IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2022-58337自己免疫疾患の治療のために制御性T細胞を選択的に活性化する分子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058337
(43)【公開日】2022-04-12
(54)【発明の名称】自己免疫疾患の治療のために制御性T細胞を選択的に活性化する分子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220405BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220405BHJP
   C12N 15/26 20060101ALI20220405BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220405BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220405BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20220405BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220405BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20220405BHJP
   C07K 14/55 20060101ALN20220405BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C12N15/26
C07K19/00
A61K38/20
A61K39/395 Y
A61K47/68
A61P43/00 107
A61P37/06
A61P29/00
G01N33/543 597
G01N33/53 Y
C07K16/00
C07K14/55
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189835
(22)【出願日】2021-11-24
(62)【分割の表示】P 2018538769の分割
【原出願日】2017-01-19
(31)【優先権主張番号】15/002,144
(32)【優先日】2016-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518256614
【氏名又は名称】デリニア,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グリーブ,ジェフリー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自己免疫疾患の治療のために制御性T細胞を選択的に活性化する薬剤と方法を提供する。
【解決手段】リンカーを使用してIL2αβγ選択的アゴニストタンパク質(IL2選択的アゴニスト)とIgG Fcタンパク質との融合タンパク質を提供する。IL2選択的アゴニスト部分は、該受容体のIL2αβγ形態を選択的に活性化することによって治療活性を提供し、それによってTregを選択的に刺激する。Fc部分は、IL-2またはIL2SAタンパク質の循環半減期に比べて長くなった循環半減期を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトIL-2バリアントタンパク質ドメイン、6~35アミノ酸のペプチドリンカーセグメントドメイン、およびIgG Fcドメインを含む融合タンパク質であって、各ドメインはアミノ末端(N末端)およびカルボキシ末端(C末端)を有し;該融合タンパク質は、ヒトIL-2バリアントタンパク質ドメインのC末端がペプチド結合によりペプチドリンカーのN末端と融合し、IgG Fcタンパク質部分のN末端がペプチド結合によりペプチドリンカーのC末端と融合するように構成され;
ここで前記IL-2融合タンパク質は高親和性IL-2受容体を選択的に活性化し、それによってヒト制御性T細胞を選択的に活性化する能力を有する、前記融合タンパク質。
【請求項2】
IL-2バリアントタンパク質が、ヒトIL2タンパク質(配列番号1)に対してN88R、N88G、D20H、Q126LおよびQ126Fからなる群より選択される置換を有するヒトIL-2を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
IL-2バリアントタンパク質が置換C125Sを有するヒトIL-2を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
両方のIL-2バリアントタンパク質が配列番号1に提供されるN88Rである、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
リンカーがグリシンおよびセリン残基を含み、リンカーが10~30アミノ酸である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
IgG Fcタンパク質が、該融合タンパク質のFc部分のエフェクター機能を低減する1つ以上のアミノ酸置換を含有する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
a. ヒトIL-2(配列番号1)に対してアミノ酸置換N88RおよびC125Sを有するIL-2バリアントタンパク質、
b. 配列番号15に記載のリンカーペプチド、ならびに
c. 配列番号2に記載のヒトIgG1 Fcバリアントタンパク質
を含む融合タンパク質であって、高親和性IL-2受容体を選択的に活性化し、それによってヒト制御性T細胞を選択的に活性化する能力を有する、前記融合タンパク質。
【請求項8】
a. ヒトIL-2(配列番号1)に対してアミノ酸置換N88RおよびC125Sを有するIL-2バリアントタンパク質、
b. 配列番号15に記載のリンカーペプチド、ならびに
c. 配列番号3に記載のヒトIgG2 Fcタンパク質
を含む、融合タンパク質。
【請求項9】
請求項1の融合タンパク質および薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物。
【請求項10】
ヒト制御性T細胞を選択的に活性化する方法であって、該方法は、ヒトIL-2(配列番号1)に対してアミノ酸置換N88RおよびC125Sを有するIL-2バリアントタンパク質、配列番号15に記載のリンカーペプチド、ならびに配列番号2に記載のヒトIgG1 Fcタンパク質を含む医薬組成物を投与することを含み、ここで前記医薬組成物は、ヒト制御性T細胞の濃度が所望のレベルに到達するまで治療上有効量で投与される、前記方法。
【請求項11】
ヒト制御性T細胞を選択的に活性化する方法であって、該方法は、請求項2のIL-2バリアントタンパク質、ならびに
a. 配列番号2に記載のヒトIgG1 Fcタンパク質、
b. 配列番号3に記載のヒトIgG2 Fcタンパク質、および
c. 配列番号24に記載のヒトIgG4 Fcタンパク質ドメイン
からなる群より選択されるヒトIgG Fcタンパク質
を含む医薬組成物を投与することを含み、ここで前記医薬組成物は、ヒト制御性T細胞の濃度が所望のレベルに到達するまで治療上有効量で投与される、前記方法。
【請求項12】
ヒト血液細胞を0.01nM~1nMの濃度の請求項1記載の融合タンパク質と接触させ、次にフローサイトメトリーによって該タンパク質に結合する細胞を検出することによって、ヒト血液試料中のTreg細胞の数を測定する方法。
【請求項13】
2つの同一の鎖を含む2量体タンパク質であって、ここで各鎖はN末端ヒトIL-2バリアントタンパク質部分およびC末端IgG Fcタンパク質部分を含み、ここで
N末端ヒトIL-2バリアントタンパク質部分は、
a. N末端およびC末端を有し;
b. N88R、N88G、D20H、Q126LおよびQ126Fからなる群より選択される少なくとも1つの置換によって配列番号1のヒトIL-2野生型と相違し;
c. 配列番号1に対して少なくとも97%の配列同一性を有し;ならびに
d. Treg細胞上のIL2Rαβγに結合することによってTreg細胞を活性化する能力を有し;
N末端ヒトIL-2バリアントタンパク質はそのC末端で6~30アミノ酸残基のアミノ酸リンカーのN末端と連結し、ここで該リンカーはまたC末端を有し;ならびに
該アミノ酸リンカーのC末端は、配列番号2に対して95%の配列同一性を有しシステイン残基を含む、IgG Fcタンパク質部分のN末端に連結し;ここで2つの鎖はIgG Fcタンパク質部分のシステイン残基を通して互いに連結されている、前記2量体タンパク質。
【請求項14】
IL-2バリアントタンパク質が置換C125Sを有するヒトIL-2をさらに含む、請求項13に記載の2量体タンパク質。
【請求項15】
アミノ酸リンカーが、グリシン残基、セリン残基、ならびにグリシンおよびセリン残基の混合物の群から選択されるリンカーからなる、請求項13に記載のタンパク質。
【請求項16】
IL-2バリアントタンパク質部分が置換N88Rを有する、請求項13に記載のタンパク質。
【請求項17】
リンカーが12~17個のセリンおよびグリシン残基の混合物を含む、請求項13に記載のタンパク質。
【請求項18】
リンカーが比率4:1のグリシン残基 対 セリン残基を含む、請求項13に記載の融合タンパク質。
【請求項19】
請求項1に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2016年1月20日に出願された米国特許出願第15/002,144号についての優先権を主張するものであり、その全ては参照によって本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表への参照
2016年5月3日に作成されたファイルSequenceListing_097584-000400US_ST25.txtに記載される配列リスト(88,573バイト、マシンフォーマットIBM-PC、MS-Windowsオペレーティングシステム)は、あらゆる目的のためにその全てが参照によって本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
免疫系は自己と非自己とを区別することができなければならない。自己/非自己の区別が失敗すると、免疫系は身体の細胞と組織を破壊し、結果的に自己免疫疾患を引き起こす。制御性T細胞は免疫系の活性化を活発に抑制し、病的な自己反応性とその結果の自己免疫疾患を防止する。自己免疫疾患の治療のために制御性T細胞を選択的に活性化する薬剤と方法を開発することは、活発な研究テーマであり、本発明の開発までほとんど成功していなかった。
【0004】
制御性T細胞(Treg)は他の免疫細胞の活性を抑制するCD4+CD25+ T細胞のクラスである。Tregは免疫系の恒常性維持にとって中心的であり、自己抗原に対する寛容を維持し、外来抗原に対する免疫反応を調節する上で大きな役割を果たす。1型糖尿病(T1D)、全身性エリテマトーデス(SLE)および移植片対宿主病(GVHD)を含む、複数の自己免疫炎症性疾患はTreg細胞数またはTreg機能に欠損を有することが示されてきた。結果として、Treg細胞の数および/または機能を押し上げる治療法の開発に大きな関心が寄せられている。
【0005】
検証中の自己免疫疾患に対する1つの治療アプローチは、自家性のex vivoで増やしたTreg細胞の移植である(Tang, Q., et al, 2013, Cold Spring Harb. Perspect. Med., 3:1-15)。このアプローチは疾患の動物モデルおよびいくつかの早い段階のヒト臨床試験で見込みを示してきた一方で、それは患者自身のT細胞を用いる個別化治療を必要とし、侵襲的であり、技術的に複雑である。別のアプローチは低用量インターロイキン-2(IL-2)を用いる治療である。Treg細胞は、恒常的に高いレベルの、高親和性IL-2受容体であるIL2Rαβγ(サブユニットIL2RA(CD25)、IL2RB(CD122)およびIL2RG(CD132)から構成される)を発現するという特徴があり、Treg細胞の増殖はIL-2依存的であることが示されている(Malek, T. R., et al., 2010, Immunity, 33:153-65)。慢性移植片対宿主病(GVHD)(Koreth, J., et al., 2011, N Engl J Med., 365:2055-66)およびHCV関連自己免疫性血管炎患者(Saadoum, D., et al., 2011, N Engl J Med., 365:2067-77)の低用量IL-2治療の臨床試験は、Tregレベルの増加、および臨床有効性の兆候を示している。複数の他の自己免疫炎症性疾患におけるIL-2の有効性を検証する新しい臨床試験が始まっている。
【0006】
プロロイキン(Prometheus Laboratories, San Diego, CAによって市販される)は上記の臨床研究に使用されている組換え型IL-2であり、高い毒性を伴う。プロロイキンは、転移性黒色腫および転移性腎癌の治療のために承認されているが、その副作用は深刻であるため、その使用は集中治療を利用できる病院施設で推奨されるだけである(http://www.proleukin.com/assets/pdf/proleukin.pdf)。より最近にTreg細胞が特性決定されるまで、IL-2は、癌細胞を取り除くためにT細胞と他の免疫細胞を活性化する、免疫系刺激因子であると考えられていた。自己免疫疾患におけるIL-2の臨床試験では、Treg細胞を標的とするためにより低い用量のIL-2が採用された。これは、Treg細胞が、IL2Rαβγを発現するために、他の多くの免疫細胞種よりも低い濃度のIL-2に反応するからである(Klatzmann D, 2015 Nat Rev Immunol. 15:283-94)。しかし、これらのより低い用量さえも安全性と忍容性の問題をもたらし、使用された治療には、慢性的なまたは断続的な5日治療コースのいずれかの、毎日の皮下注射が採用された。したがって、Treg細胞の数と機能を増強し、IL-2よりも特異的にTreg細胞を標的とする、より安全で忍容性の高い、投与頻度がより低い自己免疫疾患治療法の必要性が存在する。
【0007】
IL-2に基づく治療法の治療インデックスを改善する一つのアプローチは、他の免疫細胞に比べてTreg細胞に選択的なIL-2のバリアントを使用することである。IL-2受容体は、T細胞、NK細胞、好酸球および単球を含む様々な異なる免疫細胞種上に発現し、この幅広い発現パターンが、免疫系への多面的効果と高い全身性の毒性に寄与するようである。IL-2受容体は以下の3つの形態で存在する:(1)シグナルを発しない低親和性受容体であるIL2RA;(2)通常型T細胞(Tcon)、NK細胞、好酸球および単球上に幅広く発現する、IL2RBおよびIL2RGから構成される、中間親和性受容体(IL2Rβγ);(3)活性化T細胞上に一時的に発現し、Treg細胞上に構成的に発現する、IL2RA、IL2RBおよびIL2RGから構成される、高親和性受容体(IL2Rαβγ)。IL2Rβγに比べてIL2Rαβγに選択的であるIL-2バリアントが開発されている(Shanafelt, A. B., et al., 2000, Nat Biotechnol.18:1197-202; Cassell, D. J., et al., 2002, Curr Pharm Des., 8:2171-83)。これらのバリアントは、IL2RBに対するその親和性を低減するアミノ酸置換を有する。IL-2はIL2RGに対する親和性が検出できないため、これらのバリアントは結果としてIL2Rβγ受容体複合体に対する親和性の低下、およびIL2Rβγ発現細胞を活性化する能力の低下を示すが、IL2RAに結合する能力、およびIL2Rαβγ受容体複合体に結合してこれを活性化する能力を保持する。これらのバリアントの一つであるIL2/N88R(Bay 50-4798)は、IL2Rβγ発現NK細胞が主要な毒性寄与要因であるという仮説に基づき、免疫系刺激因子としてのIL-2の低毒性バージョンとして、臨床的に試験された。Bay 50-4798はNK細胞に比べて活性化T細胞の増殖を選択的に刺激することが示され、癌患者(Margolin, K., et al., 2007 Clin Cancer Res., 13:3312-9)およびHIV患者(Davey, R. T., et al., 2008, J Interferon Cytokine Res., 28:89-100)において第1/II相臨床試験で評価された。これらの試験は、Bay 50-4798はプロロイキンよりも相当に安全であり忍容性が高いことを示し、また患者におけるCD4+ T細胞およびCD4+CD25+ T細胞のレベルを増加させたことを示した。しかし、CD4+ T細胞およびCD4+CD25+ T細胞の増加はTreg細胞の増加を意味するものではなかった。これは、Tregの同定はCD4およびCD25に加えて追加のマーカーを必要とするためであり、Treg細胞がCD4+CD25+細胞の中で少ない割合を占めるためである。これらの試験の後に、当該分野における研究は、Treg細胞の正体をより十分に確立し、Treg細胞はIL2Rαβγを選択的に発現することを実証した(Malek, T. R., et al., 2010, Immunity, 33:153-65に概説されている)。この新しい研究に基づいて、IL2Rαβγ選択的アゴニストがTreg細胞に対して選択的であるだろうということを今や理解することができる。
