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特開2022-56710光学フィルムおよび光学フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056710
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】光学フィルムおよび光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/04 20060101AFI20220404BHJP
   G02B 1/118 20150101ALI20220404BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20220404BHJP
   B29L 11/00 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
B29C59/04 Z
G02B1/118
B29L7:00
B29L11:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020164599
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村本 穣
【テーマコード(参考)】
2K009
4F209
【Fターム(参考)】
2K009AA03
2K009BB11
2K009CC21
4F209AA44
4F209AF01
4F209AG01
4F209AG03
4F209AG05
4F209AH73
4F209PA03
4F209PB02
4F209PC08
4F209PN09
4F209PQ01
(57)【要約】
【課題】光学フィルムをハンドリングする際の視認性を向上でき、かつ、光学フィルムの表面に反射防止領域と視認可能領域を同一の加工工程で容易に形成可能にする。
【解決手段】光学フィルム1は、可撓性を有する基材11と、基材11の少なくとも一方の表面に積層される樹脂層12と、を備える。樹脂層12は、可視光の波長以下のピッチPで配列された複数の凸部21または凹部22からなる微細凹凸構造20が形成される凹凸パターン領域2と、可視光の波長以上のトラックピッチPで相互に間隔を空けて配列される複数の凸条部31が形成される帯状のラインマーカー領域3と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基材と、
前記基材の少なくとも一方の表面に積層される樹脂層と、
を備え、
前記樹脂層は、
可視光の波長以下のピッチで配列された複数の凸部または凹部からなる微細凹凸構造が形成される凹凸パターン領域と、
可視光の波長以上のトラックピッチで相互に間隔を空けて配列される複数の凸条部が形成される帯状のラインマーカー領域と、
を含む、光学フィルム。
【請求項2】
前記複数の凸条部は、前記ラインマーカー領域の長手方向に沿って延びる直線状であり、相互に平行に配列される、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記ラインマーカー領域における前記凸条部の周期構造により、前記ラインマーカー領域に入射する光が回折および干渉することによって、波長ごとに分光された視認可能な光が前記ラインマーカー領域から出射される、請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記凹凸パターン領域は、前記微細凹凸構造により反射防止機能が付与された透明領域であり、
前記ラインマーカー領域は、前記凸条部の周期構造により回折格子として機能する視認可能領域である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記凸条部の前記トラックピッチは、500nm以上、1mm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記凸条部の前記トラックピッチは、1μm以上、10μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記凸条部の高さは、前記微細凹凸構造の凸部の高さと実質的に同一である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
前記ラインマーカー領域において前記凸条部が断続的に形成されており、前記凸条部が形成されていない部分によって、文字、記号またはマーカーのうち少なくともいずれかを含む識別情報が視認可能に表示される、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項9】
前記識別情報は、前記光学フィルムの製造に用いられたロール原盤の周方向の基準位置を表すマーカーを含む、請求項8に記載の光学フィルム。
【請求項10】
前記識別情報は、前記光学フィルムの製造時のロット番号を表す文字または記号を含む、請求項8に記載の光学フィルム。
【請求項11】
前記光学フィルムは、長尺状のフィルムが巻回されたフィルムロールである、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項12】
前記光学フィルムは、所定形状を有するフィルムの枚葉品である、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の光学フィルムを、ロール原盤を用いて製造する光学フィルムの製造方法であって、
前記ロール原盤の外周面に、前記光学フィルムの前記凹凸パターン領域の前記微細凹凸構造の反転形状を有する原盤微細凹凸構造が形成されている原盤凹凸パターン領域と、前記ロール原盤の全周に渡って帯状に設けられ、前記光学フィルムの前記ラインマーカー領域の前記凸条部の反転形状を有する螺旋状の溝が形成されている原盤ラインマーカー領域と、を含む、前記ロール原盤を準備する工程と、
前記光学フィルムの前記基材の表面に硬化性樹脂からなる樹脂層を塗布する工程と、
前記ロール原盤の前記原盤凹凸パターン領域に形成されている前記原盤微細凹凸構造、および前記原盤ラインマーカー領域に形成されている前記溝を含む転写パターンを、前記光学フィルムの前記樹脂層に転写して、前記光学フィルムの前記凹凸パターン領域の前記微細凹凸構造と前記光学フィルムの前記ラインマーカー領域の前記凸条部を前記樹脂層に一体形成する工程と、
を含む、光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムおよび光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術の一つとして、外周面に微細凹凸構造が形成されたロール原盤をフィルムに押し当て、ロール原盤の微細凹凸構造をフィルムに転写するインプリント技術の開発が進められている。このインプリント技術を用いて、例えば、可視光の波長以下の周期(ピッチ)で配列された微細凹凸構造(いわゆるモスアイ構造)を、可撓性を有する透明なプラスチックフィルム(以下、「透明フィルム」という。)の表面に転写することができる。これによって、透明フィルムに反射防止機能を付与して、反射防止機能を有する光学フィルム(以下、「反射防止フィルム」という場合もある。)を製造することができる。
【0003】
この場合、ロール原盤を用いたロール・ツー・ロール(Roll-To-Roll)方式のインプリント技術を用いることで、微細凹凸構造が転写された反射防止フィルムのフィルムロールを効率よく量産することが可能になる。詳細には、インプリント・プロセスでは、ロールから巻き解かれた長尺状のフィルム基材の表面に硬化性樹脂層を塗布し、当該硬化性樹脂層に対してロール原盤の外周面の微細凹凸構造を転写する。その後、硬化性樹脂層を硬化させることにより、表面に微細凹凸構造が転写された反射防止フィルムが製造され、フィルムロールに巻き取られる。次いで、このフィルムロールから長尺状の反射防止フィルムを送り出して、個片に切断することで、所定形状の反射防止フィルムの枚葉品が得られる。さらに、この枚葉化された反射防止フィルムを、所望形状に切り抜く、あるいは型抜きすることで、例えば、アイシールド、フェイスシールドなどのシールド部材が製造される。
【0004】
例えば、特許文献1には、外科手術時等の非常に強度の高い照明システム下でも、反射光が少なく、かつ防曇性能を有するアイシールドが開示されている。この特許文献1のアイシールドは、可撓性を有する透明フィルムからなり、当該透明フィルムの両面に、反射防止特性を有するモスアイ構造が形成されている。これにより、透明フィルムの光線透過率(波長550nm)を98.5%以上として、強度の高い照明下でも反射光が少ない透明なアイシールドを提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-155689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のように高透過率を有する反射防止フィルムは、ハンドリング時の視認性が低いという問題があった。即ち、上記のように反射防止フィルムの透明度が高く、その反射光が少ないと、ユーザは、透明な反射防止フィルムを視認することができない、または困難となる。このため、当該反射防止フィルムの枚葉品をハンドリングする時(例えば、アイシールドの持ち運び、着脱時等)に、うまく取り扱うことができなかったり、落とした反射防止フィルムを見つけることが困難であったり、という不便さがある。このため、従来では、反射防止フィルムのうち透明な領域が大半を占めつつ、その一部に視認可能な領域を形成して、ユーザによる反射防止フィルムのハンドリング性を向上することが希求されていた。
【0007】
一方、反射防止フィルムの製造工程において、上記反射防止機能を付与するための微細凹凸構造の転写工程以外に、反射防止フィルムの一部に視認可能な領域を形成するための別工程を追加してしまうと、工程数の増加により反射防止フィルムの生産性が低下するという問題がある。したがって、転写工程とは別の工程を追加することなく、反射防止フィルムの一部に視認可能な領域を容易に形成可能にすることも希求されていた。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、光学フィルムをハンドリングする際の視認性を向上でき、かつ、光学フィルムの表面に反射防止領域と視認可能領域を同一の加工工程で容易に形成可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、
可撓性を有する基材と、
前記基材の少なくとも一方の表面に積層される樹脂層と、
を備え、
前記樹脂層は、
可視光の波長以下のピッチで配列された複数の凸部または凹部からなる微細凹凸構造が形成される凹凸パターン領域と、
可視光の波長以上のトラックピッチで相互に間隔を空けて配列される複数の凸条部が形成される帯状のラインマーカー領域と、
を含む、光学フィルムが提供される。
【0010】
前記複数の凸条部は、前記ラインマーカー領域の長手方向に沿って延びる直線状であり、相互に平行に配列されるようにしてもよい。
【0011】
前記ラインマーカー領域における前記凸条部の周期構造により、前記ラインマーカー領域に入射する光が回折および干渉することによって、波長ごとに分光された視認可能な光が前記ラインマーカー領域から出射されるようにしてもよい。
【0012】
前記凹凸パターン領域は、前記微細凹凸構造により反射防止機能が付与された透明領域であり、
前記ラインマーカー領域は、前記凸条部の周期構造により回折格子として機能する視認可能領域であるようにしてもよい。
【0013】
前記凸条部の前記トラックピッチは、500nm以上、1mm以下であるようにしてもよい。
【0014】
前記凸条部の前記トラックピッチは、1μm以上、10μm以下であるようにしてもよい。
【0015】
前記凸条部の高さは、前記微細凹凸構造の凸部の高さと実質的に同一であるようにしてもよい。
【0016】
前記ラインマーカー領域において前記凸条部が断続的に形成されており、前記凸条部が形成されていない部分によって、文字、記号またはマーカーのうち少なくともいずれかを含む識別情報が視認可能に表示されるようにしてもよい。
【0017】
前記識別情報は、前記光学フィルムの製造に用いられたロール原盤の周方向の基準位置を表すマーカーを含むようにしてもよい。
【0018】
前記識別情報は、前記光学フィルムの製造時のロット番号を表す文字または記号を含むようにしてもよい。
【0019】
前記光学フィルムは、長尺状のフィルムが巻回されたフィルムロールであるようにしてもよい。
【0020】
前記光学フィルムは、所定形状を有するフィルムの枚葉品であるようにしてもよい。
【0021】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、
前記光学フィルムを、ロール原盤を用いて製造する光学フィルムの製造方法であって、
前記ロール原盤の外周面に、前記光学フィルムの前記凹凸パターン領域の前記微細凹凸構造の反転形状を有する原盤微細凹凸構造が形成されている原盤凹凸パターン領域と、前記ロール原盤の全周に渡って帯状に設けられ、前記光学フィルムの前記ラインマーカー領域の前記凸条部の反転形状を有する螺旋状の溝が形成されている原盤ラインマーカー領域と、を含む、前記ロール原盤を準備する工程と、
前記光学フィルムの前記基材の表面に硬化性樹脂からなる樹脂層を塗布する工程と、
前記ロール原盤の前記原盤凹凸パターン領域に形成されている前記原盤微細凹凸構造、および前記原盤ラインマーカー領域に形成されている前記溝を含む転写パターンを、前記光学フィルムの前記樹脂層に転写して、前記光学フィルムの前記凹凸パターン領域の前記微細凹凸構造と前記光学フィルムの前記ラインマーカー領域の前記凸条部を前記樹脂層に一体形成する工程と、
を含む、光学フィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、光学フィルムをハンドリングする際の視認性を向上でき、かつ、光学フィルムの表面に反射防止領域と視認可能領域を同一の加工工程で容易に形成可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る光学フィルムのフィルムロールを示す斜視図である。
図2】同実施形態に係る光学フィルムを示す部分拡大断面図である。
図3】同実施形態に係る光学フィルムを示す部分拡大斜視図である。
図4】同実施形態に係る光学フィルムにおける微細凹凸構造の例を示す平面図である。
図5】同実施形態に係るロール原盤を模式的に示す斜視図である。
図6】同実施形態に係るロール原盤の製造に用いられる露光装置の構成を示すブロック図である。
図7】同実施形態に係るロール原盤の露光方法を概略的に示す模式図である。
図8】同実施形態に係る露光信号と露光パターンとの対応関係を示す説明図である。
