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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057154
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】滑り案内面用シート材
(51)【国際特許分類】
   B23Q 1/26 20060101AFI20220404BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20220404BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B23Q1/26 Z
C08L27/18
C08K3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165266
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】福澤 覚
【テーマコード(参考)】
3C048
4J002
【Fターム(参考)】
3C048BB10
3C048CC01
4J002BD151
4J002DA066
4J002DA076
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性に優れるとともに歪みが抑制されたシート材において、シート材をロールの形態から伸ばしても歪み形状への戻りが無い工作機械用の滑り案内面用シート材を提供する。
【解決手段】シート材4は、工作機械の案内構造における被案内面に設けられ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を主成分とするスカイブシートの圧縮および延伸加工体で、ロール6の形態で保管または出荷されるシート材4であり、ロール6の巻き始めの内周側直径Dがφ150mm~φ300mmであり、シート材4の幅が250mm~1000mmで長さが3m~35mである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の案内構造における案内面または被案内面を形成する滑り案内面用シート材であって、
前記滑り案内面用シート材は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を主成分とするスカイブシートの圧縮および延伸加工体で、ロールの形態で保管または出荷されるシート材であり、
前記ロールの巻き始めの内周側直径が、φ150mm~φ300mmであることを特徴とする滑り案内面用シート材。
【請求項2】
前記滑り案内面用シート材は、幅250mm~1000mm、かつ、長さ3m~35mであることを特徴とする請求項1記載の滑り案内面用シート材。
【請求項3】
前記滑り案内面用シート材は、前記スカイブシートよりもシート厚さが1.5%~10%薄いことを特徴とする請求項1または請求項2記載の滑り案内面用シート材。
【請求項4】
前記滑り案内面用シート材は、前記スカイブシートよりも比重が0.01~0.04大きいことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の滑り案内面用シート材。
【請求項5】
前記滑り案内面用シート材が、鉄よりも硬度の低い非鉄金属の粉末を含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の滑り案内面用シート材。
【請求項6】
前記滑り案内面用シート材のシート厚さが0.5mm~2.5mmであることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の滑り案内面用シート材。
【請求項7】
前記工作機械の案内構造において、前記滑り案内面用シート材は、基材に接着されて前記案内面または被案内面を形成し、少なくとも前記基材に接着される側の表面に、前記基材との接着力を付与する接着可能化処理面が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の滑り案内面用シート材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のワークテーブルなどを案内する構造に用いられる工作機械の滑り案内面用シート材に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械において、工作物の支持台を案内する案内面と、この案内面に案内される被案内面のいずれかまたは両面は、滑り案内されることが周知である。例えば、特許文献1には、案内面または被案内面に、フッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物のシート材が接着されている。この工作機械の滑り案内面用シート材(以下、案内シート材、またはシート材ともいう)は、圧縮成形体からスカイブ加工によりシート状に加工されたものである。
