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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057634
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】メタン発酵促進方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/65 20220101AFI20220404BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20220404BHJP
   C02F 3/28 20060101ALI20220404BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20220404BHJP
   C12N 11/14 20060101ALI20220404BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20220404BHJP
   C12P 5/02 20060101ALN20220404BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
B09B3/00 C ZAB
C02F3/00 G ZNA
C02F3/28 B
C02F11/04 A
C12N11/14
C12M1/00 H
C12P5/02
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165992
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 建吾
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昭彦
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B064
4D004
4D040
4D059
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB01
4B029CC11
4B029DG10
4B033NA02
4B033NA11
4B033NB02
4B033NB12
4B033NB23
4B033NB70
4B033NC01
4B033ND02
4B033ND08
4B033NE03
4B064AA01
4B064AB03
4B064CA01
4B064CA32
4B064CC22
4B064DA16
4D004AA02
4D004AC05
4D004BA03
4D004CA18
4D004CB50
4D004CC07
4D004CC08
4D004DA20
4D040AA04
4D040AA23
4D040AA34
4D040AA61
4D059AA01
4D059AA02
4D059AA03
4D059AA07
4D059AA08
4D059BA12
4D059BA25
4D059BA27
4D059BK21
4D059DA70
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】本発明は、高負荷条件下においても、効率良く、優れた処理能力を発揮することができ、かつ、容易にスケールアップが可能なメタン発酵促進方法等を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(1)電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理工程、及び、
(2)前記生物電気化学処理工程で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵工程を備える、メタン発酵促進方法であって、
前記(1)生物電気化学処理工程は、3μA/cm以下の電流に制御しながら行う、メタン発酵促進方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、
有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理工程、及び、
(2)前記生物電気化学処理工程で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵工程を備える、メタン発酵促進方法であって、
前記(1)生物電気化学処理工程は、3μA/cm以下の電流に制御しながら行う、メタン発酵促進方法。
【請求項2】
前記(2)固定膜発酵工程において、
前記導電性材料が、疎水性である、請求項1に記載のメタン発酵促進方法。
【請求項3】
前記(2)固定膜発酵工程において、
前記導電性材料が、炭素繊維である、請求項1又は2に記載のメタン発酵促進方法。
【請求項4】
(1)電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、
有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理工程、及び、
(2)前記生物電気化学処理工程で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵工程を備える、微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法であって、
前記(1)生物電気化学処理工程は、3μA/cm以下の電流に制御しながら行う、微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法。
【請求項5】
前記(2)固定膜発酵工程において、
前記導電性材料が、疎水性である、請求項4に記載の微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法。
【請求項6】
前記(2)固定膜発酵工程において、
前記導電性材料が、炭素繊維である、請求項4又は5に記載の微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法。
【請求項7】
(1)電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、
有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理部、及び、
(2)前記生物電気化学処理部で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵部を備える、メタン発酵促進装置であって、
前記(1)生物電気化学処理部は、3μA/cm以下の電流に制御する、メタン発酵促進装置。
【請求項8】
(1)電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、
有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理部、及び、
(2)前記生物電気化学処理部で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵部を備える、微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の製造装置であって、
前記(1)生物電気化学処理部は、3μA/cm以下の電流に制御する、微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵促進方法に関する。特に、本発明は、生物電気化学処理工程及び固定膜発酵工程の2段階工程を備えるメタン発酵促進方法、微生物群が担持された固定膜の作製方法、メタン発酵促進装置、及び微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
木材、紙、食品残渣、農業残渣、下水汚泥、し尿汚泥、浄化槽汚泥、家畜糞尿等の動植物から生まれた有機性資源(有機性廃棄物又は有機性廃液)は、バイオマスとも言われる。このバイオマスは、化石燃料と異なり、太陽エネルギーを使って、水と二酸化炭素から生物が生成するものであるから、これらのような持続的に再生可能な資源(バイオマスエネルギー)は、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals : SDGs)の1つとして注目されている。
【0003】
これら有機性資源からバイオマスエネルギーを生成する方法としては、特に、有機性資源の分解を促進するメタン発酵が知られている。
メタン発酵は、嫌気条件における、環境微生物群による発酵を意味しており、メタン発酵によって生成した気体(バイオガス)からは、メタン(CH)、水素(H)等の可燃性ガスが得られる。そして、得られた可燃性ガスは、熱源、発電等のバイオマスエネルギーとして利用することができる。
したがって、より効率的なメタン発酵技術を確立し、メタンガスの生産量(回収率)を向上させることが、環境に優しい、クリーンな循環型社会を構築するために、急務となっている。
【0004】
有機性資源をメタン発酵させる方法としては、例えば、メタン発酵菌等の環境微生物群を用いる生物電気化学システム(バイオ電気化学システム)が知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
生物電気化学システムとして、特許文献1には、電極表面の少なくとも一部に疎水性の担体を備えた担体保持電極と有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させ、前記担体保持電極の電位を前記担体保持電極から電子が供給される電位、又は、銀若しくは塩化銀電極電位基準で+0.3Vに制御しながらメタン発酵処理を行うことを特徴とするメタン発酵方法が記載されている。
この特許文献1に記載された方法を用いれば、メタン発酵を促進することができるが、さらに、メタン発酵をスケールアップできる技術が求められている。
【0006】
一般に、微生物を利用して物質を変換(分解、酸化、還元等)により処理する場合、高負荷条件、例えば、微生物により処理される被処理物の濃度が一定値以上の高濃度になると、微生物の機能が低下し、処理能力が低下することが知られている。
メタン発酵処理においてもこのことは例外ではなく、メタン発酵のスケールアップは困難を伴うことがあり、有機物負荷速度又は水理学的滞留時間が高い高負荷条件下では、メタン発酵槽の酸敗等が生じて、メタン発酵処理能が著しく低下する場合がある。
このような状況に陥ると、メタン発酵槽を再生する必要が生じ、メタン発酵処理が滞ることになる。そこで、高負荷条件下においても処理能力を低下させることなく、連続して処理を行うことのできるメタン発酵方法の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5872148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる要望に鑑みてなされたものであって、高負荷条件下においても、効率良く、優れた処理能力を発揮することができ、かつ、容易にスケールアップが可能なメタン発酵促進方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、高負荷条件下においても優れた処理能力を発揮する微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法を提供することも目的とする。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
(1)電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、
有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理工程、及び、
(2)前記生物電気化学処理工程で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵工程を備える、メタン発酵促進方法であって、
前記(1)生物電気化学処理工程は、3μA/cm以下の電流に制御しながら行う、メタン発酵促進方法。
項2.
前記(1)生物電気化学処理工程において、
前記担体保持電極を作用電極とし、
さらに、対電極、参照電極、及びポテンシオスタットを備え、
前記作用電極と対電極と参照電極とをポテンシオスタットに結線し、
前記作用電極の電流を3電極方式で制御する、項1に記載のメタン発酵促進方法。
項3.
前記(2)固定膜発酵工程において、
前記導電性材料が、疎水性である、項1又は2に記載のメタン発酵促進方法。
項4.
前記(2)固定膜発酵工程において、
前記導電性材料が、炭素繊維である、項1~3の何れか一項に記載のメタン発酵促進方法。
項5.
前記(2)固定膜発酵工程が、前記(1)生物電気化学処理工程で得られた発酵液中のメタン生成菌を増加させることができる、項1~4の何れか一項に記載のメタン発酵促進方法。
項6.
前記メタン生成菌が、Methanobacterium sp.及びMethanosarcina sp.である、項5に記載のメタン発酵促進方法。
項7.
(1)電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、
有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理工程、及び、
(2)前記生物電気化学処理工程で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵工程を備える、微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法であって、
前記(1)生物電気化学処理工程は、3μA/cm以下の電流に制御しながら行う、微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法。
項8.
前記(1)生物電気化学処理工程において、
前記担体保持電極を作用電極とし、
さらに、対電極、参照電極、及びポテンシオスタットを備え、
前記作用電極と対電極と参照電極とをポテンシオスタットに結線し、
前記作用電極の電流を3電極方式で制御する、項7に記載の微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法。
項9.
前記(2)固定膜発酵工程において、
前記導電性材料が、疎水性である、項7又は8に記載の微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法。
項10.
前記(2)固定膜発酵工程において、
前記導電性材料が、炭素繊維である、項7~9の何れか一項に記載の微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法。
項11.
前記(2)固定膜発酵工程が、前記(1)生物電気化学処理工程で得られた発酵液中のメタン生成菌を増加させることができる、項7~10の何れか一項に記載の微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法。
項12.
