(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057868
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】抗ウィルス基体
(51)【国際特許分類】
A01N 25/34 20060101AFI20220404BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220404BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220404BHJP
A01N 55/02 20060101ALI20220404BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220404BHJP
A01N 43/40 20060101ALI20220404BHJP
A01N 47/44 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
A01N25/34 A
B32B27/18 F
B32B27/00 M
A01N55/02 160
A01P1/00
A01N43/40 101K
A01N47/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166329
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀野 克年
【テーマコード(参考)】
4F100
4H011
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK25A
4F100AK25C
4F100AK42B
4F100AR00C
4F100AT00B
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10D
4F100CA12A
4F100CB05D
4F100EJ54
4F100GB66
4F100JB12A
4F100JB14
4F100JC00A
4F100JK12C
4F100JK15A
4F100JL13D
4F100JN01B
4F100YY00A
4H011AA04
4H011BB09
4H011BB16
4H011BC14
4H011BC19
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】本発明は、高い抗ウィルス活性を有する抗ウィルス基体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、基材表面の抗ウィルス性が要求される領域に、抗ウィルス剤を含み、かつ光触媒を含まない有機バインダ硬化物からなる抗ウィルス層が設けられた抗ウィルス基体であって、前記抗ウィルス層は第1領域および第2領域が混在してなり、前記第1領域は、前記第2領域よりも前記抗ウィルス剤を多く含み、前記抗ウィルス層の表面の面粗さは、JIS B 0601-1982に準拠して測定した算術平均粗さ(Ra)が0.1μm以下であることを特徴とする抗ウィルス基体に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面の抗ウィルス性が要求される領域に、抗ウィルス剤を含み、かつ光触媒を含まない有機バインダ硬化物からなる抗ウィルス層が設けられた抗ウィルス基体であって、
前記抗ウィルス層は第1領域および第2領域が混在してなり、
前記第1領域は、前記第2領域よりも前記抗ウィルス剤を多く含み、
前記抗ウィルス層の表面の面粗さは、JIS B 0601-1982に準拠して測定した算術平均粗さ(Ra)が0.1μm以下であることを特徴とする抗ウィルス基体。
【請求項2】
前記抗ウィルス剤は、銅化合物である請求項1に記載の抗ウィルス基体。
【請求項3】
前記抗ウィルス剤は、有機バインダと相溶しない有機化合物である請求項1に記載の抗ウィルス基体。
【請求項4】
前記抗ウィルス剤は、重合体ビグアニドおよびビス型第四級アンモニウム塩の少なくともいずれか一方である請求項1に記載の抗ウィルス基体。
【請求項5】
前記第1領域は、有機バインダと銅化合物の複合体で構成されている請求項1~4のいずれか1項に記載の抗ウィルス基体。
【請求項6】
前記抗ウィルス層が、前記基材上に膜状に形成されてなる請求項1~5のいずれか1項に記載の抗ウィルス基体。
【請求項7】
前記基材表面にハードコート層が設けられ、前記ハードコート層上に前記抗ウィルス層が設けられた請求項1~6のいずれか1項に記載の抗ウィルス基体。
【請求項8】
前記第1領域に銅が0.6原子%以上存在する請求項2に記載の抗ウィルス基体。
【請求項9】
前記基材の抗ウィルス層が設けられた面の反対側面に粘着剤層が設けられている請求項1~8のいずれか1項に記載の抗ウィルス基体。
【請求項10】
前記基材は透光性である請求項1~9のいずれか1項に記載の抗ウィルス基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウィルス基体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原体である種々の微生物を媒介とした感染症が短時間で急激に広がる、いわゆる「パンデミック」が問題になっており、SARS(重症急性呼吸器症候群)や、ノロウィルス、鳥インフルエンザ等のウィルス感染による死者も報告されている。
【0003】
そこで、様々なウィルスに対して抗ウィルス効果を発揮する抗ウィルス剤の開発が活発に行われている。実際に様々な部材に、抗ウィルス効果のあるPd等の金属や、有機化合物からなる抗ウィルス剤を含む樹脂等を塗布したり、抗ウィルス剤が担持された材料を含む部材を製造することが行われている。
【0004】
特許文献1には、プラスチック基材と、前記プラスチック基材の少なくとも一つの面上に積層された硬化型樹脂層とを含む、抗菌性透明フィルムであって、前記硬化型樹脂層が抗菌剤を含み、前記抗菌剤が0.5~100nmの平均粒子径を有し、前記硬化型樹脂層表面のJIS B0601-1982に準拠して測定した算術平均粗さ(Ra)が0.1μm未満である、抗菌性透明フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された抗菌性透明フィルムは、抗ウィルス活性が不十分という問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、高い抗ウィルス活性を有する抗ウィルス基体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る抗ウィルス基体は、以下の通りである。
(1)基材表面の抗ウィルス性が要求される領域に、抗ウィルス剤を含み、かつ光触媒を含まない有機バインダ硬化物からなる抗ウィルス層が設けられた抗ウィルス基体であって、
前記抗ウィルス層は第1領域および第2領域が混在してなり、
前記第1領域は、前記第2領域よりも抗ウィルス剤を多く含み、
前記抗ウィルス層の表面の面粗さは、JIS B 0601-1982に準拠して測定した算術平均粗さ(Ra)が0.1μm以下であることを特徴とする抗ウィルス基体。
【0009】
本発明によれば、高い抗ウィルス活性を有する抗ウィルス基体を提供することができる。
【0010】
また、本発明に係る抗ウィルス基体は、下記(2)~(10)の態様であることが好ましい。
【0011】
(2)前記抗ウィルス剤は、銅化合物である。
【0012】
これにより、より抗ウィルス性能が高い抗ウィルス基体を提供することができる。
【0013】
(3)前記抗ウィルス剤は、有機バインダと相溶しない有機化合物である。
【0014】
これにより、抗ウィルス成分を基材表面に露出させることができ、より高い抗ウィルス活性を有する抗ウィルス基体を提供することができる。
【0015】
(4)前記抗ウィルス剤は、重合体ビグアニドおよびビス型第四級アンモニウム塩の少なくともいずれか一方である。
【0016】
重合体ビグアニドおよびビス型第四級アンモニウム塩はいずれも抗ウィルス性能が高いため、より高い抗ウィルス活性を有する抗ウィルス基体を提供することができる。
【0017】
(5)前記第1領域は、有機バインダと銅化合物の複合体で構成されている。
【0018】
これにより、より抗ウィルス性能が高い抗ウィルス基体を提供することができる。
【0019】
(6)前記抗ウィルス層が、前記基材上に膜状に形成されてなる。
【0020】
本発明は、抗ウィルス層が膜状で表面面粗さが小さくても、高い抗ウィルス活性を有する抗ウィルス基体を提供することができる。
【0021】
(7)前記基材表面にハードコート層が設けられ、前記ハードコート層上に抗ウィルス層が設けられている。
【0022】
これにより、耐久性の高い抗ウィルス基体を提供することができる。
【0023】
(8)前記第1領域に銅が0.6原子%以上存在する。
【0024】
これにより、より抗ウィルス性能が高い抗ウィルス基体を提供することができる。
【0025】
(9)前記基材の抗ウィルス層が設けられた面の反対側面に粘着剤層が設けられている。
【0026】
これにより、抗ウィルス基体をスマートフォンや電子機器ディスプレイ、壁やドアノブなどの部材に貼着させることができる。
【0027】
(10)前記基材は透光性である。
【0028】
これにより、基材がフィルムやシートの場合に、スマートフォンや電子機器ディスプレイの保護フィルムとしたり、基材をアクリル板のような板状態とすると飛沫除けの衝立とすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高い抗ウィルス活性を有する抗ウィルス基体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明における抗ウィルス基体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1で得られた抗ウィルス基体の電子顕微鏡写真(反射電子像)である。
【
図3】
図3(a)は実施例1で得られた抗ウィルス基体について、銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域(
図3(b)において、白矢印で示す白色に見える領域)に対してエネルギー分散型蛍光X線分析装置により、元素分析を行った結果を示す。
