(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057511
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】無線環境推定システム、無線環境推定方法、端末装置、無線環境悪化要因示唆システム、無線環境悪化要因示唆方法、および基地局
(51)【国際特許分類】
H04W 16/18 20090101AFI20220404BHJP
H04W 4/38 20180101ALI20220404BHJP
H04W 72/04 20090101ALI20220404BHJP
【FI】
H04W16/18
H04W4/38
H04W72/04 131
H04W72/04 132
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165808
(22)【出願日】2020-09-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、令和2年度における狭空間における周波数稠密利用のための周波数有効利用技術の研究開発の委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 一輝
(72)【発明者】
【氏名】堀端 研志
(72)【発明者】
【氏名】市川 泰史
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067BB21
5K067CC02
5K067CC04
5K067DD11
5K067EE02
5K067EE10
(57)【要約】
【課題】無線通信において高い通信品質を保持する。
【解決手段】無線環境推定システムが、プロセッサと、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサとを有する一つ以上の端末装置と、端末装置との間で無線通信を行う一つ以上の基地局とを備え、端末装置は、センサが取得した物理環境情報に基づいて所定の空間における無線環境を示す推定値を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサと、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサとを有する一つ以上の端末装置と、
前記端末装置との間で無線通信を行う一つ以上の基地局と、を備え、
前記端末装置は、前記センサが取得した物理環境情報に基づいて、前記所定の空間における無線環境を示す推定値を算出する、
無線環境推定システム。
【請求項2】
前記端末装置のうちいずれか一つ以上は、前記推定値に基づいて、前記端末装置のうちいずれか一つ以上から前記基地局のうちいずれか一つ以上へのデータ送信のタイミングを決定する、
請求項1に記載の無線環境推定システム。
【請求項3】
前記端末装置のうちいずれか一つ以上は、前記推定値に基づいて、前記基地局のうちいずれか一つ以上にデータ送信を行う端末装置、前記データ送信の宛先となる基地局、および/または、前記データ送信に用いられる周波数チャネルを決定する、
請求項2に記載の無線環境推定システム。
【請求項4】
前記端末装置のうちいずれか二つ以上が、前記センサが取得した物理環境情報を共有する、請求項1から3のうちいずれか一項に記載の無線環境推定システム。
【請求項5】
前記端末装置のうちいずれか一つ以上は、前記センサが取得した物理環境情報に基づく情報の学習済みモデルへの適用、もしくは前記物理環境情報に基づく情報を用いた統計処理により、前記推定値を算出する、
請求項1から4のうちいずれか一項に記載の無線環境推定システム。
【請求項6】
前記センサが、赤外線センサ、距離センサ、加速度センサ、照度センサ、温度センサ、湿度センサ、気圧センサ、圧力センサ、地磁気センサ、音センサ、臭気センサ、およびカメラのうち少なくとも一つ以上を含む、
請求項1から5のうちいずれか一項に記載の無線環境推定システム。
【請求項7】
前記端末装置のうちいずれか一つ以上は、前記センサが取得した物理環境情報以外の情報を、前記物理環境情報と併せて用いて、前記推定値を算出する、
請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の無線環境推定システム。
【請求項8】
前記物理環境情報以外の情報が、近距離無線通信のRSSI強度、前記基地局と前記端末装置との間の距離もしくは高低差を示す情報、前記端末装置が配置された高さを示す情報、および前記基地局と前記端末装置との間に存在する障害物の数を示す情報のうちいずれか一つ以上を含む、
請求項7に記載の無線環境推定システム。
【請求項9】
前記物理環境情報以外の情報が、前記所定の空間に対応する情報を含む、
請求項7または請求項8に記載の無線環境推定システム。
【請求項10】
前記端末装置と前記基地局とが長距離無線通信方式でデータ通信を行う、
請求項1から請求項9のうちいずれか一項に記載の無線環境推定システム。
【請求項11】
プロセッサとセンサとを有する一つ以上の端末装置と、
前記端末装置との間で無線通信を行う一つ以上の基地局と、
を備えた無線環境推定システムにおいて、
前記センサが、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するステップと、
前記端末装置が、前記センサが取得した物理環境情報に基づいて、前記所定の空間における無線環境を示す推定値を算出するステップと、を有する、
無線環境推定方法。
【請求項12】
プロセッサと、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサとを有し、
前記プロセッサは、前記センサが取得した物理環境情報に基づいて、前記所定の空間における無線環境を示す推定値を算出する、
端末装置。
【請求項13】
プロセッサと記憶装置とを有する一つ以上の基地局と、
前記基地局との間で無線通信を行う一つ以上の端末装置と、
を備え、
前記端末装置のうちいずれか一つ以上は、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサを備え、
前記基地局のうちいずれか一つ以上は、前記端末装置のセンサが取得した物理環境情報と、前記基地局が前記端末装置から受信した信号の強度を示す受信信号強度情報とを前記記憶装置に記憶し、前記記憶装置に記憶された情報に基づいて、前記受信信号強度が減少した要因を示唆する示唆情報を出力する、
無線環境悪化要因示唆システム。
【請求項14】
前記示唆情報は、前記受信信号強度の減少と前記センサとの間の関連度を示す情報である、請求項13に記載の無線環境悪化要因示唆システム。
【請求項15】
前記示唆情報は、前記受信信号強度が減少する要因となった物理環境情報に対応する位置を示す情報である、請求項13に記載の無線環境悪化要因示唆システム。
【請求項16】
前記基地局のうちいずれか一つ以上は、
機械学習モデルの適用または統計処理に基づいて、前記センサが取得した物理環境情報と、前記基地局が前記端末装置から受信した信号の強度を示す受信信号強度情報とを組み合わせて前記記憶装置に記憶する、
請求項13から請求項15のうちいずれか一項に記載の無線環境悪化要因示唆システム。
【請求項17】
前記センサが、赤外線センサ、距離センサ、加速度センサ、照度センサ、温度センサ、湿度センサ、気圧センサ、圧力センサ、地磁気センサ、音センサ、臭気センサ、およびカメラのうち少なくとも一つ以上を含む、
請求項13から16のうちいずれか一項に記載の無線環境悪化要因示唆システム。
【請求項18】
前記端末装置と前記基地局とが長距離無線通信方式でデータ通信を行う、
請求項13から請求項17のうちいずれか一項に記載の無線環境悪化要因示唆システム。
【請求項19】
プロセッサと記憶装置とを有する一つ以上の基地局と、
前記基地局との間で無線通信を行う一つ以上の端末装置と、
を備えた無線環境悪化要因示唆システムにおいて、
前記端末装置のうちいずれか一つ以上は、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサを備え、
前記基地局のうちいずれか一つ以上が、
前記端末装置のセンサが取得した物理環境情報を受信するステップと、
前記物理環境情報と、前記基地局が前記端末装置から受信した信号の強度を示す受信信号強度情報とを前記記憶装置に記憶するステップと、
前記記憶装置に記憶された情報に基づいて、前記受信信号強度が減少した要因を示唆する示唆情報を出力するステップと、
を有する、
無線環境悪化要因示唆方法。
【請求項20】
プロセッサと記憶装置とを備え、
前記プロセッサは、
所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得し、
前記物理環境情報と、受信した信号の強度を示す受信信号強度情報とを前記記憶装置に記憶し、
前記記憶装置に記憶された情報に基づいて、前記受信信号強度が減少した要因を示唆する示唆情報を出力する、
