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特開2022-57983エネルギー変換装置及び可変ゲイン機構
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057983
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】エネルギー変換装置及び可変ゲイン機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 33/02 20060101AFI20220404BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20220404BHJP
   B25J 17/00 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
F16H33/02 Z
F16H1/28
B25J17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166520
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】500352258
【氏名又は名称】ウインテスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127384
【弁理士】
【氏名又は名称】坊野 康博
(72)【発明者】
【氏名】加賀 祐希
(72)【発明者】
【氏名】森田 寿郎
【テーマコード(参考)】
3C707
3J027
【Fターム(参考)】
3C707BS12
3C707CX03
3C707HT02
3C707HT25
3C707HT36
3C707KS21
3C707KX10
3J027FA07
3J027FB32
3J027GB03
3J027GC15
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD08
3J027GE14
3J027GE21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用する。
【解決手段】エネルギー変換装置1は、トルク源10と、無段変速機20と、を備える。トルク源10は、力学的エネルギーの供給及び蓄積が可能である。無断変速機20は、トルク源10に入力軸が連結され、入出力軸が非回転状態で変速比を変更可能である。無段変速機20は、太陽歯車と、太陽歯車との噛み合い位置を相対移動可能な遊星歯車と、遊星歯車の自転軸と同軸に設置され、遊星歯車と一体に回転するプーリと、プーリに巻き掛けられ、遊星歯車を太陽歯車に押し付けると共に、遊星歯車の公転に対する固定部となる索条部材と、索条部材に張力を与える張力調整部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
力学的エネルギーの供給及び蓄積が可能なトルク源と、
前記トルク源に入力軸が連結され、入出力軸が非回転状態で変速比を変更可能な可変ゲイン機構と、
を備えることを特徴とするエネルギー変換装置。
【請求項2】
前記可変ゲイン機構は、
歯筋に沿う方向においてピッチ円の直径が異なる太陽歯車と、
歯筋に沿う方向においてピッチ円の直径が異なると共に、前記太陽歯車との噛み合い位置を歯筋に沿って相対移動可能な遊星歯車と、
前記遊星歯車の自転軸と同軸に設置され、前記遊星歯車と一体に回転するプーリと、
前記プーリに巻き掛けられ、前記遊星歯車を前記太陽歯車に押し付けると共に、前記遊星歯車の公転に対する固定部となる索条部材と、
前記索条部材に張力を与える張力調整部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー変換装置。
【請求項3】
前記遊星歯車の公転軌道において、異なる位相に位置する前記プーリを前記太陽歯車に押し付ける複数の前記索条部材を備えることを特徴とする請求項2に記載のエネルギー変換装置。
【請求項4】
入力軸が前記可変ゲイン機構の出力軸に連結され、入力軸と複数の出力軸とにおいて力学的エネルギーを伝達する差動装置を備えることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー変換装置。
【請求項5】
第1の前記差動装置の出力軸に、第2の前記差動装置が直列に連結されていることを特徴とする請求項4に記載のエネルギー変換装置。
【請求項6】
前記トルク源は、位置エネルギー及び運動エネルギーの少なくともいずれかが変化する負荷に対するエネルギーの供給及び当該負荷からのエネルギーの蓄積を行うことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のエネルギー変換装置。
【請求項7】
前記トルク源は、往復動作を行う負荷の一方向の動作においてエネルギーを供給すると共に、他の方向の動作においてエネルギーを蓄積することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のエネルギー変換装置。
【請求項8】
負荷を駆動する前記トルク源とは異なる駆動源を備え、
前記トルク源は、前記駆動源と協働して、または、単独で負荷を駆動することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のエネルギー変換装置。
【請求項9】
前記トルク源は、負荷の動作を制動する際に負荷側から入力される回生エネルギーを蓄積することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のエネルギー変換装置。
【請求項10】
歯筋に沿う方向においてピッチ円の直径が異なる太陽歯車と、
歯筋に沿う方向においてピッチ円の直径が異なると共に、前記太陽歯車との噛み合い位置を歯筋に沿って相対移動可能な遊星歯車と、
前記遊星歯車の自転軸と同軸に設置され、前記遊星歯車と一体に回転するプーリと、
前記プーリに巻き掛けられ、前記遊星歯車を前記太陽歯車に押し付けると共に、前記遊星歯車の公転に対する固定部となる索条部材と、
前記索条部材に張力を与える張力調整部と、
を備えることを特徴とする可変ゲイン機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力学的エネルギーの変換を行うエネルギー変換装置及び可変ゲイン機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの必要性が高まっており、種々の局面において、余剰エネルギーの有効活用が図られている。
例えば、ハイブリッド型の自動車や電車においては、制動時に発生するエネルギーをバッテリに回生する技術が用いられている。
ここで、特許文献1には、自動車の運動エネルギーをジェネレータによって電気的なエネルギーに変換して、バッテリに蓄積する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-99243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、運動エネルギーや位置エネルギー等の力学的エネルギーを蓄積する場合、電気的エネルギー等、力学的エネルギー以外の形態に変換すると、エネルギーの損失が大きくなり、回生されるエネルギーの効率が低下することとなる。
即ち、従来の技術においては、力学的エネルギーを効率的に蓄積及び利用することが困難であった。
【0005】
本発明の課題は、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係るエネルギー変換装置は、
力学的エネルギーの供給及び蓄積が可能なトルク源と、
前記トルク源に入力軸が連結され、入出力軸が非回転状態で変速比を変更可能な可変ゲイン機構と、
を備える。
【0007】
また、本発明の一態様に係る可変ゲイン機構は、
歯筋に沿う方向においてピッチ円の直径が異なる太陽歯車と、
歯筋に沿う方向においてピッチ円の直径が異なると共に、前記太陽歯車との噛み合い位置を歯筋に沿って相対移動可能な遊星歯車と、
前記遊星歯車の自転軸と同軸に設置され、前記遊星歯車と一体に回転するプーリと、
前記プーリに巻き掛けられ、前記遊星歯車を前記太陽歯車に押し付けると共に、前記遊星歯車の公転に対する固定部となる索条部材と、
前記索条部材に張力を与える張力調整部と、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るエネルギー変換装置1の全体構成を示す模式図である。
図2】無段変速機20の具体的構成例を示す模式図(上面図)である。
図3】無段変速機20の具体的構成例を示す模式図(側面図)である。
