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特開2022-58018ポリアミド潜在捲縮糸およびその製造方法
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  • 特開-ポリアミド潜在捲縮糸およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058018
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】ポリアミド潜在捲縮糸およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/12 20060101AFI20220404BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20220404BHJP
   C08L 77/02 20060101ALI20220404BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
D01F8/12 Z
C08L77/06
C08L77/02
C08K5/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166579
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐輝
【テーマコード(参考)】
4J002
4L041
【Fターム(参考)】
4J002CL01X
4J002CL03W
4J002EG026
4J002FD206
4J002GK01
4L041AA07
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA09
4L041BB08
4L041BC05
4L041CA21
4L041CA25
4L041DD04
4L041DD22
4L041EE20
(57)【要約】
【課題】 ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物とポリアミド樹脂ポリアミドからなる潜在捲縮糸において、より改善された破断強度を保つことができる潜在捲縮糸を得る。
【解決手段】成分1と成分2とから構成される貼り合わせ型の潜在捲縮糸であって、成分1は、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物及び当該樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm以下のアルカリ金属カルボン酸塩とを含み、成分2は、ポリアミド樹脂であり、成分1の樹脂組成物及び成分2のポリアミド樹脂の相対粘度が2.3以上、3.0未満であることを特徴とするポリアミド潜在捲縮糸。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分1と成分2とから構成される貼り合わせ型の潜在捲縮糸であって、成分1は、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物及び当該樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm以下のアルカリ金属カルボン酸塩とを含み、成分2は、ポリアミド樹脂であり、成分1の樹脂組成物及び成分2のポリアミド樹脂の相対粘度が2.3以上、3.0未満であることを特徴とするポリアミド潜在捲縮糸。
【請求項2】
成分1と成分2とから構成される貼り合わせ型の潜在捲縮糸であって、成分1は、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物及び当該樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm以下の酢酸ナトリウムとを含み、成分2は、ポリアミド樹脂であり、成分1の樹脂組成物及び成分2のポリアミド樹脂の相対粘度が2.3以上、3.0未満であることを特徴とするポリアミド潜在捲縮糸。
【請求項3】
成分1のポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6との質量比率が25:75~70:30であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド潜在捲縮糸。
【請求項4】
成分1として、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物及びアルカリ金属カルボン酸塩、成分2としてポリアミド樹脂を準備する工程、前記アルカリ金属カルボン酸塩を前記樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm以下添加して成分1を溶融する工程、成分2を溶融する工程、溶融した成分1と成分2とを貼り合わせ型の口金から貼り合わせて吐出し、溶融紡糸する工程、溶融紡糸して得られた繊維を延伸する工程とを含む、ポリアミド潜在捲縮糸の製造方法。
