(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057742
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】電子マネー管理方法、及び電子マネー管理システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 20/10 20120101AFI20220404BHJP
【FI】
G06Q20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166142
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】518080259
【氏名又は名称】株式会社ディーカレット
(71)【出願人】
【識別番号】500170249
【氏名又は名称】auペイメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】下平 正人
(72)【発明者】
【氏名】谷 真次
(72)【発明者】
【氏名】河津 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】白石 陽介
(72)【発明者】
【氏名】吉村 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】曽山 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】辻 和幸
(72)【発明者】
【氏名】橋野 太郎
(72)【発明者】
【氏名】福岡 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩行
【テーマコード(参考)】
5L055
【Fターム(参考)】
5L055AA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】供託所への資金の供託の調整を抑制するための電子マネー管理方法を提供する。
【解決手段】電子マネー流通システムにおける子マネー管理方法であって、電子マネーの発行依頼者が利用する電子マネーの管理装置は、電子マネーの発行及び換金を担う発行体が管理する電子マネー発行システムに、電子マネーの発行依頼を送信する。電子マネー発行システムは、電子マネーの発行を承認する場合、発行依頼者に紐づけられている依頼者ウォレットに電子マネーを移動する。管理装置は、電子マネーを利用する消費者の消費者端末から、電子マネーの購入依頼を受信し、消費者ウォレットに電子マネーを移動する。消費者端末は、商品の対価に相当する電子マネーを、消費者ウォレットから商品又はサービスを提供する提供者のウォレットである提供者ウォレットに移動する支払い処理を実行する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子マネーの発行及び換金を担う発行体が管理する電子マネー発行システムが、発行依頼者から依頼された電子マネーの発行依頼に基づいて、前記発行依頼者に紐づけられている電子マネーのウォレットである依頼者ウォレットに電子マネーを移動するステップと、
前記発行依頼者の利用する管理装置が、前記電子マネーを利用する消費者からの購入依頼に基づき、前記依頼者ウォレットから前記消費者に紐づけられている電子マネーのウォレットである消費者ウォレットに前記電子マネーを移動するステップと、
前記消費者が利用する消費者端末が、商品又はサービスの対価に相当する電子マネーを前記消費者ウォレットから前記商品又はサービスを提供する提供者に紐づけられている電子マネーのウォレットである提供者ウォレットに移動する支払い処理を実行するステップと、
を実行する電子マネー管理方法。
【請求項2】
前記消費者端末が、前記対価に相当する電子マネーを前記消費者ウォレットから前記提供者ウォレットに移動するための送金依頼を、前記電子マネー発行システムに送信するステップをさらに実行し、
前記支払い処理を実行するステップにおいて、前記消費者端末が、前記電子マネー発行システムから前記送金依頼に対する承認を受信することを条件として、前記支払い処理を実行する、
請求項1に記載の電子マネー管理方法。
【請求項3】
前記提供者が利用する提供者端末が、前記支払い処理の処理結果を前記電子マネー発行システムに通知するステップをさらに実行する、
請求項1又は2に記載の電子マネー管理方法。
【請求項4】