図9】同実施形態に係るロール原盤の製造方法を示す工程図である。
図10】同実施形態に係るロール原盤の製造方法を示す工程図である。
図11】同実施形態に係る光学フィルムの製造方法を示す工程図である。
図12】同実施形態に係る光学フィルムの製造方法を示す工程図である。
図13】同実施形態に係る転写装置の構成を示す模式図である。
図14】同実施形態に係る光学フィルムから複数枚のアイシールドを打ち抜き加工する例を示す平面図である。
図15】同実施形態に係る光学フィルムとロール原盤の欠陥と、マーカーを示す説明図である。
図16】同実施形態に係る光学フィルムのラインマーカー領域に形成されたマーカー、抜き文字を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
[1.光学フィルムの構成]
[1.1.光学フィルムの概略構成]
まず、図1図3を参照して、本発明の一実施形態に係る光学フィルム1の概略構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る光学フィルム1のフィルムロールを示す斜視図である。図2は、本実施形態に係る光学フィルム1を示す部分拡大断面図であり、図1のA-A線における部分拡大断面を示している。図3は、本実施形態に係る光学フィルム1を示す部分拡大斜視図である。
【0026】
図1図3に示すように、本実施形態に係る光学フィルム1は、反射防止機能を有する透明な光学フィルム(反射防止フィルム)であり、可視光に対して透明性を有している。例えば、光学フィルム1は、その表面に反射防止特性を有する微細凹凸構造20が形成されたモスアイフィルムである。なお、本実施形態では、主に、光学フィルム1の一方の表面に微細凹凸構造20等の構造体が形成される例について説明するが、光学フィルム1の両方の表面(表裏両面)に微細凹凸構造20の構造体が形成されてもよい。
【0027】
一般に、透明フィルムの表面に周期的な凹凸構造を設けた場合、当該凹凸構造を光が透過するときには回折が発生し、透過光の直進成分が大幅に減少する。しかし、凹凸構造のピッチが透過する可視光の波長よりも短い場合には、回折は発生せず、凹凸構造のピッチや深さなどに対応する波長の光に対して有効な反射防止効果を得ることができる。このような、可視光の波長以下のピッチを有する微細凹凸構造20は、モスアイ構造とも称される。
【0028】
光学フィルム1の表面に微細凹凸構造20を形成することで、光学フィルム1と空気との界面での反射を有効に抑えることができる。例えば、光学フィルム1をアイシールドまたはフェイスシールドに用いる場合、外光の反射を抑制し、使用者の視界を良好に保つことが求められる。この観点では、光学フィルム1の屈折率nは、1.40以上、2.00以下であることが好ましく、1.43以上2.00以下であることがより好ましい。また、光学フィルム1において、波長550nmの光の透過率は、94.0%以上であることが好ましく、98.0%以上、特に98.5%以上であることがより好ましい。
【0029】
図1の例の光学フィルム1は、可撓性を有する長尺状のフィルムがロール状に巻回されたフィルムロールとなっている。しかし、本発明の光学フィルムは、かかる例に限定されず、所定形状(例えば所定寸法の矩形状)を有する平坦なフィルムの枚葉品であってもよい。フィルムロールから巻き解かれた光学フィルム1に対して、裁断加工または打ち抜き加工等の成形加工を施すことにより、光学フィルム1の製品(枚葉品)が得られる。
【0030】
図1図3に示すように、光学フィルム1の表面領域は、凹凸パターン領域2と、ラインマーカー領域3とを含む。
【0031】
凹凸パターン領域2は、微細凹凸構造20により反射防止機能が付与された透明領域(反射防止領域)である。凹凸パターン領域2には、可視光の波長以下(例えば350nm以下)のピッチPで配列された複数の凸部21および凹部22からなる微細凹凸構造20が形成されている。このため、光学フィルム1の凹凸パターン領域2では、反射率は非常に低く、光線透過率が高い。このため、ユーザは、光学フィルム1のうち透明な凹凸パターン領域2を、肉眼により視認しにくい。
【0032】
一方、ラインマーカー領域3は、ユーザにとって視認可能な不透明領域(視認可能領域)である。ラインマーカー領域3には、上記凹凸パターン領域2のような微細凹凸構造20が形成されておらず、反射防止機能が付与されていない。ラインマーカー領域3には、相互に間隔を空けて平行に配列される複数の凸条部31が形成されている。各々の凸条部31は、ラインマーカー領域3の長手方向に沿って延びる直線状の凸部である。複数の凸条部31が、可視光の波長以上のマイクロメートルサイズ(例えば500nm以上、1mm以下)のトラックピッチPで周期的に配列されている。かかる周期構造を有する凸条部31が形成されたラインマーカー領域3は、可視光を回折させる回折格子として機能する。
【0033】
このようなラインマーカー領域3における複数の凸条部31の周期構造により、ラインマーカー領域3に入射する光が回折および干渉する。このため、ラインマーカー領域3から出射する光(透過光、反射光)は、波長ごと(色ごと)に分光された拡散光となり、ユーザに視認可能な虹色の光となる。このように、ラインマーカー領域3は、回折格子機能を有する視認可能領域であり、虹色の拡散光を出射する。この結果、ラインマーカー領域3は、複数の凸条部31の周期構造により回折格子として機能する視認可能領域となる。
【0034】
凹凸パターン領域2は、光学フィルム1の表面のうち大半の領域を占める。一方、ラインマーカー領域3は、光学フィルム1において所定方向(例えば帯状の光学フィルム1の長手方向)に延びる帯状の領域である。ラインマーカー領域3は、光学フィルム1の表面のうち一部の狭い領域に部分的に配置される。
【0035】
図1の例では、ラインマーカー領域3は、長尺状の光学フィルム1の長手方向(X方向)に沿って直線的に延びる帯状である。また、2本のラインマーカー領域3、3が、光学フィルム1の幅方向(Y方向)の両端部付近に配置され、それぞれのラインマーカー領域3、3が光学フィルム1の長手方向(X方向)に沿って直線的に延びている。この細長い2本のラインマーカー領域3、3に挟まれるようにして、凹凸パターン領域2が配置されている。このように、図1の例では、光学フィルム1の幅方向(Y方向)の中央部に幅広の凹凸パターン領域2が配置され、当該凹凸パターン領域2の幅方向(Y方向)の両側に、帯状の2本のラインマーカー領域3、3が配置されている。
【0036】
しかし、凹凸パターン領域2とラインマーカー領域3の配置パターンは、図1の例に限定されず、多様に変更可能である。例えば、ラインマーカー領域3は、1本だけ配置されてもよいし、3本以上配置されてもよい。ラインマーカー領域3は、直線的な帯状でなくても、湾曲した帯状、ジグザグの帯状など、任意の線状の帯状であってもよい。また、ラインマーカー領域3は、帯状でなくでも、点線状、破線状、ドット状、環状、円形、楕円形、多角形など、任意の形状であってよい。
【0037】
ただし、光学フィルム1の透明領域を広く確保するためには、凹凸パターン領域2の面積は、ラインマーカー領域3の面積よりも大きいことが好ましい。また、凹凸パターン領域2は、光学フィルム1の幅方向の中央側に配置され、ラインマーカー領域3は、光学フィルム1の幅方向の端部側に配置されることが好ましい。
【0038】
以上のように、本実施形態に係る光学フィルム1は、ラインマーカー付きの透明フィルムである。光学フィルム1は、可視光の波長以下のピッチPで配列される微細凹凸構造20が形成された凹凸パターン領域2に隣接して、ロール周方向に帯状に延びるラインマーカー領域3を有する。即ち、光学フィルム1には、透明で視認しにくい凹凸パターン領域2に加えて、不透明で視認容易なラインマーカー領域3が設けられている。
【0039】
したがって、ユーザは、透明な凹凸パターン領域2を透過する光を視認するのは困難であるが、回折格子として機能するラインマーカー領域3から出射される虹色の拡散光を、容易に視認可能である。よって、ユーザは、光学フィルム1のうちラインマーカー領域3からの虹色の拡散光を視認することによって、光学フィルム1の存在やその位置、大きさ、向きなどを認識できる。この結果、光学フィルム1を用いた透明な製品、例えば、アイシールドやフェイスシールドなどのシールド製品が、ユーザにとって容易に視認可能となる。したがって、当該製品をハンドリングする際の肉眼による視認性を向上させ、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0040】
[1.2.光学フィルムの層構造]
次に、図2図3を参照して、本実施形態に係る光学フィルム1の層構造について、より詳細に説明する。
【0041】
図2図3に示すように、光学フィルム1は、可撓性を有する透明な基材11と、基材11の少なくとも一方の表面に積層される透明な樹脂層12とを備える。このように、本実施形態に係る光学フィルム1は、少なくとも基材11と樹脂層12を含む2層構造を有する。しかし、かかる例に限定されず、基材11と樹脂層12の間に、密着性を高めるための密着層(図示せず。)等の別の中間層を設けて、3層以上の多層構造としてもよい。また、基材11の表裏両面に樹脂層12、12を設けて、3層以上の多層構造としてもよい。また、樹脂層12の表面上に被覆層などを追加してもよい。
【0042】
基材11は、可撓性を有する透明なフィルム基材である。基材11は、1枚のシート状の透明部材で構成されてもよいし、複数枚のシート状の透明部材の貼り合せにより構成されてもよい。基材11の厚さは、光学フィルム1の用途に応じて適宜選択され、用途に応じた可撓性や剛性、厚み等を付与することが好ましい。
【0043】
基材11の材料としては、例えば、透明性を有するプラスチック材料、またはガラス材料などが挙げられる。詳細には、基材11のプラスチック材料としては、例えば、メチルメタクリレート(共)重合体、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、メチルメタクリレート-スチレン共重合体、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、ガラス等が挙げられる。また、基材11のガラス材料としては、例えば、ソーダライムガラス、鉛ガラス、硬質ガラス、石英ガラス、液晶化ガラス等が挙げられる。しかし、基材11の材料は、上記で例示した材料に特に限定されるものではない。
【0044】
基材11としてプラスチック材料を用いる場合、プラスチック材料の表面の表面エネルギー、塗布性、すべり性、平面性などをより改善するために、表面処理により下塗り層(図示せず。)をさらに設けるようにしてもよい。この下塗り層としては、例えば、オルガノアルコキシメタル化合物、ポリエステル、アクリル変性ポリエステル、ポリウレタンなどが挙げられる。また、下塗り層を設けるのと同等の効果を得るために、基材11の表面に対してコロナ放電処理、UV照射処理などを行うようにしてもよい。
【0045】
基材11は、例えば、上述の樹脂を伸延、あるいは溶剤に希釈後フィルム状に成膜して乾燥するなどの方法で形成され得る。基材11の厚さは、光学フィルム1の用途に応じて適宜選択することが好ましく、例えば、10μm以上500μm以下、好ましくは50μm以上500μm以下、さらに好ましくは50μm以上300μm以下程度である。基材11の厚さが10μm以上であると、飛来物に対する光学フィルム1の保護性能が向上する。一方、基材11の厚さが500μm以下であると、光学フィルム1を軽量化でき、また可撓性を有することで湾曲変形できる。よって、光学フィルム1をアイシールド等のシールド部材として用いたときに、装着感が向上する。
【0046】
樹脂層12は、透明性を有する樹脂製の層であり、基材11の表面上に積層される。光学フィルム1の内部反射を抑制し、コントラストを向上するために、樹脂層12の屈折率は、基材11の屈折率と同様であることが好ましい。また、樹脂層12は、基材11と同等の透明性を有することが好ましい。樹脂層12には、凹凸パターン領域2の微細凹凸構造20や、ラインマーカー領域3の複数の凸条部31などの構造物の凹凸パターンが形成される。本実施形態では、微細凹凸構造20および複数の凸条部31は、同一の樹脂層12に対して、同一の工程で同様な加工方法(後述するロール原盤による転写加工)により形成されている。
【0047】
樹脂層12は、硬化性樹脂で形成される層である。樹脂層12は、例えば、エネルギー線硬化性樹脂組成物などの硬化性樹脂組成物(転写材料)の硬化物で形成される。樹脂層12の形成工程では、まず、上記基材11の表面上に転写材料としてエネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して、当該エネルギー線硬化性樹脂組成物に上記微細凹凸構造20等の凹凸パターンを転写する。その後に、エネルギー線の照射により硬化性樹脂組成物を硬化させる。これにより、凹凸パターンが転写された樹脂層12が基材11の表面上に形成される。
【0048】
エネルギー線硬化性樹脂組成物は、エネルギー線を照射することにより硬化する特性を有する樹脂である。こでこ、エネルギー線は、例えば、紫外線、電子線、赤外線、レーザ光線、可視光線、電離放射線(X線、α線、β線、γ線など)、マイクロ波、または高周波などであってよい。取り扱いの容易性等の観点から、エネルギー線硬化性樹脂組成物として、例えば、紫外線硬化性樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0049】
また、エネルギー線硬化性樹脂組成物は、必要に応じてフィラーまたは機能性添加剤などを含んでもよい。例えば、紫外線硬化性樹脂組成物は、アクリレートまたは開始剤を含んでもよく、単官能モノマー、二官能モノマー、多官能モノマー等を含んでもよい。
【0050】
また、エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物は、親水性を有してもよい。このために、エネルギー線硬化性樹脂組成物は、親水性を有する官能基を1種以上含んでいることが好ましい。このような親水性を有する官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、およびカルボニル基などが挙げられる。
【0051】
[1.3.凹凸パターン領域の微細凹凸構造の構成]
次に、図2図4を参照して、本実施形態に係る光学フィルム1の凹凸パターン領域2(反射防止領域)に形成された微細凹凸構造20の凹凸パターン配列について、より詳細に説明する。図4は、本実施形態に係る光学フィルム1における微細凹凸構造20の例を示す平面図である。
【0052】
図2図4に示すように、微細凹凸構造20(モスアイ構造)は、可視光の波長以下のピッチPで配列された複数の凸部21および凹部22からなる。光学フィルム1の全表面のうち凹凸パターン領域2の樹脂層12に微細凹凸構造20を設けることにより、凹凸パターン領域2の表面(XY平面)が、モスアイ構造の凹凸面となる。
