(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057217
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】吸着式ヒートポンプ
(51)【国際特許分類】
F25B 17/08 20060101AFI20220404BHJP
F25B 17/12 20060101ALI20220404BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20220404BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20220404BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
F25B17/08 Z
F25B17/12 Q
B01J20/34 E
B01J20/34 H
C09K5/04 A
B01J20/22 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165351
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517200061
【氏名又は名称】株式会社Atomis
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】古庄 和宏
(72)【発明者】
【氏名】杉山 明平
(72)【発明者】
【氏名】賀川 みちる
(72)【発明者】
【氏名】浅利 大介
(72)【発明者】
【氏名】片岡 大
(72)【発明者】
【氏名】隅田 健治
【テーマコード(参考)】
3L093
4G066
【Fターム(参考)】
3L093NN03
3L093PP03
3L093PP04
3L093QQ05
4G066AB05B
4G066AB06B
4G066AB07B
4G066AB13B
4G066AB15B
4G066AB18B
4G066AB19B
4G066AB21B
4G066AB24B
4G066AB30B
4G066CA35
4G066EA20
4G066GA14
4G066GA16
(57)【要約】
【課題】球状活性炭の製造工程は複雑であるため、球状活性炭と同等以上の有効吸着量を持ち、かつ、製造が簡単な吸着材が求められている。
【解決手段】吸着式ヒートポンプ100は、冷媒として二酸化炭素を用い、かつ、吸着材15として、金属イオンと有機配位子とを含む金属有機構造体を用いる。金属有機構造体は、例えば、MOF-200である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒として二酸化炭素を用いる吸着式ヒートポンプであって、
吸着材(15)として、金属イオンと、1種類または複数種類の有機配位子とを含む金属有機構造体を用い、
少なくとも1種類の前記有機配位子は、
【化1】
(式中、R
1~R
15は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、アルケン、アルキン、フェニル基、これらの置換基、硫黄含有基、ケイ素含有基、窒素含有基、酸素含有基、ハロゲン、ニトロ、アミノ、シアノ、ホウ素含有基、リン含有基、カルボン酸、エステル、H、NH
2、CN、OH、=O、=S、Cl、I、F、
【化2】
(式中、xは、1、2または3である。)から選択され、
R
16~R
18は、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、R
16~R
18は、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、
フェニル環を1個~5個含むアリール基、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、または、フェニル環を1個~5個含むアリール基を含む、アルキルアミン、アリールアミン、ジアゾまたはアルキルアミド、および、
―C≡C―から選択される。)
で表される、
吸着式ヒートポンプ(100)。
【請求項2】
前記金属有機構造体は、MOF-200である、
請求項1に記載の吸着式ヒートポンプ。
【請求項3】
高圧時の冷媒の温度および圧力が臨界点を下回るように冷凍サイクルを行う、
請求項1または2に記載の吸着式ヒートポンプ。
【請求項4】
高圧時の冷媒の温度および圧力の一方が臨界点を下回るように冷凍サイクルを行う、
請求項1または2に記載の吸着式ヒートポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
