(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057070
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】研磨シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B24D 11/00 20060101AFI20220404BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20220404BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B24D11/00 B
B24D3/00 320B
B24D3/00 340
H01L21/304 622F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165137
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】合川 史登
(72)【発明者】
【氏名】山下 未侑
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
【テーマコード(参考)】
3C063
5F057
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB07
3C063BB02
3C063BC03
3C063CC30
3C063EE10
3C063FF30
5F057AA03
5F057AA14
5F057AA24
5F057BA12
5F057BB03
5F057CA12
5F057CA13
5F057DA06
5F057EB03
5F057EB10
5F057EB16
5F057EB18
5F057EB22
(57)【要約】
【課題】研磨レートを高くすることができ、研磨レートを高くしても研磨対象物の平均表面粗さを小さくさせることができる研磨シートの提供。
【解決手段】可撓性基材上に、研磨材粒子が固定化されてなる研磨層を有する研磨シートにおいて、該研磨層中に、研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質が含まれていることを特徴とする研磨シート。該硬化性物質は架橋凝集作用を有するポリマー又は枯渇凝集作用を有するポリマーであることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性基材上に、研磨材粒子が固定化されてなる研磨層を有する研磨シートにおいて、
該研磨層中に、研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質が含まれていることを特徴とする研磨シート。
【請求項2】
前記硬化性物質が、水系溶媒において、研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質であることを特徴とする請求項1に記載の研磨シート。
【請求項3】
前記硬化性物質が、有機系溶媒において、研磨材粒子の架橋凝集作用を有するポリマー又は枯渇凝集作用を有するポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の研磨シート。
【請求項4】
前記研磨層が、研磨材粒子と、プレポリマーと、硬化剤とを少なくとも含む液体が硬化されてなる研磨層であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の研磨シート。
【請求項5】
前記研磨材粒子がダイヤモンド粒子であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の研磨シート。
【請求項6】
可撓性基材上に、研磨材粒子が固定化されてなる研磨層を有する研磨シートの製造方法において、
前記研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質を用いて研磨材粒子を固定化する工程を含むことを特徴とする研磨シートの製造方法。
【請求項7】
研磨材粒子を固定化する工程が、
研磨材粒子とプレポリマーとを含む液体を準備し、当該液体に硬化剤を混合し、可撓性基材上で硬化させることにより研磨層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の研磨シートの製造方法。
【請求項8】
前記硬化性物質が、水系溶媒において研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質であることを特徴とする請求項6又は7に記載の研磨シートの製造方法。
【請求項9】
前記硬化性物質が、有機系溶媒において、研磨材粒子の架橋凝集作用を有するポリマー又は枯渇凝集作用を有するポリマーであることを特徴とする第6又は第7の発明に記載の研磨シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品や光学部品等の精密加工用の研磨シートや一般鏡面研磨用の研磨シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属、半導体、これらの酸化物等の材料表面に対して研磨シートを用いた精密研磨加工が行われている。例えば、半導体デバイスの構成要素として用いられるシリコン基板の表面は、ラッピング工程やポリシング工程を経て高品位の鏡面に仕上げられる。
