(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057524
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】移動体の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20220404BHJP
【FI】
G05D1/02 L
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165826
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】浦田 昇尚
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301BB14
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG12
(57)【要約】
【課題】移動体の自己位置推定の精度向上と共に、自己位置推定の効率化を図ることができる移動体の制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】周囲の物体の有無を検出するセンサ15を有しており、出発点から目的地まで自律的に移動する移動体10の制御装置20に、センサ15によって検出されたスキャンデータ130及び移動体10が移動する領域の画像地図データ120を記憶する、記憶装置40と、スキャンデータ130から、目的地の周辺の局所地図データ140を生成する、局所地図生成部31と、画像地図データ120に基づいて、移動体10を出発点から目的地の周辺まで移動させている間に、画像地図データ120に基づいた移動制御から局所地図データ140に基づいた移動制御に連続的に切り替える、制御部30と、を具備する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の物体の有無を検出するセンサを有しており、出発点から目的地まで自律的に移動する移動体において、
前記センサによって検出されたスキャンデータ及び前記移動体が移動する領域の画像地図データを記憶する、記憶装置と、
前記スキャンデータから、前記目的地の周辺の局所地図データを生成する、局所地図生成部と、
前記画像地図データに基づいて、前記移動体を前記出発点から前記目的地の周辺まで移動させている間に、前記画像地図データに基づいた移動制御から前記局所地図データに基づいた移動制御に連続的に切り替える、制御部と、
を具備する、移動体の制御装置。
【請求項2】
前記局所地図データは、前記目的地の周辺における前記移動体の自己位置と、前記スキャンデータと、から生成される、請求項1に記載の移動体の制御装置。
【請求項3】
前記目的地の周辺の移動制御において、前記移動体の位置及び経路に基づき求めた前記移動体の移動速度が、前記移動体の直前の移動速度と所定の閾値以上の差を生じる場合は、移動速度の差が小さくなるように該移動速度を変更する、速度制御部を備えた、請求項1又は請求項2に記載の移動体の制御装置。
【請求項4】
周囲の物体の有無を検出するセンサを有する移動体を、出発点から目的地まで自律的に移動させるための制御方法であって、
前記センサによって検出されたスキャンデータ及び前記移動体が移動する領域の画像地図データを、前記移動体に記憶させるステップと、
前記スキャンデータから、前記目的地の周辺の局所地図データを生成するステップと、
前記画像地図データに基づいて、前記出発点から前記目的地の周辺まで前記移動体を移動させるステップと、
前記移動体が、前記画像地図データに基づいた移動制御から前記局所地図データに基づいた移動制御に連続的に切り替えて、前記目的地の周辺から前記目的地まで前記移動体を移動させるステップと、
を具備する、移動体の制御方法。
【請求項5】
前記局所地図データは、前記目的地の周辺における前記移動体の自己位置と、前記スキャンデータと、から生成される、請求項4に記載の移動体の制御方法。
【請求項6】
前記目的地の周辺の移動制御において、前記移動体の位置及び経路に基づき求めた前記移動体の移動速度が、前記移動体の直前の移動速度と所定の閾値以上の差を生じる場合は、移動速度の差が小さくなるように該移動速度を変更するステップを備えた、請求項4又は請求項5に記載の移動体の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主に、産業用途で使用されており、人間が運転操作を行わなくても自律で走行(移動)することができる移動体(車両)である、AGV(Automated Guided Vehicle)についての様々な技術が提案されている。AGVの自律移動において、経路を計画するための地図は、カメラによる画像から作成された地図が用いられることが多い。このような画像ベースの地図表現は、移動可能領域の表現が簡便であることから、経路計画に適している。その一方で、地図の解像度は、画像データの解像度によって決定されることから、地図に基づくAGVの自己位置推定及び位置決めの精度は、概ね画像データの解像度に依存している。このため、一定程度の誤差が生じ得るAGVの位置/姿勢を修正するための手法も提案されている。
