(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057186
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】光学系及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 13/04 20060101AFI20220404BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G02B13/04 D
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165299
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】日本電産コパル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109896
【弁理士】
【氏名又は名称】森 友宏
(72)【発明者】
【氏名】上田 翔大
(72)【発明者】
【氏名】荒井 克哉
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA01
2H087LA03
2H087NA03
2H087NA08
2H087PA03
2H087PA17
2H087PB03
2H087QA02
2H087QA07
2H087QA17
2H087QA21
2H087QA25
2H087QA34
2H087QA41
2H087QA46
2H087RA04
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA13
2H087RA32
2H087RA42
2H087RA43
2H087UA01
(57)【要約】
【課題】温度変化に対する解像度の変化が少なく、温度耐性の高い光学系を提供する。
【解決手段】光学系4は、正の屈折力を有する第1レンズ10と、絞り15と、負の屈折力を有する第2レンズ20と、負の屈折力を有する第3レンズ30とを備える。光軸Pに沿って対象物B側から像面S側に向けて、第1レンズ10、絞り15、第2レンズ20、及び第3レンズ30が順番に配置される。第1レンズ10の少なくとも一方のレンズ面は非球面である。第3レンズ30の少なくとも一方のレンズ面は非球面である。第1レンズ10の焦点距離をf
1、第2レンズ20と第3レンズ30との合成焦点距離をf
23とすると、|f
1/f
23|<2.3を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸に沿って対象物側から像面側に向けて順番に配置された、
正の屈折力を有する第1のレンズ部と、
絞りと、
負の屈折力を有する第2のレンズ部と、
負の屈折力を有する第3のレンズ部と
を備え、
前記第1のレンズ部の少なくとも一方のレンズ面は非球面であり、
前記第3のレンズ部の少なくとも一方のレンズ面は非球面であり、
前記第1のレンズ部の焦点距離をf1、前記第2のレンズ部と前記第3のレンズ部との合成焦点距離をf23とすると、
|f1/f23|<2.3
を満たす、光学系。
【請求項2】
前記第2のレンズ部の焦点距離をf2、前記第3のレンズ部の焦点距離をf3とすると、
0.9<|f2/f3|<2.1
を満たす、請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記第1のレンズ部の前記対象物に最も近いレンズ面から前記光軸に沿って前記絞りに至るまでの距離をDSとすると、
DS>8mm
を満たす、請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項4】
上記第2のレンズ部の屈折率は、上記第1のレンズ部及び上記第3のレンズ部の屈折率よりも高い、請求項1から3のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の光学系と、
上記像面に配置された撮像素子と
を備える撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学系及び撮像装置に係り、特に温度変化の大きい環境において使用される光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転や安全支援のために自車から対象物までの距離を測定するセンサが自動車に組み込まれることが多くなっている。このようなセンサとして、例えば赤外光やレーザ光を対象物に照射して対象物から反射した光を検出することで対象物までの距離を測定するTOF(Time of Flight)カメラが知られている。
【0003】
