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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057689
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】コンポジット推進薬
(51)【国際特許分類】
   C06D 5/00 20060101AFI20220404BHJP
   C06B 45/10 20060101ALI20220404BHJP
   C06B 45/00 20060101ALI20220404BHJP
   F42B 5/16 20060101ALI20220404BHJP
   C06B 29/22 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C06D5/00 A
C06B45/10
C06B45/00
F42B5/16
C06B29/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166075
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】特許業務法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】横山 耕太郎
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、燃焼特性、製造性のどちらも向上し、さらに高い流動性を有するコンポジット推進薬を提供することにある。
【解決手段】上記課題を解決するために、末端水酸基ポリブタジエンと、過塩素酸アンモニウムと、タップ密度が0.3~1.3g/mlである酸化鉄と、を含有することを特徴とするコンポジット推進薬を提供する。
本発明のコンポジット推進薬によれば、推進薬中に燃焼触媒としてタップ密度が0.3~1.3g/mlである酸化鉄を使用することにより、燃焼特性、製造性のどちらも向上し、かつ、高い流動性を有するコンポジット推進薬を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端水酸基ポリブタジエンと、過塩素酸アンモニウムと、タップ密度が0.3~1.3g/mlである酸化鉄と、を含有することを特徴とするコンポジット推進薬。
【請求項2】
コンポジット推進薬全量に対して、前記酸化鉄の含有量が0.006~0.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載のコンポジット推進薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な製造性と燃焼特性とを有するコンポジット推進薬に関する。
【背景技術】
【0002】
コンポジット推進薬はその優れた燃焼特性及び物理的特性により、高性能ロケットモータ用推進薬として広く使用されている。コンポジット推進薬は、酸化剤と燃料兼結合剤であるバインダとを主成分とし、通常は、燃焼性能を向上させるため助燃剤として金属粉末が添加される。酸化剤としては、過塩素酸アンモニウム、ニトラミン、硝酸アンモニウムなどが使用され、バインダとしてはポリブタジエン、ポリウレタンなどが使用され、助燃剤としては、アルミニウム粉末などが使用されている。
【0003】
近年、ロケットモータの設計範囲の拡大と高性能化を目的として、コンポジット推進薬に対して幅広い燃焼速度の調整が求められるようになっており、そのための添加剤として燃焼触媒が加えられる。過塩素酸アンモニウムを含むコンポジット推進薬の燃焼速度を高める添加剤としては、粒状、あるいは棒状の酸化鉄が広く知られている。
【0004】
一般に、推進薬の燃焼速度と、燃焼圧力との関係は式(1)
r=aP -(1)
で表されることが経験的に知られている(ここで、rは燃焼速度を、Pは燃焼圧力を、nは圧力指数を、aは推進薬の種類により決まる定数をそれぞれ示す)。この式は、圧力指数nが大きい場合には、わずかな圧力Pの上昇によって燃焼速度rが指数関数的に大きく増大することを意味する。すなわち、推進薬にクラックが発生する等の異常が偶発的に生じ、ロケットモータ内の圧力が設定値から変動すると、燃焼速度が所望の値とは大きく異なったものとなってしまう。さらには、燃焼速度の急激な増加によって爆発に至るというおそれも生じる。従って、これを避け、燃焼速度を制御して安定な燃焼を得るためには、より小さな圧力指数を有する推進薬を用いることが望まれる。