【0053】
微細凹凸構造20を構成する複数の凸部21は、光学フィルム1の表面に対して垂直な方向(Z方向)に突出している。凹部22は、相隣接する複数の凸部21、21間に設けられる凹んだ部分である。
【0054】
凸部21の立体形状は、例えば、錐体状(釣鐘形状、楕円錐台形状等)、半球状、半楕円球状、柱状などの種々の凸形状であってよい。錐体状としては、例えば、頂部が尖った錐体状、頂部が平坦な錐体状、頂部に凸状または凹状の曲面を有する錐体状が挙げられる。頂部に凸状の曲面を有する錐体状としては、例えば、放物面状などの2次曲面状が挙げられる。また、錐体状の錐面を凹状または凸状に湾曲させるようにしてもよい。
【0055】
また、図4に示すように、光学フィルム1の表面(XY平面)に凸部21を投影したときの凸部21の平面形状(ドット形状)は、例えば円形であるが、かかる例に限定されず、楕円形、長円状など、曲線を有する任意の形状であってよい。
【0056】
なお、凸部21の立体形状および平面形状は、上記に例示した形状に限定されない。また、上記の円形、楕円形、球状、半球状、半楕円球状などの形状には、数学的に定義される完全な円、楕円、球、半球、半楕円などの形状のみならず、多少の歪みが付与された円、楕円、球、半球、半楕円などの形状も含まれる。また、図2図4の例では、微細凹凸構造20の複数の凸部21は、同一の大きさ、形状および高さHを有している。しかし、凸部21の構成はこれに限定されるものではなく、樹脂層12の表面に2種以上の大きさ、形状および高さを有する凸部21が形成されていてもよい。
【0057】
微細凹凸構造20の凸部21および凹部22(以下、「微細凹凸構造20の凹凸」と称する場合もある。)は、樹脂層12の表面(XY平面)上に、所定のピッチPで周期的に配列されている。このように、微細凹凸構造20は、XY平面上に複数の凸部21および凹部22が周期的に配列された周期構造を有する。ここで、ピッチPとは、図2図3に示すように、相互に隣接する凸部21、21の間の中心間距離(頂点間距離)、若しくは、相互に隣接する凹部22、22の間の中心間距離(底部間距離)である。このように、微細凹凸構造20の凹凸のピッチPは、微細凹凸構造20の周期構造の周期を意味する。
【0058】
なお、微細凹凸構造20の凹凸のピッチPは、微細凹凸構造20の相隣接する凸部21、21間または凹部22、22間の中心間距離の算術平均値(平均ピッチ、平均周期)であってよい。例えば、微細凹凸構造20において相隣接する複数の凸部21、21の組合せを複数組ピックアップし、各組合せの凸部21、21間の中心間距離を測定し、これら測定値の算術平均値(平均ピッチ、平均周期)をピッチPとして算出することができる。なお、微細凹凸構造20の凹凸パターンは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、または断面透過型電子顕微鏡(断面TEM)などを用いて観察可能である。
【0059】
本実施形態では、可視光の反射防止特性を付与するため、微細凹凸構造20の凹凸のピッチPは、可視光の波長以下である。ここで、可視光の波長帯域は360nm~830nmであるが、本実施形態に係る微細凹凸構造20の凹凸は、可視光の波長帯域未満のピッチPで規則的に配列される。かかる観点から、微細凹凸構造20の凹凸のピッチPは、例えば、350nm以下であり、好ましくは250nm以下であり、例えば200nm程度であってよい。また、微細凹凸構造20の凹凸のピッチPは、例えば、100nm以上であり、好ましくは120nm以上であり、より好ましくは130nm以上である。ピッチPが100nm未満である場合、微細凹凸構造20の形成が困難になる可能性があるため、好ましくない。一方、ピッチPが350nmを超える場合、回折光の強度が大きくなる可能性があり、微細凹凸構造20の形成された表面で外来光が回折し、反射防止効果が低下する可能性があるため、好ましくない。ピッチPが350nm以下であれば、微細凹凸構造20の反射防止特性を向上して、所望の反射防止効果を得ることができる。
【0060】
図2図3に示すように、微細凹凸構造20の凸部21の高さH(または凹部22の深さ)は、特に制限はないが、例えば、100nm以上、400nm以下、好ましくは150nm以上、300nm以下、より好ましくは200nm以上、300nm以下である。微細凹凸構造20の凸部21の高さHは、微細凹凸構造20を構成する複数の凸部21の高さの算術平均値(平均高さ)であってよい。例えば、微細凹凸構造20を構成する複数の凸部21の高さをそれぞれ測定し、これら測定値の算術平均値(平均高さ)を高さHとして算出することができる。
【0061】
微細凹凸構造20の凸部21のアスペクト比(高さH/配置ピッチP)は、好ましくは0.66以上1.96以下、より好ましくは0.76以上1.96以下である。アスペクト比が0.66以上であると、低反射特性を向上できる。一方、アスペクト比が1.96以下であると、微細凹凸構造20をロール原盤から剥離するときの離型性などを向上できる。
【0062】
微細凹凸構造20の凸部21のサイズDは、図4に示すように、微細凹凸構造20の凸部21(または凹部22)を光学フィルム1の表面(XY平面)上に投影したときの凸部21(または凹部22)の平面形状の大きさ(ドットサイズ)である。例えば、凸部21の平面形状が円である場合、凹凸のサイズDは当該円の直径であり、凸部21の平面形状が楕円である場合、凹凸のサイズDは当該楕円の長径である。
【0063】
微細凹凸構造20の凹凸のサイズDは、後述するロール原盤の製造方法においてロール原盤の外周面に微細凹凸構造の凹凸パターンを露光するときの露光解像度等に応じて、決定される。微細凹凸構造20の凹凸のサイズDは、当該凹凸のピッチP以下(例えば350nm以下)であり、好ましくは当該凹凸のピッチPと同等であり、例えば、200nm程度である。例えば図4に示すように、凹凸のサイズDをピッチPと同等にすれば、微細凹凸構造20のXY平面上において複数の凸部21を密集配置して、相隣接する凸部21、21の隙間の面積を低減することができる。なお、微細凹凸構造20の凹凸のサイズDは、微細凹凸構造20を構成する複数の凸部21(または凹部22)の平面形状の大きさの算術平均値(平均サイズ)であってよい。例えば、微細凹凸構造20を構成する複数の凸部21の平面形状の大きさをそれぞれ測定し、これら測定値の算術平均値(平均サイズ)をサイズDとして算出することができる。
【0064】
ここで、図4を参照して、本実施形態に係る光学フィルム1の表面(XY平面)における微細凹凸構造20の凹凸パターンの配列について、より詳細に説明する。なお、図4では、X方向が光学フィルム1の長手方向に相当し、Y方向が光学フィルム1の幅方向に相当し、Z方向が光学フィルム1の厚さ方向に相当する。
【0065】
図4に示すように、本実施形態に係る光学フィルム1の表面上には、微細凹凸構造20の複数の凸部21が六方格子状に配列されている。六方格子状の配列では、複数の凸部21がXY平面上で六角形格子の頂点の位置に配置される。なお、図4の例では、凸部21の平面形状は円形であるが、楕円など他の形状であってもよい。
【0066】
ここで、複数の凸部21は、相互に平行な複数のトラックTに沿って配列されている。換言すると、複数の凸部21は、光学フィルム1の表面において複数列のトラックTに沿って配列されている。
【0067】
トラックTは、光学フィルム1のXY平面上において所定の第1方向に延びる仮想直線であり、微細凹凸構造20の凹凸パターンの配列方向を示す。複数のトラックTが、第1の方向に対して垂直な第2方向に所定の間隔(トラックピッチP)を空けて配置される。ここで、第1方向は、トラックTが延びる方向(以下、「トラック延長方向」と称する。)である。第2方向は、複数のトラックTが配列される方向(以下、「トラックピッチ方向」と称する。)であって、第1方向に対して垂直な方向である。例えば、図4に示すように、第1方向(トラック延長方向)は、光学フィルム1の長手方向(X方向)であってよく、第2方向(トラックピッチ方向)は、例えば、光学フィルム1の幅方向(Y方向)であってよい。しかし、かかる例に限定されず、トラック延長方向は、光学フィルム1の長手方向(X方向)以外の任意の方向であってよい。
【0068】
ここで、図4に示すように、ドットピッチPは、トラックTに沿って、トラック延長方向(X方向)に配列される複数の凸部21のピッチ(周期)である。トラックピッチPは、トラックピッチ方向(Y方向)に隣接する複数のトラックT、T間の相互間隔である。
【0069】
ドットピッチPとトラックピッチPは、上述したピッチPと同様に、可視光帯域の波長以下であり、例えば、350nm以下であり、好ましくは250nm以下であり、例えば200nm程度であってよい。また、P、Pは、例えば、100nm以上であり、好ましくは120nm以上であり、より好ましくは130nm以上である。これにより、微細凹凸構造20は、広範な波長帯域の入射光の反射を抑制する、いわゆるモスアイ構造として機能することができる。
【0070】
ドットピッチPとトラックピッチPは、上記の範囲内であれば、互いに同一の大きさであってもよし、異なる大きさであってもよい。図4の例では、ドットピッチPがトラックピッチPよりも大きくなっている(P>P)。例えば、P=230nm、P=150nmとすることができる。
【0071】
また、図4に示す微細凹凸構造20の六方格子状の配列では、Y方向に隣接するトラックT、T間で、凸部21は、X方向に半ピッチ(1/2P)だけずれた位置に配置されている。すなわち、Y方向に隣接するトラックT、T間で、X方向に配列される凸部21の位相が半周期(180°)だけずれている。具体的には、隣接する2つのトラックT、T間において、一方のトラックTに配列された凸部21のX方向の中間位置(半ピッチずれた位置)に、他方のトラックTに配列された凸部21が配置されている。その結果、図4に示すように、隣接する3列のトラックTにおいて複数の凸部21が六方格子状のパターンで配置される。
【0072】
このように、凸部21の配列をトラックTごとに半ピッチ(1/2P)ずらすことにより、XY平面上に複数の凸部21を最密な六方格子状に配列できる。したがって、XY平面上において複数の凸部21が占める面積の割合(凸部21の充填率)を最大化できるので、単位面積当たりの反射防止機能を向上できる。
【0073】
なお、微細凹凸構造20の凹凸の配列は、上記の六方格子状の例に限定されず、他の配列態様であってもよい。例えば、微細凹凸構造20の凹凸の配列は、凸部21が正方形格子の頂点の位置に配列される正方格子状の配列、または、矩形格子状、その他の格子状の配列などであってもよい。ただし、凸部21をXY平面上に最密に充填するためには、六方格子状の配列であることが好ましい。
【0074】
また、トラックTの形状としては、上記のような直線状のトラックTの例に限られず、例えば、円弧状等の曲線状のトラックを同心円状に配列するなどしてもよい。また、これらの形状のトラックTをウォブル(蛇行)させるようにしてもよい。このようにトラックTをウォブルさせることで、外観上のムラの発生を抑制できる。
【0075】
[1.4.ラインマーカー領域の凸条部の構成]
次に、図2図3を参照して、本実施形態に係る光学フィルム1のラインマーカー領域3(視認可能領域)に形成された凸条部31について、より詳細に説明する。
【0076】
図2図3に示すように、光学フィルム1の樹脂層12の表面のうち、帯状のラインマーカー領域3には、複数の凸条部31が形成されている。凸条部31は、可視光の波長以上(例えば、500nm以上)のトラックピッチPで相互に間隔を空けて配列される。本実施形態に係る凸条部31は、帯状のラインマーカー領域3の長手方向(X方向)に沿って延びる直線状の凸条である。この直線状の複数の凸条部31が、ラインマーカー領域3の幅方向(Y方向)に相互に間隔を空けて平行に配列される。
【0077】
ラインマーカー領域3において、相互に隣接する複数の凸条部31の間には、基材11の表面に対して平行な平坦部32が形成されている。平坦部32の平面形状は、ラインマーカー領域3の長手方向(X方向)に沿って延びる帯状である。凸条部31と平坦部32とは、ラインマーカー領域3の幅方向(Y方向)に交互に配置されている。なお、相隣接する複数の凸条部31の間の領域は、必ずしも平坦部32である必要はなく、例えば、上記微細凹凸構造20の凹凸パターン(ナノメートルサイズ)などの凹凸が形成されていてもよい。
【0078】
凸条部31の断面形状(YZ平面での断面)は、基材11の表面に対して交差する方向に突出する形状であれば、任意の形状であってよい。図2図3の例では、凸条部31の断面形状は、例えば、頂部に凸状の曲面を有する釣鐘形状であり、上記の微細凹凸構造20の凸部21と同様の形状であるが、かかる例に限定されない。
【0079】
凸条部31の断面形状は、例えば、錐体状(釣鐘形状、楕円錐台形状等)を切断した形状、半円状、半楕円状、略三角状などの種々の凸形状であってよい。錐体状としては、例えば、頂部が尖った錐体状、頂部が平坦な錐体状、頂部に凸状または凹状の曲面を有する錐体状が挙げられる。頂部に凸状の曲面を有する錐体状としては、例えば、放物面状などの2次曲面状が挙げられる。また、錐体状の錐面を凹状または凸状に湾曲させるようにしてもよい。
【0080】
なお、凸条部31の断面形状は、上記に例示した形状に限定されない。また、上記の半円状、半楕円状、錐体などの形状には、数学的に定義される完全な半円、半楕円、錐体などの形状のみならず、多少の歪みが付与された半円、半楕円、錐体などの形状も含まれる。また複数の凸条部31は、同一の大きさ、形状および高さhを有している。しかし、凸条部31の構成はこれに限定されるものではなく、樹脂層12の表面に2種以上の大きさ、形状および高さhを有する凸条部31が形成されていてもよい。
【0081】
凸条部31は、可視光の波長以上のトラックピッチPで周期的に配列されている。ここで、凸条部31のトラックとは、個々の凸条部31の延長方向に沿った仮想中心線である。凸条部31のトラックピッチPとは、相互に隣接する凸条部31、31の間の相互間隔(中心間距離)である。このように、トラックピッチPは、凸条部31の周期構造の周期を意味する。
【0082】
なお、凸条部31のトラックピッチPは、複数の凸条部31のピッチの算術平均値(平均ピッチ、平均周期)であってよい。例えば、相隣接する複数の凸条部31、31の組合せを複数組ピックアップし、各組合せの凸条部31、31間の中心間距離を測定し、これらの測定値の算術平均値(平均ピッチ、平均周期)をトラックピッチPとして算出することができる。
【0083】
