(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058156
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】パターン印刷物の製造方法、及び、パターン印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 1/12 20060101AFI20220404BHJP
B41N 1/24 20060101ALI20220404BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20220404BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20220404BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B41M1/12
B41N1/24
H05K3/12 610B
H05K1/09 A
H05K3/34 505B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105169
(22)【出願日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2020165622
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩孝
【テーマコード(参考)】
2H113
2H114
4E351
5E319
5E343
【Fターム(参考)】
2H113AA01
2H113AA02
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2H113BA10
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2H114GA34
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5E319AA03
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(57)【要約】
【課題】アスペクト比の高いパターン印刷を行うことが可能なパターン印刷物の製造方法を提供すること。
【解決手段】パターン印刷物の製造方法は、フィラー、バインダー、及び、バインダーに対して非相溶である溶媒を含んだ塗布剤10を印刷用インキとして準備する工程と、孔パターン32を設けたスクリーン版30の裏面30bに基材40を貼り合わせる工程と、塗布剤10を充填した加圧容器20を用いてスクリーン版30の表面30a側から孔パターン32に塗布剤10を注入する工程と、注入する工程の後に孔パターン32からはみ出た塗布剤14をスキージ50により掃引除去する工程と、掃引除去する工程の後に基材40をスクリーン版30から剥離する工程と、を備える。掃引除去する工程では、スキージ50によりスクリーン版43の表面30a側から孔パターン32内の塗布剤12に圧力を加える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラー、バインダー、及び、前記バインダーに対して非相溶である溶媒を含んだ塗布剤を印刷用インキとして準備する工程と、
孔パターンを設けたスクリーン版の裏面に基材を貼り合わせる工程と、
前記塗布剤を充填した加圧容器を用いて前記スクリーン版の表面側から前記孔パターンに前記塗布剤を注入する工程と、
前記注入する工程の後に前記孔パターンからはみ出た前記塗布剤をスキージにより掃引除去する工程と、
前記掃引除去する工程の後に前記基材を前記スクリーン版から剥離する工程と、
を備え、
前記掃引除去する工程では、前記スキージにより前記スクリーン版の前記表面側から前記孔パターン内の前記塗布剤に圧力を加える、パターン印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記加圧容器は、ノズルを有するディスペンサーであり、
前記注入する工程では、前記ディスペンサーの前記ノズルから前記塗布剤を前記孔パターン内に加圧注入または擦切り注入する、
請求項1に記載のパターン印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記スクリーン版の前記孔パターンの溝、前記表面、及び前記裏面のうち少なくとも1つが親水性被膜又は撥水撥油剤によってコーティングされている、
請求項1又は2に記載のパターン印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記親水性被膜は、主鎖がガラクトース、アラビノース、ラムノース、及びグルクロン酸のうちの少なくとも1つ以上を含む糖で構成される多糖類を含む、
請求項3に記載のパターン印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒の混合量は、前記フィラーと前記バインダーの混合物を100重量%とした場合に0.1重量%以上30重量%以下である、
請求項1~4の何れか一項に記載のパターン印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記バインダーが非水溶性であり、前記溶媒が水溶性である、
請求項1~5の何れか一項に記載のパターン印刷物の製造方法。
【請求項7】
前記バインダーが水溶性であり、前記溶媒が非水溶性である、
請求項1~5の何れか一項に記載のパターン印刷物の製造方法。
【請求項8】
前記塗布剤がそれぞれ成分構成の異なる異種の塗布剤であり、
前記注入する工程では、前記異種の塗布剤が充填された各圧力容器を同時に使用又は切り替えて使用することで、前記異種の塗布剤を前記スクリーン版の前記孔パターン内に注入する、
請求項1~7の何れか一項に記載のパターン印刷物の製造方法。
【請求項9】
前記基材は、前記基材の表面側において電子部品を配置する穴部と、前記基材の前記表面から裏面に向かって延びるビアホールとを有し、
前記注入する工程では、前記穴部及び前記ビアホールに導電性の前記塗布剤を注入し、前記導電性の塗布剤による前記電子部品の実装接続と、前記ビアホールへの前記導電性の塗布剤の充填とを行う、
請求項1~8の何れか一項に記載のパターン印刷物の製造方法。
【請求項10】
前記基材の前記裏面において前記ビアホールが露出する領域には裏面配線が設けられており、
前記注入する工程では、前記ビアホールに前記導電性の塗布剤を注入して前記ビアホールへの前記導電性の塗布剤の充填を行った際に前記導電性の充填材を前記裏面配線に接続させる、
請求項9に記載のパターン印刷物の製造方法。
【請求項11】
前記パターン印刷物の表面において前記スクリーン版のスクリーンメッシュ交点に対応する位置には凹部が形成され、
前記パターン印刷物の表面において前記スクリーン版の開口に対応する位置には凸部が形成される、
請求項1~10の何れか一項に記載のパターン印刷物の製造方法。
【請求項12】
前記凹部の幅は、10μm以上40μm以下であり、
前記凸部の頂面は、一辺の長さが20μm以上210μm以下の正方形である、
請求項11に記載のパターン印刷物の製造方法。
【請求項13】
基材と、
塗布剤から形成され、前記基材上に印刷された印刷パターンと、
を備え、
前記印刷パターンの表面において印刷に用いられるスクリーン版のスクリーンメッシュ交点に対応する位置には凹部が形成され、
前記印刷パターンの表面において前記スクリーン版の開口に対応する位置には凸部が形成される、パターン印刷物。
【請求項14】
前記凹部の幅は、10μm以上40μm以下であり、
前記凸部の頂面は、一辺の長さが20μm以上210μm以下の正方形である、
請求項13に記載のパターン印刷物。
【請求項15】
前記基材は伸縮性基材であると共に、前記塗布剤は導電性の塗布剤であり、
前記印刷パターンは、伸縮性を有する導電パターン配線である、
請求項13又は14に記載のパターン印刷物。
【請求項16】
前記基材上又は前記基材内に配置される電子部品を更に備え、
前記電子部品は導電性の前記塗布剤により前記基材に実装されている、
請求項13~15の何れか一項に記載のパターン印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン印刷物の製造方法、及び、パターン印刷物に関し、特にはスクリーン印刷又はメタルマスク印刷を含む密着式の加圧印刷方式を用いたパターン印刷物の製造方法、及び、パターン印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、スクリーン印刷方法の例が開示されている。特許文献1に開示されているスクリーン印刷方法では、スクリーン印刷前にスキージを数回往復移動させる予備スキージング動作を行い、これにより、塗布剤の粘度を安定させて印刷品質を高めている。特許文献2に開示されているスクリーン印刷方法では、スキージ機構の外部に塗布剤を供給し、スキージ機構で加圧しながらスキージングすることで、パターン孔への良好な充填性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-246729号公報
【特許文献2】特開2012-187739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に開示されたスクリーン印刷方法等に用いられる一般的な塗布剤210は、
図22の(a)に示すように、スクリーン版のメッシュ234と、印刷したい絵柄、配線パターン、回路などを穴として開口した樹脂膜又は金属膜であるマスク232とを経由し、下に重なっている基材240に一定のせん断Sを受けながら押し出されることになる。その結果、メッシュ234や開口部232aのマスク232の壁面と押し出される塗布剤210との間で、
図22の(b)に示すように、凝集破壊210a,210bが発生することがある。これは、いわゆる泣き別れ状態というものであり、メッシュ234やマスク232の開口部232aの壁面にも塗布剤が残り、印刷される基材240側にすべての塗布剤が転移できない状態が発生し、蒲鉾形状(semi-cylindrical shape)又は上面がアーチ状の断面形状を有するパターン印刷物210aとなる。そのため、アスペクト比の高いパターン印刷ができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためのものであり、アスペクト比の高いパターン印刷を行うことが可能なパターン印刷物の製造方法、及び、パターン印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一側面として、パターン印刷物の製造方法に関する。このパターン印刷物の製造方法は、フィラー、バインダー、及び、バインダーに対して非相溶である溶媒を含んだ塗布剤を印刷用インキとして準備する工程と、孔パターンを設けたスクリーン版の裏面に基材を貼り合わせる工程と、塗布剤を充填した加圧容器を用いてスクリーン版の表面側から孔パターンに塗布剤を注入する工程と、注入する工程の後に孔パターンからはみ出た塗布剤をスキージにより掃引除去する工程と、掃引除去する工程の後に基材をスクリーン版から剥離する工程と、を備える。掃引除去する工程では、スキージによりスクリーン版の表面側から孔パターン内の塗布剤に圧力を加える。
【0007】
このパターン印刷物の製造方法では、印刷用インキとして用いる塗布剤にバインダーに対して非相溶である溶媒を含めており、このような塗布剤を孔パターンに注入し、その後、スキージにより孔パターン内の塗布剤に圧力を加えるようにしている。この場合、スキージにより圧力を加えられた塗布剤からバインダーに対して非相溶である溶媒が滑剤として塗布剤の表面に滲み出し、印刷された塗布剤の表面を被覆するようになる。これにより、スクリーン版の孔パターンの内壁等と印刷された塗布剤との間に膜が形成され、基材をスクリーン版から剥離した際に塗布剤が凝集破壊を起こすことなく、基材上に転写され、より矩形に近い断面形状のパターン印刷物を得ることが可能となる。以上により、上記のパターン印刷物の製造方法によれば、アスペクト比の高いパターン印刷を行うことが可能となる。
【0008】
また、上記のパターン印刷物の製造方法によれば、例えば導電材料である塗布剤で配線パターンを印刷した場合、パターンの断面形状をより矩形に近づけることができ、矩形の場合は「底辺寸法×高さ寸法」といった単純な数式により、また、台形の場合は「(上辺寸法+底辺寸法)×高さ寸法÷2」といった単純な数式により、配線パターンの断面積を求めることができ、この断面積から配線抵抗値などを簡単に算出することが可能となる。また、この製造方法によれば、アスペクト比が高い断面形状(底辺が狭く、高さが高い)を有する印刷パターンを得ることができ、同じ配線抵抗値でも寸法幅(底辺寸法)を小さくすることができるので、電子回路のような密集した配線を狭い面積に集約することができ、かつ、配線に流れる電流をより多く流すことが可能となる。さらに、配線パターンの高さを高くできることから、配線の側面の面積(高さ×配線の長手方向)が広くなり、例えば並列した2つの電極とその間隙に埋め込んだ抵抗体との通電量を増大することが可能となる。