図4】第1実施形態における太陽歯車21及び遊星歯車22a,22bを構成する傘歯車Gの構造例を示す模式図である。
図5】無段変速機20を構成するための条件(1)を充足しない遊星歯車の設置例を示す模式図である。
図6】無段変速機20を構成するための条件(1)を充足しない遊星歯車の設置例を示す模式図である。
図7】無段変速機20を構成するための条件(2)を充足しない遊星歯車の設置例を示す模式図である。
図8】無段変速機20を構成するための条件(2)を充足しない遊星歯車の設置例を示す模式図である。
図9】差動装置30の具体的構成例を示す模式図である。
図10】定トルクばねを用いた場合のエネルギー変換装置1の出力特性を示す模式図である。
図11】通常のばね(定トルクばねではないばね)を用いた場合のエネルギー変換装置1の出力特性を示す模式図である。
図12】エネルギー変換装置1の動作の流れの一例を示すフローチャートである。
図13】エネルギー変換装置1を組み込んだ産業用ロボット100の構成例を示す模式図である。
図14】エネルギー変換装置1を組み込んだ産業用ロボット100の機能的構成を示すブロック図である。
図15】エネルギー変換装置1を組み込んだ立体駐車装置200の構成例を示す模式図である。
図16】エネルギー変換装置1を組み込んだ立体駐車装置200の機能的構成を示すブロック図である。
図17】エネルギー変換装置1を組み込んだ自動車300の構成例を示す模式図である。
図18】エネルギー変換装置1を組み込んだ自動車300の機能的構成を示すブロック図である。
図19】差動装置30を直列に複数設置したエネルギー変換装置1の構成例を示す模式図である。
図20】負荷を挟んで対称にエネルギー変換装置1を設置したエネルギー変換装置400の構成例を示す模式図である。
図21】差動装置30の入力軸と出力軸との相対回転速度を無段変速機20の速度可変機能によって制御する場合のエネルギー変換装置1の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
本実施形態に係るエネルギー変換装置は、弾性エネルギーを蓄積するトルク源、無段変速機及び差動装置を備え、無段変速機において、トルク源からの出力をゲイン可変として差動装置に出力すると共に、差動装置において、無段変速機の出力を複数の負荷に分配して伝達する。また、本実施形態に係るエネルギー変換装置は、複数の負荷からの入力を差動装置に入力し、差動装置において、複数の負荷からの入力を統合して無段変速機に入力すると共に、無段変速機において、差動装置からの入力をゲイン可変としてトルク源に入力する。
【0011】
そのため、トルク源からの出力にゲインを与えて大きさを調整しながら、調整された出力を差動装置によって複数の負荷に分配することができる。また、複数の負荷からの入力を差動装置によって統合し、統合された入力にゲインの逆数を与えてトルク源に入力することができる。
したがって、トルク源からの出力を全体として適切な出力に調整しつつ、複数の負荷それぞれに応じた出力を加えることができる。
また、複数の負荷からの入力を統合して、入力されたエネルギーをトルク源に回収することができる。
【0012】
即ち、トルク源に蓄積されているエネルギーを負荷における力学的エネルギーとして出力することができると共に、負荷からの力学的エネルギーを回生エネルギーとしてトルク源に蓄積することができる。
このように、本実施形態におけるエネルギー変換装置によれば、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することができる。
ただし、負荷が単一である場合等、差動装置による出力の分配及び入力の統合が必要ない場合には、差動装置を備えることなく、トルク源及び無段変速機によってエネルギー変換装置を構成することができる。即ち、トルク源からの出力をゲイン可変として負荷に出力すると共に、負荷からの入力をゲイン可変としてトルク源に入力することで、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することが可能である。
なお、本実施形態に係るエネルギー変換機構は、力学的エネルギーの入出力を行う各種機構を適用対象とすることができる。例えば、ロボットの関節、自動車やドローンといった移動体の駆動機構や他の可動部、エレベータや立体駐車場等の昇降装置、自動ドア等を対象とすることができる。
【0013】
[構成]
図1は、本実施形態に係るエネルギー変換装置1の全体構成を示す模式図である。
図1に示すように、エネルギー変換装置1は、トルク源10と、無段変速機20と、差動装置30と、を備えている。なお、ここでは、一例として、エネルギー変換装置1に2つの負荷L1,L2が接続されているものとして説明する。
トルク源10は、例えば、定トルクばねあるいはカウンタウェイト機構(カウンタウェイトに作用する重力を定トルクとして出力する機構)等によって構成され、負荷の状態に関わらず一定のトルクを出力する。また、トルク源10は、力学的エネルギーを負荷に対して供給すると共に、負荷から入力された力学的エネルギーを蓄積する。
【0014】
無段変速機20は、入力に対して無段階にゲインを与えて出力する装置であり、入力されたトルク及び回転速度に設定されたゲインを加えて出力する。無段変速機20は、入力側(トルク源10側)からの入力に設定されたゲインを与えて出力側(差動装置30側)から出力すると共に、出力側からの入力に対して、設定されたゲインの逆数を与えて入力側から出力する。本実施形態における無段変速機20は、後述するように、非回転状態で変速比を変更可能な構成を有している。
差動装置30は、例えば、デファレンシャル・ギア等の機構によって構成され、入力側(無段変速機20)からの入力を複数の出力側(負荷L1,L2)に分配して伝達すると共に、出力側からの入力を統合して入力側に伝達する。なお、差動装置30は、出力の分配及び入力の統合が必要な場合に適宜設置することが可能な構成要素である。
【0015】
[無段変速機20の構成]
次に、無段変速機20の具体的構成について説明する。
図2及び図3は、無段変速機20の具体的構成例を示す模式図であり、図2は無断変速機20の上面図、図3は無断変速機20の側面図である。
図2及び図3に示すように、本実施形態における無段変速機20は、遊星歯車機構の一種として構成され、太陽歯車21と、遊星歯車22a,22bと、歯付きアイドラ23と、キャリア24a,24bと、入力側支持部材25と、出力側支持部材26と、タイミングベルト27a,27bと、張力調整用プーリ28a~28dと、を備えている。
【0016】
太陽歯車21及び遊星歯車22a,22bは、回転軸方向の位置によって回転半径が異なる歯車(即ち、歯筋に沿う方向においてピッチ面の直径が異なる歯車)によって構成され、回転軸方向の位置(即ち、歯筋に沿う方向の位置)において、歯車のモジュールが変化する形状(即ち、歯数が同一でピッチ円の直径が異なる形状)を有している。本実施形態において、太陽歯車21及び遊星歯車22a,22bは、回転軸方向の一端から他端に近づくほど、モジュールが小さくなる構造となっている。
【0017】
図4は、本実施形態における太陽歯車21及び遊星歯車22a,22bを構成する歯車Gの構造例を示す模式図である。
図4に示すように、本実施形態における太陽歯車21及び遊星歯車22a,22bを構成する歯車Gは、底面側(回転半径が大きい側)から頂点側(回転半径が小さい側)にわたり、外周面に歯が形成されており、底面側のモジュールは大きく、頂点側に近づくほどモジュールが小さくなる構造となっている。
【0018】
歯車Gによって太陽歯車21及び遊星歯車22a,22bを構成した場合、回転軸からの半径をr、噛み合い高さをhとすると、無段変速機20の変速比αは、歯車Gの半径r及び噛み合い高さhの関数として、式(1)のように表すことができる。ただし、噛み合い高さhは、歯車Gの回転軸方向における底面から頂点までの正規化された距離(0~1)である。
【0019】
【数1】
【0020】
本実施形態の無断変速機20において、太陽歯車21と遊星歯車22a,22bとは、回転軸が平行で、転置された状態(歯車が逆向きの状態)で配置されている。また、太陽歯車21と遊星歯車22a,22bとは、後述するタイミングベルト27a,27bの拘束力によって歯の噛み合いを維持した状態で、互いに回転軸方向に移動可能(即ち、歯筋に沿って移動可能)となっている。
【0021】
そのため、遊星歯車22a,22bと太陽歯車21との歯の噛み合い位置が底面側に近づくほど(噛み合い高さhが小さいほど)、噛み合い位置の半径rが大きくなり、遊星歯車22a,22bと太陽歯車21との歯の噛み合い位置が頂点側に近づくほど(噛み合い高さhが大きいほど)、噛み合い位置の半径rが小さくなる。
