(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056503
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】煙濃度制御装置及びこれを備えた煙感知器試験装置
(51)【国際特許分類】
G08B 17/00 20060101AFI20220404BHJP
G08B 17/10 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G08B17/00 K
G08B17/10 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020164294
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】白男川 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】橋口 寛
(72)【発明者】
【氏名】橋本 幸司
【テーマコード(参考)】
5C085
5G405
【Fターム(参考)】
5C085AA03
5C085CA11
5C085EA27
5C085FA23
5G405AA01
5G405AB02
5G405CA13
5G405EA27
5G405FA16
(57)【要約】
【課題】煙濃度を目標濃度に制御することが容易な煙濃度制御装置及びこれを備えた煙感知器試験装置を提供する。
【解決手段】煙感知器に煙を供給して煙感知器の試験を行う煙感知器試験装置における煙の濃度を制御する煙濃度制御装置であって、煙を発生する煙発生手段と、煙発生手段で発生した煙を、煙感知器が設置された試験部に供給する送風ファンと、試験部の煙濃度が、試験に応じた目標濃度となるように送風ファンの回転数を制御する制御手段と、を備えた。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
煙感知器に煙を供給して前記煙感知器の試験を行う煙感知器試験装置における前記煙の濃度を制御する煙濃度制御装置であって、
煙を発生する煙発生手段と、
前記煙発生手段で発生した煙を、前記煙感知器が設置された試験部に供給する送風ファンと、
前記試験部の煙濃度が、前記試験に応じた目標濃度となるように前記送風ファンの回転数を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする煙濃度制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、作動試験又は不作動試験の際、それぞれに応じた前記目標濃度に対応する回転数で前記送風ファンを駆動することを特徴とする請求項1記載の煙濃度制御装置。
【請求項3】
前記試験部の煙濃度を測定する煙濃度測定手段を備え、
前記制御手段は、前記煙濃度測定手段で測定された煙濃度が前記目標濃度以下の場合、前記送風ファンの回転数を下降させ、前記煙濃度が前記目標濃度よりも高い場合、前記送風ファンの回転数を上昇させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の煙濃度制御装置。
【請求項4】
前記試験部の煙濃度を測定する煙濃度測定手段を備え、
前記制御手段は、前記煙濃度測定手段で測定された煙濃度が前記目標濃度以下の場合、前記送風ファンの回転数をそのまま維持し、前記目標濃度よりも高い場合、前記送風ファンの回転数を、予め設定された煙濃度下降用の回転数に制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の煙濃度制御装置。
【請求項5】
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の煙濃度制御装置と、
前記煙発生手段で発生した煙が一方向に流れる煙通過風路と、を備え、
