(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058280
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】プラーク形成抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/41 20060101AFI20220404BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
A61K8/41
A61Q11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160774
(22)【出願日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2020166479
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 順也
(72)【発明者】
【氏名】西村 佳祐
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB032
4C083AB172
4C083AB242
4C083AB282
4C083AB322
4C083AB472
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC302
4C083AC402
4C083AC432
4C083AC472
4C083AC582
4C083AC662
4C083AC682
4C083AC691
4C083AC692
4C083AC782
4C083AC792
4C083AC852
4C083AC862
4C083AC902
4C083AD202
4C083AD212
4C083AD262
4C083AD272
4C083AD302
4C083AD352
4C083AD392
4C083AD532
4C083AD662
4C083CC41
4C083DD41
4C083EE32
4C083EE33
(57)【要約】
【課題】歯表面におけるプラークの形成やプラークの成熟化を抑制すること。
【解決手段】C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩を含有し、好ましくはさらに塩化セチルピリジニウムを含有する、プラーク形成抑制用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩を含有するプラーク形成抑制用組成物。
【請求項2】
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩及び塩化セチルピリジニウムを含有するプラーク形成抑制用組成物。
【請求項3】
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1):
【化1】
(式中、RはC10~C14直鎖アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物、並びに
式(2):
【化2】
(式中、R
1はC10~C14直鎖アルキル基を示し、R
2及びR
3は同一又は異なってC1~C4アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1a):
【化3】
(式中、Rは前記に同じ)で表される化合物、並びに
式(2a):
【化4】
(式中、R
1は前記に同じ)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
塩化セチルピリジニウムからなる、C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩のプラーク形成抑制効果増強剤。
【請求項6】
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1):
【化5】
(式中、RはC10~C14直鎖アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物、並びに
式(2):
【化6】
(式中、R
1はC10~C14直鎖アルキル基を示し、R
2及びR
3は同一又は異なってC1~C4アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項5に記載のプラーク形成抑制効果増強剤。
【請求項7】
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1a):
【化7】
(式中、Rは前記に同じ)で表される化合物、並びに
式(2a):
【化8】
(式中、R
1は前記に同じ)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項6に記載のプラーク形成抑制効果増強剤。
【請求項8】
塩化セチルピリジニウムからなる、C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩のフゾバクテリウム殺菌効果増強剤。
【請求項9】
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1):
【化9】
(式中、RはC10~C14直鎖アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物、並びに
式(2):
【化10】
(式中、R
1はC10~C14直鎖アルキル基を示し、R
2及びR
3は同一又は異なってC1~C4アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項8に記載のフゾバクテリウム殺菌効果増強剤。
【請求項10】
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1a):
【化11】
(式中、Rは前記に同じ)で表される化合物、並びに
式(2a):
【化12】
(式中、R
1は前記に同じ)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項9に記載のフゾバクテリウム殺菌効果増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラーク(歯垢)形成抑制用組成物等に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
プラーク(歯垢)は、口腔内微生物が凝集したバイオフィルムであり、う蝕や歯周病の原因となり得ると考えられている。このため、プラークコントロール、特にプラーク形成の抑制は重要である。
【0003】
大まかに言えば、次のようにしてプラークは形成される。すなわち、まず歯の表面に「ペリクル」という唾液や生理的歯肉溝浸出液由来のタンパクの薄い膜が形成され、当該ペリクルを介して連鎖球菌などの通性嫌気性菌(初期付着菌)が歯面に付着する。この初期付着菌にさまざまな口腔細菌と共凝集するフゾバクテリウム等の媒介細菌が付着し、さらに当該媒介細菌を介して嫌気性菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスやトレポネーマ・デンティコーラ等の後期付着菌が付着・凝集し、プラークは成熟する。特に、後期付着菌は歯周病の原因となり、歯周組織の破壊に直接的、間接的に関係することが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J Dent Res 90(11):1271-1278, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のことから、歯表面におけるプラークの形成を抑制すること、特に後期付着菌が付着・凝集しプラークが成熟化するのを抑制することは、歯周病を予防する上で重要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、媒介細菌であるフゾバクテリウムに着目して、検討を行った。様々な細菌と共凝集が可能な媒介細菌であるフゾバクテリウムの働きを抑制することができれば、後期付着菌が歯表面に付着・凝集することを抑制でき、ひいてはプラーク形成の成熟化を抑制することが可能となると考えられるからである。
【0007】
そこで、フゾバクテリウムを殺菌する手法について検討を進めた。しかし、通常口腔用組成物に用いられる各種殺菌剤を検討してみても、フゾバクテリウムを効率よく殺菌できる殺菌剤を見いだすことができなかった。
【0008】
通常口腔用組成物に用いられる殺菌剤の一例である、塩化セチルピリジニウムについても例外ではなく、フゾバクテリウムに対する効率的な殺菌効果は認められなかった。しかし、本発明者らはさらに検討を進め、塩化セチルピリジニウムは塩化C16アルキルピリジニウムであるところ、このアルキル基の長さがフゾバクテリウムへの殺菌効果に影響している可能性を見いだし、さらに改良を重ねた。
【0009】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩を含有するプラーク形成抑制用組成物。
項2.