基地局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線環境推定システム、無線環境推定方法、端末装置、無線環境悪化要因示唆システム、無線環境悪化要因示唆方法、および基地局に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建造物及び/又は建造物の敷地内の鳥獣を検知して通知するための鳥獣遠隔監視システムが記載されている。鳥獣遠隔監視システムは、送信データを送信する子機と、送信データを受信する親機と、子機が送信した送信データを受信して親機へ送信する中継器とを備えている。子機と中継器の間の通信、又は、子機と親機の間の通信、又は、中継器と親機の間の通信は、LPWA技術を利用して通信することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、高い通信品質を保持できる無線環境推定システム、無線環境推定方法、端末装置、無線環境悪化要因示唆システム、無線環境悪化要因示唆方法、および基地局を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、プロセッサと、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサとを有する一つ以上の端末装置と、前記端末装置との間で無線通信を行う一つ以上の基地局と、を備え、前記端末装置は、前記センサが取得した物理環境情報に基づいて、前記所定の空間における無線環境を示す推定値を算出する、無線環境推定システムを提供する。
【0006】
また、本開示は、プロセッサとセンサとを有する一つ以上の端末装置と、前記端末装置との間で無線通信を行う一つ以上の基地局と、を備えた無線環境推定システムにおいて、前記センサが、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するステップと、前記端末装置が、前記センサが取得した物理環境情報に基づいて、前記所定の空間における無線環境を示す推定値を算出するステップと、を有する、無線環境推定方法を提供する。
【0007】
また、本開示は、プロセッサと、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサとを有し、前記プロセッサは、前記センサが取得した物理環境情報に基づいて、前記所定の空間における無線環境を示す推定値を算出する、端末装置を提供する。
【0008】
また、本開示は、プロセッサと記憶装置とを有する一つ以上の基地局と、前記基地局との間で無線通信を行う一つ以上の端末装置と、を備え、前記端末装置のうちいずれか一つ以上は、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサを備え、前記基地局のうちいずれか一つ以上は、前記端末装置のセンサが取得した物理環境情報と、前記基地局が前記端末装置から受信した信号の強度を示す受信信号強度情報とを前記記憶装置に記憶し、前記記憶装置に記憶された情報に基づいて、前記受信信号強度が減少した要因を示唆する示唆情報を出力する、無線環境悪化要因示唆システムを提供する。
【0009】
また、本開示は、プロセッサと記憶装置とを有する一つ以上の基地局と、前記基地局との間で無線通信を行う一つ以上の端末装置と、を備えた無線環境悪化要因示唆システムにおいて、前記端末装置のうちいずれか一つ以上は、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサを備え、前記基地局のうちいずれか一つ以上が、前記端末装置のセンサが取得した物理環境情報を受信するステップと、前記物理環境情報と、前記基地局が前記端末装置から受信した信号の強度を示す受信信号強度情報とを前記記憶装置に記憶するステップと、前記記憶装置に記憶された情報に基づいて、前記受信信号強度が減少した要因を示唆する示唆情報を出力するステップと、を有する、無線環境悪化要因示唆方法を提供する。
【0010】
また、本開示は、プロセッサと記憶装置とを備え、前記プロセッサは、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得し、前記物理環境情報と、受信した信号の強度を示す受信信号強度情報とを前記記憶装置に記憶し、前記記憶装置に記憶された情報に基づいて、前記受信信号強度が減少した要因を示唆する示唆情報を出力する、基地局を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、高い通信品質を保持できる無線環境推定システム、無線環境推定方法、端末装置、無線環境悪化要因示唆システム、無線環境悪化要因示唆方法、および基地局を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】端末装置および基地局のハードウェア構成例を示すブロック図
【
図5】データ送信の宛先となる基地局の決定例を示す概念図
【
図6】学習モデルの変更処理を例示するフローチャート
【
図7】端末装置および基地局のハードウェア構成例を示すブロック図
【
図8】基地局による示唆情報出力処理を例示するフローチャート
【
図9】受信信号強度の減少とセンサとの間の関連度を示す情報の表示例を示す概念図
【
図10】受信信号強度が減少する要因となった物理環境情報に対応する位置を示す情報の表示例を示す概念図
【
図11】端末装置を工場内に配置した状態を示す概念図
【
図13】学習モデルに対して機械学習を行った日の受信信号強度の変動を示すグラフ
【
図14】学習モデルに対して機械学習を行った日とは異なる日の受信信号強度の変動を示すグラフ
【
図16】端末装置から基地局へのデータ送信を行うか否かを切り分ける閾値の設定例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示に至る経緯)
工場内などの所定の空間に複数の端末装置を配置して、端末装置同士、あるいは端末装置と他の装置(サーバや基地局など)との間でデータ通信を行う場合、制御信頼性等の観点から、データ通信を有線で行っていた。有線でのデータ通信は、通信品質が安定する一方、工場内に配線を引き回す必要がある。ここで、工場内を様々な人や車両等が移動するので、人や車両等が踏まない場所に有線ケーブルを配線することが必要になる。また、工場内の生産ラインの変更時には有線の引き直しが必要になり、この引き直し作業は煩雑である。機器の配置や生産ライン構築の際の柔軟性向上のため、または工場のIoT(Internet of Things)化のための手段として、無線通信への期待が高まっている。
【0014】
無線通信ネットワークを介してデータ通信を行う場合、端末装置や上位装置の接続性の観点から不安要素が残る。例えば、以下のような不安要素がある。
・物理的環境の変化:生産ラインの変更、大型金属物や人の移動が激しい
・特殊な無線環境:金属が多い、業種・工場の規模が多様で一般化が困難である
・無線の混在:無線回線の導入が生産ライン別に進み統一が取れない、外来干渉・設備ノイズ等が存在する。
【0015】
工場内には大型機械が配置されており、壁面や天井が一面金属であることも多い。さらに、人だけでなくAGV(Automatic Guided Vehicle)やコンベア上の生産物等、多数の大型機材が移動する。工場には限られないこのような空間においては、物理的環境の変化があるため、無線環境も逐次変化し得る。そのため、高い通信品質を担保するためには、上記のような空間においても安定的な無線通信を行えるシステムの構築が必要となる。
【0016】
無線通信の電波環境(無線環境)を解析する手法として、レイトレーシング解析と、電磁界解析の2つが存在する。レイトレーシング解析においては、光線の伝播を電波の伝搬に見立てて、物理法則に従ったシミュレーションが行われる。このシミュレーションにより、伝搬特性を解析することができる。電磁界解析においては、所定の空間を複数の小さなセルに分割して、セル内部の電磁界を解くことで伝搬特性を解析する。上記の解析手法は解析に時間を要する。そのため、上記の解析手法は、大型の金属が移動するなどの物理的環境変化に対応するのは難しい。
【0017】
現状、様々な無線通信方式が存在する。その中で、低消費電力でありながら広範囲なカバレッジエリアを有するLPWA(Low Power Wide Area)方式が、工場などの所定の空間のIoT化に関して注目されている。工場は一般に広いので、長距離無線通信方式であるLPWAが適していると考えられる。
【0018】
例えば、LPWA方式の一つであるLoRaWAN(Long Range Wide Area Network)においては、端末装置(IoT機器等)から上位装置(サーバや基地局)へのアップリンクデータ通信のみでほぼ通信が可能である。上位装置から端末装置へのダウンリンクデータ通信も発生するが、アップリンクデータ通信の比率が、ダウンリンクデータ通信の比率よりも高い。これにより、端末装置が待機電力を消費しないため、省電力になる。
【0019】
一般的に通信品質を改善するための処理(伝搬状況の確認/送信タイミングの制御等)は、上位装置から端末装置へのダウンリンクデータ通信を用いて随時行われる。しかしLPWA方式の場合、ダウンリンクデータ通信を用いて通信品質を改善するための処理を行うのは困難、あるいは非効率である。これは、ダウンリンクデータ通信の通信量を増加させると、端末装置側で待機電力が発生し、省電力であるというLPWA方式のメリットを失わせるからである。したがって、安定したデータ通信タイミングなどを、端末装置側で判断することが出来れば好適である。
【0020】
そこで、本開示の第1の実施形態では、例えば工場などの所定の空間における無線環境を端末装置側で判断することにより、高い通信品質を保持できる無線環境推定システム、無線環境推定方法、および端末装置について詳述する。
【0021】
