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特開2022-58477潤滑組成物の酸化安定性を向上させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058477
(43)【公開日】2022-04-12
(54)【発明の名称】潤滑組成物の酸化安定性を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/06 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
C10L1/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022000118
(22)【出願日】2022-01-04
(62)【分割の表示】P 2019517884の分割
【原出願日】2017-09-29
(31)【優先権主張番号】62/403,320
(32)【優先日】2016-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】クラックネル,ロジャー・フランシス
(72)【発明者】
【氏名】アラディー,アレン・アンブワー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ハイブリッド電気自動車のパワートレイン内に含まれる火花点火式内燃機関を潤滑にするために使用される潤滑組成物の酸化安定性を向上させる方法を提供する。
【解決手段】火花点火式機関の燃焼室にガソリン組成物を導入するステップを含み、ガソリン組成物が、炭化水素基本燃料であって、基本燃料を基準として、10~20体積%のオレフィン、5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有するオレフィン、および5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有する芳香族化合物を含有する、30~40℃の範囲の初期沸点、45~57℃の範囲のT10、82~104℃の範囲のT50、140~150℃の範囲のT90、および220℃以下の最終沸点である炭化水素基本燃料を含む、方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花点火式内燃機関を潤滑にするために使用される潤滑組成物の酸化安定性を向上させる方法であって、前記火花点火式機関がハイブリッド電気自動車のパワートレイン内に含まれ、前記方法が前記火花点火式機関の燃焼室にガソリン組成物を導入するステップを含み、前記ガソリン組成物が、炭化水素基本燃料であって、前記基本燃料を基準として、10~20体積%のオレフィン、5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有するオレフィン、および5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有する芳香族化合物を含有する、30~40℃の範囲の初期沸点、45~57℃の範囲のT10、82~104℃の範囲のT50、140~150℃の範囲のT90、および220℃以下の最終沸点である炭化水素基本燃料を含む、方法。
【請求項2】
前記ガソリン組成物が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびイソブタノールから選択される少なくとも1つの含酸素添加剤を0~10体積%含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭化水素基本燃料が10~20体積%のオレフィンを含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記炭化水素基本燃料が12~18体積%のオレフィンを含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基本燃料が、28~42℃の範囲の初期沸点、42~58℃の範囲のT10、80~105℃の範囲のT50、135~170℃の範囲のT90、および200℃以下の最終沸点を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基本燃料が、30~40℃の範囲の初期沸点、45~57℃の範囲のT10、82~104℃の範囲のT50、140~150℃の範囲のT90、および180℃以下の最終沸点を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ガソリン組成物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記燃料組成物が1つ以上の酸化防止剤を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ガソリン組成物がヒンダードフェノール型の酸化防止剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ハイブリッド電気自動車がプラグインハイブリッド電気自動車である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