吸着式ヒートポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非特許文献1に記載のように、冷媒として二酸化炭素を用い、かつ、吸着材として球状活性炭を使用する吸着式ヒートポンプが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
球状活性炭の製造工程は複雑であるため、球状活性炭と同等以上の有効吸着量を持ち、かつ、製造が簡単な吸着材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1観点の吸着式ヒートポンプは、冷媒として二酸化炭素を用い、かつ、吸着材として、金属イオンと、1種類または複数種類の有機配位子とを含む金属有機構造体を用いる。少なくとも1種類の有機配位子は、
【化1】
(式中、R
1~R
15は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、アルケン、アルキン、フェニル基、これらの置換基、硫黄含有基、ケイ素含有基、窒素含有基、酸素含有基、ハロゲン、ニトロ、アミノ、シアノ、ホウ素含有基、リン含有基、カルボン酸、エステル、H、NH
2、CN、OH、=O、=S、Cl、I、F、
【化2】
(式中、xは、1、2または3である。)から選択され、
R
16~R
18は、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、R
16~R
18は、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、
フェニル環を1個~5個含むアリール基、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、または、フェニル環を1個~5個含むアリール基を含む、アルキルアミン、アリールアミン、ジアゾまたはアルキルアミド、および、
―C≡C―から選択される。)
で表される。
【0005】
第1観点の吸着式ヒートポンプは、有効吸着量が高く製造が簡単な吸着材を用いる。
【0006】
第2観点の吸着式ヒートポンプは、第1観点の吸着式ヒートポンプであって、金属有機構造体は、MOF-200である。
【0007】
第2観点の吸着式ヒートポンプは、有効吸着量が高く製造が簡単な吸着材を用いる。
【0008】
第3観点の吸着式ヒートポンプは、第1観点または第2観点の吸着式ヒートポンプであって、高圧時の冷媒の温度および圧力が臨界点を下回るように冷凍サイクルを行う。
【0009】
第3観点の吸着式ヒートポンプは、有効吸着量が高く製造が簡単な吸着材を用いる。
【0010】
第4観点の吸着式ヒートポンプは、第1観点または第2観点の吸着式ヒートポンプであって、高圧時の冷媒の温度および圧力の一方が臨界点を下回るように冷凍サイクルを行う。
【0011】
第4観点の吸着式ヒートポンプは、有効吸着量が高く製造が簡単な吸着材を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1開閉状態の吸着式ヒートポンプ100の概略的な構成図である。
【
図2】第2開閉状態の吸着式ヒートポンプ100の概略的な構成図である。
【
図3】MOF-200の吸着等温線のグラフである。
【
図4】比較例としてのMOF-177の吸着等温線のグラフである。
【
図5】比較例としてのMOF-74(Mg)の吸着等温線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態に係る吸着式ヒートポンプ100について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(1)吸着式ヒートポンプ100の構成および動作
吸着式ヒートポンプ100は、吸着材に冷媒が吸着する時、および、吸着材から冷媒が脱着する時に生じる潜熱の移動を利用して、60℃~90℃の比較的低温の熱源から冷熱を生成する装置である。
【0015】
図1および
図2に示されるように、吸着式ヒートポンプ100は、主として、蒸発器11と、凝縮器12と、第1吸着器13と、第2吸着器14とを備える。蒸発器11と第1吸着器13とは、第1流路21によって接続されている。蒸発器11と第2吸着器14とは、第2流路22によって接続されている。凝縮器12と第1吸着器13とは、第3流路23によって接続されている。凝縮器12と第2吸着器14とは、第4流路24によって接続されている。蒸発器11と凝縮器12とは、第5流路25によって接続されている。第1流路21~第4流路24には、それぞれ、流路を開閉するための第1バルブ31~第4バルブ34が取り付けられている。
