IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ヤクルト本社の特許一覧

<>
  • 特開-ヘミセルロース糖化用酵素組成物 図1
  • 特開-ヘミセルロース糖化用酵素組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057665
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】ヘミセルロース糖化用酵素組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/24 20060101AFI20220404BHJP
   C12P 19/02 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C12N9/24 ZNA
C12P19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166043
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】重久 晃
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 洋平
(72)【発明者】
【氏名】佃 直紀
(72)【発明者】
【氏名】小原 薫
(72)【発明者】
【氏名】原 妙子
(72)【発明者】
【氏名】松本 敏
(72)【発明者】
【氏名】辻 浩和
(72)【発明者】
【氏名】松木 隆広
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B050CC01
4B050CC03
4B050DD02
4B050KK07
4B050LL02
4B050LL05
4B064AF02
4B064BJ10
4B064CA19
4B064CA21
4B064CB07
4B064CC24
4B064CD24
4B064DA16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヘミセルロースの糖化に有用な酵素製剤及びそれを用いたヘミセルロースの糖化方法の提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質と、別の特定のアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質と、を含有するヘミセルロース糖化用酵素組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のAで示されるアラビノフラノシダーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質と、Bで示されるキシロシダーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質とを含有する、ヘミセルロース糖化用酵素組成物。
A:アラビノフラノシダーゼ
(A1)配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質
(A2)配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質
B:キシロシダーゼ
(B1)配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質
(B2)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質
(B3)配列番号10で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質
【請求項2】
請求項1に記載の酵素組成物を用いる、ヘミセルロースの糖化方法。
【請求項3】
配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項4】
配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘミセルロースの糖化に有用な酵素組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、作物や木材の収穫後の残渣等、農業生産の副産物として生じる植物バイオマスは、地球上に最も豊富にある再生可能エネルギー源であり、石油代替資源として期待されている。植物バイオマスの主要構成要素は、セルロース、ヘミセルロース等の多糖類とリグニンである。
【0003】
バイオマス中のセルロースやヘミセルロースを効率よく分解するにはセルラーゼ及びヘミセルラーゼが共に必要であり、酵素の種類や組成が大きく影響する。このため、近年、最適な糖化酵素を求めて開発が進められ、特にヘミセルラーゼの最適化は重要とされている。ヘミセルロースはグルコース以外の糖を含むヘテロ多糖であり,植物の種類によって異なるが、多くはアラビノキシランである。キシランの加水分解には、キシラナーゼ(エンド-1,4-β-キシラナーゼ)及びβ-キシロシダーゼが必要とされる。β-キシロシダーゼは、キシラナーゼによるヘミセルロースの加水分解により生じたオリゴ糖(キシロオリゴ糖)を加水分解し、単糖を生成するプロセスに関わる加水分解酵素の一つである。また、アラビノキシランは,α-L-アラビノフラノシダーゼによって、α-1,2及び/又はα-1,3結合したアラビノース側鎖が非還元末端側から加水分解され、L-アラビノフラノースが遊離される。
【0004】
