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  • 特開-アーク溶接制御方法 図1
  • 特開-アーク溶接制御方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056565
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】アーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20220404BHJP
   B23K 9/133 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B23K9/12 305
B23K9/133 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020164377
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
(57)【要約】
【課題】正逆送給アーク溶接において、半自動溶接を行ったときに高品質の溶接を可能にすること。
【解決手段】正送回転Fwpするプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給し、プッシュ側送給モータとプル側送給モータとの送給経路の間に溶接ワイヤを一時的に収容する中間ワイヤ収容部を設け、中間ワイヤ収容部の収容量に基づいてプル側送給モータのプル送給速度Fwを補正して溶接するアーク溶接制御方法において、中間ワイヤ収容部の収容量に基づいて、プル送給速度Fwの正送減速期間Tsd及び/又は逆送減速期間Trdを補正制御する。これにより、半自動溶接を行っても、プッシュ送給速度Fwpとプル送給速度Fwとがほぼ等しくなるので、高品質の溶接が可能となる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正送回転するプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給し、
前記プッシュ側送給モータと前記プル側送給モータとの送給経路の間に前記溶接ワイヤを一時的に収容する中間ワイヤ収容部を設け、前記中間ワイヤ収容部の収容量に基づいて前記プル側送給モータのプル送給速度を補正し、
短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
前記収容量に基づいて、前記プル送給速度の正送減速期間及び/又は逆送減速期間を補正制御する、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項2】
前記正送減速期間の開始時点における前記収容量に基づいて前記正送減速期間の前記補正制御を行い、前記逆送減速期間の開始時点における前記収容量に基づいて前記逆送減速期間の前記補正制御を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接制御方法。
【請求項3】
前記正送減速期間の前記補正制御を行ったときは前記正送減速期間と逆送加速期間との合算値が一定になるように前記逆送加速期間を前記補正制御し、前記逆送減速期間の前記補正制御を行ったときは前記逆送減速期間と正送加速期間との合算値が一定になるように前記正送加速期間を前記補正制御する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正送回転するプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給して溶接するアーク溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
【0003】
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの送給を正送と逆送とに交互に切り換えて溶接する正逆送給アーク溶接方法が提案されている。この正逆送給アーク溶接方法では、一定の送給速度の従来技術に比べて、短絡とアークとの繰り返しの周期を安定化することができるので、スパッタ発生量の削減、ビード外観の改善等の溶接品質の向上を図ることができる。
【0004】
正逆送給アーク溶接方法では、溶接ワイヤの正送及び逆送を100Hz程度で高速・高精度に切り換える必要がある。このために、送給方式としてプッシュプル送給方式を採用することが多い。さらに、プッシュ側送給モータとプル側送給モータとの送給経路の間に溶接ワイヤを一時的に収容する中間ワイヤ収容部を設けることも多い。
【0005】
正逆送給アーク溶接方法においては、短絡期間及びアーク期間の発生タイミングに同期して、正送期間と逆送期間とが切り換えられる。このために、溶接電圧の設定値、突き出し長さ等の溶接条件が変化して短絡期間とアーク期間との時間比率が変化すると、正送期間と逆送期間との時間比率も変化するので溶接ワイヤの平均送給速度が変化する。平均送給速度が変化すると、溶着量が変化するので、溶接品質が悪くなる。この問題に対処するために、特許文献1及び2の発明では、プッシュ側モータによって一定速度で正送送給し、中間ワイヤ収容部の収容量を検出し、この収容量に基づいてプル側モータのプル送給速度を補正制御している。この補正制御によって、平均送給速度が変化することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-94380号公報
【特許文献2】特開2020-99945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の補正制御では、中間ワイヤ収容部の収容量に基づいてプル送給速度の正送ピーク値及び/又は逆送ピーク値を変化させている。しかし、溶接作業者が手動て溶接トーチを操作して溶接する半自動溶接において、この補正制御を行うと、溶接作業者の手振れによるワイヤ突き出し長さ、前進角、溶接速度等の変動に起因してアーク長が大きく変動し、溶接状態が不安定になりやすいという問題が発生する。
【0008】
そこで、本発明では、中間ワイヤ収容部の収容量に基づいてプル送給速度を補正制御する正逆送給アーク溶接方法において、溶接作業者の手振れに起因して溶接状態が不安定になることを抑制することができるアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