【0009】
更に、上述したパターン印刷物の製造方法は、スクリーン印刷方法を用いているため、ディスペンサー等で基材上に直接、塗布剤を吐出してパターンを描画する方法に比べて、複雑で多彩なパターンを高速で印刷することが可能である。言い換えると、ディスペンサー等を用いて塗布剤を吐出する方法では形成可能なパターンがストライプやラインパターンに限られてしまい、且つ、印刷速度が遅くコストが高くなるという問題があるが、本方法によれば、各種のパターンに対応することができ、且つ、印刷速度を速めてコストを低減することが可能となる。なお、ここで用いるスクリーン版は、樹脂マスクと金属メッシュとを組み合わせて構成されてもよく、また、樹脂マスクと樹脂メッシュとを組み合わせて構成されてもよく、また、金属マスクと金属メッシュとを組み合わせて構成されてもよい。
【0010】
なお、上述したパターン印刷物の製造方法によれば、例えば、垂直に切り立った印刷パターンを形成できるため、配線間隙を極限まで詰めた配線パターンを作製することが可能となる。そのため、より多くの電流を流す配線や、垂直に切り立ったパターン側面の単位長さ当たりの面積が広い配線パターンを作ることが可能となる。例えば、正極と負極を例えば交互に並列配置し、正極と負極の間隙にカーボン等の高抵抗の発熱体を挿入した回路など、電極間の断面積が大きいほど発熱効率が高くなるようなヒーターなどに有効で、狭小な間隙でも高さ方向に高く双方平行に切り立った電極ができる為、表面積が大きいほど放熱効果の高いヒートシンクや、ゼーベック効果、ペルチェ効果等の熱電変換材料で特に大きな効率が得られる可能性がある。
【0011】
上記のパターン印刷物の製造方法において、加圧容器は、ノズルを有するディスペンサーであり、注入する工程では、ディスペンサーのノズルから塗布剤を孔パターン内に加圧注入または擦切り注入することが好ましい。この場合、ディスペンサーから孔パターン内に塗布剤を注入する際にも塗布剤に圧力がかかることになり、圧力を加えられた塗布剤からバインダーに対して非相溶である溶媒が滑剤として塗布剤の表面に滲み出し、注入された塗布剤の表面を被覆するようになる。このため、基材をスクリーン版から剥離した際に塗布剤が凝集破壊を起こすことを更に抑制することができ、より矩形に近い断面形状のパターン印刷物を得ることが可能となる。その結果、アスペクト比の高いパターン印刷を行うことが可能となる。
【0012】
上記のパターン印刷物の製造方法において、スクリーン版の孔パターンの溝、表面、及び裏面のうち少なくとも1つが親水性被膜又は撥水撥油剤によってコーティングされていてもよい。バインダーに対して非相溶である溶媒が水溶性である場合、親水性被膜をコーティングしておくと、スクリーン版の孔パターンの溝等に予め滑剤が保持された状態となり、塗布剤の凝集破壊をより一層抑制することができる。この場合において、スクリーン版に感光性乳剤を使用すること又は金属マスクを使用することのいずれであっても、剥離性が向上し、塗布剤の凝集破壊を抑制することできる。また、撥水撥油剤をスクリーン版にコーティングしておくと、上記同様に、塗布剤の剥離性を向上することができ、塗布剤の凝集破壊をより一層抑制することができる。なお、撥水撥油剤としては、例えばフッ素系の撥水撥油剤を用いることができる。
【0013】
上記のパターン印刷物の製造方法において、スクリーン版にコーティングされる親水性被膜は、主鎖がガラクトース、アラビノース、ラムノース、及びグルクロン酸のうちの少なくとも1つ以上を含む糖で構成される多糖類を含むことが好ましい。このような多糖類を含む材料としては、例えば、アラビアガムが挙げられる。アラビアガムは、優れた乳化特性を有しており、水に溶かした乳化液は油-水界面に優先的に吸着する性質があるため、疎水性の高いポリペプチド鎖が感光性樹脂や金属で形成した疎水表面である孔パターンの溝に容易に吸着することができる。一方、アラビアガムの乳化液の親水性の糖鎖部分は、スクリーン版表面において完全に乾くとフィルム状の親水性多糖ユニットを形成する。これにより、スクリーン版の孔パターンの溝等に予め滑剤が保持された状態となり、塗布剤の凝集破壊をより一層抑制することができる。なお、アラビアガムとは、植物の樹液から得られる高分子多糖類であり、優れた乳化特性や皮膜性を有している材料である。
【0014】
上記のパターン印刷物の製造方法において、溶媒の混合量は、フィラー及びバインダーの混合物を100重量%とした場合に0.1重量%以上30重量%以下であることが好ましい。溶媒の混合量は、上記の混合物に対して5重量%以上13重量%以下で制御できればより好ましい。上記調合の場合、スクリーン版内に注入され、その後、スキージによる掃引除去による圧力を加えられた塗布剤から滲み出る溶媒の量を十分に確保することができ、滲み出た溶媒によって塗布剤の凝集破壊をより確実に抑制することが可能となる。
【0015】
上記のパターン印刷物の製造方法において、バインダーが非水溶性であり、溶媒が水溶性であることが好ましい。この場合、一定の攪拌によって、バインダーの分子結合の隙間に一時的に含浸、保持されることにより、スポンジ構造の中に水溶性の溶媒が含まれた状態となる。そして、その混合物に圧力が加わると、そのバランスが崩れて、水溶性の溶媒がバインダー表面に滲み出すことになる。滲み出した水溶性の溶媒は、スクリーン版との界面で流動性のある被膜を作り、バインダーの代わりにスクリーン版との直接のせん断対象になる。よって、バインダーのせん断に対する凝集破壊を防ぎ、凝集破壊をしていないパターンを形成することが可能となる。
【0016】
上記のパターン印刷物の製造方法において、バインダーが水溶性であり、溶媒が非水溶性であってもよい。例えば、電子部品業界において環境に優しい材料という観点から混合物のフィラーが金属やセラミック等で親水性の材料が必要とされる場合、水溶性のバインダーを使用することになるが、この場合、バインダーが水溶性で、溶媒を非水溶性にする。これにより、バインダー及びフィラーを含む混合物全体に占める非水溶性の溶媒の使用量を少なくすることができ、材料調達において環境に優しいグリーン調達面に貢献することができる。
【0017】
上記のパターン印刷物の製造方法において、塗布剤がそれぞれ成分構成の異なる異種の塗布剤であり、注入する工程では、異種の塗布剤が充填された各圧力容器を同時に使用又は切り替えて使用することで、異種の塗布剤をスクリーン版の孔パターン内に注入してもよい。この場合、より複雑な構成を有するパターン印刷物を製造することができる。従来のスクリーン印刷では、1種類の材料を印刷した後、一度焼成乾燥を行った後に、別のスクリーン版を使って、異種類の材料を重ねて印刷している。理由は、1種類の材料を印刷した後に焼成乾燥せずに重ねて印刷すると、1回目のパターン印刷物が潰れたり、生乾きの為、重ね刷り時に別のスクリーン版に接着してしまう。また、乾燥を入れたとしても高いアスペクト比のパターンの上から重ね刷りを行うと、重ねた部分が滲んだり、密着不良を起こしたりする。しかしながら、上記のパターン印刷物の製造方法においては、上記の従来のスクリーン印刷の問題を回避すると同時に、焼成乾燥工程を例えば1回で済ませることが可能となる。
【0018】
上記のパターン印刷物の製造方法において、基材は、基材の表面側において電子部品を配置する穴部と、基材の表面から裏面に向かって延びるビアホールとを有し、注入する工程では、穴部及びビアホールに導電性の塗布剤を注入し、導電性の塗布剤による電子部品の実装接続と、ビアホールへの導電性の塗布剤の充填とを行ってもよい。この場合、電子部品の実装とビアホールの充填とを同じ塗布剤を用いた印刷工程で行うことができ、安定した導電性を有する製品を作製することができる。また、電子部品の実装とビアホールの充填とを同じ印刷工程で行うことにより、製造時間を短縮することができ、その分、製造コストを低減できる。なお、上記の場合において、基材の裏面においてビアホールが露出する領域には裏面配線が設けられていてもよく、注入する工程では、ビアホールに導電性の塗布剤を注入してビアホールへの導電性の塗布剤の充填を行った際に導電性の充填材を裏面配線に接続させてもよい。
【0019】
上記のパターン印刷物の製造方法において、パターン印刷物の表面においてスクリーン版のスクリーンメッシュ交点に対応する位置には凹部が形成され、パターン印刷物の表面においてスクリーン版の開口に対応する位置には凸部が形成されてもよい。この場合、基材上に形成される塗布剤の断面形状をより矩形に近いものとすることが更にでき、アスペクト比の高いパターン印刷物を容易に得ることが可能となる。なお、上記の場合において、凹部の幅は、10μm以上40μm以下であってもよく、凸部の頂面は、一辺の長さが20μm以上210μm以下の正方形でああってもよい。ここでいう「正方形」には、隣接する一辺の長さが完全に一致する場合だけでなく、隣接する一辺の長さが±10%ずれる場合も含まれる。また、スクリーン版のメッシュ部分が例えば万線など違う形状でもよく、メッシュに相当する部分の痕が凹部になってもよい。
【0020】
本発明は、別の側面として、パターン印刷物に関する。このパターン印刷物は、基材と、塗布剤から形成され、基材上に印刷された印刷パターンと、を備える。このパターン印刷物では、印刷パターンの表面において印刷に用いられるスクリーン版のスクリーンメッシュ交点に対応する位置には凹部が形成され、印刷パターンの表面においてスクリーン版の開口に対応する位置には凸部が形成される。なお、このパターン印刷物においては、各印刷物の断面形状は、台形形状又は矩形形状を呈しており、基材側の下面に対する上面の長さの割合が70%以上であってもよい。
【0021】
上記のパターン印刷物では、印刷用インキとして用いる塗布剤にバインダーに対して非相溶である溶媒が含まれており、上述したように、製造過程において塗布剤の凝集破壊が抑制されている。よって、このパターン印刷物によれば、より矩形に近い断面形状を有することができ、アスペクト比を高くすることが可能である。
【0022】
上記のパターン印刷物において、凹部の幅は、10μm以上40μm以下であってもよく、凸部の頂面は、一辺の長さが20μm以上210μm以下の正方形であってもよい。また、スクリーン版のメッシュ部分が例えば万線など違う形状でもよく、メッシュに相当する部分の痕が凹部になってもよい。
【0023】
上記のパターン印刷物において、基材は伸縮性基材であると共に、塗布剤は導電性の塗布剤であり、印刷パターンは、伸縮性を有する導電パターン配線であってもよい。この場合、伸縮性を有する配線回路を有するパターン印刷物を得ることができる。
【0024】
上記のパターン印刷物は、基材上又は基材内に配置される電子部品を更に備え、電子部品は導電性の塗布剤により基材に実装されていてもよい。この場合、高アスペクト比のモジュール製品を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、アスペクト比の高いパターン印刷を行うことが可能なパターン印刷物の製造方法、及び、印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法において塗布剤を注入する工程を説明するための断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法における塗布剤をスキージで掃引除去する工程を説明するための断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法に適用できる各種の印刷方式を示す図であり、各印刷方式を用いた場合の効果を説明する。
【
図4】
図4は、マスクの開口部と塗布剤との間に生じるせん断力を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法における注入工程をより詳細に説明する断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法における注入工程をより詳細に説明するための断面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法におけるスキージ掃引除去工程をより詳細に説明するための断面図である。
【
図8】
図8は、一般的な印刷方式による印刷表面の特徴を示す図である。
【
図9】
図9は、本実施形態に係る印刷方式による印刷表面の特徴を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例1に係るパターン印刷物を製造する際の注入工程を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例1に係るパターン印刷物を製造する際のスキージ掃引除去工程を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例1に係るパターン印刷物の製造方法の結果を示す観察図である。