【0008】
IL-2に基づく治療法の治療インデックスを改善する第2のアプローチは、Treg細胞を最大限刺激するために分子の薬物動態を最適化することである。IL-2作用の早期の研究は、インビトロのヒトT細胞増殖のIL-2刺激は、有効濃度のIL-2に対して最低でも5~6時間の暴露を必要としたことを示した(Cantrell, D. A., et al., 1984, Science, 224: 1312-1316)。ヒト患者に投与した場合、IL-2は、静脈内投与では85分、皮下投与では3.3時間という非常に短い血漿半減期を有する(Kirchner, G. I., et al., 1998, Br J Clin Pharmacol. 46:5-10)。その短い半減期のために、必要な時間T細胞増殖を刺激するのに必要なレベル以上に循環IL-2を維持するには、Treg細胞に対するEC50を著しく超えるピーク時IL-2レベルをもたらす高い用量を必要とするか、あるいは高頻度投与を必要とする(図1)。これらの高いIL-2ピークレベルは、IL2Rβγ受容体を活性化することが可能であり、他の意図しないまたは有害な効果を有し得る。IL-2よりも長い循環半減期を有するIL-2類似体は、IL-2よりも低い用量且つより低いピークレベルで、特定された時間の間、標的薬剤濃度を達成することができる。したがって、そのようなIL-2類似体は、Treg細胞を有効に刺激するために、IL-2よりも低い用量または低い頻度の投与のいずれかを必要とする。実際に、14時間の循環半減期を有するIgG-IL2融合タンパク質を投与されたカニクイザルでは、等モル用量のIL-2に比べてTregのはるかにより頑健な増加が刺激された(Bell, et al., 2015, J Autoimmun. 56:66-80)。また、IL-2剤の頻度のより低い皮下投与は、患者にとってより忍容性の高いものとなる。これらの特徴を有する治療は、臨床的には薬理学的有効性の改善、毒性の減少および患者の治療コンプライアンスの改善につながる。
【0009】
治療用タンパク質の半減期を伸ばす1つのアプローチは、循環半減期を増加させるために分子の治療上の活性部分をIgGのFc領域等の別のタンパク質に融合することである。治療用タンパク質のIgG Fcとの融合は、当該タンパク質の流体力学半径を増加させることによって、これを達成し、それによって腎クリアランスを低減し、該融合タンパク質の新生児Fc受容体(FcRn)媒介性再利用を通して、それによって循環半減期を伸ばす。アルブミン(Sleep, D., et al., 2013, Biochem Biophys Acta., 1830:5526-34)および非免疫原性アミノ酸ポリマータンパク質(Schlapschy, M., et al., 2007, Protein Eng Des Sel. 20:273-84; Schellenberger, V., et al., 2009, Nat Biotechnol. 27:1186-90)への治療用タンパク質の融合もまた、循環半減期を増加させるために採用されている。しかし、IL2選択的アゴニスト融合パートナーの頑健な生物学的活性を保証する様式でのそのような融合タンパク質の構築は、特に受容体サブユニットの1つに結合することができず、受容体を活性化するために3つの受容体サブユニットの複合体を集合させなければならない小さな分子である、IL-2選択的アゴニストの場合に予測不能であり得る(Wang, X., et al., 2005, Science 310:1159-63)。
【0010】
他の研究者らは、野生型IL-2または安定性を促進するためのC125S置換を有するIL-2を使用して、様々なIL-2融合タンパク質を作製した。Morrisonと同僚たち(Penichet, M. L., et al., 1997, Hum Antibodies. 8 106-18)は、特定の抗原に対する免疫反応を増強する目的で、IL-2の循環半減期を増加させるとともにIL-2をその抗原にターゲティングさせるために、IgGが野生型IL-2に融合した融合タンパク質を作製した。この融合タンパク質は重(H)鎖と軽(L)鎖から構成される、完全な抗体分子からなり、ここでN末端H鎖部分はC末端IL-2タンパク質部分に融合していた。このIgG-IL-2融合タンパク質はFcエフェクター機能を有していた。IgG Fcタンパク質の鍵となるエフェクター機能は、補体依存性細胞傷害(CDC)および抗体依存性細胞傷害(ADCC)である。IgG-IL-2融合タンパク質はIL-2バイオアッセイにおいて活性が高く、CDC活性を有することが示された。したがって、Penichet et al.は、抗原に対する液性および細胞媒介性の免疫反応を増強する目的で、抗体によって認識される抗原に対してIL-2活性をターゲティングさせるための抗体-IL2融合タンパク質の使用を教示した。同様に、Gilliesと同僚たちは、腫瘍抗原を標的とするために融合タンパク質の抗体部分と、腫瘍細胞への免疫反応を刺激するためのIL-2部分を使用し、癌免疫療法のための多数のIgG-IL-2融合タンパク質を構築した(Sondel, P. M., et al., 2012, Antibodies, 1:149-71において概説されている)。これらの教示は本願の発明技術とは大きく異なり、免疫抑制性Treg細胞の成長と活性を促進するIL-2選択的アゴニストが、全身性の暴露を増加させる目的で、エフェクター機能欠損型Fcタンパク質部分と融合される。
【0011】
Stromと彼の同僚らは、高親和性IL-2受容体を発現するT細胞を活性化することを除外する目的で、Fcタンパク質のN末端に融合されたIL-2を有する融合タンパク質を構築した(Zheng, X. X., et al., 1999, J Immunol. 1999, 163:4041-8)。この融合タンパク質は、T1DのT細胞移入マウスモデルにおいて自己免疫性糖尿病の発症を抑制することが示された。IL2-Fc融合タンパク質は、T1Dになりやすい雌のNODマウスに由来する疾患促進性T細胞の、疾患により罹りにくい雄のNODマウスに移植された際の機能を抑制することが示された。彼らはまた、IL-2-Fc融合タンパク質が、高親和性IL-2受容体を発現する細胞をインビトロで殺傷することができることを示した。これらの研究者らは、エフェクター機能適格性IgG2b Fcと変異したエフェクター機能欠損型IgG2b Fcとに由来するFcから構築されたIL2-Fc融合タンパク質をさらに比較した。エフェクター機能適格性Fcを含有するIL2-Fc融合タンパク質のみが疾患発症を予防する上で有効であった。したがって、これらの研究者らは、エフェクター機能を有するIL2-Fc融合タンパク質は疾患を引き起こす活性化T細胞を除去することができ、Fcエフェクター機能はその治療活性に必要であることを教示する。これらの教示は本発明の技術とは全く異なっており、免疫抑制性Treg細胞の増殖と活性を促進するIL-2選択的アゴニストが、全身性暴露を増加させTreg増大を最適化する目的で、エフェクター機能欠損型Fcタンパク質部分に融合している。Stromと同僚らの他の仕事は、移植耐性を促進するためのIL2-Fc融合タンパク質の使用を教示する(Zheng, X. X., et al., 2003, Immunity, 19:503-14)。この仕事の中で、IL2-Fc融合タンパク質は「3剤療法」において使用され、この「3剤療法」では、IL2-Fc融合タンパク質はIL15-Fc受容体アンタゴニストおよびラパマイシンと組み合わせられる。重ねて、これらの研究者らはIL2-Fc融合タンパク質が有効であるためにはFcエフェクター機能を有さなくてはならないことを教示し、さらにこのIL-2-Fc融合タンパク質は有効であるためには他の2つの分子と組み合わされなければならないことを教示する。
【0012】
本発明は、新規治療剤である、6~30アミノ酸のペプチドリンカーを有するIL2選択的アゴニスト-Fc融合タンパク質を提供する。この構成は、IL2選択的アゴニストのTreg細胞に対する高い細胞選択性に、長い循環半減期を組み合わせる。この分子を開発する過程で、生物活性のために必須である当該タンパク質の構造要素およびデザイン特性を明らかにし、所望の治療特性を満たすいくつかの新規タンパク質の発見をもたらした、驚くべき予期しない知見があった。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、IL2αβγ選択的アゴニストタンパク質(IL2選択的アゴニスト)とIgG Fcタンパク質との融合タンパク質を提供し、該融合タンパク質では、IL2アゴニストとFcタンパク質は17Å~105Åのリンカーで隔てられており、IL2アゴニストが分子のN末端に、Fcタンパク質がC末端になるように構成されている。IL2選択的アゴニスト部分は、受容体のIL2αβγ形態を選択的に活性化し、それによってTregを選択的に刺激することによって、治療活性を提供する。Fc部分は、IL-2またはIL2選択的アゴニストタンパク質の循環半減期に比べて長くなった循環半減期を提供する。Fc部分は、融合タンパク質の分子サイズを60,000ダルトン(腎臓による高分子の糸球体ろ過のおおよそのカットオフである)超に増加させることによって、また、新生児Fc受容体(FcRn)(IgGに結合してIgGを再利用することによってその循環半減期を長くする受容体である)により融合タンパク質を再利用することによって、循環半減期を増大させる。Fc部分はまた、補体依存性細胞傷害(CDC)および抗体依存性細胞傷害(ADCC)等のFcエフェクター機能に欠損があり、それが融合タンパク質がTregを選択的に活性化し、Treg機能を高め、Tregの数を増大することを可能にする。2つのタンパク質部分は、IL2選択的アゴニスト部分の頑健な生物活性を維持し、循環半減期を長引かせることを促進し、それによってTregの機能と数を効率的に増強することを可能にする様式で、融合される。Tregのこの増強は、過剰な自己免疫応答または炎症性応答を抑制し、自己免疫疾患および炎症性疾患を治療する上で利益となるものである。本発明のタンパク質は、単量体または二量体(Fc部分またはドメインにおけるシステイン残基により二量体を形成する)であってもよい。
【0014】
より具体的には、本発明はN末端のヒトIL-2バリアントタンパク質部分、およびC末端のIgG Fcタンパク質部分を含む融合タンパク質を提供し、ここで当該IL-2融合タンパク質は、高親和性IL-2受容体を選択的に活性化し、それによってヒト制御性T細胞を選択的に活性化する能力を有する。IL-2のバリアントは、ヒトIL2タンパク質に対して、N88R、N88G、D20H、Q126L、およびQ126Fからなる群より選択される置換を有するものを含む。配列番号1は、wt IL2に対応する番号付けを有するバリアントIL-2/N88Rである。その上、IL-2バリアントタンパク質は、場合によって置換C125Sを有するヒトIL-2を含む。本発明のタンパク質は、IL-2バリアントタンパク質とIgG Fcタンパク質の両方がN末端とC末端を有し、前記ヒトIL-2バリアントタンパク質はそのC末端でIgG Fcタンパク質のN末端に融合するように融合されることが好ましい。IL-2バリアントタンパク質とIgG Fcタンパク質部分の間にリンカーペプチドが位置する場合にはIL-2バリアントドメインの活性が大きく増強されることがさらに開示される。IgG Fcタンパク質部分またはドメインは、場合によりFcエフェクター機能を欠損しているか、または融合タンパク質のFc部分のエフェクター機能を低減する1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0015】
本発明の一例は、ヒトIL-2(配列番号1 - N88R)に対してアミノ酸置換N88RおよびC125Sを有するIL-2バリアントタンパク質、配列番号15に記載のリンカーペプチド、および配列番号2に記載の置換N297Aを有するヒトIgG1 Fcタンパク質を含むタンパク質であって、ここで前記融合タンパク質は高親和性IL-2受容体を選択的に活性化し、それによってヒト制御性T細胞を選択的に活性化する能力を有する、前記タンパク質である。本発明の代替的なタンパク質は、ヒトIL-2(配列番号1 - N88R)に対してアミノ酸置換N88RおよびC125Sを有するIL-2バリアントタンパク質、配列番号15に記載のリンカーペプチド、ならびに配列番号3に記載のヒトIgG2 Fcタンパク質を含む。
【0016】
本発明のより具体的な一実施形態は、2つの同一の鎖を含む二量体タンパク質であり、ここで各鎖はN末端のヒトIL-2バリアントタンパク質部分とC末端のIgG Fcタンパク質部分を含み、ここでN末端のヒトIL-2バリアントタンパク質部分はN末端とC末端を有し、N88R、N88G、D20H、Q126LおよびQ126Fからなる群より選択される少なくとも1つの置換によって配列番号1のヒトIL-2野生型から異なり、配列番号1に対して少なくとも90または95または97%の配列同一性を有し;Treg細胞上のIL2Rαβγに結合することによってTreg細胞を活性化する能力を有し;N末端のヒトIL-2バリアントタンパク質は、そのC末端で6~20または6~30アミノ酸残基のアミノ酸リンカーのN末端に連結され、ここで前記リンカーもまたC末端を有し;アミノ酸リンカーのC末端は、例えば配列番号3(IgG2)または配列番号2(IgG1N297A)に対して90または95または97%の配列同一性を有し、システイン残基を含有するIgG Fcタンパク質部分のN末端に連結され;さらにここで、当該2つの鎖は、IgG Fcタンパク質部分の鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基によって互いに連結されている。本発明の二量体は、IL-2部分のC125Sでさらに置換されていてもよい。本発明のタンパク質は、好ましくは、グリシン残基、セリン残基、ならびにグリシンおよびセリン残基の混合の群からなるアミノ酸リンカーを含む。リンカーは、好ましくは、グリシン残基のセリン残基に対する比率が3:1~5:1、例えば4:1の比率の、12~17のセリンおよびグリシン残基の混合を含んでもよい。
【0017】
本発明はさらに、薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物で上記組成物を提供する。
【0018】
本発明はさらに、本明細書に記載されるタンパク質をコードする核酸を提供する。該核酸は好ましくは、宿主細胞ゲノムとの組換え用に設計されるか、または独立に複製するプラスミド若しくは染色体外核酸上に導入されることが可能な、発現カセットに、作動可能に連結される。
【0019】
本発明はさらに、これを必要とする患者におけるヒト制御性T細胞を選択的に活性化する方法を提供し、当該方法は、ヒト制御性T細胞濃度が所望のレベルに達するまで治療上有効な用量で投与される、記載された組成物を含む医薬組成物を投与することを含む。
【0020】
