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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057786
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/32 20060101AFI20220404BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B60T8/32
B60T8/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166220
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 勇作
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246GA22
3D246GC14
3D246HA04A
3D246HA57A
3D246HA64A
3D246HA93B
3D246JA12
3D246JB03
3D246JB30
3D246JB35
3D246JB43
3D246KA07
(57)【要約】
【課題】車両が停止する際に制動力を調整する制動制御装置に関して、運転者の操作を考慮した調整を行う。
【解決手段】制動制御装置10は、車両が停止する際に制動力を調整する停止前制動制御を実行する。停止前制動制御は、制動力を減少させる減少制御と減少制御の開始前に実行され制動力を増大させる増大制御とを含む。制動制御装置10は、増大制御を実行する増大部12と減少制御を実行する減少部13とを備える。制動制御装置10は、減少制御によって制動距離が延長される距離を延長距離として算出し、増大制御によって制動距離が短縮される距離を短縮距離として算出する算出部14を備える。算出部14は、運転者が操作する制動操作部材の操作量が制動中に減少した場合には、操作量が減少しない場合よりも延長距離を長く算出する。延長距離と短縮距離との差が判定値未満となった場合に、減少部13が減少制御を開始する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者によって制動操作部材が操作されている場合に、前記車両が制動によって停止するに際して前記車両の制動力を調整する停止前制動制御を実行する制動制御装置であって、
前記停止前制動制御のうち、前記制動操作部材の操作量に対応する制動力である要求制動力よりも前記車両に付与する制動力を減少させる減少制御を実行する減少部と、
前記停止前制動制御のうち、制動力を前記要求制動力よりも増大させる増大制御を前記減少制御の開始前に実行する増大部と、
前記増大制御の実行によって制動力を増大する場合に当該増大制御を実行しない場合の制動距離よりも短縮される距離を推定した値である短縮距離、および、前記減少制御の実行によって制動力を減少する場合に当該減少制御を実行しない場合の制動距離よりも延長される距離を推定した値である延長距離を前記増大制御の実行中に算出する算出部と、を備え、
前記算出部は、前記車両の制動中に前記操作量が減少した場合には、前記操作量が減少しない場合よりも前記延長距離が長くなるように該延長距離を算出し、
前記減少部は、前記延長距離と前記短縮距離との差が判定値未満となった場合に前記減少制御を開始する
制動制御装置。
【請求項2】
前記減少部は、前記減少制御における制動力の減少量および制動力を減少させる速度を規定したプロファイルに従って前記減少制御を実行するものであり、前記減少制御を開始する時点の前記車両の車輪速に基づいて前記プロファイルを設定する
請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記増大部は、前記増大制御の継続時間が規定の判定時間を越えた以降において、前記増大制御の実行中に前記操作量が減少されている場合には、制動力が前記要求制動力よりも大きい状態を維持しつつ当該制動力を減少させるものであり、
前記減少部は、前記延長距離と前記短縮距離との差が前記判定値以上である場合には、前記減少制御を開始しない
請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記算出部は、前記車両が制動によって停止する時点における前記車両の前後加速度を前記操作量および前記要求制動力のうち少なくとも一方に基づいて予測し、
前記増大部は、
前記増大制御の実行中に前記操作量が減少されている場合には、制動力が前記要求制動力よりも大きい状態を維持しつつ当該制動力を減少させるものであり、
前記車両が制動によって停止する時点における前記前後加速度の予測値の大きさが規定の許容値未満である場合には、前記延長距離と前記短縮距離との差が前記判定値未満になっても前記増大制御を継続し、
前記減少部は、前記車両が制動によって停止する時点における前記前後加速度の予測値の大きさが前記許容値未満である場合には、前記延長距離と前記短縮距離との差が前記判定値未満になっても前記減少制御を開始しない
請求項1または2に記載の制動制御装置。
【請求項5】
車両の運転者による制動操作部材の操作によって減速する前記車両につき、前記車両の停止に伴う前記車両の挙動を抑制すべく前記車両の停止間際に前記制動操作部材の操作にかかわらず前記車両に付与されている制動力を減少させる減少制御と、前記減少制御の実行によって延長される前記車両の制動距離を補償すべく前記減少制御の実行期間よりも前の期間に前記制動操作部材の操作にかかわらず前記車両に付与されている制動力を増大させる増大制御と、を実行する制動制御装置において、
前記減少制御の実行開始前の前記制動操作部材の操作量を積算する積算部と、
前記積算部により積算された前記制動操作部材の操作量に基づいて、前記減少制御を開始する制御部と、
