(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058602
(43)【公開日】2022-04-12
(54)【発明の名称】哺乳動物の変形性関節症及び関連する関節症状の治療に有用なHAS2及びルブリシンを含む骨保護遺伝子を発現する組換えAAVベクター
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20220405BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220405BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20220405BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220405BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220405BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220405BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220405BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20220405BHJP
【FI】
A61K35/76
C12N7/01 ZNA
C12N15/864 100Z
A61P19/02
A61P29/00 101
A61K48/00
C12N15/12
C07K14/47
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022003580
(22)【出願日】2022-01-13
(62)【分割の表示】P 2018536882の分割
【原出願日】2017-01-13
(31)【優先権主張番号】62/278,243
(32)【優先日】2016-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519064665
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム アニマル ヘルス ユーエスエイ インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】500034653
【氏名又は名称】ジェンザイム・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【弁理士】
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】ディアス フィゲイレド モニカ
(72)【発明者】
【氏名】キョスティオ-ムーア シルッカ アールエム
(72)【発明者】
【氏名】バースレット パトリシア
(57)【要約】
【課題】本開示は、組換えウイルスベクター、そのような組換えベクターを含む医薬組成物、及び変形性関節症を哺乳動物で予防及び治療する方法を提供する。
【解決手段】本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを提供し、前記ベクターは、ヒアルロナンシンターゼ2(HAS2)及びルブリシン(PRG4)を含む骨保護性/軟骨保護性生物活性タンパク質を宿主で発現することができる。これらAAVの生成方法(前記は哺乳動物の変形性関節炎を治療する方法である)は、滑膜細胞及び軟骨細胞の両細胞における骨保護性/軟骨保護性タンパク質(HAS2及びPRG4を含む)の長期遺伝子発現によって提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含むrAAVであって、当該rAAVベクターがプロモーターに作動できるように連結されたイヌHAS2ポリペプチドをコードする核酸配列を含む、前記rAAV。
【請求項2】
HAS2ポリペプチドをコードする核酸配列が配列番号:3に示される配列と少なくとも90%同一性を有するか、若しくはHAS2ポリペプチドをコードする核酸が配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むHAS2ポリペプチドをコードするか、又はHAS2ポリペプチドが配列番号:2に示されるアミノ酸配列を含む、及び/又は組換えプラスミドがpCBA-HI-cHAS2-BGHpAを含む、請求項1に記載のrAAV。
【請求項3】
rAAVベクターを含むrAAVであって、当該rAAVベクターが、プロモーターに作動できるように連結された、短縮イヌルブリシンをコードする核酸配列を含む、前記rAAV。
【請求項4】
ルブリシンをコードする核酸配列が配列番号:6に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%同一性を有するか、又は当該核酸が配列番号:7に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むルブリシンをコードする、請求項3に記載のrAAV。
【請求項5】
ルブリシンポリペプチドが配列番号:7に示されるアミノ酸配列を有する、請求項3又は4に記載のrAAV。
【請求項6】
rAAVベクターが配列番号:8に示されるヌクレオチド配列を含む、請求項3から5のいずれかの項に記載のrAAV。
【請求項7】
プロモーターが、CMV IEプロモーター、RSVプロモーター、HSV-1 TKプロモーター、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子プロモーター、メタロチオネイン遺伝子プロモーター、α-1アンチトリプシン遺伝子プロモーター、アルブミン遺伝子プロモーター、コラゲナーゼ遺伝子プロモーター、エラスターゼI遺伝子プロモーター、CBAプロモーター、β-アクチン遺伝子プロモーター、β-グロビン遺伝子プロモーター、γ-グロビン遺伝子プロモーター、α-フェトプロテイン遺伝子プロモーター、及び筋クレアチンキナーゼ遺伝子プロモーターから成る群から選択される、請求項1から6のいずれかの項に記載のrAAV。
【請求項8】
rAAVがAAV2キャプシド又はAAV5キャプシドを含む、請求項1から7のいずれかの項に記載のrAAV。
【請求項9】
rAAVがAAV5キャプシドを含む、請求項8に記載のrAAV。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかの項に記載のrAAV及び場合によって少なくとも1つの医薬的若しくは獣医的に許容できる担体、賦形剤又はビヒクルを含む、医薬組成物。
【請求項11】
変形性関節症(OA)に罹患する対象哺乳動物を治療する方法であって、対象哺乳動物に治療的に有効な量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を関節内に投与する工程を含み、前記組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)が、プロモーターに作動できるように連結された、骨保護性又は骨再生性ポリペプチドをコードする核酸を含み、当該ポリペプチドが当該対象哺乳動物でOAの症状を緩和するために有効な量でin vivo発現され、ここで、当該ポリペプチドが、ヒアルロン酸シンターゼ(HAS)、ルブリシン、インターロイキン-1受容体(IL-1R)アンタゴニスト、インスリン様増殖因子1(IGF-1)、線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)、形質転換増殖因子ベータ1(TGFβ1)、骨形成タンパク質7(BMP7)、グルコサミン-フルクトース-6-ホスフェートアミノトランスフェラーゼ(GFAT)、インターロイキン10(IL-10)、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)、それらの生物学的に活性な短縮形、又はそれらの組合せである、前記方法。
【請求項12】
ポリペプチドがHAS2ポリペプチドである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
HAS2ポリペプチドが、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一性を有するアミノ酸配列を含む、又はin vivo HAS2活性を当該対象動物で示すそのフラグメント、変種若しくはホモローグを含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
HAS2ポリペプチドが配列番号:2に示されるアミノ酸配列を含む、請求項11から13のいずれかの項に記載の方法。
【請求項15】
HAS2ポリペプチドをコードする核酸が、配列番号:3に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%同一性を有するヌクレオチド配列を有し、さらにrAAVが、5’から3’に向けて以下のエレメント:5’AAV逆方向末端リピート(ITR)、スタッファー核酸、プロモーター、イントロン(IN)、cHAS2コドン最適化cDNA、ポリアデニル化シグナル(pA)、及び3’AAV ITRを含むrAAVベクターゲノムを含む、請求項11から14のいずれかの項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互引用)本出願は、米国仮特許出願No.62/278,243(2016年1月13日出願(参照によりその全体が本明細書に含まれる))に対し優先権を主張する。
(配列表に関する記載)本出願に付随する配列表はプリントアウトコピーに代わってテキスト形式で提供され、前記は参照により本明細書に含まれる。前記配列表を含むテキストファイルの名称はMER 16-291 SEQ Listing_ST25.txtである。テキストファイルは57.6KBであり、2016年1月13日に作成された。前記は、本明細書の出願と同時にEFS-Webにより電子的に提出されている。
(技術分野)
本発明は、組換えベクター、そのような組換えベクターを含む医薬組成物、及び動物の急性及び/又は慢性関節症状(変形性関節症を含む)の予防及び/又は治療のための方法に関する。特に、本発明は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであってヒアルロナンシンターゼ2(HAS2)及びルブリシン(PRG4)ファミリータンパク質に属する生物活性ポリペプチドを宿主で発現することができるベクターに関する。したがって、本発明は遺伝子操作分野に関し、滑膜細胞及び軟骨細胞におけるHAS2及びLUBの長期遺伝子発現によってヒト又は哺乳動物の関節の変形性関節症の治療に使用される、アデノ随伴ウイルス(AAV)をベースとする生物学的デリバリー及び発現系を提供する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症(OA)は、哺乳動物の関節で発生する変性関節疾患で、深刻な経済的医学的問題を引き起こす(Matthews, G.L., and Hunter, D.J.(2011).Expert Opin.Emerging Drugs 1-13;Brooks PM.Curr Opin Rheumatol 2002; 14: 573-577)。軟骨は関節で骨端を覆う丈夫な結合組織である。前記は、硬い骨の間で比較的摩擦の少ない高度に潤滑化された表面を提供し、滑らかな動きを提供する。OA進行中に、軟骨は異常又は過剰摩滅のために部分的又は完全に失われて骨端の露出に至り、当該骨端は互に擦れて、炎症、痛み、腫脹又は可動性低下をもたらす。現在のところ、OAに至る初期軟骨減少の詳細な理由は不明であるが、その発生と年齢、肥満及び関節の酷使(例えば競技活動)との間には強い相関関係が存在する。
