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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057422
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1761 20060101AFI20220404BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20220404BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20220404BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20220404BHJP
   B60T 8/40 20060101ALI20220404BHJP
   B60T 17/02 20060101ALI20220404BHJP
   B60T 17/00 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B60T8/1761
B60T13/138 A
B60T13/122 A
B60T8/17 B
B60T8/40 C
B60T17/02
B60T17/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165668
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】余語 和俊
【テーマコード(参考)】
3D048
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB45
3D048CC18
3D048HH13
3D048HH31
3D048HH50
3D048HH59
3D048HH66
3D048HH68
3D048RR06
3D049BB29
3D049CC02
3D049HH10
3D049HH20
3D049HH34
3D049HH41
3D049HH47
3D049HH48
3D049RR04
3D246BA02
3D246DA01
3D246GA11
3D246GB01
3D246GB37
3D246GC14
3D246HA44A
3D246HA45A
3D246JA12
3D246JB10
3D246LA04Z
3D246LA33Z
3D246LA36Z
3D246LA40Z
3D246LA52Z
3D246LA62Z
3D246LA73Z
(57)【要約】
【課題】ホイル圧を減圧するにあたり、電動シリンダ及び液路に過大な液圧がかかることを抑制することができる車両用制動装置を提供する。
【解決手段】本発明は、マスタカット弁41、42からホイルシリンダ81~84へ向かう方向がセルフオープン方向となるように配置された保持弁313と、ブレーキ操作が開始された場合にマスタカット弁41、42を閉弁方向に作動させる第1ブレーキECU901と、加圧制御部912が調整した電動シリンダ5の出力圧によって車輪ロックが発生しないように保持弁313と減圧弁314とポンプ315を制御するABS制御において、保持弁313の目標差圧として、ホイル圧と目標差圧との加算値が、電動シリンダ5の目標圧よりも大きく、且つ電動シリンダ5及び液路61、62の耐圧許容値未満となる目標差圧の値である特定目標差圧を設定する設定部922と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダと、
前記マスタシリンダとホイルシリンダとを接続する液路に設けられたマスタカット弁と、
前記液路において前記マスタカット弁と前記ホイルシリンダとの間の部分にフルードを供給するように構成され、シリンダと前記シリンダ内で電気モータの駆動に応じてピストンが摺動することでフルードを供給可能に構成された電動シリンダと、
前記液路において前記電動シリンダによってフルードが供給される位置よりも前記ホイルシリンダ側に設けられ、前記マスタカット弁から前記ホイルシリンダへ向かう方向がセルフオープン方向となるように配置された保持弁と、
前記液路のうち前記保持弁と前記ホイルシリンダとの間の部分に減圧弁を介して接続された低圧リザーバと、
前記低圧リザーバからからフルードを吸入して、前記液路において前記保持弁と前記マスタカット弁との間にフルードを吐出するポンプと、
ブレーキ操作が開始された場合に、前記マスタカット弁を閉弁方向に作動させ、前記電動シリンダの出力圧を前記ブレーキ操作に応じた目標圧に調整する加圧制御部と、
前記加圧制御部が調整した前記電動シリンダの出力圧によって車輪ロックが発生しないように前記保持弁と前記減圧弁と前記ポンプを制御するABS制御において、前記保持弁の目標差圧として、前記ホイルシリンダの液圧と前記目標差圧との加算値が、前記電動シリンダの前記目標圧よりも大きく、且つ前記電動シリンダ及び前記液路の耐圧許容値未満となる前記目標差圧の値である特定目標差圧を設定する設定部と、
を備える、車両用制動装置。
【請求項2】