【0005】
しかしながら、従来の酸化鉄を用いたコンポジット推進薬は、燃焼速度を高めるために酸化鉄の添加量を増加する必要があり、製造性を低下させるといった問題を引き起こすことが知られている。このような問題を解決するために、酸化鉄の粒径や形状を変更することによって、燃焼速度を高めつつ製造性、燃焼特性を改善する種々の検討がなされてきた。
【0006】
このような推進薬が、例えば特許文献1ではバインダ及び酸化剤を主成分として含有するコンポジット固体推進薬において、長さと直径との比が1000以下で、且つ長さが10μm以下、直径が0.01μm以上である棒状酸化鉄を含有することを特徴とするコンポジット固体推進薬として開示されている。
【0007】
しかしながら、長さや径の異なる棒状酸化鉄を用いた特許文献1のコンポジット推進薬では、燃焼特性として燃焼速度は向上しているものの、製造性としてポットライフは不充分であった。加えて、製造性のうち、注型しやすさを表す流動性については、長さや径の異なる棒状酸化鉄を用いても改善することができなかった。そのため、燃焼触媒として酸化鉄を用いたコンポジット推進薬において、燃焼特性を維持したまま製造性を向上させることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3-97687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、燃焼特性、製造性のどちらも向上し、さらに高い流動性を有するコンポジット推進薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題について鋭意検討した結果、発明者は、末端水酸基ポリブタジエンを主成分とするバインダ及び過塩素酸アンモニウムからなる酸化剤を含有するコンポジット推進薬において、燃焼触媒としてタップ密度が0.3~1.3g/mlである酸化鉄を含有し、更には酸化鉄の割合を特定の割合とすることにより、燃焼特性、製造性のどちらも向上し、かつ、高い流動性を有するコンポジット推進薬が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のコンポジット推進薬である。
【0011】
[1]
末端水酸基ポリブタジエンと、過塩素酸アンモニウムと、タップ密度が0.3~1.3g/mlである酸化鉄と、を含有することを特徴とするコンポジット推進薬。
[2]
コンポジット推進薬全量に対して、前記酸化鉄の含有量が0.006~0.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載のコンポジット推進薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコンポジット推進薬によれば、推進薬中に燃焼触媒としてタップ密度が0.3~1.3g/mlである酸化鉄を使用することにより、燃焼特性、製造性のどちらも向上し、かつ、高い流動性を有するコンポジット推進薬を提供することができる。さらに、推進薬に対する酸化鉄の割合を0.006~0.5質量%とすることにより、これらの効果をより一層発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[コンポジット推進薬]
本発明のコンポジット推進薬は、例えば、高性能ロケットモータ用推進薬等に使用されるものであって、酸化剤として過塩素酸アンモニウムと、バインダ中に末端水酸基ポリブタジエンと、結合剤と、硬化剤を基本組成としながら、助燃剤としてアルミニウム粉末を含有し、添加剤として酸化鉄とを併用している。
なお、用途に応じて、その他の添加剤をさらに追加することができる。
【0014】
<末端水酸基ポリブタジエン>
コンポジット推進薬を製造する場合、バインダ中には燃料兼結合剤として末端水酸基ポリブタジエン(HTPB)、アジドメチル基を有する末端水酸基ポリエーテル、例えばグリシジルアジドポリマー(GAP)、3,3-ビスアジドメチルメチルオキセタン/テトラヒドロフラン共重合体(BAMO/THF共重合体)等がある。その中でも、本発明においては一般的なコンポジット推進薬に多く採用されている末端水酸基ポリブタジエン(HTPB)を使用するのが好ましい。