エンジンクランクケース潤滑油の酸化安定性を向上させるため、および/またはエンジン潤滑油の交換頻度を低減するための、火花点火式機関用の燃料としてのガソリン組成物の使用であって、前記火花点火式機関がハイブリッド電気自動車のパワートレイン内に含まれ、前記ガソリン組成物が、炭化水素基本燃料であって、前記基本燃料を基準として、10~20体積%のオレフィン、5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有するオレフィン、および5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有する芳香族化合物を含有する、30~40℃の範囲の初期沸点、45~57℃の範囲のT10、82~104℃の範囲のT50、140~150℃の範囲のT90、および220℃以下の最終沸点である炭化水素基本燃料を含む、ガソリン組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火式燃焼機関を潤滑するために使用される潤滑組成物の酸化安定性を向上させる方法に関し、火花点火式燃焼機関は、ハイブリッド電気自動車のパワートレインに収容されている。
【背景技術】
【0002】
炭化水素系燃料のコストの上昇および二酸化炭素排出の環境への影響に対する懸念の高まりにより、電気エネルギーで部分的または全体的に作動する自動車に対する需要が高まっている。
【0003】
ハイブリッド電気自動車(HEV)は、充電式バッテリーに貯蔵される電気エネルギー、および従来の内燃機関(ICE)によって通常炭化水素系の燃料から変換される機械エネルギーの両方を利用する。バッテリーは、運転中にICEによって、また減速時および制動時に運動エネルギーを回収することによっても充電される。このプロセスは、いくつかの自動車モデルのために、多くの自動車製造業者(OEM)によって提供されている。HEVは、典型的には、通常の運転経験を提供し、従来のICE専用自動車と比較して燃費向上の主な利点を有する。プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)は、HEVと同様の機能性を備えているが、この用途では、バッテリーは、自動車が駐車されている際に、充電するために主電気システムに接続することもできる。PHEVは、典型的には、HEVよりも大きなバッテリーパックを備えているため、一部の全電気範囲の能力を提供する。推進力のために内燃機関(ICE)を使用する作動領域は、巡航および都市間走行に限定され得るが、ダイナミックな運転は、電力およびICEを使用することになる。その結果、自動車の燃料に対する欲求は、従来のICEまたはHEV装備自動車に現在要求されているものとはかなり異なる可能性がある。都市環境専用自動車に関しては、EVモード容量とプラグイン充電機能の増大により、ICE活動のレベルがさらに低下する。これにより、HEVおよび従来のICE自動車と比較して、燃料タンクの内容物の滞留時間が著しく長くなる可能性がある。
【0004】
従来のICE自動車は、典型的には、約200kgの推進力システム重量に対して約600km(400マイル)の範囲を達成し、約2分の補給時間を必要とする。比較すると、同等の範囲と有用なバッテリー寿命とを提供することができる現在のLiイオン技術に基づくバッテリーパックは、約1700kgの重さがあると考えられている。モーター、パワーエレクトロニクス、および自動車シャーシの重量を追加することにより、従来のICE同等物よりもはるかに重い自動車になる。
【0005】
