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特開2022-57603鉄筋コンクリート構造物、その製作方法、およびコンクリート構造物の構造
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  • 特開-鉄筋コンクリート構造物、その製作方法、およびコンクリート構造物の構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057603
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート構造物、その製作方法、およびコンクリート構造物の構造
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/02 20060101AFI20220404BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20220404BHJP
   E04B 1/684 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
E04C5/02
E04G21/12 105Z
E04B1/684 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165936
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】正木 徹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 修
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮一
(72)【発明者】
【氏名】網野 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】竹中 寛
(72)【発明者】
【氏名】末岡 英二
(72)【発明者】
【氏名】山路 徹
(72)【発明者】
【氏名】与那嶺 一秀
【テーマコード(参考)】
2E001
2E164
【Fターム(参考)】
2E001DA01
2E001DA05
2E001EA02
2E001FA71
2E001GA24
2E001HE01
2E001MA03
2E001MA04
2E001MA08
2E164AA02
(57)【要約】
【課題】水平方向に配置した鉄筋等の鋼材に防水材を備えた鉄筋コンクリート構造物を実現する。
【解決手段】横鉄筋(2)を備えた鉄筋コンクリート構造物(10)は、横鉄筋(2)が、鉄筋コンクリート構造物(10)内部において、外周面の少なくとも一部にシーリング材(1)を備えている構成である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物であって、
前記横鉄筋は、前記鉄筋コンクリート構造物内部において、外周面の少なくとも一部にシーリング材を備えていることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物。
【請求項2】
前記シーリング材は、前記鉄筋コンクリート構造物の側面近傍に配置されたことを特徴とする、請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項3】
前記シーリング材は、一部が前記鉄筋コンクリート構造物の側面から側方に突出するように配置されたことを特徴とする、請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項4】
前記シーリング材が、前記横鉄筋の短手方向断面における外周長の3分の1以上の範囲にわたって前記横鉄筋の前記外周面の下面に配置されたことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項5】
前記鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の端面までの距離が1cm以上、5cm以下であることを特徴とする、請求項2に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項6】
前記シーリング材が、水膨潤性を有している板状ゴム部材であり、
前記板状ゴム部材の膨潤後の体積の原体積に対する比率が2以上、5以下であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項7】
前記板状ゴム部材は、ブチルゴムであることを特徴とする、請求項6に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項8】
横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物の製作方法において、
横鉄筋の外周面の少なくとも一部にシーリング材を設けるシーリング材取付けステップと、
前記横鉄筋を配筋してコンクリートを打設するコンクリート打設ステップと、
を有し、
前記シーリング材の少なくとも一部が前記鉄筋コンクリート構造物内部に配置されることを特徴とする、鉄筋コンクリート構造物の製作方法。
【請求項9】
前記シーリング材は、前記鉄筋コンクリート構造物の側面近傍に配置されることを特徴とする、請求項8に記載の鉄筋コンクリート構造物の製作方法。
【請求項10】
前記シーリング材は、一部が前記鉄筋コンクリート構造物の側面から側方に突出するように配置されることを特徴とする、請求項8に記載の鉄筋コンクリート構造物の製作方法。
【請求項11】
前記シーリング材取付けステップでは、前記シーリング材が、前記横鉄筋の短手方向断面における外周長の3分の1以上の範囲にわたって前記横鉄筋の前記外周面の下面に配置されることを特徴とする、請求項8から10のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の製作方法。
【請求項12】