したがって、太陽歯車21と遊星歯車22a,22bとの歯の噛み合い位置を変化させることで、無段変速機20の入力と出力とにおける変速比αを変化させることができると共に、変速比αに反比例してトルク伝達比を変化させることができる。
図2及び図3に示す無段変速機20は、太陽歯車21と遊星歯車22a,22bとを歯筋に沿って相対移動させることで変速比を変化させることができるため、非回転状態で変速比を変更可能な構成となっている。
【0022】
なお、本実施形態における遊星歯車22a,22bの底面側には、底面のピッチ円と同半径の円筒部Cが備えられている。この円筒部Cは、後述するように、タイミングベルト27a,27bが掛け回されるプーリの機能を有しており、無段変速機20では、一般的な遊星歯車機構における内歯車の機能を円筒部C及び歯付きアイドラ23に掛け回されたタイミングベルト27a,27bによって実現している。
【0023】
図2及び図3に戻り、歯付きアイドラ23は、タイミングベルト27a,27bの張り調整のために設置される歯付きのプーリであり、太陽歯車21の周囲において、遊星歯車22a,22bが存在しない位置に配置される。歯付きアイドラ23は、遊星歯車22a,22bにおける円筒部Cがタイミングベルト27a,27bに接する位置の回転半径と同等の半径でタイミングベルト27a,27bに張りを与えるように設置される。歯付きアイドラ23は、キャリア24a,24bによって、太陽歯車21の周囲における遊星歯車22a,22bとの位相(回転方向の位置)が固定された状態で、遊星歯車22a,22bと共に太陽歯車21の周囲を公転する。なお、歯付きアイドラ23は、キャリア24a,24bを介して遊星歯車22a,22bと同様に入力側支持部材25及び出力側支持部材26に連結されているため、遊星歯車22a,22bの公転半径の拡大及び縮小に対応して歯付きアイドラ23の公転半径も変化する。
【0024】
キャリア24a,24bは、無段変速機20の入力軸側及び出力軸側において、遊星歯車22a,22b及び歯付きアイドラ23それぞれの自転の回転中心と公転の回転中心とを連結する部材である。具体的には、キャリア24aは、遊星歯車22a,22b及び歯付きアイドラ23それぞれの自転軸の入力側と入力側支持部材25とをヒンジによって支持し、遊星歯車22a,22b及び歯付きアイドラ23それぞれの公転半径を可変に連結している。同様に、キャリア24bは、遊星歯車22a,22b及び歯付きアイドラ23それぞれの自転軸の出力側と出力側支持部材26とをヒンジによって支持し、遊星歯車22a,22b及び歯付きアイドラ23それぞれの公転半径を可変に連結している。
【0025】
入力側支持部材25は、無段変速機20の入力軸(太陽歯車21の入力軸)に回転可能に支持されていると共に、軸方向に移動可能に設置され、ヒンジを介してキャリア24aを支持している。なお、入力側支持部材25が無段変速機20の入力軸方向に移動すると、ヒンジによってキャリア24aの入力側支持部材25に対する連結角度が変化し、キャリア24aと無段変速機20の入力軸との交差角度(無断変速機20の入力軸に対するキャリア24aの開閉度合い)が変化する。また、本実施形態において、入力側支持部材25は、ボールねじを介してアクチュエータ(不図示)に駆動されることで、入力軸に沿って移動される。
【0026】
出力側支持部材26は、太陽歯車21の回転軸を回転可能に支持していると共に、無段変速機20の出力軸に固定して(即ち、相対回転不可能に)設置され、ヒンジを介してキャリア24bを支持している。なお、ヒンジによってキャリア24bの出力側支持部材26に対する連結角度が変化すると、キャリア24bと無段変速機20の出力軸との交差角度(無断変速機20の入力軸に対するキャリア24bの開閉度合い)が変化する。
【0027】
タイミングベルト27a,27bは、遊星歯車22a,22bの円筒部C及び歯付きアイドラ23に掛け回される環状のベルト部材であり、遊星歯車22a,22b及び歯付きアイドラ23の公転に対してタイミングベルト27a,27b自体は回転しないよう固定されている。具体的には、タイミングベルト27aは、遊星歯車22a,22bの円筒部C及び歯付きアイドラ23と、張力調整用プーリ28a,28bとに掛け回され、タイミングベルト27a自体が回転しないよう固定されている。また、タイミングベルト27bは、遊星歯車22a,22bの円筒部C及び歯付きアイドラ23と、張力調整用プーリ28c,28dとに掛け回され、タイミングベルト27b自体が回転しないよう固定されている。即ち、遊星歯車22a,22bの円筒部C及び歯付きアイドラ23に掛け回されたタイミングベルト27a,27bによって形成される環状閉路は、一般的な遊星歯車機構における固定された内歯車(固定部)に相当する機能を構成している。
【0028】
なお、タイミングベルト27a,27bは、遊星歯車22a,22bの円筒部C及び歯付きアイドラ23の公転位置の変化に応じて、遊星歯車22a,22bの円筒部Cと、歯付きアイドラ23との一方または両方に掛け回される状態を遷移する。
張力調整用プーリ28a~28dは、タイミングベルト27a,27bにおける張力を一定とするように調整する。例えば、張力調整用プーリ28a~28dは、ボールねじによって太陽歯車21との距離を変化されることにより、タイミングベルト27a,27bにおける張力を一定に調整する。これにより、太陽歯車21と遊星歯車22a,22bとの噛み合い位置が変化しても、タイミングベルト27a,27bが遊星歯車22a,22bを太陽歯車21に押し付ける作用を維持できると共に、タイミングベルト27a,27bが固定部となり遊星歯車22a,22bの公転が実現される。
【0029】
上述のように、本実施形態において、入力側支持部材25は、ボールねじを介してアクチュエータに駆動されることで、入力軸に沿って移動される。そのため、遊星歯車22a,22bと太陽歯車21との噛み合い位置を変化させる場合、入力側支持部材25の入力軸における位置が変化され、これに対応してキャリア24a,24bが遊星歯車22a,22b及び歯付きアイドラ23を連結する角度(キャリア24a,24bの無段変速機20の入出力軸に対する開閉度合い)が変化する。即ち、遊星歯車22a,22bと太陽歯車21との噛み合い位置の変化に応じて、歯付きアイドラ23の公転半径が遊星歯車22a,22bと同様に変化する。すると、タイミングベルト27a,27bによって構成される環状閉路(固定部)の周方向の長さが変化し、無段変速機20の出力軸の入力軸に対する回転比(即ち、太陽歯車21の自転速度と遊星歯車22a,22bの公転速度との比)が変化する。
このような機構により、無段変速機20の入力軸と出力軸とにおける変速比の変更が実現される。
【0030】
[無段変速機20の構成条件]
本実施形態における無段変速機20は、図4に示す構造例として実現可能であるが、非回転状態で変速比を変更可能な無段変速機を実現可能であれば、各種構造例を採用することが可能である。
このとき、無段変速機20を構成するための条件は、例えば、以下のように定義することができる。
条件(1):タイミングベルト1つの掛け回しを見たときに、どのような公転状態においても、タイミングベルトに接触している遊星歯車間に少なくとも1つの張力調整用プーリが配置されている構成、または、遊星歯車がタイミングベルトから完全に離れている構成となっている。
条件(2):遊星歯車が公転したいずれの位相においても、少なくとも1つの遊星歯車が少なくとも1つのタイミングベルトと接触している。
【0031】
図5及び図6は、条件(1)を充足しない遊星歯車の設置例を示す模式図である。
なお、図5及び図6においては、条件(1)を充足しない遊星歯車の正面図(負荷側から見た図)及び背面図(トルク源10側から見た図)をそれぞれ示している。
図5に示すように、遊星歯車を3つ設置した場合、歯筋に沿って太陽歯車と各遊星歯車とを相対移動させて図6の状態とする場合、隣り合う遊星歯車に掛け回されたタイミングベルトが伸縮しなければ、遊星歯車が移動できないこととなる(図6における破線部分)。タイミングベルトは伸縮しないため、このような太陽歯車と各遊星歯車との相対移動は不可能であり、無段変速機20の構成としては採用することができない。
【0032】
図7及び図8は、条件(2)を充足しない遊星歯車の設置例を示す模式図である。
図7に示すように、タイミングベルトが1つの場合、2つの遊星歯車が180度位相をずらした位置に配置されている構成であるとすると、遊星歯車が図8の状態となったときに、いずれの遊星歯車もタイミングベルトと接触していない状態となる。
この場合、遊星歯車の回転(公転)が出力軸に伝達されなくなるため、無段変速機20の構成としては採用することができない。
【0033】
[差動装置30の構成]
図9は、差動装置30の具体的構成例を示す模式図である。