また、例えば金属製の車両が工場内を移動するなど、所定の空間内での物理的環境の変化が要因となって無線環境が悪化した場合、この悪化の要因を素早く特定することができれば、その要因を除去することにより高い通信品質を保持することができる。ここで、無線環境を把握する手法であるレイトレーシング解析や電磁界解析は、解析に時間を要し、工場などの複雑な構造をモデル化するのも困難である。そのため、上記の解析手法は、大型の金属が移動するなどの物理的環境の変化に対応するのは難しい。
【0022】
そこで、本開示の第2の実施形態では、端末装置が備えるセンサが取得した物理的環境情報と、無線環境を示す指標の一つである受信信号強度情報とを組み合わせて記憶装置に蓄積し、蓄積された情報に基づいて、受信信号強度が減少した要因を示唆する示唆情報を出力することにより、高い通信品質を保持できる無線環境悪化要因示唆システム、無線環境悪化要因示唆方法、および基地局について詳述する。
【0023】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係る無線環境推定システム、無線環境推定方法、端末装置、無線環境悪化要因示唆システム、無線環境悪化要因示唆方法、および基地局を具体的に開示した実施形態(以下、「本実施形態」という)を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0024】
[第1の実施形態]
図1は、無線通信システム100の一例を示す概念図である。無線通信システム100は、無線環境推定システム(第1の実施形態)および無線環境悪化要因示唆システム(第2の実施形態)に相当する。
【0025】
無線通信システム100は、一つ以上の端末装置10、10A…10Gと、一つ以上の基地局20とを備えている。端末装置10、10A…10Gと基地局20とは例えば上述のLPWA方式のデータ通信を行う。端末装置10が基地局に対して通信(ここではアップリンクデータ通信)を行っている様子が、図中の符号RCで表現されている。
【0026】
端末装置10は、無線通信システム100内に単独で配置されることがある(グループG01参照)。また、端末装置10A、10Bおよび10Cが含まれるグループG02、端末装置10E、10Fおよび10Gが含まれるグループG0Nのように、近傍に配置された複数の無線装置が1つのグループを形成してもよい。なお、グループG0NのNは任意の整数を意味している。
【0027】
端末装置10、10A…10Gは、物理環境情報を取得するセンサを備える。このセンサおよび物理環境情報についての詳細は、
図2に基づき後述する。
図1において、扇形の領域Sは、各センサが情報を取得する方向を概念的に示している。なお、センサが情報を取得する方向は、図示されている方向に限られず、例えば360度全周囲から情報を取得してもよい。
【0028】
端末装置10、10A…10Gは、例えば工場内などの所定の空間に配置されている。そのため、各端末装置が備えるセンサは、工場内などの所定の空間における物理環境を取得する。
【0029】
近傍に配置された端末装置(例えば端末装置10A、10Bおよび10C)は、互いにデータ通信を行うことができる。このデータ通信の方向が、グループG02およびG0Nの矢印で示されている。
【0030】
基地局20は、端末装置10、10A…10Gから送信されたデータ(アップリンクデータ)を受信する。基地局20は、端末装置10、10A…10Gにデータ(ダウンリンクデータ)を送信してもよい。また、基地局20は、図示を省略する通信ネットワーク(LAN、WAN、インターネット等)と通信可能に接続されている。基地局20は通信ネットワークを介して、図示を省略するサーバ等の外部機器との間でデータ通信を行う。
【0031】
物体OBJは、フォークリフトやAGVなどの、所定の空間内を移動する物体である。物体OBJは主に金属製であり、物体OBJが移動することにより所定の空間における物理環境が変化し、これに伴い、所定の空間における無線環境も変化する。例えば、物体OBJが、端末装置10Fと基地局20との間に入り込むことにより、端末装置10Fと基地局20との間の無線環境は悪化することがある。上記の物体の移動に限らず、何らかの物理環境の変化によって、無線環境が変化する。そのため、物理環境の変化と無線環境の変化とを紐づけることができれば、物理環境情報を用いて無線環境の悪化を予想することができる。
【0032】
図2は、端末装置10および基地局20のハードウェア構成例を示すブロック図である。なお、2つの端末装置10Aおよび10Bはそれぞれ、端末装置10の一例を示しており、以後、端末装置10と表記することがある。
【0033】
端末装置10は、プロセッサ11と、通信部12と、記憶装置13と、センサ14と、近距離通信部15とを備える。
【0034】
プロセッサ11は、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いて構成される。プロセッサ11は、端末装置10が備える各構成要素の動作を全体的に統括するための制御処理、端末装置10が備える各構成要素間のデータの入出力処理、データの計算処理、記憶装置13へのデータの保存処理、および記憶装置13からのデータの取得処理等を行う。
【0035】
通信部12は、端末装置10と基地局20との間でデータ通信が可能に接続される。通信部12は、基地局20へ各種データを送信し、基地局20から各種データを受信する。通信部12が行うデータ通信は、例えばLPWAなどの長距離無線通信方式のデータ通信であってよい。
【0036】
記憶装置13は、HDDやROM、RAM等を含んでいてよく、プロセッサ11によって実行される各種プログラムや各種データを格納している。記憶装置13は、機械学習が行われた学習済みモデルや統計モデルを記憶する。記憶装置13は、センサ14が取得した情報を保存する。
【0037】
センサ14は、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得する。所定の空間とは、端末装置10(およびセンサ14)が配置された周囲の空間を意味する。例えば、端末装置10が工場内に配置された場合、センサ14は工場内の物理環境を示す物理環境情報を取得する。
【0038】
物理環境とは、センサ14によって数値化できる環境を意味する。センサ14には、例えば以下のものが含まれる。
・赤外線センサ(所定の空間に存在する熱源を探知。サーモグラフィを含む)
・距離センサ(所定の空間に存在する物体との距離を検知。超音波センサやLiDAR等を含む)
・加速度センサ(端末装置10の移動や振動を検知)
・照度センサ(所定の空間における光を検知)
・温度センサ(所定の空間の温度を検知)
・湿度センサ(所定の空間の湿度を検知)
・気圧センサ(所定の空間の気圧や高度を検知)
・圧力センサ(センサが設けられた箇所に加えられた圧力や、センサが設けられた箇所に乗せられた物体の重量等を検知)
・地磁気センサ(所定の空間に存在する金属を検知)
・音センサ(所定の空間で鳴っている音を検知)
・臭気センサ(所定の空間におけるガスの匂い等を検知)
・カメラ(所定の空間における画素値を取得)
【0039】
近距離通信部15は、端末装置10同士の間でデータ通信が可能に接続される。近距離通信部15は例えばBLE(Bluetooth Low Energy)プロトコルで無線通信が可能な通信装置であってよい。
【0040】
基地局20は、プロセッサ21と、通信部22と、記憶装置23とを備える。
【0041】
プロセッサ21は、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いて構成される。プロセッサ21は、基地局20が備える各構成要素の動作を全体的に統括するための制御処理、基地局20が備える各構成要素間のデータの入出力処理、データの計算処理、記憶装置23へのデータの保存処理、記憶装置23からのデータの取得処理、出力装置3へのデータの出力処理等を行う。
【0042】
通信部22は、基地局20と端末装置10との間でデータ通信が可能に接続される。通信部22は、端末装置10へと各種データを送信し、端末装置10から各種データを受信する。通信部22が行うデータ通信は、例えばLPWAなどの長距離無線通信方式のデータ通信であってよい。
【0043】
記憶装置23は、HDDやROM、RAM等を含んでいてよく、プロセッサ21によって実行される各種プログラムや各種データを格納している。記憶装置23は、機械学習用の学習モデルや統計モデル等を記憶する。記憶装置23は、通信部22が端末装置10から受信した情報を保存する。
【0044】
出力装置3は、基地局20から送信された情報を出力する。出力装置3が出力する情報の形態は、画像や音声など、作業者等が知覚可能な形態であればよい。出力装置3は、例えばディスプレイ装置、または情報出力機能を有するコンピュータ等である。なお、出力装置3は、図示を省略するキーボードやマウス、タッチパネルなどの入力部を備えていてもよく、作業者は入力部から情報を入力することにより、出力装置3を操作することができる。
【0045】
図3は、端末装置10による処理例を示すフローチャートである。本実施の形態においては、端末装置10が周囲の無線環境の良し悪しを推定して、基地局20へのデータ送信タイミングを判断する。また、本実施の形態においては、例えば基地局20等において機械学習が行われて生成された学習済みモデルが記憶装置13に保存されている。プロセッサ11は、この学習済みモデルに物理環境情報(センサ情報。以下同じ)を入力することにより得られた出力データに基づいて判定を行ってよい。なお、物理環境情報に対して前処理等の各種データ処理が行われてもよく、データ処理後の、物理環境情報に基づく情報が学習済みモデルに適用されてもよい。