【0015】
本実施形態に係る末端水酸基ポリブタジエンは、例えば分子の末端に水酸基を平均2~4個有する数平均分子量2000~4000の末端水酸基ポリブタジエンが挙げられる。また、末端水酸基ポリブタジエンの含有量は、通常、バインダ全量の50~90質量%、好ましくは60~85質量%である。
なお、流通する末端水酸基ポリブタジエンは、例えば、「Poly bd R-45M」(Total petrochemicals & refining usa inc製)などが挙げられる。
【0016】
<酸化剤>
コンポジット推進薬を製造する場合、酸化剤としては、過塩素酸アンモニウム(AP)、シクロテトラメチレンテトラニトラミン(HMX)、シクロトリメチレンテトラニトラミン(RDX)及び硝酸アンモニウム等が用いられる。本発明の酸化剤は過塩素酸アンモニウム(日本カーリット(株)製)であるが、必ずしも単独である必要はなく、上述した酸化剤を複数含んでいてもよい。また、酸化剤の含有量は推進薬全量に対して少なくとも50質量%であり、60質量%以上であることが好ましい。
【0017】
更に、酸化剤は、推進薬粘度を調整し注型工程を容易にする、燃焼速度を調整する、結合剤と化学的に結合して物理的特性を向上する観点から、複数の異なる粒子径を用いてもよい。酸化剤の粒子としては、平均粒径1~60μmの小粒子、平均粒径150~300μmの中粒子、平均粒径350~600μmの大粒子をそれぞれ大中、大小もしくは中小の2種類、又は大中小の3種類を混合して用いることが好ましい。コンポジット推進薬の粘度を調整して注型工程を容易にする、燃焼速度を調整する、結合剤と化学的に結合して物理的特性を向上する観点から、酸化剤100質量%に対して中大2種類を20~60質量%ずつ、小1種類を10~30質量%混合することが特に好ましい。なお、平均粒径は、「マイクロトラック粒度分布計」(日機装製)を用いて測定する。
【0018】
<酸化鉄>
コンポジット推進薬を製造する場合、酸化鉄としては、例えばFeO、Fe、Feが挙げられる。その中でも、本発明においてはFeが好ましい。酸化鉄の粒子形状、粒径は特に限定されないが、配合する酸化鉄のタップ密度は0.3~1.3g/mlであることが必要である。タップ密度が0.3g/mlより小さいと、推進薬内での分散性が高まり、粒子同士の反発が減少して推進薬の流動性が増すため、推進薬の初期粘度が低下してポットライフが所定の時間よりも長くなる傾向にある。また、推進薬内で分散性が高まると、酸化鉄による推進薬内の分解速度増大効果が推進薬全体で現れ、燃焼速度とともに圧力指数が高くなる傾向にある。タップ密度が1.3g/mlより大きくなると、推進薬内で酸化鉄が分散されにくくなり、粒子同士の反発が増加して推進薬の流動性が減り、推進薬の初期粘度が上昇してポットライフが所定の時間よりも短くなる傾向にある。また、推進薬内で酸化鉄が分散されにくくなると、酸化鉄による推進薬内の分解速度増大効果が局所的に現れるため、圧力指数は低下するものの、燃焼速度が高くなりにくい傾向がある。推進薬の流動性が向上するという観点から、タップ密度の上限値は、好ましくは1.0g/mlである。
【0019】
なお、酸化鉄のタップ密度は酸化鉄を所定量秤量し、所定容量のメスシリンダーに投入したのち、所定のタッピング条件でタップした後、タップ後の酸化鉄体積を測定し、酸化鉄の質量をタップ後の酸化鉄体積(見かけ体積)で除することでタップ密度を算出する。タップ密度の測定は、JIS Z5101:2004に規定される顔料試験方法に準じて行った。
【0020】
この酸化鉄の含有量は、推進薬全量に対して0.006~0.5質量%であることが好ましく、0.01~0.4質量%であることが更に好ましい。さらに、推進薬の流動性が向上するという観点から、酸化鉄の含有量の上限値は、好ましくは0.3質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下である。酸化鉄の含有量が推進薬全量に対して0.006質量%以下では、燃焼速度を高める効果が小さく、また、0.5質量%を超えると製造性が低下し、圧力指数も高くなる傾向にある。
