または繊維の軸方向にかかる力、より具体的には、張力(例えば繊維の軸方向の引張力)および/または応力もしくは歪力(繊維にかかる引張応力もしくは引張歪み)および/または繊維の横断方向にかかる力などの外力が挙げられる。
電位発生フィラメントとして、例えば、特許第6428979号公報に記載の電荷発生繊維などを使用してよい。
【0031】
電位発生フィラメントの寸法(長さ、太さ(径)など)や、形状(断面形状など)に特に制限はない。このような電位発生フィラメントを有して成る本開示の糸は、太さの異なる複数の電位発生フィラメントを含んでよい。
従って、本開示の糸は、長さ方向において、径が一定であっても、一定でなくてもよい。
【0032】
電位発生フィラメントは、長繊維であっても、短繊維であってもよい。電位発生フィラメントは、例えば0.01mm以上の長さ(寸法)を有してよい。長さは、所望の用途に応じて、適宜、選択すればよい。
【0033】
電位発生フィラメントの太さ(径)に特に制限はなく、電位発生フィラメントの長さに沿って、同一(又は一定)であっても、同一でなくてもよい。電位発生フィラメントは、例えば0.001μm(1nm)~1mmの太さを有してよい。太さは、所望の用途に応じて、適宜、選択すればよい。
【0034】
電位発生フィラメントの繊維強度には、特に制限はないが、例えば1cN/dtex以上5cN/dtex以下であってよい。
【0035】
電位発生フィラメントの伸度には、特に制限はないが、例えば10%以上50%以下であってよい。
【0036】
電位発生フィラメントの形状、特に断面形状に特に制限はないが、例えば円形、楕円形、矩形、異形の断面を有していてよい。円形の断面形状を有することが好ましい。
【0037】
電位発生フィラメントは、例えば、圧電効果(又は外力による分極現象)または圧電性(又は機械的ひずみを与えたときに電圧を発生する、あるいは逆に電圧を加えると機械的ひずみを発生する性質)を有する材料(以下、「圧電材料」又は「圧電体」と称する場合もある)を含んで成ることが好ましい。なかでも、圧電材料を含んで成る繊維(以下、「圧電繊維」と称する場合もある)を使用することが特に好ましい。圧電繊維は、圧電気により電場を形成することができるため、電源が不要であるし、感電のおそれもない。
尚、圧電繊維に含まれ得る圧電材料の寿命は、例えば、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続することができる。また、このような圧電繊維では、アレルギー反応を引き起こす可能性も低い。
【0038】
「圧電材料」は、外部からのエネルギーにより電荷を発生して電場および/または電位を形成することができる材料であり、例えば、上記の圧電効果または圧電性を有する材料であれば特に制限なく使用することができる。圧電セラミックスなどの無機材料であっても、ポリマーなどの有機材料であってもよい。
【0039】
「圧電材料」(又は「圧電繊維」)は、「圧電性ポリマー」を含んで成ることが好ましい。
「圧電性ポリマー」として、「焦電性を有するポリマー」や、「焦電性を有していないポリマー」などが挙げられる。
【0040】
「焦電性を有するポリマー」とは、概して、焦電性を有し、温度変化を与えるだけで、その表面に電荷(又は電位)を発生させることができるポリマー材料を意味する。このようなポリマーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。特に、人体の熱エネルギーによって、その表面に電荷(又は電位)を発生させることができるものが好ましい。
【0041】
「焦電性を有していないポリマー」とは、概して、ポリマー材料から成り、上記の「焦電性を有するポリマー」を除くポリマーを意味する。このようなポリマーとして、例えば、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。ポリ乳酸として、例えば、L体モノマーが重合したポリ-L-乳酸(PLLA)や、D体モノマーが重合したポリ-D-乳酸(PDLA)などが知られている。
【0042】
ポリ乳酸(PLA)として、例えば、L-乳酸および/またはD-乳酸と、このL-乳酸および/またはD-乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマーを使用してもよい。
【0043】
また、ポリ乳酸(PLA)として、「ポリ乳酸(実質的にL-乳酸およびD-乳酸から成る群から選択されるモノマー由来の繰り返し単位からなる高分子)」と「L-乳酸および/またはD-乳酸と、このL-乳酸および/またはD-乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」との混合物を使用してもよい。
【0044】
本開示では上記のポリ乳酸を含む高分子を「ポリ乳酸系高分子」と称する。換言すると、「ポリ乳酸系高分子」とは、「ポリ乳酸(実質的にL-乳酸およびD-乳酸から成る群から選択されるモノマー由来の繰り返し単位からなる高分子)」、「L-乳酸および/またはD-乳酸と、このL-乳酸および/またはD-乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」およびそれらの混合物などを意味する。
【0045】
ポリ乳酸系高分子のなかでも特に「ポリ乳酸」が好ましく、L-乳酸のホモポリマー(PLLA)およびD-乳酸のホモポリマー(PDLA)を使用することが最も好ましい。
【0046】
ポリ乳酸系高分子は、結晶性部分を有していてよい。あるいはポリマーの少なくとも一部が結晶化していてよい。ポリ乳酸系高分子として、圧電性を有するポリ乳酸系高分子、換言すると圧電ポリ乳酸系高分子、特に圧電ポリ乳酸を使用することが好ましい。
【0047】
ポリ乳酸(PLA)は、キラル高分子であり、主鎖が螺旋構造を有する。ポリ乳酸は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を発現することができる。さらに熱処理を加えて結晶化度を高めることで圧電定数を高めておいてもよい。換言すると「結晶化度」に応じて「圧電定数」を高くすることができる(「ポリ乳酸を用いた固相延伸フィルムの高圧電性発現機構の検討」,静電気学会誌,40,1 (2016) 38-43参照)。
【0048】
ポリ乳酸(PLA)の圧電定数は、例えば5pC/N以上30pC/N以下である。
【0049】