ヒト血液細胞を0.01nM~1nMの濃度の請求項1の融合タンパク質と接触させ、次にフローサイトメトリーによって該タンパク質に結合する細胞を検出することによって、ヒト血液試料中のTreg細胞の数を測定する方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】IL-2、または半減期が増加したIL2-Fc融合タンパク質の単回投与後の、循環半減期、ピーク薬剤レベル、生物学的有効濃度、およびTreg細胞増殖を刺激するのに必要な時間の間の関係の模式図である。破線は皮下注射後のIL-2の経時的血液レベルを表し、実線はIL-2-Fc融合タンパク質の経時的血液レベルを表す。水平方向の点線は、IL2RαβγおよびIL2Rβγを発現する細胞をそれぞれ活性化するのに必要な濃度(EC50値)を示す。両矢印線は、細胞増殖を刺激するのに必要なEC50でのIL-2への暴露時間(5~6時間)を示す。
図2】Fc融合タンパク質の設計の構成を示す図である。融合パートナー(X)は、Fcタンパク質のN末端(X-Fc)またはC末端(Fc-X)で融合することができる。リンカーペプチドはXとFcの間に挿入することができる。
図3A】フローサイトメトリーで測定された、IL-2およびN88RL9AG1に刺激されたSTAT5リン酸化の用量応答を示す図である。実施例3に記載されるように、37℃で10分間上部に示された濃度のIL-2またはN88RIL2-Fcで細胞を処理し、固定し、透過処理し、抗体染色を行い、その後フローサイトメトリー解析に供した。CD4+としてゲートされた細胞が示されており、細胞はさらに、4領域(quadrant)の各々に示されるようにCD25およびpSTAT5についてゲートされる。各領域における数は、各ゲートにおけるCD4+細胞のパーセンテージを示す。上側の領域における細胞は、Treg細胞が濃縮した集団である、CD25発現細胞の最も高い1~2%を表し、右側の領域における細胞はpSTAT5+である。(図3A)N88RL9AG1は高い選択性でCD25high細胞のみを刺激し、一方でIL-2はピコモーラー濃度に減少するまでCD25-/lowおよびCD25high細胞の両方を大きく刺激する。(図3B)D20HL0G2は、pSTAT5刺激活性を有しない。2つの独立した実験でpSTAT5活性化は観察されなかった。(図3C)D20H/IL2はCD25high細胞においてpSTAT5を刺激するが、一方でD20HL0G2は刺激しないことを示す対照を示す図である。プロットは疑似カラーモードで示されている。両方のタンパク質が10-8Mの濃度で試験された。
図3B図3Aの続きである。
図3C図3Bの続きである。
図4】N88RL9AG1で処理したCD4+ T細胞が、高レベルのFOXP3を発現する細胞中のpSTAT5レベルの刺激を示したことを示す図である。実施例3に記載されるように、細胞を4 X 10-9MのIL-2またはN88RL9AG1で処理した。N88RL9AG1で処理したpSTAT5+細胞の大半がFOXP3+でもあり、一方でIL-2で処理したpSTAT5+細胞にはFOXP3-およびFOXP3+の両方があり、大半がFOXP3-であった。
図5A図5A~BはHEK293細胞で生成された異なるFc融合構築物のタンパク質収量を示す図である。実施例1に記載されるように、タンパク質を最適化一過的発現系において並行して発現させ、精製した。結果は30ml培養物に由来する精製タンパク質の最終収量として表される。(図5A)N88R/IL2-Fc融合タンパク質のタンパク質収量は、ペプチドリンカー長を増加させると増加する。(図5B)wt IL2-Fc融合タンパク質の収量は、15残基ペプチドリンカーを用いると僅かにのみ増大する。D20H/IL2-Fc融合タンパク質のより高い収量は、Fc-X構成よりもX-Fc構成において得られた。
図5B図5Aの続きである。
図6A図6A~BはN88R/IL2-Fc融合タンパク質におけるペプチドリンカー長へのIL-2生物活性の依存性を示す図である。(図6A)ペプチドリンカー長を増加させると、CD25highCD4+ T細胞(Treg)におけるpSTAT5シグナルは増加する。(図6B)CD25-/low細胞において、N88R/IL2-Fcタンパク質のいずれについても著しいpSTAT5シグナルは観察されなかった。10-8M IL-2内部対照のpSTAT5シグナルは、両方のパネルにおいて黒色の三角によって示されている。
図6B図6Aの続きである。
図7】ヒトTregにおけるD20H/IL2-Fc融合タンパク質の生物活性を示す図である。D20HL15AG1の効力はN88RL15AG1の効力よりも大幅に低く、D20HL15AG1(X-Fc構成)とAG1L15D20H(Fc-X構成)は同様の効力を有する。3種類のタンパク質はすべて15残基ペプチドリンカーを有する。
図8A】15残基ペプチドリンカーを有するおよび有しないwt IL-2-Fc pSTAT5活性の生物活性を示す図である。IL-2生物活性は、Treg(図8A)とCD25-/low細胞(図8B)の両方において、15残基ペプチドリンカーによって控えめにのみ増強される。
図8B図8Aの続きである。
図9-1】ヒトPBMCにおける7つの異なる免疫細胞種に対する、IL-2およびIL-2選択的アゴニストタンパク質の選択性を示す図である。N88RL15AG1は、wt IL-2およびWTL15AG1に比べてTregに対して選択性が高く、複数の細胞種においてN88R/IL2よりも大きな選択性を示す。
図9-2】図9-1の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
序論
本発明は、以下の3つの鍵となるタンパク質要素を含む新規治療用融合タンパク質である:(1)Treg細胞に対し選択性が高くなるように改変されている改変型IL-2サイトカイン、(2)該タンパク質の循環半減期を増加するエフェクター機能欠損型Fcタンパク質、および(3)融合タンパク質の高い生物学的活性に必要である、2つの部分の間のペプチドリンカー。該融合タンパク質は、IL-2ドメインがIL-2ドメインのC末端によりリンカーペプチドのN末端に結合されるように構成される。FcドメインはそのN末端によりリンカーのC末端に結合される。短いペプチドリンカーを用いるおよび用いない従来研究では、n-IL-2:c-Fc融合タンパク質は著しい生物活性を有しないことが報告された。このことによって、Fc領域がリンカーのN末端に結合され、IL-2ドメインが融合タンパク質のカルボキシ末端を形成する、逆の構成であるn-Fc:c-IL-2が注目されることとなった。
【0023】
FcのN末端に生物活性のある融合パートナードメインを有するFc融合タンパク質は、好ましい構成である。これは、生物活性のあるドメインがIgGのFab部分と置き換わるからである。FcのC末端に生物活性のある融合パートナードメインを有するFc融合タンパク質は、好ましさのより低い構成である。これは、IgG FcのC末端が、Fcタンパク質の長い循環半減期に必要なFc受容体FcRn等の他の分子に結合するその能力を損う可能性があるためである。FcのC末端に融合したIL2融合タンパク質は、Fc融合タンパク質について予想されるよりもはるかに短い循環半減期を有することが報告されており、Fcの機能または安定性が損なわれていることが示唆される。したがって、IL-2生物活性に必要な長いペプチドリンカーを用いる本発明は、IL-2融合タンパク質の従来技術の教示に逆らった、顕著で予想されなかった進歩である。本発明によって規定される分子は、自己免疫および炎症性病態を抑制するT細胞の小さなサブ集団の産生を刺激する新規機構によって、自己免疫疾患の安全で有効な治療を可能にする。このパラダイム破壊的な治療法は多くの様々な自己免疫疾患を治療することが予想される。
【0024】
定義
本明細書で使用される「配列番号1に対する少なくとも○パーセント(例えば、90または95または97%)の配列同一性」とは、2つ以上の核酸またはポリペプチドの配列が同一である程度を指す。評価窓にわたる、例えば目的の配列の長さにわたる、目的の配列と第2の配列の間のパーセント同一性は、配列を整列し、同一性を最大化するためにギャップの導入を許容しながら、同一残基の反対側ににある、評価の窓の中にある残基(ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を決定し、窓の中に位置する目的の配列または第2の配列の残基の合計数(いずれかより大きな方)で割り、さらに100を掛けることによって計算することができる。特定のパーセント同一性を達成するのに必要な同一な残基の数を計算する際には、割合を最も近い全体数に丸めることになる。パーセント同一性は、様々なコンピュータープログラムを使用して計算することができる。例えば、BLAST2、BLASTN、BLASTP、Gapped BLAST等のコンピュータープログラムは、アラインメントを生成し、目的の配列間のパーセント同一性を提供する。Karlin and Altschul, Proc. Natl. Acad. ScL USA 90:5873-5877, 1993において改変されたKarlin and Altschulのアルゴリズム(Karlin and Altschul, Proc. Natl. Acad. ScL USA 87:22264-2268, 1990)はAltschul et al.(Altschul, et al., J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990)のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれている。比較目的のためのギャップ有アラインメントを取得するために、Altschul et al.(Altschul, et al. Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されるようにGapped BLASTが使用される。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを使用する際には、各プログラムの初期設定パラメーターを使用してもよい。PAM250またはBLOSUM62行列を使用してもよい。BLAST解析を行うためのソフトウェアはNational Center for Biotechnology Information(NCBI)を通じて公共に利用できる。これらのプログラムについては「ncbi.nlm.nih.gov」のURLワールドワイドウェブアドレスを有するウェブサイトを参照されたい。具体的な実施形態では、パーセント同一性はNCBIによって提供されるような初期設定パラメーターを用いてBLAST2を使用して計算される。
【0025】
「N末端」は、カルボキシル酸基を有するカルボキシル末端に対比して、アミノ基を有するペプチドまたはポリペプチドの末端を指す。
【0026】
「C末端」は、アミノ基を有するアミノ末端に対比して、カルボン酸基を有するペプチドまたはポリペプチドの末端を指す。
【0027】
「C末端IgG Fcタンパク質部分」は、各々がIgG分子の2つの重鎖のヒンジ領域、第2定常ドメインおよび第3定常ドメインを有する2つの同一のタンパク質断片に由来する融合タンパク質の部分であって、ヒンジ領域を介して互いにジスルフィド結合したカルボキシ末端重鎖からなる部分を指す。それは、補体依存性細胞傷害(CDC)および抗体依存性細胞傷害(ADCC)エフェクター機能を媒介する、補体タンパク質C1qおよびIgG-Fc受容体(FcγR)と相互作用するIgG分子の部分として機能的に定義される。この配列は、エフェクター機能を減少させるように、循環半減期を増加させるように、および糖鎖付加部位を除去するように改変することができる。
【0028】
IL2バリアント
本発明のIL-2バリアントタンパク質は、IL-2αβγ選択的アゴニストである。機能的には、本発明のIL-2バリアントタンパク質は、IL2Rβγ受容体複合体に比べてIL2Rαβγ受容体複合体を選択的に活性化する。本発明のIL-2バリアントタンパク質は、野生型IL-2に由来し、配列番号1の野生型IL-2に対して少なくとも95%の配列同一性を有するものとして構造的に規定され、Treg細胞を優先的に活性化する能力によって機能的に規定される。該タンパク質はまた、CD4+ CD25-/low T細胞またはNK細胞に比べてTreg細胞におけるリン酸化STAT5タンパク質のレベルによって測定される、TregにおいてIL-2受容体シグナリングを選択的に活性化する能力によって、あるいはNK細胞に対するフィトヘマグルチニン刺激T細胞の選択的活性化によって機能的に規定することができる。
【0029】
「N末端ヒトIL-2バリアントタンパク質部分」は、野生型IL-2タンパク質に由来し、上述の通り構造的および機能的に規定される融合タンパク質のN末端ドメインを指す。
【0030】
「C末端」は、アミノ基を有するアミノ末端に対比して、カルボン酸基を有するペプチドまたはポリペプチドの末端を指す。
【0031】
Treg
「Treg」または「Treg細胞」は、制御性T細胞を指す。制御性T細胞は、他の免疫細胞の活性を抑制するT細胞のクラスであり、細胞マーカー表現型CD4+CD25+FOXP3+によってフローサイトメトリーを使用して規定される。FOXP3は細胞内タンパク質であり、染色のためには細胞固定と透過処理を必要とするため、細胞表面表現型CD4+CD25+CD127-を、生きたTregを規定するために使用することができる。Tregはまた、様々なTregサブクラス、例えばtTreg(胸腺由来)およびpTreg(末梢由来で、末梢のナイーブT細胞から分化したもの)を含む。すべてのTregはIL-2Rαβγ受容体を発現し、それ自身のIL-2を産生せず、増殖はIL-2に依存していて、当業者であれば、両方のクラスがIL-2Rαβγ選択的アゴニストによって選択的に活性化されることを認識する。
【0032】
ペプチドリンカー
「ペプチドリンカー」は、融合タンパク質を構成する2つのタンパク質の間に位置するアミノ酸配列であって、リンカーペプチド配列がいずれのパートナータンパク質にも由来しないものとして定義される。ペプチドリンカーは、正しいタンパク質フォールディングと構成要素タンパク質部分の安定性を促進し、タンパク質発現を改善し、2つの融合パートナーの生物活性をより良くすることを可能にするために、スペーサーとして融合タンパク質に組み入れられる(Chen, et al., 2013, Adv Drug Deliv Rev. 65(10):1357-69)。ペプチドリンカーは、非構造化可撓性ペプチドまたは硬い構造化ペプチドのカテゴリーに分けることができる。
【0033】
Fc融合タンパク質
「Fc融合タンパク質」は、新規の単一の組換えポリペプチドを生成するために、哺乳類IgGタンパク質のFcドメインの翻訳読み枠が別のタンパク質(「Fc融合パートナー」)の翻訳読み枠と融合した、組換えDNA技術によって作製されるタンパク質である。Fc融合タンパク質は、通常、ヒンジ領域に位置するジスルフィド結合によって一つに連結された、ジスルフィド連結二量体として生成される。
【0034】
機能的活性化
「生物活性」は、細胞に基づく定量的インビトロアッセイにおける生物学的活性の測定を指す。
【0035】
「Treg細胞の機能的活性化」は、TregにおけるIL-2媒介性反応として定義される。Treg細胞の機能的活性化のアッセイ読み出し情報は、pSTAT5の刺激、Treg細胞増殖、Tregエフェクタータンパク質のレベルの刺激を含む。
【0036】
設計および構築
Fc融合タンパク質の設計と構築には複数の選択肢があり、所望の生物学的活性と薬学的特性を有する分子の生成が可能になるように、これらの設計の選択肢からの選択が以下に提示される。鍵となる設計の選択肢は、以下の通りである:(1)IL2選択的アゴニストの性質、(2)Fcタンパク質部分の選択、(3)融合タンパク質における融合パートナーの構成、および(4)Fcと融合パートナータンパク質の間の接合部のアミノ酸配列。
【0037】
全般的な方法
