IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドヴィックスの特許一覧

<>
  • 特開-ギヤポンプ装置 図1
  • 特開-ギヤポンプ装置 図2
  • 特開-ギヤポンプ装置 図3
  • 特開-ギヤポンプ装置 図4
  • 特開-ギヤポンプ装置 図5
  • 特開-ギヤポンプ装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057592
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】ギヤポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 15/00 20060101AFI20220404BHJP
   F04C 2/10 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
F04C15/00 E
F04C2/10 341D
F04C15/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165923
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】永井 駿
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB03
3H041CC02
3H041CC20
3H041DD03
3H041DD07
3H041DD21
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC02
3H044CC19
3H044DD03
3H044DD06
3H044DD09
(57)【要約】
【課題】軸方向の長さを短くすることができるギヤポンプ装置を実現する。
【解決手段】ギヤポンプ装置は、ギヤポンプと、第1シリンダと、第2シリンダ(72)と、軸シール部材(121)と、リング部材(122)とを備えている。ギヤポンプは、アウターロータと、インナーロータと、軸(50)とを有している。第2シリンダ(72)は、中心孔(72a)に形成された段差部(721)及び延出部(722)を有する。軸シール部材(121)は、当接部(121a)と、突出部(121b)とを有する。そして、軸シール部材(121)の突出部(121b)及び第2シリンダ(72)の延出部(722)は、軸シール部材(121)からのリング部材(122)の脱落を防止可能な脱落防止壁を構成する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターロータと、前記アウターロータと噛み合うインナーロータと、前記インナーロータの中心孔に挿入された軸とを有し、前記軸の回転に伴って前記アウターロータ及び前記インナーロータが回転することで流体の吸入及び吐出動作を行うギヤポンプと、
前記ギヤポンプを収容する収容部を有する第1シリンダと、
前記軸が挿入される中心孔に形成された段差部と、前記段差部から前記軸に向かって延出した延出部とを有する第2シリンダと、
前記軸と前記段差部との間に配置され、前記軸と当接する当接部と、前記当接部から前記軸の径方向外側に突出した突出部とを有する軸シール部材と、
前記第2シリンダの前記段差部と前記軸シール部材の前記当接部との間に配置され、前記軸シール部材を前記軸に向かって押圧するリング部材と、
を備え、
前記軸シール部材の前記突出部及び前記第2シリンダの前記延出部は、これら両部間に配設される前記リング部材との当接により前記軸シール部材からの前記リング部材の脱落を防止可能な脱落防止壁を構成することを特徴とするギヤポンプ装置。
【請求項2】
前記延出部の前記軸方向の長さは、前記突出部の前記軸方向の長さよりも短いことを特徴とする請求項1に記載のギヤポンプ装置。
【請求項3】
前記延出部の前記軸方向の長さは、前記リング部材の前記軸方向の長さよりも短いことを特徴とする請求項1または2に記載のギヤポンプ装置。
【請求項4】
前記軸シール部材は、前記軸の回転に伴って当該軸シール部材が回転することを防止するための回転防止部を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のギヤポンプ装置。
【請求項5】
前記軸シール部材の前記ギヤポンプ側には、前記軸の挿入される孔を有し前記アウターロータ及び前記インナーロータを前記軸シール部材とは反対側に押圧するポンプシールが配設され、
前記回転防止部は、前記軸シール部材の前記ポンプシール側の側面に形成された凸部であり、