図9に示すように、差動装置30は、ケース31と、入力軸32と、入力側傘歯車33と、環状歯車34と、第1出力軸35と、第1出力側傘歯車36と、差動傘歯車37と、第2出力軸38と、第2出力側傘歯車39と、を備えている。
ケース31は、第1出力軸35、第1出力側傘歯車36、差動傘歯車37、第2出力軸38及び第2出力側傘歯車39を収容するケース部材である。また、ケース31の外周には、環状歯車34が設置されていると共に、ケース31の内部には、差動傘歯車37がケース31に回転可能に支持されている。
【0034】
入力軸32は、無段変速機20の出力軸と連結され、入力軸32を介して無段変速機20との間で入出力の伝達が行われる。
入力側傘歯車33は、入力軸32の一端に設置された傘歯車であり、環状歯車34と噛み合っている。無段変速機20(入力軸32)から入力側傘歯車33への入力は、環状歯車34に伝達される。また、負荷側からケース31への入力は、環状歯車34を介して入力側傘歯車33(入力軸32)に伝達される。
【0035】
環状歯車34は、ケース31の外周に設置された傘歯車であり、入力側傘歯車33と噛み合っている。環状歯車34はケース31と一体的に回転するため、入力側傘歯車33からの入力をケース31に伝達すると共に、負荷側からケース31への入力を入力側傘歯車33に伝達する。
第1出力軸35は、負荷L1と連結され、ケース31に回転可能に支持されている。また、第1出力軸35は、差動装置30の出力を負荷L1に伝達すると共に、負荷L1からの入力を差動装置30に伝達する。
【0036】
第1出力側傘歯車36は、第1出力軸35の一端に設置された傘歯車であり、ケース31内において差動傘歯車37と噛み合っている。
差動傘歯車37は、ケース31の内部において、ケース31に回転可能に支持されている。また、差動傘歯車37は、第1出力側傘歯車36及び第2出力側傘歯車39と噛み合っており、差動傘歯車37が回転することによって、第1出力側傘歯車36と第2出力側傘歯車39とに入出力の差を生じさせる。
【0037】
第2出力軸38は、負荷L2と連結され、ケース31に回転可能に支持されている。また、第2出力軸38は、差動装置30の出力を負荷L2に伝達すると共に、負荷L2からの入力を差動装置30に伝達する。
第2出力側傘歯車39は、第2出力軸38の一端に設置された傘歯車であり、ケース31内において差動傘歯車37と噛み合っている。
このような構成により、差動装置30においては、無段変速機20からの入力を負荷L1,L2に適応的に分配することができると共に、負荷L1,L2からの入力を統合し、無段変速機20に出力することができる。
【0038】
[エネルギー変換装置1の設計条件]
本実施形態に係るエネルギー変換装置1は、トルク源10からの出力トルクに無段変速機20によってゲインを加え、負荷に対するトルクを出力する。
そのため、トルク源10の出力トルクをT0、無段変速機20が付与可能なゲインの最小値をGmin、最大値をGmaxとすると、エネルギー変換装置1を構成する場合、目標とする出力トルクの範囲(以下、「目標出力範囲Tr」と称する。)に対して、
T0×Gmin≦Tr≦T0×Gmax
となることが設計条件となる。
この設計条件を実現する場合、有効なエネルギー変換装置1の出力トルクT0を広範な変位において確保することが重要となる。
【0039】
図10は、定トルクばねを用いた場合のエネルギー変換装置1の出力特性を示す模式図である。また、図11は、通常のばね(定トルクばねではないばね)を用いた場合のエネルギー変換装置1の出力特性を示す模式図である。
図10に示すように、定トルクばねを用いた場合の出力特性は、無段変速機20で必要なゲインを付与することで、変位xの全般に渡って一定範囲のトルクを出力可能であるため、目標とする出力トルクを容易に得ることができる。
一方、図11に示すように、通常のばねを用いた場合の出力特性は、ばねの出力が変位によって大きく変動するため、変位xの限られた範囲でしか目標とする出力トルクを得ることができない。
そのため、エネルギー変換装置1を構成する場合には、出力トルクが一定のトルク源である定トルクばね(あるいはカウンタウェイト機構等)を用いることが好適である。
【0040】
[動作]
次に、エネルギー変換装置1の動作を説明する。
エネルギー変換装置1は、例えば、複数の負荷を駆動するトルクを出力すると共に、これら複数の負荷の合計トルクが変化する作業等に適用することができる。
ここでは、説明の便宜のため、エネルギー変換装置1が2つの負荷L1,L2を駆動すると共に、負荷L1,L2の合計トルクが第1のトルクT1である第1の動作と、負荷L1,L2の合計トルクが第2のトルクT2である第2の動作とを切り替えながら、繰り返し実行する場合を例に挙げて説明する。
【0041】
図12は、エネルギー変換装置1の動作の流れの一例を示すフローチャートである。
なお、図12においては、エネルギー変換装置1が、原点位置から動作を開始し、所定の動作を行った後、原点位置に復帰する動作を実行する場合を例として示している。
図12に示すように、エネルギー変換装置1が動作する場合、初めに、ステップS1において、トルク源10に力学的エネルギーが蓄積される。
このとき、エネルギー変換装置1が実行する一連の動作(原点位置から始まり、原点位置に復帰するまでの動作)で必要とされる最大のエネルギー以上のエネルギーが蓄積される。
【0042】
ステップS2において、無段変速機20が第1の動作のために変速される。無断変速機20の変速は、エネルギー変換装置1の利用形態に応じて自動または手動で実行することが可能である。
ステップS3において、エネルギー変換装置1は、第1のトルクT1で第1の動作を実行する。このとき、エネルギー変換装置1の動作速度は、第1の速度V1となる。
ステップS4において、無段変速機20が第2の動作のために変速される。
ステップS5において、エネルギー変換装置1は、第2のトルクT2で第2の動作を実行する。このとき、エネルギー変換装置1の動作速度は、第2の速度V2となる。
【0043】
ステップS6において、エネルギー変換装置1は、第1の動作及び第2の動作で出力したエネルギーをトルク源10に回収しながら、第2の動作を実行した後の位置から、第1の動作を実行する前の位置(元の位置)に復帰する。
ステップS6の後、処理はステップS2に移行する。
【0044】
このような動作を行うことにより、エネルギー変換装置1は、必要なトルクが異なる第1の動作及び第2の動作を切り替えて実行することができると共に、これらの動作で供給したエネルギーをトルク源10に回収することができる。
したがって、エネルギー変換装置1においては、一連の動作で必要となる力学的エネルギーをほぼ損失することなく、目的とする動作を行うことができる。
即ち、エネルギー変換装置1によれば、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することが可能となる。
【0045】
[具体的適用例]
次に、エネルギー変換装置1の具体的な適用例について説明する。
エネルギー変換装置1は、力学的エネルギーの変換を伴う種々の対象に適用することが可能であるが、エネルギー変換装置1の適用対象は、大別して、以下の3つの形態に分類することができる。
【0046】
[力学的エネルギー型]
エネルギー変換装置1は、3次元的(即ち、水平方向及び鉛直方向)に位置変化可能な対象に適用することができる。
3次元的に位置変化可能な対象にエネルギー変換装置1を適用した形態を、以下、「力学的エネルギー型」と称する。
【0047】
力学的エネルギー型のエネルギー変換装置1では、その動作において、運動エネルギー及び位置エネルギーの両方が変化する。
そして、力学的エネルギー型のエネルギー変換装置1では、動作に必要な力学的エネルギーをトルク源10から供給してエネルギー変換装置1を動作させると共に、動作終了までの過程において放出される力学的エネルギーをトルク源10に回収することができる。回収された力学的エネルギーは、再度、動作のためのエネルギーとして供給することができる。
力学的エネルギー型のエネルギー変換装置1は、例えば、産業用ロボット、ヒューマノイドロボット、パワーアシストスーツ、ジェットコースター、モータグライダー、潜水艦等として構成することができる。
力学的エネルギー型の形態の一例として、エネルギー変換装置1を組み込んだ産業用ロボットの構成について説明する。
【0048】
図13は、エネルギー変換装置1を組み込んだ産業用ロボット100の構成例を示す模式図である。
また、図14は、エネルギー変換装置1を組み込んだ産業用ロボット100の機能的構成を示すブロック図である。
図13に示すように、産業用ロボット100は、6軸の関節を有する垂直多関節ロボットであり、複数の関節のうち、鉛直軸周りにアーム全体を回転させる第1関節J1と、鉛直方向にアーム全体を揺動させる第2関節J2にエネルギー変換装置1が適用されている。即ち、産業用ロボット100において、第1関節J1及び第2関節J2が、エネルギー変換装置1の負荷となる対象関節である。なお、産業用ロボット100の他の関節にエネルギー変換装置1を適用することも可能である。
