(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057400
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】フラビウイルスに対する多重抗原ペプチドおよびこれを含む免疫原性組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 14/18 20060101AFI20220404BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220404BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220404BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220404BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20220404BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20220404BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20220404BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C07K14/18
A61P31/14 ZNA
A61P37/04
A61P43/00 121
A61K39/12
A61K39/39
C07K7/06
C07K7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165635
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】508141391
【氏名又は名称】動物アレルギー検査株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】増田 健一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085AA38
4C085BA51
4C085BA62
4C085CC08
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF14
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA33
4H045GA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フラビウイルス属ウイルスに対するワクチンの提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を含むペプチド、又は、前記特定のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を含むフラビウイルス属ウイルスのポリプロテインの部分ペプチド、並びに、これらのペプチドのいずれかを複数含む、多重抗原ペプチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラビウイルス属ウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の一部である11~30アミノ酸長を有するペプチドであって、配列番号10に記載のアミノ酸配列を含むペプチド、または、当該アミノ酸配列に対応するポリプロテインのアミノ酸配列からなるポリプロテインの部分ペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドであって、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、または、配列番号0のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列からなるポリプロテインの部分ペプチド。
【請求項3】
配列番号9に対応するアミノ酸配列が、配列番号9に記載のアミノ酸配列に対して、1塩基の付加、挿入、置換、および欠失のいずれかを有する、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
配列番号9に対応するアミノ酸配列が、配列番号1~7のいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項2または3に記載のペプチド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチドを含む、多重抗原ペプチド。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチドを8以上含む、請求項5に記載の多重抗原ペプチド。
【請求項7】
請求項8に記載の多重抗原ペプチドを含む、フラビウイルス属ウイルスに対するワクチン。
【請求項8】
アジュバントを含有しない、請求項7に記載のワクチン。
【請求項9】
α-ガラクトシルセラミドと併用し、他のアジュバントと併用しない、請求項6または7に記載のワクチン。
【請求項10】
フラビウイルス属ウイルスが、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、およびダニ媒介性脳炎ウイルス並びにその変異体ウイルスからなる群から選択されるウイルスである、請求項7~9のいずれか一項に記載のワクチン。
【請求項11】
その必要のある対象においてフラビウイルス属ウイルスに対する免疫を活性化する方法であって、請求項5または6に記載の多重抗原ペプチドの有効量を当該対象に投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラビウイルスに対する多重抗原ペプチドおよびこれを含む免疫原性組成物、特にフラビウイルスに対する免疫原性組成物またはワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
多重抗原ペプチド(MAP)によってT細胞を介さずに生体内で抗体上昇を誘導できることは以前から知られていた(非特許文献1)。生体内で抗体誘導が困難な自己抗体(抗IgE抗体)の誘導がMAPで可能であることが明らかにされている(特許文献1)。そして、この方法を用いることで、エボラ出血熱ウイルスのペプチド部位を作製して汎ウイルスMAPを作製し、マウスへ免疫することによって血清中に目的の抗体が誘導されることが開示されている(特許文献2)。同様に、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンの部分ペプチドを用いて汎ウイルスMAPを作製し、マウスへ免疫することによって血清中に目的の抗体が誘導されることが開示されている(特許文献3)。フラビウイルス属ウイルスに対する中和抗体が開発されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US2017-0158738A
