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特開2022-56741多孔質金属の製造方法および多孔質金属
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056741
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】多孔質金属の製造方法および多孔質金属
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/06 20060101AFI20220404BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C01B33/06
C22C1/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020164656
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 庸介
(72)【発明者】
【氏名】佐山 明
(72)【発明者】
【氏名】和田 武
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀実
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA20
4G072AA22
4G072BB15
4G072GG03
4G072HH02
4G072JJ07
4G072MM23
4G072MM31
4G072MM38
4G072MM40
4G072RR13
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】非多孔質性金属の形成を確実に抑制することができる多孔質金属の製造方法および多孔質金属を提供する。
【解決手段】前駆部材が、金属から成る第1成分と第1成分以外の第2成分とを含む化合物、合金または非平衡合金から成る。第3成分が、第1成分および第2成分に対してそれぞれ正および負の混合熱を有し、前駆部材の融点よりも低い凝固点を有する。第4成分が、第1成分、第2成分および第3成分に対してそれぞれ負、正および正の混合熱を有する。第3成分を溶融して、前駆部材から第2成分が減少して第1成分に至るまでの組成変動範囲内における液相線温度の最小値よりも低い温度に制御された溶融金属に、第4成分を添加すると共に前駆部材を接触させることにより、第2成分を選択的に溶融金属に溶出させて、微小間隙を有する多孔質金属を得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属から成る第1成分と前記第1成分以外の第2成分とを含む化合物、合金または非平衡合金から成る前駆部材を、第3成分を溶融して、前記前駆部材から前記第2成分が減少して前記第1成分に至るまでの組成変動範囲内における液相線温度の最小値よりも低い温度に制御された溶融金属に接触させることにより、前記第2成分を選択的に前記溶融金属に溶出させて、微小間隙を有する多孔質金属を得ると共に、前記溶融金属に第4成分を添加することにより、前記溶融金属に溶出した前記第1成分の再結晶化による非多孔性金属の形成を抑制することを特徴とし、
前記第3成分は、前記第1成分および前記第2成分に対してそれぞれ正および負の混合熱を有し、前記前駆部材の融点よりも低い凝固点を有し、
前記第4成分は、前記第1成分、前記第2成分および前記第3成分に対してそれぞれ負、正および正の混合熱を有していることを
特徴とする多孔質金属の製造方法。
【請求項2】
前記第4成分は、前記第1成分と反応して化合物または合金を形成可能、かつ、前記第2成分とは化合物および合金を形成しないことを特徴とする請求項1記載の多孔質金属の製造方法。
【請求項3】
前記溶融金属に溶出した前記第1成分と前記第4成分とが反応して化合物または合金が形成されることを特徴とする請求項1または2記載の多孔質金属の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質金属を前記第2成分が溶出した固化前の前記溶融金属から分離して回収し、前記第1成分と前記第4成分とが反応して形成された化合物との複合材料を得ることを特徴とする請求項3記載の多孔質金属の製造方法。
【請求項5】
前記第1成分はSiから成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多孔質金属の製造方法。
【請求項6】
前記第2成分はMgから成り、