ポリ乳酸(PLA)の光学純度(エナンチオマー過剰量(e.e.))は、下記式によって算出することができる。
光学純度(%)={|L体量-D体量|/(L体量+D体量)}×100
例えば、D体およびL体のいずれにおいても、光学純度は、90重量%以上、好ましくは95重量%以上または97重量%以上、より好ましくは98重量%以上100重量%以下、さらにより好ましくは99.0重量%以上100重量%以下、特に好ましくは99.0重量%以上99.8重量%以下である。ポリ乳酸(PLA)のL体量とD体量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値であってよい。
【0050】
ポリ乳酸(PLA)の結晶化度は、例えば15%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは50%以上、さらにより好ましくは55%以上100%以下である。結晶化度は、高ければ高い程よいが、染着性の観点から、例えば35%以上50%以下、好ましくは38%以上50%以下であってよい。
【0051】
結晶化度は、例えば示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)(例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス製のDSC7000X)を用いる方法、X線回折法(XRD:X-ray diffraction)(例えば、株式会社リガク製のultraX 18を用いたX線回折法)などの測定方法により決定することができる。
【0052】
結晶サイズに特に制限はなく、例えば5nm以上20nm以下であってよい。
配向度に特に制限はなく、例えば60%以上100%以下であってよい。
【0053】
ポリ乳酸系高分子以外にも、例えば、ポリペプチド系(例えば、ポリ(グルタル酸γ-ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ-メチル)等)、セルロース系(例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等)、ポリ酪酸系(例えば、ポリ(β-ヒドロキシ酪酸)等)、ポリプロピレンオキシド系などの光学活性を有する高分子およびその誘導体などを高分子圧電体として使用してもよい。
【0054】
尚、本開示の糸は、電位発生フィラメント(又は電荷発生繊維)として、芯糸に導電体を用いて、当該導電体に絶縁体(又はフィラメント又は繊維)を巻き(カバリング)、該導電体に電圧を加えて電荷を発生させる構成を有するものであってもよい。
【0055】
本開示の糸は、複数の電位発生フィラメントを単に引きそろえただけの糸(引きそろえ糸または無撚糸)であってよく、撚りをかけた糸(撚り合わせ糸または撚糸)、捲縮をかけた糸(捲縮加工糸または仮撚糸)、あるいは紡いだ糸(紡績糸)の形態であってもよい。糸の引きそろえ方法、撚り合わせ方法、捲縮方法、紡績方法などに特に制限はなく、従来公知の方法を使用することができる。
【0056】
本開示の糸は、延伸糸(FOY:Fully Oriented Yarn)であっても、半延伸糸(POY:Partially Oriented Yarn)であっても、延伸加工糸(DTY:Draw Textured Yarn)であっても、カバリング糸(FTY:Filament Twisted Yarn)であってもよい。また、本開示の糸は、単糸、双糸、もしくは紡績糸であってもよい。
【0057】
本開示の糸として、例えば特許第6428979号公報および特許第6521208号公報に記載の糸を使用してもよい。特許第6428979号公報および特許第6521208号公報は参考として本明細書中に援用される。
【0058】
本開示の糸は、他の繊維を含んでいてよい(以下、上記「電位発生フィラメント」を除く他の繊維を便宜的に「混合繊維」と称す)。混合繊維について、その種類は特に限定されず、合成樹脂からななる繊維;綿、ラミー(苧麻)、リネン(亜麻)、ケナフ(洋麻)、アバカ(マニラ麻)、ヘネケン(サイザル麻)、ジュート(黄麻)、ヘンプ(大麻)、ヤシ、パーム、コウゾ、ミツマタ、バガス等の天然繊維;ビスコースレーヨン(レーヨン)、テンセル(登録商標)、リヨセル(登録商標)、キュプラ、ベンベルグ(登録商標)などの半合成繊維(再生繊維ともいう)であってもよい。混合繊維は、合成樹脂からなる繊維であることが好ましい。あるいは、風合いの観点から、混合繊維は、天然繊維を含むことが好ましい。
【0059】
合成樹脂からなる繊維としては、例えば、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレートなど)からなる単一繊維、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)からなる単一繊維、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン66など)からなる単一繊維、アクリロニトリルからなる(ポリ)アクリルの単一繊維、エンジニアリング・プラスチック(ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィンなど)の単一繊維、複合繊維(異なる種類の樹脂同士、もしくは同一の種類の異なるポリマー成分からなる樹脂同士を複合した繊維)などが挙げられる。
【0060】
本開示の糸は、上記の他の繊維(混合繊維)を含んで成る糸を含んでいてよい。その場合、本開示の糸は、双糸または紡績糸であってもよい。
【0061】
本開示の糸は、ループを含んでいてよく、本開示の範囲内において、必要に応じて、適宜変更または改変してよい。
【0062】
[本開示の布の特徴]
本開示の布は、以下の式(I)で表される「パラメータX」の値が「1000以上」であることを特徴とする。
【0063】
X=(A+B)×C×D×E (I)
式中、
Aは、布を10%伸長させたときの糸に含まれ得るループのループ角度を示し、
Bは、布を10%伸長させたときの糸に含まれ得るループの連結角度を示し、
Cは、布1cm2当たりの糸のループ数を示し、
Dは、布の目付(g/m2)当たりに付与され得る力(N)を示し、
Eは、糸の表面電位(V)を示す。
【0064】
式(I)で表されるパラメータXを説明するために、例えば
図1において、複数のループを含む布の一部を示す。尚、本開示の布は、図示する態様に限定されるものではない。
