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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057496
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】ポリ乳酸複合樹脂
(51)【国際特許分類】
C08L 1/08 20060101AFI20220404BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20220404BHJP
C08B 3/20 20060101ALI20220404BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
C08L1/08 ZBP
C08L67/04
C08B3/20
C08L101/16
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165782
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門多 丈治
(72)【発明者】
【氏名】上利 泰幸
(72)【発明者】
【氏名】平野 寛
(72)【発明者】
【氏名】岡田 哲周
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴章
【テーマコード(参考)】
4C090
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090BA36
4C090BB02
4C090BB03
4C090BB52
4C090BB69
4C090BB97
4C090BC08
4C090BD17
4C090BD23
4C090CA05
4C090CA19
4C090CA38
4C090DA40
4J002AB01W
4J002CF18X
4J002FA04W
4J002GA00
4J002GC00
4J002GL00
4J002GN00
4J200AA04
4J200BA14
4J200BA38
4J200CA01
4J200CA06
4J200DA01
4J200DA12
4J200DA28
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れるポリ乳酸複合樹脂を提供する。
【解決手段】平均繊維径が4~1000nmで、かつグラフト鎖を有するグラフト化セルロースナノファイバーを含み、前記グラフト鎖がポリ乳酸であることを特徴とするポリ乳酸複合樹脂とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が4~1000nmで、かつグラフト鎖を有するグラフト化セルロースナノファイバーを含み、前記グラフト鎖がポリ乳酸である、
ことを特徴とするポリ乳酸複合樹脂。
【請求項2】
前記グラフト化セルロースナノファイバーと共にグラフト化されていないポリ乳酸を含み、
前記グラフト化されていないポリ乳酸に対する前記グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合が、1~9900質量%である、
請求項1に記載のポリ乳酸複合樹脂。
【請求項3】
前記グラフト化セルロースナノファイバーのグラフト化率が、1~7%である、
請求項1又は請求項2に記載のポリ乳酸複合樹脂。
【請求項4】
前記グラフト化セルロースナノファイバーの原料の結晶化度が、50~95%である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリ乳酸複合樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー及びポリ乳酸を原料とするポリ乳酸複合樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点から、土中や水中に存在する微生物等の働きにより自然環境下で分解される生分解性樹脂が注目されている。中でもポリ乳酸は、比較的低コストで、しかも溶融成形可能なため、用途展開が期待されている。しかしながら、ポリ乳酸は、汎用樹脂と比較すると剛直で脆く、可撓性に乏しい。したがって、外力を受けた際に破壊に至らぬよう、強度物性を十分に向上させる必要がある。
【0003】
そこで、現在では、例えば、ポリ乳酸と古紙細砕物とを複合化する提案がある(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、同提案は、熱による伸縮についての配慮がなされていない。ポリ乳酸を使用した複合樹脂も汎用品とするのであれば、熱による伸縮が小さい方が好ましい。
【0004】
また、例えば、ミクロフィブリル化セルロースの表面にポリ乳酸が被覆されたポリ乳酸-ミクロフィブリル化セルロース複合材料の提案もある(例えば、特許文献2参照。)。同文献は、同提案によると複合材料の衝撃強度が向上するとしている。しかしながら、同提案も、熱による伸縮についての配慮がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-218545号公報
【特許文献2】特開2007-238812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、耐熱性に優れるポリ乳酸複合樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(請求項1に記載の手段)
平均繊維径が4~1000nmで、かつグラフト鎖を有するグラフト化セルロースナノファイバーを含み、前記グラフト鎖がポリ乳酸である、
ことを特徴とするポリ乳酸複合樹脂。
【0008】
(請求項2に記載の手段)
前記グラフト化セルロースナノファイバーと共にグラフト化されていないポリ乳酸を含み、
前記グラフト化されていないポリ乳酸に対する前記グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合が、1~9900質量%である、
請求項1に記載のポリ乳酸複合樹脂。
【0009】
(請求項3に記載の手段)
前記グラフト化セルロースナノファイバーのグラフト化率が、1~7%である、
請求項1又は請求項2に記載のポリ乳酸複合樹脂。
【0010】
(請求項4に記載の手段)
前記グラフト化セルロースナノファイバーの原料の結晶化度が、50~95%である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリ乳酸複合樹脂。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、耐熱性に優れるポリ乳酸複合樹脂になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は、本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0013】
本形態のポリ乳酸複合樹脂は、平均繊維径が4~1000nmで、かつグラフト鎖を有するグラフト化セルロースナノファイバー(CNF)を含み、グラフト鎖がポリ乳酸であることを特徴とする。以下、順に説明する。なお、以下では、ポリ乳酸によってグラフト化されたセルロースナノファイバーを、単に「ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバー」、あるいは「グラフト化セルロースナノファイバー」ということもある。
【0014】
(グラフト化セルロースナノファイバー)
本形態のグラフト化セルロースナノファイバーは、パルプ原料(セルロース繊維)を解繊(微細化)及びグラフト化することで得ることができる。なお、解繊及びグラフト化の詳細については、後述する。
【0015】
グラフト化の対象となるセルロース繊維は、ポリ乳酸によるグラフト化以外の変性がなされていないセルロース繊維(本形態においては、このセルロース繊維を単に「未変性繊維」ともいう。)であっても、グラフト化以外の変性がなされているセルロース繊維(変性繊維)であってもよい。ただし、本形態においては、セルロース繊維が未変性繊維である方が好ましい。この点、ポリ乳酸のグラフト化反応においては、水酸基が起点となり、終点も水酸基となる。そして、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーを得るにあたっては、セルロース繊維を開始剤として用い、セルロース繊維の水酸基が反応起点となる。したがって、セルロース繊維の水酸基の一部がカルボキシ基やリン酸エステル基等で変性されていると、ポリ乳酸のグラフト化反応の効率が落ちることになる。
【0016】
本形態において未変性であるとは、セルロース繊維がTEMPO酸化、リン酸、亜リン酸等のリンのオキソ酸による変性、カルバメート変性等の化学変性がなされていない場合を想定している。つまり、変性の対象からグラフト化は除く。したがって、本形態において未変性とは、セルロース繊維表面の水酸基がグラフト化以外の変性をなされていないことを意味するものと定義する。
【0017】
また、何らかの理由によりセルロース繊維が変性されている場合においても、セルロース繊維の水酸基変性量は、0.5mmol/g以下であるのが好ましく、0.3mmol/g以下であるのがより好ましく、0.1mmol/g以下であるのが特に好ましい。水酸基変性量が0.5mmol/g以下であれば、変性されている他の官能基の影響を受けることなく所望のグラフト化率とすることができるためである。
【0018】
グラフト化セルロースナノファイバーの原料となるセルロース繊維としては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)等の広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等の針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の機械パルプ等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、晒化学パルプ(LBKP、NBKP等)を使用するのが好ましい。晒化学パルプは、ポリ乳酸のグラフト化の反応開始点となる水酸基を多く有するためである。
【0019】