イヌでは、変形性関節症(OA)は爬行の最も一般的な原因の1つであり、1歳齢を過ぎたイヌの約20パーセントが罹患すると概算される。現在のところ、OAには治癒をもたらす利用可能な治療はなく、したがって医学的処置は軟骨の再生ではなく大部分は症状緩和に向けられている。通常、鎮痛処置はステロイド及び非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDS)を含み、それらは数十年にわたってOAの治療で有効性を示してきた。しかしながら、これらの薬剤は関節の炎症を抑制できるが、それらの多くは軟骨で変性作用を有することが知られている(この作用はOA進行の根幹的過程をさらに悪化させる)。伝統的な鎮痛及び抗炎症療法に加えて、天然に存在する骨保護化合物の直接投与を用いてOA症状が緩和されてきたが、首尾の程度はさまざまであった。例えば、ヒアルロン酸(HA)が、罹患関節の粘弾性及び潤滑さの回復に広く用いられてきた。さらにまた、ポリ硫酸化グリコサミノグリカン(PSGAG)(関節内又は筋肉内経路で注射される)並びに経口投与グルコサミン及びコンドロイチン硫酸はいくらかの有効性を示している。
【0003】
しかしながら、上述の薬剤は、有意義な症状緩和を達成するためには頻繁に(時には互に併用して)投与されねばならない。これらの頻繁な関節注射は、労力/費用を要し感染のリスクを生じ患者又は動物に多大なストレスを引き起こす。外科的アプローチもまた開発されたが、これらはイヌ及びウマでは概ね低い有効性を示し、典型的には進行期の重篤な対象動物でのみ実施される。
補助食品/薬剤のデリバリーに加えて、いくつかのグループが、粘弾性/粘性保護ポリペプチド、前記をコードする核酸、又は粘性保護タンパク質(例えば酵素)を生成する手段を宿主で発現することができるポリペプチド若しくは核酸をデリバリーすることによってOA症状を改善することを試みた。より大きな関心が寄せられるアプローチには、ルブリシンポリペプチド(Flannery, US 7,642,236 B2)、トリボネクチン(US 7,618,914 B2(Rhode Island General Hospital))、及びヒアルロナンシンターゼ(US 6,423,514(Millennium Pharmaceuticals))の使用が含まれる。
これらの試みのいくつかは“遺伝子治療”と特徴付けることができる(その基礎的概念はよく確立されている)(Evans CH, Robbins PD.Gene therapy for arthritis, In: Wolff JA (ed.).Gene Therapeutics: Methods and Applications of Direct Gene Transfer.Birkhauser: Boston, 1994, pp 320-343)。最近、あるグループが、インターロイキン-1受容体アンタゴニスト(Il-1Ra)遺伝子のin vivoデリバリーによって変形性関節症を治療しようとした(US 2015/0031083 A1(Baylor College of Medicine);Frisbie, DD et al., Gene Therapy, 2002)。
【0004】
アースロゲン社(Arthrogen company)は、慢性関節リウマチ(RA)の状況でAAV5を用いて(炎症性サイトカイン低下のために)ヒトインターフェロンベータを発現させた。OAとは異なり、炎症性シグナリングはRAの病理で重要な役割を果たし、したがって、このシグナルの遮断は重要な治療アプローチである。とは言え、炎症とOAとの間の可能な連関を追及している別のグループが、ウマOAの場合に組換えAAV2を用いてIL1受容体アンタゴニストを発現させた(Goodrich et al., Molecular Therapy-Nucleic Acids (2013) 2, e70)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらのアプローチのいずれも普遍的に有効であるとは立証されず、OA患者の痛み及び苦痛の緩和に関しては未だに充足されない深刻な要請が存在する。結果として、より効果的でかつ持続的な治療であって同時にまた長い目で見て対費用効果を有する治療に対する、明瞭かつ未だに充足されていない医学的要請が存在する。
したがって、本明細書で詳細に述べるように、本出願人らは、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターが、哺乳動物の関節へのただ1回の関節内注射によって治療物質をコードするcDNAをデリバリーし、当該物質の滑膜細胞及び軟骨細胞における局所的及び連続的in vivo生成を促進できることを提示することに初めて成功した。
出願人らはまた初めて、完全長のイヌルブリシンcDNA(配列番号:4)を単離し配列を決定した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、骨保護遺伝子及び/又は骨再生遺伝子生成物の治療的に有効な量を哺乳動物宿主においてin vivoで発現するrAAVベクターを提供する。
複数の特徴において、当該rAAVは、疾患修正特性、潤滑性特性、抗炎症特性及び痛み緩和特性を有する物質をコードするcDNAを含むことができる。
【0007】
複数の特徴において、当該rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AA6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh.8及びAAVrh.10を含む(ただしこれらに限定されない)AAV血清型に由来するベクターである。いくつかの実施態様では、AAVの核酸は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV2rAAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh.8又はAAVrh.10のITRを含む。さらに別の実施態様では、rAAV粒子は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AA6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh.8又はAAVrh.10のキャプシドタンパク質を含む。いくつかの実施態様では、当該ITR及びキャプシドは同じAAV血清型に由来する。他の実施態様では、当該ITR及びキャプシドは異なるAAV血清型に由来する。いくつかの実施態様では、当該rAAVベクターはAAV2又はAAV5キャプシド血清型であってもよい。いくつかの関連する実施態様では、rAAV2及びrAAV5ベクターは、AAV2に由来する少なくとも1つのITRを含む。
複数の特徴の実施態様では、rAAVベクターはヒアルロン酸シンターゼ-2(HAS2)又はその変種をコードする。いくつかの実施態様では、当該HAS2はヒトHAS2である。他の実施態様では、当該HAS2はイヌHAS2である。いくつかの実施態様では、HAS2はコドン最適化HAS2である。
グリコサミノグリカンヒアルロナン酸(HA)は非硫酸化グリコサミノグリカンであり、ベータ-1-3及びベータ-1-4グリコシド結合によって連結された反復グルクロン酸及びN-アセチルグルコサミン残基から成る。HAは複数の生物学的機能を提供し、それら機能には創傷治癒、細胞遊走、悪性形質転換及び組織のターンオーバーが含まれる。HAは、内皮細胞、線維芽細胞及び平滑筋細胞を含む多様な細胞タイプによって合成され、例えば結合組織、上皮組織及び神経組織のような組織で検出されている。関節間隙では、HAは、滑膜細胞(HAを滑液中に分泌する)とともに軟骨細胞によって生成される。滑液HAは、潤滑さ、組織の水分補給、構造的完全性、並びにマトリックスタンパク質及び生物的機構のための足場を提供するとともに、関節の恒常性において役割を果たしている。関節におけるHAの生物学的作用はその濃度及び分子量によって決定される。HAは、5,000Daから10,000,000Daの範囲で合成されうる。より小さい分子量のHA(<500kDa)は血管形成の受容体媒介活性化、悪性性及び炎症に密接に関係し、一方、より高分子量のHAは関節における潤滑さを提供する。
【0008】
関節HAのサイズ及び濃度はともにその合成及び分解速度によって調節される。HAの分解はHAをより小さなフラグメントに切断するヒアルロニダーゼによって媒介され、前記フラグメントは除去のためにリンパ系に排出される。3つの酵素(ヒアルロナンシンターゼ(HAS)1、2及び3と称される)がHA産生のために記載され、前記は滑膜細胞形質膜の内側表面に存在する。これらのうちで、HAS2は高分子量HAの産生に必要であることが示されている(Itano et al., 1999)。高分子量HAレベルは、ヒト患者及び動物OAモデルの両方の変形性関節症で減少する(Plickert et al., 2013)。これは、おそらくHA合成低下及びヒアルロニダーゼによるHA分解増加に起因する。HAシンターゼのうちHAS2及び3はヒト軟骨で発現され、これらのうちHAS2発現はヒトOAで低下する。HAレベルはまた、HA分解酵素のヒアルロニダーゼ2のレベル増加のために減少する(Yoshida et al.)。HAS2プロモーターは多様な前-及び抗-炎症媒介物質に応答性であると報告され、相反する作用が報告されている。これら媒介物質にはTGFβ、一次上皮増殖因子、TNFアルファ及びレチノイン酸が含まれる(Guo, Kanter el al., 2007;Hyc et al., 2009)。病気の関節の炎症媒介物質によるダウンレギュレーションはHAS2発現を低下させてHAレベルの低下をもたらし、多様なHASアイソフォームに弁別的に影響を及ぼしうると予想される(David-Raoudi et al., 2009)。対照的に、機械的刺激(Momberger et al.2005)又は軟骨成分(例えばコンドロイチン硫酸)はHA産生を刺激すると報告されている(Momberger et al., 2005;David-Raoudi et al., 2009)。HAの産生は細胞周囲での存在とともに細胞外間隙への分泌をもたらす。何が分泌の程度を調節するかは明確ではない。しかしながら、典型的にはHAの約80%が分泌されるが、残りは産生細胞に結合したままである。この細胞結合HAはマトリックスタンパク質のアッセンブリーのために重要であり、HAS2合成の遮断は細胞結合マトリックスの減少及びプロテオグリカン(すなわちアグレカン)の媒体中への放出増加をもたらし、軟骨細胞中でHAを合成する主要酵素としてのHAS2の主要な役割をさらに確認させる(Nishida et al., 1999)。
【0009】
複数の特徴における実施態様では、rAAVベクターはルブリシン又はその変種をコードする。いくつかの実施態様では、ルブリシンはヒトルブリシンである。他の実施態様では、ルブリシンはイヌルブリシンである。いくつかの実施態様では、ルブリシンはコドン最適化ルブリシンである。
ルブリシン(PRG4)は、関節滑膜内層細胞及び軟骨の軟骨細胞によって生成される大きなムチン糖タンパク質であり、軟骨表面を保護する潤滑さを提供する(Flannery 1999;Schmidt 2001;Waller 2013)。HAと一緒にルブリシンはまた滑液中の重要な潤滑剤であり、衝撃吸収特性を提供する。マウスモデル及びヒトの希少遺伝性疾患におけるルブリシンの欠如は、変形性関節症(OA)に特徴的な軟骨変性を生じる(Rhee 2005;Ruan 2013)。ルブリシンの合成低下はまたヒトのOA患者及び多様な動物OAモデルで示されている(Elsaid, 2008)。組換えルブリシンによる関節内ルブリシン補充は軟骨病変を改善することが示された(Flannery, 2009)。
いくつかの実施態様では、rAAVベクターは、イヌのコドン最適化ヒアルロン酸シンターゼ-2(HAS2)をコードするAAV2又はAAV5キャプシド血清型であってもよい。
複数の特徴では、rAAVベクターは関節内デリバリーにより投与される。複数の実施態様では、rAAVただ1回の関節内デリバリーにより投与される。別の実施態様では、関節内投与に続いて、当該rAAV形質導入細胞に由来する同族治療物質のin vivo産生及び分泌は少なくとも約6カ月持続しうる。
いくつかの実施態様では、rAAVベクターは、遍在性プロモーター及びコドン最適化種適合性トランスジーンを含む発現カセットを含む(
図1Aを参照されたい)。
別の特徴では、本開示は、rAAVベクターを用いて骨保護及び/又は骨再生遺伝子生成物を動物の関節においてin vivoで発現させる方法を提供する。
