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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057355
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】施工現場の工場化
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/28 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
E04G21/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165568
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】520381218
【氏名又は名称】株式会社Splice-Lab
(71)【出願人】
【識別番号】518208978
【氏名又は名称】極東メタリコン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390020215
【氏名又は名称】株式会社西部技研
(71)【出願人】
【識別番号】000227146
【氏名又は名称】日綜産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595059377
【氏名又は名称】株式会社日本ピーエス
(71)【出願人】
【識別番号】000173810
【氏名又は名称】一般財団法人土木研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】片山 英資
(72)【発明者】
【氏名】小寺 健史
(72)【発明者】
【氏名】永松 資紹
(72)【発明者】
【氏名】舩戸 浩史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 博之
(72)【発明者】
【氏名】池田 道春
(72)【発明者】
【氏名】久野 進二
(72)【発明者】
【氏名】安波 博道
(72)【発明者】
【氏名】三浦 正純
(72)【発明者】
【氏名】中島 和俊
(57)【要約】
【課題】作業者の作業空間である施工現場を外部空間から密封遮断し、さらに、温度湿度管理技術、粉塵低減技術、及びVOC(揮発性有機化合物)濃度管理技術を導入することで、施工現場を工場内のような作業環境とする施工現場の工場化を提供する。
【解決手段】土木や建築の建設又は補修を行う施工現場を、外部空間から遮断する防水性・気密性の高い複数の密封パネルや防水性・気密性の高い熱収縮シートで密封する密封手段を備え、前記施工現場には、温度及び湿度を調整する温度湿度管理手段と、粉塵を除去する粉塵低減手段と、揮発性有機化合物の濃度を管理調整するVOC濃度管理手段と、の少なくとも一つ以上を備えたことを特徴とする施工現場の工場化とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土木や建築の建設又は補修を行う施工現場を外部空間から遮断する密封手段を備え、
前記施工現場には、
温度及び湿度を調整する温度湿度管理手段と、
粉塵を除去する粉塵低減手段と、
揮発性有機化合物の濃度を管理調整するVOC濃度管理手段と、
の少なくとも一つ以上を備えたことを特徴とする施工現場の工場化。
【請求項2】
前記密封手段は、前記施工現場を囲繞するように仕切部材を設置し、当該仕切部材に防水性・気密性の高い複数の密封パネルを設置することで、外部空間から当該施工現場を密封遮断することを特徴とする請求項1に記載の施工現場の工場化。
【請求項3】
前記密封手段は、前記施工現場を囲繞するように仕切部材を設置し、当該仕切部材を防水性・気密性の高い熱収縮シートを巻き回して覆うことで、外部空間から当該施工現場を密封遮断することを特徴とする請求項1に記載の施工現場の工場化。
【請求項4】
前記温度湿度管理手段は、
空気中の塩分を除去する塩分除去手段を備えたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の施工現場の工場化。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工現場の工場化に関し、詳しくは、土木や建築等の施工現場において、施工現場を外界から遮断し、なおかつ、空調、防塵、有害物質の除去を行う各種装置を設置することで、あたかも施工現場を工場内のような作業環境とする施工現場の工場化に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土木や建築の施工現場においては、悪天候(降雨、降雪等)によりコンクリートの打設や塗装作業の遅延等が発生するため、施工日程の延長が余儀なくされていた。特に寒冷地では冬季に気温が下がり、土木や建築の施工現場での作業(コンクリートの打設作業や塗装作業等)に支障をきたすため、土木や建築の施工を行えず、施工日程が大幅に延長される場合がある。
