(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057204
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】マンガンアルミニウム青銅鋳造合金
(51)【国際特許分類】
C22C 9/05 20060101AFI20220404BHJP
C22C 9/01 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C22C9/05
C22C9/01
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165335
(22)【出願日】2020-09-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000175582
【氏名又は名称】三協オイルレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100126147
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 成年
(72)【発明者】
【氏名】小野 勇太
(72)【発明者】
【氏名】進 晃平
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正仁
(57)【要約】 (修正有)
【課題】快削性のある素材を提供する。
【解決手段】Alの含有量が9.0質量%以上16.0質量%以下であり、Mnの含有量が9.0質量%以上16.0質量%以下であり、Feの含有量が0.5質量%以上7.0質量%以下であり、Niの含有量が0.5質量%以上7.0質量%以下であり、PbもしくはBiの含有量が0.1質量%以上1.0質量%以下であり、残部がCu及び不可避的不純物からなるマンガンアルミニウム青銅鋳造合金。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alの含有量が9.0質量%以上16.0質量%以下であり、
Mnの含有量が9.0質量%以上16.0質量%以下であり、
Feの含有量が0.5質量%以上7.0質量%以下であり、
Niの含有量が0.5質量%以上7.0質量%以下であり、
PbもしくはBiの含有量が0.1質量%以上1.0質量%以下であり、
残部がCu及び不可避的不純物からなる、
マンガンアルミニウム青銅鋳造合金。
【請求項2】
素地がβ相であり、前記素地中にκ相が分散した組織を有する、請求項1に記載のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金。
【請求項3】
素地がα相+β相の微細組織であり、前記素地中にκ相が分散した組織を有する、請求項1に記載のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金。
【請求項4】
ブリネル硬さは310以上400以下である、請求項1から3のいずれかに記載のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金。
【請求項5】
切削抵抗値が300N以下である、請求項1から4のいずれかに記載されたマンガンアルミニウム青銅鋳造合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガンアルミニウム青銅鋳造合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム青銅合金は、銅合金の中で硬さが高い特徴を持つ。この特徴から絞り加工の型材として使用されている。特にステンレス合金、チタン合金等の絞り加工において効果を発揮する。
【0003】
絞り加工とは金属板金加工の一種で、金属板を任意形状に塑性加工させるものである。基本的な構造はブランクホルダ、パンチ、ダイスからなり、アルミニウム青銅はダイスに使用される。工程としては所定形状にブランキングされた金属板をダイスとブランクホルダで挟み込み、金属板をパンチで加圧することでダイス形状に倣った成形品に加工する。
【0004】
単純な円筒加工のみならず様々な形状を得ることができる。絞り加工が始まると、ブランクホルダとダイスとで挟み込んだ金属板はダイス内部へと流入を始める。これはブランクホルダとダイス間に金属板との滑り摩擦が発生することを意味している。
【0005】
このことからダイスには良好な滑り性と耐摩耗性が求められるため銅合金が選択される。銅合金のなかでもアルミニウム青銅は高硬度であり耐摩耗性に優れる。しかしながら、材料に含まれるアルミニウム量によって硬さは向上するが、同時に加工性が悪くなる傾向がある。
【0006】
先述した通り、絞り加工では様々な形状を得るためにダイスには形状加工が施される。精密な加工精度が要求されるが、従来のアルミニウム青銅では工具の損傷が激しいという課題がある。
【0007】
従来の銅合金材料の例として、高力・切削用銅合金(例えば、特許文献1参照)や、高力銅合金(例えば、特許文献2参照)や、耐摩耗性アルミニウム青銅合金(例えば、特許文献3参照)や、銅系摺動材料(例えば、特許文献4参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4-13826号公報
【特許文献2】特開平4-187732号公報
【特許文献3】特開昭57-73146号公報