【請求項5】
成分1として、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる相対粘度が2.3以上の樹脂組成物及び酢酸ナトリウム、成分2としてポリアミド樹脂を準備する工程、前記酢酸ナトリウムを前記樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm以下添加して成分1を溶融する工程、成分2を溶融する工程、溶融した成分1と成分2とを貼り合わせ型の口金から貼り合わせて吐出し、溶融紡糸する工程、溶融紡糸して得られた繊維を延伸する工程とを含む、ポリアミド潜在捲縮糸の製造方法。
【請求項6】
成分1の樹脂組成物及び成分2のポリアミド樹脂が、相対粘度が2.3以上、3.0未満である請求項4または5記載のポリアミド潜在捲縮糸の製造方法。
【請求項7】
成分1として、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる相対粘度が2.3以上の樹脂組成物及び当該樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm未満のアルカリ金属カルボン酸塩、成分2として、ポリアミド樹脂とを準備する工程、準備した成分1及び成分2それぞれを溶融して貼り合わせ型の口金から吐出し、紡糸速度3000~4000m/minで溶融紡糸する工程、溶融紡糸して得られた繊維を、延伸倍率が1.7倍以下で延伸する工程とを含む、ポリアミド潜在捲縮糸の製造方法。
【請求項8】
成分1として、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる相対粘度が2.3以上の樹脂組成物及び当該樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm未満の酢酸ナトリウム、成分2として、ポリアミド樹脂とを準備する工程、準備した成分1及び成分2それぞれを溶融して貼り合わせ型の口金から吐出し、紡糸速度3000~4000m/minで溶融紡糸する工程、溶融紡糸して得られた繊維を、延伸倍率が1.7倍以下で延伸する工程とを含む、ポリアミド潜在捲縮糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6を含む樹脂組成物と、ポリアミド樹脂とを貼り合わせたポリアミド潜在捲縮糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6を含む樹脂組成物と、ポリアミド樹脂とからなる複合繊維は、潜在捲縮糸として使用することが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
特許文献1では、ポリメタキシリレンアジパミドを5~80質量%含有する相対粘度が2.8~3.5の高粘度ポリマーと、相対粘度が2.2~2.6の低粘度ポリマーからなる捲縮率が15~50%のポリアミド潜在捲縮糸が提案されている。
特許文献2は、特定の粘度差のポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6を含む樹脂組成物とポリアミド樹脂を用いて貼り合わせた伸縮性の高いポリアミド潜在捲縮糸が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4097788号公報
【特許文献2】国際公開第2015/151220号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の潜在捲縮糸は、十分な捲縮が得られず、繊維自体の伸縮性も十分ではない。
特許文献2の潜在捲縮糸では十分な捲縮が得られるものの、より破断強度などの糸物性が改善されたものが求められている。
【0005】
したがって、本発明は上記のような問題を解決し、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6を含む樹脂組成物と、ポリアミド樹脂との潜在捲縮糸において、より改善された破断強度を有する潜在捲縮糸を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6を含む樹脂組成物と、ポリアミド樹脂との潜在捲縮糸において、構成するポリマーに、微量のアルカリ金属カルボン酸塩を添加することにより、破断強度が改善することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下をその要旨とする。
(1)成分1と成分2とから構成される貼り合わせ型の潜在捲縮糸であって、成分1は、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物及び当該樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm以下のアルカリ金属カルボン酸塩とを含み、成分2は、ポリアミド樹脂であり、成分1の樹脂組成物及び成分2のポリアミド樹脂の相対粘度が2.3以上、3.0未満であることを特徴とするポリアミド潜在捲縮糸。