【0003】
AGVの位置/姿勢を修正するための手法は、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1には、出発地点から目的地まで経路に沿って自律的に移動する車両が開示されている。この車両は、自律移動に先立ち、出発地点から目的地までの全体的な経路を設定する。具体的には、例えば、出発地点及び目的地だけをプロットし、出発地点と目的地との間の経路は、車両の移動能力及び車両に搭載された制御装置等の処理能力に基づいて自動的に設定される。自律移動の際には、車両は、デジタルマップ中における自己(車両)位置を特定し、特定した自己位置に基づいて、経路に沿って目的地まで移動する。しかしながら、経路設定や位置特定には、一定の誤差が含まれるため、目的地において目標とする位置/姿勢と、車両が目的地近傍に到達した際の実際の位置/姿勢とは、異なり得る。したがって、特許文献1では、車両は、目的地近傍に到着すると、一旦停止する。停止した車両は、センサを用いて、停止位置周辺の環境のデータを検出すると共に、検出した環境データと目的地において目標とする位置/姿勢とを比較する。車両は、比較した結果に基づき、車両の位置/姿勢のずれが、所定の許容値以内に収まるように、車両を自動的に移動させる。しかしながら、車両の位置/姿勢を修正するために、車両の停止、停止位置周辺の環境のデータの検出、車両の移動といった処理を繰り返して移動する。このため、出発地点から目的地までの移動において、車両の位置/姿勢の修正にかかる時間の割合が大きくなる事に加えて、通常、架台上の積載物に衝撃を与えないように、低加速度かつ低速度での移動が求められる車両の移動時間は、さらに増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、移動体の自己位置推定の精度向上と共に、自己位置推定の効率化を図ることができる移動体の制御装置及び制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、周囲の物体の有無を検出するセンサを有しており、出発点から目的地まで自律的に移動する移動体において、センサによって検出されたスキャンデータ及び移動体が移動する領域の画像地図データを記憶する記憶装置と、スキャンデータから、目的地の周辺の局所地図データを生成する局所地図生成部と、画像地図データに基づいて、移動体を出発点から目的地の周辺まで移動させている間に、画像地図データに基づいた移動制御から局所地図データに基づいた移動制御に連続的に切り替える制御部と、を具備する移動体の制御装置が提供される。
【0007】
さらに、本発明によれば、周囲の物体の有無を検出するセンサを有する移動体を、出発点から目的地まで自律的に移動させるための制御方法であって、センサによって検出されたスキャンデータ及び移動体が移動する領域の画像地図データを、移動体に記憶させるステップと、スキャンデータから、目的地の周辺の局所地図データを生成するステップと、画像地図データに基づいて、出発点から目的地の周辺まで移動体を移動させるステップと、移動体が、画像地図データに基づいた移動制御から局所地図データに基づいた移動制御に連続的に切り替えて、目的地の周辺から目的地まで移動体を移動させるステップと、を具備する、移動体の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
制御装置は、記憶装置を備えているため、センサによって検出されたスキャンデータ及び移動体が移動する領域の画像地図データを、移動体が出発地点から目的地への移動を開始する前に予め記憶させておくことができる。移動体は、出発地点を出発して目的地の周辺まで移動させている間に、局所地図生成部によって、記憶装置に記憶されたスキャンデータから目的地の周辺の局所地図データを生成することができる。このため、局所地図データを生成するためだけに、移動体を、目的地の周辺において停止する必要がなくなる。これにより、移動体の自己位置推定を、効率よく行うことができると共に、移動体の出発地点から目的地への移動時間を短縮することができる。
【0009】
