(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057398
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】メッキ品
(51)【国際特許分類】
C25D 5/12 20060101AFI20220404BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20220404BHJP
C25D 5/02 20060101ALI20220404BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20220404BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C25D5/12
B32B15/01 E
C25D5/02 F
C25D7/00 H
H01R13/03 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165633
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】390005049
【氏名又は名称】ヒロセ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100167911
【弁理士】
【氏名又は名称】豊島 匠二
(72)【発明者】
【氏名】矢島 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大塚 恭平
【テーマコード(参考)】
4F100
4K024
【Fターム(参考)】
4F100AB10A
4F100AB16B
4F100AB17A
4F100AB24C
4F100AB31A
4F100AB31B
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4F100EH71B
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4K024AA03
4K024AA10
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4K024DA04
4K024EA01
4K024FA00
4K024GA04
(57)【要約】
【課題】格子定数の差とメッキ層の厚さとの間の相関関係を利用しつつ、適切なメッキ層を得るためのメッキ層の厚さ、取り分け、第2メッキ層に白金族金属又はその合金を使用した場合に適切な第1のメッキ層の厚さを規定したメッキ品を提供することを目的とする。
【解決手段】導電性の基体と、基体の面に積層された、約1.0~約4.0μmの厚さを有する第1メッキ層と、基体を設けた一方の面とは第1メッキ層の厚さ方向において反対側に位置する第1メッキ層の他方の面に積層された、白金族金属又はその合金から成る第2メッキ層と、を備えるメッキ品である。基体の格子定数と第1メッキ層の格子定数の差、及び、第1メッキ層の格子定数と第2メッキ層の格子定数の差は、それぞれ、15%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基体と、
前記基体の面に積層された、約1.0~約4.0μmの厚さを有する第1メッキ層と、
前記基体を設けた一方の面とは前記第1メッキ層の厚さ方向において反対側に位置する前記第1メッキ層の他方の面に積層された、白金族金属又はその合金から成る第2メッキ層と、
を備え、
前記基体の格子定数と前記第1メッキ層の格子定数の差、及び、前記第1メッキ層の格子定数と前記第2メッキ層の格子定数の差が、それぞれ、15%以下であることを特徴とするメッキ品。
【請求項2】
前記第2メッキ層の厚さが約0.1μm以上である、請求項1に記載のメッキ品。
【請求項3】
前記白金族金属が、白金、又は、ロジウムである、請求項1又は2に記載のメッキ品。
【請求項4】
前記第1メッキ層が、ニッケル、又は、その合金である、請求項1乃至3のいずれかに記載のメッキ品。
【請求項5】
前記第1メッキ層が複数の層から成る、請求項1乃至4のいずれかに記載のメッキ品。
【請求項6】
前記複数の層が、前記厚さ方向において前記基体から前記第2メッキ層に向って順に積層され且つ互いに接触した少なくとも第1及び第2の部分メッキ層を含み、
前記基体の格子定数と前記第1の部分メッキ層の格子定数の差、及び、前記第1の部分メッキ層の格子定数と前記第2の部分メッキ層の格子定数の差、及び、前記第2の部分メッキ層の格子定数と前記第2メッキ層の格子定数の差が、それぞれ、15%以下であり、