正送回転するプッシュ側送給モータ及び正送回転と逆送回転とを繰り返すプル側送給モータによるプッシュプル送給制御によって溶接ワイヤを送給し、
前記プッシュ側送給モータと前記プル側送給モータとの送給経路の間に前記溶接ワイヤを一時的に収容する中間ワイヤ収容部を設け、前記中間ワイヤ収容部の収容量に基づいて前記プル側送給モータのプル送給速度を補正し、
短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
前記収容量に基づいて、前記プル送給速度の正送減速期間及び/又は逆送減速期間を補正制御する、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法である。
【0010】
請求項2の発明は、
前記正送減速期間の開始時点における前記収容量に基づいて前記正送減速期間の前記補正制御を行い、前記逆送減速期間の開始時点における前記収容量に基づいて前記逆送減速期間の前記補正制御を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接制御方法である。
【0011】
請求項3の発明は、
前記正送減速期間の前記補正制御を行ったときは前記正送減速期間と逆送加速期間との合算値が一定になるように前記逆送加速期間を前記補正制御し、前記逆送減速期間の前記補正制御を行ったときは前記逆送減速期間と正送加速期間との合算値が一定になるように前記正送加速期間を前記補正制御する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中間ワイヤ収容部の収容量に基づいてプル送給速度を補正制御する正逆送給アーク溶接方法において、溶接作業者の手振れに起因して溶接状態が不安定になることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0016】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0017】
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば100μHである。
【0018】
プッシュ側送給モータWMPは、後述するプッシュ送給制御信号Fcpを入力として、正送回転して一定速度のプッシュ送給速度Fwpで溶接ワイヤ1を送給する。プル側送給モータWMは、後述するプル送給制御信号Fcを入力として、正送回転と逆送回転とを交互に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。プッシュ側送給モータWMPが送給経路の上流側に設けられており、プル側送給モータWMは下流側に設けられている。両送給モータともに速度制御されている。両送給モータでプッシュプル送給制御系を構成している。
【0019】
中間ワイヤ収容部WBは、プッシュ側送給モータWMPとプル側送給モータWMとの間の送給経路に設けられ、溶接ワイヤ1を一時的に収容し、収容量に応じた収容量信号Wbを出力する。中間ワイヤ収容部WBは、特許文献1等の従来技術で慣用されているので、詳細な構造については省略する。溶接ワイヤ1の収容量の検出は、機械的原理、電気的原理、光学的原理、磁気的原理、又はこれらの原理の組合せによって行う。
【0020】
溶接ワイヤ1は、上記のプル側送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。溶接トーチ4の先端からはシールドガス(図示は省略)が噴出して、アーク3を大気から遮蔽する。
【0021】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0022】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(-)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0023】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0024】
正送加速期間初期値設定回路TSUSは、予め定めた正送加速期間初期値設定信号Tsusを出力する。
【0025】
正送減速期間初期値設定回路TSDSは、予め定めた正送減速期間初期値設定信号Tsdsを出力する。
【0026】
逆送加速期間初期値設定回路TRUSは、予め定めた逆送加速期間初期値設定信号Trusを出力する。
【0027】
逆送減速期間初期値設定回路TRDSは、予め定めた逆送減速期間初期値設定信号Trdsを出力する。
【0028】
正送ピーク値設定回路WSRは、予め定めた正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
【0029】
逆送ピーク値設定回路WRRは、予め定めた逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
【0030】
収容量設定回路WBRは、目標値となる予め定めた収容量設定信号Wbrを出力する。収容量誤差増幅回路EWは、上記の収容量設定信号Wbr及び上記の収容量信号Wbを入力として、収容量設定信号Wbr(-)と収容量信号Wb(+)との誤差を増幅して、収容量誤差増幅信号Ewを出力する。Ew=G・(Wb-Wbr)であり、Gは正の値の増幅率である。したがって、収容量信号Wbが目標値の収容量設定信号Wbrよりも大のときは収容量誤差増幅信号Ewは正の値となり、収容量信号Wbが目標値の収容量設定信号Wbrよりも小のときは収容量誤差増幅信号Ewは負の値となる。
【0031】
プル送給速度補正回路FHは、上記の短絡判別信号Sd、上記の正送加速期間初期値設定信号Tsus、上記の正送減速期間初期値設定信号Tsds、上記の逆送加速期間初期値設定信号Trus、上記の逆送減速期間初期値設定信号Trds、及び上記の収容量誤差増幅信号Ewを入力として、以下に示す処理1)~6)の中から一つを選択して補正制御を行い、正送加速期間設定信号Tsur、正送減速期間設定信号Tsdr、逆送加速期間設定信号Trur及び逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。以下に示す補正制御(変調制御)は、正送期間と逆送期間との1周期ごとに行われる。1周期は、10ms程度である。以下に示す補正制御はP制御の場合であるが、PI制御、PID制御であっても良い。
