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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056684
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】導電性繊維構造物および生体電極
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/63 20060101AFI20220404BHJP
   D03D 15/37 20210101ALI20220404BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20220404BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20220404BHJP
   A61B 5/263 20210101ALI20220404BHJP
【FI】
D06M15/63
D03D15/00 B
D03D1/00 Z
D04B1/16
A61B5/04 300W
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020164562
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516043742
【氏名又は名称】エーアイシルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】四衢 晋
(72)【発明者】
【氏名】小野木 祥玄
(72)【発明者】
【氏名】岡野 秀生
(72)【発明者】
【氏名】及川 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】平田 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】成田 勝徳
【テーマコード(参考)】
4C127
4L002
4L033
4L048
【Fターム(参考)】
4C127LL22
4L002AA07
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC01
4L002AC07
4L002BA00
4L002BB03
4L002DA00
4L002EA00
4L002FA01
4L002FA06
4L033AA07
4L033AB04
4L033AC15
4L033CA58
4L048AA20
4L048AA21
4L048AA34
4L048AA37
4L048AB07
4L048AB08
4L048AB11
4L048AB12
4L048AB21
4L048BA01
4L048BA02
4L048BA10
4L048CA00
4L048DA01
4L048DA22
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】洗濯耐久性を向上させることができる導電性繊維構造物を提供する。
【解決手段】前記導電性繊維構造物は、合成繊維を含む繊維束で構成される基材と、前記基材内に存在する導電性樹脂とを含む導電性繊維構造物であって、前記繊維束は、繊維が存在する繊維領域および繊維が存在しない非繊維領域で構成され、前記繊維束を繊維長手方向に対して直交する方向で切断した切断面の繊維束内において、単繊維断面の重心が4点以上入る直径30μmの円内における繊維領域/非繊維領域の面積比が、20/80~80/20であり、かつ前記非繊維領域中で導電性樹脂の占める面積割合が40~90%である非繊維領域を含み、前記導電性樹脂が導電性高分子を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維を含む繊維束で構成される基材と、前記基材内に存在する導電性樹脂とを含む導電性繊維構造物であって、
前記繊維束は、繊維が存在する繊維領域および繊維が存在しない非繊維領域で構成され、
前記繊維束を繊維長手方向に対して直交する方向で切断した切断面の繊維束内において、単繊維断面の重心が4点以上入る直径30μmの円内における繊維領域/非繊維領域の面積比が、20/80~80/20であり、かつ前記非繊維領域中で導電性樹脂の占める面積割合が40~90%である非繊維領域を含み、前記導電性樹脂が導電性高分子を含む導電性繊維構造物。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性繊維構造物であって、前記導電性樹脂が、離間する単繊維間において、連通孔があるスポンジ状および/または境界膜状に存在する、導電性繊維構造物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の導電性繊維構造物であって、前記基材を構成する合成繊維の断面形状が3点以上の凹部を有する異形断面である繊維を含む、導電性繊維構造物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性繊維構造物であって、前記基材が単繊維繊度0.5~4dtexである合成繊維を含んでなる、導電性繊維構造物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性繊維構造物であって、100回洗濯後の表面抵抗率が200Ω/□以下である、導電性繊維構造物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性繊維構造物を電極として備える生体電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維を含む繊維束で構成される基材と、前記基材内に存在する導電性樹脂とを含む導電性繊維構造物、およびそれを電極として備える生体電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性繊維を用いることで人体や動物の心拍数や電気的生体信号を測定可能な電極、あるいは電極を使用したウエアラブルセンサーが多く開発されている。また、電極を通して生体、特に筋肉に電気的刺激を与えることで、積極的に筋運動を促す電気的筋肉刺激(EMS)用途も盛んに開発が進んでいる。これらは、人々の安全や健康の向上を図るという目的がある。本目的に求められる電極としては、生体面と面状に接触させることが望ましく、洗濯耐久性が高くなければならない。また、EMS用途については電極の抵抗値が1000Ω以下である必要があり、1000Ωを超えると電極が発熱し事故のおそれがある。
【0003】