【0003】
そこで、土木や建築の施工現場において、悪天候(降雨、降雪等)から施工現場を守るために、膜材の張設が容易で、かつ軽量であるため大掛かりな揚重装置や自昇装置を必要としない仮設の屋根装置が開示されている。(特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-256639
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の屋根装置は、あくまで、降雨や降雪から施工現場を守るために、施工現場の上部に屋根を張設するだけのものである。つまり、直接の降雨や降雪は防げるものの夏季の高温状態や冬季の低温状態の温度管理、又は、高湿度状態を改善する湿度管理はできない。ここで、本明細書で管理される湿度は、一般的に天気予報などで表される相対湿度である。相対湿度とは、空気中に含まれる水蒸気の割合を百分率(例えば、30%等)で表わされるものであり、以下、本明細書中の湿度は全て相対湿度とする。また、既設の土木現場における道路や鉄道などの橋梁の主桁等の補修作業では、そもそも特許文献1に記載の屋根装置は使用できない。
【0006】
つまり、既設の道路や鉄道などの橋梁の主要部(特に主桁部分)には、強度、加工性、経済性に優れるH型や箱型の鋼材が好適に用いられている。このような鋼材は、防食(防錆も含む)のため、主に樹脂製(エポキシ樹脂、フッ素樹脂等)の塗料により塗装されているが、橋梁の施工後では塗装が経年劣化して腐食(錆等)が発生する可能性があり、錆び落としや防食のための再塗装等の補修作業を行う必要がある。
【0007】
このような補修作業を行う施工現場では、補修作業を行う主桁の下部につり足場等を組み、作業者の作業空間を確保する必要がある。さらに、有害物質を含む旧塗装や錆び落としにかかる粉塵の飛散や再塗装におけるVOC(揮発性有機化合物)対策のため作業者が防塵・防毒マスク等を装着して作業者の安全を確保する必要がある。
【0008】
さらに、通常の塗装やコンクリートの材料は、品質確保のために適した温度や湿度の制約を受ける。このため、悪天候(降雨、降雪等)の影響を受け難い施工現場の環境を整えることも重要ではあるが、作業者の安全性の向上や塗装、コンクリートの品質向上のために、温度湿度管理技術、粉塵低減技術、及びVOC(揮発性有機化合物)濃度管理技術を導入し、あたかも、施工現場を外部空間から密封遮断した工場内のような作業環境とすることが望まれている。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、作業者の作業空間である施工現場を外部空間から密封遮断し、さらに、温度湿度管理技術、粉塵低減技術、及びVOC(揮発性有機化合物)濃度管理技術を導入することで、施工現場を工場内のような作業環境とする施工現場の工場化を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の技術を提供する。
【0011】
本発明は、土木や建築の建設又は補修を行う施工現場を外部空間から遮断する密封手段を備え、前記施工現場には、温度及び湿度を調整する温度湿度管理手段と、粉塵を除去する粉塵低減手段と、揮発性有機化合物の濃度を管理調整するVOC濃度管理手段と、の少なくとも一つ以上を備えたことを特徴とする施工現場の工場化とした。
【0012】
また、前記密封手段は、前記施工現場を囲繞するように仕切部材を設置し、当該仕切部材に防水性・気密性の高い複数の密封パネルを設置することで、外部空間から当該施工現場を密封遮断することを特徴とする。
【0013】
また、前記密封手段は、前記施工現場を囲繞するように仕切部材を設置し、当該仕切部材を防水性・気密性の高い熱収縮シートを巻き回して覆うことで、外部空間から当該施工現場を密封遮断することを特徴とする。
【0014】
また、前記温度湿度管理手段は、空気中の塩分を除去する塩分除去手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、土木や建築の建設又は補修を行う施工現場を外部空間から遮断する密封手段を備え、施工現場には、温度及び湿度を調整する温度湿度管理手段と、粉塵を除去する粉塵低減手段と、揮発性有機化合物の濃度を管理調整するVOC濃度管理手段と、の少なくとも一つ以上を備えたことを特徴とする施工現場の工場化である。
