(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057175
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】熱感知器
(51)【国際特許分類】
G08B 17/06 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
G08B17/06 K
G08B17/06 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165287
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】大下 剛
(72)【発明者】
【氏名】沼澤 隆
(72)【発明者】
【氏名】田村 政徳
【テーマコード(参考)】
5C085
【Fターム(参考)】
5C085AA01
5C085AB01
5C085BA12
5C085CA21
5C085FA11
(57)【要約】
【課題】外観を損ねることなく、また天井等に設置されている状況で離れた位置からしかも任意の方向から容易に感知器の種類を識別できるようにする。
【解決手段】熱感知素子を囲み作動表示を行う光透過部材を備えた熱感知器において、
前記光透過部材の表面の一部または全面に筐体の表面色と同一系統の色の被膜を形成することにより、前記熱感知素子を中心としたリング形状のパターンを形成し、形成したパターンの態様により熱感知器の種類を表すように構成した。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱感知素子を囲み作動表示を行う光透過部材を備えた熱感知器であって、
前記光透過部材の表面の一部または全面に筐体の表面色と同一系統の色の被膜を形成することにより、前記熱感知素子を中心としたリング形状のパターンを形成し、形成したパターンの態様により熱感知器の種類を表すようにしたことを特徴とする熱感知器。
【請求項2】
有底筒形の本体ケースと、該本体ケースの開口側を覆う外カバー部材とからなる筐体の内部に、熱感知素子および検出回路を構成する部品が実装された回路基板が収納され、前記外カバー部材の前記熱感知素子に対応した位置に開口が形成されている熱感知器であって、
前記回路基板に実装された発光素子と、
前記熱感知素子の径よりも内径の大きな挿通用円筒部および該挿通用円筒部より前記回路基板から遠ざかる方向に広がるすり鉢状部を有し光透過部材により形成された内カバーと、を備え、
前記内カバーは導光部を備え、前記熱感知素子の基部が前記挿通用円筒部に位置し、前記導光部が前記発光素子に対向するように配設され、
前記内カバーの表面に、同心円状に種類識別用のリング状パターンの形成領域を設定し、設定した前記リング状パターンの形成領域に形成したリング状パターンが熱感知器の種類に応じて異なることを特徴とする熱感知器。
【請求項3】
前記すり鉢状部の内側表面に、前記外カバー部材の表面と同一系統の色のインクまたは塗料の薄膜からなる被膜が形成され、
前記リング状パターンは、前記被膜が形成されていない領域で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の熱感知器。
【請求項4】
前記内カバーには、前記すり鉢状部の前記挿通用円筒部と反対側の端部に鍔部が設けられ、
前記鍔部の表面を第1のリング状パターン形成領域とし、
前記すり鉢状部の内側表面を第2のリング状パターン形成領域とすることを特徴とする請求項3に記載の熱感知器。
【請求項5】
前記内カバーの前記鍔部の表面には前記被膜が形成されておらず、前記外カバー部材の前記開口の縁部を構成する部材によって前記鍔部の表面の外側部分が覆われることで、外カバーで覆われない内側縁部に前記リング状パターンが視認されるように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の熱感知器。
【請求項6】
前記すり鉢状部の内側表面には、前記リング状パターンと直交する半径方向の直線状パターンが形成され、前記直線状パターンと前記リング状パターンとの組み合わせが熱感知器の種類に応じて異なることを特徴とする請求項3~5のいずれかに記載の熱感知器。
【請求項7】
前記内カバーの鍔部のすり鉢状部側に上部が丸みを有し上面視でリング状をなすリブを設けたことを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載の熱感知器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災発生等に伴う熱を検知する熱感知器に関し、特に熱感知器の種類 (種別)を識別できるようにしたい場合に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