このようなTOFカメラによる測定精度を高めるためには、光軸の中心から周辺部に至るまで高い解像度で撮像できる光学系が求められる。また、このような光学系は温度変化の大きい環境に設置されることが多いため、温度変化に対してレンズ性能が大きく変化しないことも要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、温度変化に対する解像度の変化が少なく、温度耐性の高い光学系及びそのような光学系を備えた撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、温度変化に対する解像度の変化が少なく、温度耐性の高い光学系が提供される。この光学系は、正の屈折力を有する第1のレンズ部と、絞りと、負の屈折力を有する第2のレンズ部と、負の屈折力を有する第3のレンズ部とを備える。光軸に沿って対象物側から像面側に向けて、上記第1のレンズ部、上記絞り、上記第2のレンズ部、及び上記第3のレンズ部が順番に配置される。上記第1のレンズ部の少なくとも一方のレンズ面は非球面である。上記第3のレンズ部の少なくとも一方のレンズ面は非球面である。上記第1のレンズ部の焦点距離をf1、上記第2のレンズ部と上記第3のレンズ部との合成焦点距離をf23とすると、|f1/f23|<2.3を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態における撮像装置の構成を示す模式図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の第1の実施例における光学系の-40℃における画角に対するMTFを示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは、本発明の第1の実施例における光学系の0℃における画角に対するMTFを示すグラフである。
【
図2C】
図2Cは、本発明の第1の実施例における光学系の25℃における画角に対するMTFを示すグラフである。
【
図2D】
図2Dは、本発明の第1の実施例における光学系の55℃における画角に対するMTFを示すグラフである。
【
図2E】
図2Eは、本発明の第1の実施例における光学系の105℃における画角に対するMTFを示すグラフである。
【
図3A】
図3Aは、本発明の第2の実施例における光学系の-40℃における画角に対するMTFを示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、本発明の第2の実施例における光学系の0℃における画角に対するMTFを示すグラフである。
【
図3C】
図3Cは、本発明の第2の実施例における光学系の25℃における画角に対するMTFを示すグラフである。
【
図3D】
図3Dは、本発明の第2の実施例における光学系の55℃における画角に対するMTFを示すグラフである。
【
図3E】
図3Eは、本発明の第2の実施例における光学系の105℃における画角に対するMTFを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る光学系及び撮像装置の実施形態について
図1から
図3Eを参照して詳細に説明する。
図1から
図3Eにおいて、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、
図1から
図3Eにおいては、各構成要素の縮尺や寸法が誇張されて示されている場合や一部の構成要素が省略されている場合がある。以下の説明では、特に言及がない場合には、「第1」や「第2」などの用語は、構成要素を互いに区別するために使用されているだけであり、特定の順位や順番を表すものではない。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態における撮像装置1の構成を示す模式図である。
図1に示すように、撮像装置1は、ケーシング2と、ベース板3と、ケーシング2とベース板3との間に収容された光学系4と、ベース板3上に配置された撮像素子5とを備えている。撮像素子5は、光学系4の像面Sに配置されている。なお、本実施形態の撮像装置1は、例えば940nmの波長の赤外光を検出するように構成されているが、撮像装置1により検出する光の波長はこれに限られるものではない。
【0010】
光学系4は、正の屈折力を有する第1レンズ10(第1のレンズ部)と、絞り15と、負の屈折率を有する第2レンズ20(第2のレンズ部)と、負の屈折率を有する第3レンズ30(第3のレンズ部)と、所定の周波数帯域の光(例えば赤外光)を透過させるバンドパスフィルタ40と、バンドパスフィルタ40と撮像素子5との間に配置されたスライドガラス50とを含んでいる。第1レンズ10、絞り15、第2レンズ20、第3レンズ30、バンドパスフィルタ40、及びスライドガラス50が、光軸Pに沿って対象物(被写体)B側から像面S側に向けて順番に配置されている。なお、本明細書においては、光軸Pに沿って対象物B側を「前方」、像面S側を「後方」と定義する。
【0011】
第1レンズ10は例えばプラスチックにより形成されている。第1レンズ10の前方レンズ面10Aは対象物B側に凸であり、後方レンズ面10Bは像面S側に凹であることが好ましい。第1レンズ10の前方レンズ面10A及び後方レンズ面10Bの少なくとも一方は非球面で構成されている。
