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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057279
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】難燃性ゴム組成物および鉄道車両用外幌
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20220404BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20220404BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220404BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20220404BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220404BHJP
   C08K 5/5313 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L23/00
C08L83/04
C08L75/04
C08K3/22
C08K5/5313
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165447
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】村谷 圭市
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC01W
4J002AC02W
4J002AC03W
4J002AC08W
4J002AC11W
4J002BB00W
4J002BB15W
4J002BB21X
4J002CK02W
4J002CP03W
4J002DE076
4J002DE146
4J002DH047
4J002EK038
4J002FD136
4J002FD137
4J002FD148
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】引張強度、破断伸び等のゴム物性に優れるとともに、難燃性に優れる、難燃性ゴム組成物およびその難燃性ゴム組成物を用いてなる鉄道車両用外幌を提供する。
【解決手段】下記の(A)~(E)成分を含有する難燃性ゴム組成物、および上記難燃性ゴム組成物の架橋体からなる鉄道車両用外幌とする。
(A)ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、ウレタンゴムおよびシリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つ(但し、下記の(B)を除く)。
(B)酸変性ポリオレフィン。
(C)金属水酸化物。
(D)ホスフィン酸金属塩。
(E)(A)成分の架橋剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(E)成分を含有することを特徴とする難燃性ゴム組成物。
(A)ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、ウレタンゴムおよびシリコーンゴム からなる群から選ばれた少なくとも一つ(但し、下記の(B)を除く)。
(B)酸変性ポリオレフィン。
(C)金属水酸化物。
(D)ホスフィン酸金属塩。
(E)(A)成分の架橋剤。
【請求項2】
さらに、下記の(F)成分を含有する、請求項1記載の難燃性ゴム組成物。
(F)フェノール系酸化防止剤。
【請求項3】
上記(A)成分と(B)成分の合計含有量100重量部に対する、上記(C)成分の含有割合が50~300重量部の範囲である、請求項1または2記載の難燃性ゴム組成物。
【請求項4】
上記(A)成分と(B)成分の合計含有量100重量部に対する、上記(D)成分の含有割合が5~50重量部の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃性ゴム組成物。
【請求項5】
上記(A)成分と(B)成分の合計含有量100重量部に対する、上記(F)成分の含有割合が0.5~5重量部の範囲である、請求項2~4のいずれか一項に記載の難燃性ゴム組成物。
【請求項6】
上記ホスフィン酸金属塩(D)の平均粒径が1~40μmの範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載の難燃性ゴム組成物。
【請求項7】
上記(A)成分が、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ウレタンゴムおよびシリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1~6のいずれか一項に記載の難燃性ゴム組成物。
【請求項8】
上記(A)成分と(B)成分との含有割合が、重量比で、A/B=95/5~70/30の範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載の難燃性ゴム組成物。
【請求項9】
上記酸変性ポリオレフィン(B)が、無水マレイン酸変性ポリオレフィンである、請求項1~8のいずれか一項に記載の難燃性ゴム組成物。