【0016】
すなわち、施工現場を外部空間から遮断する密封手段を備えているため、土木や建築の建設又は補修を行う施工現場において、気候や天候の影響による施工現場の日程の変動を可及的に低く抑えることができる。さらに、密封された施工現場には、温度及び湿度を調整する温度湿度管理手段、粉塵を除去する粉塵低減手段、揮発性有機化合物の濃度を管理調整するVOC濃度管理手段のうちの少なくとも一つ以上を備えることができる。これにより、温度湿度管理手段を備えた場合は、作業者に空調管理された快適な施工現場を提供することができる。また、粉塵低減手段を備えた場合は、有害物質を含む旧塗装や錆び落とし作業時の飛散した粉塵から作業者を守ることができる。また、VOC濃度管理手段を備えた場合は、再塗装におけるVOC(揮発性有機化合物)の発生から作業者を守ることができる。
【0017】
本実施形態の施工現場の工場化によれば、従来外部で行われていた補修作業(旧塗装や錆の除去、その後の再塗装等)や建設作業(コンクリートの打設等)等の土木や建築の施工現場を、あたかも外部空間から密封遮断された工場内のような作業空間とすることができるので、作業者の安全性の向上や作業効率の向上を図ることができる。さらに、塗装や打設されたコンクリートの品質向上も図ることができる。
【0018】
また、密封手段は、施工現場を囲繞するように仕切部材を設置し、当該仕切部材に防水性・気密性の高い複数の密封パネルを設置することで、外部空間から当該施工現場を密封遮断する。このように、仕切部材に複数の密封パネルを設置することで、施工現場を外部空間から遮断して密封することができる。この密封パネルとしては、気密性や防水性の高いシートや樹脂製の薄板を張設したパネルが好適に用いられる。
【0019】
ここで、仕切部材としては、周知の吊り足場、単管足場、枠組み足場、支柱足場等が好適に用いられる。例えば、橋梁の主桁の補修時には吊り足場が好適に用いられ、橋梁Vの橋脚Lを新規建設する場合には、単管足場、枠組み足場、支柱足場等が好適に用いられる。
【0020】
また、密封手段は、前記施工現場を囲繞するように仕切部材を設置し、当該仕切部材を防水性・気密性の高い熱収縮シートで覆うことで、外部空間から当該施工現場を密封遮断する。すなわち、仕切部材を熱収縮シートで覆い、作業者が熱収縮シートをヒートガン等で加熱することにより、熱収縮シートが溶着・収縮して、施工現場を外部空間から遮断して密封することができる。この熱収縮シートとしては、防水性・気密性が高く、さらに難燃性を有し、所定の熱により溶着・収縮するシートが好適に用いられる。
【0021】
また、温度湿度管理手段は、空気中の塩分を除去する塩分除去手段を備えている。具体的には、施工現場が海に近い場合は、温度湿度管理手段に除塩フィルターを付設し、施工現場の外部から供給される空気から塩分を除去する。このように、施工現場に温度や湿度が管理され、さらに、塩分を除去した空気を供給することで、施工現場における塗装作業やコンクリートの打設作業において品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の主桁の補修時の施工現場の構成を示す正面図である。
図2】本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の主桁の補修時の施工現場の吊り足場の構成を示す斜視図である。
図3】本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の主桁の補修時の施工現場を密封パネルで密封した構成を示す斜視図である。
図4】本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の主桁の補修時の施工現場を熱収縮シートで密封した構成を示す斜視図である。
図5】本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の橋脚の建設時の施工現場の構成を示す正面図である。
図6】本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の橋脚の建設時の施工現場を密封パネルで密封した構成を示す斜視図である。
図7】本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の橋脚の建設時の施工現場を熱収縮シートで密封した構成を示す斜視図である。
図8】本実施形態に係る施工現場における各種塗料の硬化時間と気温との関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、土木や建築の建設又は補修を行う施工現場を外部空間から遮断する密封手段を備え、施工現場には、温度及び湿度を調整する温度湿度管理手段と、粉塵を除去する粉塵低減手段と、揮発性有機化合物の濃度を管理調整するVOC濃度管理手段と、をさらに備えたことを特徴とする施工現場の工場化に関するものである。