火災感知器には、サーミスタのような熱感知素子を使用した熱感知器、火災に伴い発生する煙を検知する光電素子を備えた煙感知器、炎から発する赤外線を検知する赤外線センサを備えた赤外線感知器などの種々の形式のものが提供されている。さらに、同一形式の火災感知器で基本構造は同じであっても、検知方式が異なるものや防水型とそうでないものなど種類が異なるものがある。そのため、建造物への火災感知器の設置に際しては、火災感知器の種類(種別)を確認した上で設置することが必要となる。また、感知器の設置後に適切な感知器の設置がなされているか、感知器の種類(種別)を確認したい場合もあり、離れた位置から感知器の種類の確認ができることが必要となる。
そこで、従来は火災感知器の筐体の表面に種類(種別)の識別用のシールを貼付したり、特許文献1に記載されている発明のように、防虫網の色彩を変えて識別できるようにしたりしている。また、火災感知器は、非発報状態では目立たないように、筐体(ケース)として白色を基調としたものが多い。
【0003】
一方、火災感知器は火災検出時又は点検などで作動確認の際に点灯又は点滅する作動表示灯を備えており、その作動表示灯は、例えば天井面に設置された状態で、視認性が良好となることが要求される。
また、火災感知器のうちサーミスタを使用した熱感知器は、一般に、ドーム型の筐体の中央に熱感知素子としてのサーミスタを配設し、サーミスタが下向きとなるように、筐体を建造物の天井面等に取り付けて火災の発生を検出するように構成されている。そして、火災感知器本体(筐体)の一部に窓部を設け、その窓を通して作動表示灯の発光表示が視認できるように構成されている(例えば特許文献2)。また、砲弾型のLED(発光ダイオード)の頭部を火災感知器本体の表面に直接露出させるように構成されているものもある(例えば特許文献3の
図9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平02-123690号公報
【特許文献2】特開平11-175860号公報
【特許文献3】特開平08-180273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように火災感知器の筐体に、筐体の色合いを考慮していない種類(種別)識別用のシールを貼付したり防虫網の色彩を変えたりすると、それらは筐体の表面色とは異なる色が用いられるため、火災感知器を天井面等に設置した際に、種類(種別)識別用のシール又は色彩を変えた防虫網が、その色が筐体の表面色と異なることで目立ってしまい、筐体の表面色として環境に合わせた色を採用したとしても感知器を設置した外観の調和を乱してしまうという課題がある。
【0006】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、外観を損ねることなく種類(種別)を識別できる熱感知器を提供することにある。
本発明の他の目的は、天井等に設置されている状況で、離れた位置からしかも任意の方向から容易に種類(種別)を識別することができる熱感知器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、
熱感知素子を囲み作動表示を行う光透過部材を備えた熱感知器において、
前記光透過部材の表面の一部または全面に筐体の表面色と同一系統の色の被膜を形成することにより、前記熱感知素子を中心としたリング形状のパターンを形成し、形成したパターンの態様により熱感知器の種類を表すように構成したものである。
上記のような構成を有する熱感知器によれば、外観を損ねることなく感知器の種類(種別)を識別することができるようになる。
【0008】
より具体的には、有底筒形の本体ケースと該本体ケースの開口側を覆う外カバー部材とからなる筐体の内部に、熱感知素子および検出回路を構成する部品が実装された回路基板が収納され、前記外カバー部材の前記熱感知素子に対応した位置に開口が形成されている熱感知器であって、
前記回路基板に実装された発光素子と、
前記熱感知素子の径よりも内径の大きな挿通用円筒部および該挿通用円筒部より前記回路基板から遠ざかる方向に広がるすり鉢状部を有し光透過部材により形成された内カバーと、を備え、
前記内カバーは導光部を備え、前記熱感知素子の基部が前記挿通用円筒部に位置し、前記導光部が前記発光素子に対向するように配設され、