【請求項10】
上記金属水酸化物(C)が、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムから選ばれた少なくとも一方である、請求項1~9のいずれか一項に記載の難燃性ゴム組成物。
【請求項11】
幌用の難燃性ゴム組成物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の難燃性ゴム組成物。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の難燃性ゴム組成物の架橋体からなることを特徴とする鉄道車両用外幌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の外幌等に用いられる難燃性ゴム組成物、およびその難燃性ゴム組成物を用いてなる鉄道車両用外幌に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車両間(車両連結部)には、人がプラットホームから電車の車両間にできる空間部へ転落するのを防止することや、車両間の連結部の空気抵抗を低減すること等を主な目的として、外幌が配置されている。このような鉄道車両用外幌には、例えば、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等からなる、白色または灰色のゴム製外幌が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、鉄道車両用外幌には、従来から難燃性が要求されており、特に海外においては、厳しい難燃性が要求される傾向にある。ゴムの難燃化については、一般的に、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、水酸化物等の難燃剤をゴムに添加する手法がある(例えば、特許文献2~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4853485号公報
【特許文献2】特開平7-166047号公報
【特許文献3】特開2005-146256号公報
【特許文献4】特開2009-227695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハロゲン系難燃剤は、燃焼時に黒い煙が発生するといった問題や、環境面への悪影響の問題がある。
【0006】
これに対し、リン系難燃剤や水酸化物は、ハロゲン系難燃剤のような問題はないが、その難燃効果を発現するために大量にゴム中に加える必要があり、このことが、ゴム物性の低下の要因となりやすい。しかも、リン系難燃剤や水酸化物は、ゴムとの相互作用が低く、さらにその粒径がシリカやカーボンブラックといった補強材の粒径に比べ大きいことから、ゴム破壊の起点となりやすく、引張強度や破断伸び等といったゴム物性を低下させる要因となることが懸念される。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、引張強度、破断伸び等のゴム物性に優れるとともに、難燃性に優れる、難燃性ゴム組成物およびその難燃性ゴム組成物を用いてなる鉄道車両用外幌の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、燃焼時の黒煙発生を抑える観点から、難燃剤として金属水酸化物等を使用することを検討した。しかしながら、金属水酸化物等は、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム等のゴムに対する分散性が低く、先に述べたように大量にゴム中に加えないと難燃効果を発現し難い等の問題がある。そこで、本発明者は、上記ゴムに対し、金属水酸化物等とともに、酸変性ポリオレフィンを加えることにより、金属水酸化物等の分散性を高めることを検討した。上記酸変性ポリオレフィンは、その酸変性基が、金属水酸化物等との結合性が高く、その結果得られた、金属水酸化物等が結合された酸変性ポリオレフィンは、上記ゴムに対し良好な分散性を示すようになる。
また、本発明者は、難燃剤として、金属水酸化物とともに、ホスフィン酸金属塩を使用することを検討した。一般的なリン系難燃剤は、ゴムの燃焼に際し、主に炭化層(固相)を形成することにより、これ以上燃え広がるのを抑える作用を発現するが、ホスフィン酸金属塩は、上記のような炭化層の形成による難燃効果のみならず、ゴムが熱せられることにより発生するゴム分解ガス(気相)に起因する燃焼拡大を抑える効果(ゴムの熱分解で発生するラジカルを捕捉する、ラジカルトラップ効果)も得られることから、特に燃焼初期の難燃効果に優れるようになる。
そして、上記各難燃剤等の組み合わせにより、難燃剤の添加量を最小限にすることができるとともに、気相、固相の両方に対し、より高い難燃効果を実現でき、さらに、上記酸変性ポリオレフィンが、優れた柔軟性を示しつつ、鉄道車両用外幌に要求される引張強度、破断伸び、引張応力等を示すようになるため、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、上記の目的を達成するために、以下の[1]~[12]を、その要旨とする。
[1] 下記の(A)~(E)成分を含有することを特徴とする難燃性ゴム組成物。