本実施形態に係る凸条部31は、可視光の波長帯域以上のトラックピッチPで規則的に配列される。凸条部31のトラックピッチPは、好ましくは500nm以上、1mm以下であり、より好ましくは1μm以上、10μm以下であり、例えば、1μm程度であってよい。トラックピッチPが500nm以上、1mm以下であれば、複数の凸条部31の配置ピッチがミクロンオーダーの適切な範囲内となるので、複数の凸条部31が回折格子として好適に機能する。さらに、トラックピッチPが1μm以上、10μm以下であれば、複数の凸条部31の配置ピッチがミクロンオーダーの更に適切な範囲内となるので、複数の凸条部31が回折格子として更に好適に機能する。
【0084】
凸条部31の幅wは、凸条部31が延びる方向(X方向)に対して垂直な方向(Y方向)における凸条部31の幅である。凸条部31の幅wは、特に制限はないが、上記の微細凹凸構造20の凹凸のサイズD(ドットサイズ)と同等であってよく、例えば、200nm程度であってよい。凸条部31の幅wは、複数の凸条部31の幅の算術平均値(平均高さ)であってよい。例えば、複数の凸条部31の幅をそれぞれ測定し、これら測定値の算術平均値(平均幅)を幅hとして算出することができる。
【0085】
凸条部31の高さhは、樹脂層12の表面(平坦部32の基準面)からの凸条部31の突出高さである。凸条部31の高さhは、特に制限はないが、例えば、100nm以上、400nm以下、好ましくは150nm以上、300nm以下、より好ましくは200nm以上、300nm以下である。凸条部31の高さhは、複数の凸条部31の高さの算術平均値(平均高さ)であってよい。例えば、複数の凸条部31の高さをそれぞれ測定し、これら測定値の算術平均値(平均高さ)を高さhとして算出することができる。
【0086】
凸条部31の高さhは、微細凹凸構造20の凸部21の高さHと実質的に同一であることが好ましい。ここで、高さhと高さHとが実質的に同一であるとは、一方の高さに対して他方の高さが、±30%の範囲内、好ましくは±10%の範囲内、より好ましくは±5%の範囲内であることを意味する。高さhと高さHとが実質的に同一であれば、ラインマーカー領域3の凸条部31と、凹凸パターン領域2の微細凹凸構造20の凸部21との間で高低差が生じない。よって、光学フィルム1をフィルムロール状に巻き取ったときに、巻き歪みが生じにくいという効果がある。
【0087】
凸条部31のアスペクト比(高さh/配置ピッチP)は、好ましくは1.96以下である。凸条部31のアスペクト比が1.96以下であると、凸条部31をロール原盤から剥離するときの離型性などを向上できる。
【0088】
以上、本実施形態に係るラインマーカー領域3に設けられる複数の凸条部31の構成について説明した。ラインマーカー領域3における複数の凸条部31の周期構造により、ラインマーカー領域3に対する入射光が回折および干渉することによって、波長ごとに分光された視認可能な光(虹色光)がラインマーカー領域3から出射されるようになる。
【0089】
詳細には、ラインマーカー領域3における複数の凸条部31の周期構造は、回折格子として機能する。一般に、回折格子は、直線状の凹凸がマイクロメートルサイズの周期(ピッチ)で並設されているものを指す。本実施形態に係るラインマーカー領域3には、直線状の複数の凸条部31がマイクロメートルサイズのトラックピッチPで平行に配列されたパターン(1次元周期パターン)が形成されている。
【0090】
このようなラインマーカー領域3における凸条部31の1次元パターンは、回折格子として機能する。つまり、太陽光、蛍光灯、LEDランプ等の複数の色(波長)が混ざった光が、ラインマーカー領域3に入射すると、当該入射光は、凸条部31からなる回折格子により回折および干渉する。ここで、ラインマーカー領域3を透過する透過光、またはラインマーカー領域3で反射する反射光のいずれであっても、凸条部31からなる回折格子による回折と干渉が起きる。かかる回折と干渉により、ラインマーカー領域3に対する入射光は、色(波長)ごとに分光され、異なる方向に拡散して出射される。この結果、ラインマーカー領域3からの出射光は、光学フィルム1のユーザが視認可能な虹色の拡散光となる。
【0091】
なお、本実施形態では、直線状の凸条部31が平行に並んだ1次元周期パターンの回折格子を用いるが、本発明の凸条部は、かかる例に限定されない。例えば、曲線状の凸条部が同心円状に並んだパターンなど、複数の凸条部が2次元的に配列されたパターン(2次元周期パターン)を回折格子として用いてもよい。
【0092】
より詳細には、本実施形態に係る凸条部31は、直線状であり、ラインマーカー領域3の長手方向(X方向)に対して平行な方向に延びている。しかし、本発明の凸条部の形状は、かかる例に限定されない。複数の凸条部がマイクロメートルサイズのトラックピッチPで相互に離隔して配置されていれば、当該複数の凸条部の集合体は、可視光の回折格子として機能し得る。よって、凸条部の延長方向や形状は、上記図2図3の例に限定されない。例えば、凸条部は、ラインマーカー領域3の長手方向(X方向)だけでなく、当該長手方向に交差する方向や、それ以外の任意の方向に延びる直線状、破線状、点線状、波線状、ジグザグ状など、多様な形態のライン状であってもよい。例えば、凸条部は、連続的な直線状でなくてもよく、不連続に途切れた破線状、点線状などであってもよい。また、凸条部は、円弧状などの曲線状であってもよく、同心円状に配置されもよい。
【0093】
また、本実施形態では、光学フィルム1の表面において、微細凹凸構造20が形成される凹凸パターン領域2と、凸条部31が形成されるラインマーカー領域3とが、相互に重なり合うことなく、区分されていた。しかし、かかる例に限定されず、例えば、凹凸パターン領域2とラインマーカー領域3とが重なり合っていてもよく、微細凹凸構造20上に凸条部31を重畳して形成してもよい。かかる重畳構造であっても、マイクロメートルサイズのトラックピッチPで配列された凸条部31が、回折格子として機能するので、視認可能な虹色光を発生させることができる。
【0094】
以上のように、本実施形態では、回折格子として機能する凸条部31が設けられたラインマーカー領域3は、虹色の拡散光を出射する視認可能領域となる。よって、ユーザは、ラインマーカー領域3からの虹色の拡散光を視認することによって、光学フィルム1の存在やその位置、大きさ、向きなどを容易に認識できる。よって、光学フィルム1を用いた製品をハンドリングする際の肉眼による視認性を向上させ、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0095】
[2.ロール原盤の構成]
[2.1.ロール原盤の全体構成]
次に、図5を参照して、本実施形態に係る光学フィルム1を製造するために用いられるロール原盤100の構成について説明する。図5は、本実施形態に係るロール原盤100を模式的に示す斜視図である。
【0096】
図5に示すように、本実施形態に係るロール原盤100は、原盤基材110と、原盤基材110の外周面に形成された凹凸パターン(微細凹凸構造120、螺旋状の溝131)とを備える。
【0097】
本実施形態に係るロール原盤100は、例えば、ロール・ツー・ロール(Roll-To-Roll)方式のインプリント技術に用いられる原盤である。ロール・ツー・ロール方式のインプリント技術では、ロール原盤100を回転させながら、ロール原盤100の外周面を帯状の光学フィルムに押圧することによって、ロール原盤100の外周面に形成された凹凸パターンを光学フィルムの表面に転写することができる。このようなインプリント技術を用いることで、ロール原盤100の外周面に形成された凹凸パターンが転写された大面積の光学フィルムを効率良く製造することができる。
【0098】
なお、ロール原盤100によって凹凸パターンが転写された光学フィルムは、例えば、上記フェイスシールド、アイシールド等のシールド部材に適用可能な光学フィルム1として使用される。しかし、かかる例に限定されず、光学フィルムは、その他の用途の反射防止フィルム、表面プラズモンフィルタまたは発光デバイスなどの各種の光学部材として使用されてもよい。
【0099】
本実施形態に係るロール原盤100は、円筒状または円柱状を有するロール状の原盤である。ロール原盤100の外周面は、光学フィルムの表面に凹凸構造を成形するための成形面となる。このロール原盤100の外周面には、転写パターンとなる凹凸パターンが2次元的に配列されている。ロール原盤100の外周面に配置された凹凸パターンと、上述の光学フィルム1の表面に配置された凹凸パターンとは、反転した凹凸関係にある。すなわち、ロール原盤100の凹凸パターンの形状、配列、配置ピッチなどは、光学フィルム1の凹凸パターンと同様である。
【0100】
原盤基材110は、例えば、図5に示すような円筒状または円柱状を有する部材である。原盤基材110の外周面に、転写対象の凹凸パターンが形成される。原盤基材110は、溶融石英ガラス、または合成石英ガラスなどのガラス材料で構成されてもよく、ステンレス鋼などの金属、またはこれら金属の外周面をSiO等で被覆したものなどで構成されてもよい。
【0101】
ただし、原盤基材110の少なくとも外周面は、石英ガラスなどのガラス材料で形成されることが好ましい。さらに、原盤基材110の全体が、石英ガラスなどのガラス材料で形成されることがより好ましい。この理由は、SiOを主材料とするガラス材料で原盤基材110を形成することによって、フッ素化合物を用いたエッチングによって、原盤基材110の外周面に微細凹凸パターンを容易に形成できるためである。具体的には、レーザ光によるリソグラフィを用いて、原盤基材110の外周面に設けられたレジスト層に対して凹凸パターンを形成する。その後、レジスト層の凹凸パターンをマスクとして原盤基材110の外周面をドライエッチングすることによって、原盤基材110の外周面に凹凸パターンを容易に形成することができる。なお、ガラス材料で形成された原盤基材110は、例えば、透明なロール型となる。
【0102】
原盤基材110の大きさは、特に限定されるものではないが、原盤基材110の軸方向の長さ(ロール幅)は例えば、100mm以上であってもよく、原盤基材110の外径は、例えば、50mm以上、300mm以下であってもよい。また、原盤基材110が円筒形状である場合、円筒の厚みは、例えば2mm以上、50mm以下であってもよい。
【0103】
図5に示すように、本実施形態に係る原盤基材110の外周面には、凹凸パターン領域102(「原盤凹凸パターン領域」に相当する。)と、ラインマーカー領域103(「原盤ラインマーカー領域」に相当する。)とが設けられる。
【0104】
凹凸パターン領域102は、ロール原盤100の周方向(以下、「ロール周方向」と称する場合もある。)の全周に渡って設けられる円筒状の曲面領域であり、原盤基材110の外周面の大半を占める。ラインマーカー領域103は、ロール周方向の全周に渡って帯状に設けられる円環状の曲面領域である。図5の例では、ロール原盤100の幅方向(以下、「ロール幅方向」と称する場合もある。)の両端部にそれぞれ、ラインマーカー領域103、103が配置されている。これらのラインマーカー領域103、103は、凹凸パターン領域102のロール幅方向の両側に、当該凹凸パターン領域102に隣接して配置されている。ラインマーカー領域103、103は、ロール原盤100のロール幅方向の両端から所定距離だけ内側の位置に配置される。
【0105】
凹凸パターン領域102の幅および面積は、ラインマーカー領域103の幅および面積よりも大幅に大きい。例えば、凹凸パターン領域102のロール幅方向の幅は、数百mm程度(例えば500mm)であり、ラインマーカー領域103のロール幅方向の幅は、数mm程度(例えば2mm)であってよい。
【0106】
このようなロール原盤100の凹凸パターン領域102、ラインマーカー領域103はそれぞれ、上述した光学フィルム1の凹凸パターン領域2(反射防止領域)、ラインマーカー領域3(視認可能領域)に対応している。
【0107】
[2.2.凹凸パターン領域の微細凹凸構造の構成]
次に、図5を参照して、本実施形態に係るロール原盤100の外周面上の凹凸パターン領域102に形成される微細凹凸構造120について詳述する。
【0108】
ロール原盤100の凹凸パターン領域102には、転写パターンとして、微細凹凸構造120(「原盤微細凹凸構造」に相当する。)が形成されている。このロール原盤100の凹凸パターン領域102の微細凹凸構造120は、光学フィルム1の凹凸パターン領域2の微細凹凸構造20の反転形状を有する。つまり、ロール原盤100の微細凹凸構造120の凹部121、凸部122はそれぞれ、光学フィルム1の微細凹凸構造20の凸部21、凹部22に対応した反転形状を有する。
【0109】
図5に示す微細凹凸構造120の例では、ロール原盤100の凹凸パターン領域102には、円形の平面形状を有する複数の凹部121が形成されている。これらの凹部121は、原盤基材110の外周面において六方格子状に配列されている。凸部122は、相隣接する複数の凹部121、121の間に設けられる突出部分である。
【0110】
微細凹凸構造120についてより詳細に説明する。本実施形態に係るロール原盤100の外周面上には、微細凹凸構造120の複数の凹部121が可視光の波長以下のピッチP’で六方格子状に配列されている。微細凹凸構造120の凹部121のピッチP’は、上述した光学フィルム1の微細凹凸構造20の凸部21のピッチPと同一である。ピッチP’は、可視光帯域の波長以下であり、例えば、350nm以下であり、好ましくは250nm以下であり、例えば200nm程度であってよい。
【0111】
ここで、上述した微細凹凸構造20の凸部21の六方格子状の配列(図4参照。)と同様に、ロール原盤100の微細凹凸構造120の凹部121も、図5中の拡大図に示すように、相互に平行な複数のトラックT’に沿って配列されている。複数のトラックT’が、第1方向(トラック延長方向)に対して垂直な第2方向(トラックピッチ方向)に所定の間隔(トラックピッチP’)を空けて配置される。例えば、図5に示すように、第1方向(トラック延長方向)はロール周方向であってよく、第2方向はロール幅方向であってよい。
【0112】
ここで、ドットピッチP’は、トラックT’に沿って、第1方向(例えばロール周方向)に配列される複数の凹部121のピッチ(周期)である。トラックピッチP’は、第2方向(例えばロール幅方向)に相互に隣接して配置される複数のトラックT’の相互間隔である。微細凹凸構造120の凹部121のドットピッチP’、トラックピッチP’はそれぞれ、上述した光学フィルム1の微細凹凸構造20の凸部21のドットピッチP、トラックピッチPと同一である。例えば、ドットピッチP’は230nmであってよく、トラックピッチP’は150nmであってよい。
【0113】
図5に示す微細凹凸構造120の六方格子状の配列では、ロール幅方向に隣接するトラックT’、T’間で、凹部121は、ロール周方向に半ピッチ(1/2P’)だけずれた位置に配置されている。すなわち、ロール幅方向に隣接するトラックT、T間で、ロール周方向に配列される凹部121の位相が半周期(180°)だけずれている。