前記メタン生成菌が、Methanobacterium sp.及びMethanosarcina sp.である、項11に記載の微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法。
項13.
(1)電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、
有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理部、及び、
(2)前記生物電気化学処理部で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵部を備える、メタン発酵促進装置であって、
前記(1)生物電気化学処理部は、3μA/cm以下の電流に制御する、メタン発酵促進装置。
項14.
前記(1)生物電気化学処理部において、
前記担体保持電極を作用電極とし、
さらに、対電極、参照電極、及びポテンシオスタットを備え、
前記作用電極と対電極と参照電極とがポテンシオスタットに結線され、
前記作用電極の電流を3電極方式で制御する、項13に記載のメタン発酵促進装置。
項15.
(1)電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、
有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理部、及び、
(2)前記生物電気化学処理部で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵部を備える、微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の製造装置であって、
前記(1)生物電気化学処理部は、3μA/cm以下の電流に制御する、微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の製造装置。
項16.
(1)電極表面の少なくとも一部に疎水性の担体を備えた担体保持電極と、
有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理部、及び、
(2)前記生物電気化学処理部で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵部を備える、メタン発酵促進システムであって、
前記(1)生物電気化学処理部は、3μA/cm以下の電流に制御する、メタン発酵促進システム。
項17.
(1)電極表面の少なくとも一部に疎水性の担体を備えた担体保持電極と、
有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理部、及び、
(2)前記生物電気化学処理部で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵部を備える、微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の製造システムであって、
前記(1)生物電気化学処理部は、3μA/cm以下の電流に制御する、微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の製造システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れたメタン発酵処理能を発揮させることができ、しかもその能力は有機性廃棄物等を大量投入(スケールアップ)した高負荷条件下においても発揮されるものとなり、長期にわたり、連続して効率よくメタン発酵処理を行うことができる。
【0012】
さらに、本発明の微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法によれば、メタン発酵処理において有用な微生物群を導電性材料に担持させた固定膜を得ることができる。
【0013】
また、本発明の方法によれば、メタン生成菌を効率的に増加させることができる。
【0014】
本発明は、第1工程における生物電気化学システムにおいて、安価な炭素電極を用いることができる。また、この電極表面に微弱な電流を流す制御方式を取っているため、エネルギー消費量を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例1において使用した本発明における実験装置の断面図である。
図2図2は、比較例1において使用した実験装置の断面図である。
図3図3は、比較例2において使用した実験装置の断面図である。
図4図4は、本発明における実験装置の他の実施態様を示す断面図である。
図5図5は、実施例1及び比較例1の各工程で得られたガス(CH、CO、及びH)のガス生成量を示す図である。
図6図6は、実施例1及び比較例1の各工程で得られた低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、及びブタン酸)、及びエタノールの濃度を示す図である。
図7図7は、実施例1及び比較例1の各工程で得られたCH、CO、SCFA+エタノール、及び残渣C-SSの量(炭素量)、及びセルロースの炭素量を示す図である。
図8図8は、実施例1及び比較例1の各工程で得られた発酵液画分中の微生物組成を示す図である。
図9図9は、実施例1及び比較例1の各工程で得られたガス(CH、CO、及びH)のガス生成量を示す図である。
図10図10は、実施例1及び比較例1の各工程で得られた低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、及びブタン酸)、及びエタノールの濃度を示す図である。
図11図11は、実施例1及び比較例1の各工程で得られたCH、CO、SCFA+エタノール、及び残渣C-SSの量(炭素量)、及びセルロースの炭素量を示す図である。
図12図12は、実施例1及び比較例2の各工程で得られたガス(CH、CO、及びH)の生成速度を示す図である。
図13図13は、実施例1及び比較例2の各工程で得られた低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、及びブタン酸)、及びエタノールの濃度を示す図である。
図14図14は、実施例1及び比較例2の各工程で得られたCH、CO、SCFA+エタノール、及び残渣C-SSの量(炭素量)、及びセルロースの炭素量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のメタン発酵促進方法、微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の作製方法、メタン発酵促進装置、及び微生物群が担持された導電性材料を含む固定膜の製造装置について詳細に説明する。また、本発明を実施するための形態について、適宜、図面に基づいて詳細に説明する。なお、装置は、システムと言い換えることができる。
【0017】
<メタン発酵促進方法>
本発明のメタン発酵促進方法は、(1)電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理工程(以下、「第1工程」又は「BES」ということもある。)、及び、(2)前記生物電気化学処理工程で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵工程(以下、「第2工程」又は「FFR」ということもある。)を備えており、特に、本発明は、前記生物電気化学処理工程は、3μA/cm以下の電流に制御しながら行うことを特徴としている。
ここで、BESとは、Bioelectrochemical System(生物電気化学システム)を意味している。なお、このBESを用いないことを、NBES(Non-Bioelectrochemical System(非生物電気化学システム))という。
また、FFRとは、Fixed Film Reactor(固定膜反応器)を意味しており、本明細書では、第2工程を「FFR」という場合もある。なお、このFFRを用いないことを、NFFR(Non-Fixed Film Reactor)という。なお、工程は、部又は手段と言い換えることができる。
以下、図1及び図4を適宜参照しながら、第1工程及び第2工程について説明する。
【0018】
第1工程:生物電気化学処理工程(BES)
本発明のメタン発酵促進方法における第1工程(生物電気化学処理工程:BES)は、電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させ、担体保持電極の電流を担持対象微生物群の至適範囲に制御しながら生物学的処理を行うようにしている。該第1工程を実施することで、担体に担持対象微生物群を担持させて活性化させることができる。
【0019】
本発明において用いられる担体保持電極としては、微生物反応プロセスに合わせて、電極表面に保持される担体の性質を適宜選択して用いることができる。例えば、親水性の担体に付着し得る微生物を担持させる場合には、親水性の担体を用いればよいし、疎水性の担体に付着し得る微生物を担持させる場合には、疎水性の担体を用いればよい。つまり、電極の性質に依存することなく、担体の性質を適宜選択し、微生物反応プロセスに合わせて微生物群を担持させることができる。
したがって、例えば、電極の表面に親水性の担体と疎水性の担体の双方を保持させることで、親水性の担体に付着する微生物と疎水性の担体に付着する微生物の双方を担持させることも容易に行うことができる。
【0020】
疎水性担体としては、特に限定はなく、例えば、炭素、グラファイト(黒鉛)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチック、プラチナ、アルミナ等の金属等が挙げられる。疎水性担体の形態又は形状としては、特に限定はなく、例えば、板状(シート状、フィルム状等)、ブロック状等が挙げられる。中でも、疎水性担体としては、導電性担体が好ましく、炭素板(炭素シート、炭素フィルム)、及びグラファイトブロックがより好ましい。疎水性担体の大きさとしては特に限定はない。疎水性担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