前記送風ファン及び前記試験部が前記煙通過風路に配置されていることを特徴とする煙感知器試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙感知器の試験を行うための煙感知器試験装置における煙の濃度を制御する煙濃度制御装置及びこれを備えた煙感知器試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、試験対象の煙感知器を収容した検査槽内に煙を供給し、検査槽内の煙濃度を、煙濃度制御装置を用いて一定値に制御した状態で、煙感知器の試験を行う煙感知器試験装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
煙感知器試験装置にて行われる試験には、作動試験と不作動試験がある。作動試験は、検査槽内の煙濃度を作動濃度(例えば、公称感度の1.5倍)にし、30秒以内で煙感知器が火災信号を発信することを確認する試験である。不作動試験は、検査槽内の煙濃度を不作動濃度(例えば、公称感度の0.5倍)にし、5分以内で煙感知器が火災信号を発信しないことを確認する試験である。
【0004】
特許文献1の煙濃度制御装置は、紙送り機構を用いて試験紙をヒーター部に供給し、ヒーター部にて試験紙を加熱することにより煙を発生させている。そして、ヒーター部に送る試験紙の長さを変えることで煙の発生量を調整し、検査槽内の煙濃度を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
煙感知器試験装置では、検査槽内を、試験に応じて作動濃度又は不作動濃度といった各目標濃度に制御することが求められる。特許文献1の煙濃度制御装置では、紙送り機構の制御により煙の発生量を調整して検査槽内の煙濃度を制御している。この制御方法では、目標濃度を達成するにあたり、紙送り機構の紙の送り量に対して正確で細かな制御が求められるが、紙の送り量と煙発生量の関係が必ずしも一定ではないため、検査槽内の煙濃度を目標濃度に制御することが難しい。また、煙の発生量が多すぎて煙濃度が目標濃度よりも上昇した場合、クリーンエアを導入して煙濃度を下げる必要が生じ、クリーンエアの制御も必要となるなど制御が複雑になるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような点を鑑みなされたもので、煙濃度を目標濃度に制御することが容易な煙濃度制御装置及びこれを備えた煙感知器試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る煙濃度制御装置は、煙感知器に煙を供給して煙感知器の試験を行う煙感知器試験装置における煙の濃度を制御する煙濃度制御装置であって、煙を発生する煙発生手段と、煙発生手段で発生した煙を、煙感知器が設置された試験部に供給する送風ファンと、試験部の煙濃度が、試験に応じた目標濃度となるように送風ファンの回転数を制御する制御手段と、を備えたものである。
【0009】
本発明に係る煙感知器試験装置は、上記の煙濃度制御装置と、煙発生手段で発生した煙が一方向に流れる煙通過風路と、を備え、送風ファン及び試験部が煙通過風路に配置されているものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、送風ファンの回転数の制御により煙濃度を制御するため、煙濃度を目標濃度に制御することが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る煙感知器試験装置の構成を示す概略図である。
【
図2】実施の形態1に係る煙濃度制御装置における送風ファンの回転数と煙濃度との関係をまとめた表を示す図である。
【
図3】実施の形態1に係る煙感知器試験装置における作動試験時の動作を示すフローチャートを示す図である。
【
図4】実施の形態1に係る煙感知器試験装置における不作動試験時の動作を示すフローチャートを示す図である。
【
図5】実施の形態2に係る煙感知器試験装置の構成を示す概略図である。
【
図6】実施の形態2に係る煙濃度制御装置において送風ファンの回転数を変化させた場合の煙濃度の変化を示すグラフを示す図である。
【
図7】実施の形態2に係る煙濃度制御装置における作動試験時の送風ファンの制御を示すフローチャートを示す図である。
【
図8】実施の形態2に係る煙濃度制御装置における不作動試験時の送風ファンの制御を示すフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る煙感知器試験装置の構成を示す概略図である。