セルロース繊維は、解繊する前に、例えば、水系で化学的又は機械的な前処理を行うことができる。前処理を行うと、解繊のエネルギーが低減される。
【0020】
セルロース繊維の前処理は、セルロース繊維の官能基を改質しない方法で、かつ水系で行うのが好ましい。この点、前処理の方法としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(TEMPO)等のN-オキシル化合物を触媒に用いてセルロースの1級水酸基を酸化する方法や、リン酸系薬品を用いて水酸基をリン酸エステル基で修飾する方法等が存在する。しかしながら、これらの前処理によると、解繊において繊維径がシングルナノオーダー(数nm)になるまで一気に進んでしまい、所望の繊維幅に解繊するのが困難になるおそれがある。また、反応起点となる水酸基が減少し、ポリ乳酸のグラフト化反応が進行し難くなるおそれもある。したがって、前処理を行う場合は、例えば、鉱酸(塩酸、硫酸、リン酸等)や酵素等を用いた加水分解等のセルロースの水酸基を変性しない化学処理や機械解繊(好ましくは、叩解。)によるのが好ましい。なお、水系で前処理を行うと、溶媒回収や除去のコストを低減することができるとの利点がある。
【0021】
セルロースナノファイバーの平均繊維幅(単繊維の平均直径)は、好ましくは1000~3nm、より好ましくは500~4nm、特に好ましくは100~5nmである。セルロースナノファイバーの平均繊維幅が1000~3nmであると、重量当りの溶融樹脂中での繊維本数が増加し、樹脂の溶融粘度増加に寄与すると考えられる。これに対し、平均繊維幅が3nm未満であると、繊維が水や母材となる樹脂等に溶解し、繊維形状を保てなくなることから、樹脂の熱膨張を抑える効果を発揮できなくなるおそれがある。他方、平均繊維幅が1000nmを超えると、もはやセルロースナノファイバーとは言えずマイクロ繊維セルロース(MFC)や通常のセルロース繊維と変わらなくなり、例えば、グラフト化繊維と樹脂との相溶性の低下や複合樹脂としての均質性の低下から、樹脂の熱膨張を抑える効果が限定的となるおそれがある。
【0022】
なお、本形態においてセルロースナノファイバーとは、平均繊維幅が1000~3nmの微細繊維を言う。ちなみに、セルロースナノファイバーは、セルロース結晶(セルロースI型)の構造を残しつつ微細化された繊維である。したがって、例えば、セルロース粉末とε-カプロラクトン/ラクチド溶液とを混合し、重合反応させて得たセルロース系組成物は、セルロースI型結晶のピークが微小に存在するのみであり、セルロースナノファイバーとは異なる。また、セルロースナノファイバーと似て非なるものとしてナノ結晶性セルロース粒子が存在するが、ナノ結晶性セルロース粒子は繊維ではなく針状結晶であり、セルロースナノクリスタル(CNC)とも呼ばれる。このセルロースナノクリスタルは、パルプ等を微細化する過程で、セルロース結晶のみを残すように酸加水分解処理等して製造する。これに対し、セルロースナノファイバーは、結晶でない部分も残しつつ微細化するため、繊維形状を保っており、樹脂との複合化による強度物性の向上に適する。
【0023】
セルロースナノファイバーの平均繊維幅は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0024】
セルロースナノファイバーの平均繊維幅は、電子顕微鏡を使用して次のように測定する。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%のセルロースナノファイバーの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて5000倍、10,000倍又は30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。この観察においては、観察画像に2本の対角線を引き、更に対角線の交点を通過する直線を任意に3本引く。そして、この3本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。この計測値の中位径を繊維幅とする。
【0025】
セルロースナノファイバーの平均繊維長(単繊維の長さ)は、好ましくは0.1~1000μm、より好ましくは0.2~500μm、特に好ましくは0.3~100μmである。平均繊維長が0.1μm未満であると、繊維が短すぎることから、樹脂中で、樹脂の熱膨張を抑える効果が発揮できないおそれがある。他方、平均繊維長が1000μmを超えると、繊維が凝集するおそれがある。
【0026】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0027】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は、平均繊維径の場合と同様にして、各繊維の長さを目視で計測する。計測値の中位長を平均繊維長とする。
【0028】
セルロースナノファイバーの軸比(繊維長/繊維幅)は、好ましくは2~10000、より好ましくは5~1000、特に好ましくは10~100である。軸比が2未満であると、もはや繊維状とは言えなくなる。他方、軸比が10000を超えると、組成物(スラリー)の粘度が高くなり過ぎるおそれがある。
【0029】
セルロースナノファイバーの擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、1つのピークであるのが好ましい。1つのピークである場合、セルロースナノファイバーは、繊維長及び繊維径の均一性が高く、ポリ乳酸複合樹脂の耐熱性が向上する。また、繊維径や繊維長の均一性が高いと、ポリ乳酸と混合した際の分散性に優れる。
【0030】
擬似粒度分布曲線におけるピークとなる粒径(最頻径)は、5~60μmが好ましい。ピークが当該範囲内であれば、セルロースナノファイバーの繊維サイズが十分に小さいため、樹脂と複合化した際に熱膨張抑制効果を十分に発揮することができるようになる。
【0031】
セルロースナノファイバーのピークの半値幅は、100μm以下であるのが好ましく、70μm以下であるのがより好ましく、50μm以下であるのが特に好ましい。ピークの半値幅が100μmを超えていると繊維の均一性に欠ける。
【0032】
セルロースナノファイバーのピーク値は、ISO-13320(2009)に準拠して測定する。より詳細には、粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を使用してセルロースナノファイバーの水分散液における体積基準粒度分布を調べる。そして、この分布からセルロースナノファイバーの最頻径を測定する。この最頻径をピーク値とする。
【0033】
セルロースナノファイバーの結晶化度は、好ましくは50~95%、より好ましくは55~90%、特に好ましくは60~85%である。結晶化度が50%未満であると、繊維自体の強度が低下するため、溶融粘度の向上効果が低下するおそれがある。また、得られるポリ乳酸複合樹脂の耐熱性が不十分なものになるおそれがある。他方、結晶化度が95%を超えると、分子内の強固な水素結合割合が多くなり繊維自体は剛直となるが、セルロースナノファイバーの化学修飾がし難くなると考えられる。
【0034】
結晶化度は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0035】
結晶化度は、JIS-K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、セルロースナノファイバーは、非晶質部分と結晶質部分とを有しており、結晶化度はセルロースナノファイバー全体における結晶質部分の割合を意味する。
【0036】
溶液中のセルロースナノファイバーの固形分濃度を1質量%とした場合における分散液のB型粘度の下限は、1cpsが好ましく、3cpsがより好ましく、5cpsが特に好ましい。分散液のB型粘度が1cps未満であると、ポリ乳酸のグラフト化反応中に繊維状態が保たれなくなるおそれや、溶融粘度の向上効果が低下するおそれがある。他方、分散液のB型粘度の上限は、7000cpsが好ましく、6000cpsがより好ましく、5000cpsが特に好ましい。分散液のB型粘度が7000cpsを超えると、水分散体の移送の際のポンプアップに膨大なエネルギーが必要となり、製造コストが増加するおそれがある。
【0037】
分散液のB型粘度(固形分濃度1%)は、JIS-Z8803(2011)の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した値である。B型粘度は分散液を攪拌したときの抵抗トルクであり、高いほど攪拌に必要なエネルギーが多くなることを意味する。
【0038】
セルロースナノファイバーのパルプ粘度の下限は、0.1cpsが好ましく、0.5cpsがより好ましい。パルプ粘度が0.1cps未満であると、セルロースナノファイバーの重合度が低いことに起因して、ポリ乳酸のグラフト化反応中に繊維状態が保たれなくなるおそれや、溶融粘度の向上効果が低下するおそれがある。
【0039】
セルロースナノファイバーのパルプ粘度の上限は、50cpsが好ましく、40cpsがより好ましい。パルプ粘度が50cpsを超えると、セルロースナノファイバー自体の重合度が高くなり、繊維として長くなり過ぎることから、ポリ乳酸のグラフト化反応に際してセルロースナノファイバーの凝集を十分に抑制できず、ポリ乳酸のグラフト化反応の進行が不均一になると考えられる。
【0040】
パルプ粘度は、JIS-P8215(1998)に準拠して測定する。なお、パルプ粘度が高いほどセルロースの重合度が高いことを意味する。
【0041】
セルロースナノファイバーの保水度は、好ましくは600~200%、より好ましくは550~250%、特に好ましくは500~300%である。保水度が200%未満であると、十分にナノ化されておらず、ナノ繊維としての特性を充分に発揮できなくなるおそれがある。他方、保水度が600%を超えると、溶媒置換や乾燥の効率が低下するため、製造コストの増加につながるおそれがある。
【0042】
セルロースナノファイバーの保水度は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0043】
セルロースナノファイバーの保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
【0044】