従来、生体面と面状に接触させる電極として、PEDOT-PSS(ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸)等の導電性高分子を含む導電体を基材繊維に含浸及び/又は付着させ、導電体が基材繊維に密着した導電性高分子繊維を作製し、この導電性高分子繊維を用いた生体電極が開発されている(特許文献1(特許第5706539号公報)参照)。
【0004】
また、洗濯耐久性を向上させた電極として、導電性高分子を含む導電性樹脂が繊維構造物を構成する単繊維と単繊維の間隙に担持され、前記繊維構造物の厚み方向の断面を観察したときに、表層から15~30μmの領域に存在する前記導電性樹脂の面積比率が15%以上である導電性繊維構造物が開発されている(特許文献2(国際公開第2017/183463号パンフレット)参照)。
【0005】
さらに、近年では、導電性高分子としてPEDOT-PSSよりも導電性が高いPEDOT-PTS(ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン-p-トルエンスルホン酸)を基材表面に塗布する技術も開発されており、導電性高分子を非結晶のまま均一に付着させることにより洗濯耐久性を向上させている(特許文献3(特許第6476480号公報)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5706539号公報
【特許文献2】国際公開第2017/183463号パンフレット
【特許文献3】特許第6476480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、導電体が繊維表層に多く付着した導電性高分子繊維を用いており、そのような導電性高分子繊維を加工してテキスタイル形状にした電極は、洗濯耐久性は決して高いものではなく、不十分であった。また、特許文献1では、基材繊維としてシルク繊維しか実際に用いておらず、構造として導電性高分子を含む導電体が基材繊維に密着した形態となっているが、特に合成繊維を用いた場合、導電性高分子との相性が悪く接着性に劣るため導電体が密着した形態になりにくい。また、たとえ製造直後は密着した形態となっても洗濯時に導電体が剥離、脱落し導電性が急激に低下する不十分なものであった。
【0008】
特許文献2に開示されている導電性繊維構造体は厚み方向の断面を観察したときに、表層から15~30μmの領域に存在する導電性樹脂の面積比率が15%以上である。この文献には、導電性樹脂が繊維と繊維の間隙に担持されるが、深部まで含侵することにより、柔軟性と耐洗濯耐久性が得られると記載されている。厚み方向の表層から15~30μmの領域とは、導電性繊維構造体の厚みやこれを構成する繊維の繊維径等によって異なるため、必ずしも深部を表現しているとはいえない。また、導電性樹脂が繊維構造物内部に担持されているとしても洗濯耐久性が不十分である場合があった。
【0009】
また、特許文献2の実施例では、分散粒子径が200nm以下の微細な粒子であり、バインダ樹脂を含む導電性樹脂を塗布することにより、導電性樹脂を繊維と繊維の間に担持、すなわち接着させるため、30回洗濯しても導電性が維持されるとしている。しかしながら、このような態様では、結局は相溶性のない導電性樹脂を繊維間に担持させているだけのため、実用的な洗濯回数においては性能を維持できない。すなわち、導電性樹脂を含む導電性繊維構造体を洗濯すると、洗濯機との摩擦抵抗、洗濯物同士の衝撃力などにより表層から順次導電性物質が脱落していく。洗濯を更に繰り返すと繊維表面に担持した導電性物質が脱落した後は繊維外層部から内層方向に向かって順次導電性物質が脱落していく。そのため、導電性高分子を繊維に担持、すなわち接着させる方法では洗濯30回までは導電性を有していても、3日に1回洗濯するとして約1年の実用性を鑑みた洗濯100回という過酷な条件では導電性物質が脱落し導電性が発揮できなかった。
【0010】
特許文献3では、導電性高分子を均一に付着させることができると記載しているものの、基材表面に対する付着を対象としており、特に、合成繊維を基材として用いた場合には、その分子構造および親水性の欠如が原因となり導電性高分子との相性が悪く、繊維束内側まで存在させることは困難であるため、洗濯耐久性について改善の余地があった。
【0011】
また、特許文献2および3では、洗濯耐久性の評価として30回および10回程度の洗濯しかなされておらず、実用性を考慮した評価とはいえなかった。特許文献2および3に記載されている衣料品は人の肌に接触することが必須である。すなわちセンサーとして作動するには心電を計測する必要があり、また電気によるマッサージ・筋肉刺激を付与するためにも、導電性繊維構造体との間に他の衣類が存在しては電気が流れず、性能が発揮できないためである。このように人肌に接触する衣類は汗による臭気の問題などから洗濯を繰り返して使用されることが一般的である。着用シーンにより着用頻度は変わるものの1年間の使用を考慮すると、洗濯30回は12日に1回の着用となりあまり実用的とは言えない。洗濯100回であれば3~4日に1回の着用となり実用性があると言えるレベルである。
【0012】
本発明はこのような問題に基づきなされたものであり、洗濯耐久性を向上させることができる導電性繊維構造物および生体電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、合成繊維を含む繊維束で構成される基材と、前記基材内に存在する導電性樹脂とを含む導電性繊維構造物であって、前記繊維束断面において、繊維領域と非繊維領域とが特定の面積で存在するとともに、非繊維領域中で導電性樹脂の占める面積が特定の割合である導電性繊維構造物は、繊維束の内側に導電性樹脂を保持させることができるため、洗濯耐久性に優れていることを見出し、本発明の完成に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
合成繊維を含む繊維束で構成される基材と、前記基材内に存在する導電性樹脂とを含む導電性繊維構造物であって、
前記繊維束は、繊維が存在する繊維領域および繊維が存在しない非繊維領域で構成され、
前記繊維束を繊維長手方向に対して直交する方向で切断した切断面の繊維束内において、単繊維断面の重心が4点以上入る直径30μmの円内における繊維領域/非繊維領域の面積比が、20/80~80/20(好ましくは30/70~75/25、より好ましくは40/60~65/35)であり、かつ前記非繊維領域中で導電性樹脂の占める面積割合が40~90%(好ましくは45~80%、より好ましくは50~75%)である非繊維領域を含み、前記導電性樹脂が導電性高分子を含む導電性繊維構造物。
〔態様2〕
態様1に記載の導電性繊維構造物であって、前記導電性樹脂が、離間する単繊維間において、連通孔があるスポンジ状および/または境界膜状に存在する、導電性繊維構造物。
〔態様3〕