図3(b)は、実施例1で得られた抗ウィルス基体の電子顕微鏡写真(反射電子像)であり、白矢印は元素分析を行った箇所を示す。
図3(c)は、実施例1で得られた抗ウィルス基体について、第1領域に対してエネルギー分散型蛍光X線分析装置により、元素分析を行った結果を示すチャートである。
【
図4】
図4(a)は実施例1で得られた抗ウィルス基体について、銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域(
図4(a)において、白矢印で示す黒色に見える領域)に対してエネルギー分散型蛍光X線分析装置により、元素分析を行った結果を示す。
図4(b)は、実施例1で得られた抗ウィルス基体の電子顕微鏡写真(反射電子像)であり、白矢印は元素分析を行った箇所を示す。
図4(c)は、実施例1で得られた抗ウィルス基体について、第2領域に対してエネルギー分散型蛍光X線分析装置により、元素分析を行った結果を示すチャートである。
【
図5】
図5は、実施例4の抗ウィルス基体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。
図1に示すように、抗ウィルス基体10は、基材11の表面に、抗ウィルス層12が設けられている。
【0032】
本発明の実施形態の抗ウィルス基体は、基材表面の抗ウィルス性が要求される領域に、抗ウィルス剤を含み、かつ光触媒を含まない有機バインダ硬化物からなる抗ウィルス層が設けられた抗ウィルス基体であって、前記抗ウィルス層は第1領域および第2領域が混在してなり、前記第1領域は、前記第2領域よりも抗ウィルス剤を多く含み、前記抗ウィルス層の表面の面粗さは、JIS B 0601-1982に準拠して測定した算術平均粗さ(Ra)が0.1μm以下であることを特徴とする。
基材表面の抗ウィルス性が要求される領域は、基材表面全体であってよく、基材表面の一部であってもよい。
【0033】
本実施形態において抗ウィルス層は、抗ウィルス剤を含み、かつ光触媒を含まない有機バインダ硬化物からなる。上記有機バインダ硬化物は、抗ウィルス剤および未硬化の有機バインダを含む抗ウィルス組成物(有機バインダ組成物)を硬化させることで得られる。抗ウィルス層は、基材表面の抗ウィルス性が要求される領域に形成される。
【0034】
抗ウィルス層は、第1領域および第2領域が混在してなる。ここで、「混在」または「混在してなる」とは、抗ウィルス層中に、第1領域や第2領域が一部に局在あるいは偏在しているのではなく、略均一に散在または分散することで、第1領域と第2領域とが混ざり合って存在している状態を意味する。
【0035】
抗ウィルス層における第1領域と第2領域とは、抗ウィルス剤の含有量で区別され、第1領域は、第2領域よりも抗ウィルス剤の含有量が多い。すなわち、第1領域は、「抗ウィルス剤の含有量が相対的に多い領域」であり、第2領域は「抗ウィルス剤の含有量が相対的に少ない領域」であるともいえる。また、第2領域は、抗ウィルス剤を全く含まない形態も採用し得る。もちろん、第2領域は抗ウィルス層中に設けられているのであり、抗ウィルス層自体が存在しない領域は、第2領域ではない。
【0036】
本実施形態における抗ウィルス層が、均一に分散した粒子状の抗ウィルス剤を含有するのではなく、有機バインダと抗ウィルス剤の複合体から構成される第1領域と、抗ウィルス剤の含有量が第1領域よりも相対的に少ない第2領域とが混在した状態であることにより、抗ウィルス活性を高くすることができる。
【0037】
本実施形態の抗ウィルス層において、抗ウィルス剤は有機バインダと混合されてなる。有機バインダと混合される抗ウィルス剤としては、有機バインダの硬化前の状態で、水溶液もしくは液状のものを使用できる。これにより、抗ウィルス剤をイオンもしくは分子レベルで有機バインダと複合化でき、その結果、ウィルスを失活させる抗ウィルス性能を高くすることができる。これは、抗ウィルス剤の含有量が相対的に多い第1領域は、有機バインダ層の表面のスキン層で被覆されることなく、有機バインダ層から露出しているため、露出した第1領域がウィルスと接触することが可能となるためである。
【0038】
本実施形態において、抗ウィルス層または有機バインダ硬化物は、光触媒を含まない。これにより、光触媒による酸化、還元により有機バインダ等が劣化することを防止できるからである。ここで、光触媒とは、光を吸収して触媒作用を示す物質を意味する。
【0039】
本実施形態において、抗ウィルス層の表面の面粗さは、JIS B 0601-1982に準拠して測定した算術平均粗さ(Ra)が0.1μm以下である。一般的に、抗ウィルス層の表面の面粗さRaが0.1μm以下となるような平滑な表面の場合は、ウィルスとの接触面積が小さくなり抗ウィルス性能が低くなるところ、本実施形態の抗ウィルス基体においては、そのような平滑面であっても高い抗ウィルス活性を実現できる。
また、抗ウィルス層の表面の面粗さ(Ra)は、0.01μm以上であることが好ましい。
【0040】
本実施形態において、抗ウィルス剤は銅化合物であることが好ましい。銅化合物は抗ウィルス性能が高く、また二価の銅化合物は水溶性であり、有機バインダと銅イオンレベルで均一化することができる。そのため、「銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域」と「銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域」とが抗ウィルス層内で混在している状態を形成しやすいからである。換言すれば、「銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域」が、「銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域」からなるマトリクス中に散在または分散している状態を形成しやすいからである。
【0041】
本実施形態において、抗ウィルス剤はまた、有機バインダと相溶しない有機化合物であることが好ましい。抗ウィルス剤が完全に有機バインダと均一相溶してしまうと、抗ウィルス成分が有機バインダ表面のスキン層に覆われて、露出しなくなってしまい、抗ウィルス活性が低くなるからである。
【0042】
本実施形態において、抗ウィルス剤はまた、重合体ビグアニドおよびビス型第四級アンモニウム塩の少なくともいずれか一方であることが好ましい。重合体ビグアニドおよびビス型第四級アンモニウム塩はいずれも抗ウィルス性能が高く、有機バインダと相溶しにくい。そのため、「重合体ビグアニドおよびビス型第四級アンモニウム塩の少なくともいずれか一方の含有量が相対的に多い第1領域」と「重合体ビグアニドおよびビス型第四級アンモニウム塩の少なくともいずれか一方の含有量が相対的に少ない第2領域」とが抗ウィルス層内で混在している状態を形成しやすいからである。換言すれば、「重合体ビグアニドおよびビス型第四級アンモニウム塩の少なくともいずれか一方の含有量が相対的に多い第1領域」が、「重合体ビグアニドおよびビス型第四級アンモニウム塩の少なくともいずれか一方の含有量が相対的に少ない第2領域」からなるマトリクス中に散在または分散している状態を形成しやすいからである。
【0043】
前記第1領域、すなわち抗ウィルス剤の含有量が相対的に多い領域は、有機バインダと抗ウィルス剤の複合体で構成されている。抗ウィルス剤をイオンもしくは分子レベルと有機バインダと複合化させることで、ウィルスを失活させる抗ウィルス性能を高くすることができるのである。抗ウィルス剤の含有量が相対的に多い領域は、有機バインダ層の表面のスキン層で被覆されることなく、有機バインダ層から露出してウィルスと接触する。
【0044】
抗ウィルス剤が銅化合物である場合、有機バインダが硬化される前に有機バインダと混合される銅化合物は二価の水溶性の銅化合物であることが好ましい。二価の銅化合物、分散媒としての水、および有機バインダを混合することで、有機バインダとイオンレベルで混合されて有機バインダと銅化合物の複合体が得られるからである。
【0045】
本実施形態において、有機バインダ硬化物は、基材上に膜状に形成されてなることが好ましい。膜状で表面面粗さが小さい(Ra≦0.1μm)有機バインダ硬化物は、比表面積が小さいため、ウィルスとの接触確率が低下して抗ウィルス活性も低くなるのが一般的であるが、本実施形態のような形態の場合は、高い抗ウィルス活性が得られるため有利である。
【0046】
本実施形態において、基材表面にはハードコート層が設けられ、当該ハードコート層上に抗ウィルス層が設けられていることが好ましい。基材表面にハードコート層が設けられることにより耐久性が高くなるからである。ハードコート層は、基材表面に設けられたプライマー層を介して形成されていてもよい。
【0047】
本実施形態においては、前記基材表面には、さらにプライマー層が設けられてもよい。
【0048】
本実施形態においては、抗ウィルス剤である銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域では、銅が0.6原子%以上存在することが好ましい。第1領域に銅が0.6原子%以上存在することで、抗ウィルス活性を高くできるからである。第1領域に銅は1.5原子%以上存在することがより好ましい。また、第1領域に銅は100原子%未満存在する。抗ウィルス剤のみで第1領域は構成されないからである。
【0049】
本実施形態においては、基材の抗ウィルス層が設けられた面の反対側面には粘着剤層が設けられていることが好ましい。これにより、抗ウィルス基体をスマートフォンや電子機器ディスプレイ、壁やドアノブなどの部材に貼着させやすいからである。粘着剤層の表面には離型シートを積層し、粘着剤層を保護してもよい。
【0050】
粘着剤層としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、及びシリコーン系粘着剤等を使用できる。
【0051】
上記アクリル系粘着剤は、アクリルポリマーからなる粘着剤であり、アクリルモノマーを選択し共重合させることにより、必要な機能を持ったアクリルポリマーが合成され、粘着剤として使用できる。アクリル系粘着剤の種類としては、溶剤系、エマルジョン系、UV硬化型等が挙げられる。上記アクリル系粘着剤としては、例えば、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタアクリレート及びアクリル酸の各モノマーを、2-エチルヘキシルアクリレート/メチルメタアクリレート/アクリル酸=85/15/3の重量割合で配合し、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(2,2’-Azobis(isobutyronitrile))を触媒とし、窒素気流下、酢酸エチル中で重合して得た重合度Mw=70万~80万、固形分30%の再剥離型アクリル粘着剤等を使用することができる。