【0049】
また、図13及び図14に示すように、エネルギー変換装置1を組み込んだ産業用ロボット100は、トルク源10と、無段変速機20と、差動装置30と、制御部110と、変速用アクチュエータ120と、第1関節J1と、第2関節J2と、を備えている。
これらのうち、トルク源10、無段変速機20及び差動装置30の構成は、図1に示す各部の構成と同様である。
【0050】
制御部110は、PC(Personal Computer)あるいはプログラマブルコントローラ等の情報処理装置によって構成され、産業用ロボット100の動作を制御する。具体的には、制御部110は、予め定義されたプログラムに従って、産業用ロボット100の各関節を制御し、産業用ロボット100に目的とする動作を実行させる。本実施形態において、制御部110は、変速用アクチュエータ120によって、無段変速機20の変速比αを負荷の状態に応じて変化させ、第1関節J1及び第2関節J2のトルク(駆動時及びエネルギー回収時のトルク)を制御する。また、制御部110は、第1位置決め装置P1及び第2位置決め装置P2によって、第1関節J1及び第2関節J2を含む産業用ロボット100の各関節を特定位置に位置決めする。
【0051】
変速用アクチュエータ120は、制御部110の指示に従って、無段変速機20の変速比α(即ち、図4における歯車Gの噛み合い高さh)を変化させる。
第1関節J1は、産業用ロボット100のアーム全体を鉛直軸周りに回転させる関節である。第1関節J1には、回転軸周りの一方向にトルクのオフセットが付与されており、この一方向に第1関節J1が回転する場合、トルクのオフセットが駆動力となって回転する。また、回転軸周りの反対方向に第1関節J1が回転する場合、差動装置30からの駆動トルクによって回転する。
【0052】
具体的には、第1関節J1は、第1回転軸R1と、トルクオフセットばねKと、第1位置決め装置P1と、第1ロータリーエンコーダE1と、を備えている。
第1回転軸R1は、産業用ロボット100の下腕が鉛直方向に揺動する際の回転軸となる。
トルクオフセットばねKは、定トルクばね等の弾性部材によって構成され、第1関節J1に対し、常に一方向(ここでは、上面視右回りの方向とする。)に回転するトルク(オフセットトルク)を付与する。
【0053】
第1位置決め装置P1は、制御部110からの指示に従って、第1関節J1の位置(回転軸R1周りの回転角度)を特定位置に固定する。第1位置決め装置P1は、トルクオフセットばねKからのオフセットトルクによって回転された第1関節J1を特定位置で停止させたり、差動装置30からの駆動トルクによって回転された第1関節J1を特定位置で停止させたりする。
第1ロータリーエンコーダE1は、第1関節J1の位置(回転軸R1周りの回転角度)を検出する。第1ロータリーエンコーダE1は、検出した第1関節J1の位置を制御部110に送信する。
【0054】
第2関節J2は、産業用ロボット100の下腕(ロアアーム)を鉛直方向に揺動させる関節であり、第2関節J2には、アーム全体及びアームが保持している負荷に働く重力に起因したトルクが作用する。
具体的には、第2関節J2は、第2回転軸R2と、第2位置決め装置P2と、第2ロータリーエンコーダE2と、を備えている。
第2回転軸R2は、産業用ロボット100の下腕が鉛直方向に揺動する際の回転軸となる。
【0055】
第2位置決め装置P2は、制御部110からの指示に従って、第2関節J2の位置(回転軸R2周りの回転角度)を特定位置に固定する。第2位置決め装置P2は、差動装置30からの駆動トルクによって回転された第2関節J2を特定位置で停止させたり、負荷に働く重力等に起因するトルクよって回転した第2関節J2を特定位置で停止させたりする。
第2ロータリーエンコーダE2は、第2関節J2の位置(回転軸R2周りの回転角度)を検出する。第2ロータリーエンコーダE2は、検出した第2関節J2の位置を制御部110に送信する。
【0056】
このような構成により、エネルギー変換装置1を組み込んだ産業用ロボット100においては、鉛直軸周りにアーム全体を回転させる場合、第1の回転方向(ここでは、上面視左回りの方向)においては、トルク源10から供給されるエネルギーによって、オフセットトルクに抗してアーム全体を回転させるための駆動トルクが与えられる。このとき、トルクオフセットばねKには、トルク源10からの駆動トルクによって発生した力学的エネルギーが蓄積される。一方、第2の回転方向(上面視右回りの方向)においては、トルクオフセットばねKからのオフセットトルクによって、差動装置30からの駆動トルクに抗してアーム全体が回転される。このとき、トルク源10には、トルクオフセットばねKからのオフセットトルクによって発生した力学的エネルギーが蓄積される。
【0057】
なお、鉛直軸周りの第1の回転方向にアーム全体を回転させる場合、オフセットトルクの大きさよりも大きい駆動トルクが第1関節J1に出力されるように、無段変速機20の変速比α(即ち、図4における歯車Gの噛み合い高さh)が設定される。また、鉛直軸周りの第2の回転方向にアーム全体を回転させる場合、オフセットトルクの大きさよりも小さい駆動トルクが第1関節J1に出力されるように、無段変速機20の変速比αが設定される。
【0058】
また、エネルギー変換装置1を組み込んだ産業用ロボット100においては、下腕を鉛直上方に揺動させる場合、トルク源10から供給されるエネルギーによって駆動トルクが与えられる。また、下腕を鉛直下方に揺動させる場合、アーム及び負荷に働く重力に起因するトルクが与えられ、下腕の動作に伴い減少した位置エネルギーはトルク源10に回収される。
なお、下腕を鉛直上方に揺動させる場合、アーム及び負荷に働く重力に起因するトルクの大きさよりも大きい駆動トルクが第2関節J2に出力されるように、無段変速機20の変速比αが設定される。また、下腕を鉛直下方に揺動させる場合、アーム及び負荷に働く重力に起因するトルクの大きさよりも小さい駆動トルクが第2関節J2に出力されるように、無段変速機20の変速比αが設定される。
【0059】
即ち、エネルギー変換装置1を組み込んだ産業用ロボット100は、アーム全体における水平方向の動作に関して、第1の回転方向においては、トルク源10からのトルクによって回転動作させると共に、トルクオフセットばねKに力学的エネルギーを蓄積し、第2の回転方向においては、オフセットトルクによって回転動作させると共に、トルク源10に力学的エネルギーを蓄積する。
【0060】
また、エネルギー変換装置1を組み込んだ産業用ロボット100は、アーム及び負荷における鉛直方向の動作に関して、鉛直上方には、トルク源10からエネルギーを供給して動作させると共に、位置エネルギーを増加させ、鉛直下方には、重力によって動作させると共に、トルク源10に力学的エネルギーを蓄積する。
したがって、エネルギー変換装置1を組み込んだ産業用ロボット100によれば、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することができる。
【0061】
[位置エネルギー型]
エネルギー変換装置1は、鉛直方向に位置変化可能な対象に適用することができる。
鉛直方向に位置変化可能な対象にエネルギー変換装置1を適用した形態を、以下、「位置エネルギー型」と称する。
【0062】
位置エネルギー型のエネルギー変換装置1では、その動作において、主に位置エネルギーが変化する。
そして、位置エネルギー型のエネルギー変換装置1では、動作に必要な位置エネルギーをトルク源10から供給してエネルギー変換装置1を動作させると共に、動作終了までの過程において減少する位置エネルギーをトルク源10に回収することができる。回収された位置エネルギーは、再度、動作のためのエネルギーとして供給することができる。
位置エネルギー型のエネルギー変換装置1は、例えば、立体駐車場/駐輪場、クレーン、エレベータ、エスカレータ、階段昇降機、荷台昇降機、スカラ型ロボット、工作機械、水力発電設備(トルク源10に余剰電力または貯水の放流でエネルギーを蓄積し、トルク源10のエネルギーで揚水する設備)等として構成することができる。
位置エネルギー型の形態の一例として、エネルギー変換装置1を組み込んだ立体駐車場の構成について説明する。
【0063】
図15は、エネルギー変換装置1を組み込んだ立体駐車装置200の構成例を示す模式図である。
また、図16は、エネルギー変換装置1を組み込んだ立体駐車装置200の機能的構成を示すブロック図である。
