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  • 特開-磁性体薄膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057406
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】磁性体薄膜
(51)【国際特許分類】
   G11B 11/105 20060101AFI20220404BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20220404BHJP
   G11B 11/00 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G11B11/105 501B
H01F10/16
G11B11/105 546B
G11B11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165646
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮本 光教
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 孝樹
【テーマコード(参考)】
5E049
【Fターム(参考)】
5E049AA04
5E049BA22
5E049GC01
5E049HC01
(57)【要約】
【課題】薄膜磁性体のファラデー効果を利用する場合には、光の進行方向、すなわち膜面の垂直方向の磁化を利用することになるため、外部磁界によって磁化しにくくファラデー効果が小さく(生じにくく)なってしまうという課題がある。
【解決手段】誘電体中に磁性ナノ粒子が分散された構造を有するグラニュラー構造を備え、かつ、膜面に垂直方向に長く、柱状に成長したマクロ構造体からなる磁性体薄膜(垂直磁化グラニュラー膜)とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファラデー効果を有する磁性体薄膜であって、
前記磁性体薄膜は、誘電体中に磁性ナノ粒子が分散されたグラニュラー構造を備え、
かつ、
前記磁性体薄膜の膜面に対して垂直方向に延びる柱状に成長したマクロ構造体からなることを特徴とする磁性体薄膜。
【請求項2】
前記磁性体薄膜は、蒸着法やスパッタ法などの気相成長法によって形成されることを特徴とする請求項1記載の磁性体薄膜。
【請求項3】
前記磁性体薄膜は、斜方蒸着法によって形成されることを特徴とする請求項2に記載の磁性体薄膜。
【請求項4】
前記磁性体薄膜中の磁性ナノ粒子の粒径が、1~20nmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の磁性体薄膜。
【請求項5】
前記マクロ構造体の柱の幅が1μm以下であり、アスペクト比が2以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性体薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファラデー効果を有する磁性体薄膜に関する。より詳しくは、薄膜面の垂直方向に異方性を持つ磁性体薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ファラデー効果は、磁化した磁性体中を偏光が通過した時に生じる磁気光学効果である。直線偏光が通過した場合には、偏光面の回転(旋光)が生じ、円偏光が通過した場合には、位相の遅れ(または進み)が生じる。
【0003】
ファラデー効果は、光が磁性体を透過した光に生じる現象であるので、磁性体は観測波長に対して、透明である必要がある。一般的な磁性体は金属であり、例えばFe,Co,Ni,フェライトなどが挙げられる。このような材料は大きなファラデー効果を有するものの、光の吸収が強く、ファラデー効果を利用したデバイスや素子として用いるには不適当である。
【0004】
ファラデー効果を有し、光を十分に透過できる材料としてYIG(イットリウム鉄ガーネット)結晶や、金属ナノ粒子を誘電体材料に分散したグラニュラー膜(ナノコンポジット含む)などが挙げられる。中でもグラニュラー膜は、比較的簡便に作製することができ、強磁性金属と誘電体で構成されるため、様々な材料での組み合わせが可能である。
【0005】
磁性体薄膜に偏光を通過させる際、薄膜面に垂直方向に入射するのが一般的である。ファラデー効果は光の進行方向と磁化方向が一致した場合に、最も光の変調が大きくなる。従って磁性体薄膜面に対して垂直方向に磁化し易いものほど、性能(感度)が高いと言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-295212号公報
【特許文献2】特開2014-175617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4に示すように、通常のグラニュラー薄膜は、均質な誘電体マトリックス11中にナノメートルオーダーの強磁性金属微粒子(磁性ナノ粒子10)が分散された構造を持ち、赤外光に対して透明であるとともに,キュリー温度が高く温度特性も良好である。また,グラニュラー薄膜は面内磁化膜であるため,ファラデー効果を発現する膜面垂直方向の磁化過程は磁化回転が主となり,1GHz以上の強磁性共鳴を有し、DC~高周波まで広帯域計測に適すると考えられる。