(A)ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、ウレタンゴムおよびシリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つ(但し、下記の(B)を除く)。
(B)酸変性ポリオレフィン。
(C)金属水酸化物。
(D)ホスフィン酸金属塩。
(E)(A)成分の架橋剤。
[2] さらに、下記の(F)成分を含有する、[1]に記載の難燃性ゴム組成物。
(F)フェノール系酸化防止剤。
[3] 上記(A)成分と(B)成分の合計含有量100重量部に対する、上記(C)成分の含有割合が50~300重量部の範囲である、[1]または[2]に記載の難燃性ゴム組成物。
[4] 上記(A)成分と(B)成分の合計含有量100重量部に対する、上記(D)成分の含有割合が5~50重量部の範囲である、[1]~[3]のいずれかに記載の難燃性ゴム組成物。
[5] 上記(A)成分と(B)成分の合計含有量100重量部に対する、上記(F)成分の含有割合が0.5~5重量部の範囲である、[2]~[4]のいずれかに記載の難燃性ゴム組成物。
[6] 上記ホスフィン酸金属塩(D)の平均粒径が1~40μmの範囲である、[1]~[5]のいずれかに記載の難燃性ゴム組成物。
[7] 上記(A)成分が、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ウレタンゴム および シリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つである、[1]~[6]のいずれかに記載の難燃性ゴム組成物。
[8] 上記(A)成分と(B)成分との含有割合が、重量比で、A/B=95/5~70/30の範囲である、[1]~[7]のいずれかに記載の難燃性ゴム組成物。
[9] 上記酸変性ポリオレフィン(B)が、無水マレイン酸変性ポリオレフィンである、[1]~[8]のいずれかに記載の難燃性ゴム組成物。
[10] 上記金属水酸化物(C)が、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムから選ばれた少なくとも一方である、[1]~[9]のいずれかに記載の難燃性ゴム組成物。
[11] 幌用の難燃性ゴム組成物である、[1]~[10]のいずれかに記載の難燃性ゴム組成物。
[12] [1]~[10]のいずれか一項に記載の難燃性ゴム組成物の架橋体からなることを特徴とする鉄道車両用外幌。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明の難燃性ゴム組成物は、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム等のゴム(A)と、酸変性ポリオレフィン(B)と、金属水酸化物(C)と、ホスフィン酸金属塩(D)と、架橋剤(E)とを含有する。そのため、本発明の難燃性ゴム組成物は、引張強度、破断伸び、引張応力等のゴム物性に優れた効果を奏するとともに、難燃性に優れた効果を奏する。このことから、特に、鉄道車両用外幌等の幌用の形成材料として、優れた性能を発揮することができる。
【0011】
そのため、本発明の難燃性ゴム組成物の架橋体からなる鉄道車両用外幌は、引張強度、破断伸び、引張応力等のゴム物性に優れるとともに、難燃性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0013】
本発明の難燃性ゴム組成物は、先に述べたように、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、ウレタンゴムおよびシリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つのゴム(A)と、酸変性ポリオレフィン(B)と、金属水酸化物(C)と、ホスフィン酸金属塩(D)と、架橋剤(E)とを含有する。そのため、本発明の難燃性ゴム組成物は、引張強度、破断伸び、引張応力等のゴム物性に優れた効果を奏するとともに、難燃性に優れた効果を奏し、特に、鉄道車両用外幌等の幌用の形成材料として、優れた性能を発揮することができる。
なお、本発明において、上記「オレフィン系ゴム」とは、オレフィンを有する重合体で、架橋可能なゴムを意味する。オレフィン系ゴムの架橋可能な官能基としてはオレフィン性二重結合に隣接する活性メチレン基、メチン基及びメチル基などがある。
また、本発明において、上記特定のゴム(A)に、上記酸変性ポリオレフィン(B)は含まれないものとする。
【0014】
《ジエン系ゴム(A成分)》
上記ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、より耐久性、耐摩耗性等に優れる点で、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)が好適に用いられる。
【0015】
《オレフィン系ゴム(A成分)》
上記オレフィン系ゴムとしては、例えば、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)やエチレン-プロピレン共重合ゴム(EPM)といったエチレン-プロピレン系ゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴム(EBT)クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、ポリイソブチレンゴム、ポリイソブチルエーテルゴム、ポリシクロペンテンゴム、ブチルゴム等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、より耐久性等に優れる点で、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)やクロロスルホン化ポリエチレン(CSM)が好適に用いられる。