例えば、特許文献1には、ヘミセルラーゼとして、トリコデルマ・レセイ由来のβ-キシロシダーゼ(BXL1)とトリコデルマ・レセイ由来のアラビノフラノシダーゼ(ABF1、ABF2、及びABF3から選択された2以上)を含有する酵素組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5690713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヘミセルロースの糖化に有用な酵素組成物及びそれを用いたヘミセルロースの糖化方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ヒトの腸内より見出されたキシラン類を資化できるビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(B.pseudocatenulatum)から基質特異性の異なる2種のアラビノフラノシダーゼと、3種のキシロシダーゼを新たに単離し、これらがヘミセルロースの糖化に使用可能であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)~(4)に係るものである。
(1)下記のAで示されるアラビノフラノシダーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質と、Bで示されるキシロシダーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質とを含有する、ヘミセルロース糖化用酵素組成物。
A:アラビノフラノシダーゼ
(A1)配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質
(A2)配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質
B:キシロシダーゼ
(B1)配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質
(B2)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質
(B3)配列番号10で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質
(2)(1)に記載の酵素組成物を用いる、ヘミセルロースの糖化方法。
(3)配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質。
(4)配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヘミセルロース、特にアラビノキシランを多く含むヘミセルロースを効率よく糖化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のアラビノフラノシダーゼ及びキシロシダーゼのSDS-PAGE分析結果。
図2】(A)アラビノキシラン分解物を各酵素と反応させたときに生じるキシロースおよびアラビノースの量。(B)本発明のアラビノフラノシダーゼの基質特異性。(C)本発明のキシロシダーゼの代謝活性。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の配列同一性は、Lipman-Pearson法(Science, 1985, 227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0012】
本明細書において、アミノ酸配列又は塩基配列に関する「少なくとも90%の同一性」とは、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性をいう。また、「少なくとも95%の同一性」とは、95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性をいう。
【0013】
本発明のアラビノフラノシダーゼは、以下のA1及びA2で示されるタンパク質である。
(A1)配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質
(A2)配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質
【0014】
A1の配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(B.pseudocatenulatum)YIT 4072株由来のアラビノフラノシダーゼRS01610(以下、「RS01610」とも称する)、A2の配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、同微生物株由来のアラビノフラノシダーゼRS02375(以下、「RS02375」とも称する)である。
RS01610は、アミノ酸配列の相同性解析の結果、文献1(Lagaert S, et al. Biochem Biophys Res Commun. 2010;402(4):644‐650.)に記載のビフィドバクテリウム・アドレセンティス(B.adolescentis)由来のAXH-d3と99%の配列同一性を示す。また、RS02375は、同文献に記載のAbfAと91%の配列同一性を示す。
【0015】
「アラビノフラノシダーゼ活性」とは、アラビノース含有多糖中のα-1,2若しくはα-1,3結合したアラビノース側鎖、α-1,2及びα-1,3結合したアラビノース側鎖を切断し、α-L-アラビノース残基を加水分解する活性をいう。
後述する実施例に示すとおり、RS01610は、非還元末端に2分子のアラビノースがα-1,2及びα-1,3結合したアラビノース側鎖を加水分解するが、非還元末端にα-1,2又はα-1,3結合したアラビノース側鎖は加水分解しないという基質特異性を有する。一方、RS02375は、非還元末端にα-1,2又はα-1,3結合したアラビノース側鎖を加水分解するという基質特異性を有する。
したがって、A1で示されるアラビノフラノシダーゼは、α-1,2及びα-1,3結合したアラビノース側鎖のα-L-アラビノース残基を加水分解する活性を有するものが好ましく、A2で示されるアラビノフラノシダーゼは、α-1,2又はα-1,3結合したアラビノース側鎖のα-L-アラビノース残基を加水分解する活性を有するものが好ましい。
【0016】