を備えていることを特徴とする制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両が停止する際に制動力の制御を行う制御装置が開示されている。制御装置は、車両が停止する直前の制動力を減少させることによって、車両が停止する直前の前後加速度の変化量が小さくなるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-28913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている制御装置では、車両が停止する直前の制動力が減少されるため、制動距離が長くなるおそれがある。さらに、車両が停止する直前に制動力を制御している際に、運転者による操作量が変更されることが十分に考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための制動制御装置の一態様は、車両の運転者によって制動操作部材が操作されている場合に、前記車両が制動によって停止するに際して前記車両の制動力を調整する停止前制動制御を実行する制動制御装置であって、前記停止前制動制御のうち、前記制動操作部材の操作量に対応する制動力である要求制動力よりも前記車両に付与する制動力を減少させる減少制御を実行する減少部と、前記減少制御の実行によって制動力を減少する場合に当該減少制御を実行しない場合の制動距離よりも延長される距離を推定した値である延長距離が長くなるように、前記停止前制動制御のうち、制動力を前記要求制動力よりも増大させる増大制御を前記減少制御の開始前に実行する増大部と、前記増大制御の実行によって制動力を増大する場合に当該増大制御を実行しない場合の制動距離よりも短縮される距離を推定した値である短縮距離、および前記延長距離を前記増大制御の実行中に算出する算出部と、を備え、前記算出部は、前記車両の制動中に前記操作量が減少した場合には、前記操作量が減少しない場合よりも前記延長距離が長くなるように該延長距離を算出し、前記増大部は、前記延長距離と前記短縮距離との差が規定の判定値未満となった場合に前記増大制御を終了し、前記減少部は、前記延長距離と前記短縮距離との差が前記判定値未満となった場合に前記減少制御を開始することをその要旨とする。
【0006】
上記構成によれば、減少制御の前に増大制御が実行されることによって、延長距離が長くなることを抑制できる。すなわち、制動距離の延長を抑制しつつ、車両の停止直前における前後加速度の変化量を小さくできる。さらに、上記構成では、延長距離と短縮距離との差が規定の判定値未満となった場合に増大制御が終了されて減少制御が開始される。延長距離の算出には運転者の操作が反映されるため、減少制御を開始するタイミングに車両の運転者による操作を反映することができる。これによって、運転者の操作を反映した制動距離を実現しやすくなる。
【0007】
上記課題を解決するための制動制御装置の一態様は、車両の運転者による制動操作部材の操作によって減速する前記車両につき、前記車両の停止に伴う前記車両の挙動を抑制すべく前記車両の停止間際に前記制動操作部材の操作にかかわらず前記車両に付与されている制動力を減少させる減少制御と、前記減少制御の実行によって延長される前記車両の制動距離を補償すべく前記減少制御の実行期間よりも前の期間に前記制動操作部材の操作にかかわらず前記車両に付与されている制動力を増大させる増大制御と、を実行する制動制御装置において、前記減少制御の実行開始前の前記制動操作部材の操作量を積算する積算部と、前記積算部により積算された前記制動操作部材の操作量に基づいて、前記減少制御を実行開始する制御部と、備えていることをその要旨とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】制動装置に適用される制動制御装置の一実施形態を示すブロック図。
図2】同制動制御装置が停止前制動制御を実行する際の処理の流れを示すフローチャート。
図3】停止前制動制御において増大制御の実行中に同制動制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
図4】停止前制動制御において増大制御の実行中に同制動制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
図5】同制動制御装置が実行する短縮距離の算出処理を示すフローチャート。
図6】車両が停止する際に同制動制御装置によって制御される制動力の推移を示すタイミングチャート。
図7】車両が停止する際に同制動制御装置によって制御される制動力の推移を示すタイミングチャート。
図8】車両が停止する際に同制動制御装置によって制御される制動力の推移を示すタイミングチャート。
図9】車両が停止する際に同制動制御装置によって制御される制動力の推移を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、制動制御装置の一実施形態について、図1図9を参照して説明する。
図1に示す制動装置20は、車両に搭載されている。制動装置20は、制動制御装置10と、制動アクチュエータ21と、を備えている。制動制御装置10は、制動アクチュエータ21の作動を制御することによって、車両の車輪に付与する制動力を調整することができる。
【0010】
制動装置20を搭載する車両は、車両の状態を検出するための各種センサを備えている。各種センサからの検出信号は、制動制御装置10に入力される。車両は、運転者を監視する監視装置50を備えている。監視装置50によって取得された情報は、制動制御装置10に入力される。
【0011】
図1に示すように、車両は、各種センサの一つとして操作量センサ30を備えている。操作量センサ30は、車両の運転者が操作する制動操作部材の操作量BRを検出する。制動操作部材は、車両を制動する際に運転者によって操作される。制動操作部材の一例は、ブレーキペダルである。この場合には、操作量センサ30は、ブレーキペダルが踏み込まれる力を操作量BRとして検出する踏力センサである。操作量センサ30からの検出信号に基づいて、操作量BRに対応する制動力の目標値として要求制動力が算出される。
【0012】
車両は、各種センサの一つとして車輪速センサ40を備えている。車輪速センサ40は、車両の各車輪に対応して取り付けられている。車輪速センサ40からの検出信号に基づいて、車両の各車輪の速度が算出される。各車輪の速度に基づいて、車両の速度である車速が算出される。