前記電子マネー発行システムが、前記発行依頼者に対する前記電子マネーの発行を承認する場合、発行する電子マネーに相当する履行保証金を供託所に送金するステップを実行する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の電子マネー管理方法。
【請求項5】
前記管理装置が、発行済みの電子マネーの少なくとも一部の換金を指示する換金依頼を前記電子マネー発行システムに送信するステップと、
前記電子マネー発行システムが、
前記換金依頼を受信することを契機として、電子マネーの換金を承認するか否かを判定するステップと、
電子マネーの換金を承認する場合、換金を要求された電子マネーに相当する金額を前記供託所に供託した履行保証金から取り崩すステップと、
前記依頼者ウォレットから換金を要求された電子マネーを消滅させるステップと、
前記取り崩した電子マネーに相当する金額を前記発行依頼者に送金するステップと、
をさらに実行する請求項4に記載の電子マネー管理方法。
【請求項6】
前記管理装置が、
前記消費者又は前記提供者からの、前記消費者ウォレット又は前記提供者ウォレットの少なくとも一部の電子マネーの換金依頼を受信するステップと、
前記換金依頼された電子マネーに相当する金額を前記換金依頼した前記消費者又は前記提供者に送金するステップと、
前記換金依頼された電子マネーを前記消費者ウォレット又は前記提供者ウォレットから前記依頼者ウォレットに移動するステップと、
をさらに実行する請求項1から5のいずれか1項に記載の電子マネー管理方法。
【請求項7】
前記電子マネー発行システムは、前記電子マネーを実現するためのスマートコントラクトが実装されたブロックチェーンを管理する複数のノードによって構成されており、
前記複数のノードのそれぞれが、前記発行依頼を受信することを契機として当該発行依頼を承認するか否かを判定するとともに、前記複数のノードのうち少なくともいずれか1つのノードが、各ノードの判定結果を統合して前記電子マネーの発行を承認するか否かを判定するステップをさらに実行する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の電子マネー管理方法。
【請求項8】
前記電子マネー発行システムが、前記電子マネーの発行、移動、及び換金の履歴を、前記ブロックチェーンに格納するステップをさらに実行する、
請求項7に記載の電子マネー管理方法。
【請求項9】
電子マネーの発行を依頼する発行依頼者が利用する電子マネーの管理装置と、前記電子マネーの発行及び換金を担う発行体が管理する電子マネー発行システムと、前記電子マネーを利用する消費者の消費者端末と、を備える電子マネー管理システムであって、
前記管理装置が、前記電子マネー発行システムに、前記電子マネーの発行を指示する発行依頼を送信し、
前記電子マネー発行システムが、電子マネーの発行を承認する場合、前記発行依頼者に紐づけられている電子マネーのウォレットである依頼者ウォレットに電子マネーを移動し、
前記管理装置が、前記消費者端末から、電子マネーの購入依頼を受信し、前記消費者に紐づけられている電子マネーのウォレットである消費者ウォレットに電子マネーを移動し、
前記消費者端末が、商品又はサービスの対価に相当する電子マネーを前記消費者ウォレットから前記商品又はサービスを提供する提供者のウォレットである提供者ウォレットに移動する支払い処理を実行する、
電子マネー管理システム。
【請求項10】
前記消費者端末が、前記対価に相当する電子マネーを前記消費者ウォレットから前記提供者ウォレットに移動するための送金依頼を、前記電子マネー発行システムに送信し、
前記消費者端末が、前記電子マネー発行システムから前記送金依頼に対する承認を受信することを条件として、前記支払い処理を実行する、
請求項9に記載の電子マネー管理システム。
【請求項11】
前記電子マネー発行システムが、前記発行依頼者に対する前記電子マネーの発行を承認する場合、発行する電子マネーに相当する履行保証金を供託所に送金する、
請求項9又は10に記載の電子マネー管理システム。
【請求項12】
前記管理装置が、発行済みの電子マネーの少なくとも一部の換金を指示する換金依頼を前記電子マネー発行システムに送信し、
前記電子マネー発行システムが、前記換金依頼を受信することを契機として、電子マネーの換金を承認するか否かを判定し、
前記電子マネー発行システムが、
電子マネーの換金を承認する場合、換金を要求された電子マネーに相当する金額を前記供託所に供託した履行保証金から取り崩し、
前記依頼者ウォレットから換金を要求された電子マネーを消滅させ、
前記取り崩した電子マネーに相当する金額を前記発行依頼者に送金する、
請求項11に記載の電子マネー管理システム。