なお、流通する酸化鉄は、例えばR-516-L(粒子径:長さ0.7×径0.07μm、チタン工業(株)製)、R2899(平均粒径:0.3μm、HUNTSMAN Corporation製)、Bayferrox140(平均粒子径:0.3μm、LANXESS Deutschland GmbH製)、Bayferrox180(平均粒子径:1.5μm、LANXESS Deutschland GmbH製)が挙げられる。また、流通する酸化鉄で所望のタップ密度が得られない場合は、湿式沈降分級法に準じて分級することで所望のタップ密度を有する酸化鉄を得ることができる。
【0021】
<結合剤>
結合剤は、酸化剤粒子との接着性を付与する目的で配合する。
コンポジット推進薬を製造する場合、バインダ中の結合剤としてはトリス〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕フォスフィンオキシド(MAPO)、ビスイソフタロイル1-(2-メチル)アジリジン(HX-752)等のアジリジン系、N-メチルジエタノールアミン(MDA)、N-エチルジエタノールアミン(EDA)、テトラエチレンペンタミンとアクリロニトリルとの反応生成物(TEPAN又はHX-879)、テトラエチレンペンタミンとアクリロニトリルとグリシドールとの反応生成物(TEPANOL又はHX-878)等のアミン系、ジヒドロキシエチル-5,5-ジメチルヒダントイン(DHE)等のヒダントイン系及びシランカップリング剤(A-1100)等が挙げられる。その中でも、本発明においてはアジリジン系のトリス〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕フォスフィンオキシド(MAPO)とアミン系のN-メチルジエタノールアミン(MDA)とを組み合わせて使用するのが好ましい。
なお、流通する〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕フォスフィンオキシド(MAPO)は例えばAceto Corporation製が挙げられ、N-メチルジエタノールアミン(MDA)は例えば日本乳化剤(株)製が挙げられる。
【0022】
<硬化剤>
コンポジット推進薬を製造する場合、硬化剤としては、例えばイソフォロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジシクロヘキシルメタン―4,4―ジイソシアネ-ト(水添MDI)等のジイソシアネート化合物が挙げられる。その中でも、本発明においてはイソフォロンジイソシアネート(IPDI)が好ましい。
【0023】
硬化剤の含有量は、イソシアネート基/水酸基の当量比をNCO/OHで表せば、NCO/OH=0.7~1.1の範囲であり、好ましくは0.8~1.0の範囲である。
【0024】
<助燃剤>
助燃剤としては、アルミニウム、ボロン、マグネシウム等の金属粉末が挙げられる。その中でも、本発明においてはアルミニウム粉末を使用するのが好ましい。
なお、アルミニウム粉末は例えばX-65(Toyal America, Inc.製)、H-5(VALIMET, Inc.製)などが挙げられる。
【0025】
<その他添加剤>
その他、コンポジット推進薬に求められる燃焼特性、物理的特性、製造性に応じ、添加剤を添加してもよい。
可塑剤としては、ジオクチルアジペート(DOA)、ジオクチルセバケート(DOS)、ジイソデシルアジペート(DIDA)、イソデシルペラゴネート等のエステル類の他、1,2,4-ブタントリオールトリナイトレート(BTTN)、トリメチロールエタントリナイトレート(TMETN)、トリエチレングリコールジナイトレート(TEGDN)等のニトロ可塑剤等が使用される。その中でも、本発明においてはジオクチルアジペート(DOA)を使用するのが好ましい。
【0026】
硬化触媒としては、例えばジブチルスズジラウレート(DBTDL)、ジブチルスズジ(2-エチルヘキソエート)等の有機スズ化合物やトリフェニルビスマス等の有機ビスマス化合物及びトリエチレンジアミン等のアミン類等が挙げられる。
【0027】
老化防止剤としては、例えば2,2′-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、フェニル-β-ナフチルアミン、ジフェニルアミンとアセトンとの反応生成物(ノンフレックスBA、精工化学社製)等が挙げられる。
【0028】