【0114】
このようにトラックT’ごとに(即ち、ロール1周ごとに)、凹部121の配列を半ピッチ(1/2P’)ずらすことにより、ロール原盤100の外周面上に複数の凹部121を最密な六方格子状に配列できる。したがって、当該外周面上において微細凹凸構造120の複数の凹部121が占める面積の割合(凹部121の充填率)を最大化できる。よって、微細凹凸構造120が転写された光学フィルム1の単位面積当たりの反射防止機能を向上できる。
【0115】
なお、微細凹凸構造120の凹部121の深さH’、サイズD’(ドットサイズ)、アスペクト比(深さH’/配置ピッチP’)等の各種寸法は、上述した光学フィルム1の微細凹凸構造20の凸部21の高さH、サイズD(ドットサイズ)、アスペクト比(高さH/配置ピッチP)等と同一である。したがって、これら寸法の詳細説明は省略する。
【0116】
以上、ロール原盤100の凹凸パターン領域102に形成される微細凹凸構造120について説明した。このロール原盤100の微細凹凸構造120を光学フィルム1に転写することにより、当該光学フィルム1の凹凸パターン領域2に上述した微細凹凸構造20(図2図4参照。)を好適に形成することができる。
【0117】
[2.3.ラインマーカー領域の溝の構成]
次に、図5を参照して、本実施形態に係るロール原盤100の外周面上のラインマーカー領域103に形成される螺旋状の溝131について詳述する。
【0118】
ロール原盤100のラインマーカー領域103には、ロール周方向の全周に渡って螺旋状の溝131(螺旋状の凹条部)が形成されている。この螺旋状の溝131は、ロール原盤100の外周面を複数周(例えば、数百周~数千周)に渡って巻くように、連続的または不連続に形成される。
【0119】
ここで、溝131は、ロール原盤100の外周面において、可視光の波長以上のトラックピッチP’を有する螺旋状に形成されている。ここで、溝131のトラックT'とは、図5に示すように、ロール原盤100の外周面を複数周に渡って巻く螺旋状の溝131のうち、1周分の部分の仮想中心線である。また、溝131のトラックピッチP’は、ロール原盤100の外周面に形成される螺旋状の溝131のうち、ロール幅方向に相隣接する2つのトラックT'、T'の間隔(中心間距離)である。このように、トラックピッチP’は、ロール原盤100の外周面に形成される螺旋状の溝131の周期構造の周期を意味する。なお、溝131のトラックピッチP’は、溝131のうちロール幅方向に相隣接する2つのトラックT'、T'の組合せを複数個ピックアップし、各組合せの間隔(中心間距離)を測定し、これら測定値の算術平均値(平均ピッチ、平均周期)を、トラックピッチP’として算出してもよい。
【0120】
かかる螺旋状の溝131のトラックピッチP’は、上述した光学フィルム1の凸条部31のトラックピッチPと同一であり、マイクロメートルサイズの適正値に設定される。例えば、トラックピッチP’は、好ましくは500nm以上、1mm以下であり、より好ましくは1μm以上、10μm以下であり、例えば、1μm程度であってよい。これにより、トラックピッチP’がミクロンオーダーの適切な範囲内となるので、ロール原盤100の溝131を転写して形成される光学フィルム1の凸条部31が回折格子として好適に機能する。
【0121】
このラインマーカー領域103の溝131は、上述した光学フィルム1のラインマーカー領域3の凸条部31の反転形状を有する。つまり、溝131の断面形状は、凸条部31の断面形状の反転形状を有する。溝131の断面形状は、例えば、錐体状(釣鐘形状、楕円錐台形状等)を切断した形状、半円状、半楕円状、略三角状などの種々の凸形状であってよい。錐体状としては、例えば、頂部が尖った錐体状、頂部が平坦な錐体状、頂部に凸状または凹状の曲面を有する錐体状が挙げられる。頂部に凸状の曲面を有する錐体状としては、例えば、放物面状などの2次曲面状が挙げられる。また、錐体状の錐面を凹状または凸状に湾曲させるようにしてもよい。
【0122】
溝131の幅w’は、凸条部31の幅wと同一である。例えば、溝131の幅w’は、上述した微細凹凸構造120の凹部121のサイズD’(ドットサイズ)と同等であってよく、200nm程度であってよい。
【0123】
また、溝131の深さh’は、凸条部31の高さhと同一である。例えば、溝131の深さh’は、上述した微細凹凸構造120の凹部121の深さH’と同等であってよく、例えば、100nm以上、400nm以下、好ましくは150nm以上、300nm以下、より好ましくは200nm以上、300nm以下である。
【0124】
以上、ロール原盤100のラインマーカー領域103に形成される螺旋状の溝131について説明した。このロール原盤100の螺旋状の溝131を光学フィルム1に転写することにより、当該光学フィルム1のラインマーカー領域3に、上述した複数の凸条部31(図2図3参照。)を好適に形成することができる。この結果、当該凸条部31が回折格子として機能して、ラインマーカー領域3から虹色光が拡散されるので、ラインマーカー領域3が視認可能領域となり、光学フィルム1のハンドリング性が向上する。
【0125】
[3.露光装置の構成]
次に、図6を参照して、本実施形態に係るロール原盤100の製造に用いられる露光装置200の構成について説明する。図6は、本実施形態に係るロール原盤100の製造に用いられる露光装置200の構成を示すブロック図である。
【0126】
図6に示すように、露光装置200は、レーザ光源201と、第1ミラー203と、フォトダイオード(Photodiode:PD)205と、集光レンズ207と、電気光学偏向素子(Electro Optic Deflector:EOD)209と、コリメータレンズ211と、第2ミラー213と、移動光学テーブル220と、スピンドルモータ225と、ターンテーブル227と、制御装置230と、を備える。
【0127】
レーザ光源201は、ロール原盤100を露光するためのレーザ光202を出射する光源である。レーザ光源201は、例えば、400nm~500nmの青色光帯域の波長のレーザ光を発する半導体レーザ光源であってもよい。レーザ光源201は、制御装置230により制御される。
【0128】
レーザ光源201から出射されたレーザ光202は、平行ビームのまま直進し、第1ミラー203で反射される。第1ミラー203は、偏光ビームスプリッタで構成されており、偏光成分の一方を反射させ、偏光成分の他方を透過させる機能を有する。第1ミラー203を透過した偏光成分は、フォトダイオード205によって光電変換される。光電変換された受光信号は、レーザ光源201に入力される。これにより、レーザ光源201は、入力された受光信号によるフィードバックに基づいて、レーザ光202の出力を調整することができる。
【0129】
第1ミラー203で反射されたレーザ光202は、偏向光学系に導かれる。偏向光学系は、集光レンズ207と、電気光学偏向素子209と、コリメータレンズ211とを備える。
【0130】
偏向光学系において、レーザ光202は、集光レンズ207によって、電気光学偏向素子209に集光される。電気光学偏向素子209は、レーザ光202の照射位置をナノメートル程度の距離で制御することが可能な素子である。電気光学偏向素子209により、原盤基材110に対するレーザ光202の照射位置を微調整することが可能である。レーザ光202は、電気光学偏向素子209によって照射位置を調整された後、コリメータレンズ211によって、再度、平行ビーム化される。平行ビーム化されたレーザ光202は、第2ミラー213によって反射され、移動光学テーブル220上に水平に導かれる。
【0131】
移動光学テーブル220は、ビームエキスパンダ(Beam expader:BEX)221と、対物レンズ223とを備える。また、ロール原盤100は、ターンテーブル227上に載置される。ターンテーブル227は、ロール原盤100を支持するテーブルであり、スピンドルモータ225により回転可能である。
【0132】
ビームエキスパンダ221は、第2ミラー213によって導かれたレーザ光202を、所望のビーム形状に整形する。整形されたレーザ光202は、対物レンズ223を介して、ロール原盤100の原盤基材110の外周面に成膜されたレジスト層に照射される。
【0133】
ロール原盤100の原盤基材110に対するレーザ光202の照射時には、スピンドルモータ225により、ターンテーブル227および原盤基材110を回転させながら、移動光学テーブル220により、レーザ光202の照射位置をロール原盤100の軸方向(ロール幅方向)に移動させる。例えば、原盤基材110が1回転する毎に、移動光学テーブル220は、レーザ光202の照射位置を矢印R方向(送りピッチ方向)に1送りピッチ(トラックピッチ)だけ移動させる。これにより、原盤基材110の外周面に対してレーザ光202を螺旋状に照射して、原盤基材110の外周面のレジスト層を螺旋状の走査軌跡で露光することができる。なお、レーザ光202の照射位置の移動は、レーザ光源201を含むレーザヘッド、またはロール原盤100を支持するターンテーブル227のいずれかをスライダに沿って移動させることで行ってもよい。
【0134】
また、制御装置230は、レーザ光源201からのレーザ光202の出射を制御することで、レーザ光202の照射時間および照射位置を制御する。制御装置230は、レーザ光202の出射を制御する露光信号を生成する。制御装置230は、例えば、任意の波形の信号を生成可能な信号生成回路を含むファンクションジェネレータなどを有してもよい。制御装置230は、フォーマッタ231と、ドライバ233とを備える。
【0135】
フォーマッタ231は、基準クロック信号から、レーザ光202の照射を制御するための露光信号を生成する。露光信号は、ロール原盤100の外周面に形成される凹凸パターンを表す信号である。ドライバ233は、フォーマッタ231が生成した露光信号に基づいてレーザ光源201からのレーザ光202の照射を制御する。例えば、ドライバ233は、矩形パルス波からなる露光信号がハイレベルの場合に、レーザ光202が照射されるようにレーザ光源201を制御してもよい。また、スピンドルモータ225は、上記の基準クロック信号から生成される回転制御信号に基づいて、ターンテーブル227を回転させる。例えば、回転制御信号の所定の数のパルスが入力される期間中にターンテーブル227が1回転するように、スピンドルモータ225は、ターンテーブル227の回転を制御してもよい。
【0136】
以上のように、レーザ光源201は、制御装置230が生成した露光信号によって制御され、レーザ光源201から出射されたレーザ光202は、ターンテーブル227上に載置されたロール原盤100に照射される。また、スピンドルモータ225は、回転制御信号に基づいて、ロール原盤100が載置されたターンテーブル227を回転させる。ここで、露光信号および回転制御信号は、共通の基準クロック信号から生成され、相互に同期していてもよい。
【0137】
以上、本実施形態に係る露光装置200の構成例について説明した。本実施形態に係る露光装置200によれば、ロール原盤100の原盤基材110の外周面を露光して、所望の形状の露光パターン(凹凸パターン)を精密に形成することができる。
【0138】
[4.露光方法]
次に、図7を参照して、上記露光装置200を用いてロール原盤100の原盤基材110の外周面を露光する露光方法について説明する。図7は、本実施形態に係るロール原盤100の露光方法を概略的に示す模式図である。
【0139】
図7に示すように、本実施形態に係るロール原盤100の露光方法では、上述した露光装置200を用いて、原盤基材110の外周面にレーザ光202を照射して、露光パターンを形成する。露光装置200は、上記のように、レーザ光202を発するレーザ光源201と、レーザ光202の出射を制御する制御装置230とを備えている。
【0140】
露光工程では、ロール軸を中心にロール原盤100の原盤基材110を回転させつつ、かつ、露光装置200のレーザ光源201をロール幅方向(図7の矢印Rの方向)に移動させながら、原盤基材110の外周面に対してレーザ光202を照射する。これにより、原盤基材110の外周面に対して螺旋状にレーザ光202が照射され、原盤基材110の外周面の所望の領域に所望の形状の露光パターンを形成することができる。
【0141】
原盤基材110の外周面のうち凹凸パターン領域102では、上記微細凹凸構造120に対応する露光パターンが形成される。一方、ラインマーカー領域103では、上記螺旋状の溝131に対応する露光パターンが形成される。図7の例では、凹凸パターン領域102に対して螺旋状の照射軌跡でレーザ光202を照射することで、微細凹凸構造120に対応する露光パターンを形成している状態を示している。なお、これら微細凹凸構造120と螺旋状の溝131の露光パターンの形成順序は、特に問わない。
【0142】
ここで、図8を参照して、本実施形態に係る露光装置200が用いる露光信号と、原盤基材110の外周面に形成される露光パターンとの対応関係について具体的に説明する。図8は、本実施形態に係る露光信号と露光パターンとの対応関係を示す説明図である。
【0143】
図8に示すように、本実施形態では、螺旋状の照射軌跡でレーザ光202を照射することにより、円形のドットパターンが六方格子状に配列された露光パターンを原盤基材110の外周面に形成する。この露光パターンでは、微細凹凸構造120の凹部121に対応する円形のドットパターンが六方格子状に配列されている。これら円形のドットパターンは、所定のトラックピッチP’で配列された複数列のトラックT’に沿って配置される。なお、ドットパターンの平面形状は、図8に示す円形の例に限定されず、例えば、トラックT’の延長方向に長軸方向を有する楕円形、長円形などであってもよい。
【0144】
本実施形態に係る露光装置200は、トラックT’に沿って配列される複数のドットパターンからなる露光パターンを形成するために、露光信号として、例えば、所定の周期でハイレベルおよびローレベルを交互に繰り返すパルス波信号を用いる。露光装置200は、露光信号がハイレベルのときに原盤基材110の外周面に円形のドットパターンが形成されるように、レーザ光202の照射を制御する。
【0145】
さらに、図8に示すようにドットパターンが六方格子状に配列された露光パターンを形成するために、原盤基材110のロール幅方向に相隣接するトラックT’、T’間で、露光信号が1/2パルスずつずれるように、露光信号の周波数が設定される。換言すると、露光信号の連続性を維持したまま、螺旋状のレーザ照射軌跡の1周ごと(即ち、トラックT’ごと)に、露光信号の位相を180°ずつ反転させる。これにより、ロール周方向に螺旋状に配列されるドットパターンの1周ごと(即ち、トラックT’ごと)に、ドットパターンの位置が0.5ピッチずつ、ロール周方向にずれる。このようにして、螺旋状のレーザ照射軌跡を用いて、ドットパターンが六方格子状に精密に配列された露光パターンを、原盤基材110の外周面に形成することができる。