前記ポンプシールの内周面には、前記凸部と係合する凹部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のギヤポンプ装置。
【請求項6】
前記軸シール部材の前記ギヤポンプ側には、前記軸の挿入される孔を有し前記アウターロータ及び前記インナーロータを前記軸シール部材とは反対側に押圧するポンプシールが配設され、
前記軸シール部材は、該軸シール部材の前記ギヤポンプ側の端部が、前記ポンプシールにおける孔の周縁部と当接することで、前記ギヤポンプ側への移動が規制されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のギヤポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、ギヤポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ギヤポンプ装置を備えた車両用ブレーキ装置が知られている。例えば、特許文献1に記載の車両用ブレーキ装置では、ブレーキ液をマスタシリンダ側から、ブレーキ液圧制御用アクチュエータを通じてホイールシリンダ側に供給するためにギヤポンプ装置を用いる。このギヤポンプ装置は、アウターロータ及びインナーロータを備え、それぞれに形成された内歯部と外歯部とが噛み合わさって形成される複数の空隙部の各容積が変化する。上記ギヤポンプ装置は、当該複数の空隙部の各容積を変化させることで、ブレーキ液の吸入動作及び吐出動作を行う。
【0003】
特許文献1に記載のギヤポンプ装置では、ギヤポンプを収容するケースと軸との間に、シール部材が配置されている。このシール部材は、溝部が形成された樹脂部材と、溝部内に嵌め込まれた弾性リングとからなり、弾性リングが樹脂部材を軸径方向の内側に押圧することにより、軸とケースとの間のブレーキ液の洩れを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-119011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ハイブリッド車の普及等によって、同一種類の車両に搭載されるエンジン関連部品の種類が増加している。これに伴って、エンジンルーム内において、エンジン関連部品以外の部品を搭載可能な空間が狭くなってきている。こうした狭い空間に対するブレーキ液圧制御用アクチュエータの搭載性を向上させるには、例えば、当該アクチュエータに内蔵されるギヤポンプ装置の軸方向の長さを短くすることで、当該アクチュエータ全体の容積を小さくすることが有効である。
【0006】
本件は、軸方向の長さを短くすることができるギヤポンプ装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本件に係るギヤポンプ装置は、ギヤポンプと、第1シリンダと、第2シリンダと、軸シール部材と、リング部材と、を備えている。ギヤポンプは、アウターロータと、前記アウターロータと噛み合うインナーロータと、前記インナーロータの中心孔に挿入された軸とを有し、前記軸の回転に伴って前記アウターロータ及び前記インナーロータが回転することで流体の吸入及び吐出動作を行う。第1シリンダは、前記ギヤポンプを収容する収容部を有する。第2シリンダは、前記軸が挿入される中心孔に形成された段差部と、前記段差部から前記軸に向かって延出した延出部とを有する。軸シール部材は、前記軸と前記段差部との間に配置され、前記軸と当接する当接部と、前記当接部から前記軸の径方向外側に突出した突出部とを有する。リング部材は、前記第2シリンダの前記段差部と前記軸シール部材の前記当接部との間に配置され、前記軸シール部材を前記軸に向かって押圧する。そして、前記軸シール部材の前記突出部及び前記第2シリンダの前記延出部は、これら両部間に配設される前記リング部材との当接により前記軸シール部材からの前記リング部材の脱落を防止可能な脱落防止壁を構成する。
【0008】
上記した構成のギヤポンプ装置によれば、軸シール部材の軸方向の長さを短くすることで、ギヤポンプ装置の軸方向の長さを短くすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本件によれば、ギヤポンプ装置の軸方向の長さを短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本件の実施形態に係るギヤポンプ装置の断面図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3図1の第2ポンプシールをギヤポンプ側から見た図である。