【0013】
監視装置50は、車両の運転者についての情報を取得する機能を備えている。監視装置50は、車両の室内に配置されているカメラを備えている。監視装置50は、カメラによって撮像された画像を処理する情報処理部を備えている。たとえば、監視装置50は、撮像された画像を情報処理部で解析することによって、運転者の年齢を推定することができる。監視装置50は、撮像された画像に基づいて、運転者が漫然状態であるか否かを判定することもできる。監視装置50は、カメラに限らず、運転者を監視する装置を備えていてもよい。たとえば、監視装置50は、運転者の脈拍を計測する計測装置を備えていてもよい。運転者の脈拍は、運転者の緊張状態の指標とすることができる。脈拍は、運転者の健康状態の指標とすることもできる。すなわち、監視装置50は、運転者の緊張状態を取得してもよい。監視装置50は、運転者の健康状態を取得してもよい。
【0014】
制動制御装置10および監視装置50が備える情報処理部は、以下(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える。プロセッサは、CPU並びに、RAMおよびROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備える。専用のハードウェア回路は、たとえば、特定用途向け集積回路すなわちASIC(Application Specific Integrated Circuit)、または、FPGA(Field Programmable Gate Array)等である。(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する専用のハードウェア回路と、を備える。
【0015】
制動制御装置10は、機能部として、停止前制御部11と算出部14とを備えている。停止前制御部11は、増大部12と減少部13とを備えている。
停止前制御部11は、車両が制動によって停止する際に車両の制動力を調整する停止前制動制御を実行する。停止前制御部11は、車両の運転者によって制動操作部材が操作されている場合に停止前制動制御を実行する。停止前制動制御は、減少部13によって実行される減少制御と、増大部12によって実行される増大制御とを含む。停止前制御部11は、減少制御の開始前に増大制御を実行させる。
【0016】
減少部13は、減少制御では、車両に付与する制動力を要求制動力よりも減少させる。減少制御は、要求制動力よりも小さい値に制動力を維持する制御を含む。
増大部12は、増大制御では、車両に付与する制動力を要求制動力よりも増大させる。増大制御は、要求制動力よりも大きい値に制動力を維持する制御を含む。
【0017】
算出部14は、反応時間Tithを算出する。反応時間Tithは、制動制御装置10によって制動力の調整が開始された場合に、要求制動力に対する制動力の変動を運転者が認識するまでに要する時間を推定した値を示す。算出部14は、予め設定されている標準値と、監視装置50によって取得できる運転者の情報と、に基づいて反応時間Tithを算出する。標準値の例は、1秒未満の値である。たとえば、算出部14は、推定される運転者の年齢が高いほど反応時間Tithを標準値よりも大きい値に設定する。算出部14は、運転者が漫然状態である場合には反応時間Tithを標準値よりも大きい値に設定することもできる。その他、監視装置50によって運転者の緊張状態および健康状態等の情報を取得している場合には、算出部14は、標準値と、監視装置50によって取得している情報とに基づいて反応時間Tithを算出することもできる。算出部14は、標準値と、監視装置50によって取得できる複数の情報の組み合わせに基づいて反応時間Tithを算出してもよい。また、算出部14は、標準値を反応時間Tithとしてもよい。
【0018】
算出部14は、車両の加速度の変化率として加加速度を算出することができる。算出部14は、車両の制動中に、車両が停止する位置を推定した停止位置を算出することができる。停止位置は、車速および減速度等から算出することができる。制動を開始した位置から停止位置までの距離が制動距離である。算出部14は、車両が停止位置に到達する時点での車両の前後加速度を予測することができる。算出部14は、要求加加速度に基づいて停止位置における前後加速度を算出することができる。
【0019】
算出部14は、増大制御の実行中に、延長距離Di1を算出する。算出部14は、所定の周期毎に繰り返し延長距離Di1を算出する。延長距離Di1は、当該延長距離Di1の算出時点から減少制御を開始したと仮定した場合に、減少制御の実行によって制動力を減少させた場合の制動距離が、減少制御を実行しない場合の制動距離よりも延長される距離を推定した値である。延長距離Di1は、たとえば次のように算出することができる。まず、算出部14は、減少制御を実行した場合の制動距離を第1制動距離として算出する。また、算出部14は、減少制御を実行しない場合の制動距離を第2制動距離として算出する。そして、算出部14は、第1制動距離と第2制動距離との差分を延長距離Di1として算出する。
【0020】
算出部14は、制動中に操作量BRが減少した場合、すなわち運転者が制動操作部材を踏み戻した場合には、操作量BRが減少しない場合よりも延長距離Di1が長くなるように延長距離Di1を算出する。算出部14は、制動中に操作量BRが増大した場合、すなわち運転者が制動操作部材を踏み込んだ場合には、操作量BRが増大しない場合よりも延長距離Di1が短くなるように延長距離Di1を算出する。
【0021】
算出部14は、増大制御の実行中に、短縮距離Di2を算出する。算出部14は、所定の周期毎に繰り返し短縮距離Di2を算出する。短縮距離Di2は、増大制御の実行によって制動力を増大させた場合の制動距離が、増大制御を実行しない場合の制動距離よりも短縮される距離を推定した値である。短縮距離Di2は、要求制動力に対して増大させる制動力の増大値、および増大制御を継続している時間に基づいて算出することができる。たとえば、短縮距離Di2は、制動力の増大値が大きいほど長い距離として算出される。短縮距離Di2は、増大制御を継続している時間が長いほど長い距離として算出される。なお、詳細は後述するが、算出部14は、条件に応じて短縮距離Di2の増大を抑制したり短縮距離Di2を減少させたりする処理を実行する。
