(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058126
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】画像表示装置用粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20220404BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20220404BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20220404BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220404BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220404BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20220404BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220404BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20220404BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20220404BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/04
C09J175/04
C09J11/08
B32B27/00 L
B32B27/00 M
B32B27/26
B32B27/30 A
B32B27/40
B32B7/06
G06F3/041 495
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076892
(22)【出願日】2021-04-28
(62)【分割の表示】P 2020164866の分割
【原出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】城下 知輝
(72)【発明者】
【氏名】塚本 修亮
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AK25A
4F100AK42B
4F100AK51A
4F100AR00C
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA10B
4F100BA10C
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4J040JB09
4J040KA16
4J040KA26
4J040LA01
4J040LA02
4J040LA09
4J040NA17
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】比誘電率及びその温度依存性が低い、画像表示装置用の粘着シート、粘着シート積層体、及び静電容量式タッチパネルを提供する。
【解決手段】本発明は、画像表示装置用の粘着シートであって、主成分としての、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、イソシアネート系架橋剤と、を含有する、粘着性組成物を含む粘着層を備え、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体水酸基価が1~30mgKOH/g、分子量分布(Mw/Mn)が1.0~2.8であり、前記粘着層のー20~80℃間の周波数1MHzにおける比誘電率の最大値が3.7以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示装置用の粘着シートであって、
主成分として、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、
イソシアネート系架橋剤と、
を含有する、粘着性組成物を含む粘着層を備え、
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体の水酸基価が、1~30mgKOH/gであり、
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が1.0~2.8であり、
前記粘着層の-20~80℃間の周波数1MHzにおける比誘電率の最大値が3.7以下である、粘着シート。
【請求項2】
前記粘着層は、水酸基及びカルボキシル基を含まない粘着付与剤をさらに含有する、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記粘着層は、周波数1Hzでのtanδの極大値が、-20℃以下である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
画像表示装置用の粘着シート積層体であって、
請求項1から3のいずれかに記載の前記粘着シートと、
前記粘着シートの少なくとも一方の面に取り付けられる、剥離シートと、
を備えている、粘着シート積層体。
【請求項5】
画像表示装置用の静電容量式のタッチパネルであって、
透明の電極フィルムと、
電極フィルムの少なくとも一方の面に積層される、請求項1から3のいずれかに記載の粘着シートと、