【0024】
以下、図1図8を参照して、本発明における施工現場の工場化の実施形態の一例を説明する。図1は、本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の主桁の補修時の施工現場の構成を示す正面図である。図2は、本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の主桁の補修時の施工現場の吊り足場の構成を示す斜視図である。図3は、本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の主桁の補修時の施工現場を密封パネルで密封した構成を示す斜視図である。図4は、本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の主桁の補修時の施工現場を熱収縮シートで密封した構成を示す斜視図である。図5は、本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の橋脚の建設時の施工現場の構成を示す正面図である。図6は、本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の橋脚の建設時の施工現場を密封パネルで密封した構成を示す斜視図である。図7は、本実施形態に係る施工現場の工場化の橋梁の橋脚の建設時の施工現場を熱収縮シートで密封した構成を示す斜視図である。図8は、本実施形態に係る施工現場における各種塗料の硬化時間と気温との関係を説明するグラフである。
【0025】
(補修時の施工現場の工場化)
以下、上部に鉄道や道路が設けられた橋梁Vの主桁10の主要構成部材である鋼材(I型、H型や箱型の鋼材等)の補修作業を行う場合を一例として説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の施工現場の工場化は、橋梁Vの主桁10の主要構成部材である鋼材(図中はI型(H型)の鋼材)の補修作業を行う箇所を囲繞するように仕切部材20である吊り足場を設置し、作業者の作業空間である施工現場Gを形成する。そして、仕切部材20を被覆体(密封パネルP、熱収縮シートS)で覆う。この施工現場Gは、作業者Hが立った状態で自由に移動できる高さの作業空間を確保することが望ましい。この施工現場Gにおいて、作業者Hは、橋梁Vの主桁10の鋼材表面の腐食部位に対して素地調整処理を行う。この素地調整処理の代表的な手法であるブラスト処理は、ブラスト噴出用ホースから高速で噴出される研削材により、鋼材表面の腐食部位を清浄する処理である。そして、ブラスト処理を行った腐食部に、防食(防錆も含む)のために樹脂製(エポキシ樹脂、フッ素樹脂等)塗料の塗装や金属溶射が行われる。
【0027】
このため、施工現場G又はその近傍(図中では橋梁Vの上部)には電源11が設置されている。この電源11は、各種補修作業を行うために電源を要する各種機材に電源ケーブルを介して電気を供給する。また、施工現場Gには、施工現場G内部の温度及び湿度を調整する温度湿度管理手段である温度湿度管理装置12、施工現場G内部の粉塵を除去する粉塵低減手段である粉塵低減装置13、施工現場G内部の揮発性有機化合物の濃度を管理調整するVOC濃度管理手段であるVOC濃度管理装置14が設置されている。
【0028】
温度湿度管理装置12としては、周知のデシカント除湿機が好適に用いられる。デシカント除湿機は、ハニカム内部でシリカゲルを化学合成した除湿ロータを心臓部に用い、この除湿ロータで水分を吸着して施工現場G内の空気を除湿するものである。また、デシカント除湿機には、再生ヒータが付設されており施工現場G内の温度調整も行える。また、橋梁Vの設置場所が海に近い場合は、除塩フィルターをデシカント除湿機に付設し、施工現場Gに外部から供給される空気から塩分を除去する。この除塩フィルターは、本実施形態の塩分除去手段として機能する。なお、塩分除去手段は除塩フィルターに限定されるものではなく、施工現場Gに外部から供給される空気から塩分を除去する機能を有するものであればよい。また、温度湿度管理装置12としては、施工現場G内の空気の温度や湿度の調整、除塩できるものであればよく、デシカント除湿機に限定されるものではない。
【0029】
粉塵低減装置13としては、周知のウェットスクラバーが好適に用いられる。ウェットスクラバーは、粉塵を含んだ空気を気液体混相させることで、効率よく施工現場G内の空気の集塵・脱臭・ガス吸収を行うものである。なお、粉塵低減装置13としては、施工現場G内の空気から集塵・脱臭・ガス吸収を行うものであればよく、ウェットスクラバーに限定されるものではない。
