(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058243
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】歯科用成形体の調製のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
A61K 6/818 20200101AFI20220404BHJP
A61K 6/804 20200101ALI20220404BHJP
A61K 6/824 20200101ALI20220404BHJP
A61K 6/898 20200101ALI20220404BHJP
A61K 6/884 20200101ALI20220404BHJP
【FI】
A61K6/818
A61K6/804
A61K6/824
A61K6/898
A61K6/884
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021157531
(22)【出願日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】20199437
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ランプ
(72)【発明者】
【氏名】ニーナ マリア マティス
(72)【発明者】
【氏名】ロレンツ ヨゼフ ボンデラー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン リッツベルガー
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA02
4C089AA06
4C089AA09
4C089BA01
4C089BA03
4C089BA05
4C089BE14
4C089BE17
4C089CA03
4C089CA08
(57)【要約】
【課題】歯科用成形体の製造のためのプロセスの提供。
【解決手段】本発明は、酸化ジルコニウム出発材料の懸濁物がゲル化剤によってゲル化される歯科用成形体(例えば、歯科用ブランクまたは歯科修復物)の製造のためのプロセス、および歯科用材料としての酸化ジルコニウム出発材料の懸濁物の使用であって、該懸濁物がゲル化剤を含む使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用成形体を調製するためのプロセスであって、前記プロセスにおいて、酸化ジルコニウム出発材料の懸濁物がゲル化され、ここで、前記懸濁物はゲル化剤を含む、プロセス。
【請求項2】
前記懸濁物は、55~70重量%、好ましくは60~70重量%、特に好ましくは65~70重量%の酸化ジルコニウム出発材料を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記酸化ジルコニウム出発材料は、Y2O3、La2O3、CeO2、MgOおよび/またはCaOを、酸化ジルコニウムの量に基づいて、好ましくは2~14mol%、特に、2~8mol%、特に好ましくは3~5mol%の量で含む、請求項1から2のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項4】
前記懸濁物は、冷却によってゲル化される、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ゲル化剤は、ポリサッカリド、タンパク質またはこれらの混合物、好ましくはアガロース、アガー、アルギネート、ゲラン、カラギーナン、ペクチン、キトサン、キチン、ゼラチンまたはこれらの混合物、および特に好ましくはアガロースである、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記懸濁物は、0.03~0.5重量%の、および好ましくは0.03~0.4重量%のアガロースを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記懸濁物は、前記ゲル化剤に加えて、2重量%以下、好ましくは1重量%以下、特に好ましくは、0.55重量%以下の有機性成分を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
異なる組成を有する少なくとも2種の懸濁物がゲル化され、前記懸濁物は、好ましくは、異なる色を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記懸濁物は、型の中に入れられる、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記ゲル化した懸濁物は、粘弾性であり、好ましくは離型可能である、請求項1~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記懸濁物は、15℃未満、好ましくは10℃未満、特に好ましくは1℃~8℃の温度に冷却される、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記歯科用成形体は、歯科用ブランクまたは歯科修復物であり、好ましくは、部分的に安定化した正方晶、十分に安定化した立方晶酸化ジルコニウムまたはこれらの混合物に基づく、請求項1~11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記歯科修復物は、ブリッジ、インレー、オンレー、ベニア、アバットメント、パーシャルクラウン、クラウンまたはファセットである、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記歯科修復物の前記調製は、前記懸濁物を、歯科修復物のネガ形状に相当する型に入れる工程、および前記ゲル化した懸濁物を高密度に焼結する工程を包含する、請求項12または13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記型のうちの少なくとも一部は、追加プロセスにおいて、または機械加工によって、特に、CAD/CAMプロセスにおいて製造される、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記ゲル化した懸濁物は、予備焼結され、必要に応じて、機械加工に供される、請求項14または15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記歯科用ブランクの前記調製は、前記ゲル化した懸濁物が予備焼結されることを包含する、請求項12に記載のプロセス。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載のプロセスによって得られ得る歯科用成形体。
【請求項19】