当該用途に使用される研磨シートに関しては、基材フィルムと、その基材フィルム上に、所定粒径の研磨材粒子がバインダー樹脂中に含有されてなる研磨層とを有する研磨シートが知られ、工業的に使用されている。
【0003】
研磨シートに用いる研磨材としては、モース硬度8.5から9.5である酸化ケイ素、酸化アルミ、炭化ケイ素等が知られている。また、シリコン基板の表面の研磨においては、上記研磨材よりもモース硬度の高いダイヤモンド粒子(モース硬度10)が用いられてきた。
【0004】
近年、半導体デバイスの高性能化及び高集積化に伴い、高精度の鏡面研磨によるシリコン基板品質の向上が求められている。
その一方で、工業的には研磨加工工程の効率化、短時間化のため、単位加工時間当たりの研磨量(以後、「研磨レート」と示す。)の増大が求められる。
この高精度の鏡面研磨性と、研磨レートの向上は一般にトレードオフの関係となり、これらを両立することは困難である。
【0005】
特許文献1には、研磨層に円弧上又は環状の凸部を形成し、その他の領域に凹部を形成し、研磨シートの表面を凹凸形状にさせた研磨シートが開示されている。
当該研磨シートをシリコン基板の高精度鏡面研磨に適用した場合、研磨レートは増大するが、研磨対象物の研磨後の平均表面粗さも増大し、表面研磨性が劣るといった問題が生じることが判明した。
【0006】
従って、高研磨レートと、表面研磨性を高いレベルで両立できる研磨シート及びその製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、研磨レートを高くしても研磨対象物の平均表面粗さを小さくさせることができる研磨シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意検討した結果、研磨材粒子を基材上に固定化させた研磨層中に、研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質を含ませることにより、研磨層の表面形状を制御できることを見出した。そして、そのようにして得られる研磨層の特徴的な表面形状が、研磨工程に有効に作用し、上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち本発明は以下に示すものである。
【0010】
第1の発明は、可撓性基材上に、研磨材粒子が固定化されてなる研磨層を有する研磨シートにおいて、
該研磨層中に、研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質が含まれていることを特徴とする研磨シートである。
【0011】
第2の発明は、前記硬化性物質が、水系溶媒において研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質であることを特徴とする第1の発明に記載の研磨シートである。
【0012】
第3の発明は、前記硬化性物質が、有機系溶媒において、架橋凝集作用を有するポリマー又は枯渇凝集作用を有するポリマーであることを特徴とする第1の発明に記載の研磨シートである。
【0013】
第4の発明は、前記研磨層が、研磨材粒子と、プレポリマーと、硬化剤とを少なくとも含む液体が硬化されてなる研磨層であることを特徴とする第1~第3の発明のいずれか一つに記載の研磨シートである。
【0014】
第5の発明は、前記研磨材粒子がダイヤモンド粒子であることを特徴とする第1~第4の発明のいずれか一つに記載の研磨シートである。
【0015】
第6の発明は、可撓性基材上に、研磨材粒子が固定化されてなる研磨層を有する研磨シートの製造方法において、
前記研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質を用いて研磨材粒子を固定化する工程を含むことを特徴とする研磨シートの製造方法である。
【0016】
第7の発明は、研磨材粒子を固定化する工程が、
研磨材粒子とプレポリマーとを含む液体を準備し、当該液体に硬化剤を混合し、可撓性基材上で硬化させることにより研磨層を形成する工程を含むことを特徴とする第6の発明に記載の研磨シートの製造方法である。
【0017】
第8の発明は、前記硬化性物質が、水系溶媒において、研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質であることを特徴とする第6又は第7の発明に記載の研磨シートの製造方法である。
【0018】
第9の発明は、前記硬化性物質が、有機系溶媒において、研磨材粒子の架橋凝集作用を有するポリマー又は枯渇凝集作用を有するポリマーであることを特徴とする第6又は第7の発明に記載の研磨シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の研磨シートは、研磨レートを高くすることができ、研磨レートを高くしても研磨対象物の平均表面粗さを小さくさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の研磨シートの構造を示す模式図である。
【
図2】従来の研磨シートの構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明の研磨シートについて説明する。
【0022】
<研磨シート>