【0065】
図1は、本開示の布の例示として、典型的な編物の組織を模式的に示す概略図である。
図1に示される布は、糸1から成る複数のループが互いに結合または連続することで構成されている。
図1Aは、布の「おもて面」を示し、
図1Bは布の「うら面」を示す。当該分野で使用する用語または慣習に倣って、ループに沿う縦方向または紙面の上下方向を「ウェール方向」(D
w)(又はループ方向)と呼び、横方向または紙面の左右方向を「コース方向」(D
c)と呼ぶ。説明の便宜上、
図1Aに示す面を布の「おもて面」または「第1面」と呼び、
図1Bに示す面を布の「うら面」または「第2面」と呼ぶ。尚、布の「おもて面」および「うら面」との呼び方は、本発明を説明するための形式上の呼び方である。また、
図1Bに示す面(「うら面」または「第2面」)は、布がシングルニットの場合、「シンカー面」と呼ぶこともできる。
図1に示す通り、紙面の上方に向いているループを「ニードル・ループ」と呼ぶことができる。
【0066】
次に、
図2を参照しながら、例えば
図1に示す糸1に含まれ得る複数のループを詳説する。
図2において、例えば
図1に示す糸1に含まれ得る複数のループ20がコース方向に3つ連続して並んだ態様を示す。ループ20は、ループ幅Wとループ高さHとで規定することができる。
【0067】
ループ幅Wに特に制限はなく、例えば0.2mm以上2.0mm以下である。
【0068】
ループ高さHに特に制限はなく、例えば0.2mm以上2.0mm以下である。
【0069】
説明の便宜上、ループ20について、ニードル・ループの頂点領域(Rn)と、中間領域(Rm)と、当該ループと次ループとの連結部領域(Rc)とに分けて説明する。
【0070】
ウェール方向の上部であって、ループの輪状の頂部(または頭部)を含む領域をニードル・ループの頂点領域(Rn)と称する。換言すると、このニードル・ループの頂点領域(Rn)は、ループの輪状の頂部(または頭部)を通して、次ウェールを形成するために、さらなる糸とともにニードルが通過する領域である。
ウェール方向の下部であって、ループの底部(足部)または谷を含む領域を、当該ループと次ループとの連結部領域(Rc)と称する。換言すると、連結部領域(Rc)は、コース方向または紙面の左右方向にループの底部(足部)または谷が連続する領域である。
ニードル・ループの頂点領域(Rn)と、連結部領域(Rc)との間の領域を中間領域(Rm)と称する。換言すると、この中間領域(Rm)は、図示する態様において、主に糸1の直線部分または略直線部分を含む領域である。
【0071】
糸1のループ20のニードル・ループの頂点領域(R
n)に含まれる部分をニードル部21と称する。ニードル部21は、図示する形態によると、布の「うら面」(第2面)において、例えば目視または拡大鏡もしくは顕微鏡などにより確認することができる(
図1Bおよび
図5参照)。
糸1のループ20の連結部領域(R
c)に含まれる部分をシンカー部22と称する。尚、本開示において「シンカー」とは「谷」を意味する用語である。シンカー部22は、図示する形態によると、布の「うら面」(第2面)において、例えば目視または拡大鏡もしくは顕微鏡などにより確認することができる(
図1Bおよび
図5のループ底部の三日月状またはバナナ状の形状の部分を参照のこと)。
糸1のループ20の中間領域(R
m)に含まれる部分を中間部23と称する。中間部23は、図示する形態によると、布の「おもて面」(第1面)において、例えば目視または拡大鏡もしくは顕微鏡などにより確認することができる(
図1Aおよび
図3参照)。
【0072】
本開示において、布の「伸長」とは、布の任意の方向(例えば、ループに関するウェール方向および/またはコース方向など)に布を引っ張ること、または布を引き延ばすことを意味する。例えば、布の「10%伸長」とは、例えば、布に力を付与していない状態から、布に力を付与して、長さスケールで任意の方向に10%伸ばすことを意味する。布がループを含む場合、ウェール方向に伸長させることが好ましい。ウェール方向に布を伸長させることでループを含む布の伸縮性を確認することができる。
【0073】
(パラメータXの成分A)
パラメータXの成分Aは、「布を10%伸長させたときの糸に含まれ得るループのループ角度」を示す。尚、この成分Aのループ角度は、布が編物である場合、布の1単位、例えば編物の1完全組織内に存在するループ部分のループ角度の平均値を意味する。
例えば
図1、
図3および
図5に示すように、糸1のループ20は、ウェール方向(紙面の上下方向)において、他のループ、具体的には次ウェールのループと連結することができる(特に
図3のループ20を参照)。
成分Aにおいて、「ループ角度」とは、例えば、このようなループの連結に起因し得るループの立ち上がり又は引張り角度を意味する。例えば
図3に示す通り、ループの立ち上がりは、ループを含む布の「おもて面」(第1面)から主に確認することができる(
図3参照)。また、ループの立ち上がりは、ループを含む布の「うら面」(第2面)からも確認することができる(
図5参照)。ループの立ち上がりは、布の「おもて面」(第1面)から確認することが好ましい(
図3参照)。
より具体的には、
図4に模式的に示す通り、「ループ角度」は、ループ20のニードル部21とシンカー部22との間の中間部23に含まれ得る直線部分または略直線部分に沿う直線L
aと、コース方向D
c(または紙面の左右方向)に沿う直線とで形成され得る仮想的な角部の角度θ
aを意味する。角度θ
aは鋭角である。
角度θ
aの値が小さいほど円形に近い丸い輪状のループが形成され得ることを示す。角度θ
aの値が大きいほどループが立ち上がって細長いループが形成され得ることを示す。このように、成分Aの角度θ
aの値は、ループを含む布の伸縮性に関与し得る値である。また、成分Aの角度θ
aの値は、ループを含む布の身体への着用快適性にも大きく関与し得る値である。
成分Aの角度θ
aは、例えば0°よりも大きく90°よりも小さい値、好ましくは5°以上75°以下の範囲内の値である。成分Aの角度θ
aは、例えば布が編物である場合、布をウェール方向に10%伸長させたときの値であることが好ましい。
成分Aの角度θ
aは、例えば布の「おもて面」(第1面)の写真、好ましくは顕微鏡写真から測定することができる。
成分Aの角度θ
aは、本開示の布の1単位(例えば、編物の1完全組織)に含まれ得るループのループ角度の平均値である。
【0074】