前記内カバーの表面に、同心円状に種類識別用のリング状パターンの形成領域を設定し、設定した前記リング状パターンの形成領域に形成したリング状パターンが熱感知器の種類に応じて異なるように構成した。
【0009】
上記のように構成された熱感知器によれば、内カバーの表面に同心円状に形成された種類識別用の複数のリング状パターンによって熱感知器の種類を識別できるため、視認する方向によって熱感知素子を保護するプロテクタのフィンもしくは柱などに邪魔されて識別マークが見えにくくなるのを回避することができ、それによって360°任意の方向から容易に種類を識別することができる。また、内カバーの表面のリング状パターンは比較的離れた位置から視認できるため、熱感知器が天井等に設置されている状態でも離れた位置(例えば3m程度)から容易に熱感知器の種類を識別することができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記すり鉢状部の内側表面に、前記外カバー部材の表面と同一系統の色のインクまたは塗料の薄膜からなる被膜が形成され、
前記リング状パターンは、前記被膜が形成されていない領域で構成されているようにする。
かかる構成によれば、内カバーが作動表示灯となるが、発光素子が点灯していない時にでも比較的に大きなリング状パターンを360°あらゆる方向から視認することができる。また、発光素子の点灯時には、被膜からもリング状パターンからも光が放出されるため、作動表示中においては種類識別用のリング状パターンを目立たなくすることができる。
【0011】
また、望ましくは、前記内カバーには、前記すり鉢状部の前記挿通用円筒部と反対側の端部に鍔部が設けられ、
前記鍔部の表面を第1のリング状パターン形成領域とし、
前記すり鉢状部の内側表面を第2のリング状パターン形成領域とするように構成する。
かかる構成によれば、内カバーのすり鉢状部の内側表面とその外側の鍔部の表面にそれぞれ種類識別用のマークを構成するリング状パターンが形成されるため、すり鉢状部の内側表面にのみ複数のパターンを形成する場合に比べて、パターン同士の距離を大きくすることができ、離れた位置から種類を確認する場合にも視認性が良好となり、誤った判断を回避することができる。
【0012】
さらに、望ましくは、前記内カバーの前記鍔部の表面には前記被膜が形成されておらず、前記外カバー部材の前記開口の縁部を構成する部材によって前記鍔部の表面の外側部分が覆われることで、外カバーで覆われない鍔部表面の内側縁部に前記リング状パターンが視認されるように構成する。
かかる構成によれば、円錐状をなすすり鉢状部の内側表面にのみ被膜を形成すればよいので、スタンプ等を用いて簡単に被膜およびリング状パターンを形成することができる。
【0013】
また、望ましくは、前記すり鉢状部の内側表面には、前記リング状パターンと直交する半径方向の直線状パターンが複数形成され、前記直線状パターンと前記リング状パターンとの組み合わせが熱感知器の種類に応じて異なるように構成する。
かかる構成によれば、より多くの種類の熱感知器の種類を識別することができる。また、種類識別用のマークがリング状パターンおよびこれと直交する半径方向の直線パターンの組み合わせであるため、リング状パターンのみで種類識別用のマークを構成する場合に比べてパターンの誤認を防止することができ、離れた位置からでも容易に種類を確認することができる。
【0014】
また、望ましくは、前記内カバーの鍔部のすり鉢状部側に上部が丸みを有し上面視でリング状をなすリブを設けるようにする。
かかる構成によれば、内カバーの鍔部のすり鉢状部側に上部が丸みを有するリブが設けられているため、リブがなく平面である場合に比べて、すり鉢状部の縁部から放出する光の広がり角度を大きくすることができ、また、すり鉢状部の視認可能な範囲(面積)を広くして視認性を向上させることができる。さらに、リブの上部に丸みを有するため、プロテクタのフィン間を通ってサーミスタへ向かう空気の流れを乱さないようにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る熱感知器によれば、天井等に設置されている状況で、視認する方向によって熱感知素子を保護するプロテクタのフィンもしくは柱などに邪魔されて識別マークが見えにくくなるのを回避することができ、それによって任意の方向から容易に種類を識別することができる。また、感知器全体が周囲の色と調和して目立たなくして外観を損ねることがないとともに、作動表示灯点灯時には識別マークを目立たなくし、作動表示灯消灯時には離れた位置からでも種類を識別することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明を熱感知器に適用した場合の一実施形態を示すもので、(A)は正面断面図、(B)は斜視図である。