図4図1の軸シール部材の周辺を拡大した断面図である。
図5図1の軸シール部材及びリング部材をギヤポンプ側から見た図である。
図6図1の軸シール部材及びリング部材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本件の実施形態に係るギヤポンプ装置1について、図1図6を参照して説明する。本実施形態のギヤポンプ装置1は、例えば車両用ブレーキ装置に用いられる。ギヤポンプ装置1は、図示しないが、車両用ブレーキ装置において、マスタシリンダとホイールシリンダとの間に配置される。ギヤポンプ装置1は、ブレーキ液をマスタシリンダから吸引して、左右の前輪及び後輪に設けられたホイールシリンダに供給する。
【0012】
なお、車両用ブレーキ装置は、運転者がブレーキペダルを踏み込むと、マスタシリンダ内に生じた圧力が、図示しないアクチュエータにより制御されることで、各車輪のホイールシリンダに伝えられる構成となっている。なお、アクチュエータは、左右の前輪に加えられるブレーキ液圧を制御するフロント系統と、左右の後輪に加えられるブレーキ液圧を制御するリア系統とを有している。
【0013】
[ギヤポンプ装置の構成]
図1は、ギヤポンプ装置1をアクチュエータのハウジング11に組み付けた様子を示す図である。なお、説明の便宜上、図1の矢印に示されるように、ギヤポンプ装置1の上下方向、及び左右方向を定義する。
【0014】
図1に示すように、ギヤポンプ装置1は、アルミニウム製のハウジング11に形成された略円筒形状の第1凹部11a内に、右方向から挿入されることによって、ハウジング11に組み付けられる。そして、ギヤポンプ装置1は、第1凹部11aの入口に形成された雌ネジ溝11bに、リング状の雄ネジ部材12がネジ締めされることにより、ハウジング11に固定されている。
【0015】
なお、第1凹部11aの底部のうち、回転軸50の左側端部と対応する位置において、円形状の第2凹部11cが形成されている。第2凹部11cの径は、回転軸50の径よりも大きい。これにより、第2凹部11c内に回転軸50の先端が位置し、回転軸50がハウジング11と接触しないようになっている。
【0016】
ギヤポンプ装置1は、リア系統用のギヤポンプ20と、フロント系統用のギヤポンプ30と、モータ60と、第1シリンダ71と、第2シリンダ72と、軸シール部材121等の各種シール部材とを備えている。
【0017】
ギヤポンプ20及びギヤポンプ30は、モータ60により回転軸50を回転させることによって駆動される。回転軸50は、第1ベアリング51及び第2ベアリング52により支持されている。第1シリンダ71及び第2シリンダ72は、アルミニウム等の金属からなり、同軸的に配置された状態で第1シリンダ71の一端側(図1の右端側)が第2シリンダ72に対して圧入されることで一体化され、ギヤポンプ装置1のケースを構成する。
【0018】
なお、第1ベアリング51は、外輪511と、針状ころ512とを有し、第1シリンダ71に配置される。第2ベアリング52は、内輪521と、外輪522と、転動体523とを有し、第2シリンダ72に配置されている。
【0019】
ギヤポンプ20は、収容部であるロータ室10a内に配置されている。ロータ室10aは、第1シリンダ71の一端面(図1の左側面)を円形状に凹ませた凹部により構成される。ギヤポンプ20は、ロータ室10a内に挿入された回転軸50により駆動される内接型ギヤポンプ、即ちトロコイドポンプである。
【0020】
図2は、図1のII-II断面図である。図2に示すように、ギヤポンプ20は、内周に内歯部21aが形成されたアウターロータ21と、外周に外歯部22aが形成されたインナーロータ22と、インナーロータ22の中心孔22b内に挿入された回転軸50とを有している。そして、回転軸50に形成された穴502内に、キー501が嵌入されている。キー501を介して、回転軸50の回転がインナーロータ22への伝達されるようになっている。
【0021】
アウターロータ21の内歯部21aとインナーロータ22の外歯部22aとは、複数の空隙部23を形成した状態で、噛み合う構成となっている。回転軸50が回転すると、空隙部23の容積が変化することよって、ブレーキ液の吸入及び吐出動作が行われる。これにより、車両用ブレーキ装置によるアンチスキッド制御等の車両運動制御が行われる。
【0022】