(パラメータXの成分B)
パラメータXの成分Bは、「布を10%伸長させたときの糸に含まれ得るループの連結角度」を示す。尚、この成分Bのループの連結角度は、布が編物である場合、布の1単位、例えば、編物の1完全組織内に存在するループの連結角度の平均値を意味する。
成分Bにおいて、「ループの連結角度」とは、ループの連結部、特にシンカー部の角度を意味する。例えば
図5に示す通り、シンカー部は、ループを含む布の「うら面」(第2面)から主に確認することができる(特に
図5に示す「うら面」(第2面)のループ底部の三日月状またはバナナ状の形状の部分を参照のこと)。また、ループのシンカー部は、ループを含む布の「おもて面」(第1面)からも確認することができる(
図3参照)。布の「うら面」(第2面)から確認することが好ましい(
図5参照)。
より具体的には、ループを「うら面」(第2面)から見た
図6に示す通り、「ループの連結角度」は、ループ20のシンカー部22に沿う直線L
bと、コース方向D
c(または紙面の左右方向)に沿う直線とで形成され得る仮想的な角部の角度θ
bを意味する。ここで、ループ20のシンカー部22に沿う直線L
bとは、例えば、シンカー部22の湾曲部(図示する態様の三日月状またはバナナ状の形状を有する部分)の幾何学的な中心(例えば、湾曲部の極大点に引いた接線L
1に直交する線分L
2の中点O)を通過し、シンカー部22の形状に概ね沿うような直線(L
b)であってよい(
図6参照)。角度θ
bは鋭角である。
角度θ
bの値が小さいほどコース方向にループが連続していることを示す。角度θ
bの値が大きいほどウェール方向にループ20のシンカー部22が変位していることを示す。従って、成分Bの角度θ
bの値は、ループを含む布の伸縮性に関与し得る値である。また、成分Bの角度θ
bの値は、ループを含む布の身体への着用快適性にも大きく関与し得る値である。
成分Bの角度θ
bは、例えば0°以上75°以下の範囲内の値、好ましくは5°以上60°以下である。成分Bの角度θ
bは、例えば布が編物である場合、布をウェール方向に10%伸長させたときの値であることが好ましい。
成分Bの角度θ
bは、例えば布の「うら面」(第2面)の写真、好ましくは顕微鏡写真から測定することができる。
成分Bの角度θ
bは、本開示の布の1単位(例えば、編物の1完全組織)に含まれ得るループのループ連結角度の平均値である。
【0075】
布が編物である場合、例えば
図7に示すように、タック編みなどに起因して、成分Bの連結角度θ
bが顕著に大きくなる場合がある。このような場合、例えば
図8に示すように、ループ30の中間部33に含まれ得る直線部分または略直線部分に沿う直線L
cと、コース方向D
c(または紙面の左右方向)に沿う直線とで形成され得る仮想的な角部の連結角度θ
cを成分Bの連結角度θ
bとみなしてカウントすることができる。ただし、角度θ
cは90°未満の鋭角である。このとき、成分Bの角度θ
bは、全体として、つまり平均値として、45°以下の値であることが好ましい。また、このようなループ30の角度θ
cは、上記の成分Aのループ角度θ
aとしてもカウントすることができる。
角度θ
cは、角度θ
aおよび角度θ
bと同様に測定することができる。
【0076】
パラメータXに含まれる成分(A+B)は、ループの角度に依存する成分であることから、ループを含む布の伸縮性に大きく関与し得る成分である。ひいては、糸に含まれる「電位発生フィラメント」に関連して、本開示の布の伸縮時の帯電性などに大きく関与し得る成分である。成分(A+B)の値は、例えば5以上120以下の範囲内の値である。また、成分(A+B)は、ループを含む布の身体への着用快適性にも大きく関与し得る成分である。
【0077】
(パラメータXの成分C)
パラメータXの成分Cは、「布1cm2当たりの糸のループ数」を示す。尚、成分Cのループ数は、布の「おもて面」および「うら面」のうち、1cm2当たりのループ数が多い方の値を採用する。
ループ数は、布のCPIおよびWPIから算出することができる。
「CPI」とは、1インチ(in)あたりのコース数を示す。尚、コース数とは、コース方向(左右方向またはヨコ方向)のループの数を示す。
本開示の布において、CPIは、特に制限はなく、例えば10以上150以下の範囲内である。
「WPI」とは、1インチ(in)あたりのウェール数を示す。尚、ウェール数とは、ウェール方向(上下方向またはタテ方向)のループの数を示す。
本開示の布において、WPIは、特に制限はなく、例えば10以上100以下の範囲内である。
あるいは、ループ数は、ループのニードル部に含まれる輪状の頂部(頭部)をカウントすることで決定することもできる。その場合、ループ数は、本開示の布の「おもて面」(第1面)または「うら面」(第2面)の目視による観察または写真、好ましくは顕微鏡写真からカウントして決定することができる。
成分Cの「布1cm2当たりの糸のループ数」は、例えば100以上1500以下、好ましくは100以上800以下の範囲内の値である。
成分Cは、布の伸縮性に大きく関与し得る成分である。ひいては、糸に含まれる「電位発生フィラメント」に関連して、本開示の布の伸縮時の帯電性などにも大きく関与し得る成分である。また、成分Cは、ループを含む布の身体への着用快適性にも大きく関与し得る成分である。
【0078】
(パラメータXの成分D)
パラメータXの成分Dは、「布の目付(単位:g/m2)当たりに付与され得る力」(単位:ニュートン(N))を示す。
成分Dの値は、本開示の布を例えば万能試験機で試験力(N)を測定することにより決定することができる。より具体的には、布のサンプル(例えば、布を6層重ねたサンプル、測定範囲:40mm)を万能試験機にセットし、一定の伸縮速度(例えば40mm/分)、一定の方向(例えばウェール方向)および一定の振幅(例えば例えば6.8mm)において、一定のサイクル(例えば10サイクル)にわたって本開示の布を伸縮させたときに本開示の布またはサンプルにかかる最大の試験力(N)を測定し、その測定値を試験した布の目付(g/m2)で除算することで成分Dの値を決定することができる。測定の際、サンプルに初期荷重を付与してもよい(例えば0.74N)。
本開示の布の目付は、特に制限なく、例えば10g/m2以上300g/m2以下である。
測定される試験力(N)は、特に制限なく、例えば1N以上200N以下である。
成分Dの「布の目付(g/m2)当たりに付与される力(N)」の値は、例えば0.01以上1.2以下、好ましくは0.01以上1.0以下の範囲内の値である。
