(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057600
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート構造物、その製作方法、及びその構造
(51)【国際特許分類】
E02D 31/06 20060101AFI20220404BHJP
E04B 1/64 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
E02D31/06 B
E04B1/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165932
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】正木 徹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 修
(72)【発明者】
【氏名】山路 徹
(72)【発明者】
【氏名】与那嶺 一秀
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮一
(72)【発明者】
【氏名】網野 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】竹中 寛
(72)【発明者】
【氏名】末岡 英二
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DA01
2E001DH25
2E001EA01
2E001FA34
2E001GA12
2E001GA24
2E001HD11
2E001HE01
2E001LA10
2E001MA02
(57)【要約】
【課題】水平方向に設置した金属部材に防水材を備えた鉄筋コンクリート構造物を実現する。
【解決手段】横鉄筋(2)を備えた鉄筋コンクリート構造物(10)は、横鉄筋(2)は、横鉄筋(2)の短手方向断面における外周を取り囲むように配置されたシーリング材(1)を備え、シーリング材(1)が鉄筋コンクリート構造物(10)内部の側面(31)近傍に配置された構成である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物であって、
前記横鉄筋は、当該横鉄筋の短手方向断面における外周を取り囲むように配置されたシーリング材を備え、
前記シーリング材が前記鉄筋コンクリート構造物内部の側面近傍に配置されたことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物。
【請求項2】
前記鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の面までの距離が1cm以上、5cm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項3】
前記シーリング材が、前記横鉄筋を嵌め込み可能な1つの孔を有している板状ゴム部材であり、
前記板状ゴム部材は、前記孔より下側の鉛直方向の長さが、前記孔より上側の鉛直方向長さよりも長く、
前記板状ゴム部材の前記孔に前記横鉄筋を貫通させることで前記横鉄筋の短手方向断面における外周を取り囲むように前記板状ゴム部材が配置されたことを特徴とする、請求項1または2に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項4】
前記板状ゴム部材は、前記孔より下側の鉛直方向の長さが10mm以上、15mm以下であることを特徴とする、請求項3に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項5】
前記板状ゴム部材は、耐アルカリ性、止水性、非水膨潤性且つ遮塩性であることを特徴とする、請求項3または4に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項6】
前記板状ゴム部材は、硬度が30以上、50以下であることを特徴とする、請求項3から5のいずれか一項に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項7】
横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物の製作方法において、
横鉄筋の短手方向断面における外周を取り囲むようにシーリング材を設けるシーリング材取付けステップと、
前記横鉄筋を配筋してコンクリートを打設するコンクリート打設ステップと、
を有し、
前記シーリング材が前記鉄筋コンクリート構造物内部の側面近傍に配置されることを特徴とする、鉄筋コンクリート構造物の製作方法。
【請求項8】
前記シーリング材取付けステップでは、前記シーリング材に前記横鉄筋を貫通させることで前記横鉄筋の短手方向断面における外周を取り囲むように前記シーリング材が配置されることを特徴とする、請求項7に記載の鉄筋コンクリート構造物の製作方法。
【請求項9】
前記鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の面までの距離が1cm以上、5cm以下となるように、前記シーリング材を配置することを特徴とする、請求項7または8に記載の鉄筋コンクリート構造物の製作方法。