【0146】
ところで、上記のように螺旋状の照射軌跡でレーザ光202を照射する場合、原盤基材110の外周1周の長さは、原盤基材110の加工誤差によって周ごとに変化し得る。このため、露光信号と回転制御信号とが同期しない場合、露光の進行に伴って、露光パターンの配列が乱れてしまう。また、原盤基材110を回転させるターンテーブル227のスピンドルモータ225は、回転速度に揺らぎをもっているため、回転速度の揺らぎにより、露光パターンの配列が乱れてしまう。
【0147】
そこで、本実施形態では、露光信号と回転制御信号の基となる基準クロックを共有させることによって、露光信号と回転制御信号とを同期させる。これにより、露光信号の周波数は、回転制御信号の分周または逓倍に制限されることがなくなり、任意の値に設定することが可能となる。したがって、露光信号の連続性を維持したまま、原盤基材110の外周面に所望の露光パターンを連続的に形成することが可能になる。よって、複数のドットパターンが六方格子状に配列される微細凹凸構造120の露光パターンにおいて、露光パターンの途切れや配列の乱れを防止でき、当該露光パターンを高精度で連続的に形成可能である。
【0148】
以上、図8を参照して、原盤基材110の外周面のうち凹凸パターン領域102に、微細凹凸構造120に対応する六方格子状の露光パターンを形成する例について説明した。一方、ラインマーカー領域103に、螺旋状の溝131に対応する露光パターンを形成する場合には、露光装置200は、当該ラインマーカー領域103に対して螺旋状の照射軌跡でレーザ光を照射する。このとき、螺旋状の溝131のトラックピッチP’が所望寸法となるように、ロール幅方向へのレーザ光202の走査速度(レーザ光源201の移動速度)と、原盤基材110の回転速度が制御される。また、螺旋状の溝131の幅w’、深さh’が所望寸法となるように、レーザ光202の照射スポット径、照射強度などが制御される。
【0149】
このように本実施形態によれば、同一の露光装置200を用いて同様なレーザ照射方法によって、凹凸パターン領域102の微細凹凸構造120と、ラインマーカー領域103の螺旋状の溝131の双方に対応する露光パターンを、ロール原盤100の外周面に形成することができる。よって、同一の露光工程で両者の露光パターンを容易かつ迅速に形成できるので、ロール原盤100の製造コストおよび製造時間を低減できる。
【0150】
[5.ロール原盤の製造方法]
次に、図9図10を参照して、本実施形態に係るロール原盤100の製造方法について説明する。図9図10は、本実施形態に係るロール原盤100の製造方法を示す工程図である。
【0151】
本実施形態では、高精度で照射位置を制御可能なレーザ光によるリソグラフィを用いて、原盤基材110の外周面に微細凹凸構造120等の凹凸パターンを形成することにより、本実施形態に係るロール原盤100が製造される。かかるレーザ光によるリソグラフィを用いることで、微細凹凸構造120等の凹凸パターンの配列を精密に制御することが可能である。
【0152】
本実施形態に係るロール原盤100の製造方法は、成膜工程(S10)と、露光工程(S12)と、現像工程(S14)と、エッチング工程(S16)とを含む。まず、成膜工程(S10)では、原盤基材110の外周面にレジスト層111を成膜する。次いで、露光工程(S12)では、レジスト層111にレーザ光を照射することで潜像112を形成する。さらに、現像工程(S14)では、潜像112が形成されたレジスト層111を現像し、レジスト層111にパターンを形成する。その後、エッチング工程(S16)では、パターンが形成されたレジスト層111をマスクとしてエッチングし、原盤基材110の外周面に凹凸パターン(微細凹凸構造120、螺旋状の溝131等)を形成する。以下に本実施形態に係るロール原盤100の製造方法の各工程について説明する。
【0153】
(S10)成膜工程
成膜工程では、まず、図9のAに示すように、ロール原盤100の原盤基材110が準備される。原盤基材110は、例えば、円筒状または円柱状のガラス原盤である。次いで、図9のBに示すように、原盤基材110の外周面にレジスト層111が成膜される。レジスト層111は、レーザ光によって潜像112を形成することが可能な無機系材料または有機系材料を含む。無機系材料としては、例えば、タングステン、またはモリブデンなどの1種または2種以上の遷移金属を含む金属酸化物を用いることができる。また、無機系材料を含むレジスト層は、例えば、スパッタ法などを用いることで成膜することができる。一方、有機系材料としては、例えば、ノボラック系レジスト、または化学増幅型レジストなどを用いることができる。また、有機系材料を含むレジスト層は、スピンコート法などを用いることで成膜することができる。
【0154】
(S12)露光工程
次いで、露光工程では、図9のCに示すように、原盤基材110の外周面に形成されたレジスト層111に、レーザ光202を照射する。具体的には、図6に示した露光装置200のターンテーブル227上にロール原盤100を載置し、ロール原盤100を回転させると共に、レーザ光202(露光ビーム)をレジスト層111に照射する。このとき、レーザ光202をロール原盤100の軸方向(ロール幅方向)に移動させながら、レジスト層111に照射することで、螺旋状の照射軌跡に沿ってレジスト層111を露光する。これにより、レーザ光202の照射軌跡に応じた潜像112A、112B(以下、「潜像112」と総称する場合もある。)が、レジスト層111に形成される。
【0155】
本実施形態では、ロール原盤100の外周面のうちロール幅方向の中央部の凹凸パターン領域102に対して、螺旋状の照射軌跡に沿ってレーザ光202を間欠的に照射する。これによって、微細凹凸構造120に対応する露光パターン(例えば、図8に示した円形のドットパターンが六方格子状に配列されたパターン)で、凹凸パターン領域102のレジスト層111を全面に渡って露光する。これにより、凹凸パターン領域102のレジスト層111に、微細凹凸構造120に対応する露光パターンの潜像112Aが形成される。
【0156】
一方、ロール原盤100の外周面のうちロール幅方向の両端部のラインマーカー領域103に対して、螺旋状の照射軌跡に沿ってレーザ光202を連続的に照射する。これによって、螺旋状の溝131に対応する露光パターンで、ラインマーカー領域103のレジスト層111を螺旋状に露光する。これにより、ラインマーカー領域103のレジスト層111に、螺旋状の溝131に対応する露光パターンの潜像112Bが形成される。なお、螺旋状の溝131に対応する露光パターンは、必ずしも連続的な螺旋状である必要はない。例えば、螺旋状の照射軌跡に沿ってレーザ光202を不連続に照射することによって、不連続な螺旋状の露光パターンを形成してもよい。
【0157】
(S14)現像工程
次いで、現像工程では、図10のAに示すように、潜像112が形成されたレジスト層111を、現像液を用いて現像する。これにより、潜像112A、112Bにそれぞれ対応する開口部113A、113B(以下、「開口部113」と総称する場合もある。)のパターンがレジスト層111に形成される。例えば、レジスト層111が上述した無機系材料を含む場合、レジスト層111の現像には、TMAH(TetraMethylAmmonium Hydroxide:水酸化テトラメチルアンモニウム)水溶液などのアルカリ系溶液を用いることができる。また、レジスト層111が上述した有機系材料を含む場合、レジスト層111の現像には、エステル、またはアルコールなどの各種有機溶剤を用いることができる。
【0158】
現像工程では、例えば、ロール原盤100を回転させながら、レジスト層111上に現像液を滴下して、レジスト層111を現像処理する。これにより、図10のAに示すように、レジスト層111に複数の開口部113が形成される。レジスト層111をポジ型のレジストにより形成した場合には、レーザ光202で露光した露光部は、非露光部と比較して現像液に対する溶解速度が増すので、潜像112(露光部)に応じた開口部113のパターンがレジスト層111に形成される。
【0159】
本実施形態では、凹凸パターン領域102には、微細凹凸構造120に対応する開口パターン(例えば、図8に示した円形のドットパターンが六方格子状に配列されたパターン)で、開口部113Aが形成される。一方、ラインマーカー領域103には、螺旋状の溝131に対応する開口パターンで、螺旋状の開口部113Bが形成される。
【0160】
(S16)エッチング工程
次いで、エッチング工程では、開口部113が形成されたレジスト層111のパターンをマスクとして、原盤基材110の外周面をエッチングする。これにより、図10のBに示すように、原盤基材110の外周面に、上記露光パターンおよび開口部113のパターンに対応する凹凸パターン(微細凹凸構造120、螺旋状の溝131)が形成される。原盤基材110のエッチングは、ドライエッチングまたはウェットエッチングのいずれで行ってもよい。原盤基材110がSiOを主とするガラス材料(例えば、石英ガラスなど)である場合、原盤基材110のエッチングは、フッ化炭素ガスを用いたドライエッチング、またはフッ化水素酸等を用いたウェットエッチングによって行うことができる。
【0161】
本実施形態に係るエッチング工程によれば、原盤基材110の外周面のうち凹凸パターン領域102には、凹凸パターンとして、開口部113Aに対応する微細凹凸構造120が形成される。微細凹凸構造120は、例えば、複数の凹部121および凸部122が可視光の波長以下のナノオーダー(例えば、350nm以下)のピッチP’で六方格子状に配列されたモスアイ構造である。一方、原盤基材110の外周面のうちラインマーカー領域103には、凹凸パターンとして、開口部113Bに対応する螺旋状の溝131が形成される。この螺旋状の溝131のロール幅方向のトラックピッチP’は、可視光の波長以上のマイクロオーダー(例えば、500nm以上、1mm以下)である。
【0162】
以上のように、本実施形態に係るエッチング工程では、開口パターン(開口部113A、113B)が形成されたレジスト層111をマスクとして、原盤基材110の外周面全体を同時にエッチングする。これにより、原盤基材110の外周面に対し、凹凸パターン領域102の微細凹凸構造120(反射防止用の凹凸パターン)と、ラインマーカー領域103の螺旋状の溝131(マーカーとしての視認用の凹凸パターン)とを、1回のエッチング工程で同時に加工することができる。しかも、微細凹凸構造120と螺旋状の溝131は、同一のエッチング条件で同時に形成されるので、溝131の深さh’は、微細凹凸構造120の凹部121の深さH’と実質的に同一である。
【0163】
これに対し、従来では、ロール原盤の表面に、微細凹凸構造に加えて、ロール原盤の欠陥管理用のマーカー(ロール原盤のロール周方向の位置を表す印であって、フィルムに転写可能な凹凸で形成されるもの)を形成する場合、微細凹凸構造を形成するエッチング工程後に、欠陥管理用のマーカーを加工する追加工程が別途必要であった。このため、従来では、微細凹凸構造の形成後に、マーカーを別途加工するときに、ロール原盤の外周面に別の欠陥を発生させるリスクがあるという問題があった。
【0164】
さらに、従来では、エッチング加工以外の切削加工等によりマーカーの凹凸を形成するため、マーカーの凹凸の加工精度をナノオーダーで制御することは困難であった。したがって、ロール原盤の外周面において、微細凹凸構造の凹部の深さとマーカーの凹部の深さとが異なっていた。このため、当該ロール原盤の凹凸パターンを転写して形成されたフィルムにおいても、微細凹凸構造の凸部の高さとマーカーの凸部の高さとが異なることになり、フィルム表面に高低差が生じていた。この結果、当該フィルムを巻き取ってフィルムロールとしたときに、巻き歪み等の不具合が発生するという問題があった。
【0165】
この点、本実施形態に係るロール原盤100の製造方法によれば、ロール原盤100の表面に、凹凸パターン領域102の微細凹凸構造120(反射防止用の凹凸パターン)に加えて、ラインマーカー領域103の螺旋状の溝131(マーカーとしての視認用の凹凸パターン)を形成する際に、マーカーとしての溝131を加工するための追加工程が不要である。つまり、凹凸パターン領域102の微細凹凸構造120とラインマーカー領域103の螺旋状の溝131を、1回のエッチング工程で同時に加工することができる。よって、本実施形態によれば、微細凹凸構造120の凹凸パターンと、マーカーとしての溝131の凹凸パターンを同時に加工するため、工程を追加する必要がなく、ロール原盤100の外周面に、追加工程により別の新たな欠陥を発生させるリスクがないという利点がある。
【0166】
しかも、本実施形態に係るロール原盤100の製造方法によれば、1回のエッチング工程において同一のエッチング条件で、微細凹凸構造120と螺旋状の溝131を同時に形成する。これにより、溝131の深さh’は、微細凹凸構造120の凹部121の深さH’と実質的に同一になる。したがって、ロール原盤100の凹凸パターンを転写して形成された光学フィルム1においても、微細凹凸構造20の凸部21の高さHと、凸条部31(マーカー)の高さhとが実質的に同一となり、光学フィルム1の表面に、凸部同士の高低差が生じない。よって、当該光学フィルム1を巻き取ってフィルムロールとしたときに、巻き歪み等の不具合が発生しないという利点がある。
【0167】
[6.光学フィルムの製造方法]
次に、図11図12を参照して、本実施形態に係る光学フィルム1の製造方法について説明する。図11図12は、本実施形態に係る光学フィルム1の製造方法を示す工程図である。
【0168】
本実施形態に係る光学フィルム1の製造方法は、ロール原盤100を準備する工程(S20)と、光学フィルム1の基材11の表面に硬化性樹脂からなる樹脂層12Aを塗布する塗布工程(S22)と、ロール原盤100の外周面に形成された転写パターンを光学フィルム1の樹脂層12Aに転写する第1の転写工程(S24)と、光学フィルム1を所定形状に成形する成形工程(S28)と、を含む。さらに、光学フィルム1の両面に凹凸パターンを設ける場合には、本実施形態に係る光学フィルム1の製造方法は、上記工程に加えて、第2の塗布および転写工程(S26)を含んでもよい。
【0169】
(S20)ロール原盤の準備工程
ロール原盤100の準備工程は、例えば、上記図9図10を参照して説明した本実施形態に係るロール原盤100の製造方法の各工程(成膜工程(S10)、露光工程(S12)、現像工程(S14)およびエッチング工程(S16))であってよい。上記ロール原盤100の製造方法により、外周面に凹凸パターン領域102とラインマーカー領域103が形成されたロール原盤100が好適に準備される。
【0170】
塗布工程(S22)