【0052】
ゴム系粘着剤としては、例えば、ポリイソブチレン、SBR、ブチルゴム、クロロプレンゴム等を使用することができる。
【0053】
シリコーン系粘着剤としては、前記シリコーン系粘着剤としては、一般にガム成分及びレジン成分といわれるものを含有するものを使用することができる。また、前記シリコーン系粘着剤としては、前記した成分の他に、架橋剤や金属触媒等を含有するものを使用することができる。
【0054】
前記ガム成分としては、主に粘着剤のバインダ成分となるものを使用することができ、例えばポリオルガノシリコーン等を使用することができる。前記ポリオルガノシリコーンとしては、過酸化物硬化型と付加硬化型が知られており、いずれも使用することができる
【0055】
前記レジン成分としては、従来知られるものから適宜選択し使用できるが、比較的低分子量のポリオルガノシリコーンを使用することが好ましく、付加硬化型のポリオルガノシリコーンを使用することがより好ましい。
【0056】
本実施形態においては、基材は透光性であることが好ましい。これにより、基材がフィルムやシートの場合は、スマートフォンや電子機器ディスプレイの保護フィルムとしたり、基材をアクリル板のような板状態とすると飛沫除けの衝立とすることができるからである。また、基材は可撓性を有していてもよい。JIS K7361に基づいて計測される全光線透過率および、ヘイズ値は、それぞれ全光線透過率は90%以上、ヘイズ値は2%以下であることが好ましい。
【0057】
本実施形態において、基材の材質は特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ビニルポリマー、ポリエチレンなどを使用できる。
【0058】
一般に化合物は、共有結合性の化合物、イオン性化合物を指し、錯体は化合物には含まれない。したがって、銅錯体(銅錯塩)は本実施形態の抗ウィルス基体でいう銅化合物には含まれず、また、銅のアミノ酸塩も本実施形態の銅化合物には含まれない。本実施形態における銅化合物は、銅を含む共有結合性の化合物、銅を含むイオン性化合物をいう。
【0059】
本実施形態では、上記銅化合物は、銅のカルボン酸塩、及び銅の水溶性無機塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、銅のカルボン酸塩がさらに好ましい。これにより、基材表面に有機バインダ硬化物を形成した際、有機バインダ硬化物の表面よりウィルスと接触可能な状態で露出した銅化合物が優れた抗ウィルス活性を発揮できるからである。
【0060】
上記銅化合物は、二価の銅化合物(銅化合物(II))であることがさらに好ましい。分散媒である水に不溶であり粒子状に局在化する一価の化合物(銅化合物(I))に比べ、二価の銅化合物(銅化合物(II))は有機バインダ中へ十分に分散し、優れた抗ウィルス活性を発揮できるからである。また、二価の銅化合物を水および有機バインダと混合し、この二価の銅化合物を還元することで、一価と二価の銅化合物が有機バインダ硬化物中に共存した状態を簡単に形成できるという利点も有する。この点からも、銅化合物としては、水溶性の二価の銅化合物を用いることが最適である。
【0061】
本実施形態において、有機バインダの種類は特に制限されない。上記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂及び熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により硬化して基材表面に上記銅化合物を固着できるからである。また、これらの有機バインダによれば、光重合開始剤によって銅の還元力が低下させられることがないため有利である。
【0062】
上記電磁波硬化型樹脂としては、好ましくは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。また、上記熱硬化型樹脂としては、好ましくは、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。
【0063】
また、上記有機バインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0064】
本実施形態において、抗ウィルス層を形成する抗ウィルス組成物は分散媒を含んでいてもよい。分散媒は、アルコール及び/又は水であることが好ましい。これにより、分散媒中に銅化合物等の抗ウィルス剤が良好に分散し、その結果、銅化合物等の抗ウィルス剤が良好に分散した有機バインダ硬化物を形成できるからである。
【0065】
本実施形態において、抗ウィルス層は光重合開始剤を含んでいてもよい。光重合開始剤は、水に不溶性の光重合開始剤であることが好ましい。かかる光重合開始剤は、水に触れても溶出しないため、耐水性に優れた有機バインダ硬化物を形成することができるからである。
【0066】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0067】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン系の光重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。なお、本明細書においては、アルキルフェノン系の光重合開始剤にはアルキルフェノン及びその誘導体が含まれ、ベンゾフェノン系の光重合開始剤にはベンゾフェノン及びその誘導体が含まれるものとする。
【0068】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤及び上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤を含むことが好ましい。上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度は、上記未硬化の有機バインダに対して、0.5~3.0重量%であることが好ましい。また、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度が上記未硬化の有機バインダに対して0.5~2.0重量%であることが好ましい。これにより、電磁波の照射時間が短くても高い架橋密度を実現できるからである。
【0069】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤と上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが好ましい。これにより、高い架橋密度を実現でき、硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅に対する還元力を高くすることができるからである。架橋密度は85%以上、特に95%以上が好ましい。
【0070】
また、光重合開始剤としては、アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤を使用でき、具体的には、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(2,4,6-トリメチルベンゾイルビフェニルホスフィンオキシドとも表記される)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2、4、6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、UV-LEDを紫外線の発生光源として用いた場合の光重合開始剤として用いられる。
【0071】
なお、本実施形態において、抗ウィルス剤として銅化合物を使用した場合、上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域と、上記銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域は、以下のように区別できる。例えば、
図2に示すように、本実施形態における有機バインダ硬化物の表面を電子顕微鏡写真(反射電子像:倍率5000倍)で確認したときに、相対的に白く見える領域が銅化合物の含有量が多い第1領域に該当し、黒く見える領域が銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域に該当する。なお、黒く見える領域の銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域には、銅化合物が含まれてなくてもよい。
【0072】
また、上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域の平面視の面積は、銅化合物それ自体の面積よりも大きい。つまり、上記銅化合物の粒子単独もしくは銅化合物の粒子が凝集して、マトリクス(樹脂)中に散在または分散している形態は排除される。すなわち、上記銅化合物の粒子単独もしくは銅化合物の粒子が凝集することで構成され、有機バインダを実質的に含まない形態は、「銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域」からは排除されるのである。
したがって、銅化合物は、イオン、分子等の状態で、マトリクス(樹脂)中に散在または分散することにより、抗ウィルス剤と樹脂の複合体となり、「銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域」を構成していることが好ましい。これにより、本実施形態の抗ウィルス層は、「銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域」と「銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域」と混在した状態となる。
【0073】