【請求項10】
鉄筋コンクリート構造物の構造であって、
水平方向に設置した金属部材の短手方向断面における外周を取り囲むようにシーリング材が設けられており、
前記シーリング材が前記鉄筋コンクリート構造物内部の側面近傍に配置されていることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄筋コンクリート構造物、その製作方法、及びその構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物を用いる際に、鉄筋コンクリート構造物同士の接合部分にはシーリング材が配置される場合がある。例えば、特許文献1には、地下空間に配設された梁部材と接合される中柱部材を備える地下構造物において、支圧板と中柱部材との間にシーリング材が介在されていることにより、支圧板と中柱部材との間からの中柱部材に対する浸水を防止することが開示されている。
【0003】
特許文献2には、第1プレキャスト部材と第2プレキャスト部材とを接合させる接合構造において、第1プレキャスト部材の第1孔部内に第2プレキャスト部材の第2主筋を埋め込む固化材を充填することによりプレキャスト部材同士を接合すること、および第1プレキャスト部材と第2プレキャスト部材との接合部分に止水ゴムを配置することにより止水性を高めることが開示されている。
【0004】
また、側方に突出した横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物においては、製作時に生じたコンクリートのブリーディング等の影響によって、横鉄筋の下部に空隙が形成される場合がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-199808号公報(2013年10月 3日公開)
【特許文献2】特開2016-89500号公報(2016年 5月23日公開)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】荒木大智ら,土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)公演概要集,p.451-452,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉄筋コンクリート構造物が、海洋環境下に長期間放置された場合、鉄筋とコンクリートとの接合部分からの塩化物イオンの浸透により、コンクリート内部の鉄筋の腐食が発生するという問題が生じる。特に、ブリーディング等の影響によって空隙が形成された部分のコンクリートの組成は粗くなるため、海洋環境下に曝された際に、海水の浸透に伴う塩化物イオンが浸透し易くなり、鉄筋の腐食が促進されることになる。
【0008】
しかしながら、特許文献1および2に開示された技術は、横鉄筋の下のブリーディングに着目したものではない。
【0009】
そこで、本発明の一態様は、水平方向に設置した金属部材に防水材を備えた鉄筋コンクリート構造物を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物は、横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物であって、前記横鉄筋は、当該横鉄筋の短手方向断面における外周を取り囲むように配置されたシーリング材を備え、前記シーリング材が前記鉄筋コンクリート構造物内部の側面近傍に配置された構成である。
【0011】
前記の構成によれば、横鉄筋に防水材としてのシーリング材を備えた鉄筋コンクリート構造物を実現することができる。また、横鉄筋の短手方向断面における外周を取り囲むようにシーリング材が配置されるので、ブリーディング等の影響によって横鉄筋の下側に空隙が生じた場合であっても、シーリング材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。さらには、コンクリート内部の塩化物イオンの浸透経路の途中に配置されたシーリング材によって、横鉄筋の短手方向断面における外周の全周にわたって、鉄筋から離れる方向に塩化物イオンの浸透経路を変えることができる。また、シーリング材の位置が、鉄筋コンクリート構造物内部の側面近傍であることにより、コンクリート構造物の前記側面の強度を低下させることなく、前記側面により近い位置から塩化物イオンの浸透経路を変えることができる。これにより、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食を防止することができる。その結果、横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物の塩化物イオンに対する耐久性を向上させることができる。
【0012】
また、前記鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の面までの距離が1cm以上、5cm以下である構成となっていることが好ましい。
【0013】