【
図2】
図1の実施形態の熱感知器を構成する内カバーの詳細な構成例を示すもので、(A)、(B)はそれぞれ異なる部位の断面図である。
【
図3】(A)~(D)は
図1の実施形態の熱感知器における種別識別用マークを構成するパターンの組み合わせ例を示す内カバーの斜視図である。
【
図4】第2の実施例の熱感知器を示す斜視図である。
【
図5】(A)は第2の実施例の熱感知器の側面図、(B)はその内部構造を示す断面側面図である。
【
図6】熱感知器を構成する内カバーに設けられる種別識別用のマークの他の構成例を示す内カバーの斜視図である。
【
図7】(A)~(F)は他の実施形態の熱感知器における種別識別用マークを構成するパターン例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る熱感知器の一実施形態について説明する。
図において、熱感知器の設置状態で床面側を上面、天井面側を下面として以下説明する。
図1(A)には実施形態の熱感知器の正面断面図が、
図1(B)には実施形態の熱感知器の斜視図が示されている。
本実施形態の熱感知器10は、熱感知素子としてサーミスタを用い火災に伴い発生した熱によって熱せられた空気がサーミスタに接触することで生じる電気抵抗の変化を検出して火災を検知可能な感知器であり、建造物の天井面などに設置されて使用されるように構成されている。
【0018】
本実施形態の熱感知器10は、
図1に示すように、熱を感知する部品を収容するための収容凹部11Aを有し建造物の天井面に取り付けているベース部材に結合可能な有底筒形の本体ケース11と、中央にサーミスタの先端部を覆うプロテクタ部を有し前記本体ケース11の開口側全体を覆う外カバー12と、該外カバー12の周縁部を覆いつつ天井面の取り付けネジや配線を隠すための化粧カバー13とを備え、本体ケース11と外カバー12とにより内部に収容空間を有する筐体が形成される。
【0019】
また、本実施形態の熱感知器10は、前記本体ケース11の収容凹部11A内に収容された回路基板14と、該回路基板14に実装されたサーミスタ15と、該サーミスタ15が挿通可能な挿通孔を有し上端が上記回路基板14の表面に接するように配設された円筒部16aと該円筒部16aから下方へ向かって広がるすり鉢状部16bとすり鉢状部16bの下端に設けられた鍔部16cとを有する内カバー16を備える。内カバー16は、すり鉢状部16bを有することで、設置位置となる壁から下方(床面側)に極力出っ張るのを回避し、サーミスタ15へ向かう気流に影響を与えないようにすることができる。
【0020】
上記回路基板14は、上面および下面に火災感知のための電子回路を構成する抵抗や容量、IC(半導体集積回路)などの電子部品が実装されるプリント配線基板により構成され、回路基板14のほぼ中央にサーミスタ15のリード端子の先端が回路基板14を貫通して反対側の面より突出し、フロー半田付け等によって接続される。
また、本実施形態の熱感知器においては、外カバー12と化粧カバー13が白色の樹脂で形成されているとともに、サーミスタ15として、表面に白色のエポキシ樹脂等の塗料が塗布されたものが使用されている。なお、筐体の色とサーミスタの被覆の色を同系色とする場合は、表示灯の発光色が反射しやすい色とする。
【0021】
なお、火災感知器が設置される天井面は白色又は白系色であることが多いため、白色を基調とした火災感知器を設置することで火災感知器を目立たなくすることができる。しかし、従来の火災感知器のうち熱感知器は、その多くがサーミスタとして黒色のものを使用することが多いとともに、サーミスタは、筐体の中央に下向きとなるように配設され、これを保護するようにプロテクタが設けられる。また、熱気流をとらえやすくするため、プロテクタにはサーミスタを中心にして放射状のフィンが設けられている。そのため、従来の熱感知器は、感知器本体は目立たなくても、黒色のサーミスタが目立ってしまい、感知器が周囲の色と調和しないという課題があった。従って、本実施形態の熱感知器のように、感知器本体として白色の筐体を使う場合にサーミスタ15は表面色が白色であるものを使用するのが好ましい。
【0022】
一方、外カバー12には、その中央に、上記内カバー16の鍔部16cに少なくとも1部が当接する(重なる形で当接する)円形状の開口部12Aが形成されているとともに、上記内カバー16の下方に位置するリング状のヘッド部12Bが設けられ、該ヘッド部12Bの近傍まで上記サーミスタ15の頭部が達するように、サーミスタ15が配設されている。
さらに、上記リング状ヘッド部12Bと外カバー12の下壁との間に、
