(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057525
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】物標高さ測定装置及び物標高さ測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/42 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
G01S13/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165829
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】西山 拓真
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC03
5J070AC04
5J070AD01
5J070AH50
5J070AK40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】物標から大地又は海面を経ず入力した直接信号と、物標から大地又は海面を経て入力した反射信号と、が干渉するときでも、直接信号と反射信号とを分離することなく、物標の高さを測定する。
【解決手段】レーダアンテナAと物標Tとの間の距離の変化時において、レーダアンテナAの受信強度の変化の情報を取得する受信強度取得部21と、ハイトパターンの理論式において、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離及びレーダアンテナAの受信強度の3以上の組み合わせを代入する理論式代入部22と、ハイトパターンの理論式の比率を算出し、ハイトパターンの理論式から物標Tのレーダ断面積を消去する断面積消去部23と、ハイトパターンの理論式の比率を満たす、物標Tの高さを1つの値に収束させて算出する物標高さ算出部24と、を備える物標高さ測定装置2。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダアンテナと物標との間の距離、前記レーダアンテナの使用波長及び前記レーダアンテナの設置高さのうちの、少なくともいずれかのパラメータの変化時において、前記レーダアンテナの受信強度の変化の情報を取得する受信強度取得部と、
ハイトパターンの理論式において、前記少なくともいずれかのパラメータ及び前記レーダアンテナの受信強度の3以上の組み合わせを代入する理論式代入部と、
前記3以上の組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率を算出し、前記ハイトパターンの理論式から前記物標のレーダ断面積を消去する断面積消去部と、
前記3以上の組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率を満たす、前記物標の高さを1つの値に収束させて算出する物標高さ算出部と、
を備えることを特徴とする物標高さ測定装置。
【請求項2】
前記物標高さ算出部は、前記3以上の組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率を満たす、前記物標の高さを求根アルゴリズムにより算出するにあたり、
前記3以上の組み合わせのうちのある2つの組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率において、初回の複数の初期解を用意し、初回の各々の近似解を算出し、前記3以上の組み合わせのうちの他の2つの組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率において、前回の各々の近似解を次回の複数の初期解に設定し、次回の各々の近似解を算出し、上記の処理を繰り返し、各回の各々の近似解を算出し、
前記各回の各々の近似解のうちの、初回の特定の初期解に対応し最小の分散値を有する各回の特定の近似解において、収束値を前記物標の高さに算出する
ことを特徴とする、請求項1に記載の物標高さ測定装置。
【請求項3】
前記物標高さ算出部は、前記レーダアンテナと前記物標との間の距離及び前記物標の高さのうちの少なくともいずれかに応じて、前記初回の複数の初期解の間の間隔を設定する
ことを特徴とする、請求項2に記載の物標高さ測定装置。
【請求項4】
前記理論式代入部は、大地又は海面でのレーダ反射係数の大きさ及びレーダ反射経路の経路数のうちの少なくともいずれかに応じて、前記ハイトパターンの理論式を設定する
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の物標高さ測定装置。
【請求項5】
レーダアンテナと物標との間の距離、前記レーダアンテナの使用波長及び前記レーダアンテナの設置高さのうちの、少なくともいずれかのパラメータの変化時において、前記レーダアンテナの受信強度の変化の情報を取得する受信強度取得ステップと、