【特許文献4】特開2001-220630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の銅合金には、FeとNiが含まれていない。このため耐摩耗性に優れるκ相の晶出が得られず、結晶粒の微細化効果も得られないという問題がある。
【0010】
特許文献2の銅合金は、快削性高力銅合金に関し、Alを含まないCu-Mn合金にSn,Ga,In,Biを加える材料である。すなわち、特許文献2の銅合金は、Cu-Mn合金である。これは、いわゆるAlおよびMnを必須とするマンガンアルミニウム青銅とは異なる。
【0011】
特許文献3の銅合金は、規格合金AlBC InにTi及び黒鉛を必須元素としたものである。請求の範囲のMnは0.1~15.0%と大きいが、実施例は規格合金の添加量を踏襲し0.5%程度の開示しかない。黒鉛を必須元素として含むことから通常の鋳造合金ではなく金属粉末と黒鉛粉末を混合、圧粉、焼結する焼結合金に限定されるという特徴がある。
【0012】
特許文献4の銅合金は、基本的に青銅(Cu-Sn)合金をベースにした焼結合金である。このベース粉末にNi、Ag粉末を添加混合し焼結するとSnと化合物をつくり、その周辺にPbやBiが存在する。しかしながら、選択元素としてFe,Al,Zn,Mn,Co,Pが挙げられているが実施例には記載がない。また特許文献4の焼結合金と鋳造合金はジャンルが異なり同じ成分系であっても生じる組織が異なる。特許文献4の材質はCu-Sn系の青銅であり、これはマンガンアルミニウム青銅合金とは異なる合金である。
【0013】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、快削性を有する素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金は、Alの含有量が9.0質量%以上16.0質量%以下であり、Mnの含有量が9.0質量%以上16.0質量%以下であり、Feの含有量が0.5質量%以上7.0質量%以下であり、Niの含有量が0.5質量%以上7.0質量%以下であり、PbもしくはBiの含有量が0.1質量%以上1.0質量%以下であり、残部がCu及び不可避的不純物からなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金によれば、快削性を有する素材を提供することが可能となる
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金の断面の顕微鏡写真。
【
図2】実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金の切りくず。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態であるマンガンアルミニウム青銅鋳造合金について、詳細に説明をする。
【0018】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金は、Al、Mn、Fe、Ni、及び、PbもしくはBiを所定の質量%で含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる材料である。
【0019】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金では、Alの含有量が、9.0質量%以上、16.0質量%以下である。AlとMnの含有量を加味して考慮する必要があるが、好ましくは、Alの含有量は10.0質量%以上、14.0質量%以下である。より好ましくは、Alの含有量が、10.0質量%以上、13.0質量%以下である。Alの含有量が上記数値範囲内であることにより、硬質で脆いγ2相の析出を防止することができる。
【0020】
Alの含有量が上記数値範囲未満である場合には、軟質なα相の晶出が多くなるという問題がある。一方、Alの含有量が13.0%以下の場合には、熱処理を行うことによりブリネル硬さ(HB)410まで向上することができるという効果がある。さらに、Alの含有量が14.0%を超える場合には、硬くて脆いγ2相が粒界に析出し、脆い組織となるという問題がある。
【0021】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金では、Mnの含有量が、9.0質量%以上、16.0質量%以下である。好ましくは、Mnの含有量が10質量%以上、15.0質量%以下である。Mnの含有量が上記数値範囲内であることにより、素地をβ相に保つことができる。
【0022】
Mnの含有量が上記数値範囲未満である場合には、軟質なα相の析出が多くなるという問題がある。一方、Mnの含有量が上記数値範囲を超える場合には、硬質なγ2単相が析出し脆い組織となるという問題がある。
【0023】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金では、Feの含有量が、0.5質量%以上、7.0質量%以下である。好ましくは、Feの含有量が1.0質量%以上、6.0質量%以下である。Feの含有量が上記数値範囲内であることにより、耐摩耗性のあるκ相を晶出させ組織を微細化するという効果がある。
【0024】
Feの含有量が上記数値範囲未満である場合には、κ相が晶出しないという問題がある。一方、Feの含有量が上記数値範囲を超える場合には、κ相が粗大化するという問題がある。