セルロースナノファイバーのグラフト化率は、1~7%であるのが好ましく、1.2~6%であるのがより好ましく、1.5~5%であるのが特に好ましい。グラフト化率が1%を下回ると、母材となる樹脂との相溶性が不足し、繊維による補強効果を発揮できなくなるおそれがある。他方、グラフト化率が7%を上回ると、高いグラフト化率とするため、グラフト化処理が高コストとなるおそれがある。
【0045】
ただし、グラフト化をバルク重合で行う場合は、グラフト化率が40%以下であるのが好ましい。また、グラフト化を溶液重合で行う場合は、グラフト化率が1~7%であるのが好ましい。なお、グラフト化率が高いから効果的とは限らない。例えば、溶液重合であれば、グラフト化したポリ乳酸の長さが短く、より揃っているため補強効果が大きくなることを期待することができる。
【0046】
ここで、グラフト化率について詳細に説明する。
本形態においてグラフト化率とは、吸光度比(C=O吸光度/O-H吸光度)を基に算出した値(%)である。より詳細には、セルロースナノファイバーと別途調整したポリ乳酸を100/0、80/20、70/30、50/50、40/60、20/80、0/100の質量比で混合した試料のIR測定を行い、セルロースナノファイバー由来のO-H吸光度とポリ乳酸由来のC=O吸光度との比率から、ポリ乳酸/セルロースナノファイバーの質量比と吸光度比との検量線を作成し、この検量線から、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバー中のセルロースナノファイバー成分に対するグラフトしたポリ乳酸成分の質量比、すなわちグラフト化率を算出する。
【0047】
そこで、まず、吸光度比について説明すると、O-H吸光度とは、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーの赤外線吸収スペクトルにおけるセルロースが有する水酸基のO-Hに由来する吸光度を意味する。また、C=O吸光度とは、ポリ乳酸が有するカルボニル基のC=Oに由来する吸光度を意味する。ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーは、ほとんどの溶媒に溶解せず、加熱しても溶融しないため、GPC法による分子量測定やNMR測定による構造解析が行えない。このため、赤外線吸収(以下、IRともいう。)スペクトルの測定によるのが好ましい。
【0048】
吸光度比を測定するにあたっては、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーをジクロロメタン及びテトラヒドロフラン等のポリ乳酸を溶解する溶剤により精製し、グラフト化していないポリ乳酸を完全に除去した上でIRスペクトルを測定する。ちなみに、吸光度比が小さ過ぎると、ポリ乳酸としての特性が発現し難くなる。他方、吸光度比が大き過ぎると、セルロースの特性が見られ難くなる。
【0049】
次に、検量線を作成するにあたっては、前述のセルロースナノファイバーと別途調整したポリ乳酸を100/0、80/20、70/30、50/50、40/60、20/80、0/100の質量比で混合した試料のIR測定を行い、X軸を100/(ポリ乳酸の質量%)、Y軸をCNFのO-H吸光度/ポリ乳酸のC=O吸光度の比率として各測定結果をプロットして近似直線Y=0.1469X-0.1339を得る。
【0050】
検量線を作成したら、この検量線に対象となるグラフト化セルロースナノファイバーの吸光度比を検量線のYに代入し、Xを計算することでグラフト化率を算出する。
【0051】
本形態においては、セルロースナノファイバーの水酸基のうち、イオン化しているものの割合が50%未満であるのが好ましく、40~0%であるのがより好ましく、30~0%であるのが特に好ましい。イオン化しているものの割合が50%以上であると、複合樹脂の母材であるグラフト化されていないポリ乳酸と反応して、ポリ乳酸が低分子化し、耐熱性が低下すると考えられる。
【0052】
イオン化している水酸基の割合は、JIS K 1310:2000等に規定される中和滴定法により求めることができる。
【0053】
グラフト化されていないポリ乳酸と複合化する場合、グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合は、グラフト化されていないポリ乳酸に対する質量%で、9900%に至るまで、広範囲にわたってグラフト化していないセルロースナノファイバーに比較して補強効果を発揮できる。ただし、配合割合が1%未満であると、グラフト化セルロースナノファイバーを含ませることによる効果が発揮されないおそれがある。
【0054】
また、樹脂との複合化の方法を後述する混合形態にする場合は、配合割合を1~43%にするのが適する。同様に、複合化の方法を含浸形態にする場合は、配合割合を400~9900%にするのが適する。
【0055】
グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合は、複合物をジクロロメタンに投入し、グラフト化されていないポリ乳酸を溶解させた後に、溶解しない残渣をジクロロメタンでろ過洗浄して乾燥させて重量を測定し、下記の式で求めることができる。
グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合=残渣重量÷(複合物重量-残渣重量)×100
【0056】
(ポリ乳酸)
グラフト鎖となるポリ乳酸やグラフト化セルロースナノファイバーと混合するポリ乳酸(単に「グラフト化されていないポリ乳酸」ともいう。)としては、L-ラクチドの重合体、D-ラクチドの重合体、L-ラクチドとD-ラクチドとのランダムやブロックなどの共重合体等が挙げられる。ただし、市販のポリ乳酸を広く使用することができる。
【0057】
(製造方法:解繊)
セルロース繊維を解繊(微細化)することによって、セルロース繊維はフィブリル化し、セルロースナノファイバーとなる。
【0058】
セルロース繊維を解繊するにあたっては、当該セルロース繊維をスラリー状にしておくのが好ましい。このスラリーの固形分濃度は、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%、特に好ましくは1.0~5.0質量%である。固形分濃度が上記範囲内であれば、効率的に解繊することができる。
【0059】
セルロース繊維の解繊は、例えば、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、高速回転式ホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー等のリファイナー、一軸混練機、多軸混練機、各種バクテリア等の中から1種又は2種以上の手段を選択使用して行うことができる。
【0060】
セルロース繊維の解繊は、得られるセルロースナノファイバーの平均繊維幅、平均繊維長等が、前述した所望の値又は評価となるように行うのが好ましい。
【0061】
(製造方法:グラフト化)
次に、セルロース繊維のポリ乳酸によるグラフト化について説明する。
本形態においては、有機重合触媒の存在下で、セルロースナノファイバーを構成するセルロースにラクチドをグラフト重合してポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーを得る。
【0062】
より詳細には、本方法においては、アミン類と、このアミン類及び酸類を反応させて得られる塩とからなる有機重合触媒の存在下で、水酸基を有するセルロースにラクチド(ラクチド(lactide)は、2分子のヒドロキシ酸において、互いのヒドロキシ基とカルボキシル基が脱水縮合してできたエステル結合を分子内に2つもつ環状化合物である。)をグラフト重合させる。このグラフト重合においては、有機重合触媒の存在下で、セルロースの各水酸基に開環したラクチドがエステル結合によって重合し、グラフト鎖としてのポリ乳酸が得られる。本方法においては、有機重合触媒が、アミン類と、このアミン類及び酸類を反応させて得られる塩とからなることにより、セルロースに対するポリ乳酸のグラフト化反応がリビング重合的に進行するので、ポリ乳酸の分子量分布がシャープなポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0063】
有機重合触媒におけるアミン類としては、例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン等のアルキルアミン、アニリン等の芳香族アミン、ピロリジン、イミダゾール、ピリジン等の複素環式アミン、エーテルアミン、アミノ酸等のアミン誘導体等を例示することができる。これらの中では、ポリ乳酸のグラフト化反応をより高めることができる観点から、4-ジメチルアミノピリジンが好ましい。
【0064】
有機重合触媒における酸類としては、例えば、塩酸等の無機酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸、酢酸等のカルボン酸等を例示することができる。酸類は酸性度が高いと触媒活性が高くなることから、p-トルエンスルホン酸及びトリフルオロメタンスルホン酸が好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸がより好ましい。
【0065】
有機重合触媒におけるアミン類及び酸類を反応させて得られる塩としては、例えば、4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラート、4-ジメチルアミノピリジニウムトシラート、4-ジメチルアミノピリジニウムクロライド等を例示することができる。これらの中では、セルロースに対するポリ乳酸のグラフト化反応をより高めることができるという観点から、4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートが好ましい。
【0066】
本方法においては、有機重合触媒として4-ジメチルアミノピリジン及び4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートを用いることで、セルロースナノファイバーに対するポリ乳酸のグラフト化反応の向上効果をさらに高めることができる。
【0067】