【0030】
VOC濃度管理装置14としては、周知のVOC濃縮装置が好適に用いられる。VOC濃縮装置は、疎水性ゼオライトを担持したロータを心臓部に用い、このロータでVOC(揮発性有機化合物)を吸着、濃縮除去することにより、効率よく施工現場G内の空気を浄化するのである。なお、VOC濃度管理装置14としては、施工現場G内の空気からVOCを吸着、除去できるものであればよく、VOC濃縮装置に限定されるものではない。
【0031】
なお、図1中では、電源11を施工現場Gの外部に配設し、温度湿度管理手段である温度湿度管理装置12、粉塵低減手段である粉塵低減装置13、VOC濃度管理手段であるVOC濃度管理装置14を施工現場Gの内部に配設する構成で説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、温度湿度管理装置12を施工現場Gの外部に配設し、施工現場Gの内部の空気を排出する排気ダクトや施工現場Gの内部に空気を供給する給気ダクト等で施工現場Gの内部と連結するようにしてもよい。つまり、各種手段を構成する各種装置の配設場所は、施工現場Gの容量に応じて適宜変更可能である。
【0032】
橋梁Vの主桁10の主要構成部材である鋼材の補修作業を行う場合は、図2に示すように、まず橋梁Vの主要構成部材である鋼材の主桁10を囲繞するように、橋梁Vの下部に仕切部材20としての吊り足場を設置する。仕切部材20としての吊り足場は、橋梁Vの幅方向両サイド又は橋梁Vの下面から、所定間隔を置いて垂下された複数の吊材21と、この吊材21間を水平に連結した床組22と、床組22間に水平に懸架して設置された作業者が移動や作業をするための複数の作業板23とにより構成されている。そして、仕切部材20としての吊り足場は、橋梁Vの橋脚L、L間にわたって設置される。
【0033】
次に、図3に示すように、吊材21の内側に沿って作業者が補修作業を行う主桁10を囲繞するように、作業板23の上面に複数の密封パネルPを立設する。密封パネルPは、フレームFに気密性や防水性の高いシートや樹脂製の薄板からなる張材Bを複数段(図3では上下二段)張設したものである。また、張材Bの素材としては透光性を有する素材が望ましい。このように、透光性を有するとともに気密性や防水性の高いシート又は樹脂製の薄板の張材Bを密封パネルPに用いることで、この密封パネルPで囲繞された施工現場G内に外光を取り入れることができ、施工現場G内に設ける照明等の数を必要最小限とすることができる。なお、吊材21の内側に立設されて取付けられる密封パネルPの枚数は、囲繞する施工現場Gの大きさ(高さ)に応じて適宜変更可能である。また、図3においては、吊材21の内側に複数の密封パネルPを立設するようにしたが、吊材21の外側の作業板23の上面に複数の密封パネルPを立設してもよい。
【0034】
ここで、仕切部材20を構成する複数の密封パネルPを設置するときに、密封パネルP間に隙間が生じる場合がある。この場合は、密封パネルP間をスポンジ等で埋めることで、施工現場Gを外部空間から遮断し密封するとよい。また、密封パネルP間に後述の熱収縮シートS(図4参照)を添付し、この熱収縮シートSを所定のヒートガン等で加熱することにより、熱収縮シートSが溶着・収縮して、密封パネルP間を密封するようにしてもよい。
【0035】
また、図4に示すように、仕切部材20としての吊り足場を構成する吊材21の外側に沿って、作業者が補修作業を行う主桁10を囲繞するように熱収縮シートSを巻き回して取付けることができる。熱収縮シートSは、所定厚さ(例えば、0.3mm)の薄膜をロール状に形成されたものが好適に用いられる。また、熱収縮シートSの素材としては、気密性や防水性の高いポリエチレンが好適に用いられ、色は乳白色の透光性を有するものが望ましい。また、熱収縮シートSは加熱しても難燃性(発火しない)を有するとともに、専用のヒートガンで加熱すると所定温度(摂氏150度)以上で、溶着・収縮するという特性を有する。この特性を生かして、吊材21の外側に熱収縮シートSを巻き回して取付けた後、専用のヒートガンで加熱することで、熱収縮シートSが溶着・収縮して吊材21の外側を密封して、施工現場Gを外部空間から密封遮断することができる。
【0036】
このように、透光性を有するとともに気密性や防水性の高い熱収縮シートSにより施工現場Gを密封することで、施工現場G内に外光を取り入れることができ、施工現場G内に設ける照明等の数を必要最小限とすることができる。なお、熱収縮シートSの大きさ(幅、高さ及び長さ)は、仕切部材20で囲繞される施工現場Gの空間の大きさ(つまり、施工範囲)に応じて適宜変更可能である。なお、図4においては、吊材21の外側に熱収縮シートSを巻き回すようにしたが、吊材21の内側に施工現場Gを囲繞するように熱収縮シートSを巻き回してもよい。