本明細書に引用する全ての参考文献(特許出願及び特許公開を含む)は、参照によりその全体が本明細書に含まれる。
以下の詳細な説明(例示として提供されるが、記載した具体的な実施態様にのみ本発明を限定する意図はない)は、本添付図面と一緒にすることで最良の理解が得られよう。前記添付図面は下記の通りである:
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、プラスミド(上段)及びrAAVウイルスベクター(下段)中のHAS発現カセットを示す略図である。
【
図1B】
図1Bは、cHAS2発現プラスミドをトランスフェクトした細胞のHA生成を示すグラフである。cHAS発現プラスミドを293細胞にトランスフェクトして3日後に条件付け培養液を採集し、培地中のHAレベルをHA-結合タンパク質による検出系を用いて定量した。略語:CBAcHAS2、HAS2発現プラスミド;EGFP、EGFP発現プラスミド;非トランスフェクト、陰性コントロール細胞;“Optimem”=無血清培地で増殖した細胞;“Complete”、血清含有培地で増殖した細胞。
【
図1C】
図1Cは、cHASトランスフェクト293細胞の条件付け培養液(24時間のヒアルロニダーゼ処理+又は-)の成分分離に用いたアガロースゲル画像で、HAの発現が確認される。略語:CM、条件付け培養液;MDa、マーカーの分子量サイズ。
【
図2A】
図2Aは、三重トランスフェクション法を用いた、rAAV2及びAAV5ベクターへのcHAS2の小規模パッケージングによるrAAVベクター生成を示すグラフである。EGFP発現カセットのAAV2へのパッケージングは陽性コントロールとして、キャプシドプラスミドの非存在下でのcHASのパッケージングは陰性コントロールとして示される。rAAV収量は細胞当たりのDNA耐性粒子(DRP)の量として示される。
【
図2B】
図2Bは、三重トランスフェクションによる大規模ベクター生成におけるrAAVベクター収量を示すグラフである。得られた複数のベクターロットについて得られた全体の力価の例が示される。
【
図2C】
図2CはAAV2/HAS2ベクターのin vitro性能を示すグラフである。293細胞を多様なMOIで感染させ、条件付け培養液のHAレベルを3日後に定量した。
【
図2D】
図2DはAAV5/HAS2ベクターのin vitro性能を示すグラフである。
【
図3A】
図3Aは、正常なイヌ関節におけるrAAV/HAS2ベクターの関節内注射後の体重変化を示すグラフである。
【
図4A】
図4Aは、イヌ滑膜のrAAVベクター定量のためのサンプル収集位置を示す略図である。
【
図4B】
図4Bは、滑膜サンプル#3におけるベクターゲノムコピー数の定量を示すグラフである。
【
図4C】
図4Cは、滑膜サンプル#1のベクターゲノムコピー数を示すグラフである。AAV2及びAAV5のベクター用量は以下のように示される:L=低、M=中及びH=高(
図3A-Cと同様)。rAAVベクターデリバリー後28日で全ての組織サンプルを収集し、BGHpAをqPCRによって分析した。
【
図5A】
図5Aは滑膜サンプル#3におけるベクター由来cHAS発現を示すグラフである。
【
図5B】
図5Bは滑膜サンプル#1におけるベクターmRNAを示すグラフである。
【
図5C】
図5Cは、滑膜サンプル#3を用いて分析した個々のイヌのそれぞれのベクターゲノム及びベクター由来mRNAを示すグラフである。AAV2及びAAV5のベクター用量は以下のように示される:L=低、M=中及びH=高。rAAVベクターデリバリー後28日で全ての組織サンプルを収集し、BGHpAをqPCRによって分析した。
【
図6A】
図6Aは、軟骨のrAAVベクター及びmRNAを検出するために収集した大腿顆及び脛骨プラトーサンプルの位置を示す略図である。
【
図6B】
図6Bは、大腿顆サンプル#1を用いて分析した個々のイヌのそれぞれのベクターゲノム及びベクター由来mRNAを示すグラフである。加えて、反対側(注射されていない右関節)のベクターゲノムコピー数が示される(サンプル#22を除く(前記は試験されなかった))。
【
図6C】
図6Cは、各グループのベクターゲノム(注射及び非注射関節)及びmRNAコピーの平均を示すグラフである。AAV2及びAAV5のベクター用量は以下のように示される:L=低、M=中及びH=高。rAAVベクターデリバリー後28日で全ての組織サンプルを収集し、BGHpAをqPCRによって分析した。
【
図6D】
図6Dは、各グループの脛骨プラトーにおけるベクターゲノム(PBS又はベクター注射関節)及びmRNAコピーの平均を示すグラフである。
【
図7A】
図7Aは、左後膝関節から収集した組織の各処置グループにおける滑膜(サンプル#3及び#1)及び軟骨(大腿顆及び脛骨プラトー)のベクターゲノムを示すグラフである。
図7A及び7Bに示す値はグループの平均±標準偏差を表す(n=5/グループ)。
【
図7B】
図7Bは、rAAV5/HAS2ベクターに由来するベクターゲノム及びmRNAの多様な組織における定量を示すグラフである。
【
図8A】
図8Aはイヌ滑液中のHAレベルを示すグラフである。HAレベルは、-7日目(基準線)及び28日目に収集したSFサンプルで定量された。各動物のHAレベルを基準線レベルに対して正規化し、ベクター投与前の週と対比した28日目のHAの%として表した。
【
図8B】
図8Bは、-7日目(基準線)及び28日目のイヌ滑液中のHAレベルを示すグラフである。矢印は基準線(処置前)と対比して28日目により高いHAレベルを有する動物を示す。
【
図9】
図9はイヌルブリシンの完全なアミノ酸配列を示す。枠付き領域はエクソン6(ムチンドメイン)の位置を示す。下線を付したアミノ酸(378から782)は短縮ルブリシン(以降では“cLub1”又は“cLub1co”)では欠失し、KEPAPTT様リピート(潜在的なO-結合グリコシル化部位)の位置は太字で示される。配列の名称が“co”で終わるときは、当該DNA配列はコドン最適化されていることを意味する。同様に、“nonco”は非コドン最適化を意味する。
【
図10】
図10は実験で作製され用いられたプラスミドを示す略図である。プラスミドは、短縮化(すなわち内部欠失操作)、コドン最適化イヌルブリシン配列(cLub1co)、プロモーター(minCBA又はCBA)及びBGHpA部位を含む。いくつかの構築物は、N-又はC-末端Hisタグ(C-term)及びイントロン配列からATG(潜在的開始コドン)が除去される改変を含む。プレウイルスAAVルブリシンはまた両端にフランキングITR配列を含む。
【
図11A】
図11Aは、minCBA cLub1、CBA CLUB1及びCBH cLub-noncoを293細胞にトランスフェクトしたときに生成されるmRNAコピー/細胞を示すグラフである。
【
図11B】
図11Bは、ΔATG/6His/N’、6His/N’、6His/C’、WT cLub及びEGFP構築物を293細胞にトランスフェクトしたときに生成されるmRNAコピー/細胞を示すグラフである。
【
図12A】
図12Aは、濃縮培地中の分泌ルブリシンレベルを示す抗ルブリシンウェスタンブロットである(プラスミドは上記に記載のもの)。イヌ滑液を陽性コントロールとして用いた。
【
図12B】
図12Bは、プレウイルスルブリシン発現プラスミドに由来するルブリシン産生を示すウェスタンブロットである。2つのクローンを分析し、minCBA-cLubcoプラスミドにより得られる発現と比較した。非トランスフェクト培養の培地及びEGFP発現プラスミドをトランスフェクトした細胞を陰性コントロールとして用いた。
【
図13A】
図13Aは、イヌルブリシンをコードするAAV2ベクターのための小規模ベクター生成におけるベクター収量を示すグラフである。2つのcLubクローン(-/+ 6xHisタグ)を分析し、EGFP及びHAS2発現カセット保有プレウイルス(ITR含有)プラスミドのパッケージングと比較した。陰性コントロールには非トランスフェクト細胞及びAAV2キャプシド発現プラスミドを欠くトランスフェクションが含まれた。
【
図13B】
図13Bは、イヌルブリシンをコードするAAV5ベクターのための小規模ベクター生成におけるベクター収量を示すグラフである。EGFP及びcLub発現カセットのためのプレウイルスプラスミドをAAV5キャプシド発現プラスミドと一緒にトランスフェクトした。
【
図14】
図14はrAAV5ベクターに由来するイヌルブリシンのin vitro発現を示す抗ルブリシンウェスタンブロットである。ヒト293細胞に多様な量のrAAV5/minCBA-cLub1を72時間感染させ、続いて条件付け培養液を濃縮した。AAV5/CBA-EGFP感染細胞の培養液を陰性コントロールとして用いた。プレウイルスルブリシン発現プラスミドをトランスフェクトした細胞の培養液を陽性コントロールとして用いた。
【
図16-1】
図16はイヌ及びヒトルブリシンのアラインメントである。
【
図17】
図17は、MMRモデルを用いたイヌ滑液中の種々の時点におけるHAレベルを示すグラフである。OA誘発1週間前(pre)、誘発2週間後、並びに関節投与試験前(0日目)及び関節デリバリー試験の57、112、182日後に滑液を収集した。
【
図18A】
図18Aは、イヌOA関節の滑膜サンプルおけるベクター投与後182日のrAAV5ベクター検出及び発現を示すグラフである。
【
図18B】
図18Bは、イヌOA関節の軟骨(大腿顆)におけるベクター投与後182日のrAAV5ベクター検出及び発現を示すグラフである。
【
図18C】
図18Cは、イヌMMR OAモデルにおける182日目の滑膜及び軟骨サンプルのrAAV5ベクターゲノム及びcHAS2 mRNA検出の要旨である。
【
図19】
図19は、例としてPBS-及び2つのrAAV5/cHAS2-処理イヌ関節の内側から得られた軟骨表面のサフラニン-O染色切片を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
変形性関節症(OA)は、哺乳動物及びイヌの爬行のもっとも一般的な原因の1つであり、概算では1歳齢を超えるイヌの約20%が罹患する。OAは進行性で変性性の疾患であり、痛み、炎症及び関節可動性低下をもたらす。関節の潤滑さを改善し炎症及び痛みを減少させる新規で安全かつ効果的な治療法がOAの管理のために希求される。本明細書に開示するように、本出願人らは、関節での局所的かつ連続的な前記物質の生成を提供することを目標として、治療物質をコードする遺伝子をただ1回の関節内注射によってデリバリーするために組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを利用できることを見出した。rAAVベクターはAAV2及びAAV5キャプシド血清型を用いて作製され、イヌコドン最適化ヒアルロン酸(HA)シンターゼ-2(HAS2)をコードした。
22匹の健康な成犬(AAV2及びAAV5キャプシド血清型陰性)にrAAV2(1.5及び10x1011 vg/関節)、rAAV5(5x1011 vg/関節)又はPBS(コントロール)を関節内注射により投与した。有害な臨床的徴候はその後の28日間の試験の間には観察されなかった。組織病理学的分析ではrAAV5処理関節で最小限の滑膜炎症が示され、rAAV2処理グループでは有意な変化は示されなかった。ベクターゲノム(VG)が、全てのrAAV処理関節の滑膜及び大半の軟骨サンプルで検出された。rAAV5ベクターは、rAAV2と比較して両組織においてより高いVG検出及びmRNA発現をもたらした。予備的な分析で、被験関節の滑液におけるHAレベルの増加傾向もまた示された。要約すれば、我々の研究は、限られた数のイヌでただ1回の関節内注射で投与したときHAS2をコードするrAAV2及びrAAV5ベクターによりイヌ関節組織への遺伝子移転及び許容可能な安全性プロフィールを示した。
【0012】
イヌHAシンターゼ2:本発明のある特徴で、本開示は、AAVキャプシド及び一本鎖DNAゲノムを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを提供する。本開示のウイルスキャプシドは、関節細胞内への当該ベクターの取込み(その後の細胞核内への輸送を伴う)を付与し、治療物質の発現をもたらすことができる。いくつかの実施態様では、当該DNAゲノムは、動物宿主での当該治療遺伝子のin vivo発現のために、1つ以上の発現カセットにフランキングする1つ以上のAAV逆方向末端リピート(ITR)を含む。本発明のいくつかの実施態様では、ウイルス遺伝子は存在しないか又は当該rAAVゲノムから発現されないであろう。