移動体の制御方法によれば、移動体は、センサによって検出されたスキャンデータ及び移動体が移動する領域の画像地図データを記憶した上で、出発地点から目的地への移動を開始することができる。移動を開始した移動体は、目的地の周辺まで移動させている間に、スキャンデータから目的地の周辺の局所地図データを生成する。このため、移動体は、局所地図データを生成するためだけに、目的地の周辺において停止する必要がなくなる。これにより、移動体は、効率よく自己位置推定を行うことができると共に、移動体の出発地点から目的地への移動時間を短縮することができる。さらに、出発地点から目的地の周辺までは、画像地図データを使用して移動し、目的地の周辺に到着した際に、画像地図データから局所地図データの使用に連続的に切り替えて、目的地まで移動する。局所地図データを使用するように切り替えられた移動体は、スキャンデータを使用して、移動制御を行った上で、目的地の周辺から目的地まで移動する。これにより、移動体の自己位置推定の精度を向上した上で、目的地の周辺から目的地まで移動することができる。
【0010】
本発明に係る移動体の制御装置及び制御方法によって、移動体の自己位置推定の精度向上と共に、自己位置推定の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る移動体の概略的な側面図を示す。
【
図2】
図2は、実施形態に係る移動体が移動する工場内の概略的な平面図を示す。
【
図3】
図3は、移動体の制御装置の構成についてのブロック図を示す。
【
図4】
図4は、移動体により生成される画像地図データ及び点群データを模式的に示す。
図4(A)は、同じ物体に対する画像地図データと点群データとの関係を模式的に示しており、
図4(B)は、各位置において取得される点データの関係を模式的に示す。
【
図5】
図5は、局所地図データの生成を模式的に示す。
【
図6】
図6は、移動体の制御方法をフローチャートとして示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る移動体の制御装置及び制御方法を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある
【0013】
図1は、実施形態に係る移動体10を示す概略的な側面図を示す。ここでは、移動体10の一例として、工場100(
図2参照)等において、産業用途で使用されており、人間が運転操作を行わなくても自律で走行(移動)することができる車両が示されている。
【0014】
具体的には、移動体10は、AGVとされている。移動体10は、車両本体11と、1つ又は複数の車輪12と、1つ又は複数のロータリエンコーダ13と、アーム14と、センサ15と、カメラ16と、移動体10の自律走行を制御するための制御装置20と、を備えている。制御装置20は、移動体10のいくつかの構成要素を制御するために、これらの構成要素と有線又は無線によって、通信可能に接続されている。なお、上記構成に限らず、移動体10は、他の構成要素を更に備えてもよい。
【0015】
車両本体11の下方側には、移動のための車輪12が設けられており、車輪12は、これを回転させるための、例えば、サーボモータ等の駆動装置(図示省略)と連結されている。また、車輪12の回転数を検出するために、ロータリエンコーダ13が、車輪12毎に車輪12に隣接して配置されている。ロータリエンコーダ13は、検出した回転数を制御装置20に送信するために、有線又は無線によって、制御装置20と通信可能に接続されている。
【0016】
アーム14は、例えば、多軸多関節型ロボットとされており、車両本体11の上部に取り付けられている。アーム14の先端には、工具T又はワークW等(共に、
図2参照)の物品を保持するためのハンド18、グリッパ又はチャック等が設けられている。また、アーム14の先端側には、カメラ16が設けられている。カメラ16は、CMOSカメラ又はCCDカメラとされているが、これ限らず、カラーカメラ又は白黒カメラとされてもよい。カメラ16は、有線又は無線によって、制御装置20と通信可能に接続されている。これにより、カメラ16は、取得した画像を制御装置20に送信することができ、制御装置20は、カメラ16によって取得された画像に基づいて、アーム14の駆動装置(図示省略)に対して指令を送信することができる。
【0017】
車両本体11の前方側には、移動体10の周囲における物体の有無を検出するために、レーザセンサ等のセンサ15が取り付けられている。なお、車両本体11の周囲又は中心にセンサ15が取り付けられてもよい。センサ15は、例えば、センサ15から発射したレーザが物体に当たって、戻ってくるまでの時間によって、移動体10の周囲における物体の有無及び当該物体までの距離を測定することができる。また、センサ15は、測定した物体までの距離等のデータを制御装置20に送信するために、有線又は無線によって、制御装置20と通信可能に接続されている。なお、以下の説明では、センサ15は、車両本体11の前方側に取り付けられているとして説明するが、これに限らず、例えば、アーム14等の移動体10の他の部分や車両本体11の他の位置に取り付けられてもよい。さらに、センサ15は、レーザセンサであるとして説明するが、これに限らず、例えば、デプスカメラ等の他の種類のセンサが設けられてもよい。