を備えている、静電容量式タッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置用の粘着シート、粘着シート積層体、及び静電容量式タッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどに用いられるタッチパネルディスプレイを構成するカバーフィルム、電極フィルム、筐体等を貼り合わせて積層するために、例えば、特許文献1に記載のような粘着シートが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、タッチパネルディスプレイ等の画像表示装置では、主として静電容量式のタッチパネルディスプレイが用いられている。このような静電容量式タッチパネルディスプレイでは、検出感度を向上するため、上述した粘着シートに対しても、比誘電率が低い部材が求められている。また、タッチパネルディスプレイは、種々の環境で用いられるため、比誘電率のみならず、その温度依存性についても、低いことが求められている。すなわち、温度変化によって、比誘電率が大きく変化しないことが求められている。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、比誘電率及びその温度依存性が低い、画像表示装置用の粘着シート、粘着シート積層体、及び静電容量式タッチパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
項1.画像表示装置用の粘着シートであって、
主成分として、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、
イソシアネート系架橋剤と、
を含有する、粘着性組成物を含む粘着層を備え、
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体の水酸基価が、1~30mgKOH/gであり、
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が1.0~2.8であり、
前記粘着層の-20~80℃間の周波数1MHzにおける比誘電率の最大値が3.7以下である、粘着シート。
【0007】
項2.前記粘着層は、水酸基及びカルボキシル基を含まない粘着付与剤をさらに含有する、項1に記載の粘着シート。
【0008】
項3.前記粘着層は、周波数1Hzでのtanδの極大値が、-20℃以下である、項1または2に記載の粘着シート。
【0009】
項4.画像表示装置用の粘着シート積層体であって、
項1から3のいずれかに記載の前記粘着シートと、
前記粘着シートの少なくとも一方の面に取り付けられる、剥離シートと、
を備えている、粘着シート積層体。
【0010】
項5.画像表示装置用の静電容量式のタッチパネルであって、
透明の電極フィルムと、
電極フィルムの少なくとも一方の面に積層される、項1から3のいずれかに記載の粘着シートと、
を備えている、静電容量式タッチパネル。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る粘着シートによれば、比誘電率及びその温度依存性を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る粘着シート積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る粘着シートの一実施形態について説明する。この粘着シートは、タッチパネルディスプレイなどの各種の画像表示装置を構成するカバーフィルム、電極フィルム、筐体等を取り付けるための粘着シートである。例えば、静電容量式のタッチパネルディスプレイに用いることができ、タッチパネルを構成する透明の電極フィルムの一方の面に、この粘着シートを貼り付け、粘着シートを介して、電極フィルムを液晶等のディスプレイ上に貼り付けることができる。この粘着シートは、主成分としての(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、イソシアネート系架橋剤と、含有する粘着性組成物を架橋したものである。また、この粘着シートには、必要に応じて、水酸基及びカルボキシル基を含まない粘着付与剤や添加剤が含有される。以下、詳細に説明する。
【0014】
<1.(メタ)アクリル酸エステル共重合体>
(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、分子内に反応性官能基を有するモノマー(反応性官能基含有モノマー)とを、モノマー単位として含有することが好ましい。これにより、好ましい粘着性を発現することができる。
【0015】
アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が-40℃以下であるもの(以下「特定アクリレート」という場合がある。)が好ましい。このような特定アクリレートを構成モノマー単位として含有することにより、本実施形態に係る粘着シートのtanδの極大値を後述する範囲に設定し易くなる。
【0016】
特定アクリレートとしては、例えば、アクリル酸n-ブチル(Tg-55℃)、アクリル酸n-オクチル(Tg-65℃)、アクリル酸イソオクチル(Tg-58℃)、アクリル酸2-エチルヘキシル(Tg-70℃)、アクリル酸イソノニル(Tg-58℃)、アクリル酸イソデシル(Tg-60℃)、メタクリル酸イソデシル(Tg-41℃)、メタクリル酸n-ラウリル(Tg-65℃)、アクリル酸トリデシル(Tg-55℃)、メタクリル酸トリデシル(-40℃)等を用いることが好ましい。中でも、より効果的に貯蔵弾性率を小さくする観点から、特定アクリレートとして、ホモポリマーのTgが、-45℃以下であるものであることがより好ましく、-50℃以下であるものであることが特に好ましい。具体的には、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルが特に好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基とは、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基をいう。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、特定アクリレートを、モノマー単位として、60質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがさらに好ましく、90質量%以上含有することが特に好ましい。上記特定アクリレートを60質量%以上含有することにより、本実施形態に係る粘着シートのtanδの極大値を後述する範囲により設定し易くなる。