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩及び塩化セチルピリジニウムを含有するプラーク形成抑制用組成物。
項3.
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1):
【0010】
【化1】
(式中、RはC10~C14直鎖アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物、並びに
式(2):
【0011】
【化2】
(式中、R
1はC10~C14直鎖アルキル基を示し、R
2及びR
3は同一又は異なってC1~C4アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
項1又は2に記載の組成物。
項4.
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1a):
【0012】
【化3】
(式中、Rは前記に同じ)で表される化合物、並びに
式(2a):
【0013】
【化4】
(式中、R
1は前記に同じ)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
項3に記載の組成物。
項5.
塩化セチルピリジニウムからなる、C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩のプラーク形成抑制効果増強剤。
項6.
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1):
【0014】
【化5】
(式中、RはC10~C14直鎖アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物、並びに
式(2):
【0015】
【化6】
(式中、R
1はC10~C14直鎖アルキル基を示し、R
2及びR
3は同一又は異なってC1~C4アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
項5に記載のプラーク形成抑制効果増強剤。
項7.
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1a):
【0016】
【化7】
(式中、Rは前記に同じ)で表される化合物、並びに
式(2a):
【0017】
【化8】
(式中、R
1は前記に同じ)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
項6に記載のプラーク形成抑制効果増強剤。
項8.
塩化セチルピリジニウムからなる、C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩のフゾバクテリウム殺菌効果増強剤。
項9.
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1):
【0018】
【化9】
(式中、RはC10~C14直鎖アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物、並びに
式(2):
【0019】
【化10】
(式中、R
1はC10~C14直鎖アルキル基を示し、R
2及びR
3は同一又は異なってC1~C4アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
項8に記載のフゾバクテリウム殺菌効果増強剤。
項10.
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩が、
式(1a):
【0020】
【化11】
(式中、Rは前記に同じ)で表される化合物、並びに
式(2a):
【0021】
【化12】
(式中、R
1は前記に同じ)で表される化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、
項9に記載のフゾバクテリウム殺菌効果増強剤。
【発明の効果】
【0022】
効率よく、プラーク形成における媒介細菌であるフゾバクテリウムを殺菌する手法が提供される。これにより、プラーク形成を効率よく抑制することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩(CPC及び/又はDPC)のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【
図2】C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩(CPC及び/又はOPC)のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【
図3】C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩(CPC及び/又はBKC12、BKC14、若しくはBKC16)のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【
図4a】塩化アルキルピリジニウム(CPC及びDPC)のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【
図4b】塩化アルキルピリジニウム(CPC及びOPC)のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【
図5】CPC及び/又はDPCを含有する組成物のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【
図6】CPC及び/又はDPCを含有する組成物のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【
図7a】塩化アルキルピリジニウム(CPC及びDPC)のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【
図7b】塩化アルキルピリジニウム(CPC及びDPC)のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、プラーク形成抑制用組成物及びプラーク形成抑制効果増強剤等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0025】
本開示に包含される組成物は、C10~C14(C10、C11、C12、C13、若しくはC14)アルキル基を有する第四級アンモニウム塩を含有し、好ましくはさらに塩化セチルピリジニウムを含有する。当該組成物を、「本開示の組成物」ということがある。本開示の組成物は、プラーク形成抑制用として好適であり、この用途で用いる場合を特に「本開示のプラーク形成抑制用組成物」ということがある。