【0012】
第2レンズ20は例えばガラスにより形成されており、第1レンズ10及び第3レンズ30よりも高い屈折率を有することが好ましい。また、第2レンズ20の前方レンズ面20Aは対象物B側に凸であり、後方レンズ面20Bは像面S側に凹であることが好ましい。
【0013】
第3レンズ30は例えばプラスチックにより形成されている。第3レンズ30の前方レンズ面30Aは対象物B側に凸であり、後方レンズ面30Bは像面S側に凹であることが好ましい。第3レンズ30の前方レンズ面30A及び後方レンズ面30Bの少なくとも一方は非球面で構成されている。
【0014】
ここで、第1レンズ10の焦点距離をf1、第2レンズ20と第3レンズ30との合成焦点距離をf23とすると、光学系4は以下の式(1)を満たしている。
|f1/f23|<2.3 ・・・(1)
【0015】
また、第2レンズ20の焦点距離をf2、第3レンズ30の焦点距離をf3とすると、光学系4は以下の式(2)を満たしていることが好ましい。
0.9<|f2/f3|<2.1 ・・・(2)
【0016】
さらに、第1レンズ10の前方レンズ面10Aから光軸Pに沿って絞り15に至るまでの距離をDSとすると、光学系4は以下の式(3)を満たしていることが好ましい。
DS>8mm ・・・(3)
【0017】
上述したパラメータにより構成される光学系4によれば、正の屈折力を有する第1レンズ10と負の屈折力を有する第3レンズ30を有しているので、温度変化による屈折力の変化を第1レンズ10と第3レンズ30との間で打ち消すことができ、光学系4全体として温度変化による特性の変化を低減することができる。また、正の屈折力を有する第1レンズ10と負の屈折力を有する第3レンズ30との間に配置された比較的屈折率の高い第2レンズ20が収差を補正する役割を有するので、第1レンズ10と第3レンズ30の屈折力を低減することができ、結果として光学系4全体として温度変化による特性の変化を低減することができる。
【0018】
上述した実施形態では、第1のレンズ部を1枚の第1レンズ10で構成し、第2のレンズ部を1枚の第2レンズ20で構成し、第3のレンズ部を1枚の第3レンズ30で構成しているが、第1のレンズ部、第2のレンズ部、及び第3のレンズ部をそれぞれ複数枚のレンズで構成してもよい。
【0019】
なお、上述した第1レンズ10及び第3レンズ30のレンズ面が非球面で構成される場合、この非球面のプロファイルは、以下の式(4)により表される。
【数1】
ここで、yは光軸Pに垂直な方向の高さ、Z(y)は高さyにおける非球面の頂点の接平面から非球面に至るまでの光軸Pと平行な方向における距離(サグ量)、Cは非球面の頂点における曲率、κは円錐定数、A
nはn次の非球面係数である。
【実施例0020】
本発明の第1の実施例として以下のようなパラメータを有する光学系を用意し、その特性を分析した。
<仕様諸元>
レンズ全系の焦点距離f=2.78mm
F値=1.96
視野対角(画角)=126°
像高=4.03mm
レンズ全長=17.41mm
バックフォーカス=4.25mm
【0021】
<光軸P上のレンズ面の曲率半径>
第1レンズ10の前方レンズ面10A:50.0mm(非球面)
第1レンズ10の後方レンズ面10B:3.910mm(非球面)
第2レンズ20の前方レンズ面20A:4.513mm
第2レンズ20の後方レンズ面20B:10.023mm
第3レンズ30の前方レンズ面30A:16.127mm(非球面)
第3レンズ30の後方レンズ面30B:-4.382mm(非球面)
【0022】
<光軸P上の厚さ又は間隔>
第1レンズ10の厚さD1=1.98mm
第1レンズ10と絞り15との間の間隔D1F=6.58mm
絞り15と第2レンズ20との間の間隔DF2=0.10mm
第2レンズ20の厚さD2=1.43mm
第2レンズ20と第3レンズ30との間の間隔D23=1.28mm
第3レンズ30の厚さD3=1.78mm
第3レンズ30とバンドパスフィルタ40との間の間隔D3B=0.40mm
バンドパスフィルタ40の厚さDB=0.50mm
バンドパスフィルタ40とスライドガラス50との間の間隔DBG=2.81mm
スライドガラス50の厚さDG=0.40mm
スライドガラス50と像面Sとの間の間隔DGS=0.14mm
【0023】
<d線に対する屈折率>
第1レンズ10の屈折率Nd1=1.636
第2レンズ20の屈折率Nd2=1.954
第3レンズ30の屈折率Nd3=1.636
バンドパスフィルタ40の屈折率NdB=1.516
スライドガラス50の屈折率NdG=1.516
【0024】
<アッベ数>
第1レンズ10のアッベ数ν1=24.0
第2レンズ20のアッベ数ν2=32.3
第3レンズ30のアッベ数ν3=24.0
バンドパスフィルタ40のアッベ数νB=24.0
スライドガラス50のアッベ数νG=24.0
【0025】
<焦点距離>