【0046】
なお、学習済みモデルは、必ずしも端末装置10が有していなくともよい。例えば、端末装置10とデータ通信可能な他の装置が学習済みモデルを有しており、プロセッサ11による制御により、物理環境情報(に基づく情報)が学習済みモデルに適用されて、後述の推定値が算出されてもよい。また、プロセッサ11は、物理環境情報(に基づく情報)を用いた統計処理によって判定を行ってもよく、機械学習や統計処理ではない所定の判定基準を用いて判定を行ってもよい。所定の判定基準は、例えば、地磁気センサのセンサ値が、端末装置10の近傍に金属が存在していることを示すような値である場合は、無線環境は不良であるとプロセッサ11が判定する、等である。説明の便宜上、本実施の形態において、端末装置10の記憶装置13が学習済みモデルを記憶している前提で説明を行う。
【0047】
センサ14が、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報(センサ情報)を取得する(St101)。プロセッサ11が、取得された物理環境情報を記憶装置13に保存する(St102)。
【0048】
プロセッサ11は、基地局20にデータを送信する時間(タイミング)であるか否かを判定する(St103)。基地局20にデータを送信する時間である場合(St103:Yes)、ステップSt104に処理が遷移する。基地局20にデータを送信する時間ではない場合(St103:No)、ステップSt101に処理が戻る。
【0049】
プロセッサ11の制御により、近距離通信部15が、物理環境情報を他の端末装置と共有する(St104)。
図2を参照すると、例えば端末装置10Aが取得した物理環境情報が近距離通信部15を介して端末装置10Bおよび端末装置10Cに送信される。端末装置10Bおよび端末装置10Cは、受信した物理環境情報をそれぞれ記憶装置13に保存する。
【0050】
なお、
図2のグループG01のように、物理環境情報を取得した端末装置10の近傍に他の端末装置が存在しない場合は、ステップSt104は実行されない。
【0051】
プロセッサ11は、記憶装置13に蓄積された物理環境情報に対して前処理を行う(St105)。行われる前処理の種類については特に限定しないが、プロセッサ11は、物理環境情報を、記憶装置13に保存された学習済みモデルに入力しやすい形態に変形する。なお、前処理の具体例については、
図12を参照して後述する。
【0052】
プロセッサ11は、端末装置10から基地局20へのデータ送信が可能な無線環境であるか否かを判定する(St106)。データ送信が可能な無線環境であると判定された場合(St106:Yes)、ステップSt107に処理が遷移する。データ送信が可能な無線環境ではないと判定された場合(St106:No)、ステップSt101へと処理が戻る。
【0053】
ステップSt106において、プロセッサ11は、記憶装置13に保存された学習済みモデルを用いて判定を行ってよい。プロセッサ11は、前処理(ステップSt105)後の物理環境情報を学習済みモデルに入力して、出力値を取得する。例えば分類を行うタイプの学習済みモデルである場合、出力値はどの分類に属するかのカテゴリ値であってよい。例えば回帰を行うタイプの学習済みモデルである場合、出力値はスカラー値であってよい。これらの出力値は、所定の空間における無線環境を示す推定値に相当する。
【0054】
ステップSt106において、プロセッサ11は、記憶装置13に保存された統計モデルを用いて判定を行ってもよい。統計モデルの具体的な種類については限定しない。プロセッサ11は、物理環境情報を統計モデルに入力して得られた出力値を取得する。これらの出力値は、所定の空間における無線環境を示す推定値に相当する。
【0055】
ステップSt106において、プロセッサ11は、物理環境情報そのものを、所定の空間における無線環境を示す推定値として用いてよい。また、プロセッサ11は、物理環境情報に対して何らかの演算(対数化、平均値の算出、標準偏差の算出等)を行って得られた値を、所定の空間における無線環境を示す推定値として用いてよい。
【0056】
次に、プロセッサ11は、Listen Before Talkにより、データ送信に用いる周波数チャネルが開いており、データ送信可能か否かを判定する(St107)。Listen Before Talkについては、無線通信において一般的に行われる処理であるため、詳しい説明は省略する。送信可能と判定された場合(St107:送信可)、ステップSt108に処理が遷移する。送信不可と判定された場合(St107:送信不可)、ステップSt101に処理が戻る。
【0057】
プロセッサ11は通信部12を制御して、基地局20にデータを送信する(St108)。
【0058】
プロセッサ11は、センサ14によるセンシング(物理環境情報の取得)が終了したか否かを判定する(St109)。センシングが終了している場合(St109:Yes)、処理が終了する。センシングが終了していない場合(St109:No)、ステップSt101へと処理が戻る。
【0059】
(基地局20へのデータ送信タイミングの決定)
なお、ステップSt106におけるプロセッサ11の判定がYesにならなければ、ステップSt108における基地局20へのデータ送信が行われない。すなわち端末装置10は、上述の推定値に基づいて基地局20へのデータ送信のタイミングを決定している。
【0060】
(物理環境情報以外の情報)
図3に示したフローチャートにおいて、プロセッサ11は、センサ14が取得した物理環境情報に基づいて上述の推定値を算出し、端末装置10から基地局20へのデータ送信が可能な無線環境であるか否かを判定している。しかし、プロセッサ11はセンサ14が取得した物理環境情報以外の情報を、物理環境情報と併せて用いて、推定値を算出してもよい。
【0061】
併せて用いられる、センサ14が取得した物理環境情報以外の情報は、例えば以下のような情報であってよい。
・近距離通信部15が取得する近距離無線通信のRSSI強度
・端末装置10が予め取得しているか、外部から受信した情報である、基地局20と端末装置10との間の距離もしくは高低差を示す情報
・端末装置10が予め取得しているか、外部から受信した情報である、端末装置10が配置された高さを示す情報
・端末装置10が予め取得しているか、外部から受信した情報である、基地局20と端末装置10との間に存在する障害物の数を示す情報
【0062】
併せて用いられる、センサ14が取得した物理環境情報以外の情報は、所定の空間に対応する情報であってもよい。例えば、所定の空間が工場である場合、物理環境情報以外の情報は、例えば以下のような情報であってよい。
・工場の稼働時間
・工場の休止時間
・工場の大きさ
所定の空間に対応する情報は、上記のものには限られない。所定の空間に対応する情報は、プロセッサ11による判定処理に用いられる情報であるため、数値化が可能な情報であることが好ましい。
【0063】
図4は、端末装置10の決定例を示す概念図である。
図4には、無線通信システム100の一部が示されている。ここで、端末装置10から基地局20にデータ送信を行う場合の無線環境は、端末装置毎に異なる場合がある。図示されているように、1台の物体OBJが端末装置10Aの近傍に存在し、もう1台の物体OBJが端末装置10Bの近傍に存在するような場合、端末装置10Aおよび10Bの付近の無線環境は悪くなることがある。このような場合、端末装置10Aおよび10Bは、無線環境の良い端末装置10Cに、基地局20へのデータ送信を委任することができる。
【0064】
複数の端末装置間でのデータ送信の委任プロトコルは、当業者が適宜決定してよい。ここでは、
図3のフローチャートに沿った処理を行う場合の一例を挙げる。データ送信が可能な無線環境ではない(St106:No)と判定した端末装置10A(または10B)は、データ送信を委任する旨のリクエスト(データ)を端末装置10Cに送信する。データ送信が可能な無線環境である(St106:Yes)と判定した端末装置10Cは、受信したリクエストをアクセプトする旨のレスポンス(データ)を、端末装置10A(または10B)に送信する。レスポンス(データ)を受信した端末装置10A(または10B)は、基地局20への送信対象となるデータを端末装置10Cに送信する。なお、端末装置間のデータ送受信は、近距離通信部15を介して行われる(
図2参照)。基地局20への送信対象となるデータを受信した端末装置10Cは、当該データを基地局20へと送信する。なお、端末装置10Cから基地局20へのデータ送信は、通信部12を介して行われる(
図2参照)。
【0065】
このように、グループG02に含まれる3台の端末装置10A、10Bおよび10Cは、推定値に基づいて、基地局に対してデータ送信を行う端末装置10Cを決定する。
【0066】
図5は、データ送信の宛先となる基地局の決定例を示す概念図である。
図5には、無線通信システム100の一部が示されている。無線通信システム100には、複数の基地局が含まれることがある。例えば
