(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056871
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】銅管、伝熱管、冷媒配管、空調機器及び冷凍機器
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20220404BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220404BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
C22C9/00
C22F1/00 612
C22F1/00 626
C22F1/00 630A
C22F1/00 604
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 640C
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691A
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/08 A
C22F1/00 651A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020164848
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】311014705
【氏名又は名称】NJT銅管株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤 聖健
(72)【発明者】
【氏名】讃岐 則義
(72)【発明者】
【氏名】河野 浩三
(57)【要約】
【解決課題】蟻の巣状腐食に対する耐食性に優れており、且つ、SCCに対する耐食性に優れる銅管を提供すること。
【解決手段】0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材からなり、
該銅材の結晶粒界におけるP濃度(P1)が、該銅材の結晶粒内のP濃度(P0)の5.0倍未満であること、
を特徴とする銅管。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材からなり、
該銅材の結晶粒界におけるP濃度(P1)が、該銅材の結晶粒内のP濃度(P0)の5.0倍未満であること、
を特徴とする銅管。
【請求項2】
湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされる銅管であることを特徴とする請求項1記載の銅管。
【請求項3】
請求項1又は2記載の銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の伝熱管用であることを特徴とする伝熱管。
【請求項4】
請求項1又は2記載の銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の冷媒配管用であることを特徴とする冷媒配管。
【請求項5】
請求項3記載の伝熱管を有することを特徴とする空調機器。
【請求項6】
請求項3記載の伝熱管を有することを特徴とする冷凍機器。
【請求項7】
請求項4記載の冷媒配管を有することを特徴とする空調機器。
【請求項8】
請求項4記載の冷媒配管を有することを特徴とする冷凍機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性の銅管に関し、特に、空調機器や冷凍機器における伝熱管、冷媒配管に好適に用いられる銅管であって、蟻の巣状腐食に対する耐食性及び応力腐食割れ(SCC)に対する耐食性のいずれも優れる銅管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空調機器の伝熱管や冷凍機器の冷媒配管(機内配管)等の管材には耐食性、ろう付け性、熱伝導性及び曲げ加工性等において優れた特徴を発揮する、りん(P)脱酸銅管(JIS-H3300-C1220T)が、主として用いられいる。
【0003】
そのような空調機器や冷凍機器に使用される管材であるりん脱酸銅管には、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する異常な腐食、いわゆる、蟻の巣状腐食が発生することがある。この蟻の巣状腐食は、蟻酸や酢酸等といった低級カルボン酸を腐食媒として、湿潤環境中で発生するとされている。また、1,1,1-トリクロロエタン等の塩素系有機溶剤や、ある種の潤滑油、ホルムアルデヒド等が存在する環境下においても、同様な腐食の発生が確認されている。
【0004】