前記の構成によれば、鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の面までの距離が十分に保たれているので、コンクリート構造物の前記側面の強度が低下することを防ぐことができる。また、前記側面により近い位置から塩化物イオンの浸透経路を変えることができるので、浸透した塩化物イオンに曝される内部の鉄筋の面積をより少なくすることができる。
【0014】
また、前記シーリング材が、前記横鉄筋を嵌め込み可能な1つの孔を有している板状ゴム部材であり、前記板状ゴム部材は、前記孔より下側の鉛直方向の長さが、前記孔より上側の鉛直方向長さよりも長く、前記板状ゴム部材の前記孔に前記横鉄筋を貫通させることで前記横鉄筋の短手方向断面における外周を取り囲むように前記板状ゴム部材が配置された構成であることが好ましい。
【0015】
前記の構成によれば、板状ゴム部材の孔に横鉄筋を嵌め込むことによって板状ゴム部材を横鉄筋に密着させることができるので、板状ゴム部材と横鉄筋の表面との間から塩化物イオンが侵入することを防ぐことができる。また、板状ゴム部材を嵌め込み式とすることでコンクリートの打設時にシーリング材が脱落しなくなる。また、ブリーディング等の影響によって生じる空隙は横鉄筋の下側に生じるので、板状ゴム部材は、前記孔より下側の鉛直方向の長さが前記孔より上側の鉛直方向の長さよりも長いことにより、板状ゴム部材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。
【0016】
また、前記板状ゴム部材は、前記孔より下側の鉛直方向の長さが10mm以上、15mm以下であることが好ましい。
【0017】
前記の構成によれば、板状ゴム部材の孔より下側の鉛直方向の長さが前述した範囲内であれば、板状ゴム部材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。また、板状ゴム部材の前記孔より下側の鉛直方向の長さが10mm以上であることにより、板状ゴム部材を横鉄筋に取り付ける際の取扱い性に優れる。また、板状ゴム部材の前記孔より下側の鉛直方向の長さが15mm以下であることにより、他の横鉄筋への干渉を防止することができる。
【0018】
また、前記板状ゴム部材は、耐アルカリ性、止水性、非水膨潤性且つ遮塩性であることが好ましい。
【0019】
前記の構成によれば、板状ゴム部材は耐アルカリ性であるので、強アルカリ性のコンクリート内部で劣化し難い。また、板状ゴム部材は止水性であるので、板状ゴム部材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。また、板状ゴム部材は非水膨潤性であるので、鉄筋が雨水でぬれる場合など、水分がかかるときには、取り付けもしやすい。また、板状ゴム部材は遮塩性を有しているので、塩化物イオンの浸透を防ぐことができる。
【0020】
また、前記板状ゴム部材は、硬度が30以上、50以下であることが好ましい。
【0021】
前記の構成によれば、板状ゴム部材の横鉄筋への取り付けが容易でありコンクリート打設時に破損もしにくい。板状ゴム部材の硬度が30以上であれば横鉄筋への取り付け時に裂け難く、硬度が50以下であれば横鉄筋への取り付けがし易く、施工性に優れる。
【0022】
また、前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物の製作方法は、横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物の製作方法において、横鉄筋の短手方向断面における外周を取り囲むようにシーリング材を設けるシーリング材取付けステップと、前記横鉄筋を配筋してコンクリートを打設するコンクリート打設ステップと、を有し、前記シーリング材が前記鉄筋コンクリート構造物内部の側面近傍に配置される構成である。
【0023】
前記の構成によれば、横鉄筋に防水材としてのシーリング材を備えた鉄筋コンクリート構造物を提供することができる。また、横鉄筋の短手方向断面における外周を取り囲むようにシーリング材が配置されるので、ブリーディング等の影響によって横鉄筋の下側に空隙が生じた場合であっても、シーリング材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。さらには、シーリング材が鉄筋コンクリート構造物内部の側面近傍に配置されることにより、コンクリート内部の塩化物イオンの浸透経路の途中に配置されたシーリング材によって、横鉄筋の短手方向断面における外周の全周にわたって鉄筋から離れる方向に塩化物イオンの浸透経路を変えることができる。また、シーリング材の位置が、鉄筋コンクリート構造物内部の側面近傍であることにより、コンクリート構造物の前記側面の強度を低下させることなく、前記側面により近い位置から塩化物イオンの浸透経路を変えることができる。これにより、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食を防止することができる。その結果、塩化物イオンに対する耐久性が向上した、横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物を提供することができる。
【0024】
前記シーリング材取付けステップでは、前記シーリング材に前記横鉄筋を貫通させることで前記横鉄筋の短手方向断面における外周を取り囲むように前記シーリング材を配置することが好ましい。