態様1または2に記載の導電性繊維構造物であって、前記基材を構成する合成繊維の断面形状が3点以上の凹部を有する異形断面である繊維を含む、導電性繊維構造物。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の導電性繊維構造物であって、前記基材が単繊維繊度0.5~4dtex(好ましくは0.7~3dtex、より好ましくは1.0~2.5dtex)である合成繊維を含んでなる、導電性繊維構造物。
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の導電性繊維構造物であって、100回洗濯後の表面抵抗率が200Ω/□以下(好ましくは150Ω/□以下、より好ましくは100Ω/□以下)である、導電性繊維構造物。
〔態様6〕
態様1~5のいずれか一態様に記載の導電性繊維構造物を電極として備える生体電極。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性繊維構造物によれば、実着用を考慮した今までより多い回数の洗濯でも導電性樹脂を繊維束内に保持でき、洗濯耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明から、より明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
図1】実施例1で得られた導電性繊維構造物の断面を示す拡大写真(倍率:800倍)である。
図2】実施例2で得られた導電性繊維構造物の断面を示す拡大写真(倍率:800倍)である。
図3】実施例3で得られた導電性繊維構造物の断面を示す拡大写真(倍率:1000倍)である。
図4】繊維断面形状が3点以上の凹部を有する異形断面の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[導電性繊維構造物]
本発明の導電性繊維構造物は、合成繊維を含む繊維束で構成される基材と、前記基材内に存在する導電性樹脂とを含む。繊維束とは、2本以上の単繊維が合わさることにより形成された束をいい、紡糸直後の撚りの無いマルチフィラメント原糸、また原糸に撚糸・仮撚・インターレース等の加工を行ったものも含まれる。導電性樹脂は、基材の少なくとも一部に存在していればよく、後述の面積比および面積割合の範囲は、少なくとも導電性樹脂が存在している部分で満たしていればよい。
【0018】
本発明の導電性繊維構造物は、繊維束を繊維長手方向に対して直交する方向で切断した切断面において、繊維が存在する繊維領域および繊維が存在しない非繊維領域で構成される。繊維領域は、繊維束を構成する繊維自体の領域を示す。非繊維領域は、繊維以外が存在する領域、つまり、空気層、導電性樹脂などが存在する領域を示し、例えば、単繊維間で空気層の存在する領域や、単繊維間または繊維表面で導電性樹脂の存在する領域であってもよい。また、空気層は、繊維や導電性樹脂などの物質が存在せず、空隙となっている領域を示す。
【0019】
本発明の導電性繊維構造物は、繊維束を繊維長手方向に対して直交する方向で切断した切断面において、単繊維断面の重心が4点以上入る直径30μmの円内における繊維領域/非繊維領域の面積比が、20/80~80/20である。本発明において、単繊維断面の重心が4点以上入る直径30μmの円内とは、後述の方法により決定される部分を示し、繊維束の内側に該当する部分を示す。この繊維束の内側において、繊維領域と非繊維領域との面積比を特定の範囲にし、単繊維同士の距離をある程度広げることにより、繊維束の内側に空気層および導電性樹脂が存在できる空間を確保できるとともに、導電性樹脂を繊維束内に保持することができるため、洗濯耐久性を向上させることができる。単繊維断面の重心が4点以上入る直径30μmの円内における繊維領域/非繊維領域の面積比は、好ましくは30/70~75/25、より好ましくは40/60~65/35であってもよい。
【0020】
本発明の導電性繊維構造物は、繊維束を繊維長手方向に対して直交する方向で切断した切断面において、単繊維断面の重心が4点以上入る直径30μmの円内で、非繊維領域中で導電性樹脂の占める割合(面積)が40~90%である。非繊維領域中の導電性樹脂の占める面積割合を特定の範囲にし、繊維束内に保持できる導電性樹脂が特定量存在することにより、導電性を維持させることができるため、洗濯耐久性を向上させることができる。単繊維断面の重心が4点以上入る直径30μmの円内で、非繊維領域中で導電性樹脂の占める割合(面積)は、好ましくは45~80%、より好ましくは50~75%であってもよい。
【0021】
本発明の導電性繊維構造物において、導電性樹脂は、繊維束の少なくとも内側に存在していればよく、さらに繊維束の外側表面に接着していてもよい。また、本発明の導電性繊維構造物は、繊維束の内側および/または外側において、導電性樹脂が合成繊維に接着していてもよいが、接着していない部分があってもよい。導電性樹脂と合成繊維との接着性が低い場合であっても、繊維束の外側に存在する導電性樹脂は洗濯時に脱落するが、繊維束の内側に導電性樹脂を閉じ込めることにより洗濯時の脱落を防止することができる。
【0022】
本発明において、繊維領域/非繊維領域の面積比および非繊維領域中の導電性樹脂の面積割合は以下の方法により決定される。重心は導電性繊維構造物の切断面写真(SEM)において画像解析をして求めるが、まず合成繊維、導電性樹脂および空気層を区別する必要がある。なお、他の材料が存在する場合にはその材料も区別する必要がある。例えば、前処理として導電性繊維構造物をオスミウムで処理し、その境界面を明確化することが好ましく、オスミウムは導電性高分子に吸着するが合成繊維には吸着しないため、境界面を明確化することができる。合成繊維、導電性樹脂および空気層の境界を画像解析ソフトで区別した後、合成繊維の単繊維断面の重心を解析ソフトから特定し、その位置を切断面写真にプロットする。その後、4つの単繊維断面の重心を選択し、その4点の重心を中心とする直径30μmの円を描き、当該円内に単繊維断面の重心が4点以上入る部分を探し、当該部分の繊維領域/非繊維領域の面積比および非繊維領域中の導電性樹脂の面積割合を画像解析ソフトで計算することができる。なお、基材が織物や編物等の組織において、複数種類の繊維束で構成されている場合には、少なくとも1種の繊維束が上記特定の面積比および面積割合を満たしていればよい。
【0023】
また、本発明の導電性繊維構造物は、繊維束を繊維長手方向に対して直交する方向で切断した切断面において、繊維束の内側において、特定の割合で非繊維領域として空気層が存在することにより、洗濯時の衝撃に対して空気層がクッションの役割を果たすためか洗濯耐久性を向上させることができ、さらに柔軟性に優れる。単繊維断面の重心が4点以上入る直径30μmの円内の非繊維領域において、導電性樹脂/空気層の面積比が、40/60~90/10であってもよく、好ましくは45/55~80/20、より好ましくは50/50~75/25であってもよい。