【特許文献2】US2019-0276495A
【特許文献3】US2019-0337989A
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Saravanan, P., et. al., Acta Virol., (48) 39-45, 2004
【非特許文献2】Yi-Chin Fan, et al. PLoS Negl.Trop. Dis., 9(10):e0004167, 2015
【発明の概要】
【0005】
本発明は、本発明は、フラビウイルスに対する多重抗原ペプチドおよびこれを含む免疫原性組成物、特にフラビウイルスに対する免疫原性組成物またはワクチンを提供する。
【0006】
本発明者らは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、または、配列番号1のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列からなるフラビウイルス属ウイルスのポリプロテインの部分ペプチドを有する多重抗原ペプチドが、IgM抗体の産生を促進することを見出した。本発明者らはまた、本発明の多重抗原ペプチドが、直接的に、辺縁帯B細胞およびB1B細胞からの抗体産生を刺激し、T細胞非依存性の抗体産生を誘導することを見出した。
【0007】
本発明は以下の発明を提供する。
[1]フラビウイルス属ウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の一部である11~30アミノ酸長を有するペプチドであって、配列番号10に記載のアミノ酸配列を含むペプチド、または、当該アミノ酸配列に対応するポリプロテインのアミノ酸配列からなるポリプロテインの部分ペプチド。
[2]上記[1]に記載のペプチドであって、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、または、配列番号9のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列からなる、ペプチド。
[3]配列番号9に対応するアミノ酸配列が、配列番号9に記載のアミノ酸配列に対して、1塩基の付加、挿入、置換、および欠失のいずれかを有する、上記[2]に記載のペプチド。
[4]配列番号9に対応するアミノ酸配列が、配列番号1~7のいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなるペプチドである、上記[2]または[3]に記載のペプチド。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載のペプチドを含む、多重抗原ペプチド。
[6]上記[1]~[4]のいずれかに記載のペプチドを8以上含む、上記[5]に記載の多重抗原ペプチド。
[7]上記[8]に記載の多重抗原ペプチドを含む、フラビウイルス属ウイルスに対するワクチン。
[8]アジュバントを含有しない、上記[7]に記載のワクチン。
[9]α-ガラクトシルセラミドと併用し、他のアジュバントと併用しない、上記[6]または[7]に記載のワクチン。
[10]フラビウイルス属ウイルスが、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、およびダニ媒介性脳炎ウイルス並びにその変異体ウイルスからなる群から選択されるウイルスである、上記[7]~[9]のいずれかに記載のワクチン。
[11]その必要のある対象においてフラビウイルス属ウイルスに対する免疫を活性化する方法であって、上記[5]または[6]に記載の多重抗原ペプチドの有効量を当該対象に投与することを含む、方法。
【0008】
本発明の多重抗原ペプチドは、フラビウイルス属ウイルスに対する抗体産生を誘導する点で有利である。本発明の多重抗原ペプチドは、投与後に記憶免疫が成立しており、ウイルス感染によってさらに中和抗体産生を増強する点で有利であり得る。その上、本発明の多重抗原ペプチドはまた、感染中和能を有するIgM抗体の産生に適している。IgM抗体は、感染中和能を奏しつつも、抗体依存性感染増強(ADE)を生じさせる抗体サブクラスではない。また、IgG抗体に関しては、産生されたとしても、ヘルパーT細胞や濾胞B細胞ではなく、T細胞非依存的に辺縁帯B細胞およびB1B細胞を刺激して抗体を産生させるものであり、産生された抗体は、生体内で抗原特異性免疫を誘導しつつも、抗体依存性感染増強(ADE)を回避できるワクチン開発に繋がると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、マウスに対する本発明の多重抗原ペプチドの投与実験および採血のスキームを示す。
【
図2】
図2は、本発明の各種多重抗原ペプチドを投与されたマウスの血清中の抗体価を示す。
【
図3】
図3は、本発明の各種多重抗原ペプチドを投与されたマウスの血清中のIgMの抗体価を示す。
【
図4】
図4は、本発明の各種多重抗原ペプチドを投与されたマウスの血清中のIgGサブクラスの抗体価を示す。
【
図5】
図5は、ウイルス中和能の測定実験に用いられた血清(本発明の多重抗原ペプチドを投与されたマウスの血清)のIgG抗体の抗体価の時間的推移を示す。
【
図6】
図6は、マウスに対する本発明の多重抗原ペプチドの投与実験のスキームを示す。
【
図7】
図7は、ウイルス中和能の測定実験の結果を示す。プラークはウイルスによる細胞死によりもたらされ、プラーク出現数の低減は、被検血清のウイルスに対する中和能の存在を示す。
【発明の詳細な説明】
【0010】
本明細書では、「対象」とは、免疫系を有する動物であり、例えば、脊椎動物であり、例えば、フラビウイルス属ウイルスが感染する動物であり、例えば、哺乳動物、魚類、鳥類、両生類、は虫類、例えば、ヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、サル、マーモセットおよびボノボなどの霊長類、ブタ、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコおよびイヌなどの四足動物(例えば、食肉類、偶蹄類、奇蹄類およびげっ歯類)、コウモリなどのコウモリ目の動物であり得る。
【0011】