【請求項13】
前記電子マネー発行システムは、前記電子マネーを実現するためのスマートコントラクトが実装されたブロックチェーンを管理する複数のノードによって構成されており、
前記複数のノードのそれぞれが、前記発行依頼を受信することを契機として当該発行依頼を承認するか否かを判定するとともに、前記複数のノードのうち少なくともいずれか1つのノードが、各ノードの判定結果を統合して前記電子マネーの発行を承認するか否かを判定する、
請求項9から12のいずれか1項に記載の電子マネー管理システム。
【請求項14】
前記電子マネー発行システムが、前記電子マネーの発行、移動、及び換金の履歴を、前記ブロックチェーンに格納する、
請求項13に記載の電子マネー管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子マネー管理方法、及び電子マネー管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット等の通信技術の発達にともない、貨幣の代替として電子的な決済技術が急速に広がってきている。これらの決済技術の中には、いわゆる電子マネーとして知られる技術が存在する。電子マネーは、利用者が電子マネーの利用に先立ってあらかじめ電子マネーを購入しておくプリペイド方式が広く用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
利用者に利用させるためのプリペイド方式の電子マネーを発行する発行者は、電子マネーの発行額に応じた一定の履行保証金を供託所等に供託することが法律によって規定されている。このため、利用者が電子マネーを新たに発行したり、所有している電子マネーを換金したりすることによって電子マネーの発行額が変更されると、その電子マネーの発行者は、発行額の変動に応じて都度供託所に供託している履行保証金を調整する必要があり煩雑である。
【0005】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、供託所への資金の供託の調整を抑制するための電子マネーの仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、電子マネー管理方法である。この電子マネー管理方法において、電子マネーの発行及び換金を担う発行体が管理する電子マネー発行システムが、発行依頼者から依頼された電子マネーの発行依頼に基づいて、前記発行依頼者に紐づけられている電子マネーのウォレットである依頼者ウォレットに電子マネーを移動するステップと、前記発行依頼者の利用する管理装置が、前記電子マネーを利用する消費者からの購入依頼に基づき、前記依頼者ウォレットから前記消費者に紐づけられている電子マネーのウォレットである消費者ウォレットに前記電子マネーを移動するステップと、前記消費者が利用する消費者端末が、商品又はサービスの対価に相当する電子マネーを前記消費者ウォレットから前記商品又はサービスを提供する提供者に紐づけられている電子マネーのウォレットである提供者ウォレットに移動する支払い処理を実行するステップと、を実行する。
【0007】
前記電子マネー管理方法において、前記消費者端末が、前記対価に相当する電子マネーを前記消費者ウォレットから前記提供者ウォレットに移動するための送金依頼を、前記電子マネー発行システムに送信するステップをさらに実行してもよく、前記支払い処理を実行するステップにおいて、前記消費者端末が、前記電子マネー発行システムから前記送金依頼に対する承認を受信することを条件として、前記支払い処理を実行してもよい。
【0008】
前記電子マネー管理方法において、前記提供者が利用する提供者端末が、前記支払い処理の処理結果を前記電子マネー発行システムに通知するステップをさらに実行してもよい。
【0009】
前記電子マネー管理方法において、前記電子マネー発行システムが、前記発行依頼者に対する前記電子マネーの発行を承認する場合、発行する電子マネーに相当する履行保証金を供託所に送金するステップを実行してもよい。
【0010】
前記電子マネー管理方法において、前記管理装置が、発行済みの電子マネーの少なくとも一部の換金を指示する換金依頼を前記電子マネー発行システムに送信するステップと、前記電子マネー発行システムが、前記換金依頼を受信することを契機として、電子マネーの換金を承認するか否かを判定するステップと、電子マネーの換金を承認する場合、換金を要求された電子マネーに相当する金額を前記供託所に供託した履行保証金から取り崩すステップと、前記依頼者ウォレットから換金を要求された電子マネーを消滅させるステップと、前記取り崩した電子マネーに相当する金額を前記発行依頼者に送金するステップと、をさらに実行してもよい。