【0024】
導電性樹脂が、離間する単繊維間において、スポンジ状および/または境界膜状に存在していてもよい。スポンジ状とは、単繊維間に存在する導電性樹脂が多孔状に空気層(空隙)を含んでいる形状をいう。境界膜状とは、導電性繊維構造物の製造時において導電性樹脂が乾燥する際に、隣接する単繊維間から働く表面張力により形成された膜状構造を有していることをいう。導電性樹脂がスポンジ状および境界膜状に存在するとは、導電性繊維構造物中の1個の繊維束中、導電性樹脂がスポンジ状に存在している部分と、境界膜状に存在している部分とが混在していてもよいし、導電性繊維構造物中の複数の繊維束のうち、導電性樹脂がスポンジ状に存在している繊維束と、境界膜状に存在している繊維束とが混在していてもよい。導電性樹脂が隣接する単繊維間で充填された形状ではなく、単繊維間で空隙を含む形状を有することによって、洗濯耐久性を向上させることができるとともに、柔軟性に優れる。
【0025】
本発明の導電性繊維構造物は、用途に応じて目付を適宜決定することができ、その目付は特に限定されないが、例えば、50~300g/m程度であってもよい。
【0026】
本発明の導電性繊維構造物は、100回洗濯後の表面抵抗率が200Ω/□以下であってもよく、好ましくは150Ω/□以下、より好ましくは100Ω/□以下であってもよい。100回洗濯後の表面抵抗率の下限は、例えば、0.1Ω/□以上であってもよい。また、200回洗濯後においても上記範囲の表面抵抗率であることが好ましい。なお、100回洗濯後の表面抵抗率は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0027】
(基材)
基材は、合成繊維を含む繊維束で構成されていれば特に限定されないが、例えば、織物、編物、不織布などの布帛が挙げられるが、好ましくは織物、編物であってもよい。
従来では導電性の維持が困難であった、特に伸縮性織物や編物を基材として用いても、本発明では、導電性の維持を可能とする。すなわち、従来の導電性繊維構造物のうち、ストレッチ性の高い編物を基材として用いることは非常に困難であった。編地のループを形成する繊維束は通常時は比較的低張力下にあり、繊維軸横方向に広がって配置されているが、編地が引っ張られるとループに張力が掛かり、繊維束が延ばされることで、構造の変形を受ける。この構造の変形により、繊維束と導電性樹脂の剥離が促され、最終的には導電性樹脂を大量に脱落させ、導電性を消失させるため、導電性繊維構造物の基材として編物を用いることは困難であった。
一方、本発明の導電性繊維構造物は、繊維束の内側に導電性樹脂が存在する構造を形成しているため、編物ループの変形を受けても導電性樹脂が脱落せず、ストレッチ性の高い編地であっても導電性を維持することができる。また、上記と同様の理由で、ポリウレタン弾性糸、サイドバイサイド型高捲縮糸などを用いたストレッチ性の高い織物についても、導電性を維持することができる。
【0028】
合成繊維は、繊維形成性の合成高分子を用いて形成された繊維であり、1種類の合成高分子から形成されていてもよいし、2種類以上の合成高分子から形成されていてもよい。合成繊維としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂から形成されるポリオレフィン系繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂から形成されるポリエステル系繊維;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612等のポリアミド系樹脂から形成されるポリアミド系繊維;ポリウレタン系樹脂から形成されるポリウレタン系繊維;ポリアクリロニトリルから形成されるアクリル繊維やアクリル系繊維;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のアクリレート系樹脂から形成されるアクリレート系繊維等が挙げられる。これらの繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの繊維のうち、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、およびポリウレタン系繊維が好ましく用いられる。本発明の導電性繊維構造物は、導電性高分子との相性が良くない合成繊維を基材として用いた場合であっても、繊維束の内側に存在させることができるため、洗濯耐久性に優れる。例えば、基材を構成する繊維のうち合成繊維を含む割合は50質量%以上であってもよく、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であってもよい。合成繊維の割合の上限は特に制限されないが、100質量%であってもよい。基材を構成する繊維として合成繊維以外に種々の天然繊維や半合成繊維等を含んでいてもよい。例えば、コットン、麻、羊毛、パルプ等の天然繊維;レーヨン、ポリノジック、キュプラ等の再生繊維;アセテート、トリアセテート等の半合成繊維等を含んでいてもよい。
【0029】
基材を構成する合成繊維は非複合繊維であってもよいし、複合繊維(芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維等)であってもよい。合成繊維の断面形状は、特に限定されるものではなく、丸型断面であってもよく、丸型断面以外の扁平断面、中空断面、その他異形断面等であってもよいが、単繊維間の空間を広げる観点からは、合成繊維は、断面形状が3点以上(例えば、3点~6点)の凹部を有する異形断面である繊維を繊維束中に含んでいることが好ましい。凹部とは、単繊維断面の外周において繊維内部に向かって凹む部分を有している部分をいう。このような異形断面形状の繊維を含んでいる場合、単繊維同士が近接していても凹部によりその単繊維間で空間が生じるため、導電性樹脂を含む液体を毛細管現象により浸透させることができるとともに、導電性樹脂を多く抱き込ませることができる。なお、合成繊維には捲縮を有さないストレートな形状の合成繊維と捲縮加工を施した仮撚加工糸があり、どちらの形態でも構わないが、毛細管現象をより強く発現させるためには仮撚加工を施した捲縮形状を有することが好ましい。特に、3点以上の凹部を有する異形断面繊維に仮撚加工を施すと凹部の一部が筒状に変形しストレート形状の繊維より吸い込んだ液体を放しにくい性質を持つため更に好ましい。断面形状が3点以上の凹部を有する異形断面としては、例えば、図4に示すような、多葉状又は星形状(例えば、3~6葉状)が挙げられる。好ましくは、断面形状が4点以上の凹部を有する異形断面である繊維を含んでいてもよい。繊維束は、1種または複数種の断面形状の繊維を含んでいてもよいが、例えば、繊維束中、全繊維の総繊度に対する断面形状が3点以上の凹部を有する異形断面である繊維の総繊度の割合が、50%以上であってもよく、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であってもよく、この上限は特に制限されないが、100%であってもよい。
