(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057075
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】燃料電池用部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0284 20160101AFI20220404BHJP
H01M 8/0276 20160101ALI20220404BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20220404BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20220404BHJP
F16J 15/08 20060101ALI20220404BHJP
C08F 290/04 20060101ALI20220404BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220404BHJP
【FI】
H01M8/0284
H01M8/0276
C09K3/10 E
F16J15/10 X
F16J15/08 H
C08F290/04
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165143
(22)【出願日】2020-09-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】二村 安紀
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】森原 康滋
【テーマコード(参考)】
3J040
4H017
4J127
5H126
【Fターム(参考)】
3J040AA11
3J040BA07
3J040EA01
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3J040EA17
3J040EA41
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3J040HA06
3J040HA15
4H017AA04
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4J127AA03
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5H126AA13
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5H126DD05
5H126GG18
5H126HH04
5H126HH10
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】燃料電池用基材の表面に対しシール部材を接着剤レスで強固に密着させることができ、さらに、上記シール部材の薄膜化が可能であるとともに、幅広い温度範囲において優れたシール性を示すことができる燃料電池用部材を提供する。
【解決手段】リップ4bがセパレータ5の表面に直接固着されてなる燃料電池用部材であって、上記リップ4bが、下記(A)~(E)成分を特定の割合で含有するラジカル硬化性組成物の架橋体であり、上記架橋体のガラス転移温度(Tg)が-30℃以下のものとする。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマー。
(B)ガラス転移温度(Tg)が0℃以上であり、多環式構造を有する、単官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)上記(B)成分を除く単官能(メタ)アクリルモノマー。
(D)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(E)ラジカル重合開始剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用基材と、シール部材とを備え、上記シール部材が燃料電池用基材の表面に直接固着されてなる燃料電池用部材であって、
上記シール部材が、下記(A)成分100重量部に対し、下記(D)成分を1~10重量部、下記(E)成分を0.01~10重量部の割合で含有し、かつ下記(A)~(C)成分の合計重量に対する下記(B)成分の含有割合が5~25重量%であるラジカル硬化性組成物の架橋体であり、上記架橋体のガラス転移温度(Tg)が-30℃以下であることを特徴とする燃料電池用部材。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマー。
(B)ガラス転移温度(Tg)が0℃以上であり、多環式構造を有する、単官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー(但し、上記(B)成分を除く)。
(D)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(E)ラジカル重合開始剤。
【請求項2】
上記(B)成分における多環式構造が、炭素数10以上の多環式構造からなる、請求項1記載の燃料電池用部材。
【請求項3】
上記ラジカル硬化性組成物における(C)成分の含有割合が、上記(A)成分100重量部に対し、0~75重量部の範囲である、請求項1または2記載の燃料電池用部材。
【請求項4】
上記(D)成分が、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールアクリレート系化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池用部材。
【請求項5】
上記ラジカル硬化性組成物が、さらにシリカを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池用部材。
【請求項6】
上記シリカが、ジメチルシリル化シリカ、トリメチルシリル化シリカ、オクチルシリル化シリカおよびメタクリルシリル化シリカからなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項5記載の燃料電池用部材。
【請求項7】
上記ラジカル硬化性組成物が、紫外線硬化性組成物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の燃料電池用部材。
【請求項8】