図5には、2つの基地局20Aおよび20Bが示されている。ここで、端末装置10から基地局20にデータ送信を行う場合の無線環境は、基地局20毎に異なる場合がある。例えば物体OBJが基地局20Bの近傍に存在する場合、基地局20Bの付近の無線環境は悪くなることがある。一方、基地局20Aの付近には物体OBJが存在しないので、基地局20Aの付近の無線環境は良い。このような場合、端末装置10Bは、基地局20Aがデータ送信の宛先となる基地局であると決定してよい。なお、プロセッサ11は基地局毎に推定値を算出し、より良い無線環境である事を示す推定値が算出された基地局を、宛先であると決定してよい。所定の判定基準を用いる場合も、基地局毎に判定を行ってよい。
【0067】
(周波数チャネルの決定)
また、端末装置10のプロセッサ11は、基地局20へのデータ送信に用いられる周波数チャネルを決定してもよい。例えば学習済みモデルや統計モデルを用いる場合、第一の周波数チャネルについての推定値はαであり、第二の周波数チャネルについての推定値はβである、というように、周波数チャネル毎に推定値が算出されるようなモデルを記憶装置13に保存しておいてよい。所定の判定基準を用いる場合も、周波数チャネル毎に判定を行ってよい。
【0068】
(学習モデルの変更)
図6は、学習モデルの変更処理を例示するフローチャートである。
【0069】
端末装置10の記憶装置13に保存されている学習モデル(学習済みモデル)は、変更(更新)されることができる。本実施の形態においては、端末装置10から基地局20へと送信されたデータに基づいて、基地局20が学習モデルの変更を行い、変更された学習モデルを端末装置10へと送信する。なお、端末装置10と基地局20との間の、学習モデルの変更処理に係るデータの送受信には時間がかかるので、時間帯を決めてこれを行うのが好適である。例えば、所定の空間が工場等である場合は、夜間や、工場が休止している時間帯など、無線環境が悪化していないと推定される時間帯に、基地局20と端末装置10との間のデータ通信が行われる。なお、機械学習等を用いて無線環境が悪化していない時間帯を推定し、推定された時間帯に基地局20と端末装置10との間のデータ通信が行われてもよい。
【0070】
端末装置10は、ステップSt106におけるデータ送信の可否判断の結果を示す情報(送信判断結果情報)を記憶装置13に蓄積しておく。送信判断結果情報には、例えば、送信の可否を示す情報、無線環境を示す推定値、端末装置10がデータを受信する場合の受信信号強度(RSSI)の値、ステップSt106でプロセッサ11が用いた物理環境情報等が含まれてよい。端末装置10は、無線環境が悪化していないと推定される所定の時間帯に、送信判断結果情報を基地局20に送信する(St201)。
【0071】
基地局20のプロセッサ21は、端末装置10から送信判断結果情報を基地局20が受信したか否かを判定する(St202)。基地局20が送信判断結果情報を受信したと判定された場合(St202:Yes)、ステップSt203に処理が遷移する。基地局20が送信判断結果情報を受信していないと判定された場合(St202:No)、ステップSt201へと処理が戻る。
【0072】
基地局20のプロセッサ21は、基地局20が実際に端末装置10からデータを受信したか否かを示す受信結果と、ステップSt202で受信した送信判断結果情報とを照合する(St203)。例えば、送信判断結果情報によれば、端末装置10は基地局20にデータ送信を行った事になっている一方で、基地局20は実際には端末装置10からデータを受信していなかった場合、照合エラーが発生する。端末装置10による判断結果と、基地局20による受信結果に齟齬が生じているからである。例えば、送信判断結果情報によれば、端末装置10は基地局20にデータ送信を行った事になっている一方で、基地局20が実際に端末装置10からデータを受信していた場合は、上述の齟齬は生じておらず、照合エラーは発生していない。
【0073】
ステップSt203で照合エラーが生じていた場合、この齟齬を改善することができれば、端末装置10による判断(ステップSt106)はより精度が高くなる。そのため、基地局20のプロセッサ21は、上述の照合の結果に基づいて、記憶装置23に記憶されている学習モデルを改善する(St204)。この改善は例えば、基地局20が実際に端末装置10からデータを受信したか否かを示す受信結果を示す情報と、上述の送信判断結果情報に含まれる情報とを用いて、記憶装置23に記憶されている学習モデルに対してさらに機械学習を行うことにより実施されてよい。また、上述の照合の結果に基づいて、学習モデルのネットワーク構造を改変することにより行われてもよい。学習モデルの改善方法は、当業者が適宜決定してよいため、ここでは限定しない。
【0074】
基地局20のプロセッサ21は、記憶装置23に記憶されている学習モデルに変更があるか否かを判定する(St205)。学習モデルに変更があると判定された場合(St205:Yes)、ステップSt206に処理が遷移する。学習モデルに変更がないと判定された場合(St205:No)、処理は終了する。
【0075】
ステップSt206において、基地局20のプロセッサ21は、変更済みの学習モデルを規定するデータを、通信部22を介して端末装置10に送信する。このデータ送信は、無線環境が悪化していないと推定される所定の時間帯に行われる。端末装置10のプロセッサ11は、記憶装置13に記憶されている学習モデルに、変更済みの学習モデルを規定するデータを適用して、学習モデルを変更する。なお、変更済みの学習モデルを規定するデータは、学習モデルを規定する全てのデータであってもよく、学習モデルの変更部分(例えば、変更が発生した重み係数の値など)を規定する一部の差分データであってもよい。
【0076】
[第2の実施形態]
【0077】
図7は、端末装置10および基地局20のハードウェア構成例を示すブロック図である。なお、2つの端末装置10Aおよび10Bはそれぞれ、端末装置10の一例を示しており、以後、端末装置10と表記することがある。
【0078】
端末装置10は、プロセッサ11と、通信部12と、記憶装置13と、センサ14とを備える。
【0079】
プロセッサ11は、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いて構成される。プロセッサ11は、端末装置10が備える各構成要素の動作を全体的に統括するための制御処理、端末装置10が備える各構成要素間のデータの入出力処理、データの計算処理、記憶装置13へのデータの保存処理、および記憶装置13からのデータの取得処理等を行う。
【0080】
通信部12は、端末装置10と基地局20との間でデータ通信が可能に接続される。通信部12は、基地局20へ各種データを送信し、基地局20から各種データを受信する。通信部12が行うデータ通信は、例えばLPWAなどの長距離無線通信方式のデータ通信であってよい。
【0081】
記憶装置13は、HDDやROM、RAM等を含んでいてよく、プロセッサ11によって実行される各種プログラムや各種データを格納している。記憶装置13は、機械学習が行われた学習済みモデルや統計モデルを記憶する。記憶装置13は、センサ14が取得した情報を保存する。
【0082】
センサ14は、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得する。所定の空間とは、端末装置10(およびセンサ14)が配置された周囲の空間を意味する。例えば、端末装置10が工場内に配置された場合、センサ14は工場内の物理環境を示す物理環境情報を取得する。
【0083】
物理環境とは、センサ14によって数値化できる環境を意味する。センサ14は、例えば以下のものが含まれる。
・赤外線センサ(所定の空間に存在する熱源を探知。サーモグラフィを含む)
・距離センサ(所定の空間に存在する物体との距離を検知。超音波センサやLiDAR等を含む)
・加速度センサ(端末装置10の移動や振動を検知)
・照度センサ(所定の空間における光を検知)
・温度センサ(所定の空間の温度を検知)
・湿度センサ(所定の空間の湿度を検知)
・気圧センサ(所定の空間の気圧や高度を検知)
・圧力センサ(センサが設けられた箇所に加えられた圧力や、センサが設けられた箇所に乗せられた物体の重量等を検知)
・地磁気センサ(所定の空間に存在する金属を検知)
・音センサ(所定の空間で鳴っている音を検知)
・臭気センサ(所定の空間におけるガスの匂い等を検知)
・カメラ(所定の空間における画素値を取得)
【0084】
なお、端末装置10は、
図2のブロック図に示されているものと同様に、近距離通信部を備えていてもよい。近距離通信部は、端末装置10同士の間でデータ通信が可能に接続される。近距離通信部は例えばBLE(Bluetooth Low Energy)プロトコルで無線通信が可能な通信装置であってよい。本実施の形態では、端末装置10同士の近距離通信を想定していないので、端末装置10は近距離通信部を備えなくともよい。
【0085】
基地局20は、プロセッサ21と、通信部22と、記憶装置23とを備える。
【0086】
プロセッサ21は、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いて構成される。プロセッサ21は、基地局20が備える各構成要素の動作を全体的に統括するための制御処理、基地局20が備える各構成要素間のデータの入出力処理、データの計算処理、記憶装置23へのデータの保存処理、記憶装置23からのデータの取得処理、出力装置3へのデータの出力処理等を行う。
【0087】