(2)成分1と成分2とから構成される貼り合わせ型の潜在捲縮糸であって、成分1は、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物及び当該樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm以下の酢酸ナトリウムとを含み、成分2は、ポリアミド樹脂であり、成分1の樹脂組成物及び成分2のポリアミド樹脂の相対粘度が2.3以上、3.0未満であることを特徴とするポリアミド潜在捲縮糸。
(3)成分1のポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6との質量比率が25:75~70:30であることを特徴とする(1)または(2)記載のポリアミド潜在捲縮糸。
(4)成分1として、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる相対粘度が2.3以上である樹脂組成物及びアルカリ金属カルボン酸塩、成分2としてポリアミド樹脂を準備する工程、前記アルカリ金属カルボン酸塩を前記樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm以下添加して成分1を溶融する工程、成分2を溶融する工程、溶融した成分1と成分2とを貼り合わせ型の口金から貼り合わせて吐出し、溶融紡糸する工程、溶融紡糸して得られた繊維を延伸する工程とを含む、ポリアミド潜在捲縮糸の製造方法。
(5)成分1として、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる相対粘度が2.3以上である樹脂組成物及び酢酸ナトリウム、成分2としてポリアミド樹脂を準備する工程、前記酢酸ナトリウムを前記樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm以下添加して成分1を溶融する工程、成分2を溶融する工程、溶融した成分1と成分2とを貼り合わせ型の口金から貼り合わせて吐出し、溶融紡糸する工程、溶融紡糸して得られた繊維を延伸する工程とを含む、ポリアミド潜在捲縮糸の製造方法。
(6)成分1の樹脂組成物及び成分2のポリアミド樹脂が、相対粘度が2.3以上、3.0未満である(4)または(5)記載のポリアミド潜在捲縮糸の製造方法。
(7)成分1として、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる相対粘度が2.3以上である樹脂組成物及び当該樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm未満のアルカリ金属カルボン酸塩、成分2として、ポリアミド樹脂とを準備する工程、準備した成分1及び成分2それぞれを溶融して貼り合わせ型の口金から吐出し、紡糸速度3000~4000m/minで溶融紡糸する工程、溶融紡糸して得られた繊維を、延伸倍率が1.7倍以下で延伸する工程とを含む、ポリアミド潜在捲縮糸の製造方法。
(8)成分1として、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる相対粘度が2.3以上である樹脂組成物及び当該樹脂組成物に対し100ppm以上、1000ppm未満の酢酸ナトリウム、成分2として、ポリアミド樹脂とを準備する工程、準備した成分1及び成分2それぞれを溶融して貼り合わせ型の口金から吐出し、紡糸速度3000~4000m/minで溶融紡糸する工程、溶融紡糸して得られた繊維を、延伸倍率が1.7倍以下で延伸する工程とを含む、ポリアミド潜在捲縮糸の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6を含む樹脂組成物と、ポリアミド樹脂との潜在捲縮糸において、より改善された破断強度を有する潜在捲縮糸を得ることができる。
また、成分1の樹脂組成物やポリアミド樹脂の相対粘度が3.0以上の場合は、破断強度は高くなるものの、溶融紡糸をする際のノズルの背圧が高くなり、長時間の紡糸に不適となる傾向があるが、樹脂組成物の相対粘度が、3.0未満でも、良好な破断強度とすることができるので、物性が良好で、長期間の紡糸に好適な潜在捲縮糸を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のポリアミド潜在捲縮糸の繊維横断面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、成分1と成分2とから構成される貼り合わせ型の潜在捲縮糸である。
【0010】
成分1は、ポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物及びアルカリ金属カルボン酸塩とを含む。
【0011】
成分1は、成分1の樹脂組成物の質量に対し100ppm以上、1000ppm未満のアルカリ金属カルボン酸塩を含む。好ましくは100ppm以上、500ppm未満である。かかる範囲であれば、紡糸操業性及び糸品位を良好に保ちつつ、上記金属カルボン酸塩を含まないものよりも、高い破断強度を持つ潜在捲縮糸を得ることができる。