従来のICE自動車では、エンジンからのエンジントルクおよび動力伝達は、全範囲の自動車作動動態を網羅しなければならない。しかしながら、内燃機関の熱力学的効率は、広範囲の作動条件にわたって完全に最適化することはできない。ICEは、比較的狭いダイナミックレンジを有する。したがって、自動車製造業者(OEM)にとっての大きな課題は、エンジンからのエンジントルクおよび動力伝達を全範囲の自動車作動動態にわたって作動させることを可能にするエンジン技術およびトランスミッションシステムを開発することである。他方、電気機械は、非常に広いダイナミックレンジを有するように設計することができ、例えば、ゼロ速度で最大トルクを供給することができる。この制御の柔軟性は、産業用駆動用途で有用な機能としてよく認識されており、自動車用途での可能性を提供する。それら作動範囲内で、電気機械は、需要の要件に適用された非常に滑らかなトルク伝達を与えるために、高性能な電子機器を使用して制御することができる。しかしながら、運転者にとってより魅力的な異なるトルク伝達プロファイルを提供することは可能
であり得る。したがって、これは、自動車設計者にとって今後の関心分野となる可能性がある。より高速では、電気駆動システムは、パワーエレクトロニクスの熱除去能力および電気モーター自体のための冷却システムによって制限される傾向がある。高速での高トルクモーターについてのさらなる検討は、非常に高い遠心力が高速で生成され得る回転部品の質量に関連している。これらは破壊的になる可能性がある。HEVおよびPHEVにおいて、電動モーターは、それ故にダイナミックレンジの一部のみしか提供することができない。しかしながら、これは、より狭い作動範囲にわたってICEの効率を最適化することを可能にし得る。これは、エンジン設計に関していくつかの利点を提供する。
【0006】
したがって、フルレンジのICE用に開発された現在の炭化水素燃料は、最適化されていないか、またはHEVまたはPHEVのICEユニットにとって実際に有益ではない場合がある。燃料は、長年にわたって従来のICE自動車用に配合および規制されてきたので、配合空間における自由度が十分に理解されており、それ故安定したとみなすことができる。比較的近年のハイブリッド技術の導入は、まったく新しい観点から燃料配合空間を検討する機会を提供している。
【0007】
さらに、HEVまたはPHEVのICEユニットの効率的な作動を最大にするために、HEVまたはPHEVのパワートレイン内でICEを潤滑するのに使用される潤滑組成物についても検討する必要がある。従来のICEユニットと比較して、HEVまたはPHEVのICEユニットにおける作動サイクルが異なるため、潤滑組成物は、HEV/PHEV環境においてより極端な条件およびより大きな酸化ストレスにさらされる傾向がある。
【0008】
自動車業界では、「Aunt Minnie」運転サイクル(寒い気候では停止する前に、エンジンが最適な作動温度まで完全に暖機されることなく、近距離の旅行で使用されることがまれにしかない自動車をシミュレートする運転サイクル)などの特定の運転条件下で作動する潤滑油組成物に対する特定の要件を設計したことが既に知られている。HEVまたはPHEVのICEユニットでは、エンジンの停止および始動が頻繁にあり、その結果、ICEが短時間しか使用されず、停止する前に完全に暖機されない。一般に、ハイブリッド自動車のICEは、ICEが同じ運転パターンで使用される頻度が少ないため、「Aunt Minnie」タイプの運転サイクルの危険性が高い傾向となる。これは、クランクケース潤滑油がHEVまたはPHEV内で完全には暖まらず、したがって潤滑油の酸化に対して厳しい条件を示すことを意味する。潤滑油の酸化安定性が低下すると、エンジン堆積物の増加をもたらす可能性があり、それが次に燃費性能の低下などの望ましくない影響をもたらす可能性がある。上記のように、停止/始動のこの問題は、従来のICEユニットよりもHEVおよびPHEVにおいてより深刻であり、したがって、HEV/PHEVにおける潤滑油の酸化安定性を向上させるためには慎重に検討する必要がある。
【0009】
したがって、PHEV/HEV自動車の効率的な作動を最大にするために、PHEV/HEV自動車中の潤滑組成物の酸化安定性を向上させる方法を見出すことが望ましいことになる。
【0010】
同時に、燃料組成物の酸化安定性も、HEV/PHEVの場合には検討される必要がある。
【0011】
国際公開第2004/113476号は、火花点火式機関における燃料としての使用が、エンジンクランクケース潤滑油の安定性の向上をもたらす、特定のパラメータを満たすガソリン組成物を開示している。しかしながら、この文書には、HEVまたはPHEV自動車内のそのような燃料の使用、またはハイブリッド自動車のためのそのような燃料の使用の特定の利点への言及がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2004/113476号
【発明の概要】
【0013】