通信部22は、基地局20と端末装置10との間でデータ通信が可能に接続される。通信部22は、端末装置10へと各種データを送信し、端末装置10から各種データを受信する。通信部22が行うデータ通信は、例えばLPWAなどの長距離無線通信方式のデータ通信であってよい。
【0088】
記憶装置23は、HDDやROM、RAM等を含んでいてよく、プロセッサ21によって実行される各種プログラムや各種データを格納している。記憶装置23は、機械学習用の学習モデルや統計モデル等を記憶する。記憶装置23は、通信部22が端末装置10から受信した情報を保存する。
【0089】
出力装置3は、基地局20から送信された情報を出力する。出力装置3が出力する情報の形態は、画像や音声など、作業者等が知覚可能な形態であればよい。出力装置3は、例えばディスプレイ装置、または情報出力機能を有するコンピュータ等である。なお、出力装置3は、図示を省略するキーボードやマウス、タッチパネルなどの入力部を備えていてもよく、作業者は入力部から情報を入力することにより、出力装置3を操作することができる。
【0090】
図8は、基地局による示唆情報出力処理を例示するフローチャートである。本実施の形態においては、基地局20がデータを集約して、無線環境と物理環境との間の紐付けを行う。なお、無線環境を示す情報の一態様として、基地局20が端末装置10から受信した信号の強度を示す受信信号強度(RSSI)情報が用いられる。無線通信に関する異常が発生した場合に、基地局20と接続された出力装置3に、受信信号強度が減少した要因を示唆する示唆情報を出力する。
【0091】
端末装置10が備えるセンサ14が、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報(センサ情報)を取得する(St301)。端末装置10のプロセッサ11が、取得された物理環境情報を記憶装置13に保存する(St302)。
【0092】
端末装置10のプロセッサ11は、基地局20にデータを送信する時間(タイミング)であるか否かを判定する(St303)。基地局20にデータを送信する時間である場合(St303:Yes)、ステップSt304に処理が遷移する。基地局20にデータを送信する時間ではない場合(St303:No)、ステップSt301に処理が戻る。
【0093】
端末装置10のプロセッサ11は、Listen Before Talkにより、データ送信に用いる周波数チャネルが開いており、データ送信可能か否かを判定する(St304)。Listen Before Talkについては、無線通信において一般的に行われる処理であるため、詳しい説明は省略する。送信可能と判定された場合(St304:送信可)、ステップSt305に処理が遷移する。送信不可と判定された場合(St304:送信不可)、ステップSt301に処理が戻る。
【0094】
端末装置10のプロセッサ11は通信部12を制御して、基地局20にデータを送信する(St305)。このデータには、端末装置10のセンサ14が取得した物理環境情報が含まれてよい。
【0095】
基地局20のプロセッサ21は、端末装置10から受信した物理環境情報等のデータに対して前処理を行う(St306)。行われる前処理の種類については特に限定しないが、プロセッサ21は、物理環境情報等のデータを、記憶装置23に保存された学習モデルに入力しやすい形態、または統計処理を行いやすい形態に変形する。なお、基地局20のプロセッサ21は、基地局20が端末装置10から受信した信号の強度を示す受信信号強度(RSSI)情報に対しても前処理を行ってよい。
【0096】
基地局20のプロセッサ21は、物理環境情報と、無線環境を示す上述の受信信号強度(RSSI)情報とを紐付ける(St307)。学習モデルが用いられる場合、基地局20のプロセッサ21は、ステップSt306で前処理が行われたデータ(物理環境情報を含む)と、上述の受信信号強度(RSSI)情報とを、記憶装置23に保存された学習モデルに入力する。統計処理が用いられる場合、基地局20のプロセッサ21は、ステップSt306で前処理が行われたデータ(物理環境情報を含む)と、上述の受信信号強度(RSSI)情報を入力パラメータとして用いて統計処理を行う。これらの処理が行われた結果物である学習モデル、または統計処理後の出力データは、基地局20の記憶装置23に記憶される。すなわちプロセッサ21は、端末装置10のセンサ14が取得した物理環境情報と、基地局20が端末装置10から受信した信号の強度を示す受信信号強度(RSSI)情報を組み合わせて記憶装置23に記憶することになる。
【0097】
基地局20のプロセッサ21は、無線通信において異常が発生したか否かを判定する(St308)。異常が発生したと判定された場合(St308:Yes)、ステップSt309に処理が遷移する。異常が発生していないと判定された場合(St308:No)、ステップSt301に処理が戻る。
【0098】
無線通信において異常が発生した場合、基地局20のプロセッサ21は、記憶装置23に記憶された情報に基づいて、受信信号強度(RSSI)が減少した要因を示唆する示唆情報を出力する(St309)。なお、示唆情報の出力先は、例えば出力装置3である。ただし、示唆情報は出力装置3以外の装置(例えば、基地局20と通信可能に接続されたサーバ等)に出力されてもよい。
【0099】
基地局20のプロセッサ21は、センサ14によるセンシング(物理環境情報の取得)が終了したか否かを判定する(St310)。センシングが終了している場合(St310:Yes)、処理が終了する。センシングが終了していない場合(St310:No)、ステップSt301へと処理が戻る。
【0100】
なお、変形例として、ステップSt306およびSt307において基地局20のプロセッサ21は、端末装置10のセンサ14が取得した物理環境情報と、基地局20が端末装置10から受信した信号の強度を示す受信信号強度(RSSI)情報を単に記憶装置23に蓄積してもよい。この場合、後続のステップSt309において基地局20のプロセッサ21は、記憶装置23に記憶されている上記の情報を抽出、および組み合わせて異常原因を推定し、受信信号強度(RSSI)が減少した要因を示唆する示唆情報を出力する。
【0101】
(物理環境情報以外の情報)
図8に示したフローチャートにおいて、基地局20のプロセッサ21は、端末装置10のセンサ14が取得した物理環境情報以外の情報を、物理環境情報と併せて用いてもよい。例えば、プロセッサ21は、物理環境情報以外の情報に対して前処理を行ってよい(ステップSt306)。基地局20のプロセッサ21は、物理環境情報および物理環境情報以外の情報と、無線環境を示す上述の受信信号強度(RSSI)情報とを紐付けてよい(ステップSt307)。また、基地局20のプロセッサ21は、物理環境情報および物理環境情報以外の情報と、基地局20が端末装置10から受信した信号の強度を示す受信信号強度(RSSI)情報を組み合わせて記憶装置23に記憶してもよい。
【0102】
併せて用いられる、センサ14が取得した物理環境情報以外の情報は、例えば以下のような情報であってよい。
・端末装置10の近距離通信部(存在する場合)が取得する近距離無線通信のRSSI強度
・基地局20が予め取得しているか、外部から受信した情報である、基地局20と端末装置10との間の距離もしくは高低差を示す情報
・基地局20が予め取得しているか、外部から受信した情報である、端末装置10が配置された高さを示す情報
・基地局20が予め取得しているか、外部から受信した情報である、基地局20と端末装置10との間に存在する障害物の数を示す情報
【0103】
併せて用いられる、センサ14が取得した物理環境情報以外の情報は、所定の空間に対応する情報であってもよい。例えば、所定の空間が工場である場合、物理環境情報以外の情報は、例えば以下のような情報であってよい。
・工場の稼働時間
・工場の休止時間
・工場の大きさ
所定の空間に対応する情報は、上記のものには限られない。所定の空間に対応する情報は、プロセッサ21による各種処理に用いられる情報であるため、数値化が可能な情報であることが好ましい。
【0104】
(示唆情報の出力例)
図9は、受信信号強度(RSSI)の減少とセンサ14との間の関連度を示す情報の表示例を示す概念図である。
【0105】
ステップSt309において出力装置3等に出力される示唆情報は、受信信号強度(RSSI)の減少とセンサ14との間の関連度を示す情報であってよい。図示した例においては、センサ種別(距離センサ、人感センサ等)、端末装置10を一意に識別する端末番号、および、特徴の重要度を示す棒グラフが、出力装置3に出力されている。特徴の重要度は、各端末装置10が備える各センサ14の、受信信号強度(RSSI)の変動(悪化)に対する影響度(学習モデルや統計処理等に基づく推定値)を示している。この影響度の算出は、学習モデルへの情報入力や統計処理への情報入力(ステップSt307)によって行われてもよく、示唆情報を出力する際(ステップSt309)に行われてもよい。図示されている例では、特徴の重要度が高い上位10件のセンサと、そのセンサの重要度が棒グラフとして出力装置3に表示されている。
【0106】
図10は、受信信号強度(RSSI)が減少する要因となった物理環境情報に対応する位置を示す情報の表示例を示す概念図である。
【0107】
ステップSt309において出力装置3等に出力される示唆情報は、受信信号強度(RSSI)が減少する要因となった物理環境情報に対応する位置を示す情報であってよい。図示した例においては、特徴の重要度(