一般的に、本発明の融合タンパク質の調製は、本明細書に開示される方法によって、および例えばポリメラーゼ連鎖増幅反応(PCR)、プラスミドDNAの調製、制限酵素を用いたDNAの切断、オリゴヌクレオチドの調製、DNAのライゲーション、mRNAの単離、適切な細胞へのDNAの導入、宿主の形質転換または遺伝子導入、宿主の培養等を含む認知された組換えDNA技術によって達成することができる。さらに、該融合分子は、カオトロピック試薬と周知の電気泳動の、遠心分離の、およびクロマトグラフィーの方法を使用して単離し精製することができる。これらの方法に関する開示については、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd ed.(1989);およびAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (1989)を一般的には参照されたい。
【0038】
本発明の融合タンパク質をコードする遺伝子には、所望の融合物をコードするDNAを生成するために採用される基本的工程として制限酵素消化とライゲーションが関与する。DNA断片の末端は、ライゲーション前の修飾を必要としてもよく、これは、オーバーハングのフィルイン、ヌクレアーゼ(例えばExoIII)を用いた断片(単数または複数)の末端部分の欠失、部位特異的変異誘発によって、またはPCRによる新しい塩基対の追加によって達成してもよい。選択された断片の連結を促進するためにポリリンカーとアダプターを採用してもよい。発現構築物は、通常、数回の制限酵素処理、ライゲーション、および大腸菌の形質転換を採用する段階で構築される。発現構築物の構築に適した多数のクローニングベクターが当技術分野で公知であり(Ausubel et al., 1999に引用されている、lambda.ZAPおよびpBLUESCRIPT SK-1、Stratagene, Lajolla, Calif., pET, Novagen Inc., Madison, Wis.)、特定の選択は本発明にとって重大ではない。クローニングベクターの選択は、宿主細胞への発現構築物の導入のために選択される遺伝子伝達系によって影響される。各段階の終わりに、結果として生じた構築物は、制限酵素処理、DNA配列決定、ハイブリダイゼーションおよびPCR解析によって解析してもよい。
【0039】
部位特異的変異誘発は、通常、当技術分野において公知の方法によって本発明の融合タンパク質をコードする遺伝子に特定の変異を導入するために使用される。例えば、米国特許出願公開2004/0171154;Storici et al., 2001, Nature Biotechnology 19:773-776;Kren et al., 1998, Nat Med. 4:285-290;およびCalissano and Macino, 1996, Fungal Genet. Newslett. 43: 15-16を参照されたい。任意の部位特異的変異誘発方法を本発明において使用することができる。本発明のバリアントを調製するために使用することができる、利用可能な市販のキットが多数ある。
【0040】
様々なプロモーター(転写開始制御領域)を本発明に従って使用してもよい。適切なプロモーターの選択は、提案される発現宿主に依存する。異種性の出所に由来するプロモーターは、選択された宿主においてそれが機能的である限りにおいて使用してもよい。
【0041】
様々なシグナル配列を、本明細書に記載されるタンパク質の発現を促進するために使用してもよい。また、発現宿主における効率的な分泌およびプロセシングのために選択されたまたは設計されたシグナル配列を使用してもよい。TCRコーディング配列またはマウスIL-2コーディング配列と同種のシグナル配列を哺乳類細胞では使用してもよい。他の適当なシグナル配列/宿主の対は、枯草菌(B. subtilis)における分泌のための枯草菌sacBシグナル配列、およびP.パストリス(P. pastoris)の分泌のための出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)α-接合因子またはP.パストリス酸性ホスファターゼphoIシグナル配列を含む。シグナル配列は、シグナルペプチダーゼ切断部位をコードする配列を通してタンパク質コーディング配列に、または短いヌクレオチドブリッジを通して、直接連結してもよい。
【0042】
転写および翻訳を増強するためのエレメントが真核生物タンパク質発現系のために同定されている。例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)プロモーター1000bpを異種性プロモーターのいずれか一方の横に配置すれば、植物細胞において転写レベルが10~400倍上昇し得る。発現構築物はまた、適切な翻訳開始配列を含むべきである。発現構築物を正しい翻訳開始のためのコザックコンセンサス配列を含むように改変させれば、翻訳レベルが10倍増加し得る。
【0043】
発現カセットは、採用されている宿主に適合可能な適切なベクターに連結される。ベクターは、発現されるべき融合タンパク質をコードするDNA配列を収容することができなくてはならない。好適な宿主細胞は、真核細胞および原核細胞、好ましくは容易に形質転換でき、培養培地中で迅速な増殖を示すことができるものを含む。具体的に好ましい宿主細胞は、大腸菌(E. coli)、枯草菌(Bacillus subtillus)等の原核生物、ならびに動物細胞および酵母株、例えば出芽酵母(S. cerevisiae)等の真核生物を含む。哺乳類細胞、特にHEK、J558、NSO、SP2-OまたはCHOが一般的に好ましい。他の好適な宿主は、例えばSf9等の昆虫細胞を含む。通常の培養条件が採用される。上記Sambrookを参照されたい。安定な形質転換または遺伝子導入細胞株を次に選択することができる。インビトロ転写-翻訳系もまた発現系として採用することができる。
【0044】
細胞に遺伝子導入するための標準手法によって、所望の融合タンパク質をコードする核酸を宿主に導入することができる。「導入する」または「導入」という用語は、リン酸カルシウム共沈法、DEAE-デキストラン-媒介性遺伝子導入、リポフェクション、電気穿孔法、微量注入、ウイルス伝達および/またはインテグレーションを含む、宿主細胞に核酸を導入するためのすべての従来技術を包含することが意図される。宿主細胞に遺伝子導入するための好適な方法は、上記Sambrook et al.、および他の実験用教科書に見出すことができる。
【0045】
あるいは、本明細書に記載されるタンパク質の構築のすべてまたは一部のために、合成遺伝子構築を使用することができる。これは、目的のポリペプチド分子をコードする設計ポリヌクレオチド分子のインビトロ合成を必要とする。遺伝子合成は、Tian, et al.,(Tian, et al., Nature 432:1050-1054)に記載される多重マイクロチップに基づく技術、およびオリゴヌクレオチドが光プログラム可能な微小流体チップ上で合成され構築される同様の技術等の多くの手法を利用して実施することができる。
【0046】
本発明の融合タンパク質は、回収された宿主細胞から、または培養培地から単離される。培地から、または回収された細胞から目的のタンパク質を単離するために、標準的なタンパク質精製手法が使用される。特に、ローラーボトル、スピナーフラスコ、組織培養プレート、バイオリアクター、または発酵槽を含む様々なアプローチによって、所望の融合タンパク質を大規模に(すなわち、少なくともミリグラム量で)発現し精製するために、タンパク質精製手法を使用することができる。
【0047】
IL2選択的アゴニスト部分
置換N88Rを有するIL-2は、IL2Rαβγ受容体に対するIL2選択的アゴニストの例示的なケースである(Shanafelt, A. B., 2000, Nat Biotechnol.18:1197-202)。IL2/N88Rは、IL2Rβ受容体サブユニットおよびIL2Rβγ受容体複合体への結合が欠損しているものの、野生型IL-2(wt IL-2)と同程度に効果的に、IL2Rαβγ受容体複合体に結合し、IL2Rαβγ発現PHA活性化T細胞の増殖を刺激することができるが、一方でIL2Rβγ発現NK細胞の増殖を刺激する3,000倍低下した能力を示す。同様の活性プロファイルを有する他のIL2Rαβγ選択的アゴニストは、置換N88GおよびD20Hを有するIL-2を含み、置換Q126LおよびQ126F(IL2RGサブユニットとの接触残基)を有する他のIL2バリアントもまたIL2Rαβγ選択的アゴニスト活性を有する(Cassell, D. J., et al., 2002, Curr Pharm Des., 8:2171-83)。当業者は、Fc融合タンパク質が同様の活性を有することを予想して、これらのIL2選択的アゴニスト分子のいずれについてもIL2/N88R部分に置換することができることを認識するだろう。前述した変異のすべてを、wt IL-2、または置換C125S(対のないシステイン残基を除去することによってIL-2安定性を促進する置換である)を有するwt IL-2の背景に導入することができる。本発明はまた、IL-2受容体活性化活性に著しく影響することなく、産生または安定性を改善する他の変異またはトランケートとともに使用することができる。
【0048】
本発明のバリアントは、場合により、アミノ酸および核酸配列の両方に適用される保存的置換バリアントを含む。特定の核酸配列については、保存的に改変されたバリアントは、同一のまたは実質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を指し、あるいは、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、実質的に同一の配列を指す。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(またはすべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基と置換されている配列を生成することによって達成することができる(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。遺伝暗号の縮重性により、多数の機能的に同一の核酸が任意の所与のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはすべてアミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンによって特定されているすべての位置で、コードされるポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンのいずれかにコドンを変更することができる。このような核酸変化はサイレントな変化であり、保存的に改変される変化の一種である。ポリペプチドをコードする本明細書のすべての核酸配列はまた、該核酸の可能なすべてのサイレントな変化を記載している。当業者であれば、核酸における各コドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)は機能的に同一の分子を生成するように改変することができることを認識する。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各々のサイレントな変化は、各々の記載された配列に暗黙に含まれている。
【0049】
アミノ酸配列の保存的置換については、当業者であれば、コードされる配列において単一のアミノ酸または小さなパーセンテージのアミノ酸を変化し、付加しまたは欠失する、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列への個別の置換、欠失、または付加は、変化が化学的に類似したアミノ酸を有するアミノ酸の置換をもたらす保存的に改変されたバリアントである。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は当技術分野において周知である。そのような保存的に改変されたバリアントは、本発明の多型バリアント、種間ホモログ、および対立遺伝子に追加されるものであり、これらを排除しない。
【0050】
以下の群は各々が互いに保存的置換であるアミノ酸を含む。
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)セリン(S)、スレオニン(T);
3)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
4)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
5)システイン(C)、メチオニン(M);
6)アルギニン(R)、リジン(K)、ヒスチジン(H);
7)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、バリン(V);および
8)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
【0051】
Fcタンパク質部分
鍵となる設計上の選択肢は、Fcタンパク質部分の性質である。Fc融合タンパク質の主要な治療用途は、(1)融合パートナータンパク質に免疫グロブリンFcエフェクター機能を与えること;または(2)融合パートナータンパク質の循環半減期を増加させることである(Czajkowsky, et al., 2012, EMBO Mol Med. 4:1015-28)。IgGタンパク質の主要エフェクター機能は、補体依存性細胞傷害(CDC)および抗体依存性細胞傷害(ADCC)、すなわち補体タンパク質C1qへのおよびIgG-Fc受容体(FcγR)へのそれぞれのFc結合によって媒介される機能である。これらのエフェクター機能は、治療用タンパク質が特定の抗原標的または細胞に対する免疫反応を指向するまたは増強するために使用される場合に、重要である。本発明の融合タンパク質は、IL2選択的アゴニスト部分の循環半減期を増大させるためだけに設計され、エフェクター機能は必要なく、毒性を有することさえあり得るため、はっきり言えば望ましくない。例えば、エフェクター機能適格性Fcを有するIL2選択的アゴニスト-Fc融合タンパク質は、本発明の融合タンパク質が活性化し拡大しようとするTreg細胞を可能性として殺傷することができ、これは自己免疫疾患のための治療目標の真逆である。エフェクター機能(CDC、ADCC)、循環半減期、および安定性の点で異なる4つのヒトIgGサブクラスがある(Salfeld, J. G., 2007, Nature Biotechnology 25:1369-72)。IgG1は、Fcエフェクター機能を有し、最も多いIgGサブクラスであり、米国FDA承認治療用タンパク質の中で最も一般的に使用されている。IgG2は、Fcエフェクター機能を欠損しているが、他のIgG2分子との二量体化を受けやすく、またヒンジ領域のジスルフィド結合の組み換えのために不安定化しやすい。IgG3はFcエフェクター機能を有し、極めて長く硬いヒンジ領域を有する。IgG4は、Fcエフェクター機能を欠損しており、他のサブクラスよりも短い循環半減期を有しており、IgG4二量体は、異なるIgG4分子との間でH鎖の交換につながるヒンジ領域中の1つのみのジスルフィド結合により、生化学的に不安定である。当業者であれば、IgG2およびIgG4に由来するFcタンパク質部分はエフェクター機能を有しておらず、本発明に使用することができることを認識するだろう。当業者であればまた、IgG2 Fcのヒンジ領域は凝集を防ぐために改変することができ、またはIgG4 Fcのヒンジ領域は二量体を安定化させるために改変することができるように、Fc配列改変が当技術分野において記述されていることを認識するだろう。あるいは、IgG1のエフェクター機能欠損型バリアントが生成されている。一つのそのようなバリアントは、N結合型糖鎖付加部位の場所である、位置N297にアミノ酸置換を有する。このアスパラギン残基の置換は、糖鎖付加部位を除去し、ADCCおよびCDC活性を著しく低下させる(Tao, M. H., et al., 1989, J Immunol. 143:2595-2601)。このバリアントは本明細書における本発明の例示的なケースとして使用される。別のエフェクター機能欠損型IgG1バリアントはIgG1(L234F/L235E/P331S/)であり(Oganesyan, et al., 2008, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 64:700-4)、これはC1qおよびFcγR結合部位におけるアミノ酸を変異するものであり、当業者であれば、エフェクター欠損型で安定なIL2SA-Fc融合タンパク質を生成するためにこれらのまたは類似したFcバリアントの使用を考慮するだろう。当業者であれば、二量体よりも安定な単量体となるように改変されたFcタンパク質部分の形態(Dumont, J. A., et al., 2006, BioDrugs 20:151-60;Liu Z, et al., J Biol Chem. 2015 20;290:7535-62)もまた本発明のIL-2選択的アゴニストと組み合わせられることを認識するだろう。さらに、当業者であれば、Fc H鎖ポリペプチドと組み合わせたIL-2-Fc H鎖ポリペプチドから構成され、二重特異性抗体技術を使用して構築される、機能的に単量体のヘテロ二量体(Zhu Z, et al., 1997 Protein Sci. 6:781-8)もまた、本発明のIL-2選択的アゴニストと組み合わせられることを認識するだろう。IgG部分における抗原特異性を有する(Penichet, M. L., et al.,1997, Hum Antibodies. 8:106-18)または有しない(Bell, et al., 2015, J Autoimmun. 56:66-80)いくつかのIL-2 Fc融合タンパク質が、完全IgG抗体分子を用いて作製された。その上、当業者であれば、ヒンジ領域の一部または全部を有しないFcバリアントを本発明と共に使用することができることを認識する。