有機重合触媒として4-ジメチルアミノピリジン及び4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートを用いる場合、その配合割合(質量基準)は、好ましくは1:5~5:1、より好ましくは1:2~2:1、特に好ましくは1:1である。4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートの配合割合が1:1からずれても触媒として働くが、活性触媒の存在量が減少するため、反応速度が低下するおそれがある。
【0068】
ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーは、例えば、下記のスキームに従い、合成することができる。
【0069】
【0070】
上記スキームにおいて、n及びmは、1以上の整数である。また、ラクチドとしては、L-ラクチド、D-ラクチド又はこれらの組み合わせを用いることができる。重合体の形式としては、L-ラクチド、D-ラクチドを単独で用いた場合に得られるL-ポリ乳酸、D-ポリ乳酸、L-ラクチド、D-ラクチドを組み合わせて用いた場合に得られるL-ラクチド、D-ラクチドの配列順序がランダムなランダム共重合体、L-ラクチド、D-ラクチドが任意の比率でブロック状に重合したブロック共重合体にも適用できる。
【0071】
本方法においては、グラフト化率を大きくする場合、グラフト重合工程を複数回繰り返すことも可能である。グラフト重合工程を複数回繰り返すことで、効率よくポリ乳酸のグラフト化反応を進めることができる。
【0072】
グラフト重合によりポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーを得た後においては、グラフト化されていないポリ乳酸も含まれている。グラフト化されていないポリ乳酸が含まれた状態で用いることも可能であるが、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーとグラフト化されていないポリ乳酸との配合割合をより厳密に規定するためには、グラフト化されていないポリ乳酸を完全に除去するための精製工程を備えることが好ましい。この精製工程に使用する溶媒としては、ポリ乳酸、未反応モノマー、触媒を溶解可能な溶媒であれば、例えば、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン等を使用することができる。
【0073】
(グラフト化されていないポリ乳酸との複合)
グラフト化セルロースナノファイバー及びグラフト化されていないポリ乳酸を複合する場合、その方法としては、例えば、ポリ乳酸の溶液にグラフト化セルロースナノファイバーを分散させてシート化等の成形をする方法(混合形態)、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーをシート化し、ポリ乳酸のフィルムとラミネート化する方法(ラミネート化形態)、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーをシート化し、このシートにポリ乳酸の溶液を含浸させる方法(含浸形態)等を例示することができる。この点、セルロースナノファイバーがポリ乳酸でグラフト化されていると、セルロースナノファイバーの表面がポリ乳酸とよく馴染むため、ポリ乳酸の溶液中にセルロースナノファイバーが良好に分散する。したがって、上記分散形態は、複合化の方法として有用である。なお、分子レベルでの親和性を考えると、マトリックスとなるポリ乳酸の化学構造と、グラフト化セルロースナノファイバー中のグラフトポリ乳酸の化学構造は同じであるため、分子鎖が揃い、微小な結晶を形成すると推測される。これは、上記複合化の形態によらず、マトリックスポリ乳酸とグラフト化セルロースナノファイバーとが接する箇所で生じると考えられる。
【0074】
(その他)
ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーとグラフト化されていないポリ乳酸との複合物は、生分解性を有する成型材料として利用することができる。したがって、射出成形、押出成形、ブロー成形等の方法によって各種成形品に加工することができる。加工品は、容器等の射出成形品だけでなく、圧縮成形品、押出成形品、ブロー成形品等として、シート、フィルム、発泡材、繊維等として利用することもできる。これらの成形品は、電子部品、建築部材、土木部材、農業資材、自動車部品、日用品等の用途に利用することができる。
【0075】
なお、ポリ乳酸は、汎用ポリマーと比較すると剛直で比較的もろく、可撓性が乏しいとされている。したがって、ポリ乳酸を原料とする成形品を製造する場合においては、柔軟材の添加等が必要になる。また、ポリ乳酸は、耐熱性が不十分であり、耐電子レンジ特性に欠ける。さらに、ポリ乳酸は、押出成形やブロー成形、発泡成形等をする上で必要な溶融特性が十分でないとの指摘もある。しかしながら、本形態においては、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーを使用するため、以上の問題が解決される。ただし、柔軟剤の配合等を否定するものではない。ちなみに、グラフト化していないセルロースナノファイバーをグラフト化されていないポリ乳酸の添加材として使用した場合においては、添加剤表面と樹脂面との間にせん断力が生じた場合にほとんど効果が得られなくなる。
【実施例0076】
以下、本発明の実施例を説明する。
(1)重合触媒である4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートの合成
2つ口フラスコ(容量100ml)中で乾燥窒素不雰囲気下、4-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業社製、白色粉末)1.22gをテトラヒドロフラン20mlに溶解した。そして、2つ口フラスコを0℃氷冷バス中で冷却しながら、トリフルオロメタンスルホン酸1.50gを滴下すると共に撹拌した。その後、室温に戻して1時間撹拌を続けた。反応混合物をガラスフィルターでろ取し、テトラヒドロフラン10mlで2回洗浄後、減圧乾燥して定量的に白色粉末である4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートを得た。
【0077】
(2)乾燥セルロースナノファイバーの調製
原料パルプ(LBKP:固形分2質量%)に対し、製紙用叩解機により前処理を施した後に、高圧ホモジナイザーを用いて、レーザー回折を用いた粒度分布測定の疑似粒度分布において1つのピークを有する段階まで微細化処理を行い(最頻径30μm)、固形分2質量%のセルロースナノファイバーの水分散体を作製した。セルロースナノファイバーの水分散体は遠心分離機にかけた後、上澄み液を除去し、ここに溶剤を添加し、均一化した後に再度遠心分離して濃縮した。この操作を数回繰り返した後に凍結乾燥して溶剤を除去することで白色粉末のセルロースナノファイバー(平均繊維径31nm)を調製した。
【0078】
(3)CNFへのポリ乳酸のグラフト化
2つ口フラスコ(容量50ml)中で乾燥窒素雰囲気下において、ジクロロメタンで溶媒置換したCNF90mg、白色粉末の4-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業社製)4.2mg(0.035mmol)、上記で合成した4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラート9.4mg(0.035mmol)、無色透明棒状結晶のL-ラクチド100mg(0.69mmol)、ジクロロメタン20mLを加えた。そして、2つロフラスコを40℃のオイルバス中で24時間加熱した。得られた懸濁液を室温まで冷却した後、11-3Gのガラスフィルタで吸引ろ過によってろ取し、テトラヒドロフラン20mLで洗浄後、吸引ろ過する過程を2回繰り返して、精製したグラフト化セルロースナノファイバーを得た(収量91.8mg、グラフト化率4.8%)。
【0079】
グラフト化率は、触媒量を5倍、10倍と増やすことで大きくできる。また、反応温度は室温より40℃の方が大きくなる傾向がある。モノマー量を減らすとグラフト化率は低下するが、ある量(本実施例では100mg)以上にしてもあまり変化しない。本実施例においては、反応温度、モノマー量、触媒量、反応時間によってグラフト化率4.8質量%に調整した。
【0080】
(4)その他の原料
グラフト化されていないポリ乳酸としては、ネーチャーワークス製Ingeo10361Dを使用した。
未変性CNFとしては、上記セルロースナノファイバーを使用した。
【0081】
(5)ポリ乳酸複合樹脂の作製
グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合を30質量%以下とする実施例においては、前述混合形態によって複合化した。具体的には、20mLサンプル瓶に、市販ポリ乳酸(Ingeo10361D)198mg、グラフト化セルロースナノファイバー2mg(全固形分中1wt%)を入れ、ジクロロメタン5mLを加え、室温で24時間撹拌し、溶解、分散させた。その分散液をシャーレに注ぎ(キャスト)、室温、常圧下で溶媒を蒸発させることで、キャストフィルムを得た。得られたキャストフィルムをテスター産業(株)製熱プレス機SA303で、180℃、10MPaで10秒間熱プレスして、フィルムを作成した(膜厚約100μm)。市販ポリ乳酸/グラフト化セルロースナノファイバーの質量比を、190mg/10mg(5wt%)、180mg/20mg(10wt%)、160mg/40mg(20wt%)、140mg/60mg(30wt%)にして同様の操作によって、それぞれ対応する配合比のフィルムを得た。市販ポリ乳酸200mgのみを熱プレスすることで、ブランク(0wt%)のフィルムも作成した。また、前述の方法で得られたグラフト化セルロースナノファイバーシート(直径約40mm、膜厚約100μm)を、参照試験片(100wt%)として用いた。
【0082】
一方、グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合を80質量%以上とする実施例においては、前述含浸形態によって複合化した。具体的には、前述の方法で得られたグラフト化セルロースナノファイバーシート(直径約40mm、膜厚約100μm)から5mm幅×長さ約15mmの短冊を切り出し、高濃度PLA溶液(市販ポリ乳酸90mg/1mLジクロロメタン)または、低濃度PLA溶液(市販ポリ乳酸90mg/5mLジクロロメタン)に60秒含浸させた後、乾燥させることで試験片を得ることができる(乾燥後の重量増加率から、それぞれCNF含有率99.1%、87.5%と算出できる)。