本明細書では、「フラビウイルス」とは、フラビウイルス科に属するウイルスである。フラビウイルス科には、フラビウイルス属が属する。フラビウイルス科フラビウイルス属は、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、およびダニ媒介性脳炎ウイルスなどの病原性ウイルスを多く含む。これらのウイルスは、ヒト以外の哺乳動物や鳥類が保有宿主となり、ウイルスを増幅させると共に、蚊やダニなどによって媒介され、ヒトに感染する。このため、フラビウイルスを完全に自然界から撲滅することは不可能であると考えられている。これらに対してワクチンの作製が試みられている。しかし、フラビウイルス属ウイルスにおいては、ワクチンが抗体依存性感染増強(ADE)を引き起こし、むしろワクチンによってフラビウイルス属ウイルスの感染が悪化することが懸念されている。これは、フラビウイルス属ウイルスはマクロファージに感染してその症状を重症化させうるが、マクロファージが有するIgG受容体が、フラビウイルス属ウイルスのマクロファージへの取込みを促進し、結果として抗体がフラビウイルス属ウイルスのマクロファージへの感染を促進してしまうためであると考えられる。マクロファージへのウイルス取込みへの影響を最小化するためには、IgGを産生させないことであり、とくにIgGサブクラスの中ではIgG2aおよびIgG2bを産生させないことが望まれる。そのためにはT細胞非依存的な抗体誘導、より具体的には、辺縁帯B細胞およびB1B細胞を刺激して抗体を産生させることが有益である。
【0012】
本明細書では、「アジュバント」とは、免疫を賦活化する物質である。アジュバントとしては、水酸化アルミニウム、およびリン酸アルミニウムが多用されている。
【0013】
本明細書では、「α-ガラクトシルセラミド」とは、海綿の一種であるAgelas mauritianusから単離することができるスフィンゴ糖脂質である。α-ガラクトシルセラミドは、以下構造を有する。
【0014】
【0015】
α-ガラクトシルセラミドは、CD1dに結合するリガンドであり、NKT細胞を活性化する。α-ガラクトシルセラミドは、単離された、精製された、または合成されたα-ガラクトシルセラミドであり得る。Kain L., et al., Mol. Immunol., 68(2 Pt A):94-97,2015によれば、α-グリコシルセラミド(α-GlyCer)がCD1dリガンドとして生体内でα-GalCerと同等の作用を有することが示されている。したがって、α-GalCerの代わりにα-GlyCerを用い得る。それ以外にも公知の様々なCD1dリガンドは同様に用いられ得る。
【0016】
本明細書では、「多重抗原ペプチド」(MAP)とは、特定のアミノ酸配列を有するペプチドの多重提示を可能とする分子である。多重抗原ペプチドは、繰り返し構造を有する骨格の側鎖にペプチドが連結された構造を有し得る。骨格とペプチドとは、リンカーを介して連結されていてもよい。多重抗原ペプチドとしては、例えば、樹状高分子の骨格を有するものが挙げられる。樹状高分子骨格を有する多重抗原ペプチドとしては、例えば、リジン(Lys)をコア(核)として含み、ペプチド結合でさらなるリジンがコアに連結することによって、分岐数を増加させた分子であり、分岐数nに対して、アミノ基およびそれに連結したペプチドを2n個{ここでnは2以上の自然数である}まで有するものが挙げられる(Francis, J.P., et al., Immunology, 1991: 73; 249, Schott, M.E., et al., Cell. Immuno. 1996: 174: 199-209, Tam, J.P. Proc. Natl. Acad. Sci. 1988: 85; 5409-5413)。
【0017】
本明細書では、「樹状高分子」(デンドリマー)とは、中心(コア)から規則的に分岐した構造を有する分子をいう。樹状高分子は、コアと呼ばれる中心分子とデンドロンとよばれる側鎖部分から構成される。樹状高分子は、複数の腕を有し、分岐を形成する核(コア)となる分子のそれぞれの腕に、さらに複数の腕を有し、分岐を形成する分子が連結する。このような複数の腕を有する分岐を形成する分子が連なることによってデンドリマーが形成される。樹状高分子は、デンドロン部分におけるコアからの分岐の連続回数を世代であらわす。中心分子は、第0世代の分岐(G0)を提供し、デンドロンの根本の分岐は、第1世代の分岐(G1)を提供し、当該分岐からのさらなる分岐は第2世代の分岐(G2)を提供し、これが繰り返されて、第n世代の分岐(Gn)が提供される。
【0018】
本明細書では、「配列番号nのアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列からなるフラビウイルス属ウイルスのポリプロテインの部分ペプチド」{ここでnは自然数である}とは、フラビウイルス属ウイルスのポリプロテインの部分ペプチドであって、アラインメントにより配列番号nのアミノ酸配列と対応する配列からなるペプチドを意味する。例えば、配列番号1は、GenBank登録番号:AAA81554.1のアミノ酸番号392~413に対応するアミノ酸配列を有し、フラビウイルス属ウイルスのポリプロテイン(特にエンベロープタンパク質)に共通するアミノ酸配列である(表1参照)。表1では、アミノ酸番号は、ポリプロテインのアミノ酸配列中のアミノ酸番号を示し、太字で示されたアミノ酸配列は、Yi-Chin Fan, et al. PLoS Negl.Trop. Dis., 2015において変異させると中和抗体が中和能を喪失することが示唆された部位である。
【0019】
本発明によれば、
(A)フラビウイルス属ウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の一部である11~30アミノ酸長を有するペプチドであって、配列番号10に記載のアミノ酸配列または、配列番号10のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列からなるフラビウイルス属ウイルスのポリプロテインの部分ペプチド
が提供される。本明細書では、これらのペプチドを以下では本発明のペプチドということがある。
【0020】
本発明によれば、本発明のペプチドは、
(B)フラビウイルス属ウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の一部である11~30アミノ酸長を有するペプチドであって、配列番号11~13のいずれかに記載のアミノ酸配列または、当該アミノ酸配列に対応するアミノ酸配列からなるポリプロテインの部分ペプチド
であり得る。
【0021】
本発明によれば、(B1)本発明のペプチドにおいて、配列番号11~13のいずれかに記載のアミノ酸配列は、配列番号11に記載のアミノ酸配列であり得る。本発明によれば、(B2)本発明のペプチドにおいて、配列番号11~13のいずれかに記載のアミノ酸配列は、配列番号12に記載のアミノ酸配列であり得る。本発明によれば、(B3)本発明のペプチドにおいて、配列番号11~13のいずれかに記載のアミノ酸配列は、配列番号13に記載のアミノ酸配列であり得る。
【0022】
本発明によれば、上記(A)、(B)および(B1)~(B3)に記載の本発明のペプチドは、11アミノ酸長、12アミノ酸長、13アミノ酸長、14アミノ酸長、15アミノ酸長、16アミノ酸長、17アミノ酸長、18アミノ酸長、19アミノ酸長、20アミノ酸長、21アミノ酸長、22アミノ酸長、23アミノ酸長、24アミノ酸長、25アミノ酸長、26アミノ酸長、27アミノ酸長、28アミノ酸長、29アミノ酸長、もしくは30アミノ酸長、またはそれ以上であり得る。多重抗原ペプチドは、抗原ペプチドの長さは、11アミノ酸以上である場合に効果的に抗体産生誘導能を示す。多重抗原ペプチドは、抗原の数は4以上である場合に効果的に抗体産生誘導能を示す。