図1(B)に示すように、放射状に配設された隔壁(フィン)12Cが複数個(例えば6個)形成され、これらの隔壁12C間に外部の空気をケース内部に流入可能にする流入口として機能する開口が設けられている。ヘッド部12Bと隔壁12Cとによってプロテクタ部が構成される。ここで、上記隔壁12Cは板状でも良い。
【0023】
また、本実施形態の熱感知器においては、すり鉢状部16bを有する内カバー16がポリカーボネート樹脂等の透光性材料で形成されているとともに、この内カバー16の鍔部16cに対応する位置に、動作状態報知用のLED(発光ダイオード)17が実装されている。このLED17には、筐体と異なる色(例えば赤)の光を発するものが使用されている。そして、内カバー16の鍔部16c裏面のLED17と対向する部位には、凹部からなる導光部16eが設けられている。
【0024】
また、鍔部16cには、導光部16eと反対側の面(図では下面)に光反射部16fが設けられている。光反射部16fは、側方から見たときに断面がV字をなす凹部(溝)で構成されており、導光部16eから入光したLED17の光は光反射部16fで反射され、内カバー16の鍔部16cから内カバー16全体へ誘導され、内カバー16から光が出射され、感知器が作動中であることを表示することができるようになっている。内カバー16から出射された光は、放射状に配設された隔壁12Cの間から外側へ放出されるため、360度あらゆる方向から視認することができ、作動表示灯の視認性が良好となる。なお、LED17は1個に限定されず、異なる色の2個以上であっても良い。
【0025】
さらに、本実施形態の熱感知器では、内カバー16のすり鉢状部16b及び鍔部16cから出射した光が中央の白色のサーミスタ15の表面に当たって反射することで、サーミスタ15も表示部として機能することができ、見かけ上の発光表示の面積を大きくしたり視認可能な方向を広げたりすることができる。
具体的には、サーミスタ15が一般的な黒色の場合、サーミスタ15によって内カバー16のすり鉢状部16bの一部分が隠されるとともにサーミスタ15に当たった作動表示灯の光は吸収されて光量が減少してしまうこととなるが、サーミスタ15の表面が白色等の表示灯の発光色が反射しやすい色にすると、すり鉢状部16bから出射した光(例えば赤色)がサーミスタ15の表面に当たって反射するため光量の減少が回避され、発光状態が見え易くなる。なお、サーミスタ15の表面は、光沢のある仕上げではなく梨地仕上げ(乱反射する加工)とするのが良い。これにより、すり鉢状部16b及び鍔部16cからの光をサーミスタ15の表面で乱反射させて、発光状態をより見え易くすることができる。
【0026】
さらに、本実施形態の熱感知器においては、内カバー16の円筒部16aの内側に樹脂19を充填した構造を採用している。これにより、天井面に形成された配線等を通す穴から筐体内(本体ケース11内側の基板収納空間)に圧力の高い空気が入り込み、その高圧の空気が内カバー16の円筒部16aとサーミスタ15との隙間から流れ出すことで、サーミスタ15の周囲に円筒状の気流層が生じ、その気流によってサーミスタ15に熱気流の流入が阻害されたり、サーミスタ15に水が付着し、埃が堆積し易くなって熱感知機能が低下したりするのを防止することができる。また、充填する樹脂19として白色の樹脂を使用することで、円筒部16aの内側の色(例えば、基板表面の色)が外部から視認する際に樹脂19で覆い隠される。なお、充填する樹脂19は必ずしも白色である必要はなく、樹脂19の充填後に樹脂の表面に白色の被覆を形成してもよい。
【0027】
次に、
図2を用いて、
図1の実施形態の熱感知器を構成する内カバー16の詳細について説明する。なお、
図2は内カバー16をその中心を通る鉛直面の断面形状を示したもので、(A),(B)はそれぞれ内カバー16の異なる角度位置での断面形状を示している。
図2(A)に示すように内カバー16は透光性材料で形成され、鍔部16cの裏面には凹面状をなす導光部16eが形成され、この導光部16eに対向するように、回路基板14にLED17が実装されている。また、導光部16eの反対側の鍔部16cの表面には光反射部16fが設けられており、LED17から出射された光は導光部16eに入射され、光反射部16fで反射され、鍔部16cから内カバー16全体へ誘導されるようになっている。
【0028】
また、内カバー16のすり鉢状部16bの内側表面(
図2では下面)には、外カバー12と同系色である白色の被膜18が形成されている。
さらに、内カバー16には、
図2(B)に示されているように、鍔部16cから鉛直方向上方(