塗布工程では、光学フィルム1の基材11の表面に、硬化性樹脂(転写材料)からなる未硬化の樹脂層12Aを塗布する。硬化性樹脂(転写材料)は、硬化する前の流動性を有する樹脂材料であり、例えば、紫外線硬化性樹脂、光硬化性樹脂などのエネルギー線硬化性樹脂である。本実施形態では、ロール・ツー・ロール方式でロール原盤100の転写パターンを光学フィルム1の樹脂層12Aに連続的に転写するので、塗布工程(S22)と次の転写工程(S24)は同時並行で実行される。
【0171】
(S24)転写工程
転写工程(S24)では、光学フィルム1の一方の表面にロール原盤100の外周面の転写パターンが転写される。詳細には、図11のAに示すように、ロール原盤100の外周面に対して、光学フィルム1の基材11上に塗布された未硬化の樹脂層12A(転写材料)を密着させる。その後、光源58から紫外線などのエネルギー線を樹脂層12Aに照射して、樹脂層12Aを硬化させる。その後、硬化した樹脂層12A(樹脂層12に相当する。)と一体となった基材11を、ロール原盤100から剥離する。
【0172】
これにより、図11のBに示す光学フィルム1が得られる。光学フィルム1では、基材11の表面に樹脂層12が積層され、当該樹脂層12の表面に微細凹凸構造20および凸条部31が形成されている。なお、必要に応じて、光学フィルム1の樹脂層12と基材11との間に、例えば、密着層、接着層、基底層等の中間層(図示せず。)をさらに設けてもよい。
【0173】
本実施形態に係る転写工程によれば、ロール原盤100の外周面の転写パターン(微細凹凸構造120、螺旋状の溝131)が光学フィルム1の樹脂層12に同時に転写されて、樹脂層12の表面に微細凹凸構造20と複数の凸条部31が同時に一体形成される。
【0174】
詳細には、ロール原盤100の凹凸パターン領域102の微細凹凸構造120が光学フィルム1の樹脂層12の凹凸パターン領域2に転写されることにより、反射防止機能を有する微細凹凸構造120が凹凸パターン領域2に形成される。微細凹凸構造120と微細凹凸構造20は、相互に反転形状を有している。また、ロール原盤100のラインマーカー領域103の螺旋状の溝131が光学フィルム1の樹脂層12のラインマーカー領域3に転写されることにより、回折格子として機能する複数の凸条部31がラインマーカー領域3に形成される。螺旋状の溝131とストライプ状の凸条部31は、相互に反転形状を有している。
【0175】
このように、本実施形態に係る転写工程によれば、ロール原盤100の凹凸パターン領域102に形成された微細凹凸構造120と、ラインマーカー領域103に形成された螺旋状の溝131を含む転写パターンが、光学フィルム1の樹脂層12に同時に転写される。つまり、光学フィルム1において、凹凸パターン領域2の微細凹凸構造20と、ラインマーカー領域3の複数の凸条部31は、同一の樹脂層12に一体形成される。したがって、異なる2つの凹凸パターン(微細凹凸構造120および螺旋状の溝131)を1つの転写工程で効率的に転写できるので、光学フィルム1の生産性を向上できる。
【0176】
以上の塗布工程(S22)および転写工程(S24)により、図11のBに示すように、光学フィルム1の一方の表面上の樹脂層12に、凹凸パターン(微細凹凸構造20および凸条部31)が形成される。凹凸パターンを有する樹脂層12は、図11のBに示すように、光学フィルム1の一方の表面(片面)にのみ設けられてもよいし、次の図12のBに示すように、光学フィルム1の両方の表面(表裏両面)に設けられてもよい。後者の場合には、次に説明する第2の塗布および転写工程(S26)を実行すればよい。
【0177】
(S26)第2の塗布および転写工程
第2の塗布および転写工程(S26)では、図12のAに示すように、上記第1の転写工程(S24)後に、光学フィルム1の基材11の他方の表面(裏面)にも、硬化性樹脂からなる樹脂層12Aを塗布する。次いで、ロール原盤100の外周面に形成された転写パターンを、光学フィルム1の他方の表面(裏面)の樹脂層12Aに転写する。
【0178】
詳細には、図12のAに示すように、ロール原盤100の外周面に対して、フィルムの基材11の他方の表面上に塗布された未硬化の樹脂層12Aを密着させる。次いで、光源58から紫外線などのエネルギー線を樹脂層12Aに照射して、樹脂層12Aを硬化させる。その後、硬化した樹脂層12A(樹脂層12に相当する。)と一体となった基材11を、ロール原盤100から剥離する。これにより、図12のBに示すように、基材11の表裏両面に樹脂層12が積層され、当該樹脂層12の表面に微細凹凸構造20および凸条部31が形成された光学フィルム1が得られる。
【0179】
(S28)成形工程
次いで、成形工程では、上記の転写工程(S24またはS26)にて得られた光学フィルム1が所定のサイズ、形状に成形される。例えば、光学フィルム1を所定のサイズに裁断加工したり、所望形状に切り抜いたり、型を用いて所望形状に打ち抜き加工したりすることにより、例えば、フェイスシールド、アイシールド等のシールド部材、その他の光学部材の製品(枚葉品)が成形される。かかる成形加工は、切削加工機や、レーザ加工装置、打ち抜きプレス装置などを使用可能である。打ち抜きプレス加工を使用すれば、シールド部材に必要な切込み線の形成加工と裁断加工を一つの工程で行えるので、好適である。
【0180】
次に、図13を参照して、本実施形態に係る光学フィルム1の製造方法において、ロール・ツー・ロール方式で、ロール原盤100から光学フィルム1に転写パターンを連続的に転写する方法について説明する。図13は、本実施形態に係る転写装置5の構成を示す模式図である。
【0181】
図13に示すように、転写装置5は、ロール原盤100と、基材供給ロール51と、巻取ロール52と、ガイドロール53、54と、ニップロール55と、剥離ロール56と、塗布装置57と、光源58とを備える。すなわち、図13に示す転写装置5は、ロール・ツー・ロール方式のインプリント転写装置である。
【0182】
基材供給ロール51は、例えば、光学フィルム1の基材11がロール状に巻回されたロールである。巻取ロール52は、樹脂層12に凹凸パターン105が転写された光学フィルム1を巻き取るためのロールである。また、ガイドロール53、54は、転写前後で、基材11を搬送するためのロールである。ニップロール55は、未硬化の樹脂層12Aが塗布された基材11をロール原盤100の外周面に押圧するためのロールである。剥離ロール56は、凹凸パターン105が転写された樹脂層12が積層された基材11をロール原盤100から剥離するためのロールである。
【0183】
塗布装置57は、例えば、未硬化の硬化性樹脂組成物からなる転写材料を基材11に塗布し、基材11上に未硬化の樹脂層12Aを形成する。塗布装置57は、例えば、グラビアコーター、ワイヤーバーコーター、またはダイコーターなどであってもよい。また、光源58は、光硬化性樹脂組成物を硬化可能な波長の光を発する光源であり、例えば、紫外線ランプなどである。
【0184】
なお、硬化性樹脂組成物は、例えば、所定の波長の光が照射されることによって硬化する光硬化性樹脂であってよい。具体的には、光硬化性樹脂組成物は、アクリル樹脂アクリレート、エポキシアクリレートなどの紫外線硬化性樹脂であってもよい。また、光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、開始剤、フィラー、機能性添加剤、溶剤、無機材料、顔料、帯電抑制剤、または増感色素などを含んでもよい。
【0185】
なお、未硬化の樹脂層12Aは、熱硬化性樹脂組成物で形成されていてもよい。この場合、転写装置5には光源58に替えて熱源(例えばヒータ)が設けられ、熱源によって樹脂層12Aを加熱することで樹脂層12Aを硬化させてもよい。熱硬化性樹脂組成物は、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、または尿素樹脂等であってもよい。
【0186】
次に、上記構成の転写装置5を用いたロール・ツー・ロール方式の転写方法について説明する。
【0187】
まず、基材供給ロール51に巻回された帯状の基材11は、基材供給ロール51から巻き解かれて、ガイドロール53を介して連続的に送り出される。次いで、塗布装置57により、基材11の表面上に光硬化性樹脂組成物(転写材料)が連続的に塗布されて、基材11に未硬化の樹脂層12Aが積層される。さらに、基材11に積層された樹脂層12Aが、ニップロール55によってロール原盤100の外周面に押圧される。これにより、ロール原盤100の外周面に形成された凹凸パターン105(例えば、上述した微細凹凸構造120、溝131)が樹脂層12Aに連続的に転写される。
【0188】
次いで、凹凸パターン105が転写された樹脂層12Aは、光源58からの光の照射により硬化する。これにより、凹凸パターン105の反転構造(例えば、上述した微細凹凸構造20、凸条部31)が樹脂層12に形成される。その後、凹凸パターン105が転写された樹脂層12と基材11とからなる光学フィルム1は、剥離ロール56によりロール原盤100から剥離される。その後、光学フィルム1は、ガイドロール54を介して巻取ロール52に送り出されて、巻取ロール52においてロール状に巻き取られる。
【0189】
以上のように、本実施形態に係る転写装置5によれば、ロール・ツー・ロール方式で、ロール原盤100の外周面に形成された凹凸パターン105を連続的に転写して、光学フィルム1を製造することが可能である。したがって、光学フィルム1を効率よく量産可能である。
【0190】
また、モスアイ構造などの透明な微細凹凸構造20をロール・ツー・ロール方式で転写する場合、透明な基材11の表面に対して透明な紫外線硬化性樹脂等の硬化性樹脂(未硬化の樹脂層12A)が塗布された後に、回転するロール原盤100の外周面に対して基材11が押し付けられる。この結果、ロール原盤100の外周面と基材11との間で硬化性樹脂が延び広がり、硬化性樹脂の塗布範囲が広がる。この際、作業員は、透明な基材11に対して透明な硬化性樹脂が塗布された範囲(特に、ロール幅方向の塗布範囲)を視認しにくい。このため、硬化性樹脂のロール幅方向の塗布範囲をうまく制御できないので、ロール原盤100と基材11との間から硬化性樹脂が溢れ出す、または、基材11の表面の一部領域で硬化性樹脂の塗り抜けが生じる等の不具合が発生しやすい。そこで、ロール原盤100のロール幅方向の端部に、ロール原盤100の全周に渡って容易に視認可能なラインマーカーが存在することが望ましい。
【0191】
この点、本実施形態によれば、図5に示したように、ロール原盤100の外周面のロール幅方向の両端部付近に帯状のラインマーカー領域103が、ロール周方向全周に渡って設けられている。このラインマーカー領域103には、回折格子として機能する螺旋状の溝131が形成されているため、光の回折および干渉によりラインマーカー領域103から虹色の拡散光が出射される。したがって、作業員は、ロール原盤100のロール幅方向の両端部に設けられたラインマーカー領域103を容易に視認可能である。よって、視認可能なラインマーカー領域103の位置を目安として、透明な硬化性樹脂が塗布された範囲を視認、制御できるので、塗布される硬化性樹脂の供給量等を制御して、硬化性樹脂の塗布範囲を適切に制御することができる。この結果、硬化性樹脂の溢れ出しや塗り抜け等の不具合の発生を抑制でき、光学フィルム1の生産性や品質を向上することができる。
【0192】
[7.適用例]
次に、本実施形態に係る光学フィルム1の各種の適用例について説明する。
【0193】
[7.1.フィルム製品の視認性向上]
まず、図14を参照して、本実施形態に係る光学フィルム1を打ち抜き加工して、反射防止フィルムの製品(例えば、アイシールド、フェイスシールド等のシールド部材やその他の光学部材の製品)を成形する例について説明する。図14は、本実施形態に係る光学フィルム1から複数枚のアイシールド4を打ち抜き加工する例を示す平面図である。
【0194】
本実施形態に係る光学フィルム1は、例えば、帯状のフィルムをロール状に巻回したフィルムロール(図1参照。)として保存されてもよい。かかるフィルムロールから、シールド部材やその他の光学部材の製品(枚葉品)を製造する場合、フィルムロールから巻き解かれた帯状の光学フィルム1を打ち抜き加工して、所定形状のフィルム製品が成形される。なお、フィルムロールから巻き解かれた帯状の光学フィルム1を、打ち抜き加工前に、所定長さに裁断加工してもよい。
【0195】
図14に示すように、光学フィルム1から複数枚のアイシールド4を打ち抜き加工する場合、各アイシールド4の少なくとも一部に、光学フィルム1の幅方向の両端部のラインマーカー領域3が含まれるように、アイシールド4を打ち抜き加工することが好ましい。図14の例では、各アイシールド4の片側端部にラインマーカー領域3が含まれるように、帯状の光学フィルム1の幅方向(Y方向)に2列でアイシールド4が打ち抜き加工されている。
【0196】
上述したように、ラインマーカー領域3は、回折格子として機能する複数の凸条部31の周期構造を含んでいる。このラインマーカー領域3は虹色に光るため、ユーザは当該ラインマーカー領域3を容易に視認可能である。したがって、打ち抜き加工されたアイシールド4の枚葉品のうち大半の領域が、反射防止機能を有する透明領域(凹凸パターン領域2)であったとしても、アイシールド4の一部にラインマーカー領域3が含まれていれば、当該ラインマーカー領域3の存在によりアイシールド4の枚葉品の視認性を大幅に向上することができる。
【0197】
これにより、ユーザは、大半が透明なアイシールド4の枚葉品を、ラインマーカー領域3を手掛かりとして容易に視認することができ、アイシールド4の枚葉品のハンドリング性が向上する。例えば、ユーザが、アイシールド4の枚葉品を持ち運んだり、着脱したりするとき、アイシールド4を容易に視認してハンドリングすることができる。また、アイシールド4の枚葉品を床に落とした場合でもあって、容易に見つけることができる。
【0198】
このように、本実施形態によれば、光学フィルム1を成形して得られるアイシールド4等の枚葉品において、透明な領域が大半を占める場合であっても、その一部に視認可能なラインマーカー領域3が形成されているので、ユーザによるアイシールド4等の製品のハンドリング性が大幅に向上する。
【0199】
なお、図14では、アイシールド4の片側端部にラインマーカー領域3を含める例について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。アイシールド4等のフィルム製品の一部にラインマーカー領域3が存在しさえすれば、フィルム製品のうちラインマーカー領域3が存在する位置、向き、範囲、数等は、特に限定されない。
【0200】
[7.2.ロール原盤の欠陥管理]
次に、図15を参照して、ロール原盤100のロール周方向位置を表すマーカー106を用いて、ロール原盤100の欠陥107を管理する方法について説明する。図15は、本実施形態に係る光学フィルム1の欠陥7、ロール原盤100の欠陥107と、マーカー6、106を示す説明図である。
