(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056511
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20220404BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20220404BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220404BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
D06N3/00
B32B5/24
B32B27/18 J
B32B27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020164303
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】沖野 真也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
【Fターム(参考)】
4F055AA18
4F055AA21
4F055CA12
4F055EA03
4F055EA04
4F055EA22
4F055EA23
4F055EA24
4F055EA27
4F055FA20
4F055FA40
4F055GA02
4F055GA11
4F055GA32
4F100AA25B
4F100AK41A
4F100AK51B
4F100AT00B
4F100BA02
4F100CA21B
4F100DG11A
4F100DG13A
4F100EC18
4F100EH46
4F100EJ91
4F100EJ98
4F100GB08
4F100GB33
4F100JG01
4F100JG01A
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ソファーや自動車シートなどの人体と摩擦が発生する用途において、人体の帯電による不快感を抑制することができる優れた導電性を有し、かつ様々な色味に調整することが容易である合成皮革の提供。
【解決手段】少なくとも繊維布帛基材20と表皮層10を有してなる合成皮革100において、表皮層10に、針状部を有する酸化亜鉛を含有する、合成皮革。前記針状部を有する酸化亜鉛が、核部と該核部から異なる4軸方向に伸びた針状部を有する酸化亜鉛であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも繊維布帛基材と表皮層を有してなる合成皮革において、
表皮層に、針状部を有する酸化亜鉛を含有することを特徴とする合成皮革。
【請求項2】
針状部を有する酸化亜鉛が、核部と該核部から異なる4軸方向に伸びた針状部を有する酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
表皮層を構成する樹脂100質量部に対して、針状部を有する酸化亜鉛が25~50質量部含有されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革に関するものであり、特に導電性を有する合成皮革に関するものである。
【0002】
天然皮革は古くより日常生活に密着するものとして利用されており、皮革生地の有する性状によりより吸湿、耐熱、耐寒特性と共に強靭な材料として様々な用途で利用されてきた。しかしながら、天然皮革は、供給に限界があり、膨潤に伴う脆弱化、変色等の問題を有し、これに代わるものとして、合成皮革、人工皮革が用いられている。
合成皮革や人工皮革は天然皮革に似せたものであるが、天然皮革と比べて軽量で取り扱いやすいため、座席シート等の車輌用内装材、ソファーや椅子の座面などの家具用途、或いはジャケット、コートなどの衣料用途等、多岐にわたって使用されている。
その中でも座席シートやソファーなど人体と摩擦が発生する用途において、人体の帯電による不快感を抑制するため導電性を有することが求められている。
【0003】
人工皮革に導電性を付与する方法として、人工皮革を構成する樹脂層中に導電性を有する剤を添加する方法が知られている(特許文献1、2)。
特許文献1には、白色導電性酸化チタンとアニオン系界面活性剤とを含有した人工皮革が開示されているが、白色導電性酸化チタンは隠蔽性が非常に高いため、白色以外の例えば黒色に近い色や彩色の合成皮革を製造することが難しいという問題がある。
特許文献2には、表面にケッチェンブラックが塗布された人工皮革が開示されているが、白色や淡色の合成皮革を製造することが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-192969号公報