図2では上向きで、回路基板14の方向)へ向かって突出する2本の係止片16d,16dが設けられている。この係止片16d,16dの先端には爪部が形成されており、この爪部が、回路基板14の所定位置に形成されている係合穴に係合されることで、内カバー16が回路基板14に結合されている。なお、この実施例では、2本の係止片を設けたものを示したが、3本の係止片を設けるようにしても良い。また、係止片16dは鍔部16cの裏面ではなくすり鉢状部16bの裏面に設けるようにしても良い。
【0029】
次に、
図3を用いて、本発明の熱感知器における種別識別マークの付け方について説明する。(尚、以降の説明では感知器の種類について種別として説明する。)本発明の熱感知器における種別識別マークは、すり鉢状部16bを有する内カバー16に、同心円状の多重リング模様(年輪模様)を形成して、リングの数と位置の組み合わせによって種別を識別可能にするものである。
図3は種別識別マークの第1の実施形態を示す。
本実施形態においては、4種類の感知器を識別できるようにするため、いずれか1の機種には、
図3(A)に示すように、内カバー16の鍔部16cの内側縁部とすり鉢状部16bの中間高さ位置の2箇所に、種別識別マークを構成するリング状パターンP1,P2が設けられている。なお、
図3(A),(B)において、ハッチングが付されている領域は、外カバー12の開口部の縁で覆われる部分である。また、
図3においては、係止片16dの図示を省略している。
【0030】
一方、他の機種の内カバー16には、
図3(B)に示すように鍔部16cの内側縁部にのみリング状パターンP1が設けられたものと、
図3(C)に示すようにすり鉢状部16bの中間高さ位置にのみリング状パターンP2が設けられたものと、
図3(D)に示すようにパターンP1,P2のいずれも設けられていないものとがある。つまり、内カバー16の鍔部16cの表面を第1のリング状パターン形成領域とし、すり鉢状部16bの内側表面を第2のリング状パターン形成領域としている。
本実施形態においては、上記のように、熱感知器の種別ごとに異なる形状パターンが形成されるように、すり鉢状部16b及び鍔部16cにインクまたは塗料を塗布することによって、被塗装部位がパターンP1,P2となり、熱感知器の種別を判別することを可能にするためのマークとすることができる。
尚、
図3(A),(B)のリング状パターンP1の外側の領域は外カバーにより覆われるため、リング状パターンに使われる領域以外は塗装の対象としなくても良い。
具体的には、(a)特種か2種か、(b)防水か非防水かに応じて、4種類の感知器の種別を識別できるようにすることができる。
【0031】
しかも、種別識別用のマークがリング状のパターンP1,P2で構成されているため、マークが内カバー16に形成されることで、前方を覆うプロテクタ部のフィン12Cによってマークの一部が隠されたとしても、フィンとフィンの隙間からパターンP1,P2の形成状態を確実に視認することができる。その結果、種別識別用のマークの視認方向性をなくすことができるという利点がある。
なお、パターンP1は、内カバー16の鍔部16cの表面にインクもしくは塗料を塗布しないことで形成するものの他、
図3(B)のパターンP1の外側が、
図1に示す外カバー12の開口部12Aの縁部で覆われて、鍔部16cの上面内側縁部が開口部12Aより露出することで形成されるようにしても良い。
図2は鍔部を塗装していない構成のものを示している。また、一例として、種別識別用のマークとしてリング状パターンを2本設けたものを示したが、すり鉢状部16bに設けるリング状パターンの数を増やすようにしても良い。
【0032】
また、本実施形態の熱感知器においては、内カバー16のすり鉢状部16b表面の被膜18はその厚みが比較的薄く形成されて透光性を有するように構成されており、LED17を点灯させると内カバー16全体から光を出射し、感知器が作動中であることを表示することができるようになっている。そして、その際に、被膜18の輝度と被塗装部分であるリング状パターンP1,P2の部分の輝度の差が小さく、識別用のマークを見えにくくすることができる。つまり、作動表示中においては種別識別用のリング状パターンを目立たなくすることができる。
【0033】
さらに、天井等に設置されLED17が消灯された状態では、内カバー16の鍔部16cの内側は影となって全体が灰色っぽく見えるため、パターンP1の部分を目立たなくすることができる。一方、熱感知器が天井等に設置された状態で種別を確認するため、ライトの光を当てると、鍔部16cの内側は白色の被膜18が設けられているため、インクもしくは塗料がある部位では被膜18の表面で光が乱反射して明るくなるため、相対的に暗いパターンP1,P2をはっきりと視認することができる。