本実施の形態1に係る煙感知器試験装置は、試験対象の煙感知器10に煙を供給して煙感知器10の試験を行う装置であって、煙を発生する煙発生手段1と、煙発生手段1で発生した煙が通過する煙通過風路2と、を備えている。煙通過風路2には、試験対象の煙感知器10の試験を行う試験部3と、送風ファン4と、が配置され、これらが配管20により接続されている。
【0013】
煙発生手段1は、煙として例えば、エアロゾルを発生する手段である。煙発生手段1は、流動パラフィン又は濾紙を例えば400℃のヒーターでくん焼することで煙を発生させるものである。煙発生手段1にて発生する煙の量はほぼ一定である。煙発生手段1における煙発生方法は、この方法に限るものではなく、他の方法を用いてもよい。
【0014】
試験部3は、煙感知器10の試験を行う部分である。試験部3は、煙感知器10を保持する保持器30を複数備えている。複数の保持器30は、配管20によって並列に接続されている。保持器30は、煙発生手段1にて発生した煙が通過する試験空間(図示せず)を有し、試験空間に、煙感知器10において煙を感知する部分である検煙部(図示せず)が配置されて試験が行われる。なお、
図1には、試験部3が複数の保持器30を備えた例を示しているが、保持器30の台数は任意であり、1台でもよい。また、保持器30は、煙感知器10を着脱可能に保持できればよく、機械的に固定して保持していなくてもよい。
【0015】
煙通過風路2は、煙が一方向に流れる回路である。煙通過風路2は、クリーンエアを煙通過風路2内に投入するクリーンエア投入口21と、煙通過風路2内の煙を排出する排煙口22とを有する。クリーンエア投入口21は、クリーンエアを外部から取り入れる開口である。排煙口22は、煙通過風路2内の煙を排出するための開口である。クリーンエア投入口21及び排煙口22は、電気制御により開閉可能に構成されている。
【0016】
送風ファン4は、煙発生手段1で発生した煙を
図1の矢印方向に送風するファンである。送風ファン4は、インバータ(図示せず)により回転数の制御が可能なものである。
【0017】
煙感知器試験装置は更に、試験部3の煙濃度を制御する煙濃度制御装置9を備えている。煙濃度制御装置9は、煙発生手段1と、送風ファン4と、煙濃度測定手段5と、煙感知器試験装置全体を制御する制御手段6と、を備えている。
【0018】
煙濃度測定手段5は、煙通過風路2内の煙濃度を測定する手段である。煙濃度測定手段5にて測定された煙濃度は、試験部3の試験空間内の煙濃度と同じと見なされる。煙濃度測定手段5は、空気中に煙粒子がどの程度存在するかを測定する。煙濃度測定手段5は、例えば光学的に濃度を測定する方法にて測定を行う。光学的に濃度を測定する方法とは、発光部から発光された一定の光を受光部にて受光し、その受光量に応じて煙の濃度を検知する方法である。煙の濃度は、煙に光を透過させた時の光の単位通過距離あたりの減光率[%/m]で表現する。煙濃度測定手段5における測定方法は、この方法に限るものではなく、他に例えば放射性物質の電離電流変化率を用いて測定する方法等を用いてもよい。また、複数の保持器30に取り付けられる煙感知器10のうちの1つを基準感知器として、基準感知器から出力される煙濃度を煙濃度測定手段5の測定値に置き換えてもよい。煙濃度測定手段5の測定結果は、制御手段6に出力される。
【0019】
制御手段6は、煙濃度測定手段5の測定結果に基づいて、送風ファン4の回転数の制御等を行う。
【0020】
ところで、従来の煙濃度制御装置は、煙濃度の制御を紙送り機構の制御によって行っていたため、煙の発生量の調整が難しく、それ故、煙濃度を目標濃度に制御することが難しい。
【0021】
これに対し、本実施の形態1の煙濃度制御装置9は、送風ファン4の回転数を制御して煙濃度の制御を行う。本発明者らは、送風ファン4の回転数が小さい場合と大きい場合とで、試験部3の煙濃度に差異が生じることを発見した。この知見に基づき、本実施の形態1では、煙発生手段1から発生する煙量は一定のまま、送風ファン4の回転数を制御して煙濃度を制御する。これにより、紙送り機構を制御して煙の発生量を調整することで煙濃度を制御する構成に比べて、煙通過風路2内の煙濃度を目標濃度に容易に制御することができる。
【0022】
本発明者らは、送風ファン4の回転数と煙濃度との関係を実験により確認した。次の