ハイトパターンの理論式において、前記少なくともいずれかのパラメータ及び前記レーダアンテナの受信強度の3以上の組み合わせを代入する理論式代入ステップと、
前記3以上の組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率を算出し、前記ハイトパターンの理論式から前記物標のレーダ断面積を消去する断面積消去ステップと、
前記3以上の組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率を満たす、前記物標の高さを1つの値に収束させて算出する物標高さ算出ステップと、
を順にコンピュータに実行させるための物標高さ測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダを用いて物標の高さを測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダを用いて物標の高さを測定する技術が、特許文献1等に開示されている。特許文献1では、複数の鉛直に配列のレーダアンテナにおいて、物標から大地又は海面を経ず入力した直接信号の位相差に基づいて、物標の仰角ひいては物標の高さを測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、複数の鉛直に配列のレーダアンテナにおいて、物標から大地又は海面を経ず入力した直接信号と、物標から大地又は海面を経て入力した反射信号と、が干渉することがある。すると、複数の鉛直に配列のレーダアンテナにおいて、物標の距離又は速度に基づいて、直接信号と反射信号とを分離することができなければ、直接信号の位相差に基づいて、物標の仰角ひいては物標の高さを測定することができない。
【0005】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、物標から大地又は海面を経ず入力した直接信号と、物標から大地又は海面を経て入力した反射信号と、が干渉するときでも、直接信号と反射信号とを分離することなく、物標の高さを測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、物標から大地又は海面を経ず入力した直接信号と、物標から大地又は海面を経て入力した反射信号と、の干渉の強弱に応じて、ハイトパターンが発生することを利用して、物標の高さを測定する。しかし、ハイトパターンの理論式は、未知数として、物標の高さを含むのみならず、物標のレーダ断面積を含んでしまう。
【0007】
そこで、ハイトパターンの理論式において、2つの異なる測定状況(レーダアンテナと物標との間の距離等)でのレーダアンテナの受信強度を代入する。そして、これらのハイトパターンの理論式の比率を算出することにより、物標のレーダ断面積を消去することができるが、物標の高さ(不変と仮定)を1つの値に収束させることができない。
【0008】
そこで、ハイトパターンの理論式において、3以上の異なる測定状況(レーダアンテナと物標との間の距離等)でのレーダアンテナの受信強度を代入する。そして、これらのハイトパターンの理論式の比率を算出することにより、物標のレーダ断面積を消去することはもちろん、物標の高さ(不変と仮定)を1つの値に収束させることができる。
【0009】
具体的には、本開示は、レーダアンテナと物標との間の距離、前記レーダアンテナの使用波長及び前記レーダアンテナの設置高さのうちの、少なくともいずれかのパラメータの変化時において、前記レーダアンテナの受信強度の変化の情報を取得する受信強度取得部と、ハイトパターンの理論式において、前記少なくともいずれかのパラメータ及び前記レーダアンテナの受信強度の3以上の組み合わせを代入する理論式代入部と、前記3以上の組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率を算出し、前記ハイトパターンの理論式から前記物標のレーダ断面積を消去する断面積消去部と、前記3以上の組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率を満たす、前記物標の高さを1つの値に収束させて算出する物標高さ算出部と、を備えることを特徴とする物標高さ測定装置である。
【0010】
また、本開示は、レーダアンテナと物標との間の距離、前記レーダアンテナの使用波長及び前記レーダアンテナの設置高さのうちの、少なくともいずれかのパラメータの変化時において、前記レーダアンテナの受信強度の変化の情報を取得する受信強度取得ステップと、ハイトパターンの理論式において、前記少なくともいずれかのパラメータ及び前記レーダアンテナの受信強度の3以上の組み合わせを代入する理論式代入ステップと、前記3以上の組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率を算出し、前記ハイトパターンの理論式から前記物標のレーダ断面積を消去する断面積消去ステップと、前記3以上の組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率を満たす、前記物標の高さを1つの値に収束させて算出する物標高さ算出ステップと、を順にコンピュータに実行させるための物標高さ測定プログラムである。