本発明のいくつかの実施態様では、rAAVはいったん動物に投与されて当該動物の細胞に取り込まれた場合、当該rAAVゲノムは染色体外エピソームとして存続するであろう。いくつかの実施態様では、本開示のrAAVは関節細胞に長期間、例えば約1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、6カ月、7カ月、8カ月、9カ月、10カ月、11カ月、1年、2年、又は3年より長く(ただし前記に限定されない)存続できる。当該エピソームrAAVは発現し続けて治療物質の生成及び滑液中への分泌をもたらし、それによって関節へ直接的に当該物質の局所的及び連続的生成を提供するであろう。選択されたトランスジーン生成物は、関節の潤滑さを高め、痛み及び軟骨分解を軽減することによって関節の健康を促進することができる。
【0013】
本発明の別の特徴では、本開示はその必要がある動物を治療する方法を提供し、前記方法は、本開示のrAAVの治療的に有効な量を動物に投与する工程を含む。いくつかの実施態様では、当該方法はイヌに提唱生成物をその罹患関節に直接投与する工程を含む。いくつかの実施態様では、動物の症状で顕著な改善に影響を与えるためにはただ1回の治療で十分である。
他の実施態様では、治療は繰り返される。いくつかの実施態様では、治療は最初の投与から2-3週間以内に繰り返され、他の実施態様では、第二の投与は最初の投与後3週間を超えて与えられる。いくつかの関連する実施態様では、第二の用量は同じ治療遺伝子を有するrAAVの投与を含み、当該rAAVは最初の治療と同じ血清型キャプシドを含む。他の関連する実施態様では、第二の用量は同じ治療遺伝子を有するrAAVの投与を含むが、当該rAAVは最初の投与と異なる血清型キャプシドを含む。いくつかの実施態様では、rAAVは血清型5のキャプシドを有する。関連する実施態様(反復投与が所望される)では、最初の用量は血清型5のキャプシドを有するrAAVの投与を含むことができ、第二の用量は血清型5のキャプシドを有するrAAVの投与を含むことができる。
複数の特徴では、変形性関節症の関節におけるHAS2タンパク質の過剰発現が滑液中のHAレベルを上昇させ、HAの潤滑特性、抗炎症特性及び痛み緩和特性の増強によって関節の健康を増進する。HAS2の過剰発現は、多様な細胞タイプによる培養液中のHAレベルの上昇をin vitroでもたらすことが示された。前記は、CHO、293及びCOS細胞を用い安定的又は一過性トランスフェクションのどちらかとして示された。関節でHAのin vivo過剰発現を提供するために、HAS2発現カセットをコードするrAAVベクターを用いることによりHAS2 cDNAを軟骨及び/又は滑膜(正常なHA合成部位)にデリバリーすることができる。いずれの理論にも拘束されないが、細胞への遺伝子の導入は、HAS2の持続的発現及びその後のHA生成をHAS2発現カセットに提供するであろう。当該治療ベクターは遍在性プロモーターを含むであろうから、当該ベクターは、内因性HAS2プロモーターとは異なり変形性関節症関節に存在する炎症媒介物質によるダウンレギュレーションに支配されないであろう。ベクターが関節内注射によって投与されるとき、当該ベクターは多様な細胞タイプ(主要な細胞タイプは滑膜細胞である)の形質導入を生じることができる。ついに、HA合成のためにはHAS2だけで十分であることが示され、他の不随するタンパク質又は成分はin vitroでのHA産生に不要であると考えられる(Yoshida et al.)。
【0014】
イヌルブリシン:複数の特徴で、変形性関節症の関節におけるルブリシン産生は、イヌの変形性関節症(OA)の潜在的治療としてルブリシンをコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの関節内デリバリーによって増加する。ルブリシンは、潤滑剤として機能し関節の軟骨性表面を保護する大きな分泌糖タンパク質である。本明細書では、完全長のイヌルブリシンのcDNAの発見及び作製が記載される。前記cDNAを用いて、イヌルブリシンの短縮されたコドン最適化バージョン(cLub1co)を設計した。続いて、後者(短縮コドン最適化バージョン)を用いて多様なルブリシン発現プラスミドを構築した。HEK293細胞にトランスフェクトした後で、ルブリシンmRNA及びタンパク質生成についてこれらのプラスミドの特徴を明らかにした。データは、各構築物に由来するルブリシンmRNA及び分泌ルブリシンの両方の産生を明示した。cLub1co発現カセットを用いてrAAVベクターを作製し、rAAV/cLub1ベクター生成の実行可能性を示した。この合成構築物をHEK293細胞に感染させ、イヌルブリシンを分泌させた。
本明細書に記載した方法及び組成物はまた変形性関節症の治療的処置に用いることができる。“治療”又は“治療的処置”という用語は、それらが変形性関節症に関するとき、さらにそれらが本明細書で及び獣医学分野で用いられるときは、既に変形性関節症を罹患しているか又は変形性関節症から回復中の(例えば回復期にある)対象動物の治療、治療の支援及び/又は治療の加速、又は変形性関節症を有すると診断されたか又は変形性関節症のリスクがある対象動物の軟骨減少を遅らせる及び/又は軟骨減少を逆行させることを目指す治療に関する。治療の重要な目的は、軟骨及び骨減少への発生リスクを減少させることである。本明細書で用いられるように、対象動物が変形性関節症に関連する進行性軟骨減少を罹患すると合理的に予想される場合、対象動物は変形性関節症を罹患している、又は変形性関節症発症リスクがあると称される。個々の対象動物が変形性関節症を罹患しているか否か、又は変形性関節症発症のリスクがあるか否かは、対応する獣医学又は医学分野の習熟者によって容易に決定することができる。
【0015】
本明細書に記載する方法及び組成物はまた変形性関節症の予防的処置のために用いることができる。“予防(prevention, prophylaxsis)”及び“予防的処置(preventative treatment, prophylactic treatment)”という用語は、それらが変形性関節症に関するとき、さらにそれらが本明細書で及びヒトと獣医医学の分野で用いられるとき、健康な対象動物又は無関係の疾患に罹患した対象動物(ただし前記対象動物は変形性関節症のリスクがあると考えられる)の処置に関する。
本明細書に記載されるものは変形性関節症のための治療法及び予防的処置であり、前記は、HAS又はルブリシンポリペプチドをin vivoで発現することができるベクターを含む医薬組成物、並びにヒアルロン酸又はルブリシン濃度の持続的増加を関節で誘発して軟骨減少を軽減又は除去する方法及び組成物を利用する。
本明細書で用いられるように、ある量の医薬組成物の投与が、変形性関節症を罹患する対象哺乳動物で当該疾患の臨床的徴候又は測定可能マーカーの有意な改善を引き起こすために十分である場合、当該組成物は“治療有効性”を有する、又は“治療的に有効”であると言われる。本明細書で用いられるように、ある量の医薬組成物の投与が対象動物で変形性関節症の発症を予防するために十分である場合、当該組成物は、“予防的有効性”を有する、又は“有効”であると言われる。
本明細書に記載されるものはまた、HAS若しくはルブリシン、又は前記の変種、フラグメント若しくは組合せを宿主でin vivo発現できるベクターである。複数の実施態様で、本発明で使用されるHAS又はルブリシンポリペプチドは、目的の標的種に概ね適合する(例えば、イヌHAS2をコードするベクターがOAを罹患するイヌにデリバリーされる)。
【0016】
本明細書に記載する“変種”、“誘導体”などを例示すれば、HAS及びルブリシン変種、誘導体などが含まれ(ただし前記に限定されない)、それらは、本明細書に開示するヌクレオチド配列と厳密には同じではないが、ヌクレオチド配列の変化がコードされるアミノ酸配列を変化させないか、又は当該変化がアミノ酸残基の保存的置換、1つ又はいくつかのアミノ酸の欠失若しくは付加、当該コードされるポリペプチドの特性に有意な影響を与えないアミノ酸アナローグによるアミノ酸残基の置換(例えば変種又は誘導体は、野生型ポリペプチドの所望の活性の約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%を超える活性又は100%の活性を有する)などを生じるヌクレオチド配列によってコードされる。保存的アミノ酸置換の例には、グリシン/アラニン置換;バリン/イソロイシン/ロイシン置換;アスパラギン/グルタミン置換;アスパラギン酸/グルタミン酸置換;セリン/スレオニン/メチオニン置換;リジン/アルギニン置換;及びフェニルアラニン/チロシン/トリプトファン置換が含まれる。機能的なHAS又はルブリシン誘導体を生じる他のタイプの置換、変型、付加、欠失及び誘導体もまた本明細書に記載され、当業者は、そのような変種又は誘導体をどのように作製し認定し又は選別するべきか、さらにそのような変種又は誘導体のHAS又はルブリシン活性をどのように試験するべきかを容易に知るであろう。当業者は、本発明のHAS又はルブリシンポリペプチドの発現を最適化することができる。例えば、隠れたスプライス部位の除去、開始コドンの前にKozakコンセンサス配列を導入することによるコドン使用頻度の適応、コドン使用頻度の変更(ただし前記に限定されない)、又は前記の組合せは発現を改善する。
【0017】
本発明で使用されるベクターは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列を含むイヌHAS2ポリペプチドをコードする核酸配列を含むことができる。いくつかの実施態様では、イヌHAS2ポリペプチドは、配列番号:2と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%相同性若しくは同一性を有するイヌHAS2変種である。
本発明で使用されるベクターは、配列番号:7に示されるアミノ酸配列セットを含むイヌルブリシンポリペプチドを含むことができる。いくつかの実施態様では、イヌルブリシンポリペプチドは、配列番号:7と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%相同性若しくは同一性を有するイヌルブリシン変種である。
配列同一性又は相同性は、オーバーラップ及び同一性を最大にするが配列ギャップを最少にするようにアラインメントしたときに配列を比較することによって決定できる。特に、配列同一性は多数の数学アルゴリズムのいずれかを用いて決定できる。2つの配列の比較に用いられる数学アルゴリズムの非限定的な例は、Karlin & Altschulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1990, 87, 2264-2268)であり、前記アルゴリズムは、Karlin & Altschulによって改変されている(Karlin & Altschul, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1993,90, 5873-5877)。
配列の比較に用いられる数学アルゴリズムの別の例は、Myers & Millerのアルゴリズムである(Myers & Miller, CABIOS 1988,4, 11-17)。そのようなアルゴリズムはALIGNプログラム(バージョン2.0)に取り込まれている(ALIGNプログラムはGCG配列アラインメントソフトウエアパッケージの部分である)。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用するときは、PAM120ウェイト残基表、ギャップ長ペナルティ、12及びギャップペナルティ、4を用いることができる。局所配列類似性及びアラインメントについて領域を識別するさらに別の有用なアルゴリズムは、Pearson & Lipmanが記載したFASTAアルゴリズムである(Pearson & Lipman, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988, 85, 2444-2448)。