前記第3成分はBi、Sn、Pb、およびInのうちの少なくともいずれか1つの元素を含み、
前記第4成分は、Cr、Fe、Nb、Mo、Ta、およびReのうち少なくともいずれか1つの元素を含むことを、
特徴とする請求項5記載の多孔質金属の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の多孔質金属の製造方法により製造された多孔質金属であって、
バインダーと混練した後、基材上に塗布して乾燥させた評価試料の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により10000倍で観察したとき、1列が85μm×11.8μmの視野を5列観察した中に存在する前記第1成分のみから成る非多孔質性金属の個数が、5個より少ないことを
特徴とする多孔質金属。
【請求項8】
前記第1成分と前記第4成分とが反応して形成された化合物との複合材料であることを特徴とする請求項7記載の多孔質金属。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質金属の製造方法および多孔質金属に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面または全体に微小気孔を有する多孔質の金属部材を製造する方法として、いわゆる金属溶湯脱成分法が本発明者等により開発されている(例えば、特許文献1参照)。この金属溶湯脱成分法は、第1の成分に対してそれぞれ負および正の混合熱を有する第2の成分および第3の成分を選択し、第1の成分および第2の成分を同時に含有し、かつ、第3の成分から成る金属浴の凝固点よりも高い融点を有する化合物、合金または非平衡合金から成る金属材料を、この金属材料から第2の成分が減少し、第1の成分に至るまでの組成変動範囲内における液相線温度の最小値よりも低い温度に制御された金属浴に浸すことにより、第2の成分を選択的に金属浴内に溶出させて、微小間隙を有する金属部材を得るものである。
【0003】
この金属溶湯脱成分法を利用して、さまざまな多孔質金属が製造されており、例えば、第1の成分をシリコンとし、第2の成分および第3の成分を適宜選択することにより、多孔質シリコンが製造されている(例えば、特許文献2または3参照)。しかし、金属溶湯脱成分法を利用して多孔質金属を製造する際には、何らかのメカニズムで金属浴中に多孔質金属を構成する金属成分が溶出してしまい、これが晶出してファセット状等の非多孔質性金属が形成されてしまうという問題があった。ここで、ファセット状等の非多孔質性金属とは、空隙を含まず、表面が平らな面で囲まれた粒子である。
【0004】
この問題を解決するために、多孔質シリコンを製造する際、酸素との親和力が強い元素を、予め金属浴に添加する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法は、金属浴に溶出したシリコンが、金属浴中の溶存酸素と反応してシリカを形成し、これを核としてシリコンがファセット状に成長するとの考えに基づくものであり、酸素との親和力が強い元素を金属浴に添加しておくことにより、シリコンと溶存酸素との反応を抑えて、ファセット状シリコンの形成を抑制しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO2011/092909号
【特許文献2】国際公開第WO2017/141598号
【特許文献3】特許第5830419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ファセット状等の非多孔質性金属の生成メカニズムはまだ解明されていないにもかかわらず、特許文献3に記載のファセット状シリコンの形成を抑制する方法では、第1成分と溶存酸素との反応からファセット状シリコンが形成されるとの仮定に基づいており、実際に検証もされていないため、その効果は不明であるという課題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、非多孔質性金属の形成を確実に抑制することができる多孔質金属の製造方法および多孔質金属を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る多孔質金属の製造方法は、金属から成る第1成分と前記第1成分以外の第2成分とを含む化合物、合金または非平衡合金から成る前駆部材を、第3成分を溶融して、前記前駆部材から前記第2成分が減少して前記第1成分に至るまでの組成変動範囲内における液相線温度の最小値よりも低い温度に制御された溶融金属に接触させることにより、前記第2成分を選択的に前記溶融金属に溶出させて、微小間隙を有する多孔質金属を得ると共に、前記溶融金属に第4成分を添加することにより、前記溶融金属に溶出した前記第1成分の再結晶化による非多孔性金属の形成を抑制することを特徴とし、前記第3成分は、前記第1成分および前記第2成分に対してそれぞれ正および負の混合熱を有し、前記前駆部材の融点よりも低い凝固点を有し、前記第4成分は、前記第1成分、前記第2成分および前記第3成分に対してそれぞれ負、正および正の混合熱を有していることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る多孔質金属の製造方法は、いわゆる金属溶湯脱成分法を利用して、金属から成る第1成分と第1成分以外の第2成分とを含む前駆部材から、第2成分を選択的に溶融金属に溶出させることにより、残存した第1成分同士が再配列を繰り返し、微小間隙を有する多孔質金属を製造することができる。このとき、第1成分、第2成分および第3成分に対してそれぞれ負、正および正の混合熱を有する第4成分を、溶融金属に添加することにより、溶融金属に溶出した第1成分と第4成分とを反応固化させて、それらの化合物または合金等を晶出させることができる。これにより、溶融金属に溶出した第1成分が溶融金属成分から取り除かれるため、第1成分のみから成るファセット状等の非多孔質性金属が形成されるのを防ぐことができる。このように、本発明に係る多孔質金属の製造方法は、溶融金属に溶出した第1成分を直接、第4成分と反応させるため、非多孔質性金属の形成を確実に抑制することができる。
【0010】
本発明に係る多孔質金属の製造方法は、第2成分を溶融金属に溶出可能であれば、いかなる方法で、第1成分と第2成分とを含む前駆部材を溶融金属に接触させてもよい。例えば、前駆部材を溶融金属から成る金属浴に浸すことにより、第2成分を選択的に金属浴内に溶出させて、多孔質金属を得てもよい。また、第3成分から成る固体金属を、あらかじめ前駆部材に接触するよう配置しておき、その固体金属を加熱して溶融金属にすることにより、第2成分を選択的に溶融金属に溶出させて、多孔質金属を得てもよい。
【0011】
本発明に係る多孔質金属の製造方法は、溶融金属に第4成分を添加した後、前駆部材を溶融金属に接触させることが好ましいが、前駆部材を溶融金属に接触させた後、溶融金属に第4成分を添加してもよく、溶融金属に第4成分を添加するのと同時に、前駆部材を溶融金属に接触させてもよい。
【0012】
本発明に係る多孔質金属の製造方法で、前記第4成分は、前記第1成分と反応して化合物または合金を形成可能、かつ、前記第2成分とは化合物および合金を形成しないことが好ましい。これにより、第4成分を、溶融金属に溶出した第1成分のみと反応させることができ、非多孔質性金属形成の抑制効果を高めることができる。また、非多孔質性金属形成の抑制効果をさらに高めるために、第4成分は、第3成分とも化合物および合金を形成しないことが好ましい。
【0013】
本発明に係る多孔質金属の製造方法は、第2成分が溶出した溶融金属を固化させて、溶融金属が固化したものと、多孔質金属と、第1成分と第4成分との化合物や合金との複合材料を得てもよい。また、第2成分が溶出した固化前の溶融金属のみを分離し、多孔質金属と、第1成分と第4成分との化合物や合金との複合材料を得てもよい。また、第1成分と第4成分との化合物や合金を分離し、多孔質金属と、溶融金属が固化したものとの複合材料を得てもよい。また、多孔質金属を、第2成分が溶出した溶融金属、および、第1成分と第4成分との化合物や合金から分離して回収してもよい。
【0014】
本発明に係る多孔質金属の製造方法で、前記第1成分は、例えばSiから成っている。この場合、第4成分を、溶融金属に添加することにより、溶融金属に溶出したSiと第4成分とを反応させてシリサイドを形成することができ、溶出したSi成分が再結晶化したシリコンのみから成るファセット状等の非多孔質性金属(非多孔質性シリコン)が形成されるのを防ぐことができる。また、この場合、前記第2成分はMgから成り、前記第3成分はBi、Sn、Pb、およびInのうちの少なくともいずれか1つの元素を含み、前記第4成分は、Cr、Fe、Nb、Mo、Ta、およびReのうち少なくともいずれか1つの元素を含んでいることが好ましい。なお、シリコン(Si)は、一般的に非金属に分類されるが、本発明では、金属に含めることとする。
【0015】
本発明に係る多孔質金属は、本発明に係る多孔質金属の製造方法により製造された多孔質金属であって、バインダーと混練した後、基材上に塗布して乾燥させた評価試料の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により10000倍で観察したとき、1列が85μm×11.8μmの視野を5列観察した中に存在する前記第1成分のみから成る非多孔質性金属の個数が、5個より少ないことを特徴とする。