【0023】
本発明によれば、(C)本発明のペプチドは、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含み得る。すなわち、本発明によれば、
配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、または、配列番号9のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列からなるフラビウイルス属ウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の部分ペプチド
が提供される。
【0024】
本発明によれば、(D)本発明のペプチドは、配列番号1~7のいずれかに記載のアミノ酸配列を含み得る。本発明によれば、(D’)本発明のペプチドは、配列番号1~7のいずれかに記載のアミノ酸配列からなり得る。
【0025】
本発明のペプチドは、単離されているか、または精製されている。本発明のペプチドは、人工的に合成されたものであり得る。
【0026】
配列番号9~13に記載のアミノ酸配列は、フラビウイルスに特異的な抗体を誘導し得る。配列番号9~13に記載のアミノ酸配列は、フラビウイルスすべてに広く保存されている。これに対して、当該アミノ酸配列とそれに連続するアミノ酸配列を含むより長いペプチドは、特定のフラビウイルスへの高い指向性を有し得る。
【0027】
配列番号1~7に記載のアミノ酸配列からなるペプチドはそれぞれ、22アミノ酸長である。配列番号1~7に記載のアミノ酸配列からなるペプチドは、多重抗原ペプチドに組込むことで、フラビウイルスに特異的な抗体を誘導することができる。配列番号1~7に記載のアミノ酸配列は、フラビウイルスすべてに広く保存されている。これに対して、当該アミノ酸配列とそれに連続するアミノ酸配列を含むより長いペプチドは、特定のフラビウイルスへの高い指向性を有し得る。
【0028】
配列番号1~7に記載のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列からなるフラビウイルス属ウイルスのポリプロテインの部分ペプチドは、上記に定義される通りである。ある態様では、この部分ペプチドは、配列番号1~7のいずれかに対応するアミノ酸配列がそれぞれ、配列番号1~7のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、1塩基の付加、挿入、置換、および欠失のいずれかを有し得る。置換は、保存的置換であり得る{例えば、塩基性アミノ酸間の置換、酸性アミノ酸間の置換、疎水性アミノ酸間の置換、および非荷電性親水性側鎖を有するアミノ酸間の置換}。置換としては、例えば、保存的置換(例えば、酸性アミノ酸間の置換、塩基性アミノ酸間の置換、および疎水性アミノ酸間の置換等)が挙げられる。また、ある態様では、この部分ペプチドは、配列番号9に記載されるアミノ酸配列:DRGWGNX1CGX2FGKGX3IX4X5CX6KX7{ここで、X1は、GまたはHであり、X2は、FまたはLであり、X3は、GまたはSであり、X4は、D、VまたはLであり、X5はTまたはAであり、X6はAまたはVであり、X7は、FまたはAである}を有し得る。また、ある好ましい対象では、(D1)この部分ペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる配列を有し得る。ある好ましい対象では、(D2)この部分ペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる配列を有し得る。ある好ましい対象では、(D3)この部分ペプチドは、配列番号3ある好ましい対象では、(D4)この部分ペプチドは、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなる配列を有し得る。に記載のアミノ酸配列からなる配列を有し得る。ある好ましい対象では、(D5)この部分ペプチドは、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる配列を有し得る。ある好ましい対象では、(D6)この部分ペプチドは、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる配列を有し得る。ある好ましい対象では、(D7)この部分ペプチドは、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなる配列を有し得る。
【0029】
本発明によれば、本発明のペプチドを含む多重抗原ペプチド(以下、「本発明の多重抗原ペプチド」ということがある)が提供される。多重抗原ペプチドにおいては、樹状高分子骨格の最末端部に本発明のペプチドが連結している。当該最末端部と本発明のペプチドとは、リンカーを介して連結されていてもよい。連結は共有結合であり得る。リンカーは、ペプチドの提示を著しく妨げない限り特に限定されないが、ポリエチレングリコールやフレキシブルリンカーなどのリンカー(例えば、非ペプチド性のリンカー)を用いることができる。リンカーとしては、ペプチド性のリンカーを用いてもよい。ペプチド性のリンカーを用いる場合には、GSリンカーなどのフレキシブルリンカー、および、αヘリックス構造またはβシート構造などの二次構造を有するリンカーが用いられ得る。本発明の多重抗原ペプチドにおいては、本発明のペプチドは、1以上含まれ得る。ある好ましい態様では、本発明の多重抗原ペプチドにおいては、本発明のペプチドは、4以上含まれ得る。ある好ましい態様では、本発明の多重抗原ペプチドにおいては、本発明のペプチドは、8以上含まれ得る。本発明の多重抗原ペプチドは、好ましくは単離または精製されている。
【0030】
本発明のある態様では、本発明の多重抗原ペプチドは、
樹状高分子の骨格および本発明の多重抗原ペプチドを含み、樹状高分子のコアがリジンであり、当該リジンを第0世代として、以下(要件1)が、kが1~nのいずれの自然数においても満たされ、第n世代のリジンのアミノ基それぞれに本発明のペプチドが連結している、多重抗原ペプチド:
(要件1)第k-1世代のリジンのアミノ基のアミノ基それぞれに第k世代のリジンがペプチド結合している。
【0031】
上記の態様において、nは、2、3、4、5、6、7、8、9、または10であり、好ましくは、2、3、または4であり、より好ましくは2または3であり得る。すなわち、本発明のこの態様では、4価~2n+1価の多重抗原ペプチドが提供され得る。
【0032】
本発明のある態様では、本発明の多重抗原ペプチドは、
樹状高分子の骨格および本発明の多重抗原ペプチドを含み、樹状高分子のコアがリジンであり、当該リジンの2つのアミノ基それぞれに第1世代の分岐を形成するリジンがペプチド結合しており、前記第1世代の分岐を形成するリジンのアミノ基それぞれに本発明のペプチドが連結しており、4つの前記ペプチドを含む、多重抗原ペプチド(すなわち、4価の多重抗原ペプチド)であり得る。