【0025】
前記の構成によれば、横鉄筋をシーリング材に貫通させることによってシーリング材を取り付けるので、取り付けが容易でかつ横鉄筋にシーリング材を密着させ易い。
【0026】
前記鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の面までの距離が1cm以上、5cm以下となるように、前記シーリング材を配置することが好ましい。
【0027】
前記の構成によれば、鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の面までの距離が十分に保たれているので、コンクリート構造物の前記側面の強度が低下することを防ぐことができる。また、前記側面により近い位置から塩化物イオンの浸透経路を変えることができるので、塩化物イオンに曝される内部の鉄筋の面積をより少なくすることができる。
【0028】
また、前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物の構造は、水平方向に設置した金属部材の短手方向断面における外周を取り囲むようにシーリング材が設けられており、前記シーリング材が前記鉄筋コンクリート構造物内部の側面近傍に配置されている構成である。
【0029】
本発明の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物は、水平方向に設置した金属部材の短手方向断面における外周を取り囲むようにシーリング材が設けられており、前記シーリング材が前記鉄筋コンクリート構造物内部の側面近傍に配置されているという特徴的な構造を有している。このような構造についても本発明の範疇に含まれる。前記の構成によれば、請求項1に係る発明と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一態様によれば、水平方向に設置した金属部材に防水材としてのシーリング材を備えた鉄筋コンクリート構造物を実現することができる。水平方向に設置した金属部材に防水材としてのシーリング材を備えることにより、ブリーディング等の影響によって水平方向に設置した金属部材の下側に空隙が生じた場合であっても、シーリング材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。これにより、塩化物イオンに曝されることによる内部の金属部材の腐食を防止することができる。その結果、水平方向に設置した金属部材を備えた鉄筋コンクリート構造物の塩化物イオンに対する耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態1に係る鉄筋コンクリート構造物の構成の一例を示す(A)縦断面図と(B)AA’線における矢視断面図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る鉄筋コンクリート構造物が備えている、板状ゴム部材の他の構成例を示す正面図である。
【
図3】本発明の実施形態2に係る鉄筋コンクリート構造物の構造の構成の一例を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態3に係る鉄筋コンクリート構造物の構造の構成の一例を示す断面図である。
【
図5】従来技術を示す図であり、鉄筋コンクリート構造物における塩化物イオンの浸透性に及ぼすブリーディングの影響について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、先に説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない場合がある。
【0033】
まず、鉄筋コンクリート構造物における塩化物イオンの浸透性に及ぼすブリーディングの影響について
図5に基づき説明する。
図5は、従来技術を示す図であり、(A)は、海水曝露試験に用いた鉄筋コンクリート試験体100の概略斜視図である。鉄筋コンクリート試験体100は、
図5の(A)に示される3次元座標空間に配置される。XY平面は、水平方向に配置され、XY平面に直交する法線方向のうち、天頂へ向かう方向をZ軸負方向と定める。
【0034】
鉄筋コンクリート試験体100は、側面31から側方(水平方向)に突出した横鉄筋2を備えている。
図5の(B)は、
図5の(A)におけるYZ平面の断面を示す断面図である。
図5の(B)に示すように、鉄筋コンクリート試験体100には、ブリーディング等によって横鉄筋2の下部に空隙4が形成されていることがわかる。YZ平面におけるZ軸方向の空隙4の幅は、通常1mm程度以下である。
【0035】
2個の鉄筋コンクリート試験体100について、海水曝露試験を行い、電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer;EPMA)による面分析を行った。
図5の(C-1)および(D-1)は、横鉄筋下部の分析断面写真であり、(C-2)および(D-2)は、横鉄筋下部の各分析断面について、塩化物イオンのEPMA面分析結果を示す。
【0036】
海水曝露試験では、
図5の(A)に示す矢印I方向に沿って鉄筋コンクリート試験体100に向けて海水をかけることで、鉄筋コンクリート試験体100を海水に曝露させた。海水に曝露後6ヶ月経過後の鉄筋コンクリート試験体100を