【0083】
得られた各複合樹脂について線熱膨張率を調べた。線熱膨張率は、JIS K 7197:2012に準拠して測定した。線膨張係数は、NETSCH(ネッチ)製熱機械分析装置TMA4000SE/Lを用い、20℃-65℃、昇温速度10℃/分、試験片チャック距離10mmの条件で測定した。線膨張係数の算出範囲は、20℃-40℃の範囲で計算した。
【0084】
グラフト化セルロースナノファイバーのグラフト化率、配合割合、及び線熱膨張率を表1に示した。ただし、表中には、各複合樹脂の線熱膨張率の評価を以下の基準で示した。
グラフト化されていないポリ乳酸樹脂自体(ブランク)の線膨張係数を1として複合樹脂の線熱膨張係数の絶対値が0.05倍未満の場合:◎
グラフト化されていないポリ乳酸樹脂自体(ブランク)の線熱膨張係数を1として複合樹脂の線熱膨張係数(倍率)の絶対値が0.85倍未満の場合:○
グラフト化されていないポリ乳酸樹脂自体(ブランク)の線熱膨張係数を1として複合樹脂の線熱膨張係数(倍率)の絶対値が0.85倍以上の場合:×
【0085】
【0086】
未処理CNFの添加量とグラフト化CNFの添加量とが等しい場合(例えば、試験例2と試験例10、試験例3と試験例11等。)をそれぞれ比較すると、添加量がいずれの場合においても、グラフト化CNFを添加した場合の方が未処理CNFを添加した場合よりも線膨張係数が0に近い数値となった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、セルロースナノファイバー及びポリ乳酸を原料とするポリ乳酸複合樹脂として利用可能である。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー及びポリ乳酸を原料とするポリ乳酸複合樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点から、土中や水中に存在する微生物等の働きにより自然環境下で分解される生分解性樹脂が注目されている。中でもポリ乳酸は、比較的低コストで、しかも溶融成形可能なため、用途展開が期待されている。しかしながら、ポリ乳酸は、汎用樹脂と比較すると剛直で脆く、可撓性に乏しい。したがって、外力を受けた際に破壊に至らぬよう、強度物性を十分に向上させる必要がある。
【0003】
そこで、現在では、例えば、ポリ乳酸と古紙細砕物とを複合化する提案がある(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、同提案は、熱による伸縮についての配慮がなされていない。ポリ乳酸を使用した複合樹脂も汎用品とするのであれば、熱による伸縮が小さい方が好ましい。
【0004】
また、例えば、ミクロフィブリル化セルロースの表面にポリ乳酸が被覆されたポリ乳酸-ミクロフィブリル化セルロース複合材料の提案もある(例えば、特許文献2参照。)。同文献は、同提案によると複合材料の衝撃強度が向上するとしている。しかしながら、同提案も、熱による伸縮についての配慮がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-218545号公報
【特許文献2】特開2007-238812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、耐熱性に優れるポリ乳酸複合樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(請求項1に記載の手段)
平均繊維径が4~1000nm、平均繊維長が0.1~1000μmで、かつグラフト鎖を有するグラフト化セルロースナノファイバーを含み、前記グラフト鎖がポリ乳酸である、
ことを特徴とするポリ乳酸複合樹脂。
【0008】
(請求項2に記載の手段)
前記グラフト化セルロースナノファイバーと共にグラフト化されていないポリ乳酸を含み、
前記グラフト化されていないポリ乳酸に対する前記グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合が、1~9900質量%である、
請求項1に記載のポリ乳酸複合樹脂。
【0009】
(請求項3に記載の手段)
前記グラフト化セルロースナノファイバーのグラフト化率が、1~7%である、
請求項1又は請求項2に記載のポリ乳酸複合樹脂。
【0010】
(請求項4に記載の手段)
前記グラフト化セルロースナノファイバーの原料の結晶化度が、50~95%である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリ乳酸複合樹脂。
(請求項5に記載の手段)
前記グラフト化セルロースナノファイバーの水酸基のうち、イオン化しているものの割合が50%未満である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリ乳酸複合樹脂。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、耐熱性に優れるポリ乳酸複合樹脂になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は、本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0013】
本形態のポリ乳酸複合樹脂は、平均繊維径が4~1000nmで、かつグラフト鎖を有するグラフト化セルロースナノファイバー(CNF)を含み、グラフト鎖がポリ乳酸であることを特徴とする。以下、順に説明する。なお、以下では、ポリ乳酸によってグラフト化されたセルロースナノファイバーを、単に「ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバー」、あるいは「グラフト化セルロースナノファイバー」ということもある。
【0014】
(グラフト化セルロースナノファイバー)
本形態のグラフト化セルロースナノファイバーは、パルプ原料(セルロース繊維)を解繊(微細化)及びグラフト化することで得ることができる。なお、解繊及びグラフト化の詳細については、後述する。
【0015】
グラフト化の対象となるセルロース繊維は、ポリ乳酸によるグラフト化以外の変性がなされていないセルロース繊維(本形態においては、このセルロース繊維を単に「未変性繊維」ともいう。)であっても、グラフト化以外の変性がなされているセルロース繊維(変性繊維)であってもよい。ただし、本形態においては、セルロース繊維が未変性繊維である方が好ましい。この点、ポリ乳酸のグラフト化反応においては、水酸基が起点となり、終点も水酸基となる。そして、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーを得るにあたっては、セルロース繊維を開始剤として用い、セルロース繊維の水酸基が反応起点となる。したがって、セルロース繊維の水酸基の一部がカルボキシ基やリン酸エステル基等で変性されていると、ポリ乳酸のグラフト化反応の効率が落ちることになる。
【0016】
本形態において未変性であるとは、セルロース繊維がTEMPO酸化、リン酸、亜リン酸等のリンのオキソ酸による変性、カルバメート変性等の化学変性がなされていない場合を想定している。つまり、変性の対象からグラフト化は除く。したがって、本形態において未変性とは、セルロース繊維表面の水酸基がグラフト化以外の変性をなされていないことを意味するものと定義する。
【0017】
また、何らかの理由によりセルロース繊維が変性されている場合においても、セルロース繊維の水酸基変性量は、0.5mmol/g以下であるのが好ましく、0.3mmol/g以下であるのがより好ましく、0.1mmol/g以下であるのが特に好ましい。水酸基変性量が0.5mmol/g以下であれば、変性されている他の官能基の影響を受けることなく所望のグラフト化率とすることができるためである。
【0018】
グラフト化セルロースナノファイバーの原料となるセルロース繊維としては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)等の広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等の針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の機械パルプ等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、晒化学パルプ(LBKP、NBKP等)を使用するのが好ましい。晒化学パルプは、ポリ乳酸のグラフト化の反応開始点となる水酸基を多く有するためである。
【0019】
セルロース繊維は、解繊する前に、例えば、水系で化学的又は機械的な前処理を行うことができる。前処理を行うと、解繊のエネルギーが低減される。
【0020】
セルロース繊維の前処理は、セルロース繊維の官能基を改質しない方法で、かつ水系で行うのが好ましい。この点、前処理の方法としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(TEMPO)等のN-オキシル化合物を触媒に用いてセルロースの1級水酸基を酸化する方法や、リン酸系薬品を用いて水酸基をリン酸エステル基で修飾する方法等が存在する。しかしながら、これらの前処理によると、解繊において繊維径がシングルナノオーダー(数nm)になるまで一気に進んでしまい、所望の繊維幅に解繊するのが困難になるおそれがある。また、反応起点となる水酸基が減少し、ポリ乳酸のグラフト化反応が進行し難くなるおそれもある。したがって、前処理を行う場合は、例えば、鉱酸(塩酸、硫酸、リン酸等)や酵素等を用いた加水分解等のセルロースの水酸基を変性しない化学処理や機械解繊(好ましくは、叩解。)によるのが好ましい。なお、水系で前処理を行うと、溶媒回収や除去のコストを低減することができるとの利点がある。
【0021】