【0008】
一方で、グラニュラー薄膜は面内磁化膜であることから、膜面の垂直方向で反磁界が最大となり、垂直方向は磁化困難軸となる。薄膜磁性体のファラデー効果を利用する場合には、光の進行方向、すなわち膜面の垂直方向の磁化を利用することになるため、外部磁界によって磁化しにくくファラデー効果が小さく(生じにくく)なってしまうという課題がある。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、光の進行方向、すなわち膜面の垂直方向に磁化し易く、ファラデー効果が生じやすい磁性体薄膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ファラデー効果を有する磁性体薄膜であって、磁性体薄膜は、誘電体中に磁性ナノ粒子が分散されたグラニュラー構造を備え、かつ、磁性体薄膜の膜面に対して垂直方向に延びる柱状に成長したマクロ構造体からなる磁性体薄膜とする。
【0011】
さらに、磁性体薄膜は、蒸着法やスパッタ法などの気相成長法によって形成される磁性体薄膜とする。
【0012】
さらに、磁性体薄膜は、斜方蒸着法によって形成される磁性体薄膜とする。
【0013】
さらに、磁性体薄膜中の磁性ナノ粒子の粒径が、1~20nmである磁性体薄膜とする。
【0014】
さらに、マクロ構造体の柱の幅が1μm以下であり、アスペクト比が2以上である磁性体薄膜とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、膜面に垂直方向に磁化し易く、低磁場でも大きなファラデー回転が生じるファラデー素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明における磁性体薄膜(垂直磁化グラニュラー膜)の模式図である。
図2】本発明における磁性体薄膜(垂直磁化グラニュラー膜)の断面SEM画像である。
図3】本発明における磁性体薄膜のファラデーループである。
図4】従来のグラニュラー膜の模式図である。
図5】従来のグラニュラー膜の断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面を参照して、本発明に係る磁性体薄膜(垂直磁化グラニュラー膜)について説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ。
【0018】
本実施例では、誘電体11としてTiOを、磁性ナノ粒子10としてCoを、支持基板12としてホウケイ酸ガラスを用い、TiOとCoを別々の蒸発源から同時に蒸着する共蒸着法で薄膜形成を行う。支持基板12を、350℃以上に加熱することで、支持基板12の薄膜形成面に誘電体11のTiOを、柱状に成長させると同時に、誘電体11中に磁性ナノ粒子10のCoが分散し、図1に示すような、グラニュラー構造と柱状のマクロ構造体20が同時に形成される。さらに、蒸着中に支持基板12を、加熱することに加え、支持基板と蒸発流に角度を設け、斜方蒸着を行うとより効果的に柱状構造を強調させることが可能である。
【0019】
グラニュラー膜を構成する磁性ナノ粒子10は、超常磁性が発現する1~20nmのサイズで構成している。20nmよりも大きくなると、多磁区構造となり、ヒステリシスが生じるため、ファラデー素子として用いる場合に好ましくない。
【0020】
柱状のマクロ構造体20における柱の幅は1μm以下で作製されている。柱のアスペクト(柱の高さと柱の幅の比)は2以上になることが望ましいが、グラニュラー膜は数μmレベルの薄膜であることが多く、アスペクト比を2以上にするには、柱の幅は1μm以下となる。更に、前記斜方蒸着を用いれば、柱と柱の間に明らかな空隙を設けることができ、柱間の磁気的結合を完全に分離することができ、垂直方向の磁化およびファラデー効果を大きく生じさせることができる。
【0021】
図2は、本実施例であるCo-TiOグラニュラー膜のSEM画像であり、本実施例のCo-TiOグラニュラー膜では、膜面垂直方向に成長した柱状組織が明確に見ることができる。比較例として、図5に従来のCo-MgFグラニュラー膜の断面SEM画像を示す。
【0022】
図3は、Co-TiOグラニュラー膜のファラデーループである。比較例としてCo-MgFグラニュラー膜のファラデーループも併記した。Co-TiOグラニュラー膜は柱状組織を有しており、柱状に成長することで、面内方向の磁気的結合を緩和し、膜面垂直方向に磁化し易くなる(垂直磁気異方性)効果が得られる。結果として、より低磁場で飽和し易く、低磁場で高感度に動作するファラデー素子として適していることが分かる。
【0023】
本実施例では、CoとTiOの組み合わせで作製しているが、磁性ナノ粒子としては、Coの他、FeやFeCo合金,Ni,FeNi合金,Mn,フェライトなど、ファラデー効果を発現する材料であればよく、誘電体材料としては、TiOの他、ZrOやTaなども柱状構造を形成でき、好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0024】
10 磁性ナノ粒子
11 誘電体
12 支持基板
20 マクロ構造体
図1
図2
図3
図4
図5