図1に示すように、ギヤポンプ30は、アウターロータ31と、インナーロータ32とを備え、収容部であるロータ室10b内に配置されている。ロータ室10bは、第1シリンダ71の他端面(図1の右側面)を円形状に凹ませた凹部により構成される。ギヤポンプ30は、ロータ室10b内に挿入された回転軸50により駆動される。ギヤポンプ30も、ギヤポンプ20と同様に、アウターロータ31の内歯部とインナーロータ32の外歯部とが、複数の空隙部33を形成しながら噛み合わさることにより、ブレーキ液の吸入及び吐出動作を行う内接型ギヤポンプで構成されている。
【0023】
ギヤポンプ30は、回転軸50を中心としてギヤポンプ20を、約180°回転させた配置となっている。このように配置することで、ギヤポンプ20及びギヤポンプ30のそれぞれの吸入側の空隙部23及び空隙部33と、吐出側の空隙部23及び空隙部33とが回転軸50を中心として対称位置となる。これにより、吐出側における高圧なブレーキ液圧が、回転軸50に与える力を相殺できるようにしている。
【0024】
ギヤポンプ20及びギヤポンプ30は、基本的に同じ構造であるが、軸方向の厚さが異なっている。即ち、フロント系統に備えられるギヤポンプ30の方が、リア系統に備えられるギヤポンプ20よりも、ポンプ軸方向の長さが長くなっている。具体的には、ギヤポンプ30のアウターロータ31及びインナーロータ32の方が、ギヤポンプ20のアウターロータ21及びインナーロータ22よりも軸方向の長さが長くなっている。このため、ギヤポンプ30の方が、ギヤポンプ20よりもブレーキ液の吸入吐出量が多くなり、フロント系統へのブレーキ液の供給量を、リア系統へのブレーキ液の供給量よりも多くすることが可能である。
【0025】
[各種シール部材]
図1に示すように、第1シリンダ71の左端面側において、ハウジング11と、第1シリンダ71及びギヤポンプ20との間には、第1ポンプシール111が配置されている。第1ポンプシール111は、ギヤポンプ20を第1シリンダ71側に押圧するためのものである。
【0026】
第1ポンプシール111は、回転軸50が挿入される中空部を有し、例えば金属製のリング状部材で構成されている。第1ポンプシール111により、アウターロータ21及びインナーロータ22を第1シリンダ71側に押圧することで、ギヤポンプ20のうちの一端面側での比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とをシールしている。具体的には、第1ポンプシール111は、ハウジング11の外郭となる第1凹部11aの底面及びアウターロータ21やインナーロータ22の所望位置と当接することでシール機能を発揮している。
【0027】
なお、図1に示すように、第1ポンプシール111の外径は、回転軸50よりも上側において、ハウジング11の第1凹部11aの内径よりも小さくされている。このため、回転軸50よりも上側における第1ポンプシール111と、ハウジング11の第1凹部11aとの間の吐出室80を通じて、ブレーキ液が流動可能な構成となっている。吐出室80は、第1ポンプシール111とハウジング11の第1凹部11aとの間の隙間により構成される。吐出室80は、ハウジング11の第1凹部11aの底部に形成された吐出用管路90に接続されている。このような構造により、ギヤポンプ20は、吐出室80及び吐出用管路90を吐出経路として、ブレーキ液を排出することが可能である。
【0028】
また、第1シリンダ71には、ギヤポンプ20の吸入側の空隙部23と連通する吸入口81が形成されている。吸入口81は、第1シリンダ71のうちギヤポンプ20側の端面から外周面に至るように延設されており、ハウジング11の第1凹部11aの側面に設けられた吸入用管路91に接続されている。このような構造により、ギヤポンプ20は、吸入用管路91及び吸入口81を吸入経路として、ブレーキ液を導入することが可能である。
【0029】
また、第1シリンダ71の右端面側において、第1シリンダ71及びギヤポンプ30と、第2シリンダ72との間には、第2ポンプシール115が配置されている。第2ポンプシール115は、ギヤポンプ30を第1シリンダ71側に押圧するためのものである。
【0030】
図3は、図1の第2ポンプシール115をギヤポンプ30側から見た図である。図3に示すように、第2ポンプシール115は、回転軸50が挿入される中心孔115aと、中心孔115aの内周に形成された2つの凹部115bと、外周に形成された溝部115cとを有し、例えば金属製のリング状部材で構成される。
【0031】
図3に示すように、一対の凹部115bは、中心孔115aの内周に対向するように設けられている。また、第2ポンプシール115の溝部115cには、図示しない組付けピンが挿通される。これにより、第2ポンプシール115は、第1シリンダ71と第2シリンダ72との間でこれらに対して回転軸50の周方向に回転しないよう組付けられている。