上記シール部材が、膜状のシール部材である、請求項1~7のいずれか一項に記載の燃料電池用部材。
【請求項9】
上記膜状のシール部材の厚みが、50~1,000μmである、請求項8記載の燃料電池用部材。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の燃料電池用部材の製造方法であって、下記(A)成分100重量部に対し、下記(D)成分を1~10重量部、下記(E)成分を0.01~10重量部の割合で含有し、かつ下記(A)~(C)成分の合計重量に対する下記(B)成分の含有割合が5~25重量%であるラジカル硬化性組成物を、燃料電池用基材の表面に塗布する工程と、上記塗布がなされた箇所に活性エネルギー線を照射してラジカル硬化性組成物を架橋させ、シール部材とする工程とを備えていることを特徴とする燃料電池用部材の製造方法。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマー。
(B)ガラス転移温度(Tg)が0℃以上であり、多環式構造を有する、単官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー(但し、上記(B)成分を除く)。
(D)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(E)ラジカル重合開始剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の構成部材として用いられる燃料電池用部材、およびその製造方法に関するものである。詳しくは、燃料電池用基材と、シール部材とを備え、上記シール部材が燃料電池用基材の表面に直接固着(接着剤レスで密着)されてなる燃料電池用部材、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を構成する部材には各種のシール部材が用いられている。例えば、自動車用の固体高分子型燃料電池では、ガスおよび冷媒の漏れを防止するとともに、セル内を湿潤状態に保持するために、膜電極接合体(MEA)および多孔質層の周囲や、セパレータ間のシール性を確保するシール部材が用いられている。上記シール部材には、各種の機械的特性のほか、長期信頼性などを確保するため、耐へたり性(圧縮永久歪み性)に優れることが求められる。
【0003】
かかる要求に応じて、出願人は、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)に対して、有機過酸化物と脂肪酸カリウムなどを配合した架橋体からなるシール部材を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のシール部材は、それ自体に粘着性がないことから、セパレータ等との接触部に対し、接着剤を塗布して、上記シール部材を接着固定する必要がある。また、上記シール部材は薄膜に形成し難いことから、その薄膜化による燃料電池などの小型化を図る点では改善の余地がある。
【0006】
さらに、近年の燃料電池の普及に伴い、極低温環境下における燃料電池の使用も想定されるため、幅広い温度範囲において、耐へたり性、伸び、耐圧縮性等の特性を満たし、優れたシール性を確保することが求められる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、燃料電池用基材と、シール部材とを備えた燃料電池用部材において、上記燃料電池用基材の表面に対し上記シール部材を接着剤レスで強固に密着させることができ、さらに、上記シール部材の薄膜化が可能であるとともに、幅広い温度範囲において優れたシール性を示すことができる、燃料電池用部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマー(A)を主たる成分とし、これに対し、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上であり、多環式構造を有する、単官能(メタ)アクリルモノマー(B)、上記(B)以外の単官能(メタ)アクリルモノマー(C)、多官能(メタ)アクリルモノマー(D)、およびラジカル重合開始剤(E)を、特定の割合で配合して得られた組成物からなる、ガラス転移温度(Tg)が-30℃以下のラジカル硬化性架橋体を、上記シール部材として用いることにより、燃料電池用基材の表面に強固に直接固着(接着剤レスで密着)させることができ、さらに、上記シール部材の薄膜化も可能であり、幅広い温度範囲において、耐へたり性、伸び、耐圧縮性等の特性を満たし、優れたシール性を有する燃料電池用部材を提供できることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
しかるに、本発明は、以下の[1]~[10]を、その要旨とする。
[1] 燃料電池用基材と、シール部材とを備え、上記シール部材が燃料電池用基材の表面に直接固着されてなる燃料電池用部材であって、
上記シール部材が、下記(A)成分100重量部に対し、下記(D)成分を1~10重量部、下記(E)成分を0.01~10重量部の割合で含有し、かつ下記(A)~(C)成分の合計重量に対する下記(B)成分の含有割合が5~25重量%であるラジカル硬化性組成物の架橋体であり、上記架橋体のガラス転移温度(Tg)が-30℃以下であることを特徴とする燃料電池用部材。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマー。
(B)ガラス転移温度(Tg)が0℃以上であり、多環式構造を有する、単官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー(但し、上記(B)成分を除く)。
(D)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(E)ラジカル重合開始剤。
[2] 上記(B)成分における多環式構造が、炭素数10以上の多環式構造からなる、[1]に記載の燃料電池用部材。
[3] 上記ラジカル硬化性組成物における(C)成分の含有割合が、上記(A)成分100重量部に対し、0~75重量部の範囲である、[1]または[2]に記載の燃料電池用部材。
[4] 上記(D)成分が、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールアクリレート系化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つである、[1]~[3]のいずれかに記載の燃料電池用部材。