【
図13】
図13は、比較例1に係るパターン印刷物の製造方法の結果を示す観察図である。
【
図14】
図14は、実施例2に係るパターン印刷物の製造方法で製造された配線パターンを示す観察図である。
【
図15】
図15は、比較例2に係るパターン印刷物の製造方法で製造された配線パターンを示す観察図である。
【
図16】
図16は、実施例3に係るパターン印刷物の製造方法における印刷方式の工程概要図である。
【
図17】
図17は、実施例3に係るパターン印刷物の製造方法における印刷方式の工程概要図である。
【
図18】
図18は、実施例3に係るパターン印刷物を示す図である。
【
図19】
図19は、実施例3に係るパターン印刷物を示す図である。
【
図20】
図20は、実施例4に係るパターン印刷物の製造方法を説明するための断面図である。
【
図21】
図21は、実施例4に係るパターン印刷物の製造方法を説明するための断面図である。
【
図22】
図22は、一般的なスクリーン印刷方法で凝集破壊が生じることを説明するための断面図である。
【
図23】
図23は、一般的なスクリーン印刷方法における各種の印刷方式を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係るパターン印刷物の製造方法、及び、パターン印刷物について詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一の機能を有する要素には、同一符号を用いる場合があり、重複する説明は省略する。
【0028】
図1は、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法において、塗布剤を注入する工程を示す図である。
図2は、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法において、はみ出た塗布剤をスキージにより掃引除去する工程を示す図である。本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法は、(a)フィラー、バインダー、及び、バインダーに対して非相溶である溶媒を含んだ塗布剤を印刷用インキとして準備する工程と、(b)孔パターンを設けたスクリーン版の裏面に基材を貼り合わせる工程と、(c)塗布剤を充填した加圧容器を用いてスクリーン版の表面側から孔パターンに塗布剤を注入する工程と、(d)注入する工程の後に孔パターンからはみ出た塗布剤をスキージにより掃引除去する工程と、(e)掃引除去する工程の後に基材を前記スクリーン版から剥離する工程と、を備え、掃引除去する工程では、スキージによりスクリーン版の表面側から孔パターン内の塗布剤に圧力を加える。
【0029】
本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法は、一般的にはスクリーン印刷又はメタルマスク印刷と呼ばれる印刷方式を含むものであり、詳細は後述するが、まず、フィラー、バインダー、及び、バインダーに対して非相溶である溶媒を含んだ塗布剤10を印刷用インキとして準備する。また、塗布剤10を加圧して塗布するための加圧容器20、塗布剤10を所定パターンに印刷するためのスクリーン版30、及び、塗布剤が塗布された印刷パターンが形成される基材40を準備する。加圧容器20には、その下端に横長(
図1等の紙面に直交する方向)の印刷幅に合わせたスリット22が設けられている。加圧容器20に充填された塗布剤10は、スリット22からスクリーン版30上に塗布される。スクリーン版30には孔パターン32が設けられている。孔パターン32は、基材40上に印刷したい導体等のパターンに対応しており、スクリーン版30の表面30aと裏面30bとの間を貫通している。
【0030】
続いて、孔パターン32を設けたスクリーン版30の裏面30bに基材40を貼り合わせる。
【0031】
続いて、塗布剤10を充填した加圧容器20を用いてスクリーン版30の表面30a側から孔パターン32に塗布剤10を注入する。この際、加圧容器20に充填された塗布剤10をスクリーン版30の表面30aに密着させ(
図1の(a)を参照)、加圧容器20の内圧を上げて、スクリーン版30の孔パターン32内に塗布剤10を充填しながら掃引し(
図1の(b)を参照)、基材40への印刷を行う。加圧容器20としては、例えばシリンジを用いることができる。なお、この注入の際、孔パターン32内に注入された塗布剤12の他に、スクリーン版30の表面30aには、孔パターン32内に注入されずにはみ出した塗布剤10の一部が残留している(
図1では記載を省略。
図2の(a)を参照)。
【0032】
続いて、塗布剤の注入が完了すると、
図2の(a)に示すように、孔パターン32からはみ出た塗布剤14をスキージ50により掃引除去する。この際、加圧充填方式の印刷後に、スクリーン版30の版面(表面30a)上をスキージ50にて矢印方向に掃引を行う。この際、スキージ50は所定の角度を傾けて掃引を行う。そして、
図2の(b)に示すように、孔パターン32から漏れ出た塗布剤14を版面(表面30a)上から除去し、回収する。スクリーン版30は、スクリーン版から構成されてもよく、また、金属マスクと金属メッシュとを貼り合わせた版から構成されてもよく、金属マスク版から構成されてもよく、本実施形態では、これらをまとめてスクリーン版とする。本実施形態では、スクリーン版30が上述した何れの構成であっても塗布剤を除去、回収することができる。
【0033】
続いて、スキージによる掃引除去が完了すると、基材40をスクリーン版30から剥離する。これにより、基材40上にスクリーン版30の孔パターン32に対応したパターン印刷が形成される。
【0034】
本実施形態に係る印刷方式では、例えば、
図3の(a)に示すスクリーン版30Aを用いると、充填された塗布剤12とマスク32Aの開口部32aおよびメッシュ34Aとの界面Hにおいて、スキージ50の圧力と基材40からの押し返しの圧力が生じることで塗布剤12内の添加剤(上述した溶媒)の一部が滑剤として表面に滲みだす。この仕組みは、詳細は向上するが
図6に示すように、塗布剤10の充填圧力により塗布剤10内に含まれる添加剤16の一部が滑剤として表面に滲み出し、孔パターン32の端32aと基材40とメッシュ34を滑剤が被覆する状態となるからである。従って、上述した圧力を与えるスキージによる掃引除去により、マスク界面からの塗布剤12の剥離が促され、塗布剤12が凝集破壊を起こさずに基材40上に転写される。ただし、基材40との界面においては、塗布剤12が本来所有する接着力および基材40の界面における滑剤の吸収力、スキージ50の圧力による圧着力等が寄与して基材40に接着する。なお、基材40の材質は、多孔質など塗布剤12との密着性が向上する材質を選択することができる。
【0035】
また、加圧充填方式の加圧容器20として例えばディスペンサーを用いた場合、
図3に示すように、スクリーン版30A、金属マスク32Bと金属メッシュ34Bを貼り合わせたスクリーン版30B、金属マスク版30Cと、ディスペンサーの先端部との接点から漏れ出た塗布剤や、マスクの開口部32aから漏れ出た塗布剤は、スキージ50による掃引によって版面上から除去し、回収することができる。スキージによる掃引の際に、塗布剤12内の添加剤の一部が滑剤としてスクリーンメッシュ34Aとの交点部分にも滲み出るので、この部分は
図3の(a)に示すように、凹部12aとなる。
図3の(b)に示す金属メッシュ34Bでも同様な凹部12aができる。本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法によれば、このような形状が生じることになる。
図22のように凝集破壊が生じた場合は印刷断面形状が蒲鉾状であるが、これに対し、
図3に記載の方式では、凝集破壊が生じない為、蒲鉾状ではなく、断面形状が矩形で上面が凹部12aの状態になる。
【0036】
なお、従来の一般的な密着式の加圧印刷方式(
図1に示す注入あり、
図2に示すスキージ掃引なし)では、横長の印刷幅に合わせたスリットの入った加圧容器に充填された塗布剤をスクリーン版に密着させ、加圧容器の内圧を上げて、スクリーン版の孔パターン内に塗布剤を充填しながら掃引し、基材への印刷を行う。この方式では、
図23の(a)に示す金属マスク232Aと金属メッシュ234Aを貼り合わせてスクリーン版230A、
図23の(b)に示す金属マスク232Bと金属メッシュ234Bを貼り合わせた版230B、
図23の(c)に示す金属マスク版230Cがそれぞれ同様に、充填された塗布剤212とマスクの開口部232aのメッシュ及びマスクとの界面H4が密着したままとなるため、
図22に示すような凝集破壊を起こしてしまうことがある。その結果、スクリーン版の方に多くの塗布剤が基材240に転写されずに残ってしまう。しかしながら、本実施形態に係る製造方法によれば、このような凝集破壊を抑制することができる。
【0037】
(塗布剤)
次に、本実施形態に係る印刷方法に用いる塗布剤について、その成分及び作用効果を含めてより詳細に説明する。本実施形態に使用できる塗布剤は、フィラー、バインダー、及び、バインダーに対して非相溶の添加剤(非相溶の溶媒)を含む印刷用インキである。塗布剤に含まれるバインダーは、少なくとも樹脂等の主剤を含むものであり、主剤を溶解するための溶媒を含んでいてもよい。なお、バインダーは、本実施形態に使用される塗布剤となる前には、主剤を溶解するための溶媒を含んでいてもよく、この溶媒の一部又は全部が非相溶の添加剤に置き換えられてもよい。
【0038】
塗布剤10,12に用いるフィラーとしては、無機フィラーと有機フィラーを挙げることができる。
【0039】
無機フィラーは、金属フィラー又は非金属フィラーである。有機フィラーは、主に高分子組成物からなるフィラーである。金属フィラーを構成する金属には、貴金属、卑金属があり、例えば貴金属では、金、銀、白金、パラジウムがあり、卑金属は鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、鉛、亜鉛、すず、タングステン、モリブデン、タンタル、マグネシウム、コバルト、ビスマス、カドミウム、チタン、ジルコニウム、アンチモン、マンガン、ベリリウム、クロム、ゲルマニウム、バナジウム、ガリウム、ハフニウム、インジウム、ニオブ、レニウム、タリウムがある。
【0040】
非金属フィラーを構成する非金属は、上記の金属以外の元素であるが、例えば、反応性による分類では、反応性非金属として水素、炭素、窒素、酸素、フッ素、リン、硫黄、塩素、臭素、セレン、ヨウ素、アスタチン、貴ガスとしてヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン、非金属のような化学的性質をもつ半金属としてホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルルなどがある。
【0041】
さらに、無機フィラーには、複数の元素が化学結合した物質、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、べリリア、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、CMC、酸化チタン、ガラスビーズ、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、MOS、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、ゼオライト、酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどからなるフィラーが含まれる。
【0042】
有機フィラーを構成する高分子化合物は、上述した無機フィラーを化学的に、付加重合、縮合重合、付加縮合、共有結合といった化学反応によって一次元構造的に結合し糸状又は鎖状に形成された線状高分子化合物や三次元構造的に共有結合等で結ばれた構造を持つ網目状高分子化合物などである。
【0043】
塗布剤10,12に使用する無機フィラーは、銅、銀、ケイ素などが酸素、水素、炭素などと化学結合をした無機化合物であって、電気導電性、熱伝導性を有する金属原子を基軸としたフィラーであってもよく、特にシロキサン結合などを有するフィラーが好ましい。有機フィラーとしては、ポリウレタンなどウレタン結合を有する重合体で、通常イソシアネート基と水酸基を有する化合物の重付加により生成され、ウレタン(-NH・CO・O-)が介する結合を持ったウレタン樹脂、またはウレタンゴムアクリル樹脂など、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの重合体でできた合成樹脂、アミド結合(たんぱく質と同じ結合)を持つ高分子化合物などから構成されるフィラーであってもよい。
【0044】
いずれのフィラーも、球形状、扁平状、針状、又は多角形状の何れ形状であってもよい。また、フィラーの粒径は、0.1μmから数十μmであることが好ましい。
【0045】
塗布剤10,12に用いるバインダーは、例えば、熱硬化性樹脂、光硬化樹脂、又は熱可塑性樹脂である。
【0046】
バインダーに用いる熱硬化性樹脂は、上述した有機フィラーの付加重合、縮合重合、付加重合、共有結合といった化学反応前の状態のもので、比較的低分子の物質が加熱により高分子の三次元架橋構造(網状構造)となるフェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーンゴムといったもので、一度硬化した後は加熱しても再び軟化することが無い樹脂である。熱硬化性樹脂は、常温から高温まで反応温度帯が様々で、付加重合、縮合重合、付加縮合、共有結合等によって反応する。例えば、シリコーンゴムといったエラストマーは、ケイ素原子と酸素原子が交互に並んだシロキサン結合(Si-O-)をポリマー骨格(主鎖)とするポリオルガノシロキサン(シリコーンポリマー)が主原料であるが、HTV(High Temperature Vulcanizing rubber、高温硬化ゴム)、LTV(Low Temperature Vulcanizing rubber、低温硬化ゴム)、RTV(Room Temperature Vulcanizing rubber、室温硬化ゴム)と分けることができる。HTVの硬化温度は140℃以上、LTVの硬化温度は、40℃~140℃、RTVの硬化温度は、0℃~40℃となっているが、多様化によりHTV、LTVの境界がなくなっており、単純に、加熱硬化と室温硬化タイプで分けることが多くなっている。また、硬化前の性状により固形状のミラブルタイプ(HCR;High Consistency Rubber)と液状タイプに分けることができ、液状タイプとしてLSR(Liquid SiliconeRubber、液状シリコーンゴム)とRTVの製品群が含まれる。HCRでは重合度5000~10000程度の直鎖状ゴムが使用されるのに対し、液状シリコーンゴム(LSR、RTV)の場合は重合度100~2000程度の直鎖状ポリマーを主成分としている。さらに、架橋機構により過酸化物硬化、付加反応硬化、縮合反応硬化に分類できる。
【0047】
バインダーに用いる光硬化樹脂は、特定の波長の光によって重合、硬化する樹脂である。要するに、バインダーは、上述した化学反応または固着や接着前の熱硬化性樹脂、光硬化樹脂、熱風乾燥樹脂等のことである。
【0048】
塗布剤に使用するバインダーとして、ウレタン結合を有するブロック共重合体であるポリウレタン系熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリウレタン、熱硬化性ウレタンエラストマー、ポリエステル系、アクリルゴムとポリプロピレン、ポリエステルを主成分として構成されるアクリル系エラストマー、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルのブロック共重合体を有する熱可塑性エラストマーなど、ゴム弾性的かつ多孔質性を有する樹脂を用いることができる。さらに好ましくは、バインダーとして、シロキサンを含む材料を用いることが好ましい。シロキサンは、ケイ素(Si)と酸素(O)が交互に結合してポリマーが形成された状態のことをいい、シロキサン結合と呼ばれるシリコーンの主骨格となっている。特に、シロキサン化合物を骨格としたシリコーンエラストマーは、本実施形態における塗布剤の特徴をより有効にすることができる。
【0049】
本実施形態に用いる塗布剤10,12は、一般的な印刷用途で使用する印刷インキとは全く異なる考え方で定義されている。一般的な印刷インキは、印刷インキに含まれているバインダーの主剤に対し、溶解性パラメーター(Solubility Parameter:SP、またはSP値 以下「SP値」と略す)の差が小さいものを溶媒として混合させ使用されている。SP値の差が小さい2つの成分は混ざりやすい(溶解度が大きい)ため、印刷時の取り扱い性や、印刷物の平滑性、被印刷物との密着性等を担保することができる。しかしながら、本実施形態に係るパターン印刷方法では、一般的な印刷インキの概念とは異なり、塗布剤に含まれている無機フィラーまたは有機フィラーもしくは/およびバインダーに対し、SP値の差が大きい添加剤を使用することにより、本実施形態において、充填圧力により添加剤を滑剤として滲みださせることが可能となる。
【0050】
例えば、上述したように、塗布剤10,12のバインダーとして、シロキサン化合物を骨格としたシリコーンエラストマーを使用した場合は、バインダーが非水溶性であるため、水溶性溶媒を添加剤として用いることが好ましい。即ち、添加剤は、バインダーに対して非相溶である溶媒である。さらに、エラストマーというゴム弾性的かつ多孔質性を有することから、多孔質内に水溶性溶媒が浸透、含浸した状態となる。このような塗布剤を印刷に使うことで、塗布剤に加えられる圧力、せん断によって含浸された添加剤が塗布剤12から染み出し、スクリーン版30と塗布剤12との界面に被膜を形成し、滑剤として滑り性を発現する。このような非相溶な溶媒は、フィラー及びバインダーの混合物を100重量%とした場合に、少なくとも0.1重量%以上30重量%以下であることが好ましく、5重量%以上13重量%以下となるように制御できればより好ましい。
【0051】
この非相溶な溶媒(添加剤)の混合量は、例えば混合対象であるバインダーとフィラーを含む混合物に含まれる既存の溶媒が非水溶性の溶媒で9重量%である場合に、この非水溶性の溶媒を9重量%よりも小さい含有量(0重量%を含む)となるように減少させ、その減少させた分を水溶性溶媒に置換するといった調整方法により決定することができる。この場合、水溶性溶媒を最大9重量%とすることができる。または、この場合において、例えば、非水溶性の溶媒を4重量%以下まで減少させ、その残りの部分であり4重量%よりも大きい5重量%以上の部分を非相溶な水溶性溶媒に置換してもよい。さらに、バインダー及びフィラーを含む混合物の分子の大きさによっては、添加する溶媒の混合量が混合物全体に対して9重量%以上になるように調整してもよい。なお、上述した非相溶の溶媒の添加量は、対象となるバインダー及びフィラーを含む混合物を、例えば、加熱乾燥式水分計等を使用して160度昇温下における溶媒蒸散速度0.02%/分以下になった時の蒸発量を当該混合物全体に含まれる既存の全溶媒量として、その溶媒の重量%を基準に、フィラー、バインダー、及び、バインダーに対して非相溶である水溶性溶媒の量を調整して、決定することができる。
【0052】
さらに、分子の大きさに応じて、対象となるバインダー及びフィラーを含む混合物に含浸できる溶媒量を確認するため、非相溶の溶媒を対象となる混合物に過剰に投入して混錬し、一定の脱液工程を経た後の混合物を加熱乾燥式水分計等による計量により、混合物全体が含浸できる非相溶の最大含浸溶媒量として特定してもよい。上述した溶媒の混合量の範囲である0.1重量%以上30重量%以下は、このような工程から求められた値である。例えば、藤倉化成社製のストレッチャブル銀ペースト「ドータイト XA-9476」を用いた場合、既存の溶媒量が9重量%で、最大含浸溶媒量が13%であり、旭化成ワッカー製ELASTOSIL LR 3162を用いた場合は、既存溶媒量1%以下で最大含浸溶媒量が30%であると特定することができる。なお、最大含浸溶媒量をそれぞれ超えた状態の塗布剤は、印刷転移性や乾燥時間等に影響を及ぼすことがあるため、好ましくはない。
【0053】
本実施形態に使用する塗布剤10,12の構成の例として、銀、カーボンといった導電性を有する材料をフィラーとして用い、シリコーンポリマーが溶媒(例えばジメチルシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン等の鎖状シロキサン、オクタデカメチルシクロノナシロキサン等の環状シロキサン)もしくはノルマルウンデカン他、脂肪族水素等を主体とする溶媒に溶解されたものをバインダーとして用い、これらに添加剤を添加した構成があげられる。この場合、バインダーが非水溶性であるので、添加剤は水溶性とする。
【0054】
ゴム(バインダー)と油(添加剤)の混合を例にして、本実施形態に使用する塗布剤について説明を行う。ゴム(バインダー)と油(添加剤)を混合した場合、ゴムは膨潤する。これは、ゴムの分子間に油が入り込む現象で、油(添加剤)がゴム(バインダー)と混ざりやすければ膨潤し、混ざり難ければ膨潤し難く、ゴム(バインダー)の分子間に入り込んだとしても圧縮などの環境下などではゴム表面に滲み出てしまうということになる。つまり、塗布剤のバインダーが非水溶性の場合、水溶性溶媒の添加剤を添加することで、極性の異なる物質、SP値の差が大きい物質同士は、お互いに混ざり難いということから、塗布剤表面に水溶性溶媒である添加剤が染み出す状態が形成される。塗布剤のバインダーが水溶性の場合には、添加剤として非水溶性溶媒を用いる。すると、前述と同じメカニズムにより、塗布剤表面に非水溶性溶媒が染み出し、滑剤として作用する。
【0055】
塗布剤に使用する溶媒および添加剤には、非水溶性溶媒又は水溶性溶媒が使用できる。一般的に充填剤、印刷法などで使用される印刷インキに含まれる溶媒としては、下記式(1)で表される化合物(但し、モノヒドロキシステアリン酸を除く)を含む組成物が使用できる。
R1-CH2-R2 (1)
(式中、R1はモノヒドロキシアルキル基を示し、R2はカルボキシル基(C(=O)OH)又はアミド基(C(=O)NH2)を示す)
【0056】
溶媒として具体的には、n-ヘプタン(SP値:7.3)、酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(SP値:9.0)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(SP値:8.8)、n-プロパノール(SP値:11.8)、1,2,5,6-テトラヒドロベンジルアルコール(SP値:11.3)、ジエチレングリコールエチルエーテル(SP値:10.9)、3-メトキシブタノール(SP値:10.9)、トリアセチン(SP値:10.2)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.2)、シクロペンタノン(SP値:10.0)、γ-ブチロラクトン(SP値:9.9)、シクロヘキサノン(SP値:9.9)、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル(SP値:9.8)、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル(SP値:9.7)、ジプロピレングリコールメチルエーテル(SP値:9.7)、1,4-ブタンジオールジアセテート(SP値:9.6)、3-メトキシブチルアセテート(SP値:8.7)、プロピレングリコールジアセテート(SP値:9.6)、乳酸エチルアセテート(SP値:9.6)、ε-カプロラクトン(SP値:9.6)、1,3-ブチレングリコールジアセテート(SP値:9.5)、ジプロピレングリコール-n-プロピルエーテル(SP値:9.5)、1,6-ヘキサンジオールジアセテート(SP値:9.5)、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(SP値:9.4)、トリプロピレングリコールメチルエーテル(SP値:9.4)、トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(SP値:9.3)、ウンデカン(SP値:15.8)、デカン(SP値:15.8)、ドデカン(SP値:16.0)、シクロヘキサノールアセテート(SP値:9.2)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(SP値:9.0)、エチレングリコールメチルエーテルアセテート(SP値:9.0)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(SP値:8.9)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(SP値:8.9)、メチルアセテート(SP値:8.8)、エチルアセテート(SP値:8.7)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(SP値:8.7)、n-プロピルアセテート(SP値:8.7)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(SP値:8.7)、3-メトキシブタノールアセテート(SP値:8.7)、ブチルアセテート(SP値:8.7)、イソプロピルアセテート(SP値:8.5)、テトラヒドロフラン(SP値:8.3)、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル(SP値:8.0)、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(SP値:8.0)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(SP値:7.9)、プロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル(SP値:7.8)、プロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(SP値:7.8)、ジメチルシロキサン(SP値:7.5)等を挙げることができる。