【0003】
例えば、案内シート材として、その必要特性を確保するため、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂を主成分として、銅や銅合金の粉末などを含有するシート材(特許文献2参照)や、PTFE樹脂を70~90質量%、ポリオキシベンゾイルおよびポリフェニレンスルフィドの少なくともいずれかを10~30質量%含有するシート材(特許文献3参照)が知られている。
【0004】
一般に、案内シート材と相手摺動面は油潤滑されており、案内シート材の表面には、相手摺動面との高精度な面当たりのため、きさげ加工が施されている。きさげ加工によって形成された凹部はオイルポケットの役割を担い、これにより滑り案内面間へ潤滑油が供給される。しかし、工作機械の実稼働によって金属などの切削粉が発生し、その切削粉が滑り案内面間に混入すると、樹脂製の案内シート材の摩耗が促進され、当初予測されていたシート材の寿命が著しく短くなるおそれがある。
【0005】
また、従来の案内シート材は、流動性が極めて低いPTFE樹脂がベース材であることや、PTFE樹脂の2倍以上の比重を有する銅合金粉末を含有することから、圧縮成形および熱処理により作製されたビレットを用いてスカイブ加工を行ったシート材には歪みが発生することがある。具体的には、シート材をスカイブ方向に伸ばした時にシートの両側面付近に、波状のうねり(非平坦性)が発生することや、平面上で長手方向のいずれか一方の側面側に向かって湾曲する(非直進性)こと、幅方向がU字状に湾曲する(非平面性)ことがあった。このように形状に歪みが発生したシート材に対しては、歪みが無い部分を切り出して使用したり、歪みが製品機能上影響の無い程度の部分を切り出して使用するなどして対応しており、低価格化を困難にする要因となっていた。
【0006】
このような問題に対して、本出願人により、工作機械用の滑り案内面用シート材において、スカイブシートをカレンダー加工によって圧縮加工および圧延加工することで、耐摩耗性に優れ、歪みが抑制されたシート材とする技術が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3-149147号公報
【特許文献2】特開2007-61955号公報
【特許文献3】特開昭60-127933号公報
【特許文献4】特開2020-127999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シート材を保管または出荷する場合、以下の理由からシート材の形態を考慮する必要がある。例えば、シート材を出荷する際、シート材の長さが2m未満であれば、シート材を拡げた状態(伸ばした状態)で配送することは容易であるが、配送の効率化、保管時の省スペース化、および工作機械への使用時の作業性などを考慮すると、ロール状に巻いた状態(ロールの形態)にしておくことが望ましい。
【0009】
しかし、保管または出荷によりシート材(例えば長さが2m以上)をロールの形態にした場合、その形態からシート材を拡げると、シート材の幅方向の形状がU字状に湾曲し、加工前の元の状態に戻るおそれがある。この場合、工作機械への使用に際して、所定形状へカットしにくくなる。また、幅方向に湾曲した歪み形状への戻りは、シート材のサイズがより大きい場合、例えば幅250mm以上で長さ3m以上の場合に、より起こりやすくなる。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性に優れるとともに歪みが抑制された工作機械用の滑り案内面用シート材において、シート材をロールの形態から伸ばしても歪み形状への戻りが無い工作機械用の滑り案内面用シート材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の滑り案内面用シート材は、工作機械の案内構造における案内面または被案内面を形成する滑り案内面用シート材であって、上記滑り案内面用シート材は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を主成分とするスカイブシートの圧縮および延伸加工体で、ロールの形態で保管または出荷されるシート材であり、上記ロールの巻き始めの内周側直径が、φ150mm~φ300mmであることを特徴とする。
【0012】