【0034】
なお、上記実施例では、2本のリング状パターンP1,P2の組み合わせのみで4種類の感知器の種別を識別するものについて説明したが、その場合、
図3(D)のように、いずれのパターンP1,P2も形成されないものが生じ、上記実施例を適用していない従来品と区別することができない。そこで、本来の動作状態報知用のLED(赤)17の他にこれとは異なる発光色の種別確認用のLED(例えば青)を回路基板14上に実装して、2本のパターンP1,P2とLEDの発光色との組み合わせで4種類の感知器の種別を識別するようにしても良い。具体的には、「2本のパターン+赤色LED」、「2本のパターン+青色LED」、「外側または内側の1本のパターン+赤色LED」、「外側または内側の1本のパターン+青色LED」の4つの形態で種別を表示することが可能である。
尚、内カバー16のすり鉢状部16b表面の被膜18に遮光特性を持たせた場合、作動表示中にパターンとLEDの色を同時に確認することが可能となる(作動確認+種別確認)。被膜18に遮光特性を持たせるには、塗料を厚く塗ったり、遮光塗料を塗布したりする等の方法が使える。
また、被膜18の形成方法(塗布方法)としては、一例としてスタンプ形式で内カバー16のすり鉢状部16b及び鍔部16cに塗料の塗布(被膜の形成)を行う方法がある。
【0035】
以上の実施例によれば、リング状パターンのサイズが最大で外カバー12の開口12A程度の大きさに確保でき(本実施例の例では直径が約20mm)、従来の種別を表すシールの約8mmと比較しても目立たない形で識別マークを大きくすることができ、感知器が設置された状態で斜め方向から種別の確認を行う際における視認性の向上を図ることができる。
また、鍔部16cに設けたリング状パターンP1の線幅は、すり鉢状部16bに設けたリング状パターンP2の線幅より太くする。理由として、直下から例えば身長が約170cmの作業者が目視で確認を行う場合に天井高約2.4m前後(集合住宅の天井高は規格上2.1m以上で、近年の平均は2.4m程度)で、目視位置から火災感知器までの距離が1m前後と近いのでパターンの線幅は細くても十分確認で生きる。しかしながら、火災感知器の直下からずれた斜め方向からの確認が必要な場合には、目視位置が火災感知器の直下から離れることとなり、視線方向に対するパターンの見え方も傾斜角度(正対する角度からずれる)に応じて変化する。即ち、すり鉢状部16bの内面が視線方向に対して正対する角度に近づき、鍔部16cの表面は視線方向に正対する方向から離れ、視認しづらくなる。よって、斜め方向からの確認を考慮した場合、確認のための距離が長くなるため、鍔部16cに設けるリング状パターンP1の線幅をすり鉢状部16bに設けたリング状パターンの線幅P2より太くした方が良い。
【0036】
次に、上記実施形態の第2の実施例を、
図4および
図5を用いて説明する。
図4は第2実施例の熱感知器の斜視図、
図5(A)は側面図、(B)は断面図である。
図1及び
図2と同じ構成には同じ番号を付けて、以下説明する。
図4および
図5に示す第2実施例の熱感知器は埋込型の感知器として構成されたもので、外カバー12は、サーミスタ15および検出回路が実装された回路基板が収納される円筒部12Eと、プレート状の鍔部12Fと、サーミスタ15を保護するプロテクタ部12Gとを有し、天井面等に形成された開口に円筒部12Eが挿入され、鍔部12Fの裏面が天井面に接合されることで設置される。
【0037】
また、外カバー12の鍔部12Fの裏面側には一端が円筒部12Eの外周に固定された一対の弾性翼片21A,21Bが斜め上方へ広がるように延設されている。この弾性翼片21A,21Bは弾性変形可能なバネ材で形成されており、両端を指で窄めた状態に変形させて、天井面等に形成された開口に挿入した後に指を離すと
図4の状態に復元し、そのバネ力で外カバー12の鍔部12Fの裏面を天井面に接合させて固定することができるように構成されている。一方、円筒部12E内には、
図5(B)に示すように、サーミスタ15と検出回路を構成する部品が実装された回路基板14が収納され、サーミスタ15を囲繞するように、すり鉢状部16bを有する内カバー16が設置されている。
【0038】
第2実施例の熱感知器においては、
図5(B)に一部を拡大して示すように、内カバー16の鍔部16cの内側縁部の表面(図では下面)に、すり鉢状部16bと連続し上部が丸みを有するリブ16gが設けられ、このリブ16gの内側半分すなわちリブの頂部Rまで被膜18が形成されている。なお、リブ16gは上面視(床側から見た場合)でリング状をなす。従って、リブ16gの頭頂部より外側半分から外カバー12の開口部12Aの縁部までの範囲が、種別識別用のパターンP1となる。なお、