本発明のキシロシダーゼは、以下のB1~B3で示されるタンパク質である。
(B1)配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質
(B2)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質
(B3)配列番号10で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシロシダーゼ活性を有するタンパク質
【0017】
B1の配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムYIT 4072株由来のキシロシダーゼRS01595(以下、「RS01595」とも称する)、B2の配列番号8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、同微生物株由来のキシロシダーゼRS02300(以下、「RS02300」とも称する)、B3の配列番号10で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、同微生物株由来のキシロシダーゼRS02400(以下、「RS02400」とも称する)である。
RS01595は、アミノ酸配列の相同性解析の結果、文献(Lagaert S, et al. Appl Microbiol Biotechnol. 2011;92(6):1179‐1185.)に記載のビフィドバクテリウム・アドレセンティス由来のXylCと81%、文献(Viborg AH, et al. AMB Express. 2013;3(1):56.)に記載のビフィドバクテリウム・アニマリス(B.animalis) subsp.lactis BB-12由来のBXA43と84%の配列同一性を示す。
また、RS02300は、同XylCと77%、BXA43と79%の配列同一性を示す。
また、RS02400は、同XylCと98%、BXA43と78%の配列同一性を示す。
【0018】
ここで、「β-キシロシダーゼ活性」とは、キシロオリゴ糖を加水分解してキシロースとする反応を触媒する活性を意味する。
【0019】
本発明の酵素組成物は、アラビノフラノシダーゼとキシロシダーゼを含有するが、A1及びA2の2種のアラビノフラノシダーゼと、B1~B3のキシロシダーゼから選ばれる1種以上の酵素を含有するのが好ましい。
【0020】
本発明のアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼは、例えば、本発明のアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼをコードするポリヌクレオチドを導入した形質転換体から生産することができる。すなわち、本発明のアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼをコードするポリヌクレオチド、又はそれを含むベクターを宿主に導入して形質転換体を得た後、該形質転換体を適切な培地で培養すれば、本発明のアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼが生産される。生産されたアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼを該培養物から単離又は精製することにより、本発明のアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼを取得することができる。
【0021】
本発明のアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼをコードするポリヌクレオチドとしては、前記のA1~A2で示されるタンパク質、又はB1~B3で示されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられるが、好ましくは、下記(a1)~(a2)、及び(b1)~(b3)から選ばれる塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
(a1)配列番号1で示される塩基配列又は当該塩基配列と少なくとも95%の同一性を有する塩基配列
(a2)配列番号3で示される塩基配列又は当該塩基配列と少なくとも95%の同一性を有する塩基配列
(b1)配列番号5で示される塩基配列又は当該塩基配列と少なくとも90%の同一性を有する塩基配列
(b2)配列番号7で示される塩基配列又は当該塩基配列と少なくとも90%の同一性を有する塩基配列
(b3)配列番号9で示される塩基配列又は当該塩基配列と少なくとも90%の同一性を有する塩基配列
【0022】
本発明のアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼをコードするポリヌクレオチドは、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムYIT 4072等から、当該分野で用いられる任意の方法を用いて単離することができる。例えば、当該ポリヌクレオチドは、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムYIT 4072の全ゲノムDNAを抽出した後、配列番号1、3、5、7又は9の塩基配列を元に設計したプライマーを用いたPCRにより標的遺伝子を選択的に増幅し、増幅した遺伝子を精製することで得ることができる。
【0023】
本発明のアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼをコードするポリヌクレオチドを含むベクターの種類としては、特に限定されず、遺伝子のクローニングに通常用いられるベクター、例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、YAC、BAC等が挙げられる。このうち、プラスミドベクターが好ましく、例えば、市販のタンパク質発現用プラスミドベクター、例えばシャトルベクターpHY300PLK、pUC119、pBR322(いずれもタカラバイオ株式会社製)等を好適に用いることができる。