すなわち、アルカリ金属カルボン酸塩が100ppm未満では破断強度を高く保つ効果に乏しく、1000ppm以上になると、紡糸操業性が不安定になり、また得られた潜在捲縮糸を布帛にして染色する際に色斑が大きくなり、布帛の品位が低下する虞がある。
アルカリ金属カルボン酸塩を含むことにより、得られる潜在捲縮糸の強度を高く保つことができる要因は明確ではないが、アルカリ金属カルボン酸塩がポリメタキシリレンアジパミドの熱劣化やゲル化を抑制しているものと考えられる。
【0012】
成分1のアルカリ金属カルボン酸塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム等の無水カルボン酸塩または含水カルボン酸塩を用いることができる。カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、エイコ酸などの直鎖飽和脂肪酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸などのヒドロキシカルボン酸、安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ピロメット酸、トリメリット酸などの芳香族カルボン酸等が挙げられる。中でも分散性、汎用性の観点から、酢酸ナトリウム無水物、酢酸ナトリウム三水和物などの酢酸ナトリウムを好適に用いることができる。
【0013】
成分1の樹脂組成物のポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6との質量比率は25:75~70:30であることが好ましい。好ましくは40:60~55:45である。かかる範囲であれば、高い収縮性、捲縮性を備えた繊維となる。ポリメタキシリレンアジパミドが質量比率25質量%未満、70質量%を超える比率では、熱水による収縮が小さく、高い捲縮性をもつ繊維を得ることが難しい虞がある。
【0014】
成分2は、ポリアミド樹脂である。ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66などが好適に挙げられる。汎用性の観点からは、ポリアミド6やポリアミド66が好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化チタンなどの艶消し剤、ステアリン酸マグネシウムなどの平滑剤、ヒンダードフェノール誘導体などの抗酸化剤などが含まれていてもよい。
【0015】
成分1の樹脂組成物および成分2の樹脂は、相対粘度がそれぞれ2.3以上、3.0未満であることが好ましい。かかる範囲であると、長時間安定的に紡糸ができ、また得られる糸の破断強度を高く保つことができる。
すなわち、樹脂成分の相対粘度が2.3未満であると、得られる糸の引張強度は低いものとなる。また、樹脂成分の相対粘度が3.0以上になると得られる捲縮糸の破断強度は高いものの、溶融紡糸時のノズルの背圧が高くなるため、長時間の紡糸には不適である。
【0016】
本発明のポリアミド潜在捲縮糸は成分1と成分2が貼り合わされた形状である。このような形状は、例えば、成分1と成分2を別々に溶融し、口金から吐出する際に互いの成分を貼り合わせることにより得ることができる。
【0017】
本発明のポリアミド潜在捲縮糸の繊維横断面形状の外形は特に限定されるものではなく、丸断面のほかに三角、四角、落花生型などの異形断面が挙げられる。中でも、十分な伸縮性を得易い点から、丸断面と落花生型断面のものが好ましく、特に好ましいのは落花生型断面である。
尚、繊維自体に優れた伸縮性をもたせる点からは、長辺Aと短辺Bの比(長辺/短辺)が、1.1~3.0であり、より好ましくは1.1~2.2である。
【0018】
本発明のポリアミド潜在捲縮糸の伸長率は、45%以上であることが好ましい。伸長率が45%以上であれば、伸縮性に優れ、十分な捲縮を発生させることができる。これにより高密度な布帛でありながら、伸縮性を合わせ持った布帛が得られる。そして、染色などの後加工において、潜在捲縮糸が収縮し、高収縮の高密度布帛を得ることができる。
なお、より好ましくは、50%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。
【0019】
本発明のポリアミド潜在捲縮糸の破断強度は、糸切れが無く、製編織操業性を良好に保つ点から、3.5cN/dtex以上が好ましい。また、破断伸度は30%以上が好ましく、特に35%以上、40%未満が好ましい。破断伸度を30%未満では、延伸工程において外観毛羽が生じ易くなる。破断伸度が40%を超えると布帛に加工をする際の工程通過性が低くなる虞がある。
【0020】
本発明のポリアミド潜在捲縮糸の熱水収縮率は、高捲縮性能発現の観点から、45%以上であることが好ましい。より好ましくは、55%以上である。熱処理後の生地のシボを防止し易い点からは、上限は85%以下とすることが好ましい。
【0021】
次に本発明の潜在捲縮糸を得る方法について説明する。
本発明のポリアミド潜在捲縮糸は、紡糸と延伸の二工程法や紡糸直接延伸法などにより得ることができる。延伸方法としては、一段延伸、多段延伸など、適宜選択できる。
【0022】