【0011】
この構成によれば、物標から大地又は海面を経ず入力した直接信号と、物標から大地又は海面を経て入力した反射信号と、が干渉するときでも、ハイトパターンの理論式を利用して、直接信号と反射信号とを分離することなく、物標の高さを測定することができる。
【0012】
また、本開示は、前記物標高さ算出部は、前記3以上の組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率を満たす、前記物標の高さを求根アルゴリズムにより算出するにあたり、前記3以上の組み合わせのうちのある2つの組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率において、初回の複数の初期解を用意し、初回の各々の近似解を算出し、前記3以上の組み合わせのうちの他の2つの組み合わせを代入した前記ハイトパターンの理論式の比率において、前回の各々の近似解を次回の複数の初期解に設定し、次回の各々の近似解を算出し、上記の処理を繰り返し、各回の各々の近似解を算出し、前記各回の各々の近似解のうちの、初回の特定の初期解に対応し最小の分散値を有する各回の特定の近似解において、収束値を前記物標の高さに算出することを特徴とする物標高さ測定装置である。
【0013】
この構成によれば、ニュートン法等の求根アルゴリズムを利用するにあたり、初回の複数の初期解を用意するとともに、各回の各々の近似解の分散値を評価することにより、物標の高さを真の値にかつ1つの値に収束させることができる。
【0014】
また、本開示は、前記物標高さ算出部は、前記レーダアンテナと前記物標との間の距離及び前記物標の高さのうちの少なくともいずれかに応じて、前記初回の複数の初期解の間の間隔を設定することを特徴とする物標高さ測定装置である。
【0015】
この構成によれば、ニュートン法等の求根アルゴリズムを利用するにあたり、ハイトパターンの変動の激しさ/緩やかさに応じて、初回の複数の初期解の間隔を適切に設定することにより、物標の高さを真の値にかつ1つの値に収束させることができる。
【0016】
また、本開示は、前記理論式代入部は、大地又は海面でのレーダ反射係数の大きさ及びレーダ反射経路の経路数のうちの少なくともいずれかに応じて、前記ハイトパターンの理論式を設定することを特徴とする物標高さ測定装置である。
【0017】
この構成によれば、大地又は海面でのレーダ反射係数の大きさが1であるときに限らず、大地又は海面でのレーダ反射経路の経路数が1であるときに限らず、ハイトパターンの理論式を適宜に設定することにより、様々な環境で物標の高さを測定することができる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本開示は、物標から大地又は海面を経ず入力した直接信号と、物標から大地又は海面を経て入力した反射信号と、が干渉するときでも、直接信号と反射信号とを分離することなく、物標の高さを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示の物標高さ測定システムの構成を示す図である。
【
図2】本開示の物標高さ測定処理の手順を示す図である。
【
図3】本開示のハイトパターンの理論式の設定を示す図である。
【
図4】比較例の物標高さ測定処理の具体例を示す図である。
【
図5】本開示の物標高さ測定処理の具体例を示す図である。
【
図6】本開示の求根アルゴリズム処理の手順を示す図である。
【
図7】本開示の初回の初期解の間の間隔の設定を示す図である。
【
図8】本開示の求根アルゴリズム処理の具体例を示す図である。
【
図9】本開示の求根アルゴリズム処理の具体例を示す図である。
【
図10】本開示の求根アルゴリズム処理の具体例を示す図である。
【
図11】本開示の物標高さ確定処理の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0021】
(本開示の物標高さ測定処理)
本開示の物標高さ測定システムの構成を
図1に示す。物標高さ測定システムRは、レーダアンテナA、レーダ送受信装置1及び物標高さ測定装置2を備える。レーダ送受信装置1は、レーダアンテナA(特許文献1と異なり、位相モノパルスに基づかず、1個であってもよい。)を用いて、物標Tへと送信信号を照射し、物標Tから受信信号を取得する。
【0022】
物標高さ測定装置2は、受信強度取得部21、理論式代入部22、断面積消去部23及び物標高さ算出部24を備え、
図2に示す物標高さ測定プログラム及び
図6に示す求根アルゴリズムプログラムをコンピュータにインストールして実現することができる。