前輪の前記ホイルシリンダに対応する前記保持弁は、前記液路において前記電動シリンダによってフルードが供給される位置と前記前輪の前記ホイルシリンダとの間に設けられたリニアソレノイドバルブである、請求項1に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば米国特許第9205821号のブレーキシステムは、マスタシリンダ装置と、マスタカット弁と、電動シリンダと、リザーバと、を備える。電動シリンダの出力室とリザーバとは、マスタカット弁及びマスタシリンダ装置を介して接続され、さらにリザーバから出力室へのフルード流通のみを許容する逆止弁を介して接続されている。ブレーキバイワイヤモード(以下「バイワイヤモード」という)では、マスタカット弁は閉弁された状態で、電動シリンダによってフルードがホイルシリンダに供給される。マスタカット弁が閉じられると、ホイルシリンダとリザーバとの接続は遮断され、且つ電動シリンダの出力室からリザーバへのフルード流通は禁止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第9205821号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の走行中に、マスタカット弁を閉じた状態にしておくと、ブレーキパッドの摩擦等によりフルード温度が上昇した場合、フルードが膨張して、ホイルシリンダの液圧が上がってしまう。そうした場合、意図しない制動力が車両に付与され得る。そのため走行中にはマスタカット弁を開いた状態にしておき、ホイル圧が上がってしまっても、開弁したマスタカット弁を介してホイルシリンダからリザーバにフルードを逃がすことが可能な状態とすることが好ましい。この場合、ブレーキECUは、ブレーキペダルの操作が開始されると、マスタカット弁を閉弁させてバイワイヤモードを形成する。
【0005】
しかし、例えばブレーキペダルの踏み込み操作が速い場合(急制動)、踏み込み操作の検出遅れ等によってマスタカット弁が完全に閉弁する前に、ブレーキペダル操作により、マスタシリンダ装置からフルードがマスタカット弁を通ってホイルシリンダに向けて供給される可能性がある。この場合、例えばABS制御等でホイル圧を0まで減圧させようとしても、マスタカット弁が閉弁する前にマスタシリンダ装置から供給された液量ΔV分のホイル圧が残存することになる。つまり、ホイル圧を0にすることが困難となり、車輪ロック抑制の観点で改良の余地がある。
【0006】
また、ホイル圧を強制的に0にするためには、この液量ΔVのフルードを、最大限拡大され且つ密閉された電動シリンダの出力室に供給することとなる。この場合、電動シリンダの出力室や液路に過大な液圧がかかってしまう。つまり、この液量ΔVは、電動シリンダや液路の破損の原因となり得る。
【0007】
本発明の目的は、マスタカット弁が閉じる前にマスタシリンダ装置からフルードがホイルシリンダに供給された場合でも、ホイル圧を減圧するにあたり、電動シリンダ及び液路に過大な液圧がかかることを抑制することができる車両用制動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用制動装置は、マスタシリンダと、前記マスタシリンダとホイルシリンダとを接続する液路に設けられたマスタカット弁と、前記液路において前記マスタカット弁と前記ホイルシリンダとの間の部分にフルードを供給するように構成され、シリンダと前記シリンダ内で電気モータの駆動に応じてピストンが摺動することでフルードを供給可能に構成された電動シリンダと、前記液路において前記電動シリンダによってフルードが供給される位置よりも前記ホイルシリンダ側に設けられ、前記マスタカット弁から前記ホイルシリンダへ向かう方向がセルフオープン方向となるように配置された保持弁と、前記液路のうち前記保持弁と前記ホイルシリンダとの間の部分に減圧弁を介して接続された低圧リザーバと、前記低圧リザーバからからフルードを吸入して、前記液路において前記保持弁と前記マスタカット弁との間にフルードを吐出するポンプと、ブレーキ操作が開始された場合に、前記マスタカット弁を閉弁方向に作動させ、前記電動シリンダの出力圧を前記ブレーキ操作に応じた目標圧に調整する加圧制御部と、前記加圧制御部が調整した前記電動シリンダの出力圧によって車輪ロックが発生しないように前記保持弁と前記減圧弁と前記ポンプを制御するABS制御において、前記保持弁の目標差圧として、前記ホイルシリンダの液圧(ホイル圧)と前記目標差圧との加算値が、前記電動シリンダの前記目標圧よりも大きく、且つ前記電動シリンダ及び前記液路の耐圧許容値未満となる前記目標差圧の値である特定目標差圧を設定する設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ABS制御において、保持弁に対して特定目標差圧が設定されることで、特定目標差圧に応じた電流(電流値≧0)が保持弁に印加される。そして、当該電流が印加されて閉じている保持弁は、自身の電動シリンダ側の液圧がホイルシリンダ側の液圧よりも大きく且つその差圧が特定目標差圧より大きくなると開く。保持弁が開くと、フルードは、保持弁の電動シリンダ側からホイルシリンダ側に流れ、当該差圧が小さくなる。これにより保持弁は再度閉じる。このように、特定目標差圧に応じた電流が印加された保持弁は、自身の電動シリンダ側の液圧が、ホイル圧と特定目標差圧との加算値より大きくなると開き、当該加算値以下となると閉じる。
【0010】
特定目標差圧は、加算値が耐圧許容値未満となるように設定されているため、保持弁の電動シリンダ側の液圧が耐圧許容値に達する前に保持弁が開き、電動シリンダ側のフルードがホイルシリンダ側に逃がされる。これにより、電動シリンダ及び液路に過大な液圧がかかることが抑制される。また、保持弁が開きフルードがホイルシリンダ側に流入したとしても、減圧弁を開けばホイル圧を減圧することができる。本発明によれば、マスタカット弁が閉じる前にマスタシリンダ装置からフルードがホイルシリンダに供給された場合でも、ホイル圧を減圧するにあたり、電動シリンダ及び液路に過大な液圧がかかることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の車両用制動装置の構成図である。