【0026】
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩としては、塩化物塩または臭素化物塩が好ましい。また、当該アルキル基は、直鎖又は分岐鎖状であってよく、好ましくは直鎖である。
【0027】
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩としては、より具体的には、例えば式(1):
【0028】
【化13】
(式中、RはC10~C14直鎖アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物、並びに式(2):
【0029】
【化14】
(式中、R
1はC10~C14直鎖アルキル基を示し、R
2及びR
3は同一又は異なってC1~C4アルキル基を示し、XはCl又はBrを示す)で表される化合物が、好ましく挙げられる。なお、ここでのC1~C4アルキル基は直鎖又は分岐鎖状であってよく、好ましくは直鎖である。特に限定はされないが、メチル基又はエチル基が好ましく、R
2及びR
3がともにメチル基であることが特に好ましい。また、「C数字」は炭素原子数を表す。また、当該式(1)で表される化合物を「化合物(1)」、当該式(2)で表される化合物を「化合物(2)」ということがある。
【0030】
化合物(1)の中でも、式(1a):
【0031】
【化15】
(式中、Rは前記に同じ)で表される化合物がより好ましい。
【0032】
また、化合物(2)の中でも、式(2a):
【0033】
【化16】
(式中、R
1は前記に同じ)で表される化合物がより好ましい。
【0034】
C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
本開示の組成物は、C10~C14(C10、C11、C12、C13、若しくはC14)アルキル基を有する第四級アンモニウム塩を含有することにより、好ましくはさらに塩化セチルピリジニウムを含有することにより、優れたフゾバクテリウム殺菌効果を示すことができる。これにより、優れたプラーク形成抑制効果を奏することができる。
【0036】
このため、本開示の組成物は、フゾバクテリウム殺菌用組成物としても好ましく用いることができる。
【0037】
なお、ここでのフゾバクテリウムとしては、プラーク形成において初期付着菌と後期付着菌との媒介細菌であるフゾバクテリウム属の菌であれば特に限定はされないが、Fusobacterium nucleatum(フゾバクテリウム ヌクレアタム)が好ましく例示される。
【0038】
本開示の組成物が塩化セチルピリジニウムを含有する場合における、C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩と塩化セチルピリジニウムとの含有比としては、例えば、当該第四級アンモニウム塩10質量部に対して、塩化セチルピリジニウム1~100質量部程度が好ましい。当該範囲(1~100質量部)の上限又は下限は、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99質量部であってもよい。例えば、当該範囲は2~90質量部程度又は5~50質量部程度であってもよい。
【0039】
本開示の組成物における、C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩の含有量としては、効果が奏される範囲であれば特に制限はされないが、例えば0.005~0.5質量%程度が挙げられる。なお、当該範囲の上限又は下限は、例えば0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.3、0.31、32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.4、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49質量%であってもよい。例えば当該範囲は0.01~0.3質量%程度であってもよい。
【0040】
また、本開示の組成物が塩化セチルピリジニウムを含有する場合における、塩化セチルピリジニウムの含有量としては、効果が奏される範囲であれば特に制限はされないが、例えば0.01~0.5質量%程度が挙げられる。なお、当該範囲の上限又は下限は、例えば0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.3、0.31、32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.4、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49質量%であってもよい。例えば当該範囲は0.02~0.3質量%程度又は0.03~0.1質量%程度であってもよい。
【0041】
上記の通り、塩化セチルピリジニウム単独では、フゾバクテリウムに対する効率的な殺菌効果は認められないことを本発明者らは見いだしたが、さらに検討を進めた結果、塩化セチルピリジニウムはC10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩のフゾバクテリウム殺菌効果を増強する効果を奏することを見いだした。このために、本開示の組成物は塩化セチルピリジニウムを含有する場合に、特に優れたフゾバクテリウム殺菌効果を奏し、ひいてはプラーク形成抑制効果を奏することができる。
【0042】
よって、本開示は、塩化セチルピリジニウムからなるC10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩のフゾバクテリウム殺菌剤、並びに、塩化セチルピリジニウムからなるC10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩のプラーク形成抑制効果増強剤をも包含する。上記の本開示の組成物についての塩化セチルピリジニウム及びC10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩の説明は、当該増強剤についてもそのまま好ましく当てはまる。
【0043】
本開示の組成物は、口腔用組成物として特に好適に用いることができる。また、当該口腔用組成物は、フゾバクテリウム殺菌用として有用なことから、フゾバクテリウム殺菌用としても好ましく用いることができる。すなわち、本開示の組成物は、プラーク形成抑制用、又はフゾバクテリウム殺菌用の口腔用組成物として、好ましく用いることができる。なお、本開示の組成物を口腔用組成物として用いる場合、当該組成物を、「本開示の口腔用組成物」ということがある。