【0016】
《その他のゴム(A成分)》
上記ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム以外のゴムとしては、ウレタンゴム、シリコーンゴムがあげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
そして、本発明においては、(A)成分として、先に述べたように、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、ウレタンゴムおよびシリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つのゴムが用いられる。
【0017】
《酸変性ポリオレフィン(B成分)》
前記酸変性ポリオレフィン(B)としては、ポリ-α-オレフィン、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂(オレフィン系ゴム(A)を除くもの)を、酸変性してなるものがあげられる。これらの酸変性ポリオレフィンは、単独であるいは二種以上併せて用いられる。なお、上記酸変性は、不飽和カルボン酸、ポリ乳酸、リン酸、スルホン酸等によるものがあげられる。また、上記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、不飽和ジカルボン酸のハーフアミド、フタル酸、ケイ皮酸、グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アニコット酸、ナジック酸等があげられる。また、上記酸変性による変性基は、ポリオレフィン分子鎖の末端にあっても、分子鎖の途中(分子鎖非末端)にあってもよい。
【0018】
なかでも、上記酸変性ポリオレフィン(B)が、無水マレイン酸変性ポリオレフィンであることが、金属水酸化物(C)やホスフィン酸金属塩(D)等の分散性の観点から好ましく、同様の観点から、より好ましくは無水マレイン酸変性ポリ-α-オレフィンである。
【0019】
そして、前記特定のゴム(A)と上記酸変性ポリオレフィン(B)との含有割合は、重量比で、A/B=95/5~70/30の範囲であることが好ましく、より好ましくは、A/B=95/5~80/20の範囲である。すなわち、このような含有割合とすることにより、金属水酸化物(C)やホスフィン酸金属塩(D)等の良好な分散性とともに、良好なゴム物性や耐久性を得ることができる。
【0020】
《金属水酸化物(C成分)》
前記金属水酸化物(C)としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化スズ等が、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、難燃性および発煙抑制性に優れることから、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましく用いられる。
上記金属水酸化物(C)の平均粒径は、通常、0.5~2μmの範囲である。また、上記金属水酸化物(C)の平均粒径が小さい(平均粒径0.75μm以下)と、その粒径に起因したゴム物性の低下が引き起こされるおそれがないといった利点も有する。なお、上記平均粒径は、体積平均粒径であり、例えば、母集団から任意に抽出される試料を用い、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することにより導き出すことができる。また、後記の実施例で使用の金属水酸化物(C)の平均粒径も、このようにして測定されたものである。
【0021】
そして、上記金属水酸化物(C)の含有割合は、前記特定のゴム(A)と酸変性ポリオレフィン(B)の合計含有量100重量部に対し、好ましくは50~300重量部、より好ましくは50~200重量部、さらに好ましくは80~150重量部の範囲である。すなわち、上記範囲よりも金属水酸化物(C)が少ないと、所望の難燃効果を得ることが難しく、上記範囲よりも金属水酸化物(C)が多いと、加工性が悪くなったり、機械的強度が悪くなったりするからである。
【0022】
《ホスフィン酸金属塩(D成分)》
前記ホスフィン酸金属塩(D)としては、例えば、ホスフィン酸アルミニウム塩、ホスフィン酸カルシウム塩、ホスフィン酸亜鉛塩等があげられる。上記ホスフィン酸アルミニウム塩としては、具体的には、ジエチルホスフィン酸アルミニウム等があげられる。そして、これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、ホスフィン酸アルミニウム塩が好ましく、とりわけ、ジエチルホスフィン酸アルミニウムがより好ましい。
また、上記ホスフィン酸金属塩(D)は、所望の難燃効果を得るとともに、ゴムの引張り強さの阻害を抑える観点から、その平均粒径が、1~40μmの範囲であるものが好ましく、1~20μmの範囲であるものがより好ましく、1~10μmの範囲であるものがさらに好ましい。