上記銅化合物等の抗ウィルス剤の含有量が相対的に多い第1領域の平面視の面積は、全領域の平面視の面積(つまり、上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域の平面視の面積と上記銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域の平面視の面積の合計)に対して0.5%~50%であることが好ましく、1%~30%がより好ましい。上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域の平面視の面積が大きすぎても、小さすぎても十分な抗ウィルス活性やふき取りに対する耐性が得られないからである。
【0074】
本実施形態の抗ウィルス基体が光重合開始剤を含む場合、光重合開始剤はラジカルやイオンを発生させ、その際に上記銅化合物を還元させることができるため、銅の抗ウィルス活性を高くすることができる。一般に銅(I)の方が銅(II)よりも抗ウィルス活性が高く、銅が還元されることで抗ウィルス活性が改善される。また、光重合開始剤は、疎水性で水に不溶であるため、耐水性に優れた有機バインダ硬化物を有する抗ウィルス基体となる。
【0075】
このような光重合開始剤が銅に対する還元力を有することは、本発明者らが初めて知見したものであり、上記銅化合物を上記光重合開始剤が還元することで銅(I)の存在割合を増やすことができるのである。
【0076】
本実施形態の抗ウィルス基体では、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記有機バインダ硬化物の表面から、ウィルスと接触可能な状態で露出していることが好ましい。ウィルスと接触可能な状態で露出していると、ウィルスの機能を失活させることができるからである。
【0077】
上記有機バインダ硬化物からなる膜の厚さは、0.1~20μmが好ましい。膜が厚すぎると応力が発生して膜が剥離して抗ウィルス活性が低下し、膜が薄すぎても抗ウィルス活性を十分発揮できないからである。
【0078】
本実施形態において、上記基材に意匠が施されていない場合、あるいは、意匠性よりも抗ウィルス活性を優先させる場合には、上記のように、有機バインダ硬化物からなる膜が基材上に形成されていてもよい。
【0079】
本実施形態の抗ウィルス基体では、上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域では、銅が0.6原子%以上存在することが好ましい。銅が0.6原子%以上存在することにより、高い抗ウィルス活性を発揮できるからである。なお、上記銅とは、銅原子及び銅イオンを意味し、後述するエネルギー分散型蛍光X線分析装置で、X線を照射した場合に発生する蛍光X線(一次X線を試料に照射するとX線のエネルギーによって内殻の電子がはじき飛ばされて空孔が生じ、その空孔に外殻電子が落ち込むことにより、そのエネルギー差に相当するX線が放射されるが、これを蛍光X線という)をカウントし得る状態のものをいう。
【0080】
上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域では、銅が1.5原子%以上存在することがより好ましい。また、上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域では、銅が100原子%未満である。銅化合物粒子単独もしくは銅化合物粒子の凝集体それ自体は、上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域ではないからである。上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域における銅化合物の含有量は、抗ウィルス基体をエネルギー分散型蛍光X線分析装置で分析し、上記第1領域の元素分析を行うことにより、測定できる。
【0081】
なお、上記銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域では、銅が0.6原子%未満であることが好ましく、上記銅化合物が存在しなくてもよい。上記銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域の銅化合物の含有量は、抗ウィルス基体をエネルギー分散型蛍光X線分析装置で分析し、銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域の元素分析を行うことにより、銅化合物の存在量を確認することができる。
【0082】
(発明の詳細な説明)
<抗ウィルス組成物>
基材表面に設けられる有機バインダ硬化物からなる抗ウィルス層は、基材上の抗ウィルス性が要求される領域で以下の抗ウィルス組成物(有機バインダ組成物)を硬化させることで得られる。
本実施形態における抗ウィルス組成物は、抗ウィルス剤及び分散媒を含むA液と、未硬化の有機バインダ含むB液とから構成される。A液に含まれる抗ウィルス剤は、好ましくは二価の銅化合物、重合体ビグアニドおよびビス型第四級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種である。また、B液は光重合開始剤含んでいてもよい。
【0083】
また、本実施形態における抗ウィルス組成物は、光触媒を含まない。これにより、光触媒による酸化、還元により有機バインダ等が劣化することを防止できるからである。ここで、光触媒とは、光を吸収して触媒作用を示す物質を意味する。
【0084】
A液中の上記抗ウィルス剤の含有割合は、0.1~30.0重量%が好ましく、上記分散媒の含有割合は、70.0~99.9重量%が好ましい。また、上記B液中の上記有機バインダの含有割合は、85.0~99.5重量%が好ましく、上記光重合開始剤の含有割合は、0.5~15.0重量%が好ましい。また、上記A液と上記B液の混合割合は、重量比でA液/B液=1/1~5/1であることが好ましい。
【0085】
上記銅化合物は、銅のカルボン酸塩及び銅の水溶性無機塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0086】
上記銅のカルボン酸塩としては、例えば銅のイオン性化合物を使用することができ、酢酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅等が挙げられる。上記銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、硝酸銅、硫酸銅等が挙げられる。
【0087】
上記銅化合物は、二価の銅化合物(銅化合物(II))であることが好ましい。一価の化合物(銅化合物(I))は分散媒である水に不溶であるため、粒子状に局在化し、有機バインダ中への分散が不十分となり、抗ウィルス活性が劣るところ、二価の銅化合物はそのような問題が生じないからである。また、二価の銅化合物を抗ウィルス組成物中に加え、この二価の銅化合物を還元することで、一価と二価の銅化合物が有機バインダ硬化物中に共存した状態を簡単に形成できるという利点も有する。この点からも、水溶性の二価の銅化合物を用いることが最適である。
【0088】
上記銅化物としては、特に二価の銅のカルボン酸塩が好ましい。上記二価の銅のカルボン酸塩としては、酢酸銅(II)、安息香酸銅(II)、フタル酸銅(II)等が挙げられる。また、上記二価の銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)等が挙げられる。
【0089】
その他の二価の銅化合物としては、例えば、銅(II)メトキシド、銅(II)エトキシド、銅(II)プロポキシド、銅(II)ブトキシド等が挙げられ、銅の共有結合性化合物としては銅の酸化物、銅の水酸化物等が挙げられる。
【0090】
上記ビス型第四級アンモニウム塩としては、例えば、下記一般式(1)で表されるビス型ピリジニウム塩、ビス型キノリニウム塩、ビス型チアゾリウム塩、下記一般式(2)で表される化合物等が好ましい。
【0091】
【0092】
(上記一般式(1)中、R1及びR2は、同一または異なっていてもよいアルキル基、R3はエーテル結合を含んでもよい有機基であり、X-は、ハロゲン陰イオンを示す。)
【0093】
【0094】
(上記一般式(2)中、R4は、官能基を有してもよいアルキル基を表し、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、同一または異なっていてもよいアルキル基を表す。)
【0095】
まず、上記一般式(1)で表されるビス型ピリジニウム塩について説明する。上記一般式(1)で表されるビス型ピリジニウム塩において、X-としては、例えば、Cl-、Br-、I-等が挙げられる。
R1、R2は、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、上記アルキル基は、側鎖を有していてもよい。
上記一般式(1)中、R3で表される有機基は、-CO-O-(CH2)6-O-CO-、-CONH-(CH2)6-CO-、-NH-CO-(CH2)4-CO-NH-、-S-Ph-S-、-CONH-Ph-NHCO-、―NHCO-Ph-CONH-、-O-(CH2)6-O-または-CH2-O-(CH2)4-O-CH2-(但し、Phは、フェニレン基を表す。)で表されるものであることが好ましい。
【0096】
具体的には、ビス型ピリジニウム塩として、下記の一般式(3)~一般式(10)で示されるものが挙げられる。
【0097】
【0098】
上記一般式(3)中、R11は、CnH2n+1で表されるアルキル基である。nは8~18であり、好ましくは、8、10、12、14、16または18である。また、mは3~10であり、好ましくは、3、4、6、8、10である。
以下に示す化合物の置換基R11についても、上記一般式(3)と同様である。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
また、上記ビス型ピリジニウム塩としては、下記の一般式(11)で表される1,1’-ジデシル-3,3’-[ブタン-1,4-ジイルビス(オキシメチレン)]ジピリジニウム=ジブロミドが特に好ましい。
【0107】
【0108】
次に、上記ビス型チアゾリウム塩について説明する。上記ビス型チアゾリウム塩としては、例えば、下記の一般式(12)で示されるビス型チアゾリウム塩が挙げられる。
【0109】
【0110】