前記鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の端面までの距離が1cm以上、5cm以下となるように、前記シーリング材を配置することを特徴とする、請求項9に記載の鉄筋コンクリート構造物の製作方法。
【請求項13】
鉄筋および鋼材の一方または両方を主材とするコンクリート構造物の構造であって、
横鉄筋および水平方向に設置した鋼材の一方または両方は、前記コンクリート構造物内部において、外周面の少なくとも下面の一部にシーリング材を備えていることを特徴とするコンクリート構造物の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄筋コンクリート構造物、その製作方法、およびコンクリート構造物の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物を用いる際に、鉄筋コンクリート構造物同士の接合部分にはシーリング材が配置される場合がある。例えば、特許文献1には、地下空間に配設された梁部材と接合される中柱部材を備える地下構造物において、支圧板と中柱部材との間にシーリング材が介在されていることにより、支圧板と中柱部材との間からの中柱部材に対する浸水を防止することが開示されている。
【0003】
特許文献2には、第1プレキャスト部材と第2プレキャスト部材とを接合させる接合構造において、第1プレキャスト部材の第1孔部内に第2プレキャスト部材の第2主筋を埋め込む固化材を充填することによりプレキャスト部材同士を接合すること、および第1プレキャスト部材と第2プレキャスト部材との接合部分に止水ゴムを配置することにより止水性を高めることが開示されている。
【0004】
また、側方に突出した横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物においては、製作時に生じたコンクリートのブリーディング等の影響によって、横鉄筋の下部に空隙が形成される場合がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-199808号公報(2013年10月 3日公開)
【特許文献2】特開2016-89500号公報(2016年 5月23日公開)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】荒木大智ら,土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)公演概要集,p.451-452,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉄筋コンクリート構造物が、海洋環境下に長期間放置された場合、鉄筋とコンクリートとの接合部分からの塩化物イオンの浸透により、コンクリート内部の鉄筋の腐食が発生するという問題が生じる。特に、ブリーディング等の影響によって空隙が形成された部分のコンクリートの組成は粗くなるため、海洋環境下に曝された際に、海水の浸透に伴う塩化物イオンが浸透し易くなり、鉄筋の腐食が促進されることになる。
【0008】
しかしながら、特許文献1および2に開示された技術は、横鉄筋の下のブリーディングに着目したものではない。
【0009】
そこで、本発明の一態様は、水平方向に配置した鉄筋等の鋼材に防水材を備えたコンクリート構造物を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物は、横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物であって、前記横鉄筋は、前記鉄筋コンクリート構造物内部において、外周面の少なくとも一部にシーリング材を備えている構成である。
【0011】
前記の構成によれば、横鉄筋に防水材としてのシーリング材を備えた鉄筋コンクリート構造物を実現することができる。また、鉄筋コンクリート構造物内部において、横鉄筋の外周面の少なくとも一部にシーリング材を備えていることにより、ブリーディング等の影響によって横鉄筋とコンクリート部分との間に空隙が生じた場合であっても、シーリング材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。これにより、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食を防止することができる。その結果、横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物の塩化物イオンに対する耐久性を向上させることができる。
【0012】
また、前記シーリング材は、前記鉄筋コンクリート構造物の側面近傍に配置された構成となっていることが好ましい。
【0013】
前記の構成によれば、シーリング材が鉄筋コンクリート構造物の側面近傍に配置されることにより、コンクリート内部の塩化物イオンの浸透経路の途中にシーリング材が配置されるので、鉄筋から離れる方向に塩化物イオンの浸透経路を変えることができる。また、シーリング材の位置が、鉄筋コンクリート構造物の側面近傍であることにより、コンクリート構造物の前記側面の強度を低下させることなく、前記側面により近い位置から塩化物イオンの浸透経路を変えることができる。このため、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食を防止するためにより一層効果的である。
【0014】
また、前記シーリング材は、一部が前記鉄筋コンクリート構造物の側面から側方に突出するように配置された構成であってもよい。
【0015】
前記の構成によれば、シーリング材が横鉄筋の外周面の下面に沿って配置されているため、コンクリート構造物の側面からシーリング材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。従って、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食を防止することができる。
【0016】