【0033】
本発明のある態様では、本発明の多重抗原ペプチドは、
樹状高分子の骨格および本発明の多重抗原ペプチドを含み、樹状高分子のコアがリジンであり、当該リジンの2つのアミノ基それぞれに第1世代の分岐を形成するリジンがペプチド結合しており、前記第1世代の分岐を形成するリジンのアミノ基それぞれに第2世代の分岐を形成するリジンがペプチド結合しており、前記第2世代を形成するリジンのアミノ基それぞれに本発明のペプチドが連結しており、4つ~8つの前記ペプチドを含む、多重抗原ペプチド(すなわち、4価~8価の多重抗原ペプチド)。
【0034】
ある好ましい態様では、本発明の多重抗原ペプチドは、下記式(I)示される構造を有する4価の多重抗原ペプチド(MAP-4)または下記式(II)に示される構造を有する8価の多重抗原ペプチド(MAP-8)であり得る。分岐の世代数nに対応して、4価~2n+1価の多重抗原ペプチド(MAP-2n+1)が提供される。
【0035】
【0036】
【0037】
これらの多重抗原ペプチドは、樹脂に固相化した樹状の骨格に対して、ペプチドを導入することによって合成することができる。より具体的には、MAP-4に関しては、以下式(III)の構造を有する樹状の骨格を有する樹脂に対してペプチドを導入することができる。
【0038】
【0039】
また、MAP-8は、以下式(IV)の構造を有する樹脂に対してペプチドを導入した。
【0040】
【0041】
ある好ましい態様では、本発明の多重抗原ペプチドは、式(III)または(IV)の構造を有し得る{ここでペプチドは、本発明のペプチドである}。
【0042】
ある好ましい態様では、本発明の多重抗原ペプチドは、以下式(VI)の構造を有し得る。
【化6】
【0043】
{ここで、Rは、-リンカー-ペプチド、または-ペプチドであり、ペプチドは本発明のペプチドのアミノ酸配列を含み得る。}。この構造は、リジンが2つのアミノ基を有し、分岐点として構造的に適していることから選択された構造である。なお、MAP-8は、式(VI)の構造を有する化合物2つが、式(VI)中の第0世代のリジンのカルボキシル基を介して、さらなるリジンのアミノ基それぞれに連結した構造を有し得る。同様にして、第n世代の分岐を有するMAP-2n+1それぞれの構造を規定できる。
【0044】
上記においてリンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)であり得る。ある好ましい太陽では、PEGは、例えば、重合度2~30のPEGであり得、重合度5~20のPEGであり得、重合度10~15のPEGであり得る。
【0045】
上記式(VI)の構造を有する化合物は、以下式(VII)の構造を有する化合物のアセチレン基(-C≡CH)に対して、クリックケミストリーによってペプチドまたはペプチド-リンカー化合物を反応させることによって得られ得る。より具体的には、以下式(VII)の構造を有する化合物に対して、末端にアジド基を有するペプチド-アジド基またはペプチド-リンカー-アジド基と1価銅イオン存在下で反応させることにより得られ得る。
【化7】
【0046】
式(VII)の化合物は、式(III)の化合物の合成中間体であり、第1世代の分岐を提供するリジンのアミノ基に対して、反応の便宜上、側鎖にアセチレン基を有する人工アミノ酸をペプチド結合によって連結させて、末端に反応性のアセチレン基を設けたものである(例えば、WO2015/190555A参照)。なお、MAP-8の合成中間体は、式(VII)の構造を有する化合物2つが、式(VII)中の第0世代のリジンのカルボキシル基を介して、さらなるリジンのアミノ基それぞれに連結した構造を有し得る。同様にして、第n世代の分岐を有するMAP-2n+1の合成中間体それぞれの構造を規定できる。
【0047】
本発明の多重抗原ペプチドは、例えば、WO2018/084247Aに記載の方法に従って作製することができる。
【0048】
ある好ましい態様では、本発明の多重抗原ペプチドは、多重同種抗原ペプチドであり得る。多重同種抗原ペプチドにおいては、すべての抗原ペプチドが同一のアミノ酸配列を有する。
【0049】
別の好ましい態様では、本発明の多重抗原ペプチドは、2種以上の異なるアミノ酸配列を有するペプチドを抗原ペプチドとして含み得る。
【0050】
本発明では、本発明の多重抗原ペプチドは、対象に投与して、当該対象に免疫(特に、抗原特異的免疫)を誘導することに用いることができる。本発明では、本発明の多重抗原ペプチドは、対象に投与して、抗原特異的な抗体産生を誘導することに用いることができる。また、本発明では、本発明の多重抗原ペプチドは、対象に投与して、コロナウイルスに対する抗体を誘導することに用いることができる。抗原特異的な抗体は、中和抗体(例えば、感染を中和することができる抗体)であり得る。抗原特異的な抗体は、IgMであり得る。抗原特異的な抗体は、辺縁帯B細胞およびB1B細胞から産生されるマクロファージが有するIgG受容体には結合しない抗体サブクラスであり得る。
【0051】
本発明では、本発明の多重抗原ペプチドを含む免疫原性組成物(「本発明の免疫原性組成物」ということがある)が提供される。本発明の免疫原性組成物は、ワクチンとして用いることができる。
【0052】
本発明のワクチンは、フラビウイルスに広く有効であり得る。本発明のワクチンは、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、およびダニ媒介性脳炎ウイルス並びにその変異体ウイルスからなる群から選択されるフラビウイルス属ウイルスに対して有効であり得る。
【0053】
本発明の免疫原性組成物またはワクチンは、ヘルパーT細胞(またはT細胞依存性免疫)を刺激するアジュバント(例えば、アルミニウム塩、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、例えば、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、流動パラフィン、ラノリン、沈降性アジュバント)と併用しなくてもよく、好ましくは併用しない。本発明の免疫原性組成物またはワクチンは、アジュバント(例えば、アルミニウム塩、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、例えば、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、流動パラフィン、ラノリン、沈降性アジュバント)を含まなくてもよく、好ましくは含まない。ただし、本発明の免疫原性組成物またはワクチンは、α-ガラクトシルセラミドなどのヘルパーT細胞(T細胞依存性免疫)を刺激しない作用剤と好ましく併用することができる。本発明の免疫原性組成物またはワクチンは、α-ガラクトシルセラミドなどのヘルパーT細胞(T細胞依存性免疫)を刺激しない作用剤をさらに含んでいてもよい。
【0054】