【0022】
増大制御および減少制御の詳細について説明する。
増大部12は、増大制御を開始すると、増大制御の継続時間として経過時間Ti1の算出を開始する。経過時間Ti1は、増大制御が開始されてから車輪に付与される制動力が実際に増大するまでの応答遅れを考慮して、増大制御の開始時点から一定期間の経過後を始点としてカウントを開始してもよい。この場合には、開始時点から一定期間が経過するまでを待機時間とする。
【0023】
増大部12は、増大制御の継続時間が反応時間Tithに達するまでに、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が規定の判定値α未満となるように制動力を増大させる。判定値αは、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が小さくなったか否かを判定するための判定値である。判定値αの一例は、「0」よりも僅かに大きい値である。たとえば、増大部12は、増大制御を開始する際に、経過時間Ti1が反応時間Tithに達する時点において延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α未満となるように、要求制動力に対する制動力の増大値を設定する。
【0024】
増大部12は、増大制御の実行中に操作量BRが減少した場合には、要求制動力に対して制動量を増大させた状態を維持しつつ、操作量BRの減少速度に応じて制動力を減少させる。増大部12は、増大制御の実行中に操作量BRが増大した場合には、要求制動力に対して制動量を増大させた状態を維持しつつ、操作量BRの増大速度に応じて制動力を増大させる。
【0025】
減少部13は、減少制御において要求制動力よりも減少させる制動力の減少値および制動力を減少させる速度を規定したプロファイルに従って減少制御を実行する。減少部13は、車両が停止する際に前後加速度の変化量が小さくなるように制動力が制御されるプロファイルを設定する。減少部13は、制動が開始されたときに、車速および減速度等に基づいてプロファイルを設定する。減少部13は、減少制御を開始するときには、減少制御を開始する時点の車速および減速度等に基づいてプロファイルを更新する。すなわち、プロファイルは、減少制御を開始する時点の車輪速に基づいて更新されるということもできる。更新後のプロファイルとしては、制動力の減少値および制動力を減少させる速度が変更されているものに限らず、制動力の減少値が変更されているもの、および、制動力を減少させる速度が変更されているもの等が考えられる。
【0026】
減少部13は、車両が停止すると減少制御を終了する。なお、車両の停止後には、車両が停止した状態を保持させるための制動力を付与する保持制御が停止前制御部11によって実行される。
【0027】
図2図4を用いて、停止前制御部11によって実行される処理の流れを説明する。図2に示す処理ルーチンは、車両の制動中に実行される。本処理ルーチンは、増大制御が開始されるまで所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0028】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101では、停止前制御部11は、停止前制動制御の実行条件が成立しているか否かを判定する。実行条件の一例について説明する。ここでは、停止前制御部11は、車両の制動によって車速が規定の開始判定値よりも低くなったときの減速度の目標値が所定値未満である場合に実行条件が成立していると判定する。一方で、停止前制御部11は、車速が規定の開始判定値以上であるときには実行条件が成立していないと判定する。また、停止前制御部11は、減速度の目標値が所定値以上である場合にも実行条件が成立していないと判定する。
【0029】
停止前制動制御の実行条件が成立していない場合には(S101:NO)、停止前制御部11は、本処理ルーチンを終了する。一方、停止前制動制御の実行条件が成立している場合には(S101:YES)、停止前制御部11は、処理をステップS102に移行する。ステップS102では、停止前制御部11は、増大部12に増大制御を開始させる。この結果、車両の制動力が要求制動力よりも増大される。その後、停止前制御部11は、本処理ルーチンを終了する。
【0030】
図3に示す処理ルーチンは、図2のステップS102の処理において開始される増大制御の実行中に、停止前制御部11によって所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS201では、停止前制御部11は、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が規定の判定値α未満であるか否かを判定する。
【0031】
延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α以上である場合には(S201:NO)、停止前制御部11は、処理をステップS205に移行する。一方で、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α未満である場合には(S201:YES)、停止前制御部11は、処理をステップS202に移行する。
【0032】
ステップS202では、停止前制御部11は、禁止フラグF1が「0」であるか否かを判定する。停止前制御部11は、禁止フラグF1が「0」である場合には減少制御の開始を許容する。停止前制御部11は、禁止フラグF1が「1」である場合には減少制御の開始を禁止する。禁止フラグF1は、初期値として「0」が設定されている。禁止フラグF1は、後述する図4に示す処理ルーチンにおいて「0」または「1」が設定される。禁止フラグF1は、車両が停止すると初期値である「0」に設定される。禁止フラグF1が「1」である場合には(S202:NO)、停止前制御部11は、処理をステップS205に移行する。
【0033】