本発明の研磨シートは、可撓性基材上に研磨材粒子が固定化されてなる研磨層を有する研磨シートにおいて、該研磨層中に、研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質が含まれていることを特徴としている。
【0023】
該研磨層中に、研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質が含まれていることで、研磨層表面に、凹凸部が形成される。微視的に観察されるこの凸部(加工点)が相対的に少なく突き出しており、研磨時に高い圧力がかけられることから、研磨レートを高くすることができる。
【0024】
微視的に観察される凹凸部は、研磨層表面の最大表面粗さによって表すことができる。
すなわち、研磨層表面の最大表面粗さ(Rmax)が、0.4μmから2.0μmであることが好ましく挙げられ、0.4μmから1.7μmであることがより好ましく挙げられる。
【0025】
最大表面粗さ(Rmax)を上記範囲にすることで、研磨レートをより高くすることができる効果が得られる。
【0026】
微視的に観察される凸部(加工点)が相対的に少なく突き出していることは、研磨層表面の凸部間の平均距離によって表すことができる。
該平均距離が、0.4μmから5.0μmであることが好ましく挙げられる。凸部間の平均距離を前記範囲にすることで、研磨レートを高く保ちつつ、研磨性を向上、すなわち研磨後の研磨対象物の平均表面粗さを低減できる。
【0027】
研磨シート表面の研磨層表面の最大表面粗さ(Rmax)は、例えば、以下のような方法で測定することができる。
研磨シート表面の最大表面粗さ(Rmax)は、最大高低差であり、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて10μm×10μm角の範囲を、256ピクセル×256ピクセルの解像度でAFM画像を得て、AFM画像より研磨シートの表面の凹凸を測定し、算出される値である。
【0028】
研磨層表面の凸部間の平均距離は、例えば、以下の方法で得ることができる。まず、上述したのと同様の方法で100μm×100μm角の範囲でAFM画像を得る。AFM画像において、最大高さの凸部を選択する。この凸部を第1凸部とする。第1凸部から最も近傍に位置する凸部を選択する。この凸部を第2凸部とする。このようにして、第1凸部及び第2凸部の対を得る。なお、最大表面粗さ(Rmax)の半分の値よりも小さい高低差の凸部はここでは凸部とみなさない。第1凸部の頂点と第2凸部の頂点との間の距離を測定し、この凸部の頂点間の距離を凸部間の平均距離とする。このAFM画像において同様の操作を10個の対に対して行い、凸部間の平均距離を得る。
【0029】
<研磨シートの構成>
本発明の研磨シートは、可撓性基材上に、研磨材粒子が固定化されてなる研磨層を有する研磨シートにおいて、研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質が含まれていることを特徴とする研磨シートである。
【0030】
(可撓性基材)
可撓性基材として、研磨シートを研磨対象物の研磨対象面へ押し付けて使用する際の研磨対象面への追従性及び適度な引っ張り強度といった性能が求められている。
【0031】
このような性能を満たすためには、可撓性基材の厚さを厚さ5.0μmから100μmにすることが好ましく挙げられ、10μmから90μmにすることがさらに好ましく挙げられ、20μmから80μmにすることが特に好ましく挙げられる。
【0032】
このような可撓性基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース、メチルメタクリレート系共重合物等のアクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂やポリメタクリルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等が挙げられる。
【0033】
(研磨材粒子)
本発明の研磨材粒子としては、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(cBN)、酸化アルミニウム、シリカ、炭化ケイ素、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化鉄等を例示することができる。
当該研磨材粒子は、単結晶でも、多結晶でもよい。本発明に用いられる研磨材粒子は、研磨速度の向上の観点から、ダイヤモンド粒子が好ましく挙げられる。
【0034】
前記ダイヤモンド粒子の一次粒子のメディアン径は、0.1μmから0.3μmの範囲にあるものが好適である。このような範囲のダイヤモンド粒子を用いることで、研磨後の研磨対象物の平均表面粗さを小さくさせることができる。
【0035】
本発明において、ダイヤモンド粒子の一次粒子のメディアン径は、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置で検知される分散したダイヤモンド粒子の積算%の分布曲線における体積%となる径(D50)をいう。
【0036】
ダイヤモンド粒子の一次粒子のメディアン径の好ましい標準偏差は0.01から5.0であり、より好ましくは、0.01から2.0であり、特に好ましくは0.01から0.3である。当該範囲に入るダイヤモンド粒子を含有させた研磨シートを使用することで、研磨後の研磨対象物の平均表面粗さ(Ra)をより小さくすることが可能となる。