【0044】
本開示の口腔用組成物は、固形組成物、液体組成物でありえる。当該口腔用組成物は、例えば医薬品、医薬部外品として用いることができる。また、本開示の口腔用組成物の形態は、特に限定するものではないが、常法に従って例えば軟膏剤、ペースト剤、パスタ剤、ジェル剤、液剤、スプレー剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、ガム剤等の形態(剤形)にすることができる。なかでも、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、軟膏剤、ペースト剤、液剤、ジェル剤であることが好ましい。
【0045】
本開示の口腔用組成物は、効果を損なわない範囲で、口腔用組成物に配合し得る任意成分を単独で又は2種以上さらに含有してもよい。
【0046】
例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。具体的には、例えば、ノニオン界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド類;ソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリオキシエチレン付加係数が8~10、アルキル基の炭素数が13~15であるポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン付加係数が10~18、アルキル基の炭素数が9であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;セバシン酸ジエチル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤;N-ココイル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤;N-ラウリルジアミノエチルグリシン等のアミノ酸型活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.1~5質量%である。
【0047】
また、香味剤として、例えば、メントール、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n-デシルアルコール、シトロネール、α-テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d-カンフル、d-ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料を用いることができる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して例えば0.001~1.5質量%配合することができる。
【0048】
また、甘味剤として、例えば、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p-メトキシシンナミックアルデヒド等を用いることができる。これらは、組成物全量に対して例えば0.01~1質量%配合することができる。
【0049】
さらに、湿潤剤として、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、ポリオキシエチレングリコール等を単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0050】
防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等を配合することができる。
【0051】
着色剤として、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタン等を配合してもよい。
【0052】
pH調整剤として、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウム等を配合してもよい。これらは、組成物のpHが4~8、好ましくは5~7の範囲となるよう、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。pH調整剤の配合量は例えば0.01~2重量%であってよい。
【0053】
本開示の口腔用組成物には、C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩及び塩化セチルピリジニウムのみならず、さらに、薬効成分として酢酸dl-α-トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール等の非イオン性殺菌剤、ラウロイルサルコシンナトリウム等のアニオン系殺菌剤、塩酸クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム等のカチオン系殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、銅クロロフィリンナトリウム、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、アラントイン、カルバゾクロム、ヒノキチオール、硝酸カリウム、パラチニット等を、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0054】
また、基剤として、アルコール類、シリコン、アパタイト、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、プラスチベース等を添加することも可能である。
【0055】
また、本開示の口腔用組成物は、公知の方法または公知の方法から容易に想到する方法により調製することができる。例えば、C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩、好ましくはさらに塩化セチルピリジニウム、並びに必要に応じてその他の成分等を適宜混合することによって調製することができる。
【0056】
本開示の口腔用組成物を適用する対象は、特に限定はされず、ヒト及び非ヒト哺乳類が好ましく挙げられる。非ヒト哺乳類としては、家畜やペットなどが好ましく、より具体的には例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヒツジ、サル等が挙げられる。また、本開示の口腔用組成物は、上記の通り、C10~C14アルキル基を有する第四級アンモニウム塩、好ましくはさらに塩化セチルピリジニウムを含有するために媒介細菌たるフゾバクテリウムを効率よく殺菌できることから、プラークが形成されていないか、若しくは形成途中(後期付着菌が付着していない)の対象の口腔に適用するために、特に適しているということができる。