本発明の免疫原性組成物またはワクチンは、本発明の多重抗原ペプチドと薬学的に許容可能な担体および/または賦形剤を含んでいてもよい。本発明の免疫原性組成物またはワクチンは、非経口投与(例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経鼻投与、経粘膜投与、吸入投与)されるものであり得る。したがって、薬学的に許容可能な担体および/または賦形剤としては、非経口投与(例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経鼻投与、経粘膜投与、吸入投与)に適した担体および/または賦形剤を用いることができる。薬学的に許容可能な担体および/または賦形剤としては、例えば、塩、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、保存剤、および水が挙げられる。
【0055】
本発明によれば、免疫原性組成物またはワクチンは、対象においてフラビウイルスに対する抗体を産生させること、またはフラビウイルスに対する免疫を確立することに用いるための組成物であり得る。
【0056】
本発明によれば、対象においてフラビウイルスに対する抗体を産生させることに用いるための本発明の多重抗原ペプチドが提供される。本発明によれば、対象においてフラビウイルスに対する抗体を産生させることに用いるための本発明の多重抗原ペプチドが提供される。
【0057】
本発明によれば、免疫原性組成物またはワクチンの製造における本発明のペプチドの使用が提供される。本発明によれば、免疫原性組成物またはワクチンの製造における本発明の多重抗原ペプチドの使用が提供される。免疫原性組成物またはワクチンは、対象においてフラビウイルスに対する抗体を産生させること、またはフラビウイルスに対する免疫を確立することに用いるための免疫原性組成物またはワクチンであり得る。
【0058】
本発明によれば、対象に抗原ペプチドを導入する方法であって、当該対象に本発明の多重抗原ペプチドを投与することを含む方法が提供される。本発明によれば、対象において抗原特異的な免疫を賦活化する方法であって、当該対象に有効量の本発明の多重抗原ペプチドを投与することを含む方法が提供される。本発明によれば、対象においてフラビウイルスに対する免疫を賦活化する方法であって、当該対象に有効量の本発明の多重抗原ペプチドを投与することを含む方法が提供される。
【実施例0059】
実施例1:抗原ペプチドの合成
日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルスの表面タンパク質のアミノ酸配列のうち、相同性の高い部位で、かつ論文上(Yi-Chin Fan, et al. PLoS Negl.Trop. Dis.. 2015)報告された中和抗体の結合部位(下記表太字部分)のアミノ酸を含有する、21残基のアミノ酸からなる部分ペプチドとした。MAPのペプチド部分の配列としては、日本脳炎ウイルスの部分配列を用いた。これを黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルスの配列と比較した場合、下線を付したアミノ酸が異なる。
【0060】
【表1】
※アミノ酸配列に記載された数字は、タンパク質中の末端のアミノ酸それぞれのアミノ酸番号を表す。
※アミノ酸配列中の太字は、中和抗体が結合すると予想される配列を示す。
※アミノ酸配列中の下線を付されたアミノ酸は、配列番号1のアミノ酸配列と相違するアミノ酸である。
【0061】
表1に示されるように、選択した日本脳炎ウイルスの表面タンパク質の部分ペプチドに相当する22の連続したアミノ酸配列部分は、フラビウイルスにおいて高い相同性を示した。
【0062】
配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドを常法に基づいて人工合成し、下記式(I)示される構造を有する4価の多重抗原ペプチド(MAP-4)および下記式(II)に示される構造を有する8価の多重抗原ペプチド(MAP-8)を作製した。
【0063】
【0064】
【0065】
これらの多重抗原ペプチドは、樹脂上での効率的な合成の目的で、樹脂に固相化した樹状の骨格に対して、ペプチドを導入することによって合成した。より具体的には、MAP-4に関しては、以下式(III)の構造を有する樹状の骨格を有する樹脂に対してペプチドを導入した。
【0066】
【0067】
また、MAP-8は、以下式(IV)の構造を有する樹脂に対してペプチドを導入した。
【0068】
【0069】
上記式において、リジン(Lys)は、2つのアミノ基を有するアミノ酸である。それぞれのアミノ基に対して、2つリジンのカルボキシル基をペプチド結合により連結すると、末端の2つリジンは合計4つのアミノ基を有する樹状の骨格となる。当該リジンのアミノ基に対して、リンカーを介してペプチドを導入することによって、4価の多重抗原ペプチド(MAP-4)を作製することができる。
【0070】
また、MAP-8は、末端のリジン(Lys)をさらにそれぞれ2つに分岐させて、8つのFmoc保護基を有するLys残基を有する樹脂に対してペプチドを導入した。上記の合計4つのアミノ基を有する樹状の骨格のリジン残基の4つのアミノ基それぞれに対して4つのリジンのカルボキシル基をペプチド結合により連結すると、末端の4つのリジンは合計で8つのアミノ基を有する樹状の骨格となる。当該リジンのアミノ基に対して、リンカーを介してペプチドを導入することによって、4価または8価の多重抗原ペプチドを作製することができる。
【0071】
上記ペプチドを導入する際には、ペプチドのC末端にリンカーを導入した。本実施例では、リンカーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)を用いた。ポリエチレングリコールは、重合度12のPEG(「PEG(12)」とも表記する)であった。
【0072】
MAP-4のより具体的な構造は以下に示されるとおりであった。
【0073】
【0074】
{ここで、Rは、-PEG(12)-ペプチドである。}
【0075】
上記MAP-4およびMAP-8は、例えば、WO2018/062217Aを参照して作製することができる。
【0076】
そして、得られたペプチドを0.1% 2,2,2-トリフルオロ酢酸とアセトンを用いて樹脂から離脱させ、その後、遊離したMAP-4およびMAP-8を高速液体クロマトグラフィーにより精製して、MAP-4およびMAP-8を得た(それぞれ、Flav-mMAP-4およびFlav-mMAP-8と呼ぶ)。
【0077】
実施例2:投与実験
投与実験は、マウス(Balb/c、雌、8週齢)に対して
図1に示されるスキームにしたがって行った。具体的には、マウスに対して、
図1に示されるように、0週目、1週目、および5週目において、実施例で得たFlav-mMAP-4またはFlav-mMAP-8を投与した。また、
図1に示されるように、0週目、3週目、5週目、6週目、および7週目でマウスからそれぞれ採血し、抗体産生の有無、および経時的変化を確認した。
【0078】
