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  • 特開-導電性を有するマルチフィラメント糸 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058086
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】導電性を有するマルチフィラメント糸
(51)【国際特許分類】
   D02G 1/02 20060101AFI20220404BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20220404BHJP
   D03D 15/37 20210101ALI20220404BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20220404BHJP
   D03D 15/533 20210101ALI20220404BHJP
   D01F 1/09 20060101ALI20220404BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
D02G1/02 Z
D04B1/16
D03D15/00 B
D03D15/00 E
D03D15/00 101
D01F1/09
D01F8/14 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023972
(22)【出願日】2021-02-18
(62)【分割の表示】P 2020165497の分割
【原出願日】2020-09-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】507147079
【氏名又は名称】ログイン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520381090
【氏名又は名称】株式会社ITO知財インベストメント
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】野木 志郎
【テーマコード(参考)】
4L002
4L035
4L036
4L041
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB02
4L002AB04
4L002AB05
4L002AC00
4L002AC01
4L002AC03
4L002BA00
4L002CA00
4L002EA00
4L002FA01
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE13
4L035FF08
4L035JJ03
4L036MA05
4L036MA15
4L036MA33
4L036PA05
4L036UA25
4L041AA07
4L041BA21
4L041BC09
4L041BC20
4L041CA02
4L041CB02
4L041CB25
4L041CB28
4L041DD21
4L048AA20
4L048AA28
4L048AA42
4L048AA51
4L048AA52
4L048AB07
4L048AB21
4L048AC00
4L048AC12
4L048AC13
4L048CA04
4L048CA05
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】 導電糸を用いた編物又は織物を伸長させても導電性能が殆ど低下しない導電糸を提供すると共に、導電性顔料が樹脂中に練り込まれたタイプの糸を用いた編物又は織物であっても、十分な除電効果を有する編物又は織物を提供する。
【解決手段】 導電性を有するマルチフィラメント糸において、前記マルチフィラメント糸を構成するフィラメントの少なくとも一が、前記フィラメントの表面の少なくとも一部に導電部を有しており、前記導電部が、熱可塑性樹脂に導電性顔料が分散したペレットの溶融体から得られたものであり、前記ペレットが、更に磁性体を含み、且つ、前記マルチフィラメント糸が、仮撚糸であることを特徴とするマルチフィラメント糸。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有するマルチフィラメント糸において、
前記マルチフィラメント糸を構成するフィラメントの少なくとも一が、前記フィラメントの表面の少なくとも一部に導電部を有しており、
前記導電部が、熱可塑性樹脂に導電性顔料が分散したペレットの溶融体から得られたものであり、
前記ペレットが、更に磁性体を含み、且つ、
前記マルチフィラメント糸が、仮撚糸である