【0032】
処理1)正送減速期間設定信号Tsdrのみを補正制御する場合
短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化して正送減速期間が開始すると、その時点における収容量誤差増幅信号Ewによって正送減速期間初期値設定信号Tsdsを補正制御(変調制御)して正送減速期間設定信号Tsdr=Tsds+Ewを出力する。収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。そして、その他の信号は入力信号のまま、Tsur=Tsus、Trur=Trus及びTrdr=Trdsとして出力する。
【0033】
処理2)逆送減速期間設定信号Trdrのみを補正制御する場合
短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して逆送減速期間が開始すると、その時点における収容量誤差増幅信号Ewによって逆送減速期間初期値設定信号Trdsを補正制御(変調制御)して逆送減速期間設定信号Trdr=Trds-Ewを出力する。収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。そして、その他の信号は入力信号のまま、Tsur=Tsus、Tsdr=Tsds及びTrur=Trusとして出力する。
【0034】
処理3)正送減速期間設定信号Tsdr及び逆送減速期間設定信号Trdrの2つを補正制御する場合
上記の処理1)及び処理2)の両方を行う。収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも長くなり、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも短くなり、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。そして、その他の信号は入力信号のまま、Tsur=Tsus及びTrur=Trusとして出力する。
【0035】
処理4)正送減速期間設定信号Tsdr及び逆送加速期間設定信号Trurの2つを補正制御する場合
短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化して正送減速期間が開始すると、その時点における収容量誤差増幅信号Ewによって正送減速期間初期値設定信号Tsdsを補正制御(変調制御)して正送減速期間設定信号Tsdr=Tsds+Ewを出力する。同時に、上記の収容量誤差増幅信号Ewによって逆送加速期間初期値設定信号Trusを補正制御(変調制御)して逆送加速期間設定信号Trur=Trus-Ewを出力する。収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも長くなり、逆送加速期間設定信号Trurは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも短くなり、逆送加速期間設定信号Trurは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。ここで、処理4)では、Tsdr+Trurは一定値となるので、補正制御を行っても短絡期間をほぼ一定値に維持することができ、溶接状態を安定にすることができる。そして、その他の信号は入力信号のまま、Tsur=Tsus及びTrdr=Trdsとして出力する。
【0036】
処理5)逆送減速期間設定信号Trdr及び正送加速期間設定信号Tsurの2つを補正制御する場合
短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して逆送減速期間が開始すると、その時点における収容量誤差増幅信号Ewによって逆送減速期間初期値設定信号Trdsを補正制御(変調制御)して逆送減速期間設定信号Trdr=Trds-Ewを出力する。同時に、上記の収容量誤差増幅信号Ewによって正送加速期間初期値設定信号Tsusを補正制御(変調制御)して正送加速期間設定信号Tsur=Tsus+Ewを出力する。収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも短くなり、正送加速期間設定信号Tsurは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも長くなり、正送加速期間設定信号Tsurは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。ここで、処理5)では、Trdr+Tsurは一定値となるので、補正制御を行ってもアーク期間をほぼ一定値に維持することができ、溶接状態を安定にすることができる。そして、その他の信号は入力信号のまま、Tsdr=Tsds及びTrur=Trusとして出力する。
【0037】
処理6)正送減速期間設定信号Tsdr、逆送加速期間設定信号Trur、逆送減速期間設定信号Trdr及び正送加速期間設定信号Tsurの4つを補正制御する場合
上記の処理4)及び処理5)を両方行う。収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも長くなり、逆送加速期間設定信号Trurは初期値よりも短くなり、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも短くなり、正送加速期間設定信号Tsurは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも短くなり、逆送加速期間設定信号Trurは初期値よりも長くなり、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも長くなり、正送加速期間設定信号Tsurは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。ここで、処理6)では、Tsdr+Trur及びTrdr+Tsurはそれぞれ一定値となるので、補正制御を行っても短絡期間及びアーク期間をほぼ一定値に維持することができ、溶接状態を安定にすることができる。