【0201】
上述したように、本実施形態に係る光学フィルム1の製造方法では、ロール・ツー・ロール方式により、ロール原盤100の外周面に形成された凹凸パターン(凹凸パターン領域2の微細凹凸構造120)を光学フィルム1の樹脂層12に連続的に転写する。この転写工程では、図15に示すように、何らかの原因により、ロール原盤100の外周面の凹凸パターン上に欠陥107が発生することがある。その欠陥107がロール原盤100から光学フィルム1に転写されると、光学フィルム1の表面上にも、欠陥107に対応する欠陥7が周期的に発生する。このため、光学フィルム1の性能、品質の劣化や、歩留まりの低下を招くこととなる。
【0202】
そこで、ロール・ツー・ロール方式の転写方法では、光学フィルム1の生産性や品質を向上させるために、ロール原盤100の欠陥管理が重要である。ここで、ロール原盤100の凹凸パターン(凹凸パターン領域2の微細凹凸構造120)の欠陥107を管理するためには、ロール原盤100の外周面のうち凹凸パターン領域2以外の領域に、マーカー106が設けられていることが望ましい。さらに、光学フィルム1に周期的に生じる欠陥7(以下、「周期欠陥7」という。)の位置から、ロール原盤100の欠陥107の位置を特定するためには、ロール原盤100の外周面にマーカー106が刻印されており、このマーカー106を光学フィルム1に転写することが好ましい。
【0203】
そこで、本実施形態では、図15に示すように、ロール原盤100のラインマーカー領域103に、マーカー106を設ける。マーカー106は、ロール原盤100のロール周方向の基準位置を表す識別情報(目印)である。図15の例のマーカー106は、ラインマーカー領域103に刻印される円形の目印で構成されているが、ロール周方向の基準位置を表す目印となるものであれば、マーカー106の形状は問わない。
【0204】
ロール原盤100のラインマーカー領域103にマーカー106を設けることにより、光学フィルム1のラインマーカー領域3には、マーカー106の反転形状を有するマーカー6が周期的に転写される。光学フィルム1の長手方向におけるマーカー6の周期(ピッチ)は、ロール原盤100の周長である。
【0205】
このように、光学フィルム1のラインマーカー領域3にマーカー6があれば、光学フィルム1の凹凸パターン領域2上の周期欠陥7の座標位置(マーカー6から欠陥7までの距離)に基づいて、ロール原盤100の外周面における欠陥107の位置(ロール周方向の位置)を容易に特定することができる。この際、ロール原盤100の外周面における欠陥107が微小であり、肉眼で発見しにくいものであったとしても、光学フィルム1の周期欠陥7の座標位置の情報があれば、ロール原盤100の外周面上の微小な欠陥107の位置を特定可能になる。ロール原盤100の欠陥107の位置が特定できれば、当該欠陥107を修復して、光学フィルム1の品質を回復することができ、不良品の発生を抑えて生産性を向上することができる。
【0206】
以上のように、本実施形態によれば、光学フィルム1に周期性を有する欠陥7が発生した場合、マーカー6を基準とした欠陥7の座標位置から、ロール原盤100自体の欠陥107の位置を特定でき、その欠陥対策をスピーディーに実行できる。よって、欠陥管理、欠陥対策を有効に実行できる。
【0207】
また、上記とは逆に、ロール原盤100の外周面における欠陥107の座標位置(ロール周方向の位置)から、光学フィルム1上の周期欠陥7の位置(マーカー6から欠陥7までの距離)を特定することもできる。光学フィルム1上の周期欠陥7の位置が分れば、当該周期欠陥7の位置を避けて、光学フィルム1の打ち抜き加工位置を指定することによって、周期欠陥7が含まれない高品質のフィルム製品を成形することが可能になる。
【0208】
[7.3.抜き文字によるトレーサビリティ管理]
次に、図16を参照して、マーカー、文字、記号等の識別情報を抜き文字でラインマーカー領域3に表示して、光学フィルム1のトレーサビリティ管理に利用する応用例について説明する。図16は、本実施形態に係る光学フィルム1のラインマーカー領域3に形成されたマーカー8、抜き文字9を示す平面図である。
【0209】
図16に示すように、光学フィルム1のラインマーカー領域3内に、例えば、円形のマーカー8と、アルファベットの文字からなる抜き文字9が形成されている。これらのマーカー8、抜き文字9は、ラインマーカー領域3内において凸条部31が形成されていない部分(白抜き部分)によって、視認可能に表示されている。
【0210】
図16の例のラインマーカー領域3では、複数の凸条部31は、ラインマーカー領域3の長手方向に沿って断続的に形成されている。凸条部31が形成されている部分は、上述した回折格子として機能して、虹色に光る視認可能領域となる。一方、凸条部31が形成されていない部分は、回折格子として機能せず、虹色に光らないが、その周囲の虹色に光る領域(凸条部31が形成されている部分)とのコントラストで、抜き文字として表示される。このようにして、ラインマーカー領域3内において凸条部31の形成の有無によって、マーカー8、抜き文字9、その他の任意の記号等の識別情報を視認可能に表示することができる。
【0211】
このように、光学フィルム1のラインマーカー領域3内において、凸条部31の形成の有無のパターンによって、マーカー8、抜き文字9等を表示するためには、当該パターンに対応する転写パターンを、ロール原盤100のラインマーカー領域103に形成する必要がある。このため、ロール原盤100のラインマーカー領域103でも、上記螺旋状の溝131を断続的に形成することによって、当該溝131が形成されていない部分(白抜き部分)によって、上記マーカー8、抜き文字9等の識別情報を表示する。
【0212】
そこで、上述したロール原盤100の製造方法の露光工程(S12)において、マーカー8、抜き文字9等の識別情報のパターンに合わせて、レーザ光の照射のオン/オフを制御して、当該識別情報に対応する露光パターンを原盤基材110のレジスト層111に形成する。これにより、ロール原盤100のラインマーカー領域103において、溝131の形成の有無によって、マーカー8、抜き文字9等の識別情報を表す転写パターンを形成することができる。そして、当該識別情報を表す転写パターンを、ロール原盤100のラインマーカー領域103から光学フィルム1のラインマーカー領域3に転写する。これにより、光学フィルム1のラインマーカー領域3内で、図16に示すマーカー8、抜き文字9等の識別情報を表示することができる。
【0213】
以上のように、本実施形態によれば、マーカー8、抜き文字9、その他の記号等を含む識別情報を、光学フィルム1のラインマーカー領域3に表示する。これによって、光学フィルム1、ロール原盤100等に関する様々な識別情報を提供することができる。
【0214】
例えば、図16に示す円形のマーカー8は、光学フィルム1の製造に用いられたロール原盤100のロール周方向の基準位置を表す目印として利用できる。ロール原盤100のロール周方向の基準位置を表すマーカー8を表示することにより、上記図15を用いて説明したように、ロール原盤100や光学フィルム1の欠陥管理、欠陥対策を好適に実行できる。
【0215】
また、図16に示すアルファベットの抜き文字9は、例えば、光学フィルム1の製造時のロット番号を表す文字または記号であってよい。抜き文字9によりロット番号を表示することにより、光学フィルム1の製造ロットや、光学フィルム1の製造に用いられたロール原盤100を特定するための識別情報を、作業員に提供できる。
【0216】
したがって、光学フィルム1に欠陥7が生じた場合に、その光学フィルム1の製造ロットやロール原盤100を特定することができる。よって、これらの識別情報により、信頼性の高いトレーサビリティ管理や欠陥管理を容易かつ好適に実現できる。
【0217】
さらに、ロール原盤100のラインマーカー領域103および光学フィルム1のラインマーカー領域3は、帯状に長いので、当該ラインマーカー領域103、3に、ロット番号などの長い文字数の識別情報を、抜き文字で刻印、表示することができる。これにより、詳細な識別情報を表示可能になるので、より詳細なトレーサビリティ管理を実現できる。
【0218】
[8.まとめ]
以上、本実施形態に係る光学フィルム1とその製造方法、および当該製造方法に用いられるロール原盤100等について詳細に説明した。
【0219】
本実施形態に係る光学フィルム1によれば、フィルム幅方向の両端部に、フィルム長手方向に延びる帯状のラインマーカー領域3を設ける。そして、当該ラインマーカー領域3に複数の凸条部31を形成する。この複数の凸条部31は、可視光の波長以上のマイクロメートルサイズのトラックピッチPで相互に間隔を空けて配列される。これにより、ラインマーカー領域3の複数の凸条部31が回折格子として機能するので、ラインマーカー領域3に入射する光が凸条部31により回折および干渉して、波長ごとに分光される。この結果、ラインマーカー領域3から虹色の拡散光が出射されるため、ラインマーカー領域3は視認可能領域となる。虹色に光るラインマーカー領域3は、透明な凹凸パターン領域2よりも、肉眼による視認性が高い。
【0220】
したがって、光学フィルム1を用いた光学フィルム製品(例えば、アイシールド、フェイスシールド等)のユーザは、光学フィルム1のうち透明な凹凸パターン領域2を視認しにくい場合であっても、虹色に光るラインマーカー領域3を容易に視認可能である。よって、ユーザが透明な光学フィルム製品をハンドリングする際の視認性を向上できる。
【0221】
また、転写物である光学フィルム1を生産工程でハンドリングする際に、作業者は、透明な光学フィルム1のうち虹色に光るラインマーカー領域3を視認可能であるので、作業性が向上する。さらに、透明なロール原盤100にもラインマーカー領域103が形成されているので、同様な原理により、透明なロール原盤100の視認性も向上し、ロール原盤100を扱う作業性の向上を図ることもできる。
【0222】
さらに、本実施形態に係る光学フィルム1の製造方法によれば、図11に示す転写工程(S24)において、ロール原盤100の外周面に形成された凹凸パターン領域102とラインマーカー領域103の転写パターンを、フィルムの基材11上の樹脂層12Aの表面に同時に転写することにより、光学フィルム1が製造される。これにより、光学フィルム1の表面に、凹凸パターン領域2(反射防止領域)とラインマーカー領域3(視認可能領域)を同一の加工工程で容易に形成可能である。さらに、光学フィルム1の基材11の表面に積層された同一の樹脂層12に、凹凸パターン領域2の微細凹凸構造20およびラインマーカー領域3の凸条部31の双方を一体形成できる。よって、光学フィルム1を効率よく量産できる。
【0223】
また、光学フィルム1のラインマーカー領域3を、凹凸パターン領域2を形成するための転写工程とは別の追加工程(例えば、別の印刷工程等)で製造する場合には、その追加工程によって新たな欠陥を凹凸パターン領域2に発生させる恐れがある。しかし、本実施形態に係る光学フィルム1の製造方法によれば、凹凸パターン領域2とラインマーカー領域3を同一の工程で同時に一体形成するので、工程追加の必要がなく、新たな欠陥の発生を引き起こすことがない。
【0224】
また、本実施形態によれば、ロール原盤100のロール幅方向の両端部に、ロール原盤100の全周に渡って視認性の高いラインマーカー領域103、103が存在する。このため、ロール・ツー・ロール方式の転写工程(S24)において、ロール原盤100の外周面に押し付けられる透明な基材11に、透明な硬化性樹脂等の転写材料を塗布するときに、ロール幅方向の両端部のラインマーカー領域103、103を基準として、その塗布幅を好適に制御することができる。
【0225】
また、本実施形態によれば、全周に渡ってラインマーカー領域103が存在するロール原盤100を用いて、帯状の光学フィルム1を製造する。これにより、帯状の光学フィルム1の長手方向の全体に渡って、視認性の高いラインマーカー領域3が帯状に形成される。このため、図14に示したように、帯状の光学フィルム1からアイシールド4等の光学フィルム製品を打ち抜き加工したときに、光学フィルム製品に、透明な凹凸パターン領域2に加えて、視認性の高いラインマーカー領域3を含めることが可能となる。よって、アイシールド4等の光学フィルム製品の視認性を向上できるので、当該光学フィルム製品のハンドリング性も向上できる。
【0226】
また、本実施形態によれば、図15に示したように、光学フィルム1に周期性を有する欠陥7が発生したときに、ラインマーカー領域3に転写されたマーカー6を基準として、欠陥7の座標位置を特定できる。これにより、当該光学フィルム1を製造したロール原盤100自体の欠陥107の位置を特定できるので、当該欠陥107の対策を迅速に実行できる。したがって、ロール原盤100の欠陥管理を高精度で実施できるとともに、ロール原盤100により製造される光学フィルム1の生産性と品質を向上できる。
【0227】
また、本実施形態によれば、図16に示したように、光学フィルム1のラインマーカー領域3に、光学フィルム1の製造やロール原盤100に関する識別情報(例えば、ロット番号等の文字列)を、マーカー8や抜き文字9等で表示することができる。これにより、光学フィルム1のトレーサビリティ管理や、欠陥管理を高精度かつ容易に実施できる。
【0228】
また、本実施形態に係るロール原盤100の製造方法によれば、凹凸パターン領域102とラインマーカー領域103を同時にエッチングする。これにより、ロール原盤100の外周面において、凹凸パターン領域102の凹部121の深さH’と、ラインマーカー領域103の螺旋状の溝131の深さh’が実質的に同一となる。この結果、ロール原盤100の凹凸パターンが転写された光学フィルム1の表面においても、凹凸パターン領域2の凸部21の高さHと、ラインマーカー領域3の凸条部31の高さhが実質的に同一となる。よって、光学フィルム1をフィルムロール状に巻回したときに、巻き歪み等の不具合が生じにくい。
【0229】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0230】
1 光学フィルム
2 凹凸パターン領域
3 ラインマーカー領域
4 アイシールド
5 転写装置
6 マーカー
7 欠陥
8 マーカー
9 抜き文字
11 基材
12 樹脂層
12A 未硬化の樹脂層
20 微細凹凸構造
21 凸部
22 凹部
31 凸条部
32 平坦部
100 ロール原盤
102 凹凸パターン領域
103 ラインマーカー領域
110 原盤基材
111 レジスト層
112 潜像
113A、113B 開口部
120 微細凹凸構造
121 凹部
122 凸部
131 螺旋状の溝
200 露光装置
201 レーザ光源
202 レーザ光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16