【0025】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金では、Niの含有量が、0.5質量%以上、7.0質量%以下である。好ましくは、Niの含有量が1.0質量%以上、6.0質量%以下である。Niの含有量が上記数値範囲内であることにより、κ相の粒状化を促し耐食性を向上させるという効果がある。
【0026】
Niの含有量が上記数値範囲未満である場合には、κ相が粒状化しないという問題がある。一方、Niの含有量が上記数値範囲を超える場合には、κ相が粗大化するという問題がある。
【0027】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金では、PbもしくはBiの含有量が、0.1質量%以上、1.0質量%以下である。好ましくは、PbもしくはBiの含有量が0.2質量%以上、0.7質量%以下である。
【0028】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金では、PbもしくはBiの含有量が上記数値範囲内である。これにより、実施形態のマンガンアルミニウム青銅合金は、快削性を有する。PbもしくはBiの添加の効果は次の通りである。
【0029】
第1に、被削物と工具の潤滑効果がある。PbやBiは低融点のため、加工熱で溶融し被削物と工具間で潤滑剤として効果があらわれる。
【0030】
第2に、切削抵抗の減少と切りくず処理性の改善効果がある。Pb、Biは金属組織内で固溶することなく、独立した形で分散する(
図1中の白点部分)。切削時は独立分散したPb、Biを起点に切りくずとなる。Pb、Biは微細形状で存在するため、切りくずも微細化し(
図2)、切削抵抗が減少する。
【0031】
PbもしくはBiの含有量が上記数値範囲未満である場合には、切削抵抗に影響を与えないという問題がある。一方、PbもしくはBiの含有量が上記数値範囲を超える場合には、Pb,Biが偏析を起こすという問題がある。
【0032】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金は、残部がCu及び不可避的不純物からなる。不可避的不純物とは製造工程において除去することが難しい成分を意味する。
【0033】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金は、素地がβ相、もしくは、β相+α相の微細組織であり、その素地中にκ相が分散した組織を有する。
例えば、それぞれの相の組成は質量%で
α相=Cu-7%Al-10%Mn-2.2%Fe-0.8%Ni
β相=Cu-9%Al-11%Mn-3.3%Fe-5.4%Ni
κ相=Fe-41%Mn-11%Al
である。
【0034】
これにより、上記成分からなる硬質な素地β相中にα相やκ相が析出し耐摩耗性に富む組織となる。
【0035】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金のブリネル硬さ(HB)は310以上400以下である。この硬さにより、優れた耐摩耗性が生じる。
【0036】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金の切削抵抗値は300N以下である。これにより、快削性に優れるという効果が示されている。
【0037】
実施形態のマンガンアルミニウム青銅鋳造合金は、切削抵抗を大きく減少させ、かつ安定させることができる。切りくず形状が微細化し、同サイズを連続的に排出していることから切削状態が安定している様子が確認できる。工具状態も添加前は異常損傷を起こしていたが改善している。
【実施例0038】
以下に、本発明の実施例について説明をする。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0039】
表1に示すように、組成の銅合金を高周波炉で溶解して金型を用いて鋳造し、実施例1から6、及び、比較例1から4に示すブロック試験片を作製した。表1に実施例1から6、及び、比較例1から4の試験片の組成値[wt%]を記載する。組成値は、蛍光X線分析装置で分析を行った結果である。
【0040】
表1に示すように、実施例1から実施例6の試験片の組成は、Alの含有量が9.0質量%以上16.0質量%以下であり、Mnの含有量が9.0質量%以上16.0質量%以下であり、Feの含有量が0.5質量%以上7.0質量%以下であり、Niの含有量が0.5質量%以上7.0質量%以下であり、PbもしくはBiの含有量が0.1質量%以上1.0質量%以下であり、残部がCu及び不可避的不純物からなる。なお、表1には不可避的不純物の記載を省略している。
【0041】
一方、比較例1から比較例4については、その一部の金属の組成が、上記実施例の範囲外となっている。
【0042】
【0043】
表2は、実施例1から6、及び、比較例1から4に示すブロック試験片の硬度及び切削抵抗値を測定した結果を示す。
【0044】
【0045】
切削抵抗値は、日本キスラー製多成分動力計を用い旋削加工で測定した。硬度は、実施例1から6、及び、比較例1から4に示すブロック試験片のブリネル硬さを測定した。
【0046】
表2に示すように、実施例1から6の試験片のブリネル硬さは310以上400以下であることがわかる。一方、比較例2、3、4の試験片のブリネル硬さは310未満であることがわかる。
【0047】
表2に示すように、実施例1から6の試験片の切削抵抗値は、300N以下であることがわかる。一方、比較例1、3、4の試験片の切削抵抗値は、300Nより大きいことがわかる。よって、実施例の効果が確認された。