【0038】
プル送給速度設定回路FRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成されたプル送給速度パターンをプル送給速度設定信号Frとして出力する。このプル送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで直線状に加速するプル送給速度設定信号Frを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持するプル送給速度設定信号Frを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで直線状に減速するプル送給速度設定信号Frを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで直線状に加速するプル送給速度設定信号Frを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持するプル送給速度設定信号Frを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで直線状に減速するプル送給速度設定信号Frを出力する。
7)上記の1)~6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンのプル送給速度設定信号Frが生成される。
【0039】
プル送給制御回路FCは、上記のプル送給速度設定信号Frを入力として、プル送給速度設定信号Frの値に相当するプル送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するためのプル送給制御信号Fcを上記のプル側送給モータWMに出力する。
【0040】
プッシュ送給速度設定回路FRPは、正の値の予め定めたプッシュ送給速度設定信号Frpを出力する。プッシュ送給制御回路FCPは、上記のプッシュ送給速度設定信号Frpを入力として、プッシュ送給速度設定信号Frpの値に相当するプッシュ送給速度Fwpで溶接ワイヤ1を送給するためのプッシュ送給制御信号Fcpを上記のプッシュ側送給モータWMPに出力する。
【0041】
減流抵抗器Rは、上記のリアクトルWLと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01~0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5~3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、リアクトルWL及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。
【0042】
トランジスタTRは、上記の減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0043】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0044】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0045】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0046】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは、低レベル電流設定信号Ilrとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流設定値となり、その後は予め定めた短絡時傾斜で予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇してその値を維持する電流制御設定信号Icrを出力する。
3)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
【0047】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流制御設定信号Icr(+)と電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0048】
電流降下時間設定回路TDRは、予め定めた電流降下時間設定信号Tdrを出力する。
【0049】
小電流期間回路STDは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の電流降下時間設定信号Tdrを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から電流降下時間設定信号Tdrによって定まる時間が経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる小電流期間信号Stdを出力する。
【0050】
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の短絡判別信号Sd及び上記の小電流期間信号Stdを入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して予め定めた遅延期間が経過した時点までの期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)その後の大電流アーク期間中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
3)その後のアーク期間中に小電流期間信号StdがHighレベルとなる小電流アーク期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、溶接電源の特性は、短絡期間、遅延期間及び小電流アーク期間中は定電流特性となり、それ以外の大電流アーク期間中は定電圧特性となる。
【0051】