[5] 上記ラジカル硬化性組成物が、さらにシリカを含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の燃料電池用部材。
[6] 上記シリカが、ジメチルシリル化シリカ、トリメチルシリル化シリカ、オクチルシリル化シリカおよびメタクリルシリル化シリカからなる群から選ばれた少なくとも一つである、[5]に記載の燃料電池用部材。
[7] 上記ラジカル硬化性組成物が、紫外線硬化性組成物である、[1]~[6]のいずれかに記載の燃料電池用部材。
[8] 上記シール部材が、膜状のシール部材である、[1]~[7]のいずれかに記載の燃料電池用部材。
[9] 上記膜状のシール部材の厚みが、50~1,000μmである、[8]に記載の燃料電池用部材。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の燃料電池用部材の製造方法であって、下記(A)成分100重量部に対し、下記(D)成分を1~10重量部、下記(E)成分を0.01~10重量部の割合で含有し、かつ下記(A)~(C)成分の合計重量に対する下記(B)成分の含有割合が5~25重量%であるラジカル硬化性組成物を、燃料電池用基材の表面に塗布する工程と、上記塗布がなされた箇所に活性エネルギー線を照射してラジカル硬化性組成物を架橋させ、シール部材とする工程とを備えていることを特徴とする燃料電池用部材の製造方法。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマー。
(B)ガラス転移温度(Tg)が0℃以上であり、多環式構造を有する、単官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー(但し、上記(B)成分を除く)。
(D)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(E)ラジカル重合開始剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記シール部材が燃料電池用基材の表面に強固に直接固着(接着剤レスで密着)されてなる燃料電池用部材であって、上記シール部材の薄膜化が可能であり、幅広い温度範囲において優れたシール性を有する燃料電池用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の燃料電池用部材の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の燃料電池用部材を使用した一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施形態に限られるものではない。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの両方を包含する概念として用いられる語であり、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの両方を包含する概念として用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の両方を包含する概念として用いられる語である。また、「ポリマー」は、コポリマーおよびオリゴマーを包含する概念として用いられる語である。
【0013】
本発明の燃料電池用部材は、燃料電池用基材と、シール部材とを備え、上記シール部材が燃料電池用基材の表面に直接固着されてなる燃料電池用部材であって、上記シール部材が、下記(A)成分100重量部に対し、下記(D)成分を1~10重量部、下記(E)成分を0.01~10重量部の割合で含有し、かつ下記(A)~(C)成分の合計重量に対する下記(B)成分の含有割合が5~25重量%であるラジカル硬化性組成物の架橋体であり、上記架橋体のガラス転移温度(Tg)が-30℃以下である。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマー。
(B)ガラス転移温度(Tg)が0℃以上であり、多環式構造を有する、単官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)単官能(メタ)アクリルモノマー(但し、上記(B)成分を除く)。
(D)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(E)ラジカル重合開始剤。
【0014】
以下に、上記シール部材の材料である各成分について説明する。
【0015】
<(A)成分>
(A)成分は、(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマーである。上記シール部材の材料であるラジカル硬化性組成物の主成分であり、通常、上記組成物全体の50重量%以上を占める。
【0016】
(A)成分の分子鎖(主鎖)は、1種以上の(メタ)アクリルモノマーの単独重合体や共重合体、または、1種以上の(メタ)アクリルモノマーおよびこれと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体で構成される。
上記(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸オレイル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸2-デシルテトラデカニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸トリル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等があげられる。これらは単独で用いてもよく、複数を共重合させてもよい。
【0017】
また、上記(メタ)アクリルモノマーを他のモノマーと共重合、さらにはブロック共重合させてもよい。共重合させるモノマーとしては、例えば、スチレンなどのスチレン系モノマー、パーフルオロエチレンなどのフッ素含有ビニルモノマー、ビニルトリメトキシシランなどのケイ素含有ビニル系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル基含有ビニル系モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド基含有ビニル系モノマー等があげられる。
【0018】