成分Dは、布の伸縮性に大きく関与し得る成分である。ひいては、糸に含まれる「電位発生フィラメント」に関連して、本開示の布の伸縮時の帯電性などにも大きく関与し得る成分である。また、成分Dは、ループを含む布の身体への着用快適性にも大きく関与し得る成分である。
【0079】
(パラメータXの成分E)
パラメータXの成分Eは、「糸の表面電位」(単位:ボルト(V))を示す。成分Eの糸の表面電位(V)は、例えば、走査型プローブ顕微鏡の一種である静電気力顕微鏡(EFM:Electrostatic Force Microscope)を用いて測定することができる。尚、成分Eの表面電位は、布を構成する糸の表面電位の平均値を意味する。
具体的には、まず、当該布に含まれる「電位発生フィラメントを含んで成る糸」を導電繊維から成る芯材にカバリングすることで形成され得る表面電位測定用のサンプルを準備する。次に芯材を接地する。表面電位測定用のサンプルを一軸方向(具体的には芯材の長手軸方向)に沿って所定の長さ伸長する間に静電気力顕微鏡(EFM)を用いてサンプルの表面電位を測定する。このようにして測定した複数のサンプルの表面電位の平均値を成分Eの表面電位(V)とする。
成分Eの「糸の表面電位」の値は、例えば0.1V以上の範囲内の値である。
成分Eは、糸に含まれる「電位発生フィラメント」に関連して、本開示の布の伸縮時の帯電性などに大きく関与し得る成分である。ひいては、布が奏する抗菌性に大きく関与し得る成分である。
【0080】
(パラメータX)
本開示の布において、「パラメータX」は、「1000以上」の値である。パラメータXが1000以上であると、本開示の布は、抗菌性とともに、着用快適性を呈することができる。
【0081】
パラメータXの上限値は、例えば100000以下、好ましくは50000以下、より好ましくは40000以下の値である。パラメータXが100000以下であると、本開示の布は、抗菌性とともに、着用快適性を呈することができる。
【0082】
パラメータXは、例えば1000以上100000以下、好ましくは1000以上50000以下、より好ましくは1000以上40000以下の範囲内の値である。上記の範囲内であると、本開示の布は、抗菌性とともに、より優れた着用快適性を呈することができる。
【0083】
本開示において「抗菌性」とは、菌および/またはウイルスなどの発生、活動または活性を抑制または阻害すること、菌および/またはウイルスなどの数を減少させること、あるいは菌および/またはウイルスなどを殺すこと、ひいては死滅させることなどを意味する。
例えば、「JIS L 1902」の「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」で規定される試験方法のうち「菌液吸収法」に準じて算出され得る「抗菌活性値」が「2.2以上」であることが好ましい。尚、菌液吸収法は、繊維製品(布帛、糸、衣服素材、寝具、家庭用繊維などを含む全ての繊維製品)の抗菌性試験では、最も一般的な方法であり、一般社団法人繊維評価技術協議会・SEKマークの「抗菌防臭加工繊維製品」および「制菌加工繊維製品」認証基準の試験方法である。ここで、「2.2以上」の抗菌活性値は、抗菌防臭加工に関するSEKマークの認証を受けることができる程度の抗菌性を意味する。また、試験菌液として、黄色ブドウ球菌、肺炎かん菌、緑膿菌、大腸菌、モラクセラ菌、MRSAなどを使用することができる。
【0084】
「抗菌活性値」は、概して、以下の式により決定することができる。
[抗菌活性値]=[log(18時間のチャンバ引張試験後の生菌数算術平均)]-[log(18時間のチャンバ静置試験後の生菌数算術平均)]
「チャンバ引張試験」および「チャンバ静置試験」については、以下の実施例にて詳しく説明する。尚、対照(コントロール)として、布の対照試料(綿の標準布)を用いて抗菌活性値を算出してもよい。
【0085】
本開示において「着用快適性」とは、本開示の布をヒトの身体の一部に適用または接触させた際の快適性を意味する。より具体的には、本開示の布が、適度な伸縮性や、蒸れ難い通気性、さらりとした触感などの快適性を有することを意味する。
【0086】
例えば、ヒトの肌に触れた場合の適度な伸縮性、例えば、以下にて詳説する「JIS L 1096」の「引張強さ試験」に基づく「伸縮率」が10%以上であることや、ヒトの肌に触れた場合に適度な通気性および触感などの快適性を有する場合に「着用快適性」を呈するということができる。
【0087】
より具体的には、本開示の布の伸縮性や通気性、触感などに関して、10名の被験者の身体(例えば、脇下部分、足裏部分など)に本開示の布を適用する着用試験において、評価基準を以下のように、例えば、1:快適性に非常に優れる、2:快適性に優れる、3:快適性が普通である、4:快適性が悪い、5:快適性が非常に悪いとした場合、10名の被験者の評価の平均点が「2.5以下」である場合に「着用快適性」を呈すると評価する。
【0088】
(本開示の布の用途)
本開示の布は「抗菌性」および「着用快適性」の両方を呈することができる。従って、本開示の布は、このような抗菌性および着用快適性が求められる分野において特に制限なく使用することができる。例えば、衣類などの布製品全般に使用することができる。より具体的には、以下の用途などが考えられる。
【0089】
例えば、衣類(例えば、肌着、靴下、下着、シャツ、スポーツウェア、サポーターなど)、履物(例えば、靴およびブーツ等の中敷きなど)、寝具(例えば、布団、マットレス、シーツ、枕、枕カバーなど)、タオル、ハンカチ、医療用品全般(例えば、包帯、ガーゼ、マスク、医者および患者の服など)、サニタリ用品、スポーツ用品(グローブのインナーまたは武道で使用する籠手など)等が挙げられる。
【0090】
衣類のうち、肌着は、着用者の動きによって必ず伸縮が生じるため、本開示の布は、高頻度で電荷および/または電位を発生することができる。また、肌着などの脇下部分は、汗などの水分を吸い取り、菌などの増殖の温床となるが、本開示の布は、発生した電荷および/または電位に起因して、少なくとも菌の増殖を抑制することができるため、防臭のための菌対策用途として、顕著な効果を生じ得る。さらに、本開示の布は、肌着において特に優れた着用快適性を呈することができる。