【0023】
本開示の物標高さ測定処理の手順を
図2に示す。物標Tから大地又は海面Gを経ず入力した直接信号と、物標Tから大地又は海面Gを経て入力した反射信号と、の干渉の強弱に応じて、ハイトパターンが発生することを利用して、物標Tの高さH
Tを測定する。
【0024】
受信強度取得部21は、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離dの変化時において、レーダアンテナAの受信強度P[d]の変化の情報を取得する(ステップS1)。
【0025】
理論式代入部22は、大地又は海面Gでのレーダ反射係数rの大きさ及びレーダ反射経路の経路数のうちの少なくともいずれかに応じて、ハイトパターンの理論式を設定する(ステップS2)。本開示のハイトパターンの理論式の設定を
図3に示す。
【0026】
図3の左欄では、レーダアンテナAと物標Tとの間の関係を示す。レーダアンテナAの高さは、H
R(=(送信アンテナの高さH
TX+受信アンテナの高さH
RX)/2)である。物標Tの高さは、H
Tである。レーダアンテナAと物標Tとの間の距離は、dである。レーダアンテナAの受信強度は、P[d]である。レーダアンテナAの使用波長は、λである。物標Tのレーダ断面積は、σである。大地又は海面Gでのレーダ反射係数rの大きさは、1であると仮定する。大地又は海面Gでのレーダ反射経路の経路数は、1であると仮定する。つまり、大地又は海面Gでのレーダ反射経路は、レーダアンテナA→大地又は海面G→物標T→大地又は海面G→レーダアンテナAの順序の経路のみであると仮定する。
【0027】
ただし、大地又は海面Gでのレーダ反射係数rの大きさは、1より小さくてもよい。そして、大地又は海面Gでのレーダ反射経路の経路数は、1より大きくてもよい。例えば、大地又は海面Gでのレーダ反射経路は、上記の順序の経路に加えて、レーダアンテナA→物標T→大地又は海面G→レーダアンテナAの順序の経路を含んでもよく、レーダアンテナA→大地又は海面G→物標T→レーダアンテナAの順序の経路を含んでもよい。よって、大地又は海面Gでのレーダ反射係数rの大きさが1であるときに限らず、大地又は海面Gでのレーダ反射経路の経路数が1であるときに限らず、ハイトパターンの理論式を適宜に設定することにより、様々な環境で物標Tの高さHTを測定することができる。
【0028】
図3の右欄では、ハイトパターンの理論式(数1を参照)を示す。
【数1】
ここで、ハイトパターンの理論式は、既知数として、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離d、レーダアンテナAの受信強度P[d]、レーダアンテナAの高さH
R及びレーダアンテナAの使用波長λを含んでいる。しかし、ハイトパターンの理論式は、未知数として、物標Tの高さH
Tを含むのみならず、物標Tのレーダ断面積σを含んでしまう。
【0029】
そこで、ハイトパターンの理論式において、2つの異なるレーダアンテナAと物標Tとの間の距離dでのレーダアンテナAの受信強度P[d]を代入することにより、物標Tのレーダ断面積σを消去する。比較例の物標高さ測定処理の具体例を
図4に示す。
【0030】
図4の右欄では、ハイトパターンの理論式に、(d
1=100m、P[d
1])及び(d
2=99.5m、P[d
2])の2つの組み合わせを代入している(数2及び数3を参照)。
【数2】
【数3】
【0031】
図4の右欄では、(d
1、P[d
1])及び(d
2、P[d
2])の2つの組み合わせを代入したハイトパターンの理論式の比率を算出している(数4を参照)。
【数4】
よって、ハイトパターンの理論式の比率において、物標Tのレーダ断面積σを消去することができる。しかし、以下に説明するように、ハイトパターンの理論式の比率において、物標Tの高さH
T(不変と仮定)を1つの値に収束させることができない。
【0032】
物標Tの高さH
Tの関数f(H
T)を、数5のように定義する。
【数5】
数4及び数5によれば、f(H
T)=0を満たすH
Tが、物標Tの高さH
Tの真の値であるが、
図4の左欄に示したように、1つの値に収束させることができない。
【0033】
そこで、ハイトパターンの理論式において、3以上の異なるレーダアンテナAと物標Tとの間の距離dでのレーダアンテナAの受信強度P[d]を代入することにより、物標Tの高さH
Tを1つの値に収束させる。本開示の物標高さ測定処理の具体例を
図5に示す。
【0034】
図5の左欄及び右欄では、ハイトパターンの理論式に、(d
1=100m、P[d
1])及び(d
2=99.5m、P[d
2])の2つの組み合わせを代入しており、(d
1=99.5m、P[d
1])及び(d
2=99.0m、P[d
2])の2つの組み合わせも別途代入しており、(d
1=99.0m、P[d
1])及び(d
2=98.5m、P[d
2])の2つの組み合わせも別途代入しており、(d
1=98.5m、P[d
1])及び(d