図9参照)の高いセンサ14の位置(そのセンサ14を備える端末装置10の位置)、センサ14のセンサ種別、センサ値等に基づいて、受信信号強度(RSSI)の減少に対して影響を及ぼしていると推定される所定の空間内の位置が、二重の円領域として出力装置3に表示されている。なお、所定の空間(工場等)に多数配置された端末装置10の位置が、出力装置3上に斜線入りの小さな円として出力装置3に併せて表示されている。基地局20のプロセッサ21はステップSt309において、受信信号強度(RSSI)の減少に対して影響を及ぼしていると推定される所定の空間内の位置を、記憶装置23に記憶(ステップSt307)された情報に基づいて算出してよい。なお当業者は、記憶装置23に記憶された情報の内容に応じて、上述の空間内の位置の算出方法を適宜選択してよい。
【0108】
基地局20のプロセッサ21が出力する示唆情報は上記の例には限られない。当業者は、記憶装置23に記憶された情報の内容に応じて、様々な示唆情報を出力するように、基地局20を構成することができる。
【0109】
受信信号強度(RSSI)が減少した場合にプロセッサ21が示唆情報を出力することにより、例えば工場の管理者や作業者等がこの示唆情報を認識することができる。管理者や作業者は、示唆情報に基づいて、受信信号強度(RSSI)が減少した原因を推測し、受信信号強度(RSSI)を増加させるための適切な対応を取ることができる。
【0110】
なお、第1の実施形態または第2の実施形態において基地局20が行っている処理は、基地局20と通信可能に接続されたサーバ等の、他の情報処理装置により実行されてもよい。
【0111】
(実施例)
以下、本開示の実施形態に基づく実施例を説明する。
【0112】
図11は、端末装置10を工場内に配置した状態を示す概念図である。所定の空間の一例である工場フロアFLRに、複数の端末装置10が配置された。工場フロアFLRの2か所に、基地局20Aおよび20Bが配置された。なお、この工場フロアFLRの内部を金属製のフォークリフトが移動するので、無線環境の変動が予想される。端末装置10がそれぞれ備える複数のセンサが取得した物理環境データが集約され、基地局20に相当するサーバの記憶装置に蓄積された。
【0113】
図12は、データの前処理を例示する図である。基地局20に相当するサーバの記憶装置に蓄積されたデータであるDATA01に対して、前処理が行われた。前処理を行う前のデータであるDATA1の列数は18列、行数は約37万行であった。
【0114】
センサが取得した値に基づく3つのセンサ特徴量を、Av_Distance、Diff_Rate、およびHumanとした。なお、Av_Distanceは、超音波センサの平均距離値(3秒間)である。Diff_Rateは超音波センサの変化率(3秒間)である。Humanは人感センサの反応率(3秒間)である。上記の3つのセンサ特徴量に対し、30秒、1分、5分の時間窓においてそれぞれ中央値(median)、平均値(ave)および標準偏差(std)を算出した。その他、DATA01に対して一般的な前処理を行い、DATA02を得た。前処理を行った後のデータであるDATA2の列数は約400列、行数は約8500行であった。
【0115】
図13は、学習モデルに対して機械学習を行った日の受信信号強度(RSSI)の変動を示すグラフである。
図14は、学習モデルに対して機械学習を行った日とは異なる日の受信信号強度(RSSI)の変動を示すグラフである。
図15は、各特徴量の重要度を示す棒グラフである。
【0116】
図15に示されている棒グラフは各特徴量のインパクト(重要度)が高い順に、上位10位までを表示している。センサ種別は、上述の3つのセンサ特徴量であるAv_Distance、Diff_RateおよびHumanを示している。統計値は、どのような統計量であるか(例えば5分の時間窓における標準偏差、など)を示している。端末番号は、複数配置された端末装置のうちの一つを一意に特定する番号である。周囲の環境を総合的にモデル化できるように、無線環境の予測対象となる第19番目の端末装置に係る特徴量だけでなく、他の端末装置のセンサ情報も用いた機械学習が行われた。なお、あくまで一例であるが、機械学習は、決定木に基づくランダムフォレストを用いたタイプの機械学習であってよい。
【0117】
図13および
図14に示されているそれぞれのグラフの横軸は日時を示している。
図13および
図14に示されているそれぞれのグラフの縦軸は、第19番目の端末装置の受信信号強度(RSSI)の標準偏差を示している。破線で表示された折れ線は実測値を、実線で表示された折れ線は学習モデルによる予測値を示している。機械学習を行った日(
図13)だけでなく、機械学習を行った日とは異なる日(
図14)においても、受信信号強度(RSSI)の標準偏差が示すピークが、実測値と予測値との間でほぼ一致している。これは、機械学習を行った日とは異なる日においても、学習の結果得られた学習モデルによって無線環境の変動をある程度予測可能であることを示している。
【0118】
図16は、端末装置10から基地局20へのデータ送信を行うか否かを切り分ける閾値の設定例を示すグラフである。グラフの横軸、縦軸、折れ線の意味については、
図13および
図14と同様であるので、説明を省略する。ここで、縦軸である受信信号強度(RSSI)の標準偏差は、値が大きいほど、電波の荒れ具合が大きいことを示している。そこで、所定の閾値として2.0を設定した。受信信号強度(RSSI)の標準偏差がこの閾値を超えた場合は、端末装置10から基地局20へのデータ送信を行わず、受信信号強度(RSSI)の標準偏差がこの閾値を超えていない時に端末装置10から基地局20へのデータ送信を行った。すると、データ送信に係るパケットエラーレート(PER)の値に有意な改善が見られた。すなわち、物理環境と無線環境とを機械学習を用いて紐付けて、無線環境の変動を予測することにより、端末装置10から基地局20への適切なデータ送信タイミングを端末装置10単体で(基地局20からのダウンリンクによるデータ取得を行うことなく)決定することができる。
【0119】
以上のように、端末装置10が備えるセンサ14は、端末装置10の周囲の物理環境情報を取得する。なお、センサ14が取得しているのは、基地局の周囲の物理環境情報ではなく、端末装置10の周囲の物理環境情報である。
【0120】
通常、基地局の設置場所は無線のカバーエリアを重視するため、見通しが良く、高い位置であることが多い。よって、基地局の周囲の物理環境は比較的安定的である。一方、端末装置は、一般的にはデータを取得したい対象に設置される。そのため、端末装置の設置位置は無線環境が最優先事項とはされない。すなわち、物理環境が安定的である基地局とは異なり、端末装置の周囲の物理環境は様々となることが多く、無線環境も大きく変動する。本開示の実施形態においては、この物理環境や無線環境が大きく変動する箇所の周囲に配置された端末装置が物理環境情報を取得して、この物理環境情報を上述のように種々の形態で活用することができる。これにより、高い通信品質を保持することができる。
【0121】
また、基地局から遠方に配置された端末装置や、基地局から見通しの利かない位置に配置された端末装置の周囲の無線環境及び物理環境は、基地局側で予測することが困難である。実際、これらの端末装置と基地局との間の通信は、直接波ではなく間接波によって行われる。この場合、通信の経路を把握するのは困難であるため、基地局側からでは端末装置の周囲の無線環境を予測することは困難である。本開示の実施形態は、端末装置の周囲の物理環境情報をセンサによって取得して、例えば上述のように物理環境情報を活用する。そのため、本開示の上記の実施形態により、基地局から遠方に配置された端末装置や、基地局から見通しの利かない位置に配置された端末装置の周囲の無線環境及び物理環境を予測することができる。これにより、高い通信品質を保持することができる。
【0122】
また、無線通信の品質を改善するために、送受信間で通信の状況をモニタリングすることにより、無線パラメータを適切に制御することが一般的に行われている。例えば、スループットの推移、パケットエラーの発生状況、および伝搬チャネルの歪み特性等に基づいて、通信速度等の無線パラメータを適切に制御する手段が知られている。ここで、所定の空間における無線環境は、その空間内を人や物体が動くことにより刻一刻と変化しており、ある基地局と端末装置が通信する際には、直前に通信した時の状況に基づいて無線パラメータを調整することが一般的である。
【0123】
しかしながら、例えば屋内などの無線環境の変化が激しい環境である場合や、通信頻度の少ないアプリケーションによる通信の場合には、前述のような無線パラメータの制御が適切に機能しないことが考えられる。特に、LPWAのような通信間隔が長い無線通信においては、省電力稼働のため、通信間隔は例えば30秒以上と極めて長く、過去の通信状況に基づいて無線パラメータを制御することは難しい。そのため、データを送信する側が単独で無線環境(物理環境)を判断することができれば好適である。さらに、多くのIoT関連の通信システムにおいては、端末装置から基地局へとデータを送信(アップリンクデータ通信)し、基地局側でデータを集約するシステムが多い。そのため、端末装置がアップリンクデータ通信を行う前に、端末装置側で無線環境(物理環境)の予測を行う手段があれば好適である。
【0124】