【0018】
図2には、移動体10が移動する工場100内の概略的な平面図を示す。本実施形態に係る移動体10は、1つ又は複数の工作機械50が設けられた工場100内を移動する。工場100には、1つ又は複数の工作機械50と、1つ又は複数のストッカ60と、1つ又は複数のテーブル70と、工場管理システム90と、が設けられている。なお、工場100には、これらに限らず、他の設備が設けられてもよい。また、以下の説明では、移動体10は、工場100内を移動するものとして説明するが、これに限らず、例えば、倉庫等の他の施設内を移動するように構成されてもよい。
【0019】
工場100内には、工作機械50として、マシニングセンタが設けられている。このため、工作機械50は、工具TによってワークWを加工するための主軸51と、複数の工具Tを格納するためのツールマガジン52と、を備えている。工場内の所定の場所には、ワークW又は、例えば、工具等の他の物品を保管するためのストッカ60が配置されている。また、テーブル70上には、工具T又は、例えば、ワークW等の他の物品が配置されている。なお、ここでは、工作機械50として、マシニングセンタが設けられているとして説明したが、これに限らず、マシニングセンタ以外の他の工作機械が設けられてもよい。さらに、ここでは、工作機械50は、主軸51と、ツールマガジン52と、を備えているとして説明したが、これに限らず、工作機械は、更に他の構成要素を備えていてもよい。
【0020】
また、工場100内には、工場100内のいくつかの構成要素(設備)を制御するための工場管理システム90が設けられている。工場管理システム90は、PLC(Programmable Logic Controller)、PC(Personal Computer)、サーバー、又は、タブレット等を含んで構成されている。また、工場管理システム90は、プロセッサ、記憶部、表示装置、及び、入力装置等を有する。工場管理システム90は、有線又は無線によって、工場100において制御する必要のある構成要素と通信可能に接続されている。
【0021】
工場100内は、1つ又は複数の壁80によって仕切られており、移動体10は、壁80や工作機械50等の工場100内に配置された設備と衝突しないように、壁80によって仕切られた床の上を移動する。具体的には、移動体10は、工作機械50、ストッカ60、及び、テーブル70等の間を自律的に移動し、これらの間でワークW、工具T、又は、他の物品を搬送するように構成されている。工場管理システム90は、目的地を含む様々な指令を移動体10に送信することができ、移動体10は、工場管理システム90からの指令に基づいて工場100内を移動することができる。
【0022】
図3は、移動体10の制御装置20の構成についてのブロック図を示す。制御装置20は、制御部としてのプロセッサ30と、記憶装置40と、インタフェース45と、を含んで構成されて。制御装置20は、PLC又はPC等を含んで構成されてもよい。プロセッサ30は、例えば、1つ又は複数のCPU等によって構成されており、後述するように、移動体10の移動を制御する。また、記憶装置40は、例えば、1つ又は複数のハードディスクドライブ、ROM(read only memory)及び/又はRAM(random access memory)等を含んで構成されている。さらに、インタフェース45は、例えば、I/Oポート等によって構成されている。これらの制御装置20の構成要素は、図示しないバスによって互いに接続されている。
【0023】
制御装置20は、更に他の構成要素を含んで構成されてもよく、具体的には、液晶ディスプレイ及び/又タッチパネル等の表示装置、及び、マウス、キーボード及び/又タッチパネル等の入力装置を備えてもよい。
【0024】
プロセッサ30は、移動体10の移動を制御するための構成として、局所地図生成部31と、移動経路切り替え部32と、位置推定部33と、ロケーション登録部34、速度制御部35と、を備えている。これらの構成部分は、具体的には、プロセッサ30と移動体10に組み込まれた回路又はオペレーティングシステム等によって実行される。オペレーティングシステムとしては、例えば、米国のオープンソースロボティクス財団によって管理されるROS(Robot Operating System)のような、ロボット用に開発された様々なオペレーティングシステムが使用されてもよい。なお、これらに限らず、移動体10に組み込まれたプログラムを用いて実行されてもよい。プログラムは、プロセッサ30に直接記録されていてもよく、記憶装置40に記憶されたプログラムをプロセッサ30から呼び出して実行されてもよい。