【0037】
(固定化されてなる研磨層)
本発明の研磨材粒子が固定化されてなる研磨層は、上記研磨材粒子と、プレポリマーと、硬化剤と、を含む液体が硬化されてなる研磨層であることが好ましい。
(プレポリマー)
本発明に用いるプレポリマーとしては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が好ましく挙げられる。
【0038】
上記熱可塑性樹脂としては、通常成形材料として用いられる熱可塑性樹脂の中から任意に選ぶことができる。このようなものとしては、特に限定されるわけではないが、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエ-テル、ポリスルホン、液晶ポリマー、アクリロニトリル・スチレン樹脂及び各種の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂の中でも、アクリル樹脂は、イオン性不純物が少なく、かつ耐熱性が高く、また、アクリル樹脂を用いて製造した研磨シートは高い研磨レートを得られる点から特に好ましく挙げられる。
【0039】
上記熱硬化性樹脂とは、通常の成形材料として用いられる熱硬化性樹脂の中から任意に選ぶことができる。このようなものとしては、特に限定されるわけではないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、珪素樹脂等が挙げられる。
【0040】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールSグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールADグリシジルエーテル型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、ビフェニル型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシが挙げられる。また、さらに天然由来物質から得られたエポキシ樹脂であることが環境負荷低減化の観点で好ましい。具体的には、エポキシ化大豆油、エポキシ化脂肪酸エステル類、エポキシ化アマニ油、ダイマー酸変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0041】
前記フェノール樹脂としては、例えば、フェノール、クレゾール等のフェノール類とホルムアルデヒド等を反応させノボラック型フェノール樹脂等を合成し、これにヘキサメチレンテトラミン等を配合し、硬化させるもの等が挙げられる。例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂、フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン型フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂、フェノール類及び/又はナフトール類とジシクロペンタジエンから共重合により合成される、ジシクロペンタジエン型フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトールノボラック樹脂等のジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、これら2種以上を共重合して得たフェノール樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
前記フラン樹脂としては、例えば、フルフラール樹脂、フルフラールフェノール樹脂、フルフラールケトン樹脂、フルフリルアルコール樹脂、フルフリルアルコールフェノール樹脂が挙げられる。前記ユリア樹脂としては、例えば尿素等とホルムアルデヒド等の重合反応物(脱水縮合反応物)が挙げられる。前記メラミン樹脂としては、例えばメラミン等とホルムアルデヒド等の重合反応物が挙げられる。
【0043】
前記不飽和ポリエステル樹脂としては、不飽和多塩基酸等と多価アルコール等より得られる不飽和ポリエステルを、これと重合する単量体に溶解し硬化する樹脂等が挙げられる。例えば、不飽和多塩基酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、へキサヒドロフタル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられ、多価アルコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサングリコール等が挙げられる。
【0044】
前記珪素樹脂としては、オルガノポリシロキサン類を主骨格とするものが挙げられる。
【0045】
上記プレポリマー中に前記研磨材粒子及び硬化剤を少なくとも含む液体を、前記可撓性基材上で硬化させることで、研磨材粒子が固定化されてなる研磨層が得ることができる。製造方法の一例については後述する。
【0046】
(凝集作用を有する硬化性物質)
本発明の研磨シートは、上記研磨層中に、研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質が含まれていることを特徴としている。
上記凝集作用を有する硬化性物質が含まれていることで、研磨材粒子と、プレポリマーと、硬化剤と、を含む液体が硬化される際に、