【特許文献2】特開2011-231421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ソファーや自動車シートなどの人体と摩擦が発生する用途で人体の帯電による不快感を抑制することができる優れた導電性を有し、かつ様々な色味に調整することが容易である合成皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、以下の導電性を有し、かつ様々な色味に調整することが容易な合成皮革を発明した。
【0007】
本発明は以下を要旨とする。
(1)少なくとも繊維布帛基材と表皮層を有してなる合成皮革において、表皮層に、針状部を有する酸化亜鉛を含有することを特徴とする合成皮革。
(2)針状部を有する酸化亜鉛が、核部と該核部から異なる4軸方向に伸びた針状部を有する酸化亜鉛であることを特徴とする(1)に記載の合成皮革。
(3)表皮層を構成する樹脂100質量部に対して、針状部を有する酸化亜鉛が25~50質量部含有されてなることを特徴とする(1)または(2)に記載の合成皮革。
【発明の効果】
【0008】
本発明の合成皮革は、導電性能を有するため、座席シートやソファーなど人体と摩擦が発生する用途において、人体の帯電による不快感を抑制することができる。また、本発明の合成皮革によれば、様々な色味に調整することが容易である合成皮革を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の合成皮革の第一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明の合成皮革の第二実施形態を示す断面図である。
【
図3】本発明の合成皮革の第三実施形態を示す断面図である。
【
図4】本発明で用いる核部と該核部から異なる4軸方向に伸びた針状部を有する酸化亜鉛の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の合成皮革について、
図1~
図3を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
また、
図1~
図3における断面は、いずれも合成皮革の厚み方向に切断した際の断面図を示す。
なお、本明細書中において、「調色」とは、顔料等を添加して所望の色味に調整することをいう。
【0011】
<第一実施形態>
図1を用いて、本発明の第一実施形態の合成皮革100について説明する。
図1は、本発明の第一実施形態にかかる合成皮革の厚み方向に切断した際の断面図である。
図1に示すとおり、少なくとも繊維布帛基材20と表皮層10とからなる合成皮革100であって、表皮層10に針状部を有する酸化亜鉛を含んでなる合成皮革である。
【0012】
[表皮層]
表皮層10を構成する樹脂は、合成皮革の樹脂層70に用いられ得る樹脂であればいずれのものでも使用できるが、ポリウレタン系樹脂、またはポリ塩化ビニル系樹脂が好適である。
【0013】
上記ポリウレタン系樹脂としては、合成皮革の樹脂層に用いられ得るものであればいずれも使用できるが、具体的には、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂、ポリエステル/ポリエーテル共重合系ポリウレタン樹脂、ポリアミノ酸/ポリウレタン共重合樹脂、ポリカーボネートジオール成分と無黄変型ジイソシアネート成分及び低分子鎖伸長剤等を反応させて得られる無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などが挙げられる。また、合成皮革としての諸物性を損なわない範囲であれば、上記のポリウレタン樹脂にポリ塩化ビニル樹脂や合成ゴムなどを混合しても差し支えない。
【0014】
上記塩化ビニル系樹脂としては、合成皮革の樹脂層に用いられ得るものであればいずれも使用できるが、具体的には、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、またはこれら樹脂のブレンド等が使用できる。
上記塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、マレイン酸、フマル酸アクリロニトリル等が挙げられる。
【0015】
表皮層をポリ塩化ビニル系樹脂で構成する場合、天然皮革に似た柔軟性をより効果的に発揮させるために、ポリ塩化ビニル系樹脂と併せて可塑剤が配合される。可塑剤としては、フタル酸ジオクチルエステル(DOP)、フタル酸ジイソノニルエステル(DINP)、フタル酸ブチルベンジルエステル(BBP)、フタル酸ジイソデシルエステル(DIDP)、フタル酸ジウンデシルエステル(DUP)などに代表される一般のフタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジオクチルエステル(DOS)、アゼライン酸ジオクチルエステル(DOZ)に代表される一般の脂肪酸エステル系可塑剤、トリメリット酸トリオクチルエステル系可塑剤、ポリプロピレンアジペート等に代表されるアジピン酸ポリエステル系可塑剤などの高分子系可塑剤、セバシン酸系可塑剤、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤等が挙げられる。