前記第1の部分メッキ層の格子定数は、前記第2の部分メッキ層の格子定数以下であり、
前記第2の部分メッキ層の格子定数は、前記第2メッキ層の格子定数以下である、
請求項5に記載のメッキ品。
【請求項7】
前記基体が、銅、アルミニウム、又は、銅若しくはアルミニウムのいずれかの合金から成る、請求項1乃至6のいずれかに記載のメッキ品。
【請求項8】
前記メッキ品が端子金具である、請求項1乃至7のいずれかに記載のメッキ品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッキ品、特に、電気メッキされたメッキ層を有するメッキ品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気メッキによって形成されるメッキ層には、その機能的観点から、概略、下地層としての第1メッキ層と、下地層の上に設ける仕上げ層としての第2メッキ層の少なくとも2つが含まれる。本願発明者等は、長年の経験を通じて、第1メッキ層の厚さが大きすぎる場合には、析出時に第2メッキ層に破断が生じやすく、第1メッキ層の厚さが小さすぎる場合には、第1メッキ層にピンホールのような小さな穴が生じやすくなるといった傾向がある一方、第1メッキ層の厚さを所定の範囲内とした場合には、第2メッキ層の材質によってその大きさは変化するものの、破断もピンホールも生じることなく、適切なメッキ層が得られることを発見した。
【0003】
本発明者等は、上記発見に加え、更に、非特許文献1における記載事項、即ち、電気メッキを適切に行うには、例えば、母材である基体と第1メッキ層との間や、第1メッキ層と第2メッキ層との間の格子定数の整合性、更に言えば、格子定数の差(原子間距離の差として捉えることもできる)に注目すべきとの理論に基づき、格子定数の差と第1メッキ層の厚さとの関係に着目しつつ、鋭意研究を重ね、その結果、特に、前者の問題、即ち、第1メッキ層の厚さが大きすぎる場合に析出時に第2メッキ層に破断が生じてしまうのは、第1メッキ層と第2メッキ層の間の格子定数の差が大きいことに起因して、第2メッキ層が第1メッキ層によって引っ張られ、第2メッキ層の原子間距離が許容範囲以上に大きくなって原子間結合に破断が生じてしまうことによるものであると推察するに至り、この推察に基づき更に研究を重ねて、格子定数の差とメッキ層の厚さとの間に相関関係があることを見出した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T. Seiyama, DENKI KAGAKU 38(1970) 707-713
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、格子定数の差とメッキ層の厚さとの間の相関関係を利用しつつ、適切なメッキ層を得るためのメッキ層の厚さ、取り分け、第2メッキ層に白金族金属又はその合金を使用した場合に適切な第1のメッキ層を得るために要する第1メッキ層の厚さを規定したメッキ品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様によるメッキ品は、導電性の基体と、前記基体の面に積層された、約1.0~約4.0μmの厚さを有する第1メッキ層と、前記基体を設けた一方の面とは前記第1メッキ層の厚さ方向において反対側に位置する前記第1メッキ層の他方の面に積層された、白金族金属又はその合金から成る第2メッキ層と、を備え、前記基体の格子定数と前記第1メッキ層の格子定数の差、及び 前記第1メッキ層の格子定数と前記第2メッキ層の格子定数の差が、それぞれ、15%以下であることを特徴として有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第2メッキ層に白金族金属又はその合金を使用した場合に適切な第1のメッキ層を得るために要する第1メッキ層の厚さを規定したメッキ品を提供することができる。
尚、当該メッキ品は、機能的観点からのみならず構造的観点からも、下地層としての第1メッキ層と、下地層の上に設ける仕上げ層としての第2メッキ層のみを含めば足りる。このため、本発明によれば、メッキ層が二層のみのメッキ品を提供することができるといった付加的な効果も得られる。今日一般に市場に出回っているメッキ品のメッキ層は、三層以上の層とされており、本願出願人が知る限りにおいて、メッキ層が二層のみのメッキ品は存在しない。従来品では、耐食性等の性能を向上させるため、メッキ層を三層以上とする、又は、最表面のメッキ層の上に保護層を設けること等が必要と考えられていることに起因するものと考えられるが、これら従来の解決策は、材料及び製造コストを上昇させるため、また、格子定数を整合させる観点からも好ましいものではない。これに対し、本構成によれば、メッキ層が二層のみであっても、十分な性能を有するメッキ品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】端子金具の表面付近における概略断面図である。