2=98.0m、P[d
2])の2つの組み合わせも別途代入している(数2及び数3を参照)。
【0035】
図5の左欄及び右欄では、(d、P[d])(d=100m~98.0mの0.5m間隔)の5つの組み合わせを代入したハイトパターンの理論式の比率を算出している(数4を参照)。よって、ハイトパターンの理論式の比率において、物標Tのレーダ断面積σを消去することができる。そして、以下に説明するように、ハイトパターンの理論式の比率において、物標Tの高さH
T(不変と仮定)を1つの値に収束させることができる。
【0036】
物標Tの高さH
Tの関数f(H
T)を、数6のように定義する。
【数6】
数4及び数6によれば、f(H
T)=0を満たすH
Tが、物標Tの高さH
Tの真の値であるが、
図5の特に右欄に示したように、1つの値に収束させることができる。
【0037】
このように、
図4に示した比較例の物標高さ測定処理では、物標Tの高さH
Tを真の値にかつ1つの値に収束させることができない。その一方で、
図5に示した本開示の物標高さ測定処理では、物標Tの高さH
Tを真の値にかつ1つの値に収束させることができる。そこで、
図5に示した本開示の物標高さ測定処理として、以下の処理を実行する。
【0038】
理論式代入部22は、ハイトパターンの理論式において、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離d及びレーダアンテナAの受信強度P[d]の3以上の組み合わせ(
図5に示した本開示の物標高さ測定処理では、5つの組み合わせ)を代入する(ステップS3)。
【0039】
断面積消去部23は、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離d及びレーダアンテナAの受信強度P[d]の3以上の組み合わせ(
図5に示した本開示の物標高さ測定処理では、5つの組み合わせ)を代入したハイトパターンの理論式の比率を算出し、ハイトパターンの理論式から物標Tのレーダ断面積σを消去する(ステップS4)。
【0040】
物標高さ算出部24は、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離d及びレーダアンテナAの受信強度P[d]の3以上の組み合わせ(
図5に示した本開示の物標高さ測定処理では、5つの組み合わせ)を代入したハイトパターンの理論式の比率を満たす、物標Tの高さH
Tを真の値にかつ1つの値に収束させて算出する(ステップS5)。
【0041】
物標Tから大地又は海面Gを経ず入力した直接信号と、物標Tから大地又は海面Gを経て入力した反射信号と、が干渉するときでも、ハイトパターンの理論式を利用して、直接信号と反射信号とを分離することなく、物標Tの高さHTを測定することができる。
【0042】
(本開示の求根アルゴリズム処理)
本開示の求根アルゴリズム処理(ニュートン法等)の手順を
図6に示す。
図5に示した本開示の物標高さ測定処理を具現化して、
図6に示した本開示の求根アルゴリズム処理を利用して、物標Tの高さH
Tを真の値にかつ1つの値に収束させることができる。
【0043】
物標高さ算出部24は、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離d及び物標Tの高さH
Tのうちの少なくともいずれかに応じて、初回の複数の初期解H
T、0の間の間隔を設定する(ステップS11)。本開示の初回の初期解H
T、0の間の間隔の設定を
図7に示す。
【0044】
ここで、初回の初期解H
T、0を複数用意する理由として、初回の初期解H
T、0を1つ用意するのみでは、物標Tの高さH
Tを真の値に収束させることができない可能性がある一方で、初回の初期解H
T、0を複数用意することにより、物標Tの高さH
Tを真の値に確実に収束させることができるからである(
図8から
図11までを参照)。
【0045】
図7の左欄では、物標Tの高さH
Tが3mであり高いときでの、ハイトパターンの理論式を示す。ここで、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離dが、0m~40m程度であり短距離であるときには、ハイトパターンの変動は、激しい変動になっている。そこで、物標Tの高さH
Tを真の値に確実に収束させるために、初回の初期解H
T、0の間の間隔は、小さめの間隔に設定されるとよい。一方で、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離dが、40m~100m程度であり長距離であるときには、ハイトパターンの変動は、中程度の変動になっている。そこで、物標Tの高さH
Tを真の値に確実に収束させるために、初回の初期解H
T、0の間の間隔は、中程度の間隔に設定されるとよい。
【0046】
図7の右欄では、物標Tの高さH