また、前記シーリング材が、前記横鉄筋の短手方向断面における外周長の3分の1以上の範囲にわたって前記横鉄筋の前記外周面の下面に配置された構成となっていることが好ましい。
【0017】
前記の構成によれば、横鉄筋の短手方向断面における外周長の3分の1以上の範囲にわたってシーリング材が横鉄筋の外周面に沿って当該外周面の下面に配置されるので、ブリーディング等の影響によって横鉄筋の下側に空隙が生じた場合であっても、シーリング材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。さらには、コンクリート内部の塩化物イオンの浸透経路の途中にシーリング材が配置されることにより、横鉄筋の短手方向断面における外周長の3分の1以上の範囲にわたって、鉄筋から離れる方向に塩化物イオンの浸透経路を変えることができる。これにより、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食を防止することができる。
【0018】
また、前記鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の端面までの距離が1cm以上、5cm以下である構成となっていることが好ましい。
【0019】
前記の構成によれば、鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の端面までの距離が十分に保たれているので、コンクリート構造物の前記側面の強度が低下することを防ぐことができる。また、前記側面により近い位置から塩化物イオンの浸透経路を変えることができるので、浸透した塩化物イオンに曝される内部の鉄筋の面積をより少なくすることができる。
【0020】
また、前記シーリング材が、水膨潤性を有している板状ゴム部材であり、前記板状ゴム部材の膨潤後の体積の原体積に対する比率が2以上、5以下であることが好ましい。
【0021】
前記の構成によれば、板状ゴム部材が吸水によって体積膨張するので、板状ゴム部材が横鉄筋およびコンクリート部分に密接する。これにより、板状ゴム部材と横鉄筋との間から鉄筋コンクリート構造物の内方へ塩化物イオンが侵入することを防ぐことができる。また、板状ゴム部材の膨潤後の体積の原体積に対する比率が前述の範囲であれば、吸水した際の板状ゴム部材の膨張圧が高くなりすぎることによってコンクリート構造がひび割れることを防ぐことができる。
【0022】
また、前記板状ゴム部材は、ブチルゴムであってもよい。
【0023】
前記の構成によれば、ブチルゴム(IIR)は水膨潤性と高粘着性とを兼ね備えているので、吸水による板状ゴム部材の体積膨張と鉄筋への接着性とから、板状ゴム部材が横鉄筋およびコンクリート部分により密接する。これにより、ブリーディング等の影響によって横鉄筋の下側に空隙が生じた場合であっても、板状ゴム部材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。
【0024】
また、前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物の製作方法は、横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物の製作方法において、横鉄筋の外周面の少なくとも一部にシーリング材を設けるシーリング材取付けステップと、前記横鉄筋を配筋してコンクリートを打設するコンクリート打設ステップと、を有し、前記シーリング材の少なくとも一部が前記鉄筋コンクリート構造物内部に配置される構成である。
【0025】
前記の構成によれば、横鉄筋に防水材としてのシーリング材を備えた鉄筋コンクリート構造物を提供することができる。また、横鉄筋の外周面の少なくとも一部にシーリング材を設けることにより、ブリーディング等の影響によって横鉄筋とコンクリート部分との間に空隙が生じた場合であっても、シーリング材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。さらには、シーリング材の少なくとも一部が鉄筋コンクリート構造物内部に配置されることにより、コンクリート内部の塩化物イオンの浸透経路の途中にシーリング材が配置されるので、鉄筋から離れる方向に塩化物イオンの浸透経路を変えることができる。これにより、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食を防止することができる。その結果、塩化物イオンに対する耐久性が向上した、横鉄筋を備えた鉄筋コンクリート構造物を提供することができる。
【0026】
前記シーリング材取付けステップでは、前記シーリング材が、前記鉄筋コンクリート構造物の側面近傍に配置されることが好ましい。
【0027】
前記の構成によれば、シーリング材が、鉄筋コンクリート構造物の側面近傍に配置されるので、コンクリート構造物の前記側面の強度を低下させることなく、前記側面により近い位置から塩化物イオンの浸透経路を変えることができる。このため、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食を防止するためにより一層効果的である。
【0028】
前記シーリング材取付けステップでは、前記シーリング材は、一部が前記鉄筋コンクリート構造物の側面から側方に突出するように配置されてもよい。
【0029】
前記の構成によれば、シーリング材が横鉄筋の外周面の下面に沿って配置されているため、コンクリート構造物の側面からシーリング材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。従って、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食を防止することができる。
【0030】
前記シーリング材取付けステップでは、前記シーリング材が、前記横鉄筋の短手方向断面における外周長の3分の1以上の範囲にわたって前記横鉄筋の前記外周面の下面に配置されることが好ましい。
【0031】