【
図2】銅合金の格子定数を添加物の溶解濃度との関係において示した参考図である。
【
図6】第1メッキ層を複数の層とした変形例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によるメッキ品の好適な一つの実施形態を説明する。ここでは、スマートフォン、コンピュータ等の電子機器に用いられるインタフェースコネクタである端子金具を一例に挙げて説明するが、勿論、これによって本発明を限定しようとするものではない。端子金具には、例えば、コネクタの信号端子、電源端子が含まれる。端子金具を例示しているが、本発明のメッキ品には、端子金具等の電子機器の他、例えば、IoT技術等の適用が見込まれる冷蔵庫、洗濯機等の家電製品等に用いられる金属部品等、耐食性等が求められる金属部品に適用される全てのメッキ品が含まれる。
【0010】
1.全体構成
図1に、端子金具1の表面付近における概略断面図を示す。端子金具1の断面は、その表面付近において、少なくとも、素地金属である基体10と、下地層としての第1メッキ層11と、仕上げ層としての第2メッキ層12を含む。
【0011】
<基体>
基体10は、被メッキ品である端子金具1の本体、即ち、端子部材1aを構成する部材であって、電析、更に詳細には、湿式の電気メッキ法を実行するのに適した導電性部材で形成されている。使用に適した導電性材料としては、例えば、銅若しくは銅合金、又は、アルミニウム若しくはアルミニウム合金を挙げることができる。一般によく使用される鉄又は鉄合金は、銅等に比べると必ずしも適したものとは言えない。鉄又は鉄合金を用いた場合には、第2メッキ層12を白金族金属又はその合金で形成することとの関係で、更に言えば、第2メッキ層12との関係で定まる第1メッキ層11の格子定数、及び、第1メッキ層11との関係で定まる第2メッキ層12の格子定数との関係で、基体11と第2メッキ層12の間、及び、第2メッキ層12と第1メッキ層11との間に、ミスフィットが生じやすくなると考えられるからである。使用に適した銅合金又はアルミニウム合金も、ミスフィットの観点から、第1メッキ層及び第2メッキ層の格子定数との差を考慮しつつ決定される。後述するように、例えば、銅合金としては、リン青銅(Cu-Sn-P系)、コルソン銅(Cu-Ni-Si系)、ベリリウム銅(Cu-Be系)、黄銅(Cu-Zn系)を用いることができる。基体の厚さには特に制限はないが、第1メッキ層及び第2メッキ層を支持するのに十分な厚さであるのが好ましい。
【0012】
<第1メッキ層>
第1メッキ層11は、基体10の面10aに積層(メッキ)される。基体10の面10aに直接積層されるのが好ましい。直接積層することにより、格子定数の差とメッキ層の厚さとの間の相関関係を容易に調整することができるからである。直接積層せずに、第1メッキ層11と基体10との間に他の薄層を介在させることもできるが、この場合には、第1メッキ層11と基体10の格子定数の差に実質的に影響を与えないものとする。第1メッキ層11は、湿式の電気メッキ法を実行するのに適した部材で形成されており、使用に適した材料としては、例えば、ニッケル、又は、その合金を挙げることができる。一般によく使用されるコバルト又はコバルト合金は、ニッケル等に比べると必ずしも適したものとは言えない。コバルト又はコバルト合金を用いた場合には、第2メッキ層12を白金族金属又はその合金で形成することとの関係で、更に言えば、第2メッキ品12の格子定数との関係で、第1メッキ層11と第2メッキ層12との間に、ミスフィットが生じやすくなると考えられるからである。使用に適したニッケル合金も、ミスフィットの観点から、第2メッキ層の格子定数との差を考慮しつつ決定される。第1メッキ層11の厚さは、格子定数の差とメッキ層の厚さとの間の相関関係を利用しつつ、耐食性について適切なメッキ層を得るため、約1.0~約4.0μmであることが必要であり、約1.25~約3.75μmであることが好ましく、約1.50~約2.5μmであることが更に好ましい。「約」の語を付したのは、メッキ品に要求される性能により、また、メッキ時に、多少の変動及び誤差が生じ得ることを考慮したものである。