上記のなかでも、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸エステルモノマーが好ましく、エステル基の炭素数が2~14のアクリル酸エステルモノマー、エステル基の炭素数が8~14のメタクリル酸エステルモノマーがより好ましい。エステル基の炭素数が上記範囲外になると、低温における圧縮永久歪み等に劣る傾向がみられる。また、特に、炭素数が上記範囲より大きくなると、重合時の反応性が悪くなり、合成し難くなる傾向がみられる。
【0019】
(A)成分は、(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体であることが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸エステルモノマーをラジカル重合して得られる共重合体であることがより好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸n-ブチルおよび(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルを重合して得られる共重合体が特により好ましい。
【0020】
上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体の共重合比(重量比)としては、例えば、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルを重合して得られる共重合体の場合(アクリル酸n-ブチル:アクリル酸2-エチルヘキシル)、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、40~60:60~40であるのが好ましい。
【0021】
(A)成分は、少なくとも一方の分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルポリマーであるが、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、分子鎖の両末端に(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルポリマーが好ましい。
【0022】
(A)成分は、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、下記一般式(1)で示される化合物であることが好ましい。
【0023】
【0024】
上記一般式(1)中、炭素数1~20のエステル残基としては、直鎖状、分岐状および環状のいずれでもよく、例えば、メチルエステル残基、エチルエステル残基、n-プロピルエステル残基、イソプロピルエステル残基、n-ブチルエステル残基、イソブチルエステル残基、t-ブチルエステル残基、ペンチルエステル残基、ヘキシルエステル残基、ヘプチルエステル残基、オクチルエステル残基、シクロペンチルエステル残基、シクロヘキシルエステル残基等があげられる。なかでも、上記エステル残基としては、炭素数2~14のエステル残基が好ましい。また、一般式(1)中、有機基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基などの炭素数1~20の非置換、または置換1価の炭化水素基等があげられる。上記有機基としては、反応性を高める観点から、水素原子またはアルキル基が好ましく、なかでも、水素原子またはメチル基がより好ましい。また、一般式(1)中、nは20~800であるが、なかでも、50~400が好ましい。
【0025】
これら(A)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
(A)成分のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、例えば、-40℃以下が好ましく、-50℃以下がより好ましい。(A)成分のガラス転移温度(Tg)が上記温度よりも高くなると、低温における圧縮永久歪み等に劣る傾向がみられる。なお、下限値は特に限定されるものではないが、例えば-100℃である。
かかる(A)成分のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)で測定される。具体的には、セイコーインスツルメンツ社製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC-5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め、その極大点からガラス転移温度を求める。
なお、本発明に使用の各成分等のガラス転移温度(Tg)、および後記の実施例・比較例に使用の各成分等のガラス転移温度(Tg)も、上記のようにして求められたものである。
【0027】
(A)成分の数平均分子量(Mn)は、例えば、5,000~100,000であり、10,000~50,000がより好ましい。数平均分子量(Mn)が上記範囲よりも小さいと、圧縮割れ性に劣る傾向がみられ、上記範囲よりも大きいと圧縮永久歪み性に劣る傾向がみられるとともに、高粘性を発現しハンドリング性が低下する傾向がみられる。
【0028】
(A)成分の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、1.1~1.6が好ましく、1.1~1.4がより好ましい。なお、上記数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。具体的には、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにて行い、数平均分子量などはポリスチレン換算で求めることができる。
【0029】
(A)成分の23℃での粘度は、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、40~1,000Pa・sが好ましく、100~800Pa・sがより好ましい。
【0030】
(A)成分を合成する方法としては、公知の合成方法を用いることができ、例えば、(メタ)アクリル酸モノマーをラジカル重合することよって合成することができる。なかでも、リビングラジカル重合や原子移動ラジカル重合が好ましい。
【0031】
また、(A)成分は市販品としても入手可能であり、例えば、RC-100C、RC-200C(以上、カネカ社製)等があげられる。
【0032】
<(B)成分>