【0030】
基材を構成する合成繊維の単繊維繊度は、0.5~4dtexであってもよく、単繊維繊度がこのような範囲の合成繊維を用いることにより、単繊維間の空間を確保できるとともに、導電性繊維構造物の柔軟性を向上させることができる。基材を構成する合成繊維の単繊維繊度は、好ましくは0.7~3dtex、より好ましくは1.0~2.5dtexであってもよい。上記単繊維繊度を有する合成繊維は、基材を構成する繊維のうち40質量%以上含まれていてもよく、好ましくは50質量%以上含まれていてもよい。基材を構成する繊維のうち上記単繊維繊度を有する合成繊維の割合の上限は特に制限されないが、100質量%であってもよい。なお、単繊維繊度は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0031】
繊維束を構成する単繊維数は、用途に応じて調整すればよく、例えば、10~500本であってもよく、好ましくは20~200本、より好ましくは30~100本であってもよい。また、繊維束1個の繊度は、例えば、20~500dtexであってもよく、好ましくは30~200dtex、より好ましくは35~110dtexであってもよい。
【0032】
(導電性樹脂)
導電性樹脂は、導電性高分子を含む。導電性高分子は、導電性を有するポリマーである。導電性高分子としては、導電性繊維構造物に導電性を付与できる限り特に限定されず、公知の導電性高分子を用いることができ、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、ポリアセチレン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリナフタレン、およびこれらの誘導体等が挙げられ、これらとドーパントとの複合体が好ましく用いられる。これらの導電性高分子は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの導電性高分子のうち、水溶性導電性高分子(例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、およびこれらの誘導体等)が好ましく、高い導電性を有する観点からは、チオフェン誘導体を単量体成分とするポリマーが好ましく、チオフェン誘導体を単量体成分とするポリマーとドーパントとの複合体がより好ましい。
【0033】
チオフェン誘導体を単量体成分とするポリマーとしては、ポリ(3,4-二置換チオフェン)が好ましい。また、ポリ(3,4-二置換チオフェン)のうち、ポリ(3,4-ジC1-4アルコキシチオフェン)またはポリ(3,4-C1-4アルキレンジオキシチオフェン)が好ましく、具体的には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)[PEDOT]、またはその誘導体がより好ましく用いられる。
【0034】
ドーパントとしては、例えば、ハロゲン、無機酸またはその塩、低分子スルホン酸またはその塩、低分子カルボン酸またはその塩、スルホン酸ポリマー類(例えば、ポリスチレンスルホン酸[PSS]、ポリビニルスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸等)、およびカルボン酸ポリマー類(例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等)等が挙げられる。これらのドーパントは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。チオフェン誘導体を単量体成分とするポリマーとの複合体として用いるドーパントとしては、高い導電性を付与する観点から、低分子スルホン酸またはその塩、低分子カルボン酸またはその塩、またはスルホン酸ポリマー類が好ましく用いられ、低分子スルホン酸としては、C1-12アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、パーフルオロC1-12アルキルスルホン酸等が挙げられ、低分子カルボン酸としては、トリフルオロ酢酸、サリチル酸等が挙げられ、スルホン酸ポリマー類としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等が挙げられる。具体的には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)との複合体として用いるドーパントとしては、p-トルエンスルホン酸[pTS]またはその鉄塩、トリフルオロ酢酸またはその塩、またはポリスチレンスルホン酸が好ましく、さらに高い導電性を付与する観点から、p-トルエンスルホン酸またはその鉄塩がより好ましい。
【0035】
導電性樹脂は、導電性高分子以外のものを含んでいてもよく、例えば、酸化剤が挙げられる。酸化剤は、導電性高分子を合成する重合反応に用いられる添加剤であり、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄等の無機酸の鉄塩;塩化第二銅、硫酸第二銅等の無機酸の銅塩;過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過ヨウ素酸カリウム等の過ヨウ素酸塩;p-トルエンスルホン酸の鉄塩等の有機酸の鉄塩;塩化アルミニウム、テトラフルオロホウ酸ニトロソニウム、三フッ化ホウ素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。これらの酸化剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0036】
導電性樹脂は、高い導電性を有し、例えば、1×10-2S/cm以上の電気伝導度を有していてもよく、好ましくは0.3S/cm以上、より好ましくは1.0S/cm以上の電気伝導度を有していてもよい。導電性樹脂の電気伝導度の上限は、例えば、1000S/cmであってもよい。
【0037】
[導電性繊維構造物の製造方法]
本発明の導電性繊維構造物の製造方法は、合成繊維を含む繊維束で構成される基材に対して、導電性樹脂形成溶液を塗布する塗布工程と、基材に導電性樹脂形成溶液を繊維束に浸透させる浸透工程と、基材に浸透した導電性樹脂形成溶液において、重合して導電性高分子を合成する重合工程とを少なくとも備えていてもよい。
【0038】