【0018】
概して、アミノ酸配列の比較は、既知構造のポリペプチドのアミノ酸配列を未知構造のポリペプチドのアミノ酸配列とアラインメントすることによって達成できる。続いて配列中のアミノ酸を比較し、相同なアミノ酸グループを一緒のグループに分ける。この方法はポリペプチドの保存領域を検出し、アミノ酸挿入及び欠失を明らかにする。アミノ酸配列間の相同性は市販のアルゴリズムを用いることによって決定できる(上記の相同性に関する記載もまた参照されたい)。本明細書に特に記載したものの他に、BLAST、ギャップ付加BLAST、BLASRN、BLASTP、及びPSI-BLASTプログラム(国立生物工学情報センターによって提供される)もまた言及しておく。これらのプログラムは本目的のために当業界で広く用いられ、2つのアミノ酸配列の相同な領域をアラインメントすることができる。
これら一揃いの検索プログラムの全てで、ギャップ付加アラインメントルーチンはデータベースの検索そのものにとって必須である。ギャップ付加は所望の場合には停止することができる。長さが1のギャップのための初期設定ペナルティ(Q)は、タンパク質及びBLASTPについてはQ=1であり、BLASTNについてはQ=10であるが、任意の整数に変更してもよい。ギャップを伸長するための初期設定一残基ペナルティ(R)は、タンパク質及びBLASTPについてはR=2であり、BLASTNについてはR=10であるが、任意の整数に変更してもよい。Q及びRについての値を任意に組み合わせて、オーバーラップ及び同一性を最大にするが配列ギャップを最少にするように配列をアラインメントすることができる。初期設定アミノ酸比較マトリックスはBLOSUM62であるが、他のアミノ酸比較マトリックス(例えばPAM)も利用できる。
【0019】
“タンパク質”、“ポリペプチド”及び“ポリペプチドフラグメント”という用語は本明細書では互換的に用いられ、任意の長さのアミノ酸残基ポリマーを指す。
本明細書で用いられるように、“ポリヌクレオチド”という用語は、ヌクレオチドの任意の長さのポリマー形を指し、前記はデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドを含む。
本明細書で用いられる“ベクター”という用語は、組換えDNA又はRNAプラスミド若しくはウイルスを指し、前記は、標的細胞に例えばin vivoでデリバリーされるべき異種ポリヌクレオチドを含む。異種ポリヌクレオチドは治療目的のために対象の配列を含むことができ、場合によって発現カセットの形態であってもよい。本明細書で用いられるように、“ベクター”は最終的な標的細胞又は対象動物で複製能力を有する必要はない。
本明細書で用いられる“組換え体”という用語は半合成又は合成起源のポリヌクレオチドを意味し、前記は天然に存在しないか又は天然には見出されない編成で別のポリヌクレオチドに連結される。
本明細書で用いられる“異種”という用語は、ある実体が比較される当該実体の残りの部分と遺伝的に別個である実体に由来することを意味する。例えば、遺伝子操作によってあるポリヌクレオチドを異なる供給源に由来するプラスミド又はベクター内に配置することができ、したがって当該ポリヌクレオチドは異種ポリヌクレオチドである。その本来のコード配列から取り出され、当該本来の配列以外のコード配列に作動できるように連結されたプロモーターは、したがって異種プロモーターである。
本発明にしたがって使用されるポリヌクレオチドは、例えば同じ転写ユニット内の追加のコード配列、制御エレメント(例えばプロモーター)、リボソーム結合部位、転写終了因子、ポリアデニル化部位、同じ若しくは異なるプロモーターの制御下の追加の転写ユニット、宿主細胞のクローニング、発現、相同組換えを可能にする配列のような追加の配列、及び本発明の実施態様を提供するために所望することができる任意の構築物を含むことができる。
【0020】
ある特徴では、本開示は、変形性関節症を罹患する又は変形性関節症のリスクがある対象哺乳動物を治療する方法を提供し、前記方法は、骨保護性又は骨再生性ポリペプチドをコードし、場合によってプロモーターに作動できるように連結された核酸配列を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)の治療的に有効な量を前記対象哺乳動物に投与する工程を含み、ここで、当該ポリペプチドは当該対象哺乳動物でOAの症状を緩和又は予防するために有効な量で、in vivoで発現される。いくつかの実施態様では、投与は関節内ルートによる。
いくつかの実施態様では、ポリペプチドは、ヒアルロン酸シンターゼ(HAS)(HAS2を含む)、ルブリシン、インターロイキン-1受容体(IL-1R)アンタゴニスト、インスリン様増殖因子1(IGF-1)、線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)、形質転換増殖因子ベータ1(TGFβ1)、骨形成タンパク質7(BMP7)、グルコサミン-フルクトース-6-ホスフェートアミノトランスフェラーゼ(GFAT)、インターロイキン10(IL-10)、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)、前記の生物学的に活性な切端形、又は前記の組合せをコードすることができる。ある実施態様では、対象哺乳動物はヒト、イヌ又はネコでもよい。具体的な実施態様では、対象動物はイヌである。
いくつかの実施態様では、対象哺乳動物は慢性変形性関節症を罹患しているか、又はその発症リスクがある。
【0021】
他の実施態様では、ポリペプチドはイヌHAS2又はイヌルブリシンである。いくつかの実施態様では、HAS2ポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号:3に示される配列と少なくとも90%同一性を有する配列を有するか、又はルブリシンポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号:6に示される配列と少なくとも90%同一性を有する配列を有する。
いくつかの実施態様では、HAS2ポリペプチドは配列番号:2に示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様では、HAS2ポリペプチドは、配列番号:2に示される配列と少なくとも90%同一性を有するポリペプチド、そのフラグメント、変種及びホモローグ(前記は対象動物で各々in vivo HAS活性を示す)から選択されるアミノ酸配列を有する。“HAS活性”は生物学的に活性なヒアルロン酸の生成を意味する。
いくつかの実施態様では、AAVベクターは5’から3’に向けて以下のエレメントを含む:5’AAV ITR、スタッファー、CBA、イントロン(IN)、cHAS2コドン最適化cDNA、ポリアデニル化シグナル(pA)、及び3’AAV ITR。
いくつかの実施態様では、ルブリシンポリペプチドは配列番号:7に示されるアミノ酸配列を含む。他の実施態様では、ルブリシンポリペプチドは、配列番号:7に示される配列と少なくとも90%同一性を有するポリペプチド、そのフラグメント、変種及びホモローグ(前記は対象動物で各々in vivoルブリシン活性を示す)から選択されるアミノ酸配列を有する。“ルブリシン活性”は、内因的に産生されるルブリシンと実質的に同じ態様でかつ実質的に同じ程度で潤滑さを提供することを意味する。そのような潤滑性活性は当業界で公知の技術にしたがって測定できる(例えば以下を参照されたい:Swan, DA et al.Biochem J.1985 Jan 1; 225(1): 195-201)。
いくつかの実施態様では、プロモーターは、CMV IEプロモーター、RSVプロモーター、HSV-1 TKプロモーター、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子プロモーター、メタロチオネイン遺伝子プロモーター、α-1アンチトリプシン遺伝子プロモーター、アルブミン遺伝子プロモーター、コラゲナーゼ遺伝子プロモーター、エラスターゼI遺伝子プロモーター、CBAプロモーター、β-アクチン遺伝子プロモーター、β-グロビン遺伝子プロモーター、γ-グロビン遺伝子プロモーター、α-フェトプロテイン遺伝子プロモーター、及び筋クレアチンキナーゼ(CK)遺伝子プロモーターから成る群から選択できる。
さらに他の実施態様では、AAVはAAV2又はAAV5キャプシドを含む。
【0022】
別の特徴では、本開示は、哺乳動物(例えばヒト又はイヌ動物)の軟骨細胞及び/又は滑膜細胞の両方でヒアルロン酸の産生を増加させる方法を提供する。ある実施態様では、当該方法は、rAAVベクターゲノム(HAS2をコードする核酸を含む)を含む組換えAAV(“rAAV”)を哺乳動物(例えばヒト又はイヌ)に投与する工程、HAS2酵素が発現されてその後追加のヒアルロン酸の生成を触媒するために十分な時間を許容し、それによって当該哺乳動物のヒアルロン酸レベルを増加させる工程を含むことができる。
本開示はまた、哺乳動物(例えばヒト又はイヌ動物)の軟骨細胞及び/又は滑膜細胞の両方でルブリシンポリペプチドの産生を増加させる方法を提供する。ある実施態様では、当該方法は、rAAVベクターゲノム(ルブリシンをコードする核酸を含む)を含むrAAVを哺乳動物(例えばヒト又はイヌ動物)に投与する工程、ルブリシンが発現されるために十分な時間を許容し、それによってイヌのルブリシンレベルを増加させる工程を含むことができる。
ある実施態様では、HAS2は、HAS2をコードする核酸を含むrAAVの投与後に十分な量で生成され、哺乳動物(例えばヒト又はイヌ)のOAの症状を治療又は予防する。
別の実施態様では、ルブリシンは、ルブリシンをコードする核酸を含むrAAVの投与後に十分な量で生成され、哺乳動物(例えばヒト又はイヌ)のOAの症状を治療又は予防する。
ある実施態様では、HAレベルは、健康な哺乳動物(例えばヒト又はイヌ)で見いだされるレベルに回復する。当業者は多様な参考文献を調べてどのようなHAレベルが健康な動物で見いだされるかを知ることができる(例えば、Smith, GN et al.Arthritis Rheum.1998;41:976-985;Balazs E et al.Disorders of the Knee.Philadelphia: J B Lippincott; 1982.pp.61-74)。
別の実施態様では、ルブリシンレベルは、健康な哺乳動物(例えばヒト又はイヌ)で見いだされるレベルに回復する。
【0023】
別の特徴では、本開示は、OAを罹患しているか又は発症リスクがあるイヌを治療する方法を提供し、前記方法は、プロモーターに作動できるように連結された、HAS2又はルブリシンポリペプチドをコードする核酸配列を含むAAVベクターの治療的に有効な量を前記イヌに投与する工程を含む。別の実施態様では、本開示は、OAを罹患しているか又は発症リスクがあるヒトを治療する方法を提供し、前記方法は、プロモーターに作動できるように連結された、HAS2又はルブリシンポリペプチドをコードする核酸配列を含むAAVベクターの治療的に有効な量を前記ヒトに投与する工程を含む。
いくつかの実施態様では、HAS2ポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号:3に示される核酸配列と少なくとも90%同一性を有するか、又はルブリシンポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号:6に示される核酸配列と少なくとも90%同一性を有する。
いくつかの実施態様では、AAVは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列を含むHAS2ポリペプチドをコードするか、又は配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様では、AAVは、配列番号:7に示されるアミノ酸配列を含むルブリシンポリペプチドをコードするか、又は配列番号:7に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。