【0032】
図1に示すように、第2ポンプシール115は、アウターロータ31及びインナーロータ32を、第1シリンダ71側(軸シール部材121と反対側)に押圧する。これにより、ギヤポンプ30のうちの一端面側での比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とをシールしている。具体的には、第2ポンプシール115は、第2シリンダ72のうち第2ポンプシール115が収容される部分の端面と、アウターロータ31及びインナーロータ32の所望位置と当接することによってシール機能を発揮している。
【0033】
第2ポンプシール115は、第1ポンプシール111と基本的な構造は同じである。ただし、第2ポンプシール115は、上記した第1ポンプシール111とシールを構成する面が反対側となっている点が異なっている。即ち、第2ポンプシール115は、第1ポンプシール111に対して対称形状で構成され、回転軸50を中心として第1ポンプシール111に対し、180°位相をずらして配置されている。
【0034】
なお、図1に示すように、第2ポンプシール115の外径は、回転軸50よりも下側において、第2シリンダ72の内径よりも小さくなっている。このため、回転軸50よりも下側における第2ポンプシール115と第2シリンダ72との間の吐出室82を通じて、ブレーキ液が流動可能な構成となっている。吐出室82は、第2ポンプシール115と第2シリンダ72との間の隙間から構成される。吐出室82は、第2シリンダ72に形成された連通路72b及びハウジング11の第1凹部11aの側面に形成された吐出用管路92に接続されている。このような構造により、ギヤポンプ30は、吐出室82、連通路72b、及び吐出用管路92を吐出経路として、ブレーキ液を排出することが可能である。
【0035】
また、第1シリンダ71のうちギヤポンプ20及びギヤポンプ30側の端面もシール面とされ、このシール面にギヤポンプ20及びギヤポンプ30が密着することでメカニカルシールがなされている。これにより、ギヤポンプ20及びギヤポンプ30のうちの他端面側での比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とをシールしている。
【0036】
また、第1シリンダ71には、ギヤポンプ30の吸入側の空隙部33と連通する吸入口83が形成されている。吸入口83は、第1シリンダ71のうちギヤポンプ30側の端面から外周面に至るように延設されており、ハウジング11の第1凹部11aの側面に設けられた吸入用管路93に接続されている。このような構造により、ギヤポンプ30は、吸入用管路93及び吸入口83を吸入経路として、ブレーキ液を導入することが可能である。
【0037】
また、第1シリンダ71の中心孔71aのうち、第1ベアリング51よりも図1の右側には、シール部材120が配置されている。シール部材120は、回転軸50の径方向の断面形状がU字状である環状樹脂部材120aと、環状樹脂部材120a内に嵌め込まれた環状ゴム部材120bとを有している。シール部材120により、第1シリンダ71の中心孔71a内での2系統の間のシールがなされている。
【0038】
第2シリンダ72の中心孔72aには、段差部721及び延出部722が形成されている。段差部721には、軸シール部材121及びリング部材122が配置されている。軸シール部材121は、本実施形態のギヤポンプ装置1の特徴構成を備えている。軸シール部材121、リング部材122、及び延出部722の詳細な構成については後述する。
【0039】
また、軸シール部材121よりもモータ60側に形成された段差部723には、オイルシール123が配置されている。このような構成とすることで、基本的には、軸シール部材121によって中心孔72aを通じた外部へのブレーキ液洩れが防止されるようにしながら、オイルシール123によって、更に確実に外部へのブレーキ液の洩れが生じないようにしている。
【0040】
[軸シール部材及びリング部材の詳細構成]
次に、軸シール部材121及びリング部材122について、図4図6を参照して詳しく説明する。図4は、図1の軸シール部材121の周辺を拡大した断面図である。図5は、図1の軸シール部材121及びリング部材122をギヤポンプ30側から見た図である。図6は、図1の軸シール部材121及びリング部材122の側面図である。
【0041】