(B)成分である単官能(メタ)アクリルモノマーは、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上であり、多環式構造を有する、単官能(メタ)アクリルモノマー(分子構造内に1つの(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物)である。そして、本発明の効果をより高める観点から、上記(B)成分における多環式構造は、炭素数10以上の多環式構造からなることが好ましく、より好ましくは炭素数10~16の多環式構造、さらに好ましくは炭素数10~14の多環式構造である。また、上記多環式構造は、好ましくは、二環式構造、三環式構造である。
【0033】
また、上記(B)成分のガラス転移温度(Tg)は、0~150℃であることが好ましく、10~130℃であることがより好ましい。かかる(B)成分のガラス転移温度(Tg)は、(B)成分である単官能(メタ)アクリルモノマーのホモポリマーを、前記と同様、示差走査熱量計(DSC)によって測定する。
【0034】
そして、上記(B)成分の具体例としては、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0035】
(B)成分の含有量は、(A)~(C)成分の合計重量(100重量%)に対し、5~25重量%であり、本発明の効果をより高める観点からは、6~24重量%が好ましく、7~23重量%がより好ましい。すなわち、上記範囲よりも(B)成分の含有量が少ないと、所望の粘着性(密着性)等が得られず、上記範囲よりも(B)成分の含有量が多いと、圧縮永久歪み等の特性に劣るようになる。
【0036】
<(C)成分>
(C)成分である単官能(メタ)アクリルモノマーは、上記(B)成分を除く、分子構造内に1つの(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である。具体的には、公知のエチレン性不飽和単官能モノマーがあげられ、例えば、上記(A)の主鎖を構成するモノマーとして用いられる(メタ)アクリルモノマーがあげられる。なかでも、本発明の効果をより高める観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸アルキルエステルモノマーが好ましい。なかでも、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸イソデシルがより好ましい。特に好ましくは、アクリル酸n-ブチルである。
【0037】
これら(C)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
(C)成分の含有量は、本発明の効果をより高める観点からは、(A)成分100重量部に対して、0~75重量部であることが好ましく、0~50重量部がより好ましい。
【0039】
(C)成分のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、-40℃以下が好ましく、-50℃以下がより好ましい。(C)成分のガラス転移温度(Tg)が上記温度よりも高くなると、低温における圧縮永久歪み等に劣る傾向がみられる。なお、下限値は特に限定されるものではないが、例えば-100℃である。かかる(C)成分のガラス転移温度(Tg)は、(C)成分である単官能(メタ)アクリルモノマーのホモポリマーを、前記と同様、示差走査熱量計(DSC)によって測定する。
【0040】
<(D)成分>
(D)成分の多官能(メタ)アクリルモノマーは、分子構造内に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である。具体的には、公知のエチレン性不飽和多官能モノマーがあげられ、分子構造内に2つの(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,7-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート等があげられる。
【0041】
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートや、モノペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ポリペンタエリスリトール(メタ)アクリレートなどのペンタエリスリトール構造と(メタ)アクリレート構造を有するペンタエリスリトールアクリレート系化合物等があげられる。
【0042】
これら(D)成分のなかでも、本発明の効果をより高める観点から、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,7-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート系化合物が好ましい。なかでも、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート系化合物がより好ましい。
【0043】
(D)成分の多官能(メタ)アクリルモノマーの分子鎖(主鎖)の炭素数は、6以上であることが好ましい。炭素数が上記数値未満であると、圧縮割れ性に劣る傾向が見られる。
【0044】
これら成分(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、ペンタエリスリトールアクリレート系化合物として、トリペンタエリスリトールアクリレートと、ジペンタエリスリトールアクリレートと、モノペンタエリスリトールアクリレートと、ポリペンタエリスリトールアクリレートとの混合物を用いてもよい。
【0045】
(D)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、1~10重量部であり、本発明の効果をより高める観点から、2~7.5重量部が好ましい。すなわち、上記(D)成分の含有量が上記範囲よりも少ないと、高温圧縮永久歪み等に劣るようになり、上記(D)成分の含有量が上記範囲よりも多いと、耐圧縮性に劣るようになる。
【0046】
<(E)成分>