【0016】
表皮層には、針状部を有する酸化亜鉛を含有する。
針状部を有する酸化亜鉛を表皮層に含有させると、合成皮革に導電性能を付与することができる。酸化チタンやケッチェンブラックなどのカーボンブラックも導電性能を付与することが可能であるが、これらは隠蔽性が高いため、様々な色味に調整することが難しい。
例えば、酸化チタンを用いた場合は、白色や淡色に調整することは比較的容易であるが、彩度を高くしたり黒系の色味にしたりするためには顔料を多量に添加しなくてはならない。また、顔料を多量に添加しても所望の色味に調整することができない場合もある。
ケッチェンブラックなどのカーボンブラックを用いた場合には、黒系の色味に調整することは比較的容易であるが、白系の色味にするためには顔料を多量に添加しなくてはならない。また、顔料を多量に添加しても所望の色味に調整することができない場合もある。
これに対して、針状部を有する酸化亜鉛は酸化チタンやカーボンブラックと比較して隠蔽性が低いため、顔料の添加により様々な色味に調整することが容易である。
特に、針状部を有する酸化亜鉛が、
図4に示すような核部と該核部から異なる4軸方向に伸びた針状部を有する酸化亜鉛(いわゆるテトラポッド状の酸化亜鉛、以下、「テトラポッド状の酸化亜鉛」ともいう)であると、他の針状部を有する酸化亜鉛と比較して透明性および導電性が高いため好ましい。
透明性が高いと、顔料の添加量が比較的少量であっても所望の色味に調整することが容易である。顔料の添加量が増えるにしたがって、表皮層10の機械的強度が低下したり、導電性が十分に発現しなかったりする傾向があるため、透明性の高いテトラポッド状の酸化亜鉛を表皮層に含有させて導電性を発現することには技術的な意義がある。
テトラポッド状の酸化亜鉛が透明性に優れるとともに、高い導電性が発現する理由は定かではないが、嵩高な立体構造によって、酸化亜鉛の密集の妨げとなることにより透明性を確保するとともに、異なる4軸方向に延びる構造によって、酸化亜鉛同士の接点が生じやすいため高い導電性が発現すると推察される。
テトラポッド状の酸化亜鉛の針状部の長さ(
図4のaの長さ)は、分散性、導電性の観点から2~50μmであることが好ましく、5~20μmであることが好ましい。
また、テトラポッド状の酸化亜鉛の針状部の径(
図4のbの部分、針状部の一番太い部分)は、0.1~5μmであることが好ましく、0.1~3μmであることがより好ましい。
【0017】
針状部を有する酸化亜鉛の添加量は特に限定されないが、表皮層10を構成する樹脂100質量部に対して、5~50質量部であることが好ましい。針状部を有する酸化亜鉛を5質量部未満であると、導電性能が発現しにくい。針状部を有する酸化亜鉛の添加量が50質量部を超えると、表皮層の機械的強度が低下する傾向となる。
また、針状部を有する酸化亜鉛の添加量が25質量部以上であれば、後述の繊維布帛基材20、表面処理層30、接着層40および中間層50等の絶縁性が高くとも、合成皮革として導電性を有し、とりわけ導電性として所望の接地間抵抗値を得ることができる。したがって、針状部を有する酸化亜鉛は、表皮層10を構成する樹脂100質量部対して、25~50質量部であることが特に好ましい。
【0018】
表皮層10には、上記針状部を有する酸化亜鉛に加えて、表皮層の透明性を阻害しない範囲で他の導電剤を添加してもよい。他の導電剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等のカーボン系導電剤、酸化チタン、酸化インジウム錫(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)などの金属系導電剤、界面活性剤等である。
【0019】
表皮層10の厚みは特に限定されないが、10μm以上500μm以下の厚みに形成することが好ましく、10μm以上400μm以下の厚みに形成することがより好ましい。
【0020】
上記の構成により、本発明の合成皮革100の表皮層側10の表面抵抗値は1.0×1010Ω以下となり、良好な導電性を示す。
なお、本発明における表面抵抗値は、IEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、温度23±2℃、湿度60±5%RHの条件下で測定されるものである。
【0021】
[繊維布帛基材]
繊維布帛基材20は、特に限定されず、編布、織布、不織布など、繊維を利用した布材であればいずれのものであってもよい。繊維布帛基材20を形成する繊維は、特に限定されず、合成繊維、天然繊維などをあげることができる。合成繊維の材質としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ナイロンなどを例示することができるがこれに限定されない。天然繊維の材質としては、綿、麻、レーヨンなどを例示することができるがこれに限定されない。