上記滑り案内面用シート材は、幅250mm~1000mm、かつ、長さ3m~35mであることを特徴とする。ここで、幅、および長さはそれぞれ、伸ばした状態のシート材の幅、および長手方向の長さ、を意味する。
【0013】
上記滑り案内面用シート材は、上記スカイブシートよりもシート厚さが1.5%~10%薄いことを特徴とする。
【0014】
上記滑り案内面用シート材は、上記スカイブシートよりも比重が0.01~0.04大きいことを特徴とする。
【0015】
上記滑り案内面用シート材が、鉄よりも硬度の低い非鉄金属の粉末を含有することを特徴とする。
【0016】
上記滑り案内面用シート材のシート厚さが0.5mm~2.5mmであることを特徴とする。
【0017】
上記工作機械の案内構造において、上記滑り案内面用シート材は、基材に接着されて上記案内面または被案内面を形成し、少なくとも上記基材に接着される側の表面に、上記基材との接着力を付与する接着可能化処理面が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の滑り案内面用シート材は、PTFE樹脂を主成分とするスカイブシートの圧縮および延伸加工体であるので、低摩擦特性に優れ、耐油性および耐クーラント性に優れる。また、耐摩耗性に優れるとともに、圧縮加工および延伸加工をしていないスカイブシート(以下、圧縮加工および延伸加工をしていないスカイブシートを単にスカイブシートと呼ぶ)の歪みが矯正され、シート材の形状の歪みを抑えることができる。さらに、このシート材は、ロールの形態で保管または出荷されるものであり、このロールの巻き始めの内周側直径がφ150mm~φ300mmであるので、ロールの形態からシート材を伸ばしても歪み形状への戻りを防止できる。
【0019】
滑り案内面用シート材は、幅250mm~1000mmで長さ3m~35mであるので、通常は、ロールの形態からシート材を伸ばした時に歪み形状へ戻りやすい大きさでありながら、本発明では歪み形状への戻りを効果的に防止でき、工作機械の使用現場での作業性を低下させるおそれが無い。
【0020】
滑り案内面用シート材は、スカイブシートよりもシート厚さが1.5%~10%薄いので、耐摩耗性をより向上できる。
【0021】
滑り案内面用シート材は、スカイブシートよりも比重が0.01~0.04大きいので、耐摩耗性をさらに向上できる。また、滑り案内面用シート材が、鉄よりも硬度の低い非鉄金属の粉末を含有するので、PTFE樹脂製の案内シート材に耐摩耗性と耐圧縮性を付与でき、シート材として優れた特性が得られる。
【0022】
滑り案内面用シート材のシート厚さが0.5mm~2.5mmであるので、直進性、平面性、平坦性に優れた形状が得られ、形状の歪みが無いまたは歪みが少ないシート材となる。なお、案内面用シート材において、最も需要が高いシート厚さは0.8mm~1.5mmの範囲である。そのため、需要が低いシート厚さの案内シート材に対しても、耐摩耗性が向上した本発明による案内シート材の提供が可能である。
【0023】
工作機械の案内構造において、滑り案内面用シート材は、基材に接着されて案内面または被案内面を形成し、少なくとも基材に接着される側の表面に、基材との接着力を付与する接着可能化処理面が形成されているので、接着剤で基材との接着が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】工作機械の案内構造の一例を示す模式断面図である。
図2】本発明の滑り案内面用シート材の平面図である。
図3】ロール形態のシート材の斜視図および側面図である。
図4】スカイブシートの圧縮加工などを行うカレンダー機の概略図である。
図5】シート材の斜視図および断面図である。
図6】カレンダー加工前後のシート材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の滑り案内面用シート材について、図1に基づいて説明する。図1は工作機械の案内構造の一例を示す模式断面図である。工作機械1の案内構造は、工作物の支持台であるテーブル2を案内するサドル3の上面の案内面3aと、この案内面3aに摺接して案内される被案内面と、これら案内面3aと被案内面との間に介在する潤滑油とを備えている。
【0026】
本発明の滑り案内面用シート材は、案内面または被案内面を形成する摺動部材であり、図1のシート材4が相当する。図1では、シート材4の下面が被案内面4aを形成する。この案内構造は、テーブル2がサドル3上を移動しても、テーブル自体は直接案内面3aと接触せず、テーブル2の下部に設けられたシート材4の被案内面4aが案内面3aと摺動する構造である。シート材4は、接着層5を介して、テーブル2に接着固定されている。
【0027】