図2】本実施形態の下流ユニットの構成図である。
図3】本実施形態の保持弁を説明するための概念図である。
図4】本実施形態の保持弁への印加電流を説明するためのグラフである。
図5】本実施形態のABS制御を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。本実施形態の車両用制動装置1は、図1に示すように、上流ユニット11と、下流ユニット3と、ホイルシリンダ81、82、83、84と、第1ブレーキECU91と、第2ブレーキECU92と、を備えている。第1ブレーキECU91は、主に上流ユニット11を制御する。第2ブレーキECU92は、主に下流ユニット3を制御する。
【0013】
上流ユニット11は、主に、マスタシリンダ装置2と、リザーバ26と、第1マスタカット弁41と、第2マスタカット弁42と、電動シリンダ5と、を備えている。マスタシリンダ装置2は、リザーバ26に接続され、ブレーキ操作に応じてフルードを供給可能に構成されている。ブレーキ操作とは、ドライバによりブレーキペダルZが操作されることである。マスタシリンダ装置2は、マスタシリンダ21と、第1マスタピストン22と、第2マスタピストン23と、付勢部材24、25と、を備えている。
【0014】
マスタシリンダ21は、有底円筒状の部材である。マスタシリンダ21には、入力ポート211、212と、出力ポート213、214とが形成されている。入力ポート211、212は、リザーバ26に接続されている。マスタシリンダ21内には、第1マスタ室21a及び第2マスタ室21b(以下「マスタ室21a、21b」ともいう)が形成されている。
【0015】
第1マスタピストン22及び第2マスタピストン23(以下「マスタピストン22、23」ともいう)は、マスタシリンダ21内に配置されたピストン部材である。マスタピストン22、23は、ブレーキペダルZの操作に応じてマスタシリンダ21内を摺動する。第1マスタピストン22とブレーキペダルZとは機械的に接続されている。以下、第1マスタピストン22からブレーキペダルZに向かう方向を後方とし、その反対方向を前方とする。
【0016】
第2マスタピストン23は、第1マスタピストン22の前方に配置されている。第1マスタ室21aは、マスタシリンダ21及びマスタピストン22、23により区画されている。第2マスタ室21bは、マスタシリンダ21及び第2マスタピストン23により区画されている。
【0017】
第1マスタピストン22には貫通孔221が形成され、第2マスタピストン23には貫通孔231が形成されている。マスタピストン22、23が初期位置(後端位置)に位置する場合、貫通孔221と入力ポート211とが連通し、貫通孔231と入力ポート212とが連通する。つまり、マスタピストン22、23が初期位置に位置する場合、貫通孔221及び入力ポート211を介してマスタ室21aとリザーバ26とが連通し、貫通孔231及び入力ポート212を介してマスタ室21bとリザーバ26とが連通する。
【0018】
付勢部材24は、第1マスタ室21aに配置され、第1マスタピストン22を初期位置に向けて付勢する。付勢部材25は、第2マスタ室21bに配置され、第2マスタピストン23を初期位置に向けて付勢する。
【0019】
マスタシリンダ装置2は、第1マスタ室21a及び第2マスタ室21bが同圧になるように構成されている。リザーバ26とマスタ室21a、21bとの連通は、マスタピストン22、23が初期位置から所定量前進することで遮断される。出力ポート213は、第1マスタ室21aと第1液路61とを接続している。出力ポート214は、第2マスタ室21bと第2液路62とを接続している。マスタピストン22、23が前進すると、リザーバ26と遮断されたマスタ室21a、21bの容積が小さくなり、フルードが出力ポート213、214から出力される。
【0020】
第1液路61は、マスタシリンダ装置2の第1マスタ室21aとホイルシリンダ81、82とを接続する液路である。第2液路62は、マスタシリンダ装置2の第2マスタ室21bとホイルシリンダ83、84とを接続する液路である。第1液路61及び第2液路(以下「液路61、62」ともいう)は、マスタシリンダ装置2とホイルシリンダ81~84とを接続する液路である。
【0021】
第1マスタカット弁41は、第1液路61に設けられた、非通電状態で開くノーマルオープン型の電磁弁である。第2マスタカット弁42は、第2液路62に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。第1マスタカット弁41及び第2マスタカット弁42(以下「マスタカット弁41、42」ともいう)は、ホイルシリンダ81~84側の液圧が弁体を閉弁する方向に作用するように、それぞれ対応する液路61、62に配置されている。換言すると、各マスタカット弁41、42は、対応する液路61、62においてホイルシリンダ81~84からマスタカット弁41、42に向かう方向がセルフシール方向となるように配置されている。セルフシール方向とは、閉弁する側に作用する力の向きを意味する。
【0022】
第1液路61のうち入力ポート211と第1マスタカット弁41との間の部分には、液路611を介してストロークシミュレータ27が接続されている。液路611には、非通電状態で閉じるノーマルクローズ型の電磁弁であるシミュレータカット弁28が設けられている。シミュレータカット弁28が開くと、第1マスタ室21aとストロークシミュレータ27とが連通する。ストロークシミュレータ27は、ブレーキ操作に対する反力を発生させる装置である。第2液路62のうち入力ポート212と第2マスタカット弁42との間の部分には、圧力センサ71が接続されている。