[コンポジット推進薬の製造方法]
本発明のコンポジット推進薬の製造方法は、タップ密度が0.3~1.3g/mlである酸化鉄を添加することを特徴とする。これにより、製造性に優れたコンポジット推進薬の製造方法を提供することができる。
【0029】
本発明のコンポジット推進薬を製造する場合は、例えば各原料及び必要に応じて各種添加剤を所定の含量となるように混和機に入れて、所定の温度下で均一に混練してスラリー状態とした後、所定の型に注入して所定の温度および時間で硬化させることでコンポジット推進薬を製造することができる。
【実施例0030】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明のコンポジット推進薬について具体的に説明するが、本発明はそれら実施例の範囲に限定されるものではない。表1、2における略号は次の意味を表す。
HTPB:末端水酸基ポリブタジエン
MAPO:トリス〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕フォスフィンオキシド
MDA:N-メチルジエタノールアミン
IPDI:イソフォロンジイソシアネート
DOA:ジオクチルアジペート
【0031】
<実施例1~5>
実施例1~5のコンポジット推進薬のそれぞれの配合組成を表1に示す。また、実施例1~5に係るコンポジット推進薬を用いて以下に示す方法で製造性及び燃焼特性を測定し、その結果を表1に併記する。
【0032】
【表1】
【0033】
[製造性]
<流動性>
所定の注型用鋳型の底板に外径40mmの円筒状の中子を取り付け、注型用鋳型内面に外径84mm、内径80mm、長さ140mmのABS樹脂を施工し、そこに各実施例及び比較例のコンポジット推進薬のスラリーを注型し、鋳型に注型する場合の注型しやすさに関し、下記の評価基準にて評価を行った。
◎:推進薬スラリーの流動性が高く、極めて容易に注型することができた
〇:推進薬スラリーの流動性があり、容易に注型することができた
△:推進薬スラリーの流動性が乏しく、注型に時間を要した
【0034】
<ポットライフ>
RE80型粘度計を用いて、54℃、スピンドルの回転数5rpmの条件で規定時間ごとに粘度を測定し、硬化剤を投入してから粘度が54℃で1kPa・sに達するまでの時間をポットライフとして求めた。求めたポットライフは、500分以上900分以下であることが好ましい。ポットライフが500分を下回ると、ポットライフが短く注型が困難となり、900分を超えると、ポットライフが長く、所定の硬化時間では硬化が終了せず、後硬化により物理的特性が変化するので好ましくない。
【0035】
[燃焼特性]
所定の注型用鋳型の底板に外径40mmの円筒状の中子を取り付け、注型用鋳型内面に外径84mm、内径80mm、長さ140mmのABS樹脂を施工し、そこに推進薬スラリーを注型して硬化させ、離型後に直径80mm、内径40mm、長さ140mmの円筒状の推進薬を成形し、推進薬をABS樹脂の面一となるように加工する。このとき、推進薬のWeb(推進薬内孔面からABS樹脂外面までの厚さ-ABS樹脂の厚さ)を記録する。作製した推進薬を内径84mmの標準ロケットモー夕用チャンバに装填して、燃焼圧力が6.86、8.83、10.79MPaとなるようにノズルスロート径を調整し、通常の小型ロケットモー夕用燃焼スタンド装置を使用して所定の方法で燃焼試験を行った。燃焼試験で得られた圧力-時間カーブから初期頂圧を除いた最大圧力の10%(燃焼初期)と75%(燃焼後期)の各時間を求め、その差を平均燃焼時間tbとし、推進薬のWebとtbから推進薬の燃焼速度rb(rb=Web/tb)を算出した。さらに、式(1)より、各圧力-時間カーブのtb区間での積分値をtbで除すことで得られる燃焼平均圧力Pbの対数値と各燃焼圧力で得られたrbの対数値とが経験的にほぼ直線関係にあることが知られているため、その直線の傾きn(圧力指数)を算出した。その後、燃焼圧力が8.83MPaとなるようにノズルスロート径を調整し、試験して算出したrb、Pbと圧力指数nとを用いて8.83MPa時の燃焼速度を算出した。
【0036】
〔実施例1〕