歯科用材料としての、特に、歯科用成形体、好ましくは歯科用ブランクまたは歯科修復物の調製のための酸化ジルコニウム出発材料の懸濁物の使用であって、ここで、前記懸濁物はゲル化剤を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用成形体の調製のためのプロセス、および特に、歯科用ブランクまたは歯科修復物の調製のためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物セラミック(例えば、酸化ジルコニウムセラミック)は、それらの有利な機械的特性に起因して、歯科修復物の製造において広く使用されている。特に、Y2O3で安定化した正方晶多結晶をベースとするジルコニア材料は、それらの有利な機械的特性に起因して、歯科修復物の出発材料として適している。
【0003】
酸化ジルコニウムセラミックは、種々のプロセスを使用して製造され得る。好ましいプロセスは、(i)軸加圧または冷間等方圧加圧法(CIP)、続いて、従来の焼結、(ii)鋳込成形、続いて、従来の焼結、および(iii)ホットプレス(HP)、熱間等方圧加圧法(HIP)または放電プラズマ焼結(SPS)である。ジルコニアから作製される歯科修復物の製造は、WO 2018/115529 A1にも記載されるように、代表的には、成形工程によって隔てられた2つの熱高密度化工程を含む。ジルコニア出発材料は、代表的には、先ず鋳造されるかまたは圧力をかけて機械的に高密度化され、次いで、ブランクを製造するために開気孔状態の中間体へと予備焼結される。このブランクは、例えば、CAD/CAMプロセスにおける機械加工による成形または予備成形に適している。成形したブランクは、次いで、さらなる焼結工程において、最終の熱高密度化に供され得る。
【0004】
歯科用ジルコニア修復物の製造のための別のアプローチは、追加的な製造プロセス(例えば、EP 3 659 547 A1に記載される3Dインクジェット印刷プロセス)を使用する。このプロセスは、代表的には、印刷プロセスにおいて互いの上に適切な懸濁物を層化し、次いで、それらを焼結することによって、三次元体を製造する。
【0005】
歯科修復物を調製する場合、カラーグラデーションおよび3Dカラーエフェクトを有する天然の歯の複雑な配色をまねることが望ましい。これは、特に、酸化ジルコニウムから作製される歯科修復物に大きな難題を課す。これは、他の材料(例えば、ケイ酸リチウムガラス-セラミック)が、これらの機械的特性がしばしば酸化ジルコニウムのものより劣るにもかかわらず、特に、前方の領域で好まれる理由である。酸化ジルコニウムから作製される歯科修復物の着色に関しては、多くの可能性が知られる。
【0006】
異なる色の懸濁物を使用することによって、追加の製造プロセスは概して、複雑な配色を有する歯科用酸化ジルコニウム修復物の製作をも可能にする。しかし、このような追加のプロセスは非常に複雑であることから、機械加工成形工程を伴う手順が、一般には好ましい。
【0007】
歯科用ジルコニア修復物を着色するための別の一般的アプローチは、開気孔状態のセラミック材料に、着色された金属化合物を浸透させることを使用する。これは通常、本体を着色するために乾燥させる工程、その全体または一部に、着色溶液を浸透させる工程、表面をきれいにして乾燥させる工程、必要であれば、さらなる着色溶液で上記プロセスを反復する工程、ならびに最後に、着色した本体を焼結する工程を包含する。
【0008】
別のアプローチにおいて、着色したジルコニア粉末は、ジルコニアを着色要素と一緒に共沈させるか、またはジルコニア粉末と着色化合物の溶液とを接触させることによって、先ず調製される。このような着色したジルコニア粉末は、例えば、粉末形態でまたは懸濁物形態で互いの上に層化されて、多色の歯科修復物を製作し得る。しかし、この方法の欠点は、制御不能な混合効果が前記層の界面で起こることである。さらに、主に均一な層の配置が達成され得るに過ぎず、これは、例えば、前記修復物のコアが、前記コアの周りのシェルとは異なる色を有する複雑な三次元配色の作製を妨げる。
【0009】
US 2015/0282905 A1は、重合可能な成分(例えば、アクリレートまたはメタクリレート)を含むジルコニア懸濁物が、熱処理または照射処理によって重合され、その結果、増大した粘性を有する懸濁物が生じる、歯科用ジルコニアブランクの製造のためのプロセスを開示する。固体含有量がわずか35重量%までである2種またはそれより多種のジルコニア懸濁物が使用され、これらは、ジルコニア結晶相に関して異なり、このことが、製造されるブランクが、異なる機械的特性、特に硬度、および異なる半透明性を有する領域を有する理由である。着色または多色を達成するために、上記ブランクは、着色溶液で処理されなければならない。前記プロセスは、市販の酸化ジルコニウム粉末の使用には不適切である。なぜならこれは、ブランクの被削性の制限および不利な光学的特性をもたらすからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2018/115529号
【特許文献2】米国特許出願公開第2015/0282905号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、効率的であり、容易な成形を可能にし、多色の成形体の調製にも適した、歯科用成形体の調製のためのプロセスを提供するという課題に基づく。上記プロセスはまた、低収縮と関連付けられ、特に、複雑な配色の生成を可能にするはずである。
【0012】
驚くべきことに、この課題は、請求項1~17に記載の歯科用成形体の調製のためのプロセスによって解決される。本発明はさらに、請求項18に記載の歯科用成形体および請求項19に記載の酸化ジルコニウム出発材料の懸濁物の使用に関する。
【0013】
歯科用成形体の調製のための本発明のプロセスは、酸化ジルコニウム出発材料の懸濁物がゲル化され、ここで該懸濁物がゲル化剤を含むという点で特徴づけられる。
本出願は、例えば、以下を提供する:
(リクレーム)
(項目1)
歯科用成形体を調製するためのプロセスであって、前記プロセスにおいて、酸化ジルコニウム出発材料の懸濁物がゲル化され、ここで、前記懸濁物はゲル化剤を含む、プロセス。
(項目2)
前記懸濁物は、55~70重量%、好ましくは60~70重量%、特に好ましくは65~70重量%の酸化ジルコニウム出発材料を含む、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目3)
前記酸化ジルコニウム出発材料は、Y2O3、La2O3、CeO2、MgOおよび/またはCaOを、酸化ジルコニウムの量に基づいて、好ましくは2~14mol%、特に、2~8mol%、特に好ましくは3~5mol%の量で含む、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目4)
前記懸濁物は、冷却によってゲル化される、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目5)
前記ゲル化剤は、ポリサッカリド、タンパク質またはこれらの混合物、好ましくはアガロース、アガー、アルギネート、ゲラン、カラギーナン、ペクチン、キトサン、キチン、ゼラチンまたはこれらの混合物、および特に好ましくはアガロースである、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目6)