ことを特徴とするマルチフィラメント糸。
【請求項2】
編物又は織物の少なくとも一部として使用される糸であって、前記編物又は前記織物の非伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)に対する、前記編物又は前記織物の最大伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)の変化率が、少なくとも一方向において30%以内となる、前記編物又は前記織物の製造用である、請求項1記載のマルチフィラメント糸。
【請求項3】
編物又は織物の少なくとも一部として使用される糸であって、前記編物又は前記織物の帯電性半減期(JIS L 1094)が、0.1秒以下となる、前記編物又は前記織物の製造用である、請求項1又は2記載のマルチフィラメント糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有するマルチフィラメント糸に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、各種の、導電性を有する糸が提案されている。例えば、特許文献1~4等には、導電性顔料を含有する糸が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-210655号公報
【特許文献2】再表2008-004448号公報
【特許文献3】再表2007-046296号公報
【特許文献4】特開2006-002265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者が様々な導電糸、特に導電性顔料を含有する導電糸を用いた編物又は織物を検証したところ、伸長させた際に導電性能が低下するとの知見を得た。該導電性能の低下は、導電糸を用いた編物又は織物が伸長し得る用途、例えば、該編物又は該織物をウェアラブルの用途に用いた際、極めて不都合である。したがって、本発明は、導電糸を用いた編物又は織物を伸長させても導電性能が殆ど低下しない導電糸を提供することを課題とする。更に、本発明者は、表面が金属でコーティングされた糸は別として、導電顔料が樹脂中に練り込まれたタイプの糸の場合、必ずしも十分な除電効果を有してはいないとの知見も得た。したがって、本発明は、導電性顔料が樹脂中に練り込まれたタイプの糸を用いた編物又は織物であっても、十分な除電効果を有する編物又は織物を提供することを第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明(1)は、導電性を有するマルチフィラメント糸において、
前記マルチフィラメント糸を構成するフィラメントの少なくとも一が、前記フィラメントの表面の少なくとも一部に導電部を有しており、
前記導電部が、熱可塑性樹脂に導電性顔料が分散したペレットの溶融体から得られたものであり、
前記ペレットが、更に磁性体を含み、且つ、
前記マルチフィラメント糸が、仮撚糸である
ことを特徴とするマルチフィラメント糸である。
本発明(2)は、編物又は織物の少なくとも一部として使用される糸であって、前記編物又は前記織物の非伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)に対する、前記編物又は前記織物の最大伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)の変化率が、少なくとも一方向において30%以内となる、前記編物又は前記織物の製造用である、前記発明(1)のマルチフィラメント糸である。
本発明(3)は、編物又は織物の少なくとも一部として使用される糸であって、前記編物又は前記織物の帯電性半減期(JIS L 1094)が、1秒以下となる、前記編物又は前記織物の製造用である、前記発明(1)又は(2)のマルチフィラメント糸である。
【0006】
また、本発明に係るマルチフィラメントを用いて得られた編物又は織物(以下、「本態様」という)は、下記の通りである。
本態様(1)は、構成糸として導電糸が少なくとも用いられている編物又は織物において、
前記導電糸が、導電性を有するマルチフィラメント糸であり、
前記マルチフィラメント糸を構成するフィラメントの少なくとも一が、前記フィラメントの表面の少なくとも一部に導電部を有しており、
前記導電部が、熱可塑性樹脂に導電性顔料が分散したペレットの溶融体から得られたものであり、
前記ペレットが、更に磁性体を含み、且つ、
前記マルチフィラメント糸が、仮撚糸である
ことを特徴とする編物又は織物である。