【0023】
電動シリンダ5は、シリンダ51内でピストン53が摺動することでフルードを供給可能に構成されている。電動シリンダ5は、第1液路61において第1マスタカット弁41とホイルシリンダ81、82との間の部分61a、及び第2液路62において第2マスタカット弁42とホイルシリンダ83、84との間の部分62aに接続されている。より詳細に、第1液路61の一部分61aは、第1液路61のうち第1マスタカット弁41と下流ユニット3との間の部分である。第2液路62の一部分62aは、第2液路62のうち第2マスタカット弁42と下流ユニット3との間の部分である。
【0024】
電動シリンダ5は、シリンダ51と、電気モータ52と、ピストン53と、出力室54と、付勢部材55と、を有する。電動シリンダ5は、シリンダ51内に単一の出力室54が形成されているシングルタイプの電動シリンダである。以下、電動シリンダ5の説明において、ピストン53が出力室54を小さくする方向を前方とし、ピストン53が出力室54を大きくする方向を後方とする。
【0025】
シリンダ51は、前端部にポート511、512が形成された有底筒状部材である。電気モータ52は、回転運動を直線運動に変換する直動機構52aを介してピストン53に接続されている。ピストン53は、電気モータ52の駆動によりシリンダ51内を摺動する。出力室54は、シリンダ51とピストン53により区画されており、ピストン53の移動に応じて容積が変化する。付勢部材55は、出力室54に配置され、ピストン53を初期位置に向けて付勢するばねである。電気モータ52が駆動していない場合、付勢部材55の付勢力によりピストン53は初期位置に位置する。
【0026】
ポート511には、第3液路63が接続されている。第3液路63は、ポート511と第1液路61の一部分61aとを接続する液路である。第3液路63には、ノーマルクローズ型の電磁弁である第1カット弁43が設けられている。第3液路63から第4液路64が分岐している。
【0027】
第4液路64は、第3液路63のうちポート511と第1カット弁43との間の部分と、第2液路62の一部分62aとを接続する液路である。第4液路64には、ノーマルクローズ型の電磁弁である第2カット弁44が設けられている。第1カット弁43が開くと、ポート511及び下流ユニット3を介して、出力室54とホイルシリンダ81、82とが連通する。第2カット弁44が開くと、ポート511及び下流ユニット3を介して出力室54とホイルシリンダ83、84とが連通する。
【0028】
ポート512には、第5液路65が接続されている。第5液路65は、リザーバ26とポート512とを接続する液路である。第5液路65には、出力室54からリザーバ26へのフルード流通を禁止する逆止弁45が設けられている。例えばピストン53の後退により出力室54が負圧になった場合、液路65及び逆止弁45を介してリザーバ26からフルードが出力室54に供給される。なお、ストロークシミュレータ27、シミュレータカット弁28、第1カット弁43、及び第2カット弁44は、上流ユニット11に含まれる。
【0029】
(下流ユニット)
下流ユニット3について図1及び図2を参照して説明する。下流ユニット3は、いわゆるESCアクチュエータであって、各ホイルシリンダ81~84の液圧を独立に調圧することができる。下流ユニット3は、ホイルシリンダ81、82を調圧可能に構成された第1液圧出力部31と、ホイルシリンダ83、84を調圧可能に構成された第2液圧出力部32と、を備えている。
【0030】
第1液圧出力部31は、第1液路61のうち第1液路61と第3液路63との接続部分と、ホイルシリンダ81、82との間に配置されている。第2液圧出力部32は、第2液路62のうち第2液路62と第4液路64との接続部分と、ホイルシリンダ83、84との間に配置されている。第1液圧出力部31と第2液圧出力部32とは、下流ユニット3内で液圧回路上、互いに独立している。下流ユニット3の説明において、下流ユニット3に対する上流ユニット11の位置を上流とし、下流ユニット3に対するホイルシリンダ81~84の位置を下流とする。
【0031】
第1液圧出力部31には、上流ユニット11からフルードが供給される。第1液圧出力部31は、上流ユニット11が発生させた基礎液圧を基に、ホイルシリンダ81、82の液圧を増大可能に構成されている。第1液圧出力部31は、入力された液圧とホイルシリンダ81、82の液圧との間に差圧を発生させることでホイルシリンダ81、82を加圧するように構成されている。
【0032】
図2に示すように、第1液圧出力部31は、液路311と、ポンプ液路315aと、圧力センサ75と、差圧制御弁312と、チェックバルブ312aと、保持弁313と、チェックバルブ313aと、減圧液路314aと、減圧弁314と、ポンプ315と、電気モータ316と、低圧リザーバ317と、還流液路317aと、を備えている。
【0033】
液路311は、第1液路61の一部分61aとホイルシリンダ81とを接続する液路である。液路311は、第1液路61の一部であって、第1液路61のうち下流ユニット3内に位置する部分である。液路311は、ポンプ液路315aと接続された分岐部Xを含む。液路311は、分岐部Xで、ホイルシリンダ81に接続する液路311とホイルシリンダ82に接続する液路311aとに分岐する。液路311の2つの液路上の構成は同様であるため、ホイルシリンダ81に接続する液路311のみを説明する。