【0011】
前記電子マネー管理方法において、前記管理装置が、前記消費者又は前記提供者からの、前記消費者ウォレット又は前記提供者ウォレットの少なくとも一部の電子マネーの換金依頼を受信するステップと、前記換金依頼された電子マネーに相当する金額を前記換金依頼した前記消費者又は前記提供者に送金するステップと、前記換金依頼された電子マネーを前記消費者ウォレット又は前記提供者ウォレットから前記依頼者ウォレットに移動するステップと、をさらに実行してもよい。
【0012】
前記電子マネー管理方法において、前記電子マネー発行システムは、前記電子マネーを実現するためのスマートコントラクトが実装されたブロックチェーンを管理する複数のノードによって構成されていてもよく、前記複数のノードのそれぞれが、前記発行依頼を受信することを契機として当該発行依頼を承認するか否かを判定するとともに、前記複数のノードのうち少なくともいずれか1つのノードが、各ノードの判定結果を統合して前記電子マネーの発行を承認するか否かを判定するステップをさらに実行してもよい。
【0013】
前記電子マネー管理方法において、前記電子マネー発行システムが、前記電子マネーの発行、移動、及び換金の履歴を、前記ブロックチェーンに格納するステップをさらに実行してもよい。
【0014】
本発明の第2の態様は、電子マネーの発行を依頼する発行依頼者が利用する電子マネーの管理装置と、前記電子マネーの発行及び換金を担う発行体が管理する電子マネー発行システムと、前記電子マネーを利用する消費者の消費者端末と、を備える電子マネー管理システムである。この電子マネー管理システムにおいて、前記管理装置が、前記電子マネー発行システムに、前記電子マネーの発行を指示する発行依頼を送信し、前記電子マネー発行システムが、電子マネーの発行を承認する場合、前記発行依頼者に紐づけられている電子マネーのウォレットである依頼者ウォレットに電子マネーを移動し、前記管理装置が、前記消費者端末から、電子マネーの購入依頼を受信し、前記消費者に紐づけられている電子マネーのウォレットである消費者ウォレットに電子マネーを移動し、前記消費者端末が、商品又はサービスの対価に相当する電子マネーを前記消費者ウォレットから前記商品又はサービスを提供する提供者のウォレットである提供者ウォレットに移動する支払い処理を実行する。
【0015】
前記電子マネー管理システムにおいて、前記消費者端末が、前記対価に相当する電子マネーを前記消費者ウォレットから前記提供者ウォレットに移動するための送金依頼を、前記電子マネー発行システムに送信してもよく、前記消費者端末が、前記電子マネー発行システムから前記送金依頼に対する承認を受信することを条件として、前記支払い処理を実行してもよい。
【0016】
前記電子マネー管理システムにおいて、前記電子マネー発行システムが、前記発行依頼者に対する前記電子マネーの発行を承認する場合、発行する電子マネーに相当する履行保証金を供託所に送金してもよい。
【0017】
前記電子マネー管理システムにおいて、前記管理装置が、発行済みの電子マネーの少なくとも一部の換金を指示する換金依頼を前記電子マネー発行システムに送信してもよく、前記電子マネー発行システムが、前記換金依頼を受信することを契機として、電子マネーの換金を承認するか否かを判定してもよく、前記電子マネー発行システムが、電子マネーの換金を承認する場合、換金を要求された電子マネーに相当する金額を前記供託所に供託した履行保証金から取り崩し、前記依頼者ウォレットから換金を要求された電子マネーを消滅させ、前記取り崩した電子マネーに相当する金額を前記発行依頼者に送金してもよい。
【0018】
前記電子マネー管理システムにおいて、前記電子マネー発行システムは、前記電子マネーを実現するためのスマートコントラクトが実装されたブロックチェーンを管理する複数のノードによって構成されていてもよく、前記複数のノードのそれぞれが、前記発行依頼を受信することを契機として当該発行依頼を承認するか否かを判定するとともに、前記複数のノードのうち少なくともいずれか1つのノードが、各ノードの判定結果を統合して前記電子マネーの発行を承認するか否かを判定してもよい。
【0019】
前記電子マネー管理システムにおいて、前記電子マネー発行システムが、前記電子マネーの発行、移動、及び換金の履歴を、前記ブロックチェーンに格納してもよい。