前記の構成によれば、横鉄筋の短手方向断面における外周長の3分の1以上の範囲にわたってシーリング材が横鉄筋の外周面に沿って前記外周面の下面に配置されるので、ブリーディング等の影響によって横鉄筋の下側に空隙が生じた場合であっても、シーリング材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。さらには、コンクリート内部の塩化物イオンの浸透経路の途中にシーリング材が配置されることにより、横鉄筋の短手方向断面における外周長の3分の1以上の範囲にわたって、鉄筋から離れる方向に塩化物イオンの浸透経路を変えることができる。これにより、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食を防止することができる。
【0032】
前記シーリング材取付けステップでは、前記鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の端面までの距離が1cm以上、5cm以下となるように、前記シーリング材を配置することが好ましい。
【0033】
前記の構成によれば、鉄筋コンクリート構造物の前記側面から前記シーリング材の前記側面側の端面までの距離が十分に保たれているので、コンクリート構造物の前記側面の強度が低下することを防ぐことができる。また、前記側面により近い位置から塩化物イオンの浸透経路を変えることができるので、塩化物イオンに曝される内部の鉄筋の面積をより少なくすることができる。
【0034】
また、前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るコンクリート構造物の構造は、鉄筋および鋼材の一方または両方を主材とするコンクリート構造物の構造であって、横鉄筋および水平方向に設置した鋼材の一方または両方は、前記コンクリート構造物内部において、外周面の少なくとも下面の一部にシーリング材を備えている構成である。
【0035】
本発明の一態様に係る鉄筋および鋼材の一方または両方を主材とするコンクリート構造物は、横鉄筋および水平方向に設置した鋼材の一方または両方が、前記コンクリート構造物内部において、外周面の少なくとも下面の一部にシーリング材を備えているという特徴的な構造を有している。このような構造についても本発明の範疇に含まれる。前記の構成によれば、請求項1に係る発明と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0036】
本発明の一態様によれば、水平方向に配筋した鉄筋および水平方向に設置した鋼材の一方または両方に防水材としてのシーリング材を備えたコンクリート構造物を実現することができる。水平方向に配筋した鉄筋および水平方向に設置した鋼材の一方または両方に防水材としてのシーリング材を備えることにより、ブリーディング等の影響によって水平方向に配筋した鉄筋または水平方向に設置した鋼材の下側に空隙が生じた場合であっても、シーリング材が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。これにより、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋または鋼材の腐食を防止することができる。その結果、水平方向に配筋した鉄筋および水平方向に設置した鋼材の一方または両方を主材として備えたコンクリート構造物の塩化物イオンに対する耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施形態1に係る鉄筋コンクリート構造物の構成の一例を示す(A)縦断面図と(B)AA’線における矢視断面図である。
図2】本発明の実施形態2に係る鉄筋コンクリート構造物の構造の構成の一例を示す断面図である。
図3】本発明の実施形態3に係るコンクリート構造物の構造の構成の一例を示す(A)縦断面図と(B)BB’線における矢視断面図である。
図4】本発明の実施形態4に係るコンクリート構造物の構造の構成の一例を示す(A)縦断面図と(B)CC’線における矢視断面図である。
図5】本発明の実施形態5に係るコンクリート構造物の構造の構成の一例を示す断面図である。
図6】従来技術を示す図であり、鉄筋コンクリート構造物における塩化物イオンの浸透性に及ぼすブリーディングの影響について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、先に説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない場合がある。
【0039】
まず、鉄筋コンクリート構造物における塩化物イオンの浸透性に及ぼすブリーディングの影響について図6に基づき説明する。図6は、従来技術を示す図であり、(A)は、海水曝露試験に用いた鉄筋コンクリート試験体100の概略斜視図である。鉄筋コンクリート試験体100は、図6の(A)に示される3次元座標空間に配置される。XY平面は、水平方向に配置され、XY平面に直交する法線方向のうち、天頂へ向かう方向をZ軸負方向と定める。
【0040】
鉄筋コンクリート試験体100は、側面31から側方(水平方向)に突出した横鉄筋2を備えている。図6の(B)は、図6の(A)におけるYZ平面の断面を示す断面図である。図6の(B)に示すように、鉄筋コンクリート試験体100には、ブリーディング等によって横鉄筋2の下部に空隙4が形成されていることがわかる。YZ平面におけるZ軸方向の空隙4の幅は、通常1mm程度以下である。
【0041】
2個の鉄筋コンクリート試験体100について、海水曝露試験を行い、電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer;EPMA)による面分析を行った。図6の(C-1)および(D-1)は、横鉄筋下部の分析断面写真であり、(C-2)および(D-2)は、横鉄筋下部の各分析断面について、塩化物イオンのEPMA面分析結果を示す。
【0042】