【0037】
上述してきたように、本実施形態の施工現場の工場化によれば、橋梁Vの主桁10の主要構成部材である鋼材(図中はI型(H型)の鋼材)の補修作業を行う場合は、仕切部材20である吊り足場を設置し、さらに、仕切部材20を構成する吊材21の外側又は内側に施工現場Gを囲繞するように複数の密封パネルPを作業板23の上面に立設、又は、吊材21の外側又は内側に施工現場Gを囲繞するように熱収縮シートSで覆うことで、上面は橋梁Vにより、側面は複数の密封パネルP又は熱収縮シートSにより、そして、底面は作業板23により、外部から密閉遮断された作業者の作業空間としての施工現場Gを形成することができる。
【0038】
そして、密封遮断された施工現場Gには、温度及び湿度を調整する温度湿度管理手段(温度湿度管理装置12)、粉塵を除去する粉塵低減手段(粉塵低減装置13)、揮発性有機化合物の濃度を管理調整するVOC濃度管理手段(VOC濃度管理装置14)が付設されている。これにより、従来外気にさらされて行われていた補修作業(旧塗装や錆の除去、その後の再塗装等)を行う施工現場Gを、あたかも外部空間から密封遮断された工場内のような作業空間とすることができる。これにより、補修作業を行う施工現場Gにおいて、気候や天候の影響による施工現場の日程の変動を可及的に低く抑えることができる。さらに、施工現場Gで補修作業を行う作業者は、密封された工場内のような安全な作業環境で補修作業をすることができるので、作業者の安全性の向上や補修作業の効率の向上、さらに、塗装等の品質の向上を図ることができる。
【0039】
(新規建設時の施工現場の工場化)
以下、上部に鉄道や道路が設けられた橋梁Vの橋脚Lを新規に建設する場合を一例として説明する。
【0040】
図5に示すように、本実施形態の施工現場の工場化は、橋梁Vの橋脚Lを新たに建設する前に、橋脚Lを囲繞するように仕切部材20としての足場を立設して施工現場Gを形成する。そして、仕切部材20の外側又は内側に被覆体(密封パネルP、熱収縮シートS)で覆う。この施工現場Gにおいて、作業者Hは、橋脚Lの建設作業(土台となる基礎コンクリートの打設、橋脚Lの建設等)を行う。
【0041】
施工現場Gには、各種建設作業を行うための機材に電源を供給する電源11(図中は発電機を搭載した車両)が設置されている。また、施工現場Gには、施工現場G内部の温度及び湿度を調整する温度湿度管理手段である温度湿度管理装置12、施工現場G内部の粉塵を除去する粉塵低減手段である粉塵低減装置13、施工現場G内部の揮発性有機化合物(VOC)の濃度を管理調整するVOC濃度管理手段であるVOC濃度管理装置14が設置されている。
【0042】
図中の温度湿度管理装置12、粉塵低減装置13及びVOC濃度管理装置14は、施工現場Gに規模に応じたものであり、上述した補修作業で説明したものと同様な機能を有するものであるため、説明は省略する。
【0043】
また、図5中では、電源11(図中は発電機を搭載した車両)、温度湿度管理手段である温度湿度管理装置12、粉塵低減手段である粉塵低減装置13、VOC濃度管理手段であるVOC濃度管理装置14を施工現場Gの内部に配設する構成で説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、温度湿度管理装置12を施工現場Gの外部に配設し、施工現場Gの内部の空気を排出する排気ダクトや施工現場Gの内部に空気を供給する給気ダクト等で施工現場Gの内部と連結するようにしてもよい。また、電源11(図中は発電機を搭載した車両)は、施工現場Gの外部に配設し、各種建設作業を行うための機材に電源ケーブルを介して電気を供給することもできる。つまり、各種手段を構成する各種装置の配設場所は、施工現場Gの容量に応じて適宜変更可能である。
【0044】
橋梁Vの橋脚Lを新たに建設する建設作業を行う場合は、まず、図5に示すように、建設される橋脚Lを囲繞するように仕切部材20としての足場を立設する。ここで仕切部材20として使用される足場は、周知の単管足場や枠組み足場、支柱足場であり、橋脚Lを建設する地面から、所定間隔を置いて垂直に設置され、足場用の複数の仮設用部材(支柱21、床組22、作業板23等)により構成されている。
【0045】