担体保持電極に用いられる電極については、その材質として特に限定はなく、電極上で還元反応が生じ得るあらゆる電極を使用することができる。例えば、担体保持電極としては、プラチナ等の金属、又は炭素等が挙げられる。中でも、電極としては、コスト面から、プラチナ電極に比べて、炭素電極が好ましい。
【0022】
なお、本発明において用いられる担体保持電極は、電極表面の少なくとも一部に担体が備えられていればよく、電極表面の片面に備えられていることが好ましく、電極表面の全体に備えられていることがより好ましい。電極表面における担体保持面積を高めれば高めるほど、微生物を担持させやすくなる。担体を電極表面に備える方法としては、接着剤による接着、担体を袋状又は筒状にして電極に被せて覆う方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
ここで、微生物を担持し得る担体は、電極とメタン発酵液との接触を確保し得る通液性を有するものとすることが好ましい。この場合、担体の電極近傍まで十分に微生物を担持させることができるとともに、電極近傍の電流の制御性を確保して、担体上の微生物を十分に活性化させることができる。つまり、仮に担体の素材を炭素のような導電性の素材とした場合においても、微生物の担持量を高める上で空隙率等を向上させれば、導電性能は大幅に低下して実質的には電流が流れなくなるが、担体を電極とメタン発酵液との接触を確保し得る通液性を有するものとしておけば、担体の空隙を満たすメタン発酵液の電流が制御されて担体の電流環境を微生物にとって至適な範囲に制御することができる。
【0024】
有機性基質は、有機性廃棄物又は有機性廃液であれば特に限定はない。有機性基質として、例えば、木材、紙、紙ごみ、稲藁、麦藁等の藁類、海藻、食品残渣、農業残渣、下水汚泥、し尿汚泥、廃水処理汚泥、浄化槽汚泥、家畜糞尿(畜産廃棄物)、生ゴミ等の各種バイオマス等が挙げられる。また、有機性基質は、その性状により、必要に応じて、破砕、分別等の前処理を行ってからメタン発酵処理を行うこともできる。なお、木材、紙等に含まれる成分であるセルロースは、難分解性の物質であり、メタン発酵が難しいという問題があった。本発明は、特に、セルロースを含む有機性基質に対して、メタン発酵を促進する効果を有している。
【0025】
本発明において担持させる微生物群としては、特に限定はなく、例えば、被処理物に対して、分解、酸化、還元等の変換処理を行うことのできる微生物群全般;ある生成源物質を利用して物質を生産する能力を有する微生物群全般等が挙げられる。
【0026】
具体的に、被処理物に対して、分解、酸化、還元等の変換処理を行うことのできる微生物群としては、例えば、SS(固形浮遊物)の分解、COD(化学的酸素要求量)の分解除去、TOC(全有機炭素)の分解除去、テトラクロロエチレン(PCE)、ジクロロエチレン(DCE)及びビニルクロライド(VC)の脱塩素化処理等を行う機能を有する公知又は新規の微生物を担持対象微生物群等が挙げられる。なお、ここでいう微生物群は、これらに限定されるものではない。
例えば、SS(固形浮遊物)の分解、COD(化学的酸素要求量)の分解除去、TOC(全有機炭素)の分解除去には、メタン発酵槽から取得される汚泥に含まれる微生物群を使用することができる。
また、テトラクロロエチレン(PCE)の脱塩素化には、例えば、Desulfitobacterium、Dehalococcoides、Dehalobacter、Geobacter等;ジクロロエチレン(DCE)及びビニルクロライド(VC)の脱塩素化には、例えば、Dehalococcoides等の微生物群を使用することができる。
ある生成源物質を利用して物質を生産する能力を有する微生物群としては、例えば、メタンガス、水素、アミノ酸、各種有機物を生産する機能を有する公知又は新規の微生物を担持対象微生物群が挙げられる。
例えば、これらの微生物群としては、水素と二酸化炭素を生成源としてメタンガスを生成する水素資化性メタン生成菌、酢酸を生成源としてメタンガスを生成する酢酸資化性メタン生成菌、グルコースからエタノール、ブタノール、又はアセトンを生産するClostridium acetobutylicum等が挙げられる。なお、ここでいう微生物群は、これらに限定されるものではない。
【0027】
水素資化性メタン生成菌としては、例えば、メタン生成菌(メタン生成古細菌、又はメタン菌という場合がある。)としては、例えば、Methanobacterium属、Methanobrevibacter属、Methanosphaera属、Methanothermus属、Methanococcus属、Methanolacinia属、Methanomicrobium属、Methanogenium属、Methanospirillum属、Methanoculleus属、Methanoplanus属、Methanosarcina属、Methanolobus属、Methanococcoides属、Methanoregula属、Methanolinea属、Methanohalophilus属、Methanohalobium属、Methanocorpusculum属等が挙げられる。なお、本実施形態においてはこれらに限定されることなく、メタンを生成できる細菌であればどのようなものも用いることができる。メタン生成菌及び前記した有機物を分解する様々な微生物は、既存の消化タンク等から容易に得ることができる。本発明は、中でも、Methanobacterium sp.及びMethanosarcina sp.を増加させることができる。
【0028】
酢酸資化性メタン生成菌としては、例えば、Methanothrix (Methanosaeta)属、Methanosarcina属等が挙げられる。
【0029】
グルコースから、エタノール、ブタノール、アセトン等を生産する生成菌としては、例えば、Clostridium acetobutylicum等のClostridium属等が挙げられる。
【0030】
本発明において、メタン発酵処理又はメタンガス生成を実施する場合には、疎水性担体を用いることが好ましい。
【0031】
メタン発酵液は、有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理することができるものであれば、特に限定されない。例えば、有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含有する培養液を、メタン発酵液とすることができる。培養液は、微生物の培養の際に使用される通常の培養液を用いればよく、微生物のエネルギー源となる物質、pH等の培養環境を制御するための物質等を適宜添加して使用すればよい。なお、培養液には通常、水素イオン(H)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)等の一価の陽イオンが含まれていることから、培養液自体に通電性があり、担体保持電極自体の電流制御は容易に行うことができる。
【0032】
なお、担体保持電極とメタン発酵液(担持対象微生物群及び培養液)との接触方法は、特に限定はなく、例えば、培養液に担体保持電極と担持対象微生物群とを別々に入れるようにしてもよいし、担持対象微生物群又は担持対象微生物群を含む微生物群集を、例えばバイオフィルムのような形態で担体に予め担持させておき、これを培養液に入れるようにしてもよい。
いずれの場合にも、担体保持電極の担体に担持対象微生物群を担持させて活性化させることができる。
本発明によれば、担持対象微生物群を担持させて活性化させることができるのは勿論のこと、担持対象微生物群を含む微生物群集のうち、担持対象微生物群を主要な構成成分として担持させて活性化させることができる。つまり、複数種の微生物群を含む微生物群集から所望の微生物群を主要な構成成分として担体に担持させて活性化させることができる。
【0033】
担持対象微生物群の至適範囲は、以下に説明する実験方法により導かれる。すなわち、被処理物を変換処理する能力を有する微生物群を担持対象とする場合、一定量の被処理物を培養液に添加し、この培養液に担体保持電極と担持対象微生物群を少なくとも含む微生物群集とを接触させて、担体保持電極を電流に一定期間制御し、培養液に含まれる被処理物の量が大幅に低減している電流範囲を至適範囲とすることができる。
また、生産物を生産する微生物群を担持対象とする場合、一定量の生成源物質を培養液に添加し、この培養液に担体保持電極と担持対象微生物群を少なくとも含む微生物群集とを接触させて、担体保持電極を各種電流に一定期間制御し、生産物の生成量が多い電流範囲を至適範囲とすることができる。
【0034】
本発明によれば、担体保持電極の担体に担持対象微生物群を担持させて活性化することができる。また、本発明によれば、目的の処理を阻害する微生物群を失活させたり、あるいは除去することで、目的の処理を効率よく実施することも可能となる場合もある。なお、本発明のメタン発酵促進方法において、高負荷条件下で実施しても、優れた処理能力を発揮させて効率よく実施することができる要因の一つとして、第1工程(生物電気化学処理工程)により、担体に担持対象微生物群を担持させて活性化させながらも、培養液中の全菌に占める担持対象微生物群の割合を増加させることができ、担体保持電極を培養液とを含めた処理槽全体としての処理能力が向上していることが考えられる。いずれにしても、本発明の構成をとることによって、優れた処理能力を発揮させることができる。つまり、これまでは、特定の電位で制御する生物電気化学処理方法が知られているが、本発明は、生物電気化学処理工程が、極めて微小な電流である、3μA/cm以下の電流に制御して行うことを特徴としている。このような3μA/cm以下の電流に制御して行う生物化学電気処理工程は、これまで具体的には一切開示されていない。