図1に示した如く、研磨層表面に上述した微視的に観察される凹凸部が形成され、研磨性に優れた研磨層が得られる。
本発明でいう硬化性物質とは、研磨材粒子が固定化されてなる研磨層において、研磨材粒子及びその他、バインダー樹脂組成物等とともに硬化しうる特性を有する物質のことを示す。
【0047】
本発明において、そのような硬化性物質として、水系溶媒において研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質が含まれていることが好ましい。
該硬化性物質としては、無機金属塩、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、両性ポリマーおよび非イオン性ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも一つの硬化性物質を用いることが好ましい。
【0048】
前記無機金属塩としては、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、塩化コッパラス、変性塩基性硫酸アルミニウム、活性シリカ等が挙げられる。
【0049】
前記アニオン性ポリマーとしては、水溶性アニリン樹脂酸塩、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、キトサン、ヘキサメチレンジアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ポリビニルイミダゾリン、ポリアルキルアミノアクリレートあるいはメタクリレート、ポリアクリルアミドのマンリッヒ変性物等のカチオン性ポリマー、(メタ)アクリル酸系ポリマー、アルギン酸ナトリウム、グアーガムナトリウム塩カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、澱粉ナトリウム塩等が挙げられる。
【0050】
前記非イオン性ポリマーとしては、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、澱粉、グアーガム、ゼラチン、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン等が挙げられる。
【0051】
また、本発明において、有機系溶媒において研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質が含まれていることが好ましい。
すなわち、有機系溶媒において、架橋凝集作用を有するポリマー又は枯渇凝集作用を有するポリマーを有することが好ましい。
【0052】
ここで、架橋凝集作用とは、上記架橋凝集作用を有するポリマーの高分子鎖が複数の研磨材粒子にまたがって吸着し、該粒子が架橋凝集することを示す。
そのような架橋凝集作用を有するポリマーとしては、一分子中に複数個の官能基を有するポリマーが挙げられ、より具体的には、一分子中にアミド基、アミノ基、カルボキシル基、リン酸基のような官能基を複数個有するポリエーテル系、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系などのポリマーを挙げることができる。
より好ましくは、1分子あたりの官能基数が、40個以上であるものが好ましく、40~600個であるものがさらに好適である。
1分子あたりの官能基数が20以下であると架橋凝集効果が得られず、研磨層の表面に凹凸が形成され難くなる場合がある。
なお、官能基数はポリマーグラム質量当たりの酸価、アミン価、水酸基価等の物質量にポリマーの分子量を乗ずる等の方法で求められる。
なお、分子量は数万から数百万の範囲のものが好ましく使用できる。
【0053】
または、枯渇凝集作用とは、非吸着高分子の浸透圧によって研磨材粒子が凝集することを示す。
そのような枯渇凝集作用を有するポリマーとしては、研磨材粒子表面に吸着しないポリマーを挙げることができる。
【0054】
<研磨シートの製造方法>
次に、本発明の研磨シートの製造方法について説明する。以下に述べる製造方法は一例であり、本発明は当該方法によって何ら限定されるものでない。
【0055】
本発明の研磨シートは、研磨材粒子分散液と、バインダー樹脂となるプレポリマーとを混合させ、次いで硬化剤及び研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質を含ませ液状の樹脂組成物とした後、可撓性基材上に該樹脂組成物を塗布し、溶媒を除去して研磨層を硬化させることにより製造することができる。研磨シートの形状としては、シート状やディスク状が好ましく挙げられる。
【0056】
(研磨材粒子分散液)
前記研磨材粒子分散液としては、水系溶媒又は有機系溶媒に研磨剤粒子が分散されてなるものを用いることができ、好ましくは、ダイヤモンド粒子と有機溶媒を少なくとも含む分散液が挙げられる。
【0057】
ここで用いるダイヤモンド粒子としては、上述したダイヤモンド粒子が挙げられる。ダイヤモンド粒子分散液中のダイヤモンド粒子の含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましく挙げられる。このような高濃度のダイヤモンド粒子分散液を用いることで、ダイヤモンド粒子充填性の高い研磨シートを製造することが可能となる。なお、ダイヤモンド粒子分散液には、ダイヤモンド粒子以外に、研磨材としてアルミナ粒子、シリカ粒子、セリア粒子(酸化セリウム)から選ばれる少なくとも一種を含有させて用いても良い。