【0018】
また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、特定アクリレートを、モノマー単位として、99.9質量%以下含有することが好ましく、99質量%以下含有することがさらに好ましく、98質量%以下含有することが特に好ましい。上記特定アクリレートを99.9質量%以下含有することにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体中に他のモノマー成分(特に反応性官能基含有モノマー)を好適な量導入することができる。
【0019】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、モノマー単位として反応性官能基含有モノマーを含有することで、当該反応性官能基含有モノマー由来の反応性官能基を介して、後述する架橋剤と反応し、これにより架橋構造(三次元網目構造)が形成され、所望の凝集力を有する粘着シートが得られる。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、モノマー単位として含有する反応性官能基含有モノマーとしては、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)、分子内にアミノ基を有するモノマー(アミノ基含有モノマー)などが好ましい。これらの中でも、水酸基含有モノマーが特に好ましい。水酸基含有モノマーは、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下であるものが多く、本実施形態に係る粘着シートのtanδの極大値を後述する範囲に設定し易い。
【0021】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等を挙げることができる。中でも、ガラス転移温度(Tg)、得られる(メタ)アクリル酸エステル共重合体における水酸基の架橋剤との反応性、および他の単量体との共重合性の点から、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、およびアクリル酸4-ヒドロキシブチルの少なくとも一つであることが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体の水酸基価は、1~30mgKOH/gであり、3~25mgKOH/gであることが好ましく、5~23mgKOH/gであることがさらに好ましい。水酸基価が1mgKOH未満であると、湿熱耐久性が悪くなり、30mgKOHを超えると、比誘電率を制御することが困難になる。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、モノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを、0.1質量%以上含有することが好ましく、0.5質量%以上含有することがさらに好ましく、1質量%以上含有することが特に好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、モノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを、30質量%以下含有することが好ましく、20質量%以下含有することがさらに好ましく、8質量%以下含有することが特に好ましい。
【0024】
但し、本実施形態に係る(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、モノマー単位として、カルボキシ基含有モノマー、特にアクリル酸を含まない。カルボキシ基は酸成分であるため、カルボキシ基含有モノマーを含有しないことにより、粘着シートの貼付対象に、酸により不具合が生じるもの、例えばスズドープ酸化インジウム(ITO)等の透明導電膜や、金属膜、金属メッシュなどが存在する場合にも、酸によるそれらの不具合(腐食、抵抗値変化等)を抑制することができる。
【0025】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量(Mw)の下限値は、20万以上であることが好ましく、30万以上であることがさらに好ましく、40万以上であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量の下限値が上記以上であると、粘着シートを加工する際に粘着の浸み出し等の不具合が抑制される。なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0027】
一方、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量(Mw)の上限値は、120万以下であることが好ましく、100万以下であることがさらに好ましく、90万以下であることが特に好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体の分子量分布(Mw/Mn)の下限値は、1.0以上であり、1.2以上、1.5以上の(メタ)アクリル酸エステル共重合体を選択することができる。一方、この分子量分布(Mw/Mn)上限値は、2.5以下であり、2.3以下であることが好ましい。なお、本明細書における分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と上述した重量平均分子量(Mw)とから算出したMw/Mnである。(メタ)アクリル酸エステル共重合体の分子量分布をこのような低い範囲とするには、種々の方法があるが、例えば、リビングラジカル重合法等の重合法を利用すればよい。