なお、上記平均粒径も、体積平均粒径であり、例えば、母集団から任意に抽出される試料を用い、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することにより導き出すことができる。また、後記の実施例に使用のホスフィン酸金属塩(D)の平均粒径も、同様の手法により測定されたものである。
【0023】
そして、上記ホスフィン酸金属塩(D)の含有割合は、前記特定のゴム(A)と酸変性ポリオレフィン(B)の合計含有量100重量部に対し、好ましくは5~50重量部、より好ましくは5~40重量部、さらに好ましくは10~25重量部の範囲である。すなわち、上記範囲よりもホスフィン酸金属塩(D)が少ないと、所望の難燃効果を得ることが難しく、上記範囲よりもホスフィン酸金属塩(D)が多いと、加工性が悪くなったり、機械的強度が悪くなったりするからである。
【0024】
《架橋剤(E成分)》
前記架橋剤(E)には、使用する特定のゴム(A)の種類に応じ、そのゴムの架橋に適したものが用いられる。
そして、上記架橋剤(E)としては、例えば、硫黄、塩化硫黄等の硫黄系架橋剤や、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、1,1-ジ-t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジベンゾイルペルオキシヘキサン、n-ブチル-4,4’-ジ-t-ブチルペルオキシバレレート、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルペルオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルペルオキシ-ジイソプロピルベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシヘキシン-3、1,3-ビス-(t-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼン等の有機過酸化物があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、上記架橋剤(E)が有機過酸化物のみからなる(硫黄を不含とする)と、酸性雨による黄変の問題を解消することができるため、鉄道車両用外幌等の幌用の形成材料として優れた性能を発揮することができることから、好ましい。上記有機過酸化物のなかでも、ジクミルパーオキサイドが、より好ましい。
【0025】
上記架橋剤(E)の含有量は、前記特定のゴム(A)と酸変性ポリオレフィン(B)の合計含有量100重量部に対し、0.5~15重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5~10重量部の範囲である。すなわち、上記架橋剤(E)の含有量が少なすぎると、引張強度が低下する傾向がみられ、上記架橋剤(E)の含有量が多すぎると、耐スコーチ性の悪化や伸びが小さくなる傾向がみられるからである。
【0026】
《フェノール系酸化防止剤(F成分)》
本発明の難燃性ゴム組成物においては、上記(A)~(E)成分とともに、より難燃効果を高めるために、フェノール系酸化防止剤(F)を含有させることが好ましい。すなわち、前記ホスフィン酸金属塩(D)との併用により、ゴム燃焼時のラジカルトラップ効果がより高くなり、難燃効果(特に燃焼初期の難燃効果)により優れるようになるからである。
上記フェノール系酸化防止剤(F)としては、例えば、モノフェノール類、ビスフェノール類、ポリフェノール類に属する酸化防止剤が、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、反応性が最適である等の観点から、好ましくは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が用いられる。
上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、N,N’-ヘキサメチレン
ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド]、4,4'-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(2-tert-ブチル-5-メチルフェノール)、4,4',4”-[(2,4,6-トリメチルベンゼン-1,3,5-トリイル)トリス(メチレン)]トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)等が、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
そして、上記フェノール系酸化防止剤(F)の含有割合は、前記特定のゴム(A)と酸変性ポリオレフィン(B)の合計含有量100重量部に対し、好ましくは0.5~5重量部、より好ましくは1~3重量部の範囲である。すなわち、上記範囲でフェノール系酸化防止剤(F)を含有させることにより、良好な難燃効果を得ることができる。
【0027】
なお、本発明の難燃性ゴム組成物においては、上記(A)~(E)成分や、任意成分である上記(F)成分のほか、必要に応じて、補強材、加硫促進剤、加硫助剤、共架橋剤、老化防止剤、プロセスオイル等を適宜に配合することも可能である。