【0016】
このとき、SEMにより観察する評価試料として、多孔質金属とバインダーとを、重量比で、97:3の配合比で混ぜ、1000rpm以上で混錬してスラリー状にした後、ガラス等の平滑な基材上に塗布して乾燥させたものを使用することが好ましい。
【0017】
本発明に係る多孔質金属は、本発明に係る多孔質金属の製造方法により製造されるため、非多孔質性金属の形成が抑制されている。本発明に係る多孔質金属は、上記の条件で観察される非多孔質性金属の個数が0個であることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、非多孔質性金属の形成を確実に抑制することができる多孔質金属の製造方法および多孔質金属を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態の多孔質金属の製造方法の、第1成分をSi、第2成分をMg、第3成分をBi、第4成分をFeとしたときの工程を示す側面図である。
図2】本発明の実施の形態の多孔質金属の製造方法により、第1成分をSi、第2成分をMg、第3成分をBi、第4成分をFeとしたときに製造された多孔質シリコンとBiとの複合物質から、Biを除去した多孔質シリコンの(a)SEM写真、(b) (a)の一部を拡大したSEM写真、(c) (b)の一部を拡大したSEM写真、(d) (a)のエネルギー分散型X線分析(EDS)によるSi、(e)Feの元素マップである。
図3図2に示す多孔質シリコンの(a)シリサイド部分のSEM写真、(b) (a)の一部を拡大したSEM写真、(c) (b)の一部を拡大したSEM写真、(d) (a)のEDSによるSi、(e)Feの元素マップである。
図4】本発明の実施の形態の多孔質金属の製造方法に関し、非多孔質性シリコンの個数をカウントする観察視野を説明するための、第1成分をSi、第2成分をMg、第3成分をBi、第4成分をFeとしたとき、第1~第4成分のいずれかを含む複合部材から得られた多孔質シリコンの評価試料のSEM写真である。
図5】本発明の実施の形態の多孔質金属の製造方法に関し、第1成分をSi、第2成分をMg、第3成分をBiとし、第4成分を含まないときに製造された複合部材から得られた多孔質シリコンの評価試料の、各観察視野でのSEM写真および非多孔質性シリコンの個数である。
図6図2に示す、複合部材から得られた多孔質シリコンの評価試料の、各観察視野でのSEM写真および非多孔質性シリコンの個数である。
図7】本発明の実施の形態の多孔質金属の製造方法により、第1成分をSi、第2成分をMg、第3成分をBi、第4成分をCrとしたときに製造された複合部材から得られた多孔質シリコンの評価試料の、各観察視野でのSEM写真および非多孔質性シリコンの個数である。
図8】本発明の実施の形態の多孔質金属の製造方法に関し、第1成分をSi、第2成分をMg、第3成分をBi、第4成分をCuとしたときに製造された複合部材から得られた多孔質シリコンの評価試料の、各観察視野でのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面および実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の多孔質金属の製造方法は、まず、第1成分と第2成分とを含む前駆部材と、第3成分と、第4成分とを準備する。第1成分は金属元素から成り、第2成分は第1成分以外の元素から成っている。前駆部材は、その第1成分と第2成分とを含む化合物、合金または非平衡合金から成っている。
【0021】
第3成分は、第1成分および第2成分に対してそれぞれ正および負の混合熱を有し、前駆部材の融点よりも低い凝固点を有している。第4成分は、第1成分、第2成分および第3成分に対してそれぞれ負、正および正の混合熱を有している。なお、第4成分は、第1成分と反応固化して化合物または合金を形成可能、かつ、第2成分とは化合物および合金を形成しないことが好ましい。また、第4成分は、第3成分とも化合物および合金を形成しないことが好ましい。図1に示す具体的な一例では、第1成分をSi、第2成分をMg、第3成分をBi、第4成分をFeとしている。
【0022】