【0035】
本発明の方法及び装置は、バイオガスを発生させることができる。バイオガスとは、バイオ燃料の一種で、有機質肥料、生分解性物質、汚泥、汚水、ゴミ、エネルギー作物等の発酵、嫌気性消化等により発生するガスを意味する。バイオガスの主成分は、メタン及び二酸化炭素である。メタンは、化石燃料の代替燃料として、発電、コージェネレーション(熱併給発電)、ボイラ、車両エンジン、及び調理用に利用できる。
【0036】
なお、本発明において、メタン発酵とは、有機性廃棄物をメタン発酵して減容化し、その過程でメタンガスを含むバイオガスを生成させて回収することを意味している。
【0037】
メタン発酵液には、有機性廃棄物等のメタン発酵処理が行われているメタン発酵槽のメタン発酵液、メタン発酵汚泥を添加した培養液を用いることができる。また、メタン発酵を行うための微生物群を人工的に培養した微生物群集を添加した培養液を用いることもできる。
【0038】
担体保持電極としては、上記のとおり、電極、例えば炭素板の表面の少なくとも一部に疎水性の担体、例えば、炭素繊維が備えられたものがメタン発酵液に浸される。
【0039】
担体保持電極の電流(カソード)は、3μA/cm以下であり、好ましくは0.01~2.9μA/cmであり、より好ましくは0.1~2.8μA/cmであり、特に好ましくは1~2.75μA/cmである。なお、カソード(cathode)とは、左側の電極(作用電極)であり、電極から溶液に向かって正電荷が流れる方(還元反応が起こる陰極)を意味している。また、アノード(anode)とは、右側の電極(対電極)であり、溶液から電極に向かって正電荷が流れる方(酸化反応が起こる陽極)を意味している。
上記特許文献1には、前記担体保持電極の電位を前記担体保持電極から電子が供給される電位、又は、銀若しくは塩化銀電極電位基準で+0.3Vに制御しながらメタン発酵処理を行うことが記載されているが、特定の電流に制御しながらメタン発酵処理を行うことは記載されていない。しかも、この特許文献1には、カソード電流を0.3μA/cm以下に制御することは全く開示されていない。
本発明において、第1工程における電流を制御する工程は、オンオフを繰り返して、制御してもよい。すなわち、電流は、一定時間電流を流した後、電流を止め、一定時間経過したのち、再度、一定時間電流を流すこともできる。
【0040】
第1工程で用いる反応器としては、特に限定はなく、例えば、密閉容器、図4に示すような箱型密閉容器、H型容器、U型容器等を用いることができる。また、反応器の素材としては、特に限定はなく、例えば、ガラス容器等を用いることができる。ここで、反応器内には、イオン交換膜を備えることができる。イオン交換膜としては、特に限定なく、公知のものを使用することができる。
【0041】
第1工程で用いる反応器の大きさ(容量)としては、特に限定はないが、例えば、下限として好ましくは100mL以上であり、より好ましくは250mL以上である。反応器の大きさの上限としては特に限定はない。
【0042】
本発明のメタン発酵方法における第1工程(生物電気化学処理工程;BES)は、例えば、図1、又は図4に示す装置により実施することができるが、これらに限定されるものではない。本発明の第1工程で用いる装置(生物電気化学処理工程で用いる装置又はメタン発酵促進装置)は、電極表面の少なくとも一部に担体を備えた担体保持電極と、有機性基質及びメタン発酵に関与する微生物群を含み、かつ、前記有機性基質をメタン発酵処理するメタン発酵液とを接触させる生物電気化学処理部(以下、「生物電気化学処理部」ということもある。)を備えている。
前記担体保持電極は、作用電極と言い換えることができる。さらに、生物電気化学処理部は、対電極、参照電極等を備えることができる。
また、本発明の第1工程で用いる装置(生物電気化学処理部)は、電気化学測定装置(ポテンショスタット、又はガルバノスタット)を備えることができる。
ガルバノスタットの場合は、参照電極を備えなくてもよい。電気化学測定装置とは、電流の制御に加え、電流の計測等を行う装置で、計測対象となるサンプルセルに対して、電気信号を付加させて化学反応を起こさせたり、その逆に化学反応による応答信号を計測することで、サンプルセルの電気的な性質を計測するための装置である。
ポテンショスタットは、一般的に、作用極、対極、及び参照電極を備える3電極のセルを制御して、電解液の状態によらずに、電極の電流レベル等を任意に制御するための装置である。
ガルバノスタットは、非常に高い内部抵抗を有することで、電極を流れる電流を正確に制御するための装置である。
【0043】
第1工程の反応における発酵液の温度としては、特に限定はなく、通常、室温(例えば、25℃)~80℃の範囲であり、好ましくは30~70℃であり、より好ましくは40~60℃である。
【0044】
第1工程における反応時間としては、特に限定はなく、通常、1時間~1ヶ月の範囲であり、好ましくは1日~20日であり、より好ましくは3日~10日である。
【0045】
第2工程:固定膜発酵工程(FFR)
本発明のメタン発酵方法は、さらに、第2工程として、前記生物電気化学処理工程で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵工程を備えている。該固定膜発酵工程では、固定膜反応器(FFR)を用いて発酵が行われる。本明細書では、第2工程を「固定膜発酵工程」又は「FFR」という場合がある。固定膜反応器は、充填床反応器、固定膜発酵槽、又は嫌気性消化槽と言い換えることができる。
【0046】
本明細書において、固定膜反応器とは、固定膜を備えた反応器、すなわち、その内部に膜が固定されている反応器のことをいう。
固定膜は、導電性材料を全部又は一部としてもよい。また、導電性材料は、繊維状、多孔質体、粒状物等の三次元構造として表面積を増大させ、微生物の担持量を増大することのできる形態とすることが好ましい。
【0047】
導電性材料としては、特に限定はなく、例えば、炭素、カーボンブラック、グラファイト(黒鉛)等が挙げられる。
【0048】
カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等が挙げられる。
【0049】
グラファイト(黒鉛)としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等が挙げられる。
【0050】
この導電性材料には、嫌気性微生物を担持することができる。導電性材料は、疎水性を有していることが好ましく、さらに細孔(例えば、多孔性、繊維状等)を有するものがより好ましい。繊維は、織物(織布)又は不織布であってもよい。導電性材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
導電性材料としては、炭素繊維が好ましい。炭素繊維としては、通常の炭素繊維だけでなく、例えば、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維等も挙げられる。また、ここでいう炭素繊維は、織物(織布)又は不織布であってもよい。
固定膜は、例えば、導電性材料で作製した膜を使用することもできるし、非導電性材料(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)で作製した膜の片面又は両面に導電性材料で作製した膜を積層した膜を使用することもできる。ここで、積層する方法としては、接着剤等により接着する方法等が挙げられる。導電性材料として炭素繊維の織物を用い、炭素繊維織物で作製した膜を固定膜として使用することが好ましい。
【0052】
導電性材料は、細孔を有することで(空隙率等を向上させれば)、微生物群が付着して生息するので、短時間のうちに微生物を効率的に担持させることができる。しかも、担持させた微生物群が剥離しにくい利点を有している。
【0053】
前記生物電気化学処理工程(第1工程)で得られた発酵液には、微生物群が含まれている。第1工程は、第2工程でより効率的にメタン生成菌を増殖させるための菌叢(きんそう)に整える工程である。第2工程では、特に別途、微生物群を培養して用意する必要はなく、第1工程で得られた発酵液を、有機性基質中に浸漬しておけば、嫌気条件下で有機性基質中に自然状態で存在する微生物(通常は、嫌気性の混合微生物群)を、固定膜又は導電性材料上で培養することができる。ただし、必要に応じて有機性基質中へ浸漬する前に、別途培養した嫌気性微生物を付着させてもよい。
【0054】
なお、本発明において用いられる固定膜は、その表面積を高めれば高めるほど、微生物を担持させやすくなる。反応器中に膜を固定する方法として、針金等を用いて固定する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
本発明は、第1工程における生物電気化学システム(BES)の効果を活かし、第1工程で得られたメタン発酵液を、第2工程の固定膜発酵工程で用いることを特徴としている。それによって、スケールアップすることができ、第2工程のメタン発酵によって、さらに特定のメタン生成菌の量を向上させることができる。つまり、微生物の代謝及び微生物種間の相互作用を変化することができる。
【0056】
第2工程で用いる反応器としては、特に限定はなく、例えば、図1及び図4に示すような通常の箱型密閉容器だけでなく、様々な容器を用いることができる。また、反応器の素材としては、特に限定はなく、例えば、ガラス等が挙げられる。
【0057】
第2工程で用いる反応器(発酵槽)の大きさ(容量)としては、特に限定はないが、例えば、下限として好ましくは100mL以上であり、より好ましくは250mL以上である。反応器の大きさの上限としては特に限定はなく、工業用スケール、例えば、300L~20,000L)の反応器(反応釜)で第2工程を行うことができる。本発明のメタン発酵促進方法を用いれば、容易にスケールアップすることができる。