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はプル送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示し、同図(F)はプッシュ送給速度Fwpの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0052】
同図(A)に示すプル送給速度Fwは、図1のプル送給速度設定回路FRから出力されるプル送給速度設定信号Frの値に制御される。プル送給速度Fwは、図1の正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu、短絡が発生するまで継続する正送ピーク期間Tsp、図1の正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsd、図1の逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru、アークが発生するまで継続する逆送ピーク期間Trp及び図1の逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdから形成される。さらに、正送ピーク値Wspは図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まり、逆送ピーク値Wrpは図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる。この結果、プル送給速度設定信号Frは、正負の略台形波波状に変化する送給パターンとなる。また、同図(F)に示すプッシュ送給速度Fwpは、図1のプッシュ送給速度設定信号Frpによって定まる一定の速度となる。
【0053】
[時刻t1~t4の短絡期間の動作]
正送ピーク期間Tsp中の時刻t1において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。これに応動して、時刻t1~t2の予め定めた正送減速期間Tsdに移行し、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する。
【0054】
同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは時刻t2~t3の予め定めた逆送加速期間Truに入り、0から上記の逆送ピーク値Wrpまで加速する。この期間中は短絡期間が継続している。
【0055】
時刻t3において逆送加速期間Truが終了すると、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは逆送ピーク期間Trpに入り、上記の逆送ピーク値Wrpになる。逆送ピーク期間Trpは、時刻t4にアークが発生するまで継続する。したがって、時刻t1~t4の期間が短絡期間となる。
【0056】
同図(B)に示すように、時刻t1~t4の短絡期間中の溶接電流Iwは、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となる。その後、溶接電流Iwは、予め定めた短絡時傾斜で上昇し、予め定めた短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。
【0057】
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
【0058】
その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、図1のくびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。
【0059】
くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、図1の駆動信号DrはLowレベルになるので、図1のトランジスタTRはオフ状態となり図1の減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、図1の電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、トランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間が経過するまでは低レベル電流値を維持する。したがって、トランジスタTRは、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から溶接電流Iwが低レベル電流値に減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので一旦減少した後に急上昇する。上述した各パラメータは、例えば以下の値に設定される。初期電流=40A、初期期間=0.5ms、短絡時傾斜=175A/ms、短絡時ピーク値=400A、低レベル電流値=50A、遅延期間=0.5ms。
【0060】
[時刻t4~t7のアーク期間の動作]
時刻t4において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、時刻t4~t5の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。
【0061】
時刻t5において逆送減速期間Trdが終了すると、時刻t5~t6の予め定めた正送加速期間Tsuに移行する。この正送加速期間Tsu中は、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは0から上記の正送ピーク値Wspまで加速する。この期間中はアーク期間が継続している。
【0062】
時刻t6において正送加速期間Tsuが終了すると、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは正送ピーク期間Tspに入り、上記の正送ピーク値Wspになる。この期間中もアーク期間が継続している。正送ピーク期間Tspは、時刻t7に短絡が発生するまで継続する。したがって、時刻t4~t7の期間がアーク期間となる。そして、短絡が発生すると、時刻t1の動作に戻る。
【0063】