本態様(2)は、前記編物又は前記織物を伸長させた場合、少なくとも一方向にて、前記編物又は前記織物の非伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)に対する、前記編物又は前記織物の最大伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)の変化率が、30%以内である、前記態様(1)の編物又は織物である。
本態様(3)は、前記編物又は前記織物の帯電性半減期(JIS L 1094)が、1秒以下である、前記態様(1)又は(2)の編物又は織物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、導電糸を含む編物又は織物を伸長させても導電性能が殆ど低下しない導電糸を提供することが可能となる。更に、本発明によれば、導電性顔料が樹脂中に練り込まれたタイプの糸を含む編物又は織物であっても、十分な除電効果を有する導電糸を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例に係る該導電性マルチフィラメントの全体写真である。
図2図2は、実施例に係る導電性フィラメント糸を構成する一本のフィラメントの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪導電糸≫
本発明に係る導電糸は、導電性を有するマルチフィラメント糸において、
前記マルチフィラメント糸を構成するフィラメントの少なくとも一本が、前記フィラメントの表面の少なくとも一部に導電部を有しており、
前記導電部が、熱可塑性樹脂に導電性顔料が分散したペレットの溶融体から得られたものであり、
前記ペレットが、更に磁性体を含み、且つ、
前記マルチフィラメント糸が、仮撚糸である
ことを特徴とするマルチフィラメント糸である。以下、本発明に係る導電糸の構造、成分、物性及び製造方法を詳述する。
【0010】
<構造>
(マルチフィラメント糸)
本発明に係る導電糸は、マルチフィラメント糸である。ここで、マルチフィラメント糸は、一般的意義の通り、例えば、化学繊維の長繊維(フィラメント)を複数の孔を有する紡糸口金から複数本(例えば、数十本)の繊維束として紡糸されたものを指す。尚、本発明の導電糸を構成する複数のフィラメントの内、少なくとも一本は導電性を有している(好適には、全フィラメント数を基準として、導電性フィラメントの数が、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%)。特に、フィラメント糸の外側に位置するフィラメントが導電性であることが好適である。尚、本発明における導電糸とは、導電性を有する限り特に限定されず、例えば、糸長1cm当たりの抵抗値が100Ω以下の糸(25℃)をいう。
【0011】
(仮撚糸)
本発明に係る導電糸は、仮撚糸である。ここで、仮撚糸は、一般的意義の通り、例えば、化学繊維の熱可塑性を利用してフィラメント糸にクリンプ形態を与えた、嵩高性や伸縮性を付与した糸である。該仮撚糸は、例えば、マルチフィラメント糸に撚りをかけた状態で加熱・冷却することで撚り変形を繊維に固定し撚る方向と逆方向に撚ることで製造可能である。尚、仮撚方式としては、フィラメント糸{延伸糸;FOY(Fully Oriented Yarn)}を仮撚り専業者が専用の工場で加工する方式;紡糸・延伸工程に引続き仮撚り工程を一貫して行う方式;高速で紡糸することにより、一部の延伸を行いPOY(半延伸糸;Partially Oriented Yarn)として、そのPOYを延伸・仮撚り工程を経て、DTY(延伸加工糸;Draw Textured Yarn)とする方式;を例示できる。
【0012】
(内部構造)
マルチフィラメントの少なくとも一部を構成する導電性フィラメントは、すべてが導電部から構成されるものであってもよく、一部が導電部であり他が非導電部(又は本発明での導電部と異なる導電部)から構成されるものであってもよい(例えば、芯鞘構造)。尚、一部が本発明に係る導電部から構成される導電糸の場合、該導電部の少なくとも一部(特に好適には長手方向)又は全部が導電糸表面に存在していることが好適である。
【0013】
<成分>
(導電性フィラメントの構成樹脂)