【0057】
本実施形態における塗布剤においては、SP値は選択する溶媒の参考としての位置づけであり、まずは、バインダーが非水溶性か水溶性かを判断し、バインダーの主溶媒と真逆の溶媒を添加する組み合わせである。
【0058】
なお、本実施形態における「非水溶性」及び「水溶性」は、第4類危険物の水溶性液体についての定義を利用して規定することができる。第4類危険物は、引火性液体である。さらに(a)水に溶けるもの(水溶性)、(b)水に溶けないもの(非水溶性)に分けられる。これらは政令上、次のように定義されている。水溶性液体は、1気圧20℃で同容量の純水との混合液が均一な外観を維持するもので、非水溶性液体は水溶性液体以外のものとし、非水溶性の液体は、水と混合したとき2つの層に分かれる。液体の比重が水より小さければ水の層の上に、比重が水より大きければ水の層より下に、非水溶性の層ができる。水溶性液体の場合、混合すると層が分かれることなく均一になる。特殊引火物のジエチルエーテルや第1石油類の酢酸エチルなどのように水にわずかに溶けるものもあるが、定義上、非水溶性に分類される。
【0059】
従って、上記定義をもとに分類すると、水溶性溶媒は、例えば、酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(SP値:9.0)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(SP値:8.8)、n-プロパノール(SP値:11.8)、1,2,5,6-テトラヒドロベンジルアルコール(SP値:11.3)、ジエチレングリコールエチルエーテル(SP値:10.9)、3-メトキシブタノール(SP値:10.9)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.2)、γ-ブチロラクトン(SP値:9.9)、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル(SP値:9.8)、ジプロピレングリコールメチルエーテル(SP値:9.7)、乳酸エチルアセテート(SP値:9.6)、ε-カプロラクトン(SP値:9.6)、トリプロピレングリコールメチルエーテル(SP値:9.4)、トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(SP値:9.3)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(SP値:9.0)、エチレングリコールメチルエーテルアセテート(SP値:9.0)、酢酸ジエチルエーテル(SP値:9.0)テトラヒドロフラン(SP値:8.3)、ジプロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル(SP値:8.0)、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(SP値:8.0)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(SP値:7.9)、プロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(SP値:7.8)である。
【0060】
また、非水溶性溶媒は、ウンデカン(SP値:15.8)、デカン(SP値:15.8)、ドデカン(SP値:16.0)、トリアセチン(SP値:10.2)、シクロペンタノン(SP値:10.0)、シクロヘキサノン(SP値:9.9)、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル(SP値:9.7)、1,4-ブタンジオールジアセテート(SP値:9.6)、3-メトキシブチルアセテート(SP値:8.7)、プロピレングリコールジアセテート(SP値:9.6)、1,3-ブチレングリコールジアセテート(SP値:9.5)、ジプロピレングリコール-n-プロピルエーテル(SP値:9.5)、1,6-ヘキサンジオールジアセテート(SP値:9.5)、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(SP値:9.4)、シクロヘキサノールアセテート(SP値:9.2)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(SP値:8.9)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(SP値:8.9)、メチルアセテート(SP値:8.8)、エチルアセテート(SP値:8.7)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(SP値:8.7)、n-プロピルアセテート(SP値:8.7)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(SP値:8.7)、3-メトキシブタノールアセテート(SP値:8.7)、ブチルアセテート(SP値:8.7)、イソプロピルアセテート(SP値:8.5)、プロピレングリコールメチル-n-ブチルエーテル(SP値:7.8)、ジメチルシロキサン(SP値:7.5)である。
【0061】
本実施形態に用いる塗布剤の総重量を100部とした場合、フィラーは50部以上99.9部以下であってもよい。即ち、フィラーは、塗布剤全体に対して50重量%以上99.9重量%以下であってもよい。塗布剤は、具体的には、充填剤、印刷用途などに使用される銀ペースト、銅ペースト、絶縁ペースト等を主剤としても良い。
【0062】
本実施形態に用いられる塗布剤10,12には、バインダーに対して非相溶の溶媒に加えて、バインダーと親和性の良い相溶性のある溶媒が存在していてもよい。相溶性のある溶媒が存在することで、無機フィラー又は有機フィラー及びバインダーの混合物と被印刷物(基材40)との密着性、導電性、導通性等を担保することが可能となる。この場合、このような性質を維持したまま、上述した滑り性を得ることができる。添加量が上記範囲外であると、主剤であるエラストマーなどの化学結合が、損傷、分離し、物理的に脆い性質となり、印刷が困難となる。仮に印刷できたとしても弾性力を失ったり、導電性や熱伝導性を著しく失うことがある。
【0063】
以上、説明したように、本実施形態に使用される塗布剤10,12は、塗布剤10,12への加圧により塗布剤10,12内の滑剤が滲み出るという作用を生じるように構成されている。すなわち
図4に示すように、スクリーン版30のメッシュ34Aと、孔パターンを設けたマスク32Aを経由し、基材40に塗布剤12が押し出される際、開口部32aのマスク32Aの壁面と押し出される塗布剤12との間では、塗布剤内の滑剤が滲み出ることでせん断Sが小さくなり、凝集破壊が発生しないという効果を奏することができる。
【0064】
(スクリーン版)
次に、本実施形態に用いるスクリーン版30について、より詳細に説明する。スクリーン版30は、一般的なスクリーン印刷に使用するポリエステル繊維(例えば、テトロン(登録商標))をメッシュに使用し、感光性乳剤が適用されたマスク等として使用するものや、高細線印刷に使用するステンレスをメッシュに使用し、感光性乳剤をスクリーンマスクとして使用するもの、フォトリソ技術を応用しニッケル膜を電鋳する技術で金属マスクを形成し、このマスクとステンレスのメッシュとをメッキ技術で貼り合わせたもの、ニッケル膜のマスクとメッシュもニッケル電鋳技術で形成し、メッキ技術で貼り合わせたもの、また、メッシュがなくステンレスやニッケルに孔をレーザーやエッチングで開けただけのメタルマスクといったメッシュが存在しない、スクリーン版を用いることができる。なお、細かい複雑な回路パターン、丸や四角など回路が閉じている様なパターンは、剛性などを考慮し、上述した何れの版を選択して用いて作製することができる。
【0065】
本実施形態において、スクリーン版30は、好ましくは、メッシュとマスクを貼合わせた版を使用することができる。さらに好ましくは、スクリーン版30は、ステンレスやニッケルなどで形成された金属メッシュとステンレスやニッケルなどで形成された金属マスクとを貼り合わせたスクリーン版を使用することができる。テトロンメッシュ、感光性乳剤を使用したマスクなどの組み合わせのスクリーン版30を使う場合、本実施形態に係る塗布剤10,12に含有する非水溶性溶媒、水溶性溶媒などによっては、これらの塗布剤と融和傾向となる。すると、本実施形態に使用するスクリーン版30と塗布剤10,12との界面で発生する滑り性の効果を低減させる場合がある。ただし、テトロン(登録商標)メッシュを使用する場合は、フッ素系の撥水撥油コート剤、親水性被膜などを予め版にコーティングして使用してもよい。金属マスクにおいても使用してより効果がある為、使用してもよい。親水性被膜は、特に水溶性溶媒を滑り剤として塗布剤10,12に添加した際に特に有効であり、感光性乳剤を使用したマスク、金属マスク問わずスクリーン版30に形成されたマスクパターンに予め滑り剤が保持される状態となり、本実施形態に係る印刷方法による印刷性をより向上させる。さらに、滑り剤を含浸したスポンジ、モルトンローラ等による印刷中でのマスク面のクリーニングが容易となり、連続印刷性が向上する。
【0066】
ここで用いる親水性被膜としては、主鎖がβ-1,3結合したガラクトース鎖のガラクトース、アラビノース、ラムノース、又は、グルクロン酸等の糖から構成される多糖類を使用することができる。このような多糖類を含む材料としては、これに限定されるものではないが、例えば、アラビアガムを挙げることができる。アラビアガムは、優れた乳化特性を有しており、水に溶かした乳化液は油-水界面に優先的に吸着する性質があるため、版表面に塗布すると、疎水性の高いポリペプチド鎖が感光性樹脂や金属で形成した疎水表面である孔パターンの溝に容易に吸着することができる。一方、アラビアガムの乳化液の親水性の糖鎖部分は、スクリーン版表面において完全に乾くとフィルム状の親水性多糖ユニットを形成する。このような強固な親水性多糖ユニットによれば、版表面および版溝内、スクリーンメッシュ表面の強固な被膜形成が可能であり、滑剤の強固な保持能力の発現とマスク面のクリーニング耐性も得ることができる。また、上述した多糖類を含んで構成される親水性被膜は、純水やトルエン、キシレン系の溶媒に可溶である特性も有しており、連続印刷後の被膜除去、親水性被膜の再形成も容易に行うことが可能である。
【0067】
金属マスクとメタルメッシュが貼り合わされたスクリーン版30は、フォトリソ技術を応用したニッケル膜を電鋳する技術でマスクを形成し、ステンレスのメッシュとメッキ技術で貼り合わせて作成される。金属マスクとして特に制限はないが、一般的な規格のものを用いることができる。例えば、HS325-16-CAL17、メッシュバイアス角度22.5°、メタルマスク厚100μm(ニッケル)、メッシュメッキ厚2~3μm(セリアコーポレーション製)という規格のものを用い、ステンレスメッシュ線数325線、線径φ16μm、メッシュ厚をカレンダー工程によって17μmにし、ニッケル電鋳技術で膜厚100μmのメタルマスクを作る。このメタルマスクとステンレスメッシュとを、メッシュメッキ厚2~3μmで貼り合わせた版がある。
【0068】
また、ニッケル膜のマスクとメッシュもニッケル電鋳技術で形成し、メッキ技術で貼り合わせたものもある。例えばバイアス45°の仕様でニッケル電鋳でメッシュを形成し、マスク厚200μm(ニッケル)の仕様でニッケル電鋳で、メタルマスクを形成したものをニッケルメッキ技術で同様に貼り合わせた版とする。
【0069】
特にメーカーによって、後者のニッケルマスクは、任意にメッシュ形状、線数、線幅、バイアスを版の任意の箇所に変更できる点が優位とされている。本実施形態の印刷方法においては、メッシュ線数80本/inch以上730本/inch以下、線径は10μm以上40μm以下、メッシュバイアス角度は22.5°から45°の範囲、オープニングは20μm以上210μm以下、メタルマスク厚100μm以上、貼り付け電気メッキ厚2μm以上の金属メッシュおよび金属マスク仕様の版を使うことが特に望ましい。
【0070】
(塗布剤注入とスキージによる掃引)
ここで、
図5、
図6及び
図7を参照して、本実施形態に係る印刷方法で、塗布剤の注入工程と、スキージによる掃引除去工程について、更に詳細に説明する。ここでは、上述した塗布剤10,12を使用し、ディスペンサー等の加圧容器20を用いた充填方式を行う。