図15に示すように、立体駐車装置200は、昇降可能な複数のパレットを備える方式の立体駐車装置として構成され、複数のパレットの昇降にエネルギー変換装置1が適用されている。なお、説明の便宜のため、ここではパレットが2つ設置されている場合を例に挙げて説明する。パレットが2つ設置されている場合、一方または両方が昇降動作を行うこととなり、この昇降動作において、エネルギー変換装置1が位置エネルギーの供給及び回収を行う。
【0064】
図15及び図16に示すように、エネルギー変換装置1を組み込んだ立体駐車装置200は、トルク源10と、無段変速機20と、差動装置30と、制御部110と、変速用アクチュエータ120と、第1パレットPL1と、第2パレットPL2と、を備えている。
これらのうち、トルク源10、無段変速機20及び差動装置30の構成は、図1に示す各部の構成と同様である。
【0065】
制御部110は、PCあるいはプログラマブルコントローラ等の情報処理装置によって構成され、立体駐車装置200の動作を制御する。具体的には、制御部110は、予め定義されたプログラムに従って、立体駐車装置200の昇降動作を制御する。本実施形態において、制御部110は、変速用アクチュエータ120によって、無段変速機20の変速比αを負荷の状態に応じて変化させ、立体駐車装置200の昇降動作におけるトルク(駆動時及びエネルギー回収時のトルク)を制御する。
【0066】
変速用アクチュエータ120は、制御部110の指示に従って、無段変速機20の変速比α(即ち、図4における歯車Gの噛み合い高さh)を変化させる。
第1パレットPL1は、上段及び下段に自動車の格納スペースを有し、第1パレットPL1全体を昇降させる昇降機構EL1を備えている。そして、第1パレットPL1は、差動装置30からの駆動トルクによって鉛直上方に移動されたり、第1パレットPL1及び第1パレットPL1に格納されている自動車に働く重力によって鉛直下方に移動されたりする。鉛直方向に昇降されることにより、上段または下段の格納スペースが地上の高さに移動され、自動車の入庫または出庫が可能となる。本実施形態において、第1パレットPL1は、昇降方向の上限位置及び下限位置に設置されたストッパーにより、特定位置(予め定められた上段及び下段の高さ)に位置決めされる。
【0067】
第2パレットPL2は、上段及び下段に自動車の格納スペースを有し、第2パレットPL2全体を昇降させる昇降機構EL2を備えている。そして、第2パレットPL2は、差動装置30からの駆動トルクによって鉛直上方に移動されたり、第2パレットPL2及び第2パレットPL2に格納されている自動車に働く重力によって鉛直下方に移動されたりする。鉛直方向に昇降されることにより、上段または下段の格納スペースが地上の高さに移動され、自動車の入庫または出庫が可能となる。本実施形態において、第2パレットPL2は、昇降方向の上限位置及び下限位置に設置されたストッパーにより、特定位置(予め定められた上段及び下段の高さ)に位置決めされる。
【0068】
このような構成により、エネルギー変換装置1を組み込んだ立体駐車装置200においては、第1パレットPL1及び第2パレットPL2を鉛直上方に移動させる場合、トルク源10から供給されるエネルギーによって駆動トルクが与えられる。また、第1パレットPL1及び第2パレットPL2を鉛直下方に移動させる場合、第1パレットPL1及び第2パレットPL2あるいはこれらに格納されている自動車に働く重力に起因するトルクが与えられ、第1パレットPL1及び第2パレットPL2の昇降に伴い減少した位置エネルギーはトルク源10に回収される。
【0069】
なお、第1パレットPL1及び第2パレットPL2を鉛直上方に移動させる場合、第1パレットPL1及び第2パレットPL2あるいはこれらに格納されている自動車に働く重力に起因するトルクの大きさよりも大きい駆動トルクが第1パレットPL1及び第2パレットPL2の昇降機構EL1,EL2に出力されるように、無段変速機20の変速比α(即ち、図4における歯車Gの噛み合い高さh)が設定される。また、第1パレットPL1及び第2パレットPL2を鉛直下方に移動させる場合、第1パレットPL1及び第2パレットPL2あるいはこれらに格納されている自動車に働く重力に起因するトルクの大きさよりも小さい駆動トルクが第1パレットPL1及び第2パレットPL2の昇降機構EL1,EL2に出力されるように、無段変速機20の変速比αが設定される。
【0070】
即ち、エネルギー変換装置1を組み込んだ立体駐車装置200は、第1パレットPL1及び第2パレットPL2における鉛直方向の動作に関して、鉛直上方には、トルク源10からエネルギーを供給して動作させると共に、位置エネルギーを増加させ、鉛直下方には、重力によって動作させると共に、トルク源10に力学的エネルギーを蓄積する。
したがって、エネルギー変換装置1を組み込んだ立体駐車装置200によれば、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することができる。
【0071】
[運動エネルギー型]
エネルギー変換装置1は、水平方向に位置変化可能な対象に適用することができる。
水平方向に位置変化可能な対象にエネルギー変換装置1を適用した形態を、以下、「運動エネルギー型」と称する。
【0072】
運動エネルギー型のエネルギー変換装置1では、その動作において、主に運動エネルギーが変化する。
そして、運動エネルギー型のエネルギー変換装置1では、動作に必要な運動エネルギーをトルク源10から供給してエネルギー変換装置1を動作させると共に、動作終了までの過程において減少する運動エネルギーをトルク源10に回収することができる。回収された運動エネルギーは、再度、動作のためのエネルギーとして供給することができる。
運動エネルギー型のエネルギー変換装置1は、例えば、自動車、自転車、バイク、列車、電動車椅子、パーソナルモビリティ、遊具のコーヒーカップあるいはメリーゴーランド、宇宙空間用マニピュレータ等として構成することができる。
運動エネルギー型の形態の一例として、エネルギー変換装置1を組み込んだ自動車の構成について説明する。
【0073】
図17は、エネルギー変換装置1を組み込んだ自動車300の構成例を示す模式図である。
また、図18は、エネルギー変換装置1を組み込んだ自動車300の機能的構成を示すブロック図である。
図17に示すように、自動車300は、トルクアシストシステム及び回生ブレーキシステムを備える自動車として構成され、車輪の駆動及び制動にエネルギー変換装置1が適用されている。なお、自動車300は、エンジンまたは電動モータ等の駆動源Mを備えており、エネルギー変換装置1は、駆動源Mからの駆動トルクに対し、アシストトルクを付与する。以下、説明の便宜のため、ここでは駆動輪が2つである場合を例に挙げて説明する。自動車300において、駆動時には、一方または両方の車輪が駆動力を出力し、また、制動時には、一方または両方の車輪が制動力を出力する。そして、これら駆動及び制動の動作において、エネルギー変換装置1が運動エネルギーの供給及び回収を行う。
【0074】
図17及び図18に示すように、エネルギー変換装置1を組み込んだ自動車300は、トルク源10と、無段変速機20と、逆転装置310と、差動装置30と、制御部110と、変速用アクチュエータ120と、駆動源Mと、第1車輪WH1と、第2車輪WH2と、を備えている。
これらのうち、トルク源10、無段変速機20及び差動装置30の構成は、図1に示す各部の構成と同様である。
【0075】
逆転装置310は、無段変速機20の出力軸と差動装置30の入力軸との間に設置され、無段変速機20の出力軸と差動装置30の入力軸とにおける回転の伝達方向を切り替える。具体的には、逆転装置310は、無段変速機20から差動装置30に駆動トルクを出力する場合、無段変速機20の出力軸と同方向に差動装置30の入力軸を回転(正転)させる。また、逆転装置310は、差動装置30から無段変速機20に回生トルクを入力する場合、差動装置30の入力軸と反対方向に無段変速機20の出力軸を回転(逆転)させる。したがって、自動車300が前方へ移動している際に、第1車輪WH1及び第2車輪WH2に駆動トルクが与えられて自動車300が加速する場合には、無段変速機20の出力軸と差動装置30の入力軸とが同方向に回転し、トルク源10からエネルギーが供給される。一方、自動車300が前方へ移動している際に、第1車輪WH1及び第2車輪WH2から回生トルクが入力されて自動車300が減速する(制動される)場合には、無段変速機20の出力軸と差動装置30の入力軸とが反対方向に回転し、トルク源10にエネルギーが蓄積される。
【0076】