以下、さらに具体的な方法を例示する。
まず、成分1のポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6との樹脂組成物、アルカリ金属カルボン酸塩を準備する。樹脂組成物は、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリアミド6を混練やドライブレンドすることにより混合して、得ることができる。次に、成分2のポリアミド樹脂を準備する。
成分1と成分2をそれぞれ溶融混練して、口金パックに導き、所定の横断面となるようにノズルから吐出し、溶融紡糸する。ここで、紡糸温度は、260~290℃程度が好ましい。次いで、冷却して、巻き取った後、延伸して、延伸糸を得る。
ノズルから吐出された糸条が最初に捲かれるゴデットロールの速度(紡糸速度)は、3000~4000m/minであることが好ましい。このような速度とすることにより、ポリアミド捲縮糸の伸長率を45%以上とし、布帛としたときに伸縮性のあるものを得ることができ易く、布帛の高密度化が可能となる。紡糸速度が3000m/min未満の場合、得られるポリアミド捲縮糸の伸長率は45%以上であるものの、紡糸生産性に乏しくなる虞がある。紡糸速度を速くすると、紡糸ドラフトが高くなることにより、繊維内の分子鎖の配向が進み、且つ繊維内の歪みを高くした状態で巻き取られる。この歪みをもった繊維をさらに延伸することによって、さらに分子鎖配向を加え繊維内歪みを蓄えさせることにより、伸長率が高く、高度な捲縮を与えることができ、伸縮性のある高収縮性ポリアミド潜在捲縮糸を得ることができると推測される。紡糸速度が4000m/minを超える場合、延伸倍率を高くすると外観毛羽が生じるため、延伸時の延伸倍率を高くすることができず、高い伸長率の捲縮糸を得ることが難しくなる虞がある。
【0023】
コンベンショナル法や直接延伸法の延伸工程での熱セット温度は、150℃以下が好ましい。より好ましくは、熱セット温度が145℃以下、さらに好ましくは、熱セット温度が125℃以下である。熱セット温度が150℃を超える温度にした場合、各成分1と成分2単独糸の熱水収縮率の差が小さくなり、複合繊維全体の熱水収縮率も低下する。これにより、伸長率が低くなり、捲縮が発現しにくくなるため、布帛としたときの高密度性、高い伸縮性が損なわれる。
【0024】
このようにして得られたポリアミド潜在捲縮糸は、改善された破断強度および適度な破断伸度を保持することができ、紡糸操業性および製織性が良好である。また、本発明の潜在捲縮糸の高い捲縮性から、製織して収縮加工を施した際には、より高密度で風合いに良い織物にする繊維を得ることを可能とし、かつ高い捲縮性を持っているため高密度で、高伸縮性を有した布帛を得ることが可能となる。
【実施例0025】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0026】
各物性の測定および評価は、以下の通り実施した。
A.相対粘度の測定
相対粘度の測定は、柴山科学機械製作所製の自動粘度測定装置(SS-600-L1型)を用いて測定する。溶媒に95.8%濃硫酸を用いて、ポリマーを1g/dlの濃度で溶解させて、恒温槽25℃にて測定する。
【0027】
B.破断強度、破断伸度の測定
JIS-L-1013に準じ、島津製作所製のAGS-1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定する。荷重-伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、そのときの伸び率を破断伸度(%)とする。
【0028】
C. 伸長率・熱水収縮率の算出
折り返し一往復を0.1g/dにて50cmの長さのカセを作製し、その時の長さL0=50とする。その後1.2mg/dの荷重を掛け30分静置する。この状態で沸騰水中に15分間浸漬した後、24時間風乾させ測長(L1)する。次に5mg/d荷重を掛け30秒後測長(L2)し、さらに300mg/d荷重を掛け30秒後測長(L3)し、次の式で算出する。
伸長率(%)={(L3-L2)/L2}×100
熱水収縮率(%)={(L0-L1)/L0}×100
なお、以下の実施例・比較例の表中の成分1及び成分2の熱水収縮率は、各成分を各実施例と同条件の製法で単独繊維を得た場合のものを示す。
【0029】
D.紡糸操業性の評価
紡糸時間24時間中の工程通過性が良好であれば○、工程通過性が若干悪いものを△、製糸不可であれば×とする。
【0030】
E.染色時の色斑の評価
紡糸して得た繊維を2本双糸として、ウェール数が30本/2.54cm、コース数が60本/2.54cmの筒編地を作製した。この筒編地を70℃熱水にて20分精練後、2%o.w.fの酸性染料(Sandoz社製Nylosan blue N)を用い浴比1:30、の下で60分間、98℃にて染色処理し、風乾する。測色色差計(日本電色工業製ZE2000)を用い、風乾後の筒編地のカラー値をL*a*b*指標で測定した。参考例1において作製した筒編地を基準とし、測定したカラー値のΔE*が0.5未満の範囲内にあるものを○、0.5~1.0以下の範囲内のものを△、1.0を超えるものを×とする。