接着層5に用いられる接着剤としては、周知の接着剤を適宜使用できる。例えば、エポキシ系接着剤、フェノール系接着剤、ビニルエーテル系接着剤、ビニルアセタール系接着剤などが使用できる。これらの中でも、接着力および耐油性、耐クーラント性に優れるN-5接着剤(NTN株式会社製商品名)などのエポキシ系接着剤を用いることが好ましい。
【0028】
図2には、シート材4の平面図を示す。図2に示すように、シート材4は、平面視矩形状の長尺シートである。シート材4の長手方向(X軸方向)が、スカイブ加工におけるスカイブ方向であり、シート材4の幅方向がY軸方向に相当する。シート材4の長手方向長さは、例えば3~50mであり、使用用途に応じて適宜切断して使用される。シート材4の幅方向長さは、例えば100~1000mmである。また、シート材の片面または両面には、PTFE樹脂にヌレ性を付与し、基材との接着力を高める接着可能化処理が施された接着可能化処理面が形成されている。接着可能化処理としては、コロナ放電処理、スパッタエッチング処理、プラズマエッチング処理、アンモニア化成処理などの表面エッチング処理、紫外線照射処理などが挙げられる。
【0029】
本発明の滑り案内面用シート材は、PTFE樹脂を主成分とする圧縮成形体から、スカイブ加工により得られたスカイブシートを素形材として用いる。スカイブ加工とは、旋盤によって圧縮成形体の表面から桂剥きのように薄くシートを削り出す加工方法であり、PTFE樹脂のシート加工には広く採用される加工方法である。上述のとおり、従来のスカイブシートをカットしたシート材は、スカイブ方向に伸ばした時にシートの両側面付近に、波状のうねり(非平坦性)や、平面上で長手方向のいずれか一方の側面側に向かって湾曲する(非直進性)、幅方向がU字状に湾曲する(非平面性)といった形状の歪みが発生することがあり、改善の余地があった。
【0030】
これに対して特許文献4に記載のシート材はスカイブシートの両面が圧縮された圧縮加工体であり、例えばシート材4のシート厚さtをスカイブシートのシート厚さTよりも1.5%~10%薄くすることにより、未加工のシート材に対して、平坦性が約1/15~1/20、直進性が約1/20~1/30、平面性が約1/15~1/18となり、未加工のシート材の形状の歪みがほぼ消滅または著しく減少する。しかし、このような圧縮加工体であっても、シート材をロールの形態で保管または出荷し、その後に伸ばすと、加工前の元のU字状の湾曲形状へと変形して戻る、すなわち非平面性が元に戻るおそれがある(後述の比較例1、2を参照)。
【0031】
本発明ではこの非平面性の戻りを防止するため、スカイブシートの圧縮(および延伸)加工体であって、ロールの形態で保管または出荷される滑り案内面用シート材において、そのロールの巻き始めの内周側直径をφ150mm~φ300mmにすることを特徴としている。内周側直径がφ150mm未満の場合、非平面性の戻りを完全に防止できないおそれがある。なお、内周側直径の上限値は、現実的にシート材の保管および出荷を考慮すると、φ300mm以内であることが好ましい。ロールの巻き始めの内周側直径は、非平面性の戻りの抑制と、ロールの小型化の観点から、φ180mm~φ230mmとすることがより好ましい。
【0032】
図3には、ロール形態のシート材の一例を示す。図3(a)はロールの斜視図であり、図3(b)はロールを芯材方向に見た側面図である。シート材4は芯材7を中心に巻かれており、ロール6のシート材4の間は隙間なく巻かれている。図3(b)に示すように、芯材7の外周の直径は、ロール6の巻き始めのシート材4の内周側直径Dと同じである。ロール6の外周側直径は、例えば200mm~500mmであり、取扱いやすい重量や、大きさとなるよう、芯材やシートの長さを選択することができる。なお、心材7は必ずしも使用しなくても良い。
【0033】
また、本発明に係るシート材は、幅250mm~1000mm、かつ、長さ3m~35mであることが好ましい。シート幅が250mm未満の場合、シート材がロールの形態で保管または出荷されても、作業性が低下する程度に非平面性が戻ることは無い。シート幅の上限値が1000mmの理由は、シート幅が1000mmを超える場合、スカイブシートの製造が困難なためである。長さが3m未満の場合、シート材を拡げた状態で保管または出荷しても、保管性、取り扱い性の低下は小さく、また、ロールの形態で保管または出荷しても、作業性が低下する程度に非平面性が戻ることは無い。長さの上限値が35mの理由は、シート長さが35mを超える場合、スカイブシートを製造するビレットの製造が容易でなくなるためである。
【0034】