【0024】
上記ベクターは、DNAの複製開始領域又は複製起点を含むDNA領域を含むことができ、本発明のアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼをコードするポリヌクレオチドの上流に、該遺伝子の転写を開始させるためのプロモーター領域、ターミネーター領域等の制御配列が作動可能に連結されていてもよい。また、ベクターには、該ベクターが適切に導入された宿主を選択するためのマーカー遺伝子がさらに組み込まれていてもよい。
【0025】
上記ベクターを導入する形質転換体の宿主の例としては、細菌、糸状菌、酵母などの微生物が挙げられる。細菌の例としては、大腸菌、スタフィロコッカス属、エンテロコッカス属、バチルス属に属する細菌などが挙げられ、このうち大腸菌が好ましい。
【0026】
宿主へのベクターの導入の方法としては、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法などの当該分野で通常使用される方法を用いることができる。導入が適切に行われた株をマーカー遺伝子の発現、栄養要求性などを指標に選択することで、ベクターが導入された目的の形質転換体を得ることができる。
【0027】
斯くして得られた、本発明のアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼをコードするポリヌクレオチド又はそれを含むベクターが導入された形質転換体を適切な培地で培養すれば、本発明のアラビノフラノシダーゼ又はキシロシダーゼが生成される。当該形質転換体の培養に使用する培地は、当該形質転換体の微生物の種類にあわせて、当業者が適宜選択することができる。
【0028】
上記培養物にて生成された本発明のアラビノフラノシダーゼ及びキシロシダーゼは、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、単離又は精製することができる。培養物から回収されたアラビノフラノシダーゼは、公知の手段でさらに精製されてもよい。
【0029】
上記本発明のアラビノフラノシダーゼ及びキシロシダーゼを組み合わせた酵素組成物は、ヘミセルロース糖化のために使用することができる。
また、当該酵素組成物は、さらにセルラーゼや本発明の酵素以外のヘミセルラーゼ等、他の糖化酵素を組み合わせることによりバイオマス糖化のために使用することができる。
【0030】
ここで、「ヘミセルロース」は、グルコース以外の糖のモノマーを含む植物性物質のポリマー性成分である。ヘミセルロースは、グルコースの他にキシロース、マンノース、ガラクトース、ラムノース及びアラビノースを含むことができ、キシロースが最も一般的な糖モノマーである。ヘミセルロースとしては、ガラクタン、マンナン、キシラン、アラバナン、アラビノキシラン、グルコマンナン、ガラクトマンナン等が挙げられるが、本発明においては、キシラン、アラビノキシランを含むものが好ましい。
【0031】
本発明の酵素組成物における、アラビノフラノシダーゼとキシロシダーゼとのタンパク質量比(アラビノフラノシダーゼ/キシロシダーゼ)は、特に限定されないが、好ましくは1:1~1:4であり、より好ましくは1:1~1:2である。
【0032】
本発明の酵素組成物は、ヘミセルロースから糖化するために用いられる。すなわち、本発明の糖化方法は、ヘミセルロースを、上記本発明の酵素製剤で糖化処理する工程が含まれる。
ヘミセルロースを糖化処理する際には、粉砕効率向上、糖化効率向上及び生産効率向上の観点から、糖化処理する工程の前に当該ヘミセルロースをアルカリ処理、粉砕処理又は水熱処理等の前処理工程をさらに含むことができる。
【0033】
糖化処理の条件は、本発明のアラビノフラノシダーゼ及びキシロシダーゼが失活しない条件であれば特に限定されない。例えば、ヘミセルロースを含む懸濁液に、本発明の酵素組成物を添加し、所定のpH、温度で、一定時間反応することが挙げられる。懸濁液中のヘミセルロースの含有量は、糖化効率又は糖生産効率向上の観点から適宜調整すればよい。また、酵素組成物の使用量も、適宜決定される。
【実施例0034】
実施例1 酵素の調製
(1)リコンビナントタンパク質の調製
B.pseudocatenulatum YIT 4072のゲノムを鋳型として、配列番号2,4,6,8及び10で示されるアミノ酸配列からなる各酵素タンパク質をコードする遺伝子(配列番号1,3,5,7及び9)のORFをFwプライマーおよびRvプライマーと、PrimeSTAR MAX DNA Polymerase(Takara)もしくはKOD-plus-(TOYOBO)により増幅した。増幅産物を精製後に、制限酵素NdeI、XhoIを用いて、もしくはIn-Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いてpCold Iベクター(Takara)に導入した。クローニングのホストにはE.coli JM 109株を用いた。用いたプライマーおよび各プラスミドの構築方法を表1に示した。
【0035】
【表1】
【0036】
(2)His-tag付加タンパク質の精製