制御部110は、車載用コンピュータ等の情報処理装置によって構成され、自動車300の動作を制御する。具体的には、制御部110は、予め定義されたプログラムに従って、自動車300の駆動及び回生制動を制御する。本実施形態において、制御部110は、変速用アクチュエータ120によって、無段変速機20の変速比αを駆動時の負荷の状態(第1車輪WH1及び第2車輪WH2において必要な駆動トルク)に応じて変化させる。即ち、制御部110は、自動車300の加速時における駆動トルクを制御する。また、制御部110は、変速用アクチュエータ120によって、無段変速機20の変速比αを制動時の負荷の状態(第1車輪WH1及び第2車輪WH2において必要な制動トルク)に応じて変化させる。即ち、制御部110は、自動車300の減速時における回生トルクを制御する。
変速用アクチュエータ120は、制御部110の指示に従って、無段変速機20の変速比α(即ち、図4における歯車Gの噛み合い高さh)を変化させる。
駆動源Mは、エンジンまたは電動モータ等によって構成され、第1車輪HW1及び第2車輪WH2を回転させる駆動力を発生する。
【0077】
このような構成により、エネルギー変換装置1を組み込んだ自動車300においては、加速する場合、トルク源10から第1車輪WH1及び第2車輪WH2に駆動トルクが与えられ、自動車300の運動エネルギーが増加する。また、エネルギー変換装置1を組み込んだ自動車300においては、減速(制動)する場合、第1車輪WH1及び第2車輪WH2からトルク源10に回生トルクが入力され、自動車300のトルク源10にエネルギーが回収される。
【0078】
なお、自動車300を加速させる場合、第1車輪WH1及び第2車輪WH2それぞれの目標駆動トルクが出力されるように、無段変速機20の変速比α(即ち、図4における歯車Gの噛み合い高さh)が設定される。また、自動車300を減速させる(制動する)場合、第1車輪WH1及び第2車輪WH2それぞれの目標制動トルクが出力されるように、無段変速機20の変速比αが設定される。
即ち、エネルギー変換装置1を組み込んだ自動車300は、加速時には、トルク源10からエネルギーを供給すると共に、運動エネルギーを増加させ、減速時には、運動エネルギーを減少させると共に、トルク源10に力学的エネルギーを蓄積する。
【0079】
したがって、エネルギー変換装置1を組み込んだ自動車300によれば、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することができる。
なお、上述の説明では、エネルギー変換装置1は、駆動源Mからの駆動トルクに対し、アシストトルクを付与するものとして説明したが、これに限られず、例えば、発進時等にトルク源10からの駆動トルクのみによって、自動車300を加速させてもよい。
【0080】
[変形例1]
上述の実施形態において、差動装置30に2つの負荷を連結し、これらの負荷にトルク源10からのトルクを分配すると共に、負荷からのトルクを統合してトルク源10に入力するものとした。
これに対し、差動装置30を直列に複数設置することで、種々の接続パターンで複数の負荷を連結することができる。
【0081】
図19は、差動装置30を直列に複数設置したエネルギー変換装置1の構成例を示す模式図である。
図19に示すように、エネルギー変換装置1は、差動装置30を直列に複数設置することにより、任意の数の負荷(第1負荷~第n負荷(nは2以上の整数))を連結することができる。
例えば、6軸の関節を有する産業用ロボットの全ての関節を負荷として、複数の差動装置30によって6つの負荷を連結する構成とすることができる。
この場合、一例として、第1の差動装置30の1つの出力軸に第2の差動装置30、他の出力軸に第3の差動装置30を連結し、第2の差動装置30または第3の差動装置30の4つ出力軸のいずれか1つに第4の差動装置30、他の1つの出力軸に第5の差動装置30を連結することができる。
このように、差動装置30を直列に複数設置することにより、1つのトルク源10によって、より多くの負荷にエネルギーを提供したり、より多くの負荷からエネルギーを回収したりすることができるため、装置の小型・軽量化あるいはエネルギー管理の容易化を図ることができる。
【0082】
[変形例2]
上述の実施形態において、水平方向の動作(鉛直軸周りの回転動作等)を行う場合、一方向にオフセットトルクを付与し、この一方向に動作させる際にはオフセットトルクで動作させ、一方向とは反対方向に動作させる際には、トルク源10からのトルクで動作させるものとして説明した。
これに対し、負荷を挟んで対称にエネルギー変換装置1を設置することにより、水平方向の動作において、双方向の駆動及びエネルギーの回収を行うことができる。
【0083】
図20は、負荷を挟んで対称にエネルギー変換装置1を設置したエネルギー変換装置400の構成例を示す模式図である。
図20に示すように、エネルギー変換装置400は、エネルギー変換装置1Aと、エネルギー変換装置1Bと、2つの負荷L1,L2と、を備えている。なお、負荷の数は、目的に応じて種々変更することが可能である。また、エネルギー変換装置1は、無段変速機20の変速比αを制御する制御部や、負荷の位置を特定位置に固定する位置決め装置等を適宜備えることができる。
エネルギー変換装置1A,1Bの構成は、図1に示すエネルギー変換装置1の構成と同様である。ただし、エネルギー変換装置1Aにおける差動装置30の出力軸の回転方向と負荷L1,L2の動作方向の関係は、エネルギー変換装置1Bにおける差動装置30の出力軸の回転方向と負荷L1,L2の動作方向の関係と反対になるよう構成されている。
【0084】
即ち、エネルギー変換装置1Aからエネルギーを供給する場合(エネルギー変換装置1Aの差動装置30の出力軸が第1の方向に回転する場合)に負荷L1,L2が第1の方向に動作するものとすると、エネルギー変換装置1Bからエネルギーを供給する場合(エネルギー変換装置1Bの差動装置30の出力軸が第1の方向に回転する場合)に負荷L1,L2は、第1の方向とは反対の第2の方向に動作する。
例えば、負荷L1が鉛直軸周りに回転する関節である場合に、エネルギー変換装置1Aからエネルギーを供給し、差動装置30の出力軸が第1の方向に回転したとき、負荷L1が鉛直軸周りの上面視右回りに回転するものとする。
この場合、エネルギー変換装置1Bからエネルギーを供給し、差動装置30の出力軸が第1の方向に回転したとき、負荷L1は鉛直軸周りの上面視左回りに回転する。
【0085】
また、エネルギー変換装置400において、エネルギー変換装置1Aからエネルギーを供給し、負荷L1,L2が第1の方向に動作する場合、負荷L1,L2を駆動するトルクに加え、エネルギー変換装置1Bのトルク源10にエネルギーを蓄積するトルクが併せて出力される。
同様に、エネルギー変換装置1Bからエネルギーを供給し、負荷L1,L2が第1の方向とは反対の第2の方向に動作する場合、負荷L1,L2を駆動するトルクに加え、エネルギー変換装置1Aのトルク源10にエネルギーを蓄積するトルクが併せて出力される。
【0086】
そのため、位置エネルギーの変化がない動作を行う負荷においても、エネルギー変換装置1A,1Bが出力するトルクによって、エネルギーの供給及び回収を行いながら、往復動作を行うことができる。
したがって、エネルギー変換装置400によれば、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することができる。
【0087】
[変形例3]
上述の実施形態において、無段変速機20の出力軸と差動装置30の入力軸とを連結し、無段変速機20の速度可変機能と、差動装置30のトルク統合・分配機能とを個別に発揮させるものとしたが、これに限られない。
即ち、無段変速機20の入力軸を差動装置30Aの出力軸の一方と連動させることで、差動装置30の入力軸と出力軸との相対回転速度を無段変速機20の速度可変機能によって制御することができる。そして、差動装置30の2つの出力軸のうち、無段変速機20の入力軸と連動していない方の出力軸に、次段の差動装置30を連結し、この差動装置30の出力軸に負荷を連結することで、負荷の回転速度及びトルクを制御することが可能となる。
図21は、差動装置30の入力軸と出力軸との相対回転速度を無段変速機20の速度可変機能によって制御する場合のエネルギー変換装置1の構成例を示す模式図である。
図21に示すように、本変形例のエネルギー変換装置1では、無段変速機20の出力軸に第1段の差動装置30Aが連結され、無段変速機20の入力軸と差動装置30Aの出力軸の一方とが連動すると共に、差動装置30Aの出力軸の他方に、第2段の差動装置30Bが連結されている。具体的には、無段変速機20の出力軸が差動装置30Aの入力軸32と連結されていると共に、無段変速機20の入力軸と差動装置30の出力軸の一方(ここでは、第1出力軸35とする。)とが、タイミングベルト等の動力伝達部材によって連動する構成となっている。さらに、差動装置30Aの出力軸の他方(ここでは、第2出力軸38とする。)が次段の無段変速機30Bの入力軸32と連結されている。