【0025】
記憶装置40は、移動体10が、出発地点から目的地への移動を開始する前に、制御装置20によって、予め計測されたスキャンデータ130及び生成された画像地図データ120を記憶する。記憶装置40には、移動制御の直前に予め計測されたスキャンデータ130及び生成された画像地図データ120に限らず、過去の移動制御において計測、生成されたデータ130、140も記憶されている。記憶されているスキャンデータ130及び画像地図データ120には、時間、場所等のインデックスが付されており、記憶装置40には、これらのインデックスを用いて検索可能なデータベースが構築されている。
【0026】
ここで、画像地図データ120とは、移動体10の自己位置や移動体10の目的地へ向けた移動量(速度)及び移動方向を決定するための移動体10の移動経路における環境全体の情報である。環境全体の情報とは、具体的には、環境全体を細かい格子状に区切り、各格子を「障害物」、「障害物なし」、「未観測」の3つに分類された情報である。画像地図データ120は、移動体10が、目的地まで自律移動する前に予め生成する必要があり、一般的には、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)手法を用いて生成される。SLAM手法によれば、1)移動体10の自己位置を推定する。2)移動体10の自己位置を推定するのと同時に、推定した自己位置から工場100全体の環境をセンシングする。3)センシングした範囲の格子を「障害物」又は「障害物なし」に分類する。4)移動体10は、工場100内の別の地点へ移動し、自己位置を推定すると共に、推定した自己位置から工場100全体の環境をセンシングする。5)移動体10は、画像地図データ120を生成するのに十分な範囲を網羅するまで、工場100内を移動して、1)~4)を繰り返す。このようなステップで、移動体10は、画像地図データ120の生成を行う。ここでは、移動体10に設けられたセンサ15によって取得されたデータに基づいて画像地図データ120が生成される。このとき、移動体10の工場100内における移動は、オペレータによって手動で操作されてもよく、又は、予め移動体10に入力した地図データに基づき移動体10が自律走行してもよく、又は、作成中の画像地図に基づき自動的に移動経路を算出し、移動体10が自律走行してもよい。生成された画像地図データは、記憶装置40に記憶される。
【0027】
また、スキャンデータ130とは、移動体10のセンサ15によって、一定の頻度/間隔でスキャン(測定)された点の集合(点群)である。具体的には、移動体10は、工場100内を移動し、工場100内の各地点(位置)において、センサ15から、一定のインターバルで、工場100内における工作機械50、ストッカ60、テーブル70及び壁80等の物体にレーザを照射する。物体に当たったレーザが戻ってくるまでの時間を測定することによって、移動体10とこれらの物体との間隔(距離)を測定することができる。移動体10は、工場100内の各位置において、そこから照射できる範囲内での点データ132を取得する。このように計測した点データ132を集約(位置合わせ)することによって、工場100内に配置された各物体表面の形状を点データ132の集合体であるスキャンデータ130として認識することができる。点データ132の位置合わせには、ICP(Iterative Closest Point)等の手法が用いられる。一方、センサ15によって検出されない領域(例えば、物体が配置されていない単なる空間)のデータは、スキャンデータ130には含まれない。通常、スキャンデータ130は、移動体10の自己位置(ここでは、レーザを照射した位置)データと併せて取得するため、移動体10の重心を基準とする座標値(u、v、w座標)として得られるスキャンデータ130の各点データ132は、例えば、工場100内の基準点に対する座標値(x、y、z座標)へ座標変換することができる。このように取得されるスキャンデータ130の精度は、センサ15の分解能に依存する。生成されたスキャンデータ130は、記憶装置40に記憶される。
【0028】
図4(A)及び
図4(B)に、工場内100内において、移動体10により生成される画像地図データ120及びスキャンデータ130を模式的に示す。図中に示された例では、移動体10は、工場100内の壁80に沿って移動しており、時間T1からT2、さらに、T3までの間における移動体10が同じ図中にまとめて示されている。移動体10の制御装置20は、各時間(各位置)において、センサ15によって取得された工場100内のスキャンデータに基づいて、画像地図データ120を生成する。