前記懸濁物は、0.03~0.5重量%の、および好ましくは0.03~0.4重量%のアガロースを含む、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目7)
前記懸濁物は、前記ゲル化剤に加えて、2重量%以下、好ましくは1重量%以下、特に好ましくは、0.55重量%以下の有機性成分を含む、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目8)
異なる組成を有する少なくとも2種の懸濁物がゲル化され、前記懸濁物は、好ましくは、異なる色を有する、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目9)
前記懸濁物は、型の中に入れられる、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目10)
前記ゲル化した懸濁物は、粘弾性であり、好ましくは離型可能である、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目11)
前記懸濁物は、15℃未満、好ましくは10℃未満、特に好ましくは1℃~8℃の温度に冷却される、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目12)
前記歯科用成形体は、歯科用ブランクまたは歯科修復物であり、好ましくは、部分的に安定化した正方晶、十分に安定化した立方晶酸化ジルコニウムまたはこれらの混合物に基づく、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目13)
前記歯科修復物は、ブリッジ、インレー、オンレー、ベニア、アバットメント、パーシャルクラウン、クラウンまたはファセットである、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目14)
前記歯科修復物の前記調製は、前記懸濁物を、歯科修復物のネガ形状に相当する型に入れる工程、および前記ゲル化した懸濁物を高密度に焼結する工程を包含する、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目15)
前記型のうちの少なくとも一部は、追加プロセスにおいて、または機械加工によって、特に、CAD/CAMプロセスにおいて製造される、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目16)
前記ゲル化した懸濁物は、予備焼結され、必要に応じて、機械加工に供される、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目17)
前記歯科用ブランクの前記調製は、前記ゲル化した懸濁物が予備焼結されることを包含する、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目18)
先行する項目のいずれか一項に記載のプロセスによって得られ得る歯科用成形体。
(項目19)
歯科用材料としての、特に、歯科用成形体、好ましくは歯科用ブランクまたは歯科修復物の調製のための酸化ジルコニウム出発材料の懸濁物の使用であって、ここで、前記懸濁物はゲル化剤を含む、使用。
【発明の効果】
【0014】
驚くべきことに、本発明のプロセスは、市販の酸化ジルコニウム粉末からですら、歯科用成形体の単純な製造を可能にすることが見出された。驚くべきことに、市販のジルコニア粉末から作製されるブランクはまた、容易に機械加工され得、本発明のプロセスを使用して市販のジルコニア粉末から調製した歯科修復物は、驚くべきことに有利な光学的特性を有する。
【0015】
驚くべきことに、上記プロセスが、容易な成形を可能にし、高品質の縁部および表面を有する種々の歯科用成形体の製造を可能にすることもまた示された。驚くべきことに、上記プロセスはまた、上記ゲル化した懸濁物の容易な取り扱いおよび薄い壁厚を有する成形体の製造を可能にする。従って、上記プロセスは、機械加工による成形が完全にまたは部分的に無しで済まされ得る場合、鋳造プロセスにおいて歯科修復物の調製を可能にさえする。
【0016】
驚くべきことに、上記プロセスが、代表的には2層の界面で起こる混合効果を回避することから、多色の歯科用成形体の製造に関する利点を提供することも見出された。驚くべきことに、上記プロセスはまた、複雑な、さらには三次元の配色および多様な層配置を有する多色の歯科用成形体の製造を可能にする。さらに、いくつかの異なる層を有する歯科修復物の微小構造が、界面においてすら驚くほどの高強度を示すことを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、予備焼結した試験片を貫く断面を示す。異なる鋳造法を使用することによって、例えば、鋳込み速度を変動させることによって、異なる層配置を生成できた。例えば、本質的に均一な(右)自由な(左)層配置を生成できた。前記自由な層配置は、例えば、傾斜した面または波形の層を示した。
【0018】
【
図2】
図2は、高密度焼結後の2種の異なる懸濁物の間の界面の走査型電子顕微鏡画像を示す。黄色(上)および白(下)の層の間の界面での微小構造には、孔がないことが認められ得る。高密度に焼結した酸化ジルコニウム材料の層内でも孔は見出されなかった。
【0019】
【
図3】
図3は、二軸強度を決定した後の試験片を示す。上記材料を無作為に貫いてかつ異なる層の界面に沿っていない破砕が起こったことが見出され得る。これは、非常に高い接着強度が、上記層間で達成され得ることを図示する。
【0020】
【
図4】
図4は、実施例7の乾燥したグリーン体(左)、予備焼結した本体(中央)および高密度に焼結した本体(右)を示す。前記示された本体は、複雑な形状および薄い壁厚を有する本体がまた得られ得ることを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
用語「色」および「着色した」とは、本発明の意味の範囲内で、色値、輝度および/または半透明性に、特に、色値および/または輝度に言及する。
【0022】
色値および輝度は、L*a*b値によって、特に、DIN EN ISO 11664-4に従って、または歯科産業において一般に使用されるシェードガイドに従って決定され得る。色の測定は、市販の測定機器(例えば、分光測色計CM-3700d(Konica Minolta))で行われ得る。シェードガイドの例は、Vitapan classical(登録商標)およびVita 3D Master(登録商標)(ともに、VITA Zahnfabrik H. Rauter GmbH & Co KG製)、ならびにChromascop(登録商標)(Ivoclar Vivadent AG製)である。
【0023】