また、ダイヤモンド粒子は、角部の形状が鈍角(90°よりも大きい)又は曲面状にすることにより研磨対象物に対し、スクラッチ(引っかき傷)をつけることなく研磨することが可能となる。
【0058】
(有機溶媒)
ダイヤモンド粒子分散液に用いる有機溶媒は、ダイヤモンド粒子分散液の分散媒としての役割を有する。
【0059】
有機溶媒としては、一価アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール等)、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、アミド系(N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、スルホラン系(スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等)、鎖状スルホン系(ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン)、環状アミド系(N-メチル-2-ピロリドン等)、カーボネイト類(エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、イソブチレンカーボネイト等)、ニトリル系(アセトニトリル等)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシド等)、2-イミダゾリジノン系〔1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジ(n-プロピル)-2-イミダゾリジノン等)、1,3,4-トリアルキル-2-イミダゾリジノン(1,3,4-トリメチル-2-イミダゾリジノン等)〕等が挙げられる。
【0060】
前記有機溶媒は、単独で用いても2種類以上混合して用いてもよい。ダイヤモンド粒子の分散性を向上させる目的や、用いるプレポリマーとダイヤモンド粒子分散液との混合のし易さより、2種類以上を混合させて用いることが好ましく挙げられる。
【0061】
ダイヤモンド粒子分散液に超音波を照射させて、有機溶媒中にダイヤモンド粒子を分散させてもよい。ダイヤモンド粒子分散液に超音波を照射させることで、ダイヤモンド粒子の凝集体のファンデルワールス力を解除させて、均一に分散させることが可能となる。
【0062】
ダイヤモンド粒子分散液に超音波を照射させる方法としては、超音波発振機やガラス器具洗浄用超音波浴等を用いて前記混合液に超音波を照射する方法が挙げられる。
【0063】
超音波を混合液に照射させる時間は5分から10時間であることが好ましく、10分から5時間であることがより好ましく、15分から2時間であることが特に好ましく挙げられる。超音波を混合液に前記時間を照射させることで、ダイヤモンド粒子の凝集体のファンデルワールス力を十分に解除することができる。
【0064】
(プレポリマー)
研磨シート製造に用いるバインダー樹脂として、上述したプレポリマーが挙げられる。
【0065】
プレポリマーの使用量は、ダイヤモンド粒子とプレポリマーとの質量比が、95:5ないし60:40の範囲にすることが好ましく、90:10ないし55:45の範囲がより好ましく、85:15ないし55:45の範囲にすることが特に好ましく挙げられる。このような範囲とすることで好適な研磨層を形成でき、ひいては研磨速度を向上させることができる。
【0066】
(硬化剤)
本発明で用いられる硬化剤は前記プレポリマーを含む樹脂組成物を硬化させるために使用されるものである。具体的には、公知の重合開始剤等を用いることができる。
【0067】
(研磨材粒子の凝集作用を有する硬化性物質)
本発明の研磨シートの製造方法は、研磨材粒子とプレポリマーを含む樹脂組成物中に、研磨材粒子の凝集作用を有する上述の硬化性物質を含ませ液状の樹脂組成物とした後、硬化させ、研磨材粒子を固定化する工程を含むことを特徴とする。
プレポリマー中に分散された研磨材粒子が、凝集作用を有する硬化性物質により
図1に示した如く偏在的に凝集し、研磨層表面に、凹凸部が形成される。
【0068】
上述した樹脂組成物の粘度は、室温において0.1mPa・sから500mPa・sが好ましく、0.5mPa・sから200mPa・sがより好ましく、1.0mPa・sから100mPa・sが特に好ましく挙げられる。このような範囲の粘度を有する樹脂組成物を用いることで、所望の厚さの研磨層を有する研磨シートを製造することができる。
【0069】
可撓性基材上に樹脂組成物を塗布した後、樹脂組成物中の溶媒を除去して研磨層を形成させる。
当該方法としては、エアードクターコート、ブレードコート、エアーナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、キスコート、スプレーコート、バーコート、スピンコート等により、可撓性基材上に樹脂組成物をコートした後に、樹脂組成物中の有機溶媒を除去して乾燥させることで、可撓性基材上に研磨層を形成させることができる。
これらの中でも特に簡単に均一な厚さの層を形成させることが出来る点より、バーコート法が好ましく挙げられる。
【0070】
可撓性基材には、研磨層との密着性を向上させるため、可撓性基体と研磨層との間にプライマー層を設けてもよい。プライマー層に用いる樹脂としては、COOM、SO3M、OSO3M、P=O(OM)3、O-P=O(OM)2(Mは水素原子、アルカリ金属塩基又はアミン塩)等の官能基を1つ又は2つ以上有するポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂又はポリ(メタ)アクリル樹脂等が好ましく挙げられる。
【0071】
また、樹脂組成物中の有機溶媒を除去させる際の温度としては、用いる有機溶媒によって異なるが、用いる有機溶媒の沸点より30℃~50℃高い温度により加熱することが好ましく挙げられる。このような温度とすることで、樹脂組成物中のダイヤモンド粒子の均質性を維持しながら研磨層を形成させることができる。
【実施例0072】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。なお、本発明は、実施例等により、なんら限定されるものではない。実施例中の「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0073】
(研磨シート1の製造)
(硬化性物質の製造)
攪拌機、温度計、還流管及び滴下ロートを備えた反応容器を窒素置換した後、メチルエチルケトン300質量部を入れ、スチレン45質量部、アクリル酸エチル49質量部、アクリル酸6質量部、過硫酸アンモニウム0.08質量部、t-ドデシルメルカプタン0.12質量部を滴下ロートに入れて4時間かけて反応容器に滴下しながらポリマー分散剤を重合反応させた。その後、反応容器にメチルエチルケトンを添加して30質量%の硬化性物質1の溶液を調製した。分子量はポリスチレン標準物質を使用した公知のゲル濾過クロマトグラフ法(GPC法)によって測定し、硬化性物質1の分子量は240000であった。
酸価は、KOH溶液を用いた公知の電位差滴定法により測定し、硬化性物質1の酸価は47mgKOH/gであった。
【0074】
(研磨材粒子)
メチルエチルケトン579部にダイヤモンド粒子(1/4、テクノライズ株式会社製、一次粒子のメディアン径0.22μmから0.28μm)163部を混合してダイヤモンド粒子分散液を作製した。
【0075】
(樹脂組成物)
前記ダイヤモンド粒子分散液中に、プレポリマーとしてアクリル樹脂(8KX-078、大成ファインケミカル株式会社製)33部、硬化剤として光重合開始剤(Omnirad127、IGM Resin B.V製)1部となるように原料を混合した。
さらに、ダイヤモンド粒子の凝集作用を有する硬化性物質として上記硬化性物質1を固形分換算で7部となるよう含有させ、硬化後研磨層となるダイヤモンド粒子含有樹脂組成物を作製した。
【0076】
この樹脂組成物を可撓性基材である厚さ50μmのポリエステルフィルムにバーコーターを用いて均一に塗布し、送風乾燥機100℃で1分乾燥後、送風乾燥機50℃で24時間乾燥し、積算光量300mJ/cm2でUV照射することで研磨シート1を得た。
(研磨シート2~7の製造)
硬化性物質1の製造において、スチレン、アクリル酸エチル、アクリル酸、過硫酸アンモニウム、t-ドデシルメルカプタンの配合比を種々変え、表1に示す分子量、酸価、1分子あたりの官能基数とした各硬化性物質をそれぞれ準備した。
用いる硬化性物質をそれらに変更した以外は研磨シート1の製造と同様にして研磨シート2~5及び7を製造した。
比較として、凝集作用を有する硬化性物質を含有させずに製造したものを研磨シート6とした。
なお、研磨シート7は、ダイヤモンド粒子の凝集作用を有しない、官能基を一分子あたりに20個有するポリマーを硬化性物質として研磨層中に含有させて製造したものである。
【0077】
【0078】
製造した研磨シートを用いて、下記研磨条件によりシリコン基板を研磨した。シリコン基板の平均表面粗さ(Ra)は、下記測定条件により測定した。測定結果及び研磨レート(単位時間あたりの研磨量)を下表2に示す。
【0079】
<研磨条件>
研磨前のシリコン基板の平均表面粗さ(Ra):31.6nm
シリコン基板回転数:500回転
シリコン基板研磨時間:2分間
シート押付圧力:5N
【0080】
<測定条件>
シリコン基板の平均表面粗さ(Ra)は以下の条件で測定した。
測定モード:Dynamic Force Mode
スキャンスピード:0.54Hz
カンチレバー:エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製カンチレバーSI-DF20(背面AL有)
評価領域:10μm×10μm角
解像度:256ピクセル×256ピクセル
【0081】
【0082】
本評価条件では、研磨レートは0.30μm/min以上が好ましく、かつ、研磨対象物であるシリコン基板の平均表面粗さ(Ra)が1.5nm以下であることが好ましい。
特に好ましくは、研磨レートが0.40μm/min以上で、かつ、研磨後のシリコン基板の平均表面粗さが0.9nm以下である。
【0083】
表2より、本発明品である研磨シート1~5は比較品である研磨シート6に比べ、研磨後のシリコン基板の平均表面粗さが小さく、かつ、研磨レートを向上できることがわかった。
本発明の研磨シートを用いて研磨対象物を研磨することで、研磨レートを高くすることができ、研磨レートを高くしても研磨対象物の平均表面粗さを小さくすることが可能となる。従って、本発明の研磨シートは磁気ディスク、精密機器、精密部品及びプリント基板の仕上げ加工等に用いる研磨シートとして好適に用いることができ、特にシリコン基板の端面仕上げ工程の研磨用として好適に用いることができる。