【0057】
なお、上述した本開示の口腔用組成物に関する記載は、口腔用組成物として用いられない本開示の組成物(例えば義歯洗浄用として使用される場合が挙げられる)についても、そのまま当てはまり得る。
【0058】
本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0059】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0060】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0061】
フゾバクテリウムに対する第四級アンモニウム塩の殺菌効果の検討
以下の塩化アルキルピリジニウム及び塩化ベンジルアルキルジメチルアンモニウムを、各成分が各濃度(0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.07%、又は0.10%)になるよう水に溶解させ、殺菌剤液として用いた。当該殺菌剤液において、前記各成分は、単独で又は組み合わせて用いた。なお、当該殺菌剤液の塩化アルキルピリジニウム濃度(%)はw/v%であるが、溶媒が水であること、及び濃度が比較的低いことから、質量%(w/w%)とほとんど数値としては変わらず、近似することができる。
【0062】
塩化オクチルピリジニウム(OPC):次式でR=(CH2)7CH3
塩化ドデシルピリジニウム(DPC):次式でR=(CH2)11CH3
塩化セチルピリジニウム(CPC):次式でR=(CH2)15CH3
【0063】
【0064】
塩化ベンジルドデシルジメチルアンモニウム(BKC12):
次式でR1=C12H25
塩化ベンジルテトラデシルジメチルアンモニウム(BKC14):
次式でR1=C14H29
塩化ベンジルヘキサデシルジメチルアンモニウム(BKC16):
次式でR1=C16H33
【0065】
【0066】
また、供試菌として、以下のフゾバクテリウムの2つの亜種を用いた。
菌1:Fusobacterium nucleatum subsp. nucleatum ATCC23726
菌2:Fusobacterium nucleatum subsp. nucleatum ATCC25586
【0067】
供試菌をGAMブイヨン培地(日水製薬株式会社)10mlにそれぞれ植菌し、37℃で2日間嫌気培養した。当該培養液を供試菌液として用いた。
【0068】
濃度の異なる殺菌剤液200μlに供試菌液200μlを混合した。混合から30秒後に当該混合液100μlを採取し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に大豆レシチン、Tween 80をそれぞれ終濃度0.07%、0.5%になるように添加した薬剤不活化PBS900μlを加え(混合液を10倍希釈)、殺菌剤の殺菌作用を不活化した。また、薬剤不活化PBSにより混合液を段階希釈し、前記混合液を101~107倍まで希釈した(段階混合液希釈液)。
【0069】
CDC嫌気性菌用ヒツジ血液寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に、調製した段階混合液希釈液をそれぞれ100μlずつ塗抹し、37℃で3日間嫌気培養し、生菌数をカウントした。
【0070】
結果を
図1、
図2、及び
図3に示す。なお、これらの図は、Log(生菌数)CFU/mlを縦軸としたグラフであるが、当該値は2が検出限界である。(当該値が2未満ということは、100CFU未満まで殺菌したことを示す。)また、これらの図及び以下の図におけるCPC、DPC、OPC、BKC12、BKC14、BKC16の濃度は、殺菌剤液として調製した当該成分の濃度を示す。
【0071】
CPC及びOPCはフゾバクテリウムに対して殺菌効果を示さない一方で、DPCは比較的低濃度であってもフゾバクテリウムに対して殺菌効果を示すことが分かった。また、CPCは単独ではフゾバクテリウムに対して殺菌効果を示さないにもかかわらず、DPCと組み合わせた場合には、DPCのフゾバクテリウム殺菌効果を増強することがわかった。
ここで、OPC、DPC、又はCPCを単独で用いた場合の結果を
図1及び
図2からピックアップして、
図4a及び
図4bに示す。
【0072】
また同様に、BKC16はフゾバクテリウムに対して殺菌効果を示さない一方で、BKC14又はBKC12は比較的低濃度であってもフゾバクテリウムに対して殺菌効果を示すことが分かった。また、CPCは単独ではフゾバクテリウムに対して殺菌効果を示さないにもかかわらず、BKC14又はBKC12と組み合わせた場合には、BKC14又はBKC12のフゾバクテリウム殺菌効果を増強することがわかった。
【0073】
第四級アンモニウム塩及びCPCを含有する組成物の、フゾバクテリウムに対する殺菌効果の検討
第四級アンモニウム塩及びCPCを各濃度含有する液体組成物を、これらの成分に加え、水、溶剤(グリセリン)に香料、防腐剤、及び可溶化剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)等を混合して、調製した。
【0074】
当該液体組成物を用いて、上記と同様にして殺菌効果を検討した。結果を
図5に示す。
【0075】
また、当該液体組成物について、さらに多くのフゾバクテリウム亜種に対する殺菌効果を上記と同様にして検討した。すなわち、菌1及び2の代わりに、以下の菌3、菌4、菌5、菌6、及び菌7を用いて殺菌効果を検討した。結果を
図6に示す。
菌3:Fusobacterium necrophorum subsp. necrophorum ATCC25286
菌4:Fusobacterium nucleatum subsp. polymorphum ATCC10953
菌5:Fusobacterium nucleatum subsp. fusiforme ATCC51190
菌6:Fusobacterium nucleatum subsp. vincentii ATCC49256
菌7:Fusobacterium nucleatum subsp. animalis ATCC51191
【0076】
検討したDPC及びCPC含有組成物が、フゾバクテリウムを検出限界以下にまで殺菌したことが確認できた。
またさらに、上記と同様にして、各濃度の塩化アルキルピリジニウムを単独又は組み合わせて含有する組成物の、フゾバクテリウムに対する殺菌効果を再度検討した。結果を
図7a及び
図7bに示す。
【0077】
以下に処方例を示す。なお、以下の処方例に各成分の値は質量%を示す。
【0078】
【0079】