Tが0.2mであり低いときでの、ハイトパターンの理論式を示す。ここで、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離dが、0m~10m程度であり短距離であるときには、ハイトパターンの変動は、激しい変動になっている。そこで、物標Tの高さH
Tを真の値に確実に収束させるために、初回の初期解H
T、0の間の間隔は、小さめの間隔に設定されるとよい。一方で、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離dが、10m~100m程度であり長距離であるときには、ハイトパターンの変動は、緩やかな変動になっている。そこで、物標Tの高さH
Tを真の値に確実に収束させるために、初回の初期解H
T、0の間の間隔は、大きめの間隔に設定されるとよい。
【0047】
ニュートン法等の求根アルゴリズムを利用するにあたり、ハイトパターンの変動の激しさ/緩やかさに応じて、初回の複数の初期解HT、0の間隔を適切に設定することにより、物標Tの高さHTを真の値にかつ1つの値に収束させることができる。
【0048】
本開示の求根アルゴリズム処理の具体例を
図8から
図10までに示す。物標高さ算出部24は、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離d及びレーダアンテナAの受信強度P[d]の3以上の組み合わせを代入したハイトパターンの理論式の比率を満たす、物標Tの高さH
Tを求根アルゴリズム(ニュートン法等)により算出する。
【0049】
図8では、1回目の求根アルゴリズム処理を示す。物標高さ算出部24は、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離d及びレーダアンテナAの受信強度P[d]の3以上の組み合わせのうちの、(d
1、1=100m、P[d
1、1])及び(d
2、1=99.5m、P[d
2、1])の2つの組み合わせを代入したハイトパターンの理論式の比率において、1回目の複数の初期解H
T、0を用意し、1回目の各々の近似解H
T、1を算出する(ステップS12)。
【0050】
ここで、物標Tの高さH
Tの関数f(H
T)を、数7のように定義する。
【数7】
1回目の複数の初期解H
T、0は、3.7m、3.9m、4.1m、4.3m、4.5mである。1回目の各々の近似解H
T、1は、漸化式x
n+1=x
n-f(x
n)/f’(x
n)(f’(x
n)は、x=x
nでのf(x)の1階微分)において、x
n=H
T、0及びx
n収束=H
T、1(x
n収束は、nが大きいときのx
nの収束値)として算出され、3.75m、3.98m、4.15m、4.38m、4.53mである(
図11を参照)。
【0051】
図9では、2回目の求根アルゴリズム処理を示す。物標高さ算出部24は、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離d及びレーダアンテナAの受信強度P[d]の3以上の組み合わせのうちの、(d
1、2=99.5m、P[d
1、2])及び(d
2、2=99.0m、P[d
2、2])の2つの組み合わせを代入したハイトパターンの理論式の比率において、1回目の各々の近似解H
T、1を2回目の複数の初期解H
T、1に設定し、2回目の各々の近似解H
T、2を算出する(ステップS13)。物標高さ算出部24は、所定回数の求根アルゴリズム処理が終了していない、又は、2回目の各々の近似解H
T、2の収束が終了していない、と判定し(ステップS14、NO)、3回目の求根アルゴリズム処理を実行する。
【0052】
ここで、物標Tの高さH
Tの関数f(H
T)を、数8のように定義する。
【数8】
2回目の複数の初期解H
T、1は、3.75m、3.98m、4.15m、4.38m、4.53mである。2回目の各々の近似解H
T、2は、漸化式x
n+1=x
n-f(x
n)/f’(x
n)(f’(x
n)は、x=x
nでのf(x)の1階微分)において、x
n=H
T、1及びx
n収束=H
T、2(x
n収束は、nが大きいときのx
nの収束値)として算出され、3.80m、4.00m、4.17m、4.40m、4.49mである(
図11を参照)。
【0053】
図10では、3回目の求根アルゴリズム処理を示す。物標高さ算出部24は、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離d及びレーダアンテナAの受信強度P[d]の3以上の組み合わせのうちの、(d
1、3=99.0m、P[d
1、3])及び(d
2、3=98.5m、P[d
2、3])の2つの組み合わせを代入したハイトパターンの理論式の比率において、2回目の各々の近似解H
T、2を3回目の複数の初期解H
T、2に設定し、3回目の各々の近似解H
T、3を算出する(ステップS13)。物標高さ算出部24は、所定回数の求根アルゴリズム処理が終了していない、又は、3回目の各々の近似解H
T、3の収束が終了していない、と判定し(ステップS14、NO)、4回目の求根アルゴリズム処理を実行する。