【0028】
上記補強材としては、カーボンブラック、シリカ、タルク等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
上記補強材の含有割合は、前記特定のゴム(A)と酸変性ポリオレフィン(B)の合計含有量100重量部に対し、好ましくは5~50重量部、より好ましくは10~40重量部、さらに好ましくは15~30重量部の範囲である。
【0029】
上記加硫促進剤としては、例えば、チアゾール系,スルフェンアミド系,チウラム系,アルデヒドアンモニア系,アルデヒドアミン系,グアニジン系,チオウレア系等の加硫促進剤があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
上記加硫促進剤の含有割合は、前記特定のゴム(A)と酸変性ポリオレフィン(B)の合計含有量100重量部に対し、好ましくは0.5~7重量部、より好ましくは0.5~5重量部の範囲である。
【0030】
上記加硫助剤としては、例えば、亜鉛華(ZnO)、ステアリン酸、酸化マグネシウム等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
上記加硫助剤の含有割合は、前記特定のゴム(A)と酸変性ポリオレフィン(B)の合計含有量100重量部に対し、好ましくは1~25重量部、より好ましくは3~10重量部の範囲である。
【0031】
上記共架橋剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好適に用いられ、これらとともに、トリアリルシアヌレート、ダイアセトンジアクリルアミド、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジイソプロペニルベンゼン、p-キノンジオキシム、p,p-ジベンゾイルキノンジオキシム、フェニルマレイミド、アリルメタクリレート、N,N-m-フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、1,2-ポリブタジエン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
上記共架橋剤の含有割合は、前記特定のゴム(A)と酸変性ポリオレフィン(B)の合計含有量100重量部に対し、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは3~10重量部の範囲である。
【0032】
上記老化防止剤としては、例えば、カルバメート系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、ワックス類等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
上記老化防止剤の含有割合は、前記特定のゴム(A)と酸変性ポリオレフィン(B)の合計含有量100重量部に対し、好ましくは1~10重量部、より好ましくは2~5重量部の範囲である。
【0033】
上記プロセスオイルとしては、例えば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
上記プロセスオイルの含有割合は、前記特定のゴム(A)と酸変性ポリオレフィン(B)の合計含有量100重量部に対し、好ましくは1~50重量部、より好ましくは3~30重量部の範囲である。
【0034】
本発明の難燃性ゴム組成物は、例えば、つぎのようにして調製することができる。すなわち、前記特定のゴム(A)と、酸変性ポリオレフィン(B)と、金属水酸化物(C)と、ホスフィン酸金属塩(D)と、必要に応じて、フェノール系酸化防止剤(F),補強材,老化防止剤,プロセスオイル等とを適宜に配合し、これらを、バンバリーミキサー等を用いて、約50℃の温度から混練りを開始し、100~160℃で、3~5分間程度混練を行う。つぎに、これに、架橋剤(E),共架橋剤,加硫促進剤,加硫助剤等を適宜に配合し、オープンロールを用いて、所定条件(例えば、60℃×5分間)で混練することにより、難燃性ゴム組成物を調製することができる。その後、得られた難燃性ゴム組成物を、高温(150~170℃)で5~60分間、架橋することにより難燃性ゴム(架橋体)を得ることができる。
【0035】
本発明の難燃性ゴム組成物は、特に、鉄道車両用外幌等の幌用の形成材料として、優れた性能を発揮することができる。なお、鉄道車両用外幌以外の幌としては、例えば、自動車用の幌等があげられる。そして、本発明の難燃性ゴム組成物の架橋体からなる鉄道車両用外幌は、引張強度、破断伸び、引張応力等のゴム物性に優れるとともに、難燃性に優れている。
【実施例0036】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0037】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0038】
〔EPDM(A成分)〕
エスプレン512F(住友化学社製)
【0039】
〔CSM(A成分)〕
TS-430(東ソー社製)
【0040】
〔NR(A成分)〕
天然ゴム
【0041】
〔酸変性ポリオレフィン(B成分)〕
タフマーMH7020(三井化学社製)
【0042】
〔亜鉛華〕
酸化亜鉛二種(堺化学工業社製)
【0043】
〔ステアリン酸〕
ステアリン酸さくら(日油社製)
【0044】