特に、空調機器や冷凍機器における結露が惹起される管路として用いられた場合には、その発生が顕著となることが知られている。そして、そのような蟻の巣状腐食は、それが発生すると、腐食の進行速度が早く、短期間で銅管を貫通するまでに進行し、機器が使用出来なくなってしまうという問題を惹起することとなる。
【0005】
このため、特許文献1においては、P(りん)を0.05~1.0重量%の割合で含有し、残部がCu(銅)と不可避的不純物となるCu材質からなることを特徴とする高耐食性銅管が提案され、それにより、蟻の巣状腐食に対する耐食性が向上されるとが、明らかにされている。即ち、従来のりん脱酸銅からなる管材よりも、P含有量の大なる領域において、蟻の巣状腐食に対して、より一層の耐食性が向上される銅管を、実用的に有利に得ることが出来る事実が、指摘されている。
【0006】
また、特許文献2において、結晶粒度を0.005~0.050mmとすることで、さらに蟻の巣状腐食に対する耐食性を効果的に向上させることが明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/148127号
【特許文献2】国際公開第2018/061270号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1及び特許文献2の銅管では、アンモニア環境中で応力が作用した場合に、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking、以下SCC)を起こす場合があるという問題がある。
【0009】
そのため、蟻の巣状腐食に対する耐食性に優れ、且つ、SCCに対する耐食性に優れる銅管の開発が望まれている。
【0010】
従って、本発明の目的は、蟻の巣状腐食に対する耐食性に優れており、且つ、SCCに対する耐食性に優れる銅管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術背景の基、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、銅管の製造における最終熱処理条件を適性化することにより、この熱処理過程において、Pが結晶粒界に濃縮することを抑制することができ、そのことにより、SCC感受性を低くすることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明(1)は、0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材からなり、
該銅材の結晶粒界におけるP濃度(P1)が、該銅材の結晶粒内のP濃度(P0)の5.0倍未満であること、
を特徴とする銅管を提供するものである。
【0013】
また、本発明(2)は、湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされる銅管であることを特徴とする(1)の銅管を提供するものである。
【0014】
また、本発明(3)は、(1)又は(2)の銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の伝熱管用であることを特徴とする伝熱管を提供するものである。
【0015】
また、本発明(4)は、(1)又は(2)の銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の冷媒配管用であることを特徴とする冷媒配管を提供するものである。
【0016】
また、本発明(5)は、(3)の伝熱管を有することを特徴とする空調機器を提供するものである。
【0017】
また、本発明(6)は、(3)の伝熱管を有することを特徴とする冷凍機器を提供するものである。
【0018】
また、本発明(7)は、(4)の冷媒配管を有することを特徴とする空調機器を提供するものである。
【0019】
また、本発明(8)は、(4)の冷媒配管を有することを特徴とする冷凍機器を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、蟻の巣状腐食に対する耐食性に優れており、且つ、SCCに対する耐食性に優れる銅管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例において、蟻の巣状腐食試験を実施するための試験装置を示す図である。
【
図2】実施例において、応力腐食割れ試験を実施するための試験装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の銅管は、0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材からなり、
該銅材の結晶粒界におけるP濃度(P1)が、該銅材の結晶粒内のP濃度(P0)の5.0倍未満であること、