セルロースナノファイバーの平均繊維幅(単繊維の平均直径)は、好ましくは1000~3nm、より好ましくは500~4nm、特に好ましくは100~5nmである。セルロースナノファイバーの平均繊維幅が1000~3nmであると、重量当りの溶融樹脂中での繊維本数が増加し、樹脂の溶融粘度増加に寄与すると考えられる。これに対し、平均繊維幅が3nm未満であると、繊維が水や母材となる樹脂等に溶解し、繊維形状を保てなくなることから、樹脂の熱膨張を抑える効果を発揮できなくなるおそれがある。他方、平均繊維幅が1000nmを超えると、もはやセルロースナノファイバーとは言えずマイクロ繊維セルロース(MFC)や通常のセルロース繊維と変わらなくなり、例えば、グラフト化繊維と樹脂との相溶性の低下や複合樹脂としての均質性の低下から、樹脂の熱膨張を抑える効果が限定的となるおそれがある。
【0022】
なお、本形態においてセルロースナノファイバーとは、平均繊維幅が1000~3nmの微細繊維を言う。ちなみに、セルロースナノファイバーは、セルロース結晶(セルロースI型)の構造を残しつつ微細化された繊維である。したがって、例えば、セルロース粉末とε-カプロラクトン/ラクチド溶液とを混合し、重合反応させて得たセルロース系組成物は、セルロースI型結晶のピークが微小に存在するのみであり、セルロースナノファイバーとは異なる。また、セルロースナノファイバーと似て非なるものとしてナノ結晶性セルロース粒子が存在するが、ナノ結晶性セルロース粒子は繊維ではなく針状結晶であり、セルロースナノクリスタル(CNC)とも呼ばれる。このセルロースナノクリスタルは、パルプ等を微細化する過程で、セルロース結晶のみを残すように酸加水分解処理等して製造する。これに対し、セルロースナノファイバーは、結晶でない部分も残しつつ微細化するため、繊維形状を保っており、樹脂との複合化による強度物性の向上に適する。
【0023】
セルロースナノファイバーの平均繊維幅は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0024】
セルロースナノファイバーの平均繊維幅は、電子顕微鏡を使用して次のように測定する。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%のセルロースナノファイバーの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて5000倍、10,000倍又は30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。この観察においては、観察画像に2本の対角線を引き、更に対角線の交点を通過する直線を任意に3本引く。そして、この3本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。この計測値の中位径を繊維幅とする。
【0025】
セルロースナノファイバーの平均繊維長(単繊維の長さ)は、好ましくは0.1~1000μm、より好ましくは0.2~500μm、特に好ましくは0.3~100μmである。平均繊維長が0.1μm未満であると、繊維が短すぎることから、樹脂中で、樹脂の熱膨張を抑える効果が発揮できないおそれがある。他方、平均繊維長が1000μmを超えると、繊維が凝集するおそれがある。
【0026】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0027】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は、平均繊維径の場合と同様にして、各繊維の長さを目視で計測する。計測値の中位長を平均繊維長とする。
【0028】
セルロースナノファイバーの軸比(繊維長/繊維幅)は、好ましくは2~10000、より好ましくは5~1000、特に好ましくは10~100である。軸比が2未満であると、もはや繊維状とは言えなくなる。他方、軸比が10000を超えると、組成物(スラリー)の粘度が高くなり過ぎるおそれがある。
【0029】
セルロースナノファイバーの擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、1つのピークであるのが好ましい。1つのピークである場合、セルロースナノファイバーは、繊維長及び繊維径の均一性が高く、ポリ乳酸複合樹脂の耐熱性が向上する。また、繊維径や繊維長の均一性が高いと、ポリ乳酸と混合した際の分散性に優れる。
【0030】
擬似粒度分布曲線におけるピークとなる粒径(最頻径)は、5~60μmが好ましい。ピークが当該範囲内であれば、セルロースナノファイバーの繊維サイズが十分に小さいため、樹脂と複合化した際に熱膨張抑制効果を十分に発揮することができるようになる。
【0031】
セルロースナノファイバーのピークの半値幅は、100μm以下であるのが好ましく、70μm以下であるのがより好ましく、50μm以下であるのが特に好ましい。ピークの半値幅が100μmを超えていると繊維の均一性に欠ける。
【0032】
セルロースナノファイバーのピーク値は、ISO-13320(2009)に準拠して測定する。より詳細には、粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を使用してセルロースナノファイバーの水分散液における体積基準粒度分布を調べる。そして、この分布からセルロースナノファイバーの最頻径を測定する。この最頻径をピーク値とする。
【0033】
セルロースナノファイバーの結晶化度は、好ましくは50~95%、より好ましくは55~90%、特に好ましくは60~85%である。結晶化度が50%未満であると、繊維自体の強度が低下するため、溶融粘度の向上効果が低下するおそれがある。また、得られるポリ乳酸複合樹脂の耐熱性が不十分なものになるおそれがある。他方、結晶化度が95%を超えると、分子内の強固な水素結合割合が多くなり繊維自体は剛直となるが、セルロースナノファイバーの化学修飾がし難くなると考えられる。
【0034】
結晶化度は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0035】
結晶化度は、JIS-K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、セルロースナノファイバーは、非晶質部分と結晶質部分とを有しており、結晶化度はセルロースナノファイバー全体における結晶質部分の割合を意味する。
【0036】
溶液中のセルロースナノファイバーの固形分濃度を1質量%とした場合における分散液のB型粘度の下限は、1cpsが好ましく、3cpsがより好ましく、5cpsが特に好ましい。分散液のB型粘度が1cps未満であると、ポリ乳酸のグラフト化反応中に繊維状態が保たれなくなるおそれや、溶融粘度の向上効果が低下するおそれがある。他方、分散液のB型粘度の上限は、7000cpsが好ましく、6000cpsがより好ましく、5000cpsが特に好ましい。分散液のB型粘度が7000cpsを超えると、水分散体の移送の際のポンプアップに膨大なエネルギーが必要となり、製造コストが増加するおそれがある。
【0037】
分散液のB型粘度(固形分濃度1%)は、JIS-Z8803(2011)の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した値である。B型粘度は分散液を攪拌したときの抵抗トルクであり、高いほど攪拌に必要なエネルギーが多くなることを意味する。
【0038】
セルロースナノファイバーのパルプ粘度の下限は、0.1cpsが好ましく、0.5cpsがより好ましい。パルプ粘度が0.1cps未満であると、セルロースナノファイバーの重合度が低いことに起因して、ポリ乳酸のグラフト化反応中に繊維状態が保たれなくなるおそれや、溶融粘度の向上効果が低下するおそれがある。
【0039】
セルロースナノファイバーのパルプ粘度の上限は、50cpsが好ましく、40cpsがより好ましい。パルプ粘度が50cpsを超えると、セルロースナノファイバー自体の重合度が高くなり、繊維として長くなり過ぎることから、ポリ乳酸のグラフト化反応に際してセルロースナノファイバーの凝集を十分に抑制できず、ポリ乳酸のグラフト化反応の進行が不均一になると考えられる。
【0040】
パルプ粘度は、JIS-P8215(1998)に準拠して測定する。なお、パルプ粘度が高いほどセルロースの重合度が高いことを意味する。
【0041】
セルロースナノファイバーの保水度は、好ましくは600~200%、より好ましくは550~250%、特に好ましくは500~300%である。保水度が200%未満であると、十分にナノ化されておらず、ナノ繊維としての特性を充分に発揮できなくなるおそれがある。他方、保水度が600%を超えると、溶媒置換や乾燥の効率が低下するため、製造コストの増加につながるおそれがある。
【0042】
セルロースナノファイバーの保水度は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0043】
セルロースナノファイバーの保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
【0044】
セルロースナノファイバーのグラフト化率は、1~7%であるのが好ましく、1.2~6%であるのがより好ましく、1.5~5%であるのが特に好ましい。グラフト化率が1%を下回ると、母材となる樹脂との相溶性が不足し、繊維による補強効果を発揮できなくなるおそれがある。他方、グラフト化率が7%を上回ると、高いグラフト化率とするため、グラフト化処理が高コストとなるおそれがある。
【0045】
ただし、グラフト化をバルク重合で行う場合は、グラフト化率が40%以下であるのが好ましい。また、グラフト化を溶液重合で行う場合は、グラフト化率が1~7%であるのが好ましい。なお、グラフト化率が高いから効果的とは限らない。例えば、溶液重合であれば、グラフト化したポリ乳酸の長さが短く、より揃っているため補強効果が大きくなることを期待することができる。
【0046】
ここで、グラフト化率について詳細に説明する。
本形態においてグラフト化率とは、吸光度比(C=O吸光度/O-H吸光度)を基に算出した値(%)である。より詳細には、セルロースナノファイバーと別途調整したポリ乳酸を100/0、80/20、70/30、50/50、40/60、20/80、0/100の質量比で混合した試料のIR測定を行い、セルロースナノファイバー由来のO-H吸光度とポリ乳酸由来のC=O吸光度との比率から、ポリ乳酸/セルロースナノファイバーの質量比と吸光度比との検量線を作成し、この検量線から、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバー中のセルロースナノファイバー成分に対するグラフトしたポリ乳酸成分の質量比、すなわちグラフト化率を算出する。