図4(A)中には、壁80に相当する「障害物」としての画像地図データ120が示されている(図中の黒四角部分)。なお、「障害物なし」及び「未観測」に相当するデータは、図中には明示的に示されていないが、「障害物」についてのデータと共に画像地図データ120に含まれている。
【0029】
図4(B)には、各時間(各位置)において取得された点データ132の関係を示すために、図中における移動体10の進行方向(U方向)の位置を合わせた上で、
図4(A)中に示されている各時間の点データ132を分離して示す。同じく図中には、各時間における移動体10も示す。図中に示されるように、各時間(各位置)で計測できる点データ132の範囲は、空間的に制限されるため、各位置で取得した点データ132を集約してスキャンデータ130を生成する。このとき、
図4(A)に示されるように、点データ132は、工場100内の同じ物体(位置)であっても、完全に一致することなく、点データ132同士の誤差を生じ得る。このため、ICP等の手法によって、誤差を最小化するように位置合わせされる。
【0030】
スキャンデータ130及び画像地図データ120が、記憶装置40に記憶された状態で、例えば、オペレータや工場管理システム90から移動指令を受けると、移動体10は、画像地図データ120上において、出発地点の座標値から目的地の座標値までの全体経路を生成する。また、目的地の座標値は、予め入力された位置、又は、工場管理システム90から指令された位置を目的地としてもよい。全体経路を生成した移動体10は、画像地図データ120を参照しながら、車両本体11に配置された駆動回路17を制御して、車輪12を回転させることにより、自律移動を開始する。
図3に示されるように、制御装置20は、局所地図生成部31を備えており、局所地図生成部31は、出発地点を出発して、目的地の周辺に到達するまでの間に、スキャンデータ130から、目的地の周辺の局所地図データ140を生成することができる。
【0031】
ここで、局所地図データ140は、目的地から最短の位置におけるスキャンデータ130を基準データとすると共に、目的地の周辺におけるスキャンデータ130だけを統合することによって、生成することができる。具体的には、制御装置20は、記憶装置40に記憶されている(データベースに登録されている)、移動体10のスキャンデータ130を検索して、目的地から最短の位置にあるスキャンデータ130を特定すると共に、特定されたスキャンデータ130から所定の範囲内にあるスキャンデータ130を抽出する。そして、目的地から最短の位置におけるスキャンデータ130を基準にして、所定の範囲内にあるスキャンデータ130をICP手法等に基づいて位置合わせし、統合したデータを局所地図データ140としている。
【0032】
図5には、抽出方法の一例を示す。ここでは、特定された移動体10の自己位置から半径dの範囲内に位置するスキャンデータ130だけを抽出して、局所地図データ140が生成されている。目的地から最短の位置にある自己位置に対応するスキャンデータ130を基準にすると共に、自己位置から所定の範囲内にあるスキャンデータ130だけを使用することによって、局所地図データ140を生成する際の誤差の蓄積を抑制することができる。さらに、局所地図データ140は、目的地の周辺におけるスキャンデータ130だけを抽出するため、処理するデータ数を低減することができる。これにより、移動体10の自己位置推定の時間を、短縮することができる。
【0033】
なお、以下の説明では、目的地の周辺におけるスキャンデータ130とは、特定された自己位置から半径dの範囲内に位置するスキャンデータ130であるとして説明するが、これに限らない。例えば、移動体10の特定された自己位置から半径dの範囲内、かつ、移動体10の進行方向を基準として、平面視で所定の角度(所定の方位)の範囲内のスキャンデータ130が抽出されてもよい。また、スキャンデータ130を抽出する、特定された自己位置からの所定の範囲は、目的地の周辺に配置された物体の量、空間の広さ等に応じて、適宜決定されてよい。
【0034】
移動体10が、目的地の周辺に到着すると、制御装置20の移動経路切り替え部32は、移動体10が参照するデータを画像地図データ120から局所地図データ140に連続的に切り替えることができる。位置推定部33は、スキャンデータ130を使用して、移動体10の自己位置を推定する。具体的には、移動体10の現在地におけるスキャンデータ130と局所地図データ140とを対比する(位置合わせする)ことによって、移動体10の現在地における座標値を求める。これにより、移動体10の制御装置20は、局所地図データ140及び画像地図データ120の一方又は両方を使用して、目的地の周辺から目的地までの移動制御を行うことができる。位置推定部33は、移動体10の現在地における座標値が登録された局所地図データ140及び画像地図データ120の一方又は両方を使用して、移動体の位置決めを行う。具体的には、予め生成した全体経路からのずれを算出することによって、移動体10が、全体経路に沿って目的地へ移動するための、移動体10の移動量及び方位(方向)を算出する。