【0052】
Fc融合タンパク質は、本明細書においてX-Fc(融合パートナータンパク質であるXがN末端にありFcがC末端にある)およびFc-X(FcがN末端にあり融合パートナータンパク質がC末端にある)と表される、2つの構成で作製することができる(図2)。文献には、融合パートナーが異なればNまたはC末端Fc融合のどちらが好ましいかが異なる場合があることを示す例がある。例えば、FGF21はFc-X構成の方がはるかに好ましいことが示されている。Fc-FGF21はFGF21それ自体と実質的に同じ受容体活性化生物活性を有し、一方でFCF21-Fcは1000倍低下した生物活性を有する(Hecht, et al., 2012, PLoS One. 7(11):e49345)。多くのIL-2 Fc融合タンパク質が様々な用途のために作製されており、これらはFc-X(Gillies, et al., 1992, Proc Natl Acad Sci, 89:1428-32; Bell, et al., 2015, J Autoimmun. 56:66-80)およびX-Fc(Zheng, X. X., et al., 1999, J Immunol. 163:4041-8)構成の両方でFcに直接融合される場合に良好なIL-2生物活性を有することが報告されている。Gavin, et al.(US 20140286898 A1)は、遊離型IL-2サイトカインの生物活性と同様の生物活性を有するFc-X構成のIL-2および特定のIL-2バリアントを含むFc融合タンパク質を記載するが、Zheng et al.(Zheng, X. X., et al., 1999, J Immunol. 1999, 163:4041-8)の結果とは対照的に、X-Fc構成のIL-2バリアント融合タンパク質は生物活性が低下しているかまたは生物活性が全くないことを見出した。したがって、Gavin, et al.は、一般的にN末端IL-2 Fc融合タンパク質の阻害要因となる。融合タンパク質の構成の選択に影響する別の因子は、循環半減期への影響である。文献において繰り返される知見は、Fc-X構成のIL-2融合タンパク質は、ヒトにおけるヒトIgG1の21日半減期または現在FDAに承認されているFc融合タンパク質(表1)の半減期よりもはるかに低い、比較的低い循環半減期を有するということである。Fc-X構成のIgG-IL2融合タンパク質は、マウスにおいて数時間のオーダー(Gillies S. D., 2002 Clin Cancer Res., 8:210-6;Gillies, S. D., US 2007/0036752 A2;Bell C. J., 2015 J Autoimmun. 56:66-80)の、ヒトにおいて3.3時間のオーダー(Ribas A., J 2009 Transl Med. 7:68)の比較的短い循環半減期を有することが報告されており、Fc-IL2融合タンパク質は、マウスで12.5時間の循環半減期を有することが報告されている(Zhu E. F., Cancer Cell. 2015, 13;27(4):489-501)。Fc部分のC末端とIL-2部分の間のタンパク質分解が、短い循環半減期に寄与する(Gillies S. D., 2002 Clin Cancer Res., 8:210-6;Zhu E. F., 2015 Cancer Cell. 27:489-501)。これらの比較的短い半減期のために、本発明者らはX-Fc構成のIL2選択的アゴニストFc融合タンパク質に注目した。この仕事における知見は、IgG1(N297A)置換を含有するIL2-Fc融合タンパク質は高い生物活性を有し、本発明の特に好ましい種類であることを示す。O結合型糖鎖を除去するIgG1 Fc融合タンパク質のバリアントはまた特に好ましい種類であり、その理由は、これが生物活性が高く、純粋で均質な薬剤産物の製造に利点を提供するからである。本特許における知見はさらに、エフェクター機能欠損型IgG1バリアントおよびIgG4 Fcを有するIL2-Fc融合タンパク質はまた、わずかに活性が低いものの、好ましい種類であることを示す。IgG2および血清アルブミン(HSA)との融合は、生物活性がより低く、好ましさがより低い種類であるが、他の陽性の属性を有する場合には治療用途に好適になり得る。
【0053】
リンカー
Fcと融合パートナータンパク質との間の接合部のアミノ酸配列は、(1)2つのタンパク質配列の直接的な融合物であるか、(2)介在するリンカーペプチドを有する融合物のいずれであってもよい。米国FDAによって臨床使用のために現在承認されている10個のFc融合タンパク質(表1)のうち、8個は融合パートナータンパク質とFcとの直接融合物であり、一方2個はリンカーペプチドを有し、したがって多数のFc融合タンパク質がリンカーペプチドなしに機能的であることが可能である。リンカーペプチドは、2つのタンパク質部分の間のスペーサーとして含まれる。リンカーペプチドは、適切なタンパク質フォールディングと構成要素タンパク質部分の安定性を促進することができ、タンパク質の発現を改善し、構成要素タンパク質部分のより良好な生物活性を可能にする(Chen, et al., 2013, Adv Drug Deliv Rev. 65:1357-69)。多数の融合タンパク質に使用されるペプチドリンカーは、非構造化可撓性ペプチドとなるように設計される。天然タンパク質における独立した構造ドメインの間のリンカーペプチドの長さ、配列、および立体構造の研究により、可撓性ペプチドリンカーの設計のための理論的基礎が提供されている(Argos, 1990, J Mol Biol. 211:943-58)。Argosは、長い可撓性リンカーペプチドはグリシンのような小さい無極性残基、ならびにセリンおよびスレオニンのような小さい極性残基から構成され、複数のグリシン残基は可撓性の高い立体構造を可能にし、セリンまたはスレオニンは極性を有する表面領域を提供しペプチド内のまたは構成要素融合タンパク質部分との疎水性相互作用を制限するという指針を提供した。文献に記載される多くのペプチドリンカーでは、配列GGGGSの繰り返し等、グリシンとセリンが豊富であるが、当業者であれば、Argos(Argos, 1990, J Mol Biol. 20;211(4):943-58)の一般的な推奨に従う他の配列もまた使用することができることを認識する。例えば、本明細書に記載されるタンパク質のうちの1つは、グリシンおよびアラニンから構成されるリンカーペプチド(配列番号15)を含有する。完全に伸展したベータストランド立体構造を有する可撓性リンカーペプチドは、残基当たりの端から端までの長さが約3.5Åである。したがって、5、10、15、20、25または30残基のリンカーペプチドは、最大の完全に伸展した長さがそれぞれ17.5Å、35Å、52.5Å、70Å、87.5Åまたは105Åである。ペプチドリンカーの最大の端から端までの長さはまた、本発明におけるペプチドリンカーの性質を規定するための指針となり得る。
【0054】
当業者であればまた、非ペプチド性可撓性化学リンカーもまた上記の長さ、例えば17.5Å、35Å、52.5Å、70Å、87.5Åまたは105Åを有する、ポリペプチドリンカーの代替物となり得ることを認識する。本発明に含まれるリンカーペプチドの目標は、個々の融合タンパク質部分が適切な立体構造と向きを達成することを可能にし、IL-2選択的アゴニスト部分がその同族受容体と会合することを可能にし、融合タンパク質の再利用と循環半減期を伸ばすことを可能にするためにFcRnへのFc部分の結合を可能にすることである。多くのFc融合タンパク質はリンカーペプチドを必要とせず、これは10個の米国FDA承認Fc融合タンパク質のうち8個が表Iに列挙されるペプチド等を有しないことによって証拠づけられる。対照的に、GLP-1とFcの融合物であるデュラグルチドは、生物活性に強く影響する15残基ペプチドリンカーを含有する(Glaesner, 米国特許第7,452,966号)。IL-2-Fc融合タンパク質についての当技術分野の過去の仕事は、リンカーペプチドは生物活性に必要ないことを示す。Fc-Xの向きのwt IL-2または置換C125Sを有するIL-2を含有するIL-2融合タンパク質は、ペプチドリンカーを有しないで(Gillies, et al., 1992, Proc Natl Acad Sci, 89:1428-32;Gavin, et al., 米国特許出願公開第20140286898号)または有して(Bell, et al., 2015, J Autoimmun. 56:66-80)、遊離型IL-2サイトカインの生物活性と同様のIL-2生物活性を有することが報告されている。X-Fcの向きでは、X-Fc構成のIL-2融合タンパク質のIL-2生物活性がIL-2自身の生物活性と実質的に区別できなかったことを報告した(Zheng, X. X., et al., 1999, J Immunol. 1999, 163:4041-8)。この詳細な従来技術によって、IL-2タンパク質のFcとの融合では、高いIL-2生物活性を有するためにリンカーペプチドは必要とされないことが教示される。しかし、Gavin et al.は、変更された受容体選択性を有する特定のIL-2バリアントを含有するX-Fc構成のFc融合タンパク
質は、ペプチドリンカーがなくても、または5残基のペプチドリンカーを有していても、生物活性が低下するかまたは生物活性が全くないことを報告した(Gavin, et al.,米国特許出願公開第20140286898号)。この特許中で報告されたこの仕事は、少なくとも6および好ましくは少なくとも9アミノ酸のペプチドリンカーが、Tregに対する頑健なIL-2生物活性に必要であることを示し、生物活性の改善は15アミノ酸でプラトーに達し、リンカーの長さが30アミノ酸になるまで維持されることをさらに示す。
【0055】
バイオアッセイ
候補タンパク質の生物学的活性の特性決定には、頑健な定量的なバイオアッセイが必要である。これらのアッセイは、IL2受容体の活性化を測定し、Tregにおける活性化の下流の機能的な結果を測定し、さらに活性化したTregの治療上関連する成績と機能を測定すべきである。これらのアッセイは、IL2選択的アゴニスト分子の治療活性と能力を測定するために使用することができ、また動物またはヒトにおけるIL2選択的アゴニストの薬物動態の測定のために使用することもできる。一つのアッセイは、シグナル伝達タンパク質STAT5のリン酸化を測定し、リン酸化タンパク質(pSTAT5)に特異的な抗体を用いてフローサイトメトリーを測定した。STAT5のリン酸化は、IL-2シグナル伝達経路における必須のステップである。STAT5はTreg発生に必須であり、CD4+CD25+細胞において発現されたSTAT5の構成的活性化形態は、IL-2の不在下でのTreg細胞の産生に十分である(Mahmud, S. A., et al., 2013, JAKSTAT 2:e23154)。したがって、Treg細胞におけるリン酸化STAT5(pSTAT5)の測定は、これらの細胞におけるIL-2活性化を反映するものとして当業者には認識され、適切な暴露時間と条件があれば、IL-2処理の他の生物学的結果を予測する。機能的活性化の別のアッセイは、Treg細胞のIL-2刺激性増殖を測定する。当業者であれば、Treg増殖は、精製されたTreg細胞へのトリチウム標識チミジンの取り込みによって;フローサイトメトリーにより測定される細胞の混合集団中のTreg細胞数、およびCD4+CD25+FOXP3+またはCD4+CD25+CD127-マーカー表現型の頻度の増加によって;Ki-67等の増殖関連細胞周期タンパク質のTreg細胞における発現の増加によって;またはTreg細胞におけるフローサイトメトリーによる、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)等の生体染色色素の細胞分裂関連希釈の測定によって、測定できることを認識する。IL-2によるTregの機能的活性化の別のアッセイは、Tregの増大した安定性である。pTreg細胞は不安定であると一部で考えられており、Th1およびTh17エフェクターT細胞に分化する能力を有する。TregのIL-2活性化は、Tregを安定化させ、この分化を防止することができる(Chen, Q., et al., 2011, J Immunol. 186:6329-37)。TregのIL-2刺激の別の結果は、Tregの免疫抑制活性に寄与する、CTLA4、GITR、LAG3、TIGIT、IL-10、CD39およびCD73等のTreg機能的エフェクター分子のレベルの刺激である。
【0056】
IL2選択的アゴニストFcタンパク質を開発するために、本発明者らは当初、X-Fc構成のタンパク質に注目した。その理由は、Fc-X構成のIL-2融合タンパク質について短い循環半減期が報告されているからである。作製し試験した最初の2つのタンパク質(1つはリンカーペプチドを有し、1つはリンカーペプチドを有しない)は、予想外に、ペプチドリンカーを有するタンパク質はIL-2生物活性を有し、ペプチドリンカーを有しないタンパク質は検出可能な生物活性を全く有しなかったことを示した。両方のタンパク質はIL2RAに対して高い結合親和性を示し、両方のタンパク質が正しくフォールディングされたことを示した。これらの結果は、IL-2受容体の活性化と生物活性にリンカーペプチドが必要であったことを示唆した。他の変数を取り除き、この仮説を検証するために、一連の追加の類似体を次に作製した。これらの研究の結果により、この治療用タンパク質に関する鍵となる構造-活性関係の知見がもたらされ、望ましい活性と薬学的属性を有する新規分子が生まれた。
【0057】
以下の表は、好ましい種類のリストを提供する。
【0058】
製剤
本発明の融合タンパク質の医薬組成物は、従来方法に従う、非経口(特に静脈内または皮下)投与のために製剤化されるものとして規定される。一般的に、医薬製剤は、生理食塩水、緩衝食塩水、5%デキストロース水溶液等の薬学的に許容可能なビヒクルと組み合わせた、本発明の融合タンパク質を含む。製剤は、1つ以上の賦形剤、保存剤、可溶化剤、緩衝剤、バイアル表面でのタンパク質損失を防ぐためのアルブミン等をさらに含んでもよい。製剤方法は当技術分野において周知であり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Gennaro, ed., Mack Publishing Co., Easton, Pa., 19.sup.th ed., 1995に開示されている。
【0059】
一例として、医薬製剤は、本発明の融合タンパク質を含む容器を含むキットとして提供されてもよい。治療用タンパク質は、注射前に再構成される滅菌粉末として、または充填済注射器として、単回または複数回投与のための注射可能な溶液の形態で提供することができる。そのようなキットは、指示書に記載された情報および医薬組成物の用法をさらに含んでもよい。さらに、そのような情報は、本発明の融合タンパク質が本発明の融合タンパク質に対する公知の過敏性を有する患者に禁忌となる記載を含んでもよい。