【0058】
本発明のメタン発酵方法における第2工程(固定膜発酵工程;FFR)は、例えば、図1又は図4に示す装置により実施することができるが、これらに限定されるものではない。本発明の第2工程で用いる装置(固定膜発酵工程で用いる装置又はメタン発酵促進装置)は、前記生物電気化学処理部で得られた発酵液と、導電性材料を含む固定膜とを接触させる固定膜発酵部(以下、「固定膜発酵部」ということもある。)を備えている。
【0059】
本発明のメタン発酵促進方法及びメタン発酵促進装置は、例えば、電極に電子を移動させる微生物、又は電極から電子を受け取る微生物を使用し、同時発電による廃水処理、水素又はメタンの電気化学的生産、淡水化等にも用いることができる。
【0060】
第2工程における発酵液の温度としては、特に限定はなく、通常、室温(例えば、25℃)~80℃の範囲であり、好ましくは30~70℃であり、より好ましくは40~60℃である。
【0061】
第2工程における発酵時間としては、特に限定はなく、通常、1時間~1ヶ月の範囲であり、好ましくは1日~20日であり、より好ましくは3日~10日である。
【実施例0062】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0063】
(実施例1)
第1工程を生物電気化学システム(BES)で行い、第2工程を固定膜発酵工程(FFR)で行うメタン発酵促進方法について、図1の実験装置の断面図を示しながら、以下説明する。
第1工程(BES)
装置
第1工程は、生物電気化学システム(BES)でメタン発酵を行った。具体的に、BESは、図1に示すように、2つの反応器を有する3電極式H型ガラス反応器(各反応器の作用容量:250ml、総作用容量:500mL)内に、2つのカーボンシート(寸法2.5mm×75mm×2mmのグラファイトブロック)を、それぞれ作用電極(カソード、左側)及び対電極(アノード、右側)として配置した。
また、作用電極(カソード)側(左側)には、Ag/AgCl基準電極(飽和KCl)を挿入した。各反応器にステンレス鋼線を用いて、作用電極及び対電極を固定した。そして、ポテンショスタット(製品名:PS-08、東邦技研製)を、作用電極、対電極及び参照電極に結線した。また、各ガラス製反応器には、ガス採取袋(ガスパック)に接続されたガス排出口を1つずつ取り付けた。
作用電極の電流は、2.7μA/cmに電気化学的に調整し、制御した。
【0064】
なお、実施例1では、第1工程を実施する実験装置として、図1の左側に示す実験装置を使用したが、図1に示す実験装置以外の装置を使用することも可能である。他の実験装置としては、例えば、図4の左側に示す実験装置が挙げられる。
図4に示す生物電気化学システム(BES)は、3電極式のガラス製箱型密閉反応器(500mL)内に、2つのカーボンシート(寸法2.5mm×75mm×2mmのグラファイトブロック)が、それぞれ作用電極(カソード、左側)及び対電極(アノード、右側)として配置されている。そして、作用電極(カソード)側(左側)には、Ag/AgCl基準電極(飽和KCl)が挿入されており、各反応器にステンレス鋼線を用いて、作用電極及び対電極が固定されている。また、ポテンショスタット(製品名:PS-08、東邦技研製)が、作用電極、対電極及び参照電極に結線されており、ガラス製箱型密閉反応器には、ガス採取袋(ガスパック)に接続されたガス排出口が1つ取り付けられている。
【0065】
開始及び操作
第1工程のBESには、55℃で1%グルコースを分解するメタン発酵槽のスラッジ500mLを接種した。接種後、BESのカソード側とアノード側の発酵液を所定量ずつ排出し、同量の新鮮な人工培地を1日1回添加した。
人工培地は、脱イオン水中に、20g/Lのセルロース粉末(ナカライテスク株式会社製)、0.1g/LのKHPO、0.2g/LのKHPO、1g/Lの酵母エキス、2g/LのNaHCO、1g/LのNHCl、0.1g/LのMgCl・6HO、0.1g/LのCaCl・2HO、0.6g/LのNaCl、10mL/Lの微量元素溶液(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen [DSMZ] 141培地)、及び1mL/Lのビタミン溶液(DSMZ 141培地)を含むものである。
【0066】
第2工程(FFR)
第2工程は、固定膜反応器を用いてメタン発酵を行う固定膜発酵工程(FFR)である。具体的に、固定膜反応器として、ガラス製反応器(製品名:DURAN株式会社製、作用容量:250mL)内に、炭素繊維織物[製品名:ドナカーボ(登録商標)ペーパー、大阪ガスケミカル株式会社製);直径25.0mm、高さ70.0mm、厚さ2.4mm]2枚を設置したものを用いた。また、このガラス製反応器には、第1工程と同様に、ガス採取袋(ガスパック)を取り付けた。
前記反応器に、第1工程と同様のスラッジ250mLを接種した。接種後、反応器内の発酵液を、所定量排出し、1日1回、第1工程(BES)の上記排水(カソード側及びアノード側の混合液)を同量添加した。
第1工程(BES)の作用電極(カソード)側及び対電極(アノード)側の内容物は、マグネチックスターラーを用いて十分に混合した後、第2工程(FFR)の反応器に添加した。
培養物の温度は55℃に維持した。操作は3回に分けて行った。
【0067】
(比較例1)
第1工程を非生物電気化学システム(NBES)で行い、第2工程を固定膜発酵工程(FFR)で行う。図2に比較例1で使用する実験装置の断面図を示す。
比較例1は、図2に示すように、第1工程において、参照電極を設けず、また、ガラス容器内のカーボンシートに電流を流さない以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0068】
(比較例2)
第1工程を生物電気化学システム(BES)で行い、第2工程を非固定膜発酵工程(NFFR)で行う。図3に比較例2で使用する実験装置の断面図を示す。
比較例2は、図3に示すように、第2工程において、ガラス容器内に炭素繊維織物(CFT)からなる膜を配置しない以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0069】
運転条件
実施例1、比較例1及び比較例2の運転条件を表1に示す。それぞれ、比較的長い水理学的滞留時間(HRT)で17日間運転して順応(馴化)させた後、比較的短いHRTで13日間運転して比較を行った。なお、水理学的滞留時間(HRT)とは、反応器内の全ての作用体積を置換する時間を意味する。
【0070】
【表1】
【0071】
水理学的滞留時間(HRT)が2.5日において、セルロースを主要な炭素源として含む合成培地を、セルロース負荷量3555.6mg-炭素(C)/L/日で実施例1及び比較例1の第1工程の反応容器に添加した。第1工程の運転中、実施例1の投入時pH(6.1)は低下して、排出時pHが5.2±0.3となった。また、比較例1の投入時pH(6.1)も低下して、排出時pHが、5.2±0.2となった。このため、セルロースの大部分は消費されることなく残存し、第1工程後の懸濁物質(SS)の除去量は、実施例1では11.4±4.3%、比較例1では11.6±4.3%であった。
実施例1の第1工程(BES)に続く第2工程FFR[BES→FFR]と、比較例1の第1工程(NBES)に続く第2工程FFR[NBES→FFR]では、投入時pHは、6.1から7.5に上昇し(中性化し)、排出時pHは、それぞれ6.8±0、及び6.4±0.4となった。
上記運転条件に従い、以下の試験例1~試験例6を行った。
【0072】
<試験例1>
反応器中の微生物共同体の微生物16S rRNA遺伝子配列分析
実施例1(第1工程(BES)→第2工程(FFR))及び比較例1(第1工程(NBES)→第2工程(FFR))において、下記に示す各測定箇所の真正細菌数を測定した。
まず、実施例1及び比較例1で成長させた微生物組成物を、表1に示すとおり、それぞれ2.5日及び4.2日のHRTで調べた。
なお、真正細菌数(微生物濃度)は、リアルタイムPCRにより測定した。実施例1の第1工程の反応器のカソードの懸濁画分(BES-カソード)、及びアノードの懸濁画分(BES-アノード)、第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)、及び第2工程の反応器の炭素繊維織物(CFT)膜上の付着画分(FFR-C)について16S rRNA遺伝子コピー数を求めた。
同様に、比較例1の第1工程の反応器の左側の懸濁画分(NBES-左側)、及び右側の懸濁画分(NBES-右側)、第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)、及び第2工程の反応器のCFT膜上の付着画分(FFR-C)について16S rRNA遺伝子コピー数を求めた。これらの結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
結果
表2より、以下のことがわかった。
実施例1の第1工程の反応器の懸濁画分(BES-カソード及びBES-アノード)及び比較例1の第1工程の反応器の懸濁画分(NBES-左側及びNBES-右側)は、pH条件がそれぞれ低いために微生物濃度が低かった。
実施例1の第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)及び比較例1の第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)は、それぞれ第1工程の反応器の懸濁画分(BES-カソード及びBES-アノード、又はBES-カソード及びBES-アノード)に比べて微生物濃度が上昇した。