【0013】
<第2メッキ層>
第2メッキ層12は、基体10を設けた一方の面12aとは第1メッキ層11の厚さ方向「t」において反対側に位置する第1メッキ層11の他方の面12bに積層される。第2のメッキ層12は、第1メッキ層11の他方の面12bに直接積層(メッキ)されるのが好ましい。直接積層することにより、格子定数の差とメッキ層の厚さとの間の相関関係を容易に調整することができるからである。直接積層せずに、第2メッキ層12と第1メッキ層11との間に他の薄層を介在させることもできるが、この場合には、第2メッキ層12と第1メッキ層11の格子定数の差に実質的に影響を与えないものとする。第2メッキ層12は、湿式の電気メッキ法を実行するのに適した部材で形成されており、また、端子金具1の最表面等に配置される層であるから、低接触抵抗で接続信頼性が高い材質であることが好ましい。本実施形態では、白金族金属又はその合金を使用することとしているが、格子定数の差とメッキ層の厚さとの間の相関関係を考慮すれば、他の材料を使用することもできる。白金族金属には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Ph)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)が含まれるが、格子定数に加え、コスト及び生産性等の観点から、白金又はロジウムが好ましい。尚、従前は、白金に比べてロジウムの方が安価であったことから、ロジウムが一般的に使用されていたが、近年は、ロジウムの価格が高騰していること、耐食性について白金とロジウムの間に一般的な混合ガス試験の差は存在せず、また、本発明で用いた性能評価方法においては、白金の方がロジウムより良好な結果を示すことから、本実施形態では、ロジウムではなく白金を用いることとした。白金がより良好な結果を示す理由としては、白金(Pt)の方がロジウム(Rh)よりも、酸化被膜を維持する能力が高いこと、言い換えれば、緻密な酸化皮膜を有することによって高い耐食性を発揮し得ることを挙げることができる。この点について以下により詳細に説明する。
塩水電解中の白金(Pt)およびロジウム(Rh)は、不溶性の酸化物と可溶性の塩化物の生成が競合し、白金(Pt)の方が酸化物を維持する能力が高い。この理由としては、酸化物の緻密性が考えられる。金属の容積と金属が酸化物になった時の容積との比率(Kubashevskyの容積分率)を比較し、この値が1より大きくなる場合には、生成する酸化物層は下地の金属の表面を緻密に覆い優れた耐食性を示すと考えられている。(このような酸化物を一般的に不働態皮膜と呼ぶ。)容積分率が小さいものから並べると、PtO(1.65)<Rh2O3(1.87)<PtO2(2.45)の序列となり、PtO2が最も緻密な酸化皮膜であると予想できる。また、生成速度の影響も考えられる。金属塩の生成速度は金属イオンによって異なり、その序列はPt(II)≫Rh(III)≫Pt(IV)と報告されている。これは、PtO2からの塩化物の生成が最も遅い事を意味している。
【0014】
使用に適した白金及びロジウムそれぞれの合金も、ミスフィットの観点から、第1メッキ品11の格子定数との差を考慮しつつ決定される。第2メッキ層の厚さは、格子定数の差とメッキ層の厚さとの間の相関関係を利用しつつ、耐食性について適切なメッキ層を得るため、約0.1μm以上であることが必要であり、好ましくは、0.2μm以上、より好ましくは、0.4μm以上である。性能の観点からは、より厚くしても実質的な問題はない。但し、コストの面から、約1.0μm以下であるのが好ましい。「約」の語を付した理由は、上述した通りである。
【0015】
<格子定数>
非特許文献1の記載等から明らかなように、ミスフィットを防止する観点から、基体10の格子定数と第1メッキ層11の格子定数の差、及び 第1メッキ層11の格子定数と第2メッキ層12の格子定数の差は、それぞれ、15%以下に設定する。
【0016】
(基体の格子定数)
例えば、基体材料の一例である銅の格子定数は、約3.62Åである。
図2は、銅合金の格子定数を添加物の溶解濃度との関係において示した参考図である。横軸は、合金中の添加物の溶解濃度(重量%)を、縦軸は、銅合金の格子定数(Å)を、それぞれ示している。銅合金では一般に、添加物(但し、Niを除く)の溶解濃度を増やすと、格子定数は増加する傾向にあり、一方、Niの溶解濃度を増やすと、格子定数は緩やかに減少する傾向にある。端子金具1によく利用される銅合金としては、前述したリン青銅(Cu-Sn-P系)、コルソン銅(Cu-Ni-Si系)、ベリリウム銅(Cu-Be系)、黄銅(Cu-Zn系)を挙げることができる。これらの合金の格子定数は、銅のそれとほとんど差がない。