図6に示すように、仕切部材20としての足場の外側に沿って複数の密封パネルPを立設する。このとき、仕切部材20で囲繞された施工現場Gの天井は、屋根部材Yを仕切部材20の上部に載置することで、施工現場Gの上部を外部空間と遮断する。なお、施工現場Gの天井にも水平に仕切部材20を組んで、そこに複数の密封パネルPを取付けることもできるが、これでは、仕切部材20の組立てや複数の密封パネルPの設置に多大な工程を要する場合がある。このため、予め施工現場Gに応じた屋根部材Yを別途組み立てておき、この屋根部材Yを仕切部材20の上部に載置することで、施工現場Gの天井としている。
【0046】
ここで、仕切部材20の外側に沿って複数の密封パネルPを立設するときに、密封パネルP間に隙間が生じる場合がある。この場合は、この隙間をスポンジ等で埋めることで、施工現場Gの側面を外部空間から遮断し密封するとよい。また、複数の密封パネルP間の隙間に熱収縮シートSを添付し、この熱収縮シートSを所定のヒートガン等で加熱することにより、熱収縮シートが溶着・収縮して、複数の密封パネルP間の隙間を密封するようにしてもよい。なお、図6では、仕切部材20としての足場の外側に沿って複数の密封パネルPを立設するようにしたが、仕切部材20としての足場の内側に沿って複数の密封パネルPを立設してもよい。
【0047】
また、図7に示すように、仕切部材20としての足場の外側に沿って熱収縮シートSを巻き回して取付けることもできる。その後、専用のヒートガンで加熱することで、熱収縮シートSが溶着・収縮して仕切部材20の外側を密封して、施工現場Gの側面を外部空間から密封遮断する。この場合も、施工現場Gの天井にも水平に仕切部材20を組んで、その外側(上面)に熱収縮シートSを巻き回して取付け、その後、専用のヒートガンで加熱することで施工現場Gの天井を形成することもできるが、これでは、仕切部材20の組立てや熱収縮シートSの巻き回しに多大な工程を要する場合がある。このため、予め施工現場Gに応じた屋根部材Yを別途組み立てておき、この屋根部材Yを仕切部材20の上部に載置することで、施工現場Gの天井としている。なお、図7では、仕切部材20としての足場の外側に沿って熱収縮シートSを巻き回して取付けるようにしたが、仕切部材20としての足場の内側に沿って熱収縮シートSを巻き回して取付けてもよい。
【0048】
このように、透光性を有するとともに気密性や防水性の高い密封パネルPや熱収縮シートSにより施工現場Gを密封することで、施工現場G内に外光を取り入れることができ、施工現場G内に設ける照明等の数を必要最小限とすることができる。
【0049】
ここで、橋梁Vの橋脚Lを新たに建設する建設作業において、橋脚Lを囲繞するように仕切部材20としての足場を立設する場合は、建設作業の進行状態に応じて仕切部材20として設置される足場の高さを変更することができる。具体的には、橋脚Lの建設においては、橋脚Lを立設するための地面に対する基礎部Kの工事が最初となる。この場合は、施工現場Gを形成する仕切部材20の高さは、作業者が立った状態で基礎部Kの工事を行える高さであればよい。そして、橋脚Lの建設の進捗に応じて、施工現場Gを形成する仕切部材20の高さを高くして、最終的には、図5に示すように、橋脚Lの全てを囲繞する高さまで、仕切部材20の高さを段階的に高くする。このように、作業者の作業空間である施工現場Gを必要最小限の作業空間とすることで、例えば、温度及び湿度を調整する温度湿度管理装置12に余計な負荷をかけることなく、また、省電力を測ることもできる。
【0050】
上述してきたように、本実施形態の施工現場の工場化によれば、橋梁Vの橋脚Lを新規に建設する場合は、仕切部材20である足場を設置し、さらに、仕切部材20の外側又は内側に施工現場Gを囲繞するように複数の密封パネルPを立設、又は、仕切部材20の外側又は内側に施工現場Gを囲繞するように熱収縮シートSで覆うことで、上面は屋根部材Yにより、側面は複数の密封パネルP又は熱収縮シートSにより、そして、底面は地面により、外部から密閉遮断された作業者の作業空間としての施工現場Gを形成することができる。
【0051】
そして、密封遮断された施工現場Gには、温度及び湿度を調整する温度湿度管理手段(温度湿度管理装置12)、粉塵を除去する粉塵低減手段(粉塵低減装置13)、揮発性有機化合物の濃度を管理調整するVOC濃度管理手段(VOC濃度管理装置14)が付設されている。これにより、従来外気にさらされて行われていた建設作業(橋脚Lを構成するコンクリートの打設等)を行う施工現場Gを、あたかも外部空間から密封遮断された工場内のような作業空間とすることができる。これにより、建設作業を行う施工現場Gにおいて、気候や天候の影響による施工現場の日程の変動を可及的に低く抑えることができる。さらに、施工現場Gで補修作業を行う作業者は、密封された工場内のような安全な作業環境で補修作業をすることができるので、作業者の安全性の向上や補修作業の効率の向上、さらに、建設物(打設されるコンクリート等)の品質の向上を図ることができる。
【0052】