【0016】
蒸発器11は、液体の冷媒を蒸発させて、気体の冷媒を生成する。凝縮器12は、気体の冷媒を凝縮させて、液体の冷媒を生成する。第1吸着器13および第2吸着器14は、冷媒を吸着および脱着するための吸着材15を有する。吸着材15は、圧力および温度によって冷媒の吸着量が変化する物質である。本実施形態において、冷媒は、二酸化炭素であり、かつ、吸着材15は、金属有機構造体(MOF)であるMOF-200である。第1吸着器13の吸着材15の質量は、第2吸着器14の吸着材15の質量と同じである。
【0017】
蒸発器11は、冷熱を取り出すための熱交換器である。蒸発器11の内部には、第1配管41が配置されている。第1配管41は、蒸発器11の内部において液体の冷媒が蒸発する時に生成される冷熱を外部に搬送するための熱搬送用媒体を流す管である。第1配管41の内部を流れる熱搬送用媒体は、例えば、水である。
図1では、第1吸着器13で気体の冷媒が吸着材15に吸着されることにより、蒸発器11から第1吸着器13へ第1流路21を介して気体の冷媒が流入する。
図2では、第2吸着器14で気体の冷媒が吸着材15に吸着されることにより、蒸発器11から第2吸着器14へ第2流路22を介して気体の冷媒が流入する。第1吸着器13および第2吸着器14で冷媒が吸着されることにより、蒸発器11から気体の冷媒が流出するので、蒸発器11において液体の冷媒の蒸発が促進される。液体の冷媒が蒸発する時に生じた冷熱は、第1配管41の内部を流れる熱搬送用媒体によって外部へ搬送され、冷却等に用いられる。
【0018】
凝縮器12は、気体の冷媒を冷却して凝縮させるための熱交換器である。凝縮器12の内部には、第2配管42が配置されている。第2配管42は、凝縮器12の内部で気体の冷媒を凝縮させるための媒体であって、冷媒の凝縮温度よりも低い温度の熱搬送用媒体、または、冷媒が超臨界状態の場合には冷媒の温度よりも低い温度の熱搬送用媒体を流す管である。第2配管42の内部を流れる熱搬送用媒体は、例えば、水である。
図1では、第2吸着器14で気体の冷媒が脱着して、第2吸着器14から凝縮器12へ第4流路24を介して気体の冷媒が流入する。
図2では、第1吸着器13で気体の冷媒が脱着して、第1吸着器13から凝縮器12へ第3流路23を介して気体の冷媒が流入する。凝縮器12で気体の冷媒が凝縮して生成された液体の冷媒は、第5流路25を介して蒸発器11に供給される。
【0019】
第1吸着器13および第2吸着器14の内部には、それぞれ、第3配管43および第4配管44が配置されている。第3配管43および第4配管44の周囲には、吸着材15が配置されている。第3配管43および第4配管44は、それぞれ、第1吸着器13および第2吸着器14の吸着材15の温度を制御するための熱搬送用媒体を流す管である。第3配管43および第4配管44の内部を流れる熱搬送用媒体は、例えば、水である。第3配管43および第4配管44を流れる媒体の温度を制御することによって、第1吸着器13および第2吸着器14において冷媒の吸着または脱着が行われるように、吸着材15の温度が制御される。
【0020】
図1に示されるように、第1吸着器13の吸着材15に冷媒を吸着させる吸着過程では、第3配管43に、冷媒の吸着が支配的に起こる温度の媒体を流す。
図1に示されるように、第2吸着器14の吸着材15から冷媒を脱着させる脱着過程では、第4配管44に、冷媒の脱着が支配的に起こる温度の媒体を流す。例えば、
図1では、第3配管43には、第1吸着器13の吸着材15を冷却するための冷水が流れ、第4配管44には、第2吸着器14の吸着材15を加熱するための温水が流れる。
【0021】
図2に示されるように、第2吸着器14の吸着材15に冷媒を吸着させる吸着過程では、第4配管44に、冷媒の吸着が支配的に起こる温度の媒体を流す。
図2に示されるように、第1吸着器13の吸着材15から冷媒を脱着させる脱着過程では、第3配管43に、冷媒の脱着が支配的に起こる温度の媒体を流す。例えば、
図2では、第4配管44には、第2吸着器14の吸着材15を冷却するための冷水が流れ、第3配管43には、第1吸着器13の吸着材15を加熱するための温水が流れる。
【0022】
吸着式ヒートポンプ100では、第1バルブ31~第4バルブ34の開閉状態を切り替えることによって、吸着過程と脱着過程とを繰り返して、温熱から冷熱を連続的に生成することができる。具体的には、吸着式ヒートポンプ100は、
図1に示される第1開閉状態と、