例えば、増加傾向が最も大きいリン青銅であっても、格子定数を上昇させるスズ(Sn)の添加割合は通常、重量11%以下であり、リン(P)は通常0.35重量%以下と無視できる程度であるため、格子定数は、約3.73Åである。また、コルソン銅では、格子定数を緩やかに減少させるニッケル(Ni)の添加割合は通常1~5重量%であり、格子定数を緩やかに上昇させるシリコン(Si)は通常1.00重量%以下と無視できる程度であるため、格子定数は、約3.62Åである。更に、ベリリウム銅(Cu-Be系)では、格子定数を増加させるベリリウム(Be)の添加割合は通常1重量%以下であり、その他、格子定数を緩やかに減少させるニッケル(Ni)は通常11重量%以下であるため、格子定数は、約3.60~3.62Åに収まる。更にまた、黄銅(Cu-Zn系)は、銅以外の添加物を多く含む合金であるが、格子定数を緩やかに増加させる亜鉛(Zn)は30%以下しか添加されていないため、格子定数は、約3.68Åである。
【0017】
(第1メッキ層及び第2メッキ層の格子定数)
第1メッキ層の一例であるニッケル(Ni)の格子定数は、約3.524Åであり、第2メッキ層の一例である白金(Pt)の格子定数は、約3.924Åである。これらの合金の格子定数は、銅合金と同様に考えることができるから、ここでは詳細な説明は省略する。
【0018】
以上の記載より明らかなように、上記の材料を用いた場合、基体10の格子定数と第1メッキ層11の格子定数の差、及び 第1メッキ層11の格子定数と第2メッキ層12の格子定数の差を、それぞれ、15%以下に設定することができ、従って、ミスフィットを防止することができる。
【0019】
<メッキ方法>
特許6533652号等に開示された、当業者によく知られた一般的な製造方法を使用することができる。
先ず、端子金具1の本体、即ち、端子部材1aを準備する。端子部材1a は、導電性材料の金属板からプレスにより打ち抜くことによって形成される。
図3に、端子部材1a(端子金具1)の形状を示す。端子部材1aの先端側には、最終的に端子として使用される計6本の細条片20a~20fが設けてある。細条片20a~20fは、それらの後端側において、それらを保持し搬送するためのキャリア部30によって連結されている。キャリア部30には、端子部材1aの搬送に使用されるガイド穴40が複数形成されている。
【0020】
メッキ処理には、主として、前処理、下地層としての第1メッキ層11のメッキ処理、仕上げ層としての第2メッキ層12のメッキ処理、及び後処理が、これらの順に含まれる。これらの処理工程は、生産性やコストの観点から、フープメッキ( リール・トゥ・リールメッキ) の方式・装置で連続的に行われることが好ましい。
【0021】
先ず、前処理として、表面の油分を除去するためのアルカリ脱脂、表面の酸化皮膜を除去するための酸洗、薬液等を除去するための水洗を行う。前処理は、一般的には、水洗、アルカリ脱脂、水洗、酸洗、水洗の順に行われる。
【0022】
第1メッキ層11のメッキ処理、及び、第2メッキ層12のメッキ処理は、一方のリールに巻いた端子部材1aを他方の空リールに巻き取りつつ、対象のメッキ槽に端子部材1aをカソードに、メッキ液をアノードとすることにより行う。
【0023】
第1メッキ層11をメッキするため、例えば、下地メッキ槽にニッケル又はその合金の メッキ液を満たし、アノードとするために一対の電極を没入する。この電極間において端子部材1aの先端部分20が下地メッキ液に浸されるように連続的に移動させる。端子部材1aがカソードとなるよう下地メッキ槽の前後(端子部材1aの細条片20a~20fの移動方向)には、それぞれにマイナスの電極ローラが設けられ、キャリアの両板面を挟み込むように接触する。この結果、各細条片20a~20fに、第1メッキ層11であるニッケル(N i)が施される。
【0024】
第1メッキ層11がメッキされた後、細条片20a~20fを仕上げメッキ槽に浸漬させて、第1メッキ層11と同様の方法で、第2メッキ層12として白金(Pt)をメッキする。さらに、最表面メッキとして、金(A g) メッキを施しても良い。
【0025】
本発明のメッキ液により形成される第1及び第2メッキ層11、12は、キャリアの移動速度、電解時間、電解電流等を調節することにより所望の厚さとすることができる。メッキ後の端子部材1aの先端部分20 は、後処理として、水洗後、熱風で乾燥させる。
【0026】