を特徴とする銅管である。
【0023】
本発明の銅管は、0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材からなる。つまり、本発明の銅管は、0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材により形成されている。
【0024】
本発明の銅管を形成する銅材中のP含有量は、0.10~1.0重量%、好ましくは、0.15~0.50重量%である。銅管を形成する銅材中のP含有量が上記範囲にあることにより、厳しい腐食環境下においても、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状の腐食が進行する選択的腐食形態の発生が、効果的に抑制又は阻止され、且つ、公知の耐食性銅管よりも更に優れた耐食性が、長期間に亘って有利に発揮され得る。一方、銅管を形成する銅材中のP含有量が、上記範囲未満だと、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状の腐食が進行し易くなる。また、銅管を形成する銅材中のP含有量が、上記範囲を超えても、蟻の巣状腐食に対する耐食性に殆ど変化がなく、銅管の製造に際して、加工性が低下して、割れ等の問題が起こり易くなる。
【0025】
本発明の銅管を形成する銅材の結晶粒界におけるP濃度(P1)は、銅材の結晶粒内のP濃度(P0)の5.0倍未満である。すなわち、本発明の銅管を形成する銅材では、「(P1/P0)<5.0」を満たす。銅管を形成する銅材の(P1/P0)が、上記範囲にあることにより、応力腐食割れに対する耐食性に優れる。一方、銅管を形成する銅材の(P1/P0)が、上記範囲を超えると、SCC感受性が高くなる。すなわち、銅管を形成する銅材の微量添加元素であるPが、結晶粒界に高濃度に偏析すると、アンモニア環境中で応力が作用した場合に、結晶粒界の腐食性が鋭敏化し、粒界を起点とする脆化が促進され、応力腐食割れが発生することがある。なお、本発明において、銅材の結晶粒界におけるP濃度(P1)及び銅材の結晶粒内のP濃度(P0)は、STEM(走査型透過電子顕微鏡)観察により再結晶粒界を識別して、EDS分析(エネルギー分散型X線分析)をすることにより分析される値であり、EDS分析により分析される結晶粒界近傍のP濃度をP1とし、結晶粒内のP濃度をP0とする。
【0026】
本発明の銅管の製造例について、以下に述べる。なお、以下に述べる本発明の銅管の製造例は、本発明の銅管を製造するための一例であって、本発明の銅管は、以下に示す方法によって製造されたものに限定されるものではない。
【0027】
本発明の銅管は、所定の化学組成の銅鋳塊を鋳造し、その後、種々の加工や熱処理を行うことにより製造されるが、本発明者らは、最終熱処理における熱処理条件を適性化することによって、Pが結晶粒界に濃縮することが抑制され、SCC感受性を低くすることが可能であることを見出した。
【0028】
本発明の銅管の製造方法は、少なくとも、鋳造工程と、熱間加工と、冷間圧延、冷間抽伸などの冷間加工と、最終熱処理と、を有し、且つ、最終熱処理の条件が以下に述べる条件であることを特徴とする銅管の製造方法である。ここで、最終熱処理とは、銅管を熱交換器等に組み付けるために曲げ等の加工を行うが、その加工性を良好とするために、銅管の加工工程の最終工程(その少し前工程)において、それまでの加工工程で蓄積された加工歪を開放させる目的で行う熱処理、いわゆる、焼鈍を指す。
【0029】
本発明の銅管の製造方法では、先ず、常法に従って、溶解及び鋳造を行い、0.10~1.0重量%、好ましくは0.15~0.50重量%のPを含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅鋳塊(ビレット)を得る鋳造工程を行う。
【0030】
次いで、本発明の銅管の製造方法では、銅鋳塊(ビレット)を加熱して、熱間加工を行い、次いで、冷間加工し、所望の形状に加工する。熱間加工は、一般的には熱間押出である。また、冷間加工としては、冷間圧延、冷間引抜、内面溝を形成させる転造加工が挙げられる。
【0031】
次いで、本発明の銅管の製造方法では、最後に、最終熱処理を行う。最終熱処理は、冷間加工により加工硬化した銅材を、還元性ガス雰囲気中で再結晶温度以上に加熱保持することで、材料強度と伸びをその後の加工に適するように調質する処理である。
【0032】
なお、本発明の銅管の製造方法では、冷間加工の前、冷間加工のパス間等に、適宜、熱処理(中間焼鈍)を行うことができる。
【0033】
最終熱処理の方法としては、例えば、気密構造の炉中にて、バーナー燃焼による輻射熱を撹拌扇で強制対流させながら材料への熱伝達により所定の温度まで加熱保持し、その後の冷却を、低温の雰囲気ガスを撹拌扇で強制対流させながら徐冷する方法や、その他に、高周波誘導加熱コイルを使用して材料に渦電流を発生させながら急速加熱を行った直後に水冷させる方法などがある。