本発明に係るシート材4は、スカイブシートの両面が圧縮加工および延伸加工された加工体である。シート材4のシート厚さtは、スカイブシートのシート厚さTよりも1.5~10%薄いことが好ましい。これにより、シートの密度が増加し耐摩耗性が向上するとともに、上述のとおり、スカイブシートの形状の歪みを矯正でき、歪みが抑制されたシート材が得られる。シート厚さの変化量が1.5%未満であれば、耐摩耗性の向上効果が得られないおそれがあり、10%を超えると形状の歪みが逆に大きくなるおそれがある。シート厚さの変化量は、より好ましくは2~10%である。例えば、スカイブシートのシート厚さTが1.55mmの場合、シート材4のシート厚さtは、1.40~1.52mmである。シート厚さの変化量は、圧縮率(%)として下記の式で算出される。
【0035】
圧縮率=((スカイブシートのシート厚さT)-(シート材4のシート厚さt))/(スカイブシートのシート厚さT)×100
圧縮率が7%を超えると耐摩耗性の向上効果は頭打ちとなるため、費用対効果を考慮すると圧縮率は2~7%が好ましい。より好ましくは、圧縮率が4~7%である。
【0036】
シート材4のシート厚さtは0.50~2.50mmであることが好ましい。シート厚さtが0.50mm未満であると、シート材を工作機械に接着した後の後加工がしづらくなるおそれがあり、シート厚さtが2.50mmを超えると、コスト増や歪みの矯正のための所要時間が長くなり生産性が低下するおそれがある。
【0037】
本発明のシート材は、スカイブシートの両面が圧縮された圧縮加工体であるので、スカイブシートに比べて、両面の平滑性が高くなり表面粗さが小さくなる。表面粗さの指標としては算術平均粗さRaを用いることができ、例えば、スカイブシートの算術平均粗さRaが2~5μmであるのに対して、本発明の案内シート材の算術平均粗さRaは、1~3μmである。例えば、本発明のシート材のRaは、スカイブシートのRaよりも25%~50%程度小さくなる。
【0038】
圧縮加工と同時に延伸加工を行うことで、シートの非直進性や非平坦性や非平面性の矯正効果が高くなる。圧縮加工および延伸加工後はシート材の密度が向上するため、これらの加工前後でシート材の状態が変化する。両平面の圧縮前後で、密度は0.01~0.04上昇する。圧縮加工および延伸加工によってシート材の密度が高くなり耐摩耗性が向上する。さらに、スカイブシートの平面性、平坦性が矯正される。
【0039】
シート材4は、PTFE樹脂を主成分として含む樹脂組成物の成形体である。PTFE樹脂は、摩擦係数が低く、耐熱性や、耐油性、耐クーラント性に優れる。
【0040】
シート材4に用いる樹脂組成物には、鉄よりも硬度の低い非鉄金属の粉末を含有することが好ましい。鉄よりも硬度が低い非鉄金属の粉末を用いるのは、シート材の相手摺動面(図1のサドル3の案内面3a)は、通常、鋳物などの鉄系金属から構成されており、その相手摺動面の摩耗を防止するためである。また、鉄よりも硬度の低い非鉄金属の粉末を含むことで、シート材4に耐摩耗性と耐圧縮性も付与できる。
【0041】
また、上記非鉄金属の粉末は、上記樹脂組成物全体に対して35~60質量%含まれることが好ましい。非鉄金属粉末の含有量が35質量%未満であると、強度(例えば、クリープ面での強度)や耐摩耗性を大きく向上させることが困難であり、60質量%を超えると、PTFE樹脂の有する低摩擦特性が損なわれるおそれがあるからである。したがって、非鉄金属の粉末の含有量を上記範囲内とすることで、PTFE樹脂の有する低摩擦特性を損なうことなく強度や耐摩耗性を向上させることができ、クリープ変形を生じ難くして案内精度の低下を防止することができる。また、非鉄金属粉末の含有量は、より好ましくは40~50質量%である。
【0042】
硬度の低い非鉄金属の粉末としては、銅や銅合金の粉末を用いることが好ましい。これらの粉末は、鉄よりも硬度が低い上、非鉄金属の中でも摩擦係数が低く、コストが安く、加工し易いといった利点を有する。銅合金は、銅と錫または銅と亜鉛からなる銅合金であるので、相手材を摩耗させることがなく、高荷重にも耐える工作機械用摺動部材となる。
【0043】
銅や銅合金の粉末を用いる場合、銅や銅合金の粉末の粒径を2~150μmとすることが好ましい。粒径が150μmを超えると、銅や銅合金の比重が大きいことから、粉末をPTFE樹脂中に均一に分散させることが困難となり、強度や耐摩耗性にムラやバラツキが生じるおそれがある。また、2μm未満であっても、粉末をPTFE樹脂中に均一に分散させることが困難となる。なお、粒径は、例えば、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置などを用いて測定することができる。
【0044】