【0020】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラム、データ構造、記録媒体などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。また、プログラムを提供するため、あるいはプログラムの一部をアップデートするために、そのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供されてもよく、また、プログラムが通信回線で伝送されてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、供託所への資金の供託の調整を抑制するための電子マネーの仕組みを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態に係る電子マネー流通システムが実現する経済圏を説明するための模式図である。
【
図2】実施の形態に係る電子マネー流通システムの機能構成を模式的に示す図である。
【
図3】電子マネー流通システムの記憶機能を担うブロックチェーンとウォレットデータベースとを説明するための図である。
【
図4】電子マネーの発行処理の流れを説明するためのシーケンス図である。
【
図5】電子マネーの支払い処理の流れを説明するためのシーケンス図である。
【
図6】提供者又は消費者による換金処理の流れを説明するためのシーケンス図である。
【
図7】発行管理者による換金処理の流れを説明するためのシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<実施の形態の概要>
図1は、実施の形態に係る電子マネー流通システムSが実現する経済圏Zを説明するための模式図である。以下、
図1を参照して、実施の形態に係る電子マネー流通システムSの概要を説明する。
【0024】
実施の形態に係る電子マネー流通システムSは、電子マネーの発行及び換金を担う発行体が管理する電子マネー発行システム1と、電子マネーの発行を依頼する発行依頼者Umの装置である管理装置2と、管理装置2の依頼に基づいて発行された電子マネーを商品又はサービスの支払いに利用する消費者Ueの装置である消費者端末3と、管理装置2の依頼に基づいて発行された電子マネーを商品又はサービスの対価として受け取る提供者Usの装置である提供者端末4とが、インターネット等のネットワークNを介して互いに通信可能な態様で接続されている。
【0025】
実施の形態に係る電子マネー流通システムSにおいて、典型的には、提供者Usは商品やサービスを提供する店舗の経営者であり、消費者Ueはエンドユーザである。発行依頼者Um、提供者Us、及び消費者Ueは、電子マネー発行システム1が発行した電子マネーを利用するという観点から見ると、いずれも電子マネーのユーザという点では同じ立場に立っている。
【0026】
実施の形態に係る電子マネー流通システムSにおいて、消費者Ueは、発行依頼者Umから電子マネーを購入する。また、消費者Ueから電子マネーを受け取った提供者Usは、発行依頼者Umに依頼してその電子マネーを換金する。また、消費者Ueが電子マネーを換金するときも、発行依頼者Umに依頼する。したがって、実施の形態に係る電子マネー流通システムSにおいて、電子マネーは、管理装置2、消費者端末3、及び提供者端末4の間を転々流通することになる。この結果、
図1に示すように、管理装置2、消費者端末3、及び提供者端末4によって、電子マネーが流通する経済圏Zが形成されることになる。なお、図示の便宜上、
図1には、消費者端末3と提供者端末4とをそれぞれ1台のみ図示しているが、消費者端末3と提供者端末4との数はそれぞれ一般に1より多い。
【0027】
提供者Us及び消費者Ueが電子マネーを換金したり新たに購入したりしようとする際には、電子マネーの発行体に直接依頼するのではなく、電子マネー発行システム1の1ユーザである発行依頼者Umに依頼する。このため、提供者Us及び消費者Ueが電子マネーを換金ないし購入する際には、電子マネーの発行体が発行依頼者Umに対して発行した電子マネーの総量は変動しない。したがって、電子マネーの発行体は、供託所に供託している履行保証金を調整する必要がない。ゆえに、実施の形態に係る電子マネー流通システムSが実現する経済圏Zにおいては、提供者Us及び消費者Ueが電子マネーを換金したり新たに購入したりする際に、供託所への資金の供託の調整を抑制することができる。
【0028】
実施の形態に係る電子マネー発行システム1は、電子マネーを管理装置2、消費者端末3、及び提供者端末4の間で流通させるために、電子マネーをブロックチェーンBを利用して管理する。このため、