図5~
図7に示すプロセスでは、従来技術(例えば、特許文献1及び特許文献2に記載の方法等)と異なり、上述した構成を有する塗布剤を塗布剤10,12として用いて、スクリーン版30(スクリーン版30A、金属マスクと金属メッシュを貼り合わせた版30B、又は金属マスク版30C)に形成された孔パターン32の端32aから、加圧容器20の先端を矢印A1の方向に移動させながら塗布剤10を孔パターン32に注入していく。
【0071】
図5の(a)に示すように、加圧容器20で塗布剤10を孔パターン32に充填することにより、塗布剤10の滑り性が効果を発揮し、孔パターン32の端32aから注入された塗布剤10は、基材40と印刷版(スクリーン版30A、金属マスクと金属メッシュを貼り合わせた版30B、又は金属マスク版30C)に形成された孔パターン32内を、横方向への滑り性を利用し、大きな圧力損失を受けずに矢印A2の方向にスムーズに流れ込む。そして、
図5の(b)及び(c)に示すように、孔パターン32内において行き場を失った塗布剤12は矢印A3の方向に向かい、最終的に孔パターン32の上面にある金属メッシュから滲み出て、塗布剤の滲出部14が形成される。
【0072】
ここで、
図6を参照して、上述した工程で示す塗布剤10,12の滑り性が効果を発揮する理由について説明する。
図6に示すように、本実施形態に係る塗布剤10は、無機フィラーまたは有機フィラーと、バインダーと、バインダーに対して非相溶である添加剤16とを、細かく内包させた状態であるため、例えば加圧充填方式である加圧容器20(ディスペンサー)の様な吐出経路が狭小な吐出経路26を通過すると、塗布剤10に大きな圧力が加わる。無機フィラーまたは有機フィラーとバインダーの混合物(主剤)に対して非相溶である添加剤16は、これまで無機フィラーまたは有機フィラーとバインダーの混合物(主剤)との均衡を保った状態でいたが、塗布剤10内部から圧力で絞り出される形で表面H2に滲みだし、孔パターン32の端32aと基材40とメッシュ34とを被覆する。この工程によって、塗布剤10,12の滑り性の効果が発現する。
【0073】
次に、
図7(a)~(c)に示すように、孔パターン32の上面にあるメッシュ34から滲み出た塗布剤14を、任意の圧力でスキージ50で矢印方向に掃引する(後スキージ工程)。スキージ掃引時の圧力は、スクリーンマスクに対しアタック角60度~80度の範囲でスクリーンマスク表面にスキージ先端を落とし、そのスキージ先端が突き当たりした高さからスクリーンマスクを押し込む方向に例えば、0.5mmから3mmの範囲で押し込んだ際に発生する応力に基づいて算出される。このスキージ掃引時の圧力は、例えば、ミノグループ製スキージを用いた場合、平形スキージ(黄)のゴム硬度80から85度、ゴム厚さ9mm、高さ50mmという規格に応じて変化する。なお、ここで用いるスキージ50としては、スキージの先端形状が平型、角形、又は、剣先形の何れであるスキージを用いてもよく、また、ゴム硬度が55~85度の何れであるスキージを用いてもよく、ゴム厚さが6~9mmの何れであるスキージを用いてもよく、高さが30~50mmの範囲で使用してもよい。このような構成のスキージ50により掃引された塗布剤14aは、印刷版の端に寄せられる。このとき、スキージ50の掃引によって塗布剤12の滲出部14に圧力がかかることにより、孔パターン32のマスクの開口部およびメッシュとの界面Hがスキージ50の圧力と基材40からの押し返しで、塗布剤10,12内の滑剤が表面に滲み出る。そのため、マスクの界面H3からの剥離を促すことが可能となり、前述のような凝集破壊を起こさずに、基材40に転写するプロセスが可能となる。
【0074】
ここで、
図8及び
図9を参照して、本実施形態に係る印刷法で印刷された導電配線パターンを例として、その特徴を説明する。
図8は、一般的な印刷方式による印刷表面の特徴を示す図であり、
図9は、本実施形態に係る印刷方式による印刷表面の特徴を示す図である。
【0075】
まず、一般的な従来の塗布剤及びスクリーン印刷を使用した場合、
図8の左図に示すように、印刷パターン表面に塗布剤に凝集破壊が生じることによって、スクリーンメッシュ痕261およびメッシュ開口部262による凹凸構造が形成される。スクリーンメッシュ痕とは、印刷されたパターンにおいてスクリーンメッシュの交点にあたる部分に、スクリーンメッシュを通過した痕跡が表面の凹凸形状として残るものを示す。従来の塗布剤及び従来のスクリーン印刷を使用した場合、メッシュ痕261が凸部、メッシュ開口部262が凹部となる。
【0076】
これに対し、本実施形態に係る塗布剤及び印刷法を用いた場合、
図9の左図に示すように、印刷パターン表面に形成される凹凸構造は、スクリーンメッシュ痕61は凹部となり、メッシュ開口部痕62は凸部となり、
図8のように従来の塗布剤及びスクリーン印刷を使用した場合とは、凹凸がそれぞれ逆転した構造となる。このようにメッシュ痕が凹部となるのは、
図5に示したように、メッシュ痕にあたる部分が、塗布剤からにじみ出る滑剤の作用により凝集破壊が生じなくなることによる。
【0077】
具体例として、メッシュ線径16±2μm、メッシュ開口部の一辺長60±2μmのスクリーン版を使用した場合を例にとり、形成される凹凸構造について詳細を説明する。
【0078】
従来の塗布剤及びスクリーン印刷の場合は、
図8の右図のように、パターン表面に形成されるスクリーンメッシュ痕の幅D1が11.3μmとなり、メッシュ線径に対し、62.8%~80.7%に縮小している。メッシュ開口部痕の一辺の長さL1が75.5μmとなり、メッシュ開口部の一辺長に対し、121.8%~130.2%に拡大している。スクリーンメッシュ痕の周囲の凹凸においては、メッシュ開口部痕を底部として22.17μmのギャップ(高低差)G1が生じていた。
【0079】
これに対し、本実施形態に係る塗布剤及び印刷法を用いた場合の印刷面では、
図9の右図のように、パターン表面に形成されるスクリーンメッシュ痕の幅D2が15.8μmで、メッシュ線径に対し、87.8%~113%になり、メッシュ開口部痕の一辺の長さL2が63μmで、スクリーン版メッシュ開口部の一辺長に対し、101.6%~108.6%になっていた。
図8に示す従来の場合と比較して、
図9に示すように、本実施形態に係る印刷方法では、寸法の変化が少ないことがわかる。
【0080】
また、スクリーンメッシュ痕においては、メッシュ開口部痕を頂部(頂面)として底部とのギャップ(高低差)G2においても3.89μmと小さく、極めて平坦に近い形状を示した。即ち、本実施形態に係る塗布剤及び印刷法によれば、印刷面の表面における凹凸部分の幅および高低差が従来の方法よりも小さくなることを示している。
【0081】
これは、加圧容器20(ディスペンサー)にて充填後、
図7で示した後スキージ工程でのメッシュ開口部へのゴムスキージの食い込みによって印刷面のメッシュ痕とメッシュ開口部で形成された凹凸がならされて、平坦化されたものである。ただし、ゴムスキージの代わりにメタルスキージで後スキージを行っても、メッシュ開口部が凸部になる特徴は変わらない。従って、本実施形態で得られるパターン表面に形成されるメッシュ痕の特徴は、スクリーンメッシュ痕が凹部となり、スクリーン開口部が凸部となり、スクリーンメッシュ寸法に対し、メッシュ線幅、メッシュ開口部に対して変動幅が小さく、ほぼ同程度のサイズで凹凸構造が生じる。また、この特徴は、スクリーンメッシュ痕が凹部となり、メッシュ開口部が凸部となることである。このような結果から、本実施形態に係るパターン印刷方法においては、凹部として、メッシュ痕の幅が10μm以上40μm以下で生じ、凸部の頂面として、開口部痕の一辺の長さが20μm以上210μm以下で生じ、一辺の長さが20μm以上210μm以下の正方形でああってもよい。ここでいう「正方形」には、隣接する一辺の長さが完全に一致する場合だけでなく、隣接する一辺の長さが±10%ずれる場合も含まれる。また、スクリーン版のメッシュ部分が例えば万線など違う形状でもよく、この場合もメッシュに相当する部分の痕が凹部になる。
【0082】
(異種の塗布剤の利用)
スキージ50により掃引して掻かれた塗布剤は回収して再利用もできる。またこのプロセスは、後述する実施例で示すが、本実施形態に係る塗布剤10,12の構成で異種の塗布剤を作り、これらを各々のシリンジ(加圧容器)から同じ孔パターン32へ、一回の印刷で充填するようにしてもよい。この場合、これまで異種の塗布剤を使用するために少なくとも2回印刷していた工程を、一回で済ませることが可能になる。また、異種の塗布剤を作り、各々のシリンジから同一版内の別々の孔パターンへ同時に充填してもよい。
【0083】
従って、上記プロセスは一般的なディスペンサー方式に限らず、加圧充填方式、一般的なスクリーン印刷といった、スクリーン版、金属マスクと金属メッシュを貼り合わせた版、金属マスク版を使用する印刷方法にも適用できる。
【0084】
本実施形態に係る印刷方法によれば、基材40に対し、垂直に切立ったパターンを形成できるため、配線間隙を極限まで詰めた配線パターンを作ることができる。
また、高いアスペクト比の配線印刷が可能な為、縦方向の表面積が稼げる。例えば、ストライプ状に電極で反応面積の広いことが要求されるような電極にも適用できる。
【0085】
ここで、本実施形態に係る印刷方法による作用効果について、特許文献1及び特許文献2に記載されたスクリーン印刷方法と対比して、説明する。特許文献1に記載されたスクリーン印刷方法は、従来の印刷技術におけるせん断によるチキソ性を利用した印刷方式に頻繁に利用されるものである。この特許文献1の方法は、インキの流動性およびインキの粘着性を最大限に引き出すことで、印刷後の印刷パターンのレベリング性(平滑性)かつインキの基材転写性(凝集性)を利用した印刷手段である。しかしながら、本実施形態に係る印刷方法は、印刷時のスクリーン版とインキとの凝集破壊が起きないようにしているため、従来技術におけるスクリーン版とインキとの泣き別れという凝集破壊による歪な形状の修正を狙ったインキのレベリング性による効果を必要としないため、予備スキージング動作等の工程が不要となる。つまり、本実施形態に係るスクリーン印刷方法によれば、既存の印刷概念と全く異なる印刷の仕組みを提示することができる。なお、ここでいうチキソ性とは、ゲルのような塑性固体とゾルのような非ニュートン液体の中間的な物質が示す性質で、粘度が時間経過とともに変化するものである。具体的には、せん断応力を受け続けると粘度が次第に低下し液状になる。また静止すると粘度が次第に上昇し最終的に固体状になることである。
【0086】
また、特許文献2に記載されたように、スキージ機構の外部に塗布剤を供給し、スキージ機構で加圧しながらスキージングする方法は、パターン孔への良好な充填性を確保することができる。しかしながら、特許文献2に記載の方法も従来技術の上記印刷インキの考え方をそのまま踏襲していることから、印刷時の凝集破壊を避けることができない。また、スキージ機構の外部に塗布剤を供給し、スキージ機構への供給は、供給経路による印刷インキへの圧縮、せん断などによるインキ物性変化をもたらしてしまう。スクリーン版とディスペンサーノズルの吐出工程の最終圧縮、せん断で本実施形態に係る方法の効果をもたらすところが本実施形態に係る方法と異なっている。さらに、本実施形態に係るスクリーン印刷方法は、充填するインキ特性と充填後の追いスキージ工程と使用する版の表面処理方法によって、印刷時の凝集破壊はほとんど起きない。また複数の異種のインキを部分的に一つの印刷の工程で行えることも可能である。
【0087】
以上、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法によれば、印刷用インキとして用いる塗布剤10,12にバインダーに対して非相溶である溶媒16を含めており、このような塗布剤を孔パターン32に注入し、その後、スキージ50により孔パターン32内の塗布剤12に圧力を加えるようにしている。この場合、スキージ50により圧力を加えられた塗布剤12から非相溶の溶媒が滑剤として塗布剤12の表面に滲み出し、印刷された塗布剤12の表面を被覆するようになる。これにより、スクリーン版30の孔パターン32の内壁等と印刷された塗布剤12との間に膜が形成され、基材40をスクリーン版30から剥離した際に塗布剤12が凝集破壊を起こすことなく、基材40上に転写され、より矩形に近い断面形状のパターン印刷物を得ることが可能となる。以上により、上記のパターン印刷物の製造方法によれば、アスペクト比の高いパターン印刷を行うことが可能となる。
【0088】