以上より、主成分のPTFE樹脂に非鉄金属の粉末として銅または銅合金を含む樹脂組成物が好ましい。さらに、銅または銅合金の粉末の含有量を35~60質量%とすることで、PTFE樹脂の有する低摩擦特性を損なうことなく強度や耐摩耗性を向上させることができ、クリープ変形を生じ難くして案内精度の低下を防止することができる。また、銅または銅合金の粉末の粒径を2~150μmとすることで、当該粉末をPTFE樹脂中に均一に分散させて強度や耐摩耗性を均一にすることができる。
【0045】
上述したように、本発明の案内シート材は、スカイブ加工により得られたPTFE樹脂シートの両平面が圧縮加工および延伸加工された加工体である。この加工方法について図4に基づいて説明する。図4は、圧縮および延伸加工を行うカレンダー機の概略図である。カレンダー機11は、スカイブシートSを供給する巻出しローラ12と、スカイブシートを加熱圧縮する加熱ローラ13と、水冷ローラ14と、加工後のシート材を巻取る巻取りローラ15とを有する。スカイブシートSは、巻出しローラ12から、矢印の向きに送られ、加熱ローラ、水冷ローラを経由して、巻取りローラ15に巻取られる。
【0046】
圧縮加工は、一対のローラ(上ローラ13aと下ローラ13b)からなる加熱ローラ13によって行われる。スカイブシートSは、加熱された上下2本のローラ間を通過し、このローラ間に挟み込まれることで圧縮加工が行われる。両ローラは互いに押し付けられている。ローラ間荷重はスカイブシートのシート厚さにもよるが、例えば1~10kNであり、好ましくは3~6kNである。また、両ローラの表面は平滑に形成され、表面粗さはRa=0.01~0.10μmであることが好ましい。
【0047】
上下2本のローラ13a、13bは、PTFE樹脂の融点よりも低い温度に加熱することが好ましく、PTFE樹脂のガラス転移温度を超え、かつ、融点よりも低い温度であることがより好ましい。ただし、PTFE樹脂製スカイブシートは加熱されることで変色するおそれがあるため、変色しない程度の温度に設定することが必要である。上下2本のローラをPTFE樹脂の融点よりも低い温度に加熱することにより、圧縮加工後のシート材が素形材の歪み形状に戻ることを防止でき、平坦性、平面性が向上する。加熱ローラ13の温度は150~250℃が好ましく、180~230℃がより好ましい。
【0048】
延伸加工は、上下2本の加熱ローラ間を境として、スカイブシートS(巻出し側シート)と、圧縮加工された後のシートS’(巻取り側シート)にそれぞれ張力を加えることで行われる。図4のカレンダー機11のように、巻出しローラ12から巻き出されたスカイブシートSは、上ローラ13aと下ローラ13bのローラ間に挟み込まれるとともに上ローラ13aの表面の約1/2に密接しているため、巻出しローラ12の回転トルクを制御することで巻出し側シートにかかる巻出し張力をコントロールすることができる。また、上ローラ13aと下ローラ13bのローラ間に挟み込まれるとともに下ローラ13bの表面の約1/2に密接しているため、巻取りローラ15の回転トルクを制御することで巻取り側シートにかかる巻取り張力をコントロールすることができる。巻出し張力および巻取り張力は、例えば、300~1000Nである。
【0049】
巻出し側シートに張力をかけることによって、加熱ローラ間を通過する時のスカイブシートの形状が平坦となり、圧縮加工によって矯正されたシートS’の平面性および平坦性が優れたものになる。巻取り側シートに張力をかけることによって、圧縮加工されたシートS’の形状をさらに矯正することができ、直進性が優れたものとなる。また、皺が発生せず完成度の高いシート材とすることができる。
【0050】
加熱ローラ13間を通過したシートS’は、水冷ローラ14によって冷却されて巻取りローラ15により巻き取られる。巻き取られたシートが、本発明に係るシート材である。このようにスカイブシートに対し、表面平滑な上下2本の加熱ローラにて圧縮加工を施すとともに、所定の張力をかけた延伸加工を施すことで、耐摩耗特性に優れ、形状の歪みが無くまたは歪みが少なくなったシート材となる。
【0051】
シート材を出荷または保管する場合、シート材を巻いたロールの形態にする必要がある。ロールの形態にすることで、容積が小さくなり、取り扱いが容易になるためである。例えば、従来、ロールの巻き始めの内周側直径をφ100mm程度とし、ロールの形態とする場合があった。巻き始めの内周側直径をφ100mm程度にするのは、これ以上小さく巻くと、巻き癖が強くなり現場での取り扱い性が悪くなるおそれがあるためである。
【0052】
しかし、カレンダー加工することで形状の歪みを矯正したシート材を、従来のようにロールの巻き始めの内周側直径をφ100mm程度にしてロール形態にすると、シート材を伸ばした時に、幅方向の形状が元のU字状の湾曲形状へと、元に戻るおそれがある。特に、幅250mm以上、かつ、長さ3m以上のシート材を巻いてロールの形態とし、一定時間保管すると、幅方向の形状が元のU字状の湾曲形状に戻り、工作機械への使用に際して、所定形状へのカットがしにくくなる(後述の比較例1、2)。これに対し、シート材のロールへの巻き始めの内周側直径をφ150mm以上にすることで解決できることが実験により判明した(後述の実施例1~3)。