次に、ビス型キノリニウム塩について説明する。上記ビス型キノリニウム塩としては、例えば、一般式(3)~一般式(10)で表されるビス型ピリジニウム塩を構成する下記の一般式(13)に表されるピリジニウム基を、一般式(14)に示すキノリウム基に置換した化学構造を有するビス型キノリニウム塩が挙げられる。
上記ビス型キノリニウム塩において、他の置換基等は、一般式(3)~一般式(10)で表されるビス型ピリジニウム塩と同様である。
【0111】
【0112】
【0113】
さらに、本発明で使用される一般式(2)で表される化合物について説明する。
【0114】
【0115】
上記一般式(2)中、R4は、官能基を有してもよいアルキル基を示す。アルキル基は、側鎖を有してもよく、その炭素数は、1~20が好ましい。上記官能基としては、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、エーテル基等が挙げられる。また、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、アルキル基を表し、上記アルキル基は、側鎖を有してもよく、その炭素数は、1~20が好ましい。
【0116】
上記一般式(2)で表される化合物としては、2,3-ビス(ヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド)-1-プロパノール等が挙げられる。
【0117】
本実施形態で使用される重合体ビグアナイドは、ポリアルキレンビグアナイド化合物であることが好ましく、下記式(I)で示されるものが好ましい。
【0118】
【0119】
[式中、Raは炭素数2~8のアルキレン基、nは2~18の整数を示す。]
【0120】
上記式(I)において、Raで示される炭素数2~8のアルキレン基には、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン(ヘキサメチレン)、ヘプチレン(ヘプタメチレン)、オクチレン(オクタメチレン)等の直鎖状のものの他、イソプロピレン、イソブチレン、イソペンチレン、ジメチルプロピレン、ジメチルブチレン等の分岐鎖状のものも含まれるが、直鎖状のアルキレン基が好ましい。また、ウィルス不活化効果の点からは、炭素数4~8のアルキレン基が好ましく、ヘキサメチレン基が特に好ましい。なお、式(I)におけるnは2~18であり、ウィルス不活化効果、取扱い性等を考慮すると、好ましくは10~14、より好ましくは11~13である。
【0121】
式(I)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物は、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸との塩、または酢酸、乳酸、グルコン酸等の有機酸との塩の形態でも用いることができる。かかる塩の中では、塩酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩が好ましく、塩酸塩が最も好ましく用いられる。本実施形態のウィルス不活化組成物には、式(I)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩よりなる群から、1種または2種以上を選択して用いる。
特に、本発明においては、ポリアルキレンビグアナイド化合物としてポリヘキサメチレンビグアナイドの塩酸塩を好適に使用できる。
【0122】
本実施形態において、ポリアルキレンビグアナイド化合物またはその塩としては、公知の方法、たとえば英国特許第702,268号等に記載された方法に従って製造したものを用いてもよく、市販の製品を用いてもよい。市販製品としては、「エクリンサイドBG」(理工協産株式会社製)、「プロキセルIB」(アーチ・ケミカルズ社製)、「ロンザバックBG」(ロンザジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0123】
上記A液は、分散媒を含む。分散媒は、安定性を考慮した場合にはアルコール及び/又は水が好ましい。上記分散媒中に銅化合物が良好に分散し、その結果、上記銅化合物が良好に分散した有機バインダ硬化物を形成できるからである。
【0124】
上記アルコールとしては、粘性を下げることを考慮して、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール等が挙げられる。これらのアルコールのなかでは、粘度が高くなりにくいメチルアルコール、エチルアルコールが好ましい。また、上記分散媒は、アルコールと水との混合液を使用することができる。
【0125】
上記B液は、未硬化の有機バインダを含む。有機バインダは、電磁波硬化型樹脂及び熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により硬化して基材表面に上記銅化合物を固着できるからである。また、これらの有機バインダは、光重合開始剤の銅に対する還元力を低下させることがないため有利である。
【0126】
上記電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。また、熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。
【0127】
上記未硬化の有機バインダの具体例としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0128】
上記アクリル樹脂としては、エポキシ変性アクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂(ウレタン変性アクリレート樹脂)、シリコーン変性アクリレート樹脂等が挙げられる。
【0129】
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0130】
上記エポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂やグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂とオキセタン樹脂を組みわせたもの等が挙げられる。
【0131】
上記アルキッド樹脂としては、ポリエステルアルキッド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、透明性を有するとともに、基材に対する密着性にも優れる。
【0132】
なお、上記電磁波硬化型樹脂とは、電磁波照射により原料であるモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応等が進行して製造される樹脂を意味している。従って、上記抗ウィルス組成物は、上記電磁波硬化型樹脂の原料となるモノマーやオリゴマー(未硬化の電磁波硬化型樹脂)を含有している。
【0133】
上記未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマー又はオリゴマーと、上記光重合開始剤と各種添加剤を含んだ組成物に電磁波を照射することにより、上記光重合開始剤は、開裂反応水素引き抜き反応、電子移動等の反応を起こし、これにより生成した光ラジカル分子、光カチオン分子、光アニオン分子等が上記モノマーや上記オリゴマーを攻撃してモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応が進行し、有機バインダ硬化物を生成することができる。本明細書において、このような反応により生成する樹脂を電磁波硬化型樹脂という。
【0134】
上記B液は、光重合開始剤を含んでもよい。光重合開始剤は、還元力のある光重合開始剤を用いることが好ましい。上記光重合開始剤によれば、上記A液と上記B液とを混合したときに、上記銅化合物を抗ウィルス活性が高い銅イオン(I)に還元するとともに、銅イオン(I)が酸化して抗ウィルス活性の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できるからである。
【0135】
そのため、本実施形態の抗ウィルス基体は、ウィルス及び/又はカビに最も効果的に作用する。上記銅(I)の還元力によって、銅イオン(I)が空気中の水や酸素を還元することで、活性酸素、過酸化水素水やスーパーオキサイドアニオン、ヒドロキシラジカル等を発生させてウィルス又はカビを構成する蛋白を効果的に破壊するからである。
【0136】
上記光重合開始剤は、水に不溶性の光重合開始剤であることが好ましい。これにより、水に触れても溶出しないため、有機バインダ硬化物を劣化させることがなく、上記銅化合物の脱離を招かないからである。上記銅化合物が水溶性であっても有機バインダ硬化物で保持されていれば、脱離を抑制できるが、有機バインダ硬化物中に水溶性物質が含まれていると、有機バインダ硬化物の上記銅化合物に対する保持力が低下して、上記銅化合物の脱離が生じると推定される。
【0137】
また、上記水に不溶性の光重合開始剤は、未硬化の有機バインダとして電磁波硬化型樹脂を用いた場合、可視光線、紫外線等の光により、容易に重合反応を進行させることができるからである。
【0138】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0139】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホニル)フェニル]-1-ブタノン等が挙げられる。
【0140】
上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、又は3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0141】
上記アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(2,4,6-トリメチルベンゾイルビフェニルホスフィンオキシドとも表記される)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2、4、6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル等が挙げられる。UV-LEDを紫外線の光源とした場合でも使用できるからである。
【0142】