図5の(A)におけるD-D’矢視線を通り且つXZ平面に平行な断面で切断して、その切断面のうち、横鉄筋2の下部からコンクリート底部までの分析断面についてEPMA面分析を行った。
【0037】
その結果、
図5の(C-2)および(D-2)に示すように、鉄筋コンクリート試験体100では、横鉄筋2の下部に形成された空隙に沿って、X軸正方向(つまり、側面31からコンクリート内部に向かう方向)およびZ軸正方向(つまり、横鉄筋2の下部からコンクリート底面に向かう方向)に、コンクリート内部まで塩化物イオンが浸透していることがわかる。そして、鉄筋コンクリート構造物における塩化物イオンの浸透性に及ぼすブリーディングの影響は横鉄筋の下部付近の特に側面31付近でより大きくなることがわかる。このため、鉄筋コンクリート構造物の接合部分から浸透する塩化物イオンに対する耐久性を向上させるためには、横鉄筋の下部に形成された空隙からの水分および塩化物イオンの浸透を防ぐ必要がある。
【0038】
〔実施形態1〕
(鉄筋コンクリート構造物10の構成)
以下、本発明の一実施形態について、
図1に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る鉄筋コンクリート構造物10の構成の一例を示す断面図である。
【0039】
鉄筋コンクリート構造物10は、
図1に示される3次元座標空間に配置される。XY平面は、水平方向に配置され、XY平面に直交する法線方向のうち、天頂へ向かう方向をZ軸負方向と定める。
図1の(A)は横鉄筋2の長手方向に平行な方向の断面(XZ断面)を表し、(B)は(A)のA-A’線矢視断面図である。
【0040】
なお、
図1では、説明の都合上、鉄筋コンクリート構造物10が備えている鉄筋の内の1本の横鉄筋2のみを図示している。しかし、鉄筋コンクリート構造物10は、必要に応じて複数本の横鉄筋および縦鉄筋を備えていてもよい。
【0041】
ここで、本明細書では、鉄筋コンクリート構造物10の製作過程においてコンクリートが固化する以前に水平方向に配筋されている鉄筋を、説明の都合上「横鉄筋」と称している。例えば、
図1の(A)に示す鉄筋コンクリート構造物10がプレキャスト部材である場合に、プレキャスト部材を製作する際に横向きに製作し、コンクリート固化後の鉄筋コンクリート構造物10を、Y軸を回転軸として90°回転させることによって横鉄筋2が垂直方向に突出した状態、つまり鉛直方向鉄筋として使用する場合もあり得る。しかし、このような場合であっても、鉄筋コンクリート構造物10の垂直方向に突出した鉄筋は、鉄筋コンクリート構造物10としての製作過程においてコンクリートが固化する以前には水平方向に配筋されていたものでコンクリート打設時に鉄筋下側にブリーディングによる空隙が発生するので、本明細書中で規定される「横鉄筋」の範疇に入る。
【0042】
また、鉄筋コンクリート構造物10は、工場内で製作されるプレキャスト部材であってもよく、工事現場で鉄筋を配筋しコンクリートを打設して製作する構造物であってもよい。製作時に水平方向に配筋された鉄筋を備えた構造体であれば、鉄筋コンクリート構造物10が製作される場所は特に問わない。
【0043】
図1の(A)に示すように、鉄筋コンクリート構造物10は、コンクリート部分3の側面31(地際部31ともいう)から側方(
図1におけるX軸負方向)に突出した横鉄筋2を備えている。横鉄筋2は、シーリング材として、横鉄筋2を嵌め込み可能な1つの孔を有している板状ゴム部材1を備えている。
【0044】
板状ゴム部材1を備えていることにより、ブリーディング等の影響によって横鉄筋2の下側に空隙が生じた場合であっても、板状ゴム部材1が配置された場所より内方(
図1におけるX軸正方向)へ塩化物イオンが侵入し難くなる。さらには、板状ゴム部材1を備えていることにより、
図1の(A)の矢印Sが示すように、横鉄筋2から離れる方向に塩化物イオン(S)の浸透経路を変えることができる。
【0045】
(板状ゴム部材1)
図1の(B)に示すように、板状ゴム部材1は、横鉄筋2を嵌め込み可能な1つの孔11を有している。孔11に横鉄筋2を嵌め込むことにより、板状ゴム部材1は、横鉄筋2の短手方向断面における外周を取り囲むように配置される。孔11は、横鉄筋2の周面を締め付け可能な大きさとなっている。これにより、横鉄筋2の短手方向断面における周面に空隙を残さずに板状ゴム部材1を取り付けることができるので、板状ゴム部材1と横鉄筋2の表面との間から鉄筋コンクリート構造物10の内方へ水分が侵入することを防ぐことができる。
【0046】
板状ゴム部材1は、鉄筋コンクリート構造物10内部の側面31近傍に配置されている。板状ゴム部材1は、鉄筋コンクリート構造物10の側面31から板状ゴム部材1の側面31側の面までの距離a2が、1cm以上、5cm以下となる位置に配置されていることが好ましい。距離a2が1cm以上であれば、鉄筋コンクリート構造物10の側面31と板状ゴム部材1との距離が十分に保たれているので、鉄筋コンクリート構造物10の側面31の強度低下を防ぐことができる。また、距離a2が5cm以下であれば、塩化物イオンの浸透経路を側面31により近い位置から変えることができるので、内部の横鉄筋2が塩化物イオンに曝される面積をより少なくすることができる。