【0034】
最終熱処理におけるピーク加熱温度は、400~700℃であることが好ましい。冷間加工により加工硬化した銅材の加工組織に対して、回復、再結晶を生ぜしめるために必要な温度範囲であり、保持時間と相乗して再結晶粒の大きさを制御する為の操作因子である。そして、最終熱処理では、銅材の結晶粒界におけるP濃度(P1)を、銅材の結晶粒内のP濃度(P0)の5.0倍未満とするため、すなわち、「(P1/P0)<5.0」とするために、ピーク加熱温度を400~700℃とし、且つ、昇温、保持及び冷却条件を以下の条件:
(1)25℃からピーク加熱温度までの平均昇温速度が200℃/秒以上、
(2)「ピーク加熱温度」から「ピーク加熱温度-100℃」までの温度域の保持時間が5秒以下、
(3)「ピーク加熱温度-100℃」の温度から25℃までの平均冷却速度が100℃/秒以上、
にする。最終熱処理でのピーク加熱温度、ピーク加熱温度までの平均昇温速度、「ピーク加熱温度」から「ピーク加熱温度-100℃」までの温度域の保持時間及び「ピーク加熱温度-100℃」の温度から25℃までの平均冷却速度を、上記範囲にすることにより、「(P1/P0)<5.0」とすることができる。なお、「ピーク加熱温度」とは、加熱過程で最も高い温度を指す。また、「ピーク加熱温度」から「ピーク加熱温度-100℃」までの温度域の保持時間とは、昇温により「ピーク加熱温度」に達してから、「ピーク加熱温度-100℃」の温度になるまでの時間を指す。また、「ピーク加熱温度-100℃」の温度から25℃までの平均冷却速度とは、冷却過程で、ピーク加熱温度より100℃低い温度に達した時点から、25℃になるまでの間の平均冷却速度を指す。
【0035】
本発明の銅管は、曲げ等の加工が行われ、空調機器又は冷凍機器の熱交換器等に組み込まれる。そして、本発明の銅管の製造方法では、得られる銅管、すなわち、本発明の銅管の加工性を良好とするために、最終熱処理を行う。
【0036】
本発明の銅管及び本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管の機械的性質及び結晶粒度は下記であることが好ましい。
(1)引張強度σB≧275MPa、耐力σ0.2≧95MPa、且つ、伸びδ≧30%
(2)結晶粒度が0.005~0.015mm
銅管の機械的性質及び結晶粒度が、上記(1)及び(2)を満たすことにより、熱交換器用としての強度と加工性が良好な銅管となる。
【0037】
本発明の銅管及び本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管は、湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされる銅管として、好適に用いられる。そして、本発明の銅管及び本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管は、湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされても、蟻の巣状腐食に対する耐食性に優れており、且つ、SCCに対する耐食性に優れるので、銅管及び該銅管が用いられている熱交換器の寿命を長くすることができる。
【0038】
本発明の伝熱管は、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の伝熱管用の銅管である。つまり、本発明の伝熱管は、空調機器又は冷凍機器に用いられる伝熱管であり、空調機器又は冷凍機器の熱交換器を構成する伝熱管として用いられる。
【0039】
本発明の冷媒配管は、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の冷媒配管用の銅管である。つまり、本発明の冷媒配管は、空調機器又は冷凍機器において、冷媒が流通する冷媒配管として用いられる。
【0040】
本発明の空調機器は、本発明の伝熱管、すなわち、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなる伝熱管を有する。
【0041】
本発明の冷凍機器は、本発明の伝熱管、すなわち、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなる伝熱管を有する。
【0042】
本発明の空調機器は、本発明の冷媒配管、すなわち、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなる冷媒配管を有する。
【0043】
本発明の冷凍機器は、本発明の冷媒配管、すなわち、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなる冷媒配管を有する。