任意の実施態様で、プロモーターは、CMV IEプロモーター、RSVプロモーター、HSV-1 TKプロモーター、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子プロモーター、メタロチオネイン遺伝子プロモーター、α-1アンチトリプシン遺伝子プロモーター、アルブミン遺伝子プロモーター、コラゲナーゼ遺伝子プロモーター、エラスターゼI遺伝子プロモーター、β-アクチン遺伝子プロモーター、CBAプロモーター、β-グロビン遺伝子プロモーター、γ-グロビン遺伝子プロモーター、α-フェトプロテイン遺伝子プロモーター、及び筋クレアチンキナーゼ遺伝子プロモーターから選択できる。
【0024】
別の特徴では、本開示は、プロモーターに作動できるように連結された、HAS2又はルブリシンポリペプチドをコードする核酸配列を含むrAAVベクターゲノムを含むrAAVの治療的に有効な量を前記イヌに投与する工程を含む、OAの発症をそのリスクがある対象哺乳動物で予防する方法を提供する。ある実施態様では、HAS2ポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号:3に示される核酸配列と少なくとも90%同一性を有するか、又はルブリシンポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号:6に示される核酸配列と少なくとも90%同一性を有する。別の実施態様では、核酸は配列番号:2に示されるアミノ酸配列を含むHAS2ポリペプチドをコードするか、又は核酸は配列番号:7に示されるアミノ酸配列を含むルブリシンポリペプチドをコードする。ある実施態様では、プロモーターは、CMV IEプロモーター、RSVプロモーター、HSV-1 TKプロモーター、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子プロモーター、メタロチオネイン遺伝子プロモーター、α-1アンチトリプシン遺伝子プロモーター、アルブミン遺伝子プロモーター、コラゲナーゼ遺伝子プロモーター、エラスターゼI遺伝子プロモーター、β-アクチン遺伝子プロモーター、β-グロビン遺伝子プロモーター、γ-グロビン遺伝子プロモーター、α-フェトプロテイン遺伝子プロモーター、及び筋クレアチンキナーゼ遺伝子プロモーターから成る群から選択できる。いくつかの実施態様では、rAAVベクターはCBA-cHAS2co-BGHを含む。他の実施態様では、rAAVベクターはpITR/minCBA-HIb-cLub1co-BGHを含む。
【0025】
別の実施態様では、本開示は、プロモーターに作動できるように連結された、イヌHAS2又はルブリシンポリペプチドをコードする核酸配列を含む組換えプラスミドベクターを提供する。いくつかの実施態様では、HAS2ポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号:3に示される核酸配列と少なくとも90%同一性を有するか、又はルブリシンポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号:6に示される核酸配列と少なくとも90%同一性を有する。いくつかの実施態様では、核酸は配列番号:2に示されるアミノ酸配列を含むHAS2ポリペプチドをコードするか、又は核酸は配列番号:7に示されるアミノ酸配列を含むルブリシンポリペプチドをコードする。
ある特徴では、本開示は医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は、哺乳動物宿主でHAS又はルブリシンをin vivoでコード及び発現する組換えウイルスベクター、及び場合によって1つ以上の医薬的に許容できる担体、賦形剤又はビヒクルを含む。
別の実施態様では、本開示は、変形性関節症を罹患しているか又は発症するリスクがある対象哺乳動物を治療する方法を提供し、前記方法は、上記に詳述した医薬組成物の治療的に有効な量を前記対象哺乳動物に関節内投与する工程を含む。ある実施態様では、対象動物はヒト又はイヌである。
別の特徴では、本開示は、ヒト又は哺乳動物の関節のOAの治療又は予防で使用される、アデノ随伴ウイルス(AAV)をベースとする生物学的デリバリー及び発現系を提供する。いくつかの実施態様では、当該方法は、滑膜細胞及び/又は軟骨細胞におけるヒト又は哺乳動物のHAS2又はルブリシンの長期遺伝子発現とそれに続くrAAVのデリバリーによって達成され、前記rAAVは、ヒト又は哺乳動物のHAS2又はルブリシンをコードする核酸配列、左右のAAV逆方向末端リピート(L ITR及びR ITR)、AAVパッケージングシグナル、及び場合によって非ウイルス性非コード性スタッファー核酸配列を含む。いくつかの実施態様では、滑膜細胞及び/又は軟骨細胞内でのヒト又は哺乳動物のHAS2又はルブリシン遺伝子の発現は炎症誘導性プロモーターによって調節される。前記プロモーターは、ヒト又は哺乳動物のHAS2又はルブリシンをコードする核酸配列のリーディングフレームの上流に配置され、免疫刺激物質のレベルが増加することによって特異的に活性化される。
【0026】
いくつかの実施態様では、炎症誘導性プロモーターは以下から選択される:NF-KBプロモーター、インターロイキン6(IL-6)プロモーター、インターロイキン-1(IL-1)プロモーター、腫瘍壊死因子(TNF)プロモーター、シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)プロモーター、補体因子3(C3)プロモーター、血清アミロイドA3(SAA3)プロモーター、マクロファージ炎症タンパク質-1a(MIP-1a)プロモーター及び前記のハイブリッド構築物。いくつかの実施態様では、rAAVベクターゲノムは、配列番号:3、配列番号:6に示される核酸配列、又は前記の生物学的に有効な変種を含む。いくつかの実施態様では、AAV系は、滑膜細胞及び軟骨細胞におけるベクターゲノムのモニタリングを可能にするマーカー遺伝子をコードする核酸を含む。いくつかの実施態様では、ベクターは、配列番号:3、配列番号:6に示される核酸配列、又は同じアミノ酸をコードする前記の保存配列を含む。いくつかの実施態様では、rAAVベクターゲノムは、配列番号:2に示されるHAS2ポリペプチド又は配列番号:7に示されるルブリシンポリペプチドをコードする核酸を含む。rAAVベクターゲノムは、配列番号:3に示される核酸配列と少なくとも80%又は90%配列同一性を有する核酸分子を含む。他の実施態様では、rAAVベクターゲノムは、配列番号:6に示される核酸配列と少なくとも80%又は90%配列同一性を有する核酸分子を含む。
AAV系のいくつかの実施態様では、当該系は、ヒト又は哺乳動物のHAS2又はルブリシンをコードする核酸配列、左右のAAV逆方向末端リピート(L ITR及びR ITR)、パッケージングシグナル、及び場合によって非ウイルス性非コード性スタッファー核酸配列を含み、変形性関節症(OA)の治療又は予防のために、滑膜細胞及び/又は軟骨細胞内でのヒト又は哺乳動物のHAS2又はルブリシン遺伝子の発現は、炎症誘導性プロモーターによって調節され免疫刺激物質のレベルの増加によって特異的に活性化される。
【0027】
ウイルス粒子及びウイルス粒子を生成する方法:さらにまた本明細書で提供されるものは、HAS2又はルブリシンをコードする核酸を含むウイルス粒子である。特定の場所(例えば関節)の標的細胞内でタンパク質を発現させるために、HAS2又はルブリシンをコードする核酸のデリバリーにウイルスベクターを用いることができる。多くのウイルス種が公知であり、標的細胞に核酸をデリバリーする目的のために多くのものが研究されてきた。外因性核酸は、ベクター(例えばアデノ随伴ウイルス(AAV))に挿入することができる。
いくつかの実施態様では、ウイルス粒子は、1つ若しくは2つのAAV ITRを含む核酸及び1つ若しくは2つのITRによってフランキングされる本明細書に記載のHAS2又はルブリシンをコードする配列を含む組換えAAV粒子である。核酸はAAV粒子内で被包化される。AAV粒子はまたキャプシドタンパク質を含む。いくつかの実施態様では、核酸は、作動できるように転写の方向で連結された成分、制御配列(転写開始及び終了配列を含む)、及び対象のタンパク質コード配列(例えば融合タンパク質をコードする核酸)を含む。これらの成分は、機能的なAAV ITR配列によって5’及び3’末端でフランキングされる。“機能的AAV ITR”とは、ITRがAAVビリオンのレスキュー、複製及びパッケージングのために意図されるように機能することを意味する(以下を参照されたい:Davidson et al., PNAS, 2000, 97(7)3428-32;Passini et al., J.Virol., 2003, 77(12):7034-40;及びPechan et al., Gene Ther., 2009, 16:10-16(前記はいずれも参照によりその全体が本明細書に含まれる))。本発明のいくつかの特徴を実施するためには、組換えベクターは、少なくとも被包化及びrAAVによる感染のための物理的構造に必須のAAVの配列の全てを含む。本発明のベクターで使用されるAAV ITRは、野生型のヌクレオチド配列(例えばKotinが記載したもの(Kotin, Hum.Gene Ther., 1994, 5:793-801))を有する必要はなく、ヌクレオチドの挿入、欠失又は置換によって改変させてもよく、又はいくつかのAAV血清型のいずれかから誘導してもよい。これまでに40を超えるAAV血清型が知られ、新規な血清型及び既存の血清型の変種が同定され続けている。例えば以下を参照されたい:Gao et al., PNAS, 2002, 99(18): 11854-6;Gao et al., PNAS, 2003, 100(10):6081-6;及びBossis et al., J.Virol., 2003, 77(12):6799-810。いずれのAAV血清型の使用も本発明の範囲内と考えられる。いくつかの実施態様では、rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AA6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh.8、及びAAVrh.10(ただしこれらに限定されない)を含むAAV血清型に由来するベクターである。いくつかの実施態様では、AAVの核酸は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AA6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh.8、又はAAVrh.10のITRを含む。さらに別の実施態様では、rAAV粒子は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AA6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh.8、又はAAVrh.10のキャプシドタンパク質を含む。
【0028】
特定の標的細胞の形質導入を最適化するために、又は特定の標的(例えば関節)内の特異的な細胞タイプを標的とするために、種々のAAV血清型が用いられる。rAAV粒子は、同じ血清型又は混合血清型のウイルスタンパク質及びウイルス核酸を含むことができる。例えば、rAAV粒子はAAV2キャプシドタンパク質及び少なくとも1つのAAV2 ITRを含むことができ、又は前記はAAV2キャプシドタンパク質及び少なくとも1つのAAV5 ITRを含むことができる。別の例では、rAAV粒子はAAV5キャプシドタンパク質及び少なくとも1つのAAV2 ITRを含むことができる。本明細書では、rAAV粒子の生成のためにAAV血清型の任意の組合せが、あたかもそれぞれの組合わせが本明細書に明確に記述されたかのように提供される。
rAAV粒子は当業界で公知の方法を用いて生成することができる。例えば米国特許6,566,118号、6,989,264号、6,995,006号を参照されたい。本発明の実施で、rAAV粒子を生成する宿主細胞には哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、微生物及び酵母が含まれる。宿主細胞はまたパッケージング細胞であることができ、前記細胞では、AAV rep及びcap遺伝子は宿主細胞又はプロデューサー細胞(AAVベクターゲノムが安定的に維持される)で安定的に維持されうる。例示的なパッケージング及びプロデューサー細胞は293、A549又はHeLa細胞に由来する。AAVベクターは、当業界で公知の標準的技術を用いて精製され処方される。