本発明によれば、火花点火式内燃機関を潤滑するために使用される潤滑組成物の酸化安定性を向上させる方法であって、火花点火式機関がハイブリッド電気自動車のパワートレイン内に含まれ、方法が火花点火式機関の燃焼室にガソリン組成物を導入するステップを含み、ガソリン組成物が、炭化水素基本燃料であって、基本燃料を基準として、10~20体積%のオレフィン、5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有するオレフィン、および5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有する芳香族化合物を含有する、炭化水素基本燃料を含み、30~40℃の範囲の初期沸点、45~57℃の範囲のT10、82~104℃の範囲のT50、140~150℃の範囲のT90、および220℃以下の最終沸点を含む、方法が提供される。
【0014】
驚くべきことに、特定のパラメータを満たすガソリン組成物を選択することによって、HEVまたはPHEV内の潤滑組成物の酸化安定性が向上することが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ハイブリッド電気自動車のパワートレインに含まれている、本発明のガソリン組成物を燃料とする火花点火内燃機関において、38~60℃の範囲のT10と併せた軽質オレフィン含有量は、エンジン潤滑油(クランクケース潤滑油)の安定性の向上を達成する重要なパラメータであると考えられるICEがたまにしかおよび短期間しか使用されないHEVおよびPHEVで行われる頻繁なエンジンの停止および始動は、クランクケース潤滑油が完全には暖まらず、潤滑油の酸化に対して厳しい条件を示すことを意味する。これらの始動/停止運転サイクルの影響は、従来のICE自動車において受けるその影響よりもHEV/PHEV自動車においてより深刻である。高いフロントエンド揮発性(低いT10)および特定のオレフィン含有量は、有害な燃焼ガスのエンジンクランクケースへの吹き抜けを減少させると考えられる。
【0016】
「少なくとも10個の炭素原子を有する5体積%以下のオレフィン」および「少なくとも10個の炭素原子を有する5体積%以下の芳香族化合物」とは、炭化水素基本燃料が、基本燃料を基準として、10個以上の炭素原子を有するオレフィンの量、または10個以上の炭素原子を有する芳香族化合物の量を、それぞれ、0~5体積%の範囲で含有することを意味する。
【0017】
ガソリンは、炭化水素の混合物を含有し、その最適な沸点範囲および蒸留曲線は、気候およびその年の季節によって変化する。上記に定義されたガソリン中の炭化水素は、直留ガソリン、合成的に生成された芳香族炭化水素混合物、熱的分解もしくは接触分解炭化水素、水素化分解石油留分、または接触改質炭化水素、およびこれらの混合物から既知の様式で好都合に誘導され得る。含酸素添加剤は、ガソリンに組み込まれてもよく、これらには、アルコール(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、tert-ブタノール、およびイソブタノール)、およびエーテル、好ましくは1分子当たり5個以上の炭素原子を含むエーテル、例えばメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、またはエチルtert-ブチルエーテル(ETBE)が挙げられる。1分子当たり5個以上の炭素原子を含有するエーテルは、最大15%v/vまでの量で使用することができるが、メタノールが使用される場合、それは最大3%v/vまでのみの量であり得、安定剤が必要とされる。エタノールにも安定剤が必要であり、エタノールは5%~10%v/vまで使用することができる。イソプロパノールは最大10%v/v、tert-ブタノールは最大7%v/v、イソブタノールは最大10%v/vまで使用することができる。
【0018】
tert-ブタノールまたはMTBEの包含を避けることが好ましい。したがって、本発明の好ましいガソリン組成物は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびイソブタノールから選択される少なくとも1つの含酸素添加剤を0~10体積%含有する。
【0019】
理論的モデリングは、本発明のガソリン組成物中にエタノールを含有させることによって、特により低温のエンジン作動条件下で、エンジン潤滑油の安定性がさらに向上することを示唆した。したがって、本発明のガソリン組成物は、最大10体積%のエタノール、好ましくは2~10体積%、より好ましくは4~10体積%、例えば5~10体積%のエタノールを含有することが好ましい。
【0020】
本発明によるガソリン組成物は、有利なことに無鉛(鉛を含まない)であり、これは法律により要求され得る。許容される場合、無鉛アンチノック化合物および/またはバルブシート後退保護剤化合物(例えば、既知のカリウム塩、ナトリウム塩、またはリン化合物)が存在してもよい。