【0060】
本発明のIL-2選択的アゴニスト融合タンパク質は、医薬組成物を含む組成物に組み入れることができる。そのような組成物は、通常、当該タンパク質及び薬学的に許容可能な担体を含む。本明細書において使用する場合、用語「薬学的に許容可能な担体」は、限定されないが、医薬投与と適合可能な、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を含む。補充的な活性化合物(例えば抗生物質)もまた組成物に組み入れることができる。
【0061】
医薬組成物は、その意図される投与経路と適合可能になるように製剤化される。本発明のIL-2選択的アゴニスト融合タンパク質は、非経口投与によって投与される可能性が高い。非経口の投与経路の例は、例えば、静脈内、皮内、および皮下を含む。非経口投与のために使用される溶液または懸濁液は、以下の成分を含むことができる:注射用水等の滅菌希釈剤、生理食塩水溶液、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒;ベンジルアルコールまたはメチルパラベン等の抗細菌剤;アスコルビン酸または硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤;酢酸、クエン酸、またはリン酸等の緩衝液、および塩化ナトリウムまたはデキストロース等の浸透圧調製用剤を含む。pHは、一塩基リン酸ナトリウムおよび/または二塩基リン酸ナトリウム、塩酸、または水酸化ナトリウム等の酸または塩基で調整することができる(例えば、約7.2~7.8、例えば7.5のpHへ)。非経口投与製剤は、アンプル、使い捨て注射器、またはガラス製若しくはプラスチック製多用量バイアルに封入することができる。
【0062】
注射可能な用途に適した医薬組成物は、滅菌注射可能溶液または分散液を即座に調製するための滅菌水溶液または分散液ならびに滅菌粉末を包む。静脈内投与では、好適な担体は生理食塩水、静菌水、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。すべての場合において、当該組成物は、無菌であるべきであり、容易に注射できる程度に流動的であるべきである。当該組成物は、製造および保存条件下で安定であるべきであり、細菌や真菌等の微生物の混入作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、およびその好適な混合物を含有する溶媒または分散媒であってもよい。分散液の場合の必要な粒子サイズの維持は、界面活性剤、例えばポリソルベートまたはツイーンの使用によって促進され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成することができる。多くの場合に、等張剤、例えば糖類、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましい。
【0063】
滅菌注射可能溶液は、上に列挙された成分の1つまたは組み合わせと共に、適切な溶媒中に必要な量の活性化合物を加えて、次にフィルター滅菌することによって調製することができる。一般的に、分散液は、基礎的分散媒と上記に列挙されたものから必要な他の成分とを含有する滅菌ビヒクル中に、活性化合物を組み入れることによって調製される。滅菌注射可能溶液の調製のための滅菌粉末の場合には、好ましい調製方法は、任意の付加的な所望の成分を加えた活性成分を事前にフィルター滅菌した溶液からその粉末を生じる、真空乾燥および凍結乾燥である。
【0064】
一実施形態では、IL-2選択的アゴニスト融合タンパク質は、埋め込み物およびマイクロカプセル化送達システムを含む、放出制御型製剤等の、身体からの迅速な除去からIL-2選択的アゴニスト融合タンパク質を守る担体を用いて調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸等、生分解性で生体適合性のポリマーを使用することができる。そのような製剤は標準的手法を使用して調製することができる。
【0065】
当該医薬組成物は、投与指示書と共に、容器、パックまたはディスペンサーの中に含めることができる。
【0066】
投与
本発明の融合タンパク質は、好ましくは非経口経路によって投与される。皮下経路は好ましい経路であるが、静脈内、筋内、および皮内投与もまた使用することができる。皮下または筋内経路、デポおよびデポ製剤を使用することができる。特定の疾患には、特別な投与経路を使用することができる。例えば、炎症性眼疾患には、眼球内注射を使用することができる。融合タンパク質は、0.01mcg/ml~100mcg/mlの範囲の濃度を使用してもよいが、全容量の約0.1~10mcg/mlの濃度で使用することができる。
【0067】
用量の決定は、当技術分野の通常の技術レベルの範囲内である。投与は治療期間に渡って毎日または毎週であり、別の断続的な頻度であってもよい。静脈内投与は、一般的な1時間~数時間の期間にわたる、ボーラス注射または注入によって行う。徐放製剤もまた採用することができる。一般的に、本発明の融合タンパク質の治療上有効量は、治療される病態の臨床上意味のある変化、例えば循環Treg細胞の臨床上意味のある変化、疾患組織内に存在するTreg細胞の臨床上意味のある変化、または疾患症状の臨床上意味のある変化を生じるのに十分な量である。
【0068】
細胞培養アッセイおよび動物実験から得られるデータは、ヒトにおける使用のための用量範囲を考案するのに使用することができる。そのような化合物の用量は、好ましくは、毒性がほとんどないかまたは全くない半数最大有効濃度(EC50;すなわち、Treg細胞の半数最大刺激を達成する試験化合物の濃度)を含む循環濃度の範囲内にある。用量は、採用される剤形と使用される投与経路に依存してこの範囲の中で変動してもよい。本発明の方法において使用される任意の化合物について、治療上有効な用量は、まず細胞培養アッセイから見積もることができる。用量は、細胞培養で決定されたEC50を含む循環血漿濃度範囲を達成するように動物モデルで決定してもよい。そのような情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。血漿中のレベルは、例えば、酵素結合免疫吸着剤分析により測定してもよい。
【0069】
本明細書で規定される、IL-2選択的アゴニスト融合タンパク質の治療上有効な量(すなわち、有効量)は、選択されるポリペプチドと投与頻度に依存する。例えば、患者体重の約0.001~0.1mg/kgの範囲の単回投与量を投与することができ;いくつかの実施形態では、約0.005、0.01、0.05mg/kgを投与してもよい。組成物は、1日当たり1回~1週当たり1回以上、または1月当たり1回以上で、1日おきに1回を含み、投与することができる。当業者であれば、限定されないが、疾患または障害の重症度、治療歴、全般的健康および/または対象者の年齢、患者の中に存在するTreg細胞のレベル、存在する他の疾患を含む、特定の因子が対象を有効に治療するのに必要な用量とタイミングに影響し得ることを理解する。さらに、治療上有効な量の本発明のIL-2選択的アゴニスト融合タンパク質を用いる対象の治療は、一連の治療になる可能性が高い。
【0070】
自己免疫疾患
本発明の治療法から利益を得ることができる疾患の一部は言及されている。しかし、自己免疫疾患におけるTreg細胞の役割は、非常に活発な研究分野であり、追加の疾患が本発明によって治療可能なものとして同定される可能性が高い。自己免疫疾患は、免疫系が自身のタンパク質、細胞および組織を攻撃するヒトの疾患として規定される。自己免疫疾患の網羅的列挙および概説は、The Autoimmune Diseases(Rose and Mackay, 2014, Academic Press)に見出すことができる。Treg増強から利益を受けることの証拠がある疾患は、移植片対宿主病、尋常性天疱瘡、全身性エリテマトーデス、強皮症、潰瘍性大腸炎、クローン病、乾癬、1型糖尿病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、円形脱毛症、ブドウ膜炎、視神経脊髄炎およびデュシェンヌ型筋ジストロフィーを含む。
【0071】
他の融合タンパク質
本発明におけるFcタンパク質部分の目的は循環半減期を増加させることのみであるため、当業者であれば、分子サイズを増加させ腎クリアランスの速度を減少させる同一の目標を達成するために、本発明で見出された構造-活性関係を使用して、IL-2選択的アゴニスト部分を他のタンパク質のN末端に融合することができることを認識する。IL2選択的アゴニストは血清アルブミンのN末端に融合することができ(Sleep, D., et al., 2013, Biochim Biophys Acta.1830:5526-34)、ここで血清アルブミンはIL-2部分に比べて融合タンパク質の流体力学半径を増加させ、且つFcRNによって再利用される。当業者であればまた、本発明のIL2選択的アゴニスト部分はまた組換え非免疫原性アミノ酸ポリマーのN末端に融合することができることを認識するだろう。この目的のために開発された非免疫原性アミノ酸ポリマーの2つの例は、A、E、G、P、SおよびTアミノ酸の鎖であるXTENポリマー(Schellenberger, V., et al., 2009, Nat Biotechnol. 27:1186-90)、およびP、AおよびSアミノ酸残基の鎖であるPASポリマー(Schlapschy, M., et al., 2007, Protein Eng Des Sel. 20:273-84)である。
【0072】
本明細書に引用されるすべての刊行物と特許出願は、各々の刊行物または特許出願が具体的且つ個別に参照によって組み入れられることを示されたの同様に、参照によって本明細書に組み入れられる。
【0073】
前述の発明は理解を明確にする目的で説明と例示によってある程度詳細に記載されているが、添付される特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく、本発明に対して一定の変更や改変をなし得ることは、当業者であれば本発明の教示に基づいて容易に明らかになる。
【実施例0074】
以下の実施例は、説明のために提供されるものであり、限定のため提供されるものではない。当業者であれば、実質的に同様の結果を生むように変更し改変することができる必須でない様々なパラメーターを容易に認識する。
【0075】
〔実施例1:IL-2選択的アゴニスト-IgG Fc融合タンパク質のクローニング、発現および精製〕
N88RL9AG1(配列番号4)をコードするcDNAをDNA合成とPCR構築によって構築した。N88RL9AG1構築物は、マウスIgG1シグナル配列、置換N88RおよびC125Sを有する成熟ヒトIL-2(配列番号1)配列、9アミノ酸リンカーペプチド配列(配列番号15)、ならびに置換N297Aを含有するヒトIgG1のFc領域(配列番号2)から構成された。N88R/IL2は、IL2RBへの結合が低減していて、IL2Rαβγ受容体発現細胞に対する選択的アゴニスト活性を有するIL2選択的アゴニストである(Shanafelt, A. B., et al., 2000, Nat Biotechnol.18:1197-202)。IgG1 Fc上のN297におけるN結合型糖鎖付加部位の除去によって、Fcエフェクター機能は減少する(Tao, M. H., et al., 1989, J Immunol. 143:2595-2601)。D20HL0G2は、マウスIgG1シグナル配列、置換D20HおよびC125Sを有するIL-2(配列番号1)、ならびにヒトIgG2(配列番号3)に由来するFcタンパク質部分から構成された。D20H IL-2バリアントは、N88Rと同様の選択的アゴニスト活性を有することが報告されている(Cassell, D. J., et al., 2002, Curr Pharm Des., 8:2171-83)。
【0076】
これらのcDNAは、制限部位HindIIIおよびNotIを用いて、pcDNA3.1(+)(Life Technologies, Carlsbad, CA)の中にクローニングされた。該構築物を含有する精製された発現ベクタープラスミドは、HEK293細胞中に一過的に導入された。HEK293細胞は導入の24時間前に振盪フラスコ中に播種し、無血清合成培地を使用して増殖させた。DNA発現構築物は、0.1リットルのHEK293細胞浮遊液中に一過的に導入された。24時間後、細胞は生存率と生存細胞計測数を得るようにカウントされた。培養物は5日目に回収し、馴化培地上清を3000 X gで15分の遠心分離によって清澄化した。この上清をプロテインAカラム(GE Healthcare)に流し、0.25%酢酸(pH3.5)で溶出し、溶出したタンパク質を1Mトリス(pH8.0)で中和し、30mM HEPES, pH7、150mM NaClに対して透析することによって、該タンパク質を精製した。試料は次に0.2μm濾過膜を通してフィルター滅菌し、還元および非還元条件下でSDS PAGEによって分析した。該タンパク質はジスルフィド結合した二量体として移動した。タンパク質濃度は、1.11mg/ml cm-1の計算された吸光係数を使用して吸光度によって決定し、アリコートを-80℃で保存した。
【0077】
サイトカインN88R/IL2およびD20H/IL2は配列番号1のバリアントであり、安定性を改善するための追加の変異C125Sを追加した以外は、実質的に米国特許6,955,807B1に記載されるように大腸菌の中で生成された。
【0078】
〔実施例2:N88RL9AG1およびD20HL0G2の受容体結合活性の決定〕
N88RL9AG1およびD20HL0G2が正しくフォールディングしたかどうかを決定するために、IL-2受容体サブユニットIL2RAおよびIL2RBへのその親和性をBiacore T-200装置(GE Healthcare)を使用して表面プラスモン共鳴(SPR)によって決定した。IL2RAおよびIL2RB細胞外ドメインタンパク質およびIL-2タンパク質(R&D Systems, Minneapolis, MN)を、それぞれ30および484の最終RU(共鳴単位)値まで、NHS/EDCカップリングによってCM-5 Biacoreチップ上に固定した。IL2RAへの結合キネティクスは、50μl/分の流速で、0.6nM~45nMの範囲の5種類の濃度のIL2およびN88RL9AG1で測定された。IL2RBへの結合キネティクスは、IL2については16.7nM~450nMの、Fc融合タンパク質については14nM~372nMの範囲の5種類の濃度で、10μl/分の流速で測定された。解離定数(Kd)は、IL-2については1:1フィット、N88RL9AG1およびD20HL0G2については2価フィットを仮定して、Biacore評価ソフトウェア、バージョン2.0を使用して、該速度定数から計算された。平衡Kd値は定常状態結合値を使用してBiacore評価ソフトウェアによって計算された。
【0079】
IL2RAへの結合は、IL-2およびN88RL9AG1の両方について検出された。N88RL9AG1についてのRmax値14.43は、IL-2のRmax値2.62よりも5.5倍高く、N88RL9AG1(82,916g/M)がIL-2(15,444g/M)よりも大きな分子量を有するという事実と一致していた。IL-2のKon、KoffおよびKd値は、公開されているSPR値(表II)から予想される範囲内であった。N88RL9AG1の親和性は、キネティック法および平衡法の両方で決定した場合にIL2の親和性よりも約2倍高かった。IL2RBへのIL2の結合は、6.19のRmaxで検出された。Kon、KoffおよびKdについて決定された値は、文献に報告されている範囲内だった。報告されている値は、3.1 X 10-8M(IL2RA)および5.0 X 10-7 M(IL2RB)(Myszka, D. G., et al., 1996, Protein Sci. 5:2468-78);5.4 X 10-8M(IL2RA)および4.5 X 10-7(IL2RB)(Shanafelt, A. B., et al., 2000, Nat Biotechnol.18:1197-202);ならびに6.6 X 10-9M(IL2RA)および2.8 X 10-7M(IL2RB)(Ring, A. M., et al., 2012, Nat Immunol. 13:1187-95)である。IL2RBへのN88RL9AG1の結合は基本的に検出されず、試験された最も高い濃度でわずかな結合が検出された(Rmax=0.06)が、それはIL2とN88RL9AG1との分子量の差に基づいておよびIL2RA結合結果に基づいて予想されるものよりもはるかに低かった。D20HL0G2タンパク質はまたIL2RAへの結合についても試験され、N88RL9AG1のKdと同様の、8.3 X 10-9MのKdを有することが見出された。したがって、SPR結合実験によって、N88RL9AG1およびD20HL0G2の両方のタンパク質がIL2RAに結合することが示されたが、そのことは該タンパク質が正しくフォールディングしていることを示す。