2.実施例
<実施例1>
上に説明した一般的な製造方法によって、メッキされた端子金具1を製造した。
先ず、厚さ0.12mmの銅板を打ち抜いて、
図3に示す形状を有する端子部材1aを準備した。中央に位置する細条片20b~20eの横幅は、0.25mm、両端に位置する細条片20a、20fの横幅は、0.29mm、細条片同士のピッチは、0.5mm、各細条片の、キャリア30から突出部分の長さは、3.5mmに設定した。
【0027】
次いで、前処理として、表面の油分を除去するためのアルカリ脱脂、表面の酸化皮膜を除去するための酸洗、薬液等を除去するための水洗を行った。前処理は、水洗、アルカリ脱脂、水洗、酸洗、水洗の順に行った。
【0028】
第1メッキ層11のメッキ処理、及び、第2メッキ層12のメッキ処理は、一方のリールに巻いた端子部材1aを他方の空リールに巻き取りつつ、対象のメッキ槽に端子部材1aをカソードに、メッキ液をアノードとすることにより行った。
【0029】
第1メッキ層11をメッキするため、下地メッキ槽にニッケルの メッキ液を満たし、アノードとするために一対の電極を没入した。この電極間において端子部材1aの先端側に設けた細条片20a~20fが下地メッキ液に浸されるように連続的に移動させた。端子部材1aがカソードとなるよう下地メッキ槽の前後(端子部材1aの細条片20a~20fの移動方向)に、それぞれにマイナスの電極ローラを設け、キャリア30の両板面を挟み込むように接触させた。これにより、端子部材1aの先端部分20に、第1メッキ層11であるニッケル(N i)を施した。
【0030】
第1メッキ層11がメッキされた後、白金の メッキ液を満たしたメッキ槽に細条片20a~20fを浸漬させて、第1メッキ層11と同じ方法で第2メッキ層12として白金(Pt)をメッキした。
【0031】
本発明のメッキ液により形成される第1及び第2メッキ層11、12の厚さは、キャリアの移動速度、電解時間、電解電流等を適当に調節することにより調整した。更に詳細には、第1メッキ層11の厚さは、2.00μmに固定し、一方、第2メッキ層12の厚さは、0.1~1.0μmの範囲において段階的に調整して複数のメッキ品を得た。その後、後処理として、細条片20a~20fを、水洗後、熱風で乾燥させた。
【0032】
<実施例2乃至13>
実施例1と同様の方法で、複数のメッキ品を得た。
更に詳細には、それぞれの実施形態2乃至13において、第1メッキ層11の厚さは、1.25~4.00の範囲のいずれかの値に固定し、一方、それぞれの実施形態2乃至13において、第2メッキ層12の厚さは、0.1~1.0μmの範囲において段階的に調整して複数のメッキ品を得た。
【0033】
<実施例14乃至実施例26>
実施例1と同様の方法で、複数のメッキ品を得た。但し、塩水電解試験を40分とした。
【0034】
<性能評価方法>
実施例1乃至26によって得られたメッキ品1について性能を評価した。
図4に、評価方法を概略的に図示している。信頼性向上のため、この評価方法は、例えば、JIS H 8502「めっきの耐食性試験方法よりも過酷な条件とされている。
評価に際し、細条片20a~20fの先端側を先端から1.0mmの長さ分だけマスキング塗料50(酢酸ブチルに溶かしたニトロセルロース樹脂)によってマスキングし、また、キャリア30の一部、特に、細条片20a~20fの連結部21よりも上方の所定の高さ位置までを、マスキング塗料60(酢酸ブチルに溶かしたニトロセルロース樹脂)によってマスキングして乾燥する。細条片20a~20fの露出部、即ち、連結部21とマスキング塗料50との間の長さは、4.0mmに設定する。
その後、マスキングされたサンプルと直径5mmの炭素棒を、直径150mmシャーレに垂直に設置する。サンプルはシャーレに触れてはならない。サンプルの向きは、実装時に接点となる面を炭素棒に向い合せる。炭素棒との間隔は100mmで行う。
マスキング端面が液面以下になる様、言い換えれば、連結部21より下側の部分が液中に、且つ、連結部21より上側の部分(マスキング塗料60)が液外になるように、連結部21付近を境界として、5重量%塩化ナトリウム水溶液で満たす。整流器の電極から、長さ150mm、幅5mm、厚み1.0mmのチタンクリップを塩素ガス腐食対策として仲介してサンプルを陽極、炭素棒を陰極に接続し、定電圧制御で5.0Vを印加して試験を開始する。また、試験に使用した5重量%塩化ナトリウム水溶液は、再使用してはならない。