図2に示される第2開閉状態とを交互に切り替える。第1開閉状態では、第1バルブ31および第4バルブ34が開いた状態であり、第2バルブ32および第3バルブ33が閉じた状態である。第2開閉状態では、第1バルブ31および第4バルブ34が閉じた状態であり、第2バルブ32および第3バルブ33が開いた状態である。
【0023】
第1開閉状態では、第1吸着器13は蒸発器11に接続され、第2吸着器14は凝縮器12に接続される。第1吸着器13では、第3配管43に冷水等を流すことで吸着材15が冷却される。第2吸着器14では、第4配管44に温水等を流すことで吸着材15が加熱される。これにより、第1吸着器13の吸着材15に蒸発器11から供給された冷媒が吸着し、第2吸着器14の吸着材15から冷媒が脱着して凝縮器12に供給される。
【0024】
第2開閉状態では、第2吸着器14は蒸発器11に接続され、第1吸着器13は凝縮器12に接続される。第2吸着器14では、第4配管44に冷水等を流すことで吸着材15が冷却される。第1吸着器13では、第3配管43に温水等を流すことで吸着材15が加熱される。これにより、第2吸着器14の吸着材15に蒸発器11から供給された冷媒が吸着し、第1吸着器13の吸着材15から冷媒が脱着して凝縮器12に供給される。
【0025】
吸着式ヒートポンプ100は、第1開閉状態と第2開閉状態とを交互に切り替えることで、第1吸着器13および第2吸着器14のそれぞれにおいて、吸着過程と脱着過程とが交互に行われる。これにより、吸着式ヒートポンプ100は、冷媒の吸着および脱着を連続的に行うことができるので、冷熱を連続的に生成することができる。
【0026】
(2)吸着材15の詳細
第1吸着器13および第2吸着器14の内部に配置されている吸着材15は、金属有機構造体(MOF)の一種であるMOF-200である。金属有機構造体とは、金属と有機物との配位結合が連続的に形成されている結晶性化合物である。金属有機構造体は、金属イオンまたは有機金属塩と、それらを結合する架橋性の有機配位子とを組み合わせることで生成される。金属有機構造体は、複数の種類の有機配位子を含んでもよい。
【0027】
金属有機構造体は、内部に多数の空間(細孔)を有する多孔性配位高分子である。金属有機構造体は、例えば、分子およびイオンの選択的貯蔵および分離の機能を有する多孔性材料として用いられる。本実施形態では、金属有機構造体は、冷媒である二酸化炭素を吸着および脱着するための吸着材15として用いられる。
【0028】
いくつかの金属有機構造体は、MOF-180およびMOF-200等の様々な略称で呼ばれている。金属有機構造体の単位質量当たりの表面積(比表面積)が大きいほど、略称に含まれる数値が大きくなる傾向にある。
【0029】
金属有機構造体MOF-200に関する参考文献としては、Furukawaらの「Ultrahigh Porosity in Metal-Organic Frameworks」(Science, 2010, 329, 424-428)が挙げられる。この参考文献に記載のように、MOF-200は、有機金属塩Zn
4O(CO
2)
6が、有機配位子4,4′,4″-[benzene-1,3,5-triyl-tris(benzene-4,1-diyl)]tribenzoate(BBC)によって配位結合されている立体網目構造を有する。有機金属塩Zn
4O(CO
2)
6は、八面体の形状を有する。有機配位子BBCは、次の化学構造式で表されるように、三角形の形状を有する。
【化3】
MOF-200の立体網目構造は、RCSR(Reticular Chemistry Structure Resource)データベースにおいて「qom」と表される。qom構造は、死容積を低減し、かつ、単位体積当たりのガス貯蔵能力を増加させるために適している。
【0030】
金属有機構造体の一種であるMOF-177は、MOF-200と同じqom構造を有する。MOF-177の場合、有機配位子は、4,4′,4″-benzene-1,3,5-triyl-tribenzoate(BTB)である。有機配位子BTBは、次の化学構造式で表される。
【化4】
MOF-200の基本的な物性は、以下の通りである。
・空隙率:90%
・結晶密度:0.22g/cm
3
・BET法で測定した比表面積:4530m
2/g
・ラングミュア―(Langmuir)法で測定した比表面積:10400m
2/g
・幾何学的表面積:6400m
2/g
・空隙の容積:3.59cm
3/g
【0031】
金属有機構造体は、様々な方法で合成することができる。最もシンプルな合成法である溶液法は、常温・常圧下で金属と有機配位子とを溶液中で混合することにより、金属有機構造体を生成する方法である。溶液法では、混合する速度を調節することにより、生成される結晶のサイズを制御できる。MOF-200の場合、金属の溶液は、有機金属塩Zn4O(CO2)6の溶液である。本実施形態において、金属有機構造体は、溶液法の他に、拡散法、水熱法、マイクロ波法、超音波法、および、固相合成法等の既知の方法から選択される任意の方法によって合成されてもよい。