末端水酸基ポリブタジエン(HTPB)(末端水酸基の数:平均2.3個、平均分子量:2800)11.55質量部(バインダ中の含有量として82.5質量%。以下同様。)、可塑剤であるジオクチルアジペート(DOA)1.39質量部(9.9質量%)を添加して混合した。それに、助燃剤であるアルミニウム粉末を所定量添加して混合し、さらに燃焼触媒としてタップ密度が0.4g/mlの酸化鉄(Fe)0.02質量%を加えて混合した。その後、結合剤であるトリス〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕フォスフィンオキシド(MAPO)0.1質量部(0.7質量%)及びN-メチルジエタノールアミン(MDA)0.03質量部(0.2質量%)を添加して混合した。
【0037】
次に、硬化剤であるイソフォロンジイソシアネート(IPDI)0.94質量部(6.7質量%)を添加し真空混和を行った後、酸化剤である過塩素酸アンモニウムを所定量仕込んで54℃に加温し、真空混和を行ってスラリー状の混和物を得た。それから、この混和物を減圧下で所定の容器に注型し、脱泡後54℃で12日間硬化してコンポジット推進薬を得た。
【0038】
〔実施例2~3〕
燃焼触媒である酸化鉄(Fe)のタップ密度を0.8g/mlとした場合(実施例2)と1.2g/mlとした場合(実施例3)とについて、実施例1と同様の方法でコンポジット推進薬を製造し、その製造性と燃焼特性とを測定した。
【0039】
〔実施例4~5〕
タップ密度0.4g/mlの酸化鉄(Fe)の配合量を表1のように変えた以外は、実施例1と同様の方法でコンポジット推進薬の製造を行い、その製造性と燃焼特性とを測定した。
【0040】
<比較例1~6>
前記実施例1~5と同様にして、表2に示した推進薬配合組成で比較例1~6に係るコンポジット推進薬を製造した。また、そのコンポジット推進薬を用いて製造性及び燃焼特性を測定し、その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
〔比較例1〕
酸化鉄(Fe)を配合しないこと以外は、実施例1と同様の方法でコンポジット推進薬の製造を行い、その製造性及び燃焼特性を測定した。
【0043】
〔比較例2~6〕
タップ密度が0.4g/mlの酸化鉄(Fe)の代わりにタップ密度が0.2g/mlの酸化鉄(Fe)とした場合(比較例2~4)とタップ密度が1.5g/mlの酸化鉄(Fe)とした場合(比較例5~6)とについて、表2の配合組成で実施例1と同様の方法でコンポジット推進薬の製造を行い、その製造性と燃焼特性とを測定した。
【0044】
表1の試験結果より、次のようなことが分かった。実施例1~5のコンポジット推進薬は、製造性において、高い流動性を維持しつつ、すべてのポットライフが500分以上900分以下を満足しており、良好な製造性を示すことがわかった。さらに、良好な燃焼速度である7.0~12.0mm/sを示すとともに、圧力指数は0.4以下であり、燃焼特性においても良好であることが確認できた。
【0045】
一方、表2に示したように、酸化鉄を配合しなかった比較例1では、流動性及び圧力指数については問題ないものの、実施例1~5のいずれのコンポジット推進薬よりも燃焼速度が低く、ポットライフが900分を超えており、後硬化による問題が生じることが分かった。タップ密度が0.2g/mlの酸化鉄を配合した比較例2~3では、燃焼特性及び流動性に問題はないものの、ポットライフが900分を超えており、後硬化による問題が生じることが分かった。タップ密度が0.2g/mlの酸化鉄を配合した比較例4では、流動性や製造性に問題はないものの、燃焼速度が12.0mm/sを超えており、圧力指数も0.4を超えていることから燃焼特性に問題があることが分かった。タップ密度が1.5g/mlである酸化鉄を含有する比較例5では、ポットライフ及び圧力指数に問題はないものの、実施例1~5のいずれのコンポジット推進薬よりも燃焼速度が低く、流動性に問題があることが分かった。タップ密度が1.5g/mlである酸化鉄を含有する比較例6では、燃焼特性に問題はないものの、流動性が低く、ポットライフが500分を下回っていることから、製造性に問題があることが分かった。
【0046】
以上の結果から、燃焼特性、製造性のどちらも向上し、さらに高い流動性を有するコンポジット推進薬を得るためには、タップ密度が0.3~1.3g/mlの酸化鉄を使用することが必須であり、また、コンポジット推進薬全量に対する前記酸化鉄の含有量は0.006~0.5質量%とすることが好ましいことが明らかとなった。