次に、第3成分を溶融し、前駆部材から第2成分が減少して第1成分に至るまでの組成変動範囲内における液相線温度の最小値よりも低い温度に制御する。こうして温度制御された第3成分から成る溶融金属に、第4成分を添加すると共に前駆部材を接触させる。このとき、溶融金属に第4成分を添加した後、前駆部材を溶融金属に接触させてもよく、前駆部材を溶融金属に接触させた後、溶融金属に第4成分を添加してもよく、溶融金属に第4成分を添加するのと同時に、前駆部材を溶融金属に接触させてもよい。また、前駆部材を溶融金属に接触させる方法としては、例えば、前駆部材を溶融金属から成る金属浴に浸してもよく、第3成分から成る固体金属を、あらかじめ前駆部材に接触するよう配置しておき、その固体金属を加熱して溶融金属にすることにより、前駆部材を溶融金属に接触させてもよい。
【0023】
溶融金属に前駆部材を接触させることにより、第2成分を選択的に溶融金属に溶出させることができる。これにより、残存した第1成分同士が再配列を繰り返し、微小間隙を有する多孔質金属を製造することができる。図1に示す具体的な一例では、図1(a)に示すように、第1成分と第2成分とから成る前駆合金のMg-Si合金を、第3成分のBiから成る溶湯に浸漬させる。これにより、第2成分のMgを選択的にBi溶湯に溶出させて、多孔質シリコンを製造することができる。
【0024】
また、図1(b)に示すように、Bi溶湯に、第4成分のFeを添加する。これにより、図1(c)に示すように、僅かに溶融金属に溶出した第1成分のSiと第4成分のFeとを反応固化させて、図1(d)に示すように、それらの化合物または合金等から成るFeのシリサイドを晶出させることができる。これにより、溶融金属に溶出したSiが溶融金属成分から取り除かれるため、Si成分が再結晶化した、Siのみから成る非多孔質性シリコンが形成されるのを防ぐことができる。
【0025】
多孔質金属を製造した後は、必要に応じて、例えば、第2成分が溶出した溶融金属を固化させて、溶融金属が固化したものと、多孔質金属と、第1成分と第4成分との化合物や合金との複合材料を得てもよい。また、第2成分が溶出した固化前の溶融金属のみを分離し、多孔質金属と、第1成分と第4成分との化合物や合金との複合材料を得てもよい。また、第1成分と第4成分との化合物や合金を分離し、多孔質金属と、溶融金属が固化したものとの複合材料を得てもよい。また、多孔質金属を、第2成分が溶出した溶融金属、および、第1成分と第4成分との化合物や合金と分離して回収してもよい。図1に示す具体的な一例では、図1(e)に示すように、Bi溶湯やFeのシリサイドから多孔質シリコンを分離するために、固化したBiを含有する多孔質シリコンとFeのシリサイドとを回収している。回収後、含有するBiを酸処理にて除去すると共に、Feのシリサイドを、遠心分離や磁気分離により多孔質シリコンから分離することができると考えられる。
【0026】
なお、図1に示す具体的な一例では、第3成分は、Biに限らず、Sn、Pb、またはInであってもよい。また、第4成分は、Feに限らず、Cr、Fe、Nb、Mo、Ta、またはReであってもよい。
【0027】
このように、本発明の実施の形態の多孔質金属の製造方法は、いわゆる金属溶湯脱成分法を利用することにより、多孔質金属を製造することができる。また、第4成分を溶融金属に添加することにより、溶融金属に溶出した第1成分を直接、第4成分と反応させるため、第1成分のみから成る非多孔質性金属の形成を確実に抑制することができる。
【実施例0028】
第1成分をSi、第2成分をMg、第3成分をBi、第4成分をFeとし、本発明の実施の形態の多孔質金属の製造方法を用いて、多孔質シリコンを製造した。まず、500℃に保持したBiから成る溶湯に、前駆合金としてMgSi(Mg:72at%、Si:28at%)を浸漬し、さらに3~5μmの球状の鉄粒子を、重量比でSi:Fe=1:3の割合になるよう添加した。Bi溶湯をインペラにより200rpmで撹拌しながら、前駆合金を30分間浸漬させた。これにより、一部がBi中に溶出したSiとFeとを反応させると同時に、Mgを選択的にBi溶湯に溶出させて、微小間隙を有する多孔質シリコンが得られた。
【0029】
次に、Bi溶湯を冷却して固化させ、固化したBi成分を除去するために、多孔質シリコンとBiとの複合物質を硝酸水溶液中に6時間浸漬した後、洗浄および乾燥を行った。このときのSEM写真およびEDSによる元素分析結果を、図2に示す。また、図2(a)中の点の位置での元素分析結果を、表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