また、繊維布帛基材20を構成する繊維として、難燃化処理された繊維、導電化処理された繊維を用いてもよく、部分的に金属繊維等を用いてもよい。
繊維布帛基材20の厚みは特に限定されないが、合成皮革100の機械的強度や風合い等を考慮すれば、当該厚みは、100μm以上2000μm以下であることが好ましく、300μm以上1000μm以下であることがより好ましい。繊維布帛基材20の目付けについても特に限定されないが、上記厚みと同様に、合成皮革100の機械的強度や風合い等を考慮すれば、10g/m2以上500g/m2以下であることが好ましく、20g/m2以上300g/m2以下であることがより好ましい。
【0022】
繊維布帛基材20は、難燃化処理や導電化処理などの後加工がなされてもよい。
【0023】
<第二実施形態~第三実施形態>
図2は本発明の合成皮革100の第二実施形態を、
図3は本発明の合成皮革100の第三実施形態を示す。
【0024】
本発明の合成皮革100は、上記表皮層10と繊維布帛基材層20との間に接着層40および/または中間層50を設けてもよい。なお、接着層40と中間層50いずれも設ける場合は、接着層40が繊維布帛基材20に接する側であり、中間層が表皮層10に接する側である。
接着層40のみを設けた形態が第二実施形態(
図2)、接着層40および中間層50を設けた形態が第三実施形態(
図3)であり、中間層50のみを設けた形態については図示しない。
【0025】
接着層40は、表皮層10または中間層50と繊維布帛基材20との密着性を向上させるために設けられる層である。接着層40を構成する樹脂は、表皮層10と同様に、合成皮革の樹脂層に用いられ得る樹脂であればいずれのものでも使用できるが、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂が好適である。
また、接着層40は、発泡させた層(発泡層)であっても発泡させていない層(非発泡層)であってもよい。
接着層40を発泡させる手段としては、機械攪拌による物理的発泡、発泡剤の添加による化学的発泡、中空微粒子の添加による擬似発泡などが挙げられる。
【0026】
中間層50は、表皮層10、接着層40と同様に、合成皮革を形成する一般的な樹脂であればいずれも使用できるが、ポリウレタン系樹脂またはポリ塩化ビニル系樹脂が好適である。ポリウレタン系樹脂およびポリ塩化ビニル系樹脂の具体例は、上記表皮層10と同様である。
また、中間層50は、接着層40と同様に、発泡させた層(発泡層)であっても発泡させていない層(非発泡層)であってもよい。
【0027】
上記表皮層10、接着層40、中間層50には、各々の物性を阻害しない範囲で、顔料、フィラー、分散剤、消泡剤、艶消し剤、滑剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0028】
[表面処理層]
本発明の合成皮革100は、表皮層10上に表面処理層30を設けてもよい。
表面処理層30は、合成皮革100の艶出し/艶消し、耐摩耗性の付与、触感の付与、防汚性の付与等の目的で設けられる。表面処理層30は、例えばポリウレタン樹脂、シリコン、無機系フィラー、有機系フィラー、各種添加剤を有機溶媒や水に分散させた塗工液を表皮層10の表面にコーティングすることにより設けることができる。
【0029】
表面処理層30と表皮層10との間に、両者の密着性を向上させるためにプライマー層を設けてもよい。プライマー層は樹脂からなる層であり、必要に応じて顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、触媒、シリカなどの無機系フィラー、有機系フィラーなど公知の添加剤を添加してもよい。
【0030】
本発明の合成皮革100は接地間抵抗値が1.0×1011Ω以下となるように構成されることが好ましい。接地間抵抗値が1.0×1011Ω以下であれば、人体に帯電した電荷を接触する合成皮革を通じて短時間で除電することが可能となり、人体の帯電から生じる放電現象を抑制することができる。一方で、接地間抵抗値が低すぎると、周辺機器からの漏電があった場合、合成皮革に接触している人が感電するおそれがあるため、接地間抵抗値は1.0×105Ω以上であることが好ましい。
【0031】
次に、本発明の合成皮革100の製造方法を、第三実施形態に基づいて説明する。なお、以下に記載する製造方法は一例であって、以下の製造方法に限定されるものではない。
【0032】