【0032】
吸着材15である金属有機構造体の性能は、有効吸着量で測定される。吸着式ヒートポンプ100の場合、有効吸着量とは、単位質量(1g)の金属有機構造体(MOF-200)が、1回の吸着サイクルで吸着および脱着することができる冷媒(二酸化炭素)の質量である。1回の吸着サイクルでは、第1吸着器13および第2吸着器14は、1回の吸着過程および1回の脱着過程を行う。
【0033】
図3は、MOF-200の吸着等温線のグラフである。
図3は、6種類の温度のそれぞれにおける、圧力(MPa)と、冷媒(二酸化炭素)の絶対吸着量(g/g)との関係を示す。絶対吸着量とは、単位質量(1g)の金属有機構造体に吸着される冷媒の質量である。絶対吸着量は、例えば、磁気浮遊天秤式吸着量測定装置を用いて測定することができる。
図3に示されるように、吸着等温線は、温度によって異なる傾向を示す。
【0034】
図3には、吸着サイクルが長方形で示されている。吸着サイクルでは、蒸発圧力において、冷媒が吸着材15(
図1では第1吸着器13の吸着材15)に吸着され、凝縮圧力において、冷媒が吸着材15(
図1では第2吸着器14の吸着材15)から脱着される。
図3に示されるΔWは、1回の吸着サイクルの間に吸着材15に新たに吸着される冷媒の量を表し、有効吸着量に相当する。
図3に示されるように、MOF-200を使用する場合の冷媒の有効吸着量は、0.7g/gである。言い換えると、吸着式ヒートポンプ100は、1回の吸着サイクルで、第1吸着器13または第2吸着器14の吸着材15の乾燥質量に0.7を乗じた質量の二酸化炭素を吸着および脱着することができる。
【0035】
吸着式ヒートポンプ100の能力QCは、以下の式で表される。
QC=M×L×ΔW
(式中、Mは、吸着材15の乾燥質量であり、Lは、冷媒の蒸発潜熱であり、ΔWは、吸着材15の有効吸着量である。)
【0036】
上式に示されるように、冷媒の有効吸着量が高いほど、吸着式ヒートポンプ100の能力QCが高い。そのため、有効吸着量が高い吸着材15が求められている。金属有機構造体は、生成が容易であり、かつ、金属および有機配位子の組み合わせによって様々な化学的・物理的性質を有する化合物を製造することができる。金属有機構造体の中でも、MOF-200は、他の金属有機構造体および他の多孔性材料と比較して、二酸化炭素の有効吸着量が高い。
【0037】
比較例として、MOF-177の吸着等温線のグラフが
図4に示されている。
図4に示されるように、金属有機構造体MOF-177の有効吸着量は、0.5g/gである。
【0038】
他の比較例として、金属有機構造体の一種であるMOF-74(Mg)の吸着等温線のグラフが
図5に示されている。
図5に示されるように、金属有機構造体MOF-74(Mg)の有効吸着量は、0.1g/gである。
【0039】
また、非特許文献1に記載の球状活性炭の有効吸着量は、0.55g/gである。そのため、金属有機構造体MOF-200は、MOF-177、MOF-74(Mg)および球状活性炭と比較しても、吸着材として優れた性能を有する。
【0040】
(3)特徴
従来、非特許文献1に記載のように活性炭を吸着材として用いる吸着式ヒートポンプ100が知られている。しかし、本実施形態の吸着式ヒートポンプ100において吸着材15として用いられる金属有機構造体は、活性炭と比較して、生成が容易であり、かつ、低コストである。
【0041】
一般的に、活性炭の製造工程は、石炭等の原料を粒状に粉砕して成形する工程、その後、700℃~800℃の高温で長時間蒸し焼きにして炭化させる工程、その後、900℃~1000℃の高温で水蒸気と反応させて細孔を形成する賦活工程からなる。一方、金属有機構造体の製造工程は、上述したように、常温・常圧下で金属と有機配位子の溶液を混合するだけである。また、細孔の寸法および比表面積を均一にする場合、活性炭の製造工程では、アルカリ溶液を用いた賦活工程が必要となり高コストであるが、金属有機構造体の製造工程では、特別な工程が不要である。以上より、金属有機構造体を吸着材15として用いる吸着式ヒートポンプ100は、製造コストの観点から優れている。
【0042】