また、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法によれば、例えば導電材料である塗布剤10,12で配線パターンを印刷した場合、パターンの断面形状をより矩形に近づけることができ、矩形の場合は「底辺寸法×高さ寸法」といった単純な数式により、また、台形の場合は「(上辺寸法+底辺寸法)×高さ寸法÷2」といった単純な数式により、配線パターンの断面積を求めることができ、この断面積から配線抵抗値などを簡単に算出することが可能となる。なお、このパターンの断面形状は、台形形状又は矩形形状を呈しており、基材側の下面に対する上面の長さの割合が下面の70%以上であってもよい。また、この製造方法によれば、アスペクト比が高い断面形状(底辺が狭く、高さが高い)を有する印刷パターンを得ることができ、同じ配線抵抗値でも寸法幅(底辺寸法)を小さくすることができるので、電子回路のような密集した配線を狭い面積に集約することができ、かつ、配線に流れる電流をより多く流すことが可能となる。さらに、配線パターンの高さを高くできることから、配線の側面の面積(高さ×配線の長手方向)が広くなり、例えば並列した2つの電極とその間隙に埋め込んだ抵抗体との通電量を増大することが可能となる。
【0089】
また、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法は、スクリーン印刷方法を用いているため、ディスペンサー等で基材上に直接、塗布剤を吐出してパターンを描画する方法に比べて、複雑で多彩なパターンを高速で印刷することが可能である。言い換えると、ディスペンサー等を用いて塗布剤を吐出する方法では形成可能なパターンがストライプやラインパターンに限られてしまい、且つ、印刷速度が遅くコストが高くなるという問題があるが、本実施形態に係る方法によれば、各種のパターンに容易に対応することができ、且つ、印刷速度を速めて製造コストを低減することが可能となる。なお、ここで用いるスクリーン版は、樹脂マスクと金属メッシュとを組み合わせて構成されてもよく、また、樹脂マスクと樹脂メッシュとを組み合わせて構成されてもよく、また、金属マスクと金属メッシュとを組み合わせて構成されてもよい。
【0090】
また、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法によれば、例えば、垂直に切立った印刷パターンを形成できるため、配線間隙を極限まで詰めた配線パターンを作製することが可能となる。そのため、より多くの電流を流す配線や、垂直に切り立ったパターン側面の単位長さ当たりの面積が広い配線パターンを作ることが可能となる。例えば、正極と負極を交互に並列配置し、正極と負極の間隙にカーボン等の高抵抗の発熱体を挿入した回路など、電極間の断面積が大きいほど発熱効率が高くなるようなヒーターなどに有効で、狭小な間隙でも高さ方向に高く双方平行に切り立った電極ができる為、表面積が大きいほど放熱効果の高いヒートシンクや、ゼーベック効果、ペルチェ効果等の熱電変換材料で特に大きな効率が得られる可能性がある。
【0091】
また、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法において、加圧容器20は、ノズルを有するディスペンサーであり、注入工程では、ディスペンサーのノズルから塗布剤10を孔パターン32内に加圧注入または擦切り注入することが好ましい。この場合、ディスペンサーから孔パターン32内に塗布剤10を注入する際にも塗布剤に圧力がかかることになり、圧力を加えられた塗布剤10,12から非相溶の溶媒16が滑剤として塗布剤10,12の表面に滲み出し、注入された塗布剤12の表面を被覆するようになる。このため、基材40をスクリーン版30から剥離した際に塗布剤12が凝集破壊を起こすことを更に抑制することができ、より矩形に近い断面形状のパターン印刷物を得ることが可能となる。その結果、アスペクト比の高いパターン印刷を行うことが可能となる。
【0092】
また、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法において、スクリーン版30の孔パターン32の溝、表面、及び裏面のうち少なくとも1つが親水性被膜又は撥水撥油剤によってコーティングされていてもよい。バインダーに対して非相溶である溶媒が水溶性である場合、親水性被膜をコーティングしておくと、スクリーン版30の孔パターン32の溝等に予め滑剤が保持された状態となり、塗布剤12の凝集破壊をより一層抑制することができる。この場合において、スクリーン版に感光性乳剤を使用すること又は金属マスクを使用することのいずれであっても、剥離性が向上し、塗布剤の凝集破壊を抑制することできる。また、撥水撥油剤をスクリーン版にコーティングしておくと、上記同様に、塗布剤10,12の剥離性を向上することができ、塗布剤12の凝集破壊をより一層抑制することができる。なお、撥水撥油剤としては、例えばフッ素系の撥水撥油剤を用いることができる。
【0093】
また、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法では、スクリーン版30にコーティングされる親水性被膜は、主鎖がガラクトース、アラビノース、ラムノース、及びグルクロン酸のうちの少なくとも1つ以上を含む糖で構成される多糖類を含むことが好ましい。このような多糖類を含む材料としては、例えば、アラビアガムが挙げられる。アラビアガムは、優れた乳化特性を有しており、水に溶かした乳化液は油-水界面に優先的に吸着する性質がある為、疎水性の高いポリペプチド鎖が感光性樹脂や金属で形成した疎水表面である孔パターンの溝に容易に吸着することができる。一方、アラビアガムの乳化液の親水性の糖鎖部分は、スクリーン版表面において完全に乾くとフィルム状の親水性多糖ユニットを形成する。これにより、スクリーン版の孔パターンの溝等に予め滑剤が保持された状態となり、塗布剤の凝集破壊をより一層抑制することができる。
【0094】
また、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法では、溶媒16の混合量は、フィラーとバインダーを含む混合物を100重量%とした場合に0.1重量%以上30重量%以下であることが好ましい。溶媒の混合量は、上記の混合物に対して5重量%以上13重量%以下で制御できればより好ましい。この場合、スクリーン版30内に注入され、その後、スキージ50による掃引除去による圧力を加えられた塗布剤12から滲み出る溶媒16の量を十分に確保することができ、滲み出た溶媒16によって塗布剤12の凝集破壊をより確実に抑制することが可能となる。
【0095】
また、本実施形態に係るパターン印刷物の製造方法では、塗布剤10,12がそれぞれ成分構成の異なる異種の塗布剤であり、注入工程では、異種の塗布剤が充填された各圧力容器を同時に使用又は切り替えて使用することで、異種の塗布剤をスクリーン版の孔パターン内に注入してもよい。この場合、より複雑な構成を有するパターン印刷物を製造することができる。
【実施例0096】
以下、実施例により本発明について更に具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0097】
(実施例1)
本発明に係る塗布剤構成の有用性について確認するため、シリコーンをベースとしたシリコーンエラストマーフィルム(膜厚200μm)の基材と、藤倉化成社製のストレッチャブル銀ペースト「ドータイト XA-9476」の導電性インキ(フィラー;銀 バインダー;シロキサンエラストマー)とを用意した。
【0098】
添加剤として、上記のシロキサンエラストマーと非相溶である水溶性溶媒の酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(別名:ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート)を準備し、導電性インキ(混合物)を100重量%として、導電性インキ全体に含まれる既存の非水溶性溶媒が加熱乾燥式水分計を使って9重量%で定量されたので、1重量%に減量調整し、10重量%の酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチルを上記の導電性インキに混合し、塗布剤とした。
【0099】
ここで、
図10参照して説明する。まず、ニッケル膜厚20μmの膜をニッケル等の金属のメッシュに貼り合わせて、印刷パターンの孔を開口したスクリーン版30Dを用意した。次に、上記シリコーンエラストマーフィルム(膜厚200μm)の基材を印刷ステージにセットし、その上にニッケル膜厚200μmのスクリーン版30Dをニッケル膜面とシリコーンエラストマーフィルムが密着する様に重ねた。
【0100】
次に、上記の実施例1に係る塗布剤を充填したシリンジ20Aの下端に任意のテーパーニードルを取り付け、このテーパーニードルをスクリーン版30Dの上面であるニッケル等の金属メッシュ側から垂直方向に一定の圧力で押しあて、テーパーニードルの先端開口部とスクリーン版30Dを隙間なく密着させた。その状態で塗布剤を充填したシリンジ20Aへの供給圧力を350kPaの設定で加圧した。
【0101】
それと同時に、印刷したいパターンが形成されているスクリーン版30D上を、Y軸方向に掃引速度10mm/sでシリンジ20Aを走行させた。印刷したいパターンを一定の距離外れたところで、今度はX軸方向に1mmシフトさせ、折り返しY軸方向に供給圧力350kPa、掃引速度10mm/sでシリンジ20Aを走行させた。なお、供給圧力、掃引速度は、任意に調整することができる。
【0102】
上記要領にて走行シフトを繰り返すことで、印刷したいパターン全体のスクリーン孔への塗布剤10の注入を行った。この際、供給圧力、掃引速度、シフト長さなどは、印刷状況によって任意に変更することができる。
【0103】
この結果、従来のスクリーン印刷方式のような、スクリーン版全体を広い範囲を一気にスキージや密着式加圧印刷方式などによって印刷することによる大量の塗布剤を使うことが、本発明の印刷方法によれば必要ないことを実現した。しかしながら、印刷したいパターン内部への塗布剤の注入だけでは、
図5のように、基材とスクリーン版のパターン孔の密閉された空間への注入がパターン溝に沿って行われ、パターン溝内での塗布剤の行き場を失うと、テーパーニードルが被さっていないスクリーン版30Dの開口部の上方向へ、塗布剤が脱出してしまい、スクリーン版30Dの上面は塗布剤でやや汚染される。
【0104】
そこで、本実施例では、スキージ50Aにて充填すべき点在するパターンへの充填が全てもしくは部分的に終了した時点で、
図11に示すように、空スキージ50Aとして一定の垂直方向への圧力と、版面に対し60度前後の傾きで一定の速度で掃引することで、スクリーン版30D上を汚染していた塗布剤10をクリーニングした。このクリーニング工程で、本発明に係る塗布剤の特徴である、塗布剤内部に含有する添加剤が、スクリーン版30Dの垂直方向の歪と基材への食い込みによるパターン溝内への圧縮によって、マスクに形成された壁面およびメッシュとの界面に滲み出て、滑剤として機能し剥離効果を生じた。なお、クリーニングで掃引された塗布剤は回収し、再利用することができる。
【0105】
この効果によって、基材をスクリーン版から剥離すると、マスクに形成された溝形状をそのまま転写する形の断面形状である、矩形で線幅約100μm、高さ約200μmというアスペクト比が大きい垂直に切り立ったパターン側面の面積が広い配線パターン印刷が可能であることが確認できた。この配線パターン印刷が可能となったことにより、これまでの一般的なスクリーン印刷の課題であったスクリーン版のパターン溝と塗布剤との凝集破壊によるパターン崩れがほとんど解消されるため、アスペクト比の大きい配線パターンは、スクリーン版の膜厚、金属マスクの膜厚、つまりはパターン溝の深さと溝幅を任意に変更することで、所望する断面形状が矩形または台形のアスペクト比の大きい配線パターンを形成することが可能となったことが確認できた。
【0106】
アスペクト比の大きさは、上記のように版の膜厚、パターン溝の深さと溝幅の仕上がりに依存するが、配線のアスペクト比が0.1以上、10以下といった範囲では、比較的配線パターンのフレキシブル性、ストレッチャブル性など歪への追従性、堅牢性、感度や精度に優れたセンサーなどの信頼性を重視した配線パターン形成に有用である。例えば、アスペクト比0.1から5の範囲では、精密加熱用ヒーターの電極として有用である。また、アスペクト比5から10の範囲では、急速加熱用ヒーターの電極としての利用も可能となる。アスペクト比5以上、30以下といった範囲では、放熱効果の高いヒートシンクや、ゼーベック効果、ペルチェ効果等の熱電変換素子の形成に有用である。アスペクト比が20以上、40以下という範囲では、様々なMEMSの形成に有用である。
【0107】
(比較例1)
次に、銀ペースト「ドータイト XA-9476」のみを比較例1の塗布剤として用いて印刷することにし、同じニッケル膜厚200μmの膜をニッケル等の金属のメッシュに貼り合わせて、印刷パターンの孔を開口した印刷用のスクリーン版を用意した。
【0108】