【0047】
板状ゴム部材1は、耐アルカリ性、止水性、非水膨潤性且つ遮塩性であることが好ましい。耐アルカリ性とは、アルカリ性環境下で劣化しないまたは劣化し難い性質をいう。また、非水膨潤性とは、水に浸漬後の体積が水に浸漬する前の体積と同じか、または水への浸漬前後で体積がほとんど変化しない性質をいう。遮塩性とは、塩化物イオンの浸透を遮断する性質をいう。露出した鉄筋の部分には新しいコンクリートを打ち継ぐことになる。露出した鉄筋をそのままの状態で放置できる期間は最大でも2年程度である。よって板状ゴム部材1は、2年程度の耐アルカリ性、非水膨潤性を有していればよい。
【0048】
板状ゴム部材1は耐アルカリ性であるので、強アルカリ性のコンクリート内部で劣化し難い。また、板状ゴム部材1は非水膨潤性であるので、施工時に作業員へ附着する恐れが無いことから施工性がよい。また、板状ゴム部材1は遮塩性を有しているので、塩化物イオンの浸透を防ぐことができる。
【0049】
耐アルカリ性のゴムとしては、シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、エチレン・酢酸ビニルゴム(EVA)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等を挙げることができる。
【0050】
非水膨潤性のゴムとしては、シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等を挙げることができる。
【0051】
シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)は、耐アルカリ性、止水性、非水膨潤性および遮塩性を備えていることから板状ゴム部材1の材料としてより好ましい。
【0052】
これらのゴムは、1種を単独で使用してもよく、複数種類を混合して併用してもよい。また、耐アルカリ性、止水性、非水膨潤性および遮塩性を損なわない範囲でゴム以外のその他材料を含んでいてもよい。
【0053】
板状ゴム部材1の硬度は、30~50±5であることが好ましい。ゴムの硬度は、JIS K 6253-1997準拠のタイプAデュロメータを用いて測定した値である。板状ゴム部材1の硬度が前記範囲であれば、容易に横鉄筋2に板状ゴム部材1を取り付けることができ、板状ゴム部材1と横鉄筋2との隙間を小さくすることができる。
【0054】
板状ゴム部材1の厚さc2は、2mm以上、5mm以下とすることが好ましい。板状ゴム部材1の厚さc2が2mm以上であれば、板状ゴム部材1を横鉄筋2に取り付ける際の取扱い性に優れる。また、板状ゴム部材1の厚さc2が5mm以下であれば、鉄筋とコンクリートとの付着に影響を与えない。
【0055】
板状ゴム部材1は、孔11より下側の鉛直方向(Z軸方向)の長さd1が、孔11より上側の鉛直方向の長さd2よりも長いことが好ましい。ブリーディング水の影響によって生じる空隙は横鉄筋2の下側に生じるので、板状ゴム部材1の孔11より上側の鉛直方向の長さd2、および水平方向の長さe1、e2は5mmとしているが、横鉄筋2への取り付け時の板状ゴム部材1の破損防止のために必要な長さであればよく、取り付け時に破損しないのであれば5mm以下でも構わない。また、コンクリート内に異物を混入することになるので、影響を与えないよう、板状ゴム部材1の孔11より上側の鉛直方向の長さd2、および水平方向の長さe1、e2は短い程望ましい。
【0056】
板状ゴム部材1は、孔11より下側の鉛直方向の長さd1が10mm以上、15mm以下であることが好ましい。板状ゴム部材1の孔11より下側の鉛直方向の長さd1が前述した範囲内であれば、ブリーディング等の影響によって横鉄筋2の下側に空隙が生じた場合であっても、板状ゴム部材1が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。また、孔11より下側の鉛直方向の長さd1が15mm以下であることにより、他の横鉄筋への干渉を防止できる。板状ゴム部材1の大きさを大きくするほうが塩化物イオンの浸透を抑制することが出来るが、異物をコンクリート内に入れるため、d1の長さが横鉄筋で使用することが多いD19、D16と同等の寸法であればよい。
【0057】
板状ゴム部材1の形状は特に限定されない。例えば、
図1に示した矩形以外に、
図2の(A)に示した楕円形の外側の形状を有する板状ゴム部材1aとしてもよく、
図2の(B)に示した菱形の外側の形状を有する板状ゴム部材1bとしてもよい。板状ゴム部材1aおよび板状ゴム部材1bは、横鉄筋2を嵌め込み可能な孔(11aまたは11b)をそれぞれ有している。板状ゴム部材1aおよび板状ゴム部材1bについても、孔11aまたは孔11bより上側または下側の鉛直方向の長さ(d2およびd1)、並びに孔11aまたは孔11bより左側または右側の水平方向の長さ(e1およびe2)は、前述した範囲となるように適宜設定される。
【0058】
板状ゴム部材1の孔11の大きさおよび形状は、横鉄筋2を嵌め込み可能な大きさであれば特に限定されない。また、横鉄筋2に取り付けたときに、板状ゴム部材1は、横鉄筋2の短手方向断面における外周を取り囲むように配置されていればよいが、板状ゴム部材1が配置された場所より内方への塩化物イオンの侵入を防ぐ観点から、板状ゴム部材1の孔11の内面の少なくとも一部が横鉄筋2に当接するように板状ゴム部材1を配置することが好ましく、板状ゴム部材1の孔11の内面の全体が横鉄筋2に密着するように板状ゴム部材1を配置することがより好ましい。