海水曝露試験では、図6の(A)に示す矢印I方向に沿って鉄筋コンクリート試験体100に向けて海水をかけることで、鉄筋コンクリート試験体100を海水に曝露させた。海水に曝露後6ヶ月経過後の鉄筋コンクリート試験体100を図6の(A)におけるD-D’矢視線を通り且つXZ平面に平行な断面で切断して、その切断面のうち、横鉄筋2の下部からコンクリート底部までの分析断面についてEPMA面分析を行った。
【0043】
その結果、図6の(C-2)および(D-2)に示すように、鉄筋コンクリート試験体100では、横鉄筋2の下部に形成された空隙に沿って、X軸正方向(つまり、側面31からコンクリート内部に向かう方向)およびZ軸正方向(つまり、横鉄筋2の下部からコンクリート底面に向かう方向)に、コンクリート内部まで塩化物イオンが浸透していることがわかる。そして、鉄筋コンクリート構造物における塩化物イオンの浸透性に及ぼすブリーディングの影響は横鉄筋の下部付近の特に側面31付近でより大きくなることがわかる。このため、鉄筋コンクリート構造物の接合部分から浸透する塩化物イオンに対する耐久性を向上させるためには、横鉄筋の下部に形成された空隙からの水分および塩化物イオンの浸透を防ぐ必要がある。
【0044】
〔実施形態1〕
(鉄筋コンクリート構造物10の構成)
以下、本発明の一実施形態について、図1に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る鉄筋コンクリート構造物10の構成の一例を示す断面図である。
【0045】
鉄筋コンクリート構造物10は、図1に示される3次元座標空間に配置される。XY平面は、水平方向に配置され、XY平面に直交する法線方向のうち、天頂へ向かう方向をZ軸負方向と定める。図1の(A)は横鉄筋2の長手方向に平行な方向の断面(XZ断面)を表し、(B)は(A)のA-A’線矢視断面図である。
【0046】
なお、図1では、説明の都合上、鉄筋コンクリート構造物10が備えている鉄筋の内の1本の横鉄筋2のみを図示している。しかし、鉄筋コンクリート構造物10は、必要に応じて複数本の横鉄筋および縦鉄筋を備えていてもよい。
【0047】
ここで、本明細書では、鉄筋コンクリート構造物10の製作過程においてコンクリートが固化する以前に水平方向に配筋されている鉄筋を、説明の都合上「横鉄筋」と称している。例えば、図1の(A)に示す鉄筋コンクリート構造物10がプレキャスト部材である場合に、プレキャスト部材を製作する際に横向きに製作し、コンクリート固化後の鉄筋コンクリート構造物10を、Y軸を回転軸として90°回転させることによって横鉄筋2が垂直方向に突出した状態で使用する場合もあり得る。しかし、このような場合であっても、鉄筋コンクリート構造物10の垂直方向に突出した鉄筋は、鉄筋コンクリート構造物10の製作過程においてコンクリートが固化する以前には水平方向に配筋されていたものでコンクリート打設時に鉄筋下側にブリーディングによる空隙が発生するので、本明細書中で規定される「横鉄筋」の範疇に入る。
【0048】
また、鉄筋コンクリート構造物10は、工場内で製作されるプレキャスト部材であってもよく、工事現場で鉄筋を配筋しコンクリートを打設して製作する構造物であってもよい。製作時に水平方向に配筋された鉄筋を備えた構造体であれば、鉄筋コンクリート構造物10が製作される場所は特に問わない。
【0049】
図1の(A)に示すように、鉄筋コンクリート構造物10は、コンクリート部分3の側面31(地際部31ともいう)から側方(図1におけるX軸負方向)に突出した横鉄筋2を備えている。横鉄筋2は、鉄筋コンクリート構造物10内部において、横鉄筋2の外周面の少なくとも下面の一部にシーリング材として、板状ゴム部材1を備えている。
【0050】
板状ゴム部材1を備えていることにより、ブリーディング等の影響によって横鉄筋2の下側に空隙が生じた場合であっても、板状ゴム部材1が配置された場所より内方(図1におけるX軸正方向)へ塩化物イオンが侵入し難くなる。さらには、板状ゴム部材1を備えていることにより、図1の(A)の矢印Sが示すように、横鉄筋2から離れる方向に塩化物イオン(S)の浸透経路を変えることができる。
【0051】
(板状ゴム部材1)
板状ゴム部材1は、鉄筋コンクリート構造物10の側面31近傍に配置されている。板状ゴム部材1は、鉄筋コンクリート構造物10の側面31から板状ゴム部材1の側面31側の端面までの距離a1が、1cm以上、5cm以下となる位置に配置されていることが好ましい。距離a1が1cm以上であれば、鉄筋コンクリート構造物10内部において、側面31と板状ゴム部材1との距離が十分に保たれているので、鉄筋コンクリート構造物10の側面31におけるひび割れの発生を防止でき、強度低下を防ぐことができる。また、距離a1が5cm以下であれば、塩化物イオンの浸透経路を側面31により近い位置から変えることができるので、鉄筋コンクリート構造物10内部の塩化物イオンに曝される横鉄筋2の面積をより少なくすることができる。
【0052】
また、図1の(B)に示すように、板状ゴム部材1は、横鉄筋2の短手方向断面における外周長の3分の1以上の範囲にわたって横鉄筋2の外周面の下面に沿って配置されていることが好ましい。これにより、ブリーディング等の影響によって横鉄筋2の下側に空隙が生じた場合であっても、板状ゴム部材1が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。板状ゴム部材1は、横鉄筋2の短手方向断面における外周を取り囲むように配置されていてもよい。
【0053】
板状ゴム部材1は、水膨潤性を有していることが好ましい。水膨潤性とは、水に浸漬後の体積が、水に浸漬する前の体積よりも大きくなる性質をいう。水膨潤性を有している板状ゴム部材1は吸水によって体積膨張するので、コンクリートに含まれる水分により膨張し、板状ゴム部材1が横鉄筋2およびコンクリート部分3に密接する。これにより、板状ゴム部材1と横鉄筋2との間から鉄筋コンクリート構造物10の内方へ水分が侵入することを防ぐことができる。
【0054】