ステップS205では、停止前制御部11は、増大部12に増大制御の実行を継続させる。その後、停止前制御部11は、本処理ルーチンを終了する。
一方、ステップS202の処理において、禁止フラグF1が「0」である場合には(S202:YES)、停止前制御部11は、処理をステップS203に移行する。
【0034】
ステップS203では、停止前制御部11は、減少部13にプロファイルを設定させる。減少部13は、この時点での車速を用いてプロファイルを設定する。その後、停止前制御部11は、処理をステップS204に移行する。
【0035】
ステップS204では、停止前制御部11は、増大部12に増大制御を終了させ、減少部13に減少制御を開始させる。減少部13は、ステップS203の処理において設定したプロファイルに基づいて減少制御を開始する。この結果、車両の制動力が要求制動力よりも減少される。その後、停止前制御部11は、本処理ルーチンを終了する。
【0036】
図4に示す処理ルーチンは、図2のステップS102の処理において開始される増大制御の実行中に、停止前制御部11によって所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS301では、停止前制御部11は、経過時間Ti1が反応時間Tithよりも大きいか否かを判定する。経過時間Ti1が反応時間Tith以下である場合には(S301:NO)、停止前制御部11は、本処理ルーチンを終了する。一方、経過時間Ti1が反応時間Tithよりも大きい場合には(S301:YES)、停止前制御部11は、処理をステップS302に移行する。
【0037】
ステップS302では、停止前制御部11は、算出部14に要求加加速度を算出させる。算出部14は、単位時間当たりの車両の加速度の変化率として要求加加速度を算出する。その後、停止前制御部11は、処理をステップS303に移行する。
【0038】
ステップS303では、停止前制御部11は、算出部14に車両の停止位置での前後加速度を算出させる。算出部14は、要求加加速度に基づいて推定した予測値として、停止位置での前後加速度を算出する。その後、停止前制御部11は、処理をステップS304に移行する。
【0039】
ステップS304では、停止前制御部11は、停止位置での前後加速度が許容範囲内であるか否かを判定する。停止前制御部11は、前後加速度の大きさが許容値未満である場合には、前後加速度が許容範囲内であると判定する。一方、停止前制御部11は、前後加速度の大きさが許容値以上である場合には、前後加速度が許容範囲外であると判定する。許容値は、車両が停止する際の前後加速度の変化量を小さく抑えられるか否かを判定するために、予め実験等によって算出された値が設定されている。
【0040】
前後加速度が許容範囲内である場合には(S304:YES)、停止前制御部11は、処理をステップS305に移行する。ステップS305では、停止前制御部11は、禁止フラグF1を「1」に設定する。この結果、減少制御は、開始されなくなる。その後、停止前制御部11は、本処理ルーチンを終了する。
【0041】
一方、前後加速度が許容範囲外である場合には(S304:NO)、停止前制御部11は、処理をステップS306に移行する。ステップS306では、停止前制御部11は、禁止フラグF1を「0」に設定する。その後、停止前制御部11は、本処理ルーチンを終了する。
【0042】
次に、図5を用いて、算出部14が実行する短縮距離Di2の算出処理について説明する。図2のステップS102の処理において開始される増大制御の実行中に、算出部14によって所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0043】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS401では、算出部14は、経過時間Ti1が反応時間Tithよりも大きいか否かを判定する。反応時間Tithは、規定の判定時間に相当する。経過時間Ti1が反応時間Tithよりも大きい場合には(S401:YES)、算出部14は、処理をステップS402に移行する。
【0044】
ステップS402では、算出部14は、短縮距離Di2の加算を停止する。その後、算出部14は、処理をステップS403に移行する。ステップS403では、算出部14は、短縮距離Di2の減算を開始する。その後、算出部14は、本処理ルーチンを終了する。
【0045】
ここで、算出部14が短縮距離Di2を算出する流れの一例を説明する。算出部14は、基本値から減算値を引いた値を短縮距離Di2として算出する。基本値は、増大制御の実行によって要求制動力に対して増大させる制動力の増大値、および増大制御を継続している時間に基づいて算出される。算出部14は、増大制御の実行中に、基本値を増加させていくことで短縮距離Di2を増加させる。減算値は、増大制御が継続されるに従って短縮距離Di2を減少させる値として算出される。たとえば、算出部14は、減算値を算出する時点から反応時間Tithを遡った時点における短縮距離Di2の値を減算値とする。算出部14は、予め設定した定数を減算値とすることもできる。
【0046】
図5に戻り、ステップS402の処理における短縮距離Di2の加算の停止とは、短縮距離Di2における基本値の算出を停止する処理である。ステップS402の処理が実行されると、算出部14は、前回算出した基本値を保持して、保持した基本値を用いて短縮距離Di2の算出を行う。すなわち、ステップS402の処理が実行されると、短縮距離Di2の増大が抑制される。ステップS403の処理における短縮距離Di2の減算とは、短縮距離Di2における減算値の算出を開始する処理である。ステップS403の処理が実行されると、算出部14は、減算値の算出を開始する。なお、ステップS403の処理が実行されるまでの間は、算出部14は、減算値を「0」とする。
【0047】
一方で、ステップS401の処理において、経過時間Ti1が反応時間Tith以下である場合には(S401:NO)、算出部14は、処理をステップS404に移行する。ステップS404では、算出部14は、短縮距離Di2の加算を継続する。すなわち、算出部14は、短縮距離Di2における基本値の算出を継続する。その後、算出部14は、本処理ルーチンを終了する。