半透明性は、材料の光透過性、すなわち、入射光強度に対して透過した光強度の比である。半透明性は、British Standard 5612に従うコントラスト値(CR値)の観点から決定され得る。
【0024】
2種の懸濁物は、それらが、またはそれらから作製される高密度に焼結した歯科用成形体が、L*a*b値、シェードガイドによって決定される色値および/または半透明性、特に、L*a*b値および/または上記色値に関して異なる場合、本発明の意味の範囲内で異なる色を示す。
【0025】
本発明のプロセスにおいて使用される懸濁物は、ゲル化剤を含む。本発明の目的上、ゲル化剤は、それによって上記懸濁物が非流動性状態、好ましくは粘弾性状態へと至らされ得る、作用物質である。本発明の目的上、「粘弾性」とは、流動性でなく、かつ、弾性特性も有する懸濁物である。非流動性の、好ましくは粘弾性の状態への上記懸濁物への転換は、「ゲル化」と称され、得られた材料は、「ゲル」または「ゲル化した懸濁物」と称される。
【0026】
本発明のプロセスの一実施形態において、上記ゲル化した懸濁物は、粘弾性であり、好ましくは離型可能である。ゲル化した懸濁物は、型から除去後にその外形が本質的にその使用された型の対応物であるような方法で、型から除去され得る場合、本発明の意味の範囲内で「離型可能」である。
【0027】
好ましい実施形態において、上記ゲル化した懸濁物は、0.2sの負荷時間で重量15gのドロップスティックおよび重量3gの丸いステンレス鋼ピンニードルを使用する針入度計(例えば、SUR BerlinのPNR 10)での針穿通試験において、前記ピンニードルが、上記懸濁物を穿通するが、20mm以下であるという事実によって特徴づけられる。前記ピンニードルは、直径3mm、全長58mm、および真っ直ぐな円錐形の先端(高さ5.6mmおよび開口角度30°を有する)を有する。例えば、Petrotest GmbH製のペンニードルタイプ18-0222が適している。上記懸濁物は、上記試験を行った直後に型から分割されるかまたは除去され、次いで、上記懸濁物の状態が、以前に上記懸濁物の内部にあったかまたは上記型と接触した状態にあった領域において決定される。
【0028】
上記酸化ジルコニウム出発材料は通常、液体媒体中の懸濁物として存在する。前記液体媒体は、無機溶媒および/または有機溶媒を含み得る。好ましい無機溶媒は水である。好ましい有機溶媒は、水に混和性の有機溶媒、特に、アルコール、ケトン、エステル、エーテルおよびこれらの混合物である。水と1つまたはそれより多くの有機溶媒との混合物もまた、使用され得る。前記液体媒体は、特に、水を含む。特に好ましい液体媒体は、本質的にまたは専ら水からなる。前記液体媒体はまた、液体添加剤を含み得る。
【0029】
上記懸濁物の固体成分は、酸化ジルコニウム出発材料および必要に応じて固体添加剤からなり、ここで上記酸化ジルコニウム出発材料は、好ましくは、上記固体成分の重量に基づいて、少なくとも80重量%、特に少なくとも90重量%および特に好ましくは少なくとも95重量%を構成する。
【0030】
好ましい実施形態において、上記懸濁物は、55~70重量%、好ましくは60~70重量%、および特に好ましくは65~70重量%の酸化ジルコニウム出発材料を含む。
【0031】
驚くべきことに、酸化ジルコニウム含有量が高い懸濁物の使用は、歯科用成形体の製造を可能にし、ここで代表的には乾燥および焼結する工程の最中に起こる収縮は、固体含有量がより低い懸濁物を使用するプロセスの場合よりも低いことが見出された。驚くべきことに、酸化ジルコニウムの高い含有量はまた、ゲル化工程および乾燥工程が短縮され得ることから、歯科用成形体のより効率的な調製を可能にすることが示された。
【0032】
上記酸化ジルコニウム出発材料は通常、粒状酸化ジルコニウム、好ましくはジルコニア粉末である。上記酸化ジルコニウム粉末は、好ましくは、酸化ジルコニウム粒子からなり、この粒子は、該粉末の体積に基づいて、50~250nm、特に60~250nm、特に好ましくは80~250nmのd50粒子サイズを有する。上記酸化ジルコニウム粉末が、動的光散乱(DLS)によって決定されて、30~100nmの一次粒子サイズを有することもまた、好ましい。
【0033】
上記酸化ジルコニウム出発材料は、安定化していないもしくは部分的に安定化した単斜晶ジルコニア、部分的に安定化した正方晶ジルコニアまたは十分に安定化した立方晶ジルコニア、あるいはこれらの混合物に、特に、安定化していないもしくは部分的に安定化した単斜晶ジルコニアまたは部分的に安定化した正方晶ジルコニアあるいはこれらの混合物をベースとし得る。さらに、上記ジルコニア出発材料は、好ましくは多結晶性であり、特に好ましくは、本質的に多結晶性正方晶ジルコニア(TZP)である。
【0034】
別の好ましい実施形態において、上記酸化ジルコニウム出発材料は、Y2O3、La2O3、CeO2、MgOおよび/またはCaOを、好ましくはジルコニア含有量に基づいて、2~14mol%、特に2~8mol%、特に好ましくは3~5mol%の量で含む。特に好ましくは、上記酸化ジルコニウム出発材料は、Y2O3を含む。
【0035】
本発明のプロセスにおいて使用される酸化ジルコニウム出発材料はまた、着色されていてもよい。望ましい着色は、酸化ジルコニウム出発材料と1つまたはそれより多くの着色要素とを共沈させることによって達成され得る。この着色はまた、ドーピング法と称され、通常は、酸化ジルコニウム出発材料の製造の間に行われる。適切な着色要素は、例えば、Fe、Mn、Cr、Ni、Ti、Co、Pr、Ce、Eu、Gd、Nd、V、Yb、Ce、Tb、ErおよびBiである。上記酸化ジルコニウム出発材料は、天然の歯の物質の色に相当する特に好ましい色を有する。
【0036】
本発明のプロセスにおいて使用される懸濁物はまた、ゲル化剤を含む。該ゲル化剤は、該懸濁物の中で、上記固体成分中および/または上記液体媒体中に存在し得る。該ゲル化剤が固体状態にあるか液体状態にあるかは、周囲条件、特に温度に依存してもよい。
【0037】
好ましくは、上記懸濁物のゲル化は、1つまたはそれより多くのパラメーター(これは、本発明の意味の範囲内で、ゲル化パラメーターと称される)の影響によって開始および/または制御され得る。適切なゲル化パラメーターは、上記懸濁物の温度またはpHの変化、インキュベーション期間および照射である。好ましくは、ゲル化は、上記懸濁物の温度の変化によって開始および/または制御され得る。
【0038】
本発明のプロセスの特に好ましい実施形態において、上記懸濁物は、冷却によってゲル化される。冷却する前の温度は、好ましくは、50℃~100℃、特に60℃~80℃の範囲にある。冷却後の温度は、好ましくは、-10℃~40℃、好ましくは0℃~25℃の範囲にある。
【0039】
本発明のプロセスにおいて使用されるゲル化剤が、ポリサッカリド、タンパク質またはこれらの混合物であり、好ましくはアガロース、アガー、アルギネート、ゲラン、カラギーナン、ペクチン、キトサン、キチン、ゼラチンまたはこれらの混合物であり、特に好ましくはアガロースであることが、好ましい。
【0040】
天然の起源でないゲル化剤(例えば、イソブチル/マレイン酸無水物コポリマー)もまた、使用され得る。