次に、シリコーンエラストマーフィルム膜厚200μmの基材を印刷ステージにセットし、その上にニッケル膜厚200μmの膜をニッケル等の金属のメッシュに貼り合わせたスクリーン版を、ニッケル膜面とシリコーンエラストマーフィルムが密着するように重ねた。さらに、上記比較例1の塗布剤を充填したシリンジに任意のテーパーニードルを装着したものを、スクリーン版の上面であるニッケル等の金属メッシュ側から垂直方向に一定の圧力で押しあて、テーパーニードルの先端開口部と隙間なく密着させた。
【0109】
その状態で、比較例1の塗布剤を充填したシリンジへの供給圧力を350kPaの設定で加圧すると同時に、印刷したいパターンが形成されているスクリーン版上をY軸方向に掃引速度10mm/sでシリンジを走行させた。次に、印刷したいパターンを一定の距離外れたところでX軸方向1mmシフトさせ、折り返し、Y軸方向に供給圧力350kPa、掃引速度10mm/sでシリンジを走行させた。上記要領にてこの走行シフトを繰り返すことで、印刷したいパターン全体のスクリーン孔への比較例1の塗布剤の注入を行った。
【0110】
その結果、実施例1の塗布剤を使用した印刷結果と、比較例1の塗布剤を使用した印刷結果に、明らかな差が生じたことが確認できた。
【0111】
図12に実施例1の印刷結果のパターン観察図を示し、
図13に比較例1の印刷結果のパターン観察図を示した。比較した印刷パターンは、版側のパターン幅が125μm、膜厚が200μmの櫛歯パターンである。
図12では、実施例1の印刷パターン15がパターン幅99μm、高さ149μmであり、断面形状が矩形または台形の連続線パターンであった。
【0112】
これに対し、
図13の比較例1の印刷パターン215は、版と基材との剥離時の凝集破壊の影響で、版溝に充填された塗布剤が完全に基材側へ転写されておらず、パターンの崩れが多数みられる結果となった。
【0113】
以上から、本発明に係る印刷方法のように、ディスペンサー等を使用したスクリーン版30Dに刻まれたパターンへの注入と、注入後のスキージ50Aの掃引とを行うことにより、スクリーン版の溝における凝集破壊をより抑制することが確認できた。
【0114】
(実施例2)
また、スクリーン版に刻まれたパターンの孔の溝内に、金属用の撥水撥油剤または親水性被膜といった塗布剤内の滑剤がマスク界面からの剥離を促す作用のある被膜をコーティングすると、より効果が発揮できることを確認した。親水性被膜として、アラビアゴム(和光純薬工業製)水溶液0.16%をまずは作製して、スクリーン版のパターン溝および版全面に当該水溶液を塗布する。そして、これを常温乾燥し、スクリーン版のマスク面、パターン溝、メッシュ部分に親水性多糖ユニットで形成された被膜を作製した。この被膜は滑り剤の保持能力を向上すると共に、親油性のインキを強固に弾く性質を有していた。その効果を
図14と
図15とを比較して示す。
図14は、上述した実施例1と同様の条件で作製したものであり(実施例2)、
図15は、上述した比較例1と同様の条件で作製したものである(比較例2)。いずれも幅150μm、高さ150μm、大きさ2mm角の端子パターンを形成した配線パターンであるが、
図14の配線パターン18は、配線パターンのエッジの凝集破壊による突起が小さいのに対し、
図15の配線パターン218は、パターンエッジの凝集破壊による突起が大きいことがわかる。このように、実施例2と比較例2の印刷パターンのディテールに違いがあることが確認できた。従って、本発明の印刷方式が有効な手段であることがわかった。
【0115】
(実施例3)
次に、実施例3として、異種の塗布剤を用いて印刷した場合の例を示す。まず、ニッケル膜厚200μmの膜をニッケル等の金属のメッシュに貼り合わせて、印刷パターンの孔を開口した印刷用のスクリーン版を用意した。
【0116】
次に、実施例3の塗布剤として、以下の塗布剤A及び塗布剤Bを用意した。塗布剤Aは、銀を主体とするドータイト XA-9476に、このドータイトに非相溶である水溶性溶媒の酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチルを混合したものである。塗布剤Bは、カーボンを主体とする旭化成ワッカー製ELASTOSIL LR 3162の体積抵抗率80Ω・cmの高抵抗の導電エラストマーに、このエラストマーに非相溶である水溶性溶媒の酢酸2エチルを混合したものである。このような成分の塗布剤Aと塗布剤Bは、電気特性が異なっていた。
【0117】
次に、上記シリコーンエラストマーフィルム膜厚200μmの基材を印刷ステージにセットし、その上にニッケル膜厚200μmのスクリーン版を、ニッケル膜面とシリコーンエラストマーフィルムが密着する様に重ねた。さらに、上記で2種類用意した実施例2の塗布剤のうち、塗布剤Aを充填したシリンジに任意のテーパーニードルを取り付けたものを、スクリーン版上面であるニッケル等の金属メッシュ側から垂直方向に一定の圧力で押しあて、テーパーニードルの先端開口部と隙間なく密着させた。
【0118】
次に、予めディスペンサーロボットである武蔵エンジニアリング製IMAGEMASTER350PC付属ソフトにて、ディスペンサー描画プログラムを作製した。印刷したいパターンが形成されているスクリーン版上を、この描画プログラムによりパターンに沿ってなぞる形式で、実施例2の塗布剤を充填したシリンジへの供給圧力を350kPaの設定で加圧すると同時に、掃引速度10mm/sでシリンジを掃引し、印刷を試みた。
【0119】
図16は、実施例3に係る印刷方式の工程概要図を示す。
図16の(a)に示すスクリーンパターン80は、線幅125μm、膜厚200μm、長さ120mmの直線パターンとその両端に2mm角膜厚200μ」mの端子部パターンを設けてなる。
【0120】
次に、
図16の(b)に示すように、スクリーンパターン80の両端の端子部と、端子部から接続する両側10mmとを含む領域に、塗布剤Aを入れたディスペンサーにより塗布剤Aを吐出してディスペンサー描画部81を塗布し、塗布パターン82を形成した。ディスペンサーによる描画は、上記ディスペンサー描画プログラムを利用した。
【0121】
次に、
図16の(c)に示すようにスキージ50Bにて、塗布パターン82に対して上から下方向へ掃引することで、直線パターンの両端約10mmの部分と端子部パターンに塗布剤Aを充填して、擦切り印刷83を形成した。
【0122】
さらに、スクリーン版と基材との密着をそのままにした状態で、塗布剤Bの入ったディスペンサーに切り替え、上記の工程で塗布剤Aが充填されなかった直線パターン84の両端約10mmの端部85を除く部分(
図17の(a)を参照)を、ディスペンサー描画プログラムによりディスペンサーから塗布剤Bを吐出して、吐出パターン2003を形成した(
図17の(b)を参照)。そして、
図17の(c)に示すように、前回と同様にスキージ50Bにて、吐出パターン86の上から下方向へスキージを掃引することで、塗布剤Bが印刷された。この際、スキージ50Bは異種の塗布剤を掃引する前に、吸引、清掃しておく。
【0123】
次に、この印刷物をスクリーン版から剥離し、90℃30分および160℃60分で焼成した。これによって、導電率の良い銀端子に挟まれた、高抵抗の配線を一括で描画した配線シートが形成できた(
図18の(a)を参照)。これにより、両端子を固定し、両端子を引っ張る(
図18の(b)を参照)ことによる高抵抗の配線の変動が、大きな抵抗変動値として読み取れるセンサーとなった。また、実施例3によれば、高アスペクト比の配線が厚膜で形成できることから、
図19のように、配線上部からの歪による抵抗値変化を読み取れる歪センサーも作製することができる。なお、
図19の(a)は、配線パターンの断面を示す図であり、配線パターンの中央部分に対して
図19の(b)に示すように矢印方向に圧力をかけて歪ませることで、圧力に応じて配線の抵抗値が変化する。これを利用して歪センサーとすることが可能である。
【0124】
(実施例4)
次に、実施例4として、成形体に電子部品を埋設した構造体の製造に、本発明に係るパターン印刷物の製造方法を適用した場合の事例を示す。
図20は、穴92や溝94が設けられた成形体90(基材)上にスクリーン版30Eを貼り合わせ、その上からシリンジ20E内に充填された塗布剤10を吐出する様子を示す。
【0125】
まず、ニッケル膜厚200μmの膜をニッケル等の金属のメッシュに貼り合わせて、印刷パターンの孔を開口したスクリーン版30Eを用意した。実施例3の塗布剤として、銀を主体とするドータイト XA-9476と、このドータイトに非相溶である水溶性溶媒の酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチルとを混合した塗布剤10を用意した。
【0126】
次に、シリコーン樹脂成型体(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂も可)によって構成される成形体90の表面に、コンデンサなどの電子部品95を埋設したものを準備した。成形体90には、電子部品95の端子部周辺に溝94が設けられ、成形体90の上面から下面まで貫通する穴92と、成形体90の下面において穴92を塞ぐ導線96が配置されている。
【0127】
次に、スクリーン版30Eのニッケル膜面と成形体90を密着する様に重ねた。シリンジ20Eの下端に任意のテーパーニードル(図示せず)を接続し、これをスクリーン版30Eの上面であるニッケル等の金属メッシュ側から垂直方向に一定の圧力で押しあて、テーパーニードルの先端開口部と隙間なく密着させた状態にした。
【0128】
シリンジ20E内には実施例4の塗布剤を充填してあり、このシリンジ20Eへの供給圧力を、印刷するパターンの線幅や深さによって吐出圧力を調整した。例えば、浅いパターンに対しては100kPaの圧力P1を加え、成形体90の上面から下面まで貫通する穴92を通る時は450kPaの圧力P2を加え、コンデンサなどの電子部品が埋没された周辺の中深の溝を通過する場合は300kPaの圧力P3を加える、といった具合である。
【0129】
このように、圧力を調整したり、シリンジの各任意の部位の走行速度を遅くするもしくは速くするなどの条件を、前記ディスペンサー描画プログラムとして作製しておく。そして、この描画プログラムに従って印刷することで、成形体90に電子部品95が埋没した部材へ実装する工程と、成形体90の表裏をビア充填で導通させる工程を、一気に印刷することができ、工程コストを下げることが可能である(
図21を参照)。
【0130】
この実施例4に係るパターン印刷物の製造方法によれば、成形体90は、成形体90の表面側において電子部品95を配置する穴部(溝94)と、成形体90の表面から裏面に向かって延びるビアホール(穴92)とを有している。塗布剤を注入する工程では、穴部(溝94)及びビアホール(穴92)に導電性の塗布剤を注入し、導電性の塗布剤による電子部品95の実装接続と、ビアホールへの導電性の塗布剤の充填とを行っている。この場合、電子部品95の実装とビアホール(穴92)の充填とを同じ塗布剤を用いた印刷工程で行うことができ、安定した導電性を有する製品を作製することができる。また、電子部品95の実装とビアホール(穴92)の充填とを同じ印刷工程で行うことにより、製造時間を短縮することができ、その分、製造コストを低減できる。なお、この場合において、成形体90の裏面においてビアホールが露出する領域には導線96(裏面配線)が設けられており、注入工程では、ビアホール(穴92)に導電性の塗布剤を注入してビアホールへの導電性の塗布剤の充填を行った際に導電性の充填材を導線96に接続させている。この場合、成形体90の裏面と導線96との間をアンカー効果によって接続することもできる。
【0131】
以上、本発明に係る各種の印刷方法によれば、高アスペクト比でストレッチャブルな配線パターンを印刷できるため、伸縮でこれまで配線抵抗値の変動が大きく、動作不良になったり、配線パターン内の金属フィラーの接触で導通をとっている場合の伸縮による不導通リスクを少なくすることができ、安定した電流を流すことができる。また、違う材料、例えば低抵抗と高抵抗の材料を同じ配線内、同じ平面内に描画、接続することができるため、抵抗値変化を利用したセンサーを容易に作ることができる。さらに、ディスペンサーの条件を印刷中に任意にプログラム上で変更できるため、高充填が必要な部分や低充填で良いところの変更が容易で、電子部品の実装やビア充填を行った成形体を容易に作製することが可能となる。
本発明は、高精細で均一な膜厚のラインパターン、ストライプパターンの立体的構造が要求される分野において、高品質なパターン印刷物を、簡単に且つ低コストで製造することができる。例えば、本発明は、これらに限定されるものではないが、抵抗器、コンデンサ等の小型電子部品、液晶表示素子(LCD)用のカラーフィルター、燃料電池、リチウムイオン電池、ストレッチャブル電極、センサー、面ヒーター、熱電変換材料などの電極配線等において、高精細な配線パターン等を形成するのに活用される。
10,12…塗布剤、14…滲出部、16…添加剤(溶媒)、20…加圧容器、20A…シリンジ(加圧容器)、30,30A~30E…スクリーン版、30a…表面、30b…裏面、32…孔パターン、40…基材、50,50A,50B…スキージ。