また、金属と有機配位子との様々な組み合わせにより、多数の種類の金属有機構造体を生成することができる。金属有機構造体のうち、二酸化炭素の有効吸着量の観点からは、MOF-200が特に優れている。吸着材15として使用される物質の有効吸着量が大きいほど、吸着材15の使用量を低減し、コストを削減することができる。そのため、金属有機構造体MOF-200を吸着材15として用いる吸着式ヒートポンプ100は、MOF-177等の他の金属有機構造体を用いる場合と比較して、冷凍能力の効率性、および、コストの観点からより好ましい。
【0043】
(4)変形例
以下に実施形態の変形例を示す。各変形例の内容の一部または全部は、互いに矛盾しない範囲で他の変形例の内容と組み合わされてもよい。
【0044】
(4-1)変形例A
吸着式ヒートポンプ100の構成は、
図1および
図2に限られない。例えば、吸着式ヒートポンプ100は、第1流路21~第4流路24に取り付けられる第1バルブ31~第4バルブ34の代わりに、気圧によって開閉するダンパが取り付けられてもよい。
【0045】
本変形例では、例えば、第1バルブ31および第2バルブ32の代わりに、蒸発器11で蒸発した冷媒の圧力によって開くダンパが取り付けられる。第3バルブ33の代わりに、第1吸着器13において吸着材15から脱着した冷媒の圧力によって開くダンパが取り付けられる。第4バルブ34の代わりに、第2吸着器14において吸着材15から脱着した冷媒の圧力によって開くダンパが取り付けられる。
【0046】
(4-2)変形例B
吸着式ヒートポンプ100では、第1開閉状態において、第1吸着器13の第3配管43に吸着材15を冷却するための媒体を流し、第2吸着器14の第4配管44に吸着材15を加熱するための媒体を流す。第2開閉状態において、第1吸着器13の第3配管43に吸着材15を加熱するための媒体を流し、第2吸着器14の第4配管44に吸着材15を冷却するための媒体を流す。
【0047】
吸着式ヒートポンプ100は、吸着材15を冷却するための媒体を循環させる冷却回路と、吸着材15を加熱するための媒体を循環させる加熱回路とを有する必要がある。吸着式ヒートポンプ100は、開閉状態に応じて冷却回路と加熱回路とを相互に切り替えることができる機構を有してもよい。
【0048】
(4-3)変形例C
吸着式ヒートポンプ100は、定格運転において、高圧時の冷媒の温度および圧力が臨界点を下回るように冷凍サイクルを行うことが好ましい。高圧時の冷媒とは、吸着サイクルにおいて凝縮圧力の状態にある冷媒であり、具体的には、凝縮器12内の冷媒である。
【0049】
図6は、吸着式ヒートポンプ100が用いる冷媒である二酸化炭素の状態図である。二酸化炭素の場合、温度の臨界点は約31℃であり、圧力の臨界点は約7.4MPaである。温度および圧力が共に臨界点以上になると、二酸化炭素は、気体と液体とが共存できない超臨界状態になる。そのため、吸着式ヒートポンプ100は、温度および圧力が共に臨界点を下回るように、高圧時の冷媒の圧力および温度が制御されることが好ましい。
【0050】
(4-4)変形例D
吸着式ヒートポンプ100は、定格運転において、高圧時の冷媒の温度および圧力の一方が臨界点を下回るように冷凍サイクルを行ってもよい。本変形例では、吸着式ヒートポンプ100は、高圧時の冷媒が亜臨界状態となるように、冷媒の圧力および温度が制御されてもよい。亜臨界状態とは、温度および圧力の一方が臨界点を下回る状態である。通常、
図6に示されるように、亜臨界状態は、温度が臨界点を下回り、かつ、圧力が臨界点の近傍にある状態である。亜臨界状態では、圧力は臨界点以上となる場合がある。
【0051】
(4-5)変形例E
図3に示されるように、金属有機構造体MOF-200の有効吸着量は、0.7g/gである。しかし、金属有機構造体MOF-200の有効吸着量は、例えば、MOF-200の細孔の寸法および比表面積の均一さの度合い等、種々のパラメータに影響される。そのため、金属有機構造体MOF-200の有効吸着量は、所定の範囲内にあればよい。例えば、金属有機構造体MOF-200の有効吸着量は、0.65g/g~0.75g/gの範囲内にあればよい。
【0052】
また、
図3に示される吸着サイクルの蒸発圧力および凝縮圧力も所定の範囲内にあればよい。例えば、
図3において、蒸発圧力は3.5MPa~4.5MPaの範囲内にあればよく、凝縮圧力は6.0MPa~7.0MPaの範囲内にあればよい。
【0053】
(4-6)変形例F
実施形態で用いられる金属有機構造体は、MOF-200である。しかし、金属有機構造体は、有効吸着量が所定の範囲内にあれば、MOF-200に限られない。有効吸着量の所定の範囲は、例えば、0.65g/g~0.75g/gである。
【0054】
具体的には、吸着式ヒートポンプ100に使用される金属有機構造体は、以下の式で表される有機配位子を少なくとも1種類有する金属有機構造体であってもよい。