20分経過後、印加を停止してサンプルを取り出す。このように試験時間を20分に設定することにより、上述した一般的なJIS規格によるガス腐食試験よりも過酷な試験条件となっている。サンプルの表面に付着した塩化ナトリウムを除くため、サンプルを35℃の流水で洗い流し、純水で満たしたビーカーに投入して超音波照射(23kHz)で5分洗浄する。その後、純水で洗い流して直ちに乾燥する。
【0035】
以下の表1、表2に、実施例の評価結果を示す。表1は、塩水電解試験の試験時間を20分に設定したときに得られた評価結果を、表2は、更に過酷な条件となるように、試験時間を40分に設定したときに得られた評価結果を、それぞれ示す。これらは、上記JIS規格よりも過酷な条件下での評価結果となっている。表中、「〇」は、異常がない状態を、「△」は、孔食等があるが形状は維持されている状態を、「×」は、欠落等により形状が維持されていない状態を、それぞれ意味する。評価は目視により行った。
図5は、これらの各状態の一例を示す写真である。
図5の(a)は、「〇」の状態の一例を、(b)、(c)は、「△」の状態の一例を、(d)は、「×」の状態の一例を、それぞれ示す。
【0036】
【0037】
【0038】
3.まとめ
表1より特に明らかなように、実施例1乃至13に示すように、第1メッキ層であるニッケルメッキの厚さが、1.0~4.0μmの場合には、第2メッキ層である白金メッキの厚さが、0.1μm以上のときは、良好な結果が得られた。尚、表2によれば、実施例26に示すように、ニッケルメッキの厚さが、4.0μmの場合には、白金メッキの厚さに拘わらず、「×」又は「△」評価しか得られず、また、実施例14乃至26においては、第2メッキ層である白金メッキの厚さが、0.1μmのときは、「×」評価しか得られなかった、本実施形態における評価方法は、一般的なガス腐食試験よりも過酷な試験条件となっていることを考慮すれば、表1で十分な評価結果が得られていることをもって足りると解することができる。
【0039】
更に、これらの評価結果より、本メッキ品は、下地層としての第1メッキ層と、下地層の上に設ける仕上げ層としての第2メッキ層のみを含めば、少なくとも耐食性に関しては、一般に市販されているメッキ品と同等又はそれ以上の効果を得ることができることは明らかである。
【0040】
4.変形例
従来と同様に、第1メッキ層11や第2メッキ層12を、複数の層から形成してもよい。
図6に、第1メッキ層11を、複数、ここでは第1の部分メッキ層11Aと第2の部分メッキ層11Bとした場合の断面図を、
図1と同様の方法で示す。これら第1の部分メッキ層11Aと第2の部分メッキ層11Bは、厚さ方向「t」において、基体10から第2メッキ層12に向って順に積層され且つ互いに接触しており、それぞれが、第1メッキ層11の一部として機能している。調整を容易にするため、第2の部分メッキ層11Bは、第1の部分メッキ層11Aに直接積層されるのが好ましい。第1の部分メッキ層11Aの材料には、例えば、パラジウム-ニッケルメッキを用いることができ、また、第2の部分メッキ層11Bの材料には、例えば、金メッキを用いることができる。但し、ミスフィットを考慮して、基体10の格子定数と第1の部分メッキ層11Aの格子定数の差、及び、第1の部分メッキ層11Aの格子定数と第2の部分メッキ層11Bの格子定数の差、及び、第2の部分メッキ層11Bの格子定数と第2メッキ層12の格子定数の差は、それぞれ、15%以下とする。
【0041】
また、第1の部分メッキ層11Aの格子定数は、第2の部分メッキ層11Bの格子定数以下とし、第2の部分メッキ層11Bの格子定数は、第2メッキ層12の格子定数以下とする。
更に、第1の部分メッキ層11Aの厚みと第2の部分メッキ層11Bの厚みの合計を、複数にする前の第1メッキ層11の厚みと、同じ値とするのが好ましい。これにより、調整が容易となる。
【0042】
尚、第1メッキ層11を複数とした例を示したが、第2メッキ層12を複数としてもよい。更に、第2メッキ層12の上に、表面メッキ13を設けて勿論よい。表面メッキ13としては、例えば、金メッキを用いることができる。
【0043】
以上の説明は、好ましい実施形態に関するものであり、物品を単に代表するものであることを理解すべきである。異なる実施形態の変形及び修正が上述の教示に照らして当業者に容易に明らかになることを認めることができる。従って、代替的な実施形態は、添付の特許請求の範囲で説明する物品及び方法の精神から逸脱することなく行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
10 基体
11 下地層(第1メッキ層)
11A 第1の部分メッキ層
11B 第2の部分メッキ層
12 仕上げ層(第2メッキ層)