図1に示すように、電子マネー発行システム1は5つのノード(第1ノード1a、第2ノード1b、第3ノード1c、第4ノード1d、及び第5ノード1e)から構成されている。
【0029】
既知の技術であるため詳細な説明は省略するが、電子マネー発行システム1を構成する各ノードが同一のブロックチェーンBを保持しており、各ノードは電子マネーの発行、流通、及び消滅等のトランザクションをブロックチェーンB内に自律分散的に格納している。なお、電子マネー発行システム1を構成するノードの数は5つに限られず、他の数であってもよい。限定はしないが、電子マネー発行システム1はパブリック型のブロックチェーンではなく、プライベート型又はコンソーシアム型のブロックチェーンで実現されている。
【0030】
実施の形態に係る電子マネー流通システムSにおいて、各ユーザが利用する電子マネーは、いわゆるウォレットと呼ばれる電子的なデータベースにおいて管理される。
図1に示す電子マネー流通システムSの例では、各ユーザのウォレットはウォレットデータベースWによって管理される。したがって、各ユーザの電子マネーの実態はウォレットデータベースWに保管され、ブロックチェーンBには電子マネーのトランザクションが記録される。このように、実施の形態に係る電子マネー流通システムSは電子マネーのトランザクションをブロックチェーンBを用いて管理することにより、ユーザ間の電子マネーの移動の際の承認処理を迅速化し、経済圏Z内で電子マネーを流通させることを実現できる。
【0031】
なお、実施の形態に係る電子マネー発行システム1はブロックチェーンBを利用して情報を管理しているものの、扱う情報はあくまでも電子マネーであり、いわゆる暗号資産ではないことは当業者であれば明らかである。
【0032】
<実施の形態に係る電子マネー流通システムSの機能構成>
図2は、実施の形態に係る電子マネー流通システムSの機能構成を模式的に示す図である。電子マネー流通システムSは、情報処理機能として電子マネー発行システム1、管理装置2、消費者端末3、及び提供者端末4を含み、データを記録する記憶機能としてブロックチェーンBとウォレットデータベースWとを含む。この他、電子マネー流通システムSは、電子マネーの履行保証金を供託する供託所5と、電子マネーの発行及び換金の際に取引される現金を扱うための銀行等の金融機関6とを含む。
【0033】
電子マネー発行システム1は、電子マネーの発行及び換金を担う発行体が管理するシステムであり、複数のノードから構成されている。管理装置2は、電子マネーの発行を依頼する発行依頼者Umが利用する装置であり、発行依頼者Umが主催する経済圏Zを管理する装置である。消費者端末3は、発行依頼者Umが発行した電子マネーを利用して商品又はサービスの対価の支払いを行う消費者Ueの端末である。提供者端末4は、商品又はサービスを提供する提供者Usの端末である。
【0034】
図3は、電子マネー流通システムSの記憶機能を担うブロックチェーンBとウォレットデータベースWとを説明するための図である。
図3に示すように、ブロックチェーンBは、複数のブロックが連結して構成されている。また、ウォレットデータベースWは、発行依頼者Umの電子マネーを管理するための依頼者ウォレットWm、消費者Ueの電子マネーを管理するための消費者ウォレットWe、及び提供者Usの電子マネーを管理するための提供者ウォレットWsを備える。
【0035】
ウォレットデータベースWは、1ユーザに対して1つのウォレットを割り当てて電子マネーを管理している。また、図示の都合上、
図3は、第1ブロックB1、第2ブロックB2、第3ブロックB3、及び第4ブロックB4の4つのブロックが図示されているが、ブロックチェーンBを構成するブロックの数は一般に4以上である。各ブロックには、依頼者ウォレットWm、消費者ウォレットWe、及び提供者ウォレットWsの間で移動した電子マネーの1以上のトランザクションが格納されている。
【0036】
上述したように、実施の形態に係る電子マネー発行システム1は、複数のノードによって構成されており、各ノードは、電子マネーを実現するためのスマートコントラクトが実装されたブロックチェーンBを管理している。電子マネー発行システム1を構成する複数のノードのそれぞれは、スマートコントラクトを実装するためのプログラムを実行することによって、電子マネーの管理を実現する。
【0037】
具体的には、電子マネー発行システム1を構成する複数のノードのそれぞれは、管理装置2から送信される電子マネーの発行依頼や換金依頼、消費者端末3又は提供者端末4から送信される送金承認依頼を受信することを契機として、それらの依頼を承認するか否かを判定する。また、電子マネー発行システム1を構成する複数のノードのうち少なくともいずれか1つのノードが、各ノードの判定結果を統合して、受信した依頼を承認するか否かを判定する。