【化5】
(式中、R
1~R
15は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、アルケン、アルキン、フェニル基、これらの置換基、硫黄含有基、ケイ素含有基、窒素含有基、酸素含有基、ハロゲン、ニトロ、アミノ、シアノ、ホウ素含有基、リン含有基、カルボン酸、エステル、H、NH
2、CN、OH、=O、=S、Cl、I、F、
【化6】
(式中、xは、1、2または3である。)から選択され、
R
16~R
18は、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、R
16~R
18は、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、
フェニル環を1個~5個含むアリール基、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、または、フェニル環を1個~5個含むアリール基を含む、アルキルアミン、アリールアミン、ジアゾまたはアルキルアミド、および、
―C≡C―から選択される。)
【0055】
(4-7)変形例G
吸着式ヒートポンプ100は、第1バルブ31~第4バルブ34を有する。第1バルブ31~第4バルブ34の開閉のタイミングは、吸着サイクルの蒸発圧力および凝縮圧力、蒸発器11および凝縮器12内の冷媒の量等に応じて適宜に設定されてもよい。
【0056】
(4-8)変形例H
吸着式ヒートポンプ100は、蒸発器11および凝縮器12を有する。冷媒として二酸化炭素を用いる場合、蒸発器11および凝縮器12は、例えば、クロスフィンチューブ型の熱交換器が好ましい。
【0057】
(4-9)変形例I
吸着式ヒートポンプ100は、例えば、冷媒として二酸化炭素を用いる。そのため、蒸発器11の第1配管41の内部を流れる熱搬送用媒体は氷点以下になる。従って、吸着式ヒートポンプ100は、例えば、冷凍機として使用することができる。
【0058】
―むすび―
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0059】
15 :吸着材
100 :吸着式ヒートポンプ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0060】
【非特許文献1】宮崎隆彦著、「二酸化炭素を冷媒に用いる太陽熱駆動冷凍機の開発」、公益財団法人 八洲環境技術振興財団 2015年度 研究成果報告書
【手続補正書】
【提出日】2022-02-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒として二酸化炭素を用いる吸着式ヒートポンプであって、
吸着材(15)として、金属イオンと、1種類または複数種類の有機配位子とを含む金属有機構造体を用い、
少なくとも1種類の前記有機配位子は、
【化1】
(式中、R
1~R
15は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、アルケン、アルキン、フェニル基、これらの置換基、硫黄含有基、ケイ素含有基、窒素含有基、酸素含有基、ハロゲン、ニトロ、アミノ、シアノ、ホウ素含有基、リン含有基、カルボン酸、エステル、H、NH
2、CN、OH、=O、=S、Cl、I、F、
【化2】
(式中、xは、1、2または3である。)から選択され、
R
16~R
18は、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、R
16~R
18は、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、
フェニル環を1個~5個含むアリール基、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、または、フェニル環を1個~5個含むアリール基を含む、アルキルアミン、アリールアミン、ジアゾまたはアルキルアミド、および、
―C≡C―から選択される。)
で表され
、
1gの前記金属有機構造体が、1回の吸着サイクルで吸着および脱着することができる二酸化炭素の質量は、0.65g~0.75gである、
吸着式ヒートポンプ(100)。
【請求項2】
前記金属有機構造体は、MOF-200である、
請求項1に記載の吸着式ヒートポンプ。
【請求項3】
高圧時の冷媒の温度および圧力が臨界点を下回るように冷凍サイクルを行う、
請求項1または2に記載の吸着式ヒートポンプ。
【請求項4】
高圧時の冷媒の温度および圧力の一方が臨界点を下回るように冷凍サイクルを行う、
請求項1または2に記載の吸着式ヒートポンプ。