【0029】
いくつかの特徴では、本明細書に開示する任意のrAAV粒子を生成する方法が提供され、前記方法は以下の工程を含む:rAAV粒子が生成される条件下で宿主細胞を培養する工程(ここで宿主細胞は、(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子(前記AAVパッケージング遺伝子はそれぞれAAV複製又は被包化タンパク質をコードする)、(ii)少なくとも1つのAAV ITRによってフランキングされた本明細書開示の任意の融合タンパク質をコードする核酸を含むrAAVプロベクター、及び(iii)AAVヘルパー機能を含む);及び(b)当該宿主細胞によって生成されたrAAV粒子を回収する工程。いくつかの実施態様では、前記少なくとも1つのAAV ITRは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AA6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh.8、及びAAVrh.10 ITRから成る群から選択される。いくつかの実施態様では、前記被包化タンパク質は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AA6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh.8、及びAAVrh.10キャプシドタンパク質から成る群から選択される。さらに別の実施態様では、rAAV粒子は精製される。本明細書で用いられる“精製される”という用語は、rAAV粒子が天然に存在している場所又はrAAV粒子が初めに調製された場所にまた存在しうる他の成分の少なくともいくつかを欠くrAAV粒子調製物を含む。したがって、例えば単離rAAV粒子は、供給源の混合物(例えば培養溶解物又は生産培養上清)から前記粒子を濃縮する精製技術を用いて調製できる。濃縮は、多様な方法、例えば溶液中に存在するDNase耐性粒子(DRP)の割合によって又は感染性によって測定できる。前記はまた、供給源混合物に存在する第二の潜在的干渉性物質(例えば夾雑物質)と比較して測定することができる。前記夾雑物質には、生産培養の夾雑物質又は加工時の夾雑物質(ヘルパーウイルス、培地成分などを含む)が含まれる。
さらにまた本明細書で提供されるものは、本発明のHAS2又はルブリシンをコードする核酸を含むrAAV粒子及び医薬的に許容できる担体を含む医薬組成物である。当該医薬組成物は、本明細書に記載する多様な投与態様(例えば全身投与又は局所投与を含む)に適切でありうる。本明細書に記載するHAS2又はルブリシンをコードする核酸を含むrAAVの医薬組成物は、全身的に、例えば静脈内注射によって、カテーテルによって(米国特許5,328,470号参照)、又は定位注射によって(Chen et al., 1994, PNAS, 91: 3054-3057)導入できる。いくつかの実施態様では、本明細書に記載のrAAV及び医薬的に許容できる担体を含む組成物はヒトへの投与に適切である。そのような医薬的に許容できる担体は無菌的液体、例えば水及び油(石油、動物、植物又は合成起源の油を含む)、例えば落花生油、大豆油、鉱物油などでありうる。食塩水溶液及びデキストロース水、ポリエチレングリコール(PEG)並びにグリセロール溶液もまた液性担体として、特に注射可能溶液のために利用することができる。医薬組成物はさらに追加の成分、例えば保存料、緩衝剤、等張化剤、抗酸化剤及び安定化剤、非イオン性湿潤化剤又は清澄剤、増粘剤などを含むことができる。本明細書に記載の医薬組成物は、単一ユニット投薬形又はマルチユニット投薬形で梱包することができる。組成物は一般的に無菌的で実質的に等張な溶液として処方される。
【0030】
参考文献
本明細書に引用される全ての刊行物、特許及び特許出願は、全ての目的のために参照によりその全体が本明細書に含まれる。
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【実施例0031】
HAS2 AAVベクターの構築と評価
実施例1a-概要
コドン最適化イヌHAS2 cDNA及び遍在性プロモーターを含むrAAVベクターを作製し、AAV2又はAAV5キャプシドにパッケージングした。大規模ベクターロットを三重トランスフェクション法によって作製し、CsClグラディエントによって精製した。ベクター収量をウシ成長ホルモン(BGH)ポリA部位(pA)に対するqPCRによって定量した。AAV2/HAS2については合計4ロットを作製した(そのうちの3ロットをin vivo試験のためにプールした、2x1013 DRP/総量)。AAV5/HAS2については2ロット(5x1012 DRP/総量)を作製し、生産収量の一貫性を試験し十分な量のウイルスを得た。
22匹の健康な成犬(AAV2及びAAV5キャプシド血清型陰性)に、rAAV2(1、5及び10x1011 vg/関節)、rAAV5(5x1011 vg/関節)、又はPBS(コントロール)を関節内注射により投与した。組織病理学的分析で、rAAV5処置関節で最小限の滑膜炎症が示され、rAAV2処置グループでは有意な変化は示されなかった。ベクターゲノム(VG)は、全てのrAAV処置関節の滑膜で、さらに軟骨サンプルの大半で検出された。rAAV5ベクターは、rAAV2と比較して両組織でより高いVG検出及びmRNA発現をもたらした。処置関節の滑液中のHAレベルの増加傾向が観察された。要約すれば、開示の結果は、イヌへの単回関節内注射による投与時におけるイヌ関節組織への遺伝子の移転及び許容可能な安全性プロフィールを明らかにした。
【0032】
実施例1b-方法
HA発現ベクターのクローニングと作製:イヌHAS2遺伝子(GenBank XM 539153.3(配列番号:1))を、イヌでの発現のためにGeneArt/Invitrogenのアルゴリズムによってコドン最適化を実施した。このコドン最適化イヌHAS2 cDNA(1656bp(配列番号:3))をフランキングするNheI-NsiI制限酵素部位を用いて合成した。続いてこのフラグメントを、遍在性ニワトリb-アクチンプロモーター(CBA)、ハイブリッドイントロン及びウシ成長ホルモン(BGH)ポリA(pA)を含むプラスミドにクローン化した。得られたpCBA-HI-cHAS2-BGHpAプラスミドをマキシキット(maxi kit, Qiagen)を用いて発現分析のために精製した。
cHAS2のin vitro発現とHA産生:cHAS2を含むプラスミドベクターを293細胞にトランスフェクトし、3日後に条件付け培養液及び細胞溶解物をRIPA緩衝液+プロテアーゼ阻害剤の250μL中に集めた。細胞溶解物を回転して細胞屑を除去し、30μLの細胞溶解物を4-12%のnu-PAGEゲルにローディングして1xのMops緩衝液中で泳動した。このタンパク質ゲルをニトロセルロース膜に移し、5%乳及び0.1% Tween-20のPBS-T中で抗HAS2をプローブとして4℃で一晩調べた。ロバの抗ヤギ二次抗体(1:5000希釈)を二次抗体として用いた。ベータアクチン検出を用いて細胞溶解物が等量ローディングされていることを示した。
in vitro培養物におけるHAレベルと分子量の定量:pCBA-HI-cHAS2-BGHpAを293細胞にトランスフェクトすることによって、HAS2発現細胞によるHA産生を評価した(Optimen培地又はcomplete培地による)。HA試験キット(Corgenix, Inc.)を用いて条件付け培養液のHAレベルを定量した。前記キットは、アグレカンに由来するHA-結合タンパク質を含んでいる。HAの分子量はアガロースゲル上で濃縮した条件付け培養液を泳動することによって評価した。多様なHAサイズマーカーを並行して泳動した(Select-HA HiLadder, Hyalose, Austin, TX)。同様なゲルを並行して泳動し、続いてヒアルロニダーゼで24時間消化した。両方のゲルをオール-ステイン(All-stain)で染色した。
cHASを有するrAAVベクターの作製:cHAS2発現カセットをAAV ITR含有プラスミドにクローン化し、AAV逆方向末端リピートによってフランキングされた発現カセットを作製し(プレウイルスプラスミドpDC627)、psITR/CBA-HI-cHAS2-BGHpAを構築した。600bpのスタッファーDNA(染色体16 P1クローン96.4B)を発現カセットの上流に加え、合計で4500bpのウイルスベクターゲノムを作製した。cHAS2発現カセット含有プラスミドのパッケージングを試験するために、293細胞を8x105細胞/ウェルで播種し(6ウェルのプレート)、次の日にpsITR/CBA-HI-cHAS2-BGHpA又はpsp70/EGFP、pHLP-19cap2又はp5repCMVcap5プラスミド及びpAdHELPをデュープリケートでトランスフェクトした(CaPO4キット(Promega))。3日後に細胞を収集し、qPCR及びBGHpA配列(配列番号:12-14)のプライマー/プローブを用いてBGHpAコピーについて溶解物の力価を測定した。BGHpAを含むプラスミドを標準物質として用いた。rAAVウイルス収量は細胞当たりのDNase耐性粒子(DRP)の量として表した。大規模ベクター生成は、psITR/CBA-HI-cHAS2-BGH、AAV2ベクターのためにpIM45BD rep-capプラスミド、及びAAV5ベクターのためにpHLP19-cap5並びにpAdHELPの三重トランスフェクションを用いて実施した。CsClによってベクターを精製し、TaqMan分析及びBGHpA配列のプライマー/プローブを用いて得られたベクターロットの力価を測定した(Applied Biosystems/Life Technologies)。
ウサギ軟骨細胞及び滑膜細胞におけるrAAV/cHAS2のin vitro有効性:当該ベクターが関節細胞タイプ(例えば初代滑膜細胞及び軟骨細胞)を形質導入する能力をウサギの細胞で試験した。細胞を1e5 DRP/細胞で感染させ、3日間培養した。細胞溶解物を収集してウェスタンブロットによってHAS2タンパク質を検出し、さらにHAレベルを上記に記載したように定量した。症状下でのマトリックス分解プロテアーゼの産生、炎症性サイトカイン及び軟骨構造タンパク質生成におけるHAの影響を試験するために、細胞を最初にrAAVベクターに感染させ、続いて24時間後にIL-1b刺激を実施した。24時間後に、細胞及び培養液の両方をmRNA分析及びHA産生のために収集した。
正常イヌ関節でのrAAV/cHAS2の評価:雑種犬(雄及び雌、8-10kgkgkg)を用いた。AAV2及び/又はAAV5キャプシドについて4以下の血清力価を有するイヌを試験に用いた。関節内ルートでcHAS2をコードするrAAV及びrAAV5ベクターを投与した(AAV2:1、5及び10x1011 DRP/関節、AAV5:5x1011 DRP/関節)。陰性コントロールとしてPBSを用いた。注射前7日間は1日に1回、注射後7日間は1日に2回、さらにその後の試験期間中は1日に1回、臨床的徴候について動物を観察した(痛み、爬行、注射関節の腫脹及び他の異常)。4週間後に動物を犠牲にした。白血球(WBC)計測のために、ベクター投与後-7、1、14及び28日に全血サンプルを収集した。HAレベルの定量のために、滑液(SF)サンプルを-7、1、14及び28日目に収集した。DNA及びRNAの単離のために、滑膜組織、軟骨及び肝臓サンプルを収集した。cHAS2ベクターゲノム及びmRNAコピーは、BGHpAプライマー/プローブセット(Applied Biosystems/Life Technologies)を用いqPCR分析によって決定した。切片はトルイジンブルーで染色され、資格認定獣医病理士が精査した。軟骨病巣の重篤度及びプロテオグリカン減少(スコア0-5)について軟骨を評価した。滑膜の肥厚は観察されなかったので、滑膜病変スコアは炎症細胞の密度で決定した(スコア0-5)。
【0033】
実施例1c-結果