【0038】
電子マネー発行システム1によって依頼が承認されると、電子マネーは、各電子マネーのウォレットにおいて、発行に基づく発生、取引に基づく移動、又は換金の結果消滅することになる。これらの電子マネーの発行、移動、及び換金の履歴は、トランザクションデータとして電子マネー発行システム1によってブロックチェーンBに格納される。一般にブロックチェーンBは改ざんに対する強い耐性を持っている、このため、ブロックチェーンBに格納されたトランザクションデータを参照することにより、電子マネー流通システムSは、電子マネーのトレーサビリティ(traceability;追跡可能性)を担保することができる。
【0039】
以下、
図4から
図7を参照して、実施の形態に係る電子マネー流通システムSで行われる情報処理の流れについて具体的に説明する。
【0040】
図4は、電子マネーの発行処理の流れを説明するためのシーケンス図である。まず、電子マネーの発行依頼者Umが利用する管理装置2が、電子マネーの発行依頼を電子マネー発行システム1に送信する(S2)。電子マネーの発行及び換金を担う発行体が管理する電子マネー発行システム1は、発行依頼者Umから依頼された電子マネーの発行依頼を承認するか否かを判定する承認処理を実行する(S4)。具体的には、電子マネー発行システム1を構成する各ノードの過半数が承認すれば、発行依頼は承認される。
【0041】
電子マネーの発行依頼が承認されない場合(S6のNo)、電子マネーの発行処理は終了する。電子マネーの発行依頼が承認されると(S6のYes)、電子マネー発行システム1は、金融機関6に指示して、発行依頼に基づいて発行する電子マネーに対応する履行保証金を供託所5に送金させる(S8)。ここで、履行保証金を供託所5に送金する方法としては、現金により供託する方法、債券により供託する方法、銀行等との履行保証金保全契約の締結する方法、及び信託会社等と履行保証金信託契約を締結する方法、のいずれであってもよい。供託所5は、金融機関6から送金された履行保証金を積み増しする(S10)。
【0042】
電子マネー発行システム1は、発行依頼者Umからの発行依頼に基づいて電子マネーを発行する(S12)。この結果、発行依頼者Umに紐づけられている電子マネーのウォレットである依頼者ウォレットWmに電子マネーが移動し、依頼者ウォレットWmの電子マネーの残高が増加する(S14)。このように、発行依頼者Umの依頼に基づいて電子マネー発行システム1が電子マネーを新たに発行する場合、発行する電子マネーに応じた履行保証金が供託所5に供託される。
【0043】
図5は、電子マネーの支払い処理の流れを説明するためのシーケンス図である。まず、電子マネーを利用する消費者Ueが利用する消費者端末3が、管理装置2に電子マネーの購入依頼を送信する(S16)。発行依頼者Umの利用する管理装置2が、消費者Ueからの購入依頼に基づき、購入処理を実行する(S18)。この結果、依頼者ウォレットWmから消費者Ueに紐づけられている電子マネーのウォレットである消費者ウォレットWeに電子マネーが移動し、依頼者ウォレットWmのウォレット残高が減少するとともに(S20)、その分だけ依頼者ウォレットWmのウォレット残高が増加する(S22)。
【0044】
消費者端末3は、提供者Usの商品又はサービスの対価に相当する電子マネーを消費者ウォレットWeから提供者Usに紐づけられている電子マネーのウォレットである提供者ウォレットWsに移動することを依頼する送金承認依頼を電子マネー発行システム1に送信する(S24)。電子マネー発行システム1が消費者端末3から送信された送金承認依頼を承認しない場合(S26のNo)、支払い処理は終了する。
【0045】
電子マネー発行システム1が消費者端末3から送信された送金承認依頼を承認する場合(S26のYes)、消費者端末3は、電子マネー発行システム1から送金依頼に対する承認を受信することを条件として、商品又はサービスの対価に相当する電子マネーを消費者ウォレットWeから提供者ウォレットWsに移動する支払い処理を実行する(S28)。この結果、消費者ウォレットWeのウォレット残高は対価に相当する分だけ減少し(S30)、その分だけ提供者ウォレットWsのウォレット残高が増加する(S32)。提供者端末4は、支払い処理の処理結果を電子マネー発行システム1に通知する(S34)。
【0046】
図5に示すように、消費者端末3が管理装置2から電子マネーを購入しても、供託所5において履行保証金は変動しない。このように、電子マネー流通システムSは、供託所5への資金の供託の調整を抑制することができる。