【0035】
本実施形態(本発明)で高精度位置決めを行う場合は、画像地図データ120作成後、ロケーション登録部34において局所地図データ140での目的地の座標値を取得する。具体的には、移動体10が目的地に移動後、画像地図データ120上で現在地における座標の近傍となるスキャンデータ130をデータベースから取得し、周辺のスキャンデータ130を用いて局所地図データ140を生成する。生成した局所地図データ140に対して、現在地におけるスキャンデータ130の位置合わせを行うことによって、局所地図データ140上での現在地における座標値を算出し、画像地図データ120と局所地図データ140上での現在地における座標値をロケーション登録部34に登録する。また、座標値については、画像地図データ120だけでなく、スキャンデータ130上での座標値も登録することができる。
【0036】
速度制御部35は、算出された移動体10の移動量に基づいて移動体10の移動速度を設定する。さらに、速度制御部35は、設定された移動速度から各車輪12の回転数を設定し、駆動回路17を介して車輪12へ伝達する(
図2及び
図3参照)。また、速度制御部35は、例えば、移動体10が参照するデータを局所地図データ140に切り替えた直後の移動体10の移動速度が、移動体10が参照するデータを切り替える直前の速度と所定の閾値以上の差を生じる場合は、例えば、移動速度を減速する、又は、大きな加速度が生じない程度に増速する等のように、移動速度の差が小さくなるように修正する。
【0037】
本発明の作用及び効果について、
図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0038】
ステップS10では、起動された移動体10は、工場100内を移動して、工場100内における自己位置、すなわち、工場100内の基準点に対する位置(x、y、z座標値)及び工場100内の基準座標系(xyz座標系)に対する姿勢(方位)のデータを取得する。また、ステップS20では、自己位置データを取得した位置において、センサ15により取得したデータから画像地図データ120を生成すると共に、センサ15を用いて工場100内に設置及び配置された物体をスキャンすることによって、スキャンデータ130を生成する。ステップS10及びステップS20は、移動体10の自律移動に必要な領域を網羅するまで繰り返される。完成した画像地図データ120及びスキャンデータ130は、記憶装置40に記憶される。なお、例えば、既に移動経路を含むデータ120、130が記憶装置40のデータベースに登録されている場合は、ステップS10及びステップS20は、省略されてもよい。
【0039】
ステップS30では、移動体10は、画像地図データ120上において、出発地点の座標値から目的地の座標値までの全体経路を生成する。全体経路を生成した移動体10は、画像地図データ120を参照しながら、車両本体11に配置された駆動回路17を制御して、自律移動を開始する。ステップS40では、制御装置20は、移動体10の自律移動の開始前又は開始と同時に、生成した全体経路及び画像地図データ120に基づいて、局所地図データ140の使用の有無(要否)を決定する。局所地図データ140を使用しない場合は、ステップS50において、移動体10は、画像地図データ120だけを参照して、目的地まで移動する。
【0040】
局所地図データ140を使用する場合は、ステップS60へ移行し、移動体10は、出発地点を出発後、目的地の周辺に到達するまでの間に、局所地図データ140を生成する。これにより、目的地の周辺において停止する必要がなくなるため、移動体10の自己位置推定を、効率よく行うことができると共に、移動体10の出発地点から目的地への移動時間を短縮することができる。
【0041】
局所地図データ140は、目的地から最短の位置におけるスキャンデータ130を基準データとすると共に、目的地の周辺におけるスキャンデータ130だけを抽出することによって、生成することができる。例えば、制御装置20は、記憶装置40に記憶されている(データベースに登録されている)、移動体10の自己位置のデータを検索して、目的地から最短の位置にあるスキャンデータ130を特定すると共に、特定されたスキャンデータ130から所定の範囲内にあるスキャンデータ130を抽出する。これにより、局所地図データ140の誤差の蓄積を抑制することができる。また、局所地図データ140は、目的地の周辺におけるスキャンデータ130だけを抽出するため、処理するデータ数を低減し、移動体10の自己位置推定の時間を、短縮することができる。