【0041】
上記懸濁物は、好ましくは、少なくとも0.01重量%、特に0.01~1.5重量%、より好ましくは0.02~1重量%および特に好ましくは0.03~0.5重量%のゲル化剤を含む。
【0042】
好ましい実施形態において、上記懸濁物は、少なくとも0.03重量%、特に0.03~0.5重量%、および特に好ましくは0.03~0.4重量%のアガロースを含む。
【0043】
別の好ましい実施形態において、上記懸濁物は、上記液体媒体の重量に基づいて、少なくとも0.1重量%、特に0.1~1重量%および特に好ましくは0.1~0.8重量%のアガロースを含む。
【0044】
上記懸濁物は、酸化ジルコニウム出発材料、上記ゲル化剤および上記液体媒体に加えて、固体および/または液体の添加剤を含み得る。例えば、上記懸濁物は、EP 3 659 547 A1に記載されるように、分散剤、結合剤、pH調節剤、安定化剤および/または消泡剤を含み得る。
【0045】
好ましい実施形態において、上記懸濁物は、気泡を防止するために消泡剤を含む。該消泡剤(単数または複数)は、代表的には、上記懸濁物中の固体の量に基づいて、上記液体媒体中で0.001~1重量%、好ましくは0.001~0.5重量%および特に好ましくは0.001~0.1重量%の量で使用される。適切な消泡剤の例は、パラフィン、シリコーン油、アルキルポリシロキサン、高級アルコール、プロピレングリコール、エチレンオキシド-プロピレンオキシド付加物および特にアルキルポリアルキレングリコールエーテルである。
【0046】
上記懸濁物が、上記ゲル化剤に加えて、2重量%以下、好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.55重量%以下の有機性成分を含むことが好ましい。有機性成分としては、有機溶媒ならびに固体および液体の有機添加剤が挙げられる。
【0047】
上記ゲル化剤を含む酸化ジルコニウム出発材料の懸濁物を提供する方法は、いくつか存在する。例えば、上記酸化ジルコニウム出発材料は、上記ゲル化剤と混合され得、その得られた混合物は、上記液体媒体中で懸濁され得る。固体または液体の状態にある上記ゲル化剤を、酸化ジルコニウム出発材料の上記懸濁物に添加することもまた可能である。
【0048】
好ましい実施形態において、先ず、上記ゲル化剤、例えば、アガロースが、固体としての上記懸濁物に添加され、次いで、上記固体ゲル化剤を有する上記懸濁物は、上記ゲル化剤が液体状態へと変化する温度へと加熱される。
【0049】
別の好ましい実施形態において、上記ゲル化剤は、加熱することによって液体状態にされ、次いで、上記懸濁物に添加され、該懸濁物は、好ましくは、上記ゲル化剤が液体状態のままである温度である。
【0050】
アガロースをゲル化剤として使用する場合、アガロースは、例えば、先ず液体媒体の中に入れられ得、アガロースの融解点を上回る(例えば、88℃を上回る)温度へと加熱され得る。次いで、アガロースを有するこの媒体は、上記懸濁物に添加され得、該懸濁物は、アガロースがゲル化する温度を上回る温度(例えば、70℃)を有する)。
【0051】
本発明のプロセスは、異なる組成を有する少なくとも2種の懸濁物をゲル化する工程であって、ここで該懸濁物またはそれから製造される高密度焼結体が、好ましくは異なる色、特に異なる色値および/または輝度を有する工程を包含し得る。
【0052】
上記懸濁物の異なる色は通常、着色要素のタイプおよび/または量が異なる懸濁物によって達成される。
【0053】
異なる組成を有する少なくとも2種の懸濁物が、互いと直接接触した状態にされることが好ましい。これは通常、先ず第1の懸濁物を少なくとも部分的にゲル化し、次いで、第2の懸濁物を第1の懸濁物に適用し、それを同様にゲル化することによって行われる。第2の懸濁物を第1の懸濁物に適用する前に、第1の懸濁物を、少なくとも1分間、好ましくは少なくとも3分間、および特に好ましくは少なくとも5分間、周囲条件で冷却することが好ましい。好ましい実施形態において、上記少なくとも部分的にゲル化した第1の懸濁物は、第2の懸濁物が適用される前に部分的に乾燥される。
【0054】
異なる色を有する懸濁物を使用することによって、天然の歯の複雑な配色を模倣する多色の歯科用成形体を製造することが可能である。例えば、異なる色を有する懸濁物を、互いの上に配置して、カラーグラデーションを作り出し得る。
【0055】
複雑な配色(例えば、三次元のカラーグラデーション、層が一様でない自由層配置、およびコア-シェル配置)はまた、本発明のプロセスによって生成され得る。原則として、これらの複雑な配色は、第1の懸濁物を、さらなる懸濁物を適用してゲル化する前に、ゲル化剤で所望の形状にゲル化することによって製造される。第1の懸濁物は、型を使用して所望の形状へと形成され得、そして/またはさらなる懸濁物を適用する前に必要な場合に成形され得る。
【0056】
好ましい実施形態において、2種の異なる着色がされた懸濁物は、互いの上に層化され、その結果、それらは傾斜した界面を形成する。前記界面は、本質的に真っ直ぐまたは弯曲している可能性がある。上記成形体における傾斜した界面の好ましい過程は、WO 2020/025795 A1に記載されている。例えば、前記界面が、挿入軸に対して平行に走って成形体を貫く断面において、上記成形体の回転軸に対して10~70°、好ましくは10~60°の角度を有し、そして/または切縁結節構造を有することが好ましい。
【0057】
驚くべきことに、歯科用成形体が、本発明のプロセスによって異なる懸濁物から製造され得、ここで前記成形体中の懸濁物が、固体接着を形成し、前記接着は、最高の機械的要件を満たすことが見出された。例えば、界面において高い構造品質を示すことが可能であり、本発明のプロセスに従って製造した成形体が、材料試験において前記界面に沿って破断しないことも証明された。
【0058】
一実施形態において、本発明のプロセスにおいて使用される懸濁物は、ゲル化する前に25Pasまで、特に10Pasまで、特に好ましくは0.001~10Pasの粘性を有する。別段特定されなければ、粘性は、0.1~5000 s-1の範囲の剪断速度および100℃より低い温度において、プレート-コーンシステム(直径50mmおよび角度1°)を有する回転粘度計(MCR302-Modular Compact Rheometer, Anton Paar GmbH)で測定される。
【0059】
ゲル化する前の粘性は、通常、上記懸濁物中の固体成分の量、特に、使用される酸化ジルコニウム出発材料の量、ならびに使用されるゲル化剤の量に依存することが見出された。酸化ジルコニウム出発材料および/またはゲル化剤の含有量が高いほど、ゲル化前により高い粘性を概してもたらすこともまた見出された。
【0060】
上記プロセスの好ましい実施形態において、上記懸濁物は、型の中に入れられる。上記懸濁物のゲル化は、少なくとも部分的に型の中で起こることが好ましい。上記懸濁物は、型へと、例えば、鋳込みまたは射出によって添加され得る。上記懸濁物はまた、1つまたはそれより多くの鋳込み管を経て型へと添加され得る。