マルチフィラメントの少なくとも一部を構成する導電性フィラメントの構成樹脂(本発明に係る導電部、前記導電部とは異なる種類の導電部、非導電部)は、熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエステル系共重合体樹脂、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン)、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、オレフィン樹脂、オレフィン系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、フッ素系共重合体樹脂等を挙げることができる。ここで、該導電性フィラメントが芯鞘構造等複数区画からなるものの場合、区画間で異なる構成樹脂であっても同一の構成樹脂であってもよい。尚、マルチフィラメントが導電性フィラメント以外のフィラメントを含む場合や導電性フィラメントが本発明に係る導電部以外の部位を含む場合には、該フィラメントや該部位の構成樹脂は、特に限定されず、例えば、導電性フィラメントの構成樹脂で挙げたものである。
【0014】
(導電性顔料)
導電性フィラメントに含まれる導電性顔料は、導電性である限り特に限定されず、導電カーボン(例えば、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン、これらの組み合わせ)、金属、金属酸化物等を挙げることができる。尚、該導電カーボンの電気抵抗率(25℃)は、特に限定されず、例えば、0.0001~1Ω・cmである。ここで、電気抵抗率は、粉体抵抗測定システム(MCP-PD51型:ダイアインスツルメンツ社製)を用いて、炭素粒子に圧力をかけ続けながら抵抗値を測定し、圧力に対して収束した抵抗値R(Ω)と、圧縮された炭素粒子層の面積S(cm)と厚みd(cm)から電気抵抗率ρ(Ω・cm)=R×(S/d)を算出する。
【0015】
(磁性体)
導電性フィラメントに含まれる磁性体は、好適には強磁性体である。該強磁性体としては、例えば、酸化鉄、酸化クロム、コバルト、フェライト、非酸化金属磁性体(オキサイド)を挙げることができる。但し、軟磁性体であっても、後述する、導電性顔料に磁性体を付着させる工程にて磁場をかけることで、磁性体に磁力を生じさせればよい。ここで、各種磁性体{酸化鉄、酸化クロム、コバルト、フェライト、非酸化金属磁性体(オキサイド)等の強磁性体}を導電性フィラメント中に含有させて検証した結果、種類を問わず、該導電性フィラメントを含むマルチフィラメント糸で製造した編物又は織物に対し、(1)該編物又は該織物を伸長させた場合、少なくとも一方向にて、該編物又は該織物の非伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)に対する、該編物又は該織物の最大伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)の変化率を低下させることができ、更に、(2)該編物又は織物の帯電性半減期(JIS L 1094)を低下させることができた。特に、鉄を含有する磁性体(酸化鉄、フェライト)については、上記の効果が顕著であることが確認されている。
【0016】
(その他の成分)
本発明に係る導電性フィラメントは、特定用途に適した成分や製造原料由来成分等として、上記以外の成分を含んでいてもよい(例えば、酸化チタン等の顔料)。
【0017】
<物性>
本発明に係る、導電性フィラメントを含むマルチフィラメント糸は、導電性顔料が構成樹脂に練り込まれているにも拘わらず、糸表面に導電性成分が塗布・貼付されているものと比較しても、遜色無い導電性・除電性を有する。また、糸表面に導電性成分が塗布・貼付されているものは、伸縮により導電性成分部分が裂かれたり剥離したりするため、導電性が徐々に劣化する。他方、本発明に係るマルチフィラメント糸は、導電性顔料が構成樹脂に練り込まれているため、伸縮しても導電性の劣化を招かない。更に、該マルチフィラメント糸は、伸縮前後における導電性能が殆ど変わらない。上記特性は、導電性フィラメントが磁性体を含有しているため、マルチフィラメント糸に仮撚加工が施されているため、と理解される。
【0018】
<マルチフィラメント糸の製造方法>
(原料)
本発明に係る導電部を構成するペレットとして、構成樹脂に導電性顔料と磁性体が含まれているペレットを製造する。該ペレットは、例えば、熱可塑性樹脂に導電性顔料と磁性体とを添加する工程、導電性顔料と磁性体とが添加された熱可塑性樹脂を溶融状態にて混錬する工程、により製造される。因みに、導電性顔料と磁性体を添加するに際し、磁性体を予め導電性顔料表面に付着させて添加する態様については、水系にて両親媒性分子を用いることが好適である。具体的には、例えば、導電性顔料として導電性カーボンを用い且つ導電性カーボンに付着させる磁性体として四酸化三鉄を選択する場合、導電性カーボンと両親媒性分子とを水溶液中で混合し、導電性カーボン表面に逆ミセルを形成させる。更に、この混合溶液中に、硫酸鉄(II)(FeSO・7HO)及び塩化鉄(III)(FeCl・6HO)を加え、塩基性環境下で加熱攪拌すると、逆ミセル内で鉄(II)イオン、鉄(III)イオン及び水酸化物イオンが反応し、逆ミセルを鋳型として四酸化三鉄が成長する。その結果、導電性カーボン表面に磁性体である四酸化三鉄を付着させることができる。尚、本発明に係る導電部における導電性顔料の配合量は、求められる除電性(帯電性半減期)や使用する導電性顔料の種類等により変わるが、導電性カーボンを使用する場合には、例えば、構成樹脂100質量部に対して5~50質量部である。また、磁性体の配合量は、求められる除電性(帯電性半減期)や引き伸ばした際の表面漏洩抵抗の変化量等により変わるが、導電性カーボンを使用する場合には、例えば、導電カーボン1質量部に対して0.0001~1質量部である。