実施例1の第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)の浮遊微生物濃度は、比較例1の第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)の浮遊微生物濃度に比べて相対的に高かった。
また、実施例1の第2工程のCFT膜上の付着画分(FFR-C)、及び比較例1の第2工程のCFT膜上の付着画分(FFR-C)のともに、CFT膜に付着した画分中の微生物濃度が高かった。
【0075】
<試験例2>
実施例1(第1工程(BES)→第2工程(FFR))及び比較例1(第1工程(NBES)→第2工程(FFR))において、リード数、OTU数、シャノン指数、及びFaithの系統的多様性指数を以下のとおり測定した。
【0076】
リード数(微生物群集分析)
原核生物16S rRNA遺伝子のV3-V4領域は、ゲノムDNAを鋳型として、プライマーPro341F(5’-CCTACGGGNBGCWSCAG-3’)及びPro805R(5’-GACTACNVGGGTATCTAATCC-3’)を用いて増幅した。
PCR増幅は、Takagi R, Sasaki K, Sasaki D, Fukuda I, Tanaka K, Yoshida K, Kondo A, Osawa R. A single-batch fermentation system to simulate human colonic microbiota for high-throughput evaluation of prebiotics. PLos ONE. 2016;11:e0160533.に記載の方法で行った。
ここで、N、B、W、及びVは、それぞれ、特開2011-224539号公報に記載された方法どおり、退化ヌクレオチドA/C/G/T、G/T/C、A/T、及びA/C/Gに対応している。
ポリメラーゼ連鎖反応及びアンプリコンプールの調製は、製造業者の指示(イルミナ社)に従って行った。
アンプリコンをAMPure XP DNA精製ビーズ(ベックマン・コールター社)を用いて精製し、10mM Tris(pH8.5)の25μL中に溶出した。
精製されたアンプリコンを、DNA 1000チップ(アジレント・テクノロジー社、)とQubit(登録商標)2.0装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を備えたAgilent 2100 バイオアナライザ電気泳動システムを用いて定量し、等モル濃度(5nM)でプールした。
16S rRNA遺伝子及び内部コントロール(Phix コントロール v3;イルミナ社)を、MiSeqシステム装置(ルミナ株式会社)及びMiSeq Reagent Kit, v3(600 cucles; Illumina)を用いて、ペアエンドシークエンシングに供した。PhiX配列を除去し、Qスコア≧20のペアエンドリードを、Illumina Basespace Sequence Hub(https://bases pace.Illumina.com/)上のFASTQ Generationに従って実行されたAutomated CASAVA 1.8 paired-end demipultlexed fastqを用いて接合した。
配列データの配列品質管理と機能テーブルの構築は、DADA2パイプラインを用いてQIIME 2 version 2018.2で行い、修正した。その結果を表3に示す。
【0077】
OTU数
OTU(Operational Taxonomic Units;操作的分類単位)数は、種の数をおおよそ表している。OTUの分類学的構成は、単純ベイズ分類器(Naive Bayes classifier)を介して分類した。この分類器は、Greengenes 13_8 99% OTU完全長配列データベース上で分析した。その結果を表3に示す。
【0078】
シャノン指数及びFaithの系統的多様性指数
シャノン指数及びFaithの系統的多様性は、OTUデータから、α-多様性推定に用いた。α-多様性とは、ある1つのサンプルの多様性を表す。土壌、腸等を対象にした菌叢解析において、微生物群集構造の多様性を比較する際に、α-多様性といった指標を用いることがある。すなわち、サンプル固有の指標で、値が大きいほど種の多様性が高い。指標によって「観測された種の数」と「それぞれの種が均等に観測されること」のどちらを重視するのかが異なる。
シャノン指数とは、Shannon CE. A mathematical theory of communication. Bell Syst Tech J. 1948;27:623-56.、及びShannon CE. A mathematical theory of communication. Bell Syst Tech J. 1948;27:379-423.に記載されている。
Faithの系統的多様性とは、Faith DP. Conservation evaluation and phylogenetic diversity. Biol Conserv. 1992;61:1-10.に記載されている。
微生物種の多様性は、シャノン指数で表され、Faithの系統的多様性は、種の豊富さと相関している。その結果を表3に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
結果
表3より、以下のことがわかった。
リード数
原核生物ユニバーサルプライマーとMiSeqプラットフォーム(イルミナ社)とを組み合せて同時に使用し、各シーケンシング反応で得られた実施例1(BES-カソード、BES-アノード、FFR、及びFFR-C)、及び比較例1(NBES-左側、NBES-右側、FFR、及びFFR-C)のリード数を合計し、平均したところ、196,444(±29,391)となった。
【0081】
観察されたOTU数
実施例1の第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)又はCFT膜上の付着画分(FFR-C)のOTU数、及び比較例1の第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)又はCFT膜上の付着画分(FFR-C)のOTU数は、pH条件の違いにより、それぞれ実施例1の第1工程の反応器の懸濁画分(BES-カソード及びアノード)のOTU数、及び比較例1の第1工程の反応器の懸濁画分(NBES-右側及び左側)のOTU数に比べて高かった。
【0082】
シャノン指数
実施例1の第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)又はCFT膜上の付着画分(FFR-C)のシャノン指数は、第1工程の反応器の懸濁画分(BES-カソード及びアノード)のシャノン指数よりも高い値を示したが、比較例1の第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)又はCFT膜上の付着画分(FFR-C)のシャノン指数は、第1工程の反応器の懸濁画分(NBES-右側及び左側)のシャノン指数よりも低い値を示した。
その結果、実施例1の第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)又はCFT膜上の付着画分(FFR-C)のシャノン指数の値は、それぞれ、比較例1の第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)又はCFT膜上の付着画分(FFR-C)よりも高かった。
【0083】
Faithの系統的多様性
実施例1及び比較例1の第2工程の反応器の懸濁画分(FFR)又はCFT膜上の付着画分(FFR-C)におけるFaithの系統的多様性の値は、それぞれ実施例1の第1工程の反応器の懸濁画分(BES-カソード及びアノード)及び比較例1の第1工程の反応器の懸濁画分(NBES-右側及び左側)の値よりも高かった。
つまり、実施例1では、α-多様性値(シャノン指数及びFaithの系統的多様性)が、CFT膜への付着画分(FFR-C)の方が、反応器の懸濁(浮遊)画分(FFR)よりも高い値を示した。
【0084】
<試験例3>
実施例1(第1工程としてBESを行い、第2工程としてFFRを行うメタン発酵方法;BES→FFR)と、比較例1(第1工程としてNBESを行い、第2工程としてFFRを行うメタン発酵方法;NBES→FFR)のそれぞれにおいて、第1工程終了後、及び第2工程終了後に、生成ガス及び生成物を下記の方法で分析した。
なお、実施例1では、第1工程において、電極として低反応性炭素(カーボン)シート(すなわち、グラファイトブロック)を用い、カソード作動電極に流れる電流を2.7μA/cmと低めに調整することで、発酵が進むにつれて起こる水素(H)の生成を排除することができる。
よって、実施例1と比較例1とを比較することで、有機性基質からの微生物によるCH生成に対する影響を調べることができる。
第1工程におけるH型反応器の両側の反応器性能は、実施例1のカソード側及びアノード側と、比較例1の左側及び右側とでは、同様であったので、以下、第1工程の数値は、実施例1ではカソード側の値及びアノード側の値の平均値、比較例1では左側の値及び右側の値の平均値とする。
【0085】
生成ガス量(CH 、CO 、及びH
生成ガス量は、目盛り付きボンベを用いた水置換法により測定した。
ガス中のCH、CO、及びHの含有量は、熱伝導率検出器(GC390B;ジーエルサイエンス株式会社製)と、活性炭を充填したステンレス製カラム(30/60メッシュ;ジーエルサイエンス株式会社製)とを備えたガスクロマトグラフィー(ジーエルサイエンス株式会社製)を用いて、特開2011-224539号公報に記載された方法と同様の方法で測定した。その結果を表4及び図5に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