上記分子内水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、オキシフェニルサクサン、2-[2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルトオキシフェニル酢酸と2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステルとの混合物等が挙げられる。
【0143】
上記オキシムエステル系の光重合開始剤としては、例えば、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0144】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン系の光重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、特に、ベンゾフェノン系の光重合開始剤を含むことが好ましい。これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0145】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤及びベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記B液において、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度は、0.5~10.0重量%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度がB液において0.5~5.0重量%であることが好ましい。電磁波の照射時間が短くても高い架橋密度を実現できるからである。
【0146】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤と上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが好ましい。高い架橋密度を実現でき、硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅に対する還元力を高くすることができるからである。架橋密度は85%以上、特に95%以上が好ましい。
【0147】
上記未硬化の有機バインダとして電磁波硬化型樹脂(モノマー又はオリゴマー)を用いた場合は、上記A液中の上記銅化合物の含有割合は、0.1~30.0重量%が好ましく、上記分散媒の含有割合は、70.0~99.9重量%が好ましい。
また、上記B液中の上記電磁波硬化型樹脂(モノマー又はオリゴマー)の含有割合は、85.0~99.5重量%が好ましく、上記光重合開始剤の含有割合は、0.5~15.0重量%が好ましくい。また、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤及び上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤を含む場合には、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度が、0.5~10.0重量%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度が、0.5~5.0重量%であることがより好ましい。
また、上記A液と上記B液の混合割合は、重量比でA液/B液=1/1~5/1であることが好ましい。
【0148】
上記A液及び/又は上記B液には、必要に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、接着促進剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、消泡剤等が配合されていてもよい。再び銅イオン(I)に還元されるため、還元力が常に維持される。このため、還元性糖等の還元剤は不要となり、また、上記光重合開始剤は、上記有機バインダを劣化させることなく、銅化合物等の抗ウィルス剤の酸化を防止できるため好適である。
【0149】
基材としては、特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。また、基材となる部材も、特に限定されるものではなく、タッチパネルの保護フィルムやディスプレイ用のフィルムであってもよく、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、手すり等であってもよい。また、ドアノブ、トイレのスライド鍵等でもよい。さらに事務機器や家具等であってもよく、上記内装材の外、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【0150】
基材表面にはハードコート層が設けられ、当該ハードコート層上に抗ウィルス層が形成されていることが好ましい。これにより、耐久性が高くなるからである。
【0151】
基材の抗ウィルス層が設けられた面の反対側面に粘着剤層が設けられていることが好ましい。これにより、抗ウィルス基体をスマートフォンや電子機器ディスプレイ、壁やドアノブなどの部材に貼着させやすいからである。粘着剤層の表面には離型シートを積層し、粘着剤層を保護してもよい。
【0152】
基材は透光性であることが好ましい。これにより、基材がフィルムやシートの場合は、スマートフォンや電子機器ディスプレイの保護フィルムとしたり、基材をアクリル板のような板状態とすると飛沫除けの衝立とすることができるからである。基材は可撓性を有していてもよい。
【0153】
本実施形態の抗ウィルス基体では、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4~50であることが好ましい。Cu(II)と共存した方が、Cu(I)のみの場合に比べて、抗ウィルス活性が高くなる。この理由は明確ではないが、不安定なCu(I)のみの場合と比較して、安定なCu(II)と共存することで、Cu(I)が酸化されることを防止できるためではないかと推定している。上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.5~50であることがより好ましく、1.0~4.0であることがさらに好ましく、1.4~2.9が特に好ましく、特に1.4~1.9が最適である。
【0154】
なお、Cu(I)とは、銅のイオン価数が1であることを意味し、Cu+と表す場合もある。一方、Cu(II)とは、銅のイオン価数が2であることを意味し、Cu2+と表す場合もある。なお、一般的に、Cu(I)の結合エネルギーは、932.5eV±0.3(932.2~932.8eV)、Cu(II)の結合エネルギーは、933.8eV±0.3(933.5~934.1eV)である。
【0155】
本実施形態における有機バインダ硬化物からなる膜の厚さは、0.1~20μmが好ましい。膜が厚すぎると応力が発生して膜が剥離して抗ウィルス活性が低下し、膜が薄すぎても抗ウィルス活性を十分発揮できないからである。上記基材に意匠が施されていない場合、あるいは、意匠性よりも抗ウィルス活性を優先させる場合には、上記のように、有機バインダ硬化物からなる膜が基材上に形成されていてもよい。
【0156】
また、本実施形態における抗ウィルス基体は、全光線透過率は90%以上であることが好ましい。全光線透過率が90%以上であると、可視光等の光線を透過するので、光の透過性を利用した用途に用いることができる。
【0157】
本実施形態の抗ウィルス基体では、上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域では、銅が0.6原子%以上存在することが好ましい。銅が0.6原子%以上存在することにより、高い抗ウィルス活性を発揮することができるからである。
【0158】
なお、上記銅とは、銅原子及び銅イオンを意味し、後述するエネルギー分散型蛍光X線分析装置で、X線を照射した場合に発生する蛍光X線(一次X線を試料に照射するとX線のエネルギーによって内殻の電子がはじき飛ばされて空孔が生じ、その空孔に外殻電子が落ち込むことにより、そのエネルギー差に相当するX線が放射されるが、これを蛍光X線という)をカウントし得る状態のものをいう。
【0159】
上記銅化合物の含有量が相対的に多い領域では、銅が1.5原子%以上存在することがより好ましい。また、上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域では、銅が100原子%未満である。抗ウィルス剤のみで第1領域は構成されないからである。
上記銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域の銅化合物の含有量は、抗ウィルス基体をエネルギー分散型蛍光X線分析装置で分析し、銅化合物の含有量が相対的に多い領域の元素分析を行うことにより、銅化合物の存在量を確認することができる。
【0160】
なお、上記銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域では、銅が0.6原子%未満であることが好ましく、上記銅化合物が存在しなくてもよい。上記銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域の銅化合物の含有量は、抗ウィルス基体をエネルギー分散型蛍光X線分析装置で分析し、銅化合物の含有量が相対的に少ないマトリクス領域の元素分析を行うことにより、銅化合物の存在量を確認することができる。
【0161】
次に、本実施形態の抗ウィルス基体の製造方法について説明する。
【0162】
(1)抗ウィルス組成物調製工程
抗ウィルス剤及び分散媒を含むA液と未硬化の有機バインダを含むB液をそれぞれ上述した含有割合で個別に調製することにより、抗ウィルス組成物を製造することができる。A液に含まれる抗ウィルス剤は、好ましくは二価の銅化合物、重合体ビグアニドおよびビス型第四級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種である。また、B液は光重合開始剤含んでいてもよい。
抗ウィルス組成物は、25℃以上で、24時間以上暗所にて保管して養生する。抗ウィルス組成物においては、A液中の銅化合物とB液中の未硬化の有機バインダが接触しないことから、保管中に硬化反応が進行しないため、抗ウィルス組成物が黄変せず、劣化しない。このため、高温下でも長期の保存が可能となる。
【0163】