図5では弾性翼片21A,21Bの図示を省略している。
【0039】
上記のように、リブ16gを形成することで、動作状態報知用のLED17を点灯させた際の内カバー16の発光面積を大きくして視認性を向上させることができる。
また、リブ16gの上部が丸みを有しているため、平面である場合に比べて、すり鉢状部16bの縁部から放出する光の広がり角度を大きくすることができ、離れた角度のある位置(真下以外)から天井等に設置されている感知器を見た際に、リブを含む発光部としてのすり鉢状部16bの視認可能な範囲を広くして視認性を向上させることができる。さらに、リブ16gの上部に丸みを有するため、フィン12C,12C間を通ってサーミスタ15へ向かう空気の流れを乱さないようにすることができる。
【0040】
なお、
図5の実施例では、リブ16gの上部が丸みを有するものを示したが、丸みのない断面山形のリブ(頂角を有するリブ)を形成するようにしても良い。また、
図4の実施例では、リブ16gがすり鉢状部16bと連続するように形成されているが、リブ16gをすり鉢状部16bの縁から少し離れた外側位置に形成するようにしても良い。さらに、被膜18を形成する範囲も、リブ16gの頂部Rまでに限定されず、識別用パターンと表示部のいずれを目立たせたいかに応じて任意の範囲まで被膜18を形成しても良い。
また、リブ16gの表面に被膜18を形成しない場合、頂点(稜線)が外カバー12の開口部12Aの縁部と一致するように構成しても良い。これにより、開口部12Aの縁部の傾斜面12a(
図4参照)とリブ16gの内側表面とが連続することとなるため、リブ16gによって、フィン12Cの間を通ってサーミスタ15へ向かう空気の流れが乱されるのを防止することができる。外カバー12の開口部12Aの縁部によってリブ16gすなわちパターンP1が見えなくなることもない。
【0041】
図6には、種別識別用のマークを構成するパターンの他の実施例が示されている。
この実施例は、上記実施例における同心円状に配置されたリング状パターンP1,P2の他に、パターンP1,P2と直交する方向すなわち半径方向に直線状のパターンP3を設けるようにしたものである。ここで、パターンP3は、
図1に示す感知器のプロテクタ部のフィン12C,12C間に位置するように形成するのが望ましい。これにより、パターンP3がフィン12Cに隠れて見えにくくなるのを防止することができる。また、パターンP3の幅はフィン12Cの幅よりも広くなるように形成すると良い。
さらに、
図6では、パターンP3は2本であるが、3本以上設けるようにしても良い。
【0042】
上記のように、2本のリング状パターンP1,P2と半径方向のパターンP3を設けることによって、それらの組み合わせで最大8種類の機種を識別することができる。具体的には、例えば(a)特種か2種か、(b)防水か非防水か、(c)差動式か定温式かに応じて、6種類の感知器の種別を識別できるようにすることができる。
図7(A)~(F)に、3本のパターンP1,P2,P3を組み合わせた種別識別用マークの例を示す。
ここで、差動式の熱感知器は急激な温度上昇を検知した場合に火災発生と判断する方式の感知器で、定温式の熱感知器は周囲の温度が一定以上になったことを検知した場合に火災発生と判断する方式の感知器である。
【0043】
なお、上記(a)~(c)で示した区分による種別(種類)の他に、「R型対応か、P型対応か」、「自動試験機能付きか、自動試験機能なしか」というような区分の仕方もあり、感知器の種類が増える場合は、上述したように異なる発光色の種別確認用のLEDを回路基板14上に設けて、3本のパターンP1,P2,P3とLEDの発光色とを組み合わせたり、すり鉢状部16bに設けるリング状パターンの数を2本、3本と増やしたりすることで、種類が増えたとしても、それぞれを区別する表記が可能である。
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、本発明を熱感知器に適用したものを説明したが、熱煙感知器など他のタイプの感知器に利用することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 熱感知器
11 本体ケース
12 外カバー
13 化粧カバー
14 回路基板
15 サーミスタ(熱感知素子)
16 内カバー
16a 円筒部
16b すり鉢状部
16c 鍔部
16d 係止片
16e 導光部
16f 反射部
16g リブ
17 LED(発光素子)
18 被膜
19 充填樹脂
21A,21B 弾性翼片