結果
表4及び図5より、実施例1の第1工程(BES)及び比較例1の第1工程(NBES)において、バイオガス(CH、CO及びH)の生成が抑制されていることがわかった。
CHを含むバイオガス生成率は、実施例1の方が、比較例1よりもはるかに高かった。
【0088】
生成物の量(酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、及びエタノール)
酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、及びエタノールの量(濃度)は、Aminex HPX-87Hカラム(バイオ-ラッドラボラトリーズ社)及び屈折率検出器(RID-10A、株式会社島津製作所)を備えた高圧液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所)を用いて測定した。その結果を表5及び図6に示す。
【0089】
【表5】
【0090】
結果
表5及び図6より、実施例1における第1工程(BES)及び比較例1における第1工程(NBES)後の発酵液中の生成物は、その大部分が、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等の短鎖脂肪酸(SCFA)及びエタノールで占められていたことがわかった。
また、第2工程後のSCFA及びエタノールの濃度は、実施例1の方が、比較例1に比べて低かった。
【0091】
炭素量(CH 、CO 、SCFA+エタノール、残渣C-SS)
実施例1において、第1工程後の廃液(発酵液)を、第2工程の反応容器に添加した。また、比較例1において、第1工程後の廃液(発酵液)を、第2工程の反応容器に添加した。これらは、SS(Suspended Substance;固形浮遊物(懸濁固体))とSCFA+エタノールからなる残留炭素(C)を、第2工程(FFR)に添加することを意味する。
なお、これらの廃液(発酵液)は、懸濁液となっているため、ガラス繊維フィルター(0.45μm)でろ過し、培養物中のSSを決定し、繊維上の残渣を105℃で120分間乾燥させ、乾燥重量を測定し、以下のようにSSの除去率、固形浮遊物(SS)中の残留炭素(C)量、及びCHの収率を求めた。それらの結果を、表6、表7及び図7に示す。
【0092】
<SSの除去率(%)>
SSの除去率(%)は、下記式1のとおり、発酵前(投入時)と発酵後(排出時)の重量差から計算した。
【0093】
【数1】
【0094】
ここで、SSinletは、投入時におけるSSの負荷重量であり、SSoutletは、排出時における発酵後のSSの残留重量である。
【0095】
<固形浮遊物(SS)中の残留炭素(C)量>
固形浮遊物(SS)中の残留炭素(C)量(残渣C-SS)は、SS重量に72/162[:6C/(セルロース分子量)]を乗じて計算した。
【0096】
<CHの収率>
CHの収率は、グラム炭素ベースで計算し、下記式2のように計算した。
【0097】
【数2】
【0098】
【表6】
【0099】
【表7】
【0100】
結果
表7のとおり、第2工程(FFR)の運転中、実施例1の投入時pH(7.5)は低下して、排出時pHが6.8±0.0となった。また、比較例1の投入時pH(7.5)も低下して、排出時pHが、6.4±0.4となった。
実施例1の第2工程(FFR)におけるSS除去率は、90.7±2.2%であり、比較例1の第2工程(FFR)におけるSS除去率(66.9±1.1%)よりもはるかに高かった(表7)。
また、実施例1は、第1工程及び第2工程を行うことで、CH収率が37.5±1.4%、ガス中のCH含有量が52.8±0.3vol%となった。一方、比較例1では、CH収率が22.1±1.4%、ガス中のCH含有量が46.8±1.3vol%となることがわかった(表6及び図7参照)。
表7のとおり、水理学的滞留時間(HRT)が2.5日において、セルロースを主要な炭素源として含む合成培地を、セルロース負荷量3555.6mg-炭素(C)/L/日で実施例1及び比較例1の第1工程の反応容器に添加した。第1工程の運転中、実施例1の投入時pH(6.1)は低下して、排出時pHが5.2±0.3となった。
一方、比較例1の投入時は、pH(6.1)も低下して、排出時は、pHが5.2±0.2となった。このため、セルロースの大部分は消費されることなく残存し、第1工程後の懸濁物質(SS)の除去率は、実施例1では11.4±4.3%、比較例1では11.6±4.3%であった。
【0101】
<試験例4>
微生物の相対存在率(%)
実施例1及び比較例1において、それぞれの発酵液(培養液)中の微生物、及び固定膜(炭素繊維織物(CFT)膜)に付着した画分(微生物)の相対存在率(%)を、特開2011-224539号公報に記載された方法と同様の方法で測定した。
具体的には、各発酵液(培養液)5000μLを、5000×gで遠心分離し、ペレット化したものを200μLのTris-EDTA緩衝液(10mM Tris-HCl、1mM EDTA、pH8.0)に懸濁させた。または、付着した画分(微生物)をボルテックスして、5000μLのTris-EDTA緩衝液中に回収し、そして、遠心分離後のペレット化した材料を上記のように200μLのTris-EDTA緩衝液中に懸濁させた。
これらの懸濁物は、それぞれ300mgのガラスビーズ(直径:0.1mm)、Tris-EDTA飽和フェノール500μL、溶解緩衝液250μL、及び10%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム50μLを各チューブに添加した。次いで、この混合物をFatPrep-24装置(エムピーバイオメディカルズ社)を用いて、5.0m/sで30秒間激しく振盪した。次に、混合物を22,000×gで5分間遠心分離した。上部水性層を、275μLのイソプロピルアルコール及び1/10容量の3M酢酸ナトリウムを含む清潔なチューブに移し、-20℃で10~15分間冷却した。抽出したDNA沈殿物は、22,000×gで5分間遠心分離し、70%エタノールで洗浄した後、真空下で乾燥させた。その後、DNAをTris-EDTA緩衝液に溶解した。
【0102】
微生物組成の測定(リアルタイムPCR解析)
実施例1及び比較例1の微生物組成は、リアルタイムPCRを用いて測定した。このリアルタイムPCRは、真正細菌を標的とするユニバーサルプライマーセット(5’-ACTCCTACGGGAGGCAGCAGT-3’及び5’-GTATTACCGCGGCTGCTGGCAC-3’)を有するLightCycler(登録商標)96システム(ロシュ社)を用いて、全細菌を定量するために実施した。その結果を表8及び図8に示す。
【0103】
表8の微生物の種類は、下記のとおりである。
A: Methanobacterium sp.
B: Methanothermobacter thermautotrophicus
C: Methanosarcina sp.
D: Anaerolineae; CFB-26
E: Ureibacillus sp.
F: Unclassified Haloplasmataceae
G: Unclassified Clostridiales
H: Unclassified Clostridium
I: Clostridium sp.
J: Thermoanaerobacterium saccharolyticum
K: Lutispora sp.
L: Coprococcus sp.
M: Unclassified Peptococcaceae
N: Unclassified Ruminococcaceae
O: Ruminococcus sp.
P: Syntrophomonas sp.
Q: Unclassified Veillonellaceae
R: Tepidimicrobium sp.
S: Clostridia; MBA08
T: Clostridia; SHA08
U: Others
V: Unclassified bactria
【0104】
【表8】
【0105】
結果
その結果、大部分の微生物は、実施例1の第1工程の反応器の懸濁画分(BES-カソード及びBES-アノード)及び第2工程の反応器の懸濁(浮遊)画分(FFR)、並びに、比較例1の第1工程の反応器の懸濁画分(NBES-右側及びNBES-左側)及び第2工程の反応器の懸濁(浮遊)画分(FFR)と、実施例1の第2工程のCFT膜に付着した画分(FFR-C)、比較例1の第2工程のCFT膜に付着した画分(FFR-C)の中では、3つの系統(門)(Euryarchaeota, Chloroflexi, Firmicutes)に分類されていた。
実施例1の第1工程の反応器の懸濁画分(BES-カソード及びアノード)及び比較例1の第1工程の反応器の懸濁画分(NBES-右側及び左側)では、主にThermoanaerobacterium saccharolyticum(上記菌の種類J)に関連する細菌からなるFirmicutesが支配的であった。
実施例1の第1工程ではClostridium sp.とRuminococcus sp.に関連する細菌が他の主要な微生物であり、比較例1の第1工程ではさらにUnclassiified Clostridialesに関連する細菌が主要であった。
実施例1の第1工程、及び比較例1の第1工程ではpHが低いため、メタン生成菌はほとんど検出されなかった。
実施例1の第2工程、及び比較例1の第2工程の反応器の懸濁(浮遊)画分及びCFT膜への付着画分では、Clostridium sp.に関連する細菌が主要な生物であり、特に、比較例1の第2工程の反応器の懸濁(浮遊)画分(FFR)では最も多くを占めており、微生物の多様性が低いことに対応していた。
実施例1の第2工程の反応器の懸濁(浮遊)画分(FFR)では、Unclassified ClostridialesとClostridia; MBA08に関連する細菌が他の主要な微生物であった。