(E)成分のラジカル重合開始剤としては、エネルギー線を照射することによりラジカルが発生する化合物であれば特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエイト、4-フェニルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン型化合物、t-ブチルアントラキノン、2-エチルアントラキノンなどのアントラキノン型化合物、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン}、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-1-プロパノン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オンなどのアルキルフェノン型化合物、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン型化合物、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド型化合物、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステルなどのフェニルグリオキシレート型化合物等があげられる。なかでも、反応性に優れる観点から、アルキルフェノン型化合物が好ましく、具体的には、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が好ましい。
【0047】
これら(E)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
(E)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して0.01~10重量部であり、なかでも、0.1~10重量部が好ましい。
【0049】
<各種の添加剤>
本発明の燃料電池用部材に係るシール部材の材料としては、上記(A)~(E)成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、下記のフィラー(F)、老化防止剤(G)や、相溶化剤、硬化性調整剤、滑剤、顔料、消泡剤、発泡剤、光安定剤、表面改質剤等、各種の添加剤を配合してもよい。
【0050】
<(F)成分>
(F)成分のフィラーとしては、特に制限されないが、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化チタン、タルク、クレー、ガラスバルーン等があげられ、なかでも補強性に優れることからシリカが好ましい。また、分散性向上の観点から、表面処理剤により疎水化されたシリカがより好ましい。表面処理剤により疎水化されたシリカとしては、例えば、シラン化合物で表面処理されたシリカが好ましく、ジメチルシランで表面処理されたジメチルシリル化シリカ、トリメチルシランで表面処理されたトリメチルシリル化シリカ、オクチルシランで表面処理されたオクチルシリル化シリカ、メタクリロキシシランで表面処理されたメタクリルシリル化シリカがより好ましく、なかでも、トリメチルシリル化シリカ、メタクリルシリル化シリカが特により好ましい。
【0051】
(F)成分の市販品としては、例えば、トリメチルシリル化シリカである「AEROSIL RX200」(AEROSIL社製)、メタクリルシリル化シリカである「AEROSIL R7200」(AEROSIL社製)等があげられる。
【0052】
これら(F)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
(F)成分を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、通常、(A)成分100重量部に対して、1~30重量部である。(F)成分の含有量が上記範囲より多くなると、高粘性を発現しハンドリング性が悪くなる傾向がある。
【0054】
<(G)成分>
(G)成分の老化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、N-フェニル-1-ナフチルアミン、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、ジ(4-オクチルフェニル)アミン、4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンなどのアミン系老化防止剤、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、スチレン化フェノール、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-メチレンビス(2,6-t-ブチルフェノール)、4,4'-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2'-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)などのフェノール系老化防止剤、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール亜鉛塩、2-メルカプトメチルベンズイミダゾールなどのイミダゾール系老化防止剤、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどのイオウ系老化防止剤等があげられる。なかでも、アミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤が好ましく、4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンが好ましい。
【0055】
これら(G)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
(G)成分を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、通常、(A)成分100重量部に対して、0.1~10重量部であり、0.5~5重量部が好ましい。
【0057】
<ラジカル硬化性組成物の調製方法>
本発明の燃料電池用部材に係るシール部材の材料として用いるラジカル硬化性組成物は、例えば、(B)~(E)成分、および、必要に応じて(F),(G)成分等の各種の添加剤を配合して撹拌したものに、(A)成分を加え、ミキサーを用いて混合することにより調製される。また、(F)成分としてシリカなどを配合する場合は、例えば、(B)~(E)成分および各種の添加剤などを配合して撹拌したものに、(F)成分を分散した(A)成分を加え、ミキサーを用いて混合することにより製造される。
【0058】
<燃料電池用部材の製造方法>