【0042】
ステップS70において、移動体10は、局所地図データ140の生成後も、目的地の周辺までは、画像地図データ120だけを参照して移動する。ステップS80では、目的地の周辺に到着した移動体10の制御装置は、参照する地図データを画像地図データ120から局所地図データ140へ切り替える。これにより、移動体10は、スキャンデータを使用して自己位置推定及び位置決めを行うことができるため、移動体の自己位置推定の精度を向上した上で、目的地の周辺から目的地まで移動することができる。
【0043】
ステップS90では、速度制御部35は、移動体10が参照するデータを局所地図データ140に切り替えた直後の移動体10の移動速度が、切り替える直前の速度と所定の閾値以上の差を生じる場合は、例えば、移動速度を減速する、又は、大きな加速度が生じない程度に増速するように修正する。これにより、移動体10の加速度が大きくなることを抑制し、例えば、移動体10の架台上の積載物に衝撃が生じることを抑制することができる。
【0044】
ステップS100では、移動体10は、局所地図データ140を参照して目的地まで移動を続け、目的地に到着すると、ステップS110において、移動体10は、停止する。
【0045】
以上の方法を通じて、移動体を制御することによって、移動体の自己位置推定の精度向上と共に、自己位置推定の効率化を図ることができる。
【0046】
移動体の制御装置及び制御方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者が想到する範囲において、上記の実施形態の様々な変形が本発明の実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
10 移動体
15 センサ
20 制御装置
30 プロセッサ(制御部)
31 局所地図生成部
40 記憶装置
120 画像地図データ
130 スキャンデータ
140 局所地図データ
【手続補正書】
【提出日】2021-11-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の物体の有無を検出するセンサを有しており、出発点から目的地まで自律的に移動する移動体において、
前記センサによって検出されたスキャンデータ及び前記移動体が移動する領域の画像地図データを記憶する、記憶装置と、
前記スキャンデータから、前記目的地の周辺の局所地図データを生成する、局所地図生成部と、
前記移動体を前記出発点から前記目的地の周辺までは前記画像地図データに基づいた移動制御を行い、前記目的地の周辺では、前記目的地の周辺のスキャンデータを抽出した局所地図データに基づいた移動制御に連続的に移動しながら切り替える移動経路切り替え部を有する制御部と、
を具備する、移動体の制御装置。
【請求項2】
前記局所地図データは、前記目的地の周辺における前記移動体の自己位置と、前記スキャンデータと、から生成される、請求項1に記載の移動体の制御装置。
【請求項3】
前記目的地の周辺の移動制御において、前記移動体の位置及び経路に基づき求めた前記移動体の移動速度が、前記移動体の直前の移動速度と所定の閾値以上の差を生じる場合は、移動速度の差が小さくなるように該移動速度を変更する、速度制御部を備えた、請求項1又は請求項2に記載の移動体の制御装置。
【請求項4】
周囲の物体の有無を検出するセンサを有する移動体を、出発点から目的地まで自律的に移動させるための制御方法であって、
前記センサによって検出されたスキャンデータ及び前記移動体が移動する領域の画像地図データを、前記移動体に記憶させるステップと、
前記スキャンデータから、前記目的地の周辺の局所地図データを生成するステップと、
前記画像地図データに基づいて、前記出発点から前記目的地の周辺まで前記移動体を移動させるステップと、
前記目的地の周辺では、前記画像地図データに基づいた移動制御から前記局所地図データに基づいた移動制御に連続的に移動しながら切り替えて、前記目的地の周辺から前記目的地まで前記移動体を移動させるステップと、
を具備する、移動体の制御方法。
【請求項5】
前記局所地図データは、前記目的地の周辺における前記移動体の自己位置と、前記スキャンデータと、から生成される、請求項4に記載の移動体の制御方法。
【請求項6】
前記目的地の周辺の移動制御において、前記移動体の位置及び経路に基づき求めた前記移動体の移動速度が、前記移動体の直前の移動速度と所定の閾値以上の差を生じる場合は、移動速度の差が小さくなるように該移動速度を変更するステップを備えた、請求項4又は請求項5に記載の移動体の制御方法。