【実施例0053】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
PTFE樹脂を55質量%、銅錫合金粉末を45質量%含む原料粉末(樹脂組成物)を所定条件で圧縮成形し、焼成することでPTFE樹脂製の円筒状の圧縮成形体(ビレット)を製造した。このビレットをスカイブ旋盤に取り付け、スカイブ加工によって、シート厚さ1.35mm、幅方向長さ330mm、長手方向長さ25mのスカイブシートを得た。
【0055】
図5には、得られたスカイブシートを示す。図5(a)はスカイブシートを長手方向に伸ばした状態の斜視図である。また、図5(b)はスカイブシートの長手方向に垂直な断面図であり、図5(a)におけるA-A線断面図である。
図5(a)に示すように、スカイブシートSは、シートの両側面付近に、波状のうねりが発生し、非平坦性の状態となっている。また、図5(b)に示すように、スカイブシートSは幅方向がU字状に湾曲し非平面性を示している。スカイブシートの非平面性は、図5(b)に示すように、スカイブシートSを床面に置いた状態での最下部から最上部までの高さHを定規により測定し、得られた高さを幅方向のU字状の湾曲の量として評価した。本試験で用いたスカイブシートの非平面性は、30~35mmであり、比重は、3.37であった。得られたスカイブシートは、図4で示したカレンダー機を用い、表1に示す加工条件にて圧縮加工および延伸加工(カレンダー加工)を行い、シート材を得た。
【0056】
【表1】
【0057】
図6には、スカイブシートへカレンダー加工をする前後での状態の直進性の変化を示す。図6(a)はスカイブシートを長手方向に伸ばした状態であり、図6(b)はシート材を長手方向に伸ばした状態である。
図6(a)に示すように、スカイブシートSは、長手方向の左側の側面に向かって湾曲し、非直進性を示している。一方、図6(b)に示すように、スカイブシートへカレンダー加工を行ったシートであるシート材4は、いずれの方向にも湾曲せず、直進性を示している。
【0058】
得られたシート材は、シート厚さ1.30mm(スカイブシートの厚さに対して、3.8%薄い)、比重3.39であった。
得られたシート材に対して、幅方向の形状変化評価を以下の手順で行った。
まず、シ-ト材の長さを5mにカットし、幅方向のU字状の湾曲の量を測定し初期値とした。5mのシート材を、ロールの巻き始めの内周側直径がそれぞれφ100mm(比較例1)、φ130mm(比較例2)、φ150mm(実施例1)、φ180mm(実施例2)、φ200mm(実施例3)、のロール形態とし、ロール形態のままで30日間放置した。その後、ロールからシート材を伸ばして幅方向のU字状の湾曲の量を測定した。測定後、シート材を一回目と同じ内周側直径で再度巻き直してロール形態とし、さらに30日間経過後(トータル60日間)に幅方向のU字状の湾曲の量を測定した。同様の手法でロール形態としてさらに30日間経過後(トータル90日間)のシート材について、同様の測定を行った。なお、湾曲の量の測定は、各測定ごとに同一の場所で行った。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2のとおり、本発明品である実施例1、2、3のシート材は、90日間ロールの形態で放置しても、非平面性の戻りは無かった。それに対し、比較例1、2は、30日間ロールの形態で放置すると、非平面性がカレンダー加工する前と同等に変化した。
なお、実施例1~3、比較例1、2のシート材も、平坦性と直進性は、90日間ロール状で放置してもカレンダー加工の直後の形状を維持していた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の滑り案内面用シート材は、耐摩耗性に優れ、歪みが抑制されるとともに、ロールの形態からシート材を伸ばしても歪み形状への戻りが無いので、出荷時または保管時の取り扱い性を担保しながら、歪みにより削除される部分を低減でき、生産性を向上でき、工作機械用の滑り案内面用シート材として広く使用できる。
【符号の説明】
【0062】
1 工作機械
2 テーブル
3 サドル
4 シート材
5 接着層
6 ロール
7 芯材
11 カレンダー機
12 巻出しローラ
13 加熱ローラ
14 水冷ローラ
15 巻取りローラ
S スカイブシート
S’ シート(滑り案内面用シート材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6