板状ゴム部材1の膨潤後の体積の原体積に対する比率は2以上、5以下であることが好ましい。板状ゴム部材1の膨潤後の体積の原体積に対する比率は2以上であれば、板状ゴム部材1が横鉄筋2およびコンクリート部分3により密接する。これにより、板状ゴム部材1と横鉄筋2との間から鉄筋コンクリート構造物10の内方へ水分が侵入することを防ぐことができる。また、板状ゴム部材1の膨潤後の体積の原体積に対する比率が5以下であれば、吸水した際の板状ゴム部材1の膨張圧が高くなりすぎることによってコンクリート部分3がひび割れることを防ぐことができる。なお、板状ゴム部材1の膨潤後の体積の原体積に対する比率において、前記「原体積」は、吸水前の板状ゴム部材1の体積であり、前記「膨潤後の体積」は、板状ゴム部材1を水に浸して膨潤平衡に達したときの体積である。
【0055】
このような水膨潤性を有しているゴムとしては、ブチルゴム(IIR)、ウレタン(U)ゴム等を挙げることができる。ブチルゴム(IIR)は、水膨潤性に加えて耐アルカリ性を有していることから板状ゴム部材1の材料としてより好ましい。これらのゴムは、1種を単独で使用してもよく、複数種類を混合して併用してもよい。また、水膨潤性を損なわない範囲でゴム以外のその他材料を含んでいてもよい。
【0056】
板状ゴム部材1は、水膨潤性に加えて粘着性をさらに有していることが好ましい。板状ゴム部材1が粘着性を有していることで、横鉄筋2と板状ゴム部材1とをより密接させることができる。これにより、板状ゴム部材1と横鉄筋2の表面との間から塩化物イオンが侵入することを防ぐことができる。止水材として一般的に使用される水膨潤性ブチルゴムテープは、水膨潤性および高粘着性を有していることから、板状ゴム部材1として好適に使用することができる。
【0057】
板状ゴム部材1の厚さc1は、2mm以上、3mm以下とすることが好ましい。前述したように、YZ平面におけるZ軸方向の空隙の幅は通常1mm程度であり、板状ゴム部材1は吸水によって膨潤するので、板状ゴム部材1の厚さc1が2mm以上であれば、ブリーディング等の影響によって横鉄筋2の下側に空隙が生じた場合であっても、板状ゴム部材1が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。また、板状ゴム部材1の厚さc1が3mm以下であれば、吸水した際のゴム部材の膨張圧が高くなりすぎることによってコンクリートがひび割れることを防ぐことができる。
【0058】
また、X軸方向(つまり、横鉄筋2の延伸方向)の板状ゴム部材1の幅bは、5mm以上、10mm以下であることが好ましい。板状ゴム部材1の幅bが5mm以上であれば、取付けが容易である。また、板状ゴム部材1の幅bが10mm以下であれば、ゴム部材の膨張圧が高くなりすぎずコンクリート部分3がひび割れることを防ぐことが出来る。
【0059】
横鉄筋2に取り付けたときに、板状ゴム部材1は、横鉄筋2の外周面の下面の少なくとも一部に配置されていればよいが、板状ゴム部材1が配置された場所より内方への塩化物イオンの侵入を防ぐ観点から、板状ゴム部材1の横鉄筋2の外周面と対向する側の面の少なくとも一部が横鉄筋2の外周面に接するように板状ゴム部材1を配置することが好ましく、板状ゴム部材1の横鉄筋2と対向する側の面の全体が横鉄筋2の外周面に密接するように板状ゴム部材1を配置することがより好ましい。
【0060】
(横鉄筋2およびコンクリート部分3)
鉄筋コンクリート構造物10が備えている横鉄筋2および、鉄筋コンクリート構造物10のコンクリート部分3に使用する材料については、特に制限されない。横鉄筋2の太さ、コンクリートの組成等は、目的に応じて適宜選択することができる。
【0061】
(鉄筋コンクリート構造物10の製作方法)
本発明の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物10の製作方法は、横鉄筋2を備えた鉄筋コンクリート構造物10の製作方法において、横鉄筋2の外周面の少なくとも一部に板状ゴム部材1を設けるシーリング材取付けステップと、横鉄筋2を配筋してコンクリートを打設するコンクリート打設ステップとを有し、板状ゴム部材1の少なくとも一部が鉄筋コンクリート構造物10内部に配置される構成である。
【0062】
シーリング材取付けステップでは、横鉄筋2の外周面の少なくとも一部に板状ゴム部材1を設ける。板状ゴム部材1の横鉄筋2への取り付け方法としては、例えば、板状ゴム部材1として粘着性を有している材料を選択し、この粘着性を利用して横鉄筋2の表面に接着する方法を挙げることができる。また、それ以外でも接着剤を用いるなど、板状ゴム部材1の横鉄筋2への取り付け方法としては、限定されない。
【0063】
板状ゴム部材1は、少なくとも一部が鉄筋コンクリート構造物10内部に配置されていれば、横鉄筋2の外周面におけるX軸方向(つまり、横鉄筋2の延伸方向)の板状ゴム部材1の取り付け位置は特に限定されない。鉄筋コンクリート構造物10の側面31の強度低下を防ぎつつ、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食防止効果を高める観点から、板状ゴム部材1は、鉄筋コンクリート構造物10の側面31近傍に配置されることが好ましい。
【0064】
板状ゴム部材1は、横鉄筋2の短手方向断面における外周長の3分の1以上の範囲にわたって横鉄筋2の外周面の下面に配置されることが好ましい。これによりブリーディング等の影響によって横鉄筋2の下側に空隙が生じた場合であっても、板状ゴム部材1が配置された場所より内方へ塩化物イオンが侵入し難くなる。また、板状ゴム部材1は、鉄筋コンクリート構造物10の側面31から板状ゴム部材1の側面31側の端面までの距離a1が1cm以上、5cm以下となる位置に配置されることが好ましい。これにより、鉄筋コンクリート構造物10の側面31と板状ゴム部材1との間の距離が十分に保たれているので、鉄筋コンクリート構造物10の側面31におけるひび割れの発生を防止でき、強度が低下することを防ぐことができる。また、塩化物イオンの浸透経路を側面31により近い位置から変えることができるので、鉄筋コンクリート構造物10内部の横鉄筋2が塩化物イオンに曝される面積をより少なくすることができる。
【0065】