【0059】
(横鉄筋2およびコンクリート部分3)
鉄筋コンクリート構造物10が備えている横鉄筋2および、鉄筋コンクリート構造物10のコンクリート部分3に使用する材料については、特に制限されない。横鉄筋2の太さ、コンクリートの組成等は、目的に応じて適宜選択することができる。
【0060】
(鉄筋コンクリート構造物10の製作方法)
本発明の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物10の製作方法は、横鉄筋2を備えた鉄筋コンクリート構造物10の製作方法において、横鉄筋2の短手方向断面における外周を取り囲むように板状ゴム部材1を設けるシーリング材取付けステップと、横鉄筋2を配筋してコンクリートを打設するコンクリート打設ステップとを有し、板状ゴム部材1が鉄筋コンクリート構造物10内部の側面31近傍に配置される構成である。
【0061】
シーリング材取付けステップにおいて、板状ゴム部材1が、横鉄筋2の短手方向断面における外周を取り囲むように配置される。これによりブリーディング等の影響によって横鉄筋2の下側に空隙が生じた場合であっても、板状ゴム部材1が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。板状ゴム部材1は、横鉄筋2を嵌め込み可能な孔11を有しているので、孔11に横鉄筋2を嵌め込むことによって、板状ゴム部材1に横鉄筋2を貫通させて、横鉄筋2の短手方向断面における外周を取り囲むように板状ゴム部材1aを取り付けることができる。
【0062】
また、板状ゴム部材1は、鉄筋コンクリート構造物10の側面31から板状ゴム部材1の側面31側の面までの距離が1cm以上、5cm以下となる位置に配置されることが好ましい。これにより、鉄筋コンクリート構造物10の側面31と板状ゴム部材1との間の距離が十分に保たれているので、鉄筋コンクリート構造物10の側面31におけるひび割れの発生を防止でき、強度が低下することを防ぐことができる。また、塩化物イオンの浸透経路を側面31により近い位置から変えることができるので、鉄筋コンクリート構造物10内部の横鉄筋2が塩化物イオンに曝される面積をより少なくすることができる。
【0063】
コンクリート打設ステップでは、横鉄筋2を配筋してコンクリートを打設する。コンクリートを打設する方法については、公知の方法に従って行うことができる。コンクリート打設ステップでは、横鉄筋2の少なくとも一方の端が鉄筋コンクリート構造物10の側面から突出するように配筋してコンクリートを打設してもよく、また、横鉄筋2の端が鉄筋コンクリート構造物10の側面から突出しないように配筋してコンクリートを打設してもよい。
【0064】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2に係る鉄筋コンクリート構造物の構造は、コンクリート内に水平方向に配筋した横鉄筋の短手方向断面における外周を取り囲むようにシーリング材が設けられており、前記シーリング材が前記鉄筋コンクリート構造物内部の側面近傍に配置されている構成である。ここで、前記「構造」とは、鉄筋コンクリート構造物の内の、横鉄筋とシーリング材との組合せによって構成された一部分を指す。前記横鉄筋は、コンクリート打設時にコンクリート内に水平方向に定着するように配置され、コンクリート打設時に発生するブリーディングの影響で下面に空隙を生じ、コンクリート側面に発生するクラック等からの塩化物イオンの侵入によって錆等を生じてしまう。
【0065】
本発明の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物の構造について言及する場合、鉄筋コンクリート構造物は、前記構造を有している限りにおいて、その他の構成は特に限定されない。従って、鉄筋コンクリート構造物は、工場内で製作されるプレキャスト部材であってもよく、工事現場で鉄筋を配筋しコンクリートを打設して製作する構造物であってもよい。また、鉄筋コンクリート構造物の横鉄筋は、
図1に示すように、コンクリート側面から側方に突出していてもよく、
図3に示すように、コンクリート側面から側方に突出していなくてもよい。
【0066】
図3は、本発明の実施形態2に係る鉄筋コンクリート構造物10aの構造40の構成の一例を示す断面図である。鉄筋コンクリート構造物10aは、
図3に示される3次元座標空間に配置される。XY平面は、水平方向に配置され、XY平面に直交する法線方向のうち、天頂へ向かう方向をZ軸負方向と定める。
図3は、横鉄筋2aの長手方向に平行な方向の断面(XZ断面)を表す断面図である。なお、
図3では、説明の都合上、鉄筋コンクリート構造物10aが備えている鉄筋の内の1本の横鉄筋2aのみを図示している。しかし、鉄筋コンクリート構造物10aは、必要に応じて複数本の横鉄筋および縦鉄筋を備えていてもよい。
【0067】