また、靴下は、歩行等の動きによって、関節に沿って必ず伸縮が生じるため、本開示の布は、高頻度で電荷および/または電位を発生することができる。また、靴下、特に足裏部分は、汗などの水分を吸い取り、菌などの増殖の温床となるが、本開示の布は、少なくとも菌の増殖を抑制することができるため、防臭のための菌対策用途として、顕著な効果を生じ得る。さらに、本開示の布は、靴下において特に優れた着用快適性を呈することができる。
本開示の布は、抗菌性とともに優れた着用快適性を呈することから、包帯、ガーゼ、マスクならびに医者および/または患者の服などの医療用品に使用することができる。
【0091】
(本開示の布の好ましい実施形態)
本開示の布において、パラメータXの値が100000以下であることが好ましい。パラメータXの値が100000以下であることによって、伸縮性とともに効率よく電荷および/または電位を発生させることができ、衣類、特に肌着、靴下、下着、シャツ、スポーツウェアおよびサポーターなどの衣類;ならびに、包帯、ガーゼ、マスクならびに医者および/または患者の服などの医療用品に適した着用快適性および抗菌性を奏することができる。
【0092】
本開示の布に含まれる電位発生フィラメントが圧電材料を含んで成ることが好ましい。圧電材料は、布の伸縮に応じて、適切に表面電位を発生させることができる。
【0093】
電位発生フィラメントが圧電材料を含む場合、圧電材料がポリ乳酸を含んで成ることが好ましい。ポリ乳酸は、布の伸縮に応じて適切に表面電位を発生させるとともに、その疎水性に起因して、さらりとした肌触りを提供することができ、布に着用快適性を付与することができる。
【0094】
本開示の布は、編物であることが好ましい。編物は、多数のループから構成され得るため、伸縮性、肌触り、通気性などに優れる。従って、適切な抗菌性とともにより適切な着用快適性を奏することができる。
【0095】
本開示の布は、抗菌性を呈することが好ましく、2.2以上の抗菌活性値を示すことがより好ましい。
【0096】
本開示の布は、着用快適性を呈することが好ましく、特に肌着、靴下、下着、シャツ、スポーツウェアおよびサポーターなどの衣類、特に菌が繁殖しやすい箇所や臭いの発生源となる部分、特に肌着やシャツの脇下部分、靴下の足裏部分などにおいて使用することができる。また、本開示の布は、着用快適性とともに抗菌性を有することから、包帯、ガーゼ、マスクならびに医者および/または患者の服などの医療用品においても使用することができる。
【0097】
[本開示の繊維製品]
さらに、本発明は、上記で説明した「本開示の布」を含む繊維製品に関する(以下、「本開示の繊維製品」と称する)。
【0098】
本開示の繊維製品は、第1の布と、必要に応じて第2の布とを含む。
第1の布は、上記で説明した「本開示の布」、つまり「電位発生フィラメントを含んで成る糸を含む布」であり、かかる糸のループを含んでいてよく、以下の式(I):
X=(A+B)×C×D×E (I)
[式中、A、B、C、DおよびEは、上記で定義した通りである]
で示されるパラメータXの値が1000以上である布である。
第2の布は、必要に応じて伸縮性を有する布である。
【0099】
換言すると、本開示の繊維製品は、本開示の布(第1の布)と、必要に応じて伸縮性を有する布(第2の布)とを組み合わせて含むことができる。また、第3、第4、第5・・・などの他の布を必要に応じて含んでいてもよい。
【0100】
本開示の繊維製品は、少なくとも第1の布と第2の布とを含むことが好ましい。
【0101】
(第1の布)
本開示において、「第1の布」は、上記で説明した「本開示の布」であり、本開示の繊維製品において、本開示の布を特に制限なく使用することができる。
【0102】
(第2の布)
第2の布は、例えば、織物、編物、不織布などであってよい。第2の布は、繊維を含む限り、特に制限はない。繊維の種類、形状、太さ、寸法などに特に制限はない。
【0103】
本開示において「第2の布」は、必要に応じて「伸縮性」を有することが好ましい。第2の布における「伸縮性」とは、伸びて、縮んで、好ましくは元の形状に戻る性質を意味する。第2の布における「伸縮性」は、第1の布、つまり本開示の布が有する伸縮性よりも大きくてもよく、本開示の布が有する伸縮性よりも小さくてもよい。
【0104】
布の伸縮性を示す指標として、例えば、「JIS L 1096」の「引張強さ試験」に基づく「伸縮率」が挙げられる。
【0105】
例えば、50%の伸縮率とは、布または布のサンプルを一定方向に伸ばしたとき、寸法が最大で1.5倍に伸びることを示す。つまり、50%の伸縮率は、150%の伸長率を意味する。
【0106】
第2の布は、第1の方向において、40%以上の伸縮率(または140%以上の伸長率)を有することが好ましい。第1の方向は、織物の場合、縦糸の方向であってよく、編物の場合、ループのウェール方向であってよい。第1の方向は「タテ方向」と称することもできる。
第2の布は、第1の方向において、上限値として、例えば150%以下の伸縮率(または250%以下の伸長率)を有することが好ましい。
【0107】
第2の布は、第1の方向に対して垂直な第2の方向において、40%以上の伸縮率(または140%以上の伸長率)を有することが好ましい。第2の方向は、織物の場合、横糸の方向であってよく、編物の場合、ループのコース方向であってよい。第2の方向は「ヨコ方向」と称することもできる。
第2の布は、第2の方向において、上限値として、例えば100%以下の伸縮率(または200%以下の伸長率)を有することが好ましい。
【0108】
第2の布は、第1の布と組み合わせて使用することができ、第2の布は、任意の方向において、第1の布よりも高い伸縮率を有していてよい。換言すると、第1の布は、任意の方向において、第2の布よりも低い伸縮率を有していてよい。
【0109】
第2の布が第1の布よりも高い伸縮性および/または伸縮率を有することで、あるいは第1の布が第2の布よりも低い伸縮性および/または伸縮率を有することで、本開示の繊維製品は、第2の布の部分によって、さらなる着用快適性を呈することができる。第1の布は、本開示の布であることから、上述の抗菌性および着用快適性を呈することができるため、本開示の繊維製品は、第2の布によって、さらなる追加の着用快適性を呈することができる。
【0110】