【0061】
別の好ましい実施形態において、異なる懸濁物が、型の中に入れられる。前記異なる懸濁物は、同時にまたは交互に、型へと添加され得る。
【0062】
上記型は、好ましくは、本発明のプロセスによって製造されるべき歯科用成形体のネガ形状に相当する。上記型が、上記歯科用成形体の拡大したネガ形状に相当し、拡大の程度が、さらなる処理の間に起こる収縮に合わせられることは、特に好ましい。
【0063】
本発明のプロセスにおいて、上記懸濁物のゲル化の時間経過、すなわち、ゲル化プロセスが通常は、適切なプロセスパラメーターを選択することによっても制御され得ることが示された。ゲル化プロセスを制御するための適切な手段は、特に、使用されるゲル化剤の量、上記懸濁物の固体含有量および選択されるゲル化パラメーターである。原則として、ゲル化プロセスは、多量のゲル化剤、酸化ジルコニウム出発材料の高含有量および/またはゲル化パラメーターの強い影響(例えば、強いまたは迅速な温度変化)によって増強され得る。
【0064】
歯科用成形体をいくつかの懸濁物から調製する場合、ゲル化プロセスまたはゲル化から成形までが達成される前に懸濁物の粘性を調節することは有利であり得る。ゲル化およびゲル化プロセスの制御の前に、上記懸濁物の流動特性を具体的に選択することは、上記懸濁物の所望の配置、特に複雑な三次元配置を達成するために有用であり得る。
【0065】
焼結する工程に未だ供されていないゲル化した懸濁物はまた、本発明の意味の範囲内で、グリーン体と言及される。
【0066】
上記プロセスの好ましい実施形態において、調製される歯科用成形体は、グリーン体である。
【0067】
上記グリーン体は、好ましくは、2.5~4.0g/cm3および特に2.6~3.8g/cm3および特に好ましくは2.8~3.6g/cm3の密度によって特徴づけられる。
【0068】
上記ゲル化した懸濁物の強度は通常、上記懸濁物中に存在するゲル化剤の量および酸化ジルコニウム出発材料の含有量に依存する。特に、上記強度は通常、より多くのゲル化剤および/またはより高含有量の酸化ジルコニウム出発材料を使用することによって増大させられ得る。
【0069】
上記プロセスの1つの実施形態において、ゲル化した懸濁物は、乾燥する前に2つまたはそれより多くのグリーン体へと分割され、次いで、これから2つまたはそれより多くの歯科用成形体が調製され得る。上記プロセスの別の実施形態において、ゲル化した懸濁物は、成形に供される。乾燥工程に未だ供されていない上記ゲル化した懸濁物の物理的特性は、上記懸濁物を機械的方法および特に手動での方法によって、容易に分けられるかまたは処理されることを可能にする。
【0070】
ゲル化した懸濁物を、室温を下回る温度へと冷却することは、本発明のプロセスにとって有利であり得ることが示された。冷却は通常、粘性/強度の増大を伴い、これは、より容易に処理されるまたは型から除去されるゲル化した懸濁物をもたらし得る。冷却することによってゲル化するゲル化剤を使用する場合、上記ゲル化プロセスは通常、ゲル化されるべき上記懸濁物を冷却環境に曝すことによっても増強され得る。例えば、ゲル化されるべき上記懸濁物を、予め冷却した型の中に入れて、迅速なゲル化を達成することは、有利であり得る。
【0071】
好ましい実施形態において、上記懸濁物は、15℃未満、好ましくは10℃未満、特に好ましくは1℃~8℃の温度へと冷却される。
【0072】
好ましい実施形態において、上記ゲル化した懸濁物、すなわち、上記グリーン体は、乾燥したグリーン体を調製するために乾燥する工程に供される。通常、上記グリーン体の乾燥工程は、不完全な乾燥工程である、すなわち、上記グリーン体における液体媒体の含有量は低減され、ここで乾燥工程の後ですら、液体媒体は、上記グリーン体の中になお存在する。乾燥工程が進むにつれて、上記グリーン体は、代表的には、その弾性特性を失い、その結果、乾燥したグリーン体は通常、もはや粘弾性ではない。上記プロセスが型の使用を要する場合、上記ゲル化した懸濁物の乾燥は、上記型の内部でおよび/または上記型から外した後に、行われ得る。
【0073】
乾燥工程は、少なくとも12時間、および特に少なくとも24時間の期間にわたって行われることが好ましい。
【0074】
乾燥工程は、周囲条件下でまたは制御された条件下で、すなわち、制御された温度および/または湿度において行われ得る。好ましくは、乾燥工程は、1℃~99℃、特に10℃~80℃、特に好ましくは20℃~50℃の温度、および0~99%、特に1~80%および特に好ましくは1~50%の相対湿度で行われる。
【0075】
上記グリーン体の乾燥工程は、例えば、周囲条件下で24時間行われ得る。
【0076】
乾燥したグリーン体は、好ましくは、2.5~4.0g/cm3、特に2.6~3.8g/cm3および特に好ましくは2.8~3.6 g/cm3の密度によって特徴づけられる。さらに、乾燥したグリーン体は、好ましくは、15重量%まで、特に10重量%まで、および特に好ましくは5重量%までの水分含有量を有する。
【0077】
原則として、上記グリーン体の乾燥工程には、収縮が伴う。好ましくは、20%以下、特に10%~20%の線形的収縮が、上記グリーン体の乾燥工程の間に起こる。上記乾燥工程の間の線形的収縮は、上記グリーン体の乾燥工程の間に起こる軸に沿った長さのパーセンテージ短縮である。
【0078】
本発明のプロセスの好ましい実施形態において、上記グリーン体は、焼結される、特に予備焼結される、および/または高密度に焼結される。
【0079】
予備焼結する工程は、好ましくは、800℃~1300℃、特に850℃~1200℃、さらにより好ましくは900℃~1150℃の温度において、特に1~4時間、好ましくは1.5~2.5時間にわたって行われる。
【0080】
高密度に焼結する工程は、好ましくは、1200℃~1600℃、特に1300℃~1550℃および特に好ましくは1350℃~1500℃の温度で、特に5分間~2時間、好ましくは10~60分間、および特に好ましくは10~30分間にわたって行われる。
【0081】
好ましい実施形態において、上記グリーン体の脱結合は、焼結する工程の間に起こる。脱結合は、有機性成分、特に上記ゲル化剤および上記結合剤の燃え尽きを意味する。さらなる実施形態において、脱結合は、別個にプロセス工程において起こる。
【0082】
原則として、乾燥工程のみならず、焼結工程にも、上記グリーン体の収縮が伴う。乾燥工程および焼結工程の間の上記ゲル化した懸濁物の線形的収縮は、40%を超えず、特に20~40%、特に好ましくは30~38%であることが好ましい。上記線形的収縮は、20℃~1550℃の温度範囲において、試験片に対する2K/分の加熱速度で、Netzsch膨張計DIL402 Supremeを使用して決定され得る。
【0083】
上記プロセスが、異なる懸濁物の使用を要する場合、収縮、特に焼結工程の間に起こる収縮に関して、上記懸濁物の組成を適合させることは、有利であり得る。
【0084】