差動装置30A,30Bは、入力軸32の回転速度(即ち、ケース31の回転速度)に対する一方の出力軸(例えば、第1出力軸35)の回転速度によって、他方の出力軸(例えば、第2出力軸38)の回転速度が変化する。
そのため、差動装置30A,30Bにおいて、入力軸32の回転速度と、一方の出力軸(例えば、第1出力軸35)の回転速度とを制御することで、他方の出力軸(例えば、第2出力軸38)を正方向に回転させたり、逆方向に回転させたり、非回転状態としたりすることができる。
このような特徴を利用して、逆転装置等を用いることなく、トルク源10の出力軸の回転方向に対し、差動装置30Bの出力軸に連結された負荷の回転方向を同方向あるいは逆方向に制御することが可能となる。
したがって、トルク源10からエネルギーを出力する場合に、トルク源10の出力軸の回転方向に対し、負荷を正方向及び逆方向に回転させることができる。
また、負荷からの入力により差動装置30Bの出力軸がいずれの方向に回転した場合であっても、トルク源10の出力軸をエネルギーが回収される方向に回転させること(即ち、エネルギーの回生)が可能となる。
【0088】
以上説明したように、本発明に係るエネルギー変換装置1は、トルク源10と、無段変速機20と、を備える。
トルク源10は、力学的エネルギーの供給及び蓄積が可能である。
無断変速機20は、トルク源10に入力軸が連結され、入出力軸が非回転状態で変速比を変更可能である。
これにより、エネルギー変換装置1は、必要なトルクが異なる複数の動作を切り替えて実行することができると共に、これらの動作で供給したエネルギーをトルク源10に回収することができる。
したがって、エネルギー変換装置1においては、一連の動作で必要となる力学的エネルギーをほぼ損失することなく、目的とする動作を行うことができる。
即ち、エネルギー変換装置1によれば、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することが可能となる。
【0089】
無断変速機20は、太陽歯車21と、遊星歯車22a,22bと、円筒部Cと、タイミングベルト27a,27bと、張力調整用プーリ28a~28dと、を備える。
太陽歯車21は、歯筋に沿う方向においてピッチ円の直径が異なる太陽歯車である。
遊星歯車22a,22bは、歯筋に沿う方向においてピッチ円の直径が異なると共に、太陽歯車21との噛み合い位置を歯筋に沿って相対移動可能な遊星歯車である。
円筒部Cは、遊星歯車22a,22bの自転軸と同軸に設置され、遊星歯車22a,22bと一体に回転するプーリを構成する。
タイミングベルト27a,27bは、円筒部Cに巻き掛けられ、遊星歯車22a,22bを太陽歯車21に押し付けると共に、遊星歯車22a,22bの公転に対する固定部となる。
張力調整用プーリ28a~28dは、タイミングベルト27a,27bに張力を与える。
これにより、無段変速機20の入力側からの入力にゲインを与えて出力側から出力することができると共に、出力側からの入力に対して、ゲインの逆数を与えて入力側から出力することができる。また、太陽歯車21と遊星歯車22a,22bとを歯筋に沿う方向に相対移動させることにより、非回転状態において、無段変速機20のゲイン(変速比)を変更することが可能となる。
【0090】
エネルギー変換装置1は、遊星歯車22a,22bの公転軌道において、異なる位相に位置する遊星歯車22a,22bの円筒部Cを太陽歯車21に押し付ける複数のタイミングベルト27a,27bを備える。
これにより、遊星歯車22a,22bが公転軌道におけるいずれの位置にある場合であっても、太陽歯車21に遊星歯車22a,22bを押し付けることが可能となる。また、遊星歯車22a,22bの公転半径が変化した場合にも、遊星歯車22a,22bの公転に対する固定部の大きさ(周方向の長さ)を柔軟に変更することが可能となる。
【0091】
入力軸が無段変速機20の出力軸に連結され、入力軸と複数の出力軸とにおいて力学的エネルギーを伝達する差動装置30を備える。
これにより、トルク源10からのトルクを複数の負荷に分配することができると共に、複数の負荷からのトルクを統合してトルク源10に入力することができる。
【0092】
第1の差動装置30の出力軸に、第2の差動装置30が直列に連結されている。
これにより、直列に連結する差動装置30の数を選択することで、必要な数の負荷にトルクを分配することが可能となる。
【0093】
トルク源10は、位置エネルギー及び運動エネルギーの少なくともいずれかが変化する負荷に対するエネルギーの供給及び当該負荷からのエネルギーの蓄積を行う。
これにより、主に位置エネルギーが変化する負荷、主に運動エネルギーが変化する負荷、及び、主に位置エネルギーと運動エネルギーとが変化する負荷を対象として、エネルギーの供給及び蓄積を実現することが可能となる。
【0094】
トルク源10は、往復動作を行う負荷の一方向の動作においてエネルギーを供給すると共に、他の方向の動作においてエネルギーを蓄積する。
これにより、負荷の往復動作で必要となるエネルギーの損失を抑制し、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することが可能となる。
【0095】
負荷を駆動するトルク源10とは異なる駆動源Mを備える。
トルク源10は、駆動源と協働して、または、単独で負荷を駆動する。
これにより、駆動源Mを備える対象に対し、エネルギー変換装置1を組み込んで、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することが可能となる。
【0096】
トルク源10は、負荷の動作を制動する際に負荷側から入力される回生エネルギーを蓄積する。
これにより、運動エネルギーの損失を抑制し、力学的エネルギーをより効率的に蓄積及び利用することが可能となる。
【0097】
なお、上記実施形態及び変形例において、太陽歯車21の周囲に2つの遊星歯車22a,22bを設置する構造例について説明したが、これに限られない。即ち、遊星歯車機構を構成することができれば、太陽歯車21の周囲に配置する遊星歯車の数は、1つまたは3つ以上とすることが可能である。
また、上述の実施形態及び変形例において、トルク源10、無段変速機20及び差動装置30等のサイズや形状は一例を示したものであり、これに限られない。即ち、トルク源10、無段変速機20及び差動装置30等のサイズや形状は、エネルギー変換装置1の設置目的や負荷の種類あるいは大きさ等に応じて、種々変更することが可能である。
【0098】
また、上記実施形態及び各変形例を適宜組み合わせて、本発明を実施することが可能である。
上述の実施形態における処理は、ハードウェア及びソフトウェアのいずれにより実行させることも可能である。
即ち、上述の処理を実行できる機能がエネルギー変換装置1に備えられていればよく、この機能を実現するためにどのような機能構成及びハードウェア構成とするかは上述の例に限定されない。
【0099】
なお、上記実施形態は、本発明を適用した一例を示しており、本発明の技術的範囲を限定するものではない。即ち、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができ、上記実施形態以外の各種実施形態を取ることが可能である。本発明が取ることができる各種実施形態及びその変形は、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0100】
1,1A,1B,400 エネルギー変換装置、10 トルク源、20 無断変速機、21 太陽歯車、22a,22b 遊星歯車、23 歯付きアイドラ、24a,24b キャリア、25 入力側支持部材、26 出力側支持部材、27a,27b タイミングベルト、28a~28d 張力調整用プーリ、30,30A,30B 差動装置、31 ケース、32 入力軸、33 入力側傘歯車、34 環状歯車、35 第1出力軸、36 第1出力側傘歯車、37 差動傘歯車、38 第2出力軸、39 第2出力側傘歯車、L1,L2 負荷、G 歯車、C 円筒部、100 産業用ロボット、J1 第1関節、J2 第2関節、110 制御部、120 変速用アクチュエータ、R1 第1回転軸、K トルクオフセットばね、P1 第1位置決め装置、E1 第1ロータリーエンコーダ、R2 第2回転軸、P2 第2位置決め装置、E2 第2ロータリーエンコーダ、200 立体駐車装置、PL1 第1パレット、PL2 第2パレット、EL1,EL2 昇降機構、300 自動車、310 逆転装置、WH1 第1車輪、WH2 第2車輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
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図16
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図21