第2の布が第1の布よりも高い伸縮性、特に伸縮率を有するための手段として、特に制限はない。例えば、第2の布に含まれ得る糸として弾性糸を使用することなどが挙げられる。また、第2の布が織物である場合には縦糸と横糸との間隔を調節したり、織り方を変更することで目的の伸縮性を達成してもよい。第2の布が編物である場合にはループの間隔を調節したり、編み方を変更することで目的の伸縮性を達成してもよい。第2の布が不織布である場合には、目付、繊維長や繊維径などを調節することで目的の伸縮性を達成してもよい。
【0111】
あるいは、第1の布は、任意の方向において、第2の布よりも高い伸縮性および/または伸縮率を有していてよい。換言すると、第2の布は、任意の方向において、第1の布よりも低い伸縮性および/または伸縮率を有していてよい。第1の布の伸縮性および/または伸縮率が第2の布の伸縮性および/または伸縮率よりも高いことによって、繊維製品全体を伸縮させた際、第1の布に応力をより効率よく集中させることができる。ひいては、第1の布において、より効率よく抗菌性を奏することができる。
【0112】
第2の布は、繊維として、上記の「電位発生フィラメントを含んで成る糸」を含んでいてよい。このような糸を第2の布が含むことで、本開示の繊維製品は、第2の布の部分においても、第1の布の部分に追加して、さらなる抗菌性を呈することができる。
【0113】
本開示の繊維製品において、第2の布は、例えば縫製により、第1の布と結合することができる。第1の布および第2の布は、連結糸または編み込みまたは縫製により互いに結合することもできる。
【0114】
例えば
図9に本開示の繊維製品100を模式的に示す。繊維製品100では、第1の布101と第2の布102とが例えば縫製によって互いに結合されている。第1の布101と第2の布102は連続面を形成するように結合されていることが好ましい。
第2の布102は、第1の布101よりも高い伸縮性および/または伸縮率を有していてよい。換言すると、第1の布101は、第2の布102よりも低い伸縮性および/または伸縮率を有していてよい。このような第2の布102によって、さらなる着用快適性を呈することができる。
あるいは、第1の布101は、第2の布102よりも高い伸縮性および/または伸縮率を有していてよい。換言すると、第2の布102は、第1の布101よりも低い伸縮性および/または伸縮率を有していてよい。このような第2の布102によって、第1の布101に応力をより効率よく集中させることができる。
【0115】
本開示において第1および第2の布の形状や組み合わせる枚数に特に制限はない。
【0116】
例えば、1枚の第1の布と4枚の第2の布とを組み合わせた繊維製品200を
図10に模式的に例示する。
図10に示す形態では、1枚の第1の布201の周囲に4枚の第2の布202a~202dが配置されて縫製により結合されている。
【0117】
第2の布202a~202dが、第1の布201よりも高い伸縮性および/または伸縮率を有している場合、このような第2の布202a~202dによって、さらなる着用快適性を呈することができる。換言すると、第2の布202a~202dが第1の布201と比べてより伸縮することによって、より優れた着用快適性を呈することができる。
【0118】
第1の布201が、第2の布202a~202dよりも高い伸縮性および/または伸縮率を有している場合、このような第2の布202a~202dによって、第1の布201に応力をより効率よく集中させることができる。換言すると、第1の布201が第2の布202a~202dと比べてより伸縮することによって、第1の布201に応力をより効率よく集中させることで、さらなる抗菌性を呈することができる。
【0119】
第1の布と第2の布とが連結糸によって互いに結合された繊維製品300を
図11に模式的に例示する。
図11では第1の布301と第2の布302とが連結糸によって互いに結合されて成る2層構造を有する繊維製品300が模式的に示されている。
【0120】
連結糸は、第1の布301および第2の布302の縁部だけでなく、それぞれの面を互いに結合させるように、面全体にわたって連結糸が存在していてよい。
連結糸として特に制限はなく、市販の糸、第1の布や第2の布に含まれ得る糸を使用してよい。
【0121】
繊維製品300は編み込みまたは縫製によって形成されてもよい。
【0122】
第2の布302が、第1の布201よりも高い伸縮性および/または伸縮率を有している場合、第1の布301に応力をより効率よく集中させることで、さらなる抗菌性を呈することができる。換言すると、第2の布302が第1の布301と比べてより伸縮することによって、第1の布301も一緒に伸縮して、さらなる抗菌性を呈することができる。
【0123】
第1の布301が、第2の布302よりも高い伸縮性および/または伸縮率を有している場合、抗菌性とともにさらなる着用快適性を呈することができる。換言すると、第1の布301が第2の布302と比べてより伸縮することによって、抗菌性とともにさらなる着用快適性を呈することができる。
【0124】
布301が第2の布であってよく、布302が第1の布であってもよい。
【0125】
このようなことから、本開示の繊維製品は、本開示の布と同様に衣類などの布製品全般おいて使用することができる。特に菌が繁殖しやすい箇所や臭いの発生源となる部分、例えば肌着やシャツなどの脇下部分、靴下の足裏部分などに本開示の繊維製品の第1の布を適用し、その他の部分に第2の布を適用することが好ましい。
【0126】
(他の布)
本開示の繊維製品は、第3、第4、第5・・・の布として、例えば、織物、編物、不織布などの布を必要に応じて含んでいてよい。これらの布は、繊維を含む限り、特に制限はない。繊維の種類、形状、太さ、寸法などに特に制限はない。また、本開示の繊維製品は、革製の布などをさらに含んでいてもよい。
【0127】
本開示の布および繊維製品は、上記で説明したものに限定されるものではない。以下にて、本開示の布および繊維製品を具体的な実施例を挙げて詳説するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0128】
(糸の準備)
以下の糸(A)~(N)を準備した。
糸(A):PLA84T72 FOY(帝人株式会社製)
糸(B):PLA84T72 DTY(帝人株式会社製)
糸(C):PLA56T72 DTY(帝人株式会社製)
糸(D):PLA170T144 DTY(帝人株式会社製)
糸(E):PLA84T24 FOY//2SZ500T 双糸(帝人株式会社製)
糸(F):PLA FTY(PLA84T72 DTY/PU44T1)(帝人株式会社製)(PU44T1(旭化成株式会社製)を芯糸として、イタリー式撚糸機を用いて、PLA84T72 DTYのカバリングヤーンを作製した。)