図4に示すように、第2シリンダ72の中心孔72aにおいて、第2ポンプシール115のモータ60側(図1の右側)には、内径が縮径した段差部721が形成されている。また、段差部721とオイルシール123との間には、段差部721から回転軸50に向かって延出した延出部722が設けられている。そして、回転軸50と、段差部721及び延出部722との間に挟まれるようにして、軸シール部材121が配置される。
【0042】
軸シール部材121は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂からなり、略円筒状の部材にて構成される。軸シール部材121は、回転軸50と当接する当接部121aと、突出部121bと、中心孔121cと、凸部121dとを有している。当接部121aは、中心孔121cに挿入された回転軸50と当接する。突出部121bは、当接部121aの左側から回転軸50の径方向外側に突出している。軸シール部材121は、回転軸50の径方向の断面形状が、L字状となっている。
【0043】
図5及び図6に示すように、凸部121dは、軸シール部材121の第2ポンプシール115側の側面に、上下一対に設けられている。これら上下一対の凸部121dを、図3に示す第2ポンプシール115の2つの凹部115bに係合させることで、軸シール部材121の軸周方向の回転を防止している。このように、凸部121dは、回転軸50に対して軸シール部材121が回転することを防止するための回転防止部として機能する。
【0044】
図4に示すように、第2シリンダ72の段差部721と、軸シール部材121の当接部121aとの間には、リング部材122が設けられている。リング部材122は、ゴム等の弾性部材からなり、例えば四角形の断面形状を有している。リング部材122は、軸シール部材121の突出部121bと第2シリンダ72の延出部722との間に、所定のクリアランスをあけて配置される。リング部材122は、図4の右側から軸シール部材121に嵌め込まれ、リング部材122の内周面が軸シール部材121に当接すると共に、外周面が段差部721の内周面に当接することにより、軸シール部材121と第2シリンダ72との間をシールしている。なお、所定のクリアランスは、リング部材122を正常に動作させるために必要な間隔である。
【0045】
そして、リング部材122の弾性力により、軸シール部材121が回転軸50側へ押圧されて、当接部121aと回転軸50とが接するようになっている。これにより、軸シール部材121と回転軸50との間をシールしている。
【0046】
突出部121b及び延出部722は、これら両部間に配設されるリング部材122との直接的な当接により軸シール部材121からのリング部材122の脱落を防止可能な脱落防止壁を構成する。なお、例えば、突出部121b及び延出部722のそれぞれとリング部材122との間に、突出部121b及び延出部722とは別体のワッシャ等の部材を配置してもよい。これにより、突出部121b及び延出部722のそれぞれとリング部材122とが、間接的に当接するように構成してもよい。この場合も、突出部121b及び延出部722は、それぞれとリング部材122との間接的な当接によって、軸シール部材121からのリング部材122の脱落を防止可能な脱落防止壁を構成する。
【0047】
また、図4に示すように、軸シール部材121の軸方向における突出部121bとは反対側の右側端部121eと、第2シリンダ72の延出部722とが係合するようになっている。更に、軸シール部材121は、該軸シール部材121の軸方向における突出部121b側の端部、即ち左側端部のうち周方向に関して凸部121dの設けられていない端面121f(図5参照)が、第2ポンプシール115における中心孔115aの周縁部、より具体的には、周方向に関して凹部115bが設けられていない部分と当接することで、左方(図4における左方)への移動が規制される。これにより、第2シリンダ72の段差部721と軸シール部材121との間の所定の位置に、リング部材122をより安定して配置することができる。なお、軸シール部材121の右側端部121eと第2シリンダ72の延出部722とは、係合していなくてもよく、軸シール部材121と延出部722との間に、僅かな隙間があってもよい。
【0048】