上記A液及び上記B液は、基材表面に付着せしめる直前に混合する。上記A液と上記B液とを混合した後、ミキサー等で充分に撹拌し、均一な濃度で分散する付着用の抗ウィルス組成物とした後、基材の表面に付着せしめることが好ましい。基材表面には、プライマー層を設けたり、プラスマ処理、コロナ放電処理により表面を親水化してもよい。また、ハードコート層を設けておいてもよい。ハードコート層は、基材表面にプライマー層を設けた後、ハードコート層を形成してもよい。ハードコート層は、アクリル系、ウレタン系、ポリオキシシラン系のハードコート材を使用できる。
【0164】
(2)付着工程
本実施形態の抗ウィルス基体の製造方法においては、付着工程として、上記付着用の抗ウィルス組成物を基材に付着せしめる。具体的には、上記付着用の抗ウィルス組成物を、基材表面の抗ウィルス活性が要求される領域に膜状に塗布して形成する。基材表面を上記した状態とするためには、例えば、塗布用のバーコーター、グラビア印刷などの塗布冶具や印刷装置を用いて上記組成物を塗布、付着する方法等が挙げられる。
【0165】
(3)乾燥工程
上記付着工程により付着された銅化合物等の抗ウィルス剤と未硬化の有機バインダと分散媒と、必要に応じて光重合開始剤とを含む、付着用の抗ウィルス組成物を乾燥させ、分散媒を蒸発、除去し、銅化合物等を含む有機バインダ硬化物を基材表面に仮固定させるとともに、有機バインダ硬化物の収縮により、銅化合物を有機バインダ硬化物の表面から露出させることができる。乾燥条件としては、20~100℃、0.5~5.0分が好ましい。乾燥は、赤外線ランプやヒータ等で行うことができる。また、減圧(真空)乾燥させてもよい。
本実施形態の抗ウィルス基体を製造する際には、乾燥工程と後述する硬化工程を同時に行ってもよい。
【0166】
(4)硬化工程
本実施形態の抗ウィルス基体を製造する際には、硬化工程として、上記乾燥工程で分散媒を除去した付着用の抗ウィルス組成物中、もしくは、分散媒を含む付着用の抗ウィルス組成物中の上記未硬化の有機バインダを硬化させ、有機バインダ硬化物とする。
【0167】
未硬化の有機バインダを硬化させる方法としては、乾燥による分散媒除去、加熱や電磁波照射によるモノマー、オリゴマーの重合促進等がある。乾燥は、減圧乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。また、有機バインダが熱硬化型樹脂の場合は、加熱により硬化が進行する。加熱はヒータ、赤外線ランプ、紫外線ランプ等で行うことができる。未硬化の有機バインダが電磁波硬化型樹脂である場合に照射する電磁波としては、特に限定されず、例えば、紫外線(UV)、赤外線、可視光線、マイクロ波、電子線(Electron Beam:EB)等が挙げられるが、これらのなかでは、紫外線(UV)が好ましい。紫外線を用いる場合は、UV-LEDを光源とすることが好ましい。被照射物の温度が上昇することを防止できるからである。
これらの工程により、上記した本実施形態の抗ウィルス基体を製造することができる。
【0168】
上記付着用の抗ウィルス組成物中には、必要に応じて上記した光重合開始剤が添加されているので、有機バインダとしてモノマーやオリゴマーを含む場合は、それらの重合反応が進行する。また、光重合開始剤は銅を還元するため、銅(II)を銅(I)に還元でき、銅(I)の量を増やすことができるため、ウィルス活性の高い有機バインダ硬化物が得られるのである。
【0169】
その後、紫外線照射をして、光重合開始剤の還元力を発現せしめる。上記抗ウィルス基体の製造方法におけるいずれかの工程中で、光重合開始剤の還元力を発現せしめるために、所定の波長の電磁波、例えば紫外線等を照射することが好ましい。特に光重合開始剤を用いた場合は、電磁波の照射により、ラジカルが発生し、銅イオンを還元することで、抗ウィルス活性、特に抗ウィルス活性の高い銅(I)の量を増やすことができ、有効である。
【0170】
また、上記有機バインダ硬化物が、基材表面の抗ウィルス活性が要求される領域に膜状に固着形成されてなり、ふき取り清掃への耐久性に優れた抗ウィルス基体を製造することができる。そのため、島状に分散固定されている場合や基材表面に有機バインダ硬化物が固着形成された領域と有機バインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態に比べてふき取り清掃への耐性に優れている。
【実施例0171】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(実施例1)
(1)A液の調製
酢酸銅の濃度が1.68重量%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フイルム和光純薬製)210重量部を純水12300重量部に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、700rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。
【0172】
(2)B液の調製
光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)160重量部と光重合開始剤であるベンゾフェノン80重量部を混合した。なお、IGM社製 Omnirad184は、BASF社製のIrgacure184と同一物質であり、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
この光重合開始剤の混合物195重量部と光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)6300重量部を混合した後、プロペラ型撹拌浴で700rpm、60分間の条件で撹拌混合し、紫外線硬化樹脂液を調製した。
紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)と光重合開始剤である1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)と光重合開始剤であるベンゾフェノンが重量比97:2:1で混合されている。
【0173】
(3)保管(養生)
調製したA液及びB液を抗ウィルス組成物とした。抗ウィルス組成物(A液とB液)を暗所にて35℃で120時間静置した。
【0174】
(4)A液とB液の混合
A液を470重量部、B液を250重量部それぞれ混合して、1分間撹拌することにより付着用の抗ウィルス組成物とした。
【0175】
(5)ハードコート基材の調製
多官能(メタ)アクリルモノマーとして5官能および6官能の混合物(東亜合成製 M-400)64重量部、ジエチレングリコールジアクリレート27質量部、光重合開始剤(商品名:Omnirad184、IGM Resins B.V.社製)5質量部、光安定化剤(商品名:TINUVIN152、BASF社製)4質量部を、メチルエチルケトン(MEK)およびシクロヘキサノンを1:1で混合した希釈溶剤に固形分が40質量%となるように混合してハードコート層形成用組成物を調製した。
【0176】
(6)ハードコート層の形成
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム表面上にハードコート層形成用組成物をバーコーターで塗布し、その後、80℃で60秒間加熱乾燥し、高圧水銀ランプ紫外線照射機を用いて、30mW/cm2で紫外線を照射し、硬化型樹脂層として厚み3μmのハードコート層をポリエチレンテレフタレート基材上に硬化形成して、ハードコート層23を形成した。
【0177】
(7)付着用の抗ウィルス組成物の塗布
この付着用の抗ウィルス組成物を、バーコーターを用いて、上記(6)のポリエチレンテレフタレートフィルム表面に塗布して厚さ4μmの連続膜を形成した。
【0178】
(8)乾燥・硬化
シリコン基板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cm2の照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材であるシリコン基板表面に銅化合物を含む有機バインダ硬化物が塗膜として連続した膜状に固着形成された抗ウィルス基体を得た。
【0179】
図3(a)、(b)に、実施例1で得られた抗ウィルス基体について、銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域(
図3(a)において、白矢印で示す白色に見える領域)に対してエネルギー分散型蛍光X線分析装置により、元素分析を行った結果を示す。その結果、第1領域中にCuが2.89原子%(12.85重量%)、Siが0.50原子%(0.99重量%)、Oが17.15原子%(19.24重量%)、Cが79.46原子%(66.92重量%)存在した。
また、
図4(a)、(b)に、実施例1で得られた抗ウィルス基体について、銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域(
図4(a)において、白矢印で示す黒色に見える領域)に対してエネルギー分散型蛍光X線分析装置により、元素分析を行った結果を示す。その結果、第2領域中にOが18.56原子%(23.28重量%)、Cが81.44原子%(76.72重量%)存在した。一方、Cuの存在は確認されなかった。
すなわち、実施例1の抗ウィルス基体について、Cuの含有量が多い(つまり、抗ウィルス剤を多く含む)第1領域とCuが確認されない(つまり、抗ウィルス剤を含まない)第2領域が混在している状態が確認された。
【0180】
(実施例2)
(1)A液の調製
ビス型第四級アンモニウム塩からなる抗菌剤(1,1′-ジデシル-3,3′-[ブタン-1,4-ジイルビス(オキシメチレン)]ジピリジニウム=ジブロミド)を2.66重量%になるように、純水12300重量部に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、700rpmで15分撹拌して調製した。
【0181】
(2)B液の調製
光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)160重量部と光重合開始剤であるベンゾフェノン80重量部を混合した。なお、IGM社製 Omnirad184は、BASF社製のIrgacure184と同一物質であり、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