〔水酸化アルミニウム(C成分)〕
KH-101(KC CORPORATION社製)、平均粒径:1.0μm
【0045】
〔水酸化マグネシウム(C成分)〕
キスマ5(協和化学工業社製)、平均粒径:0.9μm
【0046】
〔ホスフィン酸金属塩-1(D成分)〕
ジエチルホスフィン酸アルミニウム、EXOLIT OP1230(Clariant社製)、平均粒径:40μm
【0047】
〔ホスフィン酸金属塩-2(D成分)〕
ジエチルホスフィン酸アルミニウム、EXOLIT OP930(Clariant社製)、平均粒径:20μm
【0048】
〔ホスフィン酸金属塩-3(D成分)〕
ジエチルホスフィン酸アルミニウム、EXOLIT OP945(Clariant社製)、平均粒径:5μm
【0049】
〔ポリリン酸アンモニウム〕
FCP790(鈴裕化学社製)
【0050】
〔フェノール系酸化防止剤(F成分)〕
irganox1010(BASF社製)
【0051】
〔過酸化物架橋剤(E成分)〕
パークミルD40(日油社製)
【0052】
〔共架橋剤〕
ハイクロスED-P(精工化学社製)
【0053】
〔硫黄(E成分)〕
硫黄(軽井沢精錬所社製)
【0054】
〔加硫促進剤-1〕
サンセラーBZ(三新化学社製)
【0055】
〔加硫促進剤-2〕
サンセラーTT(三新化学社製)
【0056】
〔加硫促進剤-3〕
サンセラーTRA(三新化学社製)
【0057】
〔加硫促進剤-4〕
バルノックR(大内新興化学工業社製)
【0058】
<実施例1~17、比較例1~3>
後記の表1および表2に示す各成分を、同表に示す割合で配合し、バンバリーミキサーおよびオープンロールを用いて前記の手法により混練することにより、ゴム組成物(難燃性ゴム組成物)を調製した。
【0059】
このようにして得られた実施例および比較例の難燃性ゴム組成物を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1および表2に併せて示した。
【0060】
≪引張応力・引張強度・破断伸び≫
各難燃性ゴム組成物を、150℃×20分の条件でプレス成形(加硫)して、厚み2mmのゴムシートを作製した。そして、このゴムシートから、JIS5号ダンベルを打ち抜き、JIS K 6251(2010)に準拠して、25℃雰囲気下における引張応力(M100)、引張り強さ(引張強度)および切断時伸び(破断伸び)を測定した。
そして、上記引張応力(M100)は、4MPa以上のものを「◎」、2.5MPa以上4MPa未満のものを「○」、2MPa以上2.5MPa未満のものを「△」、2MPa未満のものを「×」と評価した。
また、上記引張強度は、12MPa以上のものを「◎」、9MPa以上12MPa未満のものを「○」、7MPa以上9MPa未満のものを「△」、7MPa未満のものを「×」と評価した。
さらに、上記破断伸びは、700%以上のものを「◎」、550%以上700%未満のものを「○」、400%以上550%未満のものを「△」、400%未満のものを「×」と評価した。
【0061】
≪酸素指数≫
各難燃性ゴム組成物を、150℃×20分の条件でプレス成形(加硫)して、厚み2mmのゴムシートを作製した。そして、このゴムシートの燃え難さを評価するため、JIS K 7201に準拠し、このゴムシートの燃焼を持続するのに必要な最低酸素濃度(容量%)を、酸素指数として測定した。
そして、上記酸素指数が、30以上のものを「◎」、26以上30未満のものを「○」、22以上26未満のものを「△」、22未満のものを「×」と評価した。
【0062】
≪発煙抑制性≫
各難燃性ゴム組成物を、150℃×60分の条件でプレス成形(加硫)して、76.2mm角、厚さ25.4mmのゴムブロックを作製した。そして、このゴムブロックの難燃性を評価するため、ASTM E662に準拠し、このゴムブロックの燃焼時に発生する煙の光透過度を測定した。
詳しくは、ノンフレミングもしくはフレミング試験における加熱開始4分後の煙のDs値(比光学密度)を測定し、その値が、50未満のものを「◎」、50以上100未満のものを「○」、100以上200未満のものを「△」、200以上のものを「×」と評価した。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
上記表1および表2の結果から、実施例のゴム組成物は、引張応力・引張強度・破断伸びといったゴム物性に優れるとともに、難燃評価(光透過性試験、酸素指数)において高い評価が得られていることがわかる。
【0066】
これに対し、比較例1のゴム組成物は、ホスフィン酸金属塩(D成分)を配合しておらず、実施例よりも酸素指数評価に劣る結果が得られた。比較例2のゴム組成物は、酸変性ポリオレフィン(B成分)を配合しておらず、実施例よりも引張応力に劣る結果が得られた。比較例3のゴム組成物は、ホスフィン酸金属塩(D成分)に代えてポリリン酸アンモニウムを配合しているが、実施例よりも酸素指数評価等に劣る結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の難燃性ゴム組成物は、引張強度、破断伸び、引張応力等のゴム物性に優れた効果を奏するとともに、難燃性に優れた効果を奏する。そのため、特に、鉄道車両用外幌等の幌用の形成材料として、優れた性能を発揮することができる。なお、鉄道車両用外幌以外にも、例えば、自動車用の幌等の形成材料として用いることができる。