【0080】
〔実施例3:T細胞に対するN88RL9AG1およびD20HL0G2の生物活性〕
T細胞に対するN88RL9AG1およびD20HL0G2の生物活性を、特定のT細胞サブセットにおけるリン酸化STAT5(pSTAT5)レベルを測定することによって決定した。pSTAT5のレベルは、リン酸化STAT5ペプチドに対する抗体を使用し、固定し透過処理した細胞においてフローサイトメトリーによって測定した。Treg細胞は恒常的にCD25を発現し、CD25発現レベルの上位1%の細胞はTreg細胞について高度に濃縮されている(Jailwala, P., et al., 2009, PLoS One. 2009; 4:e6527;Long, S. A., et al., 2010, Diabetes 59:407-15)。したがって、フローサイトメトリーのデータは、TregおよびCD4エフェクターT細胞サブセットについて、それぞれCD25high(CD25発現細胞の上位1~2%)およびCD25-/low群にゲートされた。
【0081】
凍結保存されたCD4+ T細胞(Astarte Biologics, Seattle, WA)を解凍し、1%ヒトAB血清(Mediatech, Manassa, VA)を含有するX-VIVO 15(Lonza, Allendale, NJ)培地で洗浄し、37℃で2時間かけてリカバリーした。細胞を次に5 x 106細胞/mlの濃度で15x75mmチューブに0.1mlで分注した。細胞を37℃で10分間異なる濃度のIL-2またはFc融合タンパク質で処理した。細胞を次にCytofix Fixation Bufferで37℃で10分間固定し、氷上で30分間Perm Buffer III(BD Biosciences, Santa Clara, CA)で透過処理し、次いで洗浄した。細胞を次に30分間、20℃で、製造者によって推奨される濃度で抗CD4-Pacific Blue(BD Biosciences, Santa Clara, CA)、抗CD25-AF488(eBioscience, San Diego, CA)、および抗pSTAT5-AF547(BD Biosciences)抗体の混合物により染色し、洗浄し、フローサイトメトリーデータをLSRII装置(BD Biosciences)で取得した。データはFlowjo解析ソフトウェア(Flowjo, Ashland, OR)を使用して解析した。
【0082】
このアッセイにおけるN88RL9AG1の結果は、IL-2に比べてN88RL9AG1はTreg集団に対して顕著な選択性を有していたことを示した(図3A)。N88RL9AG1はCD4+細胞の1%未満を活性化し、CD25high細胞に非常に強い選択性を有していた。対照的に、IL-2は、40nMの濃度で、CD25を発現しないかまたは低いレベルで発現する高い割合のpSTAT5+細胞を活性化すると共に、80%を超えるCD4+ T細胞を活性化した。試験した最も低い濃度の4pMにおいてさえ、IL-2は依然としてCD25-/low細胞およびCD25high細胞の両方において著しいpSTAT5レベルを刺激した。
【0083】
次にCD4+ T細胞pSTAT5アッセイにおける活性についてD20HL0G2を試験した。予想外にD20HL0G2はこのアッセイで活性を全く示さなかった(図3B)。10-8M D20H/IL2サイトカイン(Fcに融合していないバリアントIL-2サイトカイン)を用いた追加の対照は、CD25high細胞の頑健で選択的なpSTAT5活性化を示した(図3C)。IL-2およびN88RL9AG1のKdと同様なKdでD20HL0G2がIL2RAに結合し、D20HL0G2が正しくフォールディングしたことを示したことからすると、D20HL0G2の活性がないことは特に驚くべきことであった。
【0084】
N88RL9AG1によって選択的に活性化されるCD25high細胞はTregであったことを確認するために、活性化した細胞をTreg細胞の別の分子マーカーであるFOXP3およびpSTAT5の両方で共染色した。CD4+細胞を4nM IL-2またはN88RL9AG1で処理し、固定し、pSTAT5染色について上述した通り透過処理し、その後続いて室温で30分間1ml FOXP3 Perm Buffer(BioLegend, San Diego, CA)で処理し、次に洗浄し、FOXP3 Perm Buffer中に再懸濁した。透過処理した細胞を抗FOXP3-eFluor450、抗CD25-AF488(eBioscience, San Diego, CA)、および抗pSTAT5-AF547(BD Biosciences)抗体の混合物で20℃にて30分間染色し、洗浄し、フローサイトメトリーにより解析した。この実験の結果は、活性化STAT5を有するN88RL9AG1処理細胞(pSTAT5+細胞)のうち高い割合のものが高レベルのFOXP3も発現していたことを示した。この結果は、活性化細胞ではTreg細胞が高度に濃縮しているという更なる証拠を提供する。対照的に、IL-2処理pSTAT5+細胞にはFOXP+およびFOXP3-の両方があり、大部分がFOXP3-細胞だった。
【0085】
〔実施例4:生物活性に重要な構造-活性関係の決定〕
実施例3に記載された予想外の結果は、N88RL9AG1で検出され、D20HL0G2で検出されないIL2生物活性が、リンカーペプチドの存在によるものであったことを示唆した。この知見を検証し、他の変数、例えばFc部分のアイソタイプやIL-2部分における選択性変異等の寄与を取り除くために、一群の類似体(すべてIgG1 N297A Fcを使用するもの)を設計し生成した(表III)。
【0086】
FcのC末端リジン残基をすべての構築物で欠失し、生成細胞培養物が100mlの代わりに30mlの体積であったこと以外、実施例1に記載されるようにして、cDNAを構築し、タンパク質を発現し精製した。すべてのタンパク質は良好な収量で回収された。実際、N88R/IL2シリーズの分子の収量を比較すると、ペプチドリンカーの長さを増加させるとタンパク質収量が増加する明確な傾向が示され、N88RL20AG1(最も長いペプチドリンカーを有する)の収量はN88RL0AG1(ペプチドリンカーを有しない)よりも6.8倍高かった(図5A)。リンカーペプチドを含有するタンパク質の収量が増加する理由は未だ不明であるが、発現レベルが増加したこと、分泌率が増加したこと、タンパク質安定性が増加したこと、または精製効率が増加したことによる可能性がある。興味深いことに、N88RL0AG1に比べてN88RL15AG1の収量が4.5倍高いことに比較して、WTL15AG1の収量は、WTL0AG1の収量よりもわずかに高い(1.8倍)だけだった。D20HL15AG1収量はN88RL15AG1収量と同様であり、IL-2選択性変異は収量に著しい影響を有しないことを示し、これらのタンパク質の両方がAG1L15D20Hよりも著しく高い収量(それぞれ4.3倍および3.4倍)を有した(図5B)。これらの結果を合わせると、ペプチドリンカーの長さの増加は、N88R/IL2を含有するFc融合タンパク質のタンパク質のより高い収量と関連すること、wt IL-2を含有するFc融合タンパク質の収量はリンカーペプチドの存在から影響をはるかにより受けにくかったこと、X-Fc構成のIL-2-Fc融合タンパク質が生成されることが示された。
【0087】
ヒトCD3+ T細胞(ネガティブ選択された)をCD4+細胞の代わりに使用したこと、該細胞を10分間ではなく20分間試験タンパク質と共にインキュベートしたこと以外、本質的には実施例3に記載される通りに、これらの精製タンパク質はヒトT細胞 pSTAT5バイオアッセイにおいて試験された。
【0088】
N88R/IL2シリーズの分子の結果は、Tregが濃縮された集団における生物活性がペプチドリンカーの長さによって強く影響されたことを示した(図6A)。Treg集団におけるpSTAT5シグナル(%pSTAT5+細胞)は、ペプチドリンカーの長さを増加させると次第に増加した。この増加した生物活性は、10-8Mの試験タンパク質での最大pSTAT5シグナルとEC50値の両方に反映された(表IV)。最も長いペプチドリンカーを有するタンパク質であるN88RL20AG1は、N88RL0AG1に対して最大pSTAT5シグナルが4.2倍増加することを示した。N88RL0AG1 pSTAT5シグナルは、その最も高い濃度(10-8M)で50%のIL-2活性化に到達しなかったため、N88RL0AG1に対する、リンカーペプチドを含有するタンパク質のEC50の改善倍率を決定することは不可能だった。しかし、N88RL20AG1 EC50および試験した最も高い濃度のN88RL0AG1に基づいて、N88RL20AG1は、N88RL0AG1よりも100倍超低いEC50を示すと見積もることができる。
【0089】
予想された通り、いずれのN88R/IL2分子についても、CD25-/low集団に対する検出可能な活性が基本的に存在しなかったが、一方で10-8M IL-2はCD25-/low細胞の54.2%においてpSTAT5活性を刺激した(図6B)。
【0090】
WTL0AG1とWTL15AG1との比較によって、リンカーペプチドは、N88R/IL2-Fc融合タンパク質と比較してwt IL-2-Fc融合タンパク質に対してそれほど顕著な効果を示さないことが示された(図7)。Tregサブ集団では、WTL0AG1とWTL15AG1の両方が、著しい生物活性を有し、実際にIL-2よりも約2倍高い最大レベルのpSTAT5リン酸化を刺激した。しかし、WTL0AG1とWTL15AG1はまた、約10倍高い濃度でCD25-/low細胞において高いpSTAT5シグナルを刺激した。WTL15AG1とWTL0AG1は、TregとCD25-/low細胞集団の両方において、EC50値に約10倍の相違を示した。
【0091】
TregにおけるD20HL15AG1の最大pSTAT5シグナルは、N88RL15AG1のものよりも有意に低かった(図8)。これは、実施例3においてD20HL0G2に検出可能な活性が全くなかったことは、部分的には、N88R/IL2部分と比較してFc融合タンパク質の関連ではD20H/IL2部分の活性がより低いことによるものであったことを示唆している。AG1L15D20Hの活性は、D20HL15AG1の活性よりもわずかに高く、Fc融合タンパク質におけるIL-2部分の構成(すなわちX-Fc対Fc-X)がTreg生物活性に対して大きな効果を有しなかったことを示した。
【0092】
まとめると、これらの結果は、最適な生物活性に必要なN88R/IL2-Fc融合タンパク質の鍵となる特徴を規定する。N88R/IL2-Fcタンパク質は、最適なTreg生物活性のためにリンカーペプチドを必要とし、リンカーペプチドの長さが増加すると生物活性が増加する傾向を有する。第2に、他の仕事と一貫して、リンカーペプチドは、wt IL-2を含有するFc融合タンパク質の生物活性に対してより控えめな効果を有する。リンカーペプチドの必要性のこうした違いは、N88R/IL2はIL2RBへの結合が欠損している(これによって恐らく受容体との会合のためにより厳しい必要条件が生じ、Fc融合タンパク質パートナーからの立体障害への感受性が増加し得る)という事実の結果であるかもしれない。これらの結果はまた、最も強力なIL2選択的アゴニスト-Fc融合タンパク質を規定する。
【0093】
〔実施例5:ヒトPBMCにおけるIL2選択的アゴニスト-Fc融合タンパク質の選択性〕
より幅広い生物学的文脈においてN88R/IL2-Fc融合タンパク質の選択性を決定するために、粗非分画ヒトPBMC中のすべての鍵となる免疫細胞種についてSTAT5活性化を測定するアッセイが開発された。ヒトPBMCは、正常なボランティアからフィコールハイパーク遠心によって単離された。106個のPBMCをグルコース(Lonza)および10%FBS(Omega)を有するX-VIVO15培地に懸濁し、37℃で20分間10-8Mの試験タンパク質で処理した。次に製造者の指示書に従ってFoxp3/Transcription Factor Staining Buffer Set(EBIO)で細胞を処理した。次に、実施例3に記載されるようにCytofix緩衝液で細胞を固定し、Perm Buffer IIIで透過処理した。固定し透過処理した細胞を次に1%FBS/PBSで洗浄し、暗所にて室温で60分間抗体混合物で染色した。染色された細胞を次に1%FBS/PBSで洗浄し、PBSに再懸濁し、Fortessaフローサイトメーター(BD Biosciences)で解析した。抗体混合物は、抗CD4-PerCP-Cy5.5(BD、#560650)、抗pSTAT5-AF-488(BD、#612598)、抗CD25-PE(BD、#560989)、抗CD56-PE-CF594(BD、#562328)、抗FOXP3-AF647(BD、#560889)、抗CD3-V450(BD、560366)、および 抗CD8-BV650(Biolegend、#301041)からなるものだった。この染色方法によって、7種類の鍵となる免疫細胞種におけるpSTAT5レベルの監視が可能になった。
【0094】
細胞表現型は以下のように規定された:Treg細胞:CD3+、CD4+、Foxp3+、CD25high、CD8-、CD56-;活性化CD4 Teff細胞:CD3+、CD4+、Foxp3-、CD25high、CD8-、CD56-;CD4 Teff細胞:CD3+、CD4+、Foxp3-、CD25low、CD8-、CD56-;NKT細胞:CD3+、CD4-、Foxp3-、CD25low、CD8-、CD56+;NK細胞:CD3-、CD4-、Foxp3-、CD25low、CD8-、CD56+;B細胞:CD3-、CD4-、Foxp3-、CD25low、CD8-、CD56-。
【0095】
タンパク質は10-8Mの濃度でこのアッセイにおいて試験された。結果は図9に示され表Vに要約されており、N88RL15AG1が、wt IL2およびWTL15AG1と比較して顕著な選択性を示したことを示し、wt IL2およびWTL15AG1の両方がすべての細胞集団のうちの大部分でpSTAT5を活性化した。N88RL15AG1はwt IL-2のレベルに近い程度でTreg集団においてpSTAT5シグナルを刺激し、他の細胞種についてはNK細胞を例外として顕著な活性化を示さなかった。さらなる解析(示さない)により、pSTAT5+ NK細胞はCD25highであったことが示され、このことはまた免疫調節活性をも有するNK細胞サブ集団であるNK-CD56bright細胞に特徴的である(Poli, A, et al., 2009 Immunology. 126(4):458-65)。N88R/IL2では低レベルのpSTAT5シグナルを有したいくつかの細胞種(活性化CD4 Teff細胞、CD4 Teff細胞、NK T細胞、およびNK細胞)は、N88RL15AG1については、全くないまたはより低いpSTAT5シグナルを示した。これらの結果は、複雑な生物学的環境におけるTregに対するN88RL15AG1の活性と高い選択性を示す。
【0096】
〔実施例6:生物活性に重要なさらなる構造-機能関係の探索〕