Flav-mMAP4の投与量は100μg/投与とし、Flav-mMAP8の投与量は、100μg/投与または200μg/投与とした。また、投与2回目の際には、α-ガラクトシルセラミド(KRN7000, フナコシ社)を0.1μg/マウスを併用した。詳細は、表2に示される通りである。
【0079】
【0080】
採血した血清中の抗体価測定は、以下のように行った。選択した日本脳炎ウイルスの表面タンパク質の部分ペプチドに相当する22の連続したアミノ酸配列部分にFLAGタグ配列(DYKDDDDK;配列番号8)を連結させた。得られたペプチド(JEVペプチド)をさらにウシ血清アルブミン(BSA)に結合させて、JEVペプチドとBSAとのコンジュゲートタンパク質を作製した。得られたコンジュゲートタンパク質をプレート表面に固相化し、ELISAを行った。具体的には、コンジュゲートタンパク質をELISAプレートに5μg/mlの濃度で37℃で1時間インキュベートして固相化した後、室温30分でブロッキング(SuperBlock, Therno Fisher社)を行い、プレート洗浄後に、被検試料としてPBSで5000倍希釈したマウス血清を添加して反応させた。その後、プレートを洗浄し、マウスIgMおよびIgG、そしてIgGサブクラスを検出するためそれぞれ、HRP標識抗マウスIgMヤギ抗体(Southern Biotrch社)およびHRP標識抗マウスIgGヤギ抗体(Southern Biotrch社)、HRP標識抗マウスIgG1ヤギ抗体(Southern Biotrch社)、HRP標識抗マウスIgG2aヤギ抗体(Southern Biotrch社)、HRP標識抗マウスIgG2bヤギ抗体(Southern Biotrch社)、HRP標識抗マウスIgG3ヤギ抗体(Southern Biotrch社)を5000倍希釈で用い、発色基質として3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を加え、最終的に吸光プレートリーダにて吸光度を測定した。
【0081】
その結果、
図2に示されるように、Flav-mMAP-4を投与した第1群では、弱い抗体産生が認められた。これに対して、Flav-mMAP-8を投与した第2群および第3群の方がFlav-mMAP-4を投与した第1群より抗体価が高かった。さらに200μg投与の第3群の方が個体間の抗体産生強度の差が小さく、安定した抗体産生を誘導できることがわかった。
【0082】
上記第3群における血清中のIgMの誘導については、
図3に示される通りであった。
図3に示されるように、IgMは、2回目のFlav-mMAP-8投与後に上昇し、抗体産生記憶B細胞の確立が示唆された。また、3回目のFlav-mMAP-8投与後にも抗体価が上昇したことから、誘導されたIgM産生細胞は、メモリー細胞となって記憶免疫を成立させていることが明らかになった。このように、Flav-mMAPは、IgMを誘導し、その記憶を免疫細胞に維持させることができることが明らかになった。したがって、Flav-mMAPは、ワクチンとして利用できると考えられる。
【0083】
次に、上記第3群から採血した血清中のIgG抗体のサブクラスについてELISAを用いて検証した。結果は、
図4に示される通りであった。
図4に示されるように、Flav-mMAPにより産生誘導されるサブクラスは、マウスではIgG1が主であり、その他は、産生されたとしても微量であるか一時的なものであることが明らかになった。また、マウスにおけるIgG1は、マクロファージなどのエフェクター細胞表面上のFc受容体には結合が弱いため、フラビウイルス属ウイルスのワクチンにおける最大の副作用と考えられる抗体依存性感染増強(ADE)は、Flav-mMAPにより誘発される可能性を低減できると考えられた。このように、Flav-mMAPテクノロジーは、フラビウイルス属ウイルスのワクチンとして有益であると考えられた。
【0084】
実施例3:ウイルス中和能の測定実験
実施例2では、Flav-mMAPの投与により、動物体内でIgMを中心とした抗体産生が誘導されること、および記憶免疫を誘導し、抗体産生能が長期にわたって維持されることを見出した。本実施例では、産生された抗体のウイルス中和能を評価した。
【0085】
Flav-mMAP-8で免疫したマウスから採血し、血清を得た。得られた血清を用いて、Vero細胞に対する日本脳炎ウイルスの感染系における抗体の中和活性を測定した。なお、この測定にはFlav-mMAP投与後9週目の血清を用いた。その際の血中IgG濃度を前出と同様のELISA系にて測定した。ここで、Flav-mMAP-8に用いたペプチド抗原に対する抗体を得ることは困難であったので、本ELASA系では、当該ペプチド抗原をFlagタグ付きのBSAと連結させ、検出抗体として抗FLAGタグ抗体(Sigma社)を用いることで検量線を描き、血中抗体濃度を推定した。結果は
図5に示される通りであった。
【0086】
次に、ウイルスの中和活性は、80%プラーク減数中和試験により行った。ウイルス株JEV/sw/Chiba/88/2002を用い、希釈した被検血清と100PFUウイルスを混合後、1.5時間37℃でインキュベートした。その後、6穴プレートにVero9013細胞を播種し、播種24時間後にウイルスと血清の混合液を細胞に接種し、37℃で1.5時間インキュベートした。0.8%アガロースゲル含有培養液を重層した後、さらに37℃で4日培養後、ホルマリンで固定してクリスタルバイオレットで染色し、プラーク数を計測した。ウイルスにより細胞が剥離するとプラークが形成される。抗体がウイルス中和活性を有している場合、形成されるプラーク数は減少する。そこで、本実施例では、示された濃度の抗体の存在下におけるこのプラークの減少率を求め、抗体の中和能を評価した。実験は2回繰り返した。結果は、表3に示される通りであった。
【0087】
【0088】
表3に示されるように、2回の実験の平均値において、投与前のプールド血清を用いた実験よりも、免疫後のマウスにおいては高い中和結果が得られた。マウス5においては、高い抗体産生を誘発し、高い中和能が誘導された。特に抗ペプチド抗体濃度が20μg/mlを越えるケースにおいて、顕著に高い中和能が認められた。
【0089】
次に動物モデルを用いてFlav-mMAPのウイルス中和能を検討した。実験系としては、
図6に示されるスキームを採用した。すなわち、雌マウスにFlav-mMAP-8を投与し、免疫を形成させた上で、妊娠させ、仔マウスを出産させる。仔マウスに対してウイルス接種し、母マウスと仔マウスとを一緒に飼育した。母マウスから授乳した仔マウスおよび母マウスの感染防御を確認した。Flav-mMAP-8は、200μg/マウス/回とし、2回目の投与時には、0.1μgのα-GalCerを併用投与した。対象群には、Flav-mMAP-8の代わりにPBSを投与した。なお、本実験系は、日本脳炎ウイルスの毒性が強く、直接ウイルスを感染させるとマウスが死亡してしまうため、仔マウスにウイルスを感染させ、親マウスは仔マウスから感染させることによる緩やかな自然感染系とし、感染後早期に中和抗体が産生誘導されるかどうかを検証するための系として構築されたものである。