【0044】
以下に、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0045】
(実施例)
<銅管の組成>
化学成分:表1に記載のPを含有し、残部がCu及び不可避的不純物
<製造工程>
(1)鋳造工程
表1に記載の化学組成のビレットを作製した。
(2)熱間加工
上記で得たビレットを850℃に加熱後、熱間押出をし、急冷して、押出素管を得た。
(3)冷間加工
上記で得た押出素管を冷間圧延し、1回目の冷間抽伸加工によりコイルアップした。次いで、冷間抽伸加工を複数回繰返し行い、φ7mm、肉厚0.40mmまで引き抜いた。
(4)最終熱処理
表1に記載の条件にて、最終熱処理を行い、 外径7mm、肉厚0.40mmの銅管を得た。得られた銅管の機械的性質及び結晶粒度を表2に示す。
【0046】
【表1】
*表中、平均昇温速度は、25℃からピーク加熱温度までの平均昇温速度であり、また、保持時間は、「ピーク加熱温度」から「ピーク加熱温度-100℃」までの温度域の保持時間であり、また、平均冷却速度は、「ピーク加熱温度-100℃」の温度から25℃までの間の平均冷却速度である。
【0047】
【0048】
<結晶粒界におけるP濃縮度評価方法>
供試材の直角断面を樹脂に埋めた。次いで、肉厚断面における集束イオンビーム加工機(FIB)により、サンプルをピックアップし、約0.1μmまで薄片化した後、STEM(走査型透過電子顕微鏡)観察により再結晶粒界を識別してEDS分析(エネルギー分散型X線分析)を実施した。試料作製にあたり、試料最表面保護被膜として、C膜およびW膜を形成した。
FIB加工機には、日立ハイテクサイエンス製XVision210TBS、TEM/STEM(透過型/走査型透過電子顕微鏡)には、FEI製TalosF200Xを使用した。
EDS分析では、結晶粒界近傍(結晶粒界中央部から±2nmの範囲)におけるPのピーク濃度(原子%)をP1とし、結晶粒内(結晶粒界から5nm乃至20nmの範囲におけるPの平均濃度(原子%)をP0とし、分析した結晶粒の数5のP1/P0値の平均を算出した。
そして、得られたP1/P0値について、P1/P0<5の場合は、結晶粒界におけるPの濃縮度が低く、合格:「○」とし、P1/P0≧5の場合は、結晶粒界におけるPの濃縮度が高く、不合格:「×」とした。
【0049】
<蟻の巣状腐食試験及び評価方法>
準備された各種の銅管について、
図1に示す試験装置を用いて、蟻の巣状腐食試験を実施した。なお、
図1において、2は、キャップ4にて密閉することの出来る2Lのポリ容器であり、そのキャップ4を貫通して取り付けられたシリコン栓6を貫通するように、供試銅管10が、ポリ容器2内に差し込まれている。一方、供試銅管10の下端開口部は、シリコン栓8にて閉塞せしめられている。ここで、供試銅管10は、18cmの長さを有し、ポリ容器2内に暴露されている部分の長さは15cmとされている。また、ポリ容器2内には、所定濃度の蟻酸水溶液の100mlが、供試銅管10に接触しない形態において収容されている。
また、蟻の巣状腐食試験においては、蟻酸水溶液12の濃度を、0.1%とし、その蟻酸水溶液12が収容されたポリ容器2に、所定の供試銅管10をセットした状態において、40℃の恒温槽内に放置すると共に、2時間/日だけ槽外に取り出して、室温(15℃)下において保持することにより、その温度差によって供試銅管10の表面への結露を促した。そして、そのような条件下での腐食試験を、80日間実施した。
かかる試験の実施された各供試銅管について、
図1に示されるポリ容器2内に暴露されていた部位のうちで、管軸方向に垂直な断面を、任意の位置において、5断面調べ、管外表面からの最大腐食深さを測定した。
得られた最大腐食深さについて、最大腐食深さが0.20mm以下の場合は、蟻の巣状腐食が浅く、耐食性に優れる:「○」とし、最大腐食深さが0.20mmを超える場合、蟻の巣腐食が深く、耐食性が劣る:「×」とした。
【0050】
<応力腐食割れ(SCC)試験及び評価方法>
準備された各種の銅管について、
図2に示す試験装置を用いて、アンモニア雰囲気中で暴露試験(SCC評価試験)を実施した。
試験片は、φ7mm×t0.40mm直管の一方に圧力センサーを取付け、他端は継手で封止した。
管内は窒素ガス4.0MPaを負荷した状態でリークチェックを行い、気密性を事前確認した。
試験容器は、ポリエチレン製2Lを準備し、底部に1vol.%アンモニア水溶液200mlを入れて、その気層部分に試験片を暴露して、センサーにより内圧を監視した。内圧が3.8MPa以下となる時間を貫通時間として計測した。
貫通時間が10時間以上の場合は、耐食性に優れる:「○」とし、10時間未満の場合は、耐食性に劣る:「×」とした。