【0021】
オクタン価、(R+M)/2は、一般に85超となる。
【0022】
現代のガソリンは、本質的に低硫黄燃料、例えば200ppmw未満の硫黄、好ましくは50ppmw以下の硫黄を含有するものである。
【0023】
当業者には容易に理解されるように、定義されたパラメータを満たすために、上記で定義された炭化水素基本燃料は、好適な炭化水素を混合することによる既知の様式、例えば製油所ストリームなどで好都合に調製することができる。オレフィン含有量は、オレフィンを多量に含む製油所ストリームを含めることによって、かつ/または任意の相対比率でジイソブチレンなどの合成成分を添加することによって高めることができる。
【0024】
2,4,4-トリメチル-1-ペンテン(Sigma-Aldrich Fine Chemicals)としても知られているジイソブチレンは、典型的には、ブテン異性体分離プロセスからのイソブチレンの硫酸抽出物を約90℃に加熱することによって調製される、異性体(2,4,4-トリメチル-1-ペンテンおよび2,4,4-トリメチル-2-ペンテン)の混合物である。Kirk-Othmer,“Encyclopedia
of Chemical Technology”,4thEd.Vol. 4,Page 725において記載されているように、80%ダイマーと20%トリマーの混合物の収率は、典型的には、90%である。
【0025】
上記で定義されたガソリン組成物は、酸化防止剤、腐食防止剤、無灰洗剤、曇り防止剤、染料、潤滑性向上剤、および合成油または鉱油キャリア流体などの1つ以上の添加剤を様々に含有させることができる。好適なそのような添加剤の例は、米国特許第5,855,629号およびDE-A-19955651に一般的に記載されている。
【0026】
添加剤成分は、ガソリンに別々に添加することができるか、または1つ以上の希釈剤と混合して、添加剤濃縮物を形成し、一緒に基本燃料に添加することができる。
【0027】
本発明の方法において使用するための好ましいガソリン組成物は、ガソリン組成物の酸化安定性を向上させるために1つ以上の酸化防止剤を含む。ガソリン組成物での使用に好適な任意の酸化防止添加剤が、本明細書で使用され得る。本明細書で使用するのに好ましい酸化防止剤は、ヒンダードフェノール、例えばBHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)である。ガソリン組成物は、10ppmw~100ppmwの酸化防止剤を含むことが好
ましい。
【0028】
本発明の方法で使用される好ましいガソリン組成物は、以下の特徴のうちの1つ以上を有する。
(i)炭化水素基本燃料が少なくとも10体積%のオレフィンを含有する。
(ii)炭化水素基本燃料が少なくとも12体積%のオレフィンを含有する。
(iii)炭化水素基本燃料が少なくとも13体積%のオレフィンを含有する。
(iv)炭化水素基本燃料が最大20体積%のオレフィンを含有する。
(v)炭化水素基本燃料が最大18体積%のオレフィンを含有する。
(vi)基本燃料が少なくとも28℃の初期沸点(IBP)を有する。
(vii)基本燃料が少なくとも30℃のIBPを有する。
(viii)基本燃料が最大42℃のIBPを有する。
(ix)基本燃料が最大40℃のIBPを有する。
(x)基本燃料が少なくとも42℃のT10を有する。
(xi)基本燃料が少なくとも45℃のT10を有する。
(xii)基本燃料が少なくとも46℃のT10を有する。
(xiii)基本燃料が最大58℃のT10を有する。
(xiv)基本燃料が最大57℃のT10を有する。
(xv)基本燃料が最大56℃のT10を有する。
(xvi)基本燃料が少なくとも80℃のT10を有する。
(xvii)基本燃料が少なくとも82℃のT10を有する。
(xviii)基本燃料が少なくとも83℃のT10を有する。
(xix)基本燃料が最大105℃のT10を有する。
(xx)基本燃料が最大104℃のT10を有する。
(xxi)基本燃料が最大103℃のT10を有する。
(xxii)基本燃料が少なくとも135℃のT90を有する。
(xxiii)基本燃料が少なくとも140℃のT90を有する。
(xxiv)基本燃料が少なくとも142℃のT90を有する。
(xxv)基本燃料が最大170℃のT90を有する。
(xxvi)基本燃料が最大150℃のT90を有する。
(xxvii)基本燃料が最大145℃のT90を有する。
(xxviii)基本燃料が最大143℃のT90を有する。
(xxix)基本燃料が200℃以下の最終沸点(FBP)を有する。
(xxx)基本燃料が195°C以下のFBPを有する。
(xxxi)基本燃料が190°C以下のFBPを有する。