【0034】
圧力センサ75は、液路311において差圧制御弁312よりも上流ユニット11側に設けられている。圧力センサ75が検出する圧力は、上流ユニット11から第1液圧出力部に入力される液圧に相当する。圧力センサ75によって検出されたデータは第2ブレーキECU92に送信される。
【0035】
差圧制御弁312は、液路311において、分岐部Xと圧力センサ75との間に設けられたノーマルオープン型のリニアソレノイドバルブである。差圧制御弁312の開度が制御されることで、差圧制御弁312を挟んだ上下流間に差圧を発生させることができる。
【0036】
チェックバルブ312aは、差圧制御弁312に対して並列に設けられている。チェックバルブ312aは、上流側から下流側に向けてのフルードの流通のみを許可するよう構成されている。
【0037】
保持弁313は、液路311において、分岐部Xとホイルシリンダ81との間に設けられたノーマルオープン型のリニアソレノイドバルブである。つまり、保持弁313は、第1液路61の一部である液路311において、電動シリンダ5によってフルードが供給される位置(分岐部X)よりもホイルシリンダ81側に設けられている。保持弁313には、閉弁を指示する場合に所定の差圧まで閉弁を維持する閉弁維持電流が印加され、開弁を指示する場合に電流が印加されない(開弁維持電流=0)。
【0038】
保持弁313は、液路311において、マスタカット弁41からホイルシリンダ81へ向かう方向がセルフオープン方向となるように配置されている。セルフオープン方向とは、開弁する側に作用する力の向きを意味する。つまり、図3に示すように、液路311でマスタカット弁41からホイルシリンダ81に向けて弁体301を押す力は、保持弁313を開弁させる力として作用する。換言すると、保持弁313は、マスタカット弁41側の液圧が弁体301を開弁する方向に作用するように、液路311に配置されている。
【0039】
より詳細に、保持弁313の弁体301は、液路311において弁座302よりもホイルシリンダ81に近い側に位置している。閉弁状態において、弁体301は、ホイルシリンダ81に向けて所定値以上の力で押圧されると弁座302から離れ、保持弁313は開弁する。この所定値は、保持弁313に印加された電流値に基づいて決まる。また、ホイルシリンダ81に向けて弁体301を押圧する力は、保持弁313の上流側(マスタカット弁41側)の液圧と下流側(ホイルシリンダ81側)の液圧との差圧に基づいて決まる。なお、保持弁313は、ホイルシリンダ81からマスタカット弁41に向かう方向がセルフシール方向となるように配置されているともいえる。保持弁313は、ホイルシリンダ81~84側の液圧が弁体301を閉弁する方向に作用するように配置されている。
【0040】
チェックバルブ313aは、保持弁313に対して並列に設けられている。チェックバルブ313aは下流側から上流側に向けてのフルードの流通のみを許可するように構成されている。
【0041】
減圧液路314aは、液路311のうち保持弁313とホイルシリンダ81との間の部分と、低圧リザーバ317とを接続する液路である。減圧液路314a上に、減圧弁314が設けられている。減圧弁314は、減圧液路314aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。減圧弁314が開弁状態の場合、ホイルシリンダ81内のフルードは減圧液路314aを介して低圧リザーバ317に流入可能である。したがって、減圧弁314を開弁させることで、ホイルシリンダ81の圧力を減圧可能である。
【0042】
低圧リザーバ317はフルードを貯留する周知の調圧リザーバであり、減圧液路314aおよび還流液路317aと接続されている。還流液路317aは、液路311において圧力センサ75と差圧制御弁312との間の部分と、低圧リザーバ317と、を接続する液路である。つまり、低圧リザーバ317は、液路311のうち保持弁313とホイルシリンダ81との間の部分に減圧弁314を介して接続されている。低圧リザーバ317内のフルードは、ポンプ315の作動により吸入される。低圧リザーバ317内のフルード量が減少すると、低圧リザーバ317内の弁が開弁し、低圧リザーバ317に還流液路317aを介して第1液路61の一部分61aからフルードが供給される。
【0043】
ポンプ液路315aは、減圧液路314aにおいて減圧弁314とリザーバとの間の部分と、液路311の分岐部Xと、を接続する液路である。ポンプ液路315aにはポンプ315が設けられている。
【0044】
ポンプ315は、電気モータ316の駆動に応じて作動するポンプであり、例えば周知のピストンポンプ又はギアポンプである。ポンプ315の吸入側は低圧リザーバ317と接続されていて、ポンプ315の吐出側は分岐部Xに接続されている。ポンプ315が作動すると、低圧リザーバ317内のフルードを吸入して、分岐部Xにフルードを供給する。例えば各保持弁313を閉じポンプ315の駆動により低圧リザーバ317内のフルードを汲み上げようとすると、ポンプ315が吐出したフルードは、分岐部Xを介して電動シリンダ5の出力室54に供給される。ピストン53が初期位置に位置する際に、ポンプ315によりフルードを電動シリンダ5に供給しようとすると、電動シリンダ5に過大な液圧がかかる。
【0045】