まず離型紙等の離型性担体上に表皮層10を構成するための表皮層形成用組成物を塗布し、反応・固化させて表皮層10を形成する。表皮層形成用組成物Aの塗布には、ナイフコーター、コンマドクター、ロールコーター、リバースロールコーター、ロータリースクリーンコーター、グラビアコーター、その他適宜の手段が採用される。離型性担体は、表皮層形成用組成物が塗布される側の表面が平滑なものであっても、絞模様が付されたものであっても良い。絞模様等が付された離型性担体を使用すると、離型性担体の紋模様が合成皮革100の表皮層10の表面に転写され、絞模様による意匠が現出した合成皮革100を得ることができる。
【0033】
次いで、表皮層10上に中間層形成用組成物を塗布する。中間層形成用組成物の塗布は、表皮層形成用組成物の塗布と同様の方法を採用することができる。塗布された中間層形成用組成物は乾燥されて中間層50を形成する。
次いで、中間層50上に接着層形成用組成物を塗布する。接着層形成用組成の塗布は表皮層形成用組成物および中間層形成用組成物と同様の方法を採用することができる。塗布された接着層形成用組成物が半ゲル状になるまで乾燥させた後、繊維布帛基材20を積層させる。
しかる後、離型性担体を剥離し、必要に応じて表皮層10の表面に表面処理層30を設けることにより、
図1に示す合成皮革100を得ることができる。表面処理層30は、グラビアコーター、リバースロールコーター、スプレーコーター等の方法で形成することができる。
【0034】
以上、本発明の合成皮革100について説明した。本発明は合成皮革100として種々の用途に用いることができるが、静電気の発生しやすい車輌用シート、ソファーや椅子等の家具用途に好適に使用される。
【実施例0035】
以下に本発明を実施例に基づいて、詳細に説明する。
実施例1~5、比較例1~4で用いた合成皮革の構成成分については、以下のとおりである。
【0036】
<表皮層用樹脂組成物>
・主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液(DIC(株)製「クリスボンNY335FT」)
・溶剤1:DMF
・溶剤2:酢酸エチル
・導電剤1 テトラポッド状酸化亜鉛 株式会社アムテック製 パナテトラ
・導電剤2 針状部を有する酸化亜鉛 平均長径:100nm、アスペクト比:5.0
・導電剤3 超微粒子酸化亜鉛(球状) ハクスイテック株式会社製「パゼット CK」
・導電剤4 酸化チタン 大塚化学株式会社製 DENTALL WK-200B
・導電剤5 カーボンブラック トーヨーカラー株式会社製「CBA」
【0037】
<接着層用樹脂組成物>
・主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液(DIC(株)製「クリスボンTA205FT 」)
・架橋剤:イソシアネート系化合物(DIC(株)製「バーノックDN950」)
・溶剤1:DMF
・溶剤2:MEK
・触媒:DIC(株)製「クリスボン アクセルT81-E」
【0038】
<繊維布帛基材>
・基材1:丸編機にて150デニールのポリエステル糸から編み立てたポリエステル製生地(表面抵抗値:6.6E+11Ω)
・基材2:π電子共役系高分子モノマーとしてピロール 1wt%(広栄化学製 ピロール)に、酸化重合剤兼ドーパント剤としてパラトルエンスルホン酸第二鉄 10wt% (テイカ製 パラトルエンスルホン酸第二鉄)を加えた水溶液中へ、基材1を浸漬させてピロールモノマーを重合させて、表面にポリピロールを析出させた導電性を有する生地(表面抵抗値:1.8E+04Ω)
【0039】
(実施例1)
主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液100質量部(樹脂固形分20質量%)、溶剤1:30質量部、溶剤2:30質量部、導電剤1:8質量部とからなる表皮層用樹脂組成物を、離型紙上にコンマコータにて塗布し、80℃から120℃まで徐々に温度を上げ、120℃到達後、5分間乾燥し、厚さ約30μmの樹脂層における表皮層を得た。ここで、導電剤1の含有量は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂100質量部に対して、40質量部である。
続いて、主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液100質量部、架橋剤:イソシアネート系化合物12質量部、溶剤1:30質量部、溶剤2:30質量部、触媒1質量部とからなる接着層用樹脂組成物を、表皮層の上にコンマコータにて塗布し、120℃で乾燥し、厚さ約30μmの接着層を得た。
続いて、接着層に接着性が発現しているタイミングで、基材1の貼り合わせを行った。
続いて、ロール状に巻き取りを行い、これを50℃、48時間かけて熟成させた後、離型紙を剥離して、表皮層、接着層、繊維布帛基材の順で積層された合成皮革を得た。
【0040】
(実施例2)
基材1を基材2に変更した以外は実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0041】
(実施例3)