【0047】
そこで、まず、吸光度比について説明すると、O-H吸光度とは、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーの赤外線吸収スペクトルにおけるセルロースが有する水酸基のO-Hに由来する吸光度を意味する。また、C=O吸光度とは、ポリ乳酸が有するカルボニル基のC=Oに由来する吸光度を意味する。ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーは、ほとんどの溶媒に溶解せず、加熱しても溶融しないため、GPC法による分子量測定やNMR測定による構造解析が行えない。このため、赤外線吸収(以下、IRともいう。)スペクトルの測定によるのが好ましい。
【0048】
吸光度比を測定するにあたっては、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーをジクロロメタン及びテトラヒドロフラン等のポリ乳酸を溶解する溶剤により精製し、グラフト化していないポリ乳酸を完全に除去した上でIRスペクトルを測定する。ちなみに、吸光度比が小さ過ぎると、ポリ乳酸としての特性が発現し難くなる。他方、吸光度比が大き過ぎると、セルロースの特性が見られ難くなる。
【0049】
次に、検量線を作成するにあたっては、前述のセルロースナノファイバーと別途調整したポリ乳酸を100/0、80/20、70/30、50/50、40/60、20/80、0/100の質量比で混合した試料のIR測定を行い、X軸を100/(ポリ乳酸の質量%)、Y軸をCNFのO-H吸光度/ポリ乳酸のC=O吸光度の比率として各測定結果をプロットして近似直線Y=0.1469X-0.1339を得る。
【0050】
検量線を作成したら、この検量線に対象となるグラフト化セルロースナノファイバーの吸光度比を検量線のYに代入し、Xを計算することでグラフト化率を算出する。
【0051】
本形態においては、セルロースナノファイバーの水酸基のうち、イオン化しているものの割合が50%未満であるのが好ましく、40~0%であるのがより好ましく、30~0%であるのが特に好ましい。イオン化しているものの割合が50%以上であると、複合樹脂の母材であるグラフト化されていないポリ乳酸と反応して、ポリ乳酸が低分子化し、耐熱性が低下すると考えられる。
【0052】
イオン化している水酸基の割合は、JIS K 1310:2000等に規定される中和滴定法により求めることができる。
【0053】
グラフト化されていないポリ乳酸と複合化する場合、グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合は、グラフト化されていないポリ乳酸に対する質量%で、9900%に至るまで、広範囲にわたってグラフト化していないセルロースナノファイバーに比較して補強効果を発揮できる。ただし、配合割合が1%未満であると、グラフト化セルロースナノファイバーを含ませることによる効果が発揮されないおそれがある。
【0054】
また、樹脂との複合化の方法を後述する混合形態にする場合は、配合割合を1~43%にするのが適する。同様に、複合化の方法を含浸形態にする場合は、配合割合を400~9900%にするのが適する。
【0055】
グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合は、複合物をジクロロメタンに投入し、グラフト化されていないポリ乳酸を溶解させた後に、溶解しない残渣をジクロロメタンでろ過洗浄して乾燥させて重量を測定し、下記の式で求めることができる。
グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合=残渣重量÷(複合物重量-残渣重量)×100
【0056】
(ポリ乳酸)
グラフト鎖となるポリ乳酸やグラフト化セルロースナノファイバーと混合するポリ乳酸(単に「グラフト化されていないポリ乳酸」ともいう。)としては、L-ラクチドの重合体、D-ラクチドの重合体、L-ラクチドとD-ラクチドとのランダムやブロックなどの共重合体等が挙げられる。ただし、市販のポリ乳酸を広く使用することができる。
【0057】
(製造方法:解繊)
セルロース繊維を解繊(微細化)することによって、セルロース繊維はフィブリル化し、セルロースナノファイバーとなる。
【0058】
セルロース繊維を解繊するにあたっては、当該セルロース繊維をスラリー状にしておくのが好ましい。このスラリーの固形分濃度は、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%、特に好ましくは1.0~5.0質量%である。固形分濃度が上記範囲内であれば、効率的に解繊することができる。
【0059】
セルロース繊維の解繊は、例えば、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、高速回転式ホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー等のリファイナー、一軸混練機、多軸混練機、各種バクテリア等の中から1種又は2種以上の手段を選択使用して行うことができる。
【0060】
セルロース繊維の解繊は、得られるセルロースナノファイバーの平均繊維幅、平均繊維長等が、前述した所望の値又は評価となるように行うのが好ましい。
【0061】
(製造方法:グラフト化)
次に、セルロース繊維のポリ乳酸によるグラフト化について説明する。
本形態においては、有機重合触媒の存在下で、セルロースナノファイバーを構成するセルロースにラクチドをグラフト重合してポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーを得る。
【0062】
より詳細には、本方法においては、アミン類と、このアミン類及び酸類を反応させて得られる塩とからなる有機重合触媒の存在下で、水酸基を有するセルロースにラクチド(ラクチド(lactide)は、2分子のヒドロキシ酸において、互いのヒドロキシ基とカルボキシル基が脱水縮合してできたエステル結合を分子内に2つもつ環状化合物である。)をグラフト重合させる。このグラフト重合においては、有機重合触媒の存在下で、セルロースの各水酸基に開環したラクチドがエステル結合によって重合し、グラフト鎖としてのポリ乳酸が得られる。本方法においては、有機重合触媒が、アミン類と、このアミン類及び酸類を反応させて得られる塩とからなることにより、セルロースに対するポリ乳酸のグラフト化反応がリビング重合的に進行するので、ポリ乳酸の分子量分布がシャープなポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0063】
有機重合触媒におけるアミン類としては、例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン等のアルキルアミン、アニリン等の芳香族アミン、ピロリジン、イミダゾール、ピリジン等の複素環式アミン、エーテルアミン、アミノ酸等のアミン誘導体等を例示することができる。これらの中では、ポリ乳酸のグラフト化反応をより高めることができる観点から、4-ジメチルアミノピリジンが好ましい。
【0064】
有機重合触媒における酸類としては、例えば、塩酸等の無機酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸、酢酸等のカルボン酸等を例示することができる。酸類は酸性度が高いと触媒活性が高くなることから、p-トルエンスルホン酸及びトリフルオロメタンスルホン酸が好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸がより好ましい。
【0065】
有機重合触媒におけるアミン類及び酸類を反応させて得られる塩としては、例えば、4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラート、4-ジメチルアミノピリジニウムトシラート、4-ジメチルアミノピリジニウムクロライド等を例示することができる。これらの中では、セルロースに対するポリ乳酸のグラフト化反応をより高めることができるという観点から、4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートが好ましい。
【0066】
本方法においては、有機重合触媒として4-ジメチルアミノピリジン及び4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートを用いることで、セルロースナノファイバーに対するポリ乳酸のグラフト化反応の向上効果をさらに高めることができる。
【0067】
有機重合触媒として4-ジメチルアミノピリジン及び4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートを用いる場合、その配合割合(質量基準)は、好ましくは1:5~5:1、より好ましくは1:2~2:1、特に好ましくは1:1である。4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートの配合割合が1:1からずれても触媒として働くが、活性触媒の存在量が減少するため、反応速度が低下するおそれがある。
【0068】
ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーは、例えば、下記のスキームに従い、合成することができる。
【0069】
【0070】
上記スキームにおいて、n及びmは、1以上の整数である。また、ラクチドとしては、L-ラクチド、D-ラクチド又はこれらの組み合わせを用いることができる。重合体の形式としては、L-ラクチド、D-ラクチドを単独で用いた場合に得られるL-ポリ乳酸、D-ポリ乳酸、L-ラクチド、D-ラクチドを組み合わせて用いた場合に得られるL-ラクチド、D-ラクチドの配列順序がランダムなランダム共重合体、L-ラクチド、D-ラクチドが任意の比率でブロック状に重合したブロック共重合体にも適用できる。
【0071】
本方法においては、グラフト化率を大きくする場合、グラフト重合工程を複数回繰り返すことも可能である。グラフト重合工程を複数回繰り返すことで、効率よくポリ乳酸のグラフト化反応を進めることができる。