糸(G):PET84T72 DTY(帝人株式会社製)
糸(H):ナイロンウーリー糸78T72(帝人株式会社製)
糸(I):PET170T144 DTY(帝人株式会社製)
糸(J):PET FTY(PET84T72 DTY/PU44T1)(帝人株式会社製)
糸(K):テラマック84T36 DTY(ユニチカ株式会社製)
糸(L):ベンベルグFB84T45(旭化成株式会社製)
糸(M):60番手綿紡績糸
糸(N):30番手綿紡績糸
【0129】
PLA:ポリ乳酸系の糸(圧電ポリ乳酸を含んで成る糸)
PET:ポリエチレンテレフタレート系の糸
PU:ポリウレタン系の糸
【0130】
(実施例1)
糸(B):PLA84T72 DTY(帝人株式会社製)を用いて、表1に示す条件に従って、ダブル丸編み機(28G)にてスムース組織の編地を作製し、110℃の条件で染色加工後、140℃の条件で乾熱セットを実施した。
【0131】
(実施例2~23および比較例1~10)
実施例1と同様にして実施例2~23および比較例1~10の布を以下の表1~3に示す条件に従って作製した。
【0132】
各布の「抗菌活性値」および「着用快適性」は、以下の手順に従って決定することができる。結果を以下の表1~3に示す。
【0133】
[布の抗菌活性値]
布の抗菌活性値は「JIS L 1902」の「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」で規定される試験方法のうち「菌液吸収法」に準じて決定することができる。具体的には、抗菌活性値は、以下の式に基づいて決定することができる。
[抗菌活性値]=[log(18時間のチャンバ引張試験後の生菌数算術平均)]-[log(18時間のチャンバ静置試験後の生菌数算術平均)]
「チャンバ引張試験」および「チャンバ静置試験」については以下の通りである。
【0134】
(チャンバ引張試験)
例えば特開2019-33709号公報に記載の装置・方法に準じ、下記の条件にて試験を行い、18時間後の菌数の変化を調べ、生菌数算術平均を決定した。
伸縮条件
サンプル試料(12層):折りたたむことで12層のループ状サンプルとした(ヨコ30mm、タテ60mm)。
初期荷重:150g
振幅:10mm
伸縮繰り返し周波数:3Hz
【0135】
(チャンバ静置試験)
チャンバ引張試験に準じる条件でサンプル試料をセットし、伸縮を与えない条件で試験を行い、18時間後の菌数の変化を調べ、生菌数算術平均を決定した。
【0136】
試験菌液として、黄色ブドウ球菌の菌液を使用した。
【0137】
[布の着用快適性]
実施例1~23および比較例1~10の布から縫製により肌着(各布100%)を作製し、以下の評価基準に従って、10名の被験者により「着用快適性」を評価した。
評価基準
1:快適性に非常に優れる
2:快適性に優れる
3:快適性が普通である
4:快適性が悪い
5:快適性が非常に悪い
10名の被験者による評価結果の平均点を以下の表1~3に示す。
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
本開示の布(実施例1~23)は、いずれもパラメータXが1000以上である。
対して、比較例1~10の布は、いずれもパラメータXが1000未満であり、抗菌性に劣ることがわかった。
【0142】
[繊維製品]
繊維製品A:肌着
肌着の脇下部分に実施例1の布を配置し、その他の部分に第2の布としてTWINCOT UV 25250(旭化成せんい社製)(タテ伸縮率 74.5%、ヨコ伸縮率92.4%)を配置して縫製により繊維製品A(肌着)を作製した。
【0143】
繊維製品B:靴下
靴下編機(200N)を用いて、糸(D):PLA170T144 DTY(帝人株式会社製)を表糸、糸(F):PLA FTY(PLA84T72 DTY/PU44T1)(帝人株式会社製)(PU44T1(旭化成株式会社製)を芯糸として、イタリー式撚糸機を用いて、PLA84T72 DTYのカバリングヤーンを作製した。)を裏糸としたプレーティング天竺組織の靴下を製編した。
【0144】
繊維製品C:靴下
靴下編機(200N)を用いて、糸(M):60番手綿紡績糸を表糸、糸(F)を裏糸としたプレーティング天竺組織の靴下を製編した。
【0145】
[伸縮率]
布の伸縮率は、JIS L1096に基づいて決定した。
(1)布のタテ方向(ウェール方向)およびヨコ方向(コース方向)のそれぞれにおいて短冊状のサンプル(約300mm(長さ)×約50mm(幅))を採取する。
(2)サンプルを引張試験機のクランプで挟持する(クランプ間の距離:200mm)。
(3)サンプルを200mm/分の速度で引っ張る。
(4)サンプルの最大の伸びを測定する。
(5)伸縮率を決定する。
【0146】
[繊維製品の着用快適性]
上記の着用快適性の評価基準に従って、10名の被験者により繊維製品A~Cを評価すると、評価結果の平均点はいずれも「2以下」であり、優れた着用快適性を呈することがわかった。
【0147】
また、上記の繊維製品A~Cでは、パラメータXを満たすことから、抗菌性を有する。
【0148】
本発明は上記の実施例に限定されるものでなく、本開示の範囲内において、適宜、必要に応じて変更してよい。
本開示の布および繊維製品は、抗菌性および着用快適性を呈することから、衣類などの繊維製品、例えば、肌着、靴下、下着、シャツ、スポーツウェアおよびサポーターなどにおいて好適に使用することができる。特に、本開示の布は、菌が繁殖しやすい箇所や臭いの発生源となる部分、特に肌着やシャツなどの脇下部分や靴下の足裏部分などにおいて使用することができる。
また、本開示の布および繊維製品は、抗菌性および着用快適性を呈することから、例えば、包帯、ガーゼ、マスクならびに医者および患者の服などの医療用品にも使用することができる。
あるいは、本開示の布および繊維製品は、あらゆる製品分野、例えば、ハンカチ、タオル、履物(例えば靴およびブーツなどの中敷き等)、帽子、寝具(例えば布団、マットレス、シーツ、枕および枕カバー等)、ぬいぐるみ、ペット関連商品(例えばペット用マット、ペット用服およびペット用服のインナー等)、各種マット品(例えば足用マットおよびトイレ用マット等)、カーテン、台所用品(例えばスポンジおよび布巾等)、シート(例えば車、電車および飛行機などのシート等)、ソファ、サニタリ用品、スポーツ用品などにおいても使用してよい。