塗布工程では、導電性樹脂形成溶液の基材への塗布にあたり、浸漬法、コーティング法、スプレー法等の公知の塗布方法により塗布してもよい。導電性樹脂形成溶液を基材に含ませ基材内部で導電性高分子を合成する観点からは、コーティング法、スプレー法等が好ましい。導電性樹脂形成溶液は、目的に応じて、基材の全面に塗布してもよく、一部に塗布してもよい。
【0039】
塗布工程では、導電性樹脂形成溶液の浸透性を高める観点から、基材に張力をかけないようにしてもよい。基材に張力をかけないようにすることにより、繊維束内に導電性樹脂を多く抱き込ませるような空間を生じさせることができる。基材に張力をかけずに導電性樹脂形成溶液を塗布する方法としては、基材を所定の基盤上に静置した状態で導電性樹脂形成溶液を塗布する方法であってもよく、例えば、バッチ式で行ってもよく、ベルト搬送等による連続式で行ってもよい。
【0040】
導電性樹脂形成溶液は、導電性高分子を形成可能な成分を含む溶液であり、導電性高分子の単量体を含んでいてもよい。後の浸透工程において導電性樹脂形成溶液を繊維束に浸透させやすくする観点からは、導電性高分子を構成する単量体を含む溶液を用いることが好ましい。導電性樹脂形成溶液には、単量体としてチオフェン誘導体を含んでいてもよく、好ましくはポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の単量体(例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含んでいてもよい。
【0041】
導電性樹脂形成溶液として導電性高分子の単量体を含む溶液を用いる場合、酸化剤、触媒、重合開始剤等の単量体の重合に寄与する成分を含んでいてもよい。例えば、単量体がチオフェン誘導体の場合、酸化剤を用いた酸化重合によりチオフェン誘導体を単量体成分とするポリマーを得ることができ、上述した酸化剤を含んでいてもよく、好ましくは無機酸の鉄塩または有機酸の鉄塩を含んでいてもよい。また、低分子スルホン酸の鉄塩または低分子カルボン酸の鉄塩を含む場合、酸化剤として機能させることができるとともに、ドーパントとしても機能させることができる。好ましくは、p-トルエンスルホン酸の鉄塩を用いることにより、酸化剤およびドーパントのいずれにも機能させることができる。
【0042】
導電性樹脂形成溶液に用いる溶媒は、導電性高分子を形成可能な成分を溶解させることができれば特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、グリセリン等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のプロピレングリコール類;テトラヒドロフラン;アセトン;アセトニトリル等が挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。好ましくは、水、アルコール類、エチレングリコール類、およびアセトニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を使用してもよい。
【0043】
導電性樹脂形成溶液として導電性高分子の単量体を含む溶液を用いる場合、溶媒としてエタノールを用いることが好ましい。エタノールを溶媒とする導電性樹脂形成溶液を基材に塗布して、導電性高分子の単量体を基材中で重合させる場合、比較的低温で溶媒を除去することが可能となる。
【0044】
導電性樹脂形成溶液には、導電性高分子を形成可能な成分以外に各種添加剤を含んでいてもよい。
【0045】
本発明の導電性繊維構造物の製造方法では、後述するように導電性樹脂形成溶液の塗布を3回以上施すことが好ましく、導電性樹脂形成溶液の1回あたりの塗布量は、基材へ浸透する量を確保するとともに基材から液滴が落下しない最大量であることが好ましい。
【0046】
浸透工程では、導電性樹脂形成溶液を繊維束に浸透させることができる。浸透工程では、導電性樹脂形成溶液を基材の繊維束の内側にまで浸透させることができれば特に限定されず、基材に浸透させる方法は公知のプレス、ロールプレス、ベルトプレス等の方法により行うことができる。
【0047】
重合工程では、基材に浸透した導電性樹脂形成溶液において重合を進めて導電性高分子を合成してもよい。重合工程では、導電性高分子の単量体の重合反応を促進させる観点から、加熱してもよく、また、常温で重合進行する重合系の場合には重合反応を制御させる観点から、加熱せずに常温で反応させてもよい。例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤とを混合する場合、常温で重合反応させることが好ましい。
【0048】
本発明の導電性繊維構造物の製造方法では、さらに、導電性樹脂を付与した基材に対して、再度、導電性樹脂形成溶液を塗布することが好ましく、特定の繊維領域/非繊維領域の面積比および非繊維領域中の導電性樹脂の面積割合を満たす観点からは、塗布工程および浸透工程を3回以上施すことが好ましい。導電性樹脂形成溶液を基材に塗布してから導電性樹脂が付着した基材を得るまでの工程(少なくとも塗布工程および浸透工程を含み、必要に応じて重合工程を含む)を、3~5回施してもよい。
【0049】
また、導電性樹脂を1度に形成させるより複数回に分けて形成させることにより、繊維束の内側において導電性樹脂をスポンジ状および/または境界膜状の構造にすることができる。すなわち、塗布工程および浸透工程を少なくとも3回以上経ることにより導電性樹脂が存在する導電性繊維構造物が得られるが、塗布工程および浸透工程を1回施した導電性繊維構造物に対して再度塗布工程および浸透工程を施すことによって、先に存在する導電性樹脂と再度塗布した導電性樹脂形成溶液中の導電性樹脂が接着し、基材と接着あるいは剥離した連通孔のあるスポンジ状または境界膜状の構造にすることができ、繊維束の内側に空気層を形成する観点から好ましい。
【0050】
[生体電極]
本発明の導電性繊維構造物は、生体と直接接触し電気信号を取得および/または電気信号を付与できる生体電極に用いることができる。本発明の導電性繊維構造物は、電極部材として用いられ、その形状、大きさは、生体面と面状に接触させることができれば特に限定されない。
【0051】
本発明の生体電極では、導電性繊維構造物に電気絶縁層として樹脂層が積層されていてもよい。樹脂層は、織物、編物、不織布等の布帛形状であってもよく、フィルム、シート等の形状であってもよい。
【0052】