【0048】
本実施形態の作用および効果について説明する。
図6図9は、停止前制動制御の実行によって制御される制動力の推移を示す。図6に示す例では、停止前制動制御の実行中に操作量BRが変更されていない。図6に示す例では、タイミングt11から増大制御が開始されている。タイミングt12から経過時間Ti1の算出が開始されている。タイミングt11からタイミングt12までの期間が待機時間を示している。タイミングt12からタイミングt13までの期間が反応時間Tithに相当する。タイミングt15において車両が停止している。
【0049】
図6の(a)では、延長距離Di1および短縮距離Di2を変動距離と表示している。図6の(a)に示す実線は、延長距離Di1を示す。図6の(a)に示す破線は、短縮距離Di2を示す。
【0050】
図6の(b)に示すように、車速は、制動中に徐々に低下している。車速は、車両が停止するタイミングt15において「0」まで低下している。
図6の(c)における実線は、車両の前後加速度を示す。図6の(c)における破線は、増大制御を実行しない場合の前後加速度を示す比較例である。すなわち、図6の(c)における破線は、操作量BRに応じた要求制動力を目標値として制動力が制御されていると仮定した場合の前後加速度を示す。
【0051】
図6の(d)に示す制動力補正量は、要求制動力に対する増減値である。制動補正量が「0」である場合には、制動力は要求制動力に等しい。制動力補正量が正の値である場合には、制動力は要求制動力よりも増大されている。制動力補正量が負である場合には、制動力は要求制動力よりも減少されている。
【0052】
タイミングt11において増大制御が開始されると、図6の(d)に示すように制動力が増大される。この結果、図6の(c)に示すように、破線で示す比較例よりも前後加速度が小さくなる。
【0053】
増大制御が実行されることによって、図6の(a)に示すように、タイミングt12以降において短縮距離Di2が徐々に増大している。これによって、タイミングt12以降では、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が徐々に縮まっている。タイミングt13では、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が小さくなり、当該差が判定値α未満であると判定される(S201:YES)。このとき、経過時間Ti1が反応時間Tithを超えていないことで(S301:NO)、禁止フラグF1は初期値の「0」である。すなわち、減少制御におけるプロファイルが設定され(S203)、増大制御が終了されて減少制御が開始される(S204)。
【0054】
タイミングt13において減少制御が開始されると、図6の(d)に示すように制動力が減少される。タイミングt14からタイミングt15までの期間では、制動力が一定に維持されている。この結果、図6の(c)に示すように、前後加速度が「0」に近づくように増大される。タイミングt15において車両が停止する際には、前後加速度の変化量が小さくされている。タイミングt15において車両が停止すると、停止前制御部11によって保持制御が実行されて図6の(d)に示すように、制動力が増大されている。
【0055】
制動制御装置10によれば、停止前制動制御において減少制御を開始する前に増大制御が実行される。これによって、延長距離Di1が長くなることを抑制できる。すなわち、制動距離の延長を抑制しつつ、車両の停止直前における前後加速度の変化量を小さくできる。
【0056】
制動制御装置10では、反応時間Tithが経過するまでの間に延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α未満となるように、増大制御によって制動力を増大させる。すなわち、制動力が増大される期間が反応時間Tithを超えないようにされている。このため、車両の運転者は、制動力が増大されていることを認識しにくくなる。換言すれば、運転者は、増大制御によって制動力が増大されているとしても、運転者自身の操作と車両の加速度との乖離を感じにくい。仮に、運転者が制動力の増大を認識した場合には、制動操作部材を踏み戻して操作量BRを減少させる可能性がある。これに対して、制動制御装置10によれば、増大制御の実行中に運転者によって操作量BRが変更されることを抑制できる。
【0057】
図7に示す例は、停止前制動制御の実行中に操作量BRが変更されている点が図6に示す例と異なる。図7に示す例では、タイミングt21において増大制御が開始されてから、運転者が制動操作部材を踏み戻している。すなわち、操作量BRが減少されて、図7の(c)に破線で示すように、操作量BRに対応する前後加速度が、徐々に増大している。
【0058】
図7に示す例では、タイミングt21から経過時間Ti1の算出が開始されている。タイミングt21からタイミングt22までの期間が待機時間を示している。タイミングt22からタイミングt23までの期間が反応時間Tithに相当する。タイミングt24において車両が停止している。
【0059】
図7の(a)に示す二点鎖線は、停止前制動制御の実行中に操作量BRが変更されていない場合の延長距離Di1を示す比較例である。二点鎖線で示す比較例は、図6に示した例と同様に、反応時間Tithが経過するタイミングt23において短縮距離Di2との差が判定値α未満となる。
【0060】
対して、図7の(a)に実線で示すように、実際の延長距離Di1は、増大制御の実行中に操作量BRが減少されていることで、二点鎖線で示す比較例よりも大きい値として算出されている。このため、タイミングt23の時点においては延長距離Di1と短縮距離Di2との差が大きく、差が判定値α以上となっている。すなわち、タイミングt23以降においても、増大制御が継続される(S205)。
【0061】