本発明の燃料電池用部材は、上記のように調製されたラジカル硬化性組成物を、燃料電池用基材の表面に塗布し、上記塗布がなされた箇所に活性エネルギー線を照射してラジカル硬化性組成物を架橋させ、シール部材とすることにより、製造することができる。上記ラジカル硬化性組成物の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ディスペンサー、スプレー、インクジェット、スクリーン印刷などの各種方法を用いることができる。より具体的には、FIPG(フォームインプレイスガスケット)、CIPG(キュアーインプレイスガスケット)、MIPG(モールドインプレイスガスケット)などのシール方法を用いることができる。上記活性エネルギー線としては、電子線や紫外線等が照射されるが、なかでも、燃料電池用基材へのダメージが少ない紫外線がより好ましい。上記活性エネルギー線の活性エネルギー源としては、公知のものを用いることができ、例えば、高圧水銀灯、ブラックライト、LED、蛍光灯などを用いることができる。なお、上記ラジカル硬化性組成物は、電子線や紫外線等の活性エネルギー線により架橋されるが、必要に応じ、補助的に加熱を行い架橋させてもよい。
【0059】
上記ラジカル硬化性組成物の架橋体(シール部材)のガラス転移温度(Tg)は、-30℃以下である。本発明の効果をより高める観点から、上記ガラス転移温度(Tg)は-35℃以下がより好ましい。なお、上記ガラス転移温度(Tg)の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば-100℃である。かかるガラス転移温度(Tg)は、前記と同様、示差走査熱量計(DSC)により測定される。
【0060】
ここで、本発明の燃料電池用部材の一例(断面図)を、
図1に示す。
図1では、燃料電池用基材として、矩形薄板状を呈し、長手方向に延在する溝が合計六つ凹設された、断面凹凸形状を呈するセパレータ5が使用されている。そして、上記セパレータ5の周縁部に、上記のように調製されたラジカル硬化性組成物を塗布し、上記塗布がなされた箇所に活性エネルギー線を照射して架橋させることにより、矩形状で断面凸部形状のリップ4b(シール部材)を、セパレータ5の表面(周縁部)に強固に直接固着(接着剤レスで密着)した状態で形成することができる。
【0061】
なお、上記燃料電池用基材は、燃料電池の種類、構造などにより様々であるが、上記のようなセパレータ(金属セパレータ、カーボンセパレーターなど)の他、ガス拡散層、MEA(電解質膜、電極)等があげられる。
【0062】
また、上記ラジカル硬化性組成物の架橋体(シール部材)は、膜状のシール部材にすることが容易であり、シール部材の薄膜化により、燃料電池の小型化を実現することができる。具体的には、膜状のシール部材の厚みを50~1,000μm(好ましくは75~900μm、より好ましくは100~800μm)に薄膜化することが容易であり、燃料電池の小型化を実現できる。さらに、上記シール部材は、幅広い温度範囲において、耐へたり性、伸び、耐圧縮性等の特性を満たし、優れたシール性を実現することができる。
【0063】
<燃料電池>
そして、上記のようにして得られた燃料電池用部材を使用し、燃料電池を製造することができる。ここで、
図2は、複数枚のセルが積層されてなる燃料電池における単一のセル1を主として示したものであり、セル1は、MEA2と、ガス拡散層3と、シール部材4と、セパレータ5とを備えている。そして、上記セル1を構成するセパレータ5とMEA2の端部との間が、シール部材4によって封止されている。
【0064】
上記シール部材4は、先に述べた製造方法により、セパレータ5やMEA2と一体的に製造されている。そして、上記シール部材4は粘着性に優れることから、図示のような2個のシール部材4が、接着層を介さなくても密着し、セル1を一体的に製造することができる。このように接着層を別途設ける必要がないため、燃料電池の製造工程の簡略化に寄与することができる。なお、
図2の例において、シール部材4は、上下に分かれた2個の部材を使用しているが、両者を合わせた単一のシール部材であっても差し支えない。
【0065】
MEA2は、図示しないが、電解質膜と、電解質膜を挟んで積層方向両側に配置された一対の電極からなる。電解質膜および一対の電極は、矩形薄板状を呈している。MEA2を挟んで積層方向両側には、ガス拡散層3が配置されている。ガス拡散層3は、多孔質層で、矩形薄板状を呈している。
【0066】
セパレータ5は、カーボンセパレーターもしくは金属製のものが好ましく、導通信頼性の観点から、DLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)やグラファイト膜等の炭素薄膜を有する金属セパレータが特に好ましい。セパレータ5は、矩形薄板状を呈しており、長手方向に延在する溝が合計六つ凹設されており、この溝により、セパレータ5の断面は、凹凸形状を呈している。セパレータ5は、ガス拡散層3の積層方向両側に対向して配置されている。ガス拡散層3とセパレータ5との間には、凹凸形状を利用して、電極にガスを供給するためのガス流路6が区画されている。
【0067】
固体高分子型燃料電池等の燃料電池の作動時には、燃料ガスおよび酸化剤ガスが、各々ガス流路6を通じて供給される。ここで、MEA2の周縁部は、シール部材4によりシールされている。このため、ガスの混合や漏れは生じない。
【実施例0068】
以下、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0069】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0070】
<(A)成分>
アクリロイル基末端ポリアクリレートA1(合成例)
公知の方法(例えば、特開2012-211216号公報記載)に従い、臭化第一銅を触媒、ペンタメチルジエチレントリアミンを配位子、ジエチル-2,5-ジブロモアジペートをラジカル重合開始剤とした。アクリルモノマーとして、アクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチルを50重量部/50重量部用い、アクリルモノマー/ラジカル重合開始剤比(モル比)を180にして重合し、末端臭素基アクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチル共重合体を得た。この共重合体をN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させ、アクリル酸カリウムを加え、窒素雰囲気下、70℃で加熱撹拌した。この混合液中のN,N-ジメチルアセトアミドを減圧留去したのち、残渣に酢酸ブチルを加えて、不溶分を濾過により除去した。濾液の酢酸ブチルを減圧留去して、末端にアクリロイル基を有するアクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチル共重合体[A1]を得た。数平均分子量は23,000、分子量分布は1.1、重合体1分子当たりに導入された平均のアクリロイル基の数を1H-NMR分析により求めたところ約1.9個であった。また、ガラス転移温度(Tg)は-50℃であった。