第1レンズ10の焦点距離f1=-6.79mm
第2レンズ20の焦点距離f2=7.64mm
第3レンズ30の焦点距離f3=5.61mm
第1レンズ10と第2レンズ20の合成焦点距離f12=9.98mm
第2レンズ20と第3レンズ30の合成焦点距離f23=4.33mm
【0026】
<非球面データ>
第1レンズ10の前方レンズ面10A:
κ=0
A4=8.136089×10-5
A6=3.295713×10-6
A8=-6.597139×10-8
A10=0
A12=0
第1レンズ10の後方レンズ面10B:
κ=-6.604464×10-1
A4=2.501438×10-3
A6=-4.044964×10-4
A8=3.864019×10-5
A10=-1.285435×10-6
A12=0
第3レンズ30の前方レンズ面30A:
κ=0
A4=-5.166635×10-3
A6=1.747199×10-3
A8=-3.233210×10-4
A10=2.021352×10-5
A12=0
第3レンズ30の後方レンズ面30B:
κ=-4.114971×10-1
A4=2.632520×10-3
A6=5.659404×10-4
A8=1.248989×10-4
A10=-1.454543×10-5
A12=0
【0027】
ここで、上記式(1)~(3)について検討する。
a)|f1/f23|=1.568<2.3であるから式(1)を満たしている。
b)0.9<|f2/f3|=1.362<2.1であるから式(2)を満たしている。
c)DS=D1+D1F=8.56mm>8mmであるから式(3)を満たしている。
このように、第1の実施例における光学系は上記式(1)~(3)をすべて満たしている。
【0028】
この第1の実施例における光学系について、画角に対するMTF(Modulation Transfer Function)を複数の異なる温度で算出した結果を
図2Aから
図2Eに示す。
図2Aは-40℃、
図2Bは0℃、
図2Cは25℃、
図2Dは55℃、
図2Eは105℃での算出結果を示している。
【0029】
光学系が通常使用されることを想定されているのは25℃であるため、-40℃、0℃、55℃、及び105℃でのMTFが、25℃でのMTFに対してどの程度変化しているかを算出した。その結果を表1から表4に示す。表1は-40℃でのMTFの変化率、表2は0℃でのMTFの変化率、表3は55℃でのMTFの変化率、表4は105℃でのMTFの変化率を示している。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
表1から表4からわかるように、第1の実施例の光学系では、-40℃、0℃、55℃、及び105℃のいずれの温度においても、光軸の中心から周辺部まで25℃のMTFに対して10%未満の変化率となっている。したがって、第1の実施例の光学系は、温度変化による解像度の変化が少なく、温度耐性が高い光学系であることがわかる。
光学系が通常使用されることを想定されているのは25℃であるため、-40℃、0℃、55℃、及び105℃でのMTFが、25℃でのMTFに対してどの程度変化しているかを算出した。その結果を表5から表8に示す。表5は-40℃でのMTFの変化率、表6は0℃でのMTFの変化率、表7は55℃でのMTFの変化率、表8は105℃でのMTFの変化率を示している。
表5から表8からわかるように、第2の実施例の光学系では、-40℃、0℃、55℃、及び105℃のいずれの温度においても、光軸の中心から周辺部まで25℃のMTFに対して10%未満の変化率となっている。したがって、第2の実施例の光学系は、温度変化による解像度の変化が少なく、温度耐性が高い光学系であることがわかる。
これまで本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
以上述べたように、本発明の第1の態様によれば、温度変化に対する解像度の変化が少なく、温度耐性の高い光学系が提供される。この光学系は、正の屈折力を有する第1のレンズ部と、絞りと、負の屈折力を有する第2のレンズ部と、負の屈折力を有する第3のレンズ部とを備える。光軸に沿って対象物側から像面側に向けて、上記第1のレンズ部、上記絞り、上記第2のレンズ部、及び上記第3のレンズ部が順番に配置される。上記第1のレンズ部の少なくとも一方のレンズ面は非球面である。上記第3のレンズ部の少なくとも一方のレンズ面は非球面である。上記第1のレンズ部の焦点距離をf1、上記第2のレンズ部と上記第3のレンズ部との合成焦点距離をf23とすると、|f1/f23|<2.3を満たす。
このような光学系は、正の屈折力を有する第1のレンズ部と負の屈折力を有する第3のレンズ部とを有しているので、温度変化による屈折力の変化を第1のレンズ部と第3のレンズ部との間で打ち消すことができ、光学系全体として温度変化による特性の変化を低減することができる。したがって、温度変化による解像度の変化が少なく、温度耐性が高い光学系が実現される。