【0029】
本実施形態に係る粘着剤において、(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、上述した中の1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
<2.イソシアネート系架橋剤>
本実施形態に係る粘着性組成物を加熱すると、イソシアネート系架橋剤は(メタ)アクリル酸エステル共重合体を架橋し、三次元網目構造を形成する。これにより、得られる粘着シートの凝集力が向上する。
【0031】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。中でも水酸基との反応性の観点から、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートおよびトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0032】
粘着性組成物中におけるイソシアネート系架橋剤の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体共100重量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.05質量部以上であることが好ましく、さらには0.1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、10質量部以下であることが好ましく、特に8質量部以下であることが好ましく、さらには5質量部以下であることが好ましい。
【0033】
<3.粘着付与性樹脂>
本実施形態に係る粘着付与樹脂としては、水酸基及びカルボキシル基を含まない粘着付与性樹脂を使用することが好ましく、例えば、α-メチルスチレン又はβ-メチルスチレン等のスチレン系モノマーと脂肪族系モノマーとを共重合して得られるスチレン系樹脂、及び、これらスチレン系樹脂を水素化した水素化スチレン系樹脂等が挙げられる。
【0034】
粘着性組成物中における上述した粘着付与性樹脂の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体100重量部に対して、1~65重量部であることが好ましく、2~60重量部であることがより好ましく、3~55重量部であることがさらに好ましい。粘着性付与剤が含有され、さらに含有量が多くなると、粘着シートの粘着力が向上する。しかし、含有量が多すぎると、粘着シートが白濁したり、粘着シートを切断したときに加工刃に付着するおそれがある。一方、粘着剤組成物中における粘着付与性樹脂の含有量が少なすぎると、粘着力は向上しない。
【0035】
<4.添加剤>
粘着性組成物中には、必要に応じて、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤などを添加することができる。なお、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物を構成する添加剤に含まれないものとする。
【0036】
<5.粘着シートの物性>
<5-1.粘着シートの厚み>
粘着シートの厚みは、5~300μmであることが好ましく、10~250μmであることがさらに好ましく、50~150μmであることが特に好ましい。これは、厚みを5μm未満とすると、カバーフィルム等が剥がれやすい可能性があることによる。一方、厚みが300μmを超えると、生産性や粘着シートの切断性が低下するおそれがある。なお、粘着シートの厚みは、後述する比誘電率には影響せず、材料が同じであれば、比誘電率は略同じであることが本発明によって確認されている。
【0037】
<5-2.tanδ>
また、この粘着シートは、1Hzでのtanδの極大値(ガラス転移温度)が低いことが好ましく、例えば、-15℃以下であることが好ましく、-20℃以下が好ましく、-30℃以下がさらに好ましい。このように、tanδの極大値が低くなることで、後述する比誘電率、及びその温度依存度を低くすることができる。
【0038】
なお、tanδの極大値は、例えば、ティー・エイ・インスツルメント社製 「Discovery HR-3」を用いて測定することができる。
【0039】
<5-3.比誘電率及び温度依存度>
粘着シートの-20℃~80℃の間の比誘電率は、3.7以下であることが好ましく、3.5以下であることがさらに好ましい。また、比誘電率の-20℃と25℃との間の変化比、25℃と40℃との間の変化比、25℃と80℃との間の変化比は、それぞれ10%以下であることが好ましい。このように所定温度間の比誘電率の変化比が低いことで、比誘電率の温度依存度が低くなる。
【0040】
<6.粘着シートの製造方法>
本実施形態に係る粘着シートの製造方法は、特には限定されないが、例えば、次のように行うことができる。
【0041】