本開示の実施形態であれば、データを送信(アップリンクデータ通信)する側である端末装置側で、無線環境(物理環境)の予測を行うことができるので、無線通信の品質を適切に改善することができる。
【0125】
以上のように、無線環境推定システム100が、プロセッサ11と、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサ14とを有する一つ以上の端末装置10と、端末装置10との間で無線通信を行う一つ以上の基地局20とを備える。端末装置10は、センサ14が取得した物理環境情報に基づいて、所定の空間における無線環境を示す推定値を算出する。これにより、データの送信タイミングの調整など、推定値に基づいて無線環境を改善する処理を行うことができるので、高い通信品質を保持できる。
【0126】
端末装置10のうちいずれか一つ以上は、推定値に基づいて、端末装置10のうちいずれか一つ以上から基地局20のうちいずれか一つ以上へのデータ送信のタイミングを決定する。これにより、端末装置10は、データ送信のタイミングを基地局20からのダウンリンクデータ通信を伴わずに決定することができる。
【0127】
端末装置10のうちいずれか一つ以上は、推定値に基づいて、基地局20のうちいずれか一つ以上にデータ送信を行う端末装置10、データ送信の宛先となる基地局20、および/または、データ送信に用いられる周波数チャネルを決定する。これにより、端末装置10は、端末装置10および基地局20の配置状態や無線環境の変動に応じて、適切なデータ送信を行うことができる。
【0128】
端末装置10のうちいずれか二つ以上が、センサ14が取得した物理環境情報を共有する。これにより、端末装置10は、自身が取得した物理環境情報だけでなく、他の端末装置が取得した物理環境情報も用いて無線環境の推定を行うことができる。
【0129】
端末装置10のうちいずれか一つ以上は、センサ14が取得した物理環境情報に基づく情報の学習済みモデルへの適用、もしくは物理環境情報に基づく情報を用いた統計処理により、推定値を算出する。これにより、無線環境推定システム100が機械学習または統計処理を用いて上述の推定値を算出することができる。
【0130】
センサ14が、赤外線センサ、距離センサ、加速度センサ、照度センサ、温度センサ、湿度センサ、気圧センサ、圧力センサ、地磁気センサ、音センサ、臭気センサ、およびカメラのうち少なくとも一つ以上を含む。これにより、無線環境推定システム100が多種多様な物理環境情報を用いて無線環境を推定することができる。
【0131】
端末装置10のうちいずれか一つ以上は、センサが取得した物理環境情報以外の情報を、物理環境情報と併せて用いて、推定値を算出する。物理環境情報以外の情報は、近距離無線通信のRSSI強度、基地局と端末装置との間の距離もしくは高低差を示す情報、端末装置が配置された高さを示す情報、および基地局と端末装置との間に存在する障害物の数を示す情報のうちいずれか一つ以上を含んでよい。また、物理環境情報以外の情報が、所定の空間に対応する情報を含んでよい。これにより、無線環境推定システム100が物理環境情報以外の多種多様な情報を用いて無線環境を推定することができる。
【0132】
端末装置10と基地局20とが長距離無線通信方式でデータ通信を行う。これにより、無線通信において、低電力の端末装置10が広い空間をカバーすることができる。
【0133】
プロセッサ11とセンサ14とを有する一つ以上の端末装置10と、端末装置10との間で無線通信を行う一つ以上の基地局20とを備える無線環境推定システム100が、無線環境推定方法を行う。無線環境推定方法は、センサ14が所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するステップと、端末装置10が、センサ14が取得した物理環境情報に基づいて、所定の空間における無線環境を示す推定値を算出するステップとを有する。これにより、データの送信タイミングの調整など、推定値に基づいて無線環境を改善する処理を行うことができるので、高い通信品質を保持できる。
【0134】
端末装置10が、プロセッサ11と、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサ14とを有する。プロセッサ11は、センサ14が取得した物理環境情報に基づいて、所定の空間における無線環境を示す推定値を算出する。これにより、データの送信タイミングの調整など、推定値に基づいて無線環境を改善する処理を行うことができるので、高い通信品質を保持できる。
【0135】
無線環境悪化要因示唆システム100が、プロセッサ21と記憶装置23とを有する一つ以上の基地局20と、基地局20との間で無線通信を行う一つ以上の端末装置10と
を備える。端末装置10のうちいずれか一つ以上は、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサ14を備える。基地局20のうちいずれか一つ以上は、端末装置10のセンサ14が取得した物理環境情報と、基地局20が端末装置10から受信した信号の強度を示す受信信号強度情報とを記憶装置23に記憶し、記憶装置23に記憶された情報に基づいて、受信信号強度が減少した要因を示唆する示唆情報を出力する。これにより、受信信号強度が減少した場合に、受信信号強度が減少した要因を管理者や作業者に示唆することができる。従って、管理者や作業者が、受信信号強度が減少した要因を容易に除去できるので、高い通信品質を保持できる。
【0136】
示唆情報は、受信信号強度の減少とセンサ14との間の関連度を示す情報であってよい。これにより、管理者や作業者が、受信信号強度の減少の要因であると推定されるセンサ14を特定することができる。
【0137】
示唆情報は、受信信号強度が減少する要因となった物理環境情報に対応する位置を示す情報であってよい。これにより、管理者や作業者が、受信信号強度の減少の要因であると推定される位置を特定することができる。
【0138】
基地局20のうちいずれか一つ以上は、機械学習モデルの適用または統計処理に基づいて、センサ14が取得した物理環境情報と、基地局20が端末装置10から受信した信号の強度を示す受信信号強度情報とを組み合わせて記憶装置23に記憶する。これにより、無線環境悪化要因示唆システム100が、機械学習モデルまたは統計処理を用いて示唆情報を出力することができる。
【0139】
センサ14が、赤外線センサ、距離センサ、加速度センサ、照度センサ、温度センサ、湿度センサ、気圧センサ、圧力センサ、地磁気センサ、音センサ、臭気センサ、およびカメラのうち少なくとも一つ以上を含む。これにより、無線環境悪化要因示唆システム100が多種多様な物理環境情報を用いて無線環境を推定することができる。
【0140】
端末装置10と基地局20とが長距離無線通信方式でデータ通信を行う。これにより、無線通信において、低電力の端末装置10が広い空間をカバーすることができる。
【0141】
プロセッサ21と記憶装置23とを有する一つ以上の基地局20と、基地局20との間で無線通信を行う一つ以上の端末装置10とを備えた無線環境悪化要因示唆システム100が、無線環境悪化要因示唆方法を行う。端末装置10のうちいずれか一つ以上は、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得するセンサ14を備える。基地局20のうちいずれか一つ以上が、端末装置10のセンサ14が取得した物理環境情報を受信するステップと、物理環境情報と、基地局20が端末装置10から受信した信号の強度を示す受信信号強度情報とを記憶装置23に記憶するステップと、記憶装置23に記憶された情報に基づいて、受信信号強度が減少した要因を示唆する示唆情報を出力するステップとを有する。これにより、受信信号強度が減少した場合に、受信信号強度が減少した要因を管理者や作業者に示唆することができる。従って、管理者や作業者が、受信信号強度が減少した要因を容易に除去できるので、高い通信品質を保持できる。
【0142】
基地局20がプロセッサ21と記憶装置23とを備える。プロセッサ21は、所定の空間における物理環境を示す物理環境情報を取得する。プロセッサ21は、物理環境情報と、受信した信号の強度を示す受信信号強度情報とを記憶装置23に記憶する。プロセッサ21は、記憶装置23に記憶された情報に基づいて、受信信号強度が減少した要因を示唆する示唆情報を出力する。これにより、受信信号強度が減少した場合に、受信信号強度が減少した要因を管理者や作業者に示唆することができる。従って、管理者や作業者が、受信信号強度が減少した要因を容易に除去できるので、高い通信品質を保持できる。
【0143】
以上、図面を参照して、本開示に係る無線環境推定システム、無線環境推定方法、端末装置、無線環境悪化要因示唆システム、無線環境悪化要因示唆方法、および基地局について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各種の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本開示は、高い通信品質を保持できる無線環境推定システム、無線環境推定方法、端末装置、無線環境悪化要因示唆システム、無線環境悪化要因示唆方法、および基地局として有用である。
【符号の説明】
【0145】
3 出力装置
10 端末装置
11 プロセッサ
12 通信部
13 記憶装置
14 センサ
15 近距離通信部
20、20A、20B 基地局
21 プロセッサ
22 通信部
23 記憶装置