【0019】
(プロセス)
マルチフィラメント糸を構成するフィラメントがすべて導電性フィラメント糸である場合の一製造例を説明する。該導電性フィラメント糸は、例えば、まず、溶融状態にある前記ペレットを押出機の紡糸口金から押出して複数のフィラメントを得る工程、その後、これらに撚りをかけてマルチフィラメント糸とする工程、次いで、加熱・冷却することで撚り変形を繊維に固定する工程、その後、撚る方向と逆方向に撚る工程、にて製造可能である。
【0020】
≪導電性を有する編物又は織物≫
<原料糸>
原料糸としては、本発明に係るマルチフィラメント糸のみでも、本発明に係るマルチフィラメント糸に加え他の糸を使用してもよい。尚、織物又は編物における導電性マルチフィラメント糸は、求められる性質にもよるため特に限定されないが、例えば、混率5%以上、混率10%以上、混率15%以上、混率20%以上、混率25%以上、混率30%以上、混率50%以上、混率57%以上、混率100%である。ここで、他の糸としては、特に限定されず、例えば、合成繊維、例えば、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ピエロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリウレタン、ベンゾエート、ポリクラール、再生樹脂、例えば、レーヨン、キュプラ、半合成樹脂、例えば、アセテート、プロミックス;天然繊維、例えば、植物繊維、例えば、綿、カボック、黄麻、亜麻、大麻、芋麻、ラミー、マニラ麻、サイザル麻、ヤシ、ビンロウジュ、動物繊維、例えば、絹、羊、ラクダ、アルパカ、カシミア、モヘア;を挙げることができる。ここで、編物又は織物に対してより伸縮性を持たせる観点から、合成繊維を用いる場合には、該合成繊維も仮撚加工が施されたものを使用することが好適である。
【0021】
<構造>
編物の構造としては、特に限定されず、例えば、緯編み、経編み、例えば、丸編み、横編み、天竺編み、サーマル/ワッフル編み、鹿の子編み、リバーシブル鹿の子、フライス編み、スムース編み/インターロック編み、裏パイル、裏起毛を挙げることができる。また、織物の構造としても、特に限定されず、例えば、平織、綾織/斜文織、朱子/繻子織を挙げることができる。
【0022】
<物性>
(表面漏洩抵抗)
本発明に係る編物又は織物は、該編物又は該織物を伸長させた場合、少なくとも一方向にて、該編物又は該織物の非伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)に対する、該編物又は該織物の最大伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)の変化率が、30%以内、25%以内、20%以内、15%以内、10%以内、7.5%以内、5%以内、2.5%以内、1%以内であることが好適である。また、本発明に係る編物又は織物は、該編物又は該織物を伸長させた場合、少なくとも一方向にて、該編物又は該織物の非伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)に対する、該編物又は該織物の最大伸長の1/2伸長時における表面漏洩抵抗(JIS L 1094:2014)の変化率が、30%以内、25%以内、20%以内、15%以内、10%以内、7.5%以内、5%以内、2.5%以内、1%以内であることが好適である。尚、該物性は、本発明のマルチフィラメント糸のみで達成しなくとも、他の導電糸と組み合わせて実現してもよい。また、表面漏洩抵抗は、好適には、1×1010Ω以下、5×10Ω以下、1×10Ω以下、5×10Ω以下、1×10以下、5×10以下である。下限値は、例えば、1×10Ω、1×10Ω、1×10Ωである。
【0023】
(帯電性半減期)
本発明に係る編物又は織物の帯電性半減期(JIS L 1094)は、1秒以下、0.5秒以下、0.1秒以下、0.075秒以下、0.05秒以下であることが好適である。尚、該物性は、本発明のマルチフィラメント糸のみで達成しなくとも、他の導電糸と組み合わせて実現してもよい。