【0090】
結果、仔マウスは、感染5日目(産後14日目)で感染により死亡した。仔マウスにおけるウイルス感染防御は十分でなかった可能性が示唆される。他方で、産後14日目の母マウスの血清を採取し、血清による日本脳炎ウイルス中和活性を上記のプラークアッセイを用いて測定した。すると、Flav-mMAP-8投与群においては、その上、
図7に示されるように、感染前と感染5日後との比較によれば、母マウスにおいて、仔マウスからのウイルス感染をトリガーとして、ウイルス感染防御能が向上することが明らかになった。すなわち、事前のFlav-mMAP-8投与により、ウイルス感染に対する応答性が高まったことが示唆され、Flav-mMAP-8が母マウスに記憶免疫をもたらし、ウイルス感染に伴って免疫が誘導されたことが明らかとなった。
【0091】
[考察]
抗体依存性感染増強(ADE)は、マクロファージに感染するデング熱、ジカ熱、エボラ出血熱ウイルスなどでよく知られており、ウイルスタンパク質を使う従来の不活化ワクチンではこれを避けることができない。ウイルスタンパク質はT細胞を介した免疫反応を刺激して抗体を産生に至るため(T細胞依存性)IgG受容体に高親和性IgGを誘導してしまいADEを誘発するためである。そこで、ADEを回避するためにIgG受容体に結合しない抗体誘導、つまりT細胞を介さずにB細胞を直接刺激すること(T細胞非依存性)によってそれが可能となり(Saravanan, P., et. al., Acta Virol., (48) 39-45, 2004)、技術的には多重抗原ペプチド(MAP)によるワクチンがその具体的方法に相当する。
【0092】
本実施例は、8つの抗原ペプチドを提示する(すなわち、8価の)多重抗原ペプチドは、ヘルパーT細胞を介さずに辺縁帯B細胞およびB1B細胞を直接刺激し、IgM、および、IgG受容体に結合しないIgGのサブクラス(マウスの場合は、IgG1およびIgG3)を産生することを示す。多重抗原ペプチドは、辺縁帯B細胞およびB1B細胞を直接刺激して、表面に発現したB細胞受容体にクラスターを形成させ、これによってB細胞を刺激して抗原特異的な抗体産生を刺激したものと考えられる。
【0093】
IgGのサブタイプ別に血清中抗体量を測定すると、IgG受容体に結合しない、あるいは親和性が弱い(結合力が弱い)サブタイプである、IgG1およびIgG3が誘導され、IgG受容体に結合するIgG2aは誘導されなかった。このことは、MAPで免疫刺激した動物体内では、辺縁帯B細胞およびB1B細胞が直接刺激され、これにより、IgG受容体に結合しないタイプの抗体しか誘導されないこと、および当該抗体産生誘導がT細胞非依存的であることを示唆するものである。
【0094】
この結果は、MAPが刺激するB細胞は、辺縁帯B細胞および粘膜や漿膜に存在するB1B細胞であり、上記のT細胞依存性に抗体を産生する濾胞B細胞とは異なる。辺縁帯B細胞およびB1B細胞よって産生される抗体は主にIgG受容体に結合しない抗体(IgMおよびマウスの場合IgG3)、あるいは結合能の低いIgGサブクラス(マウスの場合IgG1)である(Bennett, KM., et. al., BMC Biotechnol, (15)71, 2015)との知見と一貫するものである。
【0095】
また、T細胞依存性の刺激で産生されるIgMは7~10日間ほど血中から消失するものの、T細胞非依存性で産生されたIgMは血中に長く存在し(マウスでは90日程度)(Dintzis, HM, et. al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA, (73) 3671-5, 1974)、ある程度の長期間にわたってウイルス防御が期待できる。
【0096】
上記結果によれば、ADEの回避は、IgG受容体に結合しない抗体誘導、つまりT細胞を介さずにB細胞を直接刺激すること(T細胞非依存性)によってそれが可能となり(Saravanan, P., et. al., Acta Virol., (48) 39-45, 2004)、技術的には多重抗原ペプチドによるワクチンによりADEの回避が可能になると期待される。
【0097】
本発明のペプチドは、フラビウイルス属全般に広く保存されたアミノ酸配列であった。従って、本発明のペプチドは、フラビウイルス属全般に対して有効な抗体を産生させるものとなり得る。また、フラビウイルス属全般において広く保存されているということは、度重なる天然の突然変異にもかかわらず、保存されてきた配列であることが示唆され、すなわち、本発明の多重抗原ペプチドは、突然変異に強い多重抗原ペプチド(mutation-compatible MAP;mMAP)であり、今後生み出されうるフラビウイルス属に対しても有効であることが示唆される。
【0098】
さらには、化学合成によって作製できるMAPは、培養工程が必要な組換タンパク質やベクターを用いるワクチンと異なり、迅速に大量生産が可能であり、フラビウイルス属ウイルスの対策のように喫緊の対策を要する感染症のワクチンとして最適な手法でもあると考えられる。
【0099】
また、本実施例により、多重抗原ペプチドは、記憶免疫を成立させ、フラビウイルスに対する長期的な免疫効果を付与する点も注目するべき点である。
【0100】
配列表の説明
配列番号1:
抗原ペプチド候補としての日本脳炎ウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の一部;
配列番号2:
抗原ペプチド候補としての黄熱ウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の一部;
配列番号3:
抗原ペプチド候補としてのウエストナイルウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の一部;
配列番号4:
抗原ペプチド候補としてのデングウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の一部;
配列番号5:
抗原ペプチド候補としてのジカウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の一部;
配列番号6:
抗原ペプチド候補としてのセントルイス脳炎ウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の一部;
配列番号7:
抗原ペプチド候補としてのダニ媒介性脳炎ウイルスのポリプロテインのアミノ酸配列の一部;
配列番号8:
FLAGタグのアミノ酸配列;
配列番号9:
抗原ペプチド候補のアミノ酸配列(22アミノ酸長);
配列番号10:
中和抗体が結合する抗原ペプチド中の部分配列(7アミノ酸長)のアミノ酸配列;
配列番号11:
中和抗体が結合する抗原ペプチド中の部分配列(11アミノ酸長)の一例のアミノ酸配列;
配列番号12:
中和抗体が結合する抗原ペプチド中の部分配列(11アミノ酸長)の一例のアミノ酸配列;
配列番号13:
中和抗体が結合する抗原ペプチド中の部分配列(11アミノ酸長)の一例のアミノ酸配列