本発明のプロセスによって調製される歯科用成形体が、歯科用ブランクまたは歯科修復物であり、好ましくは、部分的に安定化した正方晶、十分に安定化した立方晶酸化ジルコニウムまたはこれらの混合物に基づくことが好ましい。代表的には、上記歯科修復物は、本質的に単斜晶ジルコニアを含まない。
【0085】
歯科用ブランクの調製は特に好ましく、一実施形態において、上記ゲル化した懸濁物の予備焼結を含む。好ましくは、上記ゲル化した懸濁物は、乾燥され、次いで、予備焼結される。
【0086】
好ましい実施形態において、上記歯科用ブランクは、矩形のブロックまたは円筒の形状を有する。
【0087】
原則として、上記好ましい歯科用ブランクは、処理されて、歯科修復物にすることが意図される。この目的上、上記ブランクは、代表的には、歯科修復物の形状へと、特にCAD/CAMプロセスを使用して機械加工される。上記ブランクは、ホルダーに取り付けられ得、このことにより、上記ブランクが、この目的のために意図されたCAD/CAM機械のホルダーへと挿入されることが可能となる。
【0088】
好ましい実施形態において、上記ブランクは、上記ホルダーとともに一体化した状態にあり、特に好ましくは上記ブランクおよび上記ホルダーは、同じまたは異なる懸濁物から作製される。
【0089】
代表的には、本発明のプロセスにおいて調製される歯科用ブランクは、先ず成形され、次いで、高密度に焼結され、所望の特性を有する歯科修復物をもたらす。
【0090】
別の特に好ましい実施形態において、本発明のプロセスによって調製される歯科用成形体は、歯科修復物である。上記歯科修復物は、好ましくは、ブリッジ、インレー、オンレー、ベニア、アバットメント、パーシャルクラウン、クラウンまたはファセットである。
【0091】
上記歯科修復物は、例えば、歯科用ブランクから調製され得、成形は、機械加工によって、好ましくはCAD/CAMプロセスにおいてもたらされる。
【0092】
本発明のプロセスの別の好ましい実施形態において、上記歯科修復物を調製する工程は、上記懸濁物を、歯科修復物のネガ形状に相当する型の中に入れる工程、および上記ゲル化した懸濁物を高密度に焼結する工程を包含する。上記ゲル化した懸濁物は、好ましくは、乾燥され、次いで、高密度に焼結される。このようにして、機械加工によって成形する工程は回避され得るか、または必要とされる機械加工の量は低減され得る。
【0093】
この実施形態に従って調製される歯科修復物は、0.12mmのまたはそれを超える最小壁厚を有することが好ましい。
【0094】
この実施形態はまた、おそらく複雑な三次元のカラーグラデーションを有する多色の歯科修復物の調製に特に適している。この目的上、異なる色を有する代表的は2種またはそれより多種の懸濁物が、調製されるべき上記歯科修復物のネガ形状に相当する型へと、同時にまたは連続して添加される。
【0095】
さらに、この実施形態において、上記型は、好ましくは、上記歯科用成形体の拡大したネガ形状に相当し、拡大の程度は、上記プロセスの間に起こる収縮に適合される。上記収縮に対する拡大の特に正確な適合は、代表的には、上記型がデジタルモデルを使用して製造されるプロセスにおいて可能である。
【0096】
上記歯科修復物のネガ形状に相当する型を使用する場合、上記型の少なくとも一部は、追加のプロセスによってまたは機械加工によって、特に、CAD/CAMプロセスにおいて製造されることが好ましい。これらのプロセスは、収縮が起こることを考慮に入れて、上記型の特に正確な設計を可能にする。原則として、上記型は、十分な強度を与えるのみならず、上記ゲル化剤を含む懸濁物に対して不活性でもある材料から作製される。
【0097】
上記歯科修復物のネガ形状の使用を要する上記プロセスの別の好ましい実施形態において、上記ゲル化した懸濁物は、予備焼結され、必要に応じて、機械的仕上げ工程に供される。上記ゲル化した懸濁物、すなわち、上記グリーン体は、好ましくは、先ず乾燥され、次いで、予備焼結される。
【0098】
必要であれば、上記予備焼結したグリーン体はまた、例えば、鋳込み管によって引き起こされる材料残渣を除去するために、機械加工に供され得る。
【0099】
予備焼結したグリーン体が、機械加工および/または仕上げ工程の後に高密度に焼結されることが好ましい。
【0100】
本発明はさらに、上記の本発明のプロセスによって得られ得る歯科用成形体に関する。この歯科用成形体は、特に多色であり、好ましくは、少なくとも2種の異なる色値および/または輝度値を示す。
【0101】
本発明のプロセスに従って調製される歯科用成形体は、代表的には、従来の方法によって製造され得ない複雑な多色の配色によって特徴づけられる。
【0102】
本発明のプロセスに従って調製される歯科用成形体は、有利な機械的特性を有する。
【0103】
好ましい実施形態において、上記予備焼結した歯科用成形体(例えば、上記予備焼結した歯科用ブランク)は、機械加工に有利な特性を有する。この歯科用成形体が、300~1000MPaのVickers硬度を有し、それがCAD/CAMプロセスにとって有利であることが好ましい。前記Vickers硬度は、2.5~5.0kbf(24.517~49.034N)の範囲の力で、特にISO 14705:2008に従って5.0kgf(49.034N)の力で測定され得る。
【0104】
さらに、上記予備焼結した成形体は、代表的には、多孔性状態であり、ここで上記予備焼結した成形体は、好ましくは、少なくとも30%の密度、特に高密度に焼結した酸化ジルコニウムセラミックの40~75%の密度を有する。
【0105】
本発明のプロセスに従って調製される高密度に焼結した歯科用成形体(例えば、高密度に焼結した歯科修復物)は、好ましくは、少なくとも500MPa、特に少なくとも600MPaおよび特に好ましくは少なくとも800MPaの二軸強度を有する。
【0106】
さらに、上記高密度に焼結した歯科用成形体は、好ましくは、5.8g/cm3より大きい、特に5.9g/cm3より大きい、および特に好ましくは6.0g/cm3より大きい密度を有する。
【0107】
本発明はまた、歯科用材料としての、特に歯科用成形体の調製のための酸化ジルコニウム出発材料の懸濁物の使用であって、上記懸濁物がゲル化剤を含む使用に関する。
【0108】
本発明のプロセスの範囲内で記載される全てのプロセス工程、プロセスパラメーターおよび組成の定義はまた、本発明のこの使用に適している。
【0109】
本発明は、以下で実施例に基づいてより詳細に説明される。
【実施例0110】
実施例1
多色の試験片を、本発明のプロセスを使用して2種の異なる懸濁物から調製した。
【0111】
この目的のために、酸化ジルコニウム出発材料の2種の懸濁物を、先ず調製した。第1の懸濁物は、72重量%の、3mol% Y2O3(Z-Pex, Tosoh Corporation)で安定化したジルコニア粉末および液体媒体として27.68重量%の水、0.25重量% 分散剤(Dolapix(登録商標) CE64, Zschimmer & Schwarz)、0.06重量% 消泡剤(Contraspum(登録商標) K1012, Zschimmer & Schwarz)ならびにpH値を調節するための0.01重量% NH4OH(各々、上記懸濁物の総重量に基づく)を含み、白色を有した。