【0072】
グラフト重合によりポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーを得た後においては、グラフト化されていないポリ乳酸も含まれている。グラフト化されていないポリ乳酸が含まれた状態で用いることも可能であるが、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーとグラフト化されていないポリ乳酸との配合割合をより厳密に規定するためには、グラフト化されていないポリ乳酸を完全に除去するための精製工程を備えることが好ましい。この精製工程に使用する溶媒としては、ポリ乳酸、未反応モノマー、触媒を溶解可能な溶媒であれば、例えば、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン等を使用することができる。
【0073】
(グラフト化されていないポリ乳酸との複合)
グラフト化セルロースナノファイバー及びグラフト化されていないポリ乳酸を複合する場合、その方法としては、例えば、ポリ乳酸の溶液にグラフト化セルロースナノファイバーを分散させてシート化等の成形をする方法(混合形態)、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーをシート化し、ポリ乳酸のフィルムとラミネート化する方法(ラミネート化形態)、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーをシート化し、このシートにポリ乳酸の溶液を含浸させる方法(含浸形態)等を例示することができる。この点、セルロースナノファイバーがポリ乳酸でグラフト化されていると、セルロースナノファイバーの表面がポリ乳酸とよく馴染むため、ポリ乳酸の溶液中にセルロースナノファイバーが良好に分散する。したがって、上記分散形態は、複合化の方法として有用である。なお、分子レベルでの親和性を考えると、マトリックスとなるポリ乳酸の化学構造と、グラフト化セルロースナノファイバー中のグラフトポリ乳酸の化学構造は同じであるため、分子鎖が揃い、微小な結晶を形成すると推測される。これは、上記複合化の形態によらず、マトリックスポリ乳酸とグラフト化セルロースナノファイバーとが接する箇所で生じると考えられる。
【0074】
(その他)
ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーとグラフト化されていないポリ乳酸との複合物は、生分解性を有する成型材料として利用することができる。したがって、射出成形、押出成形、ブロー成形等の方法によって各種成形品に加工することができる。加工品は、容器等の射出成形品だけでなく、圧縮成形品、押出成形品、ブロー成形品等として、シート、フィルム、発泡材、繊維等として利用することもできる。これらの成形品は、電子部品、建築部材、土木部材、農業資材、自動車部品、日用品等の用途に利用することができる。
【0075】
なお、ポリ乳酸は、汎用ポリマーと比較すると剛直で比較的もろく、可撓性が乏しいとされている。したがって、ポリ乳酸を原料とする成形品を製造する場合においては、柔軟材の添加等が必要になる。また、ポリ乳酸は、耐熱性が不十分であり、耐電子レンジ特性に欠ける。さらに、ポリ乳酸は、押出成形やブロー成形、発泡成形等をする上で必要な溶融特性が十分でないとの指摘もある。しかしながら、本形態においては、ポリ乳酸グラフト化セルロースナノファイバーを使用するため、以上の問題が解決される。ただし、柔軟剤の配合等を否定するものではない。ちなみに、グラフト化していないセルロースナノファイバーをグラフト化されていないポリ乳酸の添加材として使用した場合においては、添加剤表面と樹脂面との間にせん断力が生じた場合にほとんど効果が得られなくなる。
【実施例0076】
以下、本発明の実施例を説明する。
(1)重合触媒である4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートの合成
2つ口フラスコ(容量100ml)中で乾燥窒素不雰囲気下、4-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業社製、白色粉末)1.22gをテトラヒドロフラン20mlに溶解した。そして、2つ口フラスコを0℃氷冷バス中で冷却しながら、トリフルオロメタンスルホン酸1.50gを滴下すると共に撹拌した。その後、室温に戻して1時間撹拌を続けた。反応混合物をガラスフィルターでろ取し、テトラヒドロフラン10mlで2回洗浄後、減圧乾燥して定量的に白色粉末である4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラートを得た。
【0077】
(2)乾燥セルロースナノファイバーの調製
原料パルプ(LBKP:固形分2質量%)に対し、製紙用叩解機により前処理を施した後に、高圧ホモジナイザーを用いて、レーザー回折を用いた粒度分布測定の疑似粒度分布において1つのピークを有する段階まで微細化処理を行い(最頻径30μm)、固形分2質量%のセルロースナノファイバーの水分散体を作製した。セルロースナノファイバーの水分散体は遠心分離機にかけた後、上澄み液を除去し、ここに溶剤を添加し、均一化した後に再度遠心分離して濃縮した。この操作を数回繰り返した後に凍結乾燥して溶剤を除去することで白色粉末のセルロースナノファイバー(平均繊維径31nm)を調製した。
【0078】
(3)CNFへのポリ乳酸のグラフト化
2つ口フラスコ(容量50ml)中で乾燥窒素雰囲気下において、ジクロロメタンで溶媒置換したCNF90mg、白色粉末の4-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業社製)4.2mg(0.035mmol)、上記で合成した4-ジメチルアミノピリジニウムトリフラート9.4mg(0.035mmol)、無色透明棒状結晶のL-ラクチド100mg(0.69mmol)、ジクロロメタン20mLを加えた。そして、2つロフラスコを40℃のオイルバス中で24時間加熱した。得られた懸濁液を室温まで冷却した後、11-3Gのガラスフィルタで吸引ろ過によってろ取し、テトラヒドロフラン20mLで洗浄後、吸引ろ過する過程を2回繰り返して、精製したグラフト化セルロースナノファイバーを得た(収量91.8mg、グラフト化率4.8%)。
【0079】
グラフト化率は、触媒量を5倍、10倍と増やすことで大きくできる。また、反応温度は室温より40℃の方が大きくなる傾向がある。モノマー量を減らすとグラフト化率は低下するが、ある量(本実施例では100mg)以上にしてもあまり変化しない。本実施例においては、反応温度、モノマー量、触媒量、反応時間によってグラフト化率4.8質量%に調整した。
【0080】
(4)その他の原料
グラフト化されていないポリ乳酸としては、ネーチャーワークス製Ingeo10361Dを使用した。
未変性CNFとしては、上記セルロースナノファイバーを使用した。
【0081】
(5)ポリ乳酸複合樹脂の作製
グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合を30質量%以下とする実施例においては、前述混合形態によって複合化した。具体的には、20mLサンプル瓶に、市販ポリ乳酸(Ingeo10361D)198mg、グラフト化セルロースナノファイバー2mg(全固形分中1wt%)を入れ、ジクロロメタン5mLを加え、室温で24時間撹拌し、溶解、分散させた。その分散液をシャーレに注ぎ(キャスト)、室温、常圧下で溶媒を蒸発させることで、キャストフィルムを得た。得られたキャストフィルムをテスター産業(株)製熱プレス機SA303で、180℃、10MPaで10秒間熱プレスして、フィルムを作成した(膜厚約100μm)。市販ポリ乳酸/グラフト化セルロースナノファイバーの質量比を、190mg/10mg(5wt%)、180mg/20mg(10wt%)、160mg/40mg(20wt%)、140mg/60mg(30wt%)にして同様の操作によって、それぞれ対応する配合比のフィルムを得た。市販ポリ乳酸200mgのみを熱プレスすることで、ブランク(0wt%)のフィルムも作成した。また、前述の方法で得られたグラフト化セルロースナノファイバーシート(直径約40mm、膜厚約100μm)を、参照試験片(100wt%)として用いた。
【0082】
一方、グラフト化セルロースナノファイバーの配合割合を80質量%以上とする実施例においては、前述含浸形態によって複合化した。具体的には、前述の方法で得られたグラフト化セルロースナノファイバーシート(直径約40mm、膜厚約100μm)から5mm幅×長さ約15mmの短冊を切り出し、高濃度PLA溶液(市販ポリ乳酸90mg/1mLジクロロメタン)または、低濃度PLA溶液(市販ポリ乳酸90mg/5mLジクロロメタン)に60秒含浸させた後、乾燥させることで試験片を得ることができる(乾燥後の重量増加率から、それぞれCNF含有率99.1%、87.5%と算出できる)。
【0083】
得られた各複合樹脂について線熱膨張率を調べた。線熱膨張率は、JIS K 7197:2012に準拠して測定した。線膨張係数は、NETSCH(ネッチ)製熱機械分析装置TMA4000SE/Lを用い、20℃-65℃、昇温速度10℃/分、試験片チャック距離10mmの条件で測定した。線膨張係数の算出範囲は、20℃-40℃の範囲で計算した。
【0084】
グラフト化セルロースナノファイバーのグラフト化率、配合割合、及び線熱膨張率を表1に示した。ただし、表中には、各複合樹脂の線熱膨張率の評価を以下の基準で示した。
グラフト化されていないポリ乳酸樹脂自体(ブランク)の線膨張係数を1として複合樹脂の線熱膨張係数の絶対値が0.05倍未満の場合:◎
グラフト化されていないポリ乳酸樹脂自体(ブランク)の線熱膨張係数を1として複合樹脂の線熱膨張係数(倍率)の絶対値が0.85倍未満の場合:○
グラフト化されていないポリ乳酸樹脂自体(ブランク)の線熱膨張係数を1として複合樹脂の線熱膨張係数(倍率)の絶対値が0.85倍以上の場合:×
【0085】
【0086】
未処理CNFの添加量とグラフト化CNFの添加量とが等しい場合(例えば、試験例2と試験例10、試験例3と試験例11等。)をそれぞれ比較すると、添加量がいずれの場合においても、グラフト化CNFを添加した場合の方が未処理CNFを添加した場合よりも線熱膨張係数が0に近い数値となった。