(xxxii)基本燃料が185°C以下のFBPを有する。
(xxxiii)基本燃料が180°C以下のFBPを有する。
(xxxiv)基本燃料が175°C以下のFBPを有する。
(xxxv)基本燃料が172°C以下のFBPを有する。
(xxxvi)基本燃料が少なくとも165°CのFBPを有する。
(xxxvii)基本燃料が少なくとも168°CのFBPを有する。
【0029】
上記の特徴の好ましい組み合わせの例としては、(i)および(iv);(ii)および(v);(iii)および(v);(vi)、(viii)、(x)、(xii)、(xvi)、(xix)、(xxii)、(xxv)、および(xxix);(vii)、(ix)、(xi)、(xiv)、(xvii)、(xx)、(xxiii)、(xxvi)、および(xxxiii);ならびに(vii)、(ix)、(xii)、(xv)、(xviii)、(xxi)、(xxiv)、(xxviii)、(xxxvi)、および(xxxvii)が挙げられる。
【0030】
本明細書に記載されるガソリン組成物をPHEVまたはHEVにおける火花点火式機関の燃料として使用することは、エンジン潤滑油(クランクケース潤滑油)の安定性を向上させることに加えて、いくつかの利点のうちの1つを与え得る。これらの利点としては、オイル交換頻度の低減、エンジン摩耗、例えばエンジンベアリングの摩耗、エンジン部品の摩耗(例えばカムシャフトおよびピストンクランクの摩耗など)の低減、加速性能の向上、より高い最大出力、および/または燃費性能の向上が挙げられる。
【0031】
したがって、本発明はさらに、エンジンクランクケース潤滑油の酸化安定性を向上させるため、および/またはエンジン潤滑油交換の頻度を低減するための火花点火式機関用の燃料として、上記に定義されたガソリン組成物の使用を提供し、火花点火式機関は、ハイブリッド電気自動車のパワートレイン内に含まれている。
【0032】
本発明は、以下の例示的な実施例から理解されることになり、別段の指示がない限り、温度は摂氏度であり、部、パーセンテージ、比は、体積による。当業者は、様々な燃料が既知の製油所ストリームから既知の様式で調製され、このように、所与の組成パラメータの知識から容易に再現可能であることを容易に理解するであろう。
【実施例0033】
実施例では、試験燃料を燃料とするエンジン内の潤滑油の酸化安定性試験を以下の手順を使用して実行した。
【0034】
ベンチエンジン、ルノーメガーヌ(K7M702)1.6リットル、4気筒火花点火式(ガソリン)機関を、燃焼ガスの噴き漏れ率を増加させるように、ホーニングしてシリンダー内径を増大させ、ピストンリングの端部を研磨して突合せギャップを増大させることによって変更した。加えて、バイパス管をエンジンバルブデッキの上のシリンダヘッド壁とクランクケースとの間に取り付けて、燃焼ガスのクランクケースへの噴き漏れのための追加の経路を設けた。ジャケット付きロッカーアームカバー(RAC)を取り付けて、エンジンバルブトレインを囲む環境の制御を容易にした。
【0035】
試験の前および各試験の間に、エンジンを徹底的に洗浄して、可能性のある汚染の全ての痕跡を除去した。次いで、エンジンをAPI SG仕様を満たす15W/40エンジンオイルで充填し、エンジン冷却液とRAC冷却液の両方の冷却システムを、50:50の水:不凍液混合物で充填した。
【0036】
エンジン試験を、表1に従って、各24時間の期間が5回の4時間サイクルを含んでいた試験サイクルに従って7日間行った。
【表1】
続いて、表1の段階3を10分のアイドル期間(850±100rpm)の間に25gの
オイル試料を取り出す修正段階で置き換えたオイルサンプリングサイクルを行った。(2日毎および7日目(のみ)に試料を取り出した)。次いで、エンジンを停止し、20分間放置した。次の12分間、オイルディップスティックの読みをチェックし、エンジンオイルを補充した(試験中のみ、試験終了時ではない)。この45分間の段階の最後の3分間に、エンジンを再始動した。
【0037】
オイル試料についての試験測定を行って、ヘプタン不溶物(凝固剤としてオレイン酸を使用しなかったことを除いてDIN 51365に準拠)、総酸価(TAN)(IP177に準拠)、総塩基価(TBN)(ASTM D4739に準拠)、および摩耗金属(Sn、Fe、およびCr)の量(試料を10倍ではなく、ホワイトスピリットで20倍に希釈したこと以外はASTM 5185に準拠)を評価した。TANおよびTBN値(単位は、KOHg/潤滑油gである)から、TAN/TBNクロスオーバー点を計算した(試験時間)。
【0038】
実施例1