本発明の生体電極は、心拍等の生体からの電気信号を検出する生体電極、または電気的筋肉刺激(EMS)等の生体に電気的刺激を付与する生体電極が挙げられる。本発明の生体電極は、用いられる導電性繊維構造物が生体のフィット性を有するため、生体と直接接触するものであれば特に限定されず、パッド、グローブ、ベルト等に加え、洗濯耐久性に優れるため、下着等の各種衣類(シャツ、ブラウス、Tシャツ、タンクトップ、キャミソール、スパゲッティストラップシャツ、チューブトップ、ホルタートップ、ブラジャー、ズボン、パンツ、ガードル、靴下、タイツ、ストッキング、シングレット、レオタード、水着、ウェットスーツ等)、履物(革靴、スニーカー、ブーツ、サンダル、パンプス、ミュール、スリッパ等)、ヘッドバンド、リストバンド、首巻、腹巻、サスペンダー、手袋、腕時計、帽子、サポーター、包帯等の衣料品の少なくとも一部を構成してもよい。
【実施例0053】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0054】
[単繊維繊度]
JIS L 1013「化学繊維フィラメント糸試験方法」に準じて、基材を構成する繊維束の総繊度を測定した。その後、繊維束を構成するフィラメント数で総繊度を除した値を単繊維繊度とした。
【0055】
[目付]
JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」の8.3に準じて、目付(g/m)を測定した。
【0056】
[面積比、面積割合]
導電性繊維構造物をまず、剃刀で切断し生地断面の露出した観察試料を作製する。その後、四酸化オスミウムを用いて室温(23℃)で気相染色処理することで試料を電子染色処理し顕微鏡観察に供する。観察は走査電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製、「SU-70」)を用いて、23℃、高真空下、観察倍率800倍でオスミウム処理された導電性繊維構造物の断面を撮像した。
得られた画像を、Thermo Fisher Scientific社製の画像解析ソフト「Avizo for EM systems software」にて画像のセグメンテーションを行い、繊維領域と非繊維領域とを区分した。また、非繊維領域においては、同様のセグメンテーション化により空気層領域と導電性樹脂領域とを区分した。また、各単繊維断面の重心は画像解析ソフトにより決定した。その後、画像解析ソフトにより決定した重心のうち4点を選択し、その4点の重心を中心とする直径30μmの円を描き、当該円内に単繊維断面の重心が4点以上入る場合にその円内を対象の領域に決定した。当該領域において、上記セグメンテーションにて繊維領域と非繊維領域とを区分し、さらに非繊維領域においては空気層領域と導電性樹脂領域とを区分した後、それぞれの面積を算出し、各面積割合を求めた。以上の領域決定および面積割合算出を1点の測定数とした。同様に重心が4点以上入る別の直径30μmの円内の領域を少なくとも3カ所測定し、平均値を算出し、繊維領域/非繊維領域の面積比、および非繊維領域中で導電性樹脂の占める面積割合を求めた。
【0057】
[表面抵抗率]
導電性繊維構造物を10cm×10cmにカットした試験片をガラス板など表面凹凸のない硬質の板状物の上に乗せ、表面抵抗率(Ω/□)を、低抵抗率計((株)三菱ケミカルアナリテック製、四探針抵抗計「Loresta-AX MCP-T370」、プローブ「ESPプローブ MCP-TP08P」)を用いて20℃、40%RH環境下で測定した。
【0058】
[洗濯耐久性]
導電性繊維構造物を10cm×10cmにカットした試験片を用い、JIS L 0217(2012)103法に準拠した方法で、100回繰り返し法による洗濯後の表面抵抗率を測定した。洗濯機は、全自動洗濯機(TOSHIBA AW-6D6)を使用した。
【0059】
[実施例1]
常法で製造された酸化チタンを2.5wt%含有する〔η〕=0.657のポリエチレンテレフタレートを紡糸速度3700m/minで溶融紡糸を行い、70dtex48フィラメントの凹部を4カ所有する十字断面POY原糸を得た。次いで、本POY原糸を仮撚倍率1.32倍、ヒーター温度185℃で通常仮撚を行い、56dtex48フィラメントの仮撚加工糸を得た。当該糸と22dtexモノフィラメントのポリウレタン弾性糸(旭化成(株)製)を表面とし、裏面にSD33dtex12フィラメントのポリエステル丸断面仮撚加工糸(南亜社製)を用いたメッシュ組織の編地を作製した後、通常の染色方法により染色したベアメッシュ生地を得た。この生地の単繊維繊度0.5~4dtexの合成繊維の含有率は93質量%であった。
このベアメッシュ生地を基材とし、PEDOTの単量体溶液(Heraeus CleviosM-V2)と、酸化剤及びドーパントであるpTSの鉄塩(Heraeus CleviosC-B40V2)と、溶媒であるエタノールとを混合した導電性樹脂形成溶液を塗布工程にて基材上部に均一になるように塗布した後、浸透工程にて繊維束内側に導電性樹脂形成溶液を浸透させた。その後、12分間55℃で加熱し、その後25℃、湿度60%で恒温槽に1時間保持してPEDOTの単量体を重合させた。なお、pTSの鉄塩とPEDOTの単量体との割合は、体積比で40:2とし、エタノールと酸化剤(pTSの鉄塩)の合計に対する酸化剤(pTSの鉄塩)の割合は、30質量%とした。また塗布量は生地から液滴が落下しない最大量である1g/20cmの割合とした。このようにして基材内に浸透した状態で重合を行い、PEDOTを合成し、繊維表面および繊維束空間内に導電性樹脂を形成させ、1回塗布の導電性繊維構造物を得た。
次いで、1回の塗布で基材から液滴が落下しない最大量が1g/20cmであったため、十分な量の導電性樹脂を基材中に含ませるために、1回塗布後の導電性繊維構造物をさらなる基材とし、上記と同じ方法で2回目および3回目の塗布、浸透および重合を行い、3回塗布した導電性繊維構造物を得た。
得られた導電性繊維構造物の断面を切断後、オスミウムで染色し断面観察を行った結果、導電性樹脂は、粒状の粒子が積層された連通孔のあるスポンジ状の構造を呈していた(図1)。また、得られた導電性繊維構造物は、単繊維断面の重心が4点入る直径30μmの円内における繊維領域と非繊維領域の面積比は、55/45の範囲であった。また当該非繊維領域に占める導電性樹脂の面積割合は65%であった。なお、これらの面積比および面積割合は表面に用いた繊維束の断面を観察して算出した。また、導電性繊維構造物の表面抵抗率は5Ω/□であった。導電性繊維構造物を100回連続洗濯した後、同様に表面抵抗率を測定したところ、74Ω/□と洗濯後も低い表面抵抗率を示した。
【0060】
[実施例2]
常法で製造された酸化チタンを2.5wt%含有する〔η〕=0.657のポリエチレンテレフタレートを紡糸速度3750m/minで溶融紡糸を行い、110dtex48フィラメントの凹部を4カ所有する十字断面POY原糸を得た。次いで、本POY原糸を仮撚倍率1.34倍、ヒーター温度180℃で通常仮撚を行い、88dtex48フィラメントの1ヒーター仮撚加工糸を得た。当該糸にS方向200t/mの撚糸加工を施したものを経糸とし、緯糸にFD84dtex24フィラメントのポリエステル丸断面1ヒーター仮撚加工糸双糸(クラレトレーディング(株)製)にS方向300t/mの撚糸加工を施したものを用いた経二重組織を製織した。次いで、通常の染色方法により染色加工を施した織物を得た。この織物の単繊維繊度0.5~4dtexの合成繊維の含有率は100質量%であった。塗布量は生地から液滴が落下しない最大量である0.8g/20cmの割合とした。