図2に実験結果を示す。
【0023】
図2は、実施の形態1に係る煙濃度制御装置における送風ファンの回転数と煙濃度との関係をまとめた表を示す図である。
図2において、「回転数」は、送風ファン4の定格の最大回転数に対する回転数の比で示している。具体的に例えば「FAN20%」とは、送風ファン4の回転数を、最大回転数の20%とした場合を示している。「煙濃度」は、送風ファン4の回転数を「回転数」の欄で特定した回転数としたときの、煙濃度測定手段5の測定煙濃度[%/m]を示している。
図2より明らかなように、送風ファン4の回転数が上がるにつれて、C1→C2→C3→C4→C5のように、煙濃度が減少している。
【0024】
このような関係が得られるのは、以下の理由があると考えられる。すなわち、煙濃度の変化は、送風ファン4に付着する煙粒子(ここでは、エアロゾル粒子)の量が、送風ファン4の回転数によって変化することに因るものと考えられる。つまり、送風ファン4の回転数が小さい場合は、送風ファン4に付着する煙粒子が少ないため、空気中に漂う粒子数が減少せず、よって煙濃度が上昇すると考えられる。一方、送風ファン4の回転数が大きい場合は、送風ファン4に付着する煙粒子が多く、空気中に漂う粒子数が減少し、よって煙濃度が下降すると考えられる。
【0025】
図2に示したように、送風ファン4の回転数と煙濃度とには対応関係があるため、本実施の形態1では、作動試験濃度に対応する送風ファン4の回転数と、不作動試験濃度に対応する送風ファン4の回転数と、を予め求めて制御手段6に設定しておく。そして、試験内容に応じて、対応する回転数で送風ファン4を駆動することで、煙通過風路2内の煙濃度を、対応の試験濃度に制御する。
【0026】
図3は、実施の形態1に係る煙感知器試験装置における作動試験時の動作を示すフローチャートを示す図である。
まず、煙濃度制御装置9の制御手段6は、煙発生手段1を駆動する(ステップS1)と共に、送風ファン4を作動試験に対応する回転数で駆動する(ステップS2)。制御手段6は、煙濃度測定手段5の測定煙濃度が作動試験濃度に達したかを判断する(ステップS3)。測定煙濃度が作動試験濃度に達していなければ、ステップS3に戻る。測定煙濃度が作動試験濃度に達していれば、試験部3に設置された各煙感知器10に電源を供給し(ステップS4)、各煙感知器10からの火災信号の出力の有無を内部に記録する(ステップS5)。そして、制御手段6は、煙感知器10に電源を供給してから30秒間経過したかを判断し(ステップS6)、30秒間経過していなければステップS5に戻る。制御手段6は、煙感知器10に電源を供給してから30秒間経過したと判断した場合には、各煙感知器10への電源供給を停止する(ステップS7)。つまり、ステップS5及びステップS6により、制御手段6は、煙感知器10に電源を供給してから30秒間、各煙感知器10からの火災信号の出力の有無を内部に記録する処理を行う。
【0027】
なおステップS4で、各煙感知器10に電源を供給(投入)としたが、各煙感知器10には予め電源を投入した状態として、試験部3の外に設置し、作動試験濃度に達した状態で各煙感知器10を試験部3に配置してもよい。また、作動試験濃度に達する前までは、各煙感知器10を通過しない経路に煙を通しておき、作動試験濃度に達した時点で各煙感知器10を通過する経路に切り替える方法としてもよい。
【0028】
そして、制御手段6は、内部の記録に基づいて各煙感知器10の合否を判定する(ステップS8)。具体的には、制御手段6は、内部の記録において、火災信号を出力した煙感知器10は「合格」、火災信号を出力していない煙感知器10は「不合格」と判定する。
【0029】
図4は、実施の形態1に係る煙感知器試験装置における不作動試験時の動作を示すフローチャートを示す図である。