ここで、本実施形態に係る施工現場Gにおける各種塗料の硬化時間と気温との関係を、図8を参照して説明する。図8に示すように、各種塗料の種類によっては気温によって塗料の硬化時間が大きく変化する。例えば、鉛系さび止めペイントを一例とすると、施工現場Gの気温が5℃の場合は、硬化時間は約45時間かかる。一方、施工現場Gの気温が20℃の場合は、硬化時間は約22時間と約半分で済む。また、他の種類の塗料においても気温が高くなるにつれて塗料の硬化時間は確実に短縮する。
【0053】
本実施形態の施工現場の工場化により密封された施工現場Gには、温度及び湿度を調整する温度湿度管理装置12が設置されているため、施工現場Gの気温を一定の温度(例えば、20℃)に保つことができる。これにより、各種塗料の硬化時間を確実に短縮することができるので、建設作業や補修作業における工期を一定の工期とすることができる。
【0054】
また、施工現場Gの温度(気温)や湿度によって使用が制限される塗料がある。一例として、気温が5℃(又は10℃)以下、又は、湿度(相対湿度)85%以上の場合は、多くの種類の塗料が使用することができない場合がある。気温が5℃以下の場合は、塗料の種類によっては専用の低温用の塗料を用いることが必要である。また、使用できたとしても繰り返し塗装する場合の塗装間隔(1日~10日)を最大(例えば、10日)としなければならない。
【0055】
これに対して、本実施形態の施工現場の工場化により密封された施工現場Gは、温度湿度管理装置12が設置されているため、施工現場Gの気温を一定の温度(例えば、20℃)、所定範囲の湿度(例えば、50%以上~80%以下)に保つことができる。これにより、使用する各種塗料の種類を考慮することなく、繰り返し塗装する場合の塗装間隔(1日~10日)を最小(例えば、1日)とすることができ、建設作業や補修作業における工期の短縮を図ることができる。
【0056】
上述してきたように、本実施形態の施工現場の工場化によれば、作業者の作業空間である施工現場Gを外部空間から遮断する密封手段を備えているため、既設の建設物の補修作業や新規の建設作業を行う施工現場Gにおいて、気候や天候の影響による施工現場の日程の変動を可及的に低く抑えることができる。つまり、気候や天候によって作業工程の遅延が生じることが無い。さらに、密封された施工現場Gには、温度及び湿度を調整する温度湿度管理装置12、粉塵を除去する粉塵低減装置13、揮発性有機化合物(VOC)の濃度を管理調整するVOC濃度管理装置14が設置されているため、施工現場Gにおける作業者の作業環境を改善することができる。これにより、作業者は、密封された工場内のような作業環境の施工現場Gで補修作業をすることができ、作業者の安全性の向上や補修作業の効率の向上を図るとともに、塗装、コンクリートの品質の向上に寄与することができる。
【0057】
また、本実施形態の施工現場の工場化の密封手段として用いられる透光性を有するとともに気密性や防水性の高い密封パネルPや熱収縮シートSにより密封するので、外部からの粉塵等の施工現場Gへの侵入を防止することができ、施工現場Gをクリーンな環境に維持することができる。
【0058】
また、上述してきたように、橋梁Vの橋脚Lを新規に建設する場合において、施工現場Gを囲繞するように仕切部材20としての足場を設置し、当該仕切部材20の側面の外側又は内側を気密性の高い複数の密封パネルPや熱収縮シートSで密封することで、施工現場Gを外部空間から遮断して密封空間とすることができる。
【0059】
また、密封手段として用いられる密封パネルPや熱収縮シートSは、紫外線をカットする機能を備えているため、施工現場Gの内部空間の建設中や補修中の各種部材に日光による日焼け防止の効果がある。
【0060】
また、上述した実施形態では、橋梁Vの橋脚Lを新規に建設する場合を一例として、施工現場の工場化を説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、住宅(一軒家、アパート、マンション等)や他の建設現場においても、本発明の施工現場の工場化を用いてもよい。
【0061】
以上、本発明の好ましい各種実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。

【符号の説明】
【0062】
10 主桁
11 電源
12 温度湿度管理装置
13 粉塵低減装置
14 VOC濃度管理装置
20 仕切部材
21 吊材、支柱
22 床組
23 作業板
B 張材
G 施工現場
F フレーム
H 作業者
L 橋脚
P 密封パネル
S 熱収縮シート
V 橋梁
Y 屋根部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8