【0024】
≪用途≫
本発明に係る編物又は織物の用途としては、例えば、ウェアラブルウエア(スマートウエア)用途の生地(例えば、リモート医療用途、人体モニタ、コネテッドカー等のウェアラブル端末、人体内の静電気の除電による効果の利用)、スマートヒーター、通電することで暖かくなる生地(試作完了)・寒冷地用の衣料等を挙げることができる。
【実施例0025】
≪導電性フィラメント糸の製造≫
SWCNT(Nano-Lab)0.5gを30%アンモニア水(CHAPS含有:1g/20mL)50mLに入れ、自動乳鉢で練り、混合した。更に、自動乳鉢で混合しながら、0.7M硫酸鉄(II)(FeSO・7HO)50mL及び1.2M塩化鉄(III)(FeCl・6HO)60mLを加え、15分間攪拌した。その後、界面活性剤として1%ラウリン酸ナトリウム水溶液を加え、87℃で50分間加熱攪拌することにより、処理液を得た。得られた処理液中に含まれているSWCNTを洗浄及び乾燥することにより、四酸化三鉄が付着したSWCNT分散体を得た。その後、乾燥した該SWCNT分散体を溶融したポリエステル樹脂に添加し十分に混錬し、SWCNT分散ポリエステル樹脂ペレットを得た。次いで、慣用手法にて、該ペレットの溶融体を押出機の紡糸口金から押出し、撚りをかけてマルチフィラメント糸とした後、慣用手法にて仮撚加工を施し、実施例に係る導電性マルチフィラメント糸を製造した。また、同様の手法にて、導電部が鞘側である芯鞘型の導電性マルチフィラメント(芯はポリエステル樹脂)も製造した(160D/32F)。図1は、該導電性マルチフィラメントの全体写真である。また、図2は、該導電性フィラメント糸を構成する一本のフィラメントの断面写真である。
【0026】
≪導電性編物の製造≫
前記導電性マルチフィラメント糸を用い、丸編みの編物を製造した(目付:310g/m)。この際、導電性マルチフィラメント糸は横方向に用いた。また、導電性マルチフィラメント糸の混率は17%とした。また、導電性マルチフィラメント糸以外の糸として、綿30/1(混率75%)及びポリウレタン糸30D(混率8%)を用いた。尚、比較例として、磁性体を含有しないことを除き前記導電性マルチフィラメントと同様の製法にて得られたマルチフィラメントを用いた丸編みの編物も製造した。
【0027】
≪物性≫
(表面漏洩抵抗)
本実施例に係る導電性編物を縦横両方向に伸長させ、JIS L 1094:2014に基づき、該編物の非伸長時における表面漏洩抵抗に対する、該編物の1/2伸長時及び最大伸長時における表面漏洩抵抗を測定した。その結果、特に導電性フィラメントが配置されている方向における表面漏洩抵抗は、表1に示すように、伸長前後で変わらず、低い値であったと共に、その値もほぼ変わらなかった。他方、本比較例に係る編物は、本実施例に係る導電性編物と比較し、そもそも表面漏洩抵抗の値自体が遥かに高く、導電性が求められる用途に不向きであった。尚、導電性マルチフィラメント糸の混率を変えたもの(下記表2の「2」=14%、下記表2の「4」=11%)、目付量を変えたもの(下記表2の「3」=337g/m)についても試験し、本実施例(下記表の「1」)とほぼ同等の結果であった。
【0028】
【表1】
【0029】
(帯電性半減期)
本実施例に係る導電性編物の帯電性半減期を、JIS L 1094に基づき測定した。その結果、表2に示すように、検出限界未満と、極めて短時間で除電できた。尚、本比較例に係る編物は、本実施例に係る導電性編物と比較し、帯電性半減期が遥かに長く、除電が求められる用途に不向きであった。
【0030】
【表2】
【0031】
以上のように、本発明においては、導電性糸に磁性体を含有させることに加え、仮撚加工を施すことで、伸長前後における表面漏洩抵抗の低下抑制を実現できると共に、帯電性半減期を極めて短時間とすることが可能となる。

図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2021-07-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有するマルチフィラメント糸において、
前記マルチフィラメント糸を構成するフィラメントの少なくとも一部が、前記フィラメントの表面の少なくとも一部に導電部を有しており、
前記導電部が、熱可塑性樹脂に導電性顔料が分散したペレットの溶融体から得られたものであり、
前記ペレットが、更に磁性体を含み、且つ、
前記マルチフィラメント糸が、仮撚糸である
ことを特徴とするマルチフィラメント糸。
【請求項2】
編物又は織物の少なくとも一部として使用される糸である、請求項1記載のマルチフィラメント糸。