HAS2発現カセットのコドン最適化と作製:哺乳動物のHAS2は高度に保存されたタンパク質である。例えば、HAS2のヒト及びイヌアミノ酸配列は2つのアミノ酸が相違するだけである(99.3%同一性)。同様に、イヌ及びウサギのHAS2間では3アミノ酸が相違するだけである(99.5%)。DNAレベルでは、イヌとヒトHAS2シンターゼcDNAとの間の類似性は93.9%である。コドン最適化により遺伝子発現を改善できるので、イヌHAS2のGenBank配列(XM 539153.3)をGeneArt/Invitrogenによって最適化した。これによって本来のGenBank配列と78%類似性を有するヌクレオチド配列が得られた。最適化cDNAのGC含有量は44.4%から59.0%に増加した。このcDNAを用いて、CBAプロモーターを有する遍在性発現プラスミドを作製し、内因性プロモーターとは異なるHAS2の構成的発現を可能にした(
図1A)。CBAプロモーターは多様な前炎症性及び抗炎症性サイトカインによる影響が少ない。
in vitroにおけるHAS2発現とHA産生:HAS2タンパク質のin vitro発現を試験するために、CBA-HI-cHAS2-BGHpAプラスミドベクターの2つのクローン(#1及び#2)を293細胞にトランスフェクトし、続いて細胞溶解物をウェスタンブロットによってHAS2タンパク質(膜タンパク質)について分析した。発現プラスミドをトランスフェクトされた細胞は、cHASの予想サイズである64kDaのバンドを示した(データは提示していない)。次に我々は、293細胞におけるHAS2タンパク質の過剰発現が培養液中のHA検出増加をもたらすか否かを判定した(HAの産生及び細胞膜を通過するHAの分泌の両方を示す)。pCBA-cHAS2をトランスフェクトした細胞の培地中のHAレベルは、非トランスフェクト細胞及びCBA-EGFPトランスフェクト細胞と比較してそれぞれ6.5倍及び9倍増加した(
図1B)。したがって、当該データによって、細胞中の過剰発現は細胞外区画のHAレベルの増加をもたらすことが確認された。in vitroで産生されたHAのサイズはアガロースゲルで判定された。当該データは、HAS2発現カセットをトランスフェクトされた細胞から得られた条件付け培養液中の高分子量のHAの存在を示した。この物質のサイズは、1.5メガダルトン(MDa)より大きかった(HA分子量マーカーによる概算に基づく)。この物質はヒアルロニダーゼ消化後に消失し、物質がHAであることを示した(
図1C)。
HAS2発現カセットを有するrAAVベクターの作製:cHAS2共発現カセットを続いてAAV ITRを有するプラスミドにクローン化した。得られたウイルスゲノムの模式図は
図1Aに示されている。AAV2及びAAV5キャプシド並びにHAS2 cDNAを有するrAAVベクターを生じる能力を小規模パッケージング実験で試験し(
図2A)、続いて大規模ベクター生成を実施した。標準的な三重トランスフェクション法を用いて、AAV2及びAAV5ベクターの両方を作製できた(
図2B)。この材料の能力を、293細胞の感染及び培養液中の産生HAレベルの分析によって試験した。AAV2及びAAV5ベクターの両方が培養液中のHAの用量応答増加をもたらした(
図2C、D)。
正常なイヌの関節におけるrAAV/HAS2ベクターの評価:cHAS2を有するrAAV2及びrAAV5ベクターを正常なイヌの関節に関節内投与によってデリバリーし、動物を28日間評価した。有害な臨床的徴候、体重変化(
図3A)、爬行又は死亡はいずれも試験中に観察されなかった。-7日目に幾匹かの動物で白血球(WBC)数が増加し、輸送のストレスによる可能性がある。1、14及び28日目のWBC数は概ね正常限界内であった。PBS-、AAV-注射側(左)及び反対側(非注射)の膝の組織学的評価では、非常にわずかのプロテオグリカンの減少及び軟骨変性(スコア範囲0-0.5(最大スコアは5))が示された。これらの最小限の変化は典型的な齢相応の自然発生的変化であった。最小限の滑膜変化がPBS-及びAAV2-処置関節並びに反対側関節で観察された(
図3C)。最小限から軽度の滑膜炎(概して関節包及び内側副靱帯に広がる)が、AAV5ベクターで処置された雄及び雌の全ての左膝で認められた(反対側の関節では滑膜炎は観察されなかった)。したがって、全体としてこの処置は観察される有害作用がほとんどなく十分に寛容された。
ウイルスゲノムの検出のために滑膜及び軟骨から収集した組織サンプルを分析した(
図4A、6A)。注射部位のもっとも近くから収集した滑膜サンプル(サンプル#3)は、AAV処置関節の全てでベクターゲノムの存在を示した(
図4B)。AAV2処置関節は、おおざっぱに0.01から2ベクターゲノム(VG)/細胞を含んでいた。興味深いことに、低用量グループと高用量グループ間の10倍の相違にもかかわらず、軽微な用量応答がAAV2で観察された。AAV5ベクターで処置された関節はより高くより一貫した検出を示し、1から12コピー/細胞の範囲であった。いくつかの反対側(非注射)関節で低レベルのVGが検出され、これは、低AAV2処置グループでより明確であり、高AAV2用量グループ及びAAV5グループではより散発的であった(データは提示していない)。
注射部位よりさらに上方で収集した滑膜サンプル(サンプル#1)を分析して、関節内に拡散したAAVを評価した(
図4C)。低用量AAV2を注射した関節は、より一貫したVG検出を示した。これらのレベルは滑膜サンプル#3で測定されたレベルと類似する。AAV5処置グループでは、全ての滑膜#1サンプルは一貫して検出できるVGを有する(3倍内)。しかしながら、これらは滑膜#3で検出されるVGレベルより低く、したがって位置依存性形質導入が明らかになった。
ベクターゲノムからの発現をベクター由来mRNAの定量によって分析した。滑膜サンプル#3については、発現はAAV2処置低、中及び高用量グループの2/5、4/5及び4/5で検出されたが、全てのAAV5処置関節は検出可能なmRNAコピーを有した(
図5A)。ベクター発現はまたAAV5ベクターについて滑膜#1で検出されたが、そのレベルはこの場所における低いVG検出と同様に低かった(
図5B)。mRNAの検出はVG検出と良好な相関関係を示した。滑膜サンプル#3の個々の注射関節のそれぞれのmRNA及びVG DNAが例として示されている(
図5C)。
【0034】
イヌ軟骨におけるベクターゲノムの検出:ウイルスゲノムの検出のために、大腿顆及び脛骨プラトーから収集した軟骨サンプルを分析した(VG、
図6A)。個々の注射関節のそれぞれで検出されたベクターDNA及びmRNA並びに大腿顆におけるグループ平均が例として示されている(
図6B、C)。このデータは、AAV5ベクターは軟骨に一貫した態様で存在することを示し、さらに匹敵するレベルのベクター由来転写物を示した。類似用量のAAV2ベクター(中用量)は、AAV5ベクターと同様なVGレベルを生じたが、100倍低いmRNAレベルを示した。加えて、AAV2 VGコピーはベクター用量と逆の相関関係を有するようであった。rAAV5注射関節はまた、脛骨プラトーから収集した軟骨サンプルでベクターの検出及び発現を示したが、rAAV2処置関節では全く検出されなかった(
図6D)。全てのベクターが反対側(非注射)関節で最小限のベクターDNA検出をもたらした。
滑膜及び軟骨の結果は
図7Aに要約されている。滑膜における遺伝子導入については、AAV5ベクターは、AAV2ベクターと比較して、両方の滑膜サンプルの位置でほぼ10倍高いベクターコピーを生じた。軟骨への遺伝子導入は、AAV5による滑膜への遺伝子導入よりも10から20倍低いが、一方、AAV2ベクターゲノムは滑膜及び軟骨の両方で同様なレベルで観察された。rAAV5ベクター由来ゲノム及びmRNAの検出は
図7Bに要約され、試験した全ての組織サンプルにおけるrAAV5/HAS2ベクターによる一貫した遺伝子導入及び発現を示している。本出願人らはこの結果は大いに予想に反すると考える。
滑液のHAレベルの分析:滑液における一切のHAレベルの変化はrAAVベクター投与後に検出されうるものか否かを決定するために、滑膜のHAレベルを-7日目(基準線)及び28日目に収集したサンプルで定量した。動物間で高レベルの変動が検出されたので、各動物のHAレベルを各動物の基準線レベルで正規化した。データは、PBS処置動物と比較してAAV2/高用量及びAAV5/中用量は両方とも平均して滑液中のHAレベルを増加させることを示した(
図8A及び8B)。
【0035】
実施例1d-結論
関節におけるHAのin vivo過剰発現を提供するために、本出願人らは2つのキャプシド血清型を用いてrAAVベクターを作製した。AAVキャプシド血清型の選択は重要である。なぜならば、標的種に既に存在するいずれの中和抗体も当該治療ベクターを中和することができ、したがってrAAVベクターによる遺伝子導入を阻止し得るからである。本明細書に開示した結果は、分析したイヌの大半がAAV2及びAAV5キャプシドの両方に対し低レベルの中和抗体を有していたことを示した。したがって、本出願人らは、AAV2及びAAV5キャプシドの局在化を関節内注射後に標的組織(すなわちイヌの膝関節)で直接試験した。HA発現は滑膜細胞及び軟骨細胞の両方にとって有益であると期待されるので、ベクターゲノムコピーをそれぞれイヌ滑膜サンプル及び軟骨サンプルで定量した。データは、AAV2は極めて一貫しないイヌ滑膜組織及び軟骨組織へのin vivo遺伝子導入を提供することを示し、さらに用量応答作用をほとんど示さなかったがその理由は明らかではない。OAのウサギ関節で実施された同様な実験は、類似するベクター用量を用いて非常に一貫したrAAV2ベクターゲノム検出を示した(Kyostio-Moore, 2015)。AAV2ベクターとは対照的に、AAV5ベクターゲノムは両組織タイプにおいて一貫した態様で検出された(n=5/グループ)。
重要なことには、軟骨サンプルでのAAV5の検出は驚くべきでかつ予想に反する。なぜならば、軟骨はin vivo条件では広範囲の細胞外マトリックスのために形質導入が困難であると報告され、これまでのところ関節内デリバリー後の多くの動物の軟骨におけるAAV5の検出に関する他の報告は存在しないからである。加えて、本開示のイヌの試験はイヌ滑膜組織で意表を突く高レベルのrAAV5ベクターを産生し、これはまた軟骨のそれと比較して滑膜で約2log高く、AVV5のイヌ滑膜内層に対する優先性を示している。この優先的な発現パターンも同様に本開示の前には予想されえなかった。
高レベルのベクター検出に加えて、mRNA分析によって組換えHAS2発現がイヌの滑膜組織及び軟骨組織で確認され、CBAプロモーターは両組織タイプで機能を有することが示された。さらにまた、軟骨サンプルでのAAV5による転写物の検出は、軟骨細胞が、軟骨の細胞外マトリックス中に隠れているウイルスではなく当該ベクターによって形質導入されることを確認させた。AAV2については、類似レベルのベクターゲノム及び転写物がまた滑膜内層で観察された。しかしながら、AAV2ベクターのmRNA発現は、軟骨サンプルでの対応するベクターゲノムの検出よりも驚くべきことにほぼ100倍低く、ベクターのいくらかは軟骨細胞の外部に存続すること、もしかすると細胞外マトリックスに保持されている可能性を示唆する。これらの重大な違いは、本出願人らが重要な非日常的実験を実施した後でのみ理解されうるであろう。
ベクターは、各動物で1つの関節にのみ投与されたが、ベクターゲノムはときに反対側の非注射関節で検出された。これはほとんどがAAV2処置関節から得られた滑膜サンプルで観察された。しかしながら、反対側の関節でベクターゲノムが観察された動物はいずれもこれらの関節で検出可能なHAS2転写物を全く持たなかった。
要約すれば、本明細書に開示したデータは、AAV5キャプシドはイヌ関節への関節内デリバリーにより良好な遺伝子導入を提供することを示す。これは、対象動物でAAV5に対する既存の液性免疫が低いこと、及び関節内注射後に関節組織に形質導入する能力による。関節内への注射は、滑膜内層だけでなく軟骨の軟骨細胞にも遺伝子導入を提供することができる。両方の組織タイプが、本開示の遺伝子デリバリー組成物及び方法によって与えられるHA合成の増加から利益を得るであろう。すなわち、滑膜は滑液で潤滑さを提供する能力の増強によって、さらに軟骨はマトリックスの結合が増強されしたがって軟骨の健康が改善された足場として機能することによって利益を得るであろう。これらの結果は、病気の部位へのAAV媒介HAS2遺伝子導入によるHAの過剰発現はOAの病状及び痛みを減少させることを示す。