時刻t4においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t4~t41の遅延期間の間は低レベル電流値を継続する。その後、時刻t41から溶接電流Iwは急速に増加してピーク値となり、その後は徐々に減少する大電流値となる。この時刻t41~t61の大電流アーク期間中は、図1の電圧誤差増幅信号Evによって溶接電源のフィードバック制御が行われるので、定電圧特性となる。したがって、大電流アーク期間中の溶接電流Iwの値はアーク負荷によって変化する。
【0064】
時刻t4にアークが発生してから図1の電流降下時間設定信号Tdrによって定まる電流降下時間が経過する時刻t61において、同図(E)に示すように、小電流期間信号StdがHighレベルに変化する。これに応動して、溶接電源は定電圧特性から定電流特性に切り換えられる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは低レベル電流値に低下し、短絡が発生する時刻t7までその値を維持する。同様に、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwも低下する。小電流期間信号Stdは、時刻t7に短絡が発生するとLowレベルに戻る。
【0065】
同図において、正送減速期間Tsd(図1の正送減速期間設定信号Tsdr)、逆送減速期間Trd(図1の逆送減速期間設定信号Trdr)、逆送加速期間Tsu(図1の逆送加速期間設定信号Tsur)、及び、正送加速期間Tsu(図1の正送加速期間設定信号Tsur)は、図1のプル送給速度補正回路FHによって、処理1)~6)の中から一つが選択されて補正制御される。この補正制御によって、図1の中間ワイヤ収容部の収容量が目標値と等しくなるように制御されるので、短絡期間及びアーク期間が変動しても、プル送給速度Fwの平均値を一定に保つことができる。
【0066】
処理1)正送減速期間設定信号Tsdrのみを補正制御する場合
時刻t1において、同図(D)に示す短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化して正送減速期間Tsdが開始すると、その時点における図1の収容量誤差増幅信号Ewによって図1の正送減速期間初期値設定信号Tsdsを補正制御(変調制御)して正送減速期間設定信号Tsdr=Tsds+Ewを出力する。図1の収容量信号Wbが図1の収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。
【0067】
処理2)逆送減速期間設定信号Trdrのみを補正制御する場合
時刻t4において、同図(D)に示す短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して逆送減速期間Trdが開始すると、その時点における収容量誤差増幅信号Ewによって図1の逆送減速期間初期値設定信号Trdsを補正制御(変調制御)して逆送減速期間設定信号Trdr=Trds-Ewを出力する。収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。
【0068】
処理3)正送減速期間設定信号Tsdr及び逆送減速期間設定信号Trdrの2つを補正制御する場合
上記の処理1)及び処理2)の両方を行う。収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも長くなり、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも短くなり、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。
【0069】
処理4)正送減速期間設定信号Tsdr及び逆送加速期間設定信号Trurの2つを補正制御する場合
時刻t1において、同図(D)に示す短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化して正送減速期間Tsdが開始すると、その時点における収容量誤差増幅信号Ewによって正送減速期間初期値設定信号Tsdsを補正制御(変調制御)して正送減速期間設定信号Tsdr=Tsds+Ewを出力する。同時に、上記の収容量誤差増幅信号Ewによって図1の逆送加速期間初期値設定信号Trusを補正制御(変調制御)して逆送加速期間設定信号Trur=Trus-Ewを出力する。収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも長くなり、逆送加速期間設定信号Trurは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも短くなり、逆送加速期間設定信号Trurは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。ここで、処理4)では、Tsdr+Trurは一定値となるので、補正制御を行っても短絡期間をほぼ一定値に維持することができ、溶接状態を安定にすることができる。
【0070】
処理5)逆送減速期間設定信号Trdr及び正送加速期間設定信号Tsurの2つを補正制御する場合
時刻t4において、同図(D)に示す短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して逆送減速期間Trdが開始すると、その時点における収容量誤差増幅信号Ewによって逆送減速期間初期値設定信号Trdsを補正制御(変調制御)して逆送減速期間設定信号Trdr=Trds-Ewを出力する。同時に、上記の収容量誤差増幅信号Ewによって図1の正送加速期間初期値設定信号Tsusを補正制御(変調制御)して正送加速期間設定信号Tsur=Tsus+Ewを出力する。収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも短くなり、正送加速期間設定信号Tsurは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも長くなり、正送加速期間設定信号Tsurは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。ここで、処理5)では、Trdr+Tsurは一定値となるので、補正制御を行ってもアーク期間をほぼ一定値に維持することができ、溶接状態を安定にすることができる。
【0071】