鉄筋コンクリート構造物10aは、側面31から側方に横鉄筋2aが突出していないが、このような鉄筋コンクリート構造物10aにおいても、横鉄筋2aは、横鉄筋2aの短手方向断面における外周を取り囲むように板状ゴム部材1を備え、板状ゴム部材1が鉄筋コンクリート構造物10a内部の側面31近傍に配置されているという、特徴的な構造40を有している。
【0068】
側面31から側方に横鉄筋が突出していない鉄筋コンクリート構造物10aについても、製作時に生じたコンクリートのブリーディング等の影響によって、横鉄筋2aの下部に空隙が形成される場合がある。そこで、側面31から側方に横鉄筋2aが突出していない鉄筋コンクリート構造物10aについても、前記「構造」を有していることにより、ブリーディング等の影響によって横鉄筋2aの下側に空隙が生じた場合であっても、側面31に発生したクラック等から侵入した塩化物イオンが、板状ゴム部材1が配置された場所より内方(
図3におけるX軸正方向)へ侵入し難くなるという効果が得られることは、技術常識に基づいて当業者が容易に理解することができる。
【0069】
〔実施形態3〕
また、本発明の別の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物の構造は、鉄筋コンクリート構造物において、横鉄筋に加えて配置されたシース管のような金属部材に適用してもよく、例えば、
図4に示すように側面31にシース管の開口部(鉄筋挿入孔)51が設けられている鉄筋コンクリート構造体でも構わない。
【0070】
図4は、本発明の実施形態1または2に係る鉄筋コンクリート構造物の構造の他の構成例(実施形態3)を示す断面図である。鉄筋コンクリート構造物10bは、
図4に示される3次元座標空間に配置される。XY平面は、水平方向に配置され、XY平面に直交する法線方向のうち、天頂へ向かう方向をZ軸負方向と定める。
図4の(A)は、シース管5の長手方向に平行な方向の断面(XZ断面)を表す断面図である。
【0071】
図4の(A)に示すように、鉄筋コンクリート構造物10bは、横鉄筋(図示せず)に加えて、水平方向に設置したシース管5を備えており、コンクリート部分3の側面31にシース管5の開口部(鉄筋挿入孔)51が設けられている。このような鉄筋コンクリート構造物10bにおいても、水平方向に設置したシース管5は、シース管5の短手方向断面における外周を取り囲むように板状ゴム部材1を備え、板状ゴム部材1が鉄筋コンクリート構造物10b内部の側面31近傍に配置されているという、特徴的な構造40を有している。なお、図中でのシース管は直管としているが、スパイラル形シース管であってもよい。
【0072】
図4の(B)は、水平方向に設置したシース管5を備え、コンクリート部分3の側面31にシース管5の開口部(鉄筋挿入孔)51が設けられたプレキャスト部材の任意の部分を側面31側から見た図である。
図4の(B)に示すように、プレキャスト部材から突出した横鉄筋2を、相対したプレキャスト部材に設けた鉄筋挿入孔に差し込んでグラウトで定着させプレキャスト部材間を一体化させる構造がある。その際には、鉄筋コンクリート構造物に設けられた当該鉄筋挿入孔にシース管5が配置される。
【0073】
なお、
図4では、説明の都合上、鉄筋コンクリート構造物10bが備えている水平方向に設置した1本のシース管5のみを図示しているが、鉄筋コンクリート構造物10bは、必要に応じて複数本の水平方向に設置したシース管および縦鉄筋を備えていてもよい。
【0074】
本明細書において水平方向に設置した金属部材とは、コンクリート打設時にコンクリート内に水平方向に定着するように配置された鉄筋やシース管のような金属部材であって、コンクリート打設時に発生するブリーディングの影響で下面に空隙を生じ、側面31からの塩化物イオンの侵入によって錆等を生じてしまう部材をいい、本発明における対象となる。
【0075】
なお、本明細書では、鉄筋コンクリート構造物の製作過程においてコンクリートが固化する以前に水平方向(横方向)に設置した金属部材を、説明の都合上「水平方向に設置した金属部材」と称する。このため、鉄筋コンクリート構造物の製作過程においてコンクリートが固化する以前には水平方向に設置されていた金属部材が、鉄筋コンクリート構造物の向きを回転させることによって垂直方向に設置した状態、つまり鉛直方向の金属部材として鉄筋コンクリート構造物を使用する場合もあり得る。しかし、このような場合であっても、鉄筋コンクリート構造物の垂直方向に設置した金属部材は、鉄筋コンクリート構造物としての製作過程においてコンクリートが固化する以前には水平方向に設置されていたものであるので、本明細書中で規定される「水平方向に設置した金属部材」の範疇に入る。
【0076】
鉄筋コンクリート構造物において水平方向(横方向)に配置してコンクリートを打設した際に発生するブリーディングによる空隙により塩化物イオンの侵入により錆等を発生させてしまうコンクリート構造物内に配置する金属製の部材であれば本発明の構造により錆等の発生を抑えることができる。
【0077】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
1、1a、1b 板状ゴム部材(シーリング材)
11、11a、11b 孔
2、2a 横鉄筋(金属部材)
3 コンクリート部分
4 空隙
5 シース管(金属部材)
51 開口部
10、10a、10b 鉄筋コンクリート構造物
31 側面
40 構造