実施例5に提示された結果は、N88R/IL-2-Fc融合タンパク質の頑健な生物活性のための、長さが6~20アミノ酸のリンカーペプチドの強い必要性を示し、リンカーペプチドの長さが増加するほど生物活性が増加した。さらにより長いリンカーペプチドが生物活性の増加を促進するかどうかを決定するために、ペプチドリンカーの長さが25および30アミノ酸の追加のタンパク質構築物を実施例1に記載されるように調製し、N88RL15AG1およびN88RL20AG1の独立な調製と併せて実施例3に記載されるようにT細胞pSTAT5生物活性アッセイにおいて試験した。この実験の結果は、ペプチドリンカーを25(N88RL25AG1)または30(N88RL30AG1)アミノ酸に増加させても、20アミノ酸リンカーを有するタンパク質よりも、CD25hi細胞に対してより大きな生物活性がもたらされなかったことを示した(表VII)。これらの結果は、実施例4に提示される結果と共に、IL-2生物活性を促進するペプチドリンカーの能力は15~20アミノ酸の長さでプラトーに達すること、およびより長いリンカーペプチドは生物活性のさらなる増加を促進しないことを示す。
【0097】
循環半減期を増加させることができ、Fcエフェクター機能を欠損している、代わりとなるFc融合パートナーを評価した。変異E233P/L234A/L235A/G236delを有するIgG1 Fc(配列番号22)、IgG2 Fc(配列番号23)、およびFc二量体を安定化するヒンジ変異S228Pを有するIgG4 Fc(配列番号24)を同様に調製し試験した。さらに、IL2/N88RがヒトアルブミンのN末端(N88RL15HSA、配列番号25)またはC末端(HSAL15N88R、配列番号26)のいずれか一方に融合された融合タンパク質を調製し試験した。すべてのタンパク質がCD25hi細胞に対して生物活性を有していたが、これらの融合タンパク質のうちで、N88RL15AG1について観察された生物活性よりも大きな生物活性を示すものはなかった(表VIII)。
【0098】
異なるIL-2選択性変異の効果を、IgG1 N297A Fc融合物の骨格で評価した(表IX)。選択性変異N88GおよびQ126Fを有するタンパク質は、試験した最も高い濃度である10-8MでN88RよりもCD25hi細胞に対する生物活性が低かったが、一方でCD25-/low細胞には生物活性を示さなかった(データを示さない)。置換N88Iを有するタンパク質はいずれの細胞種に対しても活性を示さなかった。これは、このバリアントについての選択的アゴニスト活性の元の報告は誤っていたことを示すのかもしれず、あるいはFc融合タンパク質の文脈では、活性を有しないことを示すのかもしれない。置換Q126Lを有するタンパク質は、試験された最も高い濃度でのCD25hi細胞に対するより大きなpSTAT5反応に反映されるように、N88Rよりも大きな生物活性を有したが、これはCD25-/low発現細胞の10-8Mでの活性化が控えめに増加することを伴っていた(データを示さない)。これらの結果は、Q126L/IL2がより強力な選択的アゴニストであり、CD25hiおよびCD25-/low細胞の両方に対するより高い生物活性を有するものであることを示唆する。
【0099】
最後に、IL2/N88R部分のスレオニン3におけるO結合型糖鎖付加部位を取り除くことによる影響を、バリアントN88RT3AL15AG1を調製することによって評価した。IL-2におけるO結合型糖鎖付加部位は、生物活性に必要でなく(Robb, R. J., et al., 1984, Proc Natl Acad Sci U S A. 81:6486-90)、この糖鎖付加部位の除去は完全に糖鎖付加のないタンパク質をもたらすはずであり、完全に糖鎖付加のないタンパク質は、製品不均一性に寄与する翻訳後修飾がより少ないものとなろう。バリアントN88RT3AL15AG1は調製されて試験され、N88RL15AG1の生物活性と同様のCD25hi細胞に対する生物活性を有することが示された(表IX)。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
【表7】
【0107】
【表8】
【0108】
【表9】
【0109】
配列リスト
配列番号1
> ヒトIL-2(N88R)
【0110】
配列番号2
> ヒトIgG1(N297A) Fc
【0111】
配列番号3
> ヒトIgG2 Fc
【0112】
配列番号4
> N88RL9AG1
【0113】
配列番号5
> D20HL0G2
【0114】
配列番号6
> N88RL0AG1
【0115】
配列番号7
> N88RL5AG1
【0116】
配列番号8
> N88RL10AG1
【0117】
配列番号9
> N88RL15AG1
【0118】
配列番号10
> N88RL20AG1
【0119】
配列番号11
> WTL0AG1
【0120】
配列番号12
> WTL15AG1
【0121】
配列番号13
> D20HL15AG1
【0122】
配列番号14
> AG1L15D20H
【0123】
配列番号15
> L9
【0124】
配列番号16
> L5
【0125】
配列番号17
> L10
【0126】
配列番号18
> L15
【0127】
配列番号19
> L20
【0128】
配列番号20
> N88RL25AG1
【0129】
配列番号21
> N88RL30AG1
【0130】
配列番号22
> N88RL3G1ED(E233P/L234A/L235A/G236del)
【0131】
配列番号23
> N88RL3G2
【0132】
配列番号24
> N88RL3G4(S228P)
【0133】
配列番号25
> N88RL15HSA
【0134】
配列番号26
> HSAL15N88R
【0135】
配列番号27
> N88IL15AG1
【0136】
配列番号28
> N88GL15AG1
【0137】
配列番号29
> Q126FL15AG1
【0138】
配列番号30
> Q126LL15AG1
【0139】
配列番号31
> N88RT3AL15AG1
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9-1】
図9-2】
【配列表】
2022058337000001.app
【手続補正書】
【提出日】2021-12-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトIL-2バリアントタンパク質ドメイン、ペプチドリンカードメイン、およびIgG Fcドメインを含む融合タンパク質であって、各ドメインはアミノ末端(N末端)およびカルボキシ末端(C末端)を有し;該融合タンパク質は、ヒトIL-2バリアントタンパク質ドメインのC末端がペプチド結合によりペプチドリンカードメインのN末端と融合し、IgG FcドメインのN末端がペプチド結合によりペプチドリンカードメインのC末端と融合するように構成される、前記融合タンパク質。
【請求項2】
ヒトIL-2バリアントタンパク質ドメイン、N88R、N88G、D20H、Q126LおよびQ126Fからなる群より選択される置換を有するヒトIL-2を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
ヒトIL-2バリアントタンパク質ドメインが置換N88Rを含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
ヒトIL-2バリアントタンパク質ドメインが置換C125Sを含む、請求項1または3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
ヒトIL-2バリアントタンパク質ドメインが配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
ペプチドリンカードメインが6~35アミノ酸である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
ペプチドリンカードメインがグリシンおよびセリン残基を含み、10~30アミノ酸である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
ペプチドリンカードメインが、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、または配列番号19を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
IgG Fcドメインが、IgG Fcドメインのエフェクター機能を低減する1つ以上のアミノ酸置換を含有する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の融合タンパク質および薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物。
【請求項11】
ヒト制御性T細胞を選択的に活性化するための医薬組成物であって、請求項1~9のいずれか1項に記載の融合タンパク質を含む、医薬組成物
【請求項12】
ヒト血液細胞を0.01nM~1nMの濃度の請求項1~9のいずれか1項に記載の融合タンパク質と接触させ、次にフローサイトメトリーによって該タンパク質に結合する細胞を検出することによって、ヒト血液試料中のTreg細胞の数を測定する方法。
【請求項13】
2つの同一の鎖を含む2量体タンパク質であって、ここで各鎖は請求項1~9のいずれか1項に記載の融合タンパク質を含む、前記2量体タンパク質。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項15】
それを必要とする対象において自己免疫疾患を治療するための医薬組成物であって、請求項1~9のいずれか1項に記載の融合タンパク質を含む、医薬組成物。
【請求項16】
前記自己免疫疾患が、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、移植片対宿主病、自己免疫性血管炎、尋常性天疱瘡、強皮症、潰瘍性大腸炎、クローン病、乾癬、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、円形脱毛症、ブドウ膜炎、視神経脊髄炎およびデュシェンヌ型筋ジストロフィーからなる群から選択される、請求項15に記載の医薬組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0073
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0073】
前述の発明は理解を明確にする目的で説明と例示によってある程度詳細に記載されているが、添付される特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく、本発明に対して一定の変更や改変をなし得ることは、当業者であれば本発明の教示に基づいて容易に明らかになる。
本発明は以下の態様も提供する。
[1] ヒトIL-2バリアントタンパク質ドメイン、6~35アミノ酸のペプチドリンカーセグメントドメイン、およびIgG Fcドメインを含む融合タンパク質であって、各ドメインはアミノ末端(N末端)およびカルボキシ末端(C末端)を有し;該融合タンパク質は、ヒトIL-2バリアントタンパク質ドメインのC末端がペプチド結合によりペプチドリンカーのN末端と融合し、IgG Fcタンパク質部分のN末端がペプチド結合によりペプチドリンカーのC末端と融合するように構成され;
ここで前記IL-2融合タンパク質は高親和性IL-2受容体を選択的に活性化し、それによってヒト制御性T細胞を選択的に活性化する能力を有する、前記融合タンパク質。
[2] IL-2バリアントタンパク質が、ヒトIL2タンパク質(配列番号1)に対してN88R、N88G、D20H、Q126LおよびQ126Fからなる群より選択される置換を有するヒトIL-2を含む、[1]に記載の融合タンパク質。
[3] IL-2バリアントタンパク質が置換C125Sを有するヒトIL-2を含む、[1]に記載の融合タンパク質。
[4] 両方のIL-2バリアントタンパク質が配列番号1に提供されるN88Rである、[1]に記載の融合タンパク質。
[5] リンカーがグリシンおよびセリン残基を含み、リンカーが10~30アミノ酸である、[1]に記載の融合タンパク質。
[6] IgG Fcタンパク質が、該融合タンパク質のFc部分のエフェクター機能を低減する1つ以上のアミノ酸置換を含有する、[1]に記載の融合タンパク質。
[7] a. ヒトIL-2(配列番号1)に対してアミノ酸置換N88RおよびC125Sを有するIL-2バリアントタンパク質、
b. 配列番号15に記載のリンカーペプチド、ならびに
c. 配列番号2に記載のヒトIgG1 Fcバリアントタンパク質
を含む融合タンパク質であって、高親和性IL-2受容体を選択的に活性化し、それによってヒト制御性T細胞を選択的に活性化する能力を有する、前記融合タンパク質。
[8] a. ヒトIL-2(配列番号1)に対してアミノ酸置換N88RおよびC125Sを有するIL-2バリアントタンパク質、
b. 配列番号15に記載のリンカーペプチド、ならびに
c. 配列番号3に記載のヒトIgG2 Fcタンパク質
を含む、融合タンパク質。
[9] [1]の融合タンパク質および薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物。
[10] ヒト制御性T細胞を選択的に活性化する方法であって、該方法は、ヒトIL-2(配列番号1)に対してアミノ酸置換N88RおよびC125Sを有するIL-2バリアントタンパク質、配列番号15に記載のリンカーペプチド、ならびに配列番号2に記載のヒトIgG1 Fcタンパク質を含む医薬組成物を投与することを含み、ここで前記医薬組成物は、ヒト制御性T細胞の濃度が所望のレベルに到達するまで治療上有効量で投与される、前記方法。
[11] ヒト制御性T細胞を選択的に活性化する方法であって、該方法は、[2]のIL-2バリアントタンパク質、ならびに
a. 配列番号2に記載のヒトIgG1 Fcタンパク質、
b. 配列番号3に記載のヒトIgG2 Fcタンパク質、および
c. 配列番号24に記載のヒトIgG4 Fcタンパク質ドメイン
からなる群より選択されるヒトIgG Fcタンパク質
を含む医薬組成物を投与することを含み、ここで前記医薬組成物は、ヒト制御性T細胞の濃度が所望のレベルに到達するまで治療上有効量で投与される、前記方法。
[12] ヒト血液細胞を0.01nM~1nMの濃度の[1]記載の融合タンパク質と接触させ、次にフローサイトメトリーによって該タンパク質に結合する細胞を検出することによって、ヒト血液試料中のTreg細胞の数を測定する方法。
[13] 2つの同一の鎖を含む2量体タンパク質であって、ここで各鎖はN末端ヒトIL-2バリアントタンパク質部分およびC末端IgG Fcタンパク質部分を含み、ここで
N末端ヒトIL-2バリアントタンパク質部分は、
a. N末端およびC末端を有し;
b. N88R、N88G、D20H、Q126LおよびQ126Fからなる群より選択される少なくとも1つの置換によって配列番号1のヒトIL-2野生型と相違し;
c. 配列番号1に対して少なくとも97%の配列同一性を有し;ならびに
d. Treg細胞上のIL2Rαβγに結合することによってTreg細胞を活性化する能力を有し;
N末端ヒトIL-2バリアントタンパク質はそのC末端で6~30アミノ酸残基のアミノ酸リンカーのN末端と連結し、ここで該リンカーはまたC末端を有し;ならびに
該アミノ酸リンカーのC末端は、配列番号2に対して95%の配列同一性を有しシステイン残基を含む、IgG Fcタンパク質部分のN末端に連結し;ここで2つの鎖はIgG Fcタンパク質部分のシステイン残基を通して互いに連結されている、前記2量体タンパク質。
[14] IL-2バリアントタンパク質が置換C125Sを有するヒトIL-2をさらに含む、[13]に記載の2量体タンパク質。
[15] アミノ酸リンカーが、グリシン残基、セリン残基、ならびにグリシンおよびセリン残基の混合物の群から選択されるリンカーからなる、[13]に記載のタンパク質。
[16] IL-2バリアントタンパク質部分が置換N88Rを有する、[13]に記載のタンパク質。
[17] リンカーが12~17個のセリンおよびグリシン残基の混合物を含む、[13]に記載のタンパク質。
[18] リンカーが比率4:1のグリシン残基 対 セリン残基を含む、[13]に記載の融合タンパク質。
[19] [1]に記載の融合タンパク質をコードする核酸。