処理6)正送減速期間設定信号Tsdr、逆送加速期間設定信号Trur、逆送減速期間設定信号Trdr及び正送加速期間設定信号Tsurの4つを補正制御する場合
上記の処理4)及び処理5)を両方行う。収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも大きいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも長くなり、逆送加速期間設定信号Trurは初期値よりも短くなり、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも短くなり、正送加速期間設定信号Tsurは初期値よりも長くなり、収容量信号Wbは減少して、設定値に近づくことになる。逆に、収容量信号Wbが収容量設定信号Wbrよりも小さいときは、正送減速期間設定信号Tsdrは初期値よりも短くなり、逆送加速期間設定信号Trurは初期値よりも長くなり、逆送減速期間設定信号Trdrは初期値よりも長くなり、正送加速期間設定信号Tsurは初期値よりも短くなり、収容量信号Wbは増加して、設定値に近づくことになる。ここで、処理6)では、Tsdr+Trur及びTrdr+Tsurはそれぞれ一定値となるので、補正制御を行っても短絡期間及びアーク期間をほぼ一定値に維持することができ、溶接状態を安定にすることができる。
【0072】
プル送給速度Fwの波形パラメータの数値例を以下に示す。
正送ピーク値Wsp=50m/min、逆送ピーク値Wrp=-30m/min
正送ピーク期間Tsp≒3ms(所定値ではない)、逆送ピーク期間Trp≒1ms(所定値ではない)、正送加速期間初期値=2ms、正送減速期間初期値=1ms、逆送加速期間初期値=2ms、逆送減速期間初期値=1ms
【0073】
上述した実施の形態1によれば、中間ワイヤ収容部の収容量に基づいて、プル送給速度の正送減速期間及び/又は逆送減速期間を補正する。正逆送給アーク溶接方法においては、短絡期間及びアーク期間の発生タイミングに同期して、正送期間と逆送期間とが切り換えられる。このために、溶接中にワイヤ突き出し長さ、前進角、溶接速度等が変化して短絡期間とアーク期間との時間比率が変化すると、正送期間と逆送期間との時間比率も変化するので、溶接ワイヤの平均送給速度(プル送給速度の平均値)が変化する。平均送給速度が変化すると、溶着量が変化するので、溶接品質が悪くなる。本実施の形態においては、正送期間と逆送期間との時間比率が変化してプル送給速度の平均値が変化すると、一定速度のプッシュ送給速度との間に差分が生じる。この結果、中間ワイヤ収容部の収容量と目標値との間に誤差が発生する。この誤差が0になるように正送減速期間及び/又は逆送減速期間を補正することによって、プル送給速度とプッシュ送給速度の平均値とを等しくすることができる。このために、プル送給速度の平均値を所定値に戻すことができる。さらに、溶接作業者が手動て溶接トーチを操作して溶接する半自動溶接においては、溶接作業者の手振れによるワイヤ突き出し長さ、前進角、溶接速度等の変動が大きくなる。このような半自動溶接においても、本実施の形態を採用すれば、変動に起因するアーク長の変動を抑制することができ、溶接状態を安定化することができる。
【0074】
さらに、本実施の形態によれば、正送減速期間の開始時点における収容量に基づいて正送減速期間の補正制御を行い、逆送減速期間の開始時点における収容量に基づいて逆送減速期間の補正制御を行う、ことが望ましい。このようにすると、補正制御の過渡応答性を良好にすることができるので、プル送給速度の平均値をより一定に保つことができる。
【0075】
さらに、本実施の形態によれば、正送減速期間の補正制御を行ったときは正送減速期間と逆送加速期間との合算値が一定になるように逆送加速期間を補正制御し、逆送減速期間の補正制御を行ったときは逆送減速期間と正送加速期間との合算値が一定になるように正送加速期間を補正制御する、ことが望ましい。このようにすれば、短絡期間及びアーク期間をより一定値に近づけることができるので、溶接状態をさらに安定化することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
E 出力電圧
Ea 誤差増幅信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
EW 収容量誤差増幅回路
Ew 収容量誤差増幅信号
FC プル送給制御回路
Fc プル送給制御信号
FCP プッシュ送給制御回路
Fcp プッシュ送給制御信号
FH プル送給速度補正回路
FR プル送給速度設定回路
Fr プル送給速度設定信号
FRP プッシュ送給速度設定回路
Frp プッシュ送給速度設定信号
Fw プル送給速度
Fwp プッシュ送給速度
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電源主回路
R 減流抵抗器
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
STD 小電流期間回路
Std 小電流期間信号
SW 電源特性切換回路
TDR 電流降下時間設定回路
Tdr 電流降下時間設定信号
TR トランジスタ
Trd 逆送減速期間
Trdr 逆送減速期間設定信号
TRDS 逆送減速期間初期値設定回路
Trds 逆送減速期間初期値設定信号
Trp 逆送ピーク期間
Tru 逆送加速期間
Trur 逆送加速期間設定信号
TRUS 逆送加速期間初期値設定回路
Trus 逆送加速期間初期値設定信号
Tsd 正送減速期間
Tsdr 正送減速期間設定信号
TsdS 正送減速期間初期値設定信号
Tsds 正送減速期間初期値設定信号
Tsp 正送ピーク期間
Tsu 正送加速期間
Tsur 正送加速期間設定信号
TsuS 正送加速期間初期値設定信号
Tsus 正送加速期間初期値設定信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vw 溶接電圧
WB 中間ワイヤ収容部
Wb 収容量信号
WBR 収容量設定回路
Wbr 収容量設定信号
WL リアクトル
WM プル側送給モータ
WMP プッシュ側送給モータ
Wrp 逆送ピーク値
WRR 逆送ピーク値設定回路
Wrr 逆送ピーク値設定信号
Wsp 正送ピーク値
WSR 正送ピーク値設定回路
Wsr 正送ピーク値設定信号
図1
図2