各発現プラスミドをE.coli BL21株にヒートショック法にて導入し、形質転換体を得た。得られた菌株を100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地10mlにて培養した。OD600=0.5となった時点で培養液を15℃にて30分間インキュベーションした。その後100mM IPTGを100μl添加した上でさらに15℃にて24時間インキュベーションした。得られた培養液を8000rpmにて10分間遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体に対してB-PERTM Bacterial Protein Extraction Reagent(Thermo Fisher Scientific)、要したB-PERTM Bacterial Protein Extraction Reagent 1mlに付き2μl Recombinant DNase I(RNase-free)(Takara)、2μl Lysozyme from chiken egg white(50mg/ml)(Sigma-aldrich)を添加してタンパク質を抽出した。菌体から得られたタンパク質抽出物からNi-NTA Spin Column(QIAGEN)を用いて目的のHisタグ付きレコンビナントタンパク質を精製した。なお、必要に応じてVivaspin 500-50K(GE Healthcare)を用いて精製タンパク質を濃縮した。
精製された組換え酵素のSDS-PAGE分析結果を図1に示す。
【0037】
実施例2 酵素活性の測定
(1)アラビノキシラン分解物を代謝した際のキシロースおよびアラビノースの測定
各酵素がキシロシダーゼであるかアラビノフラノシダーゼであるかを確認するために、アラビノキシラン分解物を代謝した際のキシロースおよびアラビノースの量を測定した。アラビノキシラン分解物を得るために、2%の小麦由来アラビノキシラン(Megazyme、P-WAXYL)50mlに対してCellvibrio mixtus由来のキシラナーゼ(Megazyme、E-XYNBCM)を40℃にて16時間反応させた。反応液を容器ごと沸騰水中にて10分インキュベーションし、室温まで放冷した。200mlのエタノールを加え、遠心して得られた上清をエバポレーターにて乾固させることにより、アラビノキシラン分解物を得た。得られた粉末を終濃度10%となるように水に溶解し、そのうち12.5μlを、37.5μlのMcIlvaine緩衝液(pH6.3)、2μlの実施例1で取得した各酵素と混合し、37℃にて16時間インキュベーションした。反応後94℃にて5分間インキュベーションし、終濃度1mMとなるようにグルコース溶液を添加したうえで、HPLCにて糖組成を分析した。HPLCは株式会社島津製作所のシステムを用いてKS-802 column(Showa Denko K.K.)により糖を分離し、昭和電工株式会社のRI detector RI-101にて検出した。
【0038】
(2)キシロシダーゼ活性の測定
MacIlvaine緩衝液(pH=6.3)465μlと100mMキシロテトラオース10μlを混合し、37℃にて約10分間プレインキュベーションを行った。反応液に、1.6μMに希釈した実施例1で取得した各酵素を25μl添加し、37℃にてインキュベーションを行った。TLCによる分析のために、同様に反応させた溶液から0分、5分、15分、30分、90分後に50μlサンプリングし、94℃にて5分インキュベーションして酵素を失活させ、そのうちの6μlをTLCシリカゲル60(Merck,1.05721.0001)にスポットした。文献(Nong G, Rice JD, Chow V, Preston JF. 2009. Appl Environ Microbiol 75:4410-4418)を参考にCHCOOH:Chloroform:HO=7:6:1にて2回展開し、2%Orcinol(in HSO:MeOH=1:9)にて加熱呈色し、検出した。
【0039】
(3)アラビノフラノシダーゼ活性の測定
反応基質としては、キシロオリゴ糖に対してアラビノースが異なる結合様式にて結合した4種類のAXOS(Megazyme社)、すなわち3-α-L-Arabinofuranosyl-xylobiose(AXOS1)、2,3-di-α-L-Arabinofuranosyl-xylotriose(AXOS2)、2-α-L-Arabinofuranosyl-xylotriose(AXOS3)および3-α-L-arabinofuranosyl-xylotetraose(AXOS4)を用いた。44μlのMcIlvaine緩衝液(pH6.3)に、100mM AXOSを1μl、2μMに希釈した実施例1で取得した各酵素を5μl添加し、37℃にて2時間反応させた後、94℃5分間インキュベーションして酵素を失活させた。反応液のうち6μlの糖組成をTLCにて分析した。
(3)結果
結果を図2に示す。
図2Aは、アラビノキシラン分解物を各酵素と反応させたときに生じるキシロースとアラビノースの量を示したものである。RS01610及びRS02375はアラビノースが生成したことから、アラビノフラノシダーゼ活性を有する(=アラビノフラノシダーゼである)ことがわかった。同様にRS01595、RS02300及びRS02400はキシロースが生じたことからキシロシダーゼ活性を有する(=キシロシダーゼである)ことがわかった。
図2Bは、RS01610及びRS02375のアラビノフラノシダーゼ活性における基質特異性を示している。ここで、AXOS1~4は、アラビノース側鎖の結合様式の異なるアラビノキシロオリゴ糖を示しており、XOS2~4は、それぞれ二糖、三糖および四糖のキシロオリゴ糖を示している。図2Bより、RS01610は、非還元末端に2分子のアラビノースがα-1,2及びα-1,3結合したアラビノース側鎖を加水分解するが、非還元末端にα-1,2又はα-1,3結合したアラビノース側鎖は加水分解しないというという基質特異性を有することがわかる。一方、RS02375は、非還元末端にα-1,2又はα-1,3結合したアラビノース側鎖を加水分解するが、非還元末端に2分子のアラビノースが結合したアラビノース側鎖を加水分解できないという基質特異性を有することがわかる。この2種類のアラビノフラノシダーゼを用いることで、多様な結合を有するアラビノース側鎖を分離することができる。
図2Cは、RS01595、RS02300及びRS02400のキシロシダーゼ活性を示している。図2Cより、各酵素がキシロシダーゼ活性を有していることがわかるが、特にRS01595のキシロオリゴ糖からキシロースまでの分解時間が短く代謝活性が強いことがわかる。
図1
図2
【配列表】
2022057665000001.app