まず、煙濃度制御装置9の制御手段6は、煙発生手段1を駆動する(ステップS11)と共に、送風ファン4を不作動試験濃度に対応する回転数で駆動する(ステップS12)。制御手段6は、煙濃度測定手段5の測定煙濃度が不作動試験濃度に達したかを判断する(ステップS13)。測定煙濃度が不作動試験濃度に達していなければ、ステップS13に戻る。測定煙濃度が不作動試験濃度に達していれば、試験部3に設置された各煙感知器10に電源を供給し(ステップS14)、各煙感知器10からの火災信号の出力の有無を内部に記録する(ステップS15)。そして、制御手段6は、煙感知器10に電源を供給してから5分間経過したかを判断し(ステップS16)、5分間経過していなければステップS15に戻る。制御手段6は、煙感知器10に電源を供給してから5分間経過したと判断した場合には、各煙感知器10への電源供給を停止する(ステップS17)。つまり、ステップS15及びステップS16により、制御手段6は、電源を供給してから5分間、各煙感知器10からの火災信号の出力の有無を内部に記録する処理を行う。
【0030】
そして、制御手段6は、内部の記録に基づいて各煙感知器10の合否を判定する(ステップS18)。すなわち、制御手段6は、内部の記録において、火災信号を出力した煙感知器10は「不合格」、火災信号を出力していない煙感知器10は「合格」と判定する。
【0031】
なお、上記では、試験対象の煙感知器が、火災信号を出力する煙感知器である場合について説明したが、火災情報信号を出力するアナログ式煙感知器でもよい。アナログ式煙感知器は、周囲の煙濃度が一定の範囲内の煙濃度になったときに当該煙濃度に対応する火災情報信号を出力するものである。煙感知器試験装置によりアナログ式煙感知器の試験を行うこともできる。具体的には、煙濃度測定手段5の測定値と、アナログ式煙感知器から出力される火災情報信号に対応する煙濃度と、の差が基準の範囲以内であれば「合格」、基準の範囲を逸脱した場合は「不合格」と判定することもできる。
【0032】
以上のように、実施の形態1の煙濃度制御装置9は、送風ファン4の回転数の制御により、煙濃度を、作動試験濃度又は不作動試験濃度といった目標濃度に容易に制御できる。制御手段6は、作動試験濃度と不作動試験濃度とのそれぞれに対応した送風ファン4の回転数を記憶しており、試験時には、送風ファン4の回転数を、試験に応じた濃度に対応する回転数にすればよい。このように、送風ファン4の回転数の制御により煙濃度を自由に変更でき、各目標濃度に容易に制御できる。よって、従来の紙送り機構の制御を用いた煙濃度制御よりも、煙濃度の制御が容易である。
【0033】
なお、上記
図3及び
図4の制御において、送風ファン4の回転数を作動試験又は不作動試験に対応する回転数に一定にしておくことで、煙通過風路2内は、理想的には目標濃度に一定に保たれる。しかし、何らかの要因で煙濃度が変動する可能性がある。よって、煙濃度測定手段5により例えば1秒毎など定期的に煙濃度を測定し、測定煙濃度に応じて以下のように回転数を制御してもよい。すなわち、測定煙濃度が目標濃度以下であれば、送風ファン4の回転数を下降させて煙濃度を上昇させ、測定煙濃度が目標濃度よりも高ければ、送風ファン4の回転数を上昇させて煙濃度を下げるようにしてもよい。このように、測定煙濃度が目標濃度から外れても、送風ファン4の回転数制御のみによって煙濃度を制御できるため、つまりクリーンエアの導入などによらず煙濃度を制御できるため、煙濃度の制御が容易である。送風ファン4の回転数の制御は、具体的には送風ファン4に供給する電源電圧のPWMデューティ比を制御することによって行えば良い。
【0034】
なお、送風ファン4の回転数を変化させると、煙通過風路2を通過する煙の風速も変化することになる。試験時の試験風速は、許容範囲が規格で決められている。このため、目標濃度が得られる回転数で送風ファン4を駆動している際に、風速も規格を満たすよう、例えば送風ファン4のブレードの角度及び羽根の大きさなどを調整するとよい。
【0035】
実施の形態2.
上記実施の形態1の煙通過風路2は、煙が循環せずに一方向に流れる回路であったが、本実施の形態2の煙通過風路2Aは、煙が循環する回路である。以下、本実施の形態2が実施の形態1と異なる構成及び制御を中心に説明するものとし、本実施の形態2で説明されていない構成及び制御は実施の形態1と同様である。
【0036】
図5は、実施の形態2に係る煙感知器試験装置の構成を示す概略図である。
図5において、
図1と同一部分には、同一符号を付して、その説明を適宜省略又は簡略化する。
本実施の形態2に係る煙感知器試験装置は、煙を発生する煙発生手段1と、煙発生手段1で発生した煙が通過する煙通過風路2Aとを備えている。煙通過風路2Aには、試験対象の煙感知器10の試験を行う試験部3と、送風ファン4と、1次バッファタンク7と、2次バッファタンク8と、が配置され、これらが配管20で接続されている。