また、後述する実施形態5に示すように、板状ゴム部材1は、鉄筋コンクリート構造物10の側面31から側方に突出する横鉄筋2の外周面の下面に沿って、板状ゴム部材1の一部が鉄筋コンクリート構造物10の側面31から側方に突出するように配置されてもよい。この場合も板状ゴム部材1は横鉄筋2の外周面の下面に沿って配置されているため、側面31から鉄筋コンクリート構造物10内部へ塩化物イオンが侵入し難くなる。その結果、塩化物イオンに曝されることによる内部の鉄筋の腐食防止効果が得られる。
【0066】
コンクリート打設ステップでは、横鉄筋2を配筋してコンクリートを打設する。コンクリートを打設する方法については、公知の方法に従って行うことができる。コンクリート打設ステップでは、横鉄筋2の少なくとも一方の端が鉄筋コンクリート構造物10の側面から突出するように配筋してコンクリートを打設してもよく、また、横鉄筋2の端が鉄筋コンクリート構造物10の側面から突出しないように配筋してコンクリートを打設してもよい。
【0067】
〔実施形態2〕
本発明の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物は、前述のとおり、横鉄筋は、前記鉄筋コンクリート構造物内部において、外周面の少なくとも一部にシーリング材を備えているという、特徴的な構造を有している。このような構造についても本発明の範疇に含まれる。ここで、前記「構造」とは、鉄筋コンクリート構造物の内の、横鉄筋とシーリング材との組合せによって構成された一部分を指す。
【0068】
本発明の一態様に係る鉄筋コンクリート構造物の構造について言及する場合、鉄筋コンクリート構造物は、前記構造を有している限りにおいて、その他の構成は特に限定されない。従って、鉄筋コンクリート構造物は、工場内で製作されるプレキャスト部材であってもよく、工事現場で鉄筋を配筋しコンクリートを打設して製作する構造物であってもよい。また、鉄筋コンクリート構造物の横鉄筋は、図1に示すように、コンクリート側面から側方に突出していてもよく、図2に示すように、コンクリート側面から側方に突出していなくてもよい。
【0069】
図2は、本発明の実施形態2に係る鉄筋コンクリート構造物10aの構造40の構成の一例を示す断面図である。鉄筋コンクリート構造物10aは、図2に示される3次元座標空間に配置される。XY平面は、水平方向に配置され、XY平面に直交する法線方向のうち、天頂へ向かう方向をZ軸負方向と定める。図2は、横鉄筋2aの長手方向に平行な方向の断面(XZ断面)を表す断面図である。なお、図2では、説明の都合上、鉄筋コンクリート構造物10aが備えている鉄筋の内の1本の横鉄筋2aのみを図示している。しかし、鉄筋コンクリート構造物10aは、必要に応じて複数本の横鉄筋および縦鉄筋を備えていてもよい。
【0070】
鉄筋コンクリート構造物10aは、側面31から側方に横鉄筋2aが突出していないが、このような鉄筋コンクリート構造物10aおいても、横鉄筋2aは、鉄筋コンクリート構造物10a内部において、横鉄筋2aの外周面の少なくとも下面の一部に板状ゴム部材1を備えているという、特徴的な構造40を有している。板状ゴム部材1は、鉄筋コンクリート構造物10a内部の側面31近傍に配置されている。
【0071】
側面31から側方に横鉄筋が突出していない鉄筋コンクリート構造物10aについても、製作時に生じたコンクリートのブリーディング等の影響によって、横鉄筋2aの下部に空隙が形成される場合がある。そこで、側面31から側方に横鉄筋2aが突出していない鉄筋コンクリート構造物10aについても、前記「構造」を有していることにより、ブリーディング等の影響によって横鉄筋2aの下側に空隙が生じた場合であっても、側面31に発生したクラック等より侵入した塩化物イオンが板状ゴム部材1が配置された場所より内方(図2におけるX軸正方向)へ侵入し難くなるという効果が得られることは、技術常識に基づいて当業者が容易に理解することができる。
【0072】
〔実施形態3〕
本発明の第3の実施形態としてのコンクリート構造物は、横鉄筋に加えて水平方向に配されたH型鋼材等の鋼材をさらに備えた鉄筋鉄骨コンクリート構造物でも、鉄筋に代えて鉄骨造の鉄骨コンクリート構造物でもよい。この場合、本発明の一態様に係るコンクリート構造物の構造の対象としては、水平方向に配筋した鉄筋だけではなく、水平方向に設置したH型鋼材等の鋼材も対象となる。つまり、前述した「構造」において、「横鉄筋」を「横鉄筋および水平方向に設置した鋼材の一方または両方」と読み替えた構造についても本発明の一態様の構造の範疇に入る。なお、鋼材の場合、「外周面」は、端面以外の全ての面が意図される。
【0073】
なお、本明細書では、鉄筋コンクリート構造物、鉄筋鉄骨コンクリート構造物あるいは鉄骨コンクリート構造物の製作過程においてコンクリートが固化する以前に水平方向に配されている鉄筋および鋼材を、それぞれ、説明の都合上「横鉄筋」および「水平方向に設置した鋼材」と称する。このため、コンクリート構造物の製作過程においてコンクリートが固化する以前には水平方向に配されていた鉄筋および鋼材の向きを回転させることによって垂直方向に配された状態で、コンクリート構造物を使用する場合もあり得る。しかし、このような場合であっても、コンクリート構造物の垂直方向に配された鉄筋および鋼材は、コンクリート構造物の製作過程においてコンクリートが固化する以前には水平方向に配されていたものでコンクリート打設時に鉄筋および鋼材の下側にブリーディングによる空隙が発生するので、本明細書中で規定される「横鉄筋」および「水平方向に設置した鋼材」の範疇に入る。
【0074】
コンクリート構造物において横方向(水平方向)に配置してコンクリートを打設した際に発生するブリーディングによる空隙により塩化物イオンの侵入により錆等を発生させてしまうコンクリート構造物内に配置する金属製の部材であれば本発明の構造により錆等の発生を抑えることができる。
【0075】