【0031】
〔参考例1〕
成分1のポリメタキシリレンアジパミド(相対粘度2.8)およびポリアミド6(相対粘度2.8)のチップと、成分2のポリアミド6(相対粘度2.4)のチップを真空乾燥させた。成分1のポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6の質量比率が50:50になるようにブレンダーにて均一に混合した。成分1と成分2のそれぞれのポリマーを溶融し、紡糸ノズルを用いて、紡糸温度280℃、捲取速度(紡糸速度)3100m/minで成分1:成分2が質量比率1:1になるように溶融紡糸して繊維横断面がサイドバイサイドの落花生型の複合繊維である半延伸糸を得た。紡糸開始時の紡糸ノズルの背圧は15MPaであり、紡糸中に糸切れ等はなかった。の半延伸糸を一日エイジングさせ、延伸速度800m/min、ロールヒーター70℃、プレートヒーター110℃、延伸倍率1.6倍で延伸し、44dtex/12fの潜在捲縮糸のボビンを得た(繊維横断面の長辺/短辺:1.8)。得られた繊維ボビンの外観に毛羽は確認されなかった。紡糸中糸切れはなく、操業性は良好であった。得られた潜在捲縮糸の物性を測定したところ、破断強度3.38cN/dtex、破断伸度36.8%であった。熱水収縮率は63%、伸長率は54.3%であった。結果を表1に示す。また、得られた捲縮糸の筒編地を作製し、染色後測色した。
【0032】
〔参考例2〕
延伸倍率を1.8倍に変更した以外は参考例1と同様に紡糸を行ったところ、延伸して得られたボビンの外観に毛羽が確認された。結果を表1に示す。
【0033】
〔参考例3、4〕
成分1のポリアミド6として相対粘度が3.2のもの、成分2のポリアミド6として相対粘度が3.3のものを用いた以外は参考例1と同様に紡糸を行ったところ、紡糸初期のノズル背圧がそれぞれ20MPa以上となり、圧力上昇により24時間紡糸することはできなかった。
【0034】
〔実施例1〕
成分1のポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6の質量比率が50:50になるようにブレンダーにて均一に混合する際に酢酸ナトリウム(無水物)をポリメタキシリレンアジパミドとポリアミド6の合計質量に対し100ppm加えた。その他は参考例1と同様にして溶融紡糸し半延伸糸を得て、延伸し潜在捲縮糸のボビンを得た。紡糸中糸切れはなく、得られた繊維ボビンの外観に毛羽は確認されなかった。参考例1と同様に物性を測定したところ、破断強度3.86cN/dtexであり、破断強度が3.50cN/dtex以上であった。破断伸度は35.6%、熱水収縮率61.8%、伸長率57.0%であった。また、得られた捲縮糸の筒編地を作製し、染色後測色した結果、参考例1の筒編地との色差(ΔE*)は0.1であった。得られた結果を表1に示す。
【0035】
〔実施例2〕
酢酸ナトリウム(無水物)の量を500ppmに変更した以外は実施例1と同様に潜在捲縮糸のボビンを得た。結果を表1に示す。
【0036】
〔実施例3〕
実施例1の酢酸ナトリウム(無水物)の量を1000ppmに変えた以外は実施例1と同様に潜在捲縮糸のボビンを得た。得られた捲縮糸の筒編地を作製し、染色後測色した結果、参考例1の筒編地との色差(ΔE*)は0.6であった。結果を表1に示す。
【0037】
〔実施例4~8〕
成分1および成分2の樹脂の相対粘度、巻取速度、成分1中の樹脂組成物に対するメタキシリレンアジパミドの含有率をそれぞれ変更した以外は実施例2と同様にして潜在捲縮糸のボビンを得た。結果を表2に示す。
【0038】
〔実施例9、10〕
酢酸ナトリウム(無水物)の代わりに酢酸ナトリウム(三水和物)を加えた以外は実施例2と同様にした潜在捲縮糸のボビンおよび酢酸カリウムを加えた以外は実施例2と同様にした潜在捲縮糸のボビンを作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0039】
〔比較例1〕
酢酸ナトリウム(無水物)の量を50ppmに変えた以外は実施例1と同様に潜在捲縮糸のボビンを得た。得られた潜在捲縮糸の破断伸度は3.42cN/dtexと参考例1と比べると高いものの、3.50cN/dtex未満であった。結果を表2に示す。
【0040】
〔比較例2〕
酢酸ナトリウム(無水物)の量を2000ppmに変えた以外は実施例1と同様にして溶融紡糸した。紡糸開始時の紡糸ノズルの背圧は8MPaと低くなり、吐出が不安定となり、紡糸中糸切れが多発したため、紡糸不可と判断した。結果を表2に示す。
【0041】
〔比較例3〕
成分2として相対粘度2.2のポリアミド6を用いた以外は実施例2と同様に潜在捲縮糸のボビンを得た。得られた捲縮糸の破断伸度は3.31cN/dtexとなり、3.50cN/dtexより低いものとなった。結果を表2に示す。
【0042】
実施例及び比較例の成分1、成分2、潜在捲縮糸の原料、物性、製造条件、評価について、表1、表2に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】

【符号の説明】
【0045】
A 長辺
B 短辺
図1