【0037】
煙通過風路2Aは、煙が循環する回路である。煙通過風路2Aは、煙発生手段1にて発生した煙を試験部3に導く往路2aと、試験部3から流出した煙を往路2aに戻す復路2bとを有する。往路2aは、1次バッファタンク7と、送風ファン4と、2次バッファタンク8と、試験部3と、が配管20により接続されて構成されている。復路2bは配管23により構成されている。
【0038】
1次バッファタンク7及び2次バッファタンク8は、流入した流体を一時的に貯留するタンクである。1次バッファタンク7は、送風ファン4の上流に配置され、煙発生手段1からの煙と、クリーンエア投入口21からのクリーンエアと、試験部3から流出して往路2aに戻ってきた煙と、を一時的に貯留する。2次バッファタンク8は、送風ファン4の下流で試験部3との間に配置され、送風ファン4からの煙を一時的に貯留する。2次バッファタンク8には、実施の形態1と同様の煙濃度測定手段5が配置されている。
【0039】
1次バッファタンク7内では、煙発生手段1からの煙と、クリーンエア投入口21からのクリーンエアと、試験部3から流出して往路2aに戻ってきた煙とが混合される。混合された煙は、送風ファン4にて撹拌されて均一濃度となり、2次バッファタンク8に送られる。2次バッファタンク8は、送風ファン4からの煙を一時的に貯留することで、煙の流量変動を抑制し、試験部3に供給する供給量を安定させる。このように、煙通過風路2Aにおいて試験部3の上流に1次バッファタンク7及び2次バッファタンク8を設けることで、濃度が均一化された煙が試験部3に安定的に送られるようになっている。1次バッファタンク7及び2次バッファタンク8は、煙の濃度を均一化する均一化装置を構成している。
【0040】
次に、本実施の形態2の煙濃度制御装置9における送風ファン4の回転数制御について説明する。本実施の形態2の煙通過風路2Aは、煙が循環する回路であるため、煙発生手段1を駆動して煙を発生させ続けていると、煙通過風路2A内の煙濃度が上昇する。本実施の形態2の煙濃度制御装置9は、煙発生手段1を駆動したまま、煙通過風路2A内の煙濃度が試験に応じた目標濃度に一定に保たれるように送風ファン4の回転数を制御する。
【0041】
本発明者らは、煙発生手段1から一定量の煙が発生している状態における、送風ファン4の回転数と、煙濃度測定手段5により測定された煙濃度との関係を実験により求めた。実験結果を次の
図6に示す。
【0042】
図6は、実施の形態2に係る煙濃度制御装置において送風ファンの回転数を変化させた場合の煙濃度の変化を示すグラフを示す図である。
図6において横軸は時間[秒]、縦軸は、煙濃度測定手段5により測定された煙濃度[%/m]である。
【0043】
ここで、実験内容について説明する。T1-T2秒、T3-T4秒、T5-T6秒、T7-T8秒、T8-T9秒の間は、煙発生手段1を駆動し一定量の煙を煙通過風路2Aに供給している第1期間である。なお、第1期間中、クリーンエア投入口21及び排煙口22は閉じられている。
【0044】
T2-T3秒、T4-T5秒、T6-T7秒の間は、煙発生手段1を停止し、クリーンエア投入口21及び排煙口22を開放して煙通過風路2A内から煙粒子を排煙し、煙通過風路2A内の煙濃度を減少させている第2期間である。第2期間の終了は、煙濃度測定手段5にて測定された煙濃度が予め設定した設定濃度まで低下したタイミングとしている。
【0045】
図6から明らかなように、送風ファン4の回転数を「FAN20%」、「FAN40%」、「FAN60%」及び「FAN80%」とした場合、煙濃度が上昇している。一方、送風ファン4の回転数を「FAN100%」とした場合、煙濃度が下降している。煙濃度が上昇から下降に転じる送風ファン4の回転数、ここでは「FAN100%」は、煙濃度下降用回転数として予め制御手段6に記憶される。また、送風ファン4の回転数を上昇させるに連れ、煙濃度の上昇スピードが低下している。
【0046】
なお、
図6に示した数値は、実験結果の一例を示したに過ぎず、送風ファン4と、循環回路で構成された煙通過風路2Aと、のそれぞれの構造及び寸法等によって変化する。よって、