【0112】
第2の懸濁物は、72重量%の、5mol% Y2O3(Z-Pex smile, Tosoh Corporation)で安定化したジルコニア粉末および液体媒体として28重量%の水を含み、黄色を示した。
【0113】
両方の懸濁物を、70℃へと加熱した。アガロースの水溶液を調製し、90℃へと加熱し、その加熱した懸濁物へと、懸濁物が、その加熱した懸濁物に基づいて0.2重量%のアガロースを含むように添加した。
【0114】
次いで、アガロースを添加したその加熱した懸濁物を、1分間より長い時間間隔で交互に、型の中に入れた。
【0115】
上記懸濁物を型の中に注いだら直ぐに、上記懸濁物の冷却を開始した。冷却を、上記懸濁物を有する型を8℃で1時間貯蔵することによって、さらに支援した。
【0116】
前記冷却したおよび冷却の間にゲル化した懸濁物(これはまた、グリーン体と称される)を、離型した。
【0117】
上記グリーン体を、24時間、周囲条件下で乾燥させ、次いで、焼結した。Ivoclar Vivadent AG製のProgramat炉を、この目的のために、実施例で言及される全焼結工程に関して使用した。
【0118】
上記グリーン体を、例えば、950℃で2時間、予備焼結した。
【0119】
図1は、予備焼結した試験片を貫く断面を示す。異なる鋳造法を使用することによって、例えば、鋳込み速度を変動させることによって、異なる層配置を製造可能であった。例えば、本質的に一様な層(右)および自由層(左)配置を製造可能であった。前記自由層配置は、例えば、傾斜した面または波形の層を示した。
【0120】
グリーン体を同様に、上記のプロセスを使用して調製し、乾燥させ、1500℃で25分間高密度に焼結した。
【0121】
図2は、高密度焼結後の2種の異なる懸濁物の間の界面の走査型電子顕微鏡画像を示す。黄色(上)および白(下)の層間の界面での微小構造に孔がないことが認められ得る。高密度に焼結した酸化ジルコニウム材料の層内にも孔は見出されなかった。
【0122】
図1および2は、ゲル化剤を含む異なる酸化ジルコニウム出発材料の懸濁物が、混合することなく互いの上に鋳造され得ることを図示する。
実施例2
【0123】
二軸強度を決定するための多色の試験片を、本発明のプロセスに従って調製した。
【0124】
2種の懸濁物を調製し、これらは各々、66.5重量%の酸化ジルコニウム出発材料を含んだ。白のZ-Pex smile(Tosoh Corporation)を使用して第1の懸濁物を調製し、第2の調製物に関しては黄色のZ-Pex smile yellow(Tosoh Corporation)を使用し、懸濁物は、実施例1に示される量で、Dolapix CE64、Contraspum K1012およびNH4OHを含んだ。懸濁物の各々に、懸濁物の総重量に基づいて、実施例1に記載される手順に従って、0.2重量%のアガロースを添加した。
【0125】
次いで、アガロースと混合した第1の懸濁物を、先ず水平な円筒形のプラスチック型(直径約25mm;長さ約30mm)に入れて、その結果、その型を部分的に満たした。第1の懸濁物を、前記第1の懸濁物を有するプラスチック型を8℃へと約20分間冷却することによってゲル化した。次いで、アガロースと混合した第2の懸濁物を、その型へと注ぎ、前記プラスチック型を8℃へと1時間冷却することによってゲル化した。
【0126】
次いで、ゲル化した円筒形のグリーン体を離型し、周囲条件下で24時間乾燥させた。乾燥させたグリーン体を、950℃において2時間予備焼結し、次いで、約2mm厚のディスクへと分割した。次いで、これらを、1500℃で25分間高密度に焼結し、次いで、ISO 6872に従って破断強度試験に供した。
【0127】
高密度に焼結した試験片は、ISO 6872に従って決定される418~654MPaの二軸強度を有した。
【0128】
図3は、二軸強度を決定した後の試験片を示す。上記材料を貫いてかつ異なる層の界面に沿っていない破砕が無作為に起こったことが認められ得る。このことは、非常に高い接着強度が、層間で達成され得ることを例証する。
実施例3~6
【0129】
表1および2に示される組成を有する懸濁物のゲル化特性を調査した。水中で5mol% Y2O3(Z-Pex smile, Tosoh Corporation)で安定化した異なる量の酸化ジルコニウム粉末を含む懸濁物を調製した。異なる量のアガロースを、実施例1に関して記載される手順に従ってこれらの懸濁物に添加した。実施例3の調製に関して、この手順を変更し、粉末化アガロースを、アガロース溶液を先ず調製することなしに、上記懸濁物に直接添加した。アガロースを含む懸濁物を、円錐状になった円筒形の型に入れ、8℃で1時間冷却した。ゲル化する前の懸濁物の粘性およびゲル化に際した観察は、表1および2に示される。
【0130】
上記グリーン体を、型から外し、周囲条件で24時間乾燥させ、950℃で2時間予備焼結し、次いで、1500℃で25分間高密度に焼結した。
表1
【表1】
表2
【表2】
【0131】
上記高密度に焼結したグリーン体の密度を、アルキメデス法を使用して決定した。
【0132】
実施例3の成形体の機械的特性を調査した。乾燥後、その成形体は2.71g/cm3の密度を有し、その二軸強度は低すぎて、ISO 6872に従って決定できなかった。乾燥後の成形体の残留水分を、ハロゲン水分計(HR83, Mettler Toledo)を使用して200℃までで乾燥させる工程によって決定したところ、それは、3.9重量%であった。予備焼結した後、成形体は2.77g/cm3の密度を有し、二軸強度は、ISO 6872に従って13MPaであった。高密度焼結後、成形体は、595MPaの二軸強度を有した。
【0133】
実験は、懸濁物中の高含有量の酸化ジルコニウム出発材料または多量のアガロースが、ゲル化する前の懸濁物の粘性を増大させ得ることを示す。
【0134】
さらに、実施例は、より高含有量の酸化ジルコニウム出発材料を用いれば、ゲル化を経て固体のグリーン体を調製するには、より少量のアガロースで十分であり得ることを示す。
【0135】
実施例はまた、より多量のアガロースが、グリーン体のより高い強度をもたらすことを示す。
実施例7および8
【0136】
実施例7および8に関しては、懸濁物を、実施例3および4に従って調製した。さらに、ステレオリソグラフィーを使用して、指ぬきのネガ形状に相当する型を製造した。アガロースの添加後、上記懸濁物を型の中に注ぎ、8℃において1時間冷却した。ゲル化した懸濁物を離型し、24時間、周囲条件で乾燥させた。
【0137】
乾燥した懸濁物、すなわち、乾燥したグリーン体を、950℃において2時間予備焼結したか、または1500℃において25分間高密度に焼結した。その高密度焼結体の密度は、6.03g/cm3であった。
【0138】
図4は、実施例7の乾燥したグリーン体(左)、予備焼結体(中央)および高密度焼結体(右)を示す。示される前記体は、複雑な形状および薄い壁厚を有する体がまた、得られ得ることを図示する。