3つの炭化水素基本燃料ガソリンを試験した。比較例Aは、2002年にオランダで販売された燃料に広く使用されていた基本燃料であった。比較例Bは比較例Aに対応したが、芳香族化合物を増加させるために、重いプラットフォーメート(白金触媒上でナフサを改質することによって製造された製油所スチームの高沸点留分)を添加した。実施例1は比較例Aに対応したが、オレフィンを増加させるために、軽質キャットクラッキングガソリン(より重質の炭化水素の接触分解により生成された製油所ストリームの低沸点留分)を添加した。硫黄レベルの差から生じる可能性のある影響を排除するために、必要に応じてジメチルスルフィドを添加することによって、燃料の硫黄含有量を50ppmw Sに調整した。
【0039】
得られた燃料は、表2に示されるような特性を有していた。
【表2】
【0040】
これらの燃料に関する試験結果を表3に示す。
【表3】
【0041】
TAN/TBNクロスオーバーが起こる時点は、有意な酸化的変化がオイル中で起こっている時点の指標であると考えられる。
【0042】
上記の結果は、実施例1の燃料の使用がクランクケース潤滑油の酸化安定性に非常に有益な効果をもたらし、潤滑油寿命の延長、エンジン潤滑油交換の頻度の低減(サービス間隔の延長)およびエンジン摩耗の低減をもたらすことをよく示す。
【0043】
錫濃度は、エンジンベアリングの磨耗と関連している可能性が最も高い。鉄濃度は、エンジン部品の磨耗(カムシャフトとピストンクランク)に関連している。
【0044】
実施例2および3
4つの炭化水素基本燃料ガソリンを試験した。比較例Cは、2002年にオランダで販売された燃料に広く使用されていた基本燃料であった。比較例Dは比較例Cに対応したが、芳香族化合物を増加させるために、重いプラットフォーメートを添加した。実施例1は比較例Cに対応したが、比較例Cの基本燃料85体積部当たりジイソブチレン15体積部を添加した。ジイソブチレンは、商業的製造から得られる割合での2,4,4-トリメチル-1-ペンテンと2,4,4-トリメチル-2-ペンテンの混合物である。実施例3は比較例Cに対応したが、比較例Cの基本燃料85体積部当たりオレフィン15体積部の割合で、CおよびCオレフィンの製油所ストリームから添加した。
【0045】
得られた燃料は、表4に示されるような特性を有していた。
【表4-1】
【表4-2】
【0046】
これらの燃料に関する試験結果を表5に示す。
【表5】
【0047】
上記の結果は全体として、実施例2および3の燃料の使用がクランクケース潤滑油の酸化安定性に対して全体的に予想外の利益をもたらし、実施例1で上記に記載されているように、同様の結果をもたらすことをよく示す。
【0048】
実施例4
比較例C(比較例E)と同様の燃料をジイソブチレンおよびエタノールと混合して、10%v/vのジイソブチレンおよび5%v/vのエタノールを含有するガソリン組成物を得た(実施例4)。得られたガソリンは13.02体積%のオレフィンを含有し、初期沸
点40℃、最終沸点168.5℃を有し、本発明の他のパラメータを満たした。この燃料を、比較例Eと比較して、および5%v/vのエタノールを含有する同じ基本燃料(比較例F)と比較して、トヨタアベンシス2.0l VVT-i直接噴射火花点火式機関で試験した。比較例Eおよび比較例Fは両方とも、それらのオレフィン含有量(それぞれ3.51%v/vおよび3.33%v/vの総オレフィン)によって本発明のパラメータの範囲外である。燃料の詳細を表6に示す。
【表6-1】
【表6-2】
【0049】
加速試験(1200~3500rpm、5速、全開スロットル(WOT)、1200~3500rpm、4速、WOT、および1200~3500rpm、4速、75%スロットル)の下で、実施例4は、比較例EおよびFのいずれ対しても、一貫して優れた性能(加速時間)を示した。エンジンが比較例Eまたは比較例Fに対して、実施例4を燃料とする場合、1500rpmおよび2500rpmの両方で有意に高い動力が発生した。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花点火式内燃機関を潤滑にするために使用される潤滑組成物の酸化安定性を向上させる方法であって、前記火花点火式機関がハイブリッド電気自動車のパワートレイン内に含まれ、前記方法が前記火花点火式機関の燃焼室にガソリン組成物を導入するステップを含み、前記ガソリン組成物が、炭化水素基本燃料であって、前記基本燃料を基準として、10~20体積%のオレフィン、5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有するオレフィン、および5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有する芳香族化合物を含有する、30~40℃の範囲の初期沸点、45~57℃の範囲のT10、82~104℃の範囲のT50、140~150℃の範囲のT90、および220℃以下の最終沸点である炭化水素基本燃料を含む、方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