この光重合開始剤の混合物195重量部と光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)6300重量部を混合した後、プロペラ型撹拌浴で700rpm、60分間の条件で撹拌混合し、紫外線硬化樹脂液を調製した。
紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)と光重合開始剤である1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)と光重合開始剤であるベンゾフェノンが重量比97:2:1で混合されている。
【0182】
(3)保管(養生)
調製したA液及びB液を抗ウィルス組成物とした。抗ウィルス組成物(A液とB液)を暗所にて35℃で120時間静置した。
【0183】
(4)A液とB液の混合
A液を470重量部、B液を250重量部それぞれ混合して、1分間撹拌することにより付着用の抗ウィルス組成物とした。
【0184】
(5)実施例1と同様にして抗ウィルス基体を製造した。この抗ウィルス基体について、エネルギー分散型蛍光X線分析装置により元素分析を行い、窒素の分布をマッピングしたところ、窒素を含有する抗ウィルス剤である1,1’-ジデシル-3,3’-[ブタン-1,4-ジイルビス(オキシメチレン)]ジピリジニウム=ジブロミドの含有量が多いと考えられる第1領域と窒素が確認されない(つまり、抗ウィルス剤を含まない)第2領域が混在している状態が確認される。
【0185】
(実施例3)
(1)A液の調製
6000ppmのポリヘキサメチレンビグアナイドの塩酸塩水溶液をA液とした。
【0186】
(2)B液の調製
光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)160重量部と光重合開始剤であるベンゾフェノン80重量部を混合した。なお、IGM社製 Omnirad184は、BASF社製のIrgacure184と同一物質であり、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
この光重合開始剤の混合物195重量部と光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)6300重量部を混合した後、プロペラ型撹拌浴で700rpm、60分間の条件で撹拌混合し、紫外線硬化樹脂液を調製した。
紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)と光重合開始剤である1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)と光重合開始剤であるベンゾフェノンが重量比97:2:1で混合されている。
【0187】
(3)保管(養生)
調製したA液及びB液を抗ウィルス組成物とした。抗ウィルス組成物(A液とB液)を暗所にて35℃で120時間静置した。
【0188】
(4)A液とB液の混合
A液を470重量部、B液を250重量部それぞれ混合して、1分間撹拌することにより付着用の抗ウィルス組成物とした。
【0189】
(5)実施例1と同様にして抗ウィルス基体を製造した。この抗ウィルス基体について、エネルギー分散型蛍光X線分析装置により元素分析を行い、窒素の分布をマッピングしたところ、窒素を含有する抗ウィルス剤であるポリヘキサメチレンビグアナイドの含有量が多いと考えられる第1領域と窒素が確認されない(つまり、抗ウィルス剤を含まない)第2領域が混在している状態が確認される。
【0190】
(実施例4)
実施例1の抗ウィルス基体の抗ウィルス層が形成された面の反対側面にアクリル系粘着剤(東亜合成株式会社製 商品名 S-1511X)を塗布して、室温で乾燥させ、粘着剤層24を形成した。さらに離型シート25としてテフロン(登録商標)シートを積層させた(
図5)。
【0191】
(比較例1)
(1)シリカ(商品名AEROSIL300、EVONIK社製、平均粒子径7nm)1質量部を水90質量部に分散し、シリカの水分散液を得た。これに2質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHを10に調整した。
別途、0.1質量%に希釈した水ガラスと、0.7質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液と、0.05質量%硝酸銀水溶液をそれぞれ調製した。
pHを10に調整したシリカの水分散液85.5質量部に、先に調製した水ガラス13質量部と、アルミン酸ナトリウム水溶液1.5質量部を添加して反応させた後、脱アルカリ処理して、シリカアルミナ懸濁液を得た。得られたシリカアルミナ懸濁液100質量部に、先に調製した硝酸銀水溶液30質量部を添加し、シリカに銀が担持された銀-シリカ抗菌剤粒子(凝集していると推定)を得た。
【0192】
(2)多官能(メタ)アクリルモノマーとして5官能および6官能の混合物(東亜合成製 M-400)64重量部、ジエチレングリコールジアクリレート27質量部、光重合開始剤(商品名Omnirad184、IGM Resins B.V.社製)5質量部、光安定化剤(商品名TINUVIN152、BASF社製)4質量部、銀-シリカ抗菌剤粒子0.4質量部を、メチルエチルケトンMEK)およびシクロヘキサノンを1:1で混合した希釈溶剤に固形分が40質量%となるように混合して抗菌組成物を調製した。
【0193】
(3)実施例1と同様にして抗菌基体(抗ウィルス基体)を製造した。
抗菌基体を電子顕微鏡(反射電子像)にて観察し、抗菌剤粒子(抗ウィルス剤粒子)の存在を確認した。また、任意の100個の抗菌剤粒子(抗ウィルス剤粒子)について粒子径を測定して平均値を求めた。平均粒子径は0.1μmであった。
【0194】
(比較例2)
(1)酢酸銅の濃度が6.0wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フィルム和光純薬社製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。混合組成物は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)を重量比98:2で混合し、ホモジナイザーを用い、8000rpmで30分間撹拌して電磁波硬化型のバインダ液を調製した。上記6wt%酢酸銅水溶液と電磁波硬化型のバインダ液を重量比1.0:1.7で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して混合組成物を調製した。なお、IGM社製のOmnirad500は、BASF社のIRGACURE500と同じもので、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンとベンゾフェノンとの混合物である。この光重合開始剤は、水に不溶であり、紫外線により還元力を発現する。
【0195】
(2)上記(1)で調整した混合組成物を用いて、実施例1と同様にして抗ウィルス基体を製造した。
抗ウィルス基体を電子顕微鏡(反射電子像)にて観察し、抗ウィルス剤の凝集体の存在を確認した。また、任意の10個の凝集体について直径を測定して平均値を求めた。平均径は0.5μmであった。
【0196】
(面粗さ測定試験)
東京精密製の接触式表面粗さ測定機であるHANDYSURFを用い、8mmの測定長さで表面粗さを測定した。測定結果を表1に記載する。
【0197】
(ファージウィルスを用いた抗ウィルス評価)
この抗ウィルス試験は以下のように実施した。
実施例および比較例で得られた抗ウィルス基体における抗ウィルス活性を評価するために、JIS Z 2801 抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果を改変した手法を用いた。改変点は、「試験菌液の接種」を「試験ウィルスの接種」に変更した点である。ウィルスを使用することによる変更点についてはすべてJIS L 1922 繊維製品の抗ウィルス性試験方法に基づき変更した。測定結果は実施例1で得られた抗ウィルス基体についてJIS L 1922付属書Bに基づき、大腸菌への感染能力を失ったファージウィルス濃度をウィルス不活度として表示する。ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活性化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用し、このウィルス不活度に基づいて抗ウィルス活性値を算出した。
【0198】
以下、手順を具体的に記載する。
(1)実施例および比較例で得られた抗ウィルス基体について、当該抗ウィルス基体を1辺50mm角の正方形に切り出して試験試料とした。この試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験ウィルス液(>107PFU/mL)を0.1mL接種する。試験ウィルス液は108PFU/mLのストックを精製水で10倍希釈したものを使用した。
(2)対照試料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様にウィルス液を接種した。
(3)接種したウィルスの液の上から40mm角のポリエチレンを被せ、試験ウィルス液を均等に接種させた後、25℃で所定時間反応させた。
(4)接種直後又は反応後、SCDLP培地10mLを加え、ウィルス液を洗い流した。
(5)JIS L 1922付属書Bによってウィルスの感染値を求めた。
(6)以下の計算式を用いて抗ウィルス活性値を算出した。
Mv=Log(Vb/Vc)
Mv:抗ウィルス活性値
Log(Vb):ポリエチレンフイルムの所定時間反応後の感染値の対数値
Log(Vc):試験試料の所定時間反応後の感染値の対数値
参考規格 JIS L 1922、JIS Z 2801
測定方法は、プラーク測定法によった。
得られた抗ウィルス活性値を表1に示す。
【0199】
【0200】
実施例1~4の抗ウィルス基体の抗ウィルス活性値は、いずれも4.6~5.3と高い水準であった。
一方、比較例1、2の抗ウィルス基体は、抗ウィルス層において粒子状の抗ウィルス剤または抗ウィルス剤が凝集したと推定される凝集体が確認された。これは、抗ウィルス層が、上記第1領域と第2領域とで形成されていないことを意味している。そのため、比較例1、2の抗ウィルス基体の抗ウィルス活性値は、いずれも低い水準であった。