第1液圧出力部31は、各種電磁弁やポンプの作動により、上流側から入力された液圧を基にホイルシリンダ81、82を加圧可能に構成されている。第2液圧出力部32は圧力センサ75が設けられていない点を除き、第1液圧出力部31と同様の構成であるため、説明を省略する。第2液圧出力部32も第1液圧出力部31と同様に、基礎液圧を基にホイルシリンダ83、84の液圧を増大可能に構成されている。
【0046】
このように、車両用制動装置1は、ブレーキ操作に連動してマスタシリンダ21内を摺動するマスタピストン22、23の移動によりフルードを供給するマスタシリンダ装置2と、マスタシリンダ装置2とホイルシリンダ81~84とを接続する液路61、62に設けられたマスタカット弁41、42と、液路61、62においてマスタカット弁41、42とホイルシリンダ81~84との間の部分にフルードを供給するように構成され、シリンダ51とシリンダ51内で電気モータ52の駆動に応じてピストン53が摺動することでフルードを供給可能に構成された電動シリンダ5と、液路61、62において電動シリンダ5によってフルードが供給される位置よりもホイルシリンダ81~84側に設けられ、マスタシリンダ装置2からホイルシリンダ81~84へ向かう方向がセルフオープン方向となるように配置されたリニアソレノイドバルブである保持弁313と、液路61、62のうち保持弁313とホイルシリンダ81~84の間の部分に減圧弁314を介して接続された低圧リザーバ317と、低圧リザーバ317からからフルードを吸入して、液路61、62において保持弁313とマスタカット弁41、42との間にフルードを吐出可能なポンプ315と、第1ブレーキECU91と、第2ブレーキECU92と、を備えている。
【0047】
(ブレーキECU)
第1ブレーキECU91及び第2ブレーキECU92(以下「ブレーキECU91、92」ともいう)は、それぞれCPUやメモリを備える電子制御ユニットである。各ブレーキECU91、92は、各種制御を実行する1つ又は複数のプロセッサを備えている。第1ブレーキECU91と第2ブレーキECU92とは、別個のECUであって、互いに情報(制御情報等)を通信可能に接続されている。
【0048】
第1ブレーキECU91は、圧力センサ71、72を含む各種センサの検出値に基づいて、電動シリンダ5及び各電磁弁28、41~44を制御する。第1ブレーキECU91は、ブレーキ操作に応じてバイワイヤモードを形成し、電動シリンダ5の制御によりホイルシリンダ81~84を加減圧する。第2ブレーキECU92は、圧力センサ75を含む各種センサの検出値に基づいて、下流ユニット3を制御する。第2ブレーキECU92は、状況に応じて下流ユニット3を駆動し、例えばABS制御(アンチスキッド制御)やESC制御等を実行する。
【0049】
ブレーキECU91、92は、出力室54の液圧(圧力センサ72の検出値)及び下流ユニット3の制御状態に基づいて、ホイル圧を推定することができる。例えば、ブレーキECU91、92は、ABS制御開始時のホイル圧(出力室54の液圧に相当する)を把握することができ、ABS制御での減圧時間や下流ユニット3による増圧時間に基づいてホイル圧の変化量を推定(演算)することができる。なお、車両用制動装置1にホイル圧を検出する圧力センサが設けられている場合、ブレーキECU91、92は、当該圧力センサの検出値によりホイル圧情報を取得できる。また、ブレーキECU91、92は、車両の減速度等からホイル圧を推定してもよい。
【0050】
(バイワイヤモード)
第1ブレーキECU91は、弁制御部911と、加圧制御部912と、を備えている。弁制御部911は、各電磁弁28、41~44を制御し、制御モードをバイワイヤモードと非バイワイヤモードとで切り替える。バイワイヤモードは、マスタカット弁41、42が閉じ、シミュレータカット弁28、第1カット弁43、及び第2カット弁44が開いた状態である。
【0051】
弁制御部911は、例えば、第1ブレーキECU91が起動したらシミュレータカット弁28を開け、ブレーキ操作が開始された場合に、マスタカット弁41、42を閉じ、第1カット弁43及び第2カット弁44(以下「カット弁43、44」ともいう)を開ける。つまり、ブレーキ操作が開始されると、マスタシリンダ装置2とホイルシリンダ81~84とが液圧的に遮断され、電動シリンダ5及び下流ユニット3の少なくとも一方によりホイルシリンダ81~84を調圧するバイワイヤモードが形成される。このように、弁制御部911は、ブレーキ操作が開始された場合に、マスタカット弁41、42を閉弁させる。
【0052】
加圧制御部912は、バイワイヤモードにおいて、ブレーキ操作に基づき演算された目標圧に応じて、電気モータ52を駆動し、ピストン53を移動させる。このように、加圧制御部912は、弁制御部911によってバイワイヤモードが形成(マスタカット弁41、42の閉弁等)された後、電動シリンダ5の出力圧をブレーキ操作に応じた目標圧に調整する。このように、第1ブレーキECU91は、ブレーキ操作が開始された場合に、マスタカット弁41、42を閉弁方向に作動させ、電動シリンダ5の出力圧をブレーキ操作に応じた目標圧に調整する。
【0053】
非バイワイヤモードは、マスタカット弁41、42が開き、シミュレータカット弁28が閉じた状態である。マスタカット弁41、42が開くと、マスタシリンダ装置2とホイルシリンダ81~84とが連通する。例えば電源失陥等により各電磁弁41~44、28及び電動シリンダ5が作動しない場合、ブレーキ操作が開始されても非バイワイヤモードが維持され、ブレーキ操作に応じてマスタシリンダ装置2からフルードがホイルシリンダ81~84に供給される。
【0054】