まず、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、イソシアネート系架橋剤、及び必要に応じて、粘着付与性樹脂を混合し、必要に応じて、上述した添加剤を加える。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、重合体を構成するモノマーの混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重合は、必要に応じて重合開始剤を使用し、溶液重合法により行うことが好ましい。重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0043】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等を挙げることができ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等が挙げられる。
【0044】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0045】
なお、上記重合工程において、2-メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の溶液に、イソシアネート系架橋剤、(必要に応じて)粘着付与性樹脂、及び所望により添加剤および希釈溶剤を添加し、十分に混合することにより、溶剤で希釈された粘着性組成物(塗布溶液)を得る。
【0047】
なお、上記各成分のいずれかにおいて、固体状のものを用いる場合、あるいは、希釈されていない状態で他の成分と混合した際に析出を生じる場合には、その成分を単独で予め希釈溶媒に溶解もしくは希釈してから、その他の成分と混合してもよい。
【0048】
上記希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0049】
このようにして調製された塗布溶液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着性組成物の濃度が10~60質量%となるように希釈することができる。なお、塗布溶液を得るに際して、希釈溶剤等の添加は必要条件ではなく、粘着性組成物がコーティング可能な粘度等であれば、希釈溶剤を添加しなくてもよい。この場合、粘着性組成物は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重合溶媒をそのまま希釈溶剤とする塗布溶液となる。
【0050】
上述した粘着性組成物の架橋は、通常は加熱処理により行うことができる。なお、この加熱処理は、所望の対象物に塗布した粘着性組成物の塗膜から希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。
【0051】
加熱処理の加熱温度は、50~150℃であることが好ましく、70~120℃であることがさらに好ましい。また、加熱時間は、例えば、10秒~10分であることが好ましく、50秒~2分であることがさらに好ましい。
【0052】
加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1~2週間程度の養生期間を設けることもできる。この養生期間が必要な場合は、養生期間経過後、粘着シートが形成される。一方、養生期間が不要な場合には、加熱処理終了後、粘着シートが形成される。
【0053】
上記の加熱処理(及び養生)により、イソシアネート系架橋剤を介して(メタ)アクリル酸エステル共重合体が十分に架橋されて架橋構造が形成され、粘着シートが得られる。
【0054】
<7.粘着シート積層体>
次に、本実施形態に係る粘着シート積層体について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る粘着シート積層体は、第1剥離シート1と、この第1剥離シート1上に積層された粘着層2と、この粘着層2上に配置された第2剥離シート3と、を備えている。第1及び第2剥離シート1,3は、公知の剥離シートであり、少なくとも一方に剥離面を有している。
【0055】
この粘着シート積層体は、例えば、次のように製造することができる。まず、第1剥離シート1を巻き取った繰り出しロールから第1剥離シート1を繰り出す。そして、第1剥離シート1の剥離面に、上述した粘着剤組成物の塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着剤組成物を熱架橋することで、粘着層2を形成する。この粘着層2が、本発明の粘着シートに相当する。その後、この粘着層2を覆うように、第2剥離シート3を貼り付ける。このとき、第2剥離シート3の剥離面が粘着層2に接するようにする。こうして、
図1に示すような粘着シート積層体が形成される。
【0056】
<8.特徴>
本発明に係る粘着シートは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の水酸基価が低く、且つ分子量分布が低いため、後述するように、比誘電率が低くなり、且つ比誘電率の温度依存度を低くすることができる。比誘電率が低いことで、例えば、この粘着シートを静電容量式のタッチパネルの電極フィルムに貼り付けたとき、検出感度の低下を抑制することができる。また、温度依存度が低いと、タッチパネルディスプレイ及びその周囲の温度が変化しても、検出感度が大きく変化するのを抑制することができる。
【実施例0057】
次に、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0058】
<1.実施例及び比較例の作製>
実施例1~5及び比較例1~3に係る粘着シートを準備した。さらに、各粘着シートの両面にそれぞれ、第1剥離シート及び第2剥離シートを貼り付け、
図1に示すような粘着シート積層体を作製した。各粘着シートの厚みは、100μmとした。
【0059】
実施例1~5及び比較例1~3に係る粘着シートの組成は、表1に示す通りである。イソシアネート系架橋剤を構成するコロネートL‐55Eは、東ソー社製であり、BHS8515は、東洋インキ社製であり、デュラネートTPA-100は旭化成社製である。また、粘着付与性樹脂として、スチレン系樹脂を用いた。このスチレン系樹脂は、三井化学株式会社製のFTR6100である。アクリル酸エステル共重合体については、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、及び水酸基価を示している。