【0054】
ここで、物標Tの高さH
Tの関数f(H
T)を、数9のように定義する。
【数9】
3回目の複数の初期解H
T、2は、3.80m、4.00m、4.17m、4.40m、4.49mである。3回目の各々の近似解H
T、3は、漸化式x
n+1=x
n-f(x
n)/f’(x
n)(f’(x
n)は、x=x
nでのf(x)の1階微分)において、x
n=H
T、2及びx
n収束=H
T、3(x
n収束は、nが大きいときのx
nの収束値)として算出され、3.82m、4.00m、4.20m、4.38m、4.45mである(
図11を参照)。
【0055】
n回目(約5回目)の各々の近似解H
T、nは、3.76m、4.00m、4.22m、4.45m、4.48mである(
図11を参照)。物標高さ算出部24は、所定回数の求根アルゴリズム処理が終了している、又は、n回目の各々の近似解H
T、nの収束が終了している、と判定し(ステップS14、YES)、以降の求根アルゴリズム処理を中止する。
【0056】
本開示の物標高さ確定処理の具体例を
図11に示す。物標高さ算出部24は、各回の各々の近似解H
T、1~H
T、nのうちの、初回の特定の初期解H
T、0に対応し最小の分散値を有する各回の特定の近似解H
T、1~H
T、nにおいて、収束値を物標Tの高さH
Tに算出する(ステップS15)。
図11では、物標高さ算出部24は、初回の特定の初期解H
T、0=3.9mに対応し最小の分散値を有する各回の特定の近似解H
T、1=3.98m~H
T、n=4.00mにおいて、収束値4.00mを物標Tの高さH
Tに算出する。
【0057】
ニュートン法等の求根アルゴリズムを利用するにあたり、初回の複数の初期解HT、0を用意するとともに、各回の各々の近似解HT、1~HT、nの分散値を評価することにより、物標Tの高さHTを真の値にかつ1つの値に収束させることができる。
【0058】
(変形例の物標高さ測定処理)
以上の本開示では、受信強度取得部21は、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離dの変化時において、レーダアンテナAの受信強度P[d]の変化の情報を取得する。そして、理論式代入部22は、ハイトパターンの理論式において、レーダアンテナAと物標Tとの間の距離d及びレーダアンテナAの受信強度P[d]の3以上の組み合わせを代入する。すると、物標Tの高さHTの関数f(HT)を、数6のように定義したうえで、f(HT)=0を満たすHTを、物標Tの高さHTの真の値であるとすればよい。よって、レーダアンテナA又は物標Tが移動するときでも、物標Tの高さHTを測定することができる。
【0059】
第1の変形例として、受信強度取得部21は、レーダアンテナAの使用波長λの変化時において、レーダアンテナAの受信強度P[λ]の変化の情報を取得してもよい。そして、理論式代入部22は、ハイトパターンの理論式において、レーダアンテナAの使用波長λ及びレーダアンテナAの受信強度P[λ]の3以上の組み合わせを代入してもよい。すると、物標Tの高さH
Tの関数f(H
T)を、数10のように定義したうえで、f(H
T)=0を満たすH
Tを、物標Tの高さH
Tの真の値であるとすればよい。よって、レーダアンテナA又は物標Tが移動しないときでも、物標Tの高さH
Tを測定することができる。
【数10】
【0060】
第2の変形例として、受信強度取得部21は、レーダアンテナAの高さH
Rの変化時において、レーダアンテナAの受信強度P[H
R]の変化の情報を取得してもよい。そして、理論式代入部22は、ハイトパターンの理論式において、レーダアンテナAの高さH
R及びレーダアンテナAの受信強度P[H
R]の3以上の組み合わせを代入してもよい。すると、物標Tの高さH
Tの関数f(H
T)を、数11のように定義したうえで、f(H
T)=0を満たすH
Tを、物標Tの高さH
Tの真の値であるとすればよい。よって、レーダアンテナA又は物標Tが移動しないときでも、物標Tの高さH
Tを測定することができる。
【数11】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示の物標高さ測定装置及び物標高さ測定プログラムは、ミリ波レーダ、MIMOレーダ及び車載レーダ等に適用することができる。レーダアンテナと物標との間の距離及びレーダアンテナの受信強度を測定可能なレーダに適用することができる。位相モノパルスではなくハイトパターンに基づいて物標の高さを測定するため、レーダアンテナが1個であるレーダにも適用することができる。レーダアンテナの受信強度がノイズレベルに埋もれなければ、遠方の物標についても物標の高さを測定することができる。
【符号の説明】
【0062】
R:物標高さ測定システム
T:物標
A:レーダアンテナ
G:大地又は海面
1:レーダ送受信装置
2:物標高さ測定装置
21:受信強度取得部
22:理論式代入部
23:断面積消去部
24:物標高さ算出部