タイミングt23以降では、経過時間Ti1が反応時間Tithよりも大きいことで(S401:YES)、短縮距離Di2の加算が停止され(S402)、短縮距離Di2の減算が開始される(S403)。このため、図7の(a)に破線で示すように、短縮距離Di2は、タイミングt23以降で徐々に減少されている。タイミングt23以降では、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α未満になることなく、延長距離Di1および短縮距離Di2が推移している。このため、減少制御が開始されることなく、タイミングt24において車両が停止している。図7の(c)に示すように、停止する際の前後加速度の変化量は、小さくなっている。
【0062】
図7の(d)に示すように、タイミングt21において増大制御が開始されてから増大された制動力は、タイミングt24までの期間において増大された状態が続いている。なお、車両が停止した後の制動力は、停止前制御部11によって、タイミングt24からタイミングt25までの期間において維持された後、要求制動力まで低下されている。
【0063】
図7に示す例のように、停止前制動制御の実行中に操作量BRが変更されるということは、停止前制動制御を実行していない場合に比べて停止位置を遠くにしたいという運転者の意思の表れであったり、運転者が自らの操作でフィーリング良く止まる操作をしたりといったことが考えられる。すなわち、制動中に停止前制動制御が介入することによって前後加速度が変化すると、変化後の前後加速度が運転者の意図に合っていない可能性がある。変化後の前後加速度を運転者が不快に感じる可能性もある。そこで、制動制御装置10では、経過時間Ti1が反応時間Tithよりも大きくなっても、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α以上であり増大制御が継続されている場合には、短縮距離Di2を減算するようにしている。これによって、車両が停止位置に到達する時点で延長距離Di1が「0」となるように制動操作部材が操作されると、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α未満になりにくくなる。そして、停止位置に到達する時点で延長距離Di1が「0」となるように操作されることで、減少制御を実行することなく、図7の(c)に示したように停止する際の前後加速度の変化量を小さくすることができる。このように、制動制御装置10では、増大制御の実行中における運転者による制動操作部材の操作の仕方によっては、減少制御を実行しないようにして運転者による操作を主軸にした制動を行うことができる。
【0064】
図8に示す例は、停止前制動制御の実行中に操作量BRが変更されているが、操作量BRの変化のさせ方が図7に示す例とは異なる。図8に示す例では、タイミングt31において増大制御が開始されてから、運転者が制動操作部材を踏み戻している。しかし、踏み戻しによる操作量BRの減少量が図7に示す例と比較して小さい。このため、図8の(c)に破線で示すように、操作量BRに対応した前後加速度の傾きが、図7の(c)における前後加速度の傾きよりも小さくなっている。こうした例には、たとえば、運転者の操作による停止位置の補正が微小である場合、または運転者が車両を運転する技量が十分ではないために運転者の操作に従って車両を停止させるとフィーリングが悪くなる場合等が該当する。
【0065】
こうした図8に示す例では、図8の(a)に示すように、タイミングt32から反応時間Tithが経過したタイミングt33の時点においては延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α以上であるものの、タイミングt33よりも後のタイミングt34において、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α未満となる。このため、タイミングt34において、減少制御が開始されている。減少制御によって、図8の(d)に示すように、タイミングt34からタイミングt35までの期間では制動力が減少されている。タイミングt35からタイミングt36までの期間では制動力が一定に維持されている。車両が停止するタイミングt36において減少制御が終了されている。タイミングt36以降では、保持制御が実行されている。
【0066】
なお、タイミングt33以降では、経過時間Ti1が反応時間Tithよりも大きいことで(S301:YES)、車両の停止位置での前後加速度が推定される(S303)。図8に示す例では、前後加速度が許容範囲外の値として推定される。このため、禁止フラグF1が「0」に設定される(S306)。禁止フラグF1が「0」であることで(S202:YES)、減少制御が禁止されることはなく、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α未満となるタイミングt34において減少制御が開始されている。
【0067】
仮に、タイミングt34の時点において前後加速度が許容範囲内の値として推定されている場合には、禁止フラグF1が「1」に設定される(S305)。この場合には、禁止フラグF1が「1」であることで(S202:NO)、減少制御が開始されることなく増大制御が継続されることになる。すなわち、図7に示した例と同様に車両が停止するまで増大制御が継続される。このように、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α未満であっても、車両の停止位置での前後加速度が許容範囲内の値として推定されている場合には、増大制御を継続して、減少制御を開始しないようにすることができる。
【0068】
制動制御装置10では、減少制御を開始する時点でプロファイルが更新される。このため、図8に示す例では、図6に示した例と比較すると、制動力の減少値が小さくなっている。このように、制動制御装置10では、減少制御を開始する時点での車速に基づいてプロファイルを算出することによって、減少制御を開始するタイミングが変わっても車両が停止する直前の前後加速度の変化量を小さくすることができる。
【0069】