図2(a)~(c)に示すように、多孔質シリコンが得られていることが確認された。また、図2(d)および(e)に示すように、EDSの元素マップでは、多孔質シリコンにはFeは検出されなかったが、表1に示すように、EDSの点分析では、多孔質シリコンの微少間隙にFeが検出されており、Feのシリサイドが僅かに残留していることが確認された。また、鉄粒子は確認されず、硝酸処理により、Biと共に除去されたものと考えられる。また、非多孔質性シリコンも確認されなかった。
【0032】
硝酸処理後に残留しているシリサイドのSEM写真およびEDSによる元素分析結果を、図3に示す。また、図3(a)中の点の位置での元素分析結果を、表2に示す。図3および表2に示すように、Feのシリサイドには、多孔質構造は認められなかった。また、鉄粒子や非多孔質性シリコンも確認されなかった。
【0033】
【表2】
【実施例0034】
第1成分をSi、第2成分をMg、第3成分をBi、第4成分をCrとし、本発明の実施の形態の多孔質金属の製造方法を用いて、多孔質シリコンを製造した。実施例1と同様に、まず、500℃に保持したBiから成る溶湯に、Mg-Si合金を入れ、さらに150μm以下の粒子状のクロムを添加した。これにより、Mgを選択的にBi溶湯に溶出させて、微小間隙を有する多孔質シリコンが得られた。なお、Crは、FeよりもBi溶湯に溶解しやすい元素である。
【0035】
[Cu添加の比較例]
第1成分をSi、第2成分をMg、第3成分をBi、第4成分をCuとし、実施例1および2と同様にして多孔質シリコンを製造した。まず、500℃に保持したBiから成る溶湯に、Mg-Si合金を入れ、さらにφ2mm以下の粒子状のCuを添加した。これにより、Mgを選択的にBi溶湯に溶出させて、微小間隙を有する多孔質シリコンが得られた。なお、Cuは、Fe、CrよりもBiに溶解しやすく、SiやMgと反応して化合物や合金を形成しやすい元素である。
【0036】
第4成分を添加していないとき、第4成分がFe(実施例1)のとき、第4成分がCr(実施例2)のとき、第4成分がCu(比較例)のときに製造された非多孔質性シリコンの個数の比較を行った。非多孔質性シリコンの個数をカウントするために、回収した多孔質シリコンと、バインダーのカルボキシルメチルセルロース(CMC)とを容器に入れて混練した後、基材のガラス基板上に塗布して乾燥させ、評価試料を作製した。SiとCMCとの配合比は、重量比で97:3とし、混練は2000rpmで2分30秒とし、乾燥温度は110℃とした。
【0037】
作製した評価試料の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により10000倍で観察し、85μm×11.8μmの観察視野中に存在する非多孔質性シリコンの個数をカウントした。なお、観察視野を跨いでいる粒子については、0.5個としてカウントした。図4に示すように、観察視野を縦方向に連続して10視野観察し、各視野での非多孔質性シリコンの個数をカウントした。ただし、10000倍で多孔性の判別が難しい粒子が存在する場合は、さらに倍率を上げその粒子を確認することとした。また、この1列が10視野の観察を5列分行い、全部で50視野分の個数を、非多孔質性シリコンの個数とした。なお、図4は、第1成分をSi、第2成分をMg、第3成分をBi、第4成分をFeとしたとき、第1~第4成分のいずれかを含む複合部材から得られた多孔質シリコンの評価試料のSEM写真であり、図中の10個並んだ矩形枠のそれぞれが、10000倍での観察視野の範囲である。
【0038】
第4成分を添加していないとき、第4成分がFe(実施例1)、Cr(実施例2)、Cu(比較例)のときの、評価試料の1列分の観察結果を、それぞれ図5図8に示す。図5を含めて5列分の観察を行った結果、第4成分を添加していないときの非多孔質性シリコンの個数は、35.5個であった。また、図6を含めて5列分の観察を行った結果、第4成分がFe(実施例1)のときの非多孔質性シリコンの個数は、0個であった。また、同様にして、第4成分がCr(実施例2)のときの非多孔質性シリコンの個数は、0個であり、第4成分がCu(比較例)のときの非多孔質性シリコンの個数は、第4成分を添加していないときよりも非常に多くなった。
【0039】
これらの結果から、第4成分がFe(実施例1)のとき、および、第4成分がCr(実施例2)のとき、1列連続10視野を5列観察した中の非多孔質性シリコンの個数は、5個より少なく、第4成分を添加していないとき、および、第4成分がCu(比較例)のときの個数よりも、明らかに少なくなっていることが確認された。このように、本発明の実施の形態の多孔質金属の製造方法により製造された多孔質シリコンは、非多孔質性シリコンの形成が確実に抑制されているといえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8