また、一例として、第2シリンダ72の延出部722の軸方向の長さL2は、軸シール部材121の突出部121bの軸方向の長さL1よりも短く、且つ、リング部材122の軸方向の長さL3よりも短くなっている。このようにして、軸シール部材121の軸方向の長さを短くしている。また、一例として、延出部722の回転軸50の径方向の長さは、軸シール部材121において突出部121bが形成された部分、即ち軸シール部材121の第2ポンプシール115側の径方向の長さよりも短くなっている。換言すると、延出部722において中心孔72aに回転軸50を挿通させるための隙間よりも、軸シール部材121における突出部121bが形成された部分と段差部721の内周面との隙間が狭くなっている、或いは隙間が生じないようになっている。これにより、後者の隙間にリング部材122が入り込むよう変形しないようにして、耐久性の向上を図っている。なお、段差部721の内周面に、リング部材122を組み付けるための溝部を設けてもよい。
【0049】
[実施形態の効果]
ギヤポンプ装置1によれば、図4に示すように、軸シール部材121の突出部121b及び第2シリンダ72の延出部722により、軸シール部材121からのリング部材122の脱落を防止可能な脱落防止壁を構成することが可能である。このため、従来のように、軸シール部材121に溝部を形成し、当該溝部にリング部材122を配置する必要がない。つまり、軸シール部材121の軸方向の両端に突出部を設ける必要がないので、片方の突出部の分だけ、軸シール部材121の軸方向の長さを短くできる。これにより、ギヤポンプ装置1の軸方向の長さを短くすることができる。
【0050】
特に、図4に示すように、第2シリンダ72の延出部722の軸方向の長さL2を、軸シール部材121の突出部121bの軸方向の長さL1よりも短く、且つリング部材122の軸方向の長さL3よりも短くしている。これにより、ギヤポンプ装置1の軸方向の長さを、より短くすることができる。
【0051】
また、軸シール部材121には、軸50の回転に伴って軸シール部材121が回転することを防止するための回転防止部として、図5及び図6に示すように、第2ポンプシール115側の側面に上下一対の凸部121dが形成されている。上下一対の凸部121dを、図3に示す第2ポンプシール115の内周面に形成された凹部115bに係合させることによって、簡易な構成で軸シール部材121の軸周方向の回転を防止できる。
【0052】
また、軸シール部材121は、該軸シール部材121の軸方向における突出部121b側の端部、即ち左側端部のうち、周方向に関して凸部121dの設けられていない端面121f(図5参照)が、第2ポンプシール115における中心孔115aの周縁部と当接することにより、図4における左方への移動が規制されている。このため、第2シリンダ72の段差部721の径方向内側に、軸シール部材121の図4における左方への移動を規制する部材を配置するスペースを確保する必要がない。更に、第2シリンダ72の延出部722により、図4における右方へのリング部材122の移動が規制されている。このため、軸シール部材121とオイルシール123との間に、リング部材122の抜け止め用の別部材を設ける必要がない。従って、ギヤポンプ装置1の軸方向の長さを一層短くできる。
【0053】
〔その他の実施形態〕
上記した実施形態では、軸シール部材121に、2つの凸部121dが設けられているものとしたが、これに限らず、例えば凸部121dが3つ以上設けられていてもよい。また、軸シール部材121の回転防止部は、凸部121dに限定されない。他にも、例えば、軸シール部材121に凹部を設け、これに係合する凸部を第2ポンプシール115に設けてもよい。
【0054】
また、上記した実施形態では、図4に示すように、軸シール部材121の第2ポンプシール115側に突出部121bを設けるものとしたが、これに限らず、軸シール部材121のオイルシール123側に突出部121bを設けてもよい。この場合、第2ポンプシール115とリング部材122との間に、延出部722を設ければよい。これにより、リング部材122が第2ポンプシール115に接することを避けながら、リング部材122を段差部721の所定位置に配置できる。
【0055】
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1 ギヤポンプ装置
10a,10b ロータ室(収容部)
20,30 ギヤポンプ
21,31 アウターロータ
22,32 インナーロータ
22b 中心孔
50 回転軸
71 第1シリンダ
72 第2シリンダ
72a 中心孔
721 段差部
722 延出部
111 第1ポンプシール
115 第2ポンプシール
115b 凹部
121 軸シール部材
121a 当接部
121b 突出部
121d 凸部(回転防止部)
122 リング部材
L1 突出部の軸方向の長さ
L2 延出部の軸方向の長さ
L3 リング部材の軸方向の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6