【0060】
なお、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、GPC分析で求めたポリスチレン換算の値である。GPCの測定条件は以下の通りである。
・装置:HLC-8320GPC(東ソー株式会社製)
・検出器:示差屈折率計
・カラム:TSKgel SuperHZM-H(東ソー株式会社製)を2本直列に接続
・溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:0.6mL/min
・溶媒温度:40℃
・試料濃度:1mg/mL
・試料注入量:20μL
【0061】
【0062】
実施例1~5及び比較例1~3に係る粘着シートについて、以下の測定を行った。結果は、表2に示すとおりである。
【0063】
A.損失正接tanδの極大値
粘着シートの損失正接tanδの極大値の測定は、ティー・エイ・インスツルメント社製 「Discovery HR-3」を用いて測定した。測定条件については以下の通りである。
(測定条件)
測定モード:せん断モード
歪み:0.1%
測定周波数:1Hz
測定温度:-60~80℃(昇温5℃/min)
測定サンプル:各粘着シートの粘着層を重ねあわせ、総厚約1mmにして測定した。
【0064】
B.湿熱試験後のヘイズ率
各粘着シート積層体から両剥離シートを剥離した後、各粘着シートを50mm×50mmに切り取った。続いて、各粘着シートを厚みが0.7mmの一対のガラス板の間に配置し、測定用のサンプルとした。次に、各サンプルに対し、50℃、0.5MPa、30分の加圧脱泡処理を施した。続いて、各サンプルを85℃、相対湿度85%RHの環境槽中に480時間浸漬した。そして、環境槽から取り出して30分後の各サンプルに対し、日本電色工業株式会社製NDH-5000を用い、JIS K7136に準拠してヘイズ率を測定した。
【0065】
C.粘着試験
各粘着シート積層体から第1剥離シートを剥離し、露出した粘着層を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ:25μm)に貼合し、層構成が、第2剥離シート/粘着層/PETフィルムの積層体を得た。得られた積層体を25mm幅、120mm長に裁断し、これをサンプルとした。
【0066】
次に、温度23℃、相対湿度50%RHの環境にて、上記サンプルから第2剥離シートを剥離し、露出した粘着層をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製 品番:A4300 厚さ:100μm)に2kgのローラで一往復して貼り付けたのち、温度23℃、相対湿度50%RHの条件下で30分放置した。次に、引張試験機を用い、PETフィルムと粘着層との界面を、剥離速度300mm/min、剥離角度180°の条件で剥離させ、粘着力(N/25mm)を測定することで、粘着シートの粘着力を評価した。なお、その他の条件は、JIS Z0237:2009に準拠して、測定を行った。
【0067】
D.比誘電率
まず、各粘着フィルム積層体から第1剥離シートを剥離し、露出している粘着層を縦4mm×横40mm、厚さ0.5mmのCu(銅)電極上に貼り合せた。次に、第2剥離シートを剥離して、露出している粘着層に上記Cu電極を貼り合せ、評価用のサンプルとした。続いて、各サンプルに対し、50℃、0.5MPa、30分の加圧脱泡処理を施した。
【0068】
これに続いて、各サンプルに対し、インピーダンスアナライザー(日置電機株式会社 IM3570)にて1MHzでのインピーダンス測定を行い、各サンプルの粘着層の比誘電率を測定した。具体的には、各サンプルを-20℃から80℃まで20℃ずつ段階的に昇温し、各温度において上記インピーダンスアナライザーを用い、1MHzでのインピーダンス測定により静電容量Cを求めた。その後、求められた静電容量Cを用いて、以下の式より各温度における比誘電率を算出した。
比誘電率=(静電容量C×厚みt)/(面積S×真空の誘電率ε0)
【0069】
なお、厚みtは粘着層の厚み、面積SはCu電極の面積(縦40mm×横40mm)、真空の誘電率ε0は物理定数(8.854×10-12F/m)である。また、粘着層の厚みtは、次のように算出した。すなわち、マイクロメーターで各サンプルの厚さを5か所測定し、その平均値からCu電極2枚分の厚さを差し引き、粘着層の厚さtとした。
【0070】
【0071】
表1及び表2により、以下の知見が得られた。まず、実施例1,3及び比較例2,3を比べると、アクリル酸エステル共重合体の水酸基価が小さいほど比誘電率が低下していることが分かる。但し、実施例4,5のように、水酸基価が実施例1よりも大きくても、粘着付与性樹脂を含有すれば、比誘電率が低下することが分かった。また、粘着付与性樹脂の含有量が多いほど、粘着力が向上することが分かった。
【0072】
一方、比較例1のように、アクリル酸エステル共重合体の水酸基価が小さくても、分子量分布が大きいと、比誘電率の変化比(絶対値)が高くなることが分かった。したがって、分子量分布を低くすることで、比誘電率の温度依存度が低くなることが分かった。特に、実施例1~5では、いずれも比誘電率の変化比が概ね10%以下となっている。
【0073】
また、実施例1~4は、tanδの極大値が低くなっており、これも比誘電率及び温度依存度を低くする要因となっていると考えられる。一方、実施例5は、tanδの極大値が、実施例1~4と比べて高くなっているが、粘着付与性樹脂を含有することで、比誘電率及びその温度依存度が低くなっていると考えられる。