非バイワイヤモードにおいてマスタピストン22、23が初期位置に位置する場合、マスタシリンダ21を介してリザーバ26とホイルシリンダ81~84及び電動シリンダ5とが連通する。各電磁弁41~44が開いた状態で、電動シリンダ5の出力室54は、第3液路63、第1液路61、及び第1マスタ室21aを介してリザーバ26に連通するとともに、第4液路64、第2液路62、及び第2マスタ室21bを介してリザーバ26に連通する。
【0055】
(特定目標差圧の設定)
第2ブレーキECU92は、ABS制御部921と、設定部922と、を備えている。ABS制御部921は、加圧制御部912が調整した電動シリンダ5の出力圧によって車輪ロックが発生しないように、保持弁313と減圧弁314とポンプ315を制御するABS制御(アンチスキッド制御)を実行する。ABS制御には、増圧制御と、圧力保持制御と、減圧制御と、ポンプアップ制御とが含まれている。増圧制御は、ホイル圧を増圧するために保持弁313を開け減圧弁314を閉じる制御である。圧力保持制御は、ホイル圧を保持するために保持弁313を閉じ減圧弁314を閉じる制御である。減圧制御は、ホイル圧を減圧するために、保持弁313を閉じ減圧弁314を開ける制御である。ポンプアップ制御は、ポンプ315を駆動させる制御である。ポンプアップ制御は、減圧制御中に実行されてもよいし、減圧制御が完了した後に実行されてもよい。減圧制御の実行に伴いホイルシリンダ内のフルードが低圧リザーバ317内に流入する。低圧リザーバ317内がフルードで満たされることを防止するために、ポンプ315が低圧リザーバ317内のフルードを汲み上げて吐出する。ポンプアップ制御により、減圧制御で低圧リザーバ317内に流入したフルードが汲み上げられて分岐部Xに吐出される。
【0056】
設定部922は、ABS制御における圧力保持制御時および減圧制御時に、保持弁313の目標差圧として特定目標差圧を設定する。特定目標差圧ΔPsは、ホイル圧Pwと目標差圧ΔPiとの加算値Ppが、電動シリンダ5の目標圧Ptよりも大きく、且つ電動シリンダ5及び液路61(62)の耐圧許容値Pe未満となる目標差圧ΔPiの値である(Pt<Pp<Pe)。ホイル圧と目標差圧との加算値は、保持弁313で保持可能な上流側の液圧である。当該加算値は、保持弁313が開弁する上流側の液圧ともいえる。
【0057】
保持弁313の目標差圧とは、保持弁313の電動シリンダ5側の液圧と保持弁313のホイルシリンダ81側の液圧との差圧(以下「保持弁差圧」という)の目標値である。保持弁313に印加される電流値は、目標差圧に応じて決まる。つまり、設定部922は、ABS制御において、保持弁313に印加する電流値を設定するともいえる。本実施形態の保持弁313はノーマルオープン型のリニアソレノイドバルブであるため、目標差圧が大きいほど印加する電流値は大きくなる。
【0058】
耐圧許容値は、電動シリンダ5及び液路61、62が破損しない液圧の最大値である。耐圧許容値は、予測又は演算等により予め設定されている。電動シリンダ5の出力室54の液圧及び液路61の液圧が耐圧許容値を超えると、電動シリンダ5又は液路61が破損する可能性がある。
【0059】
このように、第2ブレーキECU92は、保持弁313のマスタカット弁41、42側の液圧と保持弁313のホイルシリンダ81~84側の液圧との差圧の目標値である目標差圧を設定し、目標差圧に応じた電流を保持弁313に供給する。第2ブレーキECU92の作動において、保持弁313の目標差圧を設定することと、保持弁313に印加する電流値を設定することは実質的に同じ意味である。
【0060】
この構成によれば、マスタカット弁41、42閉弁前に余剰フルードがホイルシリンダ81~84に入り込んだとしても、特定目標差圧が設定されることで、ABS制御において、保持弁313の上流側の液圧Pは、電動シリンダ5及び液路61の耐圧許容値Peより小さい液圧までしか増大しない(Pt<P<Pe)。ホイル圧が0であるときも、保持弁313の上流側の液圧は、耐圧許容値を超えない。このように、本実施形態において、ABS制御中は、保持弁差圧が特定目標差圧となるように、保持弁313への印加電流が制限される。なお、図4には、印加電流と閉弁維持可能な保持弁差圧との関係を示す。
【0061】
また、ABS制御中、ポンプ315が駆動しているため、ホイルシリンダ81~84から低圧リザーバ317に排出されたフルードが保持弁313の上流側に送出される。ABS制御中に、保持弁313が開弁してフルードがホイルシリンダ81~84側に流入しても、減圧弁を開弁することにより、ホイルシリンダ81~84を減圧することができる。
【0062】
ABS制御の流れについて図5を参照して説明する。ABS制御における減圧制御が開始されると(S101)、設定部922は、保持弁313を閉弁させるために、保持弁313の目標差圧として特定目標差圧を設定する(S102)。換言すると、設定部922は、保持弁313への印加電流を電流Idに設定し、保持弁313に電流Idを印加する。
【0063】
ABS制御部921は、減圧制御中、ポンプ315を駆動させる(S103)。ポンプ315が駆動すると、低圧リザーバ317内のフルードはポンプ315に吸入され、分岐部Xに吐出される。これにより、分岐部Xに連通する液路及び出力室54の液圧(保持弁313の上流圧)が増大する。保持弁313の上流圧が増大し、保持弁差圧が特定目標差圧を超えると、保持弁313が開く。保持弁313を介してホイルシリンダ81側に流入したフルードは、ホイル圧を上昇させるが、減圧弁314を開弁すれば減圧可能である。
【0064】