導電剤1の含有量をポリカーボネート系ポリウレタン樹脂100質量部に対して25質量部に変更した以外は実施例2と同様にして合成皮革を得た。
【0042】
(実施例4)
導電剤1の含有量をポリカーボネート系ポリウレタン樹脂100質量部に対して50質量部に変更した以外は実施例2と同様にして合成皮革を得た。
【0043】
(実施例5)
導電剤1を導電剤2に変更した以外は実施例2と同様にして合成皮革を得た。
【0044】
(比較例1)
導電剤を添加しなかった以外は実施例2と同様にして合成皮革を得た。
【0045】
(比較例2)
導電剤1を導電剤3に変更した以外は実施例2と同様にして合成皮革を得た。
【0046】
(比較例3)
導電剤1を導電剤4に変更した以外は実施例2と同様にして合成皮革を得た。
【0047】
(比較例4)
導電剤1を導電剤5に変更した以外は実施例2と同様にして合成皮革を得た。
【0048】
各実施例および比較例で得られた合成皮革について、次の評価を行った。
【0049】
<表面抵抗値>
表皮層側の表面抵抗値をIEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、温度23±2℃、湿度60±5%RHの条件下で測定した。
測定装置は、プロスタット株式会社製、商品名「PRS-801」を用い、測定プローブは5ポンド電極(PRS-801-W)を用いて、電極間距離は60mm、印加電圧は100Vとした。
測定結果を表1に示す。
【0050】
<接地間抵抗値>
接地間抵抗値をIEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、温度23±2℃、湿度60±5%RHの条件下で測定した。
測定装置は、プロスタット株式会社製、商品名「PRS-801」を用い、測定プローブは5ポンド電極(PRS-801-W)を用いて、電極-接地可能点間距離は60mm、印加電圧は100Vとした。
測定結果を表1に示す。
【0051】
<耐もみ性>
JIS K6404-4に記載の方法に準拠して試験し、以下の基準で評価した。
○・・・表皮層の割れおよび層間の剥離なし
×・・・表皮層の割れおよび/または層間の剥離あり
評価結果は表1に示す。
【0052】
【表1】
※ 表中の表皮層に関する数値はすべて「質量部」である。
【0053】
実施例2、実施例5、比較例2~4の合成皮革の表皮層について、以下の評価を行った。
【0054】
<表皮層の透明性>
実施例2、実施例5、比較例2~4の表皮層用樹脂組成物を用いて、厚み30μmのフィルムを成膜し、得られたフィルムについてJIS K7105に準じて全光線透過率を測定した。
測定結果を表2に示す。
実施例2、実施例5の表皮層は比較例2~4の表皮層と比べて、透明性が高いことがわかる。
【0055】
<表皮層の調色性>
実施例2、実施例5、比較例2~4の表皮層用樹脂組成物について、グレートーンカラーガイド第1版(DIC発行)に掲載のa)G-1(白)、b)G-321(黒)、カラーガイド第18版(DIC発行)に掲載のc)DIC-634(紅)、d)DIC-641(藍)、e)DIC-649(グリーン)になるように顔料を追加して調色した。
調色性について、表2に示す。
a)~e)に調色することが可能であったものを可、調色することができなかったものを不可とした。
また、a)~e)に調色することが可能であったものについては、添加した顔料の総量(導電剤を除く)を併せて示した。
実施例2の表皮層用樹脂組成物からなる表皮層は、透明性が高く顔料の発色を阻害しないため、a)~e)のいずれにも調色することが可能であった。
実施例5の表皮層用樹脂組成物からなる表皮層は、b)~e)については、実施例2よりも顔料を多く添加する必要があるものの、a)~e)のいずれにも調色することが可能であった。
一方で、比較例2および比較例3の表皮層用樹脂組成物からなる表層層は、透明性が低く濃い白色を呈するため、a)に調色することは可能であったが、b)~e)に調色することはできなかった。
また、比較例4の表皮層用樹脂組成物からなる表皮層は、透明性が低く濃い黒色を呈するため、b)に調整することは可能であったが、a)およびc)~e)に調色することはできなかった。
【0056】
【表2】
表中、調色性の評価欄の数値は、色味の調整に要した顔料の量であり、表皮層用樹脂組成物のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂100質量部に対する添加量(質量部)を表わす。なお、調色ができなかったものについては、「-(ハイフン)」で示す。
【0057】
以上、表皮層に針状部を有する酸化亜鉛を添加してなる合成皮革は、導電性を有し、かつ添加する顔料の発色を阻害しないため様々な色味に調整することが可能であることから、非常に利便性が高いことがわかる。
特に、テトラポッド状の酸化亜鉛を用いて場合は、導電性および調色性において極めて優れるものである。