加速試験(1200~3500rpm、5速、全開スロットル(WOT)、1200~3500rpm、4速、WOT、および1200~3500rpm、4速、75%スロットル)の下で、実施例4は、比較例EおよびFのいずれ対しても、一貫して優れた性能(加速時間)を示した。エンジンが比較例Eまたは比較例Fに対して、実施例4を燃料とする場合、1500rpmおよび2500rpmの両方で有意に高い動力が発生した。
本明細書は以下の発明の態様を包含する。
[1] 火花点火式内燃機関を潤滑にするために使用される潤滑組成物の酸化安定性を向上させる方法であって、前記火花点火式機関がハイブリッド電気自動車のパワートレイン内に含まれ、前記方法が前記火花点火式機関の燃焼室にガソリン組成物を導入するステップを含み、前記ガソリン組成物が、炭化水素基本燃料であって、前記基本燃料を基準として、10~20体積%のオレフィン、5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有するオレフィン、および5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有する芳香族化合物を含有する、30~40℃の範囲の初期沸点、45~57℃の範囲のT10、82~104℃の範囲のT50、140~150℃の範囲のT90、および220℃以下の最終沸点である炭化水素基本燃料を含む、方法。
[2] 前記ガソリン組成物が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびイソブタノールから選択される少なくとも1つの含酸素添加剤を0~10体積%含有する、[1]に記載の方法。
[3] 前記炭化水素基本燃料が10~20体積%のオレフィンを含有する、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記炭化水素基本燃料が12~18体積%のオレフィンを含有する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5] 前記基本燃料が、28~42℃の範囲の初期沸点、42~58℃の範囲のT 10 、80~105℃の範囲のT 50 、135~170℃の範囲のT 90 、および200℃以下の最終沸点を有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6] 前記基本燃料が、30~40℃の範囲の初期沸点、45~57℃の範囲のT 10 、82~104℃の範囲のT 50 、140~150℃の範囲のT 90 、および180℃以下の最終沸点を有する、[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7] 前記ガソリン組成物である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8] 前記燃料組成物が1つ以上の酸化防止剤を含む、[1]~[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9] 前記ガソリン組成物がヒンダードフェノール型の酸化防止剤を含む、[1]~[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10] 前記ハイブリッド電気自動車がプラグインハイブリッド電気自動車である、[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11] エンジンクランクケース潤滑油の酸化安定性を向上させるため、および/またはエンジン潤滑油の交換頻度を低減するための、火花点火式機関用の燃料としてのガソリン組成物の使用であって、前記火花点火式機関がハイブリッド電気自動車のパワートレイン内に含まれ、前記ガソリン組成物が、炭化水素基本燃料であって、前記基本燃料を基準として、10~20体積%のオレフィン、5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有するオレフィン、および5体積%以下の少なくとも10個の炭素原子を有する芳香族化合物を含有する、30~40℃の範囲の初期沸点、45~57℃の範囲のT10、82~104℃の範囲のT50、140~150℃の範囲のT90、および220℃以下の最終沸点である炭化水素基本燃料を含む、ガソリン組成物の使用。
【外国語明細書】