ABS制御中にポンプアップ制御が実行されると、ポンプ315が駆動する。保持弁差圧による保持弁313の開閉動作は、例えば、圧力保持制御時のポンプアップ制御中または減圧制御時のポンプアップ制御中に生じる。圧力保持制御中で且つポンプアップ制御中に保持弁差圧により保持弁313が開いた場合、フルードがホイルシリンダ81に流入するが、それによりホイル(車輪)がロックしそうになった場合は、減圧弁314を開けることで、ホイル圧を減圧することができ、ホイルロックを防止することができる。また、減圧制御中で且つポンプアップ制御中に、保持弁差圧による保持弁313の開閉動作が生じた場合、減圧弁314は開いているため、ホイル圧の減圧は継続される。
【0065】
(本実施形態の効果)
本実施形態の効果について各ホイルシリンダ81~84において同様であるため、ホイルシリンダ81を例に説明する。本実施形態によれば、ABS制御の減圧制御時及び圧力保持制御時において、保持弁313に対して特定目標差圧が設定されることで、特定目標差圧に応じた電流(電流値≧0)が保持弁313に印加される。そして、当該電流が印加されて閉じている保持弁313は、自身の電動シリンダ5側の液圧(上流側の液圧)がホイルシリンダ81側の液圧(下流側の液圧)よりも大きく且つその差圧(保持弁差圧)が特定目標差圧より大きくなると開く。保持弁313が開くと、フルードは、保持弁313の電動シリンダ5側からホイルシリンダ81側に流れ、保持弁差圧が小さくなる。これにより保持弁313は再度閉じる。このように、特定目標差圧に応じた電流が印加された保持弁313は、自身の電動シリンダ5側の液圧が、ホイル圧と特定目標差圧との加算値より大きくなると開き、当該加算値以下となると閉じる。
【0066】
特定目標差圧は、加算値が耐圧許容値未満となるように設定されているため、保持弁313の電動シリンダ5側の液圧が耐圧許容値に達する前に保持弁313が開き、電動シリンダ5側のフルードがホイルシリンダ81側に逃がされる。これにより、電動シリンダ5及び液路61に過大な液圧がかかることが抑制される。また、保持弁313が開きフルードがホイルシリンダ81側に流入したとしても、減圧弁314を開弁することでホイル圧を減圧することができる。また、保持弁313がリニアソレノイドバルブであることで、差圧により保持弁313が開弁する際に保持弁313が全開することはなく、フルードのホイルシリンダ81への流入を最小限に抑えることができる。
【0067】
このように、本実施形態によれば、マスタカット弁41、42が閉じる前にマスタシリンダ装置2からフルードがホイルシリンダ81~84に供給された場合でも、ホイル圧を減圧するにあたり、電動シリンダ5及び液路61、62に過大な液圧がかかることを抑制することができる。
【0068】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、下流ユニット3は、ESCアクチュエータに限らず、加圧機能(例えば差圧制御弁312等)がないABSアクチュエータであってもよい。また、電動シリンダ5において、電気モータ52の駆動によりピストン53を後退させることができるため、付勢部材55は無くてもよい。この場合、電気モータ52に対する通電構成を冗長構成にすることが好ましい。また、例えば、下流ユニット3は、ポンプ315に替えて電動シリンダを備えてもよい。また、本発明は、例えば、回生制動装置を含む車両(ハイブリッド車や電気自動車)、自動ブレーキ制御を実行する車両、又は自動運転車両にも適用できる。
【0069】
また、4つの保持弁313のうち1~3つがリニアソレノイドバルブであり、残りの保持弁313が例えばオンオフ弁であってもよい。この場合、前輪のホイルシリンダ(以下、説明においてホイルシリンダ81、82とする)に対応する保持弁313は、リニアソレノイドバルブであることが好ましい。つまり、前輪のホイルシリンダ81、82に対応する保持弁313は、第1液路61において電動シリンダ5によってフルードが供給される位置と前輪のホイルシリンダ81、82との間に設けられたリニアソレノイドバルブであることが好ましい。
【0070】
この構成によれば、前輪に対応する保持弁313(リニアソレノイドバルブ)は、特定目標差圧の設定により、電動シリンダ5及び液路の液圧が耐圧許容値となる前に開弁する。一方、後輪に対応する保持弁313(オンオフ弁)は、通常通り、閉弁維持電流が印加されて全閉状態が維持される。したがって、後輪のホイルシリンダ83、84では、ABS制御における圧力保持制御時または減圧制御時において、保持弁313の開弁によるホイル圧の上昇は生じない。この構成によれば、後輪のロックがより確実に回避される上、前輪側の保持弁313により電動シリンダ5及び液路61、62の高圧化が抑制される。前輪側の保持弁313が開弁することによる前輪のホイル圧の上昇は、操舵性に影響はあるものの車両安定性(スピンの抑制)の面では影響はない。
【0071】
このように、車両用制動装置は、前輪に対応する保持弁313がリニアソレノイドバルブで、後輪に対応する保持弁313がオンオフ弁であってもよい。この構成によれば、本実施形態と同様の効果を発揮しつつ、車両安定性を保ち、比較的安価なオンオフ弁の採用によるコスト低減が可能となる。
【符号の説明】
【0072】
1…車両用制動装置、2…マスタシリンダ装置、21…マスタシリンダ、22、23…マスタピストン、313…保持弁、315…ポンプ、317…低圧リザーバ、41、42…マスタカット弁、5…電動シリンダ、51…シリンダ、52…電気モータ、53…ピストン、61、62…液路、911…弁制御部、912…加圧制御部、921…ABS制御部、922…設定部。
図1
図2
図3
図4
図5