制動制御装置10では、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α未満となった場合に増大制御が終了されて減少制御が開始される。延長距離Di1の算出には運転者の操作が反映される。また、増大制御の実行中に操作量BRが変更された場合には、制動力の大きさは、操作量BRの影響を受ける。すなわち、増大制御の実行によって短縮される距離を示す短縮距離Di2は、操作量BRの影響を受けて変動する。このように、延長距離Di1および短縮距離Di2には、操作量BRが反映されている。このため、図8を一例とするように操作量BRが変更された場合には、減少制御を開始するタイミングに車両の運転者による操作を反映することができる。これによって、運転者の操作を反映した制動距離を実現しやすくなる。
【0070】
なお、運転者による制動操作部材の操作に限らず、停止前制動制御以外の他の制御が介入して制動力が変動した場合でも、延長距離Di1および短縮距離Di2によって減少制御を開始するタイミングを変更する制動制御装置10によれば、停止直前の前後加速度の変化量を小さくするように減少制御を開始することができる。
【0071】
図9に示す例では、タイミングt41において増大制御が開始されてから、運転者が制動操作部材を踏み込んでいる。すなわち、操作量BRが増大されて、図9の(c)に破線で示すように、操作量BRに対応する前後加速度が徐々に減少している。
【0072】
図9に示す例では、タイミングt41から経過時間Ti1の算出が開始されている。タイミングt41からタイミングt42までの期間が待機時間を示している。タイミングt42からタイミングt44までの期間が反応時間Tithに相当する。タイミングt46において車両が停止している。
【0073】
図9の(a)に示す二点鎖線は、停止前制動制御の実行中に操作量BRが変更されていない場合の延長距離Di1を示す比較例である。二点鎖線で示す比較例は、図6に示した例と同様に、反応時間Tithが経過するタイミングt44において短縮距離Di2との差が判定値α未満となる。
【0074】
対して、図9の(a)に実線で示すように、実際の延長距離Di1は、増大制御の実行中に操作量BRが増大されていることで、二点鎖線で示す比較例よりも小さい値として算出されている。このため、タイミングt44よりも前のタイミングt43において、延長距離Di1と短縮距離Di2との差が判定値α未満となっている。すなわち、タイミングt43において、減少制御が開始されている。減少制御によって、図9の(d)に示すように、タイミングt43からタイミングt45までの期間では制動力が減少されている。タイミングt45からタイミングt46までの期間では制動力が一定に維持されている。車両が停止するタイミングt46において減少制御が終了されている。タイミングt46以降では、保持制御が実行されている。
【0075】
なお、図9に示す例では、増大制御の実行中における制動操作部材の踏み込みによって、タイミングt41からタイミングt43に示すように前後加速度が「0」から大きく離れている。図9に示す例における減少制御では、車両が停止する際の前後加速度の変化量を小さくするために、図6に示した例と比較して制動力の減少値が大きくなるようにプロファイルが算出されている。減少制御におけるプロファイルは、減少制御が開始される時点において減少部13によって更新されている。
【0076】
図9に示した例のように増大制御の実行中に操作量BRが増大された場合でも、延長距離Di1および短縮距離Di2によって減少制御を開始するタイミングを変更する制動制御装置10によれば、車両が停止する際の前後加速度の変化量を小さくするように減少制御を実行することができる。
【0077】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、図5に示したように、経過時間Ti1が反応時間Tithよりも大きい場合には、増大制御が継続されている間に短縮距離Di2を減算するようにしている。これに替えて、経過時間Ti1が反応時間Tithを超えた以降において短縮距離Di2を一定に保持してもよい。または、短縮距離Di2の増大を続けつつも、短縮距離Di2の増大速度を小さくしてもよい。すなわち、経過時間Ti1が反応時間Tithを超えた以降では、短縮距離Di2の増大の抑制、または短縮距離Di2の減少を行えばよい。
【0078】
たとえば、図5におけるステップS402の処理およびステップS403の処理を実行することに替えて、ステップS402の処理またはステップS403の処理を実行するようにしてもよい。
【0079】
・上記実施形態では、増大制御の実行中に操作量BRの変動があった場合には、操作量BRの変動を延長距離Di1および制動力の調整に反映させている。制動制御装置10は、監視装置50が取得する情報に基づいて、操作量BRの変動を反映させるか否かを判定するようにしてもよい。たとえば、運転者による操作が誤操作の可能性がある場合には操作量BRの変動を反映させないようにしてもよい。また、運転者が車両を運転することに不慣れであると推測できる場合には、操作量BRの変動を反映させる度合いを小さくすることもできる。
【0080】
・制動制御装置は、運転者による制動操作によって減速する車両につき、車両の停止間際に運転者の制動操作にかかわらず車両に付与されている制動力を減少させる減少制御と、減少制御の実行によって延長される車両の制動距離を補償すべく減少制御の実行期間よりも前の期間に運転者の制動操作にかかわらず車両に付与されている制動力を増大させる増大制御とを実行するのであれば、例えば以下のようなものであってもよい。
【0081】
例えば、制動制御装置は、減少制御の実行開始前の制動操作部材の操作量BRを積算する積算部と、操作量BRの積算値に基づいて、減少制御を開始する制御部とを備えるものであってもよい。
【0082】
・上記実施形態における停止前制動制御は、車両が前進している場合の制動中に限らず、車両が後退している場合の制動中に適用することもできる。
【符号の説明】
【0083】
10…制動制御装置
11…停止前制御部
12…増大部
13…減少部
14…算出部
20…制動装置
21…制動アクチュエータ
30…操作量センサ
40…車輪速センサ
50…監視装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9