この織物を基材とした場合、1回の塗布で基材から液滴が落下しない最大量が0.8g/20cmであった。そのため、十分な量の導電性樹脂を基材中に含ませるために、1回あたりの導電性樹脂形成溶液の塗布量を当該織物の最大吸収量である0.8g/20cmとして、実施例1と同じ方法で塗布・浸透・重合の一連の工程を3回行った3回塗布の導電性繊維構造物を得た。
得られた導電性繊維構造物の断面を切断後、オスミウムで染色し断面観察を行った結果、導電性樹脂は、板が分岐したような形状が形成された、合成繊維と剥離した境界膜状の構造を呈していた(図2)。得られた導電性繊維構造物は、単繊維断面の重心が4点入る直径30μmの円内における繊維領域と非繊維領域の面積比は、72/28の範囲であった。また当該非繊維領域に占める導電性樹脂の面積割合は57%であった。なお、これらの面積比および面積割合は経糸に用いた繊維束の断面を観察して算出した。また、導電性繊維構造物の表面抵抗率は3Ω/□であった。導電性繊維構造物を100回連続洗濯した後、同様に表面抵抗率を測定したところ、16Ω/□と洗濯後も低い表面抵抗率を示した。
【0061】
[実施例3]
常法で製造された酸化チタンを0.4wt%含有する〔η〕=0.676のポリエチレンテレフタレートを紡糸直結延伸方法で溶融紡糸を行い、33dtex18フィラメントの沸騰水収縮率15%の高収縮丸断面延伸糸を得た。また、同樹脂を用い、紡糸速度4800m/minの高速紡糸を行い、沸騰水収縮率3.2%の凹部を3カ所有する33dtex18フィラメントの低収縮三角断面糸を得た。次いで、両方の糸を、インターレースノズルを用いた空気交絡処理を行い66dtex36フィラメントの異収縮混繊糸を得た。当該糸にS方向1800t/mの撚糸加工を施したものを経糸とし、緯糸には同じく紡糸直結延伸を行った沸騰水収縮率7%の110dtex72フィラメントの延伸糸にSおよびZ方向に2500t/mの撚糸加工を施したものを用い、サテン組織で生機を作製した。この生機を収縮率差が大きくなるようリラックス処理を施した染色加工を行い、異収縮混繊サテン織物を得た。この織物の単繊維繊度0.5~4dtexの合成繊維の含有率は100質量%であった。
この織物を基材とした場合、1回の塗布で基材から液滴が落下しない最大量が0.6g/20cmであった。そのため、十分な量の導電性樹脂を基材中に含ませるために、1回あたりの導電性樹脂形成溶液の塗布量を当該織物の最大吸収量である0.6g/20cmとして、実施例1と同じ塗布・浸透・重合の一連の工程を3回行った3回塗布の導電性繊維構造物を得た。
得られた導電性繊維構造物の断面を切断後、オスミウムで染色し断面観察を行った結果、導電性樹脂は、繊維および繊維間に張り付いた薄膜や板のような構造を呈しており、一部スポンジ状の構造を呈していた(図3)。得られた導電性繊維構造物は、単繊維断面の重心が4点入る直径30μmの円内における繊維領域と非繊維領域の面積比は、75/25の範囲であった。また当該非繊維領域に占める導電性樹脂の面積割合は68%であった。なお、これらの面積比および面積割合は経糸に用いた繊維束の断面を観察して算出した。また、導電性繊維構造物の表面抵抗率は7Ω/□であった。導電性繊維構造物を100回連続洗濯した後、同様に表面抵抗率を測定したところ、326Ω/□となり洗濯後に表面抵抗率が上昇していたが、許容範囲内であった。
【0062】
[比較例1]
常法で製造された酸化チタンを2.0wt%含有する〔η〕=0.674のポリエチレンテレフタレートを紡糸直結延伸手法で溶融紡糸を行い、84dtex72フィラメントの沸騰水収縮率7%の普通収縮丸断面延伸糸を得た。当該糸を無撚で経糸および緯糸に使用したタフタ生機を作製した。この生機を通常の染色方法で染色加工を施しタフタ織物を得た。この織物の単繊維繊度0.5~4dtexの合成繊維の含有率は100質量%であった。
この織物を基材とした場合、1回の塗布で基材から液滴が落下しない最大量が0.4g/20cmであり、浸透するための導電性樹脂含量が不足していたが、1回あたりの導電性樹脂形成溶液の塗布量を当該織物の最大吸収量である0.4g/20cmとして、実施例1と同じ塗布・浸透・重合の一連の工程を3回行った3回塗布の導電性繊維構造物を得た。
得られた導電性繊維構造物の断面を切断後、オスミウムで染色し断面観察を行った結果、導電性樹脂がほとんど存在しない領域と導電樹脂がわずかにスポンジ状の構造を呈した部分が混在していた。得られた導電性繊維構造物は、単繊維断面の重心が4点入る直径30μmの円内における繊維領域と非繊維領域の面積比は、70/30の範囲であった。また当該非繊維領域に占める導電性樹脂の面積割合は35%であった。また、導電性繊維構造物の表面抵抗率は16Ω/□であった。導電性繊維構造物を100回連続洗濯した後、同様に表面抵抗率を測定したところ測定不可となり洗濯後に導電性樹脂はほとんど脱落し導電性は失われていた。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、実施例1~3の導電性繊維構造物は、特定の繊維領域/非繊維領域の面積比および非繊維領域中の導電性樹脂の面積割合を有しているため、実用性を鑑みた100回洗濯した後も、繊維束の内側に導電性樹脂を保持しており、導電性を維持できている。実施例1および2の導電性繊維構造物は、特に洗濯耐久性が優れていた。
【0065】
一方、比較例1では、非繊維領域中の導電性樹脂の面積割合を特定の範囲ではないため、100回洗濯したことにより導電性樹脂がほとんど脱落し、洗濯耐久性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の導電性繊維構造物は、心拍等の生体からの電気信号を検出する生体電極、または電気的筋肉刺激(EMS)等の生体に電気的刺激を付与する生体電極等として用いることができる。このような生体電極は、繊維構造に由来して生体へのフィット性がよいため、生体と直接接触するものとして好適であり、洗濯耐久性に優れるため、例えば、パッド、グローブ、ベルト等に加えて、下着等の各種衣類、履物、ヘッドバンド、リストバンド、首巻、腹巻、帽子、サスペンダー、手袋、腕時計、サポーター、マスク、包帯等の衣料品の少なくとも一部として用いることができる。
【0067】
以上のとおり、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4