図6の例では、「FAN100%」が煙濃度下降用回転数となっているが、煙濃度下降用回転数は「FAN100%」に限られたものではない。
【0047】
本実施の形態2では、以上の送風ファン4の回転数と煙濃度との関係を用いて、煙濃度を制御する。
【0048】
図7は、実施の形態2に係る煙濃度制御装置における作動試験時の送風ファンの制御を示すフローチャートを示す図である。なお、
図7のフローチャートは、煙通過風路2A内の煙濃度を作動試験濃度に一定に制御するための送風ファン4の制御のみに着目したフローチャートとなっている。
煙濃度制御装置9の制御手段6は、送風ファン4をデフォルトの回転数にて駆動する(ステップS21)。デフォルトの回転数は、例えば「FAN20%」に設定される。そして、制御手段6は、煙濃度測定手段5の測定煙濃度と作動試験濃度とを比較する(ステップS22)。
【0049】
制御手段6は、測定煙濃度が作動試験濃度以下の場合、送風ファン4の回転数を現在の回転数に維持する(ステップS23)。
図6に示したように、煙通過風路2A内の煙濃度は、送風ファン4の回転数が一定のままでも上昇する。このため、ステップS23では、送風ファン4の回転数を現在の回転数に維持することで、煙濃度が上昇し、目標濃度に近づく。一方、ステップS22において、測定煙濃度が作動試験濃度よりも高い場合、送風ファン4の回転数を「FAN100%」、言い換えれば煙濃度下降用回転数にする(ステップS24)。送風ファン4の回転数を煙濃度下降用回転数にすることにより、煙通過風路2Aの煙濃度が下降し、作動試験濃度に近づく。
【0050】
以上の制御を繰り返すことにより、煙通過風路2Aは作動試験濃度に一定に制御される。煙濃度が作動試験濃度に一定に制御された状態での各煙感知器10の作動試験は、
図3に示した実施の形態1と同様である。
【0051】
ここで、試験の際には、1次バッファタンク7及び2次バッファタンク8を経て濃度の均一化が図られた煙が試験部3内に流入し、試験部3の試験空間内の煙濃度が目標濃度に一定に保持され、煙感知器10の試験が行われる。
【0052】
図8は、実施の形態2に係る煙濃度制御装置における不作動試験時の送風ファンの制御を示すフローチャートを示す図である。
図8のフローチャートは、ステップS22aのみが異なり、その他は
図7のフローチャートと同様である。ステップS22aでは、制御手段6は、煙濃度測定手段5の測定煙濃度と不作動試験濃度とを比較する(ステップS22a)。それ以降の動作は
図7と同様である。
【0053】
なお、デフォルトの回転数は、作動試験と不作動試験とで同じとしてもよいし、異ならせてもよい。作動試験濃度は、不作動試験濃度よりも高い。このため、作動試験時には、試験部3内の煙濃度を早く上昇させるべく、煙濃度の上昇スピードの高い、例えば「FAN20%」とし、不作動試験時には、「FAN20%」よりも煙濃度の上昇スピードの遅い、例えば「FAN60%」等としてもよい。
【0054】
以上のように、本実施の形態2の煙濃度制御装置9は、送風ファン4の回転数を制御して、煙濃度を作動試験濃度又は不作動試験濃度に一定に制御する。これにより、紙送り機構を制御して煙の発生量を調整することで煙濃度を制御する構成に比べて、煙通過風路2A内の煙濃度を目標濃度に容易に制御することができる。
【0055】
また、本実施の形態2の煙感知器試験装置では、1次バッファタンク7及び2次バッファタンク8を経て煙が試験部3に流入するようにしたので、濃度が均一化された煙を安定して試験部3に供給できる。
【0056】
なお本願では、エアロゾルを用いた空気中の濃度制御を送風ファンによる圧力差を用いて行い、煙感知器の火災感度試験装置に適用する例として説明してきたが、用途はこれに限らない。空気中のエアロゾル濃度制御が必要な場合に、送風ファンによる圧力差を用いて行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
1 煙発生手段、2 煙通過風路、2A 煙通過風路、2a 往路、2b 復路、3 試験部、4 送風ファン、5 煙濃度測定手段、6 制御手段、7 1次バッファタンク、8 2次バッファタンク、9 煙濃度制御装置、10 煙感知器、20 配管、21 クリーンエア投入口、22 排煙口、23 配管、30 保持器。