【0047】
図6は、提供者Us又は消費者Ueによる換金処理の流れを説明するためのシーケンス図である。消費者端末3又は提供者端末4は、消費者ウォレットWe又は提供者ウォレットWsの少なくとも一部の電子マネーの換金を指示する換金依頼を管理装置2に送信する(S36)。管理装置2は、消費者端末3又は提供者端末4から送信された換金依頼を受信することを契機として、電子マネーの換金を承認するか否かを判定する承認処理を実行する(S38)。管理装置2が消費者端末3又は提供者端末4から受信した換金依頼を承認しない場合(S40のNo)、換金処理は終了する。
【0048】
管理装置2が消費者端末3又は提供者端末4から受信した換金依頼を承認する場合(S40のYes)、管理装置2は、換金依頼された電子マネーに相当する金額を換金依頼した消費者Ue又は提供者Usに送金する(S42)。具体的には、管理装置2は、銀行等の金融機関6に依頼して、換金依頼された電子マネーに相当する金額を消費者Ue又は提供者Usの口座に振り込ませることによって送金する。
【0049】
送金が完了すると、管理装置2は、換金依頼された電子マネーを消費者ウォレットWe又は提供者ウォレットWsから依頼者ウォレットWmに移動する残高変更処理を実行する(S44)。この結果、依頼者ウォレットWmのウォレット残高が対価に相当する分だけ増加するとともに(S46)、消費者ウォレットWe又は提供者ウォレットWsのウォレット残高が減少する(S48)。
【0050】
図6に示すように、管理装置2、消費者端末3、及び提供者端末4によって構成される経済圏Zの中で行われる経済活動によって、電子マネーは経済圏Zの中を転々流通する。経済圏Zの中で消費者Ueや提供者Usが電子マネーを換金しても、供託所5における履行保証金は変動しない。このように、電子マネー発行システム1と消費者端末3及び提供者端末4との間に管理装置2が介在することにより、電子マネー流通システムSにおいては、供託所5への資金の供託の調整を抑制することができる。
【0051】
図7は、発行依頼者Umによる換金処理の流れを説明するためのシーケンス図である。管理装置2は、依頼者ウォレットWmの少なくとも一部の電子マネーの換金を指示する換金依頼を電子マネー発行システム1に送信する(S50)。電子マネー発行システム1は、管理装置2から送信された換金依頼を受信することを契機として、電子マネーの換金を承認するか否かを判定する承認処理を実行する(S52)。電子マネー発行システム1が管理装置2から受信した換金依頼を承認しない場合(S54のNo)、換金処理は終了する。
【0052】
電子マネー発行システム1が、電子マネーの換金を承認する場合(S54のYes)、電子マネー発行システム1は、換金を要求された電子マネーに相当する金額を供託所5に供託した履行保証金から取り崩すとともに、同額を発行依頼者Umに送金する(S56)。電子マネー発行システム1は、依頼者ウォレットWmから換金を要求された電子マネーを消滅させる(S58)。
【0053】
供託所5は、換金を要求された電子マネーに相当する金額を供託された履行保証金から取り崩す(S60)。続いて、電子マネー発行システム1は、取り崩した電子マネーに相当する金額を発行依頼者Umに送金する(S62)。具体的には、電子マネー発行システム1は、銀行等の金融機関6に指示して、取り崩した電子マネーに相当する金額を発行依頼者Umの口座に振り込ませることによって送金させる。このように、電子マネー発行システム1に依頼して電子マネーを発行した管理装置2がその電子マネーを換金する場合には、供託所5に供託した履行保証金が変動する。
【0054】
以上のように、実施の形態に係る電子マネー流通システムSにおいては、電子マネーが経済圏Z内で流通する限りにおいては、供託所5に供託された履行保証金は変動しない。
【0055】
<実施の形態に係る電子マネー発行システム1が奏する効果>
以上説明したように、実施の形態に係る電子マネー発行システム1によれば、供託所5への資金の供託の調整を抑制するための電子マネーの仕組みを提供することができる。
【0056】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果をあわせ持つ。
【符号の説明】
【0057】
1・・・電子マネー発行システム
2・・・管理装置
3・・・消費者端末
4・・・提供者端末4
5・・・供託所
6・・・金融機関
W・・・ウォレットデータベース
B・・・ブロックチェーン
N・・・ネットワーク
S・・・電子マネー流通システム