図3は、本発明の実施形態3に係るコンクリート構造物10bの構造40の構成の一例を示す断面図である。コンクリート構造物10bは、図3に示される3次元座標空間に配置される。XY平面は、水平方向に配置され、XY平面に直交する法線方向のうち、天頂へ向かう方向をZ軸負方向と定める。図3の(A)は、水平方向に設置したH型鋼材5の長手方向に平行な方向の断面(XZ断面)を表し、(B)は(A)のB-B’線矢視断面図である。なお、図3では、説明の都合上、コンクリート構造物10bが備えている鋼材の内の1本のH型鋼材5のみを図示している。しかし、コンクリート構造物10bは、必要に応じて複数本の鋼材および鉄筋をさらに備えていてもよい。
【0076】
図3の(B)に示すように、H型鋼材5は、ウェブが水平面(XY平面)に対して平行になるように配置されている。H型鋼材5を図3の(B)に示すように設置した場合は、ブリーディング等の影響によってH型鋼材5のウェブの下側、および2つのフランジの下側に空隙が生じる場合がある。そこで、横鉄筋の際には、板状ゴム部材が、前記横鉄筋の短手方向断面における外周長の3分の1以上の範囲にわたって前記横鉄筋の外周面の下面に配置されたことを特徴としたが、水平方向に配されたH型鋼材5においては、図3の(B)に示すように、H型鋼材5のウェブの下側の面の短手方向全体およびH型鋼材5のフランジの下側の面の短手方向全体にわたって板状ゴム部材1を配置することが望ましい。これにより、ブリーディング等の影響によってH型鋼材5の下側に空隙が生じた場合であっても、板状ゴム部材1が配置された場所より内方(図3におけるX軸正方向)へ塩化物イオンが侵入し難くなる。配置する板状ゴム部材1の厚さに関しては、鉄筋における配置と同様で構わないが、コンクリート構造物10bの側面31からの配置位置に関しては、コンクリート構造物10b内におけるH型鋼材5の端面からの配置位置に応じて適宜調整する。
【0077】
〔実施形態4〕
本発明の第4の実施形態としての鉄筋コンクリート構造物の構造について、図4に基づき説明する。図4は、本発明の実施形態4に係るコンクリート構造物10cの構造40の構成の一例を示す断面図である。コンクリート構造物10cは、図4に示される3次元座標空間に配置される。XY平面は、水平方向に配置され、XY平面に直交する法線方向のうち、天頂へ向かう方向をZ軸負方向と定める。図4の(A)は、水平方向に設置したH型鋼材5の長手方向に平行な方向の断面(XZ断面)を表し、(B)は(A)のC-C’線矢視断面図である。
【0078】
図4の(B)に示すように、実施形態4では、H型鋼材5は、フランジが水平面(XY平面)に対して平行になるように配置されている点が実施形態3と異なる。H鋼を図4の(B)に示すように設置した場合は、ブリーディング等の影響によってH型鋼材5の2つのフランジの下側に空隙が生じる場合がある。そこで、このような場合は、H型鋼材5の2つのフランジのそれぞれについて、フランジの下側の面の短手方向全体にわたって板状ゴム部材1を配置することが望ましい。これにより、ブリーディング等の影響によってH型鋼材5のフランジの下側に空隙が生じた場合であっても、板状ゴム部材1が配置された場所より内方(図4におけるX軸正方向)へ塩化物イオンが侵入し難くなる。配置する板状ゴム部材1の厚さに関しては、鉄筋における配置と同様で構わないが、コンクリート構造物10cの側面31からの配置位置に関しては、コンクリート構造物10c内におけるH型鋼材5の端面からの配置位置に応じて適宜調整する。
【0079】
なお、実施形態3および実施形態4では、鋼材としてH型鋼材を使用した例を示したが、鋼材の種類はこれに限定されない。鋼材としては、塩化物イオンの侵入により錆等を発生させてしまうコンクリート構造物内に配置する金属製の部材であればよく、例えば、通常使用される形鋼(I型鋼材、T型鋼材、山型鋼材、溝型鋼材等)であり得る。鋼材としてH型鋼材以外の形鋼を使用する場合も、形鋼における水平面(XY平面)に対して平行になるように配置されている外周面の下面の短手方向全体にわたって板状ゴム部材1を配置することによって、同様の効果が得られる。
【0080】
〔実施形態5〕
実施形態1~4では、板状ゴム部材1の全部がコンクリート構造物内部の側面近傍に配置された例を示したが、本発明の一態様に係るコンクリート構造物では、板状ゴム部材1の少なくとも一部がコンクリート構造物内部に配置されていればよい。そこで、本発明の第5の実施形態としての鉄筋コンクリート構造物の構造について、図5に基づき説明する。図5は、本発明の実施形態5に係る鉄筋コンクリート構造物10dの構成の一例を示す断面図である。鉄筋コンクリート構造物10dは、図5に示される3次元座標空間に配置される。XY平面は、水平方向に配置され、XY平面に直交する法線方向のうち、天頂へ向かう方向をZ軸負方向と定める。図5は、横鉄筋2の長手方向に平行な方向の断面(XZ断面)を表す断面図である。なお、図5では、説明の都合上、鉄筋コンクリート構造物10dが備えている鉄筋の内の1本の横鉄筋2のみを図示している。しかし、鉄筋コンクリート構造物10dは、必要に応じて複数本の横鉄筋および縦鉄筋を備えていてもよい。
【0081】
図5に示す鉄筋コンクリート構造物10dでは、側面31よりも外側(図5に示すx軸負方向)に突出している横鉄筋2の外周面の下面に沿って、板状ゴム部材1の一部が側面31よりも外側に突出している。鉄筋コンクリート構造物10dでは、板状ゴム部材1が横鉄筋2の外周面の下面に沿って配置されているため、鉄筋コンクリート構造物10dの側面31から板状ゴム部材1が配置された場所より内方(図5に示すx軸正方向)へ塩化物イオンが侵入し難くなる。従って、横鉄筋2が塩化物イオンの侵入によりに錆びることを防ぐことができる。実施形態5に係る鉄筋コンクリート構造物10dにおいて配置する板状ゴム部材1の厚さに関しては、実施形態1で説明した通りである。
【0082】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1 板状ゴム部材(シーリング材)
2、2a 横鉄筋
3 コンクリート部分
4 空隙
5 H型鋼材(鋼材)
10、10a、10d 鉄筋コンクリート構造物
10b、10c コンクリート構造物
31 側面
40 構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6