Methanobacterium sp.(菌の種類:A)の相対的な存在量は、実施例1の第2工程の反応器の懸濁(浮遊)画分(FFR)では、2.585%であったことから、比較例1の第2工程の反応器の懸濁(浮遊)画分(FFR)の1.408%に比べて高かった。
興味深いことに、実施例1の第2工程のCFT膜への付着画分(FFR-C)では、比較例1の第2工程のCFT膜への付着画分(FFR-C)に比べて、メタン生成菌(Methanosarcina sp.、菌の種類:C)の相対的な存在量が0.007%から5.835%へ増加した。
メタン生成菌(菌の種類:A~C)の合計量は、実施例1の第2工程における反応器の懸濁(浮遊)画分(FFR)では2.955%であり、実施例1の第2工程のCFT膜への付着画分(FFR-C)では6.512%であった。比較例1におけるメタン生成菌(菌の種類:A~C)の合計量が、第2工程における反応器の懸濁(浮遊)画分(FFR)で1.474%、及び第2工程のCFT膜への付着画分(FFR-C)で0.703%であったことから、第1工程で作用電極に微弱な電流を流すことによって、明らかにメタン生成菌が増加したことがわかる。
【0106】
<試験例5>
回復試験
実施例1において、第1工程の生物電気化学処理として電流を印加することで、第1工程で電流を印加しない比較例1(NBES→FFR)の劣化した状態が回復するかどうかを明らかにすることを試みた。
まず、順応(順化)後の第1工程(NBES)及び第2工程(FFR)をそれぞれ2.5日、4.2日のHRTで運転した。これは、比較例1に相当する。次に、第1工程に電流を流し、順応(順化)後のHRTで2.5日目に生物電気化学処理(BES)を、4.2日目に第2工程(FFR)を行った(BES→FFR)。これは、実施例1に相当する。
排出時(出口)pHは、比較例1の第1工程(NBES)が5.6±0.1であり、比較例1の第2工程(FFR)が6.3±0.1であり、実施例1の第1工程(BES)が5.2±0.1であり、実施例1の第1工程(FFR)が6.6±0.1であった。
上記試験例3と同様に、バイオガス(CH、CO及びH)のガス生成量(mM/日)、生成物の量(酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、及びエタノール)を測定し、炭素量(CH、CO、SCFA+エタノール、残渣C-SS)、及びSS除去率を求めた。それらの結果を、表9~12及び図9~11に示す。
【0107】
【表9】
【0108】
【表10】
【0109】
【表11】
【0110】
【表12】
【0111】
結果
最初に行った、比較例1の第1工程(NBES)でのSS除去率は10.0±0.1%であった。比較例1の第2工程(FFR)では、予想通り、49.9±4.2%しかSS除去されなかった(表12)。
興味深いことに、第1工程において電流を流す(生体電気化学的処理を行う)ことで、第2工程(FFR)では、SS除去率が82.3±3.0%に増加した。このときの第1工程(BES)のSS除去率は23.2±0.9%であった(表12)。
このため、第1工程で電流を流さなかった(NBES)比較例1の第2工程(FFR)ではバイオガス生産量が少ない(合計22.1±3.8mM/日)が、第1工程で電流を流した(BES)実施例1の第2工程(FFR)ではバイオガス生産量が増加した(合計103.3±3.9mM/日)(表9、図9)。
また、比較例1の第2工程(FFR)では、SCFA及びエタノールが多く蓄積していた(合計56.1±1.8mM)が、実施例1の第2工程(FFR)ではSCFA及びエタノールが減少した(合計16.5±1.9mM)(表10、図10)。
その結果、第1工程で電流を流さない比較例1(NBES→FFR)では、CH収率が7.1±1.9%であり、ガス中のCH含有量が47.9±1.9vol%であった。実施例1(BES→FFR)は、第1工程で電流を流すことにより、CH収率が38.4±2.3%、ガス中のCH含有量が60.8±2.4vol%となった(表11及び図11参照)。
つまり、第2工程で固定膜(炭素繊維織物(CFT)膜)を使用することは、本発明のメタン発酵方法(第1工程:生物電気化学システム、第2工程:固定膜発酵工程)の安定運転に必要であるといえる。
【0112】
<試験例6>
第2工程(FFR)における導電性材料(CFT)膜の必要性
実施例1おける導電性材料膜(固定膜)の必要性を、導電性材料膜(固定膜)を有しない比較例2と比べて、確認した。
まず、順応(順化)後のHRTをそれぞれ2.5日、4.2日とし(表1)、第1工程(BES)と、それに続くCFT無しの第2工程(NFFR)を実施した(比較例2)。比較例2で使用する装置を図3に示す。
第2工程にCFTを設置し、順応(順化)後のHRTで2.5日、4.2日のHRTで、第1工程(BES)と、それに続く第2工程(FFR)を運用した(実施例1)。
排出時pHは、比較例2の第1工程(BES)が5.8±0.4、比較例2の第2工程(NFFR)が6.8±0、実施例1の第1工程(BES)が5.4±0.4、実施例1の第2工程(FFR)が6.6±0.1であった。
上記試験例3と同様に、バイオガス(CH、CO及びH)のガス生成量(mM/日)、生成物の量(酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、及びエタノール)を測定し、炭素量(CH、CO、SCFA+エタノール、残渣C-SS)、及びSS除去率を求めた。それらの結果を、表13~16及び図12~14に示す。
【0113】
【表13】
【0114】
【表14】
【0115】
【表15】
【0116】
【表16】
【0117】
結果
表16より、比較例2の第1工程(BES)では、実施例1の第1工程(BES)と同様に、SS除去率は11.9±0.6%であった。比較例2の第2工程(NFFR)のSS除去率は、51.2±1.6%にとどまった。
興味深いことに、第2工程の反応器に導電材料(CFT)膜を設置したことにより、実施例1の第2工程(FFR)ではSS除去率が74.9±5.7%に増加した。実施例1の第1工程(BES)では、SS除去率が8.9±1.5%であった。
反応器にCFT膜を設置しない比較例2の第2工程(NFFR)ではバイオガス生成量が少ない(合計44.4±5.8mM/日)が、反応器にCFT膜を設置する実施例1の第2工程(FFR)ではバイオガス生成量が増加した(合計91.0±1.8mM/日)(表13、図12)。
比較例2の第2工程(NFFR)では、SCFA及びエタノールが多く蓄積した(合計51.5±1.9mM)が、実施例1の第2工程(FFR)ではSCFA及びエタノールが減少した(合計31.4±5.1mM)(表14、図13)。
その結果、比較例2(BES→NFFR)では、CH収率が13.4±3.1%、ガス中のCH含有量が48.8±5.8vol%と低かった。第2工程でCFT膜を添加した実施例1(BES→FFR)は、CH収率が30.0±1.4%となり、ガス中のCH含有量が56.0±2.6vol%となった(表15及び図14参照)。
【0118】
結論
本発明の第1工程では、低コストのカーボンシートを陰極及び陽極に用いて、微生物電気分解セルモード(低電流及び無生物H生成)で好熱性BESを運転した。本発明の第2工程では、導電性材料であるCFTからなる膜を含む好熱性FFRを運転した。このような本発明のメタン発酵方法(BES→FFR)は、第1工程が生物電気化学システムを有しない比較例1の方法(NBES→FFR)、及び、第2工程がCFT膜を有しない比較例2の方法(BES→NFFR)に比べて、微生物によるセルロースの分解を促進し、短鎖脂肪酸及びエタノールの蓄積を減少させることでCHの生成を促進することができた。
第1工程における電気化学的なCH生成量は、第2工程後の(実際の)CH生成量と比較すると無視できる程度であった。これらのことから、本発明のメタン発酵方法(BES→FFR)の安定運転には、第1工程における生物電気化学システムと第2工程における固定膜(CFT膜)の両方が必要であることがわかった。
また、本発明のメタン発酵方法の第2工程(FFR)では、第1工程が生物電気化学システムを有しない比較例1の方法の第2工程(FFR)に比べて、浮遊微生物濃度及び付着微生物の多様性が高いことがわかった。
セルロース分解活性及び糖分解活性を有すると考えられる細菌が、本発明のメタン発酵方法の第1工程(BES)、比較例1の方法の第1工程(NBES)、本発明のメタン発酵方法の第2工程(FFR)、及び、比較例1の方法の第2工程(FFR)に存在していた。
さらに、本発明のメタン発酵方法の第2工程(FFR)において、Hを消費するメタン生成菌であるMethanobacterium sp.及びMethanosarcina sp.の浮遊画分及び付着画分中の相対的な存在量が、それぞれ比較例1の第2工程(FFR)に比べて増加した。したがって、第1工程の生物電気化学処理によって、第2工程(FFR)における種間H転移が促進され、セルロースからCHへの変換が加速された。
以上の結果から、本発明のメタン発酵方法(BES→FFR)は、第1工程(BES)のHRTが短く、セルロースの嫌気性消化に有利なシステムであることが示唆された。なお、第1工程(BES)のHRTが短いということは、第1工程(BES)を小規模で、第2工程(FFR)を大規模で運転することが可能であることを意味する。
したがって、本発明は、生物電気化学処理を行う第1工程、及び、嫌気性反応(消化)器にCFT膜を固定化した第2工程を備えた好熱性のメタン発酵方法を提供することができる。本発明のメタン発酵方法は、第1工程で生物電気化学システムを使用しない場合、及び、第2工程でCFT膜を使用しない場合と比較して、微生物によるセルロースのCHへの変換を促進することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14