【0071】
<(B)成分>
ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(Tg:10~15℃、日立化成社製)
イソボニルアクリレート(Tg:97℃、日立化成社製)
【0072】
<(C)成分>
アクリル酸n-オクチル(Tg:-65℃、大阪有機化学工業社製)
【0073】
<(D)成分>
1,9-ノナンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業社製)
【0074】
<(E)成分>
1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(iGM RESINS社製、Omnirad184)
【0075】
[実施例1~8、比較例1~6]
後記の表1および表2に示す各成分を、同表に示す割合で配合し、プラネタリーミキサー(井上製作所社製)で混練することにより、ラジカル硬化性組成物を調製した。
なお、上記により得られた各ラジカル硬化性組成物を、高圧水銀UV照射機(ヘレウス社製、F600V-10)にて紫外線を照射し(照射強度:250mW/cm2、積算光量:3000mJ/cm2)、架橋させたサンプルのガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量計(DSC)により測定した。その結果を、同表1および表2に示す。
【0076】
そして、上記により得られた各ラジカル硬化性組成物に関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、同表1および表2に示す。
【0077】
≪粘着性≫
各ラジカル硬化性組成物を、高圧水銀UV照射機(ヘレウス社製、F600V-10)にて紫外線を照射し(照射強度:250mW/cm2、積算光量:3000mJ/cm2)、厚み1mmの試験用サンプルを得た。そして、室温(25℃)下で、上記試験用サンプルに対し、レスカ社製の定着シミュレータFSR-1000にてSUS304製の測定子を圧縮力0.8MPaで0.5mm/秒の速度で押し込んだ後、10秒保持してから15mm/秒の速度で引き上げた際の剥離力を測定し、以下の基準により粘着性を評価した。
◎:剥離力1.0MPa以上
○:剥離力0.9MPa以上1.0MPa未満
△:剥離力0.8MPa以上0.9MPa未満
×:剥離力0.8MPa未満
【0078】
≪低温圧縮永久歪み≫
上記粘着性試験で作製した試験用サンプルにおける作製条件と同様の条件で、各ラジカル硬化性組成物を用い、直径15mm、厚み1mmの試験用サンプルを得た。そして、上記試験用サンプルについて、JIS K 6262に準拠した低温での圧縮永久歪み試験を行った。すなわち、各サンプルを、圧縮率25%で圧縮し、その状態で-30℃×24時間の保管を行った後、-30℃環境下で圧縮を解放し、上記環境下で30分間経過した後の各サンプルの厚みを測定して、圧縮永久歪み(%)を算出し、以下の基準により評価した。
◎:30%未満
○:30%以上40%未満
△:40%以上50%未満
×:50%以上
【0079】
≪低温圧縮割れ≫
上記低温圧縮永久歪みの試験に際し、圧縮率を50%に変更した。それ以外は、上記試験と同様の条件により試験を行い、各サンプルの割れの有無を目視にて確認した。
○:割れ無し
×:割れ有り
【0080】
≪高温圧縮永久歪≫
前記粘着性試験で作製した試験用サンプルにおける作製条件と同様の条件で、各ラジカル硬化性組成物を用い、直径15mm、厚み1mmの試験用サンプルを得た。そして、上記試験用サンプルについて、JIS K 6262に準拠した高温での圧縮永久歪み試験を行った。すなわち、各サンプルを、圧縮率25%で圧縮し、その状態で120℃×24時間の加熱を行った後、圧縮を解放し、室温(25℃)下で30分間経過した後の各サンプルの厚みを測定して、圧縮永久歪み(%)を算出し、以下の基準により評価した。
◎:20%未満
○:20%以上25%未満
△:25%以上30%未満
×:30%以上
【0081】
<高温圧縮割れ>
上記高温圧縮永久歪みの試験に際し、圧縮率を50%に変更した。それ以外は、上記試験と同様の条件により試験を行い、各サンプルの割れの有無を目視にて確認した。
○:割れ無し
×:割れ有り
【0082】
【0083】
【0084】
上記表1の結果から、本発明に規定の各要件を充足する実施例1~8では、粘着性(密着性)、低温における圧縮永久歪みおよび圧縮割れ(耐圧縮性)の評価に優れるとともに、高温における圧縮永久歪みおよび圧縮割れの各評価においても良好な結果が得られることがわかる。そのため、これらは、燃料電池用部材のシール材として優れた性能を発揮することができる。
【0085】
これに対し、上記表2の結果から、比較例1では、本発明の(B)成分を含有しておらず、粘着性(密着性)評価に劣る結果となった。比較例2,4では、[(B)/{(A)+(B)+(C)}]の値が本発明に規定の範囲よりも小さいため、粘着性(密着性)評価に劣る結果となり、比較例3では、[(B)/{(A)+(B)+(C)}]の値が本発明に規定の範囲よりも大きいため、圧縮永久歪み等の評価に劣る結果となった。比較例5では、本発明の(D)成分の含有量が本発明に規定の範囲よりも少ないため、高温圧縮永久歪みの評価において劣る結果となり、比較例6では、本発明の(D)成分の含有量が本発明に規定の範囲よりも多いため、低温および高温での圧縮割れがみられる結果となった。そのため、これら比較例では、上記実施例のような、燃料電池用部材のシール材としての性能を発揮することができなかった。
本発明の燃料電池用部材は、燃料電池を構成する部材に用いられ、例えば、金属セパレータなどの燃料電池用基材と、それをシールするゴム製のシール部材とが接着